説明

熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物とそれを用いたシートモールディングコンパウンド、バルクモールディングコンパウンドおよび成形品

【課題】製造適性およびSMCやBMCの取扱い性と成形性に優れるとともに、外観、耐熱性、耐溶剤性に優れた成形品を得ることができる熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物とそれを用いたSMC、BMC、および成形品を提供する。
【解決手段】シートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドを調製するための熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物であって、重量平均分子量50000〜500000の(メタ)アクリル系重合体粉末(A)、メタクリル酸メチル単量体(B)、沸点150℃以上のものを含む多官能(メタ)アクリル系単量体(C)、無機充填材(D)、および有機過酸化物(E)を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートモールディングコンパウンド(SMC)、バルクモールディングコンパウンド(BMC)の製造に用いられる熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物とそれを用いたSMC、BMC、および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系樹脂による成形品は、他の樹脂による成形品に比べて深み感を与えることができ良好な外観が得られることから、例えば、キッチンカウンター、洗面化粧台、バス浴槽等の良好な外観が要求される水廻り部材等として広く用いられている。
【0003】
従来、このような種類の(メタ)アクリル系樹脂による成形品は、そのほとんどが注型成形で製造されている。しかしながら、注型成形は成形サイクルが長いという問題点があった。
【0004】
この問題点を改善するために、(メタ)アクリル系樹脂によるSMC、BMCの検討が行われている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−263135号公報
【特許文献2】特開平11−071416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、(メタ)アクリル系樹脂によるSMC、BMCは、例えば取扱い性が悪いといった問題点や、(メタ)アクリル系樹脂に独特の収縮性の大きさから生じる成形クラック、流動性不良による外観悪化等の各種の問題点がある。すなわち、製造適性、取扱い性、成形性、および成形品の外観、耐熱性、耐溶剤性等を全て満足するものを得ることは難しく、(メタ)アクリル系樹脂によるSMC、BMCはほとんど実用化されていないのが現状である。
【0007】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、製造適性およびSMCやBMCの取扱い性と成形性に優れるとともに、外観、耐熱性、耐溶剤性に優れた成形品を得ることができる熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物とそれを用いたSMC、BMC、および成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0009】
第1に、本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物は、シートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドを調製するための熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物であって、重量平均分子量50000〜500000の(メタ)アクリル系重合体粉末(A)、メタクリル酸メチル単量体(B)、沸点150℃以上のものを含む多官能(メタ)アクリル系単量体(C)、無機充填材(D)、および有機過酸化物(E)を含有することを特徴とする。
【0010】
第2に、上記第1の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物において、多官能(メタ)アクリル系単量体(C)は、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)と沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)とを含むことを特徴とする。
【0011】
第3に、上記第1または第2の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物において、無機充填材(D)は、平均粒子径3μm以下のものを含み、かつその含有量が無機充填材(D)の全量に対して3質量%以上であることを特徴とする。
【0012】
第4に、上記第1ないし第3のいずれかの熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物において、有機過酸化物(E)は、10時間半減期温度が70℃以上であるものを含むことを特徴とする。
【0013】
第5に、本発明のシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドは、上記第1ないし第4のいずれかの熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を50℃以下の温度で加熱乾燥もしくは加熱混練することにより、メタクリル酸メチル単量体(B)の含有量をコンパウンドの全量に対して20質量%以下にして得られたものであることを特徴とする。
【0014】
第6に、本発明の成形品は、上記第5のシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドを加熱加圧成形して得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記第1の発明によれば、製造適性およびSMCやBMCの取扱い性と成形性に優れるとともに、外観、耐熱性、耐溶剤性に優れた成形品を得ることができる。
【0016】
上記第2の発明によれば、多官能(メタ)アクリル系単量体(C)として沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)と沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)とを併用している。これらは成形品の架橋度を高めるとともに、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)は揮発の抑制に寄与し、沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)は表面光沢性やコスト低減に寄与する。そのため、これらを併用することで、上記第1の発明の効果に加え、SMC、BMCを調製する際に多官能(メタ)アクリル系単量体(C)の全体としての揮発を抑制して架橋度の低下を防止できるとともに、表面光沢性も良好なものとすることができ、かつ成形品を安価に得ることができる。
【0017】
上記第3の発明によれば、無機充填材(D)として平均粒子径3μm以下のものを無機充填材(D)の全量に対して3質量%以上含有することで、上記第1および第2の発明の効果に加え、無機充填材(D)の配合による各種の効果を損なうことなく成形時における無機充填材(D)の流動性を高めることができる。
【0018】
上記第4の発明によれば、有機過酸化物(E)として70℃以上の10時間半減期温度をもつものを用いることで、上記第1ないし第3の発明の効果に加え、SMC、BMCの貯蔵安定性を高めることができる。
【0019】
上記第5の発明によれば、上記第1ないし第4の発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を用いているので、SMCやBMCの取扱い性と成形性に優れるとともに、外観、耐熱性、耐溶剤性に優れた成形品を得ることができる。
【0020】
上記第6の発明によれば、上記第5の発明のシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドを用いているので、外観、耐熱性、耐溶剤性に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」はアクリルまたはメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0023】
本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物には、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)が配合される。(メタ)アクリル系重合体粉末(A)は、単官能(メタ)アクリル系単量体を重合させることにより得ることができる。
【0024】
単官能(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、イソボニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(メタ)アクリル系重合体粉末(A)のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量は、50000〜500000、好ましくは100000〜300000である。重量平均分子量が小さ過ぎると所望する耐熱性や成形品の衝撃強度が得られない場合がある。重量平均分子量が大き過ぎるとメタクリル酸メチル単量体(B)に溶解しにくくなる場合や、高粘度になり取扱い性が悪くなる場合がある。
【0026】
(メタ)アクリル系重合体粉末(A)の含有量は、熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物の全量に対して好ましくは4〜15質量%である。当該含有量が少な過ぎると成形時にクラックが発生しやすくなり、当該含有量が多過ぎると熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物の粘度が高くなり取扱い性が悪くなる場合がある。
【0027】
本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物には、メタクリル酸メチル単量体(B)が配合される。メタクリル酸メチル単量体(B)は、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)を溶解させる役割と、成形時における樹脂の流動性を向上させる役割をもつ。
【0028】
メタクリル酸メチル単量体(B)の含有量は、特に限定されず、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)を十分に溶解させることができ、かつその他の成分を均一に分散させることができる範囲であればよい。ただし、メタクリル酸メチル単量体(B)をあまり多量に配合するとSMC、BMCを調製するための時間が長くなるので場合に応じて適切な範囲内とすることが望ましい。
【0029】
本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物には、沸点150℃以上のものを含む多官能(メタ)アクリル系単量体(C)が配合される。
【0030】
ここで「多官能」とは、少なくとも2個の(メタ)アクリレート基を有することを意味する。
【0031】
多官能(メタ)アクリル系単量体(C)を配合することで、硬化速度を向上させるとともに架橋度を高め、成形品において所望の性能を得ることができる。
【0032】
そして沸点150℃以上のものを含むことで、SMC、BMCを調製する際に50℃以下の温度で加熱乾燥または加熱混練する際に、揮発を抑制することができる。そのため、架橋度の低下により所望の性能が得られなくなることを防止し、また成形時の型内沸騰による弊害も防止できる。
【0033】
多官能(メタ)アクリル系単量体(C)に含まれる沸点150℃以上のものとしては、例えば、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
多官能(メタ)アクリル系単量体(C)の含有量は、熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物の全量に対して好ましくは1〜20質量%、より好ましくは3〜15質量%である。当該含有量が少な過ぎると成形体の架橋度が低くなり成形品において所望の性能が得られない場合があり、当該含有量が多過ぎると成形時にクラックが発生する場合がある。
【0035】
本発明における好ましい態様では、多官能(メタ)アクリル系単量体(C)が、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)と沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)とを含む。
【0036】
沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)を配合することで、表面光沢性を良好なものとすることができ、かつコストを低減できる。すなわち沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)とともに沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)を併用することで、SMC、BMCを調製する際に多官能(メタ)アクリル系単量体(C)の全体としての揮発を抑制して架橋度の低下を防止できるとともに、表面光沢性も良好なものとすることができ、かつ成形品を安価に得ることができる。
【0037】
沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)としては、例えば、上記に例示したものを用いることができる。
【0038】
沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)と沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)との含有比率は、好ましくは7:3〜3:7、より好ましくは6:4〜4:6である。沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)の含有比率が小さ過ぎると架橋度が低くなり成形品において所望の性能を得られない場合があり、また成形時に型内沸騰による弊害が生じる場合がある。沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)の含有比率が小さ過ぎると所望する表面光沢性が得られない場合がある。
【0040】
本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物には、無機充填材(D)が配合される。無機充填材(D)を配合することで、成形品の耐熱性を高め、また成形時および成形後の硬化収縮を抑制することができる。
【0041】
無機充填材(D)としては、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、珪砂、タルク、ガラス繊維等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
これらの中でも、シリカが好ましい。シリカを用いることで、成形品の外観(透明性、深み感)を向上させることができる。
【0043】
本発明における好ましい態様では、無機充填材(D)として平均粒径3μm以下のものを含み、かつその含有量が無機充填材(D)の全量に対して好ましくは3質量%以上、より好ましくは3〜10質量%である。なお、ここで平均粒径は、レーザー回折/散乱法による体積平均粒径として測定することができる。平均粒径3μm以下のものをこのような量で含有することで、無機充填材(D)の配合による各種の効果を損なうことなく成形時における無機充填材(D)の流動性を高めることができる。
【0044】
無機充填材(D)の含有量は、熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物の全量に対して好ましくは20〜80質量%である。当該含有量が少な過ぎると成形品の耐熱性が低下する場合や成形時および成形後の硬化収縮を十分に抑制できない場合がある。当該含有量が多過ぎると成形時における樹脂の流動性や成形品の物性が低下する場合がある。
【0045】
本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物には、重合開始剤として有機過酸化物(E)が配合される。有機過酸化物(E)としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン、t−アルミパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
特に本発明では、有機過酸化物(E)として10時間半減期温度が50℃以上のものを含むことが好ましく、10時間半減期温度が70℃以上のものを含むことがより好ましい。有機過酸化物(E)としてこのような10時間半減期温度をもつものを用いることで、SMC、BMCの貯蔵安定性を高めることができる。
【0047】
有機過酸化物(E)の含有量は、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)、メタクリル酸メチル単量体(B)、および多官能(メタ)アクリル系単量体(C)の全量に対して好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。当該含有量が少な過ぎると成形時の硬化速度が遅くなる場合があり、当該含有量が多過ぎると成形時における樹脂の流動性が低下する場合や成形時にクラックを発生する場合がある。
【0048】
本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、上記の成分に加えて他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、ステアリン酸亜鉛等の内部離型剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤等が挙げられる。また、本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物には、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂等の機能性樹脂を複合することもできる。
【0049】
本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物は、上記の各成分を配合し、常法に従って均一に混合することで調製することができる。
【0050】
そして本発明の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を用いてSMC、BMCを調製する際には、50℃以下、好ましくは20〜40℃にて加熱乾燥または加熱混練し、メタクリル酸メチル単量体(B)の含有量を熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物の全量に対して20質量%以下、好ましくは10〜20質量%にして調製することができる。当該含有量が少な過ぎると成形時の樹脂流動性が悪くなる場合や成形品の外観(透明性)が悪くなる場合があり、当該含有量が多過ぎると成形時に発泡やクラックが発生する場合がある。
【0051】
このようにして得られる本発明のSMC、BMCは、加熱加圧成形することにより成形品とすることができる。加熱加圧成形の方法としては、圧縮成形法、射出成形法、トランスファー成形法、押出成形法等を用いることができる。
【0052】
加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、例えば、75〜150℃、20〜90kgf/cm2で行うことができる。また、上記の温度範囲内で上金型と下金型に温度差を設けて加熱してもよい。
【0053】
このようにして得られる本発明の成形品は、良好な外観が要求される用途、例えば、キッチンカウンター、洗面化粧台、バス浴槽等の水廻り部材等に好適である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
なお、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)の重量平均分子量はGPC法によるポリスチレン換算値であり、下記の条件で測定した。
装置:HLC-8220GPC
カラム:TSKgelG2500HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG5000HXL
温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.5%
流速:0.35ml/min
注入量:200μL
検出:赤外
<実施例1>
次のようにして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を調製した。
【0056】
(メタ)アクリル系重合体粉末(A)として、メタクリル酸メチル単量体(B)(住友化学株式会社製)を重量平均分子量が100000となるように塊状重合させて得られたメタクリル酸メチル重合体を粉末にしたものを20質量部配合した。
【0057】
メタクリル酸メチル単量体(B)(住友化学株式会社製)を80質量部配合した。
【0058】
沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)として、アクリレート基を3個有し、沸点が166℃であるトリメチロールプロパントリメタクリレート(新中村化学株式会社製「TMPT」)5質量部を配合した。
【0059】
沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)として、メタアクリレート基を2個有し、沸点が114℃であるネオペンチルグリコールジメタクリレート(新中村化学株式会社製「NPG」)5質量部を配合した。
【0060】
無機充填材(D)として、平均粒子径14μmのシリカ(瀬戸窯業原料株式会社製「溶融シリカ」)100質量部、カット長さ3mmのガラス繊維(日東紡株式会社製「CS 3PE−907」20質量部を配合した。
【0061】
有機過酸化物(E)として、10時間半減期温度が61℃であるジアシルパーオキサイド(化薬アクゾ株式会社製「ラウロックス」)0.5質量部を配合した。
【0062】
その他、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(大日化学工業株式会社製「ダイワックスZP」)0.1質量部、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(住友化学株式会社製「スミライザーBHT」0.02質量部を配合した。
【0063】
上記の各成分を均一に混合して熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。
【0064】
得られた熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を、35℃に保温した混練機でメタクリル酸メチル単量体(B)が全量の15質量%になるまで加熱混練しBMCを調製した。
【0065】
得られたBMCを用いて、保持圧50kgf/cm2、上金型温度120℃、下金型温度140℃にて20分間加熱加圧成形を行い、成形品を得た。
<実施例2>
実施例1において、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)として、メタクリル酸メチル単量体(B)(住友化学株式会社製)を重量平均分子量が160000となるように塊状重合させて得られたメタクリル酸メチル重合体を粉末にしたものを配合した。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<実施例3>
実施例1において、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)として、アクリレート基を3個有し、沸点が166℃であるトリメチロールプロパントリメタクリレート(新中村化学株式会社製「TMPT」)10質量部を配合した。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<実施例4>
実施例1において、無機充填材(D)として、さらに平均粒子径2μmのシリカ(信越化学工業株式会社製「KMP605」)4.8質量部を配合した。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<実施例5>
実施例1において、有機過酸化物(E)を、10時間半減期温度が96℃であるパーカーボネート(化薬アクゾ株式会社製「AIC−75」)0.4質量部、およびジアシルパーオキサイド(化薬アクゾ株式会社製「ラウロックス」)を0.1質量部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<実施例6>
実施例1において、無機充填材(D)として、さらに平均粒子径2μmのシリカ(信越化学工業株式会社製「KMP605」)4.8質量部を配合した。また、有機過酸化物(E)を、10時間半減期温度が96℃であるパーカーボネート(化薬アクゾ株式会社製「AIC−75」)0.4質量部、およびジアシルパーオキサイド(化薬アクゾ株式会社製「ラウロックス」)0.1質量部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<比較例1>
実施例1において、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)の重量平均分子量を40000とした。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<比較例2>
実施例1において、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)の重量平均分子量を510000とした。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<比較例3>
実施例1において、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)のトリメチロールプロパントリメタクリレートを配合せずに、沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)のネオペンチルグリコールジメタクリレートを10質量部配合した。それ以外は実施例1と同様にして熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を得た。さらに実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<比較例4>
実施例1において、得られた熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を、35℃に保温した混練機でメタクリル酸メチル単量体(B)が全量の28質量%になるまで加熱混練しBMCを調製した。それ以外は実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
<比較例5>
実施例1において、得られた熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を、35℃に保温した混練機でメタクリル酸メチル単量体(B)が全量の23質量%になるまで加熱混練しBMCを調製した。それ以外は実施例1と同様にしてBMCを調製し、これを用いて成形品を得た。
【0066】
上記の実施例および比較例について、次の評価を行った。
[熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造適性]
(メタ)アクリル系重合体粉末(A)の溶解性、粘度等の点から次の基準に従って評価した。
◎:優れる
○:容易
△:困難
[BMCの取扱い性(状態)]
BMCの状態について、固さ、べたつき等の点から次の基準に従って評価した。
○:良好
△:やや固い、あるいはべたつく
[BMCの取扱い性(貯蔵安定性)]
BMCの貯蔵安定性について有機過酸化物(E)による反応進行等の点から次の基準に従って評価した。
◎:優れる
○:良好
△:悪い
[BMCの成形性(硬化速度)]
BMCの成形性について硬化速度の点から次の基準に従って評価した。
○:良好
△:やや遅い
[BMCの成形性(無機充填材(D)の流動性)]
BMCの成形性について無機充填材(D)の流動性の点から次の基準に従って評価した。
◎:優れる
○:良好
△:やや悪い
[成形外観]
成形品の外観について表面光沢性(表面鏡面性)、発泡の有無等の点から次の基準に従って評価した。
◎:優れる
○:良好
△:一部発泡
[成形品の耐溶剤性]
成形品の耐溶剤性について、成形品をシンナーに1時間浸漬した後の状態を次の基準に従って評価した。
○:良好
△:やや膨潤
[成形品の耐熱性]
成形品の耐熱性について、成形品を沸騰水に1時間浸漬した後の状態を次の基準に従って評価した。
○:良好
△:微細クラック発生
評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1〜6では、重量平均分子量50000〜500000の(メタ)アクリル系重合体粉末(A)、メタクリル酸メチル単量体(B)、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)、沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)、無機充填材(D)、および有機過酸化物(E)を熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物に配合した。これらの実施例では、熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造適性、BMCの取扱い性と成形性、成形品の外観と耐熱性と耐溶剤性の全てにおいて満足できるものであった。
【0069】
特に、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)と沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)を併用した実施例1、2、4〜6では、架橋密度が十分に高いため成形品の耐溶剤性等の各特性を満足するとともに、表面光沢性も高いものであった。
【0070】
また、平均粒子径3μm以下のシリカを無機充填材(D)の全量に対して3質量%以上配合した実施例4、6では、BMCの成形性と成形外観に優れていた。
【0071】
また、有機過酸化物(E)として10時間半減期温度が70℃以上であるものを配合した実施例5、6では、BMCの貯蔵安定性に優れていた。
【0072】
一方、比較例1では、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)として重量平均分子量50000未満のものを用いたところ、BMCの硬化速度が遅くなり、成形品の耐熱性も低下した。
【0073】
比較例2では、(メタ)アクリル系重合体粉末(A)として重量平均分子量500000を超えるものを用いたところ、熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物は(メタ)アクリル系重合体粉末(A)の溶解性が低下し、粘度が高くなった。また、BMCはやや固くなって取扱い性が低下し、成形性も低下した。
【0074】
比較例3では、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)のトリメチロールプロパントリメタクリレートを配合せずに、沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)のネオペンチルグリコールジメタクリレートのみを配合した。ところが、成形品の耐溶剤性が低下した。これはBMCの調製時において揮発により沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)が減少し、成形品の架橋密度が小さくなったためと考えられる。
【0075】
比較例4および5では、BMCの調製時にメタクリル酸メチル単量体(B)の含有量を全量に対して20質量%を超える量としたところ、BMCにはべたつきがあり、成形品には一部発泡が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドを調製するための熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物であって、重量平均分子量50000〜500000の(メタ)アクリル系重合体粉末(A)、メタクリル酸メチル単量体(B)、沸点150℃以上のものを含む多官能(メタ)アクリル系単量体(C)、無機充填材(D)、および有機過酸化物(E)を含有することを特徴とする熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
多官能(メタ)アクリル系単量体(C)は、沸点150℃以上の多官能(メタ)アクリル系単量体(C1)と沸点150℃未満の多官能(メタ)アクリル系単量体(C2)とを含むことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
無機充填材(D)は、平均粒子径3μm以下のものを含み、かつその含有量が無機充填材(D)の全量に対して3質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
有機過酸化物(E)は、10時間半減期温度が70℃以上であるものを含むことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一項に記載の熱硬化型(メタ)アクリル系樹脂組成物を50℃以下の温度で加熱乾燥もしくは加熱混練することにより、メタクリル酸メチル単量体(B)の含有量をコンパウンドの全量に対して20質量%以下にして得られたものであることを特徴とするシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンド。
【請求項6】
請求項5に記載のシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドを加熱加圧成形して得られたものであることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−173969(P2011−173969A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37945(P2010−37945)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】