説明

熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物

【課題】比較的低温において、且つ、短時間で硬化する、ポリイミドシリコーン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ケイ素原子に結合したラジカル重合性基を有するポリイミドシリコーン樹脂を100質量部、パーオキシカーボネート硬化剤を0.1〜20質量部、及び溶剤を含む熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物に関し、詳細には、ラジカル重合性基を備え、所定の硬化剤との組み合わせによって、従来のものよりも低温で、且つ、短時間で硬化して、耐熱性、機械強度、可とう性、耐溶剤性および各種基材への接着性に優れた硬化皮膜を与えるポリイミドシリコーン系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性が高く、電気絶縁性に優れているので、プリント回線基板、耐熱性接着テープ、電気部品、半導体材料の保護膜、層間絶縁膜等として、広く利用されている。しかし、ポリイミド樹脂は限られた溶剤にしか溶解しないため作業性が悪い場合がある。そこで、種々の有機溶剤に比較的易溶のポリアミック酸を基材に塗布し、高温処理により脱水環化してポリイミド樹脂を得る方法が採られている。ところが、この方法では高温かつ長時間の加熱を必要とするので、基材の熱劣化を起こし易く、一方、加熱が不十分であると、得られる樹脂の構造中にポリアミック酸が残存してしまい、耐湿性、耐腐食性等の低下の原因となる。
【0003】
そこで、ポリアミック酸に代えて、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂の溶液を基材に塗布した後、加熱することにより溶剤を揮散させ、ポリイミド樹脂皮膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1)。しかし、これらの有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂を用いて得られる樹脂皮膜は、耐溶剤性に劣る。そこで、有機溶剤に可溶であり、且つ、重合性の側鎖を持たせた加熱硬化型のポリイミドシリコーンが提案されている(特許文献2および3)。特許文献2記載の樹脂は熱的方法、光による方法のいずれかで硬化し得るとある。特許文献3記載の樹脂は、オルガノハイドロジェンシロキサンとヒドロシリル化反応させて硬化されるが、硬化に5時間を要している。
【特許文献1】特開平2−36232号公報
【特許文献2】特開平2−147630号公報
【特許文献3】特開平7−268098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、比較的低温において、且つ、短時間で硬化する、ポリイミドシリコーン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討した結果、ラジカル重合性の基を有するポリイミドシリコーン樹脂を、特定の硬化剤と組合わせることによって、上記目的を達成できることを見出した。即ち、本発明は、ケイ素原子に結合したラジカル重合性基を有するポリイミドシリコーン樹脂を100質量部、パーオキシカーボネート硬化剤を0.1〜20質量部、及び溶剤を含む熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の組成物は、種々の有機溶剤と相溶性の溶液状であり、取り扱い性に優れる。また、低温且つ短時間の熱処理により、硬化皮膜を形成することができる。得られる硬化皮膜は、耐熱性、機械強度、耐溶剤性および各種基材への密着性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、ポリイミドシリコーン樹脂中のケイ素原子に結合したラジカル重合性基が、パーオキシカーボネートの存在下で、硬化する。これにより、低温での速い硬化を達成できる。該ラジカル重合性基としては、ビニル基、プロペニル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、スチリル基などを挙げることができる。これらのうち、原料の入手の容易さの観点からビニル基が好ましい。該ラジカル重合性基は、ポリイミドシリコーン樹脂のシリコーン部分であれば、端部、中央部等いずれの部位に在ってもよい。
【0008】
本発明で用いられるパーオキシカーボネートとしてはt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート等のモノパーオキシカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、ビス(4-t-ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(n−プロピル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。これらのなかでも、t-ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、ビス(4-t-ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、が好ましい。これらのパーオキシカーボネートは、発明におけるポリイミド樹脂と良好な相溶性を有し、低温での速い硬化を達成する。
【0009】
パーオキシカーボネートの量は、ポリイミドシリコーン樹脂100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。配合量が前記上限値を超えると、本発明の組成物の保存安定性及び硬化物の耐高温高湿性が低下する傾向がある。一方、前記下限値より少ないと硬化物の耐溶剤性が悪い。
【0010】
本発明の組成物における溶剤としては、ポリイミドシリコーン樹脂とパーオキシカーボネートを溶解できるものであればよい。好適な溶剤の例としては、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類;シクロヘキサノン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤;酢酸ブチル、安息香酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤;ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤及びトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類系溶剤が挙げられ、好ましくはケトン系溶剤、エステル系溶剤及びセロソルブ系溶剤である。これらの溶剤は単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。該溶剤の量は、樹脂の溶解性、塗布時の作業性、所望の皮膜の厚さ等に依存して適宜調整することが好ましいが、通常、ポリイミド樹脂濃度が1〜50重量%となる範囲内で使用される。或いは、組成物の保存の際には比較的樹脂濃度を高く調製しておき、使用の際に所望の濃度に希釈してもよい。
【0011】
好ましくは、ポリイミドシリコーン樹脂は、下記式(1)に示す2種の繰返し単位からなる。



上記式は、一種の組成式である。即ち、k及びmはAを含む繰返し単位とBを含む繰返し単位が含まれている割合を示す。kは0≦k≦1、mは0<m≦1の数であり、k+m=1である。以下に説明するように、Bがシリコーン残基であり、ラジカル重合性基を有する。各構成単位は、ランダムに結合されていてよい。
【0012】
式(1)中のXは下記の4価の基のいずれかである。


【0013】
式(1)中のAは下記式(2)で表される2価の基である。

上記式(2)中、Dは、互いに独立に、下記の2価の有機基のいずれかであり、e、f、gは0又は1である。

【0014】
式(2)で表される基として、下記の基を挙げることが出来る。



【0015】
式(1)中、Bは下記式(3)で表される。

式(3)において、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などを挙げることが出来る。原料の入手の容易さの観点からメチル基、エチル基、フェニル基が好ましい。Rは上述のラジカル重合性基である。
【0016】
aは、0から100までの整数、好ましくは3から70の整数であり、bは1から100までの整数、好ましくは3から70の整数、より好ましくは5から50の整数である。
【0017】
式(1)のポリイミド樹脂は、そのポリスチレン換算の重量平均分子量が、5000〜150000、好ましくは8000〜100000である。分子量が前記下限値未満のポリイミド樹脂は、得られる被膜の強度が低い。一方、分子量が前記上限値超のポリイミド樹脂は、溶剤に対する相溶性が乏しく、取り扱いが困難である。
【0018】
ポリイミドシリコーン樹脂は、公知の方法で作ることができる。先ず、Xを誘導するための酸二無水物、Aを誘導するためのジアミン及びBを誘導するためのジアミノポリシロキサンを溶剤中に仕込み、低温、即ち20〜50℃程度で反応させて、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を製造する。次に、得られたポリアミック酸の溶液を、好ましくは80〜200℃、特に好ましくは140〜180℃の温度に昇温し、ポリアミック酸の酸アミドを脱水閉環反応させることにより、ポリイミドシリコーン樹脂の溶液が得られる。この溶液を水、メタノール、エタノール、アセトニトリルといった溶剤に投入して、反応生成物を沈殿させ、該沈殿物を乾燥することにより、ポリイミドシリコーン樹脂を得ることができる。
【0019】
ここで、テトラカルボン酸二無水物に対するジアミン及びジアミノポリシロキサンの合計の割合は、好ましくはモル比で0.95〜1.05、特に好ましくは0.98〜1.02の範囲である。また、ポリイミドシリコーン樹脂を製造するときに使用される溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。また、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類を併用することでイミド化の際に生成する水を共沸により除去しやすくすることも可能である。これらの溶剤は、1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
なお、ポリイミドシリコーン樹脂の分子量を調整するために、無水フタル酸、アニリン等の一官能基の原料を添加することも可能である。この場合の添加量はポリイミドシリコーン樹脂に対して10モル%以下が好ましい。
【0021】
また、イミド化過程において脱水剤およびイミド化触媒を添加し必要に応じて50℃前後に加熱することにより、イミド化させる方法を用いてもよい。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ジアミン1モルに対して1〜10モルとするのが好ましい。イミド化触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの第3級アミンを用いることができる。イミド化触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.5〜10モルとするのが好ましい。
ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方を複数種使用する場合も、反応方法は特に限定されるものではなく、例えば原料を予め全て混合した後に共重縮合させる方法や、用いる2種以上のジアミン又はテトラカルボン酸二無水物を個別に反応させながら順次添加する方法等がある。
【0022】
Xを誘導するための酸二無水物としては、3,3’、4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’、3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロー3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフランー3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物、2,2−ビス(p−トリメリトキシフェニル)プロパン、1,3−テトラメチルジシロキサンビスフタル酸二無水物、4,4’ーオキシジフタル酸二無水物が挙げられる。
【0023】
Aを誘導するためのジアミンとしては、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0024】
Bを誘導するためのジアミノポリシロキサンとしては、上記式(3)の両末端にアミノ基が結合されたものを使用できる。
【0025】
このようにして得られたポリイミドシリコーン樹脂と、パーオキシカーボネート及び溶剤を、ミキサー等の公知の方法で混合することによって、本発明の組成物を得ることができる。該組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、慣用の添加剤、例えば基材との密着性を向上するためのシランカップリング剤を配合してよい。
【0026】
該組成物は、基材に塗布した後に、低沸点の溶剤を含む場合には、該溶剤を揮発させた後、約80〜200℃の温度で0.5〜2時間加熱すれば、溶剤が除去され、且つ硬化することができる。従って、比較的耐熱性の低い基材や熱で変質する材料に上に施与する皮膜剤として好適である。さらに、光を照射するための特別な装置も必要とせず、簡便に硬化皮膜が得られるので、作業性向上及び省資源化に寄与するものと考えられる。
【0027】
実施例
以下、実施例を示して本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
ポリイミドシリコーン樹脂の合成
[合成例1]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、3,3' , 4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物 71.6g(0.2モル)およびシクロヘキサノン350gを仕込んだ。ついで、下記式(4)で表されるジアミノビニルシロキサン87.6g(0.1 モル)および2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン 41.1g(0.1モル)をシクロヘキサノン100gに溶解した溶液を反応系の温度が50℃を超えないように調節しながら、上記フラスコ内に滴下した。滴下終了後、さらに室温で10時間攪拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン50gを加え、150℃に昇温させてその温度を6時間保持したところ、黄褐色の溶液が得られた。こうして得られた溶液を室温(25℃)まで冷却した後、メタノール中に投じ、得られた沈降物を乾燥したところ、下記式(5−1)及び(5−2)で表される繰返し単位からなるポリイミドシリコーン樹脂を得た。





得られた樹脂の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、未反応のポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1,780cm−1および1,720cm−1に、イミド基に基づく吸収を確認した。テトラヒドロフランを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、この樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、34000であった。この樹脂をポリイミドシリコーン樹脂(a)とする。
【0028】
[合成例2]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4‘−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物88.8g(0.2モル)およびシクロヘキサノン500gを仕込んだ。ついで、下記式(6)で表されるジアミノビニルシロキサン192.2g(0.06 モル)および1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン40.9g(0.14モル)をシクロヘキサノン200gに溶解した溶液を反応系の温度が50℃を超えないように調節しながら、上記フラスコ内に滴下した。滴下終了後、さらに室温で10時間攪拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン70gを加え、150℃に昇温させてその温度を6時間保持したところ、黄褐色の溶液が得られた。こうして得られた溶液を室温(25℃)まで冷却した後、メタノール中に投じ、得られた沈降物を乾燥したところ、下記式(7−1)及び(7−2)で表される繰返し単位からなるポリイミドシリコーン樹脂を得た。



得られた樹脂の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、未反応のポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1,780cm−1および1,720cm−1に、イミド基に基づく吸収を確認した。合成例1と同様に、この樹脂の重量平均分子量を測定したところ、42000であった。この樹脂をポリイミドシリコーン樹脂(b)とする。
【0029】
[合成例3]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、オキシジフタル酸二無水物 62.0g(0.2 モル)およびn−メチル−2−ピロリドン400gを仕込んだ。ついで、下記式(8)で表されるジアミノビニルシロキサン102g(0.06モル)および2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン57.5(0.14モル)をシクロヘキサノン100gに溶解した溶液を反応系の温度が50℃を超えないように調節しながら、上記フラスコ内に滴下した。滴下終了後、さらに室温で10時間攪拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン70gを加え、150℃に昇温させてその温度を6時間保持したところ、黄褐色の溶液が得られた。こうして得られた溶液を室温(25℃)まで冷却した後、メタノール中に投じて得られた沈降物を乾燥したところ、下記式(9−1)及び(9−2)で表されるポリイミドシリコーン樹脂を得た。



得られた樹脂の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、未反応のポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1,780cm−1および1,720cm−1に、イミド基に基づく吸収を確認した。合成例1と同様に、この樹脂の重量平均分子量を測定したところ、35000であった。この樹脂をポリイミドシリコーン樹脂(c)とする。
【0030】
[合成例4]
比較用に、ラジカル重合性基を有しないポリイミドシリコーン樹脂を調製した。
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、3,3' , 4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物 71.6g(0.2 モル)およびシクロヘキサノン350gを仕込んだ。ついで、下記式(10)で表されるジアミノシロキサン84.0g(0.6モル)および2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン 50g(0.1モル)をシクロヘキサノン100gに溶解した溶液を反応系の温度が50℃を超えないように調節しながら、上記フラスコ内に滴下した。滴下終了後、さらに室温で10時間攪拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン50gを加え、150℃に昇温させてその温度を6時間保持したところ、黄褐色の溶液が得られた。こうして得られた溶液を室温(25℃)まで冷却した後、メタノール中に投じ、得られた沈降物を乾燥したところ、下記式(11−1)及び(11−2)で表される繰返し単位からなる、ポリイミドシリコーン樹脂を得た。



得られた樹脂の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、未反応のポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1,780cm−1および1,720cm−1に、イミド基に基づく吸収を確認した。合成例1と同様に、この樹脂の重量平均分子量を測定したところ、30000であった。この樹脂をポリイミドシリコーン樹脂(d)とする。
【0031】
熱硬化性樹脂組成物の調製
表1に示すポリイミドシリコーン樹脂、硬化剤及び溶剤を同表に示す配合比率で混合し、樹脂組成物を調製した。なお表1中の「部」は全て「質量部」を表す。また、表1中の硬化剤の欄の記号は、夫々下記の硬化剤を表す。
(I)t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート
(II)1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン
(III)t−アミルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート
(IV)ビス(4−t−ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート
(V)1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン
(VI)シクロヘキサノンパーオキサイド
(VII)ベンゾイルパーオキサイド
(VIII)t−ブチルパーオキシアセテート
(IX)1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
【0032】
樹脂組成物の硬化皮膜の形成及びその性能評価
(1)耐溶剤性
得られた各熱硬化性樹脂組成物を、フッ素樹脂がコートされた板上に乾燥後の厚さが約0.1mmになるように塗布し、80℃で30分、さらに150℃で1時間加熱し、ポリイミド樹脂硬化皮膜を形成した。得られた硬化皮膜を常温のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に30分浸漬した後、皮膜の膨潤の有無を目視観察した。結果を表2に示す。
【0033】
(2)接着性
樹脂組成物を銅基板上に塗布し、80℃で30分、さらに、表1に示す各最終硬化温度で1時間加熱し、硬化皮膜を形成した。得られた硬化皮膜付きの銅基板を、150℃の乾燥機に360時間放置した後の接着性(「耐熱接着性」とする)、又は、120℃、2気圧の飽和水蒸気中に168時間放置した後の接着性(「高温高湿接着性」とする)を、碁盤目剥離テスト(JISK5400)により評価した。結果を表2に示す。なお表2中の数値(分子/分母)は、分画数 100(分母)当たり、剥離しない分画数(分子)を表す。即ち、100/100の場合は全く剥離せず、0/100の場合はすべて剥離したことを示す。
【0034】
(3)機械強度
実施例2、4及び比較例1の組成物を、夫々、80℃で30分、さらに150℃で1時間加熱し、得られた硬化物について、JIS K7113に準拠して、引張り伸び及び引張り強度の測定を行なった。結果を表3に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表2から分かるように、ラジカル重合性基を有するポリイミドシリコーンとパーオキシカーボネートを含む組成物は、硬化剤またはラジカル重合性を欠く比較例、及び他の過酸化物を含む参考例の組成物に比べても、硬化能が顕著に高く、150〜180℃程度の温度で、数時間程度加熱することによって、耐溶剤性、耐熱性、機械的特性に優れた硬化物を与える。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の組成物は、電気部品、半導体材料の保護膜、層間絶縁膜、接着テープとして有用である。特に、比較的耐熱性の低い基材や熱で変質する材料に施与するのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子に結合したラジカル重合性基を有するポリイミドシリコーン樹脂を100質量部、パーオキシカーボネート硬化剤を0.1〜20質量部、及び溶剤を含む熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリイミドシリコーン樹脂が下記式(1)で表される2種の繰返し単位からなり、5,000〜150,000の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を有する、請求項1記載の熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物。

[上記式中、Xは下記の4価の有機基のいずれかであり、

Aは下記式(2)で表され、


(式(2)中、Dは、互いに独立に、下記の2価の有機基のいずれかであり、e、f、gは0又は1である)


Bは式(3)で表され、


(Rは、互いに独立に、炭素数1から8の置換または非置換の一価の炭化水素基であり、Rはラジカル重合性基であり、a及びbは、夫々、1以上100以下の整数である。)及び、
kは0≦k≦1、mは0<m≦1の数であり、k+m=1である。]
【請求項3】
がビニル基である、請求項2記載の熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
パーオキシカーボネート硬化剤が、t-ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、ビス(4-t-ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネートからなる群より選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
前記溶剤が、ケトン系溶剤、エステル系溶剤及びセロソルブ系溶剤からなる群より選ばれる、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱硬化性ポリイミドシリコーン樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−62429(P2009−62429A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230203(P2007−230203)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】