説明

熱硬化性樹脂組成物

(a)少なくとも1種の熱硬化性樹脂、(b)少なくとも1種の硬化剤、および(c)所望により少なくとも1種の触媒を含む反応性熱硬化性樹脂組成物であって、硬化剤(b)が反応性無機クラスターを含み、そしてクラスターはアミノ基のような反応性官能基を有する貯蔵安定性無機クラスターである。その熱硬化性組成物から熱硬化生成物を調製する方法。硬化剤としての反応性クラスターおよび熱硬化性樹脂の組成物は、改善された熱機械的挙動を示す熱硬化生成物を調製するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物中に存在する熱硬化性樹脂のための硬化剤として反応性無機クラスターを含む熱硬化性組成物、およびその熱硬化性組成物を調製する方法に関する。
【0002】
本発明の熱硬化性組成物は、キャスティング、ポッティングおよびカプセル化のような、電気・電子機器用途、および複合材のような、種々の用途に有用である。
【背景技術】
【0003】
エポキシ樹脂は、例えば電気・電子材料の分野を含む種々の分野において硬化剤と組み合わせて使用される。これらの用途のために、改善された耐熱性(例えばガラス転移温度が120℃より高く、5%減量で測定した分解温度が300℃より高い。)および低い線膨張係数(CTE)(例えば25℃で60ppm/K未満)を有する材料が必要とされる。
【0004】
しかしながら、当業界においては、さらにエポキシ樹脂の熱機械的性質を改善する必要性がまだなおあり、産業界は、絶えず、コーティング、土木工学用途、電気積層体、ならびに複合材および接着剤のような構造材料で使用されるエポキシ樹脂の熱機械的性質を改善する方法を探している。
【0005】
エポキシマトリックスの中にシリカ構造物を混合すると、熱機械的性質が改善され得ることが知られている。エポキシ樹脂で使用されるシリカ材料はあらかじめ形成されたシリカ充填剤であってもよいし、ゾルゲル法でその場で形成されたシリカであってもよい。
先行技術には、エポキシ樹脂マトリックスの中にシリカ構造物を組み入れることによって、エポキシ樹脂の熱機械的性質を改善しようとする試みにおいて使用されるいくつかの方法が記載されている。例えば、シリカ構造物を含むエポキシ樹脂を調製するための第一の戦略は、水との反応によって縮合する加水分解性アルコキシシラン基を含むケイ素変性エポキシ樹脂をまず調製することを包含している。その後、生じた系は、高温で従来の硬化剤によって硬化する。
【0006】
例えば、米国特許第5,019,607号明細書には、第一の工程において、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)と反応させて、第二級ヒドロキシル基を有する変性エポキシ樹脂を生成する工程を含む多段プロセスが記載されている。次の工程において、これらのヒドロキシル基は、他のアルコキシシランの上のイソシアナト基(より好ましい)またはビニル基またはハロゲン原子と反応する。脆すぎない最終的な硬化されたエポキシ材料を得るために、ヒドロキシル基の一部のみ(好ましくは25〜75%)の置換が推奨される。最後の工程は、鉱酸(触媒)と共に水および/またはテトラエトキシシラン(TEOS)またはテトラメトキシシラン(TMOS)を添加することを含み、それは無機網状組織の形成につながり、次に熱硬化が続く。得られたエポキシ材料は薄い自立フィルムに成形される。したがって、組成物中に存在する溶媒は、予備的段階において除去される必要はない。このプロセスで得られるフィルムは、透明であり、高温で改善された特性を有する。透過型電子顕微鏡(TEM)写真によれば、回転楕円体状のシリカに富んだ帯域がポリマーマトリックスの中に形成され、調製されたエポキシ樹脂のゴム状プラトーでの貯蔵弾性率を著しく改善した。
【0007】
米国特許第5,457,003号明細書には、3つの加水分解し得るアルコキシ基およびオキシラン環を有するアルコキシシランの(酸性条件下での)加水分解および縮合によって得られた梯子状のポリシロキサンを含むレジスト材料の調製が記載されている。生じる最終的なレジスト材料は有機ポリマー下層の上に塗布された上層である。組成物は、所望により、ヒドロキシルまたはエポキシ基を有する有機ポリマーを含む。
【0008】
米国特許出願公開第2004/0143062号明細書には、エポキシ混成物を調製するための多段プロセスが記載されている。まず、(エポキシ基またはアミノ基を有する)アルコキシシラン、水(アルコキシシラン1モル当たり3〜0.02モル)および触媒(ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL))の液体混合物が、攪拌しながら室温に24時間保たれる。アルコキシシランのゾルゲル法によるケイ素含有化合物(グリシドまたはアミノ基を有するT(テトラ)構造物に基づくRSiO1.5)が形成される。次の工程の間、エポキシ樹脂(例えばDGEBA)がシリカ化合物に加えられ、混合物は副生成物(例えばアルコールおよび水)を蒸発させるために1〜10時間、60〜160℃に加熱される。次の工程は、混合物に硬化剤を加え、次いで混合物を熱処理することからなる。アルコキシシランを含まないエポキシ樹脂と比較して、生じる物質は、ガラス転移温度(T)より高い温度において、より良好な機械的性質(貯蔵弾性係数、熱膨張係数、曲げおよび接着強さ)を示す。
【0009】
米国特許第6,225,418号明細書(前記米国特許出願公開第2004/0143062号明細書関連)は、米国特許第2004/0143062号明細書に記載された熱硬化性樹脂組成物の、封止半導体素子、フィルムおよびプリント配線基板への応用を開示している。調製されたハイブリッド材料の靭性および光学的性質(屈折率)についての情報は提供されていない。しかしながら、形成されたシリカ構造物またはアルコキシシランの組成物とそれらの調製の条件との関係については記載されていない。アルコキシシラン中の複数の官能基(アミノ、エポキシ)の存在のために、および種々のゾルゲル条件のために、形成されたシリカ構造物は非無機クラスターであると予想される。
【0010】
シリカ構造物を含むエポキシ樹脂を調製するための先行技術プロセスの第二の戦略は、アルコキシシランの部分的な縮合物を調製し、次いでエポキシ樹脂と混合し、その後、その混合物を高温(例えば80℃より高い温度)で硬化剤により硬化するからなる。
【0011】
例えば、米国特許第4,604,443号明細書には、オルガノシラン化合物の加水分解によって有機ケイ素含有物質のゲル化していない部分加水分解生成物を調製することが記載されている。優先的に加水分解し得る基(アルコキシ基)に基づく平均官能価は2.4以上である。この特許に従って調製された部分加水分解生成物は、少なくとも50%の未反応の加水分解し得る基を含む。米国特許第4,604,443号明細書は、有機ポリオールおよび前記有機ポリオールのための硬化剤としての役割をするゲル化していない部分加水分解生成物を主成分とする非水性被覆組成物の調製を開示しているにすぎない。
【0012】
米国特許第6,248,854号明細書には、OH反応性基を含むより長いシラノール鎖を有するアルコキシ基含有エポキシシランの縮合について記載されている。揮発性の反応副生成物(例えば水およびアルコール)は不活性ガスによって追い出される。このプロセスにおいて、エポキシ基、未反応アルコキシ基およびシラノール基を有する安定した液体製品が得られる。次の工程において、得られた生成物は、エポキシ樹脂(例えばDGEBA)、硬化剤および触媒と混合され、その後、混合された系は架橋されたエポキシ樹脂網状組織を構築するために硬化される。調製された注型樹脂の熱機械的性質については記載されていない。
【0013】
米国特許第5,492,981号明細書には、光電子工学部品を覆うためのキャスティング樹脂系におけるエポキシアルコキシシラン縮合物の使用について記載されている。キャスティング樹脂系は、エポキシアルコキシシラン、脂環式エポキシ樹脂および無水物硬化剤を含む。エポキシアルコキシシランの添加は、生じる樹脂生成物のガラス転移温度とともにE−モジュラスも減少させる。
【0014】
米国特許第6,525,160号明細書には、アルコキシ含有シラン変性エポキシ樹脂の調製のために、分子量(M)が260〜1200のアルコキシシランまたはポリテトラメトキシシランを使用することについて記載されている。ケイ酸エステルを形成するためにアルコキシシランと反応することができるヒドロキシル基を含むオリゴマーのDGEBAは、変性樹脂の粘度を減少させる溶媒の添加と同様に必要である。その後、変性エポキシ樹脂は硬化される。ポリアミンは最も適切な硬化剤として記載されている。ジシアンジアミドおよびトリエチレンテトラミンで硬化した最終的なエポキシは、それぞれ、未変性エポキシ網状組織と比較したとき、Tの著しい変化を示さない、またはガラス転移領域は明らかには観察されない。「無機に類似の」構造が、有限の靭性を有する堅くかつ脆い材料につながると予想される。この特許に開示された手順は、配合物中の大量の溶媒の存在のために薄膜の調製に応用できるにすぎない。
【0015】
米国特許第6,441,106号明細書には、シラン変性フェノール樹脂の製造のための米国特許第6,525,160号明細書に開示されたのと類似のプロセスが記載されている。フェノール樹脂と加水分解性アルコキシシランとの脱アルコール縮合反応によって得られるシロキサン変性フェノール樹脂は、硬化剤として使用される。加水分解性アルコキシシランは、ポリテトラメトキシシランまたはポリテトラメトキシシランとメチルトリメトキシシランとの組合わせである。気泡の形成を回避し、かつ硬化中の収縮を抑えるために、最終的なハイブリッド材料中のシリカ含有量の上限は12質量%である。
【0016】
米国特許第6,506,868号明細書には、シロキサン変性樹脂を調製する多工程プロセスが記載されている。そのプロセスの第一の工程において、グリシジルエーテル基含有アルコキシシランの部分的縮合物(DBTDLによって触媒されたアルコキシシラン部分的縮合物とグリシドールとの脱アルコール反応による)が調製される。グリシジルエーテル基含有アルコキシシランの部分的縮合物は、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂用硬化剤(好ましくはポリアミン)と混合され、次いでその混合物は硬化される。グリシジルエーテル基含有アルコキシシランの部分的縮合物は、また、酸無水物基を有する種々の(ゾルゲル法によってシリカの錯体生成の原因となる水素結合官能基を有しない)高分子化合物(ポリアミック酸、ポリミドポリエーテルイミド、ポリエステルイミドなど)を変性することによって、種々のシラン変性樹脂の調製を可能にする。アルコキシシラン含有シラン変性ポリイミド樹脂、アルコキシシラン含有シラン変性ポリアミドイミド樹脂またはアルコキシシラン含有シラン変性フェノール樹脂を調製することができる。しかし、その系の高い粘度のために、その系に溶媒(ジメチルホルムアミド、50質量%)を加えなければならない。
【0017】
有機/無機ハイブリッド材料を調製するための先行技術プロセスの第三の戦略は、エポキシ組成物の中に単量体のアルコキシシランを混合することからなる。例えば、米国特許第6,005,060号明細書には、エポキシ樹脂、エポキシ用硬化剤(アミンが好ましい)、分子中にエポキシ基またはアミン基およびケイ素原子に結合した少なくとも2つのアルコキシ基を有するアルコキシシラン化合物、ならびにシラン化合物の縮合重合のための触媒(例えばDBTDL)を含むエポキシ組成物が記載されている。水は、所望により、その配合物に加えることができる。成分はすべて一緒に混合され硬化される。この方法は、多量(例えば10質量%超)の揮発性副生成物(例えばアルコール)を含み、そのプロセスは薄膜の調製のためにのみ応用可能である。シラン化合物中のアルコキシ基の部分的縮合は、最終的なハイブリッド材料の中に大きなシリカ構造物を作るのには十分ではない。調製された物質は部分的に縮合した小さな(例えば10μm未満)シリカドメインを含むにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5019607号明細書
【特許文献2】米国特許第5457003号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0143062号明細書
【特許文献4】米国特許第6225418号明細書
【特許文献5】米国特許第4604443号明細書
【特許文献6】米国特許第6248854号明細書
【特許文献7】米国特許第5492981号明細書
【特許文献8】米国特許第6525160号明細書
【特許文献9】米国特許第6441106号明細書
【特許文献10】米国特許第6506868号明細書
【特許文献11】米国特許第6005060号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
先行技術から集めることができるように、有機・無機ハイブリッド材料は、有機/無機の比率に依存して、酸化物からポリマーまで広範囲の潜在的な材料をカバーする。ゾルゲル法に関する課題は、最終生成物から除去しなければならない有機溶媒の使用である。ゾルゲル法に関するもう一つの共通の問題は、ゾルゲル法の間に生成する比較的多量(例えば10質量%超)の揮発性副生成物(例えばアルコールおよび水)である。これらの制限のために、薄い材料のみ(膜および保護塗装)が開発されてきたが、バルク材は先行技術に記載されていない。
【0020】
したがって、調製のいかなる段階でも溶媒の添加なしで調製することができる、無機の(シリカ−ケイ素)構造物(クラスター)およびエポキシマトリックスを主成分とする有機・無機ハイブリッド材料の調製を可能にするプロセスを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の1つの態様は、(a)少なくとも1種の熱硬化性樹脂、(b)少なくとも1種の硬化剤、および所望により(c)少なくとも1種の触媒を含むエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤(b)は反応性無機クラスターを含み、前記クラスターはアミノ基のような反応性官能基を有する貯蔵安定性無機クラスターであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物のような反応性熱硬化性樹脂組成物に向けられる。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、改善された熱機械的挙動を有する熱硬化生成物を調製するために使用することができる。
【0023】
本発明のもう一つの態様は、エポキシ樹脂マトリックスのような熱硬化性樹脂マトリックスの中に組み入れられた反応性無機クラスターを含む有機・無機ハイブリッド材料に向けられ、本発明のさらに別の態様は前記有機・無機ハイブリッド材料を調製する方法に向けられる。
【0024】
本発明の目的は、薄いフィルムまたはコーティングだけでなく最終的なバルクの部品または製品および厚さの制限のない厚い部品または製品をも調製するために使用することができる反応性組成物として有用な有機・無機ハイブリッド材料を提供することである。次に、反応性組成物は、フィルムまたはコーティング調製用、キャスティングおよびモールディング(好ましくは開放金型における)、注入、カプセル化、複合材などのような用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明を説明する目的で、図面は、現在好ましい本発明の形態を示す。
しかし、当然のことながら、本発明は図面に示された精密な配置および計装に限定されない。
【0026】
【図1】図1は、実施例1〜3および7ならびに比較例Aの動的機械熱分析(DMTA)結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例3および4ならびに比較例AのDMTA結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例5および6ならびに比較例A、BおよびCのDMTA結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1〜3ならびに比較例Aの引張測定によって測定された(25℃における)ヤング率の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の1つの広い態様は、(a)少なくとも1種の熱硬化性樹脂、(b)少なくとも1種の硬化剤および所望により(c)少なくとも1種の触媒を含む、エポキシ樹脂組成物のような、反応性熱硬化性樹脂組成物であって、硬化剤(b)が反応性無機クラスターを含み、該クラスターがアミノ基のような反応性官能基を有する貯蔵安定性無機クラスターであることを特徴とする組成物を含む。
【0028】
本発明の1つの実施態様において、有機・無機ハイブリッド材料は、エポキシ樹脂マトリックスのような熱硬化性樹脂マトリックスの中に無機クラスターを含み、無機クラスターは樹脂マトリックス中の熱硬化性樹脂のための硬化剤として使用されることができる。
【0029】
本発明の無機クラスターを含むエポキシ系のような熱硬化性樹脂の配合物に関係するプロセスに関する重要な利点のいくつかとしては、例えば、(1)官能性アミノ−無機反応性クラスターの、熱硬化性樹脂用硬化剤としての使用(単独でまたは従来の熱硬化性樹脂硬化剤と組み合わせて)、(2)無機クラスターを含む貯蔵安定性液体硬化剤、(3)有機・無機網状組織の仕立てによる分子鎖力学の制御分布、(4)熱エージング中の有機・無機網状組織の熱機械的挙動の改善、(5)ゴム状領域におけると同様にガラス状態における有機・無機網状組織の熱機械的性質(転移温度、モジュラスおよび靭性)の増強されたバランス、および(6)(薄いフィルムに加えて)厚い製品/バルク部品の形をした有機・無機網状組織を調製することができることが挙げられる。
【0030】
概して、本発明は、(a)少なくとも1種の熱硬化性樹脂および(b)少なくとも1種の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物(本明細書においては交換可能に「系」または「配合物」ともいう。)であって、硬化剤は、前記したような本発明の少なくとも1種の反応性無機クラスターを含む。例えば、本発明の1つの実施態様において、反応性熱硬化性組成物は(a)少なくとも1種のエポキシ樹脂および(b)硬化剤として少なくとも1種の無機クラスターを含む。
【0031】
本発明の1つの実例として、水との反応の間に縮合する加水分解性アルコキシシラン基を含むケイ素変性エポキシ樹脂を調製するために、シリカ構造物がエポキシ樹脂マトリックスの中に含められることができる。次に、硬化されたエポキシ樹脂製品を形成するために、前記ケイ素変性エポキシ樹脂系は高温で従来の硬化剤により硬化されることができる。
【0032】
無機クラスターを含むエポキシ樹脂系の配合物は次の長所および/または利点を有する。
(1)エポキシ用硬化剤としての官能性アミノ−無機反応性クラスターの使用(単独でまたは従来のエポキシ用硬化剤と組み合わせて)。クラスターの官能性アミノ基は、アミノおよびエポキシ基の硬化反応によってエポキシマトリックスの中への良好な混合を可能にする。硬化した有機・無機網状組織は純粋なエポキシよりも改善された熱機械的な挙動を提供する。
(2)無機クラスターを含む貯蔵安定性液体硬化剤の使用。調製されたクラスターは、単独でまたは従来の液体硬化剤を組合わせて、貯蔵することができる。
(3)有機・無機網状組織の作製による分子鎖力学の分布を制御する能力。エポキシ配合物中のクラスターの異なる量(およびタイプ)は、異なる熱機械的な挙動を有する有機・無機網状組織を調製することを可能にする。
(4)クラスターの使用は、熱エージング中の有機・無機網状組織の熱機械的な挙動の改善を提供する。有機・無機網状組織は、純粋なエポキシより熱エージングに対する良好な耐性を有する。
(5)クラスターの使用は、ゴム状領域におけると同様にガラス状態における有機・無機網状組織の熱機械的性質(転移温度、モジュラスおよび靭性)の増強されたバランスを提供する。熱エージング中、無機網状組織の架橋密度は、ますます熱機械的挙動の改善につながる。
(6)クラスターの使用は、(薄いフィルムに加えて)厚い製品/バルク部品の形をした有機・無機網状組織を調製する能力を提供する。クラスターから調製された有機・無機網状組織製品(薄いフィルムと同様に厚い/バルク製品)は、純粋なエポキシから調製された同一の製品よりも改善された熱機械的挙動を提供する。
【0033】
本発明の成分(a)は、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、ビニル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ビニルエステル系樹脂、シリコーン樹脂、およびそれらの混合物から選択された少なくとも1種の樹脂を含む当技術分野における既知の熱硬化性樹脂から選択されることができる。
【0034】
一つの好ましい実施態様において、本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物は、成分(a)として少なくとも1種のエポキシ樹脂を含むことができる。エポキシ樹脂は少なくとも1つの近接のエポキシ基を含む化合物である。エポキシ樹脂は、飽和または不飽和の脂肪族、脂環式、芳香族または複素環式であることができ、また置換されていてもよい。エポキシ樹脂は、また、単量体でも重合体でもよい。本発明に有用なエポキシ樹脂の広範囲な一覧表は、エッチ・リー(Lee, H.)およびケー・ネヴィル(Neville, K.)著、「エポキシ樹脂ハンドブック(Handbook of Epoxy Resins)」、マグロウヒル出版(McGraw-Hill Book Company)、ニューヨーク、1967年、第2章、第257頁〜第307頁(引用によってここに組み入れられる。)に見いだされる。
【0035】
本発明の成分(a)のためにここに開示される実施態様において使用されるエポキシ樹脂は、変えてもよく、例えば、従来の市販のエポキシ樹脂を含ムことができ、それは単独で使用してもよいし、2種以上を組合わせで使用してもよい。ここに開示した組成物用のエポキシ樹脂を選択するに際し、最終製品の特性ばかりではなく、粘度および樹脂組成物の加工に影響を及ぼすかもしれない他の特性にもまた考慮すべきである。
【0036】
一般に、本発明において使用されるエポキシ樹脂の選択は、用途に依存する。当業者に既知の特に適切なエポキシ樹脂は、多官能アルコール、フェノール、脂環式カルボン酸、芳香族アミンまたはアミノフェノールとエピクロロヒドリンとの反応生成物を主成分とする。エポキシ樹脂の具体例としては、限定するものではないが、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、p‐アミノフェノールのトリグリシジルエーテルおよびそれらのエポキシ樹脂の2種以上の混合物が挙げられる。当業者に既知の他の適切なエポキシ樹脂としては、o−クレゾールとのエピクロロヒドリンの反応生成物、ノボラックエポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、直鎖脂肪族エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAエポキシ樹脂およびそれらの組合わせが挙げられる。ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)およびその誘導体が特に好ましい。
【0037】
硬化性組成物の調製のために本発明において有用な成分(a)のエポキシ樹脂は、市販の製品から選択することができる。例えば、ダウ・ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手可能なD.E.R.TM331、D.E.R.332、D.E.R.334、D.E.R.580、D.E.N.431、D.E.N.438、D.E.R.736またはD.E.R.732を使用することができる。本発明の実例として、エポキシ樹脂成分(a)は、エポキシ当量175〜185、粘度9.5Pa・s、密度1.16g/cmの液体エポキシ樹脂D.E.R.(登録商標)383(DGEBPA)であってもよい。エポキシ樹脂成分用に使用することができる他の市販のエポキシ樹脂はD.E.R.330、D.E.R.354またはD.E.R.332であってもよい。
【0038】
成分(a)として有用な他の適切なエポキシ樹脂は、例えば米国特許第3,018,262号明細書、米国特許第7,163,973号明細書、米国特許第6,887,574号明細書、米国特許第6,632,893号明細書、米国特許第6,242,083号明細書、米国特許第7,037,958号明細書、米国特許第6,572,971号明細書、米国特許第6,153,719号明細書および米国特許第5,405,688号明細書、国際公開第2006/052727号、米国特許出願公開第2006/0293172号明細書、米国特許出願公開第2005/0171237号明細書、2007/0221890号明細書(これらの各々が引用によって本明細書に組み入れられる。)に開示されている。
【0039】
成分(a)の熱硬化性樹脂は、熱硬化性組成物中に、通常約10質量%(wt%)〜約95質量%、好ましくは約20質量%〜約90質量%、より好ましくは約30質量%〜約80質量の範囲の濃度で存在することができる。
【0040】
本発明の熱硬化性組成物において有用な無機反応性のクラスターおよび反応性クラスターの調製は、ベネス(Benes)らによって2009年4月30日に出願された米国特許仮出願第61/174,255号(代理人整理番号67810)(引用によってここに組み入れられる。)に記載されているようなものである。
【0041】
本発明の調製された無機反応性クラスターは、十分に低い粘度を有し、好都合には室温で液体である。したがって、クラスターは、エポキシ樹脂組成物の中に容易に混合され、液体エポキシ配合物の中に含められることができる。本発明の方法の調製された無機反応性クラスターは、完全に転化されたTおよびD単位を、(DまたはT種の割合として表示して)それぞれ少なくとも約50%および約15%の量で、好ましくはそれぞれ少なくとも約60%および約20%の量で含むことができる。TおよびDという名称は、当技術分野においてよく知られており、シロキサン系化合物におけるシロキサン単位の種類を記載するために使用される。ここで、Dはジエトキシシランを指称し、Tはトリエトキシシランを指称する。上付きの数は加水分解されたエトキシ基の数であり、下付きの数は縮合されたエトキシ基の数である。前記の条件を満たす調製された無機反応性クラスターは、さらにエポキシ配合物の中に混合するのに適した貯蔵安定性の系を形成する。
【0042】
また、クラスターの構造/分岐度は、29Si NMR分析に基づく、縮合したSi種と未縮合のSi種(DおよびT)の比率によって制御することができる。
【0043】
本発明のゾルゲル法によって調製された反応性無機クラスターには、反応性無機クラスターの構造のために、いくつかの長所がある。例えば、そのクラスターは、密封した容器の中で長い貯蔵安定性を有する。ここで「貯蔵安定性」とは、無機クラスターが一定の長期間安定していること、すなわち、密封した容器の中に25℃で貯蔵したときに、クラスターが、約1日超、好ましくは約1週間超、より好ましくは約2週間超、さらに好ましくは約1か月超、最も好ましくは約3か月超、マクロゲル化しないことを意味する。
【0044】
クラスターの官能価は、異なるアミノ前駆体の比率を調節することによって、または異なるアミノ前駆体と他の官能基を有する前駆体または官能基を有しない前駆体の比率を調節することによって制御することができる。
【0045】
更に、本発明は、クラスターのための反応性アミノ基の最適の濃度の調整を可能にする。すなわち、クラスター中のアミノ基の総量は、異なる量のアミノ基を有する適切な前駆体を選択することによって調節することができる。
【0046】
前記したゾルゲル法によって得られる加水分解縮合物すなわち反応性無機クラスター生成物)は、反応性アミノ基を含有する無色の低い粘度液体である。
【0047】
本発明の1つの実施態様において、反応無機クラスターは、エポキシ樹脂用硬化剤として単独で使用することができる。形成された反応性無機クラスターは、官能基、例えばアミノ基の存在のために、エポキシ樹脂用硬化剤として適用することができる。
【0048】
もう一つの実施態様において、形成された反応性無機クラスターは、所望により、例えば従来のアミノ基含有硬化剤のような、成分(b)としての、従来のエポキシ樹脂硬化剤(共硬化剤)と組み合わせて使用してもよい。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物に有用な成分(b)の硬化剤は、本発明の反応性無機クラスターを含む。本発明の反応性無機クラスターは、成分(b)として、単独で使用されてもよい、すなわち、硬化剤は、任意の従来のエポキシ硬化剤を添加しない反応性無機クラスターからなるものであってもよいし、その代わりに、本発明の反応性無機クラスターは、エポキシ樹脂の硬化の技術分野において既知の追加の従来の共硬化剤と共に使用してもよい。この実施態様においては、成分(b)の硬化剤は、調製された反応性無機クラスターおよび少なくとも1種の従来のエポキシ共硬化剤を含む。反応性無機クラスターは、好都合にかつ容易に従来のエポキシ硬化剤とブレンドし使用することができる。反応性無機クラスターは、単独でまたは従来のエポキシ共硬化剤と組み合わせて、外界温度でエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂用の貯蔵安定性のある液体硬化剤を形成する。調製された最終的な有機・無機網状組織は、より無機質的な性質を示す。一般に、硬化剤(b)中の反応性無機クラスターの濃度が高くなればなるほど、架橋された網状組織の弾性係数は高くなる。
【0050】
熱硬化性組成物に有用な共硬化剤(共加硫剤または共架橋剤ともいう。)は、当技術分野においてよく知られた硬化剤、例えば限定するものではないが、無水物、カルボン酸、アミン化合物、フェノール化合物、ポリオール、またはそれらの混合物から選択されることができる。
【0051】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む1つの実施態様の実例として、少なくとも1種の共硬化剤は、アミン、フェノール樹脂、カルボン酸、カルボン酸無水物またはそれらの混合物から選択されることができる。
【0052】
熱硬化性樹脂がイソシアン酸エステルを含む1つの実施態様の実例として、少なくとも1種の共硬化剤は少なくとも1種のポリオールから選択されることができる。
【0053】
本発明に有用な省略可能な共硬化剤の例としては、エポキシ樹脂系組成物を硬化するのに有用であると知られているいかなる硬化させる物質をも挙げることができる。そのような物質としては、例えば、ポリアミン、ポリアミド、ポリアミノアミド、ジシアンジアミド、ポリフェノール、重合体チオール、ポリカルボン酸、ポリオール、第三級アミン、第四級アンモニウムハライドおよび無水物、およびそれらの任意の組合わせなどが挙げられる。共硬化剤の他の具体的な例としては、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、ジシクロペンタジエンのフェノールノボラック、クレゾールノボラック、ジフェニルスルホン、スチレン−マレイン酸無水物(SMA)共重合体、およびそれらの任意の組合わせが挙げられる。組成物中の水/エタノールの存在に敏感な共硬化剤(例えば無水物)は、通常推奨されない。
【0054】
ジシアンジアミド(「dicy」)は、本発明に有用な共硬化剤の一つの好ましい実施態様であることができる。ジシアンジアミドはそれの硬化させる性質を活性化するために比較的高い温度を必要とするので、ジシアンジアミドは遅れた硬化を提供する長所を有し、したがって、ジシアンジアミドは、エポキシ樹脂に加えて、室温(約25℃)で貯蔵することができる。
【0055】
従来のエポキシ共硬化剤の中で、アミンおよびアミノまたはアミド含有樹脂が、反応性無機クラスターのアルコキシ基に対するそれらの触媒効果のために、好ましい。外界温度における固体のエポキシ共硬化剤は、好都合に、反応性無機クラスターに溶かし、液体の(b)硬化剤を形成することができる。
【0056】
エポキシ樹脂組成物のような熱硬化性樹脂組成物のための成分(b)の硬化剤の量は、通常、全反応性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(a)中のエポキシ基に対する硬化剤中の活性水素を有する官能基(反応性無機クラスターからの活性水素と、もし使用されるならば他の従来の共硬化剤からの活性水素との合計の量)の当量比が、約0.2:1〜約5:1、好ましくは約0.5:1〜約2:1、より好ましくは約0.9:1〜約1.1:1になるような量である。0.2:1より小さい比率および5:1より大きい比率では、網状組織のガラス転移温度がより低くなるかもしれず、または反応性官能基が網状組織の中に残留するかもしれず、湿度の高い環境において吸水率を増加させるかもしれず、そして、一般に、網状組織は得られないかもしれない。
【0057】
本発明の熱硬化性組成物に有用な省略可能な成分としては、少なくとも1種の触媒が挙げられる。本発明において使用される触媒は、少なくとも1種の熱硬化性樹脂の重合(単独重合を含む。)に適応されられることができる。あるいは、本発明において使用される触媒は、少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、少なくとも1種の反応性クラスターおよびもし使用するならば共硬化剤との間の反応に適応されられることができる。
【0058】
本発明に有用な触媒の選択は限定されず、エポキシ系のような熱硬化系用に一般に用いられている触媒を使用することができる。また、触媒の添加は、調製される系に依存するかもしれない。本発明に有用な省略可能な触媒(成分(c))は、例えば、アミン、ホスフィン、複素環窒素、アンモニウム、ホスホニウム、アルソニウム、スルホニウム基、およびそれらの任意の組合わせを含む触媒化合物のような、当技術分野においてよく知られている触媒を挙げることができる。触媒が使用される場合は常に、本発明の触媒(成分(c))のいくつかの限定的でない例としては、例えば、エチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、米国特許第4,925,901号明細書(引用によってここに組み入れられる。)に記載された複素環窒素含有触媒、イミダゾール、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、2−メチルイミダゾール、ベンジルジメチルアミン、およびそれらの任意の組合わせを挙げることができる。
【0059】
熱硬化性組成物中に存在する触媒の濃度は、一般に、組成物中の有機化合物の合計を基準として、約0.01質量%〜約5質量%、好ましくは約0.05質量%〜約2質量%、より好ましくは約0.1質量%〜約1質量%の範囲である。約5質量%より高いと、反応が速すぎ(反応は発熱が強く、物質を劣化させ得る)、それは恐らく加工性を低下させるるかもしれない。したがって、その配合物は従来の加工条件下では加工することができない。約0.01質量%より低いと、反応は遅すぎ、硬化時間を長引かせるかもしれない。したがって、その配合物は従来の加工条件下で加工することができない。
【0060】
本発明の熱硬化性組成物は、所望により、それらの意図した用途に有用な1種以上の他の添加物を含むことができる。例えば、本発明の組成物に有用な省略可能な添加物としては、限定するものではないが、安定剤、界面活性剤、流動性改良剤、顔料もしくは染料、つや消し剤、脱気剤、難燃剤(例えば無機難燃剤、ハロゲン化難燃剤、およびリン含有物質のような非ハロゲン化難燃剤)、強化剤、硬化開始剤、硬化防止剤、湿潤剤、着色剤もしくは顔料、熱可塑性プラスチック、加工助剤、紫外線防止化合物、蛍光性化合物、紫外線安定剤、不活性充填剤、繊維強化材、酸化防止剤、熱可塑性粒子を含む耐衝撃性改良剤、およびそれらの混合物を挙げることができる。前記の目録は、例示であって、限定するものではない。本発明の配合物のための好ましい添加物は、当業者によって最適化されることができる。
【0061】
追加の添加物の濃度は、一般に、組成物全体の質量を基準として、約0質量%〜約50質量%、好ましくは約0.01質量%〜約20質量%、より好ましくは約0.05質量%〜約15質量%、最も好ましくは約0.1質量%〜約10質量%である。約0.01質量%より少ないと、添加物は、一般に、結果として生じる熱硬化生成物にさらなる著しい利点を提供しない。約20質量%より多いと、これらの添加物によってもたらされた性質改善は比較的一定のままである。
【0062】
本発明の配合物または組成物の成分は、本発明の熱硬化性組成物を提供するためにいかなる順序で混合されてもよい。本発明組成の配合物は、熱硬化物を形成するための従来の加工条件下で硬化することができる。生じる熱硬化物は、高い熱的安定性を維持しながら、良好な靭性および機械的強さのような優れた熱機械的性質を示す。
【0063】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物の成分はすべて、典型的には、エポキシマトリックスの中に無機反応性クラスターを有効に取り込むために、低い粘度を可能にする温度で混合され分散される。すべての成分の混合中の温度は、外界温度であってもよいが、一般には約20℃〜約90℃であり、より好ましくは50℃〜80℃である。揮発性副生成物は、硬化剤の、または硬化剤の配合された混合物の真空脱気法によって除去することができる。約90℃より高い温度では、架橋反応がは、成分の混合中に時期尚早に始まるかもしれない。20℃より低い温度では、組成物の粘度が高すぎ、完全にかつ均質に成分を混合することができないかもしれない。
【0064】
脱気を高い温度(すなわち約50℃より高い温度)で行なうときは、その工程中にエポキシとアミンとの間の反応を回避するために、エポキシ樹脂の添加の前に硬化剤を脱気することが好ましい。バルクおよび厚い生成物を調製するときは、脱気することが推奨される。
【0065】
液体のアミノ硬化剤が使用される場合は、ほとんどの加工条件下で、混合の順序は重大ではないが、場合によっては、例えば、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(mPDA)、ジアミノジフェニルエーテル、アルキル化芳香族アミン、ジシアンジアミド(DICY)などの芳香族アミンのような固体のアミノ共硬化剤が使用される場合は、まず、共硬化剤を他の成分と均一に混合するために、高温(例えば約120℃〜約130℃)でエポキシ樹脂と固体の共硬化剤を一緒に混合しなければならない。そして、次に、アミノ基のようなクラスター上の官能基が非常に反応しやすいので、クラスターは低温(例えば約20℃〜約90℃)で加えられることができる。
【0066】
本発明の熱硬化生成物を生成する方法は、重力キャスティング、真空キャスティング、自動圧力ゲル化(APG)、減圧ゲル化(VPG)、注入、フィラメントワインディング、レイアップ射出、トランスファー成形、プリプレグ化、浸漬、コーティング、噴霧、はけ塗りなどによって行なうことができる。
【0067】
熱硬化性組成物の硬化は、組成物を硬化するのに十分なあらかじめ定められた時間の間行なうことができる。例えば、硬化時間は、約1分〜約96時間の間で、好ましくは約5分〜約48時間の間で、より好ましくは約10分〜約24時間の間で選ぶことができる。約1分間より短い場合は、時間が短すぎるので、従来の加工条件下で十分な反応を保証することができない。約96時間より長い場合は、時間が長すぎるので、実用的または経済的でありえない。
【0068】
本発明において、エポキシマトリックスの中に、大きな高度に縮合しかつ分枝した無機の(アルコキシシラン前駆体の場合にはケイ素に富んだ)構造を含む、(アミノ基を有する)反応性無機クラスターの混合は、透明な均質の有機・無機網状組織物質を生成することができる、凝集体を形成せず且つエポキシマトリックスの中によく分布した、分枝し且つ鎖状のアーキテクチャーを有する無機構造の生成につながる。
【0069】
最終的な有機・無機ハイブリッド網状組織形態は、架橋を加える、よく分散した縮合した無機クラスターを含むエポキシに富んだマトリックスの混合構造(浸透網状組織「IPN」様形態)に似ており、したがってより密な網状組織構造が作成される。反応性無機クラスターの広い粒度分布は、また、純粋なエポキシマトリックスに比べて、エポキシハイブリッドの主要な遷移領域(α緩和、Tα)の広がりにつながる。エポキシ配合物の中への無機反応性クラスターの量を変えることは、有機・無機網状組織の調製を通して分子鎖動力学の最終的な分布の制御を可能にする。加えられる無機反応性クラスターの最大量は限定されない。しかしながら、最終的な有機・無機網状組織中の最大濃度は、通常、エポキシ/アミノ基の間の化学量論的比率を尊重するためにアミノ基の量によって限定される。
【0070】
最終的な有機・無機網状組織の熱機械的性質は、ガラス状態と同様にゴム状態の貯蔵弾性率の著しい改善を示す。主要な遷移領域の高温への変化も観察される。さらに、有機・無機網状組織の熱機械的性質は、より長い後硬化の間に、または物質の熱エージングの間に、さらに改善される。熱処理の正の効果は、残存するヒドロキシル基の最終的な縮合による無機相の高密度化によって引き起こされる。有機の網状組織および有機相と無機相の結合が既に形成されているので、この効果は最終的な弾性係数に大きな影響を及ぼさない。しかしながら、主要な遷移領域の高温領域への著しい変化が観察される。
【0071】
本発明の硬化生成物は、(a)少なくとも1種の熱硬化性樹脂、(b)少なくとも1種の硬化剤および所望により(c)少なくとも1種の触媒を含む反応性熱硬化性樹脂組成物を硬化することによって調製することができる。ただし、硬化剤(b)は反応性無機クラスターを含み、クラスターは反応性官能基を有する貯蔵安定性無機クラスターである。本発明の組成物を硬化することによって調製された硬化生成物は、好都合に、改善された熱機械的性質を示す。例えば、DMTAによって測定した、硬化生成物の弾性係数E′rは、約20MPa〜約2000MPa、好ましくは約22MPa〜約1000MPa、より好ましくは約25MPa〜約600MPa、最も好ましくは約30MPa〜約200MPaであることができる。DMTAによって測定した、硬化生成物の機械的な転移温度Tαは、約60℃〜約240℃、好ましくは約70℃〜約220℃、より好ましくは約80℃〜約200℃、最も好ましくは約90℃〜約180℃であることができる。引張試験によって測定した、硬化生成物のヤング率Eは、約2GPa〜約10GPa、好ましくは約2.1GPa〜約8GPa、より好ましくは約2.2GPa〜約6GPa、最も好ましくは約2.3GPa〜約4GPaであることができる。硬化生成物のKIcは、約0.5MPa・m0.5〜約3MPa・m0.5、好ましくは約0.6MPa・m0.5〜約2.8MPa・m0.5、より好ましくは約0.7MPa・m0.5〜約2.6MPa・m0.5、最も好ましくは約0.8MPa・m0.5〜約2.4MPa・m0.5であることができる。硬化生成物の分解温度Tdは、約300℃〜約450℃、好ましくは約310℃〜約420℃、より好ましくは約320℃〜約400℃、最も好ましくは約325℃〜約380℃であることができる。
【0072】
硬化生成物、すなわち、有機・無機ハイブリッド材料生成物は、好都合に、ガラス状態における、またはゴム状領域における熱機械的性質(転移温度、モジュラスおよび靭性)の改善されたバランスを有する。有機・無機ハイブリッド材料生成物は、熱エージングの間に、(より高い転移温度、モジュラスまたは靭性のような)熱機械的挙動を改善した。さらに、本発明の硬化生成物は、好都合に、目視検査によって評価したとき、透明であるかまたはオパールのような光彩を放つことができる。さらに、硬化生成物は、また、520nmでの透過率が約60%〜約95%、好ましくは約62%〜約90%、より好ましくは約64%〜約85%、最も好ましくは約65%〜約80%であることができる。他の性質は当業者によってよく知られた方法で測定することができる。
【0073】
本発明の例証として、一般に、エポキシ型含浸化合物は、キャスティング、ポッティング、カプセル化、モールディングおよび型押しに有用であることができる。本発明は、特に、すべてのタイプの電気的なキャスティング、ポッティングおよびカプセル化用途に、モールディングおよび樹脂型押しに、およびエポキシ系複合材部品の製作に適しており、特にキャスティング、ポッティングおよびカプセル化によって製造された大きなエポキシ系部品の製造に適している。生じる複合材料は、電気的キャスティング用途または電子的カプセル化、キャスティング、モールディング、ポッティング、カプセル化、射出、樹脂トランスファー成形、複合材、コーティングなどのようないくつかの用途において有用であることができる。
【実施例】
【0074】
次の実施例および比較例はさらに詳細に本発明を説明するが、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。反応性無機クラスターを含むエポキシ系の配合物、および硬化生成物の有機・無機網状組織の性質を、次の実施例で例証する。
【0075】
次の合成例1〜4および比較合成例Aは、無機反応性クラスターの調製について記載する。
【0076】
合成例1
機械的撹拌機、温度計、窒素ガス導入管を装備した回分式反応器の中に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS、ABCR製)150グラム(g)と3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン(APMS、ABCR製)64.8gの混合物を導入した。加水分解および縮合反応を促進するために、APMSとAPSの混合物を、90℃に加熱し、水蒸気を飽和した窒素でパージした。ガスの水飽和はバブラーで25℃で行ない、出て行く窒素は1dm中に16mgのHOを含んでいた。反応中に生成したエタノールは蒸発させた後、分離器の中で凝縮させた。反応の過程は混合物の粘度を測定することによって制御した。粘度が25℃で72mPa・sに達したときに、反応を止めた。Si−NMRの結果から、アルコキシシラン基の転化率は63%であった。得られた生成物(反応性無機クラスター)は澄んだ透明な液体であった。その液体は、さらに最終的な有機・無機ハイブリッド網状組織を調製するために使用した。
【0077】
合成例2
合成例1で記載したのと同じ反応器の中に、150gのAPSと64.8gのAPMSの混合物を導入した。反応は合成例1で記載したのと同じ手順に従って行なった。粘度が25℃で60mPa・sに達したときに、反応を止めた。Si−NMRの結果から、アルコキシシラン基の転化率は57%であった。得られた生成物(反応性無機クラスター)は澄んだ透明な液体であった。その液体は、さらに最終的な有機・無機ハイブリッド網状組織を調製するために使用した。
【0078】
合成例3
合成例1で記載したのと同じ反応器の中に、150gのAPSと64.8gのAPMSの混合物を導入した。反応は合成例1で記載したのと同じ手順に従って行なった。粘度が25℃で66mPa・sに達したときに、反応を止めた。次に、エタノールの残分を除去するために、混合物を減圧下で90℃で30分間加熱した。得られた生成物(反応性無機クラスター)は25℃で108mPa・sの粘度を有していた。アルコキシシラン基の転化率は(Si−NMRの結果から)64%であった。生成物は澄んだ透明な液体であった。その液体はさらに最終的な有機・無機ハイブリッド網状組織を調製するために使用した。
【0079】
合成例4
例1で記載したのと同じ反応器の中に、150gのAPSと64.8gのAPMSの混合物を導入した。反応は例1で記載したのと同じ手順に従って行なった。粘度が25℃で559mPa・sに達したときに、反応を止めた。Si−NMRの結果から、アルコキシシラン基の転化率は85%であった。得られた生成物(反応性無機クラスター)は澄んだ透明な液体であった。その液体はさらに最終的な有機・無機ハイブリッド網状組織を調製するために使用した。
【0080】
合成例A
合成例1で記載したのと同じ反応器の中に、APSの150gと64.8gのAPMSの混合物を導入した。反応は合成例1で記載したのと同じ手順に従って行なった。粘度が25℃で4.5mPa・sに達したときに、反応を止めた。Si−NMRの結果から、アルコキシシラン基の転化率は23%であった。得られた生成物は澄んだ透明な液体であった。その液体はさらに最終的な有機・無機ハイブリッド網状組織を調製するために使用した。
【0081】
次の実施例1〜7および比較例A〜Cは、エポキシ系と上で調製した無機クラスターとの配合物について記載する。
【0082】
実施例1
ビスフェノールAエポキシ樹脂(ダウ・ケミカル社(The Dow Chemical Company)によって製造され市販されているD.E.R.TM332)142.6g、ポリオキシプロピレンジアミン(ハンツマン社(Huntsman)によって製造され市販されているJEFFAMINETMD−230)38.1g、および合成例1で調製した反応性アミノ無機クラスター9gを、一緒に混合し、60℃で約15分間、円盤状撹拌機(2400rpm)によって均質化した。その系を40℃で5分間減圧下で脱気した。次に、その反応性の系を、約1mm(動的機械分析用試料)〜約6mm(破壊靭性測定用試料)の異なる厚さを有する予熱したアルミニウム開放金型の中に注ぎ、65℃で1.5時間(h)、次いで80℃で2h硬化し、そして180℃で12h後硬化した。調製された完全に硬化した有機・無機網状組織はさらに特徴づけられた。実施例1の組成を表Iに記載する。
【0083】
実施例2および3
実施例1に記載したのと同じ手順を、実施例2および3の有機・無機物質の調製に適用した。実施例2および3の組成を表Iに記載する。
【0084】
実施例4
合成例3で調製した反応性アミノ無機クラスターを使用した点を除いて、実施例1に記載したのと同じ手順を、実施例4の有機・無機物質の調製に適用した。実施例4の組成を表Iに記載する。
【0085】
実施例5
合成例4で調製した反応性アミノ無機クラスターを使用した点を除いて、実施例1に記載したのと同じ手順を、実施例5の有機・無機物質の調製に適用した。実施例5の組成を表Iに記載する。
【0086】
実施例6
ビスフェノールAエポキシ樹脂(D.E.R.TM332)39.6g、およびポリオキシプロピレンジアミン(商品名:JEFFAMINETMD−230)2.7gと合成例3で調製した反応性アミノ無機クラスター10.0gとをあらかじめブレンドしてなる硬化剤を、一緒に混合し、60℃で約15分間、円盤状撹拌機(2400rpm)によって均質化した。次に、その反応性の系を、約1mm(動的機械分析用試料)〜約6mm(破壊靭性測定用試料)の異なる厚さを有する予熱したアルミニウム開放金型の中に注ぎ、80℃で4h硬化し、180℃で12h後硬化した。調製された完全に硬化した有機・無機網状組織はさらに特徴づけられた。実施例6の組成を表Iに記載する。
【0087】
実施例7
ビスフェノールAエポキシ樹脂(D.E.R.TM332)31.6g、および合成例1で調製した反応性アミノ無機クラスター10.0gを、一緒に混合し、60℃で約15分間、円盤状撹拌機(2400rpm)によって均質化した。その系を40℃で5分間減圧下で脱気した。次に、その反応性の系を、約1mm(動的機械分析用試料)〜約6mm(破壊靭性測定用試料)の異なる厚さを有する予熱したアルミニウム開放金型の中に注ぎ、65℃で1.5h、次いで80℃4h硬化し、そして180℃で12h後硬化した。調製された完全に硬化した有機・無機網状組織はさらに特徴づけられた。実施例7の組成を表Iに記載する。
【0088】
比較例A
ビスフェノールAエポキシ樹脂(D.E.R.TM332)142.6gおよびポリオキシプロピレンジアミン(JEFFAMINETMD−230)47.7gを、一緒に混合し、60℃で約15分間、円盤状撹拌機(2400rpm)によって均質化した。その系を40℃で5分間減圧下で脱気した。次に、その反応性の系を、約1mm(動的機械分析用試料)〜6mm(破壊靭性測定用試料)の異なる厚さを有する予熱したアルミニウム開放金型の中に注ぎ、65℃で1.5h、次いで80℃で2h硬化し、そして180℃で12h後硬化した。調製された完全に硬化した有機・無機網状組織はさらに特徴づけられた。比較例Aの組成を表Iに記載する。
【0089】
比較例B
ビスフェノールAエポキシ樹脂(D.E.R.TM332)39.6g、ポリオキシプロピレンジアミン(JEFFAMINETMD−230)2.7g、および合成例Aで調製した生成物10.0gを、一緒に混合し、60℃で約15分間、円盤状撹拌機(2400rpm)によって均質化した。その系を40℃で5分間減圧下で脱気した。次に、その反応性の系を、約1mmの厚さを有する予熱したアルミニウム開放金型の中に注ぎ、80℃で4h硬化し、180℃で12h後硬化した。調製された完全に硬化した有機・無機網状組織はさらに特徴づけられた。比較例Bの組成を表Iに記載する。
【0090】
比較例C
ビスフェノールAエポキシ樹脂(D.E.R.TM332)54.4g、ポリオキシプロピレンジアミン(JEFFAMINETMD−230)6.1gおよびAPS(ABCR製)15.0gおよびAPMS(ABCR製)6.5gを、一緒に混合し、60℃で約15分間、円盤状撹拌機(2400rpm)によって均質化した。その系は40℃で15分間減圧下で脱気した。次に、その反応性の系を、約1mmの厚さを有する予熱したアルミニウム開放金型の中に注ぎ、65℃で1.5h、次いで80℃で2h硬化し、180℃で12h後硬化した。調製された完全に硬化した有機・無機網状組織はさらに特徴づけられた。比較例Cの組成を表Iに記載する。
【0091】
実施例1〜7および比較例A〜Cに記載されたすべての反応性の系の組成を、表Iに記載する。
【0092】
【表1】

【0093】
次の標準の分析的な装置および方法を実施例で使用する。
【0094】
動的機械熱分析(DMTA)
前記の硬化した試料の動的熱機械的性質(貯蔵弾性率E′および機械的転移温度Tα)を、レオメトリックス・ソリッド・アナライザー(Rheometrics Solid Analyser)(RSA II)により、引張モードで操作し、次の実験条件で試験した。試料寸法:約40×5×1mm3、周波数:1Hz、昇温速度:2K/分。Tαはtanδピークの最大値によって決定された。弾性係数E′rは弾性プラトーで決定された。測定の典型的な精度はTα±2℃およびE′r±5%である。
【0095】
引張測定
25℃でのヤング率Eの決定につながる引張測定は、インストロン・マシン(Instron machine)(試料寸法:6×12×80mm、直線の歪ゲージ、速度:0.2mm/分)により行なわれた。測定の典型的な精度はE±5%である。
【0096】
破壊靭性試験
破壊靭性KIc試験は、MTS−2/Mマシン(試料寸法:6×12×80mm、3点曲げ試験、速度:10mm/分)により(薄い刃により)あらかじめノッチを付けた試料で行なわれた。測定の典型的な精度はKIc±5%である。
【0097】
熱重量分析(TGA)
TGAスペクトルは小さいフィルム試料(約10mg)でTGA 2950(熱分析装置)で記録した。減量は、白金皿を使用して800℃の温度まで10K/分の加熱速度を使用して酸化雰囲気(空気)中で測定した。熱分解温度Tdは10%減量時に記録した。
【0098】
透明度
透明度は目視検査によって評価した。
【0099】
熱エージング
熱エージング試験(熱酸化)は、通風乾燥器で空気中で150℃で250時間行なった。その試験は薄いフィルム(厚さ1mm)で行なった。その評価は、劣化後のフィルムの目視検査(色)、520nmの波長での透過率の測定およびDMTAによる熱機械的性質の評価にある。測定の典型的な精度は透過率±10%である。
【0100】
粘度測定
粘度測定は次の方法を使用して行なった。異なる反応時間の反応生成物の粘度測定は、25℃でレオメーターAR 1000(熱分析)を使用して行なった。コーン/プレート形状(直径60mm、角度2°、間隙66μm)および1〜100s−1の剪断速度掃引を使用した。
【0101】
結果
前記の試験手順の結果は図1〜4および表IIに示す。結果は、対応する比較例と比較したときに図1〜4で示されるように本発明の実施例の改善された熱機械的性質を示す。基本性質は表IIに与えられる。
【0102】
図1は、無機クラスターを含まないエポキシマトリックス(比較例A)と比較して異なる量のSiO(実施例1、2、3および7)を含む有機・無機網状組織の熱機械的性質の改善を示す。本発明の組成物は、比較例の組成物より高い機械的な転移温度Tαおよび/またはより高い弾性係数を示す。
【0103】
図2は、無機クラスターを含まないエポキシマトリックス(比較例A)と比較して、無機クラスターの異なる構造を含む有機・無機網状組織(実施例3および4)の熱機械的性質の改善を示す。
【0104】
図3は、加水分解・縮合の不十分な反応時間による低縮合無機構造のエポキシ網状組織物質(比較例BおよびC)および無機クラスターを含まないエポキシ網状組織物質(比較例A)と比較して、ゾルゲル法(実施例5および6)の異なる時間による無機クラスターの異なる構造を含む有機・無機網状組織の熱機械的性質の改善を示す。本発明の組成物は、比較例の組成物より高い機械的な転移温度Tαおよび/またはより高い弾性係数を示す。
【0105】
図4は、無機クラスターを含まないエポキシマトリックス(比較例A)と比較して、異なる量のSiOを含む有機・無機網状組織(実施例1、2および3)の機械的性質の改善を示す。本発明の組成物は比較例の組成物より高いヤング率を示す。
【0106】
比較例A(シリカを含まない)と実施例2および3との間の比較は、硬化性組成物に本発明の反応性無機クラスターを加えることによって、熱機械的性質の改善されたバランスを得ることが可能なことを示す。実施例2(シリカ5.2%)は、同様の転移温度(Tα)を維持しながら、改善された靭性(KIc)およびより堅い物質(EおよびE′r)につながる。シリカのより高い濃度は、実施例3(10.2%)に示されるように、比較例Aと比べ、靭性は同程度であるが、転移温度および物質の剛性は著しく増加している。
【0107】
実施例1、2、3、7と比較例Aとの間の比較は、配合物中の反応性無機クラスターの濃度が高くなればなるほど、熱機械的性質がよくなる(より高いTαおよびより高いE′r)ことを示す。反応性無機クラスターを含む組成物は、熱酸化試験結果によって実証されるように、より良い熱的安定性を示す。比較例Aと比較したときに、Tdは反応性無機クラスターの濃度とともに増加した。比較例Aと比較して、変色は減少し、熱機械的性質はさらに改善された(より高いE′rおよびより高いTα)。比較例Aは、Tαの小さな増加およびE′rの著しい低下を示し、それは網状組織の部分的な分解によって説明された。反応性無機クラスターの存在は、この分解を防止し、熱エージング中に架橋密度をさらに増加させる。
【0108】
実施例4、5および6は、比較例Aよりずっと高い転移温度および剛性を有する物質を得ることが可能であることを示す。分子鎖力学は、反応性無機クラスターの組成および処理パラメーターを変えることによって調整することができる。
【0109】
比較例BおよびCでは、最終的な重合中に多量の揮発性副生成物が生成し気泡を発生させるために、バルク試験片を調製することができない。薄いフィルムにおいては、比較例Bは、対応する本発明の実施例3より低い転移温度および剛性を示す。比較例Cはより高い転移温度を示すが低い剛性を示す。
【0110】
【表2】

【0111】
本開示は限られた数の実施態様を含むが、この開示の利益を有する当業者は、本発明の範囲から逸脱しない他の実施態様が考案され得ることを認識するであろう。したがって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種の熱硬化性樹脂、(b)少なくとも1種の硬化剤、および(c)所望により少なくとも1種の触媒を含む反応性熱硬化性樹脂組成物であって、硬化剤(b)が少なくとも1種以上の反応性無機クラスターを含み、該クラスターは反応性官能基を有する貯蔵安定性無機クラスターであることを特徴とする組成物。
【請求項2】
反応性官能基がアミノ基であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物を硬化することによって調製された硬化生成物であって、硬化生成物が均衡のとれた熱機械的性質有することを特徴とする硬化生成物。
【請求項4】
約20MPa〜約2000MPaのDMTAによって測定した弾性係数E′r、約60℃〜約240℃のDMTAによって測定した機械的転移温度Tα、約2GPa〜約10GPaの引張試験によって測定したヤング率E、約0.5MPa・m0.5〜約3MPa・m0.5のKIc、約300℃〜約450℃のTd、約60%〜約95%の520nmでの透過率、またはそれらの組合わせを有する請求項2に記載の生成物。
【請求項5】
(a)少なくとも1種の熱硬化性樹脂、(b)少なくとも1種の硬化剤、および(c)所望により少なくとも1種の触媒を混合する工程を含む反応性熱硬化性樹脂組成物を調製する方法であって、硬化剤(b)が少なくとも1種以上の反応性無機クラスターを含み、該クラスターは反応性官能基を有する貯蔵安定性無機クラスターであることを特徴とする方法。
【請求項6】
硬化剤(b)が反応性無機クラスターと少なくとも1種の従来の熱硬化性樹脂硬化剤との組合わせを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
官能基がアミノ基であり、無機反応性クラスターがエポキシ樹脂用硬化剤として使用されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
分子鎖力学の分布が有機・無機網状組織の調整によって制御されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
熱硬化性樹脂マトリックスの中に混ぜ合わされた無機構造物を含む有機・無機ハイブリッド材料。
【請求項10】
熱エージング中に有機・無機網状組織の熱機械的な挙動が改善されることを特徴とする請求項9に記載の有機・無機ハイブリッド材料生成物。
【請求項11】
バランスのよい熱機械的性質(転移温度、モジュラスおよび靭性)を有する、請求項9に記載の有機・無機ハイブリッド材料生成物であって、ガラス状態におけるまたは弾性領域における有機・無機網状組織が増強されていることを特徴とする生成物。
【請求項12】
請求項9に記載の有機・無機ハイブリッド材料生成物を含む、薄いフィルムまたはコーティング、またはフィルム、コーティング、キャスティング、モールディング、注入、カプセル化もしくは複合材用のバルク/厚い生成物。
【請求項13】
熱硬化性樹脂マトリックスの中に無機構造物を混ぜ合わせることを含む有機・無機ハイブリッド材料を調製する方法。
【請求項14】
(a)ゾルゲル(加水分解および縮合)反応法を用いて反応性官能基を有する貯蔵安定性無機クラスター調製する工程、および
(b)硬化剤として工程(a)で調製されたクラスターを熱硬化性樹脂と反応させる工程
を含む熱硬化生成物を調製する方法。
【請求項15】
反応性官能基がアミノ基であることを特徴とする請求項14に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−525486(P2012−525486A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508731(P2012−508731)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/032970
【国際公開番号】WO2010/127118
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】