説明

熱間圧延機の板幅制御装置および制御方法

【課題】仕上げ幅縮み量をプリセットの段階で精度良く推定し、仕上げ圧延に依存しない板幅制御を可能とする。
【解決手段】加熱された鋼材を幅方向に圧延する幅圧延機225と、前記幅圧延機に隣接し幅圧延機で圧延された前記鋼材を板厚方向に圧延する粗圧延機235と、前記幅圧延機および粗圧延機で圧延された鋼材をさらに板厚方向に圧延して熱延コイルを生産する仕上げ圧延機245を備え、前記熱延コイルの板幅を製造指令で与えられた目標板幅に制御する熱間圧延機の板幅制御装置において、 前記仕上げ圧延機における板幅縮み量を推定して算出する仕上げ幅縮み推定量算出手段121と、前記目標板幅を前記仕上げ幅縮み量算出手段の出力を用いて補正する第1の板幅目標値補正手段120を備え、該補正手段により補正された目標板幅をもとに算出した制御指令を前記幅圧延機225に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延機の板幅制御技術に係り、特に、仕上げ圧延に依存しない板幅制御を可能とした熱間圧延機の板幅制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、複数スタンドからなる熱間仕上げ圧延機の任意のスタンド間又は仕上げ圧延機出側に設置した板幅計(中間板幅計)、および巻取り装置(ダウンコイラ)直前に設置した板幅計(最終板幅計)を用いた幅制御において、中間板幅計の板幅実測値から最終板幅計の実績を推定し、この推定値と最終板幅計の目標設定値との差に基づいて中間板幅計の目標値を変更する仕上げ圧延機の幅制御方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−211212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来技術は、単一スタンドからなるステッケルミルに適用することはできない。すなわち、ステッケルミルでは、複数スタンドからなる熱間仕上げ圧延機のように仕上げ圧延機間での張力制御を行うことができず、仕上げ板幅をオンラインで制御することはできない。また、仕上げ圧延時において、大きなスラブの幅縮みが生じる。このため、前記従来技術の手法は、ステッケルミルを備えた圧延設備にそのまま適用することはできない。
【0004】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、仕上げ幅縮み量をプリセットの段階で精度良く推定することにより、仕上げ圧延に依存しない板幅制御を可能とすることのできる熱間圧延機の板幅制御技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0006】
加熱された鋼材を幅方向に圧延する幅圧延機と、前記幅圧延機に隣接し幅圧延機で圧延された前記鋼材を板厚方向に圧延する粗圧延機と、前記幅圧延機および粗圧延機で圧延された鋼材をさらに板厚方向に圧延して熱延コイルを生産する仕上げ圧延機を備え、前記熱延コイルの板幅を製造指令で与えられた目標板幅に制御する熱間圧延機の板幅制御装置において、前記仕上げ圧延機における板幅縮み量を推定して算出する仕上げ幅縮み推定量算出手段と、前記目標板幅を前記仕上げ幅縮み量算出手段の出力を用いて補正する第1の板幅目標値補正手段を備え、該補正手段により補正された目標板幅をもとに算出した制御指令を前記幅圧延機に出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上の構成を備えるため、仕上げ幅縮み量をプリセットの段階で精度良く推定することができ、仕上げ圧延に依存しない板幅制御が可能なる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかる板厚制御装置を説明する図である。板幅制御装置100は制御対象200から種々の信号を受信し、制御信号を制御対象200に出力する。まず、制御対象200の構成を説明する。
【0009】
制御対象200は熱間圧延機の幅制御ラインであり、スラブ抽出部210である加熱炉215から抽出された幅1000mm〜1600mmのスラブ205を幅圧延部220の幅圧延機225で幅方向に圧延し、粗圧延部230の粗圧延機235により3パスないし7パスの往復圧延を行う。ここで、幅圧延機225と粗圧延機235は隣接して設置されており、往復圧延は、幅圧延機225と粗圧延機235において同時に行われる。
【0010】
その後、仕上げ圧延部240のステッケルミル仕上げ圧延機245において3パスないし7パスの前後方向水平圧延し、コイル巻取り部250のコイル巻取り装置であるダウンコイラ255で巻取る。ここで、粗出側板幅計261は、幅圧延機225と粗圧延機235により圧延された直後のスラブ205の板幅を計測し、仕上げ出側板幅計262は、仕上げ圧延部240で圧延された直後の鋼板の板幅を計測する。ここで、スラブ205の仕上げ圧延機245による最終パス圧延後の目標板幅を、以下、仕上げ目標板幅と称する。また、粗圧延機235による最終パス圧延後の目標板幅を、以下、粗目標板幅と称する。 板幅制御の目的は、仕上げ出側板幅計261で計測された板幅を、製造司令110である目標板幅に一致させることである。
【0011】
次に、板幅制御装置100の構成を示す。板幅制御装置100は、コイルの仕上げ目標板幅を指令する製造指令110と、仕上げ圧延機245における板幅縮み量を推定して算出する仕上げ幅縮み推定量算出手段121と、仕上げ目標板幅を仕上げ幅縮み推定量算出手段121の出力を用いて補正する第1の板幅目標値補正手段120を備えている。
【0012】
また、粗出側板幅計261の板幅実績を収集する粗板幅実績収集手段170と、仕上げ出側板幅計262の板幅実績を収集する仕上げ板幅実績収集手段180と、粗出側板幅計261で計測した板幅と仕上げ出側板幅計262で計測した板幅との差分から仕上げ幅縮み量を推定する仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段122と、仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段122により算出された仕上げ幅縮みアダプティブ量を格納する仕上げ幅縮みアダプティブ量格納テーブル131を備えている。
【0013】
また、幅圧延機225と粗圧延機235の圧下量、圧延ギャップ、あるいは鋼材の塑性情報等から粗圧延機出側の板幅を推定する板幅圧延モデル150と、板幅圧延モデル150を用いて板幅圧延機の制御指令を決定する幅圧延機セットアップ手段160と、板幅圧延モデル150が推定した板幅と粗出側板幅計261が検出した対応する板幅の差分から板幅圧延モデル150のモデル誤差を定量化する粗板幅アダプティブ量算出手段141と、粗板幅アダプティブ量算出手段141により算出された粗板幅アダプティブ量を格納する粗板幅アダプティブ量格納テーブル151と、目標板幅を粗板幅アダプティブ量算出手段141の出力を用いて補正する第2の板幅目標値補正手段140を備えている。
【0014】
さらに、直近の圧延された各鋼板について、粗出側板幅計261で計測した板幅と仕上げ出側板幅計262で計測した板幅との差分を取り込み、この差分の鋼板毎の相関を定量化する仕上げ幅縮みアダプティブ量有効性定量化手段123と、仕上げ幅縮みアダプティブ量有効性定量化手段123により定量化された仕上げ幅縮みアダプティブゲインを格納する仕上げ幅縮みアダプティブゲイン格納テーブル132を備える。また、直近の圧延された各鋼板について、粗出側板幅計261で計測した板幅と板幅圧延モデル150が推定した板幅との差分を取り込み、この差分の鋼板毎の相関を定量化する粗板幅アダプティブ量有効性定量化手段142と、粗板幅アダプティブ量有効性定量化手段142により定量化された粗板幅アダプティブゲインを格納する粗板幅アダプティブゲイン格納テーブル152を備える。
【0015】
仕上げ幅縮み推定量算出手段121において、仕上げ幅縮み推定量Shrink_preは、例えば式(1)で算出される。
【数1】

【0016】
ただし ph:仕上げ圧延機目標板厚
A,B,C,D:幅縮み量算出パラメータ
ここで、式(1)内のパラメータA,B,C,Dは、圧延鋼種、仕上げ圧延後のスラブ板厚ごとに層別される。仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段122は、式(1)で算出された幅縮み推定量Shrink_preと実績幅縮み量Shrink_actの誤差を補正する。
【0017】
粗圧延機圧延後のスラブの実績板幅、すなわち仕上げ圧延前のスラブの実績板幅がBr_actのときの幅縮み量誤差ΔShrink(Br_act)は、圧延鋼種、仕上げ圧延後のスラブ板厚、仕上げトータルパス回数ごとに層別されたテーブル(図2参照)に格納される。ある層別に該当するコイルn本分の幅縮み量誤差ΔShrink(Br_act,i) (i=1,2,・・・n)が蓄積された段階で、この幅縮み量誤差ΔShrinkを仕上げ圧延前のスラブの板幅Brの関数として式(2)に示すm次近似式で近似する。ここで、この近似された幅縮み量補正量をShrink_compとする。なお、この幅縮み補正量Shrink_compの計算は、それぞれの階層で、独立に実行される。
【数2】

【0018】
ただし Br:仕上げ圧延前のスラブの板幅
ak:パラメータ
ここで、パラメータak は、圧延鋼種、仕上げ圧延後のスラブ板厚、仕上げトータルパス回数ごとに層別されたテーブルである仕上げ幅縮みアダプティブ量格納テーブル131に格納される
図2は、m=2の場合のテーブル(仕上げ幅縮みアダプティブ量テーブル)の例を説明する図である。
【0019】
また、仕上げ幅縮みアダプティブ量有効性定量化手段123により、アダプティブ量有効性定量化をすることで、すなわちアダプティブゲインαを決定することで、式(2)で算出した仕上げ幅縮みアダプティブ量の最適な適用を行う。アダプティブゲインαの決定方法を説明する。アダプティブゲインは、実績誤差列の自己相関性に着目し決定する。
【0020】
式(1)により算出された仕上げ幅縮み量Shrink_preに式2により算出された幅縮み補正量を加えて得られた補正後の幅縮み量と実績幅縮み量Shrink_actの差である幅縮み量モデル誤差Cmは、式(3)で示される。
【数3】

【0021】
したがって、前回のコイル圧延時におけるモデル誤差を(Cm)n-1、前々回のコイル圧延時におけるモデル誤差を(Cm)n-2とすると、誤差ベクトルは式(4)で示される。
【数4】

【0022】
ただし (Cm)i : i コイル前のコイルで観測された幅縮み量モデル誤差

ここで、(Cm)iをXi, (Cm)i-1を(Y1)iとし、Xiと(Y1)iのデータ列を生成する。これにより隣接したコイルで得られたモデル誤差がデータ列として対応づけられたことになる。同様に(Cm)iをXi, (Cm)i-2を(Y2)iとし、Xiと(Y2)iのデータ列を生成する。これにより1つのコイルを間において隣接したコイルのモデル誤差が、対応したデータ列として構築できる。次に、それぞれのデータ列を用いてXiと(Y1)iおよびXiと(Y2)iの相互相関Cov1、Cov2を式(5)、式(6)により算出する。
【数5】

【数6】

【0023】
ただしCov(x,y)は、式(7)で表される。
【数7】

【0024】
ここでCov1は、隣接したコイルのモデル誤差の関連性の大きさを表しており、Cov1が大きいことは誤差の相関が大きいことを意味している。同様にCov2の値が大きいことは、1本間をおいたコイルの間にも誤差に大きな相関があることを意味している。相関が大きい場合には、モデル誤差と幅縮み補正量Shrink_compを直接対応づけられる。逆に相関が小さい場合には、モデル誤差間の関連性は小さく、ゲインの値を大きくできないことを意味している。以上から、 Cov1、Cov2の値にしたがって、これに適当な定数b1,b2を乗じた値をゲインベクトルαの値に設定する(式(8)参照)。
【数8】

【0025】
以上から、第1の板幅目標値補正手段120による、粗目標板幅を算出するための仕上げ目標板幅の補正量Bf_compは式(9)で表される。
【数9】

【0026】
したがって、粗目標板幅Br_tgtは、製造指令110の仕上げ目標板幅Bf_tgtを用いて表すと式(10)となる。
【数10】

【0027】
ここで、ゲインαは、圧延鋼種、仕上げ圧延後のスラブ板厚、仕上げトータルパス回数ごとに層別されたテーブルである仕上げ幅縮みアダプティブゲイン格納テーブル132に格納される。
【0028】
図3は、n=2の場合のテーブル(仕上げ幅縮みアダプティブゲインテーブル)の例を示す図である。
【0029】
図4は、圧延コイル数とモデル誤差の関係の例を示す図である。図に示すように多数の圧延コイルの実績データを用いて補正することにより、モデル誤差が減少することが分かる。また、図5は、幅縮み補正前後の板幅とモデル誤差の関係を示す図である。
【0030】
図6は、第1の板幅目標値補正手段120による仕上げ板幅補正量の算出までの処理を説明する図である。
【0031】
ステップS6−1において、製造指令である仕上げ目標板厚を取り込む。ステップS6−2において、この取り込んだ仕上げ目標板厚と式(1)により、仕上げ幅縮み推定量Shrink_preを算出する。ステップS6−2において、現在の圧延本数を確認し、圧延本数があらかじめ設定しておいたアダプティブ量算出用圧延数であるN本に一致したならば、ステップS6−4からのアダプティブ量計算フローへと進む。ステップS6−4において、式(2)による計算方法にしたがい仕上げ幅縮みアダプティブ量Shrink_compを算出し、ステップS6−5において、式(8)による計算方法にしたがいアダプティブゲインαを算出する。ステップS6−6において圧延カウントを初期化、すなわち0に戻しアダプティブ量計算フローを終了する。
【0032】
次にステップS6−7へ進み、ステップS6−2により算出した仕上げ幅縮み推定量Shrink_preと、ステップS6−4により算出した仕上げ幅縮みアダプティブ量Shrink_compと、ステップS6−5により算出したアダプティブゲインαから、第1の板幅目標値補正手段120における式(9)を用いて仕上げ板幅補正量Bf_compを算出し、計算を終了する。
【0033】
また、ステップS6−2において圧延本数がN本未満ならば、アダプティブ量計算フローへは進まず、直接ステップS6−7へ進み、ステップS6−2により算出した仕上げ幅縮み推定量Shrink_preと、アダプティブ量前回値Shrink_compと、アダプティブゲイン前回値αから、第1の板幅目標値補正手段120における式(9)を用いて仕上げ板幅補正量Bf_compを算出し、計算を終了する。
【0034】
次に、粗板幅アダプティブ量算出手段141は、板幅圧延モデル150が推定した板幅と粗板幅実績収集手段170によって得られた粗の実績板幅を用いて板幅圧延モデル150のモデル誤差を定量化し、この定量化された値を粗目標板幅1の補正値として算出する。ここで、板幅圧延モデル150は、通称ドッグボーンと呼ばれる部分とレクトアングル部と呼ばれる部分の幅広がり量を推定する2つのモデル式からなる。このモデル式としては、いくつかのモデル式が知られており、例えば、式(11)、式(12)がある。
【数11】

【数12】

【0035】
ただし、
dw1 :ドッグボーン部幅広がり量[mm]
dw2 :レクトアングル部幅広がり量[mm]
B0 :幅圧延機入側板幅[mm]
B :幅圧延機出側板幅[mm]
RE :幅圧延機ロール径[mm]
Se :幅圧延機ギャップ[mm]
Ld :(R・(H-h))1/2 [mm]
α,β,η,ξ :幅広がり量算出用定数パラメータ [-]
R :粗圧延機ワークロール半径[mm]
H :粗入側板厚[mm]
h :粗出側板厚[mm]
板幅圧延モデル150により推定された板幅と実績板幅の差である粗板幅誤差Br_compは、圧延鋼種、粗1パス目入側板幅であるスラブ幅、粗圧延後のスラブ板厚ごとに層別されたテーブルに格納される。ある層に該当するコイルn本分の粗板幅誤差Bri_comp(i=1,2,・・・,n) が蓄積された段階で、この粗板幅誤差、すなわち粗板幅補正量Br_compを粗目標板幅Br_tgtの関数として式(13)に示すm次近似式で近似する。また、この粗板幅補正量Br_compの近似は、それぞれの層で、独立に実行される。
【数13】

【0036】
ただし Br_tgt :粗最終パス圧延後の目標板幅
ck :パラメータ
ここで、パラメータck は、圧延鋼種、スラブ幅、粗圧延後のスラブ板厚ごとに層別された粗幅アダプティブ量格納テーブル151に格納される。
【0037】
図7は、n=2の場合のテーブル(粗幅アダプティブ量格納テーブル)の例を示す図である。
【0038】
また、粗板幅アダプティブ量有効性定量化手段142により、アダプティブ量有効性定量化をすることで、すなわちアダプティブゲインγを決定することで、式(13)で算出した粗幅広がりアダプティブ量の最適な適用を行う。アダプティブゲインγの決定方法は、前述の仕上げ幅縮みアダプティブ量有効性定量化手段123と同様、実績誤差列の自己相関性に着目し決定する。決定されたアダプティブゲインγは、圧延鋼種、スラブ幅、粗圧延後のスラブ板厚ごとに層別された粗板幅アダプティブゲイン格納テーブル152に格納される。以上により、第2の板幅目標値補正手段140による粗最終パスにおける目標板幅の補正量B'r_compは、式(14)で計算される。
【数14】

【0039】
この算出された粗目標板幅補正量Br'_compにより、補正後の粗目標板幅2 Br_tgt_newは式(15)で表される。
【数15】

【0040】
また、この補正された粗目標板幅2 Br_tgt_newと式(11)および式(12)記載のモデル式とから、板幅圧延機セットアップ手段150により、粗各パスにおけるギャップ指令値と粗幅目標値Bri_tgt (i:パス回数)を決定する。決定には、あらかじめ定められた幅圧延機の最大圧下量および最小圧下量と粗目標板幅Br_tgtを用いる。まず、幅圧延機の最大圧下量のみを用いて、1パス目から最終パスまで圧延を行う。次に、幅圧延機の最小圧下量のみを用いて、最終パスの目標板幅Br_tgtから1パス目まで圧延をさかのぼる。
【0041】
図8に、この幅圧延機の最大圧下量を用いて圧延をした場合と最小圧下量のみを用いて圧延をさかのぼった場合の例を示す。ここで、第mパスと第(m+1)パスの間に交点Pが存在する場合、図9に示すように、第m+1パス圧下時の圧下量を修正する。この修正された圧下量が、幅圧延機225への制御指令値として出力される。
【0042】
図10は、粗目標板幅1を補正して、粗各パスの幅圧延機圧下量指令値を決定するまでの処理を説明する図である。
【0043】
ステップS10−1において、仕上げ目標板幅Bf_tgtと第1の板幅目標値補正手段120により算出された粗目標板幅1(Br_tgt)を取り込む。ステップS10−2において、現在の圧延本数を確認し、圧延本数があらかじめ設定しておいたアダプティブ量算出用圧延数であるN本に一致したならば、ステップS10−3からのアダプティブ量計算フローへと進む。ステップS10−3において、圧延カウントを初期化する。ステップS10−4において、式(13)による計算方法にしたがい粗板幅アダプティブ量Br_compを算出し、ステップS10−5において、式(8)による計算方法にしたがいアダプティブゲインγを算出する。ステップS10−6において、ステップS10−4により算出した粗板幅アダプティブ量Br_compと、ステップS10−5により算出したアダプティブゲインγから、第2の板幅目標値補正手段140における式(14)を用いて粗目標板幅補正量Br'_compを算出する。ステップS10−7で、ステップS10−1で取り込んだ粗目標板幅1にステップS10−6で算出された粗目標板幅補正量を加え、新たな粗目標板幅2を算出する。ステップS10−7において、ステップS10−7により算出された粗目標板幅2と幅圧延機セットアップ手段160により幅圧延機のギャップ指令値を算出し、計算を終了する。
【0044】
また、ステップS10−2において圧延本数がN本未満ならば、アダプティブ量計算フローへは進まず、直接ステップS10−7へ進み、ステップS10−1により取り込んだ粗目標板幅1と、アダプティブ量前回値Br_compと、アダプティブゲイン前回値γから粗目標板幅2を算出し、ステップS10−8を経て計算を終了する。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、仕上げ圧延機における板幅縮み量を推定して算出する仕上げ幅縮み推定量算出手段と、仕上げ目標板幅を仕上げ幅縮み推定量算出手段の出力を用いて補正する第1の板幅目標値補正手段を備える。また、粗出側板幅計の板幅実績を収集する粗板幅実績収集手段と、仕上げ出側板幅計の板幅実績を収集する仕上げ板幅実績収集手段と、粗出側板幅計で計測した板幅と仕上げ出側板幅計で計測した板幅との差分から幅縮み量を推定する仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段を備えており、幅圧延機と粗圧延機の圧下量や圧延ギャップ、鋼材の塑性情報等から粗圧延機出側の板幅を推定する板幅圧延モデルを用いて幅圧延機の制御指令を決定する幅圧延機セットアップ手段と、板幅圧延モデルが推定した板幅と粗出側板幅計が検出した対応する板幅の差分から板幅圧延モデルのモデル誤差を定量化する粗板幅アダプティブ量算出手段と、目標板幅を粗板幅アダプティブ量算出手段の出力を用いて補正する第2の板幅目標値補正手段を備える。
【0046】
さらに、直近の圧延された各鋼板について、粗出側板幅計で計測した板幅と仕上げ出側板幅計で計測した板幅との差分を取り込み、この差分の鋼板毎の相関を定量化する仕上げ幅縮みアダプティブ量有効性定量化手段を備え、直近の圧延された各鋼板について、粗出側板幅計で計測した板幅と板幅圧延モデルが推定した板幅との差分を取り込み、この差分の鋼板毎の相関を定量化する粗板幅アダプティブ量有効性定量化手段を備える。
【0047】
また、本実施形態によれば、事前に計算された仕上げ幅縮み推定量を、粗出側板幅計により収集された実績粗出側板幅と仕上げ出側板幅計から収集された実績仕上げ出側板幅の差分である実績幅縮み量により補正し、さらにこの補正量である仕上げ幅縮みアダプティブ量を、実績幅縮み量の有効性を定量化する定量化手段により補正する。すなわち、仕上げ幅縮み量をプリセットの段階で精度良く推定し、この推定値をアダプティブ処理によりオンラインで高精度化する。これにより、仕上げ圧延後の板幅が目標板幅となるような、最適な粗圧延後の粗目標板幅を決定することが可能となる。また、この決定された粗目標板幅を実現すべく幅圧延機の各パスでの圧下量を決定するため仕上げ圧延に依存しない板幅制御が可能となる。
【0048】
また、粗板幅指令値が適切に設定されるため、仕上げ板幅の精度を向上することができる。また、様々な鋼種および板幅の鋼板に対しても高精度な板幅が得られる。この結果、過大幅、過小幅が無くなり、製品の歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態にかかる板厚制御装置を説明する図である。
【図2】仕上げ幅縮みアダプティブ量テーブルの例を説明する図である。
【図3】仕上げ幅縮みアダプティブゲインテーブルの例を示す図である。
【図4】圧延コイル数とモデル誤差の関係の例を示す図である。
【図5】幅縮み補正前後の板幅とモデル誤差の関係を示す図である。
【図6】第1の板幅目標値補正手段による仕上げ板幅補正量の算出までの処理を説明する図である。
【図7】粗幅アダプティブ量格納テーブルの例を示す図である。
【図8】粗幅圧延機の各パスでの目標板幅の決定方法を説明する図である。
【図9】粗幅圧延機の各パスでの目標板幅の補正方法を説明する図である。
【図10】粗目標板幅1を補正して、粗各パスの幅圧延機圧下量指令値を決定するまでの処理を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
100 板幅制御装置
110 製造指令
120 第1の板幅目標値補正手段
121 仕上げ幅縮み推定量算出手段
122 仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段
123 仕上げ幅縮みアダプティブ量有効性定量化手段
131 仕上げ幅縮みアダプティブ量格納テーブル
132 仕上げ幅縮みアダプティブゲイン格納テーブル
140 第2の板幅目標値補正手段
141 粗板幅アダプティブ量算出手段
142 粗板幅アダプティブ量有効性定量化手段
150 板幅圧延モデル
151 粗板幅アダプティブ量格納テーブル
152 粗板幅アダプティブゲイン格納テーブル
160 幅圧延機セットアップ手段
170 粗板幅実績収集手段
180 仕上げ板幅実績収集手段
200 制御対象
210 スラブ抽出部
215 加熱炉
220 幅圧延部
205 スラブ
225 幅圧延機
235 粗圧延機
240 仕上げ圧延部
245 仕上げ圧延機(ステッケルミル)
250 コイル巻き取り部
255 ダウンコイラ
261 粗出側板幅計
262 仕上げ出側板幅計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された鋼材を幅方向に圧延する幅圧延機と、
前記幅圧延機に隣接し幅圧延機で圧延された前記鋼材を板厚方向に圧延する粗圧延機と、 前記幅圧延機および粗圧延機で圧延された鋼材をさらに板厚方向に圧延して熱延コイルを生産する仕上げ圧延機を備え、
前記熱延コイルの板幅を製造指令で与えられた目標板幅に制御する熱間圧延機の板幅制御装置において、
前記仕上げ圧延機における板幅縮み量を推定して算出する仕上げ幅縮み推定量算出手段と、
前記目標板幅を前記仕上げ幅縮み量算出手段の出力を用いて補正する第1の板幅目標値補正手段を備え、該補正手段により補正された目標板幅をもとに算出した制御指令を前記幅圧延機に出力することを特徴とする熱間圧延機の板幅制御装置。
【請求項2】
加熱された鋼材を幅方向に圧延する幅圧延機と、
前記幅圧延機に隣接し幅圧延機で圧延された前記鋼材を板厚方向に圧延する粗圧延機と、 前記幅圧延機および粗圧延機で圧延された鋼材をさらに板厚方向に圧延して熱延コイルを生産する仕上げ圧延機と、
前記粗圧延機の出側に備えた粗出側板幅計と、前記仕上げ圧延機の出側に備えた仕上げ出側板幅計と、粗出側板幅計の板幅実績を収集する粗板幅実績収集手段と、前記仕上げ出側板幅計の板幅実績を収集する仕上げ板幅実績収集手段を備え、
前記熱延コイルの板幅を製造指令で与えられた目標板幅に制御する熱間圧延機の板幅制御装置において、
前記粗出側板幅計で計測した板幅と前記仕上げ出側板幅計で計測した板幅との差分から幅縮み量を推定する仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段を備え、前記第1の板幅目標値補正手段は、前記目標板幅を前記仕上げ幅縮み推定量算出手段と前記仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段の出力を用いて補正することを特徴とする熱間圧延機の幅制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の熱間圧延機の幅制御装置において、
前記幅圧延機と前記粗圧延機の、圧下量、圧延ギャップ、および鋼材の塑性情報から粗圧延機出側の板幅を推定する板幅圧延モデルと、該板幅圧延モデルを用いて前記幅圧延機の制御指令を決定する幅圧延機セットアップ手段を備え、
前記板幅圧延モデルが推定した板幅と前記粗出側板幅計が検出した板幅の差分から板幅圧延モデルのモデル誤差を定量化する粗板幅アダプティブ量算出手段と、前記第1の板幅目標値補正手段により補正された目標板幅を、粗板幅アダプティブ量算出手段の出力を用いてさらに補正する第2の板幅目標値補正手段を備え、補正された目標板幅をもとに算出した制御指令を前記幅圧延機へ出力することを特徴とする熱間圧延機の板幅制御装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の熱間圧延機の板幅制御装置において、
直近の圧延された複数の鋼板について、前記粗出側板幅計で計測した板幅と前記仕上げ出側板幅計で計測した板幅との差分を取り込み、この差分の鋼板毎の相関を定量化する仕上げ幅縮みアダプティブ量有効性定量化手段を備え、前記第1の板幅目標値補正手段は、前記相関が大きいときには前記仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段の出力にしたがって幅縮み量を推定し、前記相関が小さいときには前記仕上げ幅縮み推定量算出手段の出力にしたがって幅縮み量を推定し、前記相関の大きさにしたがって前記仕上げ幅縮みアダプティブ量算出手段の出力と前記仕上げ幅縮み推定量算出手段の出力の比率を変更して幅縮み量を推定することを特徴とする熱間圧延機の板幅制御装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の熱間圧延機の板幅制御装置において、
直近の圧延された複数の鋼板について、前記粗出側板幅計で計測した板幅と前記板幅圧延モデルが推定した板幅との差分を取り込み、この差分の鋼板毎の相関を定量化する粗板幅アダプティブ量有効性定量化手段を備え、前記第2の板幅目標値補正手段は、前記相関の大きさにより前記粗板幅アダプティブ量算出手段の出力で前記目標板幅を補正するときの補正ゲインを決定することを特徴とする熱間圧延機の板幅制御装置。
【請求項6】
加熱された鋼材を幅方向に圧延するとともに板厚方向に圧延し粗材を生産した後、さらに板厚方向に圧延し、最終的に目標板幅の熱延コイルを生産する熱間圧延機の幅制御方法において、
計測した前記粗材の板幅と前記熱延コイルの板幅との差分から幅縮み推定量を算出し、前記目標板幅を前記幅縮み推定量で補正して幅方向に圧延する際の板幅目標値を算出することを特徴とする熱間圧延機の板幅制御方法。
【請求項7】
請求項6記載の熱間圧延機の板幅制御方法において、
加熱された鋼材を幅方向に圧延する幅圧延機、幅圧延機で圧延された鋼材を板厚方向に圧延する粗圧延機、粗圧延機で圧延された鋼材をさらに板厚方向に圧延して熱延コイルを生産する仕上げ圧延機、および粗圧延機出側の板幅を推定する板幅圧延モデルを備え、
該板幅圧延モデルが推定した板幅と計測した前記粗材の板幅の差分から板幅圧延モデルのモデル誤差を定量化し、前記目標板幅を前記幅縮み推定量と前記モデル誤差の値を用いて補正して幅方向に圧延する際の板幅目標値を算出することを特徴とする熱間圧延機の板幅制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−279639(P2009−279639A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136712(P2008−136712)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】