説明

熱間圧延鋼帯の製造方法と仕上圧延機

【課題】シートバーがハイテンのように高強度鋼の場合や僅かな材質ムラにより圧延荷重が大きく変動する場合でも仕上圧延機内での蛇行量を小さく抑えながら熱間圧延鋼帯を製造することのできる熱間圧延鋼帯の製造方法と仕上圧延機を提供する。
【解決手段】粗圧延されたシートバー2を仕上圧延機3により仕上圧延して熱間圧延鋼帯1を製造するに際して、仕上圧延機3の複数の圧延スタンド4A〜4Gのうちワークロール5がクロスした圧延スタンドとして、ワークロール周面部が超硬合金で形成された圧延スタンド4Gを用いて熱間圧延鋼帯1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延鋼帯の製造方法と熱間圧延鋼帯を製造する際に用いられる仕上圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱間圧延鋼帯は千数百度程度に加熱された鋼スラブ(鋼材)を熱間圧延ラインの粗圧延機で厚さが20〜50mm程度のシートバーに粗圧延した後、六台〜七台程度の連続した圧延スタンドからなる仕上圧延機でシートバーを薄く圧延して帯鋼に仕上げることにより製造される。
このような熱間圧延鋼帯に求められる品質としては、長手方向と幅方向の板厚精度(幅方向の板厚分布を板クラウンと呼ぶ)、平坦度(形状ともいう)、表面品質などがあり、板クラウンや平坦度を良好に保つためには、仕上圧延での圧延荷重によるロール撓みや圧延の進行に伴うロール磨耗を考慮しながら圧延することが重要である。
【0003】
ロール撓みの影響を低減するための手法としては、仕上圧延機後段スタンドのワークロールをクロスさせてシートバーを熱間圧延する方法が知られている。また、ロール撓みやロール磨耗を根本的に改善する手法としては、ワークロールの周面部をタングステンカーバイト等の超硬合金で形成する手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−321804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ワークロールをクロスさせると、シートバーを幅方向に押し出そうとする力がシートバーの表裏面に作用する。この場合、シートバーの表面に作用する力とシートバーの裏面に作用する力が拮抗していればシートバーは蛇行することなく直進するが、シートバーの表面に作用する力とシートバーの裏面に作用する力との間に差異を生じさせる数多くの要素が仕上圧延機の圧延スタンド内に存在する。シートバーの表面に作用する力とシートバーの裏面に作用する力との間に差異を生じさせる要素としては、例えば、ルーバーによるパスラインの押し上げに伴うシートバー進入角度の発生、シートバーの表面側スケール状態と裏面側スケール状態との差による摩擦係数の相違、圧延油の供給によるシートバー表裏面での潤滑状態の相違などが挙げられる。このため、僅かな材質ムラ(例えばワークロールのオペレータサイドとドライブサイドとの間の硬度差など)により圧延荷重の大きな変動が生じると、シートバーの表裏面に対する接触状態の差がワークロール間に生じることによって、シートバーを蛇行させずに圧延することが困難になるという問題があった。
【0005】
また、シートバーがハイテン(高張力鋼)のように高強度鋼の場合は、圧延荷重が大きくなるため、圧延荷重による撓みや磨耗が大きくなる。ロールの撓みが大きくなると、それを補償するため、クロス角を大きくする必要があるが、その場合、材質ムラなど幅方向での荷重差があった場合、仕上圧延機内での蛇行量が大きくなるという問題があった。
さらに、ワークロールをクロスさせると、クロスしていない場合と比べてワークロール間のギャップがロール端部に近いほど大きいため、シートバーの蛇行を抑えることが難しくなる。特に、ワークロールのみがクロスしている場合は、ワークロールがバックアップロールと共にクロスしている場合と比較してロール端部でのバックアップロールによるサポートが小さいため、シートバーの蛇行を抑えることがより難しくなる。
【0006】
本発明は上述した点に鑑みてなされたものであり、シートバーがハイテンのように高強度鋼の場合や僅かな材質ムラにより圧延荷重が大きく変動する場合でも仕上圧延機内でのシートバーの蛇行量を小さく抑えながら熱間圧延鋼帯を製造することのできる熱間圧延鋼帯の製造方法と仕上圧延機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る熱間圧延鋼帯の製造方法は、粗圧延されたシートバーを、複数の圧延スタンドを有する仕上圧延機により仕上圧延して熱間圧延鋼帯を製造するに際して、前記複数の圧延スタンドのうちワークロールがクロスした圧延スタンドとして、ワークロール周面部が超硬合金で形成された圧延スタンドを用いて前記熱間圧延鋼帯を製造することを特徴とする。
請求項2記載の発明に係る熱間圧延鋼帯の製造方法は、請求項1記載の熱間圧延鋼帯の製造方法であって、前記ワークロール周面部が超硬合金で形成され、かつ前記ワークロールのクロス角が0.3度以上1度以下の圧延スタンドを用いて前記熱間圧延鋼帯を製造することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明に係る仕上圧延機は、熱間圧延鋼帯を製造する際に用いられる仕上圧延機であって、複数の圧延スタンドのうち少なくとも1つの圧延スタンドのワークロールが互いにクロスし、かつ前記ワークロールの周面部が超硬合金で形成されていることを特徴とする。
請求項4記載の発明に係る仕上圧延機は、請求項3記載の仕上圧延機において、前記複数の圧延スタンドのうち少なくとも1つの圧延スタンドのワークロールが0.3度以上1度以下のクロス角で互いにクロスし、かつ前記ワークロールの周面部が超硬合金で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1、3記載の発明によれば、仕上圧延機の複数の圧延スタンドのうちワークロールがクロスした圧延スタンドとして、ワークロール周面部が超硬合金で形成された圧延スタンドを用いることで、ワークロールのヤング率が鋼製ワークロールに比べて大きくなる。これにより、圧延荷重によるロール撓みが小さく抑えられるため、シートバーがハイテンのように高強度鋼の場合でも仕上圧延機内でのシートバーの蛇行量を小さく抑えながら熱間圧延鋼帯を製造することができる。
【0010】
また、ロール撓みが小さく抑えられることによって、シートバーの表裏面に対する接触状態の差がワークロール間に生じ難くなるため、僅かな材質ムラにより圧延荷重が大きく変動する場合でも仕上圧延機内でのシートバーの蛇行量を小さく抑えながら熱間圧延鋼帯を製造することができる。
請求項2、4記載の発明によれば、ワークロールが鋼製のものと比べてシートバーの蛇行量を小さく抑えることができるとともに、ワークロールのクロス角が0.1度未満のものと比べてクラウンや平坦度の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1〜図3および表1を参照して本発明に係る熱間圧延鋼帯の製造方法と同方法に用いられる仕上圧延機について説明する。
図1は本発明に係る熱間圧延鋼帯の製造方法を説明するための図であり、同図に示されるように、熱間圧延鋼帯1は図示しない粗圧延機で粗圧延されたシートバー2を仕上圧延機3により仕上圧延することで製造される。ここで、仕上圧延機3は例えば4段の圧延スタンド4A〜4Gをパスラインに沿って配置して構成され、各圧延スタンド4A〜4Gは上下一対のワークロール5,5と、これらのワークロール5をバックアップする上下一対のバックアップロール6,6とを備えて構成されている。
【0012】
圧延スタンド4A〜4Gのうち粗圧延機から最も離れた位置に配置された圧延スタンド(最終スタンド)4Gのワークロール5は互いにクロスしており、最終スタンド4Gのバックアップロール6もワークロール5と同様に互いにクロスしている。
ワークロール5のクロス角は、0.3度以上1度以下、好ましくは0.3度以上0.5度以下となっている。ここで、ワークロール5のクロス角を0.3度以上1度以下とした理由は、クロス角が0.3度未満になると板クラウンや平坦度の精度が低下し、1度を超えると蛇行しやすくなるためである。
【0013】
圧延スタンド4Gのワークロール5の一例を図2に示す。同図に示されるように、圧延スタンド4Gのワークロール5は例えばCr含有量が5質量%のCr鋼を鍛造して形成された鋼製軸部材7と、この鋼製軸部材7の胴部(圧延部相当域)に焼嵌めされた超硬合金接合スリーブ8と、この超硬合金接合スリーブ8の両端に固定された二つの鋼製側端リング9,9とから構成されている。
【0014】
超硬合金接合スリーブ8は、6個のスリーブ部材11をロール軸方向に接合した後、例えば外径650mm、バレル長2050mmに機械加工して形成されている。この超硬合金接合スリーブ8のスリーブ部材11は、例えばタングステンカーバイト(WC)に20質量%のCoを添加した粉末をCIP法(冷間等方加圧法)によりラバー成形して形成されている。
【0015】
スリーブ部材11の接合方法は特に限定されないが、例えば接合温度:1260℃、接合雰囲気:10気圧の条件でスリーブ部材11をHIP法(熱間等方加圧法)により接合する方法などを用いることができる。なお、スリーブ部材11をCIP法によりラバー成形して形成する場合は、スリーブ部材11の素材に適量のNiを添加すると、耐摩耗性が向上するので好ましい。
【0016】
上述のように、粗圧延されたシートバー2を仕上圧延機3により仕上圧延して熱間圧延鋼帯1を製造するに際して、仕上圧延機3の圧延スタンド4A〜4Gのうち上下のワークロール5がクロスした圧延スタンドとして、ワークロール周面部が超硬合金で形成された圧延スタンドを用いると、ワークロール5のヤング率が鋼製ワークロールに比べて大きくなる。これにより、圧延荷重によるロール撓みが小さく抑えられるため、鋼製ワークロールに比べてロールバイトの接触長やクロス角も小さくて済むため、シートバー2の蛇行量をより小さく抑えることができる。
また、ロール撓みが小さく抑えられることによって、シートバー2の表裏面に対する接触状態の差がワークロール間に生じ難くなるため、僅かな材質ムラにより圧延荷重が大きく変動する場合でも仕上圧延機3内でのシートバー2の蛇行量を小さく抑えながら熱間圧延鋼帯1を製造することができる。
【実施例】
【0017】
仕上圧延機3により仕上圧延されるシートバー2として590MPa級ハイテンを用い、ワークロール直径:650mm、バックアップロール直径:1600mm、1コイル当りの重量:24トンの条件でシートバー2を2.4mmの仕上げ厚さまで圧延したときの最終圧延スタンドでの圧延速度、蛇行量、クラウン、平坦度を測定した結果をロール材質、クロス角と共に表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1において、実施例1〜3は仕上圧延機の最終スタンドとして、上下のワークロールが互いにクロスし且つワークロール周面部が超硬合金で形成された圧延スタンドを用いた場合を示し、従来例1は仕上圧延機の最終スタンドとして、上下のワークロールが互いにクロスしていないワークロール周面部を超硬合金で形成した圧延スタンドを用いた場合を示している。また、従来例2および従来例3は仕上圧延機の最終スタンドとして、上下のワークロールが互いにクロスし且つワークロール材質が鋼製の圧延スタンドを用いた場合を示している。
【0020】
表1に示す従来例2及び3と本発明の実施例1〜3とを比較すると、従来例2及び3はクラウンが8μm以上、平坦度が0.6%以上であったのに対し、本発明の実施例1及び2はクラウンが5μm以下、平坦度が0.5%以下であった。
したがって、表1に示す実施例1〜3のように、仕上圧延機の圧延スタンドとして、上下のワークロールが互いにクロスし且つワークロール周面部が超硬合金で形成された圧延スタンドを用いると、上下のワークロールが互いにクロスし且つワークロール材質が鋼製のもの(従来例2、3)と比較して、シートバーがハイテンのように高強度鋼の場合や僅かな材質ムラにより圧延荷重が大きく変動する場合でも仕上圧延機内でのシートバーの蛇行量を小さく抑えながら安定した品質の熱間圧延鋼帯を製造することができる。
【0021】
表1に示す実施例1〜3と従来例1とを比較すると、実施例1〜3はクラウンが5μm、平坦度が0.5%であったのに対し、従来例1はクラウンが6μm、平坦度が0.55%であった。これは、実施例1〜3は超硬合金製ワークロールが互いにクロスしているのに対し、従来例1は超硬合金製ワークロールが互いにクロスしていないか又はクロス角が0.1未満となっているためである。
【0022】
次に表1に示す実施例1と実施例2及び3とを比較すると、実施例2、3はシートバーの蛇行量が実施例1よりも小さかった。これは、実施例2、3は超硬合金製ワークロールのクロス角が0.3〜0.5°であるのに対し、実施例1は超硬合金製ワークロールのクロス角が0.9°となっているためである。
したがって、表1に示す実施例2、3のように、仕上圧延機圧延スタンドとして、ワークロール周面部が超硬合金で形成され、かつワークロールのクロス角が0.3度以上0.5度以下の圧延スタンドを用いると、クラウンや平坦度の精度を高めることができる。
【0023】
なお、本発明に係る熱間圧延鋼帯の製造方法に用いられる仕上圧延機の圧延スタンドとして、図1では4段の圧延スタンドを示したが、圧延スタンドの段数やスタンド数は特に限定されるものではない。
また、ワークロールがクロスした圧延スタンドとして、図1では仕上圧延機3の最終スタンド4Gを示したが、必ずしも最終スタンド4Gのワークロール5のみがクロスしている必要はなく、たとえば、全ての圧延スタンドのワークロールがクロスしていてもよい。
【0024】
さらに、ロール周面部が超硬合金で形成されたワークロールとして、図2では鋼製軸部材7と、鋼製軸部材7の胴部に焼嵌めされた超硬合金接合スリーブ8と、超硬合金接合スリーブ8の両端に固定された二つの鋼製側端リング9とからなるものを示したが、これに限られるものではない。たとえば、ロール周面部が超硬合金で形成されたワークロールとして、図3に示すように、鋼製軸部材7と、鋼製軸部材7の外周面に鋼製緩衝材10を介して焼嵌めされた超硬合金接合スリーブ8と、超硬合金接合スリーブ8の両端に固定された二つの鋼製側端リング9とからなるワークロール5を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る熱間圧延鋼帯の製造方法を説明するための図である。
【図2】ロール周面部が超硬合金で形成されたワークロールの一例を示す図である。
【図3】ロール周面部が超硬合金で形成されたワークロールの他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 熱間圧延鋼帯
2 シートバー
3 仕上圧延機
4A〜4G 圧延スタンド
5 ワークロール
6 バックアップロール
7 鋼製軸部材
8 超硬合金接合スリーブ
9 鋼製側端リング
10 鋼製緩衝部材
11 スリーブ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗圧延されたシートバーを、複数の圧延スタンドを有する仕上圧延機により仕上圧延して熱間圧延鋼帯を製造するに際して、前記複数の圧延スタンドのうち上下のワークロールがクロスした圧延スタンドとして、ワークロール周面部が超硬合金で形成された圧延スタンドを用いて前記熱間圧延鋼帯を製造することを特徴とする熱間圧延鋼帯の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱間圧延鋼帯の製造方法であって、前記ワークロール周面部が超硬合金で形成され、かつ前記ワークロールのクロス角が0.3度以上1度以下の圧延スタンドを用いて前記熱間圧延鋼帯を製造することを特徴とする熱間圧延鋼帯の製造方法。
【請求項3】
熱間圧延鋼帯を製造する際に用いられる仕上圧延機であって、複数の圧延スタンドのうち少なくとも1つの圧延スタンドのワークロールが互いにクロスし、かつ前記ワークロールの周面部が超硬合金で形成されていることを特徴とする仕上圧延機。
【請求項4】
請求項3記載の仕上圧延機において、前記複数の圧延スタンドのうち少なくとも1つの圧延スタンドのワークロールが0.3度以上1度以下のクロス角で互いにクロスし、かつ前記ワークロールの周面部が超硬合金で形成されていることを特徴とする仕上圧延機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−214161(P2009−214161A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62607(P2008−62607)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】