説明

熱間鍛造方法及び離型剤塗布装置

【課題】熱間鍛造部品の寸法精度の向上及び安定化を促進する。
【解決手段】材料の温度を一つ一つ計測し、材料の温度が目標温度範囲を上回っている場合には、標準濃度よりも薄い離型剤を金型インプレッションに塗布する(120)。これによって、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を増大させる。一方、材料の温度が目標温度範囲を下回っている場合には、標準濃度よりも濃い離型剤を金型インプレッションに塗布する(130)。これによって、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を減少させる。材料の温度が目標温度範囲に収まっている場合には、標準濃度の離型剤を塗布することで(140)、熱間鍛造時における必要な材料流れを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造方法及び離型剤塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、様々な製品分野において金属部品の軽量化が求められており、なおかつ、近年の鉄鋼材料高騰の影響等も受けて、熱間鍛造部品においても歩留まりの向上を図るべく、寸法精度の要求が、より高まっている。
そこで、熱間鍛造用金型の表面温度をコントロールすることで、部品精度を高めるための試みが種々なされており、例えば、金型の場所毎に離型剤の塗布量を変えることで、金型の表面温度を適切に調整する手法等が挙げられる(例えば、特許文献1から3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−85587号公報
【特許文献2】特開平6−31425号公報
【特許文献1】特開平4−294837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
又、熱間鍛造部品のショット毎の寸法の安定化を図る上で、材料の加熱温度を可能な限り安定させる試みもなされているが、多数の材料を加熱炉に投入して一括加熱するような場合、各材料の温度のばらつき幅は加熱炉の構造やヒータ精度に依存するところが多く、要求する温度範囲に収めることは容易ではなかった。そして、加熱温度のばらつきは、金型インプレッションにおける材料の変形抵抗を増減させることとなる。図6には、熱間鍛造部品の一例として、レシプロエンジンのコンロッドを熱間鍛造する際の様子が一部断面で示されているが、例えば、材料温度が低い時には、図6に矢印で中模式的に示された材料Wの変形抵抗が増大し、型間距離Hが増加して、寸法が増大傾向となってしまう。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱間鍛造部品の寸法精度の向上及び安定化をより促進するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のアルミシリンダブロックの製造方法は、鍛造前の金型インプレッションへの離型剤の塗布に際して、加熱された材料の温度を計測し、材料の温度に応じて、濃度の異なる離型剤を塗布し、鍛造を行うものである。
そして、鍛造時の変形抵抗を離型剤の濃度によって調整することにより、材料温度の如何に係わらず、金型インプレッションにおける材料の流れを適正化するものである。
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)鍛造前の金型インプレッションへの離型剤の塗布に際して、加熱された材料の温度を計測し、材料の温度が、目標温度範囲を上回っている場合には標準濃度よりも薄い離型剤を塗布し、目標温度範囲に収まっている場合には標準濃度の離型剤を塗布し、鍛造を行う熱間鍛造方法。
本項に記載の熱間鍛造方法は、材料の温度が目標温度範囲を上回っている場合には、鍛造時に、材料の変形抵抗が標準温度(熱間鍛造に最も適した温度)の材料よりも小さくなることから、標準濃度(標準温度の材料の熱間鍛造に最も適した濃度)よりも薄い離型剤を金型インプレッションに塗布する。これによって、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を増大させ、材料の温度が目標温度範囲を上回っている場合であっても、材料の温度が目標範囲に収まっている状態と同様の材料流れを、熱間鍛造時に実現する。なお、材料の温度が目標温度範囲に収まっている場合には標準濃度の離型剤を塗布することで、熱間鍛造時における必要な材料流れを実現する。
【0007】
(2)鍛造前の金型インプレッションへの離型剤の塗布に際して、加熱された材料の温度を計測し、材料の温度が、目標温度範囲を下回っている場合には標準濃度よりも濃い離型剤を塗布し、目標温度範囲に収まっている場合には標準濃度の離型剤を塗布し、鍛造を行う熱間鍛造方法。
本項に記載の熱間鍛造方法は、材料の温度が目標温度範囲を下回っている場合には、鍛造時に、材料の変形抵抗が標準温度の材料よりも大きくなることから、標準濃度よりも濃い離型剤を金型インプレッションに塗布する。これによって、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を減少させ、材料の温度が目標温度範囲を下回っている場合であっても、材料の温度が目標範囲に収まっている状態と同様の材料流れを、熱間鍛造時に実現する。なお、材料の温度が目標温度範囲に収まっている場合には標準濃度の離型剤を塗布することで、熱間鍛造時における必要な材料流れを実現する。
【0008】
(3)鍛造前の金型インプレッションへの離型剤の塗布に際して、加熱された材料の温度を計測し、材料の温度が、目標温度範囲を上回っている場合には標準濃度よりも薄い離型剤を塗布し、目標温度範囲を下回っている場合には標準濃度よりも濃い離型剤を塗布し、目標温度範囲に収まっている場合には標準濃度の離型剤を塗布し、鍛造を行う熱間鍛造方法(請求項1)。
このように、材料温度に応じて、鍛造時の変形抵抗を離型剤の濃度により調整することで、材料温度の如何に係わらず、金型インプレッションにおける材料の流れを適正化するものである。そして、各材料の温度のばらつき幅を小さくすることなしに、熱間鍛造部品の寸法精度の向上及び安定化を図るものである。
【0009】
(4)上記(1)項において用いられる、標準濃度よりも薄い離型剤には、水が含まれる熱間鍛造方法。
本項に記載の熱間鍛造方法は、標準濃度よりも薄い離型剤には、離型剤の混合比率が0%の単なる水を用いる場合もある。この場合には、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を減少させる効果は少ないか若しくは無いが、水が蒸発することによる金型の冷却効果が得られることから、金型温度の制御は可能である。
【0010】
(5)濃淡二種類の濃度の離型剤に係る二系統の供給回路と、該二系統の供給回路の一方乃至双方から離型剤の供給を受けて、金型インプレッションへと離型剤を噴射する噴射ノズルと、前記噴射ノズルに対する前記二系統の供給回路からの離型剤の供給量を制御する制御手段と、加熱された材料の温度の計測手段とを備え、前記制御手段は、前記計測手段により得られる材料温度が、目標温度範囲を上回っている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を主に濃度の薄い離型剤の供給回路から行い、目標温度範囲を下回っている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を主に濃度の濃い離型剤の供給回路から行い、目標温度範囲に収まっている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を前記二系統の供給回路から均等に行う制御ロジックを備える離型剤塗布装置(請求項2)。
【0011】
本項に記載の離型剤塗布装置は、計測手段により計測された材料の温度が目標温度範囲を上回っている場合には、材料の変形抵抗が、標準温度の材料よりも小さくなることから、鍛造時に、制御手段が備える制御ロジックにより、噴射ノズルに対する離型剤の供給を主に濃度の薄い離型剤の供給回路から行うことで、標準濃度よりも薄い離型剤を金型インプレッションに塗布する。一方、計測手段により計測された材料の温度が目標温度範囲を下回っている場合には、材料の変形抵抗が、標準温度の材料よりも大きくなることから、鍛造時に、制御手段が備える制御ロジックにより、噴射ノズルに対する離型剤の供給を主に濃度の濃い離型剤の供給回路から行うことで、標準濃度よりも濃い離型剤を金型インプレッションに塗布する。
なお、計測手段により計測された材料の温度が目標温度範囲に収まっている場合には、鍛造時に、制御手段が備える制御ロジックにより、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を二系統の供給回路から均等に行うことで、標準濃度の離型剤を金型インプレッションに塗布する。このように、材料温度に応じて、鍛造時の変形抵抗を離型剤の濃度により調整することで、材料温度の如何に係わらず、金型インプレッションにおける材料の流れを適正化するものである。そして、各材料の温度のばらつき幅を小さくすることなしに、熱間鍛造部品の寸法精度の向上及び安定化を図るものである。
【0012】
(6)上記(5)項において、前記制御手段は、前記計測手段により得られる材料温度が、目標温度範囲を上回っている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を濃度の薄い離型剤の供給回路からのみ行い、目標温度範囲を下回っている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を濃度の濃い離型剤の供給回路からのみ行い、目標温度範囲に収まっている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を前記二系統の供給回路から均等に行う制御ロジックを備える離型剤塗布装置。
本項に記載の離型剤塗布装置によれば、制御ロジックの構成が単純化されるものとなる。
【0013】
(7)上記(5)、(6)項において、前記噴射ノズルは、塗布範囲が重複する二個の噴射ノズルが一組となって構成され、前記二個の噴射ノズルの一方に濃度の薄い離型剤の供給回路が接続され、他方に濃度の濃い離型剤の供給回路が接続されている離型剤塗布装置(請求項3)。
本項に記載の離型剤塗布装置において、塗布範囲が重複する二個の噴射ノズルの一方からは、塗布範囲に向けて濃度の薄い離型剤が噴射され、他方の噴射ノズルからは、同一の塗布範囲に向けて濃度の濃い離型剤が塗布される。そして、二個の噴射ノズルからの噴射量の比率に応じ、塗布範囲に塗布される離型剤の濃度が調整されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明はこのように構成したので、熱間鍛造部品の寸法精度の向上及び安定化をより促進することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る熱間鍛造方法は、図1(a)に示されるように、材料の加熱工程(i)、鍛造工程(ii)、冷却工程(iii)、スケール除去工程(iv)、検査工程(v)が含まれるものである。材料の加熱工程(i)では、従来と同様に、複数の材料を加熱炉に投入して一括加熱する。
【0016】
又、本発明の実施の形態では、材料の加熱工程(i)において、図1(b)に示されるステップ(100)〜(140)を実行する。具体的には、加熱された材料の温度を一つ一つ計測し(100)、材料の温度の計測結果に基づき、濃度の異なる潤滑剤を選択して塗布する(110)。まず、材料温度が高い、すなわち材料温度が目標温度範囲を上回っている場合には、標準濃度よりも薄い離型剤のみ塗布する(120)。又、材料温度が低い、すなわち目標温度範囲を下回っている場合には、標準濃度よりも濃い離型剤のみ塗布する(130)。そして、中間温度、すなわち目標温度範囲に収まっている場合には、濃淡両方の潤滑剤を混合することで、標準濃度の離型剤を塗布する(140)。
なお、鍛造工程(ii)、冷却工程(iii)、スケール除去工程(iv)、検査工程(v)については、従来の熱間鍛造方法と同様であることから、詳しい説明を省略する。
【0017】
又、図3から図5には、本発明の実施の形態に係る熱間鍛造方法を実施するための、離型剤塗布装置10が示されている。
この離型剤塗布装置10は、濃淡二種類の濃度の離型剤に係る二系統の供給回路12(12A、12B)と、二系統の供給回路12A、12Bの一方乃至双方から離型剤の供給を受けて、金型14(上型14a、下型14bの)インプレッションへと離型剤を噴射する噴射ノズル16と、噴射ノズル16に対する二系統の供給回路12A、12Bからの離型剤の供給量を制御する制御手段18と、加熱された材料の温度の計測手段20とを備えている。
【0018】
図示の例では、供給回路12Aは濃度の濃い潤滑剤の供給に係る供給回路であり、供給回路12Bは濃度の薄い潤滑剤の供給に係る供給回路である。そして、各供給回路に、潤滑剤が溜められた供給タンク22A、22B、潤滑剤から不純物を除去するフィルター24A、24B、ノズル16へと潤滑剤を送るためのポンプ26A、26B、レギュレーター28A、28B、潤滑剤の脈動を防止するためのイコライザー30A、30Bが設けられている。又、供給回路12A、12Bには、エアータンク32から、噴射ノズル16における潤滑剤の噴霧状態を制御する制御用エアーを供給するための、エアー回路が設けられている。そして、夫々のエアー回路に、レギュレーター34A、34B、開き時間でエアー流量を制御する電磁弁36A、36Bが設けられている。
なお、図示の例では、噴射ノズル16に対する離型剤の供給を二系統の供給回路12A、12Bから均等に行う際に用いられるミックスエアー回路12Cが設けられており、このミックスエアー回路12Cにも、レギュレーター34C、電磁弁36Cが設けられている。又、エアータンク32は、供給回路12A、12B、12Cで共通化されている。
【0019】
噴射ノズル16は、図4、図5に拡大して示されるように、つぶし工程、荒地鍛造工程、仕上げ鍛造工程等、複数の工程に係る金型14の複数のインプレッション毎に設けられていることが望ましい。図示の例では、塗布範囲が重複する二個の噴射ノズル16A、16Bが一組となって構成され、なおかつ、上型14a及び下型14bの各インプレッション毎に上下に配置されている。
図示の例では、一方の噴射ノズル16Aに濃度の薄い離型剤の供給回路12Aが接続され、濃度の濃い潤滑液が噴射されるノズルとなっている。又、他方の噴射ノズル16Bに濃度の薄い離型剤の供給回路12Bが接続され、濃度の薄い潤滑液が噴射されるノズルとなっている。各噴射ノズル16A、16Bは、アーム38に固定されており、アーム38の内部には、各噴射ノズル16Aに濃度の濃い潤滑液を供給する潤滑液配管40A及びエアー配管42Aと、各噴射ノズル16Bに濃度の薄い潤滑液を供給する潤滑液配管40B及びエアー配管42Bとが形成されている。又、アーム38は、例えばロボット等によって姿勢制御されるものであり、その基端部38aに、図3に示される供給回路12A、12B、12Cが、各々接続されている(丸付き数字1〜5参照)。
【0020】
制御手段18は、電子計算機等の情報処理手段によって構成されるものであり、電磁弁36A、36B、36Cを制御することで、図1(b)に示される制御フローを実行する制御ロジック18aを備えている。なお、制御ロジック18aは、図1(b)の制御フローに限定されること無く、二系統の供給回路12A、12Bの双方から、常に離型剤の供給を行うこととしても良い。すなわち、材料温度が、目標温度範囲を上回っている場合には、噴射ノズル16に対する離型剤の供給を主に濃度の薄い離型剤の供給回路12Bから行い(供給回路12Bからの供給比率を高め)、目標温度範囲を下回っている場合には、噴射ノズル16に対する離型剤の供給を主に濃度の濃い離型剤の供給回路12Aから行い(供給回路12Aからの供給比率を高め)、目標温度範囲に収まっている場合には、噴射ノズル16に対する離型剤の供給を二系統の供給回路12A、12Bから均等に行うことも可能である。
なお、計測手段20は、材料の加熱温度が1200℃を超える高温となることから、放射温度計等の非接触型の温度計が用いられる。
【0021】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。
すなわち、図1(a)に示される材料の加熱工程(i)において、従来と同様に多数の材料を加熱炉に投入して一括加熱する場合には、加熱炉の稼動から間もないコイルを流れる電流が安定しない時点や、加熱炉の連続使用によりコイルに酸化皮膜が形成された状態等、加熱炉の運転条件や材料の状態如何により、加熱温度が目標温度範囲から外れる場合がある。例えば、熱間鍛造に適した温度として、1260℃を目標温度とした場合であっても1230℃から1290℃の間で60℃の温度範囲のばらつきが生じることがあり、材料の変形抵抗もばらつくことになる。
【0022】
そこで、本発明の実施の形態では、計測手段20により加熱された材料の温度を一つ一つ計測し、材料の温度が目標温度範囲を上回っている場合には、制御手段18は制御ロジック18aに基づき、標準濃度よりも薄い離型剤を金型インプレッションに塗布する(120)。これによって、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を増大させ、材料の温度が目標温度範囲を上回っている場合であっても、材料の温度が目標範囲に収まっている状態と同様の材料流れを、熱間鍛造時に実現する。
一方、材料の温度が目標温度範囲を下回っている場合には、制御手段18は制御ロジック18aに基づき、標準濃度よりも濃い離型剤を金型インプレッションに塗布する(130)。これによって、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を減少させ、材料の温度が目標温度範囲を下回っている場合であっても、材料の温度が目標範囲に収まっている状態と同様の材料流れを、熱間鍛造時に実現する。
なお、材料の温度が目標温度範囲に収まっている場合には、制御手段18は制御ロジック18aに基づき、標準濃度の離型剤を塗布することで(140)、熱間鍛造時における必要な材料流れを実現する。
【0023】
図2には、異なる条件で得られる製品の寸法精度の違いを、従来技術(a)と本発明の実施の形態(b)とで比較した図表が示されている。条件A(材料の温度が目標温度範囲を上回っている場合)、条件B(材料の温度が目標温度範囲を下回っている場合)、条件C(材料の温度が中間温度、すなわち目標温度範囲に収まっている場合)の各条件において、離型剤濃度が中間すなわち標準濃度とする従来技術(a)では、条件Aでは製品厚さが薄くなり、条件Bでは製品厚さが厚くなり、条件Cでのみ製品厚さが中間すなわち所望の寸法精度が得られるものとなる。
一方、材料の温度に応じて濃度の異なる離型剤を塗布する本発明の実施の形態(b)では、条件A、B、Cのいずれの場合であっても、鍛造時の変形抵抗を離型剤の濃度によって調整することにより、材料温度の如何に係わらず、金型インプレッションにおける材料の流れを適正化され、全ての条件で、製品厚さが中間すなわち所望の寸法精度が得られるものとなる。
【0024】
なお、本発明の実施の形態では、標準濃度よりも薄い離型剤には、離型剤の混合比率が0%の単なる水を用いることも可能である。この場合には、金型インプレッションの表面に対する材料変形時の摩擦抵抗を減少させる効果は少ないか若しくは無いが、水が蒸発することによる金型の冷却効果が得られることから、金型温度の制御が可能である。
【0025】
又、本発明の実施の形態では、離型剤塗布装置10は、塗布範囲が重複する二個の噴射ノズルの一方16Bから、塗布範囲に向けて濃度の薄い離型剤が噴射され、他方の噴射ノズル16Aからは、ノズル16Bと同一の塗布範囲に向けて濃度の濃い離型剤が塗布される構造となっている。そして、二個の噴射ノズルからの噴射量の比率に応じ、塗布範囲に塗布される離型剤の濃度が調整されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明の実施の形態に係る熱間鍛造方法のフローチャートであり、(b)は(a)の材料の加熱工程(i)において、加熱された材料の温度を計測し、材料の温度に応じて、濃度の異なる離型剤を塗布する手順を示すフローチャートである。
【図2】異なる条件で得られる製品の寸法精度を、本発明の実施の形態と従来技術とで比較した図表であり、(a)は従来技術、(b)は本発明の実施の形態を示している。
【図3】本発明の実施の形態に係る離型剤塗布装置の模式図である。
【図4】図3に示される離型剤塗布装置の、噴射ノズル周辺部の模式図である。
【図5】図4の矢視F図(拡大図)である。
【図6】熱間鍛造時の、金型インプレッションにおける材料の変形状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0027】
10:離型剤塗布装置、 12、12A、12B:供給回路、14:金型、14a:上型、14b:下型、 16、16A、16B:噴射ノズル、18:制御手段、20:計測手段、 36A、36B、36C:電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造前の金型インプレッションへの離型剤の塗布に際して、加熱された材料の温度を計測し、材料の温度が、目標温度範囲を上回っている場合には標準濃度よりも薄い離型剤を塗布し、目標温度範囲を下回っている場合には標準濃度よりも濃い離型剤を塗布し、目標温度範囲に収まっている場合には標準濃度の離型剤を塗布し、鍛造を行うことを特徴とする熱間鍛造方法。
【請求項2】
濃淡二種類の濃度の離型剤に係る二系統の供給回路と、該二系統の供給回路の一方乃至双方から離型剤の供給を受けて、金型インプレッションへと離型剤を噴射する噴射ノズルと、前記噴射ノズルに対する前記二系統の供給回路からの離型剤の供給量を制御する制御手段と、加熱された材料の温度の計測手段とを備え、
前記制御手段は、前記計測手段により得られる材料温度が、目標温度範囲を上回っている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を主に濃度の薄い離型剤の供給回路から行い、目標温度範囲を下回っている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を主に濃度の濃い離型剤の供給回路から行い、目標温度範囲に収まっている場合には、前記噴射ノズルに対する離型剤の供給を前記二系統の供給回路から均等に行う制御ロジックを備えることを特徴とする離型剤塗布装置。
【請求項3】
前記噴射ノズルは、塗布範囲が重複する二個の噴射ノズルが一組となって構成され、前記二個の噴射ノズルの一方に濃度の薄い離型剤の供給回路が接続され、他方に濃度の濃い離型剤の供給回路が接続されていることを特徴とする請求項2記載の離型剤塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−29879(P2010−29879A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192127(P2008−192127)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】