燃料噴射ノズル
【課題】 ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、パイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状を好適に改善できる燃料噴射ノズルを提供する。
【解決手段】 燃料噴射ノズル1は、半球面状のサック部26と、サック部26に連通する噴孔27とが設けられたノズルボディ2と、ノズルボディ2に摺動自在に収容されるニードル3と、を備えている。噴孔27の入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分には、第1の面取り部R1が形成されており、噴孔27の入口のうち、燃料流の下流側に位置する下流側部分には第1の面取り部R1よりも曲面半径の小さい第2の面取り部R2が形成されている。噴孔27は、下流側部分がサック部26の上端部となるように配置されている。
【解決手段】 燃料噴射ノズル1は、半球面状のサック部26と、サック部26に連通する噴孔27とが設けられたノズルボディ2と、ノズルボディ2に摺動自在に収容されるニードル3と、を備えている。噴孔27の入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分には、第1の面取り部R1が形成されており、噴孔27の入口のうち、燃料流の下流側に位置する下流側部分には第1の面取り部R1よりも曲面半径の小さい第2の面取り部R2が形成されている。噴孔27は、下流側部分がサック部26の上端部となるように配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料噴射ノズルに関し、特にニードルのリフト量(以下、ニードルリフト量と称す)に応じて燃料の流通態様が変化する燃料噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、噴孔が設けられたノズルボディと、該ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルとを備えた燃料噴射ノズルが知られている。かかる燃料噴射ノズルでは、ノズルボディのシート部とニードルの当接部とが接触することで噴孔への燃料供給が遮断され、閉弁状態となる。またノズルボディのシート部とニードルの当接部とが離間することで噴孔への燃料供給が可能となり、開弁状態となる。かかる燃料噴射ノズルの噴孔について、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献1または2で提案されている。
【0003】
特許文献1では、噴孔入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分を円弧面で面取りした燃料噴射ノズルが開示されている。この燃料噴射ノズルでは、噴孔入口に対向するくぼみをニードルに設けており、くぼみを設けることで燃料流路の抵抗増大を回避し、燃料の初期噴射率を高めている。そしてこの燃料噴射ノズルでは、かかる構成でさらに噴孔入口の上流側部分を円弧面で面取りすることで、燃料を噴孔にスムースに流入させて流入損失の低減を図り、初期噴射率の向上に寄与させている。
【0004】
特許文献2では、噴孔入口のうち、上流側部分に曲面半径の大きな面取り部を形成するとともに、下流側部分に曲面半径の小さな面取り部を形成した燃料噴射ノズルが開示されている。この燃料噴射ノズルでは、このような面取り部を形成することで、流量が相対的に大きな上流側からの曲がり損失を低減し、これにより噴射燃料の流速増大およびこれに基づく燃料噴霧の微粒化促進を図っている。このほかニードルリフト量に応じて噴流を変化させている点で、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献3で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−120474号公報
【特許文献2】特開平10−331747号公報
【特許文献3】特開2007−51589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで燃料噴射ノズルでは、ニードルリフト量が小さいパイロット噴射時や初期噴射時には、燃料が極低圧下で噴射されることから、一般に燃料噴霧の貫徹力が弱い。このため、かかる燃料噴射ノズルでは、パイロット噴射や初期噴射で粗大液滴の濃い燃料噴霧が形成され、この結果、スモーク発生量が増大したり、粗大液滴が燃焼室壁面に付着することでHC排出量が増大したりする虞があった。この点、特許文献1が開示する燃料噴射ノズルでは、初期噴射率の向上とともに、初期に噴射される燃料噴霧の貫徹力が高まるものの、噴射初期に燃料圧力が瞬間的に低下することから、少量の燃料を噴射するパイロット噴射では燃料噴霧の微粒化が必ずしも十分には得られない虞があると考えられる。
【0007】
また燃料噴射ノズルでは、ニードルリフト量が小さい場合と大きい場合とで、燃料の流通態様が変化することがある。このため、上述のように濃い燃料噴霧が形成されることに対して燃料噴霧の性状を改善するにあたり、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合には、さらに燃料の流通態様の変化も考慮した改善を図る必要がある。しかしながら、特許文献2が開示する燃料噴射ノズルでは、上流側から噴孔に流入する燃料の流速を高め、燃料噴霧の微粒化促進を図っているものの、燃料の流通態様の変化については特段考慮されていない。このため特許文献2が開示する燃料噴射ノズルでは、ニードルリフト量が小さいパイロット噴射時や初期噴射時の燃料噴霧の性状については、必ずしも十分には改善されない虞がある点で問題があった。
【0008】
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、パイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状を好適に改善できる燃料噴射ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、半球面状のサック部と、該サック部に連通する噴孔とが設けられたノズルボディと、前記ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルと、を備え、前記噴孔の入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分に第1の面取り部を形成するとともに、前記噴孔の入口のうち、燃料流の下流側に位置する下流側部分に前記第1の面取り部よりも曲面半径の小さい第2の面取り部を形成するか、或いはエッジ部を形成し、前記下流側部分が前記サック部の上端部となるように前記噴孔を配置した燃料噴射ノズルである。
【0010】
また本発明は前記第1の面取り部の曲面半径を0.1mm以上とした構成であることが好ましい。
【0011】
また本発明は前記下流側部分に前記エッジ部を形成した場合に、前記サック部の前記上端部の壁面と、前記下流側部分の前記噴孔側の壁面とのなす角度が90度以下である構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、パイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状を好適に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】内燃機関50を関連する各構成とともに模式的に示す図である。
【図2】燃料噴射ノズル1を垂直断面で模式的に示す図である。
【図3】ニードルリフト量が小さい状態にある燃料噴射ノズル1の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図である。
【図4】ニードルリフト量が大きい状態にある燃料噴射ノズル1の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図である。
【図5】噴霧の粒径、噴霧の長さおよびキャビテーション発生量それぞれと、ニードルリフト量との関係を示す図である。
【図6】噴孔27の入口に設けた面取り部Rの曲面半径と、キャビテーション発生量との関係を示す図である。
【図7】噴孔27の入口に設けた面取り部Rの曲面半径と、噴孔27に占めるキャビテーション割合との関係を示す図である。
【図8】エッジ部Lを形成した燃料噴射ノズル1´の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図である。なお、燃料噴射ノズル1´は第2の面取り部R2の代わりにエッジ部Lが形成されている点以外、燃料噴射ノズル1と実質的に同一のものである。
【図9】キャビテーション発生量と噴霧粒径との関係を示す図である。
【図10】噴霧粒径とスモーク発生量との関係を示す図である。
【図11】燃料噴射ノズル1の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図において、広がり角βを図示した図である。
【図12】第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様が変化することになるニードルリフト量γが広がり角βに応じて変化することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【0015】
図1は内燃機関50を関連する各構成とともに模式的に示す図である。内燃機関50はディーゼルエンジンであり、シリンダブロック51、シリンダヘッド52、ピストン53およびインジェクタ54を備えている。シリンダブロック51、シリンダヘッド52およびピストン53は燃焼室55を形成している。インジェクタ54は、シリンダヘッド52のうち、燃焼室55上方略中央の部分に配置されており、燃焼室55に燃料を直接噴射する。インジェクタ54には、燃料噴射ポンプ61からコモンレール62を介して高圧燃料が供給される。インジェクタ54および燃料噴射ポンプ61は制御対象として燃料噴射制御装置であるECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)70に電気的に接続されている。ECU70には、エンジン回転数やアクセル開度や冷却水温などの各種の情報が入力される。インジェクタ54は先端側に燃料噴射ノズル1を備えている。
【0016】
図2は燃料噴射ノズル1を垂直断面で模式的に示す図である。燃料噴射ノズル1はノズルボディ2とニードル3とを備えている。ノズルボディ2は有底円筒状の部材であり、内部に第1の中空部21と、第2の中空部22と、燃料溜まり形成部23と、燃料供給通路24と、シート部25と、サック部26と、噴孔27とが設けられている。第1の中空部21は円筒面を有しており、ノズルボディ2の略中央上端(後端)に開口するとともに、軸方向に沿って下方(先端側)に向かって延伸している。第1の中空部21の下端は、燃料溜まり形成部23に接続している。燃料溜まり形成部23はニードル3とともに環状の燃料溜まり40を形成している。燃料溜まり40には燃料供給通路24が連通している。燃料溜まり形成部23の下端には第2の中空部22が接続している。第2の中空部22は第1の中空部21よりも径が小さい円筒面を有している。第2の中空部22は燃料溜まり形成部23の下端から軸方向に沿って下方に向かって延伸している。
【0017】
第2の中空部22の下端はシート部25に接続している。シート部25は下方に向かって次第に縮径する円錐台面を有している。シート部25の下端は半球面状のサック部26に接続している。サック部26はノズルボディ2の先端部内に設けられている。噴孔27はノズルボディ2の先端部に設けられており、サック部26と外部とを連通している。噴孔27は周方向に沿って複数設けられている。複数の噴孔27は例えば周方向に沿って略等間隔に設けることができる。ノズルボディ2にはニードル3がノズルボディ2の軸線方向に沿って摺動自在に収容されている。
【0018】
ニードル3は大径円柱部31と、小径円柱部32と、第1の縮径部33と、第2の縮径部34と、当接部35と、先端部36とを備えている。大径円柱部31は第1の中空部21と遊嵌合する。小径円柱部32は燃料溜まり40近傍からシート部25近傍まで軸方向に沿って延伸している。小径円柱部32の外径は第2の中空部22の内径よりも小さくなっており、小径円柱部32と第2の中空部22との間には燃料通路41が形成される。第1および第2の縮径部33、34は円錐台面を有している。第1の縮径部33の下端は第2の縮径部34の上端に接続している。第1の縮径部33は、第2の縮径部34よりも小さな度合いで下方に向かって次第に縮径している。第2の縮径部34は、第1の縮径部33よりも大きな度合いで下方に向かって次第に縮径している。第1および第2の縮径部33、34の接続位置には、円形の当接部35が形成されている。第2の縮径部34の下端は円錐状の先端部36に接続している。先端部36は第2の縮径部34よりも大きな度合いで下方に向かって次第に縮径しており、閉弁状態でサック部26にその一部が収容される。
【0019】
燃料は燃料供給通路24、燃料溜まり40および燃料通路41を介して噴孔27に供給される。これに対して、当接部35がシート部25に当接している場合には、燃料供給が遮断され、閉弁状態となる。一方、ニードル3がリフトし、当接部35がシート部25から離間した場合には、燃料供給が可能となり、開弁状態となる。ニードル3は供給された燃料が上方に押し上げる力よりも、下方に押し下げる力が小さくなった場合にリフトする。この点、インジェクタ54は、ニードル3に作動流体(例えば高圧燃料)の背圧を作用させる図示しない制御室と、制御室への作動流体の流出入を制御する図示しない電気式切替弁とを備えており、制御室の背圧がニードル3を下方に押し下げる力を発生させる。そして、ECU70は電気式切替弁を制御してニードル3に作用させる背圧を切り替えることで、ニードルリフト量を制御する。
【0020】
次に燃料の流通態様について、図3および図4を用いて説明する。燃料噴射ノズル1では、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する。ニードルリフト量が小さい場合(第1のリフト量である場合)、流通する燃料はシート部25で絞られる。そしてこの場合、燃料の流通態様は第1の流通態様となる。第1の流通態様は、図3に示すように、燃料がサック部26に流入した後、噴孔27の下流側から噴孔27に流入する流れが主流となる燃料の流通態様である。このとき燃料は噴孔27から極低圧下で噴射される。一方、ニードルリフト量が大きい場合(第1のリフト量よりもリフト量が大きい第2のリフト量である場合)、流通する燃料は噴孔27で絞られる。そしてこの場合、燃料の流通態様は第2の流通態様となる。第2の流通態様は、図4に示すように、燃料が噴孔27の上流側から噴孔27に流入する流れが主流となる燃料の流通態様である。
【0021】
このように燃料の流通態様が変化することに対し、燃料噴射ノズル1では噴孔27の入口が具体的には次に示すように形成されている。すなわち噴孔27の入口は、燃料流の上流側に位置する上流側部分に曲面半径の大きい第1の面取り部R1が形成されるとともに、燃料流の下流側に位置する下流側部分に第1の面取り部R1よりも曲面半径の小さい第2の面取り部R2が形成されている。
【0022】
これにより、ニードルリフト量が小さいパイロット噴射時や初期噴射時には、図3に示すように燃料が噴孔27に流入する際に、燃料流が第2の面取り部R2で剥離し易くなり、この結果、噴孔27内でキャビテーションを発生させることができる。また燃料噴射ノズル1では、サック部26が半球面状に形成されていることから、第1の流通態様において燃料がサック部26内でスムースに旋回する。このためこれにより噴孔27に流入する燃料流の減衰を抑制することができ、これによっても燃料流の剥離およびキャビテーションの発生に寄与することができる。そして、燃料が噴孔27から噴射された後には、キャビテーションが急激に成長し崩壊することから、これによって燃料噴霧の微粒化を促進できる。
【0023】
一方、ニードルリフト量が大きいメイン噴射時には、図4に示すように燃料が第1の面取り部R1に沿って噴孔27にスムースに流入する。このためこの場合には、燃料流の剥離を防止或いは抑制でき、この結果、キャビテーションの発生を防止或いは抑制できる。また流量係数が高まるとともに燃料の流速が高まることから、噴孔27から噴射された燃料噴霧の貫徹力を強めることができ、これにより従来同様、雰囲気とのせん断分裂による噴霧の微粒化を促進できる。またこれにより従来同様、短期間で多量の燃料を噴射でき、高出力にも対応できる。
【0024】
さらに燃料噴射ノズル1では、垂直断面において噴孔27入口の下流側部分がサック部26の上端部になるように噴孔27が配置されている。これにより、燃料が噴孔27に上流側から流入する場合と下流側から流入する場合とで、ともに燃料流の減衰がより少ない状態で燃料を噴孔27に好適に到達させることができる。換言すれば、これにより第1および第2の流通態様の双方にとってバランスの良い位置に噴孔27を配置することができる。そしてこれらにより、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、ニードルリフト量が大きい場合の噴霧の微粒化が損なわれないようにしつつ、燃料噴霧の性状を改善できる点で、パイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状を好適に改善できる。
【0025】
次に噴霧の長さ、キャビテーション発生量および噴霧の粒径それぞれと、ニードルリフト量との関係について図5を用いて説明する。なお、図5(c)では、従来の場合についても参考として破線で同時に示している。燃料噴射ノズル1では、ECU70の制御のもと、インジェクタ54によってニードルリフト量が制御される。インジェクタ54を制御するにあたり、ECU70は具体的にはHC排出の要因となるピストン53や燃焼室55壁面(シリンダ壁面)への燃料付着を抑制可能な噴射パターンでインジェクタ54を制御する。そしてこの噴射パターンで、噴霧の長さは図5(a)に示すようになる。
【0026】
パイロット噴射時や初期噴射時には、ニードルリフト量がシート絞り領域(燃料がシート部25で絞られる領域)にある。この場合には極低圧下で燃料が噴射されるため、燃料の貫徹力が小さくなる。しかしながらニードルリフト量がシート絞り領域にある場合には、前述の通り、燃料流が面取り部R2で剥離される。このためこの場合には、図5(b)に示すように噴孔27内でキャビテーションが発生し、この結果、図5(c)に示すようにキャビテーションの崩壊によって、HCの排出を抑制しつつ、燃料の微粒化を図ることができる。
【0027】
一方、メイン噴射時には、ニードルリフト量が噴孔絞り領域にある。この場合には前述の通り、燃料が面取り部R1に沿ってスムースに噴孔27に流入するため、貫徹力が強くなる。またこの場合には、図5(b)に示すようにキャビテーションが発生しなくなる。したがってこの場合には、図5(c)に示すように雰囲気とのせん断分裂によって、HCの排出を抑制しつつ、燃料の微粒化を図ることができる。すなわち、燃料噴射ノズル1によれば、HCの排出を抑制可能な噴射パターンにおいても、常に燃料噴霧の微粒化を図ることができる。
【0028】
次に第1および第2の面取り部R1、R2の曲面半径の好ましい大きさについて図6、図7を用いて説明する。図6に示すように、キャビテーション発生量は、噴孔27の入口に設けた面取り部Rの曲面半径が大きくなるほど減少し、最後にはゼロになる傾向にある。この点、さらに具体的には図7に示すように、面取り部Rの曲面半径が0.1mm以上である場合には、噴孔27に占めるキャビテーション割合はほぼゼロとなる一方で、面取り部Rの大きさが0.1mm未満になると次第に大きくなることがわかる。したがって、第1の面取り部R1の曲面半径は、キャビテーションの発生を防止或いは抑制する観点から0.1mm以上であることが好ましい。
【0029】
一方、図7から第2の面取り部R2の曲面半径は、キャビテーションをより多く発生させる観点から0.1mm未満であることが好ましい。この点、さらに好ましくは噴孔27の入口の下流側部分に第2の面取り部R2を形成する代わりに、エッジ部L(図8参照)を形成することが望ましい。これにより、キャビテーションをより多く発生させることができることから、図9に示すように燃料噴霧の微粒化をさらに促進できる。また燃料噴霧の微粒化をさらに促進できることから、図10に示すようにスモークの発生量をより低減することができる。またエッジ部Lを形成する場合、エッジ部Lがなす角度(垂直断面においてサック部26の上端部の壁面と下流側部分の噴孔27側の壁面とがなす角度)αは90度以下であることが好ましい。これにより、燃料流をより好適に剥離させることができることから、より確実にキャビテーションを発生させることができる。
【0030】
次にニードル3の先端部36と、サック部26の上端部とがなす角度である広がり角β(図11参照)の設定について、図12を用いて説明する。この広がり角βは、ニードルリフト量に応じて第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様を適切に変化させるにあたって重要となってくる。図12に示すように、広がり角βが15deg以上であれば、ニードルリフト量が小さい場合に燃料の流通態様が第1の流通態様となることがわかる。そして広がり角βが大きくなるほど、第1の流通態様が維持されるニードルリフト量の範囲が大きい側に広がることがわかる。
【0031】
このため、ニードルリフト量に応じて第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様を適切に変化させるにあたっては、第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様が変化するときのニードルリフト量γが、パイロット噴射時の最大ニードルリフト量以上になるように広がり角βを設定することが好ましい。この点、燃料噴射ノズル1ではパイロット噴射時の最大ニードルリフト量が0.03mmであることから、パイロット噴射時に第1の流通態様を適切に維持するためには、広がり角βがおよそ30deg以上必要となる。このように広がり角βの設定を管理することにより、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様を適切に変化させることができ、以ってパイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状をさらに好適に改善できる。
【0032】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
例えば上述した実施例では、広がり角βの設定の管理が容易となることから、ニードル3に第2の縮径部34とは別に先端部36を設けた例について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、例えば先端部は第2の縮径部と同じ傾斜角で一体的に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 燃料噴射ノズル
2 ノズルボディ
25 シート部
26 サック部
27 噴孔
3 ニードル
33 第1の縮径部
34 第2の縮径部
35 当接部
36 先端部
40 燃料溜まり
41 燃料通路
50 内燃機関
54 インジェクタ
61 燃料噴射ポンプ
62 コモンレール
70 ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料噴射ノズルに関し、特にニードルのリフト量(以下、ニードルリフト量と称す)に応じて燃料の流通態様が変化する燃料噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、噴孔が設けられたノズルボディと、該ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルとを備えた燃料噴射ノズルが知られている。かかる燃料噴射ノズルでは、ノズルボディのシート部とニードルの当接部とが接触することで噴孔への燃料供給が遮断され、閉弁状態となる。またノズルボディのシート部とニードルの当接部とが離間することで噴孔への燃料供給が可能となり、開弁状態となる。かかる燃料噴射ノズルの噴孔について、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献1または2で提案されている。
【0003】
特許文献1では、噴孔入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分を円弧面で面取りした燃料噴射ノズルが開示されている。この燃料噴射ノズルでは、噴孔入口に対向するくぼみをニードルに設けており、くぼみを設けることで燃料流路の抵抗増大を回避し、燃料の初期噴射率を高めている。そしてこの燃料噴射ノズルでは、かかる構成でさらに噴孔入口の上流側部分を円弧面で面取りすることで、燃料を噴孔にスムースに流入させて流入損失の低減を図り、初期噴射率の向上に寄与させている。
【0004】
特許文献2では、噴孔入口のうち、上流側部分に曲面半径の大きな面取り部を形成するとともに、下流側部分に曲面半径の小さな面取り部を形成した燃料噴射ノズルが開示されている。この燃料噴射ノズルでは、このような面取り部を形成することで、流量が相対的に大きな上流側からの曲がり損失を低減し、これにより噴射燃料の流速増大およびこれに基づく燃料噴霧の微粒化促進を図っている。このほかニードルリフト量に応じて噴流を変化させている点で、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献3で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−120474号公報
【特許文献2】特開平10−331747号公報
【特許文献3】特開2007−51589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで燃料噴射ノズルでは、ニードルリフト量が小さいパイロット噴射時や初期噴射時には、燃料が極低圧下で噴射されることから、一般に燃料噴霧の貫徹力が弱い。このため、かかる燃料噴射ノズルでは、パイロット噴射や初期噴射で粗大液滴の濃い燃料噴霧が形成され、この結果、スモーク発生量が増大したり、粗大液滴が燃焼室壁面に付着することでHC排出量が増大したりする虞があった。この点、特許文献1が開示する燃料噴射ノズルでは、初期噴射率の向上とともに、初期に噴射される燃料噴霧の貫徹力が高まるものの、噴射初期に燃料圧力が瞬間的に低下することから、少量の燃料を噴射するパイロット噴射では燃料噴霧の微粒化が必ずしも十分には得られない虞があると考えられる。
【0007】
また燃料噴射ノズルでは、ニードルリフト量が小さい場合と大きい場合とで、燃料の流通態様が変化することがある。このため、上述のように濃い燃料噴霧が形成されることに対して燃料噴霧の性状を改善するにあたり、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合には、さらに燃料の流通態様の変化も考慮した改善を図る必要がある。しかしながら、特許文献2が開示する燃料噴射ノズルでは、上流側から噴孔に流入する燃料の流速を高め、燃料噴霧の微粒化促進を図っているものの、燃料の流通態様の変化については特段考慮されていない。このため特許文献2が開示する燃料噴射ノズルでは、ニードルリフト量が小さいパイロット噴射時や初期噴射時の燃料噴霧の性状については、必ずしも十分には改善されない虞がある点で問題があった。
【0008】
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、パイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状を好適に改善できる燃料噴射ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、半球面状のサック部と、該サック部に連通する噴孔とが設けられたノズルボディと、前記ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルと、を備え、前記噴孔の入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分に第1の面取り部を形成するとともに、前記噴孔の入口のうち、燃料流の下流側に位置する下流側部分に前記第1の面取り部よりも曲面半径の小さい第2の面取り部を形成するか、或いはエッジ部を形成し、前記下流側部分が前記サック部の上端部となるように前記噴孔を配置した燃料噴射ノズルである。
【0010】
また本発明は前記第1の面取り部の曲面半径を0.1mm以上とした構成であることが好ましい。
【0011】
また本発明は前記下流側部分に前記エッジ部を形成した場合に、前記サック部の前記上端部の壁面と、前記下流側部分の前記噴孔側の壁面とのなす角度が90度以下である構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、パイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状を好適に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】内燃機関50を関連する各構成とともに模式的に示す図である。
【図2】燃料噴射ノズル1を垂直断面で模式的に示す図である。
【図3】ニードルリフト量が小さい状態にある燃料噴射ノズル1の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図である。
【図4】ニードルリフト量が大きい状態にある燃料噴射ノズル1の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図である。
【図5】噴霧の粒径、噴霧の長さおよびキャビテーション発生量それぞれと、ニードルリフト量との関係を示す図である。
【図6】噴孔27の入口に設けた面取り部Rの曲面半径と、キャビテーション発生量との関係を示す図である。
【図7】噴孔27の入口に設けた面取り部Rの曲面半径と、噴孔27に占めるキャビテーション割合との関係を示す図である。
【図8】エッジ部Lを形成した燃料噴射ノズル1´の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図である。なお、燃料噴射ノズル1´は第2の面取り部R2の代わりにエッジ部Lが形成されている点以外、燃料噴射ノズル1と実質的に同一のものである。
【図9】キャビテーション発生量と噴霧粒径との関係を示す図である。
【図10】噴霧粒径とスモーク発生量との関係を示す図である。
【図11】燃料噴射ノズル1の要部を拡大して垂直断面で模式的に示す図において、広がり角βを図示した図である。
【図12】第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様が変化することになるニードルリフト量γが広がり角βに応じて変化することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【0015】
図1は内燃機関50を関連する各構成とともに模式的に示す図である。内燃機関50はディーゼルエンジンであり、シリンダブロック51、シリンダヘッド52、ピストン53およびインジェクタ54を備えている。シリンダブロック51、シリンダヘッド52およびピストン53は燃焼室55を形成している。インジェクタ54は、シリンダヘッド52のうち、燃焼室55上方略中央の部分に配置されており、燃焼室55に燃料を直接噴射する。インジェクタ54には、燃料噴射ポンプ61からコモンレール62を介して高圧燃料が供給される。インジェクタ54および燃料噴射ポンプ61は制御対象として燃料噴射制御装置であるECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)70に電気的に接続されている。ECU70には、エンジン回転数やアクセル開度や冷却水温などの各種の情報が入力される。インジェクタ54は先端側に燃料噴射ノズル1を備えている。
【0016】
図2は燃料噴射ノズル1を垂直断面で模式的に示す図である。燃料噴射ノズル1はノズルボディ2とニードル3とを備えている。ノズルボディ2は有底円筒状の部材であり、内部に第1の中空部21と、第2の中空部22と、燃料溜まり形成部23と、燃料供給通路24と、シート部25と、サック部26と、噴孔27とが設けられている。第1の中空部21は円筒面を有しており、ノズルボディ2の略中央上端(後端)に開口するとともに、軸方向に沿って下方(先端側)に向かって延伸している。第1の中空部21の下端は、燃料溜まり形成部23に接続している。燃料溜まり形成部23はニードル3とともに環状の燃料溜まり40を形成している。燃料溜まり40には燃料供給通路24が連通している。燃料溜まり形成部23の下端には第2の中空部22が接続している。第2の中空部22は第1の中空部21よりも径が小さい円筒面を有している。第2の中空部22は燃料溜まり形成部23の下端から軸方向に沿って下方に向かって延伸している。
【0017】
第2の中空部22の下端はシート部25に接続している。シート部25は下方に向かって次第に縮径する円錐台面を有している。シート部25の下端は半球面状のサック部26に接続している。サック部26はノズルボディ2の先端部内に設けられている。噴孔27はノズルボディ2の先端部に設けられており、サック部26と外部とを連通している。噴孔27は周方向に沿って複数設けられている。複数の噴孔27は例えば周方向に沿って略等間隔に設けることができる。ノズルボディ2にはニードル3がノズルボディ2の軸線方向に沿って摺動自在に収容されている。
【0018】
ニードル3は大径円柱部31と、小径円柱部32と、第1の縮径部33と、第2の縮径部34と、当接部35と、先端部36とを備えている。大径円柱部31は第1の中空部21と遊嵌合する。小径円柱部32は燃料溜まり40近傍からシート部25近傍まで軸方向に沿って延伸している。小径円柱部32の外径は第2の中空部22の内径よりも小さくなっており、小径円柱部32と第2の中空部22との間には燃料通路41が形成される。第1および第2の縮径部33、34は円錐台面を有している。第1の縮径部33の下端は第2の縮径部34の上端に接続している。第1の縮径部33は、第2の縮径部34よりも小さな度合いで下方に向かって次第に縮径している。第2の縮径部34は、第1の縮径部33よりも大きな度合いで下方に向かって次第に縮径している。第1および第2の縮径部33、34の接続位置には、円形の当接部35が形成されている。第2の縮径部34の下端は円錐状の先端部36に接続している。先端部36は第2の縮径部34よりも大きな度合いで下方に向かって次第に縮径しており、閉弁状態でサック部26にその一部が収容される。
【0019】
燃料は燃料供給通路24、燃料溜まり40および燃料通路41を介して噴孔27に供給される。これに対して、当接部35がシート部25に当接している場合には、燃料供給が遮断され、閉弁状態となる。一方、ニードル3がリフトし、当接部35がシート部25から離間した場合には、燃料供給が可能となり、開弁状態となる。ニードル3は供給された燃料が上方に押し上げる力よりも、下方に押し下げる力が小さくなった場合にリフトする。この点、インジェクタ54は、ニードル3に作動流体(例えば高圧燃料)の背圧を作用させる図示しない制御室と、制御室への作動流体の流出入を制御する図示しない電気式切替弁とを備えており、制御室の背圧がニードル3を下方に押し下げる力を発生させる。そして、ECU70は電気式切替弁を制御してニードル3に作用させる背圧を切り替えることで、ニードルリフト量を制御する。
【0020】
次に燃料の流通態様について、図3および図4を用いて説明する。燃料噴射ノズル1では、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する。ニードルリフト量が小さい場合(第1のリフト量である場合)、流通する燃料はシート部25で絞られる。そしてこの場合、燃料の流通態様は第1の流通態様となる。第1の流通態様は、図3に示すように、燃料がサック部26に流入した後、噴孔27の下流側から噴孔27に流入する流れが主流となる燃料の流通態様である。このとき燃料は噴孔27から極低圧下で噴射される。一方、ニードルリフト量が大きい場合(第1のリフト量よりもリフト量が大きい第2のリフト量である場合)、流通する燃料は噴孔27で絞られる。そしてこの場合、燃料の流通態様は第2の流通態様となる。第2の流通態様は、図4に示すように、燃料が噴孔27の上流側から噴孔27に流入する流れが主流となる燃料の流通態様である。
【0021】
このように燃料の流通態様が変化することに対し、燃料噴射ノズル1では噴孔27の入口が具体的には次に示すように形成されている。すなわち噴孔27の入口は、燃料流の上流側に位置する上流側部分に曲面半径の大きい第1の面取り部R1が形成されるとともに、燃料流の下流側に位置する下流側部分に第1の面取り部R1よりも曲面半径の小さい第2の面取り部R2が形成されている。
【0022】
これにより、ニードルリフト量が小さいパイロット噴射時や初期噴射時には、図3に示すように燃料が噴孔27に流入する際に、燃料流が第2の面取り部R2で剥離し易くなり、この結果、噴孔27内でキャビテーションを発生させることができる。また燃料噴射ノズル1では、サック部26が半球面状に形成されていることから、第1の流通態様において燃料がサック部26内でスムースに旋回する。このためこれにより噴孔27に流入する燃料流の減衰を抑制することができ、これによっても燃料流の剥離およびキャビテーションの発生に寄与することができる。そして、燃料が噴孔27から噴射された後には、キャビテーションが急激に成長し崩壊することから、これによって燃料噴霧の微粒化を促進できる。
【0023】
一方、ニードルリフト量が大きいメイン噴射時には、図4に示すように燃料が第1の面取り部R1に沿って噴孔27にスムースに流入する。このためこの場合には、燃料流の剥離を防止或いは抑制でき、この結果、キャビテーションの発生を防止或いは抑制できる。また流量係数が高まるとともに燃料の流速が高まることから、噴孔27から噴射された燃料噴霧の貫徹力を強めることができ、これにより従来同様、雰囲気とのせん断分裂による噴霧の微粒化を促進できる。またこれにより従来同様、短期間で多量の燃料を噴射でき、高出力にも対応できる。
【0024】
さらに燃料噴射ノズル1では、垂直断面において噴孔27入口の下流側部分がサック部26の上端部になるように噴孔27が配置されている。これにより、燃料が噴孔27に上流側から流入する場合と下流側から流入する場合とで、ともに燃料流の減衰がより少ない状態で燃料を噴孔27に好適に到達させることができる。換言すれば、これにより第1および第2の流通態様の双方にとってバランスの良い位置に噴孔27を配置することができる。そしてこれらにより、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、ニードルリフト量が大きい場合の噴霧の微粒化が損なわれないようにしつつ、燃料噴霧の性状を改善できる点で、パイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状を好適に改善できる。
【0025】
次に噴霧の長さ、キャビテーション発生量および噴霧の粒径それぞれと、ニードルリフト量との関係について図5を用いて説明する。なお、図5(c)では、従来の場合についても参考として破線で同時に示している。燃料噴射ノズル1では、ECU70の制御のもと、インジェクタ54によってニードルリフト量が制御される。インジェクタ54を制御するにあたり、ECU70は具体的にはHC排出の要因となるピストン53や燃焼室55壁面(シリンダ壁面)への燃料付着を抑制可能な噴射パターンでインジェクタ54を制御する。そしてこの噴射パターンで、噴霧の長さは図5(a)に示すようになる。
【0026】
パイロット噴射時や初期噴射時には、ニードルリフト量がシート絞り領域(燃料がシート部25で絞られる領域)にある。この場合には極低圧下で燃料が噴射されるため、燃料の貫徹力が小さくなる。しかしながらニードルリフト量がシート絞り領域にある場合には、前述の通り、燃料流が面取り部R2で剥離される。このためこの場合には、図5(b)に示すように噴孔27内でキャビテーションが発生し、この結果、図5(c)に示すようにキャビテーションの崩壊によって、HCの排出を抑制しつつ、燃料の微粒化を図ることができる。
【0027】
一方、メイン噴射時には、ニードルリフト量が噴孔絞り領域にある。この場合には前述の通り、燃料が面取り部R1に沿ってスムースに噴孔27に流入するため、貫徹力が強くなる。またこの場合には、図5(b)に示すようにキャビテーションが発生しなくなる。したがってこの場合には、図5(c)に示すように雰囲気とのせん断分裂によって、HCの排出を抑制しつつ、燃料の微粒化を図ることができる。すなわち、燃料噴射ノズル1によれば、HCの排出を抑制可能な噴射パターンにおいても、常に燃料噴霧の微粒化を図ることができる。
【0028】
次に第1および第2の面取り部R1、R2の曲面半径の好ましい大きさについて図6、図7を用いて説明する。図6に示すように、キャビテーション発生量は、噴孔27の入口に設けた面取り部Rの曲面半径が大きくなるほど減少し、最後にはゼロになる傾向にある。この点、さらに具体的には図7に示すように、面取り部Rの曲面半径が0.1mm以上である場合には、噴孔27に占めるキャビテーション割合はほぼゼロとなる一方で、面取り部Rの大きさが0.1mm未満になると次第に大きくなることがわかる。したがって、第1の面取り部R1の曲面半径は、キャビテーションの発生を防止或いは抑制する観点から0.1mm以上であることが好ましい。
【0029】
一方、図7から第2の面取り部R2の曲面半径は、キャビテーションをより多く発生させる観点から0.1mm未満であることが好ましい。この点、さらに好ましくは噴孔27の入口の下流側部分に第2の面取り部R2を形成する代わりに、エッジ部L(図8参照)を形成することが望ましい。これにより、キャビテーションをより多く発生させることができることから、図9に示すように燃料噴霧の微粒化をさらに促進できる。また燃料噴霧の微粒化をさらに促進できることから、図10に示すようにスモークの発生量をより低減することができる。またエッジ部Lを形成する場合、エッジ部Lがなす角度(垂直断面においてサック部26の上端部の壁面と下流側部分の噴孔27側の壁面とがなす角度)αは90度以下であることが好ましい。これにより、燃料流をより好適に剥離させることができることから、より確実にキャビテーションを発生させることができる。
【0030】
次にニードル3の先端部36と、サック部26の上端部とがなす角度である広がり角β(図11参照)の設定について、図12を用いて説明する。この広がり角βは、ニードルリフト量に応じて第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様を適切に変化させるにあたって重要となってくる。図12に示すように、広がり角βが15deg以上であれば、ニードルリフト量が小さい場合に燃料の流通態様が第1の流通態様となることがわかる。そして広がり角βが大きくなるほど、第1の流通態様が維持されるニードルリフト量の範囲が大きい側に広がることがわかる。
【0031】
このため、ニードルリフト量に応じて第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様を適切に変化させるにあたっては、第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様が変化するときのニードルリフト量γが、パイロット噴射時の最大ニードルリフト量以上になるように広がり角βを設定することが好ましい。この点、燃料噴射ノズル1ではパイロット噴射時の最大ニードルリフト量が0.03mmであることから、パイロット噴射時に第1の流通態様を適切に維持するためには、広がり角βがおよそ30deg以上必要となる。このように広がり角βの設定を管理することにより、ニードルリフト量に応じて燃料の流通態様が変化する場合に、第1および第2の流通態様の間で燃料の流通態様を適切に変化させることができ、以ってパイロット噴射時や初期噴射時の極低圧下で噴射される燃料噴霧の性状をさらに好適に改善できる。
【0032】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
例えば上述した実施例では、広がり角βの設定の管理が容易となることから、ニードル3に第2の縮径部34とは別に先端部36を設けた例について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、例えば先端部は第2の縮径部と同じ傾斜角で一体的に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 燃料噴射ノズル
2 ノズルボディ
25 シート部
26 サック部
27 噴孔
3 ニードル
33 第1の縮径部
34 第2の縮径部
35 当接部
36 先端部
40 燃料溜まり
41 燃料通路
50 内燃機関
54 インジェクタ
61 燃料噴射ポンプ
62 コモンレール
70 ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半球面状のサック部と、該サック部に連通する噴孔とが設けられたノズルボディと、
前記ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルと、を備え、
前記噴孔の入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分に第1の面取り部を形成するとともに、前記噴孔の入口のうち、燃料流の下流側に位置する下流側部分に前記第1の面取り部よりも曲面半径の小さい第2の面取り部を形成するか、或いはエッジ部を形成し、
前記下流側部分が前記サック部の上端部となるように前記噴孔を配置した燃料噴射ノズル。
【請求項2】
請求項1記載の燃料噴射ノズルであって、
前記第1の面取り部の曲面半径を0.1mm以上とした燃料噴射ノズル。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料噴射ノズルであって、
前記下流側部分に前記エッジ部を形成した場合に、前記サック部の前記上端部の壁面と、前記下流側部分の前記噴孔側の壁面とのなす角度が90度以下である燃料噴射ノズル。
【請求項1】
半球面状のサック部と、該サック部に連通する噴孔とが設けられたノズルボディと、
前記ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルと、を備え、
前記噴孔の入口のうち、燃料流の上流側に位置する上流側部分に第1の面取り部を形成するとともに、前記噴孔の入口のうち、燃料流の下流側に位置する下流側部分に前記第1の面取り部よりも曲面半径の小さい第2の面取り部を形成するか、或いはエッジ部を形成し、
前記下流側部分が前記サック部の上端部となるように前記噴孔を配置した燃料噴射ノズル。
【請求項2】
請求項1記載の燃料噴射ノズルであって、
前記第1の面取り部の曲面半径を0.1mm以上とした燃料噴射ノズル。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料噴射ノズルであって、
前記下流側部分に前記エッジ部を形成した場合に、前記サック部の前記上端部の壁面と、前記下流側部分の前記噴孔側の壁面とのなす角度が90度以下である燃料噴射ノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−180763(P2010−180763A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24329(P2009−24329)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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