燃料噴射制御装置
【課題】多段噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関について、充填効率の向上を図る。
【解決手段】均質燃焼時に吸気行程から圧縮行程にかけて1回または複数回の燃料噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関1の燃料噴射制御装置20において、燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、圧力振動に応じて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、いずれかの燃料噴射を当該燃料噴射タイミングで行う。
【解決手段】均質燃焼時に吸気行程から圧縮行程にかけて1回または複数回の燃料噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関1の燃料噴射制御装置20において、燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、圧力振動に応じて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、いずれかの燃料噴射を当該燃料噴射タイミングで行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内に燃料を直接噴射する火花点火式内燃機関の燃料噴射制御として、要求燃料噴射量を複数回に分けて噴射する多段噴射が知られている。例えば、特許文献1では、多段噴射を行うにあたって、ピストンスピードが速い期間中の噴射を禁止している。これにより、タンブル流動が壊されることを防止し、筒内流動を利用して筒内混合気の均一性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筒内直接噴射火花点火式内燃機関の場合、燃料噴射に起因して筒内に圧力振動が生じる。そして、この圧力振動に応じて充填効率が周期的に変動する。
【0005】
しかし、特許文献1では燃料噴射タイミングと圧力振動の関係については言及されていない。したがって、特許文献1の燃料噴射制御装置では、充填効率が相対的に低くなるタイミングで燃料を噴射することになるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明では、多段噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関について、充填効率の向上を図ることができる燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料噴射制御装置は、均質燃焼時に吸気行程から圧縮行程にかけて1回または複数回の燃料噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関の燃料噴射制御装置である。そして、燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、圧力振動により充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、いずれかの燃料噴射を当該燃料噴射タイミングで行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、圧力振動に応じて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、その燃料噴射タイミングで燃料を噴射するので、多段噴射時の充填効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる筒内直接噴射火花点火式内燃機関の構成図である。
【図2】充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図である。
【図3】筒内平均圧力と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。
【図4】筒内入口における吸気流量と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。
【図5】充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図である。
【図6】コントローラが実行する第1実施形態の燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図7】機関回転数と負荷に基づいて噴射回数を設定したマップである。
【図8】(A)は低中負荷領域の燃料噴射タイミングを示す図であり、(B)は高負荷領域の燃料噴射タイミングを示す図であり、(C)は全開領域の燃料噴射タイミングを示す図である。
【図9】コントローラが実行する第2実施形態の燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図10】3段噴射または2段噴射の1段目の燃料噴射タイミングを示すマップである。
【図11】3段噴射または2段噴射の2段目の燃料噴射タイミングを示すマップである。
【図12】3段噴射の3段目の燃料噴射タイミングを示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる筒内直接噴射火花点火式内燃機関(以下、単に「内燃機関1」という)1の一つの気筒について示す構成図である。
【0012】
内燃機関1は、シリンダヘッド1Aとシリンダブロック1Bとを含んで構成されている。シリンダブロック1Bに設けたシリンダ11にはピストン10が往復動可能に収められている。シリンダ11の壁面とピストン10の冠面とシリンダヘッド1Aの下面とで燃焼室14が画成されている。
【0013】
シリンダヘッド1Aには、吸気通路2及び排気通路3が形成されている。吸気通路2及び排気通路3はいずれも燃焼室14に開口しており、それぞれの開口部は吸気弁6、排気弁7により開閉される。吸気弁6と排気弁7はそれぞれ吸気カムシャフト4、排気カムシャフト5により駆動される。なお、吸気カムシャフト4はバルブタイミングを変更し得る可変動弁機構を備える。
【0014】
また、シリンダヘッド1Aには、点火栓8と燃料噴射弁9が燃焼室14に臨むように配置されている。
【0015】
吸気通路2にはコレクタタンク13が介装され、コレクタタンク13の吸気流れ上流側にはスロットルバルブ12が配置されている。
【0016】
スロットルバルブ12の開度制御、燃料噴射弁9の噴射タイミング、噴射量等の燃料噴射制御、及び点火栓8の点火時期制御は、コントローラ20が実行する。
【0017】
コントローラ20は、アクセル開度センサ21やクランク角センサ22等の検出信号に基づいて上記各制御を実行する。コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ20を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0018】
上記のような構成の内燃機関1において、コントローラ20は例えば機関回転数と要求負荷といった運転状態に応じた目標燃料噴射量を設定し、さらに、目標燃料噴射量を噴射するための噴射回数、各噴射のタイミングを設定する。
【0019】
均質燃焼を行う場合に、筒内の混合気の均一度を向上させる等の目的で、1サイクルあたりの目標燃料噴射量を複数回に分けて噴射する多段噴射が知られている。単段噴射の場合、均一度を高めるには、燃料が霧化して空気と混合する時間を長くすること、つまり、吸気上死点に近いクランク角で燃料を噴射することが望ましい。しかし、吸気上死点に近いクランク角で燃料噴射すると火花点火までの時間が長くなり、燃料が気化する際の吸熱反応による冷却効果が低下する。つまり、単段噴射の場合には、均一度向上効果と冷却効果とはトレードオフの関係にある。この点、多段噴射によれば、複数の燃料噴射タイミングのうち2つを吸気上死点に近いタイミングと点火時期に近いタイミングに設定することで、均一度向上と冷却効果とを両立することが可能となる。
【0020】
ところで、燃料噴射タイミングは充填効率とも相関がある。例えば3段噴射の場合に、3回の燃料噴射のうち2回を均一度向上と冷却効果を両立させるために上述したタイミングを設定すると、残りの燃料噴射タイミングによって充填効率が変化する。ここで、充填効率と燃料噴射タイミングの関係について説明する。
【0021】
図2は、充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図である。縦軸は充填効率(%)、横軸は燃料噴射タイミング(deg.CA)であり、TDCは吸気上死点を、IVCは吸気弁閉タイミングを示している。
【0022】
IT1−IT5の5パターンの燃料噴射タイミングでの充填効率を測定したところ、図2に示すように、充填効率はIT1からIT3にかけて徐々に低下し、IT4で上昇している。そして、吸気弁閉時期に近いIT5で再び低下している。
【0023】
このような充填効率の増減の周期は、燃料噴射により生じる圧力振動に起因すると考えられる。
【0024】
図3は筒内平均圧力と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。縦軸は燃料噴射をした場合としない場合との筒内平均圧力(Pa)の差分を示し、横軸は燃料噴射タイミング(deg.CA)を示している。TDCは吸気上死点を示している。IT1−IT5はそれぞれ図2のIT1−IT5の燃料噴射タイミングで燃料噴射した場合について示している。
【0025】
図4は、筒内入口における吸気流量と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。縦軸は燃料噴射をした場合としない場合との筒内入口における吸気流量(m3/s)の差分を示し、横軸は燃料噴射タイミング(deg.CA)を示している。TDCは吸気上死点を示している。IT1−IT5はそれぞれ図2のIT1−IT5の燃料噴射タイミングで燃料噴射した場合について示している。
【0026】
図3に示すように、いずれの燃料噴射タイミングで噴射した場合でも、燃料噴射に伴って筒内平均圧力が燃料噴射しない場合より低くなっている。これは、噴射した燃料の気化潜熱により筒内が冷却されたためと考えられる。
【0027】
そして、図4に示すように、この筒内平均圧力の低下に伴って筒内入口の吸気流量が増加している。その後は、吸気流量の増加に伴う筒内圧力の増大と、筒内圧力の増大に伴う吸気流量の減少を繰り返す。このように燃料噴射に起因して筒内に圧力振動が生じ、筒内入口における吸気流量も振動する。なお、IT5の場合には、吸気弁閉タイミングまでの時間が短いため、筒内圧力及び吸気流量は殆ど振動しない。
【0028】
図3と図2とを対比すると、充填効率が低下する燃料噴射タイミングであるIT3の場合、筒内入口における吸気流量の増減周期と燃料噴射開始から吸気弁閉タイミングまでのクランク角が一致している。
【0029】
図5は、図2と同様に充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図であり、図2より多くの燃料噴射タイミングについて測定した結果を示している。なお、図中に実線A、Bは、それぞれバルブタイミングが異なる場合、つまり吸気弁閉タイミングが異なる場合について示している。また、実線BのIT1−IT5は、図2のIT1−IT5に相当する。
【0030】
図5に示すように、充填効率の増減には周期性があり、IT3が増減曲線の谷にあたる。そして、吸気弁閉タイミングが変わると充填効率の増減曲線の山谷の位置はずれるが、山から次の山までの周期(図5でいうとT1)は変化しない。
【0031】
そこで、充填効率の増減周期の谷にあたらず、筒内入口における吸気流量が多くなるタイミングで燃料噴射すれば、充填効率を向上させることができる。
【0032】
また、筒内入口における吸気流量が多くなるということは、筒内に流入する吸気流速が高いということなので、筒内流動の強化も図れる。ただし、筒内流動強化を目的とする場合には、吸気流量の振動の山が吸気弁閉タイミングにより近いことが望ましい。吸気弁閉タイミングに近ければ点火タイミングまでの時間が短くなるので、筒内流動が維持された状態で点火することができるからである。
【0033】
なお、タンブルコントロールバルブやスワールコントロールバルブといった吸気流動デバイスを備える場合には、吸気流動デバイスの状態によっても充填効率が向上するタイミングが変化する。したがって、吸気流動デバイスの状態毎の、充填効率が向上するタイミングを測定する必要がある。
【0034】
次に、燃料噴射制御について説明する。
【0035】
図6は、コントローラ20が実行する燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、例えば10ミリ秒程度の短いサイクルで繰り返し実行する。以下、ステップにしたがって説明する。
【0036】
ステップS100で、コントローラ20は機関回転数及び要求負荷を読み込む。機関回転数はクランク角センサ22の検出値に基づいて演算したものを読み込む。要求負荷は、アクセル開度センサ21の検出値に基づいて演算したものを読み込む。いずれも公知の手法で演算すればよい。
【0037】
ステップS110で、コントローラ20は目標燃料噴射量及び噴射回数を設定する。目標燃料噴射量は、公知の燃料噴射制御と同様に機関回転数と負荷に基づいてマップ検索等により設定する。噴射回数は、例えば図7のように機関回転数と負荷に基づいて噴射回数を設定したマップを予め作成しておき、これを検索することで設定する。
【0038】
ステップS120で、コントローラ20はバルブタイミングを読み込む。具体的には吸気弁閉タイミングを読み込む。コントローラ20は可変動弁機構の制御も行っているので、現在のバルブタイミングを読み込めばよい。
【0039】
ステップS130で、コントローラ20は最適噴射タイミングを演算する。まず、上述した充填効率の山から山までの周期T_CAを式(1)により算出する。
【0040】
【数1】
【0041】
なお、Bは定数、lはコレクタタンク13出口から筒内入口までのポート長さ、dは同ポートの平均径、Vは燃料噴射時における筒内容積である。
【0042】
この式は、ヘルムホルツレゾネータの共振周波数を算出する式(2)により算出した周波数を、周期(deg.CA)に変換したものである。
【0043】
【数2】
【0044】
なお、Cは音速、Sは上記ポートの断面積である。
【0045】
次に、周期T_CAを用いて式(3)により充填効率の振動周期の山に当たる燃料噴射タイミングIT_ηcを算出する。
【0046】
【数3】
【0047】
なお、α=0.5、1.5、2.5、・・・、Aは定数とする。
【0048】
ステップS140で、コントローラ20はステップS110で設定した噴射回数に応じて、各燃料噴射のタイミングを設定する。以下、燃料噴射タイミングの設定について負荷領域毎に説明する。なお、各燃料噴射の噴射量は、例えば、3段噴射の場合には目標噴射量を3等分した量とし、2段噴射の場合には1回目の噴射量と2回目の噴射量の比が7対3になるようにする。
【0049】
(低中負荷領域)
点火時期を最適点火時期(MBT)とすることが可能な低中負荷領域では、図8(A)に示すように燃料噴射タイミングを設定する。すなわち、1回目の燃料噴射タイミングは、均一度向上のためにできるだけ進角側、例えば40〜90(degATDC)に設定する。筒内の均一度向上のためには、燃料噴射タイミングはできるだけ進角側であることが望ましい。しかし、上死点付近にはノック判定ウィンドウが設定されており、このウィンドウ内で燃料噴射を行うと燃料噴射弁9の作動に伴う音や振動が原因で誤判定するおそれがある。また、燃焼限界やスモーク限界等の制約もある。そこで、これらの制約のもとで、できるだけ進角側ということで、上記のような燃料噴射タイミングを設定する。
【0050】
2回目の燃料噴射タイミングは、1回目の燃料噴射から最小噴射間隔をあけたタイミングに設定する。最小噴射間隔とは、燃料噴射弁9の機構上の制約、例えば前回の燃料噴射終了から次回の燃料噴射が開始可能になるまでの時間、印加電圧がピークになってから噴射開始までの時間、最小噴射パルス幅等、により定まる。低中負荷領域では吸入空気量が相対的に少なく、霧化した燃料と空気とが混合しにくいので、このように2回目の燃料噴射もできるだけ進角側のタイミングに設定することで、混合を促進させて均一度を向上させることができる。
【0051】
3回目の燃料噴射タイミングは、式(3)により定まる燃料噴射タイミングに設定することで、筒内流動の強化を図る。ただし、下死点付近にもノック判定ウィンドウが設定されているので、これを避ける必要がある。
【0052】
2段噴射の場合には、上記の1回目または3回目の噴射タイミングのいずれか一方を選択する。ノッキング発生のおそれが無い領域では、均一度向上と筒内流動強化により燃焼効率、等容度を向上させて、燃費性能を向上させるためである。
【0053】
(高負荷領域)
ノッキング発生のおそれがある高負荷領域では、図8(B)に示すような燃料噴射タイミングを設定する。すなわち、1回目の燃料噴射タイミングは、低中負荷領域と同様に設定する。
【0054】
2回目の燃料噴射タイミングは、式(3)により定まる燃料噴射タイミングに設定することで、吸気流量の増大を図る。
【0055】
3回目の燃料噴射タイミングは、燃料噴射の終了タイミングが下死点付近のノック判定ウィンドウにかからない範囲でできるだけ吸気弁閉タイミングに近い燃料噴射タイミング、例えば140〜240degATDC、を設定する。燃料噴射タイミングを吸気弁閉タイミングに近づけることで、燃料の気化潜熱による冷却効果が大きくなり、ノッキング防止に効果的である。なお、具体的な燃料噴射タイミングは実験等により予め求めておく。
【0056】
2段以下の噴射の場合には、均一度向上の燃料噴射タイミング、冷却効果向上の燃料噴射タイミング、流動性向上の燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。ノッキング発生のおそれがある領域においては、燃焼効率及び等容度の向上の他に、ノッキングを抑制する必要があるためである。
【0057】
(全開領域)
全開領域では、図8(C)に示すような燃料噴射タイミングを設定する。すなわち、1回目の燃料噴射タイミングは、低中負荷領域と同様に設定する。
【0058】
2回目の燃料噴射タイミングは、式(3)により定まる燃料噴射タイミングに設定することで、充填効率の向上を図る。
【0059】
3回目の燃料噴射タイミングは、高負荷領域と同様に冷却効果のための燃料噴射タイミングに設定する。
【0060】
2段以下の噴射の場合には、充填効率向上のための燃料噴射タイミング、冷却効果のための燃料噴射タイミング、均一性向上のための燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。全開領域では、より大きなトルクを発生させるために充填効率を向上させることが最優先されるからである。
【0061】
フローチャートの説明に戻る。
【0062】
ステップS140で、各燃料噴射タイミングを設定したら、ステップS150で燃料噴射を実行する。
【0063】
内燃機関では運転領域毎に必要とされる効果が変化するが、上述した制御ルーチンによれば、各運転領域で必要とされる効果が得られる燃料噴射タイミングを設定することができる。
【0064】
以上のように本実施形態によれば、筒内圧力振動の周波数に基づいて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、多段噴射のいずれかの噴射をその燃料噴射タイミングで燃料噴射する。これにより、充填効率の向上または筒内流動の強化を図ることができる。また、その燃料噴射タイミングを、吸気通路径、コレクタタンクから燃焼室入口までの距離、燃焼室容積、吸気弁閉タイミング、及び機関回転数に基づいて算出するので、簡易的な演算で適切な燃料噴射タイミングを設定できる。
【0065】
また、バルブタイミングを変更すると、充填効率を高めたり筒内流動を強化できる燃料噴射タイミングも変化するが、これらの燃料噴射タイミングを運転状態に応じて演算するので、運転状態が変化する過渡時においても適切な燃料噴射タイミングを設定できる。
【0066】
運転状態によって優先すべき効果が異なるが、均一度向上のための燃料噴射タイミング、冷却効果向上のための燃料噴射タイミング、及び充填効率向上等のための燃料噴射タイミングの組み合わせを、運転状態に応じて切り替えるので、適切な効果が得られる。
【0067】
低中負荷領域では、均一度向上のための燃料噴射タイミングまたは筒内流動強化のための燃料噴射タイミングの少なくとも一方の燃料噴射タイミングに設定する。両方の燃料噴射タイミングで噴射すれば、均一度向上と筒内流動強化を両立させることができる。噴射回数が少ない場合でもいずれかを向上させることができる。
【0068】
高負荷領域では、均一度向上のための燃料噴射タイミング、冷却効果向上のための燃料噴射タイミング、筒内流動強化のための燃料噴射タイミングの優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。これにより均一度を高めるだけでなく、ノッキング発生のおそれがある領域で確実にノッキングを抑制することができる。
【0069】
全開運転では、充填効率向上または筒内流動強化のための燃料噴射タイミング、冷却効果向上のための燃料噴射タイミング、均一度向上のための燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。これにより、より高い出力が要求される領域で、充填効率向上または筒内流動強化により出力を向上させることができる。
【0070】
(第2実施形態)
第2実施形態は、適用する内燃機関1の構成は第1実施形態と同様である。しかし、多段噴射の各燃料噴射タイミングを予めマップ化し、これを検索して設定する点が第1実施形態とは異なる。そこで、燃料噴射タイミングの設定ルーチンについて説明する。
【0071】
図9は、第2実施形態でコントローラ20が実行する燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、例えば10ミリ秒程度の短いサイクルで繰り返し実行する。以下、ステップにしたがって説明する。
【0072】
ステップS200、S210は、それぞれ図6のステップS100、S120と同様なので説明を省略する。
【0073】
ステップS220で、コントローラ20は目標燃料噴射量及び噴射回数を設定し、さらに各燃料噴射タイミングを設定する。目標燃料噴射量と噴射回数の設定については図6のステップS110と同様なので説明を省略する。
【0074】
各燃料噴射タイミングの設定は、予め作成しておいたマップを用いて行う。図10、図11、図12は、それぞれ1回目、2回目、3回目の燃料噴射タイミングを設定するためのマップである。いずれも縦軸は負荷、横軸は機関回転数である。
【0075】
図10のマップは、図7の噴射回数を設定する為のマップに、1回目の燃料噴射としての、均一度向上の為の燃料噴射タイミングを割り付けたものである。1回目の燃料噴射タイミングを、第1実施形態で説明した範囲内の例えば60degATDCとすると、3段噴射、2段噴射のいずれの場合も、第1回目の燃料噴射タイミングを60degATDCに設定する。
【0076】
図11のマップは、2回目の燃料噴射としての充填効率向上または筒内流動強化の為の燃料噴射タイミングを示している。3段噴射の場合には、低回転側へ行くほど燃料噴射タイミングは進角側へずれる。一方、2段噴射の場合には、高回転側へ行くほど燃料噴射タイミングは進角側へずれる。なお、3段噴射の場合、低負荷側の気化燃料と空気とが混合し難い領域(図11中のS1)では、上述した1回目の噴射から最小噴射間隔をあけたタイミングとする。
【0077】
図12のマップは、3回目の燃料噴射としての冷却効果向上の為の燃料噴射タイミングを示している。燃料噴射タイミングは、高回転側へいくほど進角側へずれる。
【0078】
ステップS220で各燃料噴射タイミングを設定したら、ステップS230で燃料噴射を実行する。
【0079】
上記のようにマップを用いることで、第1実施形態に比べて低い演算負荷で運転状態に適した各燃料噴射タイミングを設定することができる。
【0080】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0081】
1 筒内直接噴射火花点火式内燃機関
2 吸気通路
3 排気通路
4 吸気カムシャフト
5 排気カムシャフト
6 吸気バルブ
7 排気バルブ
8 点火栓
9 燃料噴射弁
10 ピストン
11 シリンダ
12 スロットルバルブ
13 コレクタタンク
14 燃焼室
20 コントローラ
21 アクセル開度センサ
22 クランク角センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内に燃料を直接噴射する火花点火式内燃機関の燃料噴射制御として、要求燃料噴射量を複数回に分けて噴射する多段噴射が知られている。例えば、特許文献1では、多段噴射を行うにあたって、ピストンスピードが速い期間中の噴射を禁止している。これにより、タンブル流動が壊されることを防止し、筒内流動を利用して筒内混合気の均一性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筒内直接噴射火花点火式内燃機関の場合、燃料噴射に起因して筒内に圧力振動が生じる。そして、この圧力振動に応じて充填効率が周期的に変動する。
【0005】
しかし、特許文献1では燃料噴射タイミングと圧力振動の関係については言及されていない。したがって、特許文献1の燃料噴射制御装置では、充填効率が相対的に低くなるタイミングで燃料を噴射することになるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明では、多段噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関について、充填効率の向上を図ることができる燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料噴射制御装置は、均質燃焼時に吸気行程から圧縮行程にかけて1回または複数回の燃料噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関の燃料噴射制御装置である。そして、燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、圧力振動により充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、いずれかの燃料噴射を当該燃料噴射タイミングで行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、圧力振動に応じて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、その燃料噴射タイミングで燃料を噴射するので、多段噴射時の充填効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる筒内直接噴射火花点火式内燃機関の構成図である。
【図2】充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図である。
【図3】筒内平均圧力と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。
【図4】筒内入口における吸気流量と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。
【図5】充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図である。
【図6】コントローラが実行する第1実施形態の燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図7】機関回転数と負荷に基づいて噴射回数を設定したマップである。
【図8】(A)は低中負荷領域の燃料噴射タイミングを示す図であり、(B)は高負荷領域の燃料噴射タイミングを示す図であり、(C)は全開領域の燃料噴射タイミングを示す図である。
【図9】コントローラが実行する第2実施形態の燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図10】3段噴射または2段噴射の1段目の燃料噴射タイミングを示すマップである。
【図11】3段噴射または2段噴射の2段目の燃料噴射タイミングを示すマップである。
【図12】3段噴射の3段目の燃料噴射タイミングを示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる筒内直接噴射火花点火式内燃機関(以下、単に「内燃機関1」という)1の一つの気筒について示す構成図である。
【0012】
内燃機関1は、シリンダヘッド1Aとシリンダブロック1Bとを含んで構成されている。シリンダブロック1Bに設けたシリンダ11にはピストン10が往復動可能に収められている。シリンダ11の壁面とピストン10の冠面とシリンダヘッド1Aの下面とで燃焼室14が画成されている。
【0013】
シリンダヘッド1Aには、吸気通路2及び排気通路3が形成されている。吸気通路2及び排気通路3はいずれも燃焼室14に開口しており、それぞれの開口部は吸気弁6、排気弁7により開閉される。吸気弁6と排気弁7はそれぞれ吸気カムシャフト4、排気カムシャフト5により駆動される。なお、吸気カムシャフト4はバルブタイミングを変更し得る可変動弁機構を備える。
【0014】
また、シリンダヘッド1Aには、点火栓8と燃料噴射弁9が燃焼室14に臨むように配置されている。
【0015】
吸気通路2にはコレクタタンク13が介装され、コレクタタンク13の吸気流れ上流側にはスロットルバルブ12が配置されている。
【0016】
スロットルバルブ12の開度制御、燃料噴射弁9の噴射タイミング、噴射量等の燃料噴射制御、及び点火栓8の点火時期制御は、コントローラ20が実行する。
【0017】
コントローラ20は、アクセル開度センサ21やクランク角センサ22等の検出信号に基づいて上記各制御を実行する。コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ20を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0018】
上記のような構成の内燃機関1において、コントローラ20は例えば機関回転数と要求負荷といった運転状態に応じた目標燃料噴射量を設定し、さらに、目標燃料噴射量を噴射するための噴射回数、各噴射のタイミングを設定する。
【0019】
均質燃焼を行う場合に、筒内の混合気の均一度を向上させる等の目的で、1サイクルあたりの目標燃料噴射量を複数回に分けて噴射する多段噴射が知られている。単段噴射の場合、均一度を高めるには、燃料が霧化して空気と混合する時間を長くすること、つまり、吸気上死点に近いクランク角で燃料を噴射することが望ましい。しかし、吸気上死点に近いクランク角で燃料噴射すると火花点火までの時間が長くなり、燃料が気化する際の吸熱反応による冷却効果が低下する。つまり、単段噴射の場合には、均一度向上効果と冷却効果とはトレードオフの関係にある。この点、多段噴射によれば、複数の燃料噴射タイミングのうち2つを吸気上死点に近いタイミングと点火時期に近いタイミングに設定することで、均一度向上と冷却効果とを両立することが可能となる。
【0020】
ところで、燃料噴射タイミングは充填効率とも相関がある。例えば3段噴射の場合に、3回の燃料噴射のうち2回を均一度向上と冷却効果を両立させるために上述したタイミングを設定すると、残りの燃料噴射タイミングによって充填効率が変化する。ここで、充填効率と燃料噴射タイミングの関係について説明する。
【0021】
図2は、充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図である。縦軸は充填効率(%)、横軸は燃料噴射タイミング(deg.CA)であり、TDCは吸気上死点を、IVCは吸気弁閉タイミングを示している。
【0022】
IT1−IT5の5パターンの燃料噴射タイミングでの充填効率を測定したところ、図2に示すように、充填効率はIT1からIT3にかけて徐々に低下し、IT4で上昇している。そして、吸気弁閉時期に近いIT5で再び低下している。
【0023】
このような充填効率の増減の周期は、燃料噴射により生じる圧力振動に起因すると考えられる。
【0024】
図3は筒内平均圧力と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。縦軸は燃料噴射をした場合としない場合との筒内平均圧力(Pa)の差分を示し、横軸は燃料噴射タイミング(deg.CA)を示している。TDCは吸気上死点を示している。IT1−IT5はそれぞれ図2のIT1−IT5の燃料噴射タイミングで燃料噴射した場合について示している。
【0025】
図4は、筒内入口における吸気流量と燃料噴射タイミングとの関係を示す図である。縦軸は燃料噴射をした場合としない場合との筒内入口における吸気流量(m3/s)の差分を示し、横軸は燃料噴射タイミング(deg.CA)を示している。TDCは吸気上死点を示している。IT1−IT5はそれぞれ図2のIT1−IT5の燃料噴射タイミングで燃料噴射した場合について示している。
【0026】
図3に示すように、いずれの燃料噴射タイミングで噴射した場合でも、燃料噴射に伴って筒内平均圧力が燃料噴射しない場合より低くなっている。これは、噴射した燃料の気化潜熱により筒内が冷却されたためと考えられる。
【0027】
そして、図4に示すように、この筒内平均圧力の低下に伴って筒内入口の吸気流量が増加している。その後は、吸気流量の増加に伴う筒内圧力の増大と、筒内圧力の増大に伴う吸気流量の減少を繰り返す。このように燃料噴射に起因して筒内に圧力振動が生じ、筒内入口における吸気流量も振動する。なお、IT5の場合には、吸気弁閉タイミングまでの時間が短いため、筒内圧力及び吸気流量は殆ど振動しない。
【0028】
図3と図2とを対比すると、充填効率が低下する燃料噴射タイミングであるIT3の場合、筒内入口における吸気流量の増減周期と燃料噴射開始から吸気弁閉タイミングまでのクランク角が一致している。
【0029】
図5は、図2と同様に充填効率と燃料噴射タイミングの関係を示す図であり、図2より多くの燃料噴射タイミングについて測定した結果を示している。なお、図中に実線A、Bは、それぞれバルブタイミングが異なる場合、つまり吸気弁閉タイミングが異なる場合について示している。また、実線BのIT1−IT5は、図2のIT1−IT5に相当する。
【0030】
図5に示すように、充填効率の増減には周期性があり、IT3が増減曲線の谷にあたる。そして、吸気弁閉タイミングが変わると充填効率の増減曲線の山谷の位置はずれるが、山から次の山までの周期(図5でいうとT1)は変化しない。
【0031】
そこで、充填効率の増減周期の谷にあたらず、筒内入口における吸気流量が多くなるタイミングで燃料噴射すれば、充填効率を向上させることができる。
【0032】
また、筒内入口における吸気流量が多くなるということは、筒内に流入する吸気流速が高いということなので、筒内流動の強化も図れる。ただし、筒内流動強化を目的とする場合には、吸気流量の振動の山が吸気弁閉タイミングにより近いことが望ましい。吸気弁閉タイミングに近ければ点火タイミングまでの時間が短くなるので、筒内流動が維持された状態で点火することができるからである。
【0033】
なお、タンブルコントロールバルブやスワールコントロールバルブといった吸気流動デバイスを備える場合には、吸気流動デバイスの状態によっても充填効率が向上するタイミングが変化する。したがって、吸気流動デバイスの状態毎の、充填効率が向上するタイミングを測定する必要がある。
【0034】
次に、燃料噴射制御について説明する。
【0035】
図6は、コントローラ20が実行する燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、例えば10ミリ秒程度の短いサイクルで繰り返し実行する。以下、ステップにしたがって説明する。
【0036】
ステップS100で、コントローラ20は機関回転数及び要求負荷を読み込む。機関回転数はクランク角センサ22の検出値に基づいて演算したものを読み込む。要求負荷は、アクセル開度センサ21の検出値に基づいて演算したものを読み込む。いずれも公知の手法で演算すればよい。
【0037】
ステップS110で、コントローラ20は目標燃料噴射量及び噴射回数を設定する。目標燃料噴射量は、公知の燃料噴射制御と同様に機関回転数と負荷に基づいてマップ検索等により設定する。噴射回数は、例えば図7のように機関回転数と負荷に基づいて噴射回数を設定したマップを予め作成しておき、これを検索することで設定する。
【0038】
ステップS120で、コントローラ20はバルブタイミングを読み込む。具体的には吸気弁閉タイミングを読み込む。コントローラ20は可変動弁機構の制御も行っているので、現在のバルブタイミングを読み込めばよい。
【0039】
ステップS130で、コントローラ20は最適噴射タイミングを演算する。まず、上述した充填効率の山から山までの周期T_CAを式(1)により算出する。
【0040】
【数1】
【0041】
なお、Bは定数、lはコレクタタンク13出口から筒内入口までのポート長さ、dは同ポートの平均径、Vは燃料噴射時における筒内容積である。
【0042】
この式は、ヘルムホルツレゾネータの共振周波数を算出する式(2)により算出した周波数を、周期(deg.CA)に変換したものである。
【0043】
【数2】
【0044】
なお、Cは音速、Sは上記ポートの断面積である。
【0045】
次に、周期T_CAを用いて式(3)により充填効率の振動周期の山に当たる燃料噴射タイミングIT_ηcを算出する。
【0046】
【数3】
【0047】
なお、α=0.5、1.5、2.5、・・・、Aは定数とする。
【0048】
ステップS140で、コントローラ20はステップS110で設定した噴射回数に応じて、各燃料噴射のタイミングを設定する。以下、燃料噴射タイミングの設定について負荷領域毎に説明する。なお、各燃料噴射の噴射量は、例えば、3段噴射の場合には目標噴射量を3等分した量とし、2段噴射の場合には1回目の噴射量と2回目の噴射量の比が7対3になるようにする。
【0049】
(低中負荷領域)
点火時期を最適点火時期(MBT)とすることが可能な低中負荷領域では、図8(A)に示すように燃料噴射タイミングを設定する。すなわち、1回目の燃料噴射タイミングは、均一度向上のためにできるだけ進角側、例えば40〜90(degATDC)に設定する。筒内の均一度向上のためには、燃料噴射タイミングはできるだけ進角側であることが望ましい。しかし、上死点付近にはノック判定ウィンドウが設定されており、このウィンドウ内で燃料噴射を行うと燃料噴射弁9の作動に伴う音や振動が原因で誤判定するおそれがある。また、燃焼限界やスモーク限界等の制約もある。そこで、これらの制約のもとで、できるだけ進角側ということで、上記のような燃料噴射タイミングを設定する。
【0050】
2回目の燃料噴射タイミングは、1回目の燃料噴射から最小噴射間隔をあけたタイミングに設定する。最小噴射間隔とは、燃料噴射弁9の機構上の制約、例えば前回の燃料噴射終了から次回の燃料噴射が開始可能になるまでの時間、印加電圧がピークになってから噴射開始までの時間、最小噴射パルス幅等、により定まる。低中負荷領域では吸入空気量が相対的に少なく、霧化した燃料と空気とが混合しにくいので、このように2回目の燃料噴射もできるだけ進角側のタイミングに設定することで、混合を促進させて均一度を向上させることができる。
【0051】
3回目の燃料噴射タイミングは、式(3)により定まる燃料噴射タイミングに設定することで、筒内流動の強化を図る。ただし、下死点付近にもノック判定ウィンドウが設定されているので、これを避ける必要がある。
【0052】
2段噴射の場合には、上記の1回目または3回目の噴射タイミングのいずれか一方を選択する。ノッキング発生のおそれが無い領域では、均一度向上と筒内流動強化により燃焼効率、等容度を向上させて、燃費性能を向上させるためである。
【0053】
(高負荷領域)
ノッキング発生のおそれがある高負荷領域では、図8(B)に示すような燃料噴射タイミングを設定する。すなわち、1回目の燃料噴射タイミングは、低中負荷領域と同様に設定する。
【0054】
2回目の燃料噴射タイミングは、式(3)により定まる燃料噴射タイミングに設定することで、吸気流量の増大を図る。
【0055】
3回目の燃料噴射タイミングは、燃料噴射の終了タイミングが下死点付近のノック判定ウィンドウにかからない範囲でできるだけ吸気弁閉タイミングに近い燃料噴射タイミング、例えば140〜240degATDC、を設定する。燃料噴射タイミングを吸気弁閉タイミングに近づけることで、燃料の気化潜熱による冷却効果が大きくなり、ノッキング防止に効果的である。なお、具体的な燃料噴射タイミングは実験等により予め求めておく。
【0056】
2段以下の噴射の場合には、均一度向上の燃料噴射タイミング、冷却効果向上の燃料噴射タイミング、流動性向上の燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。ノッキング発生のおそれがある領域においては、燃焼効率及び等容度の向上の他に、ノッキングを抑制する必要があるためである。
【0057】
(全開領域)
全開領域では、図8(C)に示すような燃料噴射タイミングを設定する。すなわち、1回目の燃料噴射タイミングは、低中負荷領域と同様に設定する。
【0058】
2回目の燃料噴射タイミングは、式(3)により定まる燃料噴射タイミングに設定することで、充填効率の向上を図る。
【0059】
3回目の燃料噴射タイミングは、高負荷領域と同様に冷却効果のための燃料噴射タイミングに設定する。
【0060】
2段以下の噴射の場合には、充填効率向上のための燃料噴射タイミング、冷却効果のための燃料噴射タイミング、均一性向上のための燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。全開領域では、より大きなトルクを発生させるために充填効率を向上させることが最優先されるからである。
【0061】
フローチャートの説明に戻る。
【0062】
ステップS140で、各燃料噴射タイミングを設定したら、ステップS150で燃料噴射を実行する。
【0063】
内燃機関では運転領域毎に必要とされる効果が変化するが、上述した制御ルーチンによれば、各運転領域で必要とされる効果が得られる燃料噴射タイミングを設定することができる。
【0064】
以上のように本実施形態によれば、筒内圧力振動の周波数に基づいて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、多段噴射のいずれかの噴射をその燃料噴射タイミングで燃料噴射する。これにより、充填効率の向上または筒内流動の強化を図ることができる。また、その燃料噴射タイミングを、吸気通路径、コレクタタンクから燃焼室入口までの距離、燃焼室容積、吸気弁閉タイミング、及び機関回転数に基づいて算出するので、簡易的な演算で適切な燃料噴射タイミングを設定できる。
【0065】
また、バルブタイミングを変更すると、充填効率を高めたり筒内流動を強化できる燃料噴射タイミングも変化するが、これらの燃料噴射タイミングを運転状態に応じて演算するので、運転状態が変化する過渡時においても適切な燃料噴射タイミングを設定できる。
【0066】
運転状態によって優先すべき効果が異なるが、均一度向上のための燃料噴射タイミング、冷却効果向上のための燃料噴射タイミング、及び充填効率向上等のための燃料噴射タイミングの組み合わせを、運転状態に応じて切り替えるので、適切な効果が得られる。
【0067】
低中負荷領域では、均一度向上のための燃料噴射タイミングまたは筒内流動強化のための燃料噴射タイミングの少なくとも一方の燃料噴射タイミングに設定する。両方の燃料噴射タイミングで噴射すれば、均一度向上と筒内流動強化を両立させることができる。噴射回数が少ない場合でもいずれかを向上させることができる。
【0068】
高負荷領域では、均一度向上のための燃料噴射タイミング、冷却効果向上のための燃料噴射タイミング、筒内流動強化のための燃料噴射タイミングの優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。これにより均一度を高めるだけでなく、ノッキング発生のおそれがある領域で確実にノッキングを抑制することができる。
【0069】
全開運転では、充填効率向上または筒内流動強化のための燃料噴射タイミング、冷却効果向上のための燃料噴射タイミング、均一度向上のための燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する。これにより、より高い出力が要求される領域で、充填効率向上または筒内流動強化により出力を向上させることができる。
【0070】
(第2実施形態)
第2実施形態は、適用する内燃機関1の構成は第1実施形態と同様である。しかし、多段噴射の各燃料噴射タイミングを予めマップ化し、これを検索して設定する点が第1実施形態とは異なる。そこで、燃料噴射タイミングの設定ルーチンについて説明する。
【0071】
図9は、第2実施形態でコントローラ20が実行する燃料噴射制御のルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、例えば10ミリ秒程度の短いサイクルで繰り返し実行する。以下、ステップにしたがって説明する。
【0072】
ステップS200、S210は、それぞれ図6のステップS100、S120と同様なので説明を省略する。
【0073】
ステップS220で、コントローラ20は目標燃料噴射量及び噴射回数を設定し、さらに各燃料噴射タイミングを設定する。目標燃料噴射量と噴射回数の設定については図6のステップS110と同様なので説明を省略する。
【0074】
各燃料噴射タイミングの設定は、予め作成しておいたマップを用いて行う。図10、図11、図12は、それぞれ1回目、2回目、3回目の燃料噴射タイミングを設定するためのマップである。いずれも縦軸は負荷、横軸は機関回転数である。
【0075】
図10のマップは、図7の噴射回数を設定する為のマップに、1回目の燃料噴射としての、均一度向上の為の燃料噴射タイミングを割り付けたものである。1回目の燃料噴射タイミングを、第1実施形態で説明した範囲内の例えば60degATDCとすると、3段噴射、2段噴射のいずれの場合も、第1回目の燃料噴射タイミングを60degATDCに設定する。
【0076】
図11のマップは、2回目の燃料噴射としての充填効率向上または筒内流動強化の為の燃料噴射タイミングを示している。3段噴射の場合には、低回転側へ行くほど燃料噴射タイミングは進角側へずれる。一方、2段噴射の場合には、高回転側へ行くほど燃料噴射タイミングは進角側へずれる。なお、3段噴射の場合、低負荷側の気化燃料と空気とが混合し難い領域(図11中のS1)では、上述した1回目の噴射から最小噴射間隔をあけたタイミングとする。
【0077】
図12のマップは、3回目の燃料噴射としての冷却効果向上の為の燃料噴射タイミングを示している。燃料噴射タイミングは、高回転側へいくほど進角側へずれる。
【0078】
ステップS220で各燃料噴射タイミングを設定したら、ステップS230で燃料噴射を実行する。
【0079】
上記のようにマップを用いることで、第1実施形態に比べて低い演算負荷で運転状態に適した各燃料噴射タイミングを設定することができる。
【0080】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0081】
1 筒内直接噴射火花点火式内燃機関
2 吸気通路
3 排気通路
4 吸気カムシャフト
5 排気カムシャフト
6 吸気バルブ
7 排気バルブ
8 点火栓
9 燃料噴射弁
10 ピストン
11 シリンダ
12 スロットルバルブ
13 コレクタタンク
14 燃焼室
20 コントローラ
21 アクセル開度センサ
22 クランク角センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
均質燃焼時に吸気行程から圧縮行程にかけて1回または複数回の燃料噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関の燃料噴射制御装置において、
燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、前記圧力振動に応じて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、いずれかの燃料噴射を当該燃料噴射タイミングで行うことを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングを、吸気通路径、コレクタタンクから燃焼室入口までの距離、燃焼室容積、吸気弁閉タイミング、及び機関回転数に基づいて算出する請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングを予め算出して作成したマップを有し、運転状態に応じて前記マップを検索することによって燃料噴射タイミングを設定する請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングを、運転状態に応じて演算することによって燃料噴射タイミングを設定する請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
筒内の混合気の均一度を向上させるための燃料噴射タイミング、燃料の気化潜熱による冷却効果を向上させるための燃料噴射タイミング、及び前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングの組み合わせを、運転状態に応じて切り替える請求項1から4のいずれかに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記筒内直接噴射火花点火式内燃機関が低中負荷領域の場合は、前記均一度を向上させるための燃料噴射タイミングまたは前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングの少なくとも一方の燃料噴射タイミングに設定する請求項5に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記筒内直接噴射火花点火式内燃機関が高負荷領域の場合は、前記均一度を向上させるための燃料噴射タイミング、前記燃料の気化潜熱による冷却効果を向上させるための燃料噴射タイミング、前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングの優先順位で燃料噴射タイミングを設定する請求項5または6に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記筒内直接噴射火花点火式内燃機関が全開運転の場合は、前記充填効率が向上する燃料噴射タイミング、前記燃料の気化潜熱による冷却効果を向上させるための燃料噴射タイミング、前記均一度を向上させるための燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する請求項5から7のいずれかに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項1】
均質燃焼時に吸気行程から圧縮行程にかけて1回または複数回の燃料噴射を行う筒内直接噴射火花点火式内燃機関の燃料噴射制御装置において、
燃料噴射に伴い筒内に生じる圧力振動の、筒内容積に基づいて定まる周波数に基づいて、前記圧力振動に応じて充填効率が向上する燃料噴射タイミングを算出し、いずれかの燃料噴射を当該燃料噴射タイミングで行うことを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングを、吸気通路径、コレクタタンクから燃焼室入口までの距離、燃焼室容積、吸気弁閉タイミング、及び機関回転数に基づいて算出する請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングを予め算出して作成したマップを有し、運転状態に応じて前記マップを検索することによって燃料噴射タイミングを設定する請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングを、運転状態に応じて演算することによって燃料噴射タイミングを設定する請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
筒内の混合気の均一度を向上させるための燃料噴射タイミング、燃料の気化潜熱による冷却効果を向上させるための燃料噴射タイミング、及び前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングの組み合わせを、運転状態に応じて切り替える請求項1から4のいずれかに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記筒内直接噴射火花点火式内燃機関が低中負荷領域の場合は、前記均一度を向上させるための燃料噴射タイミングまたは前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングの少なくとも一方の燃料噴射タイミングに設定する請求項5に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記筒内直接噴射火花点火式内燃機関が高負荷領域の場合は、前記均一度を向上させるための燃料噴射タイミング、前記燃料の気化潜熱による冷却効果を向上させるための燃料噴射タイミング、前記充填効率が向上する燃料噴射タイミングの優先順位で燃料噴射タイミングを設定する請求項5または6に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記筒内直接噴射火花点火式内燃機関が全開運転の場合は、前記充填効率が向上する燃料噴射タイミング、前記燃料の気化潜熱による冷却効果を向上させるための燃料噴射タイミング、前記均一度を向上させるための燃料噴射タイミング、の優先順位で燃料噴射タイミングを設定する請求項5から7のいずれかに記載の燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−29070(P2013−29070A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165595(P2011−165595)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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