説明

燃料噴射弁

【課題】可動弁とバルブシートとの衝突による作動音の発生と両者の摩耗を、シール径を拡大することなく同時に解決できる燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】燃料噴射孔8が穿設されたバルブシート5を有するバルブボディ2と、バルブボディ2内にて燃料噴射孔8を開閉する可動弁20と、電子力を発生するソレノイドコイル12と、可動弁20をフローティング状に支持する板バネ21と、可動弁20の先端面20gに配されたシール部材23とを有する。シール部材23には、先端面20gの外径よりも小径かつ燃料噴射孔8の内径よりも大径で、先端面20gよりも突出する環状の凸部23aが形成されており、当該凸部23aの外側に、可動弁20とバルブシート5との衝突を緩和する弾性部材25・40・41が配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス燃料や水素ガス燃料などの気体燃料を内燃機関または燃料電池システムに供給する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射弁は、筒状のバルブボディ内に配された可動弁をソレノイドコイルの電磁作用によって可動させることで燃料噴射孔を開閉するよう構成されている。例えば燃料噴射孔が穿設されたバルブシートを含むバルブボディと、バルブボディ内にて軸方向に往復運動して燃料噴射孔を開閉する可動弁と、電磁力によって可動弁を可動するソレノイドコイルと、可動弁をバルブボディ内でフローティング状に支持する弾性変形可能な板バネと、燃料噴射孔に対向する可動弁の先端面に配されたシール部材とを有する燃料噴射弁として、本出願人による特許文献1および特許文献2がある。また、可動弁を電磁作用によって可動させて燃料噴射孔を開閉している燃料噴射弁として、他に特許文献3もある。
【0003】
可動弁は電磁力を受けて往復運動するので、磁性金属により形成されている。一方、バルブボディを構成する燃料噴射孔が穿設されたバルブシートは、電磁力による可動弁の往復運動を阻害しないよう非磁性金属により形成されている。そのため、可動弁が往復運動してバルブシートとメタルタッチすると、大きな衝撃音が発生して燃料噴射弁の作動音が大きくなると共に、可動弁やバルブシートが摩耗してしまうという問題を有する。そこで特許文献1および特許文献2では、図15に示すごとく可動弁100の先端面100aに弾性体101を配している。この弾性体101は、本発明におけるシール部材に相当し、可動弁100の先端面100aの外径よりも小径かつ燃料噴射孔102の内径よりも大径で、可動弁100の先端面100aよりも突出する環状の凸部101aを有しており、可動弁100とバルブシート103との衝撃緩衝機能と、燃料噴射孔102のシール機能とを兼ね備えている。なお、特許文献1および特許文献2のバルブシート103はステンレス製であり、燃料噴射孔102には絞り部が形成されている。
【0004】
また、ガス燃料用の燃料噴射弁である特許文献1および特許文献2では、液体燃料を供給する場合に比べてバルブボディ内の潤滑性が劣るので、可動弁100の円滑な往復運動を担保すべく、可動弁100をバルブボディに対してフローティング状態に板バネ104で支持している。当該板バネ104は、これの中央部に可動弁100を挿通可能な挿通孔を有する外形円形部材であり、その内周縁に沿って配された弾性体105を介して可動弁100の外周に締まり嵌めされている。また、板バネ104の挿通孔は図15に示すように真円形であり、可動弁100には弾性体105の摩擦力によって止着されているのみである(図16参照)。
【0005】
また、金属製の可動弁100は同じく金属製のバルブボディ内を往復運動し、燃料噴射孔102の開弁方向への移動限界は、バルブボディ内に配された金属製のストッパ106によって規制されている。このとき、可動弁100が理想的な軸方向での直線運動をすれば、基本的にはバルブボディ内においてバルブシート103とストッパ106以外の部材とは接触しないように設計されている。しかし、実際には図16に示すように、外部からの振動や電磁力のばらつきなどによって可動弁100の往復運動軸はブレることが多く、可動弁100は傾斜状態で往復運動することが多い。この場合、金属製の可動弁100やバルブシート103、およびストッパ106などが摩耗してしまう問題が生じる。そこで特許文献3では、可動弁100とこれに接触し得るバルブボディやストッパ106などの表面に、耐摩耗性に優れる窒化層200を形成している。なお、特許文献1ないし特許文献3の燃料噴射弁は、そのバルブボディの構成部材として、電磁力発生手段107からの電磁力を直接受けるコア(固定鉄心)108を含む。そして、電磁力発生手段107によって電磁力が発生されると、可動弁100がコア108に引き寄せられることで燃料噴射孔102が開弁されることになる。
【0006】
【特許文献1】特許第3718035号公報
【特許文献2】特開2000−249022号公報
【特許文献3】再表2003−042526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2の燃料噴射弁では、図15に示すごとく可動弁100の先端面100aに配されている弾性体101は、当該可動弁100の先端面100aの外径よりも小径に設計されているので、これよりも外周側、すなわち可動弁100の先端面100aにおける外周縁は可動弁100が露出している。このような形態でも、可動弁100が理想的な軸方向での直線運動をしている限りは、弾性体101が可動弁100よりも先にバルブシート103に衝突し弾性変形するので、有効に可動弁100とバルブシート103との衝突衝撃を緩衝し得る。しかし、可動弁100は板バネ104によってフローティング状に支持されているので、実際には燃料噴射弁を搭載した車両の走行時の外部からの振動や電磁力のばらつきなどによって往復運動軸がブレて、可動弁100が傾斜状態で往復運動することが多い。しかも、一旦可動弁100の往復運動軸がブレてしまうと、稼動中に直線運動に修正されることはない。この場合、図16に示すごとく可動弁100の外周縁が弾性体101に先行してバルブシート103と衝突してしまい、可動弁100やバルブシート103が摩耗してしまうという問題があった。特に、このような燃料噴射弁を燃料電池システムに高圧の水素ガスを供給する装置として採用した場合、高圧に対応するべく可動弁の質量およびその吸引力(電磁力)を増大する必要があるが、その場合は上記問題がより顕在化する可能性がある。
【0008】
これを解決するためには、弾性体101の凸部101aが可動弁100の先端面100aの外周縁にくるように設計することが考えられる。しかし、可動弁100はコイルスプリングなどの弾性体によって常時閉弁方向へ付勢されており、この付勢力とシール面積に燃料圧力が作用する荷重とによって燃料噴射弁に対して閉弁力が作用する。したがって、弾性体101の凸部101aの直径を大きくしてシール面積が大きくなると、その分可動弁に作用する燃料圧力の受圧面積が大きくなる。そうすると、これに伴い可動弁100を開弁方向へ移動させるための電磁力も大きくする必要がある。これを達成するためには、電磁力発生手段(ソレノイドコイル)107の大型化が必要となるという新たな問題が生じてしまう。
【0009】
特許文献1および特許文献2の燃料噴射弁では、可動弁100をフローティング状に支持する板バネ104の内周縁の形状、すなわち弾性体105の径方向視での形状は真円形なので(図15参照)、可動弁100が板バネ104内で周方向に回転してしまい、燃料の流量が変動してしまうおそれがあった。また、板バネ104を、これの内周縁に沿って配した弾性体105の摩擦力によって可動弁100の外周に締り嵌めしているのみなので(図16参照)、高速で往復運動する可動弁100が抜け外れるおそれもあった。
【0010】
特許文献3の燃料噴射弁では、表面に耐摩耗性に優れる窒化層200を形成することで可動弁100の摩耗を効果的に防止しているが、当該窒化層200は可動弁100の表面全体に形成されている。しかし、窒化層200は非磁性層である。したがって、特許文献3では可動弁100におけるコア108との対向面にも窒化層200が形成されているので、コア108と可動弁100との間の磁性ギャップ(非磁性距離)は、図17に示すように、コア108と可動弁100との間の距離Sと窒化層200の厚みSとの和であるSとなる。例えばコア108と可動弁100との間の隙間を30μmとし、可動弁100の表面に厚さ20μmの窒化層を設けたとき、その磁性ギャップは50μmとなる。これでは、窒化層200を設けたことによって当該窒化層200の厚みSの分だけ磁性ギャップが大きくなり、コア108から可動弁100へ作用する電磁力すなわち可動弁100の吸引力が阻害されてしまう。
【0011】
そこで本発明は上記課題を解決するものであって、本発明の目的は、可動弁とバルブシートとの衝突による作動音の発生と両者の摩耗を、シール径を拡大することなく同時に解決できる燃料噴射弁を提供することにある。本発明の目的は、可動弁がこれをフローティング状に支持する板バネ内で回転することがなく、かつ可動弁が板バネから抜け外れることのない燃料噴射弁を提供することにある。本発明の目的は、可動弁の表面に耐摩耗性に優れる窒化層を形成しながら、電磁力の磁性ギャップが小さい燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、燃料噴射孔を有するバルブボディと、前記バルブボディ内にて軸方向に往復運動して前記燃料噴射孔を開閉する可動弁と、電磁力によって前記可動弁を可動する電磁力発生手段と、前記可動弁を前記バルブボディ内でフローティング状に支持する弾性変形可能な支持部材と、前記可動弁の先端面に配されたシール部材とを有する燃料噴射弁において、以下のような構成とした。
【0013】
まず、可動弁とバルブシートとの衝突音の発生と両者の摩耗を回避することに関し、前記バルブボディは、前記燃料噴射孔が穿設されたバルブシートを含んでおり、前記シール部材には、前記可動弁の先端面の外径よりも小径かつ前記燃料噴射孔の内径よりも大径で、前記可動弁の先端面よりも突出しシール部を形成する環状の凸部が形成されている。そのうえで、前記シール部材の凸部の外側に、前記可動弁と前記バルブシートとの衝突を緩和する弾性部材が配されている(請求項1)。
弾性部材がシール部材の凸部の外側に位置している構成であれば、当該弾性部材は可動弁に直接設けてもよいし、可動弁とバルブシートとの間に別体として介在させてあってもよい。また、可動弁とバルブシートとの衝突を緩和するとは、可動弁がバルブシートに衝突する際の荷重を直接的または間接的に軽減することを意味する。したがって、ここでの「緩和」には、弾性部材を可動弁に直接設けることで可動弁とバルブシートとの衝突を直接緩和する、すなわち可動弁とバルブシートとの衝突を「緩衝」する場合も含む概念である。また、可動弁の「先端面」とは、発明の詳細な説明において詳説するが、燃料流動方向を基準とした「前方先端」を意味する。
【0014】
前記可動弁がバルブシートに当接して前記凸部でシール部が形成された閉弁状態において、前記可動弁と前記バルブシートとの間には、前記弾性部材の外側から前記シール部材側へ燃料が連通可能な通気部を確保しておくことが好ましい(請求項2)。
この場合、当該通気部は1つの弾性部材を使用してこれに溝を設けたり、複数の弾性部材を互いに間隔を空けて配置したりするだけでなく、例えばスプリングなど使用する弾性部材によっては本来的に通気部が確保されていてもよい。
【0015】
このような構成として、例えば前記弾性部材をゴムで形成し、前記可動弁の先端面よりも突出するように、前記可動弁の先端面の外周縁に周回状に配すことができる。このとき、少なくとも前記可動弁の先端面の外周縁の一部には、前記可動弁を露出させておく(請求項3)。
弾性部材およびシール部材の凸部は、可動弁の先端面よりも突出しているので燃料噴射孔の閉弁状態ではガス圧などによってバルブシートと密着するが、可動弁とバルブシートとは密着することはない。これにより、可動弁の露出部分が必然的に通気部となる。可動弁の露出部分は1箇所でもよく複数箇所でもよい。少なくとも外周縁の一部において可動弁を露出させるには、例えば環状の弾性部材の一部を切り欠いてC字状にしたり、複数の弾性部材を互いに間隔を空けて環状に配すことができる。
【0016】
その中でも、前記弾性部材を前記可動弁の先端面の外周縁に分割して配すことで、前記通気部を複数箇所形成しておくことが好ましい(請求項4)。
但し、配設個数や配設間隔は特に制限されない。また、各弾性部材の配設パターンは等間隔であると不等間隔であるとを問わない。
【0017】
弾性部材を複数個に分割して配す場合は、前記可動弁の先端面における径方向中心を基準として、前記弾性部材が配されている領域に対向する領域は、前記可動弁が露出させておくとよい(請求項5)。
すなわち、可動弁の先端面において、その外周縁の一端とこれに径方向中心を基準として相対向する他端とで、露出している素材を異ならせてある。
【0018】
前記バルブシートは、制振金属で形成することが好ましい(請求項6)。
【0019】
次に、可動弁の抜け外れや回転の防止に関して、前記支持部材は、これの中央部に前記可動弁を挿通可能な挿通孔を有する板バネであり、該板バネは、これの内周縁に沿って配された弾性体を介して前記可動弁の外周に締まり嵌められている。そのうえで、前記板バネの内周縁の形状と、前記板バネが締まり嵌められる部分の前記可動弁の外形とが、互いに相似する非真円形とされている(請求項7)。
板バネの内周縁の形状などが非真円形としては、例えば三角形や四角形のような多角形の他に、楕円形や波状円形などもある。
【0020】
また、前記可動弁の外周面には、前記板バネの内周縁に沿って配された弾性体の厚みと同じ幅の溝が形成されており、前記板バネが前記溝内に締り嵌められている(請求項8)。
板バネを締まり嵌める部分となる溝は、可動弁の外周面を径方向内方に向けて凹み形成したり、板バネを締まり嵌める部分の上下または下方を径方向外方に向けて突出させて形成することもできる。
【0021】
このとき、前記板バネの内周縁に沿って配される弾性体の内側形状を、径方向内側へ湾曲する円弧状としたり(請求項9)、傾斜面としたり(請求項10)することが好ましい。
【0022】
さらに、可動弁の表面に窒化層を形成することに関して、前記バルブボディは、前記電磁力発生手段の電磁力によって前記可動弁を引き寄せるコアを含んでおり、前記可動弁は磁性材からなる。そのうえで、前記可動弁の表面に、前記コアとの対向面を除いて全体的に窒化層が形成されている(請求項11)。
窒化層とは、可動弁を形成する素材を窒素と反応させて窒素化合物が形成された層(被膜)をいう。
【0023】
このとき、前記バルブボディ内の前記可動弁と接触し得る部材の表面にも、前記コアの前記可動弁との対抗面を除いて窒化層を形成しておくことが好ましい(請求項12)。
可動弁との対向面に窒化層を形成する部材としては、バルブボディを構成する部材のうち可動弁が往復運動する際にこれと接触し得る構成部材であれば全て含まれる。
【0024】
なお、前記可動弁には、これが開弁位置または閉弁位置にあるときに前記バルブボディと密着する弾性体が配されている。そして、該弾性体の配設部位には、前記窒化層を形成しないことが好ましい(請求項13)。
ここでの弾性体は、可動弁がバルブボディ内で往復運動して、その往復移動限界位置にきたときに可動弁とバルブボディとが衝突する際の衝撃を緩衝するための部材である。したがって、ここでの弾性体には、上述した可動弁の先端面に配されたシール部材も含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、可動弁とバルブシートとの間に、可動弁の先端面に配したシール部材に加えて別の弾性部材も介在させているので、シール部材の衝撃緩衝機能との相乗効果により、可動弁とバルブシートとが衝突する際の衝撃をさらに緩和させることができ、以って可動弁およびバルブシートの摩耗を軽減させることができる。また、この弾性部材はシール部材の凸部の外側に配しているので、可動弁が傾斜状に往復運動してその外周縁がシール部材に先行してバルブシートに接触し得る場合でも、当該外周縁での衝撃も有効に緩和させることができる。可動弁とバルブシートとの衝撃が緩和されれば、燃料噴射弁の作動音も低減される(請求項1)。
【0026】
可動弁とバルブシートとの間に、閉弁状態でも弾性部材の外側からシール部材側へ燃料が連通可能な通気部を確保しておけば、当該弾性部材がシール部材として機能することはない。したがって、従来から配されていたシール部材が、そのまま本来のシール機能を発揮する。これによれば、シール部材の外側に弾性部材を配してもシール径が拡大することがないので、燃料からの受圧面積も拡大することもない。而して、電磁力を増大させることなく、可動弁とバルブシートとが衝突する際の衝撃を緩和させることができる(請求項2)。
【0027】
弾性部材を可動弁の先端面の外周縁に周回状に配しておけば、可動弁が傾斜状態で往復運動しても、可動弁の外周縁が直接バルブシートと接触することがないので、可動弁およびバルブシートの摩耗を確実に防止することができる。また、弾性部材を可動弁の先端面よりも突出させておけば、より確実に可動弁に先行してバルブシートと接触させることができる。可動弁が閉弁位置にあるとき、少なくとも可動弁の外周縁の一部に形成された可動弁露出領域がバルブボディと密着することはない。これにより、可動弁露出領域が必然的に通気部となるので、わざわざ弾性部材に通気部を形成する必要はない。また、弾性部材としてゴムを使用していれば、ゴムを可動弁に焼付け形成することでシール部材と同時に型成形できるので、形状寸法精度が向上すると共に、製造コストも低減できる(請求項3)。
【0028】
弾性部材を分割して配しておけば、必然的に通気部が複数箇所形成されるので、確実に弾性部材の外側からシール部材側へ燃料を連通させることができる。すなわち、より確実にシール部材で本来的なシール機能を発揮させて、電磁力増大の必要性を避けることができる(請求項4)。
【0029】
可動弁の先端面における径方向中心を基準として、弾性部材が配されている領域に対向する領域を可動弁の露出領域としておけば、効率良く可動弁およびバルブシートの摩耗を軽減させることができる。
すなわち、可動弁は高速で往復運動し、何万回という単位でバルブシートとの衝突を繰り返す。そして、可動弁が傾斜状態で往復運動する場合は、外周縁の一端がバルブシートと衝突したとき、その反発力によって往復運動軸が反転し、次回は径方向中心を基準として対向する他端がバルブシートと衝突することになる。したがって、可動弁の先端面において、その外周縁の一端とこれに径方向中心を基準として相対向する他端とで露出している素材が同じであれば、たまたま可動弁が露出している部分が最初にバルブシートと衝突すれば、次回も反対側の可動弁露出部分がバルブシートと衝突することになり、弾性部材を配した意義が没却されてしまう。これに対し、可動弁の先端面において、その外周縁の一端とこれに径方向中心を基準として相対向する他端とで露出している素材を異ならせてあれば、最初に可動弁がバルブシートと直接衝突しても、次回は確実に弾性体がバルブシートと衝突することになるので、上記のような問題はない。
また、可動弁とバルブシートとは高剛性部材で形成されているので、両者の衝突による反発力も大きい。したがって、可動弁とバルブシートとが直接衝突した場合は、その反発力も相俟って次回の衝突時の衝撃力が大きくなってしまう。しかし、可動弁の先端面において、その外周縁の一端とこれに径方向中心を基準として相対向する他端とで露出している素材を弾性部材と可動弁とで異ならせてあれば、仮に最初に可動弁がバルブシートと直接衝突しても、次回は弾性部材がバルブシートと衝突することになるので、その衝撃力が緩衝されると共に反発力も大幅に減衰される。これにより、次回の衝突時における衝撃力も大きく減衰するので、可動弁およびバルブシートの摩耗を有効に軽減させることができる。この効果は、特に燃料噴射弁の稼動を停止した場合に大きい(請求項5)。
【0030】
バルブシートを制振金属で形成しておけば、可動弁との衝突によるバルブシートの振動の伝達が抑えられるので、燃料噴射弁の作動音を抑えることができる(請求項6)。
【0031】
板バネの内周縁の形状と板バネが締まり嵌められる部分の可動弁の外形とを非真円形としていれば、少なくとも1箇所に角部が形成されているので、可動弁が板バネ内で回転することはない。これにより、流量変動が生じることがないことから燃料の安定供給が可能であると共に、可動弁の摩耗も避けることができる。また、板バネの内周縁と可動弁の外形とを互いに相似形状としていれば、板バネの内周縁に沿って配された弾性体を的確に可動弁に密着させることができるので、可動弁が板バネ内でガタつくこともない(請求項7)。
【0032】
板バネが可動弁の外周に設けた溝内に締り嵌められていれば、確実に可動弁が板バネから抜け外れることを防止できる(請求項8)。
【0033】
板バネの内周縁に沿って配される弾性体の内側形状を、径方向内側へ湾曲する円弧状としていれば、弾性体が可動弁の外周面を摺動し易くなるので、板バネの嵌め込み操作が容易となる(請求項9)。
【0034】
板バネの内周縁に沿って配される弾性体の内側形状を傾斜面していれば、板バネの嵌め込み操作が容易となることに加え、さらに傾斜面の先端が可動弁の溝に引っかかるので、より確実に可動弁の抜け外れを防止することができる(請求項10)。
【0035】
窒化層は耐摩耗性および耐食性に優れるので、可動弁の表面の全体的に窒化層を形成しておけば、有効に可動弁の摩耗や腐食を軽減させることができる。空気や気体燃料は非磁性層である。したがって、可動弁が電磁力発生手段からの電磁力によってコアに吸引されるとき、図17のように可動弁とコアとの隙間Sが磁性ギャップとなるので、可動弁とコアとの隙間が大きければその分電磁力が作用し難くなり、可動弁の吸引力も低下する。そのうえ、窒化層も非磁性層なので、可動弁とコアとの間に窒化層が介在していると、当該窒化層の厚みSも磁性ギャップとなる。そこで、可動弁の表面のうちコアとの対向面に窒化層を設けていなければ、コアと可動弁との間の最終的な磁性ギャップSが大きくなることなく可動弁の摩耗を効率良く軽減させることができる(請求項11)。
【0036】
また、バルブボディを構成する部材のうち、コアの可動弁との対抗面を除いた可動弁と接触し得る部材の表面にも窒化層を形成しておけば、磁性ギャップが大きくなることなくバルブボディの摩耗も軽減させることができる(請求項12)。
【0037】
また、弾性体の配設部位に窒化層を形成していなければ、可動弁と弾性体との結合不良を防止できる(請求項13)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
(実施例)
以下、本発明の実施例につき、図1〜6を参照しつつ具体的に説明する。実施例の流体用制御弁は、燃料電池自動車に搭載され燃料電池に水素ガス燃料を供給したり、CNG自動車に搭載され天然ガス燃料を内燃機関に供給したりする、気体燃料用の噴射弁として好適に用いられる。図1は、燃料噴射弁1の全体構成を示す断面図である。図1において燃料噴射弁1は、磁性材からなるほぼ円筒状のバルブボディ2を有する。バルブボディ2は、アッパボディ3と、該アッパボディ3に圧入嵌合されたロアボディ4と、該ロアボディ4に圧入嵌合されたバルブシート5と、アッパボディ3内の中央部に挿入配置された円筒状のコア6と、ロアボディ4とコア6との間に配された鍔付リング7とを有する。そして、バルブシート5の中央部に燃料噴射孔8が貫通状に穿設されており、ロアボディ4内であってバルブシート5の燃料流動方向上流側に、燃料噴射孔8を開閉する可動弁20が往復運動可能に配されている。アッパボディ3、ロアボディ4、コア6、および可動弁20は磁性材からなるが、鍔付リング7は、ソレノイドコイル12の可動弁20に対する電磁力の作用を効率的に行わせるべく非磁性材からなる。
【0039】
なお、詳しくは後述するが、本実施例の燃料噴射弁1では、図外のガスボンベに圧縮封入された水素ガスなどの気体燃料が、コア6から可動弁20内を通ってバルブシート5の燃料噴射孔8へ流通していくように構成されている。したがって、本発明の説明では、適宜燃料流動方向の上流側に位置しているコア6側(図1において上方)を後方と言い、燃料流動方向下流側に位置しているバルブシート5側(図1において下方)を前方と言うことがある。特に、燃料噴射孔8と対向する可動弁20の燃料流動方向下流側端面が、可動弁20の先端面となる。
【0040】
アッパボディ3とコア6との間には、ほぼ円筒状のボビン11が配置されている。ボビン11は合成樹脂などの電気絶縁材からなり、これの外周にソレノイドコイル12が多層状に巻かれている。ボビン11にはターミナル13が接合されており、当該ターミナル13がソレノイドコイル12と電気的に接続されている。アッパボディ3の外周領域には、ターミナル13を取り囲むソケット部14aを有する受電用コネクタ14が設けられており、ソケット部14aに制御装置の給電用コネクタ(図示せず)が接続され、制御装置によりソレノイドコイル12に対する通電および遮電が制御される。給電用コネクタから受電用コネクタ14を介してボビン11に巻装されたソレノイドコイル12に通電されると電磁力が発生し、コア6などの磁性材からなる部材が磁性を帯びることになる。したがって、ボビン11およびソレノイドコイル12が、本発明における電磁力発生手段に相当する。
【0041】
バルブシート5は、ステンレス鋼などの非磁性制振合金からなり、その後端面(燃料流動方向上流側面)が、後述の可動弁20が当接する座面5aとなる。バルブシート5の径方向中心部に穿設された燃料噴射孔8は、燃料流動方向上流側から下流側に向かって、順に絞り部8a、同径部8b、拡張部8cを有する構成とされており、燃料噴射孔8から気体燃料が噴射される際に一旦絞り部8aを通過することで、気流音の低減が図られている。
【0042】
ロアボディ4内には、可動弁20の開弁方向の移動限界を規制するストッパ17、可動弁20の支持部材としての板バネ21を上下から挟持するカラー18およびリング19が配されている。ストッパ17、カラー18、板バネ21、およびリング19は、燃料流動方向上流からこれの順でロアボディ4の内側フランジ部4aとバルブシート5との間に積層されている。詳しくは、ストッパ17は磁性材でリング状に形成され、ロアボディ4内に嵌合され、かつ内側フランジ部4aに当接されている。カラー18は、例えばステンレス材でリング状に形成され、ロアボディ4内に嵌合され、かつストッパ17および板バネ21の外周部と当接されている。リング19は、例えばステンレス材でリング状に形成され、ロアボディ4内に嵌合され、かつ板バネ21の外周部と当接されている。リング19は、ロアボディ4に対するバルブシート5の固定に伴い板バネ21の外周部をカラー18に押圧している。これにより、板バネ21の外周部がカラー18とリング19との間に挟持される。
【0043】
図2は、可動弁20が理想状態で往復運動した場合の開弁位置にある要部拡大断面図である。図1および図2において可動弁20は、磁性材である電磁ステンレス材からなり、コア6とほぼ同様の断面形状をなす円筒状の主部20aと、主部20aの前方(バルブシート5側)の径方向外側に張り出すフランジ部20bと、フランジ部20bの前方に繋がる円形のバルブ部20cとを有する。主部20aの中空部20dの内周面には、段付面からなるバネ座面20eが形成されており、フランジ部20bの後面はストッパ17と面接触可能な当接面20fとなっている。そして、燃料噴射孔8と対向するバルブ部20cの先端面20gが、閉弁時にバルブシート5の座面5aと面接触することになる。なお、主部20aおよびフランジ部20bは、ソレノイドコイル12の通電時において、アーマチュアとして機能する。
【0044】
可動弁20の当接面20fの外周縁には、当該当接面20fよりも燃料流動方向上流側(ストッパ17側)へ突出し、可動弁20がストッパ17に当接する際の衝撃を緩衝するゴム製で環状の緩衝部材22が焼き付け接合されている。一方、可動弁20の先端面20gの径方向中央部には、当該可動弁20の先端面20gの外径よりも小径でかつ燃料噴射孔8の内径よりも大径な、ゴム製のシール部材23が焼き付け接合されている。このシール部材23には、可動弁20の先端面20gよりも燃料流動方向下流側(バルブシート5側)へ突出する環状の凸部23aが一体形成されている。このシール部材23の凸部23aは、可動弁20の閉弁時にバルブシート5の座面5aに先行衝突して緩衝部材として機能すると共に、弾性変形してバルブシート5の座面5aと密着することで、気体燃料の連通を不可とするシール部を形成する。なお、シール部材23の凸部23aの弾性変形量は、可動弁20の先端面20gがバルブシート5の座面5aに当接した位置で規定される。すなわち、可動弁20の最終的な閉弁位置は、座面5aと先端面20gとが直接接触した状態で規定される。また、バルブ部20cには、主部20aの中空部20dと連通すると共に、径方向に放射状に延びる複数本(実施例では6本)の貫通孔20hが、周方向に等間隔(実施例では60度間隔)で穿設されている。中空部20dと貫通孔20hとによって可動弁20のガス流路が構成される。
【0045】
また、可動弁20と板バネ21を燃料流動方向下流側から見た図1のA−A断面図を示す図3において、シール部材23の凸部23aの外側、すなわち可動弁20の先端面20gの外周縁に、弾性部材としてゴム材25が焼き付け接合されている。このゴム材25は、互いに所定間隔を隔てて複数個分割(実施例では9分割)して等間隔に配されており、可動弁20の先端面20gよりも燃料流動方向下流側(バルブシート5側)に突出している(図2参照)。また、各ゴム材25の隙間は可動弁20が露出しており、図2および図3によく示されるように、可動弁20の先端面20gにおける径方向中心を基準として、ゴム材25が配されている領域に対向する領域は、可動弁20が露出している。上述のように、燃料噴射孔8の閉弁時にはシール部材23の凸部23aでシール部が形成されているが、可動弁20とバルブシート5とが密着することはない。したがって、閉弁時においてゴム材25がバルブシート5と密着しても、可動弁20とバルブシート5との間には、可動弁20の露出部分を通ってゴム材25の外側からシール部材23側へ気体燃料が連通可能となっている。すなわち、可動弁20の露出部分が通気部26として機能する。なお、実施例ではゴム材25と通気部26との周方向の長さ寸法は、同一に設計されている。
【0046】
また、図3において板バネ21は析出硬化系ステンレスからなる外形円板状に形成されており、その径方向中央部に穿設された可動弁20のバルブ部20cが挿通される挿通孔と、外周縁と内周縁との間の中間領域に穿設された周方向に延びる複数のスリット21bとを有する。このスリット21bが複数穿設されていることで、板バネ21が燃料噴射弁1の軸方向(可動弁20の移動方向)に弾性変形可能となっている。また、板バネ21の内周縁は非真円形に設計されている。具体的には、板バネ21の内周縁は径方向に3つの凹凸を有する波状円形に形成されており、当該板バネ21の内周縁に沿って板バネ21の上下両面に跨るゴム製の弾性体30がインサート成形により一体化されている。この弾性体30は、板バネ21に穿設された複数個(実施例では6個)の連結孔21cを通して板バネ21の上面側と下面側とが連結していることで、板バネ21に不離一体とされている。
【0047】
板バネ21は、図1および図2に示すごとく、これの内周縁に沿って配された弾性体30を介して可動弁20の外周に締まり嵌められている。詳しくは、図4によく示されるように、可動弁20のバルブ部20cの後端のフランジ部20bとのつけ根部分外周には、径方向内側へ向けて溝31が周回状に凹み形成されており、当該溝31に板バネ21の弾性体30が嵌合されている。溝31も板バネ21の内周縁の形状と相似する非真円形となっており、その上下幅は板バネ21の弾性体30の厚みと略同一に設計されている。弾性体30の内径は、板バネ21の挿通孔の内径より若干小さく、かつ可動弁20の溝31の外径よりも若干小さく形成されている。また、弾性体30の内側形状は、径方向内側へ突出状に湾曲する円弧状に形成されている。これにより、板バネ21の挿通孔に可動弁20のバルブ部20cを挿通していき、弾性体30を溝31内に円滑に摺動嵌合できるようになっている。そして、この板バネ21によって可動弁20がロアボディ4の内周面等に接触しないフローティング状態で支持され、可動弁20がバルブシート5の燃料噴射孔8を開閉すべく軸方向に移動されるとき、板バネ21も同方向に弾性変形する。
【0048】
また、可動弁20は、コア6内に配置された圧縮コイルバネ35によって燃料噴射孔8の閉弁方向に付勢され、常時には図1に示す先端面20gのシール部材23がバルブシート5の座面5aに押し付けられた閉弁状態に置かれる。このときの圧縮コイルバネ35の付勢力は、コア6内に配置されたバネ荷重調整用のパイプ36によって調整することが可能とされる。圧縮コイルバネ35は、その一端が可動弁20のバネ座面20eに当接され、他端がパイプ36の一端に当接される。パイプ36は、コア6の内周に圧入することで取り付けられ、その圧入量を変えることによって圧縮コイルバネ35の付勢力を調整する構成とされる。なお、パイプ36の取り付けは、コア6の内周に設けた雌ネジにパイプ36の外周に設けた雄ネジをねじ込み、そのねじ込み量を変えることによって圧縮コイルバネ35の付勢力を調整する構成であってもよい。可動弁20が圧縮コイルバネ35によって閉弁状態に置かれるとき板バネ21は弾性変形しており、これにより可動弁20には開弁方向に付勢力が作用している。但し、板バネ21の付勢力は、圧縮コイルバネ35の付勢力に比べてはるかに小さく、圧縮コイルバネ35による可動弁20の閉弁動作を損なうものではない。
【0049】
水素ガスなどの気体燃料は、コア6の中空内部およびパイプ36の中空内部を経て可動弁20の中空部20dへと導かれる。可動弁20が図1に示す閉弁状態に置かれているとき、気体燃料は可動弁20の中空部20dから貫通孔20hを通り、可動弁20の外周領域とロアボディ4の内周面との間の中空空間に充満している。なおコア6のガス入口には異物の混入を防止するストレーナ37が配置されている。
【0050】
本実施例の燃料噴射弁1は、上記のように構成さている。そして、図外の制御装置で断続的な通電状態を制御しながら、ソレノイドコイル12に通電されると電磁力が発生する。このソレノイドコイル12からの電磁力を磁性材からなるコア6が直接受けることで、コア6が磁性を帯びる。コア6が磁性を帯びることで、これの燃料流動方向下流側に配され、圧縮コイルバネ35の付勢力で閉弁状態に置かれた磁性材からなる可動弁20が、圧縮コイルバネ35の付勢力に抗して図1に示す状態から図2に示すように燃料流動方向上流側へ吸引移動される。このとき、非磁性材からなる鍔付リング7をソレノイドコイル12の燃料流動方向下流側の内周角部を覆うように配していることで、ソレノイドコイル12からの電磁力が可動弁20に直接作用しないように構成されている。そして、可動弁20のバルブ部20cがバルブシート5の座面5aから離れて、バルブシート5の燃料噴射孔8が開弁される。これにより、ストレーナ37を通ってコア6、可動弁20の中空内部を通過した気体燃料が燃料噴射孔8から噴射され、燃料噴射弁1の下流側へと流れ出すことになる。
【0051】
燃料噴射孔8の開度、すなわち可動弁20の開弁方向への移動限界は、可動弁20のフランジ部20bの当接面20fがストッパ17に当接することで規定される。そこで、可動弁20の当接面20fの外周縁に、該当接面20fよりも燃料流動方向上流側(ストッパ17側)へ突出する環状の緩衝部材22を配していることで、当該緩衝部材22が可動弁20に先行してストッパ17に衝突することになる。そして、可動弁20がストッパ17に当接するまで緩衝部材22が弾性変形することで、可動弁20とストッパ17との衝撃が緩衝され、両者20・17の摩耗が防止されている。また、可動弁20は板バネ21によってフローティング状に支持されているので、図2に示すような理想状態で軸方向に往復運動する場合は、可動弁20は水平状態を保ちながら往復運動することになる。
【0052】
一方、ソレノイドコイル12に対する通電が遮断されたときは、可動弁20は圧縮コイルバネ35の付勢力で燃料流動方向下流側へと移動され、バルブ部20cがバルブシート5の座面5aに当接して燃料噴射孔8を閉じる。このとき、可動弁20の先端面20gにシール部材23が焼き付け接合されている。したがって、可動弁20が理想状態で閉弁方向へ移動するとき、先端面20gより燃料流動方向下流側へ突出する凸部23aが、先端面20gに先行してバルブシート5の座面5aに衝突することになる。そして、先端面20gが座面5aに当接するまで凸部23aが弾性変形することで、可動弁20とバルブシート5との衝撃が緩衝され、両者20・5の摩耗が防止されている。先端面20gが座面5aに当接したときは、凸部23aは弾性変形して押し潰されていることで、気体燃料の連通を塞ぐシール部として機能する。
【0053】
このように、可動弁20はストッパ17やバルブシート5と当接することで、その往復運動の移動限界が規制されている。そのため、上述のように先端面20gや当接面20fにゴム材25および緩衝部材22を配していることでこれらの摩耗を避けてはいるが、実際にはゴム材25や緩衝部材22を配した部分以外においても、可動弁20はストッパ17やバルブシート5と当接する。そのため、当該可動弁20とストッパ17やバルブシート5とが直接当接する部分でのこれらの摩耗をも有効に避けるために、図5に示すごとく可動弁20、ストッパ17、およびバルブシート5の表面に耐摩耗性や耐食性に優れる窒化層50を設けている。詳しくは、ストッパ17とバルブシート5とにはその表面全体に窒化層50を設けているが、可動弁20では、コア6と対向する後端面20iには窒化層50を設けていない。窒化層50は非磁性層なので、コア6との磁性ギャップが大きくなるからである。これにより、コア6と可動弁20との磁性ギャップは、コア6と可動弁20との間の隙間寸法Sのみとなる。また、可動弁20において、ゴム材25、シール部材23、および緩衝部材22を配してある部分の表面にも窒化層50は形成していない。これらの部材22・23・25はゴム製であり、可動弁20の適所に焼き付け接合しているので、窒化層50を設けることによって接合性が悪化することを防ぐためである。なお、図5はバルブボディ2の左半分を示しているが、バルブボディ2は左右対称なので、バルブボディ2の右半分にも図5に示す部分と左右対称に窒化層50が形成されており、その図示は省略している。
【0054】
窒化層は周知の方法により形成することができ、例えば可動弁20やストッパ17などを高温雰囲気下で窒素ガス雰囲気に所定時間晒すことで形成できる。非窒化層を設ける場合は、窒化層を形成したくない領域に窒素との反応性を有しない被覆材を被せてシールしてから窒化処理すればよい。または、全体的に窒化層を形成してから、研磨などによって窒化層を除去してもよい。なお、窒化層は必ずしもストッパ17などの表面全体に形成する必要はなく、少なくとも可動弁20とストッパ17およびバルブシート5とが接触し得る各対向面に形成していればよい。本実施例では、各窒化層50の厚みを20μmとした。また、閉弁時におけるコア6と可動弁20との隙間は30μmに設定した。
【0055】
板バネ21は、図2に示す可動弁20が開弁位置にあるときに、水平状になる高さ位置に配されている。したがって、可動弁20が圧縮コイルバネ35の付勢力によって図1に示す閉弁位置にあるときは、板バネ21は前方へ弾性変形している。これにより、可動弁20が電磁力によって開弁方向へ吸引される際は、板バネ21の付勢力も作用している。このように、可動弁20と板バネ21との間にも大きな力が作用することになるが、板バネ21の内周縁に沿って配された弾性体30が、可動弁20の外周に設けられた溝31内に締まり嵌められていることで、可動弁20が激しく往復運動しても、板バネ21から抜け外れることはない。また、板バネ21の内周縁と溝31とが、互いに相似する波状円形に形成されているので、可動弁20が激しく往復運動しても、可動弁20が板バネ21内で周方向に回転するこがなく、安定した燃料噴射量を維持できる。
【0056】
しかし、実際には外部からの振動や、電磁力または板バネ21の付勢力のばらつきなどによって、図6に示すごとく可動弁20は軸が傾斜した状態で往復運動することが多い。この場合、せっかく可動弁20の先端面20gにシール部材23を配しているにもかかわらず、先端面20gの外周縁がシール部材23の凸部23aよりも先にバルブシート5の座面5aに接触してしまうことになる。しかし、本実施例では可動弁20の先端面20gの外周縁にゴム材25を配しているので、当該ゴム材25が先端面20gに衝突することで、可動弁20やバルブシート5が摩耗することが防止されている。このゴム材25は、確実に緩衝機能を発揮できるように可動弁20の先端面20gよりも下流側へ突出しているが、その対向領域は可動弁20が露出しているので、燃料噴射孔8の閉弁時に先端面20gの外周縁部分がシール部となることはない。したがって、ゴム材25を先端面20gの外周縁に配しても、シール径が大きくなることはなく、電磁力の増大化を図る必要はない。
【0057】
また、バルブシート5を制振合金で形成してあるので、可動弁20のバルブ部20cがバルブシート5の座面5aに当接する際の衝撃が緩和されると共に、その振動の伝達も抑えられるので、作動音の発生が低減される。さらに、可動弁20の跳ね返りも有意に抑えられるので気体燃料噴射量の適正化も図られる。
【0058】
(変形例)
図7〜9に、本発明における可動弁20の先端面20gの外周縁に配す弾性部材としてのゴム材25の配設パターンの変形例を示す。図7〜9は、可動弁20を前方から見た先端面図であり、図1の方向を基準とすれば底面図に相当する。先の実施例では、ゴム材25を、互いに所定間隔を隔てて細かく9分割して等間隔に配し、可動弁20の先端面20gにおける径方向中心を基準として、ゴム材25が配されている領域に対向する領域を可動弁20が露出する通気部26とした。また、各ゴム材25と各通気部26との周方向長さを同一にしている。しかし、これに限らず種々の配設パターンが可能である。
【0059】
まず、ゴム材25を比較的少ない数で分割してもよい。例えば図7に示すごとく、ゴム材25を3分割して、各ゴム材25と各通気部26との周方向長さを大きくすることができる。これによれば、各通気部26が大きくなるので、確実にゴム材25の内外に気体燃料を連通させることができる。また、ゴム材25の配設個数が少なくなれば、生産も容易になる。
【0060】
また、ゴム材25を等間隔で配設していなくてもよく、かつ各ゴム材25の周方向長さを異ならせていてもよい。例えば図8に示すごとく、3つに分割配置したゴム材25のうちの一のゴム材25を他のゴム材よりも周方向長さを大きくすることができる。このように配設すれば、必然的に各ゴム材25同士は等間隔ではなくなる。これによれば、例えば可動弁20が往復運動する際にある一定方向に傾斜し易い場合、それによる摩耗し易い部分を的確に保護することができるなど、用途に応じて設計することができる。
【0061】
また、必ずしも可動弁20の先端面20gにおける径方向中心を基準として、ゴム材25の対向面を通気部26とする必要もない。例えば図9および図10に示すごとく、4分割して等間隔で配設した各ゴム材25を、互いに可動弁20の先端面20gにおける径方向中心を基準として対向状に配設することもできる。このように配設することで、各通気部26も可動弁20の先端面20gにおける径方向中心を基準として対向位置関係にある。これによれば、可動弁20の先端面20gの外周縁における両端において緩衝機能を発揮させることができる。
【0062】
また、図示していないが、各ゴム材25の周方向長さを大きくして、通気部26の周方向長さを十分に小さくすることもできる。これによれば、最低限の通気部26を確保しながら、可動弁20の先端面20gの外周縁の大部分において摩耗を回避させることができる。また、ゴム材25を可動弁20の先端面20gの外周縁の全周に亘って配設したうえで、通気部26をゴム材25に凹み形成した溝によって確保してもよい。さらに、ゴム材25は必ずしも可動弁20の先端面20gより突出させておく必要はなく、少なくとも先端面20gと面一であればよい。
【0063】
図10〜11に、本発明におけるシール部材23の凸部23aの外側に配す弾性部材自体の変形例を示す。先の実施例では、弾性部材としてゴム材25を使用したが、少なくとも可動弁20とバルブシート5との衝突を緩和できるものであれば、これに限らない。例えば図11に示すごとく、弾性部材として可動弁20とバルブシート5との間に配した圧縮コイルバネ40としてもよい。弾性部材を圧縮コイルバネ40とすれば、圧縮コイルバネ40の隙間が通気部26となる。このときのバルブシート5の座面5bは、バルブシート5の後端面よりも後方へ突出形成させてある。一方、可動弁20の先端面20gの外周縁は、先端面20gよりも後方へ凹み形成している。そして、この突出する座面5bの外側と凹み形成した先端面20gの外周縁に圧縮コイルバネ40を配設している。これにより、可動弁20が閉弁方向へ移動すると、当該可動弁20が圧縮コイルバネ40で受けられることで、可動弁20とバルブシート5との衝突が緩和される。但し、可動弁20が閉弁位置にあるとき、これに作用する圧縮コイルバネ40と板バネ21との付勢力が、コア6内に配した圧縮コイルバネ35の付勢力よりも小さくなるように構成する必要がある。
【0064】
また、弾性部材としてゴム材25に代えて、図12に示すごとく弾性部材として可動弁20とバルブシート5との間に配した板バネ41を使用することもできる。このときのバルブシート5の座面5cは、バルブシート5の後端面よりも前方へ凹みさせてある。一方、可動弁20の先端面20gの外周縁は、先端面20gよりも後方へ凹み形成している。そして、この凹んだ座面5cの内周面と可動弁20のバルブ部20cの外周面との間に、後方に傾斜する板バネ41を配設している。これにより、可動弁20が閉弁方向へ移動すると、当該可動弁20が板バネ41で受けられることで、可動弁20とバルブシート5との衝突が緩和される。但し、この場合も、可動弁20が閉弁位置にあるとき、これに作用する板バネ41と板バネ21との付勢力が、コア6内に配した圧縮コイルバネ35の付勢力よりも小さくなるように構成する必要がある。この板バネ41は、細長形状の板バネを可動弁20の外周に少なくとも3個以上(好ましくは4個)等間隔で配した複数点支持としている。この場合、各板バネ41の間が通気部26となる。
【0065】
図13に板バネ21の挿通孔と、この内周縁に沿ってインサート成形する弾性体30の変形例を示す。先の実施例では、板バネ21の連通孔と弾性体30を径方向内外に3つの凹凸を有する波型円形状に形成したが、これらの形状は少なくとも径方向において少なくとも1つの角部を有する形状とすればよい。例えば図13に示すごとく、板バネ21の連通孔と弾性体30を、径方向内外に4つの凹凸を有する波型円形状に形成することもできる。また、図示していないが、三角形や四角形などの多角形や、楕円形、多数の凹凸を有する波型円形とすることも可能である。このような少なくとも1つの角部を有する形状であれば、当該角部が周方向で引っ掛かるので、可動弁20が板バネ21内で周方向に回転することがない。このとき、板バネ21を締り嵌めする可動弁20の溝31も、当該板バネ21の連通孔や弾性体30と相似形にしておく。
【0066】
また、図14に板バネ21の内周縁に沿って配する弾性体30と可動弁20の溝31の変形例を示す。先の実施例では、弾性体30の内側形状を、径方向内側へ湾曲する円弧状に形成し、溝31の奥面は垂直面としていた。これに対し、弾性体30の内側形状を下流側から上流側にいくにしたがって径方向外側へ拡がる傾斜面とし、可動弁20の溝31の奥面もこれに対応する傾斜面とすることもできる。これによれば、傾斜面を摺動させながら板バネ21を溝31に容易に嵌め込むことができる。そのうえ、傾斜面の先端が溝31の前方面に引っかかるので、より確実に可動弁20の抜け外れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】閉弁状態の燃料噴射弁の縦断面図である。
【図2】開弁状態の可動弁を中心とした要部拡大断面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】板バネを可動弁へ締り嵌めした部分の要部拡大断面図である。
【図5】窒化層を設ける部分を示す要部拡大断面図である。
【図6】可動弁が傾斜状に往復運動する機構を示す可動弁を中心とした要部拡大断面図である。
【図7】可動弁の先端面の外周縁に配設する弾性部材の変形例を示す可動弁の先端面図である。
【図8】可動弁の先端面の外周縁に配設する弾性部材の別の変形例を示す可動弁の先端面図である。
【図9】可動弁の先端面の外周縁に配設する弾性部材のさらに別の変形例を示す可動弁の先端面図である。
【図10】図9の変形例に対応する可動弁の縦断面図である。
【図11】別の弾性部材を使用した可動弁を中心とした要部拡大断面図である。
【図12】さらに別の弾性部材を使用した可動弁を中心とした要部拡大断面図である。
【図13】板バネの挿通孔と可動弁の溝の形状の変形例を示す図1のA−A線に相当する断面図である。
【図14】板バネの内周縁に沿って配設する弾性体と溝の形状の変形例を示す板バネを可動弁へ締り嵌めした部分の要部拡大断面図である。
【図15】従来例における図1のA−A線に相当する断面図である。
【図16】従来例における可動弁の往復運動機構を示す可動弁を中心とした要部拡大断面図である。
【図17】従来例における窒化層か形成された可動弁とコアとの関係を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料噴射弁
2 バルブボディ
3 アッパボディ
4 ロアボディ
5 バルブシート
5a 座面
6 コア
7 鍔付リング
8 燃料噴射孔
8a 絞り部
12 ソレノイドコイル
14 受電用コネクタ
17 ストッパ
18 カラー
19 リング
20 可動弁
20f 当接面
20g 先端面
21 板バネ
22 緩衝部材
23 シール部材
23a 凸部
25 ゴム材(弾性部材)
26 通気部
30 弾性体
31 溝
35 圧縮コイルバネ
36 パイプ
37 ストレーナ
40 圧縮コイルバネ(弾性部材)
41 板バネ(弾性部材)
50 窒化層
100 可動弁
100a 先端面
101 弾性体
101a 凸部
102 燃料噴射孔
103 バルブシート
104 板バネ
105 弾性体
106 ストッパ
108 コア
200 窒化層
隙間寸法(磁性ギャップ)
窒化層の厚み寸法
磁性ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射孔を有するバルブボディと、
前記バルブボディ内にて軸方向に往復運動して前記燃料噴射孔を開閉する可動弁と、
電磁力によって前記可動弁を可動する電磁力発生手段と、
前記可動弁を前記バルブボディ内でフローティング状に支持する弾性変形可能な支持部材と、
前記燃料噴射孔と対向する前記可動弁の先端面に配されたシール部材とを有し、
前記バルブボディは、前記燃料噴射孔が穿設されたバルブシートを含み、
前記シール部材には、前記可動弁の先端面の外径よりも小径かつ前記燃料噴射孔の内径よりも大径で、前記可動弁の先端面よりも突出しシール部を形成する環状の凸部が形成されており、
前記シール部材の凸部の外側に、前記可動弁と前記バルブシートとの衝突を緩和する弾性部材が配されている燃料噴射弁。
【請求項2】
前記可動弁が前記バルブシートに当接して前記シール部材の凸部でシール部が形成された閉弁状態において、前記可動弁と前記バルブシートとの間には、前記弾性部材の外側から前記シール部材側へ燃料が連通可能な通気部が確保されている請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記弾性部材がゴムで形成されており、
該弾性部材は、前記可動弁の先端面よりも突出するように、前記可動弁の先端面の外周縁に周回状に配されているが、少なくとも前記可動弁の先端面の外周縁の一部には、前記可動弁が露出しており、
該可動弁の露出部分が前記通気部となる請求項2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記可動弁の先端面の外周縁に分割して配されて、前記通気部が複数箇所形成されている請求項3に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記可動弁の先端面における径方向中心を基準として、前記弾性部材が配されている領域に対向する領域は、前記可動弁が露出している請求項4に記載の燃料噴射弁。
【請求項6】
前記バルブシートは、制振金属で形成されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の燃料噴射弁。
【請求項7】
燃料噴射孔を有するバルブボディと、
前記バルブボディ内にて軸方向に往復運動して前記燃料噴射孔を開閉する可動弁と、
電磁力によって前記可動弁を可動する電磁力発生手段と、
前記可動弁を前記バルブボディ内でフローティング状に支持する弾性変形可能な支持部材と、
前記可動弁の先端面に配されたシール部材とを有し、
前記支持部材は、これの中央部に前記可動弁を挿通可能な挿通孔を有する板バネであり、
該板バネは、これの内周縁に沿って配された弾性体を介して前記可動弁の外周に締まり嵌められ、
前記板バネの内周縁の形状と、前記板バネが締り嵌められる部分の前記可動弁の外形とが、互いに相似する非真円形となっている燃料噴射弁。
【請求項8】
前記可動弁の外周面には、前記板バネの内周縁に沿って配された弾性体の厚みと同じ幅の溝が形成されており、前記板バネが前記溝内に締り嵌められている請求項7に記載の燃料噴射弁。
【請求項9】
前記板バネの内周縁に沿って配される弾性体の内側形状が、径方向内側へ湾曲する円弧状である請求項7または請求項8に記載の燃料噴射弁。
【請求項10】
前記板バネの内周縁に沿って配される弾性体の内側形状が、傾斜面となっている請求項7または請求項8に記載の燃料噴射弁。
【請求項11】
燃料噴射孔を有するバルブボディと、
前記バルブボディ内にて軸方向に往復運動して前記燃料噴射孔を開閉する可動弁と、
電磁力によって前記可動弁を可動する電磁力発生手段と、
前記可動弁を前記バルブボディ内でフローティング状に支持する弾性変形可能な支持部材と、
前記可動弁の先端面に配されたシール部材とを有し、
前記バルブボディは、前記電磁力発生手段の電磁力によって前記可動弁を引き寄せるコアを含み、
前記可動弁は磁性材からなり、その表面には前記コアとの対向面を除いて全体的に窒化層が形成されている燃料噴射弁。
【請求項12】
前記コアの前記可動弁との対抗面を除いて、前記バルブボディ内の前記可動弁と接触し得る部材の表面にも窒化層が形成されている請求項11に記載の燃料噴射弁。
【請求項13】
前記可動弁には、これが開弁位置または閉弁位置にあるときに前記バルブボディと密着する弾性体が配されており、該弾性体の配設部位には、前記窒化層が形成されていない請求項11または請求項12に記載の電磁駆動バルブ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−52470(P2009−52470A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219820(P2007−219820)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】