説明

燃料噴射装置

【課題】 簡易な構成で開弁動作の応答性が高い燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】 インジェクタ10は、弁ボディ14内に可動可能に収容されるニードル23を備える。ニードル23は、弁ボディ14の弁座部54に当接および離間可能なシート部23の下流側の燃料圧力を受ける第2斜面部23dを形成する。インジェクタ10は、シート部23cと噴孔53との間の流通区間に噴孔53側ほど通路面積が小さい絞り流路部57を備える。そのため燃料通路51が開放されシート部23cから噴孔53へ燃料が流通する際、シート部23cの下流側の絞り流路部57が形成され、絞り流路部57の上流側に位置する第2斜面部23dと弁座部54との間の第2斜面部通路の流通速度が比較的遅くなるので、第2斜面部23dが燃料から受ける圧力が大きくなる。よって、簡易な構成で開弁動作の応答性が高いインジェクタ10が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料噴射装置は、弁ボディ内に可動可能に収容される弁部材を備える(例えば特許文献1参照)。弁ボディは、燃料通路から燃料が流入するサック室の燃料を噴射する噴孔を有する。弁部材は、弁ボディの弁座部に当接可能なシート部、およびシート部が弁座部から離間する方向に力を受ける斜面部を備える。この燃料噴射装置では、弁座部からシートが離間すると、弁ボディと弁部材との間の燃料通路に燃料が流れ込み噴孔から噴射される。このとき、燃料の圧力は、弁部材を押し上げるように作用する。
【0003】
ところで、従来の燃料噴射装置では、開弁直後に燃料通路の流速が比較的速くなり、燃料通路の圧力が比較的小さくなる。したがって、弁部材に作用する離間方向の力が小さく開弁速度が遅いため、開弁動作の応答性が低いという問題があった。
特許文献1には、サック室の燃料通路側の開口の径をサック室の底部の径よりも小さくすることで燃料通路を比較的長くし、弁部材に作用する力を大きくすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−138683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のサック室は弁ボディの底部側へ向かうに従い拡大するように設けられることから、形状が複雑で製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で開弁動作の応答性が高い燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、燃料噴射装置であって、弁ボディおよび弁部材を備える。弁ボディは、燃料が流通する燃料通路、燃料通路から流出する燃料を溜めるサック室、サック室の燃料を噴射する噴孔、および燃料通路の内壁に形成される弁座部、を有する。弁部材は、弁ボディ内において軸方向に移動可能に設けられた弁部材本体、弁部材本体のサック室側に弁座部に対向して設けられサック室に向かうに従い外径が小さくなる第1斜面部、第1斜面部のサック室側に設けられ弁座部に当接および離間可能なシート部、シート部のサック室側に設けられサック室に向かうに従い外径が小さくなる第2斜面部、を形成する。さらに、燃料噴射装置は、シート部から噴孔へ向かう流通区間に形成され噴孔へ向かうに従い通路面積が小さくなる絞り流路部を備える。
【0008】
本発明では、燃料通路が開放されシート部から噴孔へ燃料が流通する際、シート部の下流側に絞り流路部が形成される。その絞り流路部を流れる燃料には流通抵抗が付与されるので、絞り流路の上流側に位置する第2斜面部と弁座部との間の通路(第2斜面部通路)の流通速度が比較的遅くなる。そのため、第2斜面部が燃料から受ける圧力が大きくなり、弁部材の離間方向の移動速度すなわち開弁速度を速くすることができる。よって、簡易な構成で開弁動作の応答性が高い燃料噴射装置を得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、絞り流路部は、弁部材の弁座部への当接位置からのリフト量が所定量以下である微小リフト領域において形成される。そのため、上記微小リフト領域の弁部材の移動速度を速くすることができる。また、例えば、上記微小リフト領域を超えると絞り流路部の通路面積が噴孔の通路面積(噴孔が複数の場合、合計の通路面積)よりも大きくなる場合、微小リフト領域を超えれば燃料噴射量を十分に確保することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、弁部材は、第2斜面部からサック室側へ突出する突起部を形成する。絞り流路部は、サック室内に嵌合する突起部の外壁とサック室の内壁との間に形成される。そのため、微小リフト領域にシート部の下流側に位置するサック室の入口に絞り流路部を形成することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明では、絞り流路部は、絞り流路部の最小通路面積をAc、シート部から絞り流路部に至るまでの第2斜面部通路の最大通路面積をA0とすると、微小リフト領域においては、
Ac ≦ (1/2)・A0
の関係が成り立つように設定される。そのため、微小リフト領域に第2斜面部が受ける圧力(以下「受圧力」という)を十分に大きくすることができる。
【0012】
請求項5に記載の発明では、シート部と弁座部との間に形成されるシート部通路の最小通路面積をAsとすると、微小リフト領域においては、
As < A0
の関係が成り立つように設定される。そのため、シート部通路の最小通路面積が第2斜面部通路の最大通路面積より小さいこと(As<A0)でシート部通路にて圧損が生じる場合、シート部の下流に絞り流路が形成されることによる第2斜面部通路の受圧力増大効果が得られる。
【0013】
請求項6に記載の発明では、弁ボディまたは弁部材は、シート部から噴孔へ向かう流通区間のうち絞り流路部のシート部側に連続して形成され、噴孔へ向かうに従って通路面積が大きくなる凹部を形成する。そのため、燃料通路が開放されシート部から噴孔へ燃料が流通する際、シート部の下流側に拡大流路部が形成される。よって、シート部を通過した燃料の流通速度が拡大流路部で低下するので、第2斜面部の受圧力がより増大する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態のインジェクタを示す断面図。
【図2】図1の矢印Aで示すインジェクタの先端部の構成を示す断面図。
【図3】図2のシート部の弁座部への当接位置からのニードルのリフト量と、各通路面積との関係を示す図。
【図4】第1実施形態のインジェクタにおけるニードルのリフト量の変化と、図6に示す比較形態のインジェクタにおけるニードルのリフト量の変化とを、時系列的に示した図。
【図5】本発明の第2実施形態のインジェクタの先端部の構成を示す断面図。
【図6】比較形態のインジェクタの先端部の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の複数の実施形態による燃料噴射装置を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態および比較形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態のインジェクタ10を示す断面図である。インジェクタ10は、図示しない内燃機関の燃料噴射システムに用いられ、燃料を内燃機関に供給する。インジェクタ10には、燃料タンクからフィードポンプにて汲み上げられた後、高圧ポンプにて高圧とされコモンレールに蓄積された燃料が供給される。なお、本実施形態では、インジェクタ10は、燃料を内燃機関の燃焼室に直接噴射する直噴型すなわち筒内噴射型である。
【0017】
インジェクタ10は、その外郭を形成する部材として、ハウジング13、弁ボディ14、ハウジング13と弁ボディ14との間に介在するチップパッキン15、およびこれらの部材を外側から相互に連結するリテーニングナット16、を備えている。
【0018】
ハウジング13は、インレット11及びアウトレット12を形成する。インレット11は、コモンレールの吐出口に接続される。アウトレット12は、図示しない背圧制御弁を経由してコモンレールから燃料タンクへ向かう図示しない燃料通路に接続される。インレット11から供給される燃料は、通路17を経由し通路18および通路19に供給される。通路18に供給された燃料は弁ボディ14側へ送出され、主として噴射に利用される。通路19に供給された燃料は制御室27に送出される。
【0019】
弁ボディ14は、ハウジング13側に開口する有底筒状に形成され、燃料を噴射する噴孔53を底部に有する。インレット11に供給された燃料は、通路17、通路18、およびチップパッキン15の通路21を経由し弁ボディ14の内部の通路20に供給される。
【0020】
また、インジェクタ10は、ハウジング13内、チップパッキン15内、および弁ボディ14内において軸方向に移動可能に設けられた可動軸22を備える。この可動軸22は、「弁部材」としてのニードル23、カップリング24、およびコマンドピストン25により構成される。ニードル23は主として弁ボディ14内に収容され、コマンドピストン25は主としてハウジング13内に収容される。ニードル23およびコマンドピストン25は、チップパッキン15内においてカップリング24により一体的に連結される。可動軸22は、ハウジング13とカップリング24との間に介在されたスプリング26により、弁ボディ14側へ付勢される。
【0021】
また、インジェクタ10は、ハウジング13の弁ボディ14とは反対側に電磁弁部30を備える。電磁弁部30は、一対の端子32、アーマチャ33、ボディ34、ストッパ35、コイル36、および電磁制御弁部材37等を有し、ハウジング13にナット31で固定される。
【0022】
端子32は、コイル36へ通電するためのものである。コイル36には、この端子32を介して、内燃機関の運転条件に応じた制御弁駆動電流が供給される。コイル36が通電されると、アーマチャ33が磁化される。
アーマチャ33は、その軸中心部に有底筒状のストッパ35を有している。ストッパ35は、先端側へ開口する形状であり、その内部には、スプリング38が配置されている。このスプリング38によって付勢されるのが、ボディ34に支持された電磁制御弁部材37である。
電磁制御弁部材37は、コイル36に制御弁駆動電流が供給されてアーマチャ33が磁化されるとそのアーマチャ33に向かう励起吸引力を受け、スプリング38の付勢力に抗して基端側すなわちアーマチャ33側へ移動する。
【0023】
制御室27は、電磁制御弁部材37がアーマチャ33側へ移動してプレート部材41から離間すると、通路39等を介してアウトレット12と連通する。
【0024】
インジェクタ10では、電磁弁部30が制御され制御室27内の燃料が通路39を通じてアウトレット12から排出され、制御室27に流入する燃料よりも制御室27から流出する燃料が多くなると、制御室27の圧力が低下し可動軸22が弁ボディ14の底部から離間する方向へ移動する。
【0025】
以下、図1に矢印Aで示すインジェクタ10の先端部の構成を図2に基づいて詳細に説明する。なお、図2(a)は、ニードル23が弁ボディ14に当接した場合を示している。図2(b)および(c)は、ニードル23が弁ボディ14から離間した場合を示している。
【0026】
弁ボディ14は、燃料通路51、サック室52、噴孔53、および弁座部54を有する。
燃料通路51は、弁ボディ14とニードル23との間に形成され、ハウジング13側から供給される燃料が流通可能である。なお、図2(a)では燃料通路51が遮断され、図2(b)および(c)では燃料通路51が開放されている。弁座部54は、燃料通路51の内壁に、サック室52に向かうに従い内径が小さくなる円錐面状に形成される。
【0027】
サック室52は、燃料通路51と噴孔53との間の流通区間においてニードル23に向けて開口する有底筒状に形成される。サック室52を形成する内壁55のうち筒状の部分は、ニードル23の軸方向に略平行な円筒面状に形成される。サック室52は、燃料通路51から流出する燃料を一旦溜め噴孔53に供給する。噴孔53は、サック室52の内壁55に開口して形成され、例えば周方向に複数設けられる。各噴孔53はサック室52の燃料を噴射する。
【0028】
ニードル23は、弁ボディ14内に可動可能に収容され、「弁部材本体」としてのニードル本体23a、第1斜面部23b、シート部23c、第2斜面部23d、および突起部23eを備える。
ニードル本体23aは、弁ボディ14内において軸方向に移動可能に設けられる。第1斜面部23bは、ニードル本体23aのサック室52側に弁座部54に対向して設けられると共にサック室52に向かうに従い外径が小さくなるように設けられる。
【0029】
シート部23cは、第1斜面部23bのサック室52側に設けられ弁座部54に当接および離間可能である。第2斜面部23dは、シート部23cのサック室52側に弁座部54に対向して設けられると共にサック室52に向かうに従い外径が小さくなるように設けられる。第1斜面部23bおよび第2斜面部23dは、弁座部54との間に燃料通路51を形成する。
【0030】
シート部23cは、弁座部54に当接することにより燃料通路51を遮断する。その一方で、シート部23cは、弁座部54から離間することにより燃料通路51を開放する。第2斜面部23dは、シート部23cが弁座部54から離間したとき燃料通路51の燃料の圧力を受ける。その受圧のとき第1斜面部23bおよび第2斜面部23dには、シート部23cの離間方向の力が作用する。図2(b)にはその力の向きを矢印Fで示す。
【0031】
突起部23eは、第2斜面部23dからサック室52側へ突出して設けられる。突起部23eの外壁56は、ニードル23の軸方向に略平行な円筒面状に形成される。この突起部23eは、図2(a)に示すように、シート部23cが弁座部54に当接した位置においてはサック室52内に嵌合する。
【0032】
弁ボディ14とニードル23との間には、シート部23cと噴孔53との間の流通区間のうち第2斜面部23dの下流側に、噴孔53側へ向かって通路面積が小さくなる絞り流路部57が形成される。具体的には、本実施形態では、絞り流路部57は、サック室52内に嵌合する突起部23eの外壁56とサック室52の内壁55との間に形成される。本実施形態では、外壁56と内壁55との径方向隙間Scは、例えば10μmに設定される。絞り流路部57は、ニードル23が、図2(a)に示すようにシート部23cと弁座部54との当接位置から、図2(b)に示すように軸方向に所定量すなわち所定リフト量Lf移動するまでの微小リフト領域Z(後述の図3参照)において形成される。
【0033】
図3は、シート部23cと弁座部54との当接位置からのニードル23の軸方向の移動距離すなわちリフト量L[mm]と、各通路面積As、A0、およびAc[mm2]との関係を示す図である。図3において、横軸がリフト量Lを示し、縦軸が各通路面積As、A0、およびAcを示している。シート部通路面積Asは、シート部23cと弁座部54との間に形成されるシート部通路の最小通路面積である。第2斜面部通路面積A0は、第2斜面部23dと弁座部54との間に形成される第2斜面部通路の最大通路面積である。絞り通路面積Acは、絞り流路部57の最小通路面積である。本実施形態では、各通路面積As、A0、およびAcは、図2(b)に矢印fで示す燃料の流通方向に直交する面内の通路面積である。
【0034】
図3に示すように、シート部通路面積Asは、シート部23cと弁座部54との当接位置すなわちリフト量Lが0(零)であるときは0(零)である。そして、シート部通路面積Asは、シート部23cが弁座部54から離間するほど即ちリフト量Lが増加するほど連続的に増加する。
第2斜面部通路面積A0は、リフト量Lが0(零)であるとき所定値A01である。そして、第2斜面部通路面積A0は、リフト量Lが増加するほど連続的に増加する。
【0035】
本実施形態では、弁座部54、サック室52、シート部23c、および突起部23e等(以下「弁構成部材」という)の形状(寸法)は、ニードル23のリフト量Lが所定リフト量Lfより小さいとき(リフト量Lが微小リフト領域Z以内のとき)次式(1)の関係が成り立つように設定される。
As < A0 ・・・(1)
また、弁構成部材の形状(寸法)は、ニードル23のリフト量Lが所定リフト量Lfと同じとき(リフト量Lが微小リフト領域Zの最大値のとき)次式(2)の関係が成り立つように設定される。
As = A0 ・・・(2)
また、弁構成部材の形状(寸法)は、ニードル23のリフト量Lが所定リフト量Lfより大きいとき(リフト量Lが微小リフト領域Zを超えるとき)次式(3)の関係が成り立つように設定される。
As > A0 ・・・(3)
【0036】
絞り通路面積Acは、ニードル23のリフト量Lが微小リフト領域Z以内である場合、外壁56および内壁55が略平行なので一定の所定値Ac1である。そして、絞り通路面積Acは、ニードル23のリフト量Lが微小リフト領域Zを超えると急激に増加する。
本実施形態では、弁構成部材の形状(寸法)は、ニードル23のリフト量Lが微小リフト領域Z以内であるときは次式(4)の関係が成り立つように設定される。
Ac ≦ (1/2)・A0 ・・・(4)
シート部通路面積Asは、微小リフト領域Zのうちリフト量Lが0(零)に比較的近い側の所定値L0において、絞り通路面積Acに一致する。
【0037】
次に、インジェクタ10の作動について、図4に基づき説明する。図4は、インジェクタ10のニードル23のリフト量Lの変化と、図6に示す比較形態のインジェクタのニードル23のリフト量L’の変化とを、時系列的に示した図である。図4において、実線が本実施形態のインジェクタ10のニードル23のリフト量Lを示し、破線が比較形態のインジェクタのニードル23のリフト量L’を示している。インジェクタ10では、時刻t0から時刻t12までコイル36に通電されて開弁制御が行われ、時刻t12から時刻t13までコイル36への通電が停止しスプリング26の付勢力により閉弁制御が行われる。比較形態のインジェクタでは、時刻t0から時刻t21まで開弁制御が行われ、時刻t21から時刻t22まで閉弁制御が行われる。
【0038】
先ず、比較形態のインジェクタについて説明する。比較形態のインジェクタは、図6に示すように、本実施形態のような突起部23eを備えず、絞り流路部57が形成されない。比較形態のインジェクタでは、図6(b)に示すように、燃料通路51の開放直後すなわち開弁直後であってニードル23のリフト量Lが比較的小さいと、燃料通路51の流速が速い。そのため、シート部23cの下流側に絞りが形成されず、第2斜面部23dが燃料から受ける圧力が比較的小さい。よって、ニードル23の軸方向の移動速度すなわち開弁速度は、比較的遅い。
【0039】
本実施形態のインジェクタ10では、図2(b)に示すように、燃料通路51が開放されシート部23cから噴孔53へ燃料が流通する際、シート部23cの下流側に絞り流路部57が形成される。そのため、絞り流路部57の上流側の燃料に流通抵抗が与えられ、燃料通路51のうち第2斜面部23dと弁座部54との間に形成される第2斜面部通路の流通速度が比較的遅くなる。すなわち、燃料が第2斜面部通路に比較的長い時間留まることとなる。そのため、ニードル23の第2斜面部23dが燃料から受ける圧力が、前記比較形態のインジェクタの場合と比べて増大する。
【0040】
したがって、図4に示すように、本実施形態のインジェクタ10は、比較形態のインジェクタと比べてニードル23の軸方向の移動速度すなわち開弁速度が速くなる。ここで、時刻t11を過ぎると、ニードル23のリフト量Lが所定値Lfを超えることで微小リフト領域Zを超え、絞り流路部57の絞りが開放される即ち絞り通路面積Acが急に大きくなる。そのため、図4において微小リフト領域Zでのリフト量Lの変化の傾きを延長して仮想的に示す2点鎖線aに比べて、ニードル23の移動速度が低下する。しかし、ニードル23は慣性力でもって離座方向へ移動し続けるため、ニードル23の移動速度の低下量は比較的少ない。
【0041】
本実施形態では、インジェクタ10(燃料噴射装置)は、弁ボディ14およびニードル(弁部材)23を備える。弁ボディ14は、燃料が流通する燃料通路51、燃料通路51から流出する燃料を溜めるサック室52、サック室52の燃料を噴射する噴孔53、および燃料通路51の内壁に形成される弁座部54、を有する。二―ドル23は、弁ボディ14内において軸方向に移動可能に設けられたニードル本体(弁部材本体)23a、ニードル本体23aのサック52室側に弁座部54に対向して設けられサック52室に向かうに従い外径が小さくなる第1斜面部23b、第1斜面部23bのサック室52側に設けられ弁座部54に当接および離間可能なシート部23c、シート部23cのサック室52側に設けられサック室52に向かうに従い外径が小さくなる第2斜面部23d、を形成する。さらに、インジェクタ10は、シート部23cから噴孔53へ向かう流通区間に形成され噴孔53へ向かうに従い通路面積が小さくなる絞り流路部57を備える。
そのため、燃料通路51が開放されシート部23cから噴孔53へ燃料が流通する際、シート部23cの下流側に絞り流路部57が形成される。その絞り流路部57を流れる燃料には流通抵抗が付与されるので、絞り流路部57の上流側に位置する第2斜面部23dと弁座部54との間の第2斜面部通路の流通速度が比較的遅くなる。そのため、第2斜面部23dが燃料から受ける圧力が大きくなり、ニードル23の離間方向の移動速度すなわち開弁速度を速くすることができる。よって、簡易な構成で開弁動作の応答性が高いインジェクタ10を得ることができる。
【0042】
また、本実施形態では、絞り流路部57は、ニードル23の着座位置からの軸方向へのリフト量Lが所定リフト量Lf以下である微小リフト領域Zにおいて形成される。そのため、上記微小リフト領域Zのニードル23の移動速度を高めることができる。
【0043】
また、本実施形態では、ニードル23は、第2斜面部23dからサック室52側へ突出する突起部23eを有する。絞り流路部57は、サック室52内に嵌合する突起部23eの外壁56とサック室52の内壁55との間に形成される。そのため、微小リフト領域Zにシート部23cの下流側に位置するサック室52の入口に絞り流路部57を形成することができる。
【0044】
また、本実施形態では、絞り流路部57を形成する弁構成部材の形状(寸法)は、絞り流路部57の最小通路面積をAc、シート部23cから絞り流路部57に至るまでの第2斜面部通路の最大通路面積をA0とすると、微小リフト領域Zにおいては
Ac ≦ (1/2)・A0
の関係が成り立つように設定される。そのため、微小リフト領域Zに第2斜面部23dが受ける圧力を十分に大きくすることができる。
【0045】
また、本実施形態では、絞り流路部57は、シート部23cと弁座部54との間に形成されるシート部通路の最小通路面積をAsとすると、
As < A0
の関係が成り立つ場合に形成される。そのため、シート部通路の最小通路面積Asが第2斜面部通路の最大通路面積A0より小さいこと(As<A0)でシート部通路にて圧損が生じる場合、シート部23cの下流に絞り流路部57が形成されることによる第2斜面部通路の受圧力増大効果が得られる。
【0046】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態のインジェクタを示す断面図である。本実施形態では、弁ボディ14は、弁座部54のうち第2斜面部23dに対向する部分に周方向に連続して形成された凹部60を有している。本実施形態では、凹部60は、ニードル23の軸方向に平行に形成された筒状壁と、ニードル23の軸方向に直交する平面内に形成された環状壁とから成る。凹部60は、シート部23cから噴孔53へ向かう流通区間に噴孔53に向かうに従い通路面積が大きくなる拡大流路部を形成する。また、上記拡大流路部の下流側に隣接する位置に下流側へ向かうに従い通路面積が小さくなる絞り流路部57を有する。
【0047】
本実施形態のインジェクタでは、図5(b)に示すように、燃料通路51が開放されシート部23cから噴孔53へ燃料が流通する際、シート部23cの下流側に拡大流路部および絞り流路部57が形成される。そのため、シート部23cを通過した燃料の流通速度が拡大流路部および絞り流路部57内(凹部60内)で低下する。よって、ニードル23の第2斜面部23dが第2斜面部通路の燃料から受ける圧力が、前記比較形態のインジェクタの場合と比べて増大する。凹部60は、シート部23cを通過する燃料を一旦貯留し第2斜面部通路の流通速度を低下させるための容積部として機能する。
【0048】
本実施形態のインジェクタの構成は、弁座部54に凹部60が形成される他は第1実施形態と同様である。本実施形態では、燃料通路51が開放されシート部23cから噴孔53へ燃料が流通する際、シート部23cの下流側に絞り流路部57が形成されるので、絞り流路部57の上流側に位置する第2斜面部23dと弁座部54との間の第2斜面部通路の流通速度が比較的遅くなる。そのため、第2斜面部23dが燃料から受ける圧力が大きくなり、ニードル23の離間方向の移動速度すなわち開弁速度を速くすることができる。よって、簡易な構成で開弁動作の応答性が高いインジェクタを得ることができる。
【0049】
また、本実施形態では、弁ボディ14は、シート部23cから噴孔53へ向かう流通区間のうち絞り流路部57のシート部23c側に連続して形成され、噴孔53へ向かうに従って通路面積が大きくなる凹部60を形成する。そのため、燃料通路51が開放されシート部23cから噴孔53へ燃料が流通する際、シート部23cの下流側に拡大流路部が形成される。よって、シート部23cを通過した燃料の流通速度は拡大流路部すなわち凹部60内で低下するので、第2斜面部通路の受圧力がより増大する。
【0050】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、インジェクタ10は、筒内噴射型であった。これに対し、本発明の他の実施形態では、燃料噴射装置はポート噴射型であることとしてもよい。
【0051】
上述の実施形態では、インジェクタ10は、電磁弁部30により制御室27の油圧を制御することでニードル23を駆動する油圧駆動式であった。これに対し、本発明の他の実施形態では、例えば、ニードルをソレノイドの可動鉄心に固定しそのソレノイドにより直接的に駆動することとしてもよいし、ピエゾ素子を用いた油圧制御によりニードルを駆動することとしてもよい。
【0052】
上述の実施形態では、絞り流路部57は、サック室52を形成する内壁55と突起部23eの外壁56との間に形成されていた。これに対し、本発明の他の実施形態では、絞り流路部は、サック室と突起部との間ではなく、例えば、弁座部とニードルとの間などに形成されることとしてもよい。
【0053】
第2実施形態では、拡大流路部は、弁座部54において周方向に連続して設けられた凹部60により形成されていた。これに対し、本発明の他の実施形態では、拡大流路部は、弁座部に形成された穴や溝により形成されることとしてもよい。上記穴や溝は必ずしも周方向に連続して形成される必要はない。
【0054】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 ・・・インジェクタ(燃料噴射装置)
14 ・・・弁ボディ
23 ・・・ニードル(弁部材)
23a・・・ニードル本体(弁部材本体)
23b・・・第1斜面部
23c・・・シート部
23d・・・第2斜面部
23e・・・突起部
51 ・・・燃料通路
52 ・・・サック室
53 ・・・噴孔
54 ・・・弁座部
55 ・・・内壁
56 ・・・外壁
57 ・・・絞り流路部
60 ・・・凹部
Ac ・・・絞り通路面積(絞り流路部の最小通路面積)
As ・・・シート部通路面積(シート部通路の最小通路面積)
A0 ・・・第2斜面部通路面積(第2斜面部通路の最大通路面積)
L ・・・リフト量
Lf ・・・所定リフト量(所定量)
Z ・・・微小リフト領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が流通する燃料通路、当該燃料通路から流出する燃料を溜めるサック室、当該サック室の燃料を噴射する噴孔、および前記燃料通路の内壁に形成される弁座部、を有する弁ボディと、
前記弁ボディ内において軸方向に移動可能に設けられた弁部材本体、当該弁部材本体の前記サック室側に前記弁座部に対向して設けられ当該サック室に向かうに従い外径が小さくなる第1斜面部、当該第1斜面部の前記サック室側に設けられ前記弁座部に当接および離間可能なシート部、当該シート部の前記サック室側に設けられ当該サック室に向かうに従い外径が小さくなる第2斜面部、を形成する弁部材と、
前記シート部から前記噴孔へ向かう流通区間に形成され前記噴孔へ向かうに従い通路面積が小さくなる絞り流路部と、
を備えることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
前記絞り流路部は、前記弁部材の前記弁座部への当接位置からのリフト量が所定量以下である微小リフト領域において形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記弁部材は、前記第2斜面部から前記サック室側へ突出する突起部を形成し、
前記絞り流路部は、前記サック室内に嵌合する前記突起部の外壁と前記サック室の内壁との間に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記絞り流路部の最小通路面積をAc、前記シート部から前記絞り流路部に至るまでの第2斜面部通路の最大通路面積をA0とすると、前記絞り流路部は、前記微小リフト領域においては、
Ac ≦ (1/2)・A0
の関係が成り立つように設定されることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記シート部と前記弁座部との間に形成されるシート部通路の最小通路面積をAsとすると、前記微小リフト領域においては、
As < A0
の関係が成り立つように設定されることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記弁ボディまたは前記弁部材は、前記シート部から前記噴孔へ向かう流通区間のうち前記絞り流路部の前記シート部側に連続して形成され、前記噴孔へ向かうに従って通路面積が大きくなる凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−189039(P2012−189039A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55088(P2011−55088)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】