説明

燃料性状判定装置

【課題】燃料比重によることなく燃料のアロマティクス濃度を推定する。
【解決手段】内燃機関の排気通路にパティキュレートを捕集する捕集装置を設ける。所定時間の間に捕集装置に堆積したパティキュレート堆積量を検出する。使用燃料のセタン価、動粘度および蒸留性状値を推定する。推定されたセタン価、動粘度および蒸留性状値のそれぞれに対応し、前記所定時間の間に発生した各パティキュレート発生量を算出する。検出されたパティキュレート堆積量と、算出された各パティキュレート発生量とに基づき、使用燃料のアロマティクス濃度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料性状判定装置に係り、特にディーゼルエンジンにおいて用いられているディーゼル燃料(軽油等)のアロマティクス濃度を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ディーゼルエンジンの分野では、石油枯渇および地球環境問題の観点から様々な使用燃料が検討されている。そしてパティキュレート(粒子状物質、以下「PM」ともいう)発生量低減のため、燃料の軽質化が検討されているが、実際に使用される燃料はユーザによってまちまちである。そこで多種多様な燃料に対応できるよう、エンジン側或いは車両側で燃料性状を判定することが求められている。
【0003】
特に、燃料に含まれるアロマティクス(芳香族炭化水素、以下「アロマ分」ともいう)がPM発生量に大きく影響し、前者の濃度が高いと後者は増加する傾向にある。よって大気へのPM排出量を低減すべく、アロマ分濃度をオンボードで常時把握できるのが便利且つ有効である。
【0004】
例えば特許文献1には、燃料中のアロマ分含有量の相関値である燃料比重を検出し、この燃料比重に基づいてパティキュレート発生量を予測することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−2817号公報
【特許文献2】特開2009−30531号公報
【特許文献3】特開2009−174383号公報
【特許文献4】特開平11−125134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特定国ないし地域で使われている燃料の中には、アロマ分含有量の変化に対し燃料比重の変化が小さいものがある。よって仮に特許文献1に記載の技術を利用して、燃料比重からアロマ分含有量を推定することとしても、推定誤差が大きくなるか、あるいは高精度の燃料比重計を車両に搭載しなければならない欠点がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、燃料比重によることなく燃料のアロマティクス濃度を推定可能な燃料性状判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の形態によれば、
内燃機関の排気通路に設けられ、排気中のパティキュレートを捕集する捕集装置と、
所定時間の間に前記捕集装置に堆積したパティキュレート堆積量を検出する検出手段と、
使用燃料のセタン価、動粘度および蒸留性状値を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定されたセタン価、動粘度および蒸留性状値のそれぞれに対応し、前記所定時間の間に発生した各パティキュレート発生量を算出する算出手段と、
前記検出手段により検出されたパティキュレート堆積量と、前記算出手段により算出された各パティキュレート発生量とに基づき、使用燃料のアロマティクス濃度を推定する濃度推定手段と、
を備えたことを特徴とする燃料性状判定装置が提供される。
【0009】
好ましくは、前記濃度推定手段は、前記パティキュレート堆積量から前記各パティキュレート発生量を減じることにより、前記所定時間の間に発生したアロマティクスに対応するパティキュレート発生量を算出し、該アロマティクスに対応するパティキュレート発生量に基づき使用燃料のアロマティクス濃度を推定する。
【0010】
好ましくは、前記燃料性状判定装置は、前記内燃機関の筒内状態を取得する取得手段をさらに備える。
【0011】
好ましくは、前記算出手段は、前記推定手段により推定されたセタン価、動粘度および蒸留性状値に加え、前記取得手段により取得された筒内状態にも基づいて、セタン価、動粘度および蒸留性状値のそれぞれに対応した各パティキュレート発生量を算出する。
【0012】
好ましくは、前記濃度推定手段は、前記検出手段により検出されたパティキュレート堆積量と、前記算出手段により算出された各パティキュレート発生量とに加え、前記取得手段により取得された筒内状態にも基づいて、使用燃料のアロマティクス濃度を推定する。
【0013】
好ましくは、前記取得手段は、前記内燃機関の排気弁開弁時における筒内状態を取得する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料比重によることなく燃料のアロマティクス濃度を推定することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】蒸留性状値を推定するためのマップである。
【図3】セタン価に対応したPM発生量を算出するためのマップである。
【図4】動粘度に対応したPM発生量を算出するためのマップである。
【図5】蒸留性状値に対応したPM発生量を算出するためのマップである。
【図6】アロマ分濃度を推定するためのマップである。
【図7】筒内圧力の変化を示すグラフである。
【図8】筒内温度の変化を示すグラフである。
【図9】アロマ分濃度推定ルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1に、本発明の実施形態に係る内燃機関を概略的に示す。1は自動車用の多気筒圧縮着火式内燃機関即ちディーゼルエンジンであり、2は吸気ポートに連通されている吸気マニフォルド、3は排気ポートに連通されている排気マニフォルド、4は燃焼室である。本実施形態では、不図示の燃料タンクから高圧ポンプ5に供給された燃料が、高圧ポンプ5によりコモンレール6に圧送されて高圧状態で蓄圧され、このコモンレール6内の高圧燃料がインジェクタ7から燃焼室4内に直接噴射供給される。
【0018】
エンジン1からの排気ガスは、排気マニフォルド3からターボチャージャ8を経た後にその下流の排気通路9に流され、後述の装置により浄化処理された後、大気に排出される。なお、ディーゼルエンジンの形態としてはこのようなコモンレール式燃料噴射装置を備えたものに限らない。
【0019】
他方、エアクリーナ10から吸気通路11内に導入された吸入空気は、エアフローメータ12、ターボチャージャ8、インタークーラ13、スロットルバルブ14を順に通過して吸気マニフォルド2に至る。エアフローメータ12は単位時間当たりの吸入空気量を検出するためのセンサであり、具体的には吸入空気の流量に応じた信号を出力する。スロットルバルブ14には電子制御式のものが採用されている。
【0020】
エンジン1はEGR装置をも含む。EGR装置は、排気マニフォルド3内の排気ガスを吸気通路11に環流させるためのEGR通路17と、EGR通路17を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ18と、EGRガスの流量を調節するEGR弁19とを備える。
【0021】
排気通路9には、排気中の煤等のパティキュレート(以下「PM」ともいう)を捕集する捕集装置としてのパティキュレートフィルタ(以下「DPF」という)20が設置されている。DPF20には貴金属からなる触媒が担持されており、捕集したPMを酸化、燃焼できるようになっている。なお、他の後処理装置として、排気中の未燃成分(特にHC)を酸化して浄化する酸化触媒と、排気中のNOxを還元除去するNOx触媒を設けてもよい。
【0022】
排気通路9または排気マニフォルド3に設けられた燃料添加弁21から適宜なタイミングで排ガス中に燃料が添加される。すると、DPF20に、HCを多く含むリッチな排気ガスが供給され、このリッチガスがDPF20の触媒を介して酸化、燃焼され、同時にDPFに堆積されていたPMが燃焼する。これによりDPF20は再生される。なお、燃料添加弁21から燃料を添加する代わりに、インジェクタ7から燃焼室4内にポスト噴射またはアフタ噴射を行ってリッチな排気ガスを生成しても良い。
【0023】
DPF20に捕集ないし堆積されたPMの量、すなわちDPF20におけるPM堆積量を検出するため、DPF20には、その前後の差圧を検出するための差圧センサ22が併設されている。PM堆積量が増加するほど差圧が大きくなるため、差圧センサ22によりPM堆積量の検出が可能である。
【0024】
なお、差圧センサ22の代わりに、DPF20の重量を検出する重量計等を用いてPM堆積量を検出してもよい。PM堆積量が増加するほどDPF20の重量が増加するため、重量計によりPM堆積量の検出が可能である。
【0025】
またエンジンの筒内状態を取得すべく、各気筒に筒内圧センサ24が設けられる。ここで筒内状態とは筒内圧力および筒内温度の少なくとも一方をいい、取得には検出および推定の両方が含まれる。筒内圧センサ24は、筒内圧力を検出するセンサである。
【0026】
なお、筒内圧センサ24に代えてまたはこれに加えて、筒内温度を検出する筒内温センサを設けてもよい。また、これらセンサにより筒内状態を検出する代わりに、筒内状態を推定してもよい。この推定については後に述べる。
【0027】
制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUという)100は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含む。ECU100は、各種センサ類の検出値等に基づいて、所望のエンジン制御が実行されるように、インジェクタ7、高圧ポンプ5、スロットルバルブ14、EGR弁19、燃料添加弁21等を制御する。ECU100には、センサ類として、上述のエアフローメータ12、差圧センサ22、筒内圧センサ24が接続されている。
【0028】
またECU100には、クランク角センサ15およびアクセル開度センサ16が接続されている。クランク角センサ15はクランクシャフトの回転時にクランクパルス信号をECU100に出力し、ECU100はそのクランクパルス信号に基づきエンジン1のクランク角を検出すると共に、エンジン1の回転速度を算出する。アクセル開度センサ16は、ユーザによって操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じた信号をECU100に出力する。
【0029】
またECU100には、コモンレール圧センサ25が接続されている。コモンレール圧センサ25は、コモンレール6内の燃料圧力(コモンレール圧)に対応した信号をECU100に出力する。コモンレール圧は、インジェクタ7から噴射される燃料の圧力すなわち噴射圧力となる。コモンレール圧センサ25によって検出された実際圧がエンジン運転状態に応じた目標圧に一致するよう、高圧ポンプ5が制御され、コモンレール圧はフィードバック制御される。
【0030】
次に、使用燃料のアロマティクス(アロマ分)濃度の推定について説明する。当該推定は主にECU100によって実行される。
【0031】
本実施形態に係るアロマ分濃度推定は概して次の第1〜第4ステップを経て行われる。
第1ステップ:所定時間の間にDPF20に堆積したPM堆積量を検出する。
第2ステップ:使用燃料のセタン価、動粘度および蒸留性状値を推定する。
第3ステップ:推定されたセタン価、動粘度および蒸留性状値のそれぞれに対応し、前記所定時間の間に発生した各パティキュレート発生量を算出する。
第4ステップ:第1ステップで検出されたPM堆積量と、第3ステップで算出された各パティキュレート発生量とに基づき、使用燃料のアロマ分濃度を推定する。
【0032】
第1ステップに関して、ECU100は、差圧センサ22の出力に基づき、現時点でDPF20に実際に堆積しているPMの量、言い換えれば瞬時的なPM堆積量(「瞬時PM堆積量」という)dPを所定のマップ(関数でもよい。以下同様)から算出する。そして前記所定時間の開始時および終了時における瞬時PM堆積量dPの差から、所定時間の間に堆積したPM堆積量を算出ないし検出する。
【0033】
ここで、より具体的には、所定時間は、DPF20に所定の一定量のPMが堆積するような時間、言い換えれば所定時間の開始時および終了時の瞬時PM堆積量の差が所定の一定量となるような時間とされる。瞬時PM堆積量dPが初期値から一定量増加するまで、瞬時PM堆積量の算出が継続的に実行され、その増加が終了した時点で瞬時PM堆積量の算出が終了される。そして、前記所定時間の間に、前記一定量のPMがDPF20に堆積したことが検出される。
【0034】
なお、所定時間を異なる態様で規定することも可能である。例えば所定時間を単純に時間で規定することも可能である。
【0035】
次に、第2ステップにおける各推定は次の方法で行われる。まずセタン価推定については、特許文献2に記載の如く、フューエルカット時にあえてパイロット噴射を行い、着火が生じるパイロット噴射の回数に基づいて燃料のセタン価SNを推定する。このほかパイロット噴射時の熱発生率、筒内の圧力および容積の変化、燃料比重等に基づいてセタン価SNを推定してもよい。
【0036】
動粘度推定については、特許文献3に記載の如く、コモンレール圧センサ25により検出されたコモンレール圧の変化により燃料の動粘度νを推定する。このほか、特許文献4に記載の如く、インジェクタ7に設けられたニードルリフトセンサにより二―ドルリフト量を検出し、この二―ドルリフト量に基づき動粘度νを推定してもよい。
【0037】
蒸留性状値推定について、ここでいう蒸留性状値とは、具体的にはJIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定されるT90をいう。T90は、90%留集温度もしくは90%留出温度などとも称され、90%蒸発する温度のことをいう。なおT90を低下させることで、燃料は軽質化され、燃料は蒸発しやすくなる。よってエンジンの燃焼室内で燃料が微粒化し易くなり、結果、PM発生量が減少する。蒸留性状値はT90の代わりにT50、T10、EP等を用いてもよい。
【0038】
T90は、推定された動粘度νに基づき、図2に示すような所定のマップを用いて推定する。なおセンサ等により蒸留性状値を直接検出してもよい。
【0039】
第3ステップに関しては、推定されたセタン価SN、動粘度νおよび蒸留性状値T90のそれぞれに対応した各パティキュレート(PM)発生量PSN,Pν,PT90を算出する。各PM発生量PSN,Pν,PT90は、前記所定時間の間に全気筒の燃焼室4から発生した各PM発生量である。より具体的には、DPF20に所定の一定量のPMが堆積する間に全気筒の燃焼室4から発生した各PM発生量である。
【0040】
セタン価SNに対応したPM発生量PSNは、推定されたセタン価SNに基づき、図3に示すような所定のマップを用いて算出する。同様に、動粘度νに対応したPM発生量Pνは、推定された動粘度νに基づき、図4に示すような所定のマップを用いて算出する。また蒸留性状値T90に対応したPM発生量PT90は、推定された蒸留性状値T90に基づき、図5に示すような所定のマップを用いて算出する。
【0041】
第4ステップに関しては、まず、第1ステップで検出されたPM堆積量Pから、第3ステップで算出された各PM発生量PSN,Pν,PT90を減じることにより、前記所定時間の間に発生したアロマ分に対応するPM発生量PAROを算出する。すなわちアロマ分に対応するPM発生量PAROは式:PARO=P−(PSN+Pν+PT90)から求められる。前記同様、アロマ分に対応するPM発生量PAROは、DPF20に一定量のPMが堆積する間に全気筒の燃焼室4から発生したPM発生量である。
【0042】
次いで、アロマ分に対応するPM発生量PAROに基づき、図6に示すような所定のマップを用いて、使用燃料のアロマ分濃度CAROを算出ないし推定する。
【0043】
以上から分かるように、本実施形態においては、前記所定時間の間に全気筒の燃焼室4から発生したPMが全てDPF20に堆積したものとする。そしてこの発生ないし堆積したPMを、燃料のセタン価SNに起因するもの(PSN)と、燃料の動粘度νに起因するもの(Pν)と、燃料の蒸留性状値T90に起因するもの(PT90)と、燃料のアロマ分に起因するもの(PARO)とに分けて考える。前3者の量を推定し、これを実際のPM堆積量から減じる。これによって燃料のアロマ分に起因するもの(PARO)の量を把握し、この量に基づいてアロマ分濃度を推定する。
【0044】
本実施形態に係る燃料性状判定装置によれば、燃料比重によることなく燃料のアロマ分濃度を推定可能である。従って、アロマ分の含有量ないし濃度の変化に対し燃料比重の変化が小さいような燃料の場合でも、アロマ分濃度を正確に推定することができ、高い推定精度を確保することができる。そして高精度の燃料比重計を車両に搭載する必要もなく低コスト化が図れる。
【0045】
ところで例えばセタン価SNについて、図3に示すようなセタン価SNとこれに対応するPM発生量PSNとの関係は、エンジンの筒内状態に応じて変化する。そこで本実施形態では、エンジンの筒内状態を取得し、推定されたセタン価SNのみならず取得された筒内状態にも基づいてPM発生量PSNを算出する。これにより推定精度を高めることが可能となる。他の動粘度νおよび蒸留性状値T90についても同様である(図4,図5参照)。
【0046】
また同様に、図6に示すようなアロマ分に対応するPM発生量PAROとアロマ分濃度CAROとの関係も、エンジンの筒内状態に応じて変化する。そこで本実施形態では、算出されたPM発生量PAROのみならず取得された筒内状態にも基づいてアロマ分濃度CAROを推定する。これにより推定精度を一層高めることが可能となる。
【0047】
ここでセタン価SNを代表例にとって説明する。前述したように、筒内状態とは筒内圧力および筒内温度の少なくとも一方をいう。本実施形態では筒内圧センサ24が設けられているので、筒内圧センサ24により検出された筒内圧力Pcを筒内状態、すなわち筒内状態を表す筒内状態パラメータXとすることができる。図3に示すように、筒内状態パラメータXが大きいほど、すなわち筒内圧力Pcが高いほど、同一のセタン価SNに対するPM発生量PSNは大きい。その理由は、筒内圧力Pcが高いほど燃料噴射量が多くなりPMが多く発生するからである。他の動粘度ν、蒸留性状値T90およびアロマ分濃度CAROについても同様の傾向がある(図4,図5,図6参照)。
【0048】
他方、筒内圧センサ24の代わりに筒内温センサを設け、筒内温センサにより検出された筒内温度Tcを筒内状態すなわち筒内状態パラメータXとしてもよい。このときにも前記同様、筒内状態パラメータXが大きいほど、すなわち筒内温度Tcが高いほど、同一のセタン価SNに対するPM発生量PSNは大きくなる。
【0049】
ところで、筒内圧力Pcおよび筒内温度Tcは図7および図8に示すようにクランク角に応じて時々刻々と変化する。そこで本実施形態では、所定タイミングである排気弁開弁時EVOにおける筒内圧力Pcおよび筒内温度Tcの少なくとも一方の値を、筒内状態すなわち筒内状態パラメータXとする。もっとも、他のタイミングの値とすることも可能である。
【0050】
他方、筒内状態をセンサで検出するのではなくECUで推定する場合、次の推定方法を採用することができる。
【0051】
筒内状態は、エンジンの回転状態、吸気状態および燃料噴射状態の関数とみなすことができる。回転状態を表すパラメータとしては回転速度(または単位時間当たりの回転数)Neを例示することができる。吸気状態を表すパラメータとしては吸入空気量Ga、EGR率、吸気マニフォルド内温度および吸気マニフォルド内圧力を例示することができる。燃料噴射状態を表すパラメータとしては燃料噴射量Q、燃料噴射時期、1燃焼当たりの燃料噴射回数および燃料噴射圧力を例示することができる。
【0052】
従って、回転状態、吸気状態および燃料噴射状態をそれぞれ表す少なくとも一つずつのパラメータに基づき、所定のマップを利用して、筒内状態を推定することが可能である。本実施形態では例えば、クランク角センサ15により検出されるエンジン回転速度と、エアフローメータ12により検出される吸入空気量Gaと、ECU100の内部値である目標EGR率、燃料噴射量、燃料噴射時期、燃料噴射回数と、コモンレール圧センサ25により検出されるコモンレール圧とにより、筒内状態を推定する。本実施形態において、この推定された筒内状態は排気弁開弁時EVOの値である。
【0053】
次に、図9を参照して、本実施形態に係るアロマ分濃度推定ルーチンを説明する。当該ルーチンはECU100により所定の演算周期毎に繰り返し実行される。演算周期はここでは1secであるが、クランクシャフトの1回転等、他の周期としても良い。後述する開始処理フラグの初期状態はオフである。ここでは筒内状態を推定する方法を採用する。
【0054】
まずステップS101において、開始処理フラグがオフか否かが判断される。1回目のルーチン実行時はオフなのでステップS102に進む。他方、2回目以降のルーチン実行時は、後述するステップS104により開始処理フラグが既にオンされているので、ステップS101からステップS105に進む。
【0055】
ステップS102では、上述の方法により使用燃料のセタン価SN、動粘度νおよび蒸留性状値T90が推定される。
【0056】
ステップS103では、1回目のルーチン実行時におけるDPF20の瞬時PM堆積量dPが差圧センサ22により検出され、この検出値がPM堆積量初期値P0としてECU100に読み込まれ、記憶される。
【0057】
ステップS104では開始処理フラグがオンされる。
【0058】
ステップS105では、筒内状態パラメータX(n)の値が前述の方法により推定され、記憶される。nはルーチン実行回を表す。なお推定ではなく検出する場合は、検出された筒内状態パラメータXの値がそのまま記憶される。
【0059】
ステップS106では、今回のルーチン実行時におけるDPF20の瞬時PM堆積量dPが差圧センサ22により検出され、この検出値が今回PM堆積量P1としてECU100に読み込まれ、記憶される
ステップS107では、1回目のルーチン実行時から今回のルーチン実行時までの間にDPF20に堆積したPM堆積量Pが、式:P=P1−P0から算出される。
【0060】
ステップS108では、ステップS107で算出されたPM堆積量Pが所定の一定量Ps(例えば0.5g)以上となったか否かが判断される。一定量Ps以上となってなければルーチンが終了され、一定量Ps以上となった場合にはステップS109に進む。このようにPM堆積量Pが一定量Psに達するまで堆積等を続ける理由は、PM堆積量Pがあまりに少ないと推定精度が低下する虞があるからである。逆に言えば、一定量Psは、所望の推定精度を確保するのに十分な量とされる。
【0061】
このように、DPF20に一定量PsのPMが堆積されるまで、筒内状態パラメータXの推定および記憶と、PM堆積量Pの算出とが繰り返し実行される。
【0062】
次いで、ステップS109では、セタン価SN、動粘度νおよび蒸留性状値T90のそれぞれに対応した各PM発生量PSN,Pν,PT90が算出される。
【0063】
この際、既に記憶されている各回の筒内状態パラメータX(n)の値が読み出されると共に、これら各回の筒内状態パラメータX(n)の値に対応した各回の各PM発生量dPSN(n),dPν(n),dPT90(n)が算出される。そして、各回の各PM発生量PSN(n),Pν(n),PT90(n)がサンプル数分積算され、最終的な各PM発生量PSN,Pν,PT90が算出される。
【0064】
例えばセタン価SNについて述べると、1回目の筒内状態パラメータX(1)とステップS102で推定されたセタン価SNとの値に基づき、図3のマップから、1回目のPM発生量dPSN(1)が算出される。これを式で表すとdPSN(1)=f{SN,X(1)}となる。このとき1回目の筒内状態パラメータX(1)の値に対応したマップ中のデータが利用される。2回目も同様に式で表すとdPSN(2)=f{SN,X(2)}となる。これをサンプル数分積算するので、結局、最終的なPM発生量PSNは式:PSN=ΣdPSN(n)で表されることとなる。他の動粘度νおよび蒸留性状値T90についても同様の算出方法が適用される。
【0065】
つまり、各回の各PM発生量dPSN(n),dPν(n),dPT90(n)は、1演算周期内で発生した瞬時的なPM発生量を表す。各回の各PM発生量を筒内状態も加味して算出するので、PM堆積量Pが一定量Psとなるまでの間の筒内状態の変化を反映させて最終的な各PM発生量を算出することができ、算出精度を向上できる。
【0066】
次に、ステップS110において、読み出された各回の筒内状態パラメータX(n)の値が単純平均化され、筒内状態パラメータ平均値Xaveとして記憶される。
【0067】
ステップS111においては、アロマ分に対応したPM発生量PAROが式:PARO=P−(PSN+Pν+PT90)から算出される。
【0068】
そしてステップS112において、この算出されたPM発生量PAROと既に記憶されている筒内状態パラメータ平均値Xaveとに基づき、図6のマップから、現在使用されている燃料のアロマ分濃度CAROが算出ないし推定される。この際、筒内状態パラメータ平均値Xaveの値に対応したマップ中のデータが利用される。アロマ分濃度CAROは式:CARO=f{PARO,Xave}で表される。この推定時においても、PM堆積量Pが一定量Psとなるまでの間の平均的な筒内状態を反映させてアロマ分濃度CAROを推定するので、推定精度を向上できる。
【0069】
以上、本発明の好適実施形態について説明したが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば筒内状態を考慮しないより単純な実施形態も可能である。
【0070】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 内燃機関
4 燃焼室
7 インジェクタ
9 排気通路
20 DPF
22 差圧センサ
24 筒内圧センサ
25 コモンレール圧センサ
100 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気中のパティキュレートを捕集する捕集装置と、
所定時間の間に前記捕集装置に堆積したパティキュレート堆積量を検出する検出手段と、
使用燃料のセタン価、動粘度および蒸留性状値を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定されたセタン価、動粘度および蒸留性状値のそれぞれに対応し、前記所定時間の間に発生した各パティキュレート発生量を算出する算出手段と、
前記検出手段により検出されたパティキュレート堆積量と、前記算出手段により算出された各パティキュレート発生量とに基づき、使用燃料のアロマティクス濃度を推定する濃度推定手段と、
を備えたことを特徴とする燃料性状判定装置。
【請求項2】
前記濃度推定手段は、前記パティキュレート堆積量から前記各パティキュレート発生量を減じることにより、前記所定時間の間に発生したアロマティクスに対応するパティキュレート発生量を算出し、該アロマティクスに対応するパティキュレート発生量に基づき使用燃料のアロマティクス濃度を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料性状判定装置。
【請求項3】
前記内燃機関の筒内状態を取得する取得手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料性状判定装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記推定手段により推定されたセタン価、動粘度および蒸留性状値に加え、前記取得手段により取得された筒内状態にも基づいて、セタン価、動粘度および蒸留性状値のそれぞれに対応した各パティキュレート発生量を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料性状判定装置。
【請求項5】
前記濃度推定手段は、前記検出手段により検出されたパティキュレート堆積量と、前記算出手段により算出された各パティキュレート発生量とに加え、前記取得手段により取得された筒内状態にも基づいて、使用燃料のアロマティクス濃度を推定する
ことを特徴とする請求項3または4に記載の燃料性状判定装置。
【請求項6】
前記取得手段は、前記内燃機関の排気弁開弁時における筒内状態を取得する
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の燃料性状判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−60871(P2013−60871A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199490(P2011−199490)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】