説明

燃料電池を搭載した移動体

【課題】本発明は、燃料電池を搭載する移動体の前方衝突時にラジエータが他の部位に与える衝撃を軽減することができる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池車10は、燃料電池100と、駆動モータ300と、ラジエータ500とを備え、ラジエータ500のコア部520は、燃料電池車10の進行方向に交差する交差方向に沿った屈曲部510で進行方向後方に向けて屈曲した平板の形状に配置され、燃料電池100および駆動モータ300は、ラジエータ500の屈曲部510を進行方向後方に延長した屈曲延長領域512を間に挟んで併設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を搭載した移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を搭載した移動体としては、燃料電池で生成される電力を利用して走行する自動車である燃料電池車が知られている。燃料電池車は、燃料電池の他、電動機やラジエータを備える。燃料電池車の電動機は、燃料電池で生成された電力を、車輪を駆動する動力に変換し、燃料電池車のラジエータは、燃料電池を冷却する冷却媒体の熱を放熱するラジエータを備える。
【0003】
従来、燃料電池車の前方衝突時に後退するラジエータから電源系統を保護するために、ラジエータと電源系統との間に空間を確保する構造が提案されていた(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−291663号公報
【0005】
しかしながら、燃料電池を冷却する冷却性能の向上が求められる燃料電池車において、大型化する傾向にあるラジエータの後方に十分な空間を確保することが困難であるという問題があり、前方衝突時にラジエータが他の部位(例えば、燃料電池、電動機)に与える衝撃を軽減可能な別の対策が必要とされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した課題を踏まえ、燃料電池を搭載する移動体の前方衝突時にラジエータが他の部位に与える衝撃を軽減することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1] 適用例1の移動体は、電力を生成する燃料電池と、前記燃料電池によって生成された電力を動力に変換する電動機と、前記燃料電池を冷却する冷却媒体の熱を放熱するラジエータとを備え、前記ラジエータは、前記冷却媒体を流通させながら前記冷却媒体と外気との熱交換を行うコア部を含み、前記ラジエータの前記コア部は、前記移動体の進行方向に交差する交差方向に沿った屈曲部で前記進行方向の後方に向けて屈曲した平板の形状に配置され、前記燃料電池および前記電動機は、前記ラジエータの前記屈曲部を前記進行方向の後方に延長した領域である屈曲延長領域を間に挟んで並設されたことを特徴とする。適用例1の移動体によれば、移動体の前方衝突時にラジエータが進行方向後方に移動したとしても、ラジエータの屈曲部が燃料電池と電動機との間に嵌り込むため、燃料電池および電動機に与える衝撃を軽減することができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1の移動体は、更に、前記燃料電池と前記電動機との間を連結する一体化連結部を備え、前記一体化連結部は、前記燃料電池と前記電動機との間に挟まれた前記屈曲延長領域における前記進行方向の前方寄りに設けられたとしても良い。適用例2の移動体によれば、移動体の前方衝突時に燃料電池と電動機との間に嵌り込んだラジエータの屈曲部を一体化連結部に当接させ、前方衝突による衝突外力を一体化連結部に集中させることができる。更に、燃料電池および電動機を押し開きつつ一体化連結部が変形することによって、前方衝突に伴う衝突エネルギを効果的に吸収することができる。その結果、燃料電池および電動機よりも進行方向後方に位置する他の部位に与える衝撃も軽減することができる。
【0010】
[適用例3] 適用例2の移動体において、更に、前記電動機の振動を抑制しながら前記電動機を固定する制振構造を備え、前記一体化連結部は、前記制振構造よりも重力方向の上方に設けられたとしても良い。適用例3の移動体によれば、移動体の前方衝突時にラジエータからの衝突外力が電動機の制振構造側で抑制されるため、前方衝突時に後退するラジエータから燃料電池および電動機に伝わる衝突外力を重力方向下方寄りに向けることができる。その結果、燃料電池および電動機よりも進行方向後方に位置する他の部位に与える衝撃も軽減することができる。
【0011】
[適用例4] 適用例1または適用例3のいずれかの移動体において、更に、前記ラジエータにおける側辺のうち前記屈曲部を間に挟んで相互に対向する一対の側辺を相互に連結する側辺連結部を備えても良い。適用例4の移動体によれば、移動体の前方衝突時にラジエータを後退させる衝突外力を両側辺側に効果的に分散させることができる。
【0012】
[適用例5] 適用例1または適用例4のいずれかの移動体において、前記ラジエータは、更に、前記進行方向の後方側に設けられ、前記屈曲部の両脇から前記進行方向の後方に向けてクサビ状に突出した一組の突起部を含むとしても良い。適用例5の移動体によれば、移動体の前方衝突時にラジエータの屈曲部が燃料電池と電動機との間に嵌り込む際に、一組の突起部が燃料電池および電動機を押し開くため、前方衝突に伴う衝突エネルギを効果的に吸収することができる。
【0013】
[適用例6] 適用例1または適用例5のいずれかの移動体において、前記ラジエータは、前記コア部における一つの側辺に沿って設けられ、前記コア部に前記冷却媒体を供給する供給タンク部と、前記コア部における前記供給タンク部が設けられた側辺に対向する側辺に沿って設けられ、前記コア部から前記冷却媒体を回収する回収タンク部とを含み、前記ラジエータの前記屈曲部は、前記コア部、前記供給タンク部および前記回収タンク部が前記供給タンク部から前記回収タンク部に向かう方向に沿って一体的に屈曲する部位であるとしても良い。適用例6の移動体によれば、屈曲した平板の形状を有するラジエータを、いわゆるダウンフロー型のラジエータとして構成することができる。
【0014】
[適用例7] 適用例6の移動体において、更に、前記供給タンク部および前記回収タンク部の少なくとも一方のタンク部における両端を相互に連結する両端連結部を備え、前記両端連結部は、前記進行方向の前方に湾曲するとしても良い。適用例7の移動体によれば、移動体の前方衝突時にラジエータを後退させる衝突外力をタンク部の両端側に効果的に分散させることができる。
【0015】
[適用例8] 適用例1または適用例5のいずれかの移動体において、前記ラジエータの前記コア部は、前記屈曲部で分割された二つのコア部であり、前記ラジエータは、前記屈曲部において前記二つのコア部における各側辺に沿って設けられ、前記二つのコア部に対して前記冷却媒体の供給または回収を行う第1タンク部と、前記二つのコア部の各々における前記第1タンク部が設けられた側辺に対向する側辺に沿ってそれぞれ設けられ、前記二つのコア部に対して前記冷却媒体の回収または供給を行う二つの第2タンク部とを含むとしても良い。適用例8の移動体によれば、屈曲した平板の形状を有するラジエータを、いわゆるクロスフロー型のラジエータとして構成することができる。
【0016】
[適用例9] 適用例8の移動体において、更に、前記二つの第2タンク部を相互に連結する第1連結部と、前記第1連結部の中央と前記第1タンク部とを相互に連結する第2連結部とを備え、前記第2連結部は、前記第1タンク部側で二つに分岐して前記第1タンク部における前記二つのコア部との各結合部に接合されたとしても良い。適用例9の移動体によれば、第1タンク部と二つのコア部との各結合部を補強しつつ、移動体の前方衝突時にラジエータを後退させる衝突外力を両方の第2タンク部側に効果的に分散させることができる。
【0017】
本発明の形態は、移動体の形態に限るものではなく、例えば、燃料電池を搭載した燃料電池車、燃料電池を搭載する搭載構造などの種々の形態に適用することも可能である。また、本発明は、前述の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】燃料電池車の構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池車の構成を示す説明図である。
【図3】燃料電池車におけるラジエータの詳細構成を示す説明図である。
【図4】燃料電池車の前方衝突時における機関室の様子を示す説明図である。
【図5】図4の状態よりもラジエータの後退が進んだ機関室の様子を示す説明図である。
【図6】第2実施例におけるラジエータの詳細構造を示す説明図である。
【図7】第3実施例におけるラジエータの詳細構造を示す説明図である。
【図8】第4実施例におけるラジエータの詳細構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以上説明した本発明の構成および作用を一層明らかにするために、以下本発明を適用した移動体について説明する。
【0020】
A.第1実施例:
図1および図2は、燃料電池車10の構成を示す説明図である。燃料電池車10は、燃料電池100を搭載した移動体であり、燃料電池100で生成される電力を利用して走行する自動車である。燃料電池車10の機関室12は、燃料電池100を含む種々の機器を収容し、燃料電池車10の客室14は、座席60を備え、乗客を収容する。
【0021】
本実施例の説明では、燃料電池車10が走行する進行方向の後方から前方に向かう座標軸にX軸を設定し、燃料電池車10を進行方向の後方から見た車両右側から車両左側に向かう座標軸をY軸に設定し、重力方向の下方から上方に向かう座標軸にZ軸を設定した。X軸、Y軸およびZ軸は、それぞれ相互に直交する座標軸である。
【0022】
図1には、燃料電池車10の全体ではなく、進行方向に向かう側である前方部分を車両左側(図2に示す矢印F1)から見た側面を概略的に図示した。図2には、燃料電池車10の前方部分を重力方向上方(図1に示す矢印F2)から見た上面を概略的に図示した。
【0023】
燃料電池車10は、車体剛性を確保する構造部材として、右サイドメンバ21、左サイドメンバ22、サスペンションメンバ30、フロントメンバ35、右上部エプロンメンバ41、左上部エプロンメンバ42、およびダッシュパネル50を備える。
【0024】
燃料電池車10の右サイドメンバ21および左サイドメンバ22は、燃料電池車10の進行方向に沿って車両右側および車両左側にそれぞれ配置された補強部材である。燃料電池車10のサスペンションメンバ30は、右サイドメンバ21および左サイドメンバ22の間に取り付けられ、車輪80を懸架するサスペンション(図示しない)を補強する。燃料電池車10のフロントメンバ35は、機関室12における進行方向の前方寄りに配置された補強部材である。燃料電池車10の右上部エプロンメンバ41および左上部エプロンメンバ42は、右サイドメンバ21および左サイドメンバ22の重力方向上方に配置された補強部材である。燃料電池車10のダッシュパネル50は、機関室12と客室14との間を区画する板状の部材である。
【0025】
燃料電池車10は、機関室12に収容される種々の機器として、燃料電池100の他、電源ユニット200、駆動モータ300、エアコンプレッサ400、ラジエータ500、およびラジエータファン600を備える。図1および図2には、理解の容易化を目的として、燃料電池100、駆動モータ300、およびラジエータ500にハッチングを施した。
【0026】
燃料電池車10の燃料電池100は、反応ガスを用いて電気化学的に発電する。本実施例では、燃料電池100は、固体高分子型の燃料電池であり、水素を含有する燃料ガス、および酸素を含有する酸化ガスを反応ガスとして用いる。本実施例では、燃料電池100で用いられる燃料ガスは、貯蔵タンクに貯蔵された水素ガスであるが、他の実施形態において、水素吸蔵合金に貯蔵された水素ガスであっても良いし、炭化水素系燃料を改質して得られる水素ガスであっても良い。本実施例では、燃料電池100で用いられる酸化ガスは、外気から取り込まれた空気である。
【0027】
燃料電池車10の電源ユニット200は、燃料電池100によって発電された電力から所望の電力を生成する電気回路をユニット化した機器である。本実施例では、電源ユニット200は、燃料電池100から出力される電力を調整する電力制御装置(Power Control Unit、以下、「PCU」とも呼ぶ)を含む機器である。他の実施形態において、電源ユニット200は、燃料電池100から出力される直流電流の電圧を変換するDC/DCコンバータを含む機器であっても良い。本実施例では、電源ユニット200は、駆動モータ300の重力方向上方に搭載されている。
【0028】
燃料電池車10の駆動モータ300は、燃料電池100によって生成された電力を、車輪80を駆動する動力に変換する電動機である。燃料電池車10のエアコンプレッサ400は、燃料電池100に酸化ガスとして空気を供給する。本実施例では、エアコンプレッサ400は、燃料電池100の重力方向下方に搭載されている。
【0029】
燃料電池車10のラジエータ500は、燃料電池100を冷却する冷却媒体である冷却水の熱を大気中に放熱する。本実施例では、ラジエータ500は、右サイドメンバ21と左サイドメンバ22との間、および右上部エプロンメンバ41と左上部エプロンメンバ42との間に設けられ、これらの構造部材にそれぞれ連結されている。本実施例では、ラジエータ500は、燃料電池100を冷却する冷却水を処理するが、他の実施形態において、電源ユニット200を冷却する冷却水を処理しても良い。本実施例では、燃料電池100を冷却する冷却媒体に冷却水を用いるが、他の実施形態において、冷却油を用いても良いし、冷却ガスを用いても良い。
【0030】
図3は、燃料電池車10におけるラジエータ500の詳細構成を示す説明図である。図3のラジエータ500は、重力方向(Z軸方向)の上方から下方に冷却水を流すダウンフロー型のラジエータであり、コア部520、供給タンク部531、回収タンク部532、およびラジエータサポート580を備える。
【0031】
ラジエータ500のコア部520は、重力方向下方に冷却水を流通させながら冷却水と外気との熱交換を行う。図3に示すように、コア部520は、燃料電池車10の進行方向(X軸方向)に交差する交差方向である重力方向(Z軸方向)に沿った屈曲部510で進行方向の後方(X軸マイナス方向)に向けて屈曲した平板の形状に配置されている。図3に示すように、ラジエータ500の屈曲部510は、コア部520、供給タンク部531および回収タンク部532が供給タンク部531から回収タンク部532に向かう方向(Z軸方向)に沿って一体的に屈曲する部位である。
【0032】
図3に示すように、ラジエータ500の供給タンク部531および回収タンク部532は、コア部520における対向する一対の側辺の各々に沿って設けられている。ラジエータ500の供給タンク部531は、コア部520の重力方向上方の側辺に沿って設けられ、燃料電池100からの冷却水をコア部520に供給する。ラジエータ500の回収タンク部532は、コア部520の重力方向下方の側辺に沿って設けられ、コア部520から冷却水を回収する。回収タンク部532で回収された冷却水は、再び燃料電池100の冷却に用いられる。
【0033】
ラジエータ500のラジエータサポート580は、ラジエータ500の剛性を確保する構造部材である。ラジエータサポート580は、上部ラジエータサポート581、下部ラジエータサポート582、右側ラジエータサポート583、および左側ラジエータサポート584を備える。上部ラジエータサポート581は、ラジエータ500の重力方向の上方寄りに設けられ、下部ラジエータサポート582は、ラジエータ500の重力方向の下方寄りに設けられている。右側ラジエータサポート583は、ラジエータ500における車両右側の側辺に設けられ、左側ラジエータサポート584は、ラジエータ500における車両左側の側辺に設けられている。
【0034】
図3における上部ラジエータサポート581および下部ラジエータサポート582は、ラジエータ500における側辺のうち屈曲部510を間に挟んで相互に対向する一対の側辺を相互に直線的に連結する側辺連結部である。図3に示すように、上部ラジエータサポート581は、供給タンク部531の両端を相互に直線的に連結する両端連結部でもあり、下部ラジエータサポート582は、回収タンク部532の両端を相互に直線的に連結する両端連結部でもある。
【0035】
図1および図2の説明に戻り、燃料電池10のラジエータファン600は、コア部520における通風を促進することによって、コア部520における冷却水と外気との熱交換効率を向上させる。本実施例では、ラジエータファン600は、ラジエータ500における進行方向後方側に設けられている。本実施例では、ラジエータ500には、二つのラジエータファン600が屈曲部510を間に挟んで設けられている。
【0036】
図2に示すように、燃料電池車10の燃料電池100および駆動モータ300は、ラジエータ500の屈曲部510を燃料電池車10の進行方向後方(X軸マイナス方向)に延長した領域である屈曲延長領域512を間に挟んで併設されている。本実施例では、燃料電池車10の電源ユニット200およびエアコンプレッサ400についても、燃料電池100および駆動モータ300と同様に、屈曲延長領域512を間に挟んで併設されている。本実施例では、燃料電池100およびエアコンプレッサ400は、屈曲延長領域512よりも車両右側に配置され、電源ユニット200および駆動モータ300は、屈曲延長領域512よりも車両左側に配置されているが、他の実施形態において、各機器の左右の位置が逆であっても良い。
【0037】
図1および図2に示すように、燃料電池車10は、燃料電池100と駆動モータ300との間を連結する一体化連結部710を備える。燃料電池車10の一体化連結部710は、燃料電池100と駆動モータ300との間に挟まれた屈曲延長領域512における燃料電池車10の進行方向の前方寄りに設けられている。本実施例では、一体化連結部710は、制振構造を有するマウント840よりも重力方向の上方に設けられている。図2には、理解の容易化を目的として、一体化連結部710にハッチングを施した。
【0038】
本実施例では、燃料電池車10は、一体化連結部710の他、駆動モータ300とエアコンプレッサ400との間を連結する一体化連結部720を備える。燃料電池車10の一体化連結部720は、一体化連結部710よりも燃料電池車10の進行方向の後方寄りに設けられている。
【0039】
図1および図2に示すように、燃料電池車10は、機関室12に収容される種々の機器の振動を抑制しながら各機器を固定する制振構造を有する各種のマウント810,820,830,840,850を備える。図1および図2には、理解の容易化を目的として、マウント810,820,830,840,850にハッチングを施した。
【0040】
マウント810は、燃料電池100と右サイドメンバ21とを連結し、マウント820は、駆動モータ300と左サイドメンバ22とを連結する。マウント830は、駆動モータ300とサスペンションメンバ30とを連結し、マウント840は、駆動モータ300とフロントメンバ35とを連結すると共に、駆動モータ300の振動を抑制しながら駆動モータ300を固定する制振構造を有する部材である。マウント850は、ラジエータ500とフロントメンバ35とを連結する。
【0041】
図4は、燃料電池車10の前方衝突時における機関室12の様子を示す説明図である。図4の上段には、重力方向上方から見た前方衝突時における機関室12を図示し、図4の下段には、車両左側から見た前方衝突時における機関室12を図示した。
【0042】
図4に示すように、燃料電池車10の前方衝突による衝突外力Lsが進行方向前方(X軸プラス方向)からラジエータ500に加えられると、ラジエータ500は、衝突前の初期位置500aから進行方向後方(X軸マイナス方向)に移動し、ラジエータ500の屈曲部510が燃料電池100と駆動モータ300との間に嵌り込む。その後、燃料電池100と駆動モータ300との間に嵌り込んだラジエータ500の屈曲部510は、燃料電池100と駆動モータ300とを連結する一体化連結部710に当接し、ラジエータ500に加わる衝突外力Lsは、一体化連結部710に集中する。
【0043】
図5は、図4の状態よりもラジエータ500の後退が進んだ機関室12の様子を示す説明図である。図4と同様に、図5の上段には、重力方向上方から見た前方衝突時における機関室12を図示し、図5の下段には、車両左側から見た前方衝突時における機関室12を図示した。
【0044】
図5に示すように、図4の状態から更に衝突外力Lsがラジエータ500に加えられると、ラジエータ500は、一体化連結部710の変形を伴って進行方向後方(X軸マイナス方向)に更に移動する。一体化連結部710の変形および後退によって、燃料電池100および駆動モータ300は、衝突前の初期位置100aおよび初期位置300aから、車両右側および車両左側へと相互に離れつつ、重力方向下方寄りに進行方向後方へ移動する。これによって、燃料電池100および駆動モータ300の後退による衝突エネルギの吸収量を増加させ、燃料電池100およびダッシュパネル50に与える損傷を軽減することができる。
【0045】
図5の状態では、ラジエータ500は車両左右側に広がる方向に変形し、衝突外力Lsの一部は、外力Ldとして、右サイドメンバ21、左サイドメンバ22、右上部エプロンメンバ41、および左上部エプロンメンバ42に分散される。特に、右サイドメンバ21、左サイドメンバ22は、衝突外力Lsを直接的に受けて重力方向に屈曲しつつ、ラジエータ500からの外力Ldを受けて車両左右側にも屈曲し、衝突エネルギを効果的に吸収する。これによって、燃料電池100および駆動モータ300に伝わる衝突エネルギを軽減することができる。
【0046】
以上説明した燃料電池車10によれば、燃料電池車10の前方衝突時にラジエータ500が進行方向後方に移動したとしても、ラジエータ500の屈曲部510が燃料電池100と駆動モータ300との間に嵌り込むため、燃料電池100および駆動モータ300に与える衝撃を軽減することができる。
【0047】
また、燃料電池100と駆動モータ300とを連結する一体化連結部710を、燃料電池100と駆動モータ300との間に挟まれた屈曲延長領域512における進行方向前方寄りに設けたため、燃料電池車10の前方衝突時に燃料電池100と駆動モータ300との間に嵌り込んだラジエータ500の屈曲部510を一体化連結部710に当接させ、前方衝突に伴う衝突外力Lsを一体化連結部710に集中させることができる。更に、燃料電池100および駆動モータ300を押し開きつつ一体化連結部710が変形することによって、前方衝突に伴う衝突エネルギを効果的に吸収することができる。その結果、燃料電池100および駆動モータ300よりも進行方向後方に位置する他の部位に与える衝撃も軽減することができる。
【0048】
また、燃料電池車10の前方衝突時にラジエータ500からの衝突外力Lsが駆動モータ300のマウント840側で抑制されるため、前方衝突時に後退するラジエータ500から燃料電池100および駆動モータ300に伝わる衝突外力Lsを重力方向下方寄りに向けることができる。その結果、燃料電池100および駆動モータ300よりも進行方向後方に位置する他の部位に与える衝撃も軽減することができる。
【0049】
また、上部ラジエータサポート581および下部ラジエータサポート582がラジエータ500を補強するため、燃料電池車10の前方衝突時にラジエータ500を後退させる衝突外力Lsを外力Ldとして車両左右側に効果的に分散させることができる。
【0050】
B.第2実施例:
図6は、第2実施例におけるラジエータ500の詳細構造を示す説明図である。第2実施例の燃料電池車10は、ラジエータ500の構成が異なる点を除き、第1実施例と同様である。第2実施例のラジエータ500は、上部ラジエータサポート581および下部ラジエータサポート582が進行方向前方(X軸プラス方向)に湾曲する点を除き、第1実施例と同様である。第2実施例では、上部ラジエータサポート581および下部ラジエータサポート582の両方が進行方向前方に湾曲するが、他の実施形態において、いずれか一方が進行方向前方に湾曲しても良い。
【0051】
第2実施例の燃料電池車10によれば、第1実施例と同様に、燃料電池100および駆動モータ300に与える衝撃を軽減することができる。また、上部ラジエータサポート581および下部ラジエータサポート582が進行方向前方に湾曲しているため、燃料電池車10の前方衝突時にラジエータ500を後退させる衝突外力Lsを外力Ldとして供給タンク部531および回収タンク部532の各両端側に効果的に分散させることができる。
【0052】
C.第3実施例:
図7は、第3実施例におけるラジエータ500の詳細構造を示す説明図である。第3実施例の燃料電池車10は、ラジエータ500の構成が異なる点を除き、第1実施例と同様である。第3実施例のラジエータ500は、重力方向(Z軸方向)に交差する方向に冷却水を流すクロスフロー型のラジエータであり、二つのコア部521,522、第1タンク部535,二つの第2タンク部536,537、およびラジエータサポート580を備える。
【0053】
第3実施例のラジエータ500における二つのコア部521,522は、屈曲部510を間に挟んで車両右側および車両左側にそれぞれ設けられ、重力方向に交差する方向に冷却水を流通させながら冷却水と外気との熱交換を行う。図7に示すように、二つのコア部521,522は、燃料電池車10の進行方向(X軸方向)に交差する交差方向である重力方向(Z軸方向)に沿った屈曲部510で進行方向の後方(X軸マイナス方向)に向けて屈曲した平板の形状に配置されている。
【0054】
第3実施例のラジエータ500における第1タンク部535は、屈曲部510において二つのコア部521,522における各側辺に沿って設けられ、本実施例では、二つのコア部521,522に冷却水を供給する。第3実施例のラジエータ500における二つの第2タンク部536,537は、二つのコア部521,522の各々における第1タンク部535が設けられた側辺に対向する側辺に沿ってそれぞれ設けられ、二つのコア部521,522から冷却水を回収する。他の実施形態において、二つの第2タンク部536,537によって二つのコア部521,522に冷却水を供給すると共に、第1タンク部535によって二つのコア部521,522から冷却水を回収しても良い。
【0055】
第3実施例のラジエータ500におけるラジエータサポート580は、分岐連結部590を備える点を除き、第1実施例と同様である。第3実施例では、ラジエータサポート580の上部ラジエータサポート581は、二つの第2タンク部536,537を相互に連結する第1連結部である。ラジエータサポート580の分岐連結部590は、上部ラジエータサポート581の中央と第1タンク部535とを相互に連結する第2連結部である。分岐連結部590は、第1タンク部535側で二つに分岐して第1タンク部535における二つの第2タンク部536,537との各結合部に接合されている。
【0056】
本実施例では、分岐連結部590は、上部ラジエータサポート581の中央から第1タンク部535に向かう途中で、二つの第2タンク部536,537の各々に向けて二つに分岐する。本実施例では、二つに分岐した分岐連結部590は、二つの第2タンク部536,537の各々に当接した後、第1タンク部535と二つの第2タンク部536,537との各結合部を経由して、第1タンク部535に至り、二つの第2タンク部536,537の各々から第1タンク部535にわたって溶接によって接合されている。
【0057】
第3実施例の燃料電池車10によれば、第1実施例と同様に、燃料電池100および駆動モータ300に与える衝撃を軽減することができる。また、クロスフロー型のラジエータ500におけるラジエータサポート580に分岐連結部590を設けたため、第1タンク部535と二つのコア部521,522との各結合部を補強しつつ、燃料電池車10の前方衝突時にラジエータ500を後退させる衝突外力Lsを外力Ldとして両方の第2タンク部536,537側に効果的に分散させることができる。
【0058】
D.第4実施例:
図8は、第4実施例におけるラジエータ500の詳細構造を示す説明図である。第4実施例の燃料電池車10は、ラジエータ500の構成が異なる点を除き、第1実施例と同様である。第4実施例のラジエータ500は、一組の突起部630を備える点を除き、第1実施例と同様である。第4実施例では、ラジエータ500の一組の突起部630は、ラジエータ500における進行方向の後方側に設けられ、屈曲部510の両脇から進行方向の後方に向けてクサビ状に突出した部材であり、ラジエータ500の後退時に燃料電池100および駆動モータ300を車両左右側に押し開く。
【0059】
本実施例では、ラジエータ500に設けられた二つのラジエータファン600は、フィン610を覆う箱状のシュラウド620をそれぞれ備え、一組の突起部630の各々は、各シュラウド620と一体的に成型されている。本実施例では、一組の突起部630は、ラジエータ500の後退時に燃料電池100および駆動モータ300に当接する位置に設けられている。他の実施形態において、ラジエータ500のコア部、タンク部、およびラジエータサポートの少なくとも一つに、一組の突起部630を設けても良い。
【0060】
第4実施例の燃料電池車10によれば、第1実施例と同様に、燃料電池100および駆動モータ300に与える衝撃を軽減することができる。また、燃料電池車10の前方衝突時にラジエータ500の屈曲部510が燃料電池100と駆動モータ300との間に嵌り込む際に、一組の突起部630が燃料電池100と駆動モータ300を押し開くため、前方衝突に伴う衝突エネルギを効果的に吸収することができる。また、車両左右方向にずれた前方衝突であるオフセット前方衝突時においても、一組の突起部630によってラジエータ500の屈曲部510を燃料電池100と駆動モータ300との間に誘導できるため、前方衝突時と同様に、衝突エネルギを効果的に吸収することができる。
【0061】
E.他の実施形態:
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【0062】
例えば、屈曲延長領域512を間に挟んで併設する機器は、燃料電池100および駆動モータ300に限るものではなく、機関室12に収容される他の機器(例えば、電源ユニット、エアコンプレッサ、二次電池など)に適用しても良い。また、第4実施例における一組の突起部630を、第2実施例および第3実施例に適用しても良い。
【符号の説明】
【0063】
10…燃料電池車
12…機関室
14…客室
21…右サイドメンバ
22…左サイドメンバ
30…サスペンションメンバ
35…フロントメンバ
41…右上部エプロンメンバ
42…左上部エプロンメンバ
50…ダッシュパネル
60…座席
80…車輪
100…燃料電池
200…電源ユニット
300…駆動モータ
400…エアコンプレッサ
500…ラジエータ
510…屈曲部
512…屈曲延長領域
520…コア部
521…コア部
531…供給タンク部
532…回収タンク部
535…第1タンク部
536…第2タンク部
580…ラジエータサポート
581…上部ラジエータサポート
582…下部ラジエータサポート
583…右側ラジエータサポート
584…左側ラジエータサポート
590…分岐連結部
600…ラジエータファン
610…フィン
620…シュラウド
630…突起部
710…一体化連結部
720…一体化連結部
810…マウント
820…マウント
830…マウント
840…マウント
850…マウント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体であって、
電力を生成する燃料電池と、
前記燃料電池によって生成された電力を動力に変換する電動機と、
前記燃料電池を冷却する冷却媒体の熱を放熱するラジエータと
を備え、
前記ラジエータは、前記冷却媒体を流通させながら前記冷却媒体と外気との熱交換を行うコア部を含み、
前記ラジエータの前記コア部は、前記移動体の進行方向に交差する交差方向に沿った屈曲部で前記進行方向の後方に向けて屈曲した平板の形状に配置され、
前記燃料電池および前記電動機は、前記ラジエータの前記屈曲部を前記進行方向の後方に延長した領域である屈曲延長領域を間に挟んで並設された、移動体。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体であって、
更に、前記燃料電池と前記電動機との間を連結する一体化連結部を備え、
前記一体化連結部は、前記燃料電池と前記電動機との間に挟まれた前記屈曲延長領域における前記進行方向の前方寄りに設けられた、移動体。
【請求項3】
請求項2に記載の移動体であって、
更に、前記電動機の振動を抑制しながら前記電動機を固定する制振構造を備え、
前記一体化連結部は、前記制振構造よりも重力方向の上方に設けられた、移動体。
【請求項4】
更に、前記ラジエータにおける側辺のうち前記屈曲部を間に挟んで相互に対向する一対の側辺を相互に連結する側辺連結部を備える請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項5】
前記ラジエータは、更に、前記進行方向の後方側に設けられ、前記屈曲部の両脇から前記進行方向の後方に向けてクサビ状に突出した一組の突起部を含む、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の移動体であって、
前記ラジエータは、
前記コア部における一つの側辺に沿って設けられ、前記コア部に前記冷却媒体を供給する供給タンク部と、
前記コア部における前記供給タンク部が設けられた側辺に対向する側辺に沿って設けられ、前記コア部から前記冷却媒体を回収する回収タンク部と
を含み、
前記ラジエータの前記屈曲部は、前記コア部、前記供給タンク部および前記回収タンク部が前記供給タンク部から前記回収タンク部に向かう方向に沿って一体的に屈曲する部位である、移動体。
【請求項7】
請求項6に記載の移動体であって、
更に、前記供給タンク部および前記回収タンク部の少なくとも一方のタンク部における両端を相互に連結する両端連結部を備え、
前記両端連結部は、前記進行方向の前方に湾曲する、移動体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の移動体であって、
前記ラジエータの前記コア部は、前記屈曲部で分割された二つのコア部であり、
前記ラジエータは、
前記屈曲部において前記二つのコア部における各側辺に沿って設けられ、前記二つのコア部に対して前記冷却媒体の供給または回収を行う第1タンク部と、
前記二つのコア部の各々における前記第1タンク部が設けられた側辺に対向する側辺に沿ってそれぞれ設けられ、前記二つのコア部に対して前記冷却媒体の回収または供給を行う二つの第2タンク部と
を含む、移動体。
【請求項9】
請求項8に記載の移動体であって、更に、
前記二つの第2タンク部を相互に連結する第1連結部と、
前記第1連結部の中央と前記第1タンク部とを相互に連結する第2連結部と
を備え、
前記第2連結部は、前記第1タンク部側で二つに分岐して前記第1タンク部における前記二つのコア部との各結合部に接合された、移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−56493(P2012−56493A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202812(P2010−202812)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】