説明

燃料電池システム

【課題】簡単な構成で水素ガスの圧力を適正範囲内に制御して、安全性を向上させることができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池システムは、水との発熱反応により水素を発生する水素発生材料を収容し、水素発生材料を水と反応させて水素を発生させる水素発生部4と、水素発生部4に水を供給する水供給部2と、水素発生部4で発生した水素を燃料として発電を行う燃料電池6と、水素発生部4から燃料電池6に供給される水素ガスの圧力を検出する水素ガス圧力検出部5と、燃料電池6の出力電圧または出力電流を設定する設定部8と、水素ガス圧力検出部5が検出した水素ガスの圧力が適正範囲内となるように設定部8を制御する制御部9と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特に、小型で可搬性が高い燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、室温から100℃以下までの低温で動作し、迅速な起動停止、高出力密度化が可能であるなどの特徴を有するため、民生用コージェネレーションや自動車用などの移動体用発電器、携帯用電源として期待されている。
【0003】
一般的に、固体高分子型燃料電池は、電解質層としての水素イオン伝導性高分子電解質膜と、その両面に配された触媒層と、さらにその両面に配されたガス拡散層とからなる多孔質の電極基材で構成された電極・電解質一体化物(MEA:Membrane electrode assembly)を有している。
【0004】
固体高分子型燃料電池に用いる燃料としては、水素、エタノールなどが提案され、種々開発が行われているが、高エネルギー密度化が可能な点で、水素を燃料とする固体高分子型燃料電池が期待されている。
【0005】
固体高分子型燃料電池の燃料として用いられる水素を製造する方法としては、例えば、特許文献1には、アルミニウム、マグネシウム及びそれらの合金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属材料を含有し、水との反応により水素を発生する水素発生材料を、水と反応させて水素ガスを製造する方法が開示されている。
【0006】
ところで、燃料電池に水素ガスを供給するときには、水素ガスの圧力を一定の範囲内に収めることが望ましい。水素ガスの圧力が高すぎると、容器や配管が破裂するなどの危険がある。一方、水素ガスの圧力が低すぎると、燃料電池の発電に必要な燃料が不足するため、燃料電池の電圧低下により燃料電池が劣化したり燃料電池の出力電力が不足したりする。
【0007】
水素ガスの圧力を一定の範囲内に収める制御方法として、例えば、特許文献2には、水素ガスの発生装置と燃料電池との間に水素貯蔵バッファとレギュレータを備え、容器への水の供給量を制御して水素ガスの発生量を調節することにより、水素ガスの圧力を一定の範囲内に収める燃料電池システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4104016号公報
【特許文献2】特開2005−347181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で提案されている方法では、水の供給量を変化させてから水素ガスの発生量が変化するまでに時間がかかり、その間は水素ガスの圧力が望ましい範囲から逸脱してしまうという問題がある。また、特許文献2で提案されている方法では、圧力を調節するための装置が別途必要となるため、システム全体の小型化が難しいという問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、簡単な構成で水素ガスの圧力を適正範囲内に制御して安全性を向上させることができる燃料電池システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池システムは、水との発熱反応により水素を発生する水素発生材料を収容し、上記水素発生材料を水と反応させて水素を発生させる水素発生部と、上記水素発生部に水を供給する水供給部と、上記水素発生部で発生した水素を燃料として発電を行う燃料電池と、上記水素発生部から上記燃料電池に供給される水素ガスの圧力を検出する水素ガス圧力検出部と、上記燃料電池の出力電圧または出力電流を設定する設定部と、上記水素ガス圧力検出部が検出した上記水素ガスの圧力が適正範囲内となるように上記設定部を制御する制御部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡単な構成で水素ガスの圧力を適正範囲内に制御して、安全性を向上させることができる燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係る燃料電池システムを示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る燃料電池システムの動作を説明するためのフローチャート図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る燃料電池システムの動作の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態1に係る燃料電池システムの動作の他の例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態2に係る燃料電池システムを示す概略構成図である。
【図6】本発明の実施形態2に係る燃料電池システムの動作を説明するためのフローチャート図である。
【図7】本発明の実施形態2に係る燃料電池システムの動作の一例を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態2に係る燃料電池システムの動作の他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の燃料電池システムは、水との発熱反応により水素を発生する水素発生材料を収容し、上記水素発生材料を水と反応させて水素を発生させる水素発生部と、上記水素発生部に水を供給する水供給部と、上記水素発生部で発生した水素を燃料として発電を行う燃料電池と、上記水素発生部から上記燃料電池に供給される水素ガスの圧力を検出する水素ガス圧力検出部と、上記燃料電池の出力電圧または出力電流を設定する設定部と、上記水素ガス圧力検出部が検出した上記水素ガスの圧力が適正範囲内となるように上記設定部を制御する制御部とを備えたことを特徴とする。これにより、簡単な構成で水素ガスの圧力を適正範囲内に制御して、安全性を向上させることができる。また、従来のように水素貯蔵バッファやレギュレータを必要としないため、燃料電池システム全体を小型化できる。
【0015】
上記水素ガスの圧力の上記適正範囲の下限値を第1の閾値とし、上記適正範囲の上限値を第2の閾値としたとき、上記制御部は、上記水素ガスの圧力が第1の閾値より低い場合、上記燃料電池の出力電圧を上げる、または上記燃料電池の出力電流を下げるよう上記設定部を制御し、上記水素ガスの圧力が上記第2の閾値より高い場合、上記燃料電池の出力電圧を下げる、または上記燃料電池の出力電流を上げるよう上記設定部を制御する。これにより、水素ガスの圧力が高い場合、水素ガスの消費量を増やして水素ガスの圧力を下げることができ、容器や配管が破裂するなどの危険を回避できる。一方、水素ガスの圧力が低い場合、水素ガスの消費量を減らして水素ガスの圧力を上げることができ、燃料電池の電圧低下による燃料電池の劣化を抑制でき、また、燃料電池の出力電力不足を解消できる。
【0016】
上記制御部は、上記設定部の制御後、上記水素ガスの圧力が適正範囲外の状態が一定時間継続したとき、上記水供給部を制御するようにしても良い。この場合、燃料電池の出力電圧または出力電流を制御しても水素ガスの圧力が適正範囲外である状態が一定時間継続したときに、水素発生量を調節することで水素ガスの圧力を適正範囲内に収めることができ、より安全性を高めることができる。具体的には、上記設定部の制御後、上記水素ガスの圧力が上記第1の閾値より低い状態が一定時間継続したとき、上記水素発生部への供給水量を増やすよう上記水供給部を制御し、上記設定部の制御後、上記水素ガスの圧力が上記第2の閾値より高い状態が一定時間継続したとき、上記水素発生部への供給水量を減らすよう上記水供給部を制御する。
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態1では、本発明の燃料電池システムの一例について説明する。図1は、本実施形態の燃料電池システムを示す概略構成図である。
【0019】
本実施形態の燃料電池システムは、図1に示すように、水収容容器1と、水供給部としてのポンプ2と、ポンプ制御部3と、水素発生部4と、水素ガス圧力検出部5と、燃料電池6と、空気流入部7と、設定部8と、制御部9と、出力端子10とを備えている。
【0020】
水収容容器1は、水素を発生させるために必要な水を収容している。水収容容器1としては、水を収容可能であれば、その材質や形状は特に限定されず、例えば、従来の水素製造装置に使用されているものと同様の水を収容するタンクなどが採用できる。水収容容器1に収容する水は、中性の水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液など、少なくとも水を含む液体であればよく、使用する水素発生物質との反応性などに応じて好適なものを選択すればよい。
【0021】
ポンプ2は、水収容容器1内の水を水素発生部4に供給する。
【0022】
ポンプ制御装置3は、ポンプ2の動作を制御して、水収容容器1から水素発生部4への供給水量を調節する。
【0023】
水素発生部4は、水との反応により水素を発生する水素発生材料を収容している。この水素発生部4は、収容している水素発生材料を水収容容器1から供給される水と反応させて水素ガスを発生させる。水素発生部4としては、例えば、水素発生材料を収容した容器に、水が注入可能な注入口と、容器内で発生した水素ガスを排出可能な排出口とを備えたものを用いることができる。容器としては、水素を発生させる水素発生材料を収納可能であれば、その材質や形状は特に限定されないが、水や水素が漏れない材質や形状が好ましい。具体的な容器の材質としては、水及び水素を透過しにくく、かつ120℃程度に加熱しても容器が破損しない材質が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄などの金属、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトンなどの樹脂を用いることができる。また、容器の形状としては、角柱状、円柱状などが採用できる。
【0024】
水素発生材料としては、水と反応して水素を発生する水素発生物質を含むものであれば特に限定されないが、水と120℃以下の低温で反応して水素を発生し得る水素発生物質を含むことが望ましい。水素発生物質としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムといった金属や、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、及びマグネシウムの中の一種以上の元素を主体とする合金、さらには、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化リチウムといった金属水素化物などが好適に使用できる。上記合金を用いる場合、主体となる元素以外の金属成分は特に限定されない。主体となる元素とは、合金全体に対して50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有されている元素のことを意味する。なお、水素発生物質としては、上記例示のものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
水素発生材料は、水と反応して発熱する発熱物質(水素発生物質以外の物質)をさらに含むことが好ましい。この場合、低温(例えば5℃程度)の水を供給しても、上記発熱物質の発熱によって反応系内の温度を高めて、迅速な水素発生が可能となる。水と反応して発熱する発熱物質としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウムなど、水との反応により水酸化物となるか、あるいは、水和することにより発熱するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、塩化物、硫酸化合物などが挙げられる。また、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化リチウムなどの金属水素化物などのように水との反応により水素を生成するものは、上記の通り、水素発生物質として使用することが可能であるが、上記の金属や合金を水素発生物質として使用する場合の発熱物質としても用いることができる。
【0026】
特に、水素発生物質として、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムといった金属や、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、及びマグネシウムの中の1種以上の元素を主体とする合金を使用する場合には、上記発熱物質を併用することが好ましい。他方、水素発生物質として上記の金属水素化物を用いる場合には、上記発熱物質を併用しなくても、比較的良好な速度で水素を製造できるが、発熱物質を併用して、さらに水素発生速度を高めてもよい。
【0027】
水素ガス圧力検出部5は、水素発生部4から燃料電池6に供給される水素ガスの圧力を検出する。
【0028】
燃料電池6は、例えば固体高分子型燃料電池(PEFC)で構成されている。具体的には、燃料電池6は、電解質とそれを挟む一対の電極(正極、負極)とで構成されたセルを複数個備えて、スタックを形成している。電解質には固体高分子電解質が使われている。正極には、空気流入部7により空気中の酸素ガス(正極活物質)が供給され、負極には、水素発生部4で発生した水素ガス(負極活物質)が供給される。そして、負極活物質の水素イオンが電解質を通って正極側へ移動し、酸素分子と結合する時に、外部回路中を電子が移動し発電する。なお、燃料電池6において使用される電解質、正極活物質、負極活物質は、上記に限定されるものではない。
【0029】
設定部8は、燃料電池6の出力電圧を設定する。この設定部8は、燃料電池6が発生した電力を入力して出力端子10へ出力するものであり、例えばDC/DCコンバータにより構成することができる。出力端子10が出力する電力は、定電圧制御や定電流制御とすることもできる。
【0030】
制御部9は、水素ガス圧力検出部5が検出した水素ガスの圧力が適正範囲となるように設定部8を制御し、燃料電池6の電圧を制御する。制御部9としては、マイクロプロセッサによる構成が望ましいが、電子回路などにより構成することも可能である。
【0031】
ここで、水素ガス圧力の適正範囲とは、燃料電池システムの通常運転時の水素ガス圧力の範囲を示す。水素ガス圧力が適正範囲外となると、上述したように、容器や配管が破裂するなどの危険や、燃料電池の劣化などの問題が発生する。
【0032】
本明細書において、水素ガス圧力の適正範囲の下限値を第1の閾値Paとし、適正範囲の上限値を第2の閾値Pbする。
【0033】
次に、本実施形態の燃料電池システムの動作について図1を参照しながら図2を用いて説明する。図2は、本実施形態の燃料電池システムの動作を説明するためのフローチャート図である。なお、発電を開始する方法及び発電を終了する方法は従来と同じであるため、ここではその説明を省略する。
【0034】
燃料電池6が発電を行っている状態で制御部9による制御、つまり、水素ガス圧力を適正範囲内に収めるための制御を開始する(ステップS101)。まず、水素ガス圧力検出部5により、水素発生部4から燃料電池6に供給される水素ガスの圧力を計測し(ステップS102)、制御部9により、水素ガス圧力検出部5によって計測された水素ガス圧力が第1の閾値Paより低いかどうかの判定を行う(ステップS103)。
【0035】
ステップS103における判定の結果、水素ガス圧力が第1の閾値Pa以上のとき、ステップS105に進む。
【0036】
ステップS103における判定の結果、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低いとき、ステップS104に進み、制御部9は、設定部8に燃料電池6の出力電圧の設定値を上げるよう指示し、ステップS102に戻る。燃料電池6の出力電圧の設定値を上げることで、燃料電池6の出力電流が減って水素ガスの消費量が減るため、水素ガス圧力を高くすることができる。出力電圧の設定値の上げ方は、1段階だけ電圧を上げる制御でも良いし、複数段階に分けて電圧を上げる制御でも良い。複数段階に分けて電圧を上げる制御の場合、電圧の上限値を設けることが望ましい。
【0037】
ステップS105では、制御部9は、水素ガス圧力検出部5によって計測された水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高いかどうかの判定を行う。
【0038】
ステップS105における判定の結果、水素ガス圧力が第2の閾値Pb以下のとき、ステップS107に進む。
【0039】
ステップS105における判定の結果、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高いとき、ステップS106に進み、制御部9は、設定部8に燃料電池6の出力電圧の設定値を下げるよう指示し、ステップS102に戻る。燃料電池6の出力電圧の設定値を下げることで、燃料電池6の出力電流が増えて水素ガスの消費量が増えるため、水素ガス圧力を低くすることができる。出力電圧の設定値の下げ方は、1段階だけ電圧を下げる制御でも良いし、複数段階に分けて電圧を下げる制御でも良い。複数段階に分けて電圧を下げる制御の場合、電圧の下限値を設けることが望ましい。
【0040】
ステップS107では、制御部9は、上記処理により水素ガス圧力は適正範囲内になったと判断し、設定部8に燃料電池6の出力電圧を通常の設定値に設定するよう指示し、ステップS102に戻る。燃料電池6の出力電圧を通常の設定値に設定する方法は、一段階で通常の設定値に設定しても良いし、複数段階に分けて電圧を変更して通常の設定値に設定するようにしても良い。
【0041】
次に、本実施形態の燃料電池システムの動作、特に、制御部9による設定部8の制御方法について図3及び図4を用いてさらに具体的に説明する。図3は、本実施形態の燃料電池システムの動作の一例を示すグラフであり、図4は、本実施形態の燃料電池システムの動作の他の例を示すグラフである。図3及び図4において、Paは水素ガス圧力の適正範囲の下限値である第1の閾値、Pbは水素ガス圧力の適正範囲の上限値である第2の閾値、V1は通常の電圧設定値、V2は通常の電圧設定値V1より高い第1の電圧設定値、V3は通常の電圧設定値V1より低い第2の電圧設定値とする。
【0042】
まず、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低くなった場合の制御について図3を用いて説明する。
【0043】
図3において、時間t1では、水素ガス圧力は第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下であるため、つまり、水素ガス圧力は適正範囲内であるため、燃料電池の出力電圧は通常の電圧設定値V1に設定される。時間t2のとき、水素ガス圧力は第1の閾値Paより低くなって適正範囲外となるため、燃料電池の電圧設定値をV1からV2に上げる。これにより、燃料電池の出力電流が減って水素ガスの消費量が減り、水素ガス圧力が高くなる。時間t3のとき、水素ガス圧力は第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下となるため、つまり、水素ガス圧力が適正範囲内となるため、燃料電池の電圧設定値をV2からV1に戻す。
【0044】
次に、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高くなった場合の制御について図4を用いて説明する。
【0045】
図4において、時間t4では、水素ガス圧力は第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下であるため、つまり、水素ガス圧力は適正範囲内であるため、燃料電池の出力電圧は通常の電圧設定値V1に設定される。時間t5のとき、水素ガス圧力は第2の閾値Pbより高くなって適性範囲外となるため、燃料電池の電圧設定値をV1からV3に下げる。これにより、燃料電池の出力電流が増えて水素ガスの消費量が増え、水素ガス圧力が低くなる。時間t6のとき、水素ガス圧力は第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下となるため、つまり、水素ガス圧力が適正範囲内となるため、燃料電池の電圧設定値をV3からV1に戻す。
【0046】
以上のように、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低くなった場合は、燃料電池の電圧設定値を上げる制御を行うことにより、燃料電池の出力電流が減って水素ガスの消費量が減るため、水素ガス圧力を高くすることができる。一方、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高くなった場合は、燃料電池の電圧設定値を下げる制御を行うことにより、燃料電池の出力電流が増えて水素ガスの消費量が増えるため、水素ガス圧力を低くすることができる。
【0047】
(実施形態2)
本実施形態2では、本発明の燃料電池システムの他の例について説明する。図5は、本実施形態の燃料電池システムを示す概略構成図である。図5において、図1と同一構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。本実施形態において、上記実施形態1と異なる点は、制御部9がポンプ制御装置3を制御する点である。
【0048】
次に、本実施形態の燃料電池システムの動作について図5を参照しながら図6を用いて説明する。図6は、本実施形態の燃料電池システムの動作を説明するためのフローチャート図である。なお、発電を開始する方法及び発電を終了する方法は従来と同じであるため、ここではその説明を省略する。
【0049】
燃料電池6が発電を行っている状態で制御部9による制御、つまり、水素ガス圧力を適正範囲内に収めるための制御を開始する(ステップS201)。まず、水素ガス圧力検出部5により、水素発生部4から燃料電池6に供給される水素ガスの圧力を計測し(ステップS202)、制御部9により、水素ガス圧力検出部5によって計測された水素ガス圧力が第1の閾値Paより低いかどうかの判定を行う(ステップS203)。
【0050】
ステップS203における判定の結果、水素ガス圧力が第1の閾値Pa以上のとき、ステップS207に進む。
【0051】
ステップS203における判定の結果、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低いとき、ステップS204に進み、制御部9は、設定部8に燃料電池6の出力電圧の設定値を上げるよう指示し、ステップS205に進む。燃料電池6の出力電圧の設定値を上げると、燃料電池6の出力電流が減って水素ガスの消費量が減るため、水素ガス圧力を高くすることができる。
【0052】
ステップS205では、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低い状態が一定時間継続しているかどうかの判定を行う。
【0053】
ステップS205における判定の結果、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低い状態が一定時間継続していないとき、ステップS202に戻る。
【0054】
ステップS205における判定の結果、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低い状態が一定時間継続しているとき、ステップS206に進み、制御部9は、ポンプ制御装置3に対し、水素発生部4への供給水量を増やすよう指示し、ステップS202に戻る。水素発生部4への供給水量を増やすと、水素発生部4における水素ガス発生量が増えるため、水素ガス圧力をさらに高くすることができる。供給水量の増やし方は、1段階だけ供給水量を増やす制御でも良いし、複数段階に分けて供給水量を増やす制御でも良い。複数段階に分けて供給水量を増やす制御の場合、供給水量の上限値を設けることが望ましい。
【0055】
ステップS207では、制御部9は、水素ガス圧力検出部5によって計測された水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高いかどうかの判定を行う。
【0056】
ステップS207における判定の結果、水素ガス圧力が第2の閾値Pb以下のとき、ステップS211に進む。
【0057】
ステップS207における判定の結果、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高いとき、制御部9は、ステップS208に進み、設定部8に燃料電池6の出力電圧の設定値を下げるよう指示し、ステップS209に進む。燃料電池6の出力電圧の設定値を下げると、燃料電池6の出力電流が増えて水素ガスの消費量が増えるため、水素ガス圧力を低くすることができる。
【0058】
ステップS209では、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高い状態が一定時間継続しているかどうかの判定を行う。
【0059】
ステップS209における判定の結果、水素ガスの圧力が第2の閾値Pbより高い状態が一定時間継続していないとき、ステップS202に戻る。
【0060】
ステップS209における判定の結果、水素ガスの圧力が第2の閾値Pbより高い状態が一定時間継続しているとき、ステップS210に進み、制御部9は、ポンプ制御装置3に対し、水素発生部4への供給水量を減らすよう指示し、ステップS202に戻る。水素発生部4への供給水量を減らすと、水素発生部4における水素ガス発生量が減るため、水素ガス圧力をさらに下げることができる。供給水量の減らし方は、1段階だけ供給水量を減らす制御でも良いし、複数段階に分けて供給水量を減らす制御でも良い。複数段階に分けて供給水量を減らす制御の場合、供給水量の下限値を設けることが望ましい。
【0061】
ステップS211では、制御部9は、上記処理により水素ガス圧力は適正範囲内になったと判断し、設定部8に燃料電池6の出力電圧を通常の設定値に設定する指示する。そして、ステップS212に進み、ポンプ制御装置3に対し、水素発生部4への供給水量を通常の供給水量設定値に設定するよう指示し、ステップS202に戻る。供給水量を通常の供給水量設定値に設定する方法は、一段階で通常の設定値に設定しても良いし、複数段階に分けて供給水量を変更して通常の設定値に設定するようにしても良い。
【0062】
次に、本実施形態の燃料電池システムの動作、特に、制御部9による設定部8及びポンプ制御装置3の制御方法について図7及び図8を用いてさらに具体的に説明する。図7は、本実施形態の燃料電池システムの動作の一例を示すグラフであり、図8は、本実施形態の燃料電池システムの動作の他の例を示すグラフである。図7及び図8において、Paは水素ガス圧力の適正範囲の下限値である第1の閾値、Pbは水素ガス圧力の適正範囲の上限値である第2の閾値、V1は通常の電圧設定値、V2は通常の電圧設定値V1より高い第1の電圧設定値、V3は通常の電圧設定値V1より低い第2の電圧設定値、W1は通常の供給水量設定値、W2は通常の供給水量設定値W1より高い第1の供給水量設定値、W3は通常の供給水量設定値W1より低い第2の供給水量設定値である。
【0063】
まず、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低くなった場合の制御について図7を用いて説明する。
【0064】
図7において、時間t1では、水素ガス圧力は第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下であるため、つまり、水素ガス圧力は適正範囲内であるため、燃料電池の出力電圧は通常の電圧設定値V1に設定され、水素発生部への供給水量も通常の供給水量設定値W1に設定される。時間t2のとき、水素ガス圧力は第1の閾値Paより低くなって適性範囲外となるため、燃料電池の出力電圧の設定値をV1からV2に上げる。その後、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低い状態が一定時間継続した時間t7のとき、水素発生部への供給水量の設定値をW1からW2に増やす。これにより、水素ガスの発生量が増加して、水素ガス圧力も上がる。時間t3のとき、水素ガス圧力は第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下となるため、つまり、水素ガス圧力が適正範囲内となるため、燃料電池の出力電圧の設定値をV2からV1に戻し、水素発生部への供給水量の設定値もW2からW1に戻す。
【0065】
次に、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高くなった場合の制御について図8を用いて説明する。
【0066】
図8において、時間t4では、水素ガス圧力は第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下であるため、つまり、水素ガス圧力は適正範囲内であるため、燃料電池の出力電圧は通常の電圧設定値V1に設定され、水素発生部への供給水量も通常の供給水量設定値W1に設定される。時間t5のとき、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高くなって適性範囲外となるため、燃料電池の出力電圧の設定値をV1からV3に下げる。その後、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高い状態が一定時間継続した時間t8のとき、水素発生部への供給水量の設定値をW1からW3に減らす。これにより、水素ガスの発生量が減少し、水素ガス圧力も下がる。時間t6のとき、水素ガス圧力が第1の閾値Pa以上第2の閾値Pb以下となるため、つまり、水素ガス圧力が適正範囲内となるため、燃料電池の出力電圧の設定値をV3からV1に戻し、水素発生部への供給水量の設定値もW3からW1に戻す。
【0067】
以上のように、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低くなった場合は、まず、燃料電池の電圧設定値を上げる制御を行うことにより、燃料電池の出力電流が減って水素ガスの消費量が減るため、水素ガス圧力を高くすることができる。しかし、燃料電池の電圧設定値を上げた後、水素ガス圧力が第1の閾値Paより低い状態が一定時間継続した場合は、水素発生部への供給水量を増加させる制御をさらに行うことで、水素ガス発生量を増やすことができるため、水素ガス圧力をより高くすることができる。一方、水素ガス圧力が第2の閾値Pbより高くなった場合は、まず、燃料電池の電圧設定値を下げる制御を行うことにより、燃料電池の出力電流が増えて水素ガスの消費量が増えるため、水素ガス圧力を低くすることができる。しかし、燃料電池の電圧設定値を下げた後、水素ガス圧力が第2の閾値Paより高い状態が一定時間継続した場合は、水素発生部への供給水量を減少させる制御をさらに行うことで、水素ガス発生量を減らすことができるため、水素ガス圧力をより低くすることができる。
【0068】
なお、上記実施形態1及び2では、設定部8が燃料電池の出力電圧を設定する場合について説明したが、燃料電池は一定の条件下では、出力電圧が決まれば出力電流も一意に決まるため、燃料電池の出力電流を設定することによっても、出力電圧を設定する場合と同様、水素ガス圧力を制御可能である。具体的には、出力電圧と出力電流との間には、燃料電池の出力電圧を上げれば出力電流が下がり、出力電圧を下げれば出力電流が上がるという関係が成立する。よって、燃料電池の出力電流を下げると、水素ガスの消費量が増えて水素ガス圧力を低くすることができ、燃料電池の出力電流を上げると、水素ガスの消費量が減って水素ガス圧力を高くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の燃料電池システムは、パソコン、携帯電話などのコードレス機器といった高機能のポータブル型電子機器の電源用途を始めとして、従来の燃料電池が使用されている各種用途に好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 水収容容器
2 ポンプ
3 ポンプ制御装置
4 水素発生部
5 水素ガス圧力検出部
6 燃料電池
7 空気流入部
8 設定部
9 制御部
10 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水との発熱反応により水素を発生する水素発生材料を収容し、前記水素発生材料を水と反応させて水素を発生させる水素発生部と、
前記水素発生部に水を供給する水供給部と、
前記水素発生部で発生した水素を燃料として発電を行う燃料電池と、
前記水素発生部から前記燃料電池に供給される水素ガスの圧力を検出する水素ガス圧力検出部と、
前記燃料電池の出力電圧または出力電流を設定する設定部と、
前記水素ガス圧力検出部が検出した前記水素ガスの圧力が適正範囲内となるように前記設定部を制御する制御部と、を含むことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記水素ガスの圧力の前記適正範囲の下限値を第1の閾値とし、前記適正範囲の上限値を第2の閾値としたとき、
前記制御部は、
前記水素ガスの圧力が第1の閾値より低い場合、前記燃料電池の出力電圧を上げる、または前記燃料電池の出力電流を下げるよう前記設定部を制御し、
前記水素ガスの圧力が前記第2の閾値より高い場合、前記燃料電池の出力電圧を下げる、または前記燃料電池の出力電流を上げるよう前記設定部を制御する燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記設定部の制御後、前記水素ガスの圧力が適正範囲外である状態が一定時間継続したとき、前記水供給部を制御する請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記設定部の制御後、前記水素ガスの圧力が前記第1の閾値より低い状態が一定時間継続したとき、前記水素発生部への供給水量を増やすよう前記水供給部を制御し、
前記設定部の制御後、前記水素ガスの圧力が前記第2の閾値より高い状態が一定時間継続したとき、前記水素発生部への供給水量を減らすよう前記水供給部を制御する請求項3に記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−142145(P2012−142145A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293054(P2010−293054)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】