説明

燃料電池搭載電動車イスの燃料ボンベ設置構造

【課題】燃料ボンベを楽にまた安全にセット、交換できるようにする。
【解決手段】電動車イス1の座面部3下に燃料電池本体8を設け、その燃料電池本体8の後方、背もたれ部2背面側にボンベ保持部材10を設けて、その保持部材10により筒状の水素ボンベ9を縦置きで車イス1に固定する。その水素ボンベ9は、前記保持部材10の上方から降下させることにより前記ボンベ保持部材10に係止可能であり、また、その水素ボンベ9を前記係止状態から持ち上げることにより前記保持部材10から取り外し可能である。このようにすれば、水素ボンベ9の固定位置、及び着脱作業時の保持位置が高くなるので、ボンベ9をセット、交換する際に作業者は大きくかがみ込む必要がなく楽に安全に作業できる。また、水素ボンベ9が燃料電池本体8の後方に位置するので、燃料電池本体8からの排出気体がボンベ9周囲へ効率的に誘導されて水素の供給効率が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動用の電源として燃料電池システムを搭載した電動車イスの燃料ボンベ設置構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システムの開発に伴い、身障者あるいは高齢者向け電動車イスの走行装置駆動用電源として燃料電池システムが検討されつつある。
車イスに燃料電池システムを搭載する場合には、例えば、図4に示すように、シートの座面部3直下に燃料電池本体8を配置し、燃料が水素である場合には、さらにその下にボンベ保持部材20を介して水素ボンベ9を配置する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、図4に示す電動車イス21では、水素ボンベ9が車イス21の最下部において水平に配置されているため、このボンベ9をセット、交換等する際には、作業者は低くかがみ込む必要があった。かがみ込んで作業をすることは、姿勢が不安定でありボンベをうまくセット、交換できないので好ましくない。
また、ボンベ9は非常に重いので、かがみ込んで行うセット、交換時のハンドリング作業、あるいは、そのボンベ9を持って立ち上がる際に腰を痛めることも考えられ、作業の安全上改善の余地がある。特に、水素吸蔵合金を内蔵したボンベ9を使用する場合には、ボンベ9は非常に重くなるので、その改善は重要である。
【0004】
そこで、この発明は、燃料電池システムを搭載した電動車イスのボンベを、楽にまた安全にセット、交換できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、この発明は、燃料ボンベを燃料電池本体の側方に設けたのである。
このようにすれば、燃料ボンベを燃料電池本体の下方に設けた場合よりも燃料ボンベの固定位置が高くなるので、ボンベをセット、交換する際に、作業者は大きくかがみ込む必要がない。このため、ボンベを、楽にまた安全にセット、交換できるようになる。このとき、燃料ボンベの位置は燃料電池本体の側方であればよく、その燃料電池本体に対して車体前方側、車体幅方向側方、車体後方側のいずれであってもよい。
【発明の効果】
【0006】
この発明は、燃料電池搭載車イスのボンベを燃料電池本体の側方に設けたので、燃料ボンベの固定位置が高くなり、燃料ボンベを、楽にまた安全にセット、交換できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上記手段の実施形態として、電動車イスの座面部下に燃料電池本体を設け、その燃料電池本体へ燃料ボンベから燃料を供給することにより発電する燃料電池システムを搭載した電動車イスの燃料ボンベ設置構造において、その燃料ボンベを上記燃料電池本体側方に設けた構成が挙げられる。
この構成によれば、ボンベをセット、交換する際に、作業者は大きくかがみ込む必要がなく、ボンベを、楽にまた安全にセット、交換できるようにできる。
【0008】
また、特に、その燃料が水素である場合には、燃料電池本体を冷却した後の暖かい空気を、すぐ側方に位置する燃料(水素)ボンベ周囲へ誘導しやすくなる。水素ボンベを、燃料電池本体を冷却した後の暖かい空気の熱で温めることができれば、水素の供給効率が高まるので好ましい。
【0009】
また、上記の構成において、上記燃料ボンベが筒状を成す場合において、前記燃料ボンベは、その筒軸方向が上下方向に向くように上記電動車イスに固定すれば、ボンベの上端位置がより高くなる。このため、作業者は、その上端位置を掴んで保持すれば、さらに良好な姿勢で楽に作業することが可能となる。
【0010】
その筒状の燃料ボンベを上記電動車イスに固定するために、その電動車イスにボンベ保持部材を設け、燃料ボンベを前記保持部材の上方から下方に向かって降下させることにより前記ボンベ保持部材に係止可能とし、その燃料ボンベを前記係止状態から上方に向かって持ち上げることにより前記保持部材から取り外し可能とした構成を採用し得る。
この構成によれば、燃料ボンベをセット、交換する際に、作業者はボンベをより上方位置で扱うことができるので、立った状態に近い姿勢で作業をすることができる。また、そのボンベをセットする際に、ボンベの自重を利用して下方に落とし込むことができるので、ボンベのセットが容易になる。
【0011】
さらに、上記燃料ボンベを、上記電動車イスの背もたれ部後方に設ければ、背もたれ部は座面部よりも高く立ち上がるので、燃料ボンベは、その背もたれ部に沿って高い位置に設けてもじゃまにならない。このため、燃料ボンベを高い位置に固定するには、最適の位置であるといえる。燃料ボンベを高い位置に固定することにより、作業者の姿勢はさらによくなる。
【0012】
特に、燃料ボンベを電動車イスの背もたれ部後方に設ければ、燃料ボンベは、燃料電池本体の進行方向後ろ側に位置するので、燃料電池本体から排出される気体は、その走行中の車イス周囲の気流に乗って、燃料ボンベ周囲に誘導されやすくなる。
【0013】
なお、燃料電池本体と上記保持部材との間に、燃料電池本体から排出される気体を前記ボンベ保持部材で固定した燃料ボンベ周囲に導く気体誘導部を設ければ、気体及び熱がさらに誘導されやすくなる。
【実施例】
【0014】
一実施例を図1乃至図2に基づいて説明する。
図1は、電動車イス1の背もたれ部2の背面側に設けたボンベ保持部材10に、燃料ボンベ9を着脱する際の作業者の姿勢を示す説明図である。
【0015】
燃料電池本体8は、座面部3下部において電動車イス1のフレームに固定されている。また、ボンベ保持部材10は、筒状の水素ボンベ9を、いわゆる縦置き状態で着脱可能に係止できるようになっており、そのボンベ保持部材10が、燃料電池本体8の後方において、背もたれ部2の垂直方向の後部フレーム7等に適宜の手段で固定されている。
また、水素ボンベ9は水素吸蔵合金を内蔵したボンベ9であり、ボンベ保持部材10への係止状態において、図2に示すように、下端部に接続された配管9bを介して燃料電池本体8に水素が供給されるようになっている。
【0016】
ボンベ保持部材10の構成は、図2に示すように、燃料である水素を封入した水素ボンベ9を収納し得る内径を有する筒状を成し、その内側には、底部と上部開口付近にブッシュ12が嵌め込まれて固定されている。下部のブッシュ12は、水素ボンベ9の先端がぴったりと嵌る上向き凹状に形成されており、また、上部のブッシュ12は、水素ボンベ9がぴったりと嵌る筒状に形成されている。
【0017】
保持部材10内に、図1に矢印で示す方向へ水素ボンベ9を降下させて挿入すると、水素ボンベ9は、ブッシュ12,12を介してボンベ保持部材10に係止されるようになっている。また、その係止状態から水素ボンベ9を上方へ引き上げる(持ち上げる)と、水素ボンベ9は、前記保持部材10から取り外しできるようになっている。
作業者は、手で水素ボンベ9の上端部9aを保持して、ボンベ保持部材10の上方位置で着脱作業できる。このため、ほぼ立ちあがった状態に近い楽な姿勢で作業をすることができる。また、水素ボンベ9をセットする際に、そのボンベの自重を利用して保持部材10内に落とし込むことができるので、作業が楽である。
特に、水素吸蔵合金を内蔵した水素ボンベ9は非常に重いので、このように、中腰になることなく楽な姿勢で着脱作業ができれば、作業が安全であるとともに、その作業の効率もよくなる。
【0018】
また、燃料電池本体8から排出される気体は、図2に示すように、気体誘導部11を通ってボンベ保持部材10の内面と水素ボンベ9の外面との間の空間に誘導されるようになっている。すなわち、その排出された気体は、図中矢印aの方向へ排出され、その後矢印bに示すように、ボンベ保持部材10内の空間を通って上方へ抜けていく。
水素を封入する水素ボンベ9として使用される水素吸蔵合金ボンベは、使用時に温める必要があるが、従来であれば、図4に示すように、燃料電池本体8からの熱をもった排気をボンベ9に向かって下方へ誘導していた。一般に、暖かい気体は上方へ向かって移動しようとするので、このように周囲よりも暖かい気体を下方に向かって誘導することは、排気効率上、またボンベ9の加熱効率上、最適とはいえなかった。
しかし、上記構成によれば、燃料電池本体8からの熱をもった排気は、その燃料電池本体8の側方に誘導されるので、水素ボンベ9周囲には、より効率的に排気が供給されてボンベ9の加熱効率も向上する。また、水素ボンベ9が、燃料電池本体8に対して進行方向後方に位置するので、この配置は、電動車イスが走行すれば排気を誘導する上で有利な条件となる。また、このように排気効率が向上すれば、結果的に、燃料電池の熱循環に使用する動力が少なくなるという効果もある。
【0019】
なお、他の実施例として、図3に示すように、ボンベ保持部材10をフレーム枠で形成して、固定された水素ボンベ9が露出するようにしてもよい。この態様において、水素ボンベ9は、例えば、ボンベ保持部材10に係止具14を介して固定された水平フレーム13に、周知の手法で着脱可能に固定できるようにすればよい。このように水素ボンベ9が外部に向かって露出していれば、燃料電池本体8の排気口15を保持部材10側に向けることにより、上記気体誘導部11を省略することもできる。
【0020】
なお、燃料ボンベ9としては、電動車イス1にセットする燃料ボンベ9の形状、及び本数は自由であり、必要であれば、例えば、3本、4本といったように複数個同時に装着してもよい。また、燃料として水素以外のものを封入した場合にも、上記構成のボンベ設置構造で対応可能である。
さらに、そのボンベ保持部材10及び燃料ボンベ9の設置位置は、ボンベ9の自重により、特に搭乗者がいない空車時に電動車イス1がバランスを失わないように、図1に示すように、後輪6の車軸6aよりも前方に配置することが望ましい。もちろん、ボンベ保持部材10及び燃料ボンベ9を、電動車イス1の側方に配置してもさしつかえない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施例を示し、燃料ボンベを着脱する際の状態を示す説明図
【図2】図1の燃料ボンベ設置構造を示す概略図
【図3】他の実施例の燃料ボンベ設置構造を示す概略図
【図4】従来例を示し、燃料ボンベを着脱する際の状態を示す説明図
【符号の説明】
【0022】
1,21 電動車イス
2 背もたれ部
3 座面部
4 取手部
5 前輪
6 後輪
5a,6a 車軸
7 後部フレーム
8 燃料電池本体
9 燃料ボンベ(水素ボンベ)
10,20 ボンベ保持部材
11 気体誘導部
12 ブッシュ
13 水平フレーム
14 係止具
15 排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車イス1の座面部3下に燃料電池本体8を設け、その燃料電池本体8へ燃料ボンベ9から燃料を供給することにより発電する燃料電池システムを搭載した電動車イス1の燃料ボンベ設置構造において、
上記燃料ボンベ9を上記燃料電池本体8側方に設けたことを特徴とする燃料ボンベ設置構造。
【請求項2】
上記燃料は水素であることを特徴とする請求項1に記載の燃料ボンベ設置構造。
【請求項3】
上記燃料ボンベ9は筒状を成し、前記燃料ボンベ9は、その筒軸方向が上下方向に向くように上記電動車イス1に固定したことを特徴とする請求項1又は2に記載のボンベ設置構造。
【請求項4】
上記電動車イス1にボンベ保持部材10を設け、前記燃料ボンベ9を前記保持部材10の上方から下方に向かって降下させることにより前記ボンベ保持部材10に係止可能とし、その燃料ボンベ9を前記係止状態から上方に向かって持ち上げることにより前記保持部材10から取り外し可能としたことを特徴とする請求項3に記載の燃料ボンベ設置構造。
【請求項5】
上記燃料ボンベ9を、上記電動車イス1の背もたれ部2後方に設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料ボンベの設置構造。
【請求項6】
燃料電池本体8と上記ボンベ保持部材10との間に、燃料電池本体8から排出される気体を前記ボンベ保持部材10で固定した燃料ボンベ9周囲に導く気体誘導部11を設けたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の燃料ボンベ設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−45301(P2007−45301A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230869(P2005−230869)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】