説明

燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体、その製造方法および燃料電池

【課題】プロトン伝導性の低下を起こすことなく、耐久性が向上した燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体及びその製造方法、並びに該膜/電極接合体を用いた燃料電池の提供。
【解決手段】ポリマー(A)85〜95重量%およびポリマー(B)5〜15重量%が混合されてなる高分子電解質膜2と、該高分子電解質膜の少なくとも片面に直接接合された電極触媒層1とを含み、膜/触媒界面の表面粗度が1μm以下であることを特徴とする、水素を燃料とする燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体(以下、単に「膜/触媒接合体」という場合もある)及びその製造方法、並びに該膜/触媒接合体を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有し、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
【0003】
高分子電解質膜には通常高いプロトン伝導特性が求められる。高分子電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素、酸素などの透過を防ぐガス透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子電解質膜としては、例えば米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。
【0004】
パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜は、燃料電池の電解質膜としてバランスのよい特性を示すものの、運転条件によっては、排気ガス中に有害なフッ酸が発生することや、廃棄時に環境への負荷が大きいことなどの問題が指摘されている。
【0005】
一方、フッ素などのハロゲンを含まない、炭化水素系ポリマーからなる高分子電解質膜の検討も盛んに行われている(例えば特許文献1)。炭化水素系高分子電解質膜の中でも芳香族ポリマーからなるものは、耐熱性、高温での寸法安定性とともにプロトン伝導性に優れたものとして、燃料電池への適用が期待されているが、プロトン伝導性と耐久性能は一般にトレードオフの関係にあり、プロトン伝導性を高くしたものは、耐久性が低くなる傾向にあった。
【0006】
プロトン伝導性に優れた芳香族炭化水素系高分子電解質膜の耐久性を上げる方策として、化学的、物理的に安定な芳香族ポリマーをブレンドすることが提案されている。しかし、高分子電解質ポリマーにプロトン伝導性のないポリマーを混合するとプロトン伝導性の低下が起こるので、安定性の高い芳香族ポリマー自体もプロトン伝導性を有しているものが好ましい組み合わせと言える。このようなものとしてスルホン酸基やホスホン酸基を持つポリベンズイミダゾールが有用であり、特許文献2や特許文献3が報告されている。その中では、燃料電池としての性能も優れていることが述べられているが、特性値として充分なものではなかった。
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/033534号
【特許文献2】特開2005−139318号公報
【特許文献3】特開2005−213276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はプロトン伝導性と耐久性を向上させたブレンド系高分子電解質膜において、燃料電池に使用した際の性能をより優れたものとするための高分子電解質膜/触媒接合体及びその製造方法、並びに該膜/触媒接合体を用いた燃料電池の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、下記に示す膜/触媒接合体により上記目的が達成されることを見い出すに至った。すなわち、本発明は下記(1)〜(3)により達成される。
【0010】
(1)下記化学式(1)で表される構造のポリマー(A)85〜95重量%および下記化学式(2)で表される構造のポリマー(B)5〜15重量%が混合されてなる高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の少なくとも片面に直接接合された電極触媒層とを含み、膜/触媒界面の表面粗度が1μm以下であることを特徴とする、水素を燃料とする燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体。
【0011】
【化1】

(上記式中、n1、n2は0.40≦n1/(n1+n2)≦0.70の関係を満たす1以上の整数を、m1は1以上の整数を、それぞれ示す)
【0012】
【化2】

(上記式中、n3は1以上の整数を、m2,m3は0.60≦m3/(m2+m3)≦0.80の関係を満たす1以上の整数を、それぞれ示す)
【0013】
(2)第1の発明に記載の 高分子電解質膜の少なくとも片面に対して、電極触媒、高分子電解質、および溶媒を含有する触媒スラリーを、膜/触媒界面の表面粗度が1μm以下になるように直接塗布して電極触媒層を形成することを特徴とする燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体の製造方法。
【0014】
(3)第1の発明に記載の燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体を用いたことを特徴とする、水素を燃料とする燃料電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明による膜/触媒接合体は、従来のものに比べて、プロトン伝導性を低下させることなく耐久性が向上しており、燃料電池に用いた場合に、出力特性と長期運転性に優れるといった効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明における高分子電解質膜は、下記化学式(1)で表される構造のポリマー(A)と、および下記化学式(2)で表される構造のポリマー(B)とが、ポリマー(B)の重量分率が5〜15重量%になるように混合された混合物からなる燃料電池用の高分子電解質膜である。
【0018】
【化3】


(上記式中、n1、n2は0.40≦n1/(n1+n2)≦0.70の関係を満たす1以上の整数を、m1は1以上の整数を、それぞれ示す)
【0019】
【化4】

(上記式中、n3は1以上の整数を、m2,m3は0.60≦m3/(m2+m3)≦0.80の関係を満たす1以上の整数を、それぞれ示す)
【0020】
化学式(1)で表されるポリマーAにおいて、n1/(n1+n2)は0.40〜0.70の範囲にある。n1/(n1+n2)が0.45〜0.60の間であると好ましい。n1/(n1+n2)が0.40よりも小さいと、水素を燃料とする燃料電池に用いた場合に、出力が十分に出ない傾向となる。n1/(n1+n2)が0.70よりも大きいと、膜の形態保持性が低下する傾向となり、耐久性が低下するなどの問題が生じやすくなる。n1+n2+m1は、3以上の整数であればよいが、10〜10000の間にあることが好ましい。10よりも少ないと膜を得ることが困難になることがあり好ましくない。10000よりも大きいと、溶液の粘度が大きくなりすぎるなどの問題が起こりやすくなり好ましくない。また、(n1+n2)/(m1)は0.9〜1.1の範囲にあることが好ましく、0.95〜1.05の範囲にあることがより好ましく、0.99〜1.01の範囲にあるとさらに好ましい。
【0021】
ポリマー(A)の重合度は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー、光散乱法、浸透圧法、末端基量測定法などによって求めることができるが、簡便に重合度の大小を評価する方法として、希薄溶液の対数粘度を用いることもできる。例えば、ポリマー粉末を0.5g/dLの濃度でN−2−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、ln[ta/tb]/cで求められる対数粘度(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)では、0.1〜3.0dL/gの間にあることが好ましく、0.8〜2.0dL/gの間にあるとより好ましい。
【0022】
化学式(2)で表されるポリマー(B)のm3/(m2+m3)は0.60〜0.80の間である。m3/(m2+m3)が0.60よりも小さいと本発明のブレンド膜の耐久性が低下する傾向となり好ましくない。0.80よりも大きいと溶解性が低下する傾向となり、良好なブレンド膜を形成することが困難となるため好ましくない。n3+m2+m3は、3以上の整数であればよいが、10〜10000の間にあることが好ましい。10よりも少ないと膜を得ることが困難になることがあり好ましくない。10000よりも大きいと、溶液の粘度が大きくなりすぎるなどの問題が起こりやすくなり好ましくない。また、(n3)/(m2+m3)は0.9〜1.1の範囲にあることが好ましく、0.95〜1.05の範囲にあることがより好ましく、0.99〜1.01の範囲にあるとさらに好ましい。
【0023】
ポリマー(B)の重合度は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー、光散乱法、浸透圧法、末端基量測定法などによって求めることができるが、簡便に重合度の大小を評価する方法として、希薄溶液の対数粘度を用いることもできる。例えば、ポリマー粉末を0.5g/dLの濃度でメタンスルホン酸または濃硫酸に溶解し、30℃の恒温槽中でオストワルド型粘度計を用いて粘度測定を行い、ln[ta/tb]/cで求められる対数粘度(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)では、0.25〜10dL/gの範囲であることが好ましく、0.40〜8dL/gの範囲にあることがより好ましい。対数粘度が0.25dL/g未満の場合には、粘度の低下により成形物を得ることが困難となる傾向となる。また、対数粘度が10dL/gを超えると粘度の上昇に成形することが困難になる。
【0024】
ポリマー(A)とポリマー(B)の混合比は、ポリマー(B)の含有率が5〜15重量%である。ポリマー(B)の含有率が5重量%よりも少ないと、ポリマー(B)による耐久性向上効果が出なくなる傾向となる。15重量%よりも多いとブレンド膜のプロトン伝導性が低下する傾向が大きくなる。
【0025】
ポリマー(A)は公知の任意の方法で合成できるが、例えば、芳香族求核置換反応を用いて重合することができる。モノマーとして、例えば、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4’−ビフェノールを用いることができるが、上記化学式(1)の構造を与え得る構造のモノマーであれば、これらに限らず使用することができる。上述のモノマーを、塩基性物質の存在下で加熱することによって、ポリマー(A)を得ることができる。
【0026】
重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0027】
また、上記重合反応において、塩基性化合物を用いずに、4,4’−ビフェノールを、フェニルイソシアネートなどのイソシアネート化合物と反応させてカルバモイル化したものと、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ナトリウムとを直接反応させることもできる。
【0028】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、4,4’−ビフェノールを活性なフェノキシド構造にし得るものであれば、これらに限定されず使用することができる。塩基性化合物は、4,4’−ビフェノールに対して100モル%以上の量を用いると良好に重合することができ、好ましくは4,4’−ビフェノールに対して105〜125モル%の範囲である。塩基性化合物の量が多くなりすぎると、分解などの副反応の原因となるので好ましくない。
【0029】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
【0030】
反応温度は任意の温度にすることができるが、150〜250℃の範囲にあることが好ましい。反応時間は任意の時間にすることができるが、3〜60時間の範囲であることが好ましい。反応は、攪拌しながら行うことが好ましい。また、窒素などの不活性ガス雰囲気又は気流下で行うことが好ましい。
【0031】
ポリマー(A)において、上記化学式(1)で表される構造の個々の繰り返し単位の配列の順序は、交互、ブロック、ランダムのいずれであってもよい。ブロック共重合体であれば、プロトン伝導性や吸水性が高くなる傾向を示す。
【0032】
ポリマー(B)は公知の任意の方法で重合することができる。モノマーとしては、例えば、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、2−スルホテレフタル酸モノナトリウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンホスホン酸を用いることができるが、上記化学式(2)の構造を与え得る構造のモノマーであれば、これらに限らず使用することができる。
【0033】
これらのモノマーを、例えば、J.F.Wolfe,Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,2nd Ed.,Vol.11,P.601(1988)に記載されるようなポリリン酸を溶媒とする脱水、環化重合により合成することができる。また、ポリリン酸の代わりにメタンスルホン酸/五酸化リン混合溶媒系を用いた同様の機構による重合を適用することもできる。なお、熱安定性の高いポリベンズイミダゾール系化合物を合成するには、一般によく使用されるポリリン酸を用いた重合が好ましい。
【0034】
また、適当な有機溶媒中や混合原料モノマー融体の形での反応でポリアミド構造などを有する前駆体ポリマーを合成しておき、その後の適当な熱処理などによる環化反応で目的のポリベンズイミダゾール構造に変換する方法なども使用することができる。
【0035】
反応温度は任意の温度にすることができるが、150〜250℃の範囲にあることが好ましい。反応時間は任意の時間にすることができるが、2〜30時間の範囲であることが好ましい。反応は、攪拌しながら行うことが好ましい。また、窒素などの不活性ガス雰囲気又は気流下で行うことが好ましい。
【0036】
ポリマー(B)において、上記化学式(2)で表される構造の個々の繰り返し単位の配列の順序は、交互、ブロック、ランダムのいずれであってもよい。
【0037】
ポリマー(A)とポリマー(B)とからなる高分子電解質膜は公知の任意の方法で得ることができるが、ポリマー(A)及びポリマー(B)を含む溶液を作製し、その溶液をキャスト、乾燥して膜を得ることが好ましい。一般にイオン性基(特に多価アニオン性基)を含有するポリベンズイミダゾールは有機溶媒への溶解性が悪い傾向にあるが、本発明のポリマー(B)はホスホン酸基を有しているのも拘わらず有機溶媒への溶解性が高いのが特徴であり、ポリマー(A)と同一溶媒系での混合溶液とすることができ、良好な製膜が行えるためである。
【0038】
ポリマー(A)及びポリマー(B)を含む溶液を作製するには、それぞれのポリマーを別々に溶媒に溶解してから混合してもよいし、それぞれのポリマーを同じ溶媒に溶解してもよい。溶解は任意の温度で行うことができるが、30〜150℃の範囲で行うことが好ましい。溶媒には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド、N−モルフォリンオキサイドなどの非プロトン性有機極性溶媒や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などの極性溶媒、及びこれらの有機溶媒の混合物、並びに水との混合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、ポリマーのスルホン酸基を塩にしたものを用いて混合物を作製し、その後、酸処理によってスルホン酸基を酸型に戻す処理を行って高分子電解質膜を得ることもできる。
【0040】
ポリマー溶液の濃度は0.1〜50重量%の範囲が好ましい。成形性の観点からは、5〜40重量%の範囲にあることがより好ましく、10〜30重量%の範囲がさらに好ましい。ポリマー濃度が0.1重量%より低いと、安定した膜厚の高分子電解質膜を得ることが困難となる。ポリマー濃度が50重量%より高くなると、溶液の取扱が困難となる。
【0041】
ポリマー(A)とポリマー(B)の混合物からなる電解質膜は任意の厚みにすることができるが、10μm以下の場合、膜の取扱が困難となるとともに力学強度が不十分となるため、10μmを超える膜厚を有していることが好ましい。20μm以上であることがより好ましい。また、膜厚が300μmを超えると均質な膜の製造が困難になるため、300μmを超えない膜厚であることが好ましい。
【0042】
本発明の膜/触媒接合体は、本発明における高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の少なくとも片面に、直接接合された電極触媒層とを含み、膜/触媒界面の表面粗度が1μm以下である膜/触媒接合体である。前記膜/触媒接合体を作製するには、特に制限されないが、電極触媒、高分子電解質、および溶媒を含有する触媒スラリーを高分子電解質膜の片面または両面に塗布する方法が用いられる。これにより、高分子電解質膜の片面または両面に電極触媒および高分子電解質を含む電極触媒層を配置することができる。
前記電極触媒は、電極反応を促進させるものであれば特に制限なく用いられるが、導電性担体に触媒成分が担持されたものが好ましく用いられる。
【0043】
前記触媒成分は、カソード触媒層においては酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、アノード触媒層においては水素の酸化反応に触媒作用を有するものであればよい。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒をして合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。
【0044】
前記触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒層に用いられる触媒成分の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため触媒活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って触媒活性が低下する現象が見られる。従って、触媒層に含まれる触媒粒子の平均粒子径は、1.5〜15nm、より好ましくは2〜10nm、さらにより好ましくは2〜5nmであることが好ましい。
【0045】
前記電極触媒における導電性担体は、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよい。前記導電性担体の比表面積は、好ましくは20〜1000m/g、より好ましくは80〜800m/gとするのがよい。前記比表面積が、20m/g以上の方が前記導電性担体における触媒成分および後述する高分子電解質の分散性が低下せず充分な発電性能が得られ、1000m/g以下であると触媒成分および高分子電解質の有効利用率が却って低下することが避けられる。
【0046】
前記導電性担体は、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、メソフェーズピッチ系黒鉛、および燐片状人造黒鉛などが挙げられる。なかでも、導電性担体としては、メソフェーズピッチ系黒鉛、および/または、燐片状人造黒鉛が好ましく用いられる。メソフェーズピッチ系黒鉛および燐片状人造黒鉛は、燐片状の結晶が外向きに配向した構造を有することから吸水性に優れ、触媒の保水の効果が得られる。
【0047】
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
【0048】
触媒スラリーにおける電極触媒の含有量は、特に制限されないが、触媒スラリーに対して、好ましくは45〜65質量%、より好ましくは50〜60質量%とするのがよい。これにより、高い発電性能を有する電極触媒層を作製することができる。
【0049】
次に、前記触媒スラリーに用いられる高分子電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくともプロトン伝導性を有するのが好ましい。これにより高い発電性能を有する電極触媒層が得られる。
【0050】
前記触媒スラリーにおける高分子電解質の含有量は、特に制限されないが、触媒スラリーに対して、通常20〜75質量%であり、好ましくは30〜60質量%、より好ましくは35〜45質量%とするのがよい。前記高分子電解質の含有量が、20質量%未満であると電極触媒層に含まれる高分子電解質の含有量が十分でなく電解質膜と電極触媒層との十分な接合性が得られない恐れがあり、75質量%を超えると得られる電極触媒層における電極触媒の含有量が低下して電極触媒層の発電性能を低下させる恐れがある。
【0051】
前記触媒スラリーに用いられる溶媒としては、特に制限されないが、水、および/または、メタノール、エタノール、1−プロパノール(NPA)、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)など有機溶媒が挙げられる。
【0052】
前記触媒スラリーを電解質膜に塗布する方法は、公知の方法でよく、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。
【0053】
本発明に用いられるガス拡散層としては、特に限定されず公知のものが同様にして使用でき、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスなどの炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状の導電性多孔質基材を少なくとも含むのが好ましい。これにより、高いガス拡散性が得られる。
【0054】
前記導電性多孔質基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが、30μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくなく、電解質膜/触媒接合体の両側にガス拡散層が配置される。
本発明の方法では、上述の通りにして得られた膜/触媒接合体をガス拡散層基材と接合させることで膜/電極接合体が得られる。
【0055】
本発明の燃料電池は、本発明の膜/触媒接合体を用いて作製することができる。すなわち、膜/触媒接合体を一対のガス拡散層により挟持し、さらにセパレータで両側を挟持する。これを集電板と絶縁板を介してさらに両側を端板で締結することにより燃料電池を得ることができる。かかる本発明の燃料電池は、水素を燃料とした固体高分子形燃料電池に使用することができ、中でも自動車用燃料電池に特に適している。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
【0057】
対数粘度(ポリマーA):ポリマー粉末を0.5g/dLの濃度でN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln(ta/tb)/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0058】
対数粘度(ポリマーB):ポリマー粉末を0.5g/dLの濃度でメタンスルホン酸に溶解し、30℃の恒温槽中でオストワルド型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln(ta/tb)/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0059】
耐久性評価:
燃料電池のアノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には酸化剤として酸素を供給し、連続開回路保持試験での耐久試験を行い、開回路電圧の変化を評価した。
結果を表1に示す。
【0060】
<合成例1>ポリマー(A)の合成
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(略号:S−DCDPS)71.02g(0.1446mole)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)24.87g(0.1446mole)、4,4’−ビフェノール53.84g(0.2891mole)、炭酸カリウム45.96g(0.3325mole)、モレキュラーシーブ2.61gを1l四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。430mlのNMPを入れて、150℃で一時間撹拌した後、反応温度を195−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約8時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、乾燥した。ポリマーの対数粘度は1.19を示した。ポリマー(A)は、化学式(1)で表される化学構造を有し、n1、n2、及びm1が、n1/(n1+n2)=0.50、及び(n1+n2)/(m1)=1.0の関係を満たす1以上の整数であるものである。
【0061】
<合成例2>ポリマー(B)の合成
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン(略号:TAS)7.500g(0.02695mol)、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム(略号:STA、純度99%)2.168g(0.00808mol)、5−ジカルボキシフェニルホスホン酸(略号:DCP、純度98%)4.6423g(0.01886mol)、ポリリン酸(五酸化リン含量75%)52.3g、五酸化リン42.9gを重合容器に量り取る。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温する。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温して1時間、200℃に昇温して5時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙中性になるまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。得られたポリマー(B)の対数粘度は、1.69dL/gであった。ポリマー(B)は、化学式(2)で表される化学構造を有し、n3、m2、及びm3が、m3/(m2+m3)=0.70、及び、n3/(m2+m3)=1.0の関係を満たす1以上の整数であるものである。
【0062】
<実施例1>電解質膜の製造
ポリマー(A)115.30gと240gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を500mlの枝付きフラスコにとり、窒素雰囲気下100℃で5時間撹拌して溶解した。ポリマー(B)11.40gと103gのNMPを500mlの枝付きフラスコにとり、窒素雰囲気下120℃で5時間撹拌して溶解した。ポリマー(B)の溶液の全量を、ポリマー(A)の溶液に加え、窒素雰囲気下100℃でさらに5時間撹拌して混合し、褐色の透明な均一溶液を得た。得られた溶液は、ガラス板上に400μmの厚みでキャストし、100℃、135℃、150℃で各5分加熱した後、150℃の窒素雰囲気下オーブンで1時間処理した。室温まで冷却した後、ガラス板を純水に浸けて膜を剥離し、そのまま膜を12時間純水に浸漬した後、2M希硫酸浸漬処理した後、洗液が中性になるまで純水で洗浄した。得られた膜は、表面に付着した水分を取り除き、ろ紙に挟んで加重をかけて24時間放置し、乾燥し、厚み約30μmの高分子電解質膜を得た。
【0063】
ガス拡散層の作製
カーボンペーパ(東レ株式会社製 カーボンペーパTGP-H-060、厚さ190μm)を50mm角に打抜いた基材を準備した。この基材を、PTFEのフッ素系水性ディスパージョン溶液(ダイキン工業社製 ポリフロンD-1E、PTFE60wt%含有)を純水で所定の濃度に調整した溶液中に5分浸漬させた後、オーブン内にて60℃、30分乾燥させることにより、前記基材中にPTFEを分散させた。このとき、PTFE含有量は25wt%であった。これにより、撥水処理された基材を得た。
続いて、カーボンブラック(CABOT社製 VULCAN(登録商標))XC-72R)5.4gと、上記で用いたのと同じPTFEのフッ素系水性ディスパージョン溶液1.0gと、水29.6gとをホモジナイザーにて3時間混合分散しスラリーを調整した。このスラリーを、先に作製した撥水処理基材の一方の面にバーコーターにより均一に塗布し、オーブン内にて60℃、1時間熱処理を行い、ガス拡散層を得た。
【0064】
膜/触媒接合体の製造
1.膜/触媒接合体の作製
触媒担体であるカーボン上に触媒成分として平均粒子径3nmの白金を50質量%担持した電極触媒1質量部、水4質量部、5質量%ナフィオン溶液8質量部、イソプロパノール1.5質量部を混合することにより、触媒スラリーを調製した。前記触媒スラリーを、25℃の環境において、電解質膜(上述のポリマー(A)およびポリマー(B)よりなる高分子電解質膜、厚さ30μm、面積7cm×7cm)の両面にノードソン社製パルススプレーを用いて触媒スラリーを直接塗布し、前記電解質膜の両面に電極触媒層(厚さ25μm、面積5cm×5cm)が配置された膜/触媒接合体を作製した。作製した膜/触媒接合体の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、膜/触媒接合体の表面粗度が1μm以下であることを確認した。
【0065】
2.燃料電池の作製
室温(25℃)、相対湿度80%の環境において、前記膜電極接合体を前記作製のガス拡散層によりカーボン粒子層が電極触媒層と接するようにして挟持し、電極触媒層が配置されずに露出している電解質膜の外周部に、シリコーンゴム製のシール材を配置し、セパレータで両側を挟持した。これを、さらに集電板と絶縁板を介して2枚のステンレス鋼製の端板で挟み、端板同士を締結ロッドで、1MPaの圧力で締結することにより燃料電池を得た。
【0066】
なお、前記セパレータはカーボン製のものを用い、外形寸法は、厚さ2mm、高さ130mm、幅260mmであり、カソードまたはアノードと対向する面には、セパレータ板の中央部20cm×9cmの領域に、2.9mmピッチ、幅約2mmの酸化剤ガス流路または燃料流路を形成した。また、冷却水用流路は、ピッチ2.9mm、幅約2mmとした。また、前記セパレータには、酸化剤ガス、燃料ガス、および冷却水のマニホルド穴を設けた。
【0067】
3.評価
上記で作製した燃料電池の発電性能を下記手順に従って評価した。
燃料電池のアノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には酸化剤として酸素を供給した。両ガスともセル出口圧力は大気圧とし、水素は44.6℃、R.H.30%および0.261L/min、空気は44.6℃、R.H.30%、および1.041L/min、セル温度は90℃に設定し、水素利用率は30%、酸素利用率は30%とした。この条件下で、連続開回路保持試験を行い、保持時間と開回路電圧の変化を評価した。
【0068】
<比較例1>
下記化学式(3)のスルホン酸基含有ポリマー(ポリマー(A)と同じ方法で測定した対数粘度が1.31dL/g)をポリマー(A)の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして膜/触媒接合体を作製し評価した。
【0069】
【化5】

(化学式(3)において、n4、n5、m4は、n4=n5、及びm4=n4+n5を満たす、正の整数を表す。)
【0070】
<比較例2>
実施例1と同様の電解質膜に、触媒-ガス拡散層積層体をカーボン粒子層が電極触媒層と接するようにして挟持した後、130℃、6.5Mpaで10分間ホットプレスすることで膜/触媒接合体を作製し、評価した。
【0071】
実施例及び比較例の、高分子電解質膜及び膜/触媒接合体を用いた燃料電池の評価結果を表1に示す。なお、開回路電圧が0Vとなり、試験継続が不可能であるものは×と標記し、試験継続可能であるものについては○と標記した。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の高分子電解質膜は優れた特性を示すと共に、膜/触媒接合体として燃料電池に用いることによって、耐久性を大きく改善できることから、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1および比較例1で作製した膜/触媒接合体界面の断面を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0075】
1 触媒層
2 電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される構造のポリマー(A)85〜95重量%および下記化学式(2)で表される構造のポリマー(B)5〜15重量%が混合されてなる高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の少なくとも片面に直接接合された電極触媒層とを含み、(C)膜/触媒界面の表面粗度が1μm以下であることを特徴とする、(D)水素を燃料とする燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体。
【化1】


(上記式中、n1、n2は0.40≦n1/(n1+n2)≦0.70の関係を満たす1以上の整数を、m1は1以上の整数を、それぞれ示す)
【化2】

(上記式中、n3は1以上の整数を、m2,m3は0.60≦m3/(m2+m3)≦0.80の関係を満たす1以上の整数を、それぞれ示す)
【請求項2】
請求項1に記載の高分子電解質膜の少なくとも片面に対して、電極触媒、高分子電解質、および溶媒を含有する触媒スラリーを、膜/触媒界面の表面粗度が1μm以下になるように直接塗布して電極触媒層を形成することを特徴とする、水素を燃料とする燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池用の高分子電解質膜/触媒接合体を用いたことを特徴とする、水素を燃料とする燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−166037(P2008−166037A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352154(P2006−352154)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】