説明

燃料電池用ガスケット成形金型

【課題】燃料電池の構成部材と燃料電池用ガスケットとを一体成形する際に、金型内におけるガスケット材料の望ましくない浸入を抑制する。
【解決手段】燃料電池構成部材に対してガスケットを一体で成形するための燃料電池用ガスケット成形金型であって、ガスケットに対応する形状であって、ガスケットの成形材料を投入可能なキャビティ80と、キャビティ80と連通して設けられ、キャビティに対して過剰に投入された成形材料をキャビティ外に導く通路であるベント部82と、が形成されており、金型内に配置された燃料電池構成部材と金型の内壁面との間に生じる空隙81に対する、ベント部82からの成形材料の流入を抑制するように、金型の内壁面に設けられた流入抑制部75を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガスケットの成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池においては、一般に、電解質膜の外周部において、セル内に形成されるガス流路のシール性を確保するためのガスケットなどのシール部材が設けられる。このようなガスケットの構成として、従来、電解質膜表面に電極を形成した膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下MEAと呼ぶ)を金型内に配置して、MEAの外周部に、MEAと一体で、射出成形によってシールガスケットを形成する構成が知られている。具体的には、例えば、MEAをさらに一対のガス拡散層で挟持した積層体を金型内に配置する際に、積層体の外周部と当接する当接部を金型内に配置して、この当接部によって、積層体へのガスケット材料の浸入を抑制する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−204636号公報
【特許文献2】特開2002−260694号公報
【特許文献3】特開2008−146986号公報
【特許文献4】特開2009−043646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように金型を用いて燃料電池用ガスケットを一体成形する場合には、ガスケット材料の浸入は、金型内に配置するMEAを含む積層体内への浸入以外の態様でも起こり得る。そのため、燃料電池の構成部材とガスケットとを金型を用いて一体成形する際に、金型内におけるガスケット材料の望ましくない浸入を抑制するために、ガスケットの成型方法の更なる適正化が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の構成部材と燃料電池用ガスケットとを一体成形する際に、金型内におけるガスケット材料の望ましくない浸入を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池構成部材に対してガスケットを一体で成形するための燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記ガスケットに対応する形状であって、前記ガスケットの成形材料を投入可能なキャビティと、
前記キャビティと連通して設けられ、前記キャビティに対して過剰に投入された前記成形材料を前記キャビティ外に導く通路であるベント部と、
が形成されており、
前記金型内に配置された前記燃料電池構成部材と前記金型の内壁面との間に生じる空隙に対する、前記ベント部からの前記成形材料の流入を抑制するように、前記金型の内壁面に設けられた流入抑制部を備える
燃料電池用ガスケット成形金型。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、流入抑制部を設けているため、金型内で金型内壁面と燃料電池構成部材との間に形成される空隙に対するベント部からの成形材料の流入を抑制することができる。そのため、このように空隙内に流入した成形材料に起因する燃料電池構成部材の周囲におけるバリの形成を抑制することができる。バリの形成を抑制することにより、バリの除去工程を削減し、あるいは不要として、燃料電池の製造工程を簡素化することが可能になる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、前記流入抑制部は、弾性材料によって形成されている燃料電池用ガスケット成形金型。適用例2に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、金型内で流入抑制部が燃料電池構成部材に当接するときに、流入抑制部は燃料電池構成部材と隙間無く接することが可能になり、燃料電池構成部材の外周の空隙に対する成形材料の流入を抑制する効果を高めることができる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または2記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、前記金型は、上型と、前記ガスケットの成形時に前記燃料電池構成部材が所定の位置に配置される下型と、を備え、前記流入抑制部は、前記上型に固着されている燃料電池用ガスケット成形金型。適用例3に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、流入抑制部が上型に固着されているため、下型上に燃料電池構成部材を配置する際に、流入抑制部が邪魔になることがない。
【0011】
[適用例4]
適用例3記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、前記流入抑制部は、三角柱状に形成されており、前記三角柱の一の側面において前記上型に固着されると共に、前記三角柱の他の側面である斜面によって、前記金型内に配置された前記燃料電池構成部材と当接可能に配置されている燃料電池ガスケット成形金型。適用例4に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、三角柱の一の側面において上型との間の接着強度を確保することができると共に、他の側面である斜面で燃料電池構成部材と接することにより、金型内における燃料電池構成部材との干渉を抑制することができる。
【0012】
[適用例5]
適用例3または4記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、前記ベント部は、前記上型に設けられた溝によって形成され、前記流入抑制部は、前記空隙を塞ぐ位置であって、前記ベント部を形成する溝を両側から挟む位置に設けられている燃料電池ガスケット成形金型。適用例5に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、ベント部を介したキャビティからの過剰な成形材料の排出を妨げることなく、燃料電池構成部材の外周に形成される空隙への成形材料の流入を抑制することができる。
【0013】
[適用例6]
適用例3ないし5いずれか記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、前記上型は、前記燃料電池構成部材上において前記燃料電池構成部材の外周に沿って設けられた外周シール部に当接可能に設けられている燃料電池ガスケット成形金型。適用例6に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、上型が外周シールに当接することにより、燃料電池構成部材の外周部において、ベント部が形成されていない箇所における空隙への成形材料の流入を抑制することができる。
【0014】
[適用例7]
適用例1ないし6いずれか記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、前記燃料電池構成部材は、ガスセパレータを含み、前記ガスケットは、前記ガスセパレータの面上に形成され、前記空隙は、前記ガスセパレータと前記金型の内壁面との間に生じる空隙である燃料電池用ガスケット成形金型。適用例7に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、流入抑制部によって、ガスセパレータの外周におけるバリの形成を抑制することができる。
【0015】
[適用例8]
適用例7記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、前記ガスセパレータは、燃料電池における電気化学反応に供されるガスが流れるマニホールドを形成するための孔部が形成されると共に、前記ガスセパレータの内部には、前記ガスセパレータ上に形成される前記ガスの流路と前記マニホールドとを連通させる連通流路と、冷媒流路が形成され、前記燃料電池構成部材は、さらに、電極を備える電解質膜と、前記電解質膜を挟持するように配置されて、前記ガスセパレータ上で前記ガスの流路を形成する多孔質体であるガス流路形成部と、を備え、前記金型は、前記ガスケットとして、前記ガスセパレータと面で接触しつつ一体化すると共に、前記燃料電池の内部において前記ガスセパレータと隣り合うガスセパレータと接する高さのシール用凸部が形成されたガスケットを成形する燃料電池用ガスケット成形金型。適用例8に記載の燃料電池用ガスケット成形金型によれば、ガスセパレータの外周部におけるバリの形成を抑制しつつ、ガスセパレータと、電極を備える電解質膜と、ガス流路形成部と、ガスケットとが一体化した構造を形成することができ、このような構造を積層することにより、容易に燃料電池の組み立てを行なうことが可能になる。
【0016】
[適用例9]
所定の金型を用いて、燃料電池構成部材に対してガスケットを一体で成形する燃料電池用ガスケットの製造方法であって、
前記金型は、
前記ガスケットに対応する形状であって、前記ガスケットの成形材料を投入可能なキャビティと、
前記キャビティと連通して設けられ、前記キャビティに対して過剰に投入された前記成形材料を前記キャビティ外に導く通路であるベント部と、
が形成されており、
前記金型内に前記燃料電池構成部材を配置する工程と、
前記金型内に配置された前記燃料電池構成部材と前記金型の内壁面との間に生じる空隙に対する、前記ベント部からの前記成形材料の流入を抑制するように、前記金型内に流入抑制部を配置する工程と
を備える燃料電池用ガスケットの製造方法。
【0017】
適用例9に記載の燃料電池用ガスケットの製造方法によれば、ガスケットの成形時に流入抑制部を配置するため、金型内で金型内壁面と燃料電池構成部材との間に形成される空隙に対するベント部からの成形材料の流出を抑制することができる。そのため、このように流出した成形材料に起因する燃料電池構成部材の周囲におけるバリの形成を抑制することができる。バリの形成を抑制することにより、バリの除去工程を削減し、あるいは不要として、燃料電池の製造工程を簡素化することが可能になる。
【0018】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池用ガスケットにおけるバリ形成の抑制方法や、燃料電池の製造方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例の燃料電池の概略構成を表わす断面模式図である。
【図2】カソード対向プレート31の形状を示す平面図である。
【図3】中間プレート33の形状を示す平面図である。
【図4】アノード対向プレート32の形状を示す平面図である。
【図5】発電積層部と一体形成されたガスケット16の形状を表わす平面図である。
【図6】ガスセパレータ30上における外周シール部18の配置を表わす平面図である。
【図7】実施例の燃料電池の製造工程を表わす説明図である。
【図8】金型内にガスセパレータ30および発電積層部の構成部材を配置した様子を表わす断面模式図である。
【図9】下型70上にガスセパレータ30を配置した様子を表わす平面図である。
【図10】ベント部82の位置を下型70と重ね合わせて示す平面図である。
【図11】領域Aの様子を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.燃料電池の構成:
図1は、実施例の燃料電池の概略構成を表わす断面模式図である。本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池である。また、本実施例の燃料電池は、電気化学反応が進行する基本構造であるセルアセンブリ10を複数備えると共に、各々のセルアセンブリ10間にガスセパレータ30を介在させつつセルアセンブリ10を積層させたスタック構造を有している。
【0021】
セルアセンブリ10は、表面に一対の電極および一対のガス拡散層を設けた電解質膜11と、ガス流路形成部14,15と、を備えている。なお、図1では、電極およびガス拡散層については、記載を省略している。
【0022】
電解質膜11は、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す。電極(カソードおよびアノード)は、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金、あるいは白金と他の金属から成る合金を備えている。カソードおよびアノードを形成するには、例えば、白金等の触媒金属を担持させたカーボン粉を作製し、この触媒担持カーボンと、電解質膜を構成する電解質と同様の電解質とを用いて触媒インクを作製し、作製した触媒インクを電解質膜上に塗布すればよい。ガス拡散層は、カーボン製の多孔質部材であり、例えばカーボンクロスやカーボンペーパによって形成される。電解質膜11は、両面上に電極が形成された後に、ガス拡散層によって挟持されて、プレス接合することにより全体が一体化される。
【0023】
ガス流路形成部14,15は、導電性多孔質体、具体的には、エキスパンドメタルや発泡金属などの金属製多孔質体、あるいは、カーボン製の多孔質体によって形成される薄板状部材である。ガス流路形成部14,15は、ガス拡散層およびガスセパレータ30と接触するように配置されており、内部に形成される多数の細孔から成る空間は、電気化学反応に供されるガスが通過するセル内ガス流路として機能する。すなわち、カソードとガスセパレータ30との間に配置されるガス流路形成部14の細孔が形成する空間は、酸素を含有する酸化ガスが通過するセル内酸化ガス流路として機能する。また、アノードとガスセパレータ30との間に配置されるガス流路形成部15の細孔が形成する空間は、水素を含有する燃料ガスが通過するセル内燃料ガス流路として機能する。
【0024】
ガスセパレータ30は、図1に示すように、ガス流路形成部14と接するカソード対向プレート31と、ガス流路形成部15と接するアノード対向プレート32と、カソード対向プレート31およびアノード対向プレート32に挟持される中間プレート33と、を備えている。これら3枚のプレートは、導電性材料、例えばステンレス鋼あるいはチタンやチタン合金といった金属によって形成される薄板状部材であり、カソード対向プレート31、中間プレート33、アノード対向プレート32の順に重ね合わされて、例えば拡散接合により接合されている。これら3種のプレートは、各々、所定の位置に所定形状の孔部を有している。図2は、カソード対向プレート31の形状を示す平面図であり、図3は、中間プレート33の形状を示す平面図であり、図4は、アノード対向プレート32の形状を示す平面図である。これら図2〜図4では、電極およびガス拡散層と重なる領域(以下、発電領域DAと呼ぶ)を、一点鎖線で囲んで示している。
【0025】
カソード対向プレート31、アノード対向プレート32は、いずれも、その外周部において、8つの孔部を備えている。具体的には、上記各プレートでは、略四角形状である外周の一辺に沿って、2つの孔部40が形成されている。また、近傍に孔部40が形成された辺と対向する辺に沿って、2つの孔部41が形成されている。さらに、他の2辺のうちの一方の辺の近傍には、孔部42,43が形成されており、他方の辺の近傍には、孔部44,45が形成されている。これらの8つの孔部は、スタック構造を形成するために各々の薄板状部材が積層された際に互いに重なり合って、燃料電池内部において積層方向に平行に流体を導くマニホールドを形成する。なお、中間プレート33は、上記8つの孔部のうち、孔部42,45は有していないが、後述する複数の冷媒孔59が、孔部42,45に対応する位置に重なるように設けられている。
【0026】
上記各プレートが備える孔部41は、燃料電池に対して供給された酸化ガスを各セル内酸化ガス流路に分配する酸化ガス供給マニホールドを形成し(図中、O inと表わす)、孔部40は、各セル内酸化ガス流路から排出されて集合した酸化ガスを外部へと導く酸化ガス排出マニホールドを形成する(図中、O outと表わす)。また、孔部44は、燃料電池に対して供給された燃料ガスを各セル内燃料ガス流路に分配する燃料ガス供給マニホールドを形成し(図中、H inと表わす)、孔部43は、各セル内燃料ガス流路から排出されて集合した燃料ガスを外部へと導く燃料ガス排出マニホールドを形成する(図中、H outと表わす)。さらに、孔部42は、燃料電池に対して供給された冷却水などの冷媒を各ガスセパレータ30内に分配する冷媒供給マニホールドを形成し(図中、CLT inと表わす)、孔部45は、各ガスセパレータ30から排出されて集合した冷媒を外部へと導く冷媒排出マニホールドを形成する(図中、CLT outと表わす)。
【0027】
また、カソード対向プレート31は、発電領域DA内において、2つの孔部40の近傍の辺(図2における上端側の辺)に沿って設けられ、カソード対向プレート31を貫通して形成された酸化ガス排出スリット50を備えている。また、同様に、発電領域DA内において、2つの孔部41の近傍の辺(図2における下端側の辺)に沿って設けられた酸化ガス供給スリット51を備えている(図2参照)。
【0028】
アノード対向プレート32は、カソード対向プレート31と同様に、発電領域DA内において、2つの孔部40の近傍の辺(図4における上端側の辺)に沿って設けられ、アノード対向プレート32を貫通して形成された燃料ガス供給スリット54を備えている。また、同様に、発電領域DA内において、2つの孔部41の近傍の辺(図4における下端側の辺)に沿って設けられた燃料ガス排出スリット53を備えている(図4参照)。これらの燃料ガス供給スリット54および燃料ガス排出スリット53は、それぞれ、酸化ガス排出スリット50および酸化ガス供給スリット51と重ならないように、プレートのさらに中央部寄りに配置されている。
【0029】
中間プレート33においては、孔部40の形状が他のプレートとは異なっており、中間プレート33の孔部40は、この孔部40のプレート中央部側の辺が、プレート中央部方向へと突出する複数の突出部を備える形状となっている。孔部40が有する上記複数の突出部を、連通部55と呼ぶ。この連通部55は、中間プレート33とカソード対向プレート31とが積層されたときに酸化ガス排出スリット50と重なり合うように形成されており、酸化ガス排出マニホールドと酸化ガス排出スリット50とを連通させる。また、孔部41においても同様に、酸化ガス供給スリット51に対応して、複数の連通部56が設けられている(図3参照)。さらに、中間プレート33には、孔部44および孔部43の各々に連通して、アノード対向プレート32の燃料ガス供給スリット54あるいは燃料ガス排出スリット53と重なる形状の、連通部58および連通部57が設けられている。
【0030】
燃料電池の内部において、孔部41が形成する酸化ガス供給マニホールドを流れる酸化ガスは、中間プレート33の連通部56が形成する空間と、カソード対向プレート31の酸化ガス供給スリット51とを介して、ガス流路形成部14内に形成されるセル内酸化ガス流路へと流入する。流入した酸化ガスは、電気化学反応に供されつつ、セル内酸化ガス流路を通過し、ガス流路形成部14から、カソード対向プレート31の酸化ガス排出スリット50および中間プレート33の連通部55が形成する空間を介して、孔部40が形成する酸化ガス排出マニホールドへと排出される。同様に、燃料電池の内部において、孔部44が形成する燃料ガス供給マニホールドを流れる燃料ガスは、中間プレート33の連通部58が形成する空間と、アノード対向プレート32の燃料ガス供給スリット54とを介して、ガス流路形成部15内に形成されるセル内燃料ガス流路へと流入する。流入した燃料ガスは、電気化学反応に供されつつ、セル内燃料ガス流路を通過し、ガス流路形成部15から、アノード対向プレート32の燃料ガス排出スリット53および中間プレート33の連通部57が形成する空間を介して、孔部43が形成する燃料ガス排出マニホールドへと排出される。
【0031】
なお、中間プレート33は、さらに、発電領域DAを含む領域に、互いに平行に形成された細長い複数の冷媒孔59を備えている。これらの冷媒孔59の端部は、中間プレート33を他のプレートと重ね合わせたときに、孔部42,45と重なり合い、冷媒が流れるためのセル間冷媒流路をガスセパレータ30内で形成する。すなわち、燃料電池の内部において、孔部42が形成する冷媒供給マニホールドを流れる冷媒は、上記冷媒孔59によって形成されるセル間冷媒流路に分配され、セル間冷媒流路から排出される冷媒は、孔部45が形成する冷媒排出マニホールドに排出される。
【0032】
また、ガスセパレータ30を構成する各プレートには、外周部近傍の対応する位置に、2つの位置決め孔47が設けられている。この位置決め孔47は、後述するガスケット16の形成時に、金型内でガスセパレータ30を位置決めするために用いられる。
【0033】
ここで、図3では、図1に示した断面図に相当する位置を、1−1断面として示している。図1では、ガス流路形成部14に対して酸化ガスが給排される様子、および、ガス流路形成部15に対して燃料ガスが給排される様子が、矢印によって表わされている。
【0034】
図1に戻り、隣り合うガスセパレータ30間において、セルアセンブリ10は、その外周部に、ガスケット16を備えている。ガスケット16は、燃料電池内部の環境下で安定な絶縁性の弾性材料、例えば、ゴムや熱可塑性エラストマーから成る部材である。ガスケット16を構成する材料としては、具体的には、例えば、シリコン、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリイソブチレン(PIB)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CPE)、アクリルゴム、多硫化ゴム、エピクロロヒドリンゴム(CO・CEO)等を挙げることができる。図1に示すように、ガスケット16は、一方の側は、平坦面として形成されて、隣接する一方のガスセパレータ30と面接触すると共に、この接触面において、上記ガスセパレータ30と所定の結合力で接着・密着されている。また、他方の側は、凸部17を有しており、凸部17の頭頂部において、隣接する他方のガスセパレータ30と接触する。ガスケット16は、電解質膜11、電極、ガス拡散層およびガス流路形成部14,15(以下、発電積層部と呼ぶ)と一体で形成されると共に、隣接するガスセパレータ30のうち、平坦面で面接触するガスセパレータ30と一体で形成されている。ガスケット16の製造工程については、後に詳述する。
【0035】
図5は、ガスセパレータ30上で、発電積層部と一体形成されたガスケット16の形状を表わす平面図である。図5に示すように、ガスケット16は、略四角形状の薄板状部材であり、外周部に設けられた8つの孔部(既述した孔部40〜45)と、中央部に設けられて発電積層部が組み込まれている略四角形の孔部とを有している。この図5は、図1における右側から見た図であって、凸部17が形成された側を表わしており、中央部に設けられた孔部に嵌め込まれた発電積層部においては、ガス流路形成部14が表面に表われている。
【0036】
図5に示すように、凸部17は、ガスケット16の中央部に設けられた孔部に組み込まれたガス流路形成部14を囲むと共に、ガスケット16の外周部に設けられた8つの孔部40〜45を囲むように、全体として連続して形成された線状の凸部である。ガスケット16は、弾性を有する樹脂材料から成るため、燃料電池内で積層方向に平行な方向に押圧力が加えられることにより、上記した凸部17とガスセパレータ30との接触部位において、ガスシール性を確保可能となる。ここで、凸部17は、全体として高さおよび頭頂部の幅が略一定に形成されている。そのため、凸部17は、全体として略均一な応力を、隣接するガスセパレータ30との間に生じることができ、良好なガスシール性を実現することができる。
【0037】
なお、ガスセパレータ30上には、ガスケット16と共に、外周シール部18が設けられている。図6は、ガスセパレータ30上における外周シール部18の配置を表わす平面図である。図6では、ガスセパレータ30上に一体成形されたガスケット16については記載を省略している。図1および図6に示すように、外周シール部18は、ガスセパレータ30上において、ガスセパレータ30の外周を囲む部分と、ガスセパレータ30に形成された各々の孔部40〜45を囲む部分とに分かれており、各々の部分は、ガスケット16に接して設けられている。外周シール部18は、ガスケット16と同様の弾性材料によって形成されており、例えば、溶融させた弾性材料をディスペンサーを用いて塗布することにより、ガスセパレータ30との間で充分な密着性を確保して形成することができる。図6に示すように、ガスセパレータ30の外周や各孔部に沿って形成される外周シール部18は、一筆書きの形状であって、各々が閉塞した線状に形成されているため、ディスペンサーを用いた塗布を行なうことで、高さが均一で、安定した品質の外周シール部18を形成することができる。外周シール部18は、ガスケット16の形成の際に用いられるが、ガスケット16の製造工程については後に詳しく説明する。
【0038】
B.燃料電池の製造方法:
図7は、本実施例の燃料電池の製造工程を表わす説明図である。本実施例の燃料電池を製造する際には、まず、発電積層部となる部材(表面に一対の電極および一対のガス拡散層を設けた電解質膜11と、ガス流路形成部14,15)およびガスセパレータ30を用意する(ステップS100)。その後、ガスセパレータ30上に、既述した外周シール部18を形成する(ステップS110)。また、ガスケット16を一体成形するための金型を用意する(ステップS120)。金型は、上型73と下型70とを備えている。下型70は、固定部72と、固定部72に対して摺動する摺動部71とを備えている。また、金型内には、ガスセパレータ30と発電積層部とが丁度嵌り込む凹凸形状が設けられると共に、ガスケット16に対応する形状の空間であるキャビティ80を形成するための凹凸形状が設けられている。
【0039】
次に、下型70に、ガスセパレータ30を配置する(ステップS130)。本実施例では、ガスセパレータ30は、カソード対向プレート31を下方にし、アノード対向プレート32を上方にして、配置される。そして、配置したガスセパレータ30上に、さらに、発電積層部の構成部材を、順次配置する(ステップS140)。
【0040】
図8は、金型内にガスセパレータ30および発電積層部の構成部材を配置した様子を表わす断面模式図である。また、図9は、ガスセパレータ30を配置した下型70の様子を表わす平面図である。図8に対応する位置を、図9において8−8断面として示している。また、図8では、図9に示す8−8断面の内、ガスセパレータ30の外周近傍の様子のみを表わしている。
【0041】
ステップS130では、ガスセパレータ30は、下型70の摺動部71上に配置される。図9に示すように、摺動部71には2つの位置決め凸部76が設けられており、ガスセパレータ30に形成された2つの位置決め孔47を、上記位置決め凸部76に嵌め込むことにより、摺動部71上でガスセパレータ30が位置決めされる。本実施例では、位置決め凸部76およびこれに嵌め込まれる位置決め孔47を、ガスセパレータ30の対角近傍に2つ設けることとしたが、異なる構成としても良い。平面上で、ガスセパレータ30の位置決めが可能であれば良く、異なる位置あるいは異なる数の位置決め孔47および位置決め凸部76を設けても良い。
【0042】
ここで、ガスセパレータ30の製造時には、一般に、その外周の大きさや、位置決め孔47の位置および大きさにおいて、ばらつきが生じ得る。そのため、摺動部71は、ガスセパレータ30よりも一回り大きく形成されている。図9では、摺動部71においてガスセパレータ30の外周からはみ出した部分に、ハッチを付している。このように摺動部71がガスセパレータ30よりも一回り大きく形成されることにより、金型内では、図8に示すように、下型70の固定部72の内壁面と、ガスセパレータ30との間に、空隙81が形成される。
【0043】
金型内に各部材を配置すると、上型73と下型70とを合わせると共に、摺動部71を摺動させることによって所定の型圧で型締めし、射出成形を行なってガスケット16を一体成形する(ステップS150)。ここで、ガスケット16を形成するための射出成形を行なう際に、キャビティ80から上記空隙81内に成形材料が流入すると、流入した成形材料によって、ガスセパレータ30の外周に、成形材料から成るバリが形成されることになる。本実施例では、ガスセパレータ30上に予め外周シール部18を設けることによって、キャビティ80から空隙81への成形材料の流入を抑制している。金型を型締めする際には、上型73の外周部は、下型70の固定部72と接するが、上型73の中ほどの部分は、ガス流路形成部14や、ガスセパレータ30の外周部と接することになる。ここで、ガスセパレータ30上には、ガスセパレータ30の外周および孔部を囲んで外周シール部18が設けられているため、上型73は、外周シール部18を間に介して、ガスセパレータ30と接する。ガスケット16が一体形成される各部材(特にガス拡散層およびガス流路形成部14,15)は、製造時の誤差によって厚みにばらつきが生じ得るが、外周シール部18を弾性材料により形成することで、各部材の厚みにばらつきが生じている場合であっても、外周シール部18によってキャビティ80をシールし、空隙81への成形材料の流入を抑えることができる。なお、本実施例では、射出成形時には、燃料電池を組み立てた際に燃料電池に加えられる締結圧と同じ圧力が、発電積層部およびガスセパレータ30に加えられるように、型締めが行なわれる。すなわち、積層された燃料電池内と同じ圧力が各部材に加えられる状態にして、ガスケット16の一体形成が行なわれる。
【0044】
また、図9に示すように、下型70の固定部72には、キャビティ80内に過剰に投入された成形材料が導かれて溜まる窪みである溜め溝部83が設けられている。さらに、図8に示すように、上型73には、キャビティ80から溜め溝部83へと余分の成形材料を導く通路であるベント部82を形成するための溝構造が形成されている(以下の説明では、上型73に設けた溝構造のこともベント部と呼ぶ)。既述したように、発電積層部を構成する各部材およびガスセパレータ30は、厚みにばらつきが生じ得るため、所定の型圧で型締めしたときのキャビティ80の高さ(形成されるガスケット16における頭頂部までの高さ)は、上記各部材やガスセパレータ30の高さによって変動し得る。そのため、射出成形時には、キャビティ80内の容積が最も大きくなると予想される場合であっても充分量となるように、成形材料がキャビティ80内に投入される。その結果、通常は、投入される成形材料の量が過剰となり、過剰分が溜め溝部83へと排出される。
【0045】
図9に示すように、下型70の固定部72には、ガスセパレータの4辺のそれぞれに沿って、4つの溜め溝部83が形成されている。図10は、上型73に設けたベント部82の位置を、ガスセパレータ30を配置した下型70と重ね合わせて示す平面図である。図10では、下型70およびガスセパレータ30に係る構成は、破線で表わしており、ベント部82は実線で表わしている。上型73には、キャビティ80と各々の溜め溝部83とを短い距離で連通させるベント部82が、分散して複数設けられている。
【0046】
さらに本実施例では、図8に示すように、上型73において流入抑制部75が設けられている。図11は、図10において破線で囲んだ領域Aの様子を拡大して示す説明図である。図11に示すように、流入抑制部75は、ガスセパレータ30の外周に形成される空隙81上の位置であって、各々のベント部82について、各ベント部82を両側から挟む位置に設けられている。既述したように、本実施例では、ガスセパレータ30上に、外周全体を囲んで外周シール部18を設けているため、キャビティ80から空隙81への成形材料の流入が抑制されている。しかしながら、過剰の成形材料を排出するためのベント部82を設けることにより、このベント部82において、成形材料が外周シール部18を乗り越えて空隙81へと流入可能になり得る。本実施例では、空隙81上であってベント部82を両側から挟む位置に流入抑制部75を設けているため、この流入抑制部75によって、ベント部82を介した空隙81への成形材料の流入が抑制される。なお、図8は、ベント部82が設けられた位置における断面図を表わしており、図8では、流入抑制部75については、その側面が表わされている。
【0047】
本実施例では、流入抑制部75は、ガスケット16と同様の弾性材料によって形成して、上型73の所定の位置に予め接着されており、金型を用いた射出成形を繰り返す際に、繰り返して用いられる。また、本実施例では、流入抑制部75は、横断面(図8に表わされた面と平行な面)が直角三角形である三角柱状に形成されており、三角柱の一の側面において上型73に固着されると共に、三角柱の他の側面である斜面によって、金型内に配置されたガスセパレータ30と当接可能に配置されている。
【0048】
ステップS150の射出成形の工程では、例えば成形材料としてゴムを用いる場合には、キャビティ80内へと液状ゴムが投入された後に、加硫工程が行われる。また、射出成形の工程では、成形材料にシランカップリング剤を添加することにより、ガスケット16とガスセパレータ30の接触面における結合力を確保し、ガスケット16とガスセパレータ30とを接着・密着させることとしても良い。射出成形後、型開きすることで、セルアセンブリ10とガスセパレータ30とが一体化した構成単位が得られる。
【0049】
このようにして構成単位を複数作製すると、これらの構成単位を複数積層すると共に、構成単位から成る積層体の両端部に、出力端子を備える集電板と、絶縁性材料から成る絶縁板と、剛性の高いエンドプレートとをさらに積層して組み立てを行なう。そして、組み立てた積層体全体に積層方向に締結圧を加えつつ固定して(ステップS160)、燃料電池を完成する。
【0050】
以上のように構成された本実施例の燃料電池の製造方法によれば、製造に用いる金型において、流入抑制部75を設けているため、金型内でガスセパレータ30の外周に形成される空隙81に対するベント部82からの成形材料の流出を抑制することができる。そのため、このように流出した成形材料に起因するガスセパレータ30の外周におけるバリの形成を抑制することができる。ガスセパレータ30の外周に沿ってバリが形成される場合には、ガスケット16を一体形成した構成単位を作製した後に、上記バリを除去する工程が必要になる。特に、ガスセパレータ30の外周全体にわたって形成されたバリを除去するためには、削り取り等の工程が必要になり、バリを除去する工程は極めて煩雑になり得る。本実施例では、金型に流入抑制部75を設けてバリの形成を抑えているため、煩雑なバリの除去工程を削減し、あるいは不要とすることができるため、燃料電池の製造工程を簡素化することができる。
【0051】
なお、本実施例の金型を用いた場合であっても、ベント部82内に滞留した成形材料によって、ベント部82の位置に対応するバリは発生する。しかしながら、ベント部82は、ガスセパレータ30の外周の限られた位置のみに設けられているため、ベント部82に起因するバリの除去は、空隙81に流入した成形材料に起因してガスセパレータ30の外周全体に形成されるバリの除去に比べて、極めて容易に行なうことができる。そのため、キャビティ80からの過剰な成形材料排出の効率と、ベント部82に対応するバリの除去の手間を考慮して、ベント部82を設ける位置および数を、適宜設定すればよい。
【0052】
また、本実施例では、流入抑制部75を、弾性材料によって形成しているため、流入抑制部75を金型内でガスセパレータ30と接触させつつ型締めするときに、流入抑制部75とガスセパレータ30との間で充分なシール性を実現することができる。そのため、空隙81への成形材料の流入を抑制する効果を高めることができる。また、本実施例では、流入抑制部75を横断面が直角三角形である三角柱状に形成しているため、一の側面において上型73との間の接着強度を確保することができると共に、他の側面である斜面でガスセパレータ30と接することにより、金型内におけるガスセパレータ30との干渉を抑制することができる。さらに、本実施例では、流入抑制部75を、上型73に固着させているため、下型70上にガスセパレータ30等の燃料電池構成部材を配置する際に、流入抑制部75が邪魔になることがない。
【0053】
また、本実施例では、シール部16を、ガスセパレータ30および発電積層部と一体形成するため、燃料電池の組み立て工程を簡素化することができる。すなわち、シール部16を、ガスセパレータ30に加えて、燃料電池内で一対のガスセパレータ間に配置される電解質膜を含む全ての部材と一体形成して構成単位を作製しているため、この構成単位を積層する動作を繰り返すことにより、容易に燃料電池を組み立てることが可能になる。
【0054】
また、本実施例では、外周シール部18を、各々のガスセパレータ30上に設けているため、射出成形時に金型に加えられる熱に起因する外周シール部18の劣化が、外周シール部18に蓄積することがない。ただし、劣化に応じて外周シール部18を交換する工程を許容するならば、外周シール部18を、ガスセパレータ30上ではなく、流入抑制部75と同様に上型73に予め固着させておいても良い。この場合には、複数回の射出成形の動作の間、同じ外周シール部18を繰り返し用いることができる。
【0055】
なお、流入抑制部75については、ベント部82から空隙81への成形材料の流入を抑制できればよいため、ある程度の劣化は許容して、上型73に固着させることによって繰り返し使用を可能にすることによる製造工程の簡略化を図っている。すなわち、流入抑制部75の劣化に起因して、ベント部82から空隙81へと成形材料が僅かに流入したとしても、このような僅かな流入に起因するバリは、ベント部82に起因するバリと一体で容易に除去できるため、製造工程をほとんど煩雑化しないものとして許容している。
【0056】
また、このような流入抑制部75は、下型70に固着させることとしても良い。流入抑制部75を上型73に設ける場合には、流入抑制部75は、空隙81上の位置であって、各々のベント部82を両側から挟む位置に2つずつ設けたが、下型70に設ける場合には、空隙81においてベント部82と重なる位置に1つずつ設けることとしても良い。流入抑制部75を下型70に設ける場合にも、流入抑制部75を繰り返し用いることが可能になる。また、ガスセパレータ30などの燃料電池構成部材を金型内に配置する際に、空隙81におけるベント部82に対応する位置に、流入抑制部75を配置する工程を行なうことを許容するならば、流入抑制部75は、射出成形の度に、空隙81の所定の位置に配置することとしても良い。
【0057】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0058】
C1.変形例1:
実施例では、流入抑制部75は、弾性材料から成る部材(ゴム弾性を有する部材)から成ることとしたが、異なる構成としても良い。例えば、ゴム弾性を有しない樹脂により流入抑制部75を構成することができる。あるいは、金属によって流入抑制部75を構成しても良い。ゴム弾性を示さず、より硬い部材によって流入抑制部75を構成する場合には、金型内のガスセパレータ30と干渉しないように、流入抑制部75を充分に小さく形成すればよい。このような構成としても、ベント部82を介した空隙81への成形材料の流入を抑制することにより、ガスセパレータ30の外周におけるバリの形成を抑える同様の効果が得られる。
【0059】
また、流入抑制部75は、ベント部82を挟む位置において、空隙81への成形材料の流入を抑制できる形状であればよいが、特に、形状に誤差を有するガスセパレータ30と干渉し難い形状とすることが望ましい。実施例では、ガスセパレータ30と接する面が斜面となる横断面直角三角形状の三角柱状としたが、例えば、ガスセパレータ30と接する面が斜面となる横断面二等辺三角形状の三角柱状としても良い。この場合には、二等辺三角形の底辺に対応する側面において、上型73に固着させることができる。
【0060】
C2.変形例2:
実施例では、ガスケット16を、ガスセパレータ30および発電積層部と一体成形したが、異なる構成としても良い。例えば、シール部を、ガスセパレータとのみ一体形成しても良い。このような場合には、例えば、シール部を一体形成した一組のガスセパレータを、シール部同士が対向するように重ねると共に、間に電解質膜及び電極を含む部材を配置しつつ、対向するシール部の頭頂部によって電解質膜を挟むことによって、燃料電池を構成することができる。このような場合に、ガスセパレータは、例えば、セル内ガス流路を形成するための凹凸が表面に形成された形状としても良い。
【0061】
また、両面に電極を形成した電解質膜のみを、シール部と一体形成しても良い。あるいは、電極を形成した電解質膜をガス拡散層で挟んだ積層構造を、シール部と一体形成しても良い。あるいは、上記積層構造を、さらにガス流路形成部で挟んだ構造を、シール部と一体形成しても良い。このような場合には、シール部と一体化された電解質膜を含む部材を、さらに必要な部材を介在させつつ、一対のガスセパレータで挟むことによって、燃料電池を構成することができる。
【0062】
また、実施例のように、ガスセパレータおよび電解質膜を含む部材をシール部と一体形成する場合に、ガスセパレータと接しない露出面側のガス流路形成部(実施例では、ガス流路形成部14)は、シール部とは別体で用意して、燃料電池を組み立てても良い。あるいは、シール部と一体化するガス拡散層とガス流路形成部とを、一体で設けても良い。ガス拡散層は、ガス流路形成部よりも平均細孔径が小さな多孔質体によって構成することで、ガス流路形成部と電極との間の集電性を高めることができると共に電解質膜を保護することもできるが、ガス流路形成部の構成材料や気孔率によっては、ガス拡散層を設けず、両者を一体としても良い。
【0063】
このように、シール部と一体化する部材は、積層されることによって燃料電池を構成する薄板状部材である燃料電池構成部材であればよい。より多くの部材をシール部と一体形成することにより、燃料電池の組み立ての動作を容易化することが可能になる。いずれの場合であっても、本願を適用して流入抑制部を設けることにより、一体形成する対象となる燃料電池構成部材と金型内壁面との間の空隙への成形材料の流入を抑制できるので、実施例と同様の効果が得られる。
【0064】
C3.変形例3:
実施例では、ガスケット16は、隣り合うガスセパレータ30間に配置されてセル内酸化ガス流路およびセル内燃料ガス流路をシールしているが、異なる構成としても良い。例えば、ガスセパレータを、実施例のようなガスマニホールドとセル内ガス流路を接続する流路が内部に形成された三層構造セパレータではなく、一方の面上でセル内ガス流路を形成し、他方の面上でセル間冷媒流路を形成するガスセパレータとする。そして、隣接するガスセパレータ間に配置されるシール部であって、上記セル間冷媒流路をシールするシール部を、ガスセパレータと一体で形成しても良い。このような場合にも、シール部とガスセパレータとを一体形成する際に本願を適用することで、同様の効果が得られる。
【0065】
C4.変形例4:
実施例では、余分な成形材料をキャビティ80から溜め溝部83へと導くベント部82を上型73側に設けたが、下型70側に設けても良い。このように、ベント部82となる溝構造を下型70に設ける場合には、キャビティ80からベント部82への成形材料の流入を許容するように、ガスセパレータ30の外周に設ける外周シール部18の形状を、ベント部82に対応する部分のみ途切れた形状とすればよい。
【0066】
C5.変形例5:
実施例では、燃料電池は固体高分子型燃料電池としたが、異なる種類の燃料電池であっても良い。例えば、固体酸化物電解質型燃料電池とすることができる。シール部の構成材料を、ゴムや熱可塑性エラストマーなどの弾性材料から適宜選択可能な運転温度を示す燃料電池であれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…セルアセンブリ
11…電解質膜
12…電極
13…ガス拡散層
14,15…ガス流路形成部
16…ガスケット
17…凸部
18…外周シール部
30…ガスセパレータ
31…カソード対向プレート
32…アノード対向プレート
33…中間プレート
40〜45…孔部
47…位置決め孔
50…酸化ガス排出スリット
51…酸化ガス供給スリット
53…燃料ガス排出スリット
54…燃料ガス供給スリット
55〜58…連通部
59…冷媒孔
70…下型
71…摺動部
72…固定部
73…上型
75…流入抑制部
76…位置決め凸部
80…キャビティ
81…空隙
82…ベント部
83…溜め溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池構成部材に対してガスケットを一体で成形するための燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記ガスケットに対応する形状であって、前記ガスケットの成形材料を投入可能なキャビティと、
前記キャビティと連通して設けられ、前記キャビティに対して過剰に投入された前記成形材料を前記キャビティ外に導く通路であるベント部と、
が形成されており、
前記金型内に配置された前記燃料電池構成部材と前記金型の内壁面との間に生じる空隙に対する、前記ベント部からの前記成形材料の流入を抑制するように、前記金型の内壁面に設けられた流入抑制部を備える
燃料電池用ガスケット成形金型。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記流入抑制部は、弾性材料によって形成されている
燃料電池用ガスケット成形金型。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記金型は、上型と、前記ガスケットの成形時に前記燃料電池構成部材が所定の位置に配置される下型と、を備え、
前記流入抑制部は、前記上型に固着されている
燃料電池用ガスケット成形金型。
【請求項4】
請求項3記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記流入抑制部は、三角柱状に形成されており、前記三角柱の一の側面において前記上型に固着されると共に、前記三角柱の他の側面である斜面によって、前記金型内に配置された前記燃料電池構成部材と当接可能に配置されている
燃料電池ガスケット成形金型。
【請求項5】
請求項3または4記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記ベント部は、前記上型に設けられた溝によって形成され、
前記流入抑制部は、前記空隙を塞ぐ位置であって、前記ベント部を形成する溝を両側から挟む位置に設けられている
燃料電池ガスケット成形金型。
【請求項6】
請求項3ないし5いずれか記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記上型は、前記燃料電池構成部材上において前記燃料電池構成部材の外周に沿って設けられた外周シール部に当接可能に設けられている
燃料電池ガスケット成形金型。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記燃料電池構成部材は、ガスセパレータを含み、
前記ガスケットは、前記ガスセパレータの面上に形成され、
前記空隙は、前記ガスセパレータと前記金型の内壁面との間に生じる空隙である
燃料電池用ガスケット成形金型。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池用ガスケット成形金型であって、
前記ガスセパレータは、燃料電池における電気化学反応に供されるガスが流れるマニホールドを形成するための孔部が形成されると共に、前記ガスセパレータの内部には、前記ガスセパレータ上に形成される前記ガスの流路と前記マニホールドとを連通させる連通流路と、冷媒流路が形成され、
前記燃料電池構成部材は、さらに、電極を備える電解質膜と、前記電解質膜を挟持するように配置されて、前記ガスセパレータ上で前記ガスの流路を形成する多孔質体であるガス流路形成部と、を備え、
前記金型は、前記ガスケットとして、前記ガスセパレータと面で接触しつつ一体化すると共に、前記燃料電池の内部において前記ガスセパレータと隣り合うガスセパレータと接する高さのシール用凸部が形成されたガスケットを成形する
燃料電池用ガスケット成形金型。
【請求項9】
所定の金型を用いて、燃料電池構成部材に対してガスケットを一体で成形する燃料電池用ガスケットの製造方法であって、
前記金型は、
前記ガスケットに対応する形状であって、前記ガスケットの成形材料を投入可能なキャビティと、
前記キャビティと連通して設けられ、前記キャビティに対して過剰に投入された前記成形材料を前記キャビティ外に導く通路であるベント部と、
が形成されており、
前記金型内に前記燃料電池構成部材を配置する工程と、
前記金型内に配置された前記燃料電池構成部材と前記金型の内壁面との間に生じる空隙に対する、前記ベント部からの前記成形材料の流入を抑制するように、前記金型内に流入抑制部を配置する工程と
を備える燃料電池用ガスケットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−16877(P2012−16877A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155407(P2010−155407)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】