説明

燃料電池用ガス拡散層

【課題】カーボン多孔質材料からなる燃料電池のガス拡散層を煩雑な製造工程を経ることなく提供する。
【解決手段】植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2800℃の熱処理温度で炭素化したカーボン材料を用いてなる空孔率30〜90%、繊維径0.1〜30μmの燃料電池用ガス拡散層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン多孔質材料からなる燃料電池用ガス拡散層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池において触媒層はガス反応が進行するために不可欠な材料である。これは、白金などの触媒粒子をカーボンブラックのような高比表面積を有する粉末表面に担持して得られた燃料電池用触媒を、水素イオン導電体である高分子電解質膜(例として、米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜等が挙げられる)と、反応ガス(水素や空気中酸素)が供給されるガス拡散層との界面に設置したものであり、この場所で水素ガス(その他にもメタノールなどの燃料が用いられることもある)の酸化反応、あるいは酸素ガスの還元反応が進行し、外部回路との間で電子をやりとりすることで発電が行われる。この際に触媒層を固定するものが、ガス拡散層を兼ねるシート状のカーボン多孔質材料であり、「カーボンクロス」、「カーボンペーパー」等とも呼ばれる材料である。
【0003】
燃料電池システムは「単セル」と呼ばれる1個1個のユニットが積層されてできているが、高分子電解質膜と触媒層及び支持体である上記カーボン多孔質材料(ガス拡散層)が組み合わさったものは「膜・電極接合体」と呼ばれ、1個1個の単セルユニットの重要な構成要素である。即ち、膜・電極接合体は水素極(あるいは燃料極)および空気極の触媒層が構成される基本となるものであり、カーボン多孔質体は高分子電解質膜の両側から触媒層を挟み込んで膜・電極接合体を形作る不可欠な材料である。このカーボン多孔質体は、ガスを多孔質内に透過、拡散させ、触媒層と接触させるような微細な空孔を内部に所定の比率で有しており、また、膜・電極接合体とするうえで必要な強度を有するものでなければならない。現在、市場に出回っているカーボン多孔質材料は、このような構造、強度とするため、合成ポリマー(PAN系)繊維を高温炭素化して得られた炭素繊維を短く切り、バインダーを用いて不織布状にするという、煩雑な製造工程を経て生産されている。この例として、市販品のカーボンペーパーなどがある。このような製造方法では、カーボン多孔質材料の厚さや空孔率の制御なども難しく、また、製造工程が複雑であるため製造コストがかかるという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質のフィルムまたはシート、例えば、わが国において、古来から製造技術が確立された和紙などを原料として、これを炭素化することによって、カーボン多孔質材料からなる燃料電池のガス拡散層を煩雑な製造工程を経ることなく提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は先に、楮、三椏、雁皮、竹、コットン、麻、レーヨン等のセルロース系繊維から得られた紙等を原料とし、これを化学的な処理(ドーピング)した後、炭素化することでフィルム状又はシート状で、しかも高い炭素収率のカーボン材料を得る技術を確立した。更に上記問題点を解消するために、上記フィルム又はシート状カーボン材料を燃料電池の膜・電極接合体におけるガス拡散層に応用することについて鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、上記課題は、以下の発明により解決される。
(1)植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2800℃の熱処理温度で炭素化したカーボン材料を用いてなる空孔率30〜90%、繊維径0.1〜30μmの燃料電池用ガス拡散層。
(2)植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質が、楮、三椏、雁皮、竹、コットン、麻、レーヨン及びキュープラからなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする(1)に記載の燃料電池用ガス拡散層。
(3)前記カーボン材料を2種以上貼り合わせてなることを特徴とする(1)または(2)に記載の燃料電池用ガス拡散層。
(4)植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2800℃の熱処理温度で炭素化したカーボン材料を用いてなる空孔率30〜90%、繊維径0.1〜30μmのカーボン多孔質材料。
(5)植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにあらかじめ燃料電池用触媒前駆体を担持含浸させ、ハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2000℃の熱処理温度で炭素化すると同時に触媒を固定して得られる、燃料電池用触媒層。
(6)(1)〜(3)のいずれか1項に記載された燃料電池用ガス拡散層に燃料電池触媒を固定してなる触媒層付きガス拡散電極。
(7)(5)に記載の燃料電池用触媒層を有してなる触媒層付きガス拡散電極。
(8)(6)または(7)に記載の触媒層付きガス拡散電極をイオン伝導性高分子電解質膜と接合してなる、膜・電極接合体。
(9)植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにあらかじめ燃料電池用触媒前駆体を担持含浸させ、ハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2000℃の熱処理温度で炭素化すると同時に触媒を固定したのち、微粒子化して得られる燃料電池燃料極または空気極用触媒担体粒子。
なお、本発明における「空孔率」は紙においては空隙率と同義である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の燃料電池用ガス拡散層は、紙やフィルムなどのセルロース系物質のフィルムまたはシートを原料とすることで最終製品のコストを大幅に抑えることができ、しかも、例えば和紙の場合、素材の選択や、紙を漉く際の条件をコントロールすることで炭素化後の燃料電池用ガス拡散層の有するガス透過性(空孔率)を簡便に制御することが可能である。また、各種の植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質の素材の混合も可能であるので、各種の必要な仕様を満たす製品が低コストで生産できるものである。和紙等のセルロース系物質の有する空孔の形状は、炭素化したときに燃料電池用ガス拡散層とするのに好適であり、かつ、良好な強度を有する。
したがって、この燃料電池用ガス拡散層により、水素・空気燃料電池のみならず、ダイレクトメタノール型燃料電池、ダイレクトエタノール型燃料電池やダイレクトギ酸型燃料電池に用いることができる廉価な燃料電池用膜・電極接合体を製造することができ、生産コストを抑えた燃料電池を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で使用した炭素化前の和紙雁皮(左)と、炭素化したカーボン多孔質材料の燃料電池用ガス拡散層No.2(右)のSEM像(50倍)である。
【図2】市販のカーボンペーパーのSEM像(50倍)である。
【図3】実施例2で行った膜・電極接合体の発電試験結果を示すグラフである。
【図4】実施例2で作製した燃料電池の構成を模式的に示す説明図であり、(A)はカーボンブロックの平面図における燃料電池ガス流路を示す説明図、(B)はガス流路及び膜・電極接合体の断面図であり、(C)はガス流路及び膜・電極接合体の層構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用する植物セルロース系及び/又は再生セルロース系物質(以下、「セルロース系物質」と称する)とは、いわゆる樹木などの高等植物によって生産され一般的な植物セルロース系物質と、綿やパルプから採取される短い繊維状セルロースに化学処理を施して溶解させて得られる長い繊維状の再生セルロース系物質とのいずれか一方、または双方を意味する。本発明で用いることのできるセルロース系物質としては特に制限はない。形状としては、フィルム又はシート(紙を含む)のものを用いる。紙などのあらかじめシート状に加工された原料を用いることで、新たにバインダーを用いて処理する工程を必要とせず、また、原料の性状を選択することで、製造方法を変えることなく厚みや空孔率などを容易に制御できる。
【0010】
本発明の燃料電池用ガス拡散層とこれに用いることのできるカーボン多孔質材料は、燃料電池の単セルユニットにおいて良好に機能するために0.1〜30μmの繊維幅のフィブリル構造を有する。ここでいう繊維幅は走査電子顕微鏡観察で測定したものである。繊維長は、原材料の選択によってほぼ定まる。また、ガス拡散するため空孔率は30〜90%である。
【0011】
本発明で用いることのできるセルロース系物質の素材としては炭素化後の強度、空孔率などの点からみて、楮、三椏、雁皮、竹、コットン、麻、レーヨン及びキュープラからなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。それらのシート、例えば和紙はわが国古来からの製造技術によって、手漉きあるいは機械漉きされたものであり、炭素化後の燃料電池用ガス拡散層(カーボン多孔質材料)に要求される条件を満たすため、製造段階における条件が種々選ばれる。
用いる和紙は、必要に応じてアルカリ処理および漂白処理を行った上記セルロース系原料繊維を繊維叩解機(ビーター機)によりフィブリル化を行った後、粘性を付与した水中に分散し、その後、抄紙用の抄き網により濾過して得たシートを乾燥させて作製する。
このとき用いる原料繊維の種類や叩解の度合で、繊維形状やフィブリル化の程度を変えることが出来るので、所定の空孔率を持った和紙を調製することができる。
【0012】
本発明で用いるセルロース系物質のシートまたはフィルムの厚さは特に限定されないが、炭素化後に寸法が約20〜30%減少することを考慮して、0.1mm〜4mmの範囲であることが好ましく、さらに最終製品に要求される強度の観点から0.3mm〜3mmの範囲であることがより好ましい。すなわち、炭素化後の燃料電池用ガス拡散層及びカーボン多孔質材料の厚みとしては、0.05mm〜3.5mmであることが好ましく、0.2mm〜2mmであることがより好ましい。
【0013】
本発明においては、炭素化する前に、上述のセルロース系物質にハロゲンまたはハロゲン化物のドーピング処理を施す。ハロゲンとしてヨウ素を、またハロゲン化物として臭化ヨウ素を好適に使用することができる。ハロゲンまたはハロゲン化物の吸収量は質量%として1〜10%であることが好ましく、さらに炭素化収率等の観点から3〜6%であることがより好ましい。
【0014】
本発明でセルロース系物質を炭素化する際の熱処理条件は、500℃〜2800℃の範囲で行い、最終製品に要求される炭素構造の観点から800℃〜1500℃の範囲であることが好ましい。熱処理は不活性ガス雰囲気下で行う。
【0015】
本発明でセルロース系物質を炭素化する際、室温から熱処理温度まで昇温する昇温速度は4℃/分〜8℃/分であり、良好な炭素化状態を得るためには、5℃/分〜7℃/分がより好ましい。熱処理時間は、0.5時間〜2時間の範囲であることが好ましく、最終製品に要求される炭素構造の観点から0.5時間〜1時間の範囲であることがより好ましい。
【0016】
また、異なる複数種のカーボン多孔質材料を貼り合わせて用いることによって、厚さ方向の空孔率等をコントロールした燃料電池用ガス拡散層とすることも可能である。例えば、ガス供給側には空孔率の高いカーボン多孔質材料を選ぶことによってガスの供給を促進し、高分子電解質膜側には触媒層との接着性に優れたカーボン多孔質材料を選ぶことによって、それを用いた膜・電極接合体の耐久性を高めるなど、必要に応じて種々の組み合わせを選択することができる。
貼り合わせは例えばガスの透過を妨げないように、物理的な擦り合わせまたは圧着によって行うことができる。
本発明の燃料電池用ガス拡散層(カーボン多孔質材料)は、燃料電池用の膜・電極接合体を製造するときのホットプレスなどの押圧にも耐えうる強度を有する。プレスしてもシートまたはフィルムの形状を保持し、かつ、多孔質の繊維構造を維持することができるものである。
【0017】
本発明の燃料電池用ガス拡散層に燃料電池触媒を固定する前処理としては、あらかじめ撥水処理を施すことが好ましい。加湿用水蒸気あるいは空気極で発生した水蒸気が燃料あるいは酸素ガス拡散性を阻害するのを防ぐためである。この目的のために「PTFEエマルション水溶液」(例えばダイキン社製、商品名:POLYFLON PTFE等)に浸漬し、乾燥後空気中電気炉で300〜400℃の温度条件で熱処理する等の方法を用いることができる。
【0018】
本発明の燃料電池用ガス拡散層に燃料電池触媒を固定する方法としては、既知の任意の方法を用いることができる。即ち、白金担持カーボンブラック触媒を、イオノマー溶液(例えば市販品として、5質量%のNafion(商品名、デュポン社製)溶液に代表されるものがある)及びアルコール溶媒とともに混合しインク状の溶液とした後、スプレー法、塗布法、スクリーン印刷法等により燃料電池用ガス拡散層の片面に固定する等の方法を用いることができる。これを触媒層付きガス拡散電極として用いることができる。
なお、燃料電池触媒としては白金に限られることはなく、白金族系金属あるいは白金・ルテニウム、白金・モリブデン合金触媒等、コバルト及び鉄ポルフィリン、フタロシアニン等の金属錯体触媒、遷移金属酸化物、カーバイド、窒化物等の無機化合物触媒を適宜用いることができる。
【0019】
また、セルロース系物質にあらかじめ燃料電池用触媒前駆体を担持含浸させ、これを上記の方法で炭素化すると同時に固定化することによって燃料電池用触媒層を製造できる。
例えば白金テトラアンミンクロライド、ニトロソアンミン白金、白金アセチルアセトナート、塩化白金酸等、白金触媒の前駆体を適当な溶媒(エタノール、テトラヒドロフラン、水等)に溶解させたものを、セルロース状物質に吸い取り紙のような作用を用いて吸収させる、あるいは触媒を担持させたカーボン微粒子(「白金担持カーボン」と呼ばれる市販の触媒粉等がある)をアルコール、水等、適当な液体に分散させ、濾紙の作用を用いて濾過することでセルロース状物質の片側のみに担持させる、等の方法が考えられる。なお、この触媒は、白金に限られることはなく、他の金属、合金触媒、錯体触媒、無機化合物触媒等、様々な触媒を用いることができるのはいうまでもない。
このときの上記触媒含浸量は、例えば最終触媒量として0.1〜1mg/cm等、目的に応じて種々選ぶことができる。また、炭化条件は、セルロース系物質を炭素化する際の熱処理条件(500℃〜2800℃)を考慮するのはもちろんであるが、触媒前駆体の熱処理生成及び合成条件に応じて、500℃〜2000℃を選ぶなどの工夫も適宜なされるべきである。
これを上記ガス拡散層と貼り合わせることで、触媒層付きガス拡散電極とすることもできる。
【0020】
本発明の燃料電池用ガス拡散層は膜・電極接合体として通常の燃料電池に用いることができる。即ち、上記で得られた触媒付きガス拡散電極を、イオン伝導性高分子電解質膜(例えば市販品として、各種仕様のNafion(商品名、デュポン社製)膜がある)の両面に、触媒層側を膜に接触するようにした後、ホットプレス法等により圧着する等の方法を用いることができる。ホットプレスの条件は、温度120〜140℃、圧力80〜120kg/cm、ホットプレス時間1〜5分等、目的に応じて選択することができる。
【0021】
本発明の燃料電池は、上記本発明の膜・電極接合体を用いたものであり、水素・酸素燃料電池、水素・空気燃料電池のほか、ダイレクトメタノール型燃料電池、ダイレクトエタノール型燃料電池、ダイレクトギ酸型燃料電池があげられる。
【0022】
本発明によれば、和紙のようなわが国で古来から製造技術が確立された高強度のセルロース系物質を、そのまま上記のようにして炭素化することで、繊維をカットしたりバインダーなどを使用したりする煩雑な製造工程を経ることなく、燃料電池用ガス拡散層として使用しうるカーボン多孔質材料を得ることができ、燃料電池の低コスト化が実現できる。本発明の燃料電池用ガス拡散層は、良好なガス透過性、拡散性を有する多孔質構造と、適度な強度を有する。例えば和紙を用いた場合、和紙の有する微細なフィブリルの凝集構造に基づく多孔質性が、本発明においては、ほぼそのまま維持されて炭素化され、燃料電池用ガス拡散層となるためである。
したがって、この燃料電池用ガス拡散層は、これまでの合成高分子を原料とした「カーボンペーパー」、「カーボンクロス」等の燃料電池用ガス拡散層材料に代わる、極めて廉価で、しかも有用なものである。
【0023】
さらに本発明によれば、和紙をカーボン多孔質材料とできるが、和紙を製造する段階、すなわち、紙を漉く際の条件を種々コントロールするなど、原料のセルロース系物質を選択することもでき、任意の空孔率を有する燃料電池用ガス拡散層が提供される。そしてこれらを貼り合わせることによって、ガス層と高分子電解質膜の間で任意の空孔率分布を有するガス拡散層を形成できる。また、触媒をあらかじめ和紙等セルロース系物質の片面に固定し、炭化加工する際の熱処理炉の中で一挙に「触媒層付きカーボン多孔質材料」を製造することもでき、これを触媒層付きガス拡散電極として用いることができる。
【0024】
本発明のカーボン多孔質材料は、燃料電池用ガス拡散層以外の材料としても用いることができる。即ち、上記で得られたカーボン多孔質材料を、磨りつぶすなどして粉末化し、これをカーボンブラック等の代わりに触媒の担体粒子として用いることもできる。この際の粒度等は、粒子径20〜100nm、比表面積50〜500cm/g、嵩密度0.2〜0.6g/cm等、目的に応じて選択することができる。
【0025】
上記触媒の担体粒子を作製するに際しては、いったん作製したカーボン多孔質材料を磨りつぶすなどして粉末化し、その後白金などの触媒を担持する方法以外にも次の方法が考えられる。即ち、和紙などの原料にあらかじめ触媒の前駆体を含浸吸着させておき、最後に電気炉で炭素化する際に一挙に触媒担体カーボン多孔質材料を得、その後に粉砕し微粒子化するものである。この際の触媒担持量は、目的に応じて種々選択することができるが、例えば10〜50質量%である。触媒担体カーボン多孔質材料の作製は、上記燃料電池用触媒層の作製方法と同様である。
上記担体粒子は、燃料電池燃料極、あるいは空気極触媒担体材料として用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0027】
実施例1
雁皮を原料とした和紙をヨウ素で化学的処理後、電気炉を用いて、アルゴンガス雰囲気中、800℃で炭素化して燃料電池用ガス拡散層となるカーボン多孔質材料(No.2)を得た。炭素化により、元の和紙よりも面積が収縮した。図1の左側に雁皮和紙の50倍に拡大した走査電子顕微鏡(SEM)写真、その右側に、カーボン多孔質材料の、同じく50倍に拡大したSEM写真を示す。図1からわかるように、炭素化後も、元の和紙に存在する繊維構造が残り、最適のガス透過性を有する構造であることが分かる。
また、セルロース系物質の条件を変えてカーボン多孔質材料No.1、3、4を得た。セルロース系物質と得られたカーボン多孔質材料の各種物性を、市販のカーボン多孔質片であるカーボンペーパーとともに表1に示す。
なお、カーボン多孔質材料No.1〜4は、実施例2に示すように、ホットプレスして燃料電池用膜・電極接合体とするのに十分な強度を有しており、割れや破損、繊維構造の破壊などを生ずることなく燃料電池のガス拡散層として良好に使用することができるものであった。
【0028】
【表1】

【0029】
比較例1
市販のカーボン多孔質片である、カーボンペーパーの走査電子顕微鏡写真を図2に示す。図1と比較すると、本発明のカーボン多孔質材料は、PAN系ポリマー繊維を炭素化して得られた炭素繊維から作製したカーボンペーパーと類似の微細組織を有することが分かった。
【0030】
実施例2
実施例1で作製した、カーボン多孔質材料にPTFEによる撥水処理を施し、白金担持カーボン触媒(ElectroChem社製20wt%Pt/Vulcan)とNafion(商品名、デュポン社製)溶液から作製したインクを塗布した。触媒層の白金量は、0.25mg/cmであった。これを2枚用意し、Nafion115(商品名、デュポン社製)膜を挟んで触媒が膜に接するようにして水素極及び空気極を構成し、135℃,100kg/cm、3分間の条件でホットプレスすることにより、膜・電極接合体を得た。
図4(B)は、作製したガス流路と膜・電極接合体の燃料極または空気極のみを断面図で示す説明図である。ガス拡散層3と高分子電解質膜5を触媒層4を挟んで接着させた膜・電極接合体を、ガスチャンネル2を有するカーボンブロック1と接するように構成されている。図4(A)は、図4(B)においてガスチャンネル2で示す燃料電池ガス流路を、カーボンブロック1の上面から見たときの全体を示す説明図である。図4(A)中のインレット(inlet)の矢印方向にガスが流入し、アウトレット(outlet)の矢印方向へガスが流出する。このガス流路と膜・電極接合体の層構成を図4(C)に示した。ガスチャンネルを有するカーボンブロック1と、触媒層を介して接着されるガス拡散層3と高分子電解質膜5が、図4(C)のように積層されてなる。ガス拡散層3は、ガスチャンネル2からガスを透過、拡散して触媒層4に接触させる。ガス拡散層3は単にガスを透過させるだけでなく、このように触媒層4にガスを接触させ、反応させるのに適した構造の多孔質体である必要がある。
これを燃料電池単セルに組み込んで、発電試験を行い得られた分極曲線を図3に示す。本発明のカーボン多孔質材料からなる燃料電池用ガス拡散層を用いて得られた膜・電極接合体は、開回路電圧0.9V以上、内部抵抗200mΩcm以下の特性を示すと同時に、広い電位範囲にわたって発電を維持し、良好な分極特性を示すことが分かる。
【0031】
実施例1で作製したカーボン多孔質材料No.1〜4からなる燃料電池用ガス拡散層を用いて得られた膜・電極接合体による発電試験結果を、市販カーボンペーパーによる結果とともに表2に示す。これらのカーボン多孔質材料No.1〜4は燃料電池用に作製したものではなく、「和紙」製品を加工することなくそのまま原料として使用したものであるが、いずれも開回路電圧0.93V以上を示し、また最大電流密度0.35A/cm、0.07W/cm以上の出力を示すものもあって、本発明の優れた効果を証明するものである。
即ち、本発明のカーボン多孔質材料からなる燃料電池用ガス拡散層を用いて得られた膜・電極接合体は、通常の和紙を原料とし、煩雑な製造工程を経ることなく製造された製品であっても、良好な発電特性を示すことが分かる。
【0032】
なお、燃料電池発電試験は次のように行った。
(水素及び酸素ガス)
燃料極側ガス:H 50mL/min、60℃加湿
空気極側ガス:O 100mL/min、60℃加湿
(燃料電池セル)
電極面積4cmの単セル(ElectroChem社製)を用い、セル温度70℃に保ち、0.12V/minの速度で電位走査することによって、分極曲線を得た。また、カレントインタラプター法によりiR補償を行った。
【0033】
【表2】

【符号の説明】
【0034】
1 カーボンブロック
2 ガスチャンネル
3 ガス拡散層
4 触媒層
5 高分子電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2800℃の熱処理温度で炭素化したカーボン材料を用いてなる空孔率30〜90%、繊維径0.1〜30μmの燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質が、楮、三椏、雁皮、竹、コットン、麻、レーヨン及びキュープラからなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記カーボン材料を2種以上貼り合わせてなることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2800℃の熱処理温度で炭素化したカーボン材料を用いてなる空孔率30〜90%、繊維径0.1〜30μmのカーボン多孔質材料。
【請求項5】
植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにあらかじめ燃料電池用触媒前駆体を担持含浸させ、ハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2000℃の熱処理温度で炭素化すると同時に触媒を固定して得られる、燃料電池用触媒層。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された燃料電池用ガス拡散層に燃料電池触媒を固定してなる触媒層付きガス拡散電極。
【請求項7】
請求項5に記載の燃料電池用触媒層を有してなる触媒層付きガス拡散電極。
【請求項8】
請求項6または7に記載の触媒層付きガス拡散電極をイオン伝導性高分子電解質膜と接合してなる、膜・電極接合体。
【請求項9】
植物セルロース系物質及び/又は再生セルロース系物質からなるフィルムまたはシートにあらかじめ燃料電池用触媒前駆体を担持含浸させ、ハロゲンまたはハロゲン化物をドーピングし、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2000℃の熱処理温度で炭素化すると同時に触媒を固定したのち、微粒子化して得られる燃料電池燃料極または空気極用触媒担体粒子。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−113768(P2011−113768A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268159(P2009−268159)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 高分子学会 「第18回ポリマー材料フォーラム 講演予稿集」、平成21年11月11日発行(平成21年11月26日「第18回ポリマー材料フォーラム」にて文書をもって発表したことを証明する書面を証明書として添付していますが、本願の出願日は学会発表より前の平成21年11月25日であり、上記平成21年11月11日発行の刊行物への発表について発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けようとするものであって、学会発表に関して発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けようとするものではありません。)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(508167966)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【出願人】(509325282)株式会社つくば燃料電池研究所 (1)
【Fターム(参考)】