説明

物性測定装置、物性測定方法、薄膜基板製造システム及びプログラム

【課題】基板表面に形成した薄膜の物性を非破壊かつ高精度で測定することができる物性測定装置、物性測定方法、薄膜基板製造システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】基板K表面に形成された薄膜Hの物性を測定する物性測定装置において、テラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生源と、基板K表面に薄膜Hが形成された成膜領域F及び該基板K表面に薄膜Hが形成されていない非成膜領域Nに、テラヘルツ波発生源からのテラヘルツ波が照射されるように、基板K及び薄膜Hを移動する移動手段と、成膜領域F及び非成膜領域Nからの透過波又は反射波の電場強度を複数回検出する検出手段と、検出手段が複数回検出した透過波又は反射波の電場強度を積算する積算手段と、積算手段が積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定する測定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の物性を非破壊で測定する物性測定装置、物性測定方法、薄膜基板製造システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子開発の進展に伴い、新規膜材料の開発が進んでいる。このような新規膜材料を評価する上で、新規膜材料の物性を決定する必要がある。しかし、多くの新規膜材料は入手困難であり、かつ高価であるため、膜材料を破壊して行われる物性測定は敬遠されている。そこで、特許文献1には、非破壊で膜材料の電気的特性を測定するテラヘルツ分光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−98634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のテラヘルツ分光装置は、測定値のSN比が小さく、測定精度が低い。そのため、高精度の測定値を得るためには、装置上の工夫が必要である。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、基板表面に形成した薄膜の物性を非破壊かつ高精度で測定することができる物性測定装置、物性測定方法、薄膜基板製造システム及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る物性測定装置は、基板表面に形成された薄膜の物性を測定する物性測定装置において、テラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生源と、基板表面に薄膜が形成された成膜領域及び該基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域に、前記テラヘルツ波発生源からのテラヘルツ波が照射されるように、該基板及び薄膜を移動する移動手段と、前記成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を複数回検出する検出手段と、該検出手段が複数回検出した透過波又は反射波の電場強度を積算する積算手段と、該積算手段が積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定する測定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本願に係る物性測定装置は、前記移動手段は、前記成膜領域及び非成膜領域に、テラヘルツ波が交互に照射されるように、前記基板及び薄膜を移動するようにしてあり、前記検出手段は、前記電場強度を交互に複数回検出するようにしてあり、前記積算手段は、前記検出手段が交互に複数回検出した前記電場強度を積算するようにしてあることを特徴とする。
【0008】
本願に係る物性測定装置は、前記測定手段が測定した時間変化に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の透過率又は反射率を算出する第一算出手段と、前記薄膜の膜厚を受け付ける膜厚受付手段と、前記基板の複素屈折率を受け付ける基板屈折率受付手段と、前記薄膜の複素屈折率に複数の異なる値を設定する薄膜屈折率設定手段と、前記膜厚受付手段が受け付けた薄膜の膜厚、前記基板屈折率受付手段が受け付けた基板の複素屈折率、及び前記薄膜屈折率設定手段が薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の透過率又は反射率を夫々複数算出する第二算出手段と、第一算出手段が算出した透過率及び第二算出手段が算出した複数の透過率、又は第一算出手段が算出した反射率及び第二算出手段が算出した複数の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定する薄膜屈折率決定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
本願に係る物性測定装置は、前記測定手段が測定した時間変化に基づいて、透過波又は反射波の電場強度の時間波形を作成する波形作成手段と、前記基板の厚さを受け付ける基板厚受付手段と、該基板厚受付手段が受け付けた基板の厚さ及び前記基板屈折率受付手段が受け付けた基板の複素屈折率の実部に基づいて、前記波形作成手段により作成した透過波又は反射波の電場強度の時間波形に、夫々基板内で多重反射した透過波又は反射波の電場強度の時間波形が現れる時間を算出する時間算出手段とを備え、前記第一算出手段は、前記時間算出手段が算出した時間に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の透過率又は反射率を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0010】
本願に係る物性測定装置は、前記薄膜屈折率決定手段が決定した薄膜の複素屈折率に基づいて、該薄膜の複素電気伝導度を算出する伝導度算出手段を備えることを特徴とする。
【0011】
本願に係る物性測定装置は、電気伝導モデル及び該電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを変更し、薄膜の複素電気伝導度を算出するモデル伝導度算出手段と、前記伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度及び前記モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度に基づいて、前記電気伝導モデルを決定するモデル決定手段と、前記伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度及び前記モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度に基づいて、前記モデル決定手段により決定された電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを決定する第一パラメータ決定手段と、該第一パラメータ決定手段が決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本願に係る物性測定装置は、前記伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度に基づいて、前記モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度を限定する伝導度限定手段と、該伝導度限定手段が限定した複素電気伝導度に基づいて、前記薄膜に対する赤外線の反射率を算出する反射率算出手段と、前記薄膜に対する赤外線の反射率を受け付ける反射率受付手段と、前記反射率算出手段が算出した赤外線の反射率及び前記反射率受付手段が受け付けた赤外線の反射率に基づいて、前記伝導度限定手段により限定された複素電気伝導度を表すパラメータを決定する第二パラメータ決定手段と、該第二パラメータ決定手段が決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
本願に係る物性測定方法は、基板表面に形成された薄膜の物性を測定する物性測定方法において、基板表面に薄膜が形成された成膜領域及び該基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域にテラヘルツ波を複数回照射し、前記成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を複数回検出し、前記成膜領域及び非成膜領域から複数回検出した透過波又は反射波の電場強度を積算し、積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定し、測定した時間変化に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率を算出し、前記薄膜の複素屈折率に複数の異なる値を設定し、前記薄膜の厚さ、基板の複素屈折率及び薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出し、第一の透過率及び第二の複数の透過率、又は第一の透過率及び第二の複数の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定することを特徴とする。
【0014】
本願に係る物性測定方法は、前記成膜領域及び非成膜領域にテラヘルツ波を複数回照射するに際し、前記成膜領域及び非成膜領域にテラヘルツ波を交互に複数回照射し、前記電場強度を複数回検出するに際し、前記電場強度を交互に複数回検出し、複数回検出した前記電場強度を積算するに際し、交互に複数回検出した前記電場強度を積算することを特徴とする。
【0015】
本願に係る物性測定方法は、第二の複数の透過率又は反射率を算出するに際し、前記薄膜の厚さは、膜厚測定装置により測定した厚さであることを特徴とする。
【0016】
本願に係る物性測定方法は、決定した薄膜の複素屈折率に基づいて、該薄膜の第一の複素電気伝導度を算出し、電気伝導モデル及び該電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを変更して、薄膜の第二の複素電気伝導度を算出し、第一及び第二の複素電気伝導度に基づいて、前記電気伝導モデルを決定し、決定した電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを変更して、薄膜の第三の複素電気伝導度を算出し、前記薄膜に対する赤外線の反射率を測定し、測定した赤外線の反射率に基づいて、薄膜の第四の複素電気伝導度を算出し、第三及び第四の複素電気伝導度に基づいて、決定した前記電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを決定し、決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出することを特徴とする。
【0017】
本願に係る薄膜基板製造システムは、巻き出しロールに巻かれた可撓性を有する基板を巻き出し、巻き取りロールに巻き取る移送の過程で、該基板表面に薄膜を形成する成膜装置を設けた薄膜基板製造システムにおいて、前記成膜装置が形成した薄膜を任意のアニール条件でアニールするアニール装置と、該アニール装置がアニールした薄膜の物性を測定する前述の物性測定装置とを含むことを特徴とする。
【0018】
本願に係る薄膜基板製造システムは、前記物性測定装置から信号を受信し、前記成膜装置の動作を制御する制御装置を含み、前記成膜装置、アニール装置及び物性測定装置は、前記巻き出しロール及び巻き取りロールの間の移送路に沿って配置され、前記物性測定装置は、所定の信号を前記制御装置に送信する送信手段を有し、前記制御装置は、前記物性測定装置の送信手段が送信した前記所定の信号を受信した場合、前記成膜装置の動作を停止する手段を有することを特徴とする。
【0019】
本願に係る薄膜基板製造システムは、前記制御装置は、前記アニール装置のアニール条件を設定するようにしてあり、前記物性測定装置の送信手段が送信した前記所定の信号を受信した場合、前記アニール装置のアニール条件を変更する手段を有することを特徴とする。
【0020】
本願に係る薄膜基板製造システムは、任意の移送速度で、前記基板を巻き出しロールから巻き出して移送し、該基板表面に薄膜が形成された薄膜基板を巻き取りロールに巻き取る基板移送手段を含み、前記制御装置は、前記基板移送手段の移送速度を制御するようにしてあり、前記物性測定装置の送信手段が送信した前記所定の信号を受信した場合、前記基板移送手段の移送速度を変更する手段を有することを特徴とする。
【0021】
本願に係るプログラムは、コンピュータに、基板表面に形成された薄膜の物性を測定させるプログラムにおいて、コンピュータに、基板表面に薄膜が形成された成膜領域及び該基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域に照射されたテラヘルツ波の透過波又は反射波の電場強度を複数回検出する検出ステップと、前記成膜領域及び非成膜領域から複数回検出した透過波又は反射波の電場強度を積算する積算ステップと、積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定するステップとを実行させることを特徴とする。
【0022】
本願に係るプログラムは、前記検出ステップは、前記電場強度を交互に複数回検出し、前記積算ステップは、交互に複数回検出した前記電場強度を積算することを特徴とする。
【0023】
本願に係るプログラムは、コンピュータに、測定した時間変化に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率を算出するステップと、前記薄膜の複素屈折率に複数の異なる値を設定するステップと、前記薄膜の厚さ、基板の複素屈折率及び薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出するステップと、第一の透過率及び第二の複数の透過率、又は第一の反射率及び第二の複数の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定するステップとを実行させることを特徴とする。
【0024】
本願に係る物性測定装置にあっては、テラヘルツ波発生源は、テラヘルツ波を発生する。基板には、薄膜が形成された成膜領域及び薄膜が形成されていない非成膜領域がある。テラヘルツ波発生源から放射されたテラヘルツ波は、移動手段に取り付けられた基板の成膜領域及び非成膜領域に複数回照射される。検出手段は、成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波を複数回検出する。検出された透過波又は反射波の電場強度は積算される。測定手段は、積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定する。
【0025】
本願に係る物性測定装置にあっては、移動手段は成膜領域及び非成膜領域にテラヘルツ波が交互に複数回照射されるように、基板及び薄膜を移動する。検出手段は、成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を交互に複数回検出する。積算手段は、交互に複数回検出した、成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を積算する。
【0026】
本願に係る物性測定装置にあっては、第一算出手段は、測定したテラヘルツ波の透過波又は反射波の電場強度の時間変化に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率を算出する。第二算出手段は、受け付けた薄膜の厚さ、受け付けた基板の複素屈折率、及び薄膜の複素屈折率について設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出する。第一の透過率及び薄膜の複素屈折率に応じて異なる第二の透過率、又は第一の反射率及び薄膜の複素屈折率に応じて異なる第二の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定する。
【0027】
本願に係る物性測定装置にあっては、波形作成手段は、測定した時間変化に基づいて、透過波又は反射波の電場強度の時間波形を作成する。時間算出手段は、受け付けた基板の厚さ及び受け付けた基板の複素屈折率の実部に基づいて、波形作成手段が作成した透過波又は反射波の電場強度の時間波形の中で、夫々基板内で多重反射した透過波又は反射波の電場強度の時間波形が現れる時間を算出する。時間算出手段が算出した時間に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率が算出される。
【0028】
本願に係る物性測定装置にあっては、伝導度算出手段は、決定した薄膜の複素屈折率に基づいて、薄膜の複素電気伝導度を算出する。
【0029】
本願に係る物性測定装置にあっては、モデル伝導度算出手段は、電気伝導モデルと、この電気伝導モデルが複素電気伝導度を表すパラメータとを変更し、薄膜の複素電気伝導度を算出する。伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度と、モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度とに基づいて、電気伝導モデルを決定する。また、伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度と、モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度とに基づいて、決定した電気伝導モデルが複素電気伝導度を表すパラメータを決定する。決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する。
【0030】
本願に係る物性測定装置にあっては、伝導度限定手段は、テラヘルツ波による測定に由来する薄膜の複素電気伝導度に基づいて、電気伝導モデル及びこの電気伝導モデルが複素電気伝導度を表すパラメータを変更して算出した薄膜の複素電気伝導度を所定数に限定する。反射率算出手段は、限定した複素電気伝導度に基づいて、薄膜に対する赤外線の反射率を算出する。算出した赤外線の反射率及び受け付けた赤外線の反射率に基づいて、限定した複素電気伝導度を表すパラメータを決定する。決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する。
【0031】
本願に係る物性測定装置方法にあっては、基板表面に薄膜が形成された成膜領域と、基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域とにテラヘルツ波を複数回照射する。成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を複数回検出し、積算する。積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定し、測定した透過波又は反射波の電場強度の時間変化に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率を算出する。薄膜の厚さ、基板の複素屈折率、及び薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出する。第一の透過率及び薄膜の複素屈折率に応じて異なる第二の透過率、又は第一の反射率及び薄膜の複素屈折率に応じて異なる第二の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定する。
【0032】
本願に係る物性測定装置方法にあっては、成膜領域及び非成膜領域にテラヘルツ波を交互に複数回照射する。成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を交互に複数回検出及び積算する。
【0033】
本願に係る物性測定装置方法にあっては、膜厚測定装置が測定した薄膜の厚さ、基板の複素屈折率、及び薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出する。
【0034】
本願に係る物性測定装置方法にあっては、決定した薄膜の複素屈折率に基づいて、薄膜の第一の複素電気伝導度を算出する。電気伝導モデルと、この電気伝導モデルが複素電気伝導度を表すパラメータとを変更し、薄膜の第二の複素電気伝導を算出する。第一の複素電気伝導度と、第二の複素電気伝導度とに基づいて、電気伝導モデルを決定する。決定した電気伝導モデルが複素電気伝導度を表すパラメータを変更し、薄膜の第三の複素電気伝導度を算出する。薄膜に対して測定した赤外線の反射率に基づいて、薄膜の第四の複素電気伝導度を算出する。第三の複素電気伝導度と、第四の複素電気伝導度とに基づいて、決定した電気伝導モデルが複素電気伝導度を表すパラメータを決定する。決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する。
【0035】
本願に係る薄膜基板製造システムにあっては、成膜装置、アニール装置及び物性測定装置を含む。成膜装置は、可撓性を有する基板表面に薄膜を形成する。アニール装置は、成膜装置が形成した薄膜を任意のアニール条件でアニールする。物性測定装置は、アニール装置がアニールした薄膜の物性を測定する前述の物性測定装置である。
【0036】
本願に係る薄膜基板製造システムにあっては、物性測定装置から信号を受信し、成膜装置の動作を制御する制御装置を含む。成膜装置、アニール装置及び物性測定装置は、巻き出しロールと巻き取りロールとの間の移送路に沿って配置される。物性測定装置は、所定の信号を制御装置へ送信する。制御装置は、物性測定装置が送信した所定の信号を受信した場合、成膜装置の動作を停止する。
【0037】
本願に係る薄膜基板製造システムにあっては、制御装置は、アニール装置のアニール条件を設定する。制御装置は、物性測定装置が送信した所定の信号を受信した場合、アニール装置のアニール条件を変更する。
【0038】
本願に係る薄膜基板製造システムにあっては、任意の移送速度で、巻き出しロールに巻かれた可撓性の基板を巻き出して移送し、基板表面に薄膜が形成された薄膜基板を巻き取りロールに巻き取る基板移送手段を含む。制御装置は、基板移送手段の移送速度を制御する。制御装置は、物性測定装置が送信した所定の信号を受信した場合、基板移送手段の移送速度を変更する。
【0039】
本願に係るプログラムにあっては、コンピュータに、テラヘルツ波の透過波又は反射波の電場強度を複数回検出及び積算させる。テラヘルツ波の透過波又は反射波は、基板表面に薄膜が形成された成膜領域及び基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域に照射されたものである。また、コンピュータに、積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定させる。
【0040】
本願に係るプログラムにあっては、コンピュータに、成膜領域及び非成膜領域からのテラヘルツ波の透過波又は反射波の電場強度を交互に複数回検出及び積算させる。
【0041】
本願に係るプログラムにあっては、コンピュータに、測定した透過波又は反射波の電場強度の時間変化に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率を算出させる。コンピュータに、薄膜の厚さ、基板の複素屈折率、及び薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出させる。コンピュータに、薄膜の第一の透過率及び薄膜の複素屈折率に応じて異なる第二の透過率、又は薄膜の第一の反射率及び薄膜の複素屈折率に応じて異なる第二の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定させる。
【発明の効果】
【0042】
本発明にあっては、基板表面に形成した薄膜の物性を非破壊かつ高精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施の形態1に係る物性測定装置のブロック図である。
【図2】実施の形態1に係るテラヘルツ分光装置のブロック図である。
【図3】実施の形態1に係る分光エリプソメータのブロック図である。
【図4】実施の形態1に係るコンピュータのブロック図である。
【図5】基板内で多重反射したテラヘルツ波を含む電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び透過率を示す説明図である。
【図6】基板内で多重反射したテラヘルツ波を削除した場合の電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び透過率を示す説明図である。
【図7】実施の形態1に係るテラヘルツ分光装置による測定の説明図である。
【図8】透過波の時間領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
【図9】透過波の時間領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
【図10】基板内の多重反射を除外した周波数領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
【図11】薄膜の複素屈折率を算出する手順を示すフローチャートである。
【図12】薄膜の電気的特性値を求める手順を示すフローチャートである。
【図13】基板内の多重反射による影響を排除した薄膜の電気伝導度の解析結果を示す説明図である。
【図14】実施の形態2に係る物性測定装置のブロック図である。
【図15】実施の形態2に係るフーリエ変換赤外分光装置のブロック図である。
【図16】フリーキャリア以外の複素誘電率を算出する手順を示すフローチャートである。
【図17】実施の形態2に係る電気伝導モデルのパラメータを決定する手順を示すフローチャートである。
【図18】実施の形態2に係る電気伝導モデルのパラメータを決定する手順を示すフローチャートである。
【図19】テラヘルツ帯の電気伝導度とキャリア移動度との関係を示す説明図である。
【図20】赤外域の反射率とキャリア移動度との関係を示す説明図である。
【図21】実施の形態3に係る薄膜基板製造システムのブロック図である。
【図22】実施の形態3に係るコンピュータのブロック図である。
【図23】実施の形態3に係るアニール装置のブロック図である。
【図24】実施の形態3に係るコンピュータの制御部が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【図25】実施の形態4に係る物性測定装置のコンピュータのハードウェア群を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0045】
実施の形態1
実施の形態1では、テラヘルツ時間領域分光法を用いて、試料を透過又は試料で反射したテラヘルツ波の周波数領域のスペクトルを得る。時間領域分光法は、電磁波の電場強度の時間波形を時系列フーリエ変換することにより、電磁波の周波数領域のスペクトル及び位相差スペクトルを得る分光法である。
【0046】
図1は、実施の形態1に係る物性測定装置1のブロック図である。実施の形態1に係る物性測定装置1は、テラヘルツ分光装置2、膜厚測定装置3及びコンピュータ4を含む。なお、物性測定装置1は、膜厚測定装置3を含まなくてもよい。また、コンピュータ4は、テラヘルツ分光装置2の内部に組み込まれていてもよい。
テラヘルツ分光装置2及び膜厚測定装置3は、コンピュータ4と電気的に接続されている。
【0047】
図2は、実施の形態1に係るテラヘルツ分光装置2のブロック図である。テラヘルツ分光装置2は、レーザ21、ビームスプリッタ22、テラヘルツ波発生器23、移動部(移動手段)24、テラヘルツ波検出器25及び時間遅延機構26を含む。レーザ21は、フェトム秒パルスのレーザパルスをビームスプリッタ22に射出する。ビームスプリッタ22は、レーザ21から射出されたレーザパルスをポンプ光とプローブ光との2つに分ける。ポンプ光は、テラヘルツ波発生器23に入射される光である。プローブ光は、時間遅延機構26に入射される光である。プローブ光は、試料Sを透過又は試料Sで反射したテラヘルツ波の電場強度の時間波形を測定するため、ポンプ光に対して時間遅延が与えられる参照波である。
【0048】
テラヘルツ波発生器23は、例えば半導体素子であり、レーザ21からポンプ光が照射された場合、テラヘルツ波を放射する。テラヘルツ波発生器23が放射するテラヘルツ波の周波数は、例えば0.1〜5THz(テラヘルツ)である。なお、テラヘルツ波発生器23は、非線形光学結晶であってもよい。
【0049】
テラヘルツ波発生器23により発生したテラヘルツ波は、ミラー27により反射され、平行光として移動部24に取り付けられた試料Sに照射される。移動部24は、試料Sを把持し、固定する手段を備えている。移動部24は、テラヘルツ波の進行方向と略直交する一方向に試料Sをモータの駆動により前進及び後進させる。
【0050】
試料Sは、基板K及び基板K表面の薄膜Hを含む。薄膜Hは基板Kの一面の半分を占める領域にのみ形成されている。基板Kの一面の他の領域には、薄膜Hは形成されていない。すなわち、基板Kの一面には、薄膜が形成された成膜領域Fと薄膜が形成されていない非成膜領域Nとが形成されている。
【0051】
試料Sを透過又は試料Sで反射したテラヘルツ波は、ミラー28により反射されてテラヘルツ波検出器25に届く。テラヘルツ波検出器25は、例えば半導体素子であるが、非線形光学結晶であってもよい。
【0052】
時間遅延機構26は、ビームスプリッタ22によって分けられたプローブ光の光路長を変化させ、ポンプ光に対してプローブ光に時間遅延を与える。時間遅延機構26には、プローブ光を反射して折り返す可動のミラーが備えられている。このミラーを少しずつ反射方向に対して後方へ移動することにより、プローブ光の光路長は変化する。ポンプ光の光路長は一定であるため、時間遅延機構26により時間遅延が与えられたプローブ光は、ポンプ光よりも遅れてテラヘルツ波検出器25に達する。
【0053】
試料Sを透過又は試料Sで反射したテラヘルツ波がテラヘルツ波検出器25に入射する場合、入射したテラヘルツ波の電場強度に比例した電流がテラヘルツ波検出器25に流れる。この電流は信号として、テラヘルツ波検出器25からコンピュータ4に送信される。こうして時間遅延機構26によりプローブ光に任意の時間遅延を与えることにより、テラヘルツ波の電場強度の時間波形が得られる。
【0054】
実施の形態1に係る膜厚測定装置3は、例えば分光エリプソメータ30である。
分光エリプソメータ30は、薄膜Hに直線偏光波を照射し、照射光の波長を変えながら、p偏光とs偏光の反射振幅比角Ψ及び位相差Δを測定する装置である。
【0055】
図3は、実施の形態1に係る分光エリプソメータ30のブロック図である。
Xeランプ31は、多数の波長成分を含む、いわゆる白色光源である。このXeランプ31の発光は光ファイバ32を介して偏光子33に導かれる。偏光子33により偏光された光は、測定対象である試料Sの表面に特定の入射角で入射する。試料Sからの反射は、光弾性変調器(PEM)34を介して検光子35に導かれる。なお、PEM34の位置は偏光子33の後ろか検光子35の前のどちらでも可能である。
【0056】
光弾性変調器(PEM)34により、反射光は50kHzの周波数に位相変調されて、直線から楕円偏光までが作られる。そのため、数ミリ秒の分解能でΨ、Δが決定される。検光子35の出力は光ファイバ36を介して分光器37に入力される。分光器37は、波長ごとに測定を行い、測定結果をアナログ信号としてデータ取込機38へ伝送する。データ取込機38は、アナログ信号をデジタル信号に変換してコンピュータ4に送信する。
【0057】
分光エリプソメトリでは、薄膜Hの厚さ、光学定数等を解析変数とする光学モデルを構築し、予め分光エリプソメータに記録しておく。分光エリプソメータは、光学モデルのシミュレーションを行い、Ψ及びΔの参照データを生成する。分光エリプソメータは、測定データ及び参照データをフィッティングし、測定データに最も合致した参照データを与える光学モデルの解析変数を測定結果として出力する。測定データ及び参照データのフィッティングは、単純な差の比較でもよいし、最小二乗法による比較でもよい。また、フィッティング誤差を最小にするために、線形回帰解析を用いてもよい。
【0058】
分光エリプソメータ30に、上記のフィッティング解析を実行するコンピュータを含めてもよいが、実施の形態1では、コンピュータ4が、受信した出力データに基づいて、上記のフィッティング解析を実行する。
【0059】
図4は、実施の形態1に係るコンピュータ4のブロック図である。コンピュータ4は、制御部41、ROM(Read Only Memory)42、RAM(Random Access Memory)43、通信部44、操作部45、表示部46及び外部インタフェース47を含む。
ROM42の内部にはプログラムが記録されている。制御部41は、ROM42からプログラムを読み込み、各種処理を実行する。RAM43は、作業用の変数、測定データ等を一時的に記録する。通信部44は、膜厚測定装置3から送信される膜厚に係るΨ、Δの信号を受信する。
【0060】
操作部45は、キーボード、マウス等の入力機器を含み、ユーザは操作部45及び通信部44を介してコンピュータ4を操作する。また、ユーザは操作部45を介してテラヘルツ分光装置2及び膜厚測定装置3を操作することができる。表示部46は、通信部44及び操作部45を介して入力されたデータ、制御部41が実行した計算結果等を表示する。外部インタフェース47は、図示しない外部の記録媒体と情報のやり取りをするインタフェースである。また、外部インタフェース47はインターネットに接続することができるインタフェースでもある。
【0061】
実施の形態1に係る基板Kは、透過波の測定誤差を低減するため、以下の工夫が施されている。
基板Kは結晶石英である。基板Kに結晶石英を用いることにより、広い周波数範囲で高精度の透過光の測定が可能になる。テラヘルツ波発生器23が放射するテラヘルツ波は、中心周波数(0.3〜1THz)付近では強度が大きく、透過率の低い試料Sでも測定できる。しかし、50GHz(ギガヘルツ)又は5THz付近では強度が小さく、透過率の低い試料Sの測定が困難になる。そこで、基板Kに、例えば透過率の低い石英ガラスではなく、透過率の高い結晶石英を用いることにより、測定可能な透過波の周波数範囲を広げることができる。透過波の周波数範囲が広いほど、測定された透過波に基づいて実行される薄膜Hの物性解析の精度は向上する。
【0062】
また、基板Kの表面及び裏面は、0.001度以下、又は厚み1mmに対して誤差1μm以下に該当する平行度を有している。後述する薄膜Hの透過率を算出するにあたり、基板Kは完全な平行平板であることを仮定している。また、基板Kのみを透過するテラヘルツ波と、基板K及び薄膜Hを透過するテラヘルツ波とは、同じ厚さの基板Kを透過することを仮定している。そのため、基板Kの平行度が高いほど、解析上の誤差を小さくすることができる。
【0063】
さらに、基板Kの厚さは、1.0mmと厚くしてある。このことは、基板K内で多重反射したテラヘルツ波の時間波形の削除と関係する。そこで、以下に基板K内でテラヘルツ波が多重反射する場合、多重反射が解析に及ぼす影響について説明する。
基板K内での多重反射の結果、遅れてきたテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換して周波数領域のスペクトルを得る場合、激しい干渉縞が現れ、データ解析を困難にする。そこで、基板K内で多重反射した反射波が時間波形に現れる時刻以降の波形を削除し、反射波の時間波形が現れない時間幅で、テラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換することにより周波数領域のスペクトルを得る。
【0064】
図5は、基板K内で多重反射したテラヘルツ波を含む電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び透過率を示す説明図である。図5Aは、基板K内で多重反射したテラヘルツ波を含む電場強度の時間波形を示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は時間(単位はps)である。電場強度はテラヘルツ波振幅に比例する。太線は非成膜領域Nを透過した透過波の時間波形を、細線は成膜領域Fを透過した透過波の時間波形を示している。図5Bは、図5Aの時間波形をフーリエ変化して得たフーリエ変換スペクトルを示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。太線は非成膜領域Nを透過した透過波のフーリエ変換スペクトルを、細線は成膜領域Fを透過した透過波のフーリエ変換スペクトルを示している。図5Cは、図5Bのフーリエ変換スペクトルから得た薄膜Hの透過率を示す説明図である。縦軸は透過率であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。
【0065】
図6は、基板K内で多重反射したテラヘルツ波を削除した場合の電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び透過率を示す説明図である。図6Aは、図5Aから基板K内で多重反射したテラヘルツ波を削除した電場強度の時間波形を示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は時間(単位はps)である。太線は非成膜領域Nを透過した透過波の時間波形を、細線は成膜領域Fを透過した透過波の時間波形を示している。図6Bは、図6Aの時間波形をフーリエ変換して得たフーリエ変換スペクトルを示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。太線は非成膜領域Nを透過した透過波のフーリエ変換スペクトルを、細線は成膜領域Fを透過した透過波のフーリエ変換スペクトルを示している。図6Cは、図6Bのフーリエ変換スペクトルから得た薄膜Hの透過率を示す説明図である。縦軸は透過率であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。
【0066】
図5において、多重反射に起因する電場強度の時間波形を削除しないでフーリエ変換を行った場合、フーリエ変換スペクトルに激しい干渉縞が現れ、かかるフーリエ変換スペクトルから求められる薄膜Hの透過率の精度は低い。一方、図6の場合、25ps以降に現れる多重反射に起因する電場強度の時間波形を削除している。そのため、フーリエ変換スペクトルに干渉縞は現れず、かかるフーリエ変換スペクトルから求められる薄膜Hの透過率の精度は、多重反射に起因する電場強度の時間波形を削除しない場合よりも高い。
【0067】
最初の多重反射波が最初のメインパルスからΔt後に現れる場合、Δtは式(1)から求められる。
Δt=2nd/c ・・・(1)
ただし、nは基板Kのテラヘルツ帯の屈折率、dは基板Kの厚さ、cは光速度である。
【0068】
テラヘルツ波の吸収をおさえ、テラヘルツ波の透過率を高めるためには、基板Kは薄いほどよい。例えば、基板Kの厚さを0.2mm程度にした場合、試料Sの持ち運びに支障が出ない程度の機械的な強度を有し、テラヘルツ波の透過率を高めることができる。しかし、式(1)より、基板Kの厚さdが薄いほど、Δtは短くなり、多重反射波と最初のメインパルスとの分離は困難になる。
【0069】
図5の例では、13.5psのメインパルスはゆっくりした振動成分が23ps付近まで続いており、多重反射波とメインパルスとを分離するためには、10ps以上のΔtが必要である。例えば、基板Kの厚さdを1.0mmとした場合、結晶石英のテラヘルツ帯の屈折率nはn=2.1であるから、Δt=14.0psとなる。Δtが14psであれば、メインパルスと多重反射波との分離は十分可能である。しかし、基板Kの厚さを1.0mmより厚くした場合、透過率が低くなり、透過率のSN比が低下する。
【0070】
実施の形態1では、結晶石英の基板Kの厚さは、メインパルスと多重反射波との分離の自由度を上げるために、余裕を持たせて1.0mmという値に設定されている。
なお、基板Kの厚さは、例えばΔt=10psに対応する0.7mmであってもよい。
ちなみに、図5の例でも、メインパルスが現れる13.5psに対して、基板K内を1回反射した反射波が14ps後の約27.5ps付近に最初の多重反射波として現れている。
【0071】
次に、実施の形態1に係る物性測定装置1の動作について説明する。ここでは、テラヘルツ波が試料Sを透過した透過波から薄膜Hの透過率を求め、この透過率に基づいて各物性を算出する場合について説明する。
ユーザは、基板Kのテラヘルツ帯の複素屈折率、基板Kの厚さ、真空の誘電率、薄膜Hについてのフリーキャリア以外の誘電率及び素電荷量を、操作部45を介してRAM43に記録する。あるいは、これらの数値は予めROM42に記録しておいてもよい。
【0072】
まず、薄膜HのΨ、Δを分光エリプソメータ30により測定し、測定したΨ、Δに基づいて算出した薄膜Hの厚さをRAM43に記録しておく。
分光エリプソメータ30に試料Sを設置し、コンピュータ4の操作部45を介して偏光子33から薄膜Hに偏光を入射する。制御部41は、通信部44を介してデータ取込機38からΨ、Δの測定データを取得する。制御部41は、測定データ及び参照データのフィッティング解析を実行し、薄膜Hの厚さを求める。制御部41は、求めた薄膜Hの厚さをRAM43に記録する。
【0073】
なお、薄膜Hの厚さを操作部45から手入力でRAM43に記録する形態であってもよい。かかる場合、分光エリプソメータ30にフィッティング解析を実行するコンピュータを組み込む。ユーザは、分光エリプソメータ30と一体になったコンピュータの表示手段から薄膜Hの厚さを読み取り、読み取った薄膜Hの厚さを、操作部45を介して手入力でRAM43に記録する。
【0074】
試料Sを移動部24に取り付ける。コンピュータ4の制御部41は、レーザ21にフェトム秒パルスのレーザパルスをビームスプリッタ22に向けて射出させる。レーザパルスは、ビームスプリッタ22によりポンプ光とプローブ光とに分けられる。
【0075】
ポンプ光が照射されたテラヘルツ波発生器23は、テラヘルツ波を放射する。テラヘルツ波発生器23が放射したテラヘルツ波は、ミラー27により反射され、平行光として移動部24に取り付けられた試料Sに数秒照射される。
試料Sを透過したテラヘルツ波又は試料Sで反射したテラヘルツ波は、ミラー28により反射されてテラヘルツ波検出器25に届く。
【0076】
一方、ビームスプリッタ22により分けられたプローブ光は、時間遅延機構26により時間遅延が与えられ、テラヘルツ波検出器25に達する。テラヘルツ波検出器25は、入射した透過波の電場強度を示す信号をコンピュータ4へ送信する。制御部41は、通信部44を介してこの信号を受信し、この信号値をテラヘルツ波検出器25が測定した透過波の電場強度としてRAM43に記録する。
【0077】
図7は、実施の形態1に係るテラヘルツ分光装置2による測定の説明図である。制御部41は、前回の透過波が成膜領域Fの透過波であった場合、移動部24をテラヘルツ波の進行方向に対して略直角方向に移動し、テラヘルツ波が非成膜領域Nを数秒照射するようにする。制御部41は、前回の透過波が非成膜領域Nの透過波であった場合、移動部24を上記と逆方向に移動し、テラヘルツ波が成膜領域Fを数秒照射するようにする。こうして、制御部41は、移動部24を繰り返し逆方向に移動することにより、テラヘルツ波が成膜領域F及び非成膜領域Nを交互に照射するようにする。
なお、ここでの交互とは、成膜領域F及び非成膜領域Nにテラヘルツ波を夫々1回ずつ照射することを繰り返す場合に限らない。例えば、成膜領域F及び非成膜領域Nにテラヘルツ波を夫々2回ずつ照射することを繰り返してもよいし、夫々3回以上ずつ照射することを繰り返してもよい。
【0078】
テラヘルツ波検出器25は、試料Sの成膜領域F及び非成膜領域Nからの透過波を交互に夫々数秒程度測定し、各信号をコンピュータ4に送信する。この測定は、例えば50〜60回繰り返される。制御部41は、繰り返し受信した各信号から成膜領域F及び非成膜領域Nにおける透過波の電場強度を積算し、RAM43に記録する。
なお、ロックイン検出法により、テラヘルツ波検出器25からの信号のSN比を向上させてもよい。
【0079】
制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーを所定量だけ反射方向と反対の後方に移動し、所定の時間遅延を与えたプローブ光を用いて上記の処理を繰り返す。これにより、成膜領域F及び非成膜領域Nにおける透過波の電場強度の時間変化がRAM43に記録されることになる。つまり、制御部41は、基板K及び薄膜Hを透過した透過波の時間領域の電場強度と、基板Kのみを透過した透過波の時間領域の電場強度とをRAM43に記録する。このことは、基板K及び薄膜Hを透過した透過波の電場強度の時間波形を記録したことに該当する。
【0080】
図8及び図9は、透過波の時間領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
制御部41は、レーザパルスを射出する(ステップS101)。制御部41は、成膜領域Fを透過した透過波の電場強度を示す信号を受信し、RAM43に記録する(ステップS102)。制御部41は、レーザパルスを停止する(ステップS103)。制御部41は、移動部24を移動して、入射波が非成膜領域Nを照射するようにする(ステップS104)。
制御部41は、レーザパルスを射出する(ステップS105)。制御部41は、非成膜領域Nを透過した透過波の電場強度を示す信号を受信し、RAM43に記録する(ステップS106)。制御部41は、レーザパルスを停止する(ステップS107)。制御部41は、移動部24を移動して、入射波が成膜領域Fを照射するようにする(ステップS108)。
【0081】
制御部41は、所定回数測定したか否か判断する(ステップS109)。なお、ステップS109における所定回数は、例えば50回である。制御部41は、所定回数測定していないと判断した場合(ステップS109:NO)、ステップS101に処理を戻す。制御部41は、所定回数測定したと判断した場合(ステップS109:YES)、成膜領域F及び非成膜領域Nを透過した透過波の電場強度を夫々積算し、積算した値をRAM43に記録する(ステップS110)。
制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にあるか否か判断する(ステップS111)。制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にないと判断した場合(ステップS111:NO)、時間遅延機構26の反射ミラーを所定量後方へ移動し(ステップS112)、ステップS101に処理を戻す。制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にあると判断した場合(ステップS111:YES)、処理を終了する。
【0082】
制御部41は、成膜領域F及び非成膜領域Nにおける時間領域の電場強度をRAM43から読み込み、読み込んだ時間領域の電場強度を式(2)に示すフーリエ変換により周波数領域の電場強度に変換する。
【0083】
【数1】

【0084】
ただし、E(ω)は周波数領域の電場強度、ωは周波数、E(t)は時間領域の電場強度、tは時間、θ(ω)は位相である。
【0085】
ここで制御部41は、式(2)に示すフーリエ変換を実行するにあたり、最初のメインパルスから最初の多重反射波が現れる時刻Δtを式(1)より求める。そのため、制御部41は、基板Kのテラヘルツ帯の複素屈折率の実部及び基板Kの厚さをRAM43から読み込み、Δtを算出する。制御部41は、試料Sの基板K及び薄膜Hにおける電場強度の時間波形と、基板Kのみにおける電場強度の時間波形とをRAM43から読み込む。制御部41は、時間領域の各電場強度をΔtまでの時間幅でフーリエ変換により周波数領域の電場強度に変換する。制御部41は、基板K及び薄膜Hにおける周波数領域の電場強度と、基板Kのみにおける周波数領域の電場強度とをRAM43に記録する。
【0086】
図10は、基板K内の多重反射を除外した周波数領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
制御部41は、基板Kの屈折率と基板Kの厚さとをRAM43から読み込む(ステップS201)。制御部41は、基板Kの屈折率及び厚さから、メインパルスの後に多重反射波が最初に現れる時間を算出する(ステップS202)。制御部41は、成膜領域F及び非成膜領域Nにおける電場強度の時間波形をRAM43から読み込む(ステップS203)。制御部41は、ステップS202で求めた時間までの時間幅で、基板K及び薄膜H、並びに基板Kのみを透過した透過波の電場強度の時間波形をフーリエ変換する(ステップS204)。制御部41は、フーリエ変換して得られた基板K及び薄膜H、並びに基板Kのみを透過した透過波の周波数領域の電場強度をRAM43に記録し(ステップS205)、処理を終了する。
【0087】
制御部41は、基板K及び薄膜Hにおける周波数領域の電場強度と、基板Kのみにおける周波数領域の電場強度とをRAM43から読み込む。制御部41は、式(3)より薄膜Hの透過率を算出し、算出した透過率をRAM43に記録する。
【0088】
【数2】

【0089】
ただし、T(ω)は薄膜Hの透過率、Et2(ω)は基板K及び薄膜Hの周波数領域の電場強度、Et1(ω)は基板Kのみの周波数領域の電場強度である。Et2(ω)及びEt1(ω)は、ある特定の周波数における位相を含めたテラヘルツ波の電場強度である。
【0090】
なお、透過率の逆数の対数が反射率に該当することから、制御部41は上記透過率から反射率を算出し、算出した反射率をRAM43に記録してもよい。
【0091】
制御部41は、薄膜Hの複素屈折率を決定する。その決定方法は測定から求めた薄膜Hの透過率と計算から求めた薄膜Hの透過率との差が最小となるように、薄膜Hの複素屈折率を決定する。計算から求める薄膜Hの透過率は、以下の過程から求められる。
【0092】
基板Kのテラヘルツ波の透過率は、式(4)で示される。
【0093】
【数3】

【0094】
ただし、E i(ω)は光路に試料Sを挿入しない状態での時間波形をフーリエ変換して得られる、ある特定の周波数における位相を含めたテラヘルツ波の電場強度である。また、t02は空気から基板Kへテラヘルツ波が透過する場合の基板K界面での透過率、t20は基板Kから空気へテラヘルツ波が透過する場合の基板K界面での透過率であり、t02=−t20の関係がある。さらに、N Sは基板Kの複素屈折率N S=n−ik、νはテラヘルツ波の波数、dは基板Kの厚さである。
【0095】
基板K及び薄膜Hのテラヘルツ波の透過率は、式(5)で示される。
【0096】
【数4】

【0097】
ただし、tthinは、テラヘルツ波が薄膜H内で多重反射する場合を含めた薄膜Hの透過率である。なお、式(4)及び式(5)では、基板Kは完全な平行平板であると仮定している。また、式(4)及び式(5)では、基板K内で多重反射した反射波の時間波形は解析において削除するため、テラヘルツ波が基板K内で多重反射することは考慮に入れていない。
【0098】
式(4)及び式(5)から、基板Kの周波数領域の電場強度を参照用とした場合、薄膜Hの透過率T(ω)は式(6)で示される。
【0099】
【数5】

【0100】
式(6)における薄膜Hの透過率tthin12/t02は、基板Kの複素屈折率、薄膜Hの複素屈折率及び薄膜Hの厚さから計算可能である。
【0101】
式(7)は、テラヘルツ分光装置2により測定された透過率Et2(ω)/Et1(ω)と、式(6)より与えられる透過率との差からなる誤差関数F(ω)である。
【0102】
【数6】

【0103】
制御部41は、テラヘルツ分光装置2により測定された透過率をRAM43から読み込み、式(7)に代入する。制御部41は、膜厚測定装置3の測定データに基づいて算出した薄膜Hの膜厚をRAM43から読み込み、式(7)に代入する。制御部41は、基板Kの複素屈折率をRAM43から読み込み、式(7)に代入する。
【0104】
制御部41は、薄膜Hの複素屈折率を変更しながら誤差関数F(ω)を計算し、誤差関数F(ω)の最小値を与える薄膜Hの複素屈折率を最終的な薄膜Hの複素屈折率に決定する。制御部41は、決定した薄膜Hの複素屈折率をRAM43に記録する。
なお、誤差関数F(ω)の最小値及び薄膜Hの複素屈折率を決定するにあたり、線形計画法のシンプレックス法等により計算の高速化を図ってもよい。また、誤差関数F(ω)の計算値が所定値より小さくなった場合、又は誤差関数F(ω)の計算回数が所定回数を超えた場合、計算を終了することにより、計算の高速化を図ってもよい。
【0105】
図11は、薄膜Hの複素屈折率を算出する手順を示すフローチャートである。
制御部41は、RAM43から基板K及び薄膜Hにおける周波数領域の電場強度と、基板Kのみにおける周波数領域の電場強度とを読み込む(ステップS301)。制御部41は、基板K及び薄膜Hにおける周波数領域の電場強度と、基板Kのみにおける周波数領域の電場強度とから、薄膜Hの透過率を算出する(ステップS302)。制御部41は、透過率を求める計算式に代入する薄膜Hの複素屈折率以外のパラメータをRAM43から読み込む(ステップS303)。
【0106】
制御部41は、テラヘルツ波から測定した透過率と計算から求める透過率との差からなる誤差関数F(ω)に、薄膜Hの複素屈折率以外のパラメータを代入する(ステップS304)。制御部41は、薄膜Hの複素屈折率を変更しながら誤差関数F(ω)を計算する(ステップS305)。制御部41は、誤差関数F(ω)が最小となる場合に、薄膜Hの複素屈折率を決定し(ステップS306)、処理を終了する。
【0107】
制御部41は、RAM43から薄膜Hの複素屈折率を読み込む。制御部41は、RAM43から読み込んだ薄膜Hの複素屈折率を用いて、薄膜Hの複素誘電率及び薄膜Hの複素電気伝導度を算出する。ここで制御部41は、複素誘電率と複素屈折率との関係を示す式(8)〜式(10)及び複素誘電率と複素電気伝導度との関係を示す式(11)〜式(13)より、薄膜Hの複素誘電率及び薄膜Hの複素電気伝導度を算出する。
【0108】
ε=N 2 ・・・(8)
ε 1=n 2−κ 2 ・・・(9)
ε 2=2nκ ・・・(10)
ただし、εは複素誘電率であり、ε=ε 1−iε 2である。また、Nは複素屈折率であり、N=n−iκである。
【0109】
【数7】

【0110】
ただし、ε 0は真空の誘電率、εはフリーキャリア以外の誘電率である。また、σは複素電気伝導度であり、σ=σ 1−iσ 2である。
【0111】
制御部41は、真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率をRAM43から読み込み、読み込んだ真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率を上記の計算に使用する。
制御部41は、算出した薄膜Hの複素誘電率及び薄膜Hの複素電気伝導度をRAM43に記録する。
【0112】
制御部41は、薄膜Hのキャリア移動度を決定する。その決定方法は、測定から求めた薄膜Hの複素電気伝導度と、電気伝導モデルにより計算した複素電気伝導度との差が最小となるように、薄膜Hのキャリア移動度を算出するパラメータを決定する。ここで使用可能な電気伝導モデルには、ドルーデモデル、拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデルが含まれる。
【0113】
古典的電子ガスモデルであるドルーデモデルは、シリコン、GaAs、一般的な半導体材料等に有効である。拡張ドルーデモデルは、電子相関が強い材料(高温超電導体など)に有効である。キャリアの局在化を考慮した局在化ドルーデモデルは、有機導電性材料等に有効である。ドルーデ−スミスモデルは、シリコンナノクリスタル等に有効である。以下では、ドルーデモデルを用いてキャリア移動度を決定する例について説明する。
【0114】
ドルーデモデルにより与えられる複素電気伝導度σ(ω)は、式(14)で示される。
【0115】
【数8】

【0116】
ただし、N cはキャリア密度、eは素電荷量、τはキャリアの散乱時間、m *は有効質量、Γ(=1/τ)は散乱確率である。また、ω p 2はプラズマ周波数であり、式(15)で示される。
【0117】
【数9】

【0118】
式(16)は、測定から求めた薄膜Hの複素電気伝導度σ(ω)と、式(14)により与えられる薄膜Hの複素電気伝導度との差からなる誤差関数G(ω)である。
【0119】
【数10】

【0120】
制御部41は、上記で算出した複素電気伝導度をRAM43から読み出し、式(16)のσ(ω)に代入する。また制御部41は、真空の誘電率、素電荷量をRAM43から読み込み、式(16)に代入する。
【0121】
制御部41は、薄膜Hのキャリア密度と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とを変更しながら誤差関数G(ω)を計算し、誤差関数G(ω)の最小値を与える薄膜Hのキャリア密度と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とを決定する。
なお、誤差関数G(ω)の最小値及び上記パラメータを決定するにあたり、線形計画法のシンプレックス法等により計算の高速化を図ってもよい。また、誤差関数G(ω)の計算値が所定値より小さくなった場合、又は誤差関数G(ω)の計算回数が所定回数を超えた場合、計算を終了することにより、計算の高速化を図ってもよい。
【0122】
以上は、電気伝導モデルにドルーデモデルを適用した場合のパラメータの決定である。制御部41は、同様のパラメータ決定を拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデルについても実行し、誤差関数G(ω)が最小となる電気伝導モデル及びパラメータを決定する。
制御部41は、決定した電気伝導モデルと、薄膜Hのキャリア密度と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とをRAM43に記録する。
【0123】
制御部41は、RAM43から素電荷量と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とを読み込み、式(17)からキャリア移動度を算出し、算出したキャリア移動度をRAM43に記録する。
【0124】
【数11】

【0125】
ただし、μはキャリア移動度である。
【0126】
図12は、薄膜Hの電気的特性値を求める手順を示すフローチャートである。
制御部41は、薄膜Hの複素屈折率をRAM43から読み込む(ステップS401)。制御部41は、真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率をRAM43から読み込む(ステップS402)。制御部41は、読み込んだ薄膜Hの複素屈折率、真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率に基づいて、薄膜Hの複素誘電率及び複素電気伝導度を算出する(ステップS403)。
【0127】
制御部41は、未選択の電気伝導モデルをドルーデモデル、拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデルの中から1つ選択する(ステップS404)。制御部41は、算出した複素電気伝導度を、テラヘルツ波から測定した複素電気伝導度と選択した電気伝導モデルから計算される複素電気伝導度との差からなる誤差関数G(ω)に代入する(ステップS405)。制御部41は、誤差関数G(ω)に代入するパラメータをRAM43から読み込む(ステップS406)。制御部41は、誤差関数G(ω)に読み込んだパラメータを代入する(ステップS407)。制御部41は、読み込んだパラメータ以外のパラメータを変更しながら誤差関数G(ω)を計算する(ステップS408)。
【0128】
制御部41は、全ての電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算したか否か判断する(ステップS409)。制御部41は、全ての電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算していないと判断した場合(ステップS409:NO)、別の電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算するため、ステップS404に処理を戻す。制御部41は、全ての電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算したと判断した場合(ステップS409:YES)、誤差関数G(ω)が最小となる電気伝導モデル及びそのパラメータを決定する(ステップS410)。制御部41は、決定した電気伝導モデルのパラメータに基づいて薄膜Hのキャリア移動度を算出し(ステップS411)、処理を終了する。
【0129】
実施の形態1に係る物性測定装置1によれば、試料Sの成膜領域F及び非成膜領域Nを透過した透過波を移動部24を用いて交互に測定する。これにより、テラヘルツ分光装置2のテラヘルツ波検出器25の信号値の誤差を低減することができる。
テラヘルツ波検出器25の信号値は完全に安定ではなく、透過波の1回の測定時間よりも十分長い周期のゆらぎがある。このゆらぎの原因は、例えばレーザ21の長期的な出力ゆらぎ、外部からの機械的振動がテラヘルツ分光装置2の光学系に与える影響、温度変化等である。薄膜Hの膜厚が薄く、キャリア密度が低い場合、テラヘルツ波検出器25の信号値は小さくなる。従って、テラヘルツ波検出器25の信号値が小さい場合、テラヘルツ波検出器25の信号値がゆらぎの中に埋もれてしまうおそれがある。
【0130】
また、成膜領域Fの測定と非成膜領域Nの測定との時間差がゆらぎの周期程度又はそれ以上に長い場合、成膜領域Fに照射されるテラヘルツ波の強度と非成膜領域Nに照射されるテラヘルツ波の強度とは、異なる。そのため、成膜領域Fと非成膜領域Nとの透過波の信号値を積算する場合、成膜領域Fに照射されるテラヘルツ波の平均強度と非成膜領域Nに照射されるテラヘルツ波の平均強度も異なることになる。よって、このようなテラヘルツ波の透過波に基づいて求められる透過率は、誤差が大きくなる。
そこで、ゆらぎの周期よりも十分短い時間間隔で成膜領域F及び非成膜領域Nの透過波を交互に測定し、各信号値を積算することにより、成膜領域F及び非成膜領域Nに照射されるテラヘルツ波の強度を平均的に同程度し、信号値に現れるゆらぎの影響を低減することができる。
【0131】
実施の形態1に係る物性測定装置1によれば、試料Sの成膜領域F及び非成膜領域Nについて繰り返し測定した透過波の信号値を積算することにより、信号値のSN比を向上させることができる。
テラヘルツ波検出器25からの信号値には、透過波の信号成分の他にバックグラウンドのランダムな位相を有す白色雑音成分が含まれている。この白色雑音成分の位相は、測定のたびに異なる。しかし、透過波の信号成分の位相は一定である。そこで、透過波の信号値を積算することにより、白色雑音成分をキャンセルすることができ、透過波の信号成分のSN比を向上させることができる。このSN比を向上させることにより、テラヘルツ波発生器23からのテラヘルツ波の強度が弱い周波数領域でも、透過波の測定が可能となり、薄膜Hの物性の解析精度が向上する。
【0132】
実施の形態1に係る物性測定装置1によれば、試料Sの基板K内で多重反射した透過波を削除した時間幅で、基板K及び薄膜Hの周波数領域の電場強度を求める。これにより、周波数領域における物性値スペクトルから、基板K内の多重反射によって生じる周期的な雑音を低減することができる。
【0133】
図13は、基板K内の多重反射による影響を排除した薄膜Hの電気伝導度の解析結果を示す説明図である。縦軸は複素電気伝導度の実部であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。実線は、多重反射波を削除した時間波形を用い、基板Kの透過波形を参照波形として解析した結果を示している。点線は、多重反射波を含む透過波の時間波形を用い、空気の透過波形を参照波形として解析した結果を示している。図13より、多重反射による影響を排除しない場合に比べて、多重反射による影響を排除した場合、薄膜Hの電気伝導度スペクトルの精度が高いことは明らかである。
【0134】
実施の形態1に係る物性測定装置1によれば、基板Kのみの非成膜領域Nと基板K及び薄膜Hの成膜領域Fを測定対象とし、基板Kの周波数領域の電場強度を参照波形とすることにより、薄膜Hの透過率を基板Kの厚さを用いずに求めることができる。これにより、基板Kの厚さ情報を用いて薄膜Hの透過率を求める場合に比べて、基板Kの厚さの誤差による薄膜Hの透過率決定の精度低下を排除することができる。薄膜Hの透過率を精度よく求めることは、ひいては複素屈折率、複素誘電率、複素伝導率等の物性値の決定精度向上に寄与する。
【0135】
実施の形態1に係る物性測定装置1によれば、薄膜Hのキャリア移動度を求めるに際し、ドルーデモデルに加えて、拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデルも利用する。これらのモデルを膜材料の特性に応じて使い分けることにより、より正確な薄膜Hのキャリア移動度を求めることができる。
【0136】
実施の形態2
実施の形態2は、実施の形態1の物性測定装置1にさらに赤外分光装置を組み込んだ形態に関する。実施の形態2に係る赤外分光装置は、基板K表面の薄膜Hに対して赤外域の反射率を非破壊で測定する。
【0137】
図14は、実施の形態2に係る物性測定装置10のブロック図である。
実施の形態2に係る物性測定装置10は、テラヘルツ分光装置2、膜厚測定装置3、コンピュータ4及び赤外分光装置5を含む。なお、実施の形態2に係る物性測定装置10は、膜厚測定装置3及び赤外分光装置5を含まなくてもよい。また、実施の形態2に係る物性測定装置10は、膜厚測定装置3又は赤外分光装置5を含まなくてもよい。
テラヘルツ分光装置2、膜厚測定装置3及び赤外分光装置5は、夫々コンピュータ4と電気的に接続されている。
【0138】
以下、赤外分光装置5として、フーリエ変換赤外分光装置50を例に説明するが、赤外分光装置5は分散型赤外分光光度計であってもよい。
フーリエ変換赤外分光装置50は、干渉計を利用してインタフェログラムを測定する。フーリエ変換赤外分光装置50が測定したインタフェログラムは、フーリエ変換赤外分光装置50からコンピュータ4に送信される。コンピュータ4は、インタフェログラムをフーリエ変換して、赤外域の反射率(周波数領域の反射スペクトル)を得る。
【0139】
図15は、実施の形態2に係るフーリエ変換赤外分光装置50のブロック図である。
フーリエ変換赤外分光装置50は、赤外光源51、干渉計52、試料室53、検出器54及びAD変換器55を含む。
赤外光源51は、例えばグローバー光源であり、5〜234THzの赤外光を発生させる。赤外光源51が発生した赤外光は、干渉計52に入射する。
【0140】
干渉計52は、例えばマイケルソン干渉計であり、赤外光源51からの入射光を2分するビームスプリッタ521、2分された光を再びビームスプリッタに戻す移動鏡522及び固定鏡523を含む。2分された光は移動鏡522及び固定鏡523により反射され、ビームスプリッタ521で干渉光に合成される。干渉計52により合成された干渉光は、試料室53に設置された試料Sに照射される。
【0141】
試料室53は、いわゆる後置試料室である。なお、フーリエ変換赤外分光装置50は、前置試料室を含んでもよい。試料Sを透過又は試料Sで反射した干渉光は、検出器54に集光される。
【0142】
検出器54は、試料Sで反射又は試料Sを透過した干渉光を検出し、インタフェログラムのアナログ電気信号に変換する。
AD変換器55は、検出器54によりアナログ電気信号に変換されたインタフェログラムを増幅し、デジタル化する。デジタル化されたインタフェログラムは、コンピュータ4へ送信される。
【0143】
コンピュータ4の制御部41は、通信部44を介して、AD変換器55からインタフェログラムを受信する。制御部41は、受信したインタフェログラムをフーリエ変換し、赤外域の反射スペクトルを算出する。制御部41は、算出した赤外域の反射スペクトルをRAM43に記録する。
【0144】
実施の形態2における薄膜Hの厚さを測定する測定法は、段差測定法である。実施の形態2における膜厚測定装置3は、例えば触針段差計である。触針段差計は、先の尖った針で試料Sの非成膜領域N及び成膜領域Fの間の表面を走査することにより膜厚を測定する。触針段差計は、測定した膜厚に係る信号を物性測定装置10のコンピュータ4へ送信する送信手段を有している。
【0145】
次に、実施の形態2に係る物性測定装置10の動作について説明する。
ユーザは、基板Kのテラヘルツ帯の複素屈折率、基板Kの厚さ、真空の誘電率及び素電荷量を、操作部45を介してRAM43に記録する。また、ユーザは、試料Sの有効質量を、操作部45を介してRAM43に記録する。あるいは、これらの数値は予めROM42に記録しておいてもよい。
なお、試料Sの有効質量は、文献値又は他の確立した移動度評価手段との比較によって決定する。
【0146】
まず、試料Sを触針段差計に設置し、針を試料S表面に接触させて成膜領域Fから非成膜領域Nへ移動させる。成膜領域F及び非成膜領域Nの間の段差による針の上下は信号に変換される。変換された信号は送信手段により、コンピュータ4へ送信される。
制御部41は、通信部44を介して針の上下を示す信号を触針段差計から受信し、薄膜Hの厚さを算出する。制御部41は、算出した薄膜Hの厚さをRAM43に記録する。
【0147】
なお、薄膜Hの厚さを操作部45から手入力でRAM43に記録する形態であってもよい。かかる場合、触針段差計に薄膜Hの厚さを算出するコンピュータを組み込む。ユーザは、触針段差計と一体になったコンピュータの表示手段から薄膜Hの厚さを読み取り、読み取った薄膜Hの厚さを、操作部45を介して手入力でRAM43に記録する。
【0148】
次に、試料Sをフーリエ変換赤外分光装置50の試料室53に設置する。制御部41は、赤外光源51に赤外光を放射させる。赤外光源51から放射された赤外光は、干渉計52に入射され、干渉光が合成される。合成された干渉光は、試料室53に設置した試料Sの成膜領域Fに照射される。試料Sからの反射光は、検出器54に集光され、インタフェログラムのアナログ信号に変換される。インタフェログラムのアナログ信号は、AD変換器55により増幅され、デジタル変換される。AD変換器55は、変換したインタフェログラムのデジタル信号をコンピュータ4へ送信する。
【0149】
制御部41は、通信部44を介してインタフェログラムのデジタル信号をAD変換器55から受信する。制御部41は、受信したインタフェログラムをフーリエ変換して、成膜領域Fの薄膜Hに対する反射率(周波数領域の反射スペクトル)を算出する。制御部41は、算出した反射率をRAM43に記録する。
【0150】
なお、反射率を操作部45から手入力でRAM43に記録する形態であってもよい。かかる場合、フーリエ変換赤外分光装置50に反射率を算出するコンピュータを組み込む。ユーザは、フーリエ変換赤外分光装置50と一体になったコンピュータの表示手段から反射率を読み取り、読み取った反射率を、操作部45を介して手入力でRAM43に記録する。
【0151】
試料Sをテラヘルツ分光装置2の移動部24に取り付ける。
実施の形態1と同様に、制御部41は、テラヘルツ分光装置2の測定データに基づいて、基板K及び薄膜Hを透過した透過波の周波数領域の電場強度と、基板Kのみを透過した透過波の周波数領域の電場強度とを求める。
また、実施の形態1と同様に、制御部41は、基板K及び薄膜Hを透過した透過波の周波数領域の電場強度と、基板Kのみを透過した透過波の周波数領域の電場強度とに基づいて、薄膜Hの透過率、複素屈折率、複素誘電率及び複素電気伝導度を求める。制御部41は、これらの各物性値をRAM43に記録する。
【0152】
ここでは、実施の形態1と異なる部分について説明する。
式(7)から薄膜Hの複素屈折率を求めるに際し、制御部41は式(7)の薄膜Hの厚さとして、触針段差計により測定した膜厚をRAM43から読み込み、式(7)に代入する。
【0153】
実施の形態1ではフリーキャリア以外の誘電率は既知としたが、実施の形態2ではフリーキャリア以外の誘電率は未知とする。そこで、予めキャリア密度が低い膜材料についてフーリエ変換赤外分光装置50により反射率を測定し、測定した反射率をRAM43に記録しておく。そして、測定した反射率からフリーキャリア以外の複素誘電率を算出する。
フリーキャリア以外の複素誘電率は、バックグラウンド成分とも呼ばれる。フリーキャリア以外の複素誘電率が生じる原因には、試料Sの分子構造、結晶構造等に依存する振動モード、電子分極等が挙げられるが、試料Sの物性によってその内容は異なる。
【0154】
図16は、フリーキャリア以外の複素誘電率を算出する手順を示すフローチャートである。
制御部41は、RAM43からキャリア密度が低い膜材料についてフーリエ変換赤外分光装置50が測定した反射率を読み込む(ステップS501)。制御部41は、読み込んだ屈折率からクラマース・クロニッヒ変換により位相変化を算出する(ステップS502)。制御部41は、反射率と位相変化とから複素屈折率を算出する(ステップS503)。制御部41は、算出した複素屈折率を二乗してフリーキャリア以外の複素誘電率を算出する(ステップS504)。
【0155】
実施の形態1では、テラヘルツ分光装置2の測定に基づく複素電気伝導度と電気伝導モデルにより計算した複素電気伝導度との差から、電気伝導モデルのパラメータを決定した。
実施の形態2では、テラヘルツ分光装置2による複素電気伝導度の測定値と複素電気伝導度の計算値とのフィッティング、及びフーリエ変換赤外分光装置50による反射率の測定値と反射率の計算値とのフィッティングを行い、電気伝導モデルのパラメータを決定する。
【0156】
まず、制御部41は、4種の電気伝導モデル(ドルーデモデル、拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデル)について、複素電気伝導度を0.1〜234THzの周波数で算出する。そして、制御部41は、算出した複素電気伝導度とテラヘルツ分光装置2により測定した複素電気伝導度とのフィッティングを行う。ここでのフィッティングには、テラヘルツ分光装置2が0.1〜5THzについて測定した複素電気伝導度が用いられる。
【0157】
制御部41は、4種の電気伝導モデル全体について、一致度の高い順に所定数の各パラメータを決定する。制御部41は、決定したパラメータと、そのパラメータに対応した複素電気伝導度とをRAM43に記録する。
なお、上記では、4種の電気伝導モデル全体について、一致度の高い順に所定数だけパラメータを決定した。しかし、4種の電気伝導モデルごとに、最良フィッティングのパラメータを1通りのみ決定してもよい。あるいは、4種の電気伝導モデルごとに、最良及び最良に次いで一致する2通りのパラメータを決定してもよい。また、4種の電気伝導モデルごとに、3通り以上のパラメータを決定してもよい。
【0158】
制御部41は、決定した複数の複素電気伝導度に基づいて、反射率を算出する。その内容は以下の通りである。
制御部41は、複素電気伝導度から式(11)〜式(13)を用いてフリーキャリアの複素誘電率を算出する。ここで、制御部41は、図16で示したように、赤外域の反射率に基づいて求めたフリーキャリア以外の複素誘電率(あるいはバックグラウンド成分)を、算出したフリーキャリアの複素誘電率に加算する。制御部41は、加算した複素誘電率から式(8)〜式(10)を用いて複素屈折率を算出する。制御部41は、求めた複素屈折率から次式(18)を用いて反射率を算出する。制御部41は、算出した反射率をRAM43に記録する。
【0159】
【数12】

【0160】
ただし、R(ω)は反射率、Nt (ω)は複素屈折率である。なお、式(18)の反射率は、電磁波が試料Sの表面に対して垂直に入射した場合に、試料Sの表面で反射した成分だけを表す。試料Sの表面に対して一定の角度から電磁波を入射させる場合、又は薄膜H内での多重反射、あるいは電磁波の偏波方向を考慮する場合には、条件に合わせた数式を利用して反射率を算出する。
制御部41は、テラヘルツ分光装置2の測定データによるフィッティングで決定した複素電気伝導度の数だけ、上記の計算を繰り返す。
【0161】
制御部41は、算出した反射率とフーリエ変換赤外分光装置50により測定した反射率とのフィッティングを行う。このフィッティングは5〜234THzの周波数について行われる。
具体的には、算出した反射率の計算値とフーリエ変換赤外分光装置50により測定した反射率との差が最小となる場合、その反射率の計算値に対応した電気伝導モデルと、パラメータ(キャリア密度、キャリアの散乱時間又は散乱確率)とを決定する。
制御部41は、予めRAM43に記録した有効質量と、決定したキャリアの散乱時間又は散乱確率とに基づいて、式(17)よりキャリア移動度を算出し、算出したキャリア移動度をRAM43に記録する。
【0162】
図17及び図18は、実施の形態2に係る電気伝導モデルのパラメータを決定する手順を示すフローチャートである。
制御部41は、テラヘルツ分光装置2により測定した複素電気伝導度をRAM43から読み込む(ステップS601)。制御部41は、有効質量をRAM43から読み込む(ステップS602)。制御部41は、図16の手順に従ってフリーキャリア以外の複素誘電率を算出し、RAM43に記録する(ステップS603)。
【0163】
制御部41は、複数の電気伝導モデルについて、複素電気伝導度のパラメータを変更しながら、周波数0.1〜234THzで複素電気伝導度を算出する(ステップS604)。ここで、パラメータの一つである有効質量は、ステップS602で読み込んだ値を使用する。制御部41は、算出した各複素電気伝導度を算出に用いたパラメータと対応付けてRAM43に記録する(ステップS605)。制御部41は、RAM43からステップS605で記録した複素電気伝導度を読み込み、読み込んだ複素電気伝導度と、ステップS601で読み込んだ複素電気伝導度とのフィッティングを行う(ステップS606)。制御部41は、一致度の高い順に所定数のパラメータ及び複素電気伝導度の計算値をRAM43に記録する(ステップS607)。
【0164】
制御部41は、RAM43から一致度のよい一つの複素電気伝導度を読み込む(ステップS608)。制御部41は、読み込んだ複素電気伝導度からフリーキャリアの複素誘電率を算出する(ステップS609)。制御部41は、算出したフリーキャリアの複素誘電率と、ステップS603で記録したフリーキャリア以外の複素誘電率とを加算し、トータルの複素誘電率を算出する(ステップS610)。制御部41は、算出したトータルの複素誘電率から複素屈折率を算出する(ステップS611)。
【0165】
制御部41は、算出した複素屈折率から反射率を算出する(ステップS612)。制御部41は、ステップS607で記録した複素電気伝導度の全てについて、反射率を求めたか否か判断する(ステップS613)。制御部41は、全ての複素電気伝導度について、反射率を求めていないと判断した場合(ステップS613:NO)、ステップS608へ処理を戻す。制御部41は、全ての複素電気伝導度について、反射率を求めたと判断した場合(ステップS613:YES)、測定した赤外域の反射率をRAM43から読み込む(ステップS614)。
【0166】
制御部41は、測定した赤外域の反射率と、算出した赤外域の反射率とのフィッティングを行う(ステップS615)。制御部41は、最も一致度のよい赤外域の反射率の計算値に対応する電気伝導モデル及びそのパラメータを決定して、RAM43に記録し(ステップS616)、処理を終了する。
【0167】
実施の形態2に係る物性測定装置10によれば、薄膜Hの厚さを段差法により測定する。段差法は、膜厚が1μm以上である場合、高精度で膜厚を測定することができる。
有機薄膜材料等の膜の場合、厚さが1μm未満の膜を形成することは困難である。そのため、物性測定対象が有機薄膜材料等の膜である場合には、段差法で膜厚を測定することにより、高精度の測定値を得ることができる。一方、膜厚が1μm未満の場合には、実施の形態1で扱った分光エリプソメトリが、高精度かつ非接触で膜厚を測定することができる。従って、測定対象の膜の厚さが1μm未満か、1μm以上かにより、膜厚測定方法を使い分けることにより、幅広い薄膜材料に対して複素屈折率、電気伝導度等の物性値の測定精度を向上させることができる。
【0168】
図19は、テラヘルツ帯の電気伝導度とキャリア移動度との関係を示す説明図である。縦軸は電気伝導度であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。図19は、キャリア密度が3×1020/cm3 であり、様々な散乱確率(周波数)Γ/2π(THz)及びキャリア移動度μ(cm2 /Vs)を有す試料Sについて、測定した電気伝導度を示している。図19より、キャリア移動度が低い場合、テラヘルツ帯の電気伝導度スペクトルは一定になり、複素電気伝導度のパラメータであるキャリア密度、散乱確率を決定することが困難になることがわかる。キャリア移動度が低い場合は、例えば、μ=69.2、13.6、2.73cm2 /Vsの場合である。従って、試料Sのキャリア移動度が低い場合、テラヘルツ分光装置2単体で試料Sのキャリア移動度を決定することは困難である。
一方、テラヘルツ帯の電気伝導度実部スペクトルは、バックグラウンド成分に依存しないため、定量性が高い。
【0169】
図20は、赤外域の反射率とキャリア移動度との関係を示す説明図である。縦軸は赤外域の反射率であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。図20は、キャリア密度が3×1020/cm3 であり、様々な散乱確率(周波数)Γ/2π(THz)及びキャリア移動度μ(cm2 /Vs)を有す試料Sについて、計算した赤外域の反射率を示している。図20より、赤外域の反射率はキャリア移動度に応じて変化することがわかる。ただし、図20の計算はフリーキャリアのみを考慮している。しかし、測定される赤外域の反射率には様々なバックグラウンド成分が含まれており、赤外分光装置5単体で試料Sのキャリア移動度を決定することは困難である。
一方、測定される赤外域の反射率からバックグラウンド成分が精度よく得られない場合、定量性は低くなる。
【0170】
実施の形態2に係る物性測定装置10によれば、図19及び図20に示されるテラヘルツ分光装置2と赤外分光装置5との長所と短所を互いに補うことで、測定値及び計算値のフィッティングの精度を向上させることができる。
テラヘルツ分光装置2単体では、低キャリア移動度の試料Sのキャリア移動度の測定は困難である。そこで、キャリア移動度の低い試料Sについてキャリア移動度を測定するためには、赤外分光装置5を併用するとよい。他方、赤外分光装置5単体では、キャリア移動度の評価精度が低い。そこで、テラヘルツ分光装置2を併用するとよい。
つまり、実施の形態2に係る物性測定装置10によれば、低キャリア移動度の試料Sについても、キャリア移動度を高精度で測定することができる。
【0171】
テラヘルツ分光装置2と赤外分光装置5とを結合することにより、測定可能な周波数範囲を広げことができ、様々な物性の試料Sに対して、電気伝導モデル及びそのパラメータをより高精度で決定することができる。当然、決定した電気伝導モデルのパラメータを用いて計算されるキャリア移動度の精度も担保されることになる。
【0172】
本実施の形態2は以上の如きであり、その他は実施の形態1と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0173】
実施の形態3
実施の形態3は、可撓性を有す基板Kの上に薄膜Hを形成するロールツーロール製造ラインに、アニール装置と物性測定装置とを組み込んだ薄膜基板製造システムに関する。
【0174】
図21は、実施の形態3に係る薄膜基板製造システム6のブロック図である。
薄膜基板製造システム6は、基板移送部7、成膜装置8、アニール装置9、実施の形態1に係る物性測定装置1及びコンピュータ40を含む。なお、物性測定装置1は実施の形態2に係る物性測定装置10でもよい。
成膜装置8、アニール装置9及び物性測定装置1は、この順に移送ラインの上流から下流へ配置されている。
【0175】
基板移送部7は、巻き出しロール71、巻き取りロール72及び基板Kを移送する移送ロール73a、73bを含む。基板移送部7は、巻き出しロール71に巻かれた基板Kを、適切な張力及び速度で引き出し、成膜装置8及びアニール装置9により形成された薄膜基板を巻き取りロール72に巻き取る。移送ロール73a、73bは、回転駆動により基板Kを上流から下流へ移送する。基板移送部7の動作は、連続的又は不連続的である。
【0176】
図21には、移送ロール73a、73bが2本描かれているが、移送ロール73a、73bの数は一例であり、適宜増減することができる。なお、基板移送部7は、基板Kの移送能率を向上するために、基板Kを移送ロール73a、73bとの間で夫々挟む複数の押さえロールを含んでもよい。
図21では、基板移送部7は基板Kの幅方向を水平方向に保持して、基板Kを水平方向に移送している。しかし、基板移送部7は基板Kの幅方向を鉛直方向に保持して、基板Kを鉛直方向に移送してもよい。
【0177】
成膜装置8は、例えば印刷により基板K表面に膜パターンを形成するパターン形成装置である。印刷によるパターン形成の対象は、ソース・ドレイン印刷、半導体印刷、ゲート印刷等を含む。なお、成膜装置8は、ガスから材料を基板K上に堆積させるCVD装置、PVD装置等であってもよい。
【0178】
アニール装置9は、成膜装置が形成した基板K表面の薄膜Hに対して、アニール処理を行い、電気伝導度等の膜特性を向上させる。アニール装置9は、センチ波、ミリ波又はサブミリ波の電磁波を薄膜Hに照射するアニール装置である。アニール装置9の詳細は後述する。
なお、アニール装置9は、レーザアニール装置又は大気圧プラズマアニール装置であってもよい。
【0179】
図22は、実施の形態3に係るコンピュータ40のブロック図である。
コンピュータ40の構成は、物性測定装置1に含まれるコンピュータ4の構成と同様である。なお、コンピュータ40は、物性測定装置1に含まれるコンピュータ4で代用してもよい。
コンピュータ40は、実施の形態3に係る基板移送部7、成膜装置8、アニール装置9及び物性測定装置1と電気的に接続されており、これら装置を制御する。
【0180】
図23は、実施の形態3に係るアニール装置9のブロック図である。
実施の形態3に係るアニール装置9は、処理容器92、ガス導入機構93、排気機構94、載置台95、放射温度計96、熱電変換素子制御部97、電磁波供給部98及びコンピュータ99を含む。
【0181】
処理容器92は、例えばアルミニウムにより直方体状に形成されており、接地されている。処理容器92の天井部は開口されており、この開口部にはシール部材921を介して、天板922が気密に設けられている。天板922の材料は、例えば石英、窒化アルミニウム等である。
なお、処理容器92の形状は、上部が開口された直方体状に限らず、円柱状又は箱状であってもよい。
【0182】
処理容器92の側壁の対向位置に、アニール前の基板K及び薄膜Hを搬入する搬入口923と、アニール後の基板K及び薄膜Hを搬出する搬出口924とが開口されている。搬入口923及び搬出口924は、夫々基板Kの幅よりも長いスリット状をなし、略同じ高さに設けられている。
搬入口923及び搬出口924には、夫々シャッタ92A、92Bが設けられている。シャッタ92A、92Bは、基板移送部7が基板Kの移送を停止し、基板K及び薄膜Hに電磁波が照射される場合、処理容器92内部の電磁波及びガスが外部へ漏れないように、夫々搬入口923及び搬出口924を閉じる。また、シャッタ92A、92Bは、夫々軟らかい金属、例えばインジウム、銅等から形成されており、基板移送部7が基板Kの移送を停止した場合、基板Kを圧接する。
処理容器92底部の周縁部には、排気機構94と接続される排気口925が設けられている。
【0183】
ガス導入機構93は、処理容器92の側壁を貫通する2本のガスノズル931A、931Bからなり、図示しないガス供給源から処理に必要なガスを処理容器92に供給する。ここでのガスは、例えばアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや窒素等である。
なお、ガスノズル931A、931Bの本数は、2本に限るものではなく、適宜増減してもよい。
【0184】
排気機構94は、排気が流通する排気通路941、排気圧力を制御する圧力制御弁942及び処理容器92内部の雰囲気を排出する排気ポンプ943を含む。排気ポンプ943は、排気通路941及び圧力制御弁942を介して、処理容器92内部の雰囲気を、真空を含む減圧程度まで排気することができる。
【0185】
載置台95は、処理容器92の底部に形成された開口に、シール部材926を介在させて気密に取り付けられている。載置台95は接地されている。
載置台95は、載置台本体951と、熱電変換素子952と、載置板953とを含む。載置台本体951の上に熱電変換素子952が、熱電変換素子952の上に載置板953が配置される。載置板953の上には、基板Kが載置するように構成されている。
【0186】
放射温度計96は、放射温度計本体961と光ファイバ962とを含み、載置板953の温度を測定する。放射温度計96が測定した載置板953の温度は、コンピュータ99に送信される。載置板953の温度を受信したコンピュータ99は、載置板953及び薄膜Hの間の温度勾配を考慮して、載置板953の温度を薄膜Hの温度に変換する。
【0187】
載置台本体951には、上面から下面までを上下方向に貫通する貫通孔954が形成されており、貫通孔954には光ファイバ962が気密に挿通されている。光ファイバ962は、載置板953の下面直下から載置台本体951の底面を突き抜けて下方へ延び、処理容器92外部に設けられた放射温度計本体961と接続されている。光ファイバ962は、載置板34からの輻射光を放射温度計本体961に案内することができようになっている。このようにして、放射温度計96は、載置板953の温度を測定することができるように構成されている。
なお、処理容器92の側壁を貫通する貫通孔を設け、貫通孔に気密に挿通された光ファイバが直接薄膜Hからの輻射光を取り入れてもよい。これにより、薄膜Hの温度の直接測定が可能となる。
【0188】
熱電変換素子952は、基板Kを冷却する板状の冷却手段であり、例えばペルチェ素子が用いられる。ペルチェ素子は、ペルチェ効果を利用した板状の半導体素子であり、直流電流を流すことにより一面で発熱が起こり、他面で吸熱が起こる。ここでは、基板Kに近い熱電変換素子952の上側面で吸熱を起こし、基板Kを冷却する。他方、熱電変換素子952下側面では発熱が起こる。
【0189】
熱電変換素子952は、処理容器92外部に設けられた熱電変換素子制御部97とリード線971を介して電気的に接続されている。熱電変換素子制御部97は、アニール時に熱電変換素子952に供給する電流の方向と大きさとを制御する。
【0190】
熱電変換素子952の下側面と対向する載置台本体951の上部には、冷媒流路955が載置台本体951上面と略平行な面に沿って形成されている。冷媒流路955は、冷媒導入管956と冷媒排出管957とを介して、冷媒を供給する冷媒循環器958に接続されている。冷媒循環器958が動作することにより、アニール時に冷媒が冷媒流路955を流通循環し、熱電変換素子952の下側面で発熱した熱を冷媒が奪うように構成されている。これにより、熱電変換素子952の冷却効率が向上する。
なお、冷媒流路955に高温の温媒を流通循環させることも可能である。
【0191】
載置板953は、例えば酸化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ゲルマニウム、シリコン等の材料から製作される。
なお、載置台95に載置板953を設けず、熱電変換素子952の上に、直接基板Kが載置するように構成してもよい。
【0192】
電磁波供給部98は、処理容器92の天板922の上方に設けられている。電磁波供給部98は、電磁波発生源981、導波管982及び入射アンテナ983を含む。電磁波発生源981は導波管982の一端と接続され、導波管982の他端は入射アンテナ983と接続されている。
【0193】
電磁波発生源981には、例えばジャイロトロン又はマグネトロンを用いることができる。ジャイロトロンはミリ波からサブミリ波にかけての電磁波を発生する。マグネトロンはセンチ波の電磁波を発生する。電磁波発生源981は、発生した電磁波を導波管982に出力する。
【0194】
導波管982は、電磁波発生源981で発生した電磁波を入射アンテナ983に伝搬させる金属製の管であり、円形又は矩形の断面形状を有す。
【0195】
入射アンテナ983は、天板922の上面に設けられた板であり、例えば表面が銀メッキされた銅板又はアルミニウム板である。入射アンテナ983には、図示しない複数の鏡面反射レンズや反射ミラーが設けられており、導波管982から導かれた電磁波を処理容器92の処理空間に向けて反射して導入できるよう構成されている。
なお、入射アンテナ983は、処理容器92の側壁に設けられていてもよい。
【0196】
コンピュータ99は、アニール装置9全体の動作を制御する。コンピュータ99の構成は、物性測定装置1に含まれるコンピュータ4と同様の構成である。
【0197】
コンピュータ99は、例えばガス導入機構93が処理容器92に導入するガスの供給及びガスの流量を制御する。コンピュータ99は、電磁波供給部98が発生する電磁波、及び電磁波供給部98への供給電力を制御する。また、コンピュータ99は、放射温度計96からの信号に基づき、アニール温度を制御する。
【0198】
実施の形態3で対象とする基板Kは、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)等のフィルムである。これらのプラスチック基板材料のガラス転移点は、夫々100、155、145℃である。ここでは、PET基板を用いる。
【0199】
実施の形態3で対象とする薄膜Hの材料は、例えば有機伝導性材料であるPEDOT:PSS、シリルエチン置換ペンタセン、ポリ(3−アルキルチオフェン)等である。ここでは、薄膜Hの材料として、PEDOT:PSSを用いる。PEDOT:PSSのアニール温度は約200℃であり、PETのガラス転移点よりも高い。そのため、従来のランプ等によるアニール方法では、PET基板に変形が生じてしまう。
【0200】
コンピュータ99のROMには、試料Sの薄膜Hに対して照射する電磁波の周波数として、最も適切な周波数を算出するプログラムが記録されている。そのプログラムは、アニール対象の薄膜Hの厚さを、浸透深さとして照射する電磁波の周波数を算出する。浸透深さとは、電磁波が垂直に導電性の均質媒質に入射し、当該媒質内を指数関数的に減衰しながら伝搬する場合、電磁波強度が入射強度の1/e(約37%)に減衰するときの深度のことである。
浸透深さは式(19)で示される。
【0201】
【数13】

【0202】
ただし、δは浸透深さ、ρは抵抗率、μは比透磁率、fは電磁波の周波数である。
μは非磁性材の場合、μ=1となる。実施の形態3で扱う膜材料は非磁性材なので、μは1である。
【0203】
センチ波、ミリ波、サブミリ波の電磁波に対するPET基板の浸透深さは、薄膜Hの浸透深さに比べて遙かに深い。そこで、PET基板をほとんど透過し、PEDOT:PSSの薄膜Hを膜厚の深さまでしか浸透しない電磁波の周波数を算出する。具体的には、式(19)の浸透深さに膜厚を、抵抗率に薄膜Hの抵抗率を代入して周波数を算出する。得られた周波数の電磁波がミリ波又はサブミリ波である場合、電磁波発生源981にジャイロトンを搭載したアニール装置9を使用する。得られた周波数の電磁波がセンチ波である場合、電磁波発生源981にマグネトロンを搭載したアニール装置9を使用する。
【0204】
表1は、有機導電性材料及び無機導電性材料の膜について、周波数を算出した一例である。
【0205】
【表1】

【0206】
表1のAの場合、アニールに好適な電磁波は100GHzのミリ波に該当するため、電磁波発生源981にジャイロトロンを搭載したアニール装置9を使用する。
表1のBの場合、アニールに好適な電磁波は1GHzのセンチ波に該当するため、電磁波発生源981にマグネトロンを搭載したアニール装置9を使用する。銅は実施の形態3で扱う薄膜材料ではないが、ここでは参考のために例示している。
【0207】
次に、実施の形態3に係る薄膜基板製造システム6の動作について説明する。
まず、薄膜基板製造システム6を動作させる準備として、予めアニール装置9の電磁波発生源981が発生する電磁波の周波数をコンピュータ99に設定する。
【0208】
コンピュータ40に、操作部450から薄膜Hの抵抗率及び膜厚を入力する。コンピュータ40の制御部410は、取得した薄膜Hの抵抗率及び膜厚をコンピュータ99に送信する。コンピュータ99は、薄膜Hの抵抗率及び膜厚を取得し、アニールに好適な電磁波の周波数を算出する。コンピュータ99は、算出した周波数を電磁波発生源981が発生する電磁波の周波数に設定する。
【0209】
基板Kのロールを巻き出しロール71に取り付け、薄膜基板製造システム6の動作を開始させる。
【0210】
図24は、実施の形態3に係るコンピュータ40の制御部410が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
制御部410は、基板移送部7、成膜装置8、アニール装置9及び物性測定装置1の動作を開始する(ステップS701)。その具体的な内容は、以下の通りである。
制御部410は、基板移送部7を動作させ、基板Kをロールツーロール生産ラインに引き出す。制御部410は、成膜装置8を動作させて、基板K表面にパターンを印刷させる。制御部410は、コンピュータ99を介して、アニール装置9に成膜装置8が形成した薄膜Hをアニールさせる。制御部410は、物性測定装置1にアニール装置9がアニールした薄膜Hの物性を測定させる。制御部410は、製造した薄膜基板を巻き取りロール72に巻き取らせる。
【0211】
物性測定装置1は、測定した物性値をコンピュータ40に送信する。
制御部410は、物性測定装置1から薄膜Hの物性値を取得する(ステップS702)。制御部410は、薄膜Hの物性値が製造規格の範囲内か否か判断する(ステップS703)。制御部410は、薄膜Hの物性値が製造規格の範囲内であると判断した場合(ステップS703:YES)、ステップS701に制御を戻す。制御部410は、薄膜Hの物性値が製造規格の範囲内にないと判断した場合(ステップS703:NO)、基板移送部7、成膜装置8、アニール装置9及び物性測定装置1の動作を停止する(ステップS704)。
制御部410は、以上のステップをマルチタスクで連続的に実行する。
基板移送部7、成膜装置8、アニール装置9及び物性測定装置1の動作を停止した場合、ユーザは巻き取りロール72から製造規格外の薄膜基板を取り外す。
【0212】
制御部410は、ユーザからの指示待ち状態となる。ユーザは薄膜基板の製造を再開するか否かをコンピュータ40に指示する。制御部410は、ユーザからの指示を受けて、基板移送部7、成膜装置8、アニール装置9及び物性測定装置1の動作を再開するか否か判断する(ステップS705)。制御部410は、動作を再開する場合(ステップS705:YES)、成膜装置8に成膜条件を変更させるか、又はアニール装置9にアニール条件を変更させ(ステップS706)、ステップS701に処理を戻す。ここでの成膜条件の変更は、例えばレジスト条件、プリント速度等のパターン形成条件を変更することである。ここでのアニール条件の変更は、例えば電磁波の強度を所定値だけ大きい値に設定することである。あるいは、アニール条件の変更は、アニール時間を変更することである。制御部410は、動作を再開しない場合(ステップS705:NO)、処理を終了する。
【0213】
実施の形態3に係る薄膜基板製造システム6によれば、ロールツーロール方式により薄膜基板を連続的に製造することができる。また、ロールツーロール製造ラインに物性測定装置1を組み込むことにより、製造中の薄膜基板の品質が製造規格から外れている場合、製造ラインを停止することができる。これにより、歩留りが向上する。
【0214】
実施の形態3に係る薄膜基板製造システム6によれば、製造中の薄膜基板の品質が製造規格から外れている場合、短時間で薄膜基板の製造条件を最適化した後、製造を再開することができる。実施の形態3に係る薄膜基板製造システム6は、かかるフィードバック機能を有しているため、薄膜基板の生産効率を向上させることができる。
【0215】
本実施の形態3は以上の如きであり、その他は実施の形態1又は実施の形態2と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0216】
実施の形態4
図25は、実施の形態4に係る物性測定装置のコンピュータ4のハードウェア群を示すブロック図である。実施の形態4に係る物性測定装置は、実施の形態1に係る物性測定装置1でもよいし、実施の形態2に係る物性測定装置10でもよい。実施の形態4に係る物性測定装置は、実施の形態3に係る物性測定装置1、10でもよい。
【0217】
実施の形態1乃至3に係る物性測定装置1、10を動作させるためのプログラムは、本実施の形態4のように、外部インタフェース47にUSB(Universal Serial Bus)メモリ、CD−ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の可搬型記録媒体1Aを読み取らせて、RAM43に記録してもよい。また、当該プログラムは、外部インタフェース47及びインターネット等の通信網Nを介して接続される他のサーバコンピュータ(図示せず)からダウンロードすることも可能である。以下に、その内容を説明する。
【0218】
図25に示すコンピュータ4は、上述した各種ソフトウェアを実行するプログラムを可搬型記録媒体1Aから取得する。あるいは、図25に示すコンピュータ4は、上述した各種ソフトウェアを実行するプログラムを、通信網Nを介して他のサーバコンピュータ(図示せず)からダウンロードする。当該プログラムは、制御プログラムとしてRAM43にロードして実行される。これにより、上述したコンピュータ4として機能する。
ある。
【0219】
本実施の形態4は以上の如きであり、その他は実施の形態1乃至3と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0220】
1 物性測定装置
2 テラヘルツ分光装置
21 レーザ
23 テラヘルツ波発生器
24 移動部
25 テラヘルツ波検出器
26 時間遅延機構
4 コンピュータ
K 基板
H 薄膜
F 成膜領域
N 非成膜領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成された薄膜の物性を測定する物性測定装置において、
テラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生源と、
基板表面に薄膜が形成された成膜領域及び該基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域に、前記テラヘルツ波発生源からのテラヘルツ波が照射されるように、該基板及び薄膜を移動する移動手段と、
前記成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を複数回検出する検出手段と、
該検出手段が複数回検出した透過波又は反射波の電場強度を積算する積算手段と、
該積算手段が積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定する測定手段と
を備える
ことを特徴とする物性測定装置。
【請求項2】
前記移動手段は、
前記成膜領域及び非成膜領域に、テラヘルツ波が交互に照射されるように、前記基板及び薄膜を移動するようにしてあり、
前記検出手段は、
前記電場強度を交互に複数回検出するようにしてあり、
前記積算手段は、
前記検出手段が交互に複数回検出した前記電場強度を積算するようにしてある
ことを特徴とする請求項1に記載の物性測定装置。
【請求項3】
前記測定手段が測定した時間変化に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の透過率又は反射率を算出する第一算出手段と、
前記薄膜の膜厚を受け付ける膜厚受付手段と、
前記基板の複素屈折率を受け付ける基板屈折率受付手段と、
前記薄膜の複素屈折率に複数の異なる値を設定する薄膜屈折率設定手段と、
前記膜厚受付手段が受け付けた薄膜の膜厚、前記基板屈折率受付手段が受け付けた基板の複素屈折率、及び前記薄膜屈折率設定手段が薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の透過率又は反射率を夫々複数算出する第二算出手段と、
第一算出手段が算出した透過率及び第二算出手段が算出した複数の透過率、又は第一算出手段が算出した反射率及び第二算出手段が算出した複数の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定する薄膜屈折率決定手段と
を備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の物性測定装置。
【請求項4】
前記測定手段が測定した時間変化に基づいて、透過波又は反射波の電場強度の時間波形を作成する波形作成手段と、
前記基板の厚さを受け付ける基板厚受付手段と、
該基板厚受付手段が受け付けた基板の厚さ及び前記基板屈折率受付手段が受け付けた基板の複素屈折率の実部に基づいて、前記波形作成手段により作成した透過波又は反射波の電場強度の時間波形に、夫々基板内で多重反射した透過波又は反射波の電場強度の時間波形が現れる時間を算出する時間算出手段と
を備え、
前記第一算出手段は、
前記時間算出手段が算出した時間に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の透過率又は反射率を算出するようにしてある
ことを特徴とする請求項3に記載の物性測定装置。
【請求項5】
前記薄膜屈折率決定手段が決定した薄膜の複素屈折率に基づいて、該薄膜の複素電気伝導度を算出する伝導度算出手段
を備える
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の物性測定装置。
【請求項6】
電気伝導モデル及び該電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを変更し、薄膜の複素電気伝導度を算出するモデル伝導度算出手段と、
前記伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度及び前記モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度に基づいて、前記電気伝導モデルを決定するモデル決定手段と、
前記伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度及び前記モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度に基づいて、前記モデル決定手段により決定された電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを決定する第一パラメータ決定手段と、
該第一パラメータ決定手段が決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する手段と
を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の物性測定装置。
【請求項7】
前記伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度に基づいて、前記モデル伝導度算出手段が算出した薄膜の複素電気伝導度を限定する伝導度限定手段と、
該伝導度限定手段が限定した複素電気伝導度に基づいて、前記薄膜に対する赤外線の反射率を算出する反射率算出手段と、
前記薄膜に対する赤外線の反射率を受け付ける反射率受付手段と、
前記反射率算出手段が算出した赤外線の反射率及び前記反射率受付手段が受け付けた赤外線の反射率に基づいて、前記伝導度限定手段により限定された複素電気伝導度を表すパラメータを決定する第二パラメータ決定手段と、
該第二パラメータ決定手段が決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する手段と
を備える
ことを特徴とする請求項6に記載の物性測定装置。
【請求項8】
基板表面に形成された薄膜の物性を測定する物性測定方法において、
基板表面に薄膜が形成された成膜領域及び該基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域にテラヘルツ波を複数回照射し、
前記成膜領域及び非成膜領域からの透過波又は反射波の電場強度を複数回検出し、
前記成膜領域及び非成膜領域から複数回検出した透過波又は反射波の電場強度を積算し、
積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定し、
測定した時間変化に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率を算出し、
前記薄膜の複素屈折率に複数の異なる値を設定し、
前記薄膜の厚さ、基板の複素屈折率及び薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出し、
第一の透過率及び第二の複数の透過率、又は第一の透過率及び第二の複数の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定する
ことを特徴とする物性測定方法。
【請求項9】
前記成膜領域及び非成膜領域にテラヘルツ波を複数回照射するに際し、
前記成膜領域及び非成膜領域にテラヘルツ波を交互に複数回照射し、
前記電場強度を複数回検出するに際し、
前記電場強度を交互に複数回検出し、
複数回検出した前記電場強度を積算するに際し、
交互に複数回検出した前記電場強度を積算する
ことを特徴とする請求項8に記載の物性測定方法。
【請求項10】
第二の複数の透過率又は反射率を算出するに際し、
前記薄膜の厚さは、膜厚測定装置により測定した厚さである
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の物性測定方法。
【請求項11】
決定した薄膜の複素屈折率に基づいて、該薄膜の第一の複素電気伝導度を算出し、
電気伝導モデル及び該電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを変更して、薄膜の第二の複素電気伝導度を算出し、
第一及び第二の複素電気伝導度に基づいて、前記電気伝導モデルを決定し、
決定した電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを変更して、薄膜の第三の複素電気伝導度を算出し、
前記薄膜に対する赤外線の反射率を測定し、
測定した赤外線の反射率に基づいて、薄膜の第四の複素電気伝導度を算出し、
第三及び第四の複素電気伝導度に基づいて、決定した前記電気伝導モデルの複素電気伝導度を表すパラメータを決定し、
決定したパラメータに基づいて、薄膜のキャリア移動度を算出する
ことを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の物性測定方法。
【請求項12】
巻き出しロールに巻かれた可撓性を有する基板を巻き出し、巻き取りロールに巻き取る移送の過程で、該基板表面に薄膜を形成する成膜装置を設けた薄膜基板製造システムにおいて、
前記成膜装置が形成した薄膜を任意のアニール条件でアニールするアニール装置と、
該アニール装置がアニールした薄膜の物性を測定する請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の物性測定装置と
を含むことを特徴とする薄膜基板製造システム。
【請求項13】
前記物性測定装置から信号を受信し、前記成膜装置の動作を制御する制御装置
を含み、
前記成膜装置、アニール装置及び物性測定装置は、前記巻き出しロール及び巻き取りロールの間の移送路に沿って配置され、
前記物性測定装置は、
所定の信号を前記制御装置に送信する送信手段
を有し、
前記制御装置は、
前記物性測定装置の送信手段が送信した前記所定の信号を受信した場合、前記成膜装置の動作を停止する手段
を有する
ことを特徴とする請求項12に記載の薄膜基板製造システム。
【請求項14】
前記制御装置は、
前記アニール装置のアニール条件を設定するようにしてあり、
前記物性測定装置の送信手段が送信した前記所定の信号を受信した場合、前記アニール装置のアニール条件を変更する手段
を有する
ことを特徴とする請求項13に記載の薄膜基板製造システム。
【請求項15】
任意の移送速度で、前記基板を巻き出しロールから巻き出して移送し、該基板表面に薄膜が形成された薄膜基板を巻き取りロールに巻き取る基板移送手段
を含み、
前記制御装置は、
前記基板移送手段の移送速度を制御するようにしてあり、
前記物性測定装置の送信手段が送信した前記所定の信号を受信した場合、前記基板移送手段の移送速度を変更する手段
を有する
ことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の薄膜基板製造システム。
【請求項16】
コンピュータに、基板表面に形成された薄膜の物性を測定させるプログラムにおいて、
コンピュータに、
基板表面に薄膜が形成された成膜領域及び該基板表面に薄膜が形成されていない非成膜領域に照射されたテラヘルツ波の透過波又は反射波の電場強度を複数回検出する検出ステップと、
前記成膜領域及び非成膜領域から複数回検出した透過波又は反射波の電場強度を積算する積算ステップと、
積算した透過波又は反射波の電場強度の時間変化を測定するステップと
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項17】
前記検出ステップは、
前記電場強度を交互に複数回検出し、
前記積算ステップは、
交互に複数回検出した前記電場強度を積算する
ことを特徴とする請求項16に記載のプログラム。
【請求項18】
コンピュータに、
測定した時間変化に基づいて、前記薄膜に対するテラヘルツ波の第一の透過率又は反射率を算出するステップと、
前記薄膜の複素屈折率に複数の異なる値を設定するステップと、
前記薄膜の厚さ、基板の複素屈折率及び薄膜の複素屈折率に設定した複数の異なる値に基づいて、薄膜に対するテラヘルツ波の第二の透過率又は反射率を夫々複数算出するステップと、
第一の透過率及び第二の複数の透過率、又は第一の反射率及び第二の複数の反射率に基づいて、薄膜の複素屈折率を決定するステップと
を実行させることを特徴とする請求項16又は請求項17に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−179971(P2011−179971A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44546(P2010−44546)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】