説明

物標情報推定装置

【課題】レーダ波を用いて検出される物標に関する情報(少なくとも路面からの高さ)を少ない処理負荷で検出する。
【解決手段】判定の対象となる選択物標との距離が100mより大きく(S410:YES)、且つ、中位物標のヌル距離ではない(S420:YES)場合、選択物標の受信電力がヌルポイント(外挿フラグGF=1又は前サイクルの受信電力との電力差ΔPが10dB以上)になっていれば(S430:YES or S460:YES)、その選択物標を高位物標と判定する(S440)。選択物標との距離が100m以下(S410:NO) の場合は、選択物標の受信電力がヌルポイントになっていれば(S470:YES or S500:YES)、その選択物標を中位物標と判定し(S480)、ヌルポイントになっていなければ、その選択物標を低位物標と判定する(S510)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の周囲に存在する物標に関する情報を推定する物標情報推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ミリ波帯の高周波信号からなるレーダ波を水平方向(車幅方向)に機械的に又は電子的にスキャンすることによって、レーダ波を反射した物標に関する情報(物標との距離,相対速度,方位等)を検出する車載レーダ装置が知られている。
【0003】
この種の車載レーダ装置では、高さ方向(車高方向)の情報が得られないため、自車両が乗り越え可能な物体であるマンホールの蓋や、自車両くぐり抜け可能な物体である看板等、自車両が衝突する可能性のない物体(以下、これらを総称して不要反射物という)を、先行車両や路上の落下物等、自車両が衝突する可能性のある(車両制御の対象とすべき)障害物と区別検出することが困難である。
【0004】
これに対して、レーダ波の高さ方向のビーム幅(検知範囲)を絞ることにより、不要反射物を検知され難くすることが考えられる。しかし、この場合、道路の傾斜が変化するポイント付近での検知距離が低下し、しかも、路面の傾斜が大きい(横断曲線の半径が小さい)ほど、その影響が大きくなるため、無闇にビーム幅を絞ることはできなかった。
【0005】
ところで、レーダ波を用いてレーダ波の反射地点の高さを求める手法として、反射波の受信電力が、マルチパスの影響により、反射地点との距離に応じて変化することを利用するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
即ち、レーダ波を反射する反射地点の高さ(即ち、物標が存在する位置の高さや物標自体の高さ)が路面よりも高いときには、マルチパス現象が生じ、直接受信される反射波と、路面で1回反射してから受信される反射波とで、行路差に基づく位相差が生じ、互いに打ち消しあう関係にあるときに、受信電力が低下する。
【0007】
これを概念的に表すと、図8に示すように、マルチパスの影響を受けた反射波の受信電力Pは、レーダ装置の取り付け高さhが固定されているものとして、反射地点の高さHと、反射地点までの距離Rとによって決まるため(1)式で表され、これを反射地点の高さHについて解いた式は(2)式で表される。なお、f,gは関数を表す。
【0008】
P=f(H,R) (1)
H=g(R,P) (2)
つまり、反射波の受信電力が極小となる地点(ヌルポイント)R=Rnullと、その時の受信電力P=Pnullとを検出して、(2)式に当てはめることによって、レーダ波の反射地点の高さ、即ち、物標の高さHを求めることが可能となる。
【0009】
また、別の手法として、反射波の受信電力が変動していれば、マルチパスを生じさせるような高さのある物標であるから、車両で乗り越えることができる確率は低いと判断し、反射波の受信電力が変動しなければ、マルチパスを生じさせない高さのない物標であるから、車両で乗り越えることができる確率は高いと判断することも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−196725−号公報
【特許文献2】特開2004−198438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2に記載の方法では、乗り越え可能な物標であるか否かを少ない処理負荷で判断することができるものの、車両等の衝突する可能性のある物体と、高い位置にある看板や信号機等のくぐり抜け可能な物体との識別ができないという問題があった。
【0012】
一方、特許文献1に記載の方法では、全ての物体について高さを求めることが可能であるが、処理負荷が大きいという問題があった。
本発明は、上記問題点を解決するために、レーダ波を用いて検出される物標に関する情報(少なくとも路面からの高さ)を少ない処理負荷で検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明は、車両に搭載され、車両の周囲に存在する物標に関する情報を推定する物標情報推定装置であって、この物標情報推定装置では、物標検出手段が、予め設定された測定サイクル毎に、レーダ波を送受信して該レーダ波を反射した物標との距離を少なくとも検出し、追尾手段が、物標検出手段にて複数の前記測定サイクルに渡って検出される物標である対象物標を追尾する。
【0014】
すると、ヌル距離抽出手段が、対象物標からの反射波の受信電力がマルチパスによってヌルポイントとなる対象物標との距離をヌル距離として抽出し、高さ推定手段が、レーダ波の反射地点が位置する路面からの高さに対応づけて予め複数用意されたヌルポイントの発生パターンと、ヌル距離抽出手段での抽出結果とを照合して対象物標が位置する路面からの高さを推定する。
【0015】
ここで、図7は、反射地点(対象物標)からの反射波の受信電力と反射地点までの距離との関係を、マルチパスが発生していない場合と発生した場合とについてシミュレーションによって求めた結果を例示するものであり、(a)は反射地点の高さが5mの場合、(b)は反射地点の高さが60cmの場合、(c)は反射地点の高さが1cmの場合である。
【0016】
なお、受信電力Pは、図8のモデルを使用し、レーダ波を送受信する地点をA、レーダ波の反射地点をB、マルチパス波の路面反射点をC、A−B間の水平距離をR、直接波が伝搬する距離(A−B間の距離)をRAB、マルチパス波が伝搬する距離(A−C−B間の距離)をRACB 、RAB,RACB の経路長差によって生じる位相差をφ、路面反射点Cでの反射率をρ、送信電力をPt、送信アンテナゲインをGt、受信アンテナゲインをGr、アンテナの反射断面積(RCS)をσ、レーダ波の波長をλ、Kを定数として(3)式により求めたものである。
【0017】
【数1】

(3)式の詳細は、例えば、「車間距離計測用76GHzミリ波レーダの開発」日本機械学会[No.006]Dynamics and Design Conference 2000 CD-ROM 論文集を参照のこと。また、図7は、ノイズ(1/fノイズ等)の影響を加えたものを示している。
【0018】
図7に示すように、ヌルポイント(受信電力の極小点)は、路面からの高さに応じた距離間隔で発生し、その高さが高くなるほどヌルポイントの距離間隔は狭くなる。但し、路面に位置するマンホール等、路面からの高さがほぼゼロ(数cm程度以下)ではヌルポイントは発生せず、反射地点の高さに応じてヌルポイントの発生パターンが異なることがわかる。
【0019】
このように、本発明の物標情報推定装置によれば、ヌルポイントの発生パターンと実際のヌル距離の抽出結果とを照合するだけの少ない処理負荷で、対象物標の路面からの高さ(対象物標が位置する高さ或いは対象物標自体の高さ)を検出することができる。
【0020】
なお、推定手段において、ヌルポイントの発生パターンは、路面からの高さを細かく分割(例えば10cm間隔)して、そのそれぞれについて用意されていてもよいが、実用的には、車両による乗り越えが可能な上限高さに対応づけられたもの、又は車両によるくぐり抜けが可能な下限高さに対応づけられたもののうち少なくとも一方、より好ましくは、その両方が用意されていればよい。
【0021】
この場合、対象物標が乗り越え可能な物標であるか否か、又はくぐり抜け可能な物標であるか否かを簡易に識別することができ、特に両方を用いれば、車両が衝突する可能性の高い物標であるか否かを簡易に識別することができる。
【0022】
また、本発明の物標情報推定装置は、更に、幅推定手段が、高さ推定手段にて推定された高さを車高として、該車高から車幅を推定するように構成されていてもよい。
つまり、多くの車両では、車高と車幅とはほぼ比例した関係(車高が高いほど、車幅が広い)を有していると見なすことができるため、車高から車幅を推定することができるのである。なお、幅推定手段は、高さ推定手段の結果から車である可能性が高いと推定される物標に対してだけ適用することが望ましい。
【0023】
ところで、対象物標がヌル距離に存在する場合、対象物標からの反射波は打ち消しあうため、物標検出手段にて検出されないか、検出されたとしても信号レベルが非常に小さなものとなる。
【0024】
そこで、追尾手段は、対象物標を一時的にロストした場合、過去の測定サイクルでの検出結果に基づいて今回の測定サイクルでの対象物標との距離を推定し、その推定距離に対象物標が存在するものとみなす外挿を行い、ヌル距離抽出手段は、追尾手段により外挿が行われた場合に、推定距離をヌル距離として抽出することが望ましい。
【0025】
また、ヌル距離抽出手段は、前記対象物標からの反射波の受信電力が、前回の測定サイクルでの検出値から予め設定された許容値以上変化した場合にも、その対象物標との距離をヌル距離として抽出することが望ましい。
【0026】
前者の場合、対象物標が物標検出手段にて検出されなくても、ヌル距離を抽出することができ、後者の場合、対象物標が物標検出手段にて検出され続けている状態であっても、ヌル距離を抽出することができる。
【0027】
ところで、高さ推定手段は、静止している対象物標についてのみ推定を行ってもよい。
つまり、静止している対象物標については、接近するに従って様々な距離で受信電力を測定することができるため、ヌルポイントの発生パターンとの照合を高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】クルーズ制御システムの概略構成を示したブロック図。
【図2】ヌルポイント発生パターンテーブルの内容を示す説明図。
【図3】ヌルポイント発生パターンテーブルで、衝突可能性の判定に使用するパターンを抜粋した説明図。
【図4】信号処理部が実行するメイン処理の内容を示すフローチャート。
【図5】情報推定処理の詳細を示すフローチャート。
【図6】衝突可能性判定処理の詳細を示すフローチャート。
【図7】反射波の受信電力と反射地点までの距離との関係を反射地点の路面からの高さを変えてシミュレーションによって算出した結果を示すグラフ。
【図8】マルチパスが受信電力に与える影響を算出するために使用したモデルを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[全体構成]
図1は、本発明を適用したクルーズ制御システムの概略構成を示したブロック図である。
【0030】
図1に示すように、クルーズ制御システムは、車間制御電子制御装置(以下「車間制御ECU」と称す。)30、エンジン電子制御装置(以下「エンジンECU」と称す。)32、ブレーキ電子制御装置(以下「ブレーキECU」と称す。)34を備え、これらはLAN通信バスを介して互いに接続されている。また、各ECU30,32,34は、いずれも周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、少なくともLAN通信バスを介して行うためのバスコントローラを備えている。
【0031】
尚、本実施形態では、LAN通信バスを介して行うECU間のデータ通信は、車載ネットワークで一般的に利用されているCAN(ドイツ、Robert Bosch社が提案した「Controller Area Network 」)プロトコルを用いている。
【0032】
また、車間制御ECU30には、図示しない警報ブザー、クルーズコントロールスイッチ、目標車間設定スイッチ等が接続されている他、本発明の物標情報推定装置に相当するレーダセンサ1が接続されている。
【0033】
ここでレーダセンサ1は、FMCW方式のいわゆる「ミリ波レーダ」として構成されたものであり、周波数変調されたミリ波帯のレーダ波を送受信することにより、先行車両や路側物等の物標を認識し、これらの認識した物標(以下「認識物標」と称す。)に関する情報である物標情報を生成して、車間制御ECU30に送信する。
【0034】
なお、物標情報には、認識物標との距離,相対速度、認識物標が位置する方位、衝突可能性の高低、衝突可能性が高い認識物標についてはサイズの推定値(高さ,幅)等が含まれている。
【0035】
[ブレーキECUの構成]
ブレーキECU34は、図示しないステアリングセンサ、ヨーレートセンサからの検出情報(操舵角、ヨーレート)に加え、図示しないM/C圧センサからの情報に基づいて判断したブレーキペダル状態を車間制御ECU30に送信すると共に、車間制御ECU30から目標加速度、ブレーキ要求等を受信し、これら受信した情報や判断したブレーキ状態に従って、ブレーキ油圧回路に備えられた増圧制御弁・減圧制御弁を開閉するブレーキアクチュエータを駆動することでブレーキ力を制御するように構成されている。
【0036】
[エンジンECUの構成]
エンジンECU32は、図示しない車速センサ、スロットル開度センサ、アクセルペダル開度センサからの検出情報(車速、エンジン制御状態、アクセル操作状態)を車間制御ECU30に送信すると共に、車間制御ECU30からは目標加速度、フューエルカット要求等を受信し、これら受信した情報から特定される運転状態に応じて、内燃機関のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ等に対して駆動命令を出力するように構成されている。
【0037】
[車間制御ECUの構成]
車間制御ECU30は、エンジンECU32から車速やエンジン制御状態、ブレーキECU34から操舵角、ヨーレート、ブレーキ制御状態等を受信する。また、車間制御ECU30は、クルーズコントロールスイッチ,目標車間設定スイッチなどによる設定値、及びレーダセンサ1から受信した物標情報に基づいて、先行車両との車間距離を適切な距離に調節するための制御指令として、エンジンECU32に対しては、目標加速度、フューエルカット要求等を送信し、ブレーキECU34に対しては、目標加速度、ブレーキ要求等を送信する。また、車間制御ECU30は、警報発生の判定を行い、警報が必要な場合には警報ブザーを鳴動させるように構成されている。
【0038】
[レーダセンサの構成]
ここで、レーダセンサ1の詳細について説明する。
レーダセンサ1は、時間に対して周波数が直線的に増加する上り区間、及び周波数が直線的に減少する下り区間を有するように変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器10と、発振器10が生成する高周波信号を増幅する増幅器12と、増幅器12の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器14と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ16と、レーダ波を受信するn個の受信アンテナからなる受信アンテナ部20とを備えている。
【0039】
また、レーダセンサ1は、受信アンテナ部20を構成するアンテナのいずれかを順次選択し、選択されたアンテナからの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器22と、増幅器22にて増幅された受信信号Srおよびローカル信号Lを混合してビート信号BTを生成するミキサ23と、ミキサ23が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ24と、フィルタ24の出力をサンプリングしデジタルデータに変換するA/D変換器25と、発振器10の起動または停止やA/D変換器25を介したビート信号BTのサンプリングを制御すると共に、そのサンプリングデータを用いた信号処理や、車間制御ECU30との通信を行い、信号処理に必要な情報(車速情報)、およびその信号処理の結果として得られる情報(ターゲット情報など)を送受信する処理などを行う信号処理部26とを備えている。
【0040】
このうち、受信アンテナ部20を構成する各アンテナは、そのビーム幅がいずれも送信アンテナ16のビーム幅全体を含むように設定されている。そして、各アンテナがそれぞれCH1〜CHnに割り当てられている。
【0041】
また、信号処理部26は、周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、更に、A/D変換器25を介して取り込んだデータについて、高速フーリエ変換(FFT)処理などを実行するための演算処理装置(例えばDSP)を備えている。
【0042】
[レーダセンサの動作]
このように構成された本実施形態のレーダセンサ1では、信号処理部26からの指令に従って発振器10が起動すると、その発振器10が生成し、増幅器12が増幅した高周波信号を、分配器14が電力分配することにより、送信信号Ssおよびローカル信号Lを生成し、このうち送信信号Ssは、送信アンテナ16を介してレーダ波として送出される。
【0043】
そして、送信アンテナ16から送出され物体に反射して戻ってきた反射波は、受信アンテナ部20を構成する全ての受信アンテナにて受信され、受信スイッチ21によって選択されている受信チャンネルCHi(i=1〜n)の受信信号Srのみが増幅器22で増幅されたあとミキサ23に供給され
る。すると、ミキサ23では、この受信信号Srに分配器14からのローカル信号Lを混合することによりビート信号BTを生成する。このビート信号BTは、フィルタ24にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器25にてサンプリングされ、信号処理部26に取り込まれる。
【0044】
なお、受信スイッチ21は、レーダ波の一変調周期の間に、すべてのチャンネルCH1〜CHnが所定の回(例えば512回)ずつ選択されるよう切り替えられ、また、A/D変換器25は、この切り替えのタイミングに同期してサンプリングを行う。つまり、レーダ波の一変調周期の間に、各チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り/下り各区間毎にサンプリングデータが蓄積されることになる。
【0045】
[信号処理部]
次に、信号処理部26での処理について説明する。
なお、信号処理部26を構成するROMには、後述する処理のプログラムの他、処理の実行に必要なヌルポイント発生パターンマップが少なくとも記憶されている。
【0046】
<ヌルポイント発生パターンマップ>
図2は、ヌルポイント発生パターンマップの内容の概略を示す説明図である。
図2に示すように、ヌルポイント発生パターンマップは、自車両から物標までの0m〜100mの距離を、0m〜20m(領域幅20m)、20m〜100m(領域幅80m)の二つの領域に区分けすると共に、100m〜200mの距離を、領域幅10mずつの10個の領域に区分けし、マルチパスの影響を受けた反射波の受信電力が極小となるヌルポイントが、その領域内に一つでも存在すればマップ値M(R)として「1」を、一つも存在しなければマップ値M(R)として「0」を設定したものである。
【0047】
ここでは、路面からの高さ0〜350cmの範囲を10cm単位で区切って36個のパターンが格納されている。
但し、マルチパスの影響を受けた反射波の受信電力は、図8に示すモデルを使用し、送信波は物標に直接到達し、反射波は直接戻ってくるルートと、道路に一度反射して戻ってくるルートとを考慮した既述の(3)式によって求めている。但し、マップの内容は、ノイズ(1/fノイズ等)も考慮したものとなっている。
【0048】
図3は、ヌルポイント発生パターンマップから、自車との衝突可能性の高低を判定するために使用されるパターンを抽出したものであり、自車両が乗り越えることが可能な物標(以下「低位物標」と称す。)であるか否かを判定するために使用される高さ10cmの地点を反射地点とする物標のヌルポイント発生パターンと、自車両がくぐり抜けることができない可能性のある物標(以下「中位物標」と称す。)であるか否かを判定するために使用される高さ200cmの地点を反射地点とする物標のヌルポイント発生パターンと、ヌルポイント発生パターンマップで設定した全ての距離領域でマップ値M(R)が「1」となる下限の高さ(350cm)を反射地点とする物標のヌルポイント発生パターンとからなる。
【0049】
なお、自車両がくぐり抜けることができる可能性の高い物標を以下では「高位物標」と称するものとする。つまり、中位物標が自車と衝突する可能性のある物標であり、低位物標及び高位物標が自車と衝突する可能性が低い物標である。
【0050】
図示されているように、低位物標の判定パターンは、0〜20mの領域でのみ「1」に設定され、中位物標の判定パターンは、周期的に「1」が設定されているが、遠距離ではその間隔が広く、近距離になるほど間隔が狭くなっている。
【0051】
<メイン処理>
ここで、信号処理部26が実行するメイン処理を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0052】
なお、本処理は、レーダ波の一変調周期を測定サイクルとして繰り返し起動する。
本処理が起動すると、S110では、前回の測定サイクルの間に蓄積された一変調周期分のサンプリングデータについて周波数解析処理(ここではFFT処理)を実行し、各チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り/下り各区間毎にビート信号BTのパワースペクトルを算出する。
【0053】
S120では、S110で求めたパワースペクトル上でピークとなる周波数成分(以下「ピーク周波数成分」と称する。)を抽出するピークサーチを行う。なお、このピークサーチにて抽出されるピーク周波数成分には、後述するS180での予測値に適合するものとそれ以外のものとがあり、更に、予測値に適合するピーク周波数成分が存在しない場合には、ノイズや他のピーク周波数成分に埋もれているものとみなしてピーク周波数成分の外挿を行う。
【0054】
なお、適合するとは、予め設定された許容範囲内で一致することを意味するものとする。また、外挿したピーク周波数成分の信号レベルは、ゼロ、或いはノイズレベルに設定する。
【0055】
S130では、S120で抽出されたピーク周波数成分(但し、外挿されたものを除く)毎かつ変調区間毎に、そのピーク周波数を発生させた反射波の到来方向を求める方位演算処理を実行する。具体的には、各チャンネルCH1〜CHnから集めたn個の同一周波数のピーク周波数成分について周波数解析処理(ここではFFT処理、又はMUSIC等のスーパーレゾリューション法)を実施する。
【0056】
S140では、S120にて抽出された上り変調時のピーク周波数成分と下り変調時のピーク周波数成分との組み合わせを設定するペアマッチ処理を実行する。具体的には、S120で抽出したピーク周波数成分の信号レベルやS130にて算出した到来方向がほぼ一致するもの(両者の差が予め設定された一致判定閾値以下であるもの)を組み合わせる。更に、設定された各組み合わせについて、FMCWレーダにおける周知の手法を用いて距離,相対速度を算出し、その算出距離,算出速度が予め設定された上限距離,上限速度より小さいもののみを、正式なペアとして登録する。
【0057】
S150では、今回の測定サイクルのS140で登録されたペア(以下「今サイクルペア」と称する。)毎に、これら今サイクルペアが、前回の測定サイクルのS140で登録されたペア(以下「前サイクルペア」と称する。)と同一の物標を表すものであるか(履歴接続があるか)を判定する履歴追尾処理を実行する。
【0058】
具体的には、前サイクルペアの情報に基づいて、前サイクルペアに対応する今サイクルペアの予測位置及び予測速度を算出し、その予測位置,予測速度と、今サイクルペアから求めた検出位置,検出速度との差分が(位置差分,速度差分)が予め設定された上限値(上限位置差,上限速度差)より小さい場合には、履歴接続あるものと判断し、複数の測定サイクル(例えば5サイクル)に渡って履歴接続があると判断されたペアを物標であると認識する。なお、今サイクルペアには履歴接続のある前サイクルペアの情報(例えば、履歴接続の回数や、後述する外挿カウンタ,外挿フラグ等)が順次引き継がれていくようにされている。
【0059】
S160では、今サイクルのS150で認識された物標を今サイクル物標、前サイクルのS150で認識された物標を前サイクル物標として、今サイクル物標と履歴接続のない前サイクル物標があれば、その前サイクル物標についての予測値に基づいて外挿ペアを作成し、その外挿ペアを今サイクル物標に追加する物標外挿処理を実行する。
【0060】
なお、各今サイクル物標には、外挿の有無を表す外挿フラグ、連続して外挿された回数を表す外挿カウンタが設定され、今サイクル物標が実際に検出された実ペアである場合には外挿フラグGF,外挿カウンタがゼロクリアされ、今サイクル物標が外挿ペアである場合には外挿フラグGFが1にセットされると共に、外挿カウンタがインクリメントされる。そして、外挿カウンタのカウント値が予め設定された破棄閾値に達した場合は、その物標をロストしたものとして破棄する。
【0061】
S170では、S150,S160にて登録された今サイクル物標のそれぞれについて、次サイクルで検出されるべきピーク周波数、検出されるべき方位角度を求める次サイクル物標予測処理を実行する。
【0062】
S180では、上述のS110〜S170で得た情報、及び車間制御ECU30から得た車速情報に基づいて、認識物標に関する情報を推定する情報推定処理を実行し、続くS190では、認識された物標毎に、その物標の速度,位置,方位角度,S180にて推定された情報からなる物標情報を生成して車間制御ECU30に送信して本処理を終了する。
【0063】
[情報推定処理]
次に、S180にて実行する情報推定処理の詳細を、図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0064】
なお、本処理に必要なパラメータとして、各今サイクル物標には、その物標に対する何サイクル目の処理かを識別する識別子を生成するためのカウンタCnt、その物標の衝突可能性の高低を判定済みであるか否かを表す判定済フラグJF、その物標が低位物標であることを表す低位置フラグLF、その物標が高位物標であることを表す高位置フラグHFが用意されている。なお、これらのパラメータCnt,JF,LF,HFは、その物標が最初に認識された時に、値がゼロクリアされた状態で生成されるものとする。
【0065】
本処理では、まずS210にて、今サイクル物標の中で、S220〜S280に示す処理の対象となっていない未選択の静止物標が存在するか否かを判断する。具体的には、自車両との相対速度が、車間制御ECU30から取得した速度情報(自車速)と一致する物標を静止物標とする。
【0066】
S210にて肯定判断された場合は、S220に進み、未選択の静止物標の一つを選択する。この選択された静止物標を以下では第1選択物標と称する。
続くS230では、第1選択物標の衝突可能性について判定済みであるか否かを、判定済フラグJFが「1」にセットされているか否で判断し、肯定判断された場合はS210に戻る。
【0067】
一方、S230にて否定判断された場合は、S240にて、判定実施条件を満たしているか否かを判断する。なお、本実施形態では、第1選択物標までの距離Rが20mより大きく200m以下であり、且つ、自車速が10km/h以上であることを判定実施条件としている。
【0068】
判定実施条件が20mである理由は、20m未満では、アンテナの指向性の影響で全ての物標で1となるためである。
S240にて否定判断された場合、即ち、判定実施条件を満たしていない場合は、S250にて、第1選択物標のパラメータCnt,JF,LF,HFをいずれもゼロクリアしてS210に戻る。
【0069】
一方、S240にて肯定判断された場合、即ち、判定実施条件を満たしている場合は、S260にて、カウンタCntをインクリメント(Cnt←Cnt+1)すると共に、第1選択物標の受信電力P(Cnt)を記憶する。
【0070】
続くS270では、カウンタCntが1より大きいか否かを判断し、否定判断された場合、即ち、その第1選択物標に対する1サイクル目の処理であれば、そのままS210に戻る。
【0071】
一方、S270にて肯定判断された場合、即ち、その選択物標に対する2サイクル目以降の処理であれば、S280にて、後述する衝突可能性判定処理を実行してS210に戻る。
【0072】
先のS210にて否定判断された場合、即ち、静止物標に対する処理が終了するか、静止物標が存在しない場合には、S290にて、今サイクル物標の中で、S300〜S320に示す処理の対象となっていない未選択の高さ判定対象物標が存在するか否かを判断し、否定判断された場合はそのまま本処理を終了する。なお、高さ判定対象物標とは、移動物標、及び衝突可能性判定処理(S280)にて衝突可能性のない高位物標又は低位物標であると判定されたもの以外の静止物標であって、S310の処理による高さの判定が確定していないもののことをいう。
【0073】
S290にて肯定判断された場合は、S300に進み、未選択の高さ判定対象物標の一つを選択する。この選択された高さ判定対象物標を以下では、第2選択物標と称する。
続くS310では、ヌルポイント発生パターンマップを用いた高さ推定処理(後述する)を実行し、更に、S320では、第2選択物標は車両であり、S310で推定された高さが車高であるとみなして車幅を推定して、S290に戻る。
【0074】
つまり、本処理では、今サイクル物標のうち、静止物標については、自車と衝突する可能性があるか否かの判定を行い、移動物標及び衝突する可能性があると判定された静止物標(中位物標)については、その高さ(車高)と幅(車幅)を推定するようにされている。
【0075】
[衝突可能性判定処理]
次に、S280にて実行する衝突可能性判定処理の詳細を、図6に示すフローチャート、及び図3に示すヌルポイント発生パターンマップを用いて説明する。
【0076】
なお、本処理は静止物標である第1選択物標に対する処理であるため、第1選択物標との距離Rは、測定サイクルを経過する毎に小さくなること、高位物標,中位物標,低位物標のいずれかであることが判定され、判定済フラグJFが「1」に設定されると、次の測定サイクルでは、本処理の対象から外され、判定が確定していない静止物標に対してのみ本処理が実行される。
【0077】
本処理では、まず、S410にて、第1選択物標との距離Rが、100m以下であるか否かを判断し、否定判断された場合は、S420にて、その距離Rに対応する中位物標(高さ200cm)のマップ値M(R)がゼロであるか否かを判断し、否定判断された場合は、中位物標か高位物標のいずれかではあるが、いずれであるか判断できないため、そのまま本処理を終了する。
【0078】
S420にて肯定判断された場合は、S430に進み、第1選択物標は外挿されたものであるか否かを、外挿フラグGFが1に設定されているか否かにより判断する。
S420にて、肯定判断された場合、即ち、距離Rが第1選択物標のヌルポイントである場合には、第1選択物標は、中位物標より高い位置に存在する高位物標(衝突可能性の低い物標)であるものと判断して、S440にて、判定済フラグJF及び高位置フラグHFをいずれも1に設定して、本処理を終了する。
【0079】
一方、S430にて否定判断された場合は、S450にて、今サイクルで記憶した受信電力P(Cnt)と前サイクルで記憶した受信電力P(Cnt−1)との差の絶対値である電力差ΔPを算出し、続くS460では、電力差ΔPが予め設定されたヌル判定閾値(本実施形態では10dB)以上であるか否かを判断する。
【0080】
そして、S460にて肯定判断された場合は、前サイクルよりも大幅に受信電力が変化しているため、距離Rは第1選択物標のヌルポイントであるものと判断して、S440に進む。
【0081】
一方、S460にて否定判断された場合は、距離Rは第1選択物標のヌルポイントではなく、従って、第1選択物標は高位物標ではないが、中位物標か低位物標のいずれかであるが、いずれであるか判断できないため、そのまま本処理を終了する。
【0082】
先のS410にて肯定判断された場合は、S470に進み、S430と同様に、第1選択物標は外挿されたものであるか否かを判断する。
S470にて、肯定判断された場合、即ち、距離Rが第1選択物標のヌルポイントである場合には、第1選択物標は中位物標(高位物標であれば距離Rが100mに到達する以前に判定されているはず)であるものと判断して、S480にて、判定済フラグJFを1に設定して、本処理を終了する。
【0083】
一方、S470にて否定判断された場合は、S490,S500にて、S450,S460と同様の処理を行い、S500にて肯定判断された場合は、前サイクルよりも大幅に受信電力が変化しているため、距離Rは第1選択物標のヌルポイントであるものと判断して、S480に進む。
【0084】
一方、S500にて否定判断された場合、即ち、距離Rは第1選択物標のヌルポイントではない場合は、ヌルポイントが生じない低位物標であるものと判断して、S510にて、判定フラグJF及び定位置フラグLFをいずれも1に設定して本処理を終了する。
【0085】
[高さ判定処理]
次に、S310にて実行する高さ判定処理の概略 を、図2に示すヌルポイント発生パターンテーブルを用いて説明する。
【0086】
この高さ判定処理では、S430,S450,S460と同様の処理によって今サイクルでの距離Rが第2選択物標のヌルポイントであるか否かを判断し、その結果を記憶すると共に、記憶されたヌルポイントの履歴とヌルポイント発生パターンマップとを照合し、その履歴が、ヌルポイント発生パターンのいずれか一つのみに該当する場合に、そのヌルポイント発生パターンに対応する高さが、第2選択物標の高さであると判定する。
【0087】
[効果]
以上説明したように、レーダセンサ1によれば、物標を追尾して受信電力が極小(ヌルポイント)となる距離R(ヌル距離)を抽出し、予め用意されたヌルポイント発生パターンと実際のヌル距離の抽出結果とを照合することにより、自車両との衝突可能性や高さの判定を行っているため、少ない処理負荷で物標に関する情報を得ることができる。
【0088】
また、レーダセンサ1では、移動物標や衝突可能性のある静止物標については、その物標を車両であると見なして、上述の照合によって高さを判定し、その高さを車高とみなして車幅を推定するようにされている。この推定した車幅を、割り込みや離脱の判定、衝突する際のラップ率の算出等に用いることにより、各種車両制御の信頼性を向上させることができる。
【0089】
[発明との対応]
上記実施形態において、S150,S160が物標検出手段及び追尾手段、S430〜S460及びS470〜S500がヌル距離抽出手段、S440,S480,S510S310が高さ推定手段、S320が幅推定手段に相当する。
【0090】
[他の実施形態]
本実施形態では、送信波が直接(図8におけるA−Cのルートを通って)反射地点に到達する場合のみを考慮しているが、送信波が道路に1度反射して(図8におけるA−C−Bのルートを通って)反射地点に到達する場合を考慮してもよい。
【0091】
この場合、ヌルポイント発生パターンマップの作成に使用する算出式は、例えば、「ミリ波帯における自動車レーダ受信信号特性の推定」豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.32 No.2(1997.6)に詳述されているものを使用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1…レーダセンサ 10…発振器 12…増幅器 14…分配器 16…送信アンテナ 20…受信アンテナ部 21…受信スイッチ 22…増幅器 23…ミキサ 24…フィルタ 25…A/D変換器 26…信号処理部 30…車間制御ECU 32…エンジンECU 34…ブレーキECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、該車両の周囲に存在する物標に関する情報を推定する物標情報推定装置であって、
予め設定された測定サイクル毎に、レーダ波を送受信して該レーダ波を反射した物標との距離を少なくとも検出する物標検出手段と、
前記物標検出手段にて複数の前記測定サイクルに渡って検出される物標である対象物標を追尾する追尾手段と、
前記対象物標からの反射波の受信電力がマルチパスによってヌルポイントとなる該対象物標との距離をヌル距離として抽出するヌル距離抽出手段と、
前記レーダ波の反射地点が位置する路面からの高さに対応づけて予め複数用意された前記ヌルポイントの発生パターンと、前記ヌル距離抽出手段での抽出結果とを照合して前記対象物標が位置する路面からの高さを推定する高さ推定手段と、
を備えることを特徴とする物標情報推定装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記対象物標が静止している場合、前記ヌルポイントの発生パターンとして、前記車両による乗り越えが可能な上限高さに対応づけられたもの、又は前記車両によるくぐり抜けが可能な下限高さに対応づけられたもののうち少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1に記載の物標情報推定装置。
【請求項3】
前記対象物標が移動している場合、前記高さ推定手段にて推定された高さを車高として、該車高から車幅を推定する幅推定手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の物標情報推定装置。
【請求項4】
前記追尾手段は、前記対象物標を一時的にロストした場合、過去の測定サイクルでの検出結果に基づいて今回の測定サイクルでの前記対象物標との距離を推定し、その推定距離に前記対象物標が存在するものとする外挿を行い、
前記ヌル距離抽出手段は、前記追尾手段により前記外挿が行われた場合に、前記推定距離を前記ヌル距離として抽出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の物標情報推定装置。
【請求項5】
前記ヌル距離抽出手段は、前記対象物標からの反射波の受信電力が、前回の測定サイクルでの検出値から予め設定された許容値以上変化した場合に、該対象物標との距離を前記ヌル距離として抽出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の物標情報推定装置。
【請求項6】
前記高さ推定手段は、静止している前記対象物標についてのみ推定を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の物標情報推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−17634(P2011−17634A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162773(P2009−162773)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】