説明

物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるための方法およびスプレ塔

複数のレベルで液体がガスに対して向流の形でノズル供給されるスプレ塔(3)内で物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるための方法であって、スプレ塔(3)の周壁に設けられた少なくとも2つの流入開口(2)を通じてガスを供給する形式の方法が記載される。この場合、コンタクト時間差を減少させるために、流入開口(2)におけるガスの流れ方向を、12mに等しいかまたは12mよりも大きい直径、特に20mよりも大きい直径を有するスプレ塔の内側範囲へ、少なくとも2つのガス流の流れ方向がその延長上でスプレ塔(3)の内部で交差し合うように、特にスプレ塔の中心部からスプレ塔の中心部の背後のスプレ塔半径の1/2のところまでで交差し合うように向ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレベルで液体がガスに対して向流の形でノズル供給されるスプレ塔内で物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるための方法であって、スプレ塔の周壁に設けられた少なくとも2つの流入開口を通じてガスを供給する形式の方法ならびに対応するスプレ塔に関する。
【0002】
本発明はスプレ塔において、
* ガスと液体との間の物質交換もしくは物質移動(吸収、脱離)、たとえば排ガスからの有害物質の吸収、たとえば工業的な領域、発電所またはゴミ焼却設備における燃焼プロセスの酸性排ガスからの煙道ガス脱硫(開放型のスプレスクラバ)のために、または
* 特に煙道ガスのガス状態調節(調湿)、ガス湿分飽和もしくはガス冷却のために
使用され得る。
【0003】
このような方法は、洗浄液もしくは水が液滴として、たいていは高温のガス流内にノズル供給される方法である。本発明は汎用の煙道ガス組成もしくは200℃前後の典型的な温度に対して使用可能である。
【0004】
最も多く使用されている方法は、石灰岩−石膏水性懸濁液を主体とした湿式洗浄法である。この場合、水と石膏と石灰岩とから成る懸濁液(スラリ)が洗浄液として使用される。懸濁液の固形物含量は一般に10重量%である。この固形物含量はその大部分が石膏から成り、吸収剤(Absorbens)として働く石灰石含量は固形物中の2〜3重量%である。文献には、この方法に関する概説が認められる(Soud. H.N., Takeshita M., FGD handbook, IEA Coal Reserch, London, 1994)。煙道ガス脱硫方法に関する最新の要約は、「DTI,Flue gas Desulphurisation (FGD) Technologies,Technology Status Report 012」(http://www.dti.gov.uk/ent/coal, 03/2000)に認められる。
【0005】
吸収のためには、通常、開放型のスプレ塔の器械コンセプトが使用される。この場合、ガスは、最近の公知先行技術によれば円形の横断面を有しているスプレ塔内へ接触ゾーンの下側の範囲で導入され、このガスは上方へ向かって洗浄ゾーンを通って案内される。接触ゾーン(脱硫の場合には「吸収部分」と呼ばれる)は複数のスプレレベル(種々異なる高さに配管された管路であり、その端部にスプレノズルが取り付けられている)を装備していて、塔底部表面と最上位のスプレレベルとの間に位置している。これに対して向流で、洗浄液は液滴の形で種々のスプレレベルを介して、上昇して来るガス流へノズル供給され、この洗浄液は煙道ガスを通過した後に、その下に位置するスクラバ塔底部内に捕集される。液体流の循環は循環ポンプによって行われる。これらの循環ポンプは懸濁液をスクラバ塔底部からスプレレベルの高さにまで圧送する。
【0006】
たいていのスプレ塔では、煙道ガスが煙道ガス通路を通って側方および半径方向で吸収剤の接触ゾーンの下側の範囲に導入される。唯一つの流入開口は、最大煙道ガス流の場合に流入速度が15m/sの範囲となるように所定の横断面を有している。
【0007】
液体は1流体ノズルによって噴霧され、液滴の大部分は、スクラバ壁における沈着または塔底部内での沈着までガスに対する向流で落下運動を実施する。
【0008】
これにより得られた、ガスと、分散された液体との間の相互作用に基づき、運転中に多相の流れが生ぜしめられる。この多相の流れは相間の物質移動および/または熱移動に対して決定的な作用を発揮する。これにより、SO吸収の場合には、煙道ガスからの有害物質の分離能力が決定され、そしてガス状態調節(調湿)のためには煙道ガス飽和の効率が決定される。重要となる1つのパラメータは接触ゾーンにおけるガスの滞留時間分布である。この滞留時間分布はガスと洗浄液との平均的な接触時間を決定する。
【0009】
方法技術的な設計において前提条件とされる理想的な流れとは異なり、実際のスプレ塔では、ガスのための均一な上昇速度もしくは軸方向速度は存在しない。すなわち、スプレ塔の横断面において種々異なる軸方向速度が形成され、これらの軸方向速度は平均速度から著しく偏倚する場合がある。
【0010】
とりわけ、工業的な規模のスプレ塔では、ガス滞留時間が器械の機能に影響を与える。接触ゾーンにおける不均等なガス分布は各相の間に不規則的な接触時間を招く。この作用はスプレ塔横断面における減じられたかまたは補償されていない物質交換もしくは物質移動である。このような物質移動は煙道ガス脱硫の場合には、清浄ガス中の局所的に高いSO残留濃度として再び認められ得る。煙道ガス状態調節のための使用においては、状態調節された煙道ガス中に、さらに高められた温度を有するガスストリーク(Gasstraehnen)の形成を招く。このようなガスストリークは、熱に敏感な後続の器械を損傷させるか、またはこれらの器械の機能を損なう恐れがある。
【0011】
ガス滞留時間は第1に液滴ノズル供給の形式により決定される。洗浄液の単一ではないノズル供給はスプレ塔横断面において種々異なる流れ抵抗を生ぜしめ、このような流れ抵抗は、ガスに、より小さな圧力損失を有する範囲へ待避するきっかけを与えてしまう。その結果、このようなガス部分流に関しては、ノズル供給された液体との相互作用も小さくなってしまう。
【0012】
第2の重要なファクタとしては、接触ゾーン内へのガスの導入形式が考慮されなければならない。特に大きな直径を有するスクラバでは、スプレ塔横断面内での均一なガス装入のために必要となる、接触ゾーン内へのガスの所要の横方向運動の作用がますます増大する。スプレ塔直径Dと接触ゾーンの高さHとの間の比は標準事例ではD/H=0.40〜1.10の間を変動する。
【0013】
コンベンショナルなスプレスクラバでは、ガス流が方形の流入部を通じて、円形の基面を有するスプレスクラバ内へ導入される。スプレスクラバの曲率に基づき、開口したガス通路の側壁に形成されるガス層は、中央部のガス層よりも長く水平方向に案内される結果となる。これによって、流入部の中央部におけるガス流は縁ゾーンにおけるガス流よりも早めに上昇運動へ移行することができる。流入部の側縁部におけるガス流部分はさらにスクラバ内へ進行し、そして設備構造においてスプレ塔のエッジフロー、つまり「壁効果(Randgaengigkeit)」と呼ばれる効果を増幅させる。このことは、壁近傍のノズルからの液滴が器械壁に沈着することに基づいて壁ゾーンにおける洗浄液の含量が減少することである。それに対して、スクラバ内側範囲は、より高い液体体積相含量を有している。なぜならば、液滴がスクラバ塔底部に沈着する前に、液滴はスクラバ内側範囲では、より長く所定の飛翔軌道に沿って接触ゾーンを通って運動することができるからである。
【0014】
スプレ塔の壁における高められたガス速度との組合せにおいて、これらの範囲では分離度が明らかに悪化されており、このような悪化された分離度は清浄化されたガス中の局所的に高められたSO残留濃度の形で現れる。より小型の器械では、それどころかスプレ塔壁におけるよどみ点流(Staupunktstroemung)が生じ得る。このようなよどみ点流では、スプレ塔壁において、変向により望ましくない高められたガス上昇速度が生じ得る。
【0015】
さらに、コンベンショナルな半径方向の流入部のガス流によって、横断面に補償渦流が誘発される。この乱流は、ガス中に含まれている運動エネルギの低減をもたらす。乱流により行われる散逸は、2相状態において液滴による流れ抵抗も最大となる範囲において行われる。ガス運動は、ガスが既に接触ゾーンを通って、より長い距離を進んだ範囲において望ましくなく減速される。さらに、この場所ではガスが、液滴の、より高い体積相含量による高められた抵抗を受け、そして運転中に付加的にガスが外部へ逃出する傾向が生じる。スプレ塔の水平方向の横断面では、必然的に分散性の洗浄液との不規則的な接触時間が生じ、そして物質移動のための既に挙げた結果が生じる。
【0016】
同様の問題は、ドイツ連邦共和国特許第10058548号明細書に記載のスプレ塔においても生じる。同ドイツ連邦共和国特許明細書に記載のスプレ塔では、ガスが、互いに向かい合って位置する2つの別個のガス通路を通じて接線方向でスプレ塔に導入される。スプレ塔内では、吸収ゾーンの下側の範囲に水平方向の循環流が生じる。
【0017】
しがたって、本発明の課題は、接触時間の差を減少させ、かつ流入する煙道ガスを主として、より高い洗浄液含量を有するスクラバ内側範囲へ向けることである。
【0018】
この課題は、請求項1に記載の方法、つまり複数のレベルで液体がガスに対して向流の形でノズル供給されるスプレ塔内で物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるための方法であって、スプレ塔の周壁に設けられた少なくとも2つの流入開口を通じてガスを供給する形式の方法において、流入開口におけるガスの流れ方向を、12mに等しいかまたは12mよりも大きい直径、特に20mよりも大きい直径を有するスプレ塔の内側範囲へ、少なくとも2つのガス流の流れ方向がその延長上でスプレ塔の内部で交差し合うように、特にスプレ塔の中心部からスプレ塔の中心部の背後のスプレ塔半径の1/2のところまでで交差し合うように向けることを特徴とする、物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるための方法もしくは請求項6に記載の装置、つまり物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるためのスプレ塔であって、液体を複数のレベルでガスに対して向流の形でノズル供給するための装置と、スプレ塔の周壁に設けられた、ガスを供給するための少なくとも2つの流入開口と、複数のガス通路とが設けられており、それぞれ1つのガス通路が1つの流入開口に開口している形式の装置において、流入開口に通じたガス通路は、流入開口におけるガスの流れ方向が、12mに等しいかまたは12mよりも大きい直径(≧12m)、特に20mよりも大きい直径(>20m)を有するスプレ塔の内側範囲へ半径方向に向くように、つまり少なくとも2つのガス流の流れ方向がその延長上でスプレ塔の内部で交差し合うように、特にスプレ塔の中心部からスプレ塔の中心部の背後のスプレ塔半径の1/2のところまでで交差し合うように配置されていることを特徴とする、物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるためのスプレ塔により解決される。
【0019】
スプレ塔の周壁に設けられた少なくとも2つの流入開口を通じてガスを、少なくとも2つのガス流の流れ方向がその延長上でスプレ塔の内部で交差し合うように導入することにより、湾曲されたスクラバ壁に沿ってガスが進行する区分は最小限に抑えられ、こうしてスプレ塔壁におけるガスの長い水平方向運動が減じられる。したがって、壁効果は減じられる。
【0020】
付加的に、ガス流は、より強力にスプレ塔の内側範囲へ向けられて、より高い液体含量を有するゾーンへ案内される。まだ浄化されていない煙道ガスもしくはまだ状態調節されていない煙道ガスと液体との一層強力な相互作用がコンタクトゾーンの内側範囲において行なわれ、この場所には、より高い液体体積相含量も存在している。
【0021】
さらに、このようなガス流入に基づき、スプレ塔内への水平方向渦流が誘発される。この水平方向渦流では、なお高められた運動エネルギを有しているガスが、より強力に液滴で負荷されているスプレ塔中心部を通過した後でしかスプレ塔の敏感な壁ゾーンへ進行し得なくなる。これによって、相成分の間の相互作用は増大し、その結果、物質交換もしくは物質移動の改善も得られる。コンタクトゾーンにおけるガスの滞留時間はこのように誘発された水平方向運動により改善される。したがって、本発明ははスプレ塔内へのガスの一層効果的な導入を可能にする。
【0022】
さらに別の利点としては、塔壁におけるよどみ点流を発生させる危険なしにガスの流入速度を高めることができることが挙げられる。なぜならば、最高水平方向速度を有するガス流成分がスプレ塔内側範囲へ向けられているからである。
【0023】
少なくとも2つのガス流(流入開口における)の流れ方向が流れの延長上でスプレ塔内部で互いに交差するという特徴は、流れの中心点に向けられている。交点がスプレ塔の中心部から(流れ方向で見て)スプレ塔の中心部の背後のスプレ塔半径の1/2のところまでに位置していることが、本発明による効果を達成するために特に有利であることが判った。
【0024】
ガスの水平方向の導入との組合せにおいて、できるだけ大きなガス侵入深さが得られるという利点が得られる。したがって、大きな直径を有するスプレ塔内での一層均一なガス分配が可能になる。
【0025】
ガス流入部の対称軸線の間の角度としては、45〜120゜の範囲が適している。この範囲はスプレ塔サイズに応じて適合される。ガス流入部の間の角度とガス流入速度とを適合させることにより、ガス流の侵入深さをスクラバサイズもしくはスクラバ直径に調和させることができる。
【0026】
より小さな直径を有するスプレ塔の場合には、この角度は高められ、そして、より高いガス流入速度の場合でも水平方向ガス速度の低減もしくはスプレ塔内への侵入深さの低減を生ぜしめる、部分ガス流の相互作用が存在する。こうして、スプレ塔の壁に沿った望ましくないよどみ点流の危険は少なくとも最小限に抑えられ、通常の事例では完全に回避される。
【0027】
スプレ塔の直径が大きくなればなるほど、流入部の間の角度はますます小さくなり、流入速度はますます高く設定される。液状の分散相は、要求された分離出力に応じて種々異なる体積流および種々のガス−液体比(L/G比)に基づき、運転時に種々異なる流れ抵抗を生ぜしめる。
【0028】
その結果、ガス流入部の流入面を縮小させることもできる。さらに、複数の流入開口の開口横断面は一緒になってスクラバ壁において、唯一つの流入開口の場合の対応する開口横断面よりも小さな湾曲を有している(もしくは小さな角度しか必要としない)。これらの理由から、コンベンショナルな構造に比べて構造技術的およびコスト技術的な節約を得ることができる。そして、たとえば流入面の大きさはそのままで一貫した開口幅が減じられることにより、流入開口における一層僅かな静的支持(支持構造)しか必要にならない。
【0029】
流入速度としては、流入横断面において10〜25m/sの範囲、特に14〜16m/sの範囲が有利である。通常事例では、スプレ塔内への流入部における流入速度もしくはガス体積流は小さな差しか有しない。しかし、個別流入部の間の速度差は、本発明による方法を損なうことなしに最大50パーセントであってもよい。
【0030】
本発明は特に大きな横断面を有するスプレ塔、つまり12mに等しいかまたは12mよりも大きな(≧12m)スプレ塔直径、特に20mよりも大きな(>20m)スプレ塔直径のために適している。なぜならば、このような大型のスプレ塔では、冒頭で説明した問題が特に顕著となるからである。
【0031】
以下に、本発明の実施例を図1〜図8につき詳しく説明する。
【0032】
図1は、公知先行技術によるスプレ塔を示す概略図であり、
図2は、本発明によるスプレ塔のガス流入部を示す概略図であり、
図3は、本発明によるスプレ塔(左側)とコンベンショナルなスプレ塔(右側)とを示す斜視図であり、
図4は、本発明によるスプレ塔(右側)とコンベンショナルなスプレ塔(左側)とを示す輪郭図であり、
図5は、ガス流入部の平面におけるコンベンショナルなスプレ塔の流入挙動を示す図であり、
図6は、コンベンショナルなスプレ塔の流入挙動をガス流入部の縦断面図で示す図であり、
図7は、ガス流入部の平面における本発明によるスプレ塔の流入挙動を示す図であり、
図8は、本発明によるスプレ塔の流入挙動をガス流入部の縦断面図で示す図である。
【0033】
図1には、煙道ガス脱硫のための慣用の開放型のスプレ塔が図示されている。このスプレ塔は唯一つの半径方向のガス導入部を備えている。このスプレ塔は円形の基面もしくは底面と、円筒状の周壁とを有している。粗ガス1は唯一つの流入開口2を通じて水平方向でスプレ塔3の接触範囲へ流入する。スプレ塔内では、複数のスプレノズル4から懸濁液(スラリ)が供給される。この懸濁液はスクラバ塔底部5内に溜まる。このスクラバ塔底部5は酸化空気6によってガス処理される。塔底部5からは、一方では懸濁液の一部が循環ポンプを介して再びスプレノズル4に導入され、他方では過剰懸濁液が管路8を介してハイドロサイクロンへ引き出される。さらに、塔底部5には新懸濁液7が供給される。スプレノズル4の上方では、ガスがすすぎ水9によって清浄化され、そしてスプレ塔3からの流出後もガスは、清浄ガス11として引き出される前にすすぎ水10によって清浄化される。
【0034】
図2に示した本発明によるスプレ塔は次の点で、図1に示した公知のスプレ塔とは異なっている。すなわち、図2に示した本発明によるスプレ塔は2つの別個のガス通路12を有しており、両ガス通路12はそれぞれ1つの流入開口2に開口している。ガス通路12の対称軸線は互いに約55゜の角度を成している。図示の大型スプレ塔は475万Nm/hの煙道ガス処理量のために湿式に設計されていて、23.6mの直径を有している。流入部に設けられた支持コラムの数は1つの流入部しか有しない慣用の構造に比べて50%だけ減少され得る。図示のスプレ塔は等大の2つのガス通路12を有している。本発明はもちろん、互いに異なる寸法設定を施された2つまたはそれ以上のガス通路に対しても適用され得る。
【0035】
図3には、左側に本発明によるスプレ塔が、右側にコンベンショナルなスプレ塔が図示されている。図4には、右側に本発明によるスプレ塔が、左側にコンベンショナルなスプレ塔が図示されている。それぞれ円筒状の周壁は円錐台形状の部分によって上方に対して閉鎖されている。ガス通路は両者の場合共に方形の横断面を有している。本発明によるスプレ塔に設けられた2つの流入開口の間には、両流入開口を互いに分離するスプレ塔の周壁部分が図示されている。
【0036】
図5には、コンベンショナルなスプレ塔をガス通路12もしくは流入開口2の高さの1/2のところで水平方向に断面した断面図が示されている。図5の上側の図には、破線によりガス流の流線が示されており、背景のグレートーン(灰色色調)はガスの速度の尺度である。左側の図縁部には、個々のグレー段階と具体的な速度との対応関係を表すスケールが示されている。太い黒色矢印は最高の水平速度を有する範囲を表している。ガスは図面で見て左側からスプレ塔内へ流入する。
【0037】
図5の下側の図には、ガス流がベクトル図で示されている。個々のベクトルの大きさおよび方向はこの点におけるガス流の絶対値および方向を表す尺度である。
【0038】
図6には、スプレ塔の対称平面における縦断面図(つまりガス通路の中心を通る断面図)が図示されている。上側の図の破線はやはりガス流の流線を表しており、背景のグレートーンはガスの速度の尺度であり、この図に対してはやはり左側に、具体的な速度値との対応関係を示すスケールが示されている。
【0039】
下側の図には、ガス流がベクトル図として示されている。個々のベクトルの大きさおよび方向はこの点におけるガス流の絶対値および方向を表す尺度である。
【0040】
図5および図6から判るように、スプレ塔の湾曲により、開口したガス通路の側壁におけるガス層は中央部におけるガス層よりも長く水平方向に案内される(図5)。これによって、流入開口の中央部におけるガス流は縁ゾーンにおけるガス流よりも早めに上昇運動へ移行し得る(図6)。流入開口の側縁部におけるガス流の一部は引き続きスプレ塔内部へ進行して、既に冒頭で説明したような「壁効果」を増幅させてしまう。
【0041】
図5からは、横断面で見てコンベンショナルな半径方向の流入部のガス流により誘発された補償渦流が認められる。この場所ではガス運動が著しく減速されている。
【0042】
図7には、本発明によるスプレ塔をガス通路12もしくは流入開口2の高さの1/2のところで水平方向に断面した断面図が示されている。図7の上側の図には、破線によりやはりガス流の流線が示されており、背景のグレートーンはやはりガスの速度の尺度である。左側の図縁部には、具体的な速度との対応関係を表すスケールが示されている。太い黒色矢印は最高の水平速度を有する範囲を表している。ガスは図面で見て右側もしくは右上側からスプレ塔内へ流入する。図7の下側の図には、ガス流がベクトル図として示されている。個々のベクトルの大きさおよび方向はこの点におけるガス流の絶対値および方向を表す尺度である。
【0043】
ガス流は、より強力にスプレ塔の内側範囲へ向けられて、より高い液体含量を有するゾーンへ案内され、その後でようやく、流入開口に並設されたスプレ塔の壁範囲へ縁流が到達する。2つの水平方向渦流が発生する。これらの水平方向渦流では、なお高められた運動エネルギを有するガスが、液滴で強力に負荷されたスプレ塔中心部を通過した後でしか、スプレ塔の敏感な壁ゾーンへ進行し得なくなる。コンタクトゾーンにおけるガスの滞留時間はこの水平方向運動によって改善される。
【0044】
図8には、上部に、スプレ塔の中心部および1つのガス通路の対称軸線を通って断面した縦断面図が示されている。ガス流はスプレ塔の下側の範囲を、比較的等しく分配された速度で通流することが判る。この場合、ガス流は1つのガス通路を用いたコンベンショナルなガス供給(図6)の場合よりも奥深くまでスプレ塔内に侵入する。流入開口とは反対の側に位置する、極めて低い速度を有する空間は、コンベンショナルなガス供給に比べて著しく減じられている。また、図6に示した流入開口上方の、やはり極めて低い速度を有する鉛直方向の渦流も、消滅されている。
【0045】
本発明のチェックは数値流体計算(Computational Fluid Dynamics- CFD)によって行った。これによって、単相の流れの他に、スプレ塔内の多相の流れ状態を計算によりコンピュータに結像させ、これにより最適化することが可能となる。実験による流れ経過の測定は大型設備では制限されてしか可能とならないか、または間接的に(たとえばコンタクトゾーン下流側の温度分布または濃度分布を介して)しか可能とならない。それに対して、前記流体計算は器械内に存在する3次元の流れの可視化を可能にする。
【0046】
シミュレーションのためには、商業用のCFDソフトウェアパッケージAVL FIRE v7.3(AVL, Fire Manual Version 7, Graz, 2001参照)を使用した。このCFDソフトウェアパッケージはこのような単相または多相の流れ過程の数値検査のために極めて好適であることが判っており、多くの分野で使用されている。
【0047】
スプレ塔内の連続的なガス流の数値的な解法は、有限体積法(Finite-Volumina-Verfahren)により実施した。このためには、検査したいスプレ塔により、3次元の数値的な網格子モデル(Netzgittermodell)を作成した。この網格子モデルは考慮したい空間体積全体の、コントロール体積と呼ばれる個々の体積要素への分割を規定する。これらの体積要素のそれぞれでは、物理的および場合によっては化学的な過程のモデルが解かれる。コントロール体積内での熱流および質量流の時間的および空間的な変化は、コントロール体積の側面を介して収支勘定される。検査される流れ範囲が精密に分解されればされるほど、つまり使用される体積要素の数が高く設定されればされるほど、一般に流れ場の計算はますます正確となる。単相のガス流は定常の流れ状態が達成されるまで計算される。
【0048】
単相のガス流の定常解(stationaer. Loesung)には、洗浄懸濁液を表すモデル滴が、規定の特性を有する所定のノズル供給個所で導入される。ガス流内での液滴の飛翔軌道の計算はオイラーラグランジュ(Euler-Lagrange)の原理もしくはDDM法(Discrete Droplet Method; DDM, AVL, Fire Manual Version 7, Graz, 2001もしくはCrowe C., Sommerfeld M., Tsuji Y., Multiphase flows with droplets and particles, CRC Press, Boco Raton, 1998参照)により行われる。この場合、物理的な粒子の運動は数値モデル粒子の統計学的な数によって実施される。各モデル粒子は、同じ物理的な性質を有する規定数の実際の粒子を表す(パッケージファクタ)。各相の間の質量、エネルギおよび角運動量(Impuls)のための保存則の収支勘定はパッケージファクタとの乗算により行われる。
【0049】
ガスと、分散された液体との間の相互作用は、Two Way Couplingの原理により行われる。所定の運転点のための多相流のための準定常解が達成された後に、ガス相の計算された流れ場ならびに粒子運動をコンピュータにおいて3次元に検査することができる。
【0050】
ソフトウェアシステムはこのような用途のために特別にパラメータ化された。妥当性チェック(Validierung)は類似の構造もしくは類似の構成サイズの工業的な大型スクラバからのSO分離の実験による測定を用いるか、もしくは実験設備における流れ技術的な試験によって行われた(Maier H., Integraton der SO2-Chemisorption in die numerische 3D-Stroemungssimulation von Rauchgaswaeschern, Dissertation, TU Graz, 2003; もしくはWielsch U., Experimentelle und numerische Untersuchung des zweiphasigen Stroemungszustandes in Spruehwaeschern, Dissertation, TU Graz, 1999参照)。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】公知先行技術によるスプレ塔を示す概略図である。
【図2】本発明によるスプレ塔のガス流入部を示す概略図である。
【図3】本発明によるスプレ塔(左側)とコンベンショナルなスプレ塔(右側)とを示す斜視図である。
【図4】本発明によるスプレ塔(右側)とコンベンショナルなスプレ塔(左側)とを示す輪郭図である。
【図5】ガス流入部の平面におけるコンベンショナルなスプレ塔の流入挙動を示す図である。
【図6】コンベンショナルなスプレ塔の流入挙動をガス流入部の縦断面図で示す図である。
【図7】ガス流入部の平面における本発明によるスプレ塔の流入挙動を示す図である。
【図8】本発明によるスプレ塔の流入挙動をガス流入部の縦断面図で示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 粗ガス
2 流入開口
3 スプレ塔
4 スプレノズル
5 スクラバ塔底部
6 酸化空気
7 新懸濁液
8 ハイドロサイクロンに通じた管路
9 すすぎ水
10 すすぎ水
11 清浄ガス
12 ガス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレベルで液体がガスに対して向流の形でノズル供給されるスプレ塔内で物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるための方法であって、スプレ塔の周壁に設けられた少なくとも2つの流入開口を通じてガスを供給する形式の方法において、流入開口におけるガスの流れ方向を、12mに等しいかまたは12mよりも大きい直径、特に20mよりも大きい直径を有するスプレ塔の内側範囲へ、少なくとも2つのガス流の流れ方向がその延長上でスプレ塔の内部で交差し合うように、特にスプレ塔の中心部からスプレ塔の中心部の背後のスプレ塔半径の1/2のところまでで交差し合うように向けることを特徴とする、物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるための方法。
【請求項2】
ガスを水平方向で導入する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ガスを10〜25m/sの速度、特に14〜16m/sの速度で導入する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ガスを2つの流入開口を通じて導入する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
流入時における2つの隣接し合うガス流の間の角度が45〜120゜である、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるためのスプレ塔(3)であって、液体を複数のレベルでガスに対して向流の形でノズル供給するための装置と、スプレ塔の周壁に設けられた、ガス(1)を供給するための少なくとも2つの流入開口(2)と、複数のガス通路(12)とが設けられており、それぞれ1つのガス通路が1つの流入開口(2)に開口している形式の装置において、流入開口(2)に通じたガス通路(12)は、流入開口におけるガス(1)の流れ方向が、12mに等しいかまたは12mよりも大きい直径、特に20mよりも大きい直径を有するスプレ塔(3)の内側範囲へ半径方向に向くように、つまり少なくとも2つのガス流(1)の流れ方向がその延長上でスプレ塔(3)の内部で交差し合うように、特にスプレ塔の中心部からスプレ塔の中心部の背後のスプレ塔半径の1/2のところまでで交差し合うように配置されていることを特徴とする、物質移動および/または熱移動のためにガスと液滴とを接触させるためのスプレ塔。
【請求項7】
ガス通路(12)が流入開口(2)の手前の範囲で、開口するガス通路の対称軸線がスプレ塔(3)の内部で、特にスプレ塔の中心部からスプレ塔の中心部の背後のスプレ塔半径の1/2のところまでで交差し合うように向けられている、請求項6記載のスプレ塔。
【請求項8】
ガス通路(12)が、流入開口(2)の手間の範囲で水平方向に配置されている、請求項6または7記載のスプレ塔。
【請求項9】
2つの流入開口(2)が設けられている、請求項6から8までのいずれか1項記載のスプレ塔。
【請求項10】
開口するガス通路の対称軸線同士の間の角度が45〜120゜である、請求項6から9までのいずれか1項記載のスプレ塔。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2008−518768(P2008−518768A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539565(P2007−539565)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055451
【国際公開番号】WO2006/048385
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(507149040)オーストリアン エナジー アンド エンヴァイロメント アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Austrian Energy & Environment AG & Co KG
【住所又は居所原語表記】Waagner−Biro−Platz 1, 8074 Raaba/Graz, Austria
【Fターム(参考)】