説明

特定の屈折率を有するシリカを含む合わせガラス用中間膜

【課題】 シリカを添加することによって、許容範囲を超えたヘイズ値をもたらすことなく、引張強度などの力学特性が改善されたポリビニルアセタールに基づく中間膜を提供する。
【解決手段】 ポリビニルアセタール(A)、少なくとも1種の可塑剤(B)、フュームドシリカ(C)及び少なくとも1種の塩基性化合物(D)を含む合わせガラスに有用な中間膜であって、フュームドシリカ(C)と可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率の差が0.015以下であり、重量比C/(A+B)が2.7/100から60/100であることを特徴とする上記中間膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された力学特性を有する低ヘイズの中間膜を供給するための、特定の屈折率を有するシリカを含む中間膜に関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラス用中間膜は当該の技術では長く知られており、主に可塑化されたポリビニルブチラールから押出法によって製造されている。ほとんどすべての自動車又は航空機の窓ガラスは合わせガラスから製造されており、さらに、建築用途の安全ガラスとしても多く用いられている。
【0003】
合わせガラスにおける中間膜の接着性を調整するために、多くの研究がなされている。特別な可塑剤又は接着調整剤の使用のほか、無機化合物のようなフィラー材の添加、特にシリカの添加が提案されている。
【0004】
特許文献1では、キャスト膜のためのポリビニルアセタール樹脂にコロイド状シリカを添加することが記載されている。この公報に開示されているコロイド状シリカは、ヘイズなしの透明膜を得るためにゾル状態でなければならない。キャスト成形法は、ポリビニルアセタール膜の工業的製造には適用されない。
【0005】
特許文献2には、耐火性合わせガラス用中間膜において、核剤としてシリカを使用することが開示されている。この中間膜は、可塑剤、チャー形成成分としての有機リン酸エステル及び核剤としてのシリカを含む。シリカを添加したことによる中間膜の望ましくないヘイズを防ぐために、可塑化された配合物との屈折率の差が±0.03以内であるシリカのみ使用されうる。可塑化された配合物の屈折率は、有機リン酸エステルを含む可塑剤の組成に大きく依存する。そのため、シリカと可塑剤の混合物のある限られた組み合わせが有用であり、当該公報に開示されている。有機リン酸エステルは、もはや環境問題のため可塑剤として使用できない。
【0006】
一般的な非芳香族系可塑剤を標準量使用したPVB膜は20℃で1.482近くの屈折率nを示すのに対して、開示されているCab−O−Sil M5のようなフュームドシリカは1.460の屈折率nを示す。許容範囲を超えたヘイズ値を避けるために、特許文献2は、ほんの少量のシリカ(膜に対して多くても2.5重量%)や、PVBと屈折率の差が小さいシリカを使用することを開示している。中間膜の力学特性はそのような少量のシリカを加えたことによってはほとんど影響を受けない。特許文献2で示されるように、大量のシリカを添加すると、屈折率の違いによって許容の範囲を超えたヘイズ値となる
【0007】
さらに、中間膜の屈折率は温度によって変化し、例えば、10℃〜50℃の間で屈折率nは1.486〜1.470の間の値をとりうる。合わせガラスは、幅広い温度範囲で透明であるべきである。20℃以下では、シリカと中間膜との屈折率の差がむしろ増加するので、開示されているシリカと可塑剤の組み合わせは、自動車や建造物等、温度変化にさらされる用途には好ましくない。そのため、ヘイズの高温側における増加と低温側における増加のバランスをとるために、20℃程度の穏やかな温度においてフュームドシリカの屈折率を中間膜の屈折率とできるだけ一致させることが重要である。
【0008】
特許文献3は中間膜とガラスとの接着性を高めるために、ポリビニルブチラール膜においてフュームドシリカを少量用いることが開示されている。中間膜のヘイズを許容範囲に維持するために、0.001〜0.25重量%の少量のシリカを可塑化されたポリビニルブチラールに添加している。このような少量のシリカを添加することによっては、中間膜の引張強度のような力学特性に影響は見られない。
【0009】
特許文献4では、炭素数5〜25のカルボン酸金属塩と一緒に、シリカと他の金属酸化物をポリビニルアセタールに添加することが開示されている。当該公報では、中間膜のガラスに対する接着性を増加させ、それと同時に許容されるヘイズ値を維持させるために、シリカの上限を0.5重量%とすることが開示されている。もし、開示されている量使用した場合には、シリカは中間膜の力学特性に対して実質的に影響を及ぼさない。
【0010】
上記公開文献のほとんどは、シリカを可塑化されたポリビニルアセタールに添加した場合に、得られる中間膜が光学用途では許容されないヘイズ値を持つという問題に取り組んでいる。このような要求範囲を超えるヘイズ値はシリカ粒子そのものによるのか、より高い感湿性によるのかは依然不明である。
【0011】
現状では、同時に中間膜の外観が不透明であることを避ける必要がある場合には、ガラスと中間膜との接着性を上げるために、ごく少量のシリカが使用されている。さらに、上述の公報に記載されているものよりも多量にシリカを使用すると、シリカの酸の特性によって許容範囲を超えたヘイズ値となるのみでなく、膜の変色が引き起こされるおそれがある。PVB膜の押出しに用いられる高温では、酸性条件が、酸に不安定なPVBポリマーの部分的な劣化を引き起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US2467342
【特許文献2】EP0227633
【特許文献3】EP1042121
【特許文献4】JP11−060290
【特許文献5】DE10143109
【特許文献6】WO02/40578A1
【特許文献7】DE102004043907A1
【特許文献8】EP0185863B1
【特許文献9】WO03/097347A1
【特許文献10】WO01/43963A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、許容範囲を超えたヘイズ値になることなく、ポリビニルアセタールベースの中間膜の引張強度などの力学特性を改善することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、ポリビニルアセタール(A)、少なくとも1種の可塑剤(B)、フュームドシリカ(C)及び少なくとも1種の塩基性化合物(D)を含む合わせガラス用中間膜であって、フュームドシリカ(C)と可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率の差が0.015以下であり、重量比C/(A+B)が2.7/100〜60/100であることを特徴とする上記中間膜を提供することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率は、非芳香族系可塑剤を使用する場合、通常20℃で1.470〜1.490の範囲である。良好な透明性を得るためには、可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率との差が0.015以下、好ましくは0.0001〜0.015であるフュームドシリカ(C)を使用することが好適である。より好ましくは、屈折率の差の上限が0.01であり、屈折率の差の下限が0.001である。
【0016】
本発明で使用されるポリビニルアセタール(A)は、ポリビニルアルコールと少なくとも1種のアルデヒドとを反応させることによって得られる。この反応に好適なアルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びブチルアルデヒドである。
【0017】
ポリビニルブチラール(PVB)が、ポリビニルアセタールとして最も好ましく使用される。ポリビニルブチラールは、酢酸エステル単位、水酸基単位及びアセタール単位をもつターポリマーである。好ましくは、本発明で使用されるポリビニルブチラールが、酢酸エステル単位を0〜2重量%、水酸基単位を15〜25重量%、ブチラール単位を85〜76重量%含む。
【0018】
さらには、特許文献5又は特許文献6で示される、少なくとも1種のアルデヒド、少なくとも1種のジアルデヒド及び/又はカルボン酸基を含むアルデヒドの混合物とポリビニルアルコールとの反応によって得ることができる、部分的に架橋されたPVBが使用可能である。
【0019】
塩基性化合物(D)としては、炭素数1〜15の有機カルボン酸の金属塩が好ましい。特に、酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウム又は酢酸カリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩が有用である。また、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどの無機化合物を添加することも可能であるが、そのような強塩基を過剰に加えると、ポリビニルアセタール又は可塑剤の化学分解が引き起こされるおそれがあるため、無機化合物の使用はあまり好ましくない。塩基性化合物(D)は、混合物(A+B)に対して、通常0.005〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%使用される。
【0020】
PVB膜の製造用の市販PVB樹脂は、水酸化ナトリウム又はカリウムなどの少量の塩基を用いて酸性分解に対する安定化が行われている。そのため、そのような樹脂からなる押出しPVB膜は、アルカリ滴定量として測定可能な所定のアルカリ性を有している。フュームドシリカの添加によって、樹脂に含まれる所定量の塩基が中和されるので、アルカリ滴定量が3以下となり、場合によっては酸滴定量で示されるまでになる。しかしながら、アルカリ滴定法においては負の値は含まれないため、通常の滴定法によっては、酸滴定量では、アルカリ滴定による値が“0”となる。望ましくない膜の着色を避けるために、本発明による中間膜のアルカリ滴定量は3を超えることが好ましく、10を超えることが好ましく、20又は30を超えることがより好ましい。アルカリ滴定量の値の上限は、特に重要ではないが、100を超えるべきではない。
【0021】
フュームドシリカ(C)は、混合物(A+B)の100重量部に対し、2.7〜60重量部、好ましくは3.0〜40重量部又は3.5〜40重量部、より好ましくは10〜25重量部、及び最も好ましくは7.5〜15重量部使用可能である。さらに、Al、TiO,MgO及びZrOからなる群より選択される少なくとも1種によって上記フュームドシリカがドープされる場合もあり、少なくとも1種のこれらの金属酸化物を(シリカに対して)0.1〜20重量%含むことができる。そのような化合物は、ドイツの「デグザ GmbH」から市販されている。
【0022】
本発明で使用されるシリカは、さらに表面特性及び粒子サイズによって特徴付けることも可能である。本発明で好適に使用されるフュームドシリカは、BET表面積が50〜300m/gかつ/又は一次粒子径が7〜30mmを有する。
【0023】
本発明による可塑化された膜のヘイズ値は、市販の中間膜の範囲にあるべきである。本発明による中間膜は、ヘイズ値が好ましくは2.0%以下(0〜2.0%)であり、1.2%以下(0〜1.2%)であることが好ましく、0.01〜1.0%であることが最も好ましい。これらの値は、0.76mm厚の中間膜で、ASTM D 1003又はJIS K7105に準じて測定された。中間膜がより薄く又はより厚い場合、ヘイズ値は0.76mm厚の場合に相当するよう換算する必要がある。
【0024】
上述のヘイズ値に加えて、本発明による中間膜は、黄色度Δbインデックスが5以下(0〜5)であることが好ましく、0.01〜3であることが好ましく、0.01〜1であることがより好ましく、0.01〜0.5であることが最も好ましい。黄色度Δbインデックスは、0.76mm厚の中間膜において実施例で記載されるように測定される。中間膜がより薄く又はより厚い場合、黄色度Δbインデックスは0.76mm厚の場合に相当するよう換算する必要がある。
【0025】
本発明の中間膜は、ポリビニルアセタール100部に対し、可塑剤(B)を20〜100部、好ましくは30〜80部含んでもよい。ポリビニルアセタールから中間膜を製造するのに一般的に使用されるいずれの可塑剤も、本発明で用いることが可能である。特に、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート(3GH)、トリエチレングリコール−ヘプタノエート(3G7)、又はトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3G8)が有用であり、それらに相当するテトラエチレングリコール及びオリゴエチレングリコールの誘導体及び炭素数8〜12のカルボン酸を含有するエステルが使用可能である。さらに、ジヘキシルアジペート(DHA)、ジオクチルアジペート(DOP)、ジブチルセバケート(DBS)、及びジアルキルフタレートが使用可能である。すべての可塑剤は、単独でもそれらの混合物としても使用できる。
【0026】
上述の化合物などの“標準”可塑剤の可塑剤混合物や共可塑剤を使用することも可能である。そのような混合物は特許文献7に開示されており、少なくとも1種の上述の“標準”可塑剤、及び、化学式I又はIIを有する少なくとも1種の共可塑剤を(可塑剤混合物に対して)1〜99重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは1〜10重量%含有する。
【0027】
(化1)
R1−O(−R2−O)−CO−R5 I
【0028】
(化2)
R1−O(−R2−O)−CO−R3−CO−(O−R4−)−O−R6 II
【0029】
R1、R5、R6:独立してH、炭素数1〜12の脂肪族又は芳香族残基、
R3:直接結合、2価の炭素数1〜12の脂肪族又は芳香族残基、
R2、R4:独立してH、炭素数1〜12の脂肪族又は芳香族残基、
n、m:独立して1〜10の整数であり、好ましくは1〜5である。
【0030】
R2及びR4は、エチレン、プロピレン又はブチレン基の単位を示すことができ、すなわち、上記化合物は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイド及び/又はそれらのオリゴマーから誘導された基を含むことができる。
【0031】
R1、R5及びR6は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはヘキシル基であることが好ましい。
【0032】
式Iのエステルのカルボン酸は、一般的に炭素数1〜18のカルボン酸であり、特に、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、酢酸又はプロピオン酸である。式IIのエステルのカルボン酸として、次のジカルボン酸が好ましい:シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸及びシクロヘキサンジカルボン酸のすべての立体異性体。
【0033】
すなわち、ジ−(2−ブトキシエチル)−アジペート(DBEA)、ジ−(2−ブトキシエチル)−セバケート(DBES)、ジ−(2−ブトキシエチル)−アセレート、ジ−(2−ブトキシエチル)−グルタレート、ジ−(2−ブトキシエトキシエチル)−アジペート(DBEEA)、ジ−(2−ブトキシエトキシエチル)−セバケート(DBEES)、ジ−(2−ブトキシエトキシエチル)−アセレート、ジ−(2−ブトキシエトキシエチル)−グルタレート、ジ−(2−ヘキソキシエチル)−アジペート、ジ−(2−ヘキソキシエチル)−セバケート、ジ−(2−ヘキソキシエチル)−アセレート、ジ−(2−ヘキソキシエチル)−グルタレート、ジ−(2−ヘキソキシエトキシエチル)−アジペート、ジ−(2−ヘキソキシエトキシエチル)−セバケート、ジ−(2−ヘキソキシエトキシエチル)−アセレート、ジ−(2−ヘキソキシエトキシエチル)−グルタレート、ジ−(2−ブトキシエチル)−フタレート及び/又はジ−(2−ブトキシエトキシエチル)−フタレートが、共可塑剤として使用できる。
【0034】
式I又はIIの可塑剤を、追加の可塑剤なしにその物質だけ(100%)、単独の可塑剤として使用することも可能である。
【0035】
本発明の中間膜の組成物は、例えば、少量の水、UV吸収化合物(例えば、チヌビン328、326、P、327などのベンゾトリアゾール)、フェノール系の酸化防止剤、接着調整剤(ACA)、光学的光沢剤、HALSなどの安定剤、染料及び/又は顔料など、当業者に知られる通常の添加剤をさらに含むことも可能である。
【0036】
本発明の中間膜の力学特性は、シリカを含まない同一の組成物の中間膜と比較して向上する。伸度50%における引張応力及び/又は伸度100%における引張応力について、本発明の中間膜の上記応力は、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜の少なくとも1.2倍、好ましくは1.2〜30.0倍、より好ましくは1.2〜20.0倍、最も好ましくは1.2〜10.0倍であることが可能である。
【0037】
ポリビニルアセタールベースの中間膜の力学特性は温度によって変化するので、通常の環境条件に対応するために、普通、化学組成並びに樹脂及び可塑剤の配合量を選択することによって調整される。中間膜のガラス転移温度Tgはそのようなことから特に重要である。
【0038】
本発明の中間膜のガラス転移温度Tgaと、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜のガラス転移温度Tgbの差が3℃以内であるべきである。(|Tga−Tgb|≦3)
【0039】
特に、
(a)上記中間膜の伸度50%及び/または100%における引張応力が、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜の少なくとも1.2倍であり、かつ、
(b)上記中間膜のガラス転移温度Tgaと、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜のガラス転移温度Tgbの差が3℃以内(|Tga−Tgb|≦3)
である合わせガラス用中間膜が好ましい。
【0040】
本発明の中間膜は、フュームドシリカとポリビニルアセタールとを同時に押出し機に投入し、さらに添加剤を含む可塑剤と塩基性化合物とを別々に押出し機に投入し、可塑化された溶融物を形成してスリットダイから押出すことによって製造される。また、上記ポリマーと可塑剤をまず混合し、シリカ及び塩基性化合物をこの混合物に添加することも可能である。押出機に付属するサイドフィーダーを用いて、塩基性化合物を含む溶融混合物にフュームドシリカを添加することも可能である。押出法そのものは当該技術分野ではよく知られており、例えば、特許文献8、特許文献9又は特許文献10で開示されている。
【0041】
本発明の中間膜で使用されるシリカは、中間膜及びガラス表面間の接着性に影響を及ぼす。中間膜の接着性は、用途にかかわらず、貫通抵抗とガラス板への結合とが折り合うように、慎重に調整される。接着調整剤の量を調整することによって、シリカの影響をなくすことが可能である。接着調整剤として、塩基性化合物(D)と同じ化合物が使用されてもよく、すなわち、炭素数を1〜15の有機カルボン酸のアルカリ及び/又はアルカリ土類金属塩が好ましい。特に、酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウム又は酢酸カリウムが有用である。接着調整剤は全混合物に対して0.0001〜0.01重量%使用される場合がある。
【0042】
中間膜のガラスへの接着性を調整するための別のアプローチは、シリカを含む膜の少なくとも片側について、該膜とガラスとの接触を避けることであろう。
【0043】
本発明の別の目的物は、ポリビニルアセタール(A’)及び少なくとも1種の可塑剤(B’)を含む少なくとも1つの層または膜と、ポリビニルアセタール(A)、少なくとも1種の可塑剤(B)、フュームドシリカ(C)及び少なくとも1種の塩基性化合物(D)を含む少なくとも1つの層または膜とからなる多層膜であって、フュームドシリカ(C)と可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率の差が0.015以下であり、重量比C/(A+B)が2.7/100〜60/100であることを特徴とする上記多層膜である。
【0044】
単層のシリカを含む膜についてすでに述べられたすべての特徴を、多層膜におけるシリカを含む層又は膜へ適用することができる。
【0045】
ポリビニルアセタール(A’)及び(A)、可塑剤(B’)及び(B)は、使用量又は化学組成の点で同一でも異なっていてもよい。同一の原料を同量使用するのが好ましい。
【0046】
ポリビニルアセタール(A’)及び少なくとも1種の可塑剤(B’)を含む層または膜は、例えば、少量の水、UV吸収化合物(例えば、チヌビン328、326、P、327などのベンゾトリアゾール)、フェノール系の酸化防止剤、接着調整剤(ACA)、光学的光沢剤、HALSなどの安定剤、染料及び/又は顔料など、当業者に知られる通常の添加剤を含むことがある。
【0047】
上記多層膜は、シリカを含む1つの層又は膜と、シリカを含まない1つの層又は膜からなることがある。本発明の別の実施態様では、少なくとも1つ(好ましくは1つ)のシリカを含む膜又は層が、シリカを含まない少なくとも2つ(好ましくは2つ)の膜又は層で挟まれている。このような多層膜の表面は、シリカを含まない“標準”単層膜の特性を持つが、多層膜全体としての引張強度などの力学特性はシリカを含む層又は膜によって改善される。
【0048】
上記多層膜のシリカを含む中心層又は膜は、すでに述べたようにして製造することができる。この発明の多層膜は、膜を機械的に結合することによって製造されうるが、層を共押出しすることによっても製造されることがある。
【0049】
多層膜の厚みは、合わせガラスの製造において通常の0.38mmの倍数であることがある。それゆえ、シリカを含む層又は膜は、0.1mmと薄くてもよいし、望まれる力学特性を得るため必要とされるくらいに厚くてもよい。
【0050】
本発明の中間膜及び多層膜は合わせガラス、特に自動車、バス及び航空機の窓ガラス、建造物用の合わせガラス及び吸音壁の合わせガラスの製造に使用することが可能である。
【実施例】
【0051】
1)測定
【0052】
<アルカリ滴定量>
エチルアルコール/THF(80:20)の混合物100mL中に、PVB膜3〜4gをマグネチックスターラーで終夜溶解させた。希釈塩酸(c=0.01mol/L)10mLを添加した。タイトロプロセッサー(例えば、メトローム社製など)を用いて、過剰の塩酸を2−プロパノールの水酸化テトラブチルアンモニウム溶液(TBAH、c=0.01mol/L)で、ブランクサンプルに対して電位差滴定する。アルカリ滴定量は、次のように計算される。
サンプル100gあたりのml(0.01モル/L HCl)=(ml TBAHblank−ml TBAHsample)×100/g(サンプル重量)
【0053】
<引張特性>
引張特性は、DIN EN ISO 527−1及びDIN EN ISO 527−3に従って、寸法15mm×120mmの短冊状試験片を伸長速度200mm/minで測定した。
【0054】
<黄色度Δbインデックス>
膜の黄色度Δbインデックスは、可視光の光度計Hunterlab“Colorquest XE”において、リファレンスの対ガラスに対して2層の2mmのフロートガラスの間にフィルムを積層したものをL、a、b−システムで測定することで決定された;b値(積層物)―b値(対ガラス)=Δb。
【0055】
<ヘイズ>
膜のヘイズは、積層された状態で、すなわち、ヘイズのない透明な2mmのフロートガラスの間に積層された状態で、Hunterlab“Colorquest XE”において、20℃でASTM 1003に従って決定された。
【0056】
<フュームドシリカの屈折率の測定方法>
フュームドシリカを、105℃のオーブン中で2時間乾燥させる。乾燥させたフュームドシリカを適切な無極性溶媒中に2%含有する懸濁液が、密封されたバイアル瓶に満たされ、80℃で4時間保持される。その間、良好な均質性を得るために、バイアル瓶は時々攪拌される。この懸濁液は、光学測定用のキュベットへ移され、550nmにおける光透過率をサンプル温度の関数として記録する。光透過率がその最大値(最小のヘイズ)をとるときの温度が得られ、デジタル屈折計(例えばKernchen GmbHのABBEMAT−WRなど)において同じ温度で測定される溶媒のみの屈折率が、フュームドシリカの屈折率と等しいとする。適切な溶媒は、例えば、リモネンや、パラチノール10−P、3G8又はその他のような可塑剤であり、予想されるフュームドシリカの屈折率に従い選択される。
【0057】
<PVB膜の屈折率の測定方法>
高精度自動屈折計としては、例えばKernchen GmbHの“ABBEMAT−WR”などを用いて、平らな表面を有する円状のPVBフィルムのサンプルを高精度自動屈折計のサンプル用モールド中で、20℃にて測定する。
【0058】
<ガラス転移温度Tg>
ガラス転移温度は、フィルムサンプルの、1Hz、振幅0.05%、加熱レート2K/minで測定する、動的熱機械分析(DMTA)により求められる損失係数(tanδ)曲線の極大値から求められる。
【0059】
2a)中間膜(単層)の作成
本発明の実施例と比較例のPVBフィルムはそれぞれ同条件にて作成し、溶融温度約200℃で押出し法によって、スリットダイから溶融した混合物を押し出した。PVBポリマーと任意に選択されるフュームドシリカは同時にホッパーに供給し、一方、溶解状態のUV吸収化合物を含んだ可塑剤は、別途液体成分として添加される。塩基性化合物は、水溶液として、別の注入口から押出し機へ供給された。膜厚は実施例及び比較例のすべてにおいて0.76mmであった。
【0060】
2b)中間膜(多層)の作成
実施例W5又は比較例C10の多層膜の作成は、厚さ0.38mmの膜1層(中心層)を、比較例C1の厚さ0.20mmの2層で挟み込んで作成した。完成した多層膜は厚さ0.78mmであり、その光学及び力学的特性を単層膜と同様の方法で評価した。
【0061】
3)原料
シリカ:pH3.8で1.1%のA1を含有するデグザの商用グレード アエロジル(登録商標)MOX170がフュームドシリカを含有するフィルムの作成に用いられる。付加的な無機酸化物を含まないpH4.1であるデグザ商用グレード アエロジル(登録商標)130、付加的な無機酸化物を含まないpH4.1であるキャボットの商用グレードCAB−O−SIL(登録商標)M5及び付加的な無機酸化物を含まないpH7.0であるTOSO−Silicaの商用グレードNIPGEL(登録商標)AY−200が比較のために使用される。
【0062】
【表1】

【0063】
PVB樹脂: モビタール B 68/2 SF 20.5重量%PVOH含有
クラレヨーロッパ GmbH製
可塑剤: DBEA (ジ−(2−ブトキシエチル)−アジペート)
3G8 (トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート)
塩基性化合物: 酢酸カリウム及び酢酸マグネシウム
【0064】
4)結果
下記の表2〜4に示すように、本発明の中間膜は、改善された引張強度と許容される範囲のヘイズ値及び黄色度を示した。
【0065】
(表2)[単層:単独の可塑剤]

【0066】
(表3)[単層:2種の可塑剤]

【0067】
(表4)[3層:2種の可塑剤]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール(A)、少なくとも1種の可塑剤(B)、フュームドシリカ(C)及び少なくとも1種の塩基性化合物(D)を含み、フュームドシリカ(C)と可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率の差が0.015以下であり、重量比C/(A+B)が2.7/100〜60/100である合わせガラスに有用な中間膜。
【請求項2】
塩基性化合物(D)が、炭素数1〜15の有機カルボン酸の金属塩である請求項1記載の中間膜。
【請求項3】
ASTM D 1003に準じた0.76mm厚の上記中間膜のヘイズ値が2.0%以下である請求項1または2に記載の中間膜。
【請求項4】
上記中間膜のアルカリ滴定量が3を超える請求項1〜3のいずれかに記載の中間膜。
【請求項5】
Al、TiO,MgO及びZrOからなる群より選択される少なくとも1種によってフュームドシリカ(C)がドープされる請求項1〜4のいずれかに記載の中間膜。
【請求項6】
上記中間膜の伸度50%及び/または100%における引張応力が、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜の少なくとも1.2倍である請求項1〜5のいずれかに記載の中間膜。
【請求項7】
上記中間膜のガラス転移温度Tgaと、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜のガラス転移温度Tgbの差が3℃以内(|Tga−Tgb|≦3)である請求項1〜6のいずれかに記載の中間膜。
【請求項8】
a)上記中間膜の伸度50%及び/または100%における引張応力が、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜の少なくとも1.2倍であり、かつ、
b)上記中間膜のガラス転移温度Tgaと、フュームドシリカ(C)を含まない同一組成物の中間膜のガラス転移温度Tgbの差が3℃以内(|Tga−Tgb|≦3)
である請求項1〜7のいずれかに記載の中間膜。
【請求項9】
ポリビニルアセタール(A’)及び少なくとも1種の可塑剤(B’)を含む少なくとも1つの層または膜と、ポリビニルアセタール(A)、少なくとも1種の可塑剤(B)、フュームドシリカ(C)及び少なくとも1種の塩基性化合物(D)を含む少なくとも1つの層または膜とからなり、フュームドシリカ(C)と可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率の差が0.015以下であり、重量比C/(A+B)が2.7/100〜60/100である合わせガラスに有用な多層膜。
【請求項10】
ポリビニルアセタール(A)、少なくとも1種の可塑剤(B)、フュームドシリカ(C)及び少なくとも1種の塩基性化合物(D)を含み、フュームドシリカ(C)と可塑化ポリビニルアセタール(A+B)の屈折率の差が0.015以下であり、重量比C/(A+B)が2.7/100〜60/100である少なくとも1つの層または膜が、ポリビニルアセタール(A’)及び少なくとも1種の可塑剤(B’)を含む少なくとも2つの膜に挟まれてなる請求項9記載の多層膜。
【請求項11】
ガラス、特に自動車、バス、航空機及び建造物用の窓ガラス並びに吸音壁における請求項1〜8のいずれかに記載の中間膜または請求項9または10に記載の多層膜としての使用。

【公表番号】特表2010−523449(P2010−523449A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501524(P2010−501524)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054094
【国際公開番号】WO2008/122608
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(507311946)クラレ・ヨーロッパ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (5)
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Brueningstrasse 50 Frankfurt am Main 65926 Germany
【Fターム(参考)】