説明

独立タンクの支持構造

【課題】独立タンクの熱伸縮によってタンク側支持部及び船体側支持部の荷重中心が相互に偏心した場合においても偏心荷重による応力集中を緩和できる独立タンクの支持構造を提供する。
【解決手段】独立タンクの底面51に固設された複数のタンク側支持台2と、船体のタンク収容空間の底板91に固設された複数の船体側支持台3と、タンク側支持台2と船体側支持台3との間に介在され、これらの少なくとも一方と摺動自在に形成された断熱性支持材4とを有する独立タンクの支持構造1において、独立タンクの底面51は、底板91に対して相対的に変位しない起点を中心として温度差により放射状に伸縮するように構成され、タンク側支持台2及び船体側支持台3には、タンク側支持台の荷重中心P1と船体側支持台の荷重中心P2とが底面51の伸縮により相互に偏心する偏心領域8を含む部位に補強部材22、32が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体と構造的に分離された独立タンクを船体のタンク収容空間内に支持する独立タンクの支持構造に関し、特に、外気温度に対して温度差のある積荷が貯蔵されることにより熱伸縮する独立タンクの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶に搭載されるタンクには、船体と構造的に分離された独立タンクが多く用いられている。図6に、一例としてLPG(液化石油ガス)用タンカーの構成を示す。ここで、図6は船体内部に独立タンクを搭載した独立型タンカーの概略図であり、(A)は船体横方向の断面図で、(B)は船体長さ方向の断面図である。独立タンク5は船体9のタンク収容空間6内に設置される。その際、独立タンク5は支持構造1によって鉛直方向の荷重が受け止められる。タンク収容空間6の側壁又は天井と独立タンク5との間にはホールドスペース7が形成され、アンカー(不図示)が取り付けてある。アンカーは、航海中、船体が横方向に振れてローリングを起こしたような場合、その動きを止めるために設けられている。
【0003】
図7に示すように、従来の独立タンクの支持構造1は、タンク底面51に固設された複数のタンク側支持台2と、船体のタンク収容空間の底板91に固設された複数の船体側支持台3と、タンク側支持台2と船体側支持台3との間に介在させた断熱性支持材4とを有する。断熱性支持材4は、鉛直方向に対して荷重を伝達するが水平方向に対しては拘束されず、タンク側支持台2及び船体側支持台3の少なくとも一方と摺動自在に配置される。そして、タンク側支持台2と断熱性支持材4の当接面、又は船体側支持台3と断熱性支持材4の当接面に生じる摩擦力により独立タンク5の位置が保持されている。
【0004】
このような支持構造を採用する理由の一つとして、独立タンクの熱伸縮対策が挙げられる。例えば、LPG用タンカーやLNG(液化天然ガス)用タンカーにおいては、タンク内に貯蔵される積荷は約−160℃程度の低温、又は、約−45℃程度の低温の液化ガスである。これらの低温の積荷が独立タンク内に貯蔵されると独立タンクは収縮し、空の状態になると膨張する。一方、高温の積荷が独立タンク内に貯蔵されると独立タンクは膨張し、空の状態になると収縮する。このような積荷の積み下ろし時の温度変化に伴う独立タンクの伸縮に対応可能なように、独立タンクの底面を船体に固定せず、タンク側支持台と船体側支持台が断熱性支持材を介して摺動自在となる構成としている。
【0005】
関連する技術として特許文献1(特開昭61−81287号公報)に独立タンクの支持方法が開示されている。この特許文献1の支持方法は、船体床板上に固定された支持台上に断熱材を介して独立タンクを支持する際に、タンク底板と断熱材との間に鋼板を挿入している。このように鋼板を挿入することによりタンク荷重による応力を分散させることができる。
また、特許文献2(特開2000−190891号公報)には船載タンクの支持構造が開示されている。この特許文献2の支持構造は、タンク側支持台と船体側支持台との間に断熱性支持材からなるシートを複数介在させた構成を有している。さらにタンク端部の断熱性支持材をそれ以外の断熱性支持材より低ヤング率として、タンクへの応力集中を緩和させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−81287号公報
【特許文献2】特開2000−190891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8は従来の独立タンクの偏心応力を説明する図であり、(A)は支持構造の側面図で、(B)はタンク側支持台と船体側支持台の位置関係を示す図である。
特許文献1や特許文献2等に開示される従来の支持構造においては、積荷の積み下ろし時の温度変化に伴い独立タンクが熱伸縮することによって、図8(A)に示すようにタンク側支持台2の荷重中心P1と船体側支持台3の荷重中心P2がずれ、支持台2、3や支持材4に偏心応力が加わる。そのため、タンク側支持台2や船体側支持台3は、偏心荷重による応力集中によって変形してしまう惧れがある。支持台2、3に変形が生じると、独立タンクを安定して支持することができない。
【0008】
一方、タンク側支持台2や船体側支持台3を偏心応力に耐え得る構造とするためには、十分な板厚が必要となる。しかし、これらの支持台2、3は多数設けられるため支持台2、3の板厚を厚くすると重量が大きくなってしまうという問題がある。図8(B)中の矢印は、熱伸縮によるタンク側支持台2と船体側支持台3とのずれを示す。独立タンクと船体との温度差が大きくなればなるほどずれは大きくなり、タンク側支持台2と船体側支持台3との偏心量及び偏心荷重が大きくなり、偏心荷重による支持台の強度不足が問題となる。
【0009】
したがって、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、独立タンクの温度変化に伴う熱伸縮によってタンク側支持部及び船体側支持部の荷重中心が相互に偏心した場合においても、これらの支持部に対する応力集中を緩和でき、安定して独立タンクを支持可能な独立タンクの支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、第1の発明に係る独立タンクの支持構造は、外気温度に対して温度差のある積荷が貯蔵される独立タンクの支持構造であって、前記独立タンクの底面に固設された複数のタンク側支持台と、船体のタンク収容空間の底板に固設された複数の船体側支持台と、前記タンク側支持台と前記船体側支持台との間に介在され、前記タンク側支持台及び前記船体側支持台の少なくとも一方と摺動自在に形成された断熱性支持材とを有する独立タンクの支持構造において、前記独立タンクの底面は、前記底板に対して相対的に変位しない起点を中心として前記温度差により放射状に伸縮するように構成されており、前記タンク側支持台及び前記船体側支持台にはそれぞれ、前記タンク側支持台の荷重中心と前記船体側支持台の荷重中心とが前記底面の伸縮により相互に偏心する偏心領域を含む部位に、タンク荷重に対して前記支持台を補強する補強部材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本第1発明では、タンク側支持台及び船体側支持台に補強部材が設けられている。さらにこの補強部材は、独立タンクの熱伸縮によりタンク側支持台の荷重中心と船体側支持台の荷重中心とが相互に偏心する偏心領域を含む部位に設けられている。この補強部材によって、偏心荷重によるタンク側支持台及び船体側支持台への応力集中を緩和することができる。したがって、タンク側支持台及び船体側支持台の変形を防止でき安定して独立タンクを支持可能な支持構造とすることができる。また、補強部材を設けることにより、偏心荷重対策として板厚を厚くする必要がなくなり、支持構造の重量増加を防止できる。
【0012】
また、補強部材がそれぞれ設けられたタンク側支持台と船体側支持台とを用いているため、独立タンクは既存のものを用いることができる。
さらに、独立タンクの底面は、船体の底板に対して相対的に変位しない起点を中心として放射状に伸縮するように構成されているため、タンク側支持台及び船体側支持台の偏心領域を容易に特定可能で、補強部材を必要部位に確実に設置することができる。
なお、外気温度とはタンク周囲の温度のことであり、タンク周囲は室外であってもよいし、室内であってもよい。
【0013】
第2の発明に係る独立タンクの支持構造は、外気温度に対して温度差のある積荷が貯蔵される独立タンクの支持構造であって、船体のタンク収容空間の底板に固設された複数の船体側支持台と、前記独立タンクの底部内構材が位置する底面部位と前記船体側支持台との間に介在され、前記底面部位及び前記船体側支持台の少なくとも一方と摺動自在に形成された断熱性支持材とを有する独立タンクの支持構造において、前記独立タンクの底面は、前記底板に対して相対的に変位しない起点を中心として前記温度差により放射状に伸縮するように構成されており、前記底部内構材及び前記船体側支持台にはそれぞれ、前記底部内構材による底面支持点と前記船体側支持台の荷重中心とが前記底面の伸縮により相互に偏心する偏心領域を含む部位に、タンク荷重に対して前記底部内構材又は前記船体側支持台を補強する補強部材が設けられていることを特徴とする。
【0014】
本第2発明では、底部内構材及び船体側支持台に補強部材が設けられている。さらにこの補強部材は、独立タンクの熱伸縮により、底部内構材による底面支持点と船体側支持台の荷重中心とが相互に偏心する偏心領域を含む部位に設けられている。この補強部材によって、偏心荷重による底面及び船体側支持台への応力集中を緩和することができる。したがって、タンク底面の変形を防止できるとともに、船体側支持台の変形を防止でき安定して独立タンクを支持可能な支持構造とすることができる。また、補強部材を設けることにより、偏心荷重対策としてタンク底面や船体側支持台の板厚を厚くする必要がなくなり、タンクや支持構造の重量増加を防止できる。
【0015】
ここで、前記底部内構材とは、独立タンク自体の補強を目的としてタンク底面より内側に設けられた構材(骨材を含む)である。前記底部内構材による底面支持点とは、底部内構材が接続されている底面位置の少なくとも一点であり、特に、複数の底部内構材が交差して底面のうち最も変形強度が高い点であることが好ましい。
また、独立タンク側には支持台を設けずに底部内構材に補強部材を設けた構成としているため、支持構造の重量低減や工数削減によるコスト低減が可能となる。
さらに、独立タンクの底面は、船体の底板に対して相対的に変位しない起点を中心として放射状に伸縮するように構成されているため偏心領域を容易に特定可能で、補強部材を必要部位に確実に設置することができる。
【0016】
上記した第1の発明及び第2の発明において、以下の構成を備えていてもよい。
前記補強部材は、前記荷重中心の周囲のうち前記偏心領域を含むように部分的に設けられていてもよい。
これにより、偏心荷重による応力集中に対応した必要最低限の補強を行うとともに、支持構造の重量低減が可能となる。
【0017】
また、前記補強部材は、前記荷重中心の周囲全周に亘って設けられていてもよい。
これにより、タンク底面の伸縮方向に対する補強部材の位置を考慮する必要がなくなる。したがって、支持台に補強部材が設けられる場合には支持台を独立タンクに取り付ける作業が容易となり、底部内構材に補強部材が設けられる場合には補強部材の取り付け作業が容易となる。
【0018】
さらに、前記タンク側支持台及び前記船体側支持台は、前記断熱性支持材に面接触する天板部と、一側縁部が前記天板部に接続されるとともに該天板部に直交する荷重中心軸を通るように配置された複数の平板部材からなる脚部と、一側縁部が前記天板部に接続されるとともに隣り合う前記平板部材同士の間に架設された前記補強部材とを含むことが好ましい。
本構成によれば、脚部を形成する複数の平板部材は、荷重中心軸を中心として放射状に配置されることとなる。さらに隣り合う平板部材同士の間に補強部材を架設することにより、偏心荷重を荷重中心軸に軸力として伝達させることができ、荷重中心の偏心による応力を低減することが可能である。
【0019】
また、前記補強部材は、前記天板部から前記脚部の鉛直方向全長に亘って設けられていてもよい。
本構成によれば、補強部材の上下端部が、天板部とタンク底面又は船体の底板とにそれぞれ当接して天板部を支持するため、荷重中心軸の他に補強部材においても鉛直方向にタンク荷重を伝達することができ、より大きな偏心荷重にも対応可能である。
【0020】
また、前記補強部材は、前記天板部から前記脚部の鉛直方向全長より短い位置まで設けられていてもよい。
これにより、補強部材を小型化することができ、支持構造の重量低減が可能となる。
【0021】
さらに、前記補強部材は、隣り合う前記板状部材間の中央部の方が該板状部材に接続される端部側より鉛直方向長さが短くなるように形成されていることが好ましい。
支持台において天板で受けた荷重は、補強部材から板状部材に伝達される。したがって、荷重の伝達に寄与しない板状部材間中央部の補強部材を端部側より短くすることにより、補強部材をより一層小型化することができ、支持構造の重量低減が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上記載のように本発明によれば、タンク側支持台及び船体側支持台、又はタンクの底部内構材及び船体側支持台に補強部材を設け、該補強部材を荷重中心の偏心領域を含む部位に設けることにより、偏心荷重による応力集中を緩和することができる。したがって、タンク側支持台及び船体側支持台、又はタンク底面及び船体側支持台の変形を防止でき安定して独立タンクを支持可能な支持構造とすることができる。また、補強部材を設けることにより、偏心荷重対策として板厚を厚くする必要がなくなり、支持構造の重量増加を防止できる。
また、独立タンクの底面は、船体の底板に対して相対的に変位しない起点を中心として放射状に伸縮するように構成されているため、偏心領域を容易に特定可能で、補強部材を必要部位に確実に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る独立タンクの支持構造を説明する図であり、(A)は支持構造の側面図で、(B)はタンク側支持台と船体側支持台の位置関係を示す図である。
【図2】独立タンクの底面を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る独立タンクの支持構造の変形例を説明する図であり、(A)〜(G)のそれぞれにおいて上図は支持台の平面図で、下図は支持台の側面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る独立タンクの支持構造を示す側面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る底部内構材を示す斜視図である。
【図6】船体内部に独立タンクを搭載した独立型タンカーの概略図であり、(A)は船体横方向の断面図で、(B)は船体長さ方向の断面図である。
【図7】従来の独立タンクの支持構造を示す側面図である。
【図8】従来の独立タンクの偏心荷重を説明する図であり、(A)は支持構造の側面図で、(B)はタンク側支持台と船体側支持台の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本発明の実施形態に係る独立タンクの支持構造は、外気温度に対して温度差のある積荷が貯蔵される独立タンクを、船体のタンク収容空間内に支持する際に用いられる。ここで、外気温度とはタンク周囲の温度のことであり、タンク周囲は室外であってもよいし、室内であってもよい。
【0025】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る独立タンクの支持構造を説明する図であり、(A)は支持構造の側面図で、(B)はタンク側支持台と船体側支持台の位置関係を示す図である。なお、図1(B)は支持構造1を上方から見た図であり、タンク側支持台2及び船体側支持台3においてそれぞれ天板21、31は省略している。
本発明の第1実施形態に係る独立タンクの支持構造1は、独立タンクの底面51に固設されたタンク側支持台2と、船体のタンク収容空間の底板91に固設された船体側支持台3と、タンク側支持台2と船体側支持台3との間に介在させた断熱性支持材4とを有する。
【0026】
タンク側支持台2は、独立タンクの荷重を支えるものであり、独立タンクの底面51に所定間隔を隔てて複数固設されている。タンク側支持台2としては剛性の高い材料が用いられ、例えば鋼材が用いられる。
さらに、タンク側支持台2は、タンク荷重に対してタンク側支持台2を補強する補強部材23が設けられている。この補強部材23の構成については後述する。
タンク側支持台2の好適な構成として、タンク側支持台2は、断熱性支持材4に面接触する天板部21と、一側縁部が天板部21に接続されるとともに該天板部21に直交する荷重中心軸P1を通るように配置された複数の平板部材からなる脚部22とを含む。さらに、一側縁部が天板部21に接続されるとともに、脚部22の隣り合う平板部材同士の間に架設された補強部材23とを含む。この補強部材23はプレート状であることが好ましい。
【0027】
船体側支持台3は、タンク側支持台2及び断熱性支持材4を介して独立タンクの荷重を支えるものであり、船体のタンク収容空間の底板91に所定間隔を隔てて複数固設されている。
さらに、船体側支持台3は、タンク荷重に対して船体側支持台3を補強する補強部材33が設けられている。この補強部材33の構成については、タンク側支持台2の補強部材23とともに後述する。
船体側支持台3の好適な構成として、上記したタンク側支持台2と同一の構成を用いることができる。すなわち、船体側支持台3は、天板部31と、脚部32と補強部材33とを含む。
【0028】
断熱性支持材4は、独立タンクの荷重を支えるとともに、独立タンクの底面51と、船体のタンク収容空間の底板91との間の断熱材として機能する。この断熱性支持材4としては、樹脂を含浸させて強度を増した木材、樹脂、若しくは布等で補強された樹脂などが用いられる。さらにこれらの薄板状材料を積層したものが好適に用いられる。具体的には、断熱性支持材4は例えばフェノール樹脂の積層材としてベークライトのような布をフェノール樹脂で固めながら積層したもの、又は木材に樹脂を含浸させて固めたもの等が挙げられる。
【0029】
また、断熱性支持材4は、タンク側支持台2と船体側支持台3との間に介在され、タンク側支持台2及び船体側支持台3の少なくとも一方と摺動自在に形成されている。すなわち、断熱性支持材4とタンク側支持台2、又は断熱性支持材4と船体側支持台3を固定して、断熱性支持材4と固定されていない側の支持台が断熱性支持材4と摺動するようにしてもよいし、断熱性支持材4と両支持台とが摺動するようにしてもよい。このとき、断熱性支持材4の表面は、船体の揺動に対しては独立タンクを保持し、且つ独立タンクの熱伸縮に対してはタンク側支持台2又は船体側支持台3と摺動するような摩擦係数を有していることが好ましい。
【0030】
ここで、独立タンクと船体の構成について説明する。なお、本実施形態が適用される船舶は、例えばLPG(液化石油ガス)用タンカーやLNG(液化天然ガス)用タンカー等のように、外気温度に対して温度差のある積荷が貯蔵される独立タンクを搭載した船舶である。
図6は船体内部に独立タンクを搭載した独立型タンカーの概略図であり、(A)は船体横方向の断面図で、(B)は船体長さ方向の断面図である。
上記したように独立型のタンカーにおいては、独立タンク5を船体9のタンク収容空間6内に搭載する。タンク収容空間6の側壁又は天井と独立タンク5との間にはホールドスペース7が形成され、ここにアンカー(図示略)が取り付けてある。アンカーは、航海中、船体が横方向に振れてローリングを起こしたような場合、その動きを止めるために設けられている。さらに、タンク収容空間6と独立タンク5との間のホールドスペース7には、独立タンク5の鉛直方向の荷重を受け止める支持構造1が設けられている。
【0031】
図2は独立タンクの底面を示す図である。
独立タンク5の底面51には、上記したように所定間隔を隔てて複数のタンク側支持台2が固設されている。すなわち、このタンク側支持台2の位置に支持構造1が配置されることとなる。
独立タンク5は、外気温度より低温又は高温の積荷が貯蔵されるため、積荷の積み下ろし時に熱伸縮する。本実施形態に係る独立タンク5は、独立タンク5の底面51が、タンク収容空間6の底板91(図6参照)に対して相対的に変位しない起点50を中心として温度差により放射状に伸縮するように構成されている。これは、例えば底面51に固定手段を設けて、固定手段により起点50は固定され且つ他の底面部位は変位自在となる構成としてもよいし、底面51のうち起点50のみが変位しないように独立タンク5をタンク収容空間6上部から吊下固定する構成としてもよい。
図2は一例として、独立タンク5が空の状態で常温(外気温度と同一)である場合を示し、図中の矢印は、外気温度より低温の積荷をタンク内に積載したときに独立タンク5の底面51が収縮する方向を示している。同図に示すように、独立タンク5の底面51は、起点50を中心として放射状に伸縮するようになっている。
【0032】
図1に戻り、タンク側支持台2の補強部材23及び船体側支持台3の補強部材33は、タンク側支持台2の荷重中心P1と船体側支持台3の荷重中心P2とが底面51の伸縮により相互に偏心する偏心領域8を含む部位にそれぞれ設けられている。
独立タンク5が常温のときは、タンク側支持台2の荷重中心P1と船体側支持台3の荷重中心P2とは同一軸上に配置されている。ここで、独立タンク5内に積荷が積載されると独立タンク5が熱伸縮する。これにともない底面51に固設されるタンク側支持台2は、例えば図1(B)の矢印方向にスライド移動する。そうするとタンク側支持台2の荷重中心P1と、船体側支持台3の荷重中心P2とがずれて偏心配置される。これによりタンク側支持台2及び船体側支持台3には偏心応力が発生する。
【0033】
これに対して本実施形態においては、支持台2、3に補強部材23、33を設けているため、偏心荷重によるタンク側支持台2及び船体側支持台3への応力集中を緩和することができる。したがって、タンク側支持台2及び船体側支持台3の変形を防止でき安定して独立タンク5を支持可能な支持構造1とすることができる。また、補強部材23、33を設けることにより、偏心荷重対策として支持台2、3の板厚を厚くする必要がなくなり、支持構造1の重量増加を防止できる。
【0034】
また、本第1実施形態においては、補強部材23、33がそれぞれ設けられたタンク側支持台2と船体側支持台3とを用いているため、独立タンク5は既存のものを用いることができる。
さらに、独立タンク5の底面51は、船体9の底板91に対して相対的に変位しない起点を中心として放射状に伸縮するように構成されているため、タンク側支持台2及び船体側支持台3の偏心領域8を容易に特定可能で、補強部材23、33を必要部位に確実に設置することができる。
【0035】
さらにまた、本実施形態におけるタンク側支持台2及び船体側支持台3の好適な構成として、上記したように天板部21、31と、複数の平板部材からなる脚部22、32と、補強部材23、33とを含む構成としている。このとき脚部22、32を形成する複数の平板部材は、荷重中心軸を中心として放射状に配置されることとなる。さらに隣り合う平板部材同士の間に補強部材23、33を架設することにより、偏心荷重を荷重中心軸に軸力として伝達させることができ、荷重中心の偏心による応力を低減することが可能である。
【0036】
次いで、図3を参照して、本発明の実施形態に係る独立タンクの支持構造の変形例を説明する。図3(A)〜(G)のそれぞれにおいて上図は支持台の平面図で、下図は支持台の側面図である。なお、ここでは船体側支持台3について説明するが、タンク側支持台2についても同一の構成を採用することができる。
図3(A)〜(G)において、船体側支持台3は、天板部31と、複数の平板部材からなる脚部32と、補強部材33とを含む。脚部32は、平板部材が十字に交差した形状を有している。すなわち、脚部32は、荷重中心P2を中心として90度間隔で4枚の平板部材が配置された構成となっている。
【0037】
図3(A)の支持構造は、船体側支持台3aの補強部材33aが、荷重中心P2aの周囲のうち偏心領域8(図1参照)を含むように部分的に設けられている。具体的には、円弧状の補強部材33aが、隣り合う板状部材の間に架設された構成となっている。これにより、偏心荷重による応力集中に対応した必要最低限の補強を行うとともに、支持構造の重量低減が可能となる。
【0038】
また、この補強部材33aは、天板部31aから脚部32aの鉛直方向全長より短い位置まで設けられており、底板91には接続されていない。これにより、補強部材33aを小型化することができ、支持構造の重量低減が可能となる。
さらに、この補強部材33aは、隣り合う板状部材間の中央部の方が該板状部材に接続される端部側より鉛直方向長さが短くなるように形成されている。すなわち、板状部材間の中央部において補強部材33aが一部切り欠かれた形状となっている。これは、船体側支持台3aにおいて天板31aで受けた荷重は、補強部材33aから脚部32aの板状部材に伝達される。したがって、荷重の伝達に寄与しない板状部材間中央部の補強部材33aを端部側より短くすることにより、補強部材33aをより一層小型化することができ、支持構造のさらなる重量低減が可能となる。
【0039】
図3(B)の支持構造は、船体側支持台3bの補強部材33bが円弧状に形成され、荷重中心P2bの周囲のうち偏心領域8(図1参照)を含むように部分的に設けられている。これにより支持構造1bの重量低減が可能となる。
また、この補強部材33bは、天板部31bから脚部32bの鉛直方向全長に亘って設けられている。これにより補強部材33bの上下端部が、天板部31bと底板91とにそれぞれ当接して天板部31bを支持するため、荷重中心軸の他に補強部材33bにおいても鉛直方向にタンク荷重を伝達することができ、より大きな偏心荷重にも対応可能となる。
【0040】
図3(C)の支持構造は、船体側支持台3cの補強部材33cが荷重中心P2cの周囲全周に亘って円環状に設けられている。これにより、タンク底面51の伸縮方向に対する補強部材33cの位置を考慮する必要がなくなる。したがって、船体側支持台3cの取り付け作業が容易となる。
また、この補強部材33cは、天板部31cから脚部32cの鉛直方向全長より短い位置まで設けられており、底板91には接続されていない。これにより補強部材33cを小型化することができ、支持構造の重量低減が可能となる。
【0041】
図3(D)の支持構造は、船体側支持台3dの補強部材33dが荷重中心P2dの周囲全周に亘って円環状に設けられている。これにより、タンク底面51の伸縮方向に対する補強部材33dの位置を考慮する必要がなくなる。したがって、船体側支持台3dの取り付け作業が容易となる。
また、この補強部材33dは、天板部31dから脚部32dの鉛直方向全長に亘って設けられている。したがって、より大きな偏心荷重にも対応可能となる。
【0042】
図3(E)の支持構造は、船体側支持台3eの補強部材33eが荷重中心P2eの周囲全周に亘って環状に設けられている。これにより船体側支持台3cの取り付け作業が容易となる。さらにこの補強部材33eは平板形状を有しており、脚部32の板状部材に対して45度の角度で取り付けられ、全体として方形環状に形成されている。
また、この補強部材33eは、天板部31eから脚部32eの鉛直方向全長より短い位置まで設けられており、底板91には接続されていない。これにより補強部材33eを小型化することができ、支持構造の重量低減が可能となる。
【0043】
図3(F)の支持構造は、船体側支持台3fの補強部材33fが、荷重中心P2fの周囲に所定間隔を隔てて複数設けられている。具体的には、平板状の補強部材33fが、荷重中心P2fを中心として放射状に設けられている。これにより船体側支持台3fの取り付け作業が容易となる。
また、この補強部材33fは、天板部31fから脚部32fの鉛直方向全長より短い位置まで設けられており、底板91には接続されていない。これにより補強部材33fを小型化することができ、支持構造の重量低減が可能となる。
【0044】
図3(G)の支持構造は、船体側支持台3gの補強部材33gが荷重中心P2gの周囲全周に亘って環状に設けられている。これにより船体側支持台3gの取り付け作業が容易となる。さらにこの補強部材33gは90度に屈曲した形状を有し、全体として方形環状に形成されている。
また、この補強部材33fは、天板部31fから脚部32fの鉛直方向全長より短い位置まで設けられており、底板91には接続されていない。これにより補強部材33fを小型化することができ、支持構造の重量低減が可能となる。
なお、図3(E)〜図3(G)の支持構造においては、補強部材を荷重中心の周囲に部分的に設けていてもよいし、さらに天板部から脚部の鉛直方向全長に亘って設けていてもよい。
【0045】
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態に係る独立タンクの支持構造を示す側面図である。なお、以下の第2実施形態において、上記した第1実施形態と同一の構成についてはその詳細な説明を省略する。
本発明の第2実施形態に係る独立タンクの支持構造1’は、船体のタンク収容空間の底板91に固設された複数の船体側支持台3’と、タンク底面51と船体側支持台3’との間に介在された断熱性支持材4’とを有する。
船体側支持台3’の構成は、第1実施形態と同様であり、天板31’と、脚部32’と、補強部材33’とを有している。
また、第1実施形態と同様に、独立タンク5の底面51は、底板91に対して相対的に変位しない起点を中心として温度差により放射状に伸縮するように構成されている。
【0046】
この第2実施形態では、第1実施形態に示したタンク側支持台2を設けない構成としている。したがって断熱性支持材4’は、独立タンク5の底部内構材52が位置する底面部位51aと、船体側支持台3’との間に介在される。さらに、底部内構材52には、該底部内構材52による底面支持点P3と、船体側支持台3’の荷重中心とが底面51の伸縮により相互に偏心する偏心領域を含む部位に、タンク荷重に対して底部内構材52を補強する補強部材25が設けられている。底部内構材52による底面支持点P3とは、底部内構材52が接続されている底面位置の少なくとも一点であり、特に、複数の底部内構材52が交差して底面51のうち最も変形強度が高い点であることが好ましい。
【0047】
ここで、図5に底部内構材52の斜視図を示す。底部内構材52とは、独立タンク自体の補強を目的としてタンク底面51より内側に設けられた構材(骨材を含む)である。底部内構材52は、一般に横方向骨材と縦方向骨材とが交差した構成を有する。この底部内構材52が交差した位置を底面部位51aとし、交差した点を底面支持点P3とすることが好ましい。その理由は、底部内構材52が交差した位置が最も変形強度が高い点であるためである。
【0048】
このように本第2実施形態では、底部内構材52及び船体側支持台3’に補強部材25、33’を設けた構成としている。この補強部材25、33’によって、偏心荷重による底面51及び船体側支持台3’への応力集中を緩和することができる。したがって、タンク底面51の変形を防止できるとともに、船体側支持台3’の変形を防止でき安定して独立タンク5を支持可能な支持構造1’とすることができる。また、補強部材25、33’を設けることにより、偏心荷重対策としてタンク底面51や船体側支持台3’の板厚を厚くする必要がなくなり、タンク5や支持構造1’の重量増加を防止できる。
【0049】
また、本第2実施形態においては、独立タンク側には支持台を設けずに底部内構材52に補強部材25を設けた構成としているため、支持構造1’の重量低減や工数削減によるコスト低減が可能となる。
さらに、独立タンク5の底面51は、船体9の底板91に対して相対的に変位しない起点を中心として放射状に伸縮するように構成されているため偏心領域を容易に特定可能で、補強部材25、33’を必要部位に確実に設置することができる。
【符号の説明】
【0050】
1、1’ 支持構造
2 タンク側支持台
3、3’、3a〜3g 船体側支持台
4、4’ 断熱性支持材
5 独立タンク
6 タンク収容空間
7 ホールドスペース
8 偏心領域
9 船体
23 (タンク側)補強部材
33、33’、33a〜33g (船体側)補強部材
50 起点
51 底面
91 底板
P1 (タンク側)荷重中心
P2、P2a〜P2g (船体側)荷重中心
P3 (底部内構材側)底面支持点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気温度に対して温度差のある積荷が貯蔵される独立タンクの支持構造であって、
前記独立タンクの底面に固設された複数のタンク側支持台と、船体のタンク収容空間の底板に固設された複数の船体側支持台と、前記タンク側支持台と前記船体側支持台との間に介在され、前記タンク側支持台及び前記船体側支持台の少なくとも一方と摺動自在に形成された断熱性支持材とを有する独立タンクの支持構造において、
前記独立タンクの底面は、前記底板に対して相対的に変位しない起点を中心として前記温度差により放射状に伸縮するように構成されており、
前記タンク側支持台及び前記船体側支持台にはそれぞれ、前記タンク側支持台の荷重中心と前記船体側支持台の荷重中心とが前記底面の伸縮により相互に偏心する偏心領域を含む部位に、タンク荷重に対して前記支持台を補強する補強部材が設けられていることを特徴とする独立タンクの支持構造。
【請求項2】
外気温度に対して温度差のある積荷が貯蔵される独立タンクの支持構造であって、
船体のタンク収容空間の底板に固設された複数の船体側支持台と、前記独立タンクの底部内構材が位置する底面部位と前記船体側支持台との間に介在され、前記底面部位及び前記船体側支持台の少なくとも一方と摺動自在に形成された断熱性支持材とを有する独立タンクの支持構造において、
前記独立タンクの底面は、前記底板に対して相対的に変位しない起点を中心として前記温度差により放射状に伸縮するように構成されており、
前記底部内構材及び前記船体側支持台にはそれぞれ、前記底部内構材による底面支持点と前記船体側支持台の荷重中心とが前記底面の伸縮により相互に偏心する偏心領域を含む部位に、タンク荷重に対して前記底部内構材又は前記船体側支持台を補強する補強部材が設けられていることを特徴とする独立タンクの支持構造。
【請求項3】
前記補強部材は、前記荷重中心の周囲のうち前記偏心領域を含むように部分的に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の独立タンクの支持構造。
【請求項4】
前記補強部材は、前記荷重中心の周囲全周に亘って設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の独立タンクの支持構造。
【請求項5】
前記タンク側支持台及び前記船体側支持台は、前記断熱性支持材に面接触する天板部と、一側縁部が前記天板部に接続されるとともに該天板部に直交する荷重中心軸を通るように配置された複数の平板部材からなる脚部と、一側縁部が前記天板部に接続されるとともに隣り合う前記平板部材同士の間に架設された前記補強部材とを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の独立タンクの支持構造。
【請求項6】
前記補強部材は、前記天板部から前記脚部の鉛直方向全長に亘って設けられていることを特徴とする請求項5に記載の独立タンクの支持構造。
【請求項7】
前記補強部材は、前記天板部から前記脚部の鉛直方向全長より短い位置まで設けられていることを特徴とする請求項5に記載の独立タンクの支持構造。
【請求項8】
前記補強部材は、隣り合う前記板状部材間の中央部の方が該板状部材に接続される端部側より鉛直方向長さが短くなるように形成されていることを特徴とする請求項7に記載の独立タンクの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−126173(P2012−126173A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277282(P2010−277282)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】