説明

独立栄養性アンモニア酸化細菌用担体、アンモニア態窒素除去用細菌担持体およびアンモニア態窒素の除去方法

【課題】独立栄養性アンモニア酸化細菌の種菌を付着させた状態から迅速に負荷を上げてゆくことができ、少ない量でより多くの負荷を処理することができるポリエステル不織布を凌駕する性能の担体を提供する。
【解決手段】有機性廃棄物の炭化物を含むことを特徴とする独立栄養性アンモニア酸化細菌用担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア態窒素を含む排水の処理に用いられる独立栄養性アンモニア細菌に好適な担体、アンモニア態窒素除去用細菌担持体およびアンモニア態窒素の除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニア態窒素は、肥料や糞尿に高い比率で含まれ、土壌へ散布した肥料や未処理のまま流出した家畜糞尿によって環境へ拡散されて地下水を汚染することが知られている。アンモニア態窒素には高い魚毒性があり、低い濃度であっても生物への悪影響がある。また、一部のアンモニア態窒素は環境下で酸化され硝酸態窒素となるが、硝酸態窒素は植物体へ蓄積して高含有となるため、これを摂取した人体中でニトロソアミンを生成させるとの説がある。ニトロソアミンは発ガン性があることが知られているため、水道法では硝酸態窒素の水質基準を10mg/l以下と定めている。一方、アンモニア態窒素や硝酸態窒素は、公共水域の富栄養化の一因となり、赤潮やアオコ発生による水中の酸素不足を招き、生物の生育環境を破壊する要因となる。このように排水中からアンモニア態窒素を除去することは非常に重要であるが、従来技術ではアンモニア態窒素を曝気下で好気性微生物により硝酸態窒素に変え(硝化)、硝酸態窒素を嫌気下で脱窒微生物により窒素ガスに変える方法(脱窒)がとられてきた。脱窒の際には嫌気性微生物の代謝のために有機物(水素供与体)の添加が必要で、従来法ではメタノールや酢酸が使用されることが多い。曝気のためのエネルギーや水素供与体の添加コストはアンモニア態窒素分解のための大きなコスト要因となっている。近年、排水中のアンモニア態窒素を除去処理する方法として、独立栄養性アンモニア酸化細菌を用いる方法が知られている。
【0003】
独立栄養性アンモニア酸化細菌(Anammox菌)とは、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素から直接窒素を生成する反応を起こす微生物の一群を指す。この反応を利用すれば流入排水中のアンモニア態窒素の50%を酸化させるだけで良く、しかも硝酸態窒素ではなく、亜硝酸態窒素まで酸化すればいいので曝気エネルギーのコストが削減できる。また、この反応では水素供与体は不要である。このように独立栄養性アンモニア酸化細菌の利用は従来のアンモニア態窒素処理方法のプロセスを一変させる可能性を持っている。しかしながら、独立栄養性アンモニア酸化細菌の増殖速度は他の微生物より非常に遅いため嫌気条件下で担体に固定しながら培養して増やすほかない事が知られている。
【0004】
熊本大学の古川らは、ポリエステル不織布が独立栄養性アンモニア酸化細菌の増殖に適した担体であると発表している(非特許文献1)。
【0005】
また、独立栄養性アンモニア酸化細菌の担体として、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリエチレングリコール系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル樹脂等の樹脂;セルロース、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム等の多糖類;その他活性炭、無機化合物などが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−224688号公報
【非特許文献1】「実用化が見えてきた?anammox反応」、水環境学会誌Vol.27 No.7(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現状の担体では十分な増殖速度が確保できておらず、独立栄養性アンモニア酸化細菌を使用した窒素浄化システムは実用化されていない。そのため、種菌を付着させた状態から迅速に負荷を上げてゆくことができ、少ない量でより多くの負荷を処理することができるポリエステル不織布を凌駕する性能の担体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に関するものである。
(1) 有機性廃棄物の炭化物をふくむことを特徴とする独立栄養性アンモニア酸化細菌用担体。
(2) 有機性廃棄物がビール粕であることを特徴とする項(1)に記載の独立栄養性ア ンモニア酸化細菌用担体。
(3) 有機性廃棄物の炭化物が、有機性廃棄物を高圧成形して固形体を作り、該固体を乾留させて炭化処理したものであることを特徴とする項(1)または項(2)に記載の独立栄養性アンモニア酸化細菌用担体。
(4) 独立栄養性アンモニア酸化細菌を有機性廃棄物の炭化物に担持したことを特徴とするアンモニア態窒素除去用細菌担持体。
(5) 有機性廃棄物がビール粕であることを特徴とする請求項4に記載のアンモニア態窒素除去用細菌担持体。
(6) 有機性廃棄物の炭化物が、有機性廃棄物を高圧成形して固形体を作り、該固体を乾留させて炭化処理したものであることを特徴とする項(4)または項(5)に記載のアンモニア態窒素除去用細菌担持体。
(7) アンモニア態窒素を含む排水を有機性廃棄物の炭化物に担持した独立栄養性アンモニア酸化細菌で嫌気状態下に亜硝酸とともに処理することを特徴とするアンモニア態窒素を含む排水からのアンモニア態窒素除去方法。
(8) 有機性廃棄物がビール粕であることを特徴とする項(7)に記載のアンモニア態窒素除去方法。
(9) 有機性廃棄物の炭化物が、有機性廃棄物を高圧成形して固形体を作り、該固体を乾留させて炭化処理したものであることを特徴とする項(7)または項(8)に記載のアンモニア態窒素除去方法。
【発明の効果】
【0008】
有機性廃棄物の炭化物を担体として用いた場合、独立栄養性アンモニア酸化細菌による処理において2つの効果があると認められた。
(1) 担体容積当たりの処理能力(容積負荷)が従来最高であるとされてきたポリエステル不織布を用いた場合の容積負荷の1.5倍以上に達すること。
(2) 負荷をかけ始めてから70〜90%が窒素ガスに転換する状態を保ちながら負荷をあげていった場合の時間(立ち上がり速度)がポリエステル不織布を用いた場合の約2倍になること。
である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における独立栄養性アンモニア酸化細菌とは、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素から直接窒素を生成する反応を起こす微生物の一群を指す。
【0010】
本発明における独立栄養性アンモニア酸化細菌用の担体とは、有機性廃棄物を炭化したものである。有機性廃棄物としては、例えばオガクズ等の破砕木材、ビール粕、ウイスキー粕、麦根、製麦粕、ワイン粕、酒粕、醤油粕、おから、ふすま、コーヒー粕、茶粕、リンゴ粕、ホップ粕、酵母、残飯、梅酒残渣等をあげることができる。
【0011】
これらの有機性廃棄物のなかでも、ビール粕は加工が比較的容易で、様々な元素を含有しているため菌の生育が良く特に担体素材として優れている点でこのましい。
【0012】
本発明の有機性廃棄物の炭化物の製造方法としては、有機廃材を高温で白炭化させる方法があげられる。ビール粕のように粒状のものは、乾燥及び高圧成形を行った後高温燃焼させて炭化させる。
【0013】
本発明において、有機性廃棄物の炭化物に独立栄養性アンモニア酸化細菌を担持させるには、独立栄養性アンモニア酸化細菌を含む溶液中に有機性廃棄物の炭化物を浸漬させて炭化物の細孔内に独立栄養性アンモニア酸化細菌を付着させる。
【0014】
本発明において、有機性廃棄物の炭化物に担持した独立栄養性アンモニア酸化細菌を用いてアンモニア態窒素を含有する排水からアンモニア態窒素を除去処理するには、排水中のアンモニアの一部を酸化させて亜硝酸を生成し、アンモニアと亜硝酸を含有する排水を嫌気状態で独立栄養性アンモニア酸化細菌を担持させた有機性廃棄物の炭化物に接触させてアンモニア態窒素を除去する。
【実施例1】
【0015】
図1に示す実験装置において、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素を1:1の濃度になるように調整した人工排水を担体を充填したカラムに供給し、流出液の硝酸態窒素濃度から窒素置換率(除去率)を算出した。担体はあらかじめ独立栄養性アンモニア酸化細菌による実験装置からの処理水に2週間以上さらし、独立栄養性アンモニア酸化細菌が自然に付着させるようにした。カラムはリボンヒーターで33℃から35℃に保った。除去率が70〜90%になるような範囲で徐々に人工排水の流入量を増やしていった。
【0016】
担体としては、粒径3〜5mmのビール粕から焼成した炭化物(以下MC1)、粒径10〜15mmのビール粕から焼成した炭化物(以下MC2)を使用し、比較対象として粒径3〜5mm、密度1.03g/cm3のポリビニルアルコール樹脂(以下PVA)と開孔径510μm、空隙率99.6%で直径10cmの菊花状ポリエステル製不織布(以下不織布)を使用した。
【0017】
容積負荷の経時変化を図2に示す。
【0018】
図2から明らかなようにMC1、MC2ともにPVA、不織布を上回る容積負荷に耐えうることがわかる。特にMC2は現在最も性能が高いとされる不織布よりも立ち上がりの速さ、最大値ともに上回っている。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、アンモニア態窒素を含有する排水を効率的に処理できるので、本発明は環境浄化に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で使用したアンモニア態窒素の除去装置の説明図。
【図2】除去速度の経時変化を示したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物の炭化物を含むことを特徴とする独立栄養性アンモニア酸化細菌用担体。
【請求項2】
有機性廃棄物がビール粕であることを特徴とする請求項1に記載の独立栄養性アンモニア酸化細菌用担体。
【請求項3】
有機性廃棄物の炭化物が、有機性廃棄物を高圧成形して固形体を作り、該固体を乾留させて炭化処理したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の独立栄養性アンモニア酸化細菌用担体。
【請求項4】
独立栄養性アンモニア酸化細菌を有機性廃棄物の炭化物に担持したことを特徴とするアンモニア態窒素除去用細菌担持体。
【請求項5】
有機性廃棄物がビール粕であることを特徴とする請求項4に記載のアンモニア態窒素除去用細菌担持体。
【請求項6】
有機性廃棄物の炭化物が、有機性廃棄物を高圧成形して固形体を作り、該固体を乾留させて炭化処理したものであることを特徴とする請求項4または5に記載のアンモニア態窒素除去用細菌担持体。
【請求項7】
アンモニア態窒素を含む排水を有機性廃棄物の炭化物に担持した独立栄養性アンモニア酸化細菌で嫌気状態下に亜硝酸とともに処理することを特徴とするアンモニア態窒素を含む排水からのアンモニア態窒素除去方法。
【請求項8】
有機性廃棄物がビール粕であることを特徴とする請求項7に記載のアンモニア態窒素除去方法。
【請求項9】
有機性廃棄物の炭化物が、有機性廃棄物を高圧成形して固形体を作り、該固体を乾留させて炭化処理したものであることを特徴とする請求項7または8に記載のアンモニア態窒素除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−117967(P2007−117967A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317330(P2005−317330)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】