説明

玉型レンズのチェック方法及び玉型レンズの外周形状表示方法

【課題】玉型レンズが予定されたカット位置で正しくカットされているかどうか簡単にチェックすることができるチェック方法及び玉型レンズの外周形状表示方法を提供すること。
【解決手段】レンズ支持部材を貼着した丸レンズをカップ12を介して加工機に支持させ、軸受け部14を照準器として目視される点を基準点として丸レンズの外周の不要部分をカットして玉型レンズ24を得る。次に加工装置からカップ12を取り付けたまま玉型レンズ24を取り外し、軸受け部14がレンズメータに視準されるようにセットする。レンズメータの測定光が軸受け部14を通して透過する前記所定のポイントをレンズ上の測定点としてレンズ度数、プリズム値及びプリズム軸を測定する。これら得られた値から測定点の光学中心からの距離と方向を計算する。そして、得られた測定点の光学中心からの距離と方向と基準点のそれとのずれをチェックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡フレームに装着するために装用者に処方されたレンズ度数が設定された前駆体レンズの外周をカットする加工をした状態の玉型レンズが玉型レンズが予定されたカット位置で正しくカットされているかどうかをチェックするためのチェック方法及び玉型レンズの外周形状表示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から眼鏡店ではレンズメーカーに対して顧客の視力に応じた処方(レンズ度数、乱視軸、プリズム等)の情報を連絡し、レンズメーカー側ではその処方に沿った設計の丸く成形されたレンズ(以下丸レンズという)を眼鏡店側に供給し、眼鏡店では自店で顧客の所望のフレームに合わせてカットしていわゆる玉型を成形するようにしている。また、最近では眼鏡店の手間を減らすために眼鏡店側からレンズメーカー側に上記処方データと共にフレーム形状のデータも情報として連絡し、それに合わせてレンズメーカーでは丸レンズを玉型にカットして眼鏡店に納品することも行われている。
丸レンズを玉型にカットする際には例えば特許文献1のような加工装置が使用される。特許文献1に開示される加工装置はその図5に示すように加工対象となるレンズLE(丸レンズ)の前面屈折面に支持部材としてのカップ50を両面粘着テープでしっかりと取り付け、このカップ50内に一方の回転軸702Rを差し込むとともにレンズLEの後面屈折面側から回転軸702Rを当接させることでレンズLEを位置決めして回転可能に保持するようになっている。つまり、カップ50は回転軸702Rの軸受けの役割を果たしている。レンズLEは両回転軸702R,702Lによって回転させられて研削される方向(向き)を変更することとなる。両回転軸702R,702LはX軸及びY軸方向に移動可能なキャリッジ701に支持されており、レンズLEは回転する砥石群602に対してキャリッジ701によって接離するようになっている。特許文献1では加工装置は加工データ(つまりフレームの形状に対応してカットするためのデータ)に基づいてモータを制御しながらレンズLEのカットを行う。つまり丸レンズは玉型にカットされる際に適宜向きを変えながらその外周面が砥石に押し当てられて研削され不要部分がカットされていくこととなっている。
【特許文献1】特開2006−305702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、レンズLEを回転させる両回転軸702R,702Lの軸心はレンズLEを研削する際の基準の位置とされることとなる。この基準位置は光学中心、あるいは光学中心に対する位置(距離と方向)が明確なポイントであればどこでもよく、上記加工工程においてはこの基準位置や光学中心を入力して加工を開始することとなる。そのため一般にレンズLEに取り付けられるカップ50はちょうどこの基準位置がカップ50の中央位置となるように取り付けられる。そうすればカップ50に差し込まれる回転軸702Rの軸心は基準位置にちょうど配置されるからである。
しかし、特許文献1のように研削するためにレンズLE(丸レンズ)に対して砥石に当接させることはレンズLEは両回転軸702R,702Lに対して横ずれするような荷重を受けることとなる。上記のようにレンズLEにはカップ50が両面粘着テープによって取り付けられているものの、荷重が大きいとカップ50がレンズLEに対して相対的にずれてしまう場合があった。特に近年レンズのコーティング技術が向上し貼着面に撥水コーティングが施されているケースが増えており、このような撥水コーティングが施されたレンズでは特にカップ50がずれてしまう可能性が高い。また、撥水コーティングが施されていないレンズであってももちろんずれる可能性がある。
そのため、玉型レンズの加工が完了した段階で、予定されたカット位置で正しくカットされているかどうか、つまりこのようなずれが生じていないかどうか、あるいはずれが生じている場合に公差内にあるかどうかを簡単にチェックできる手段が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、前駆体レンズの外周をカットする加工をした状態の玉型レンズが予定されたカット位置で正しくカットされているかどうか簡単にチェックすることができるチェック方法及び玉型レンズの外周形状表示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために請求項1の発明では、当該装用者に処方されたレンズ度数が設定された前駆体レンズの外周を選択したフレームに装着するために同フレーム形状に応じて不要部分をカットする加工を施して玉型レンズを作製した後、その玉型レンズが設定されたカット位置で正しくカットされているかどうかをチェックするためのチェック方法であって、前記前駆体レンズの少なくとも表裏いずれか一方にレンズ支持部材を貼着し、同支持部材を介して支持された前記前駆体レンズの外周の不要部分を加工装置によってカットする際に、前記支持部材に照準器を併設し、同照準器を通して視認されるレンズ上の所定のポイントを光学中心からの距離と方向が直接的あるいは間接的に明確な基準点とし、前記前駆体レンズから玉型レンズを作製した段階で前記加工装置から前記支持部材を取り付けたまま前記玉型レンズを取り外し、同玉型レンズが前記照準器を通してレンズメータに視準されるように同レンズメータの測定位置にセットし、同レンズメータの測定光が前記照準器を通して透過する前記所定のポイントをレンズ上の測定点としてレンズ度数、プリズム値及びプリズム軸を測定し、得られたこれらの測定値に基づいて前記測定点の光学中心からの距離と方向を直接的あるいは間接的に計算し、得られた計算値に基づいて前記基準点に対する前記測定点のずれをチェックするようにしたことをその要旨とする。
また、請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加え、前記玉型レンズをレンズメータの測定位置にセットする際に前記玉型レンズは前記支持部材によって支持されるようにしたことをその要旨とする。
また、請求項3の発明では請求項1又は2の発明の構成に加え、前記レンズ支持部材は前記前駆体レンズを表裏から回転可能に支持する回転軸の軸受け部を備え、同軸受け部の前記回転軸を受ける底面の一部に透孔を設け、同軸受け部を前記照準器として使用することをその要旨とする。
また、請求項4の発明では請求項3の発明の構成に加え、前記照準器における照準位置は前記軸受け部の中心位置であることをその要旨とする。
また、請求項5の発明では請求項4の発明の構成に加え、前記レンズ支持部材は前記軸受け部の中心と光学中心とを結ぶ仮想直線と当該前駆体レンズに設定された乱視軸とのなす角度が明確であるように取り付けられることをその要旨とする。
【0005】
また、請求項6の発明では、当該装用者に処方されたレンズ度数が設定された前駆体レンズの外周を選択したフレームに装着するために同フレーム形状に応じて不要部分をカットする加工を施して玉型レンズを作製した後、その玉型レンズが設定されたカット位置で正しくカットされているかどうかをチェックし、その結果を表示手段に表示させる玉型レンズの外周形状表示方法であって、前記前駆体レンズの少なくとも表裏いずれか一方にレンズ支持部材を貼着し、同支持部材を介して支持された前記前駆体レンズの外周の不要部分を加工装置によってカットする際に、前記支持部材に照準器を併設し、同照準器を通して視認されるレンズ上の所定のポイントを光学中心からの距離と方向が直接的あるいは間接的に明確な基準点とし、前記前駆体レンズから玉型レンズを作製した段階で前記加工装置から前記支持部材を取り付けたまま前記玉型レンズを取り外し、同玉型レンズが前記照準器を通してレンズメータに視準されるように同レンズメータの測定位置にセットし、同レンズメータの測定光が前記照準器を通して透過する前記所定のポイントをレンズ上の測定点としてレンズ度数、プリズム値及びプリズム軸を測定し、得られたこれらの測定値に基づいて前記測定点の光学中心からの距離と方向を直接的あるいは間接的に計算し前記基準点と前記測定点とのずれ量を算出し、前記基準点あるいは光学中心から外周までの距離で定義できる前記玉型レンズ外周の形状データに対して前記ずれ量に対応した補正値を与え、前記形状データ及び補正値を与えられた補正形状データに基づいて前記表示手段に前記ずれ量に応じて相互に変位した2種類の玉型レンズ外周形状の図形を表示させるようにしたことをその要旨とする。
また、請求項7の発明では請求項6の発明の構成に加え、前記表示手段によって表示される前記2種類の図形の前記基準点は一致した位置に存在することをその要旨とする。
【0006】
上記のような構成では、まず前駆体レンズの少なくとも表裏いずれか一方にレンズ支持部材を貼着し、レンズ支持部材を介して支持された前駆体レンズの外周の不要部分をカットする。これは上記のような周知の加工装置によって実行される。前駆体レンズは一般には上記のような丸レンズであるが、特に丸レンズに限定されるものではない。
レンズ支持部材は前駆体レンズを支持する際に回転軸の位置決めを補助するための前駆体レンズの表裏少なくともいずれか一方に貼着する部材である。前駆体レンズに貼着されたレンズ支持部材は併設された照準器を通してレンズ方向を視認可能とされる。ここで照準器を通して視認されるレンズ上の所定のポイントを光学中心からの距離と方向が直接的あるいは間接的に明確な基準点とする。尚、一般には視認される照準器の中央位置をポイントとすることが好ましい。ここで「間接的」とは直接光学中心からの距離と方向がわかっていなくとも、光学中心からの距離と方向がわかっているある点から距離と方向が分かっていればよいと言う意味である。
次に玉型レンズが加工された段階で加工装置からレンズ支持部材を取り付けたままこの玉型レンズを取り外し、照準器がレンズメータに視準されるように玉型レンズをセットする。「照準器がレンズメータに視準される」とはレンズメータの測定光がレンズを透過して度数を測定するその光軸内に照準器を配置することを意味する。そして、レンズメータの測定光が照準器を通して透過する前記所定のポイントをレンズ上の測定点としてレンズ度数、プリズム値及びプリズム軸を測定する。これら得られた値から測定点の光学中心からの距離と方向を直接的あるいは間接的に計算する。次いで、得られた測定点の光学中心からの距離と方向と基準点のそれとのずれをチェックする。
これによって加工によってレンズ支持部材は前駆体レンズ(玉型レンズ)と相対的にどのくらいずれたかが分かる。
【0007】
また上記において、玉型レンズが設定されたカット位置で正しくカットされているかどうかをチェックし、その結果を表示手段に表示させる玉型レンズの外周形状表示方法としては、測定値に基づいて前記測定点の光学中心からの距離と方向を直接的あるいは間接的に計算し前記基準点と前記測定点とのずれ量を算出すると、そのずれ量に対応した補正値を基準点あるいは光学中心から外周までの距離で定義できる玉型レンズ外周の形状データに対して与え補正形状データを作成する。そしてベースとなる玉型レンズ外周の形状データと補正形状データに基づいてずれが分かるようにずれ量に応じて相互に変位した2種類の玉型レンズ外周形状を表示手段に表示させるようにする。
これによってどの程度ずれているかが玉型レンズ外周形状(つまりフレームの外形形状)の図形としてヴィジュアルに理解することができる。
この場合、2種類の図形の前記基準点は一致した位置に存在することがずれが分かりやすくより好ましい。
【0008】
測定点が基準点とずれていることを求める計算式の具体的な手法として本発明では下記のプレンティスの公式を利用する。
P=hD
P:プリズム値、h:光学中心からのずれ量、D:レンズ度数
プレンティスの公式は測定点の光学中心からのずれ量(距離)を直接求める式である。このような直接的な計算以外に光学中心からの距離と方向が分かっているある点からのずれ量として間接的に光学中心からのずれ量を求めることも可能である。この計算はプログラム化しても、実際に公式に当てはめて計算してもどちらでも構わない。
この時、レンズメータで測定される測定点の光学中心からのずれ量はレンズ支持部材がずれていなければ基準点における光学中心からの移動量と一致することとなる。その場合には測定点は基準点と完全に一致することとなる。一方、レンズ支持部材がずれてしまった場合には測定点におけるレンズメータでの測定結果から計算されるずれ量は基準点の光学中心からの移動量とは一致しない。つまり一致しないことでレンズ支持部材がずれたことが分かるため、そのずれが公差内にあるかどうかでチェックできることとなる。
また、本発明は基準点を光学中心とすることを除外するものではないため、もし基準点を光学中心とすれば測定結果はすなわち測定点が光学中心からどれだけずれたかをチェックすることとなる。
【0009】
ここに、玉型レンズをレンズメータの測定位置にセットする際に特に玉型レンズの支持手段が限定されるものではない。しかし、玉型レンズはレンズ支持部材によって支持されることがより好ましい。これによって前駆体レンズを玉型に加工する際に使用したレンズ支持部材をそのままレンズメータにセットする際の支持手段として使用できるため、玉型レンズをレンズメータにセットするための新たな手段を採用する必要がなく、作業の迅速化に貢献できることとなる。
また、レンズ支持部材は前駆体レンズを表裏から回転可能に支持する回転軸の軸受け部を備え、その軸受け部の回転軸を受ける底面の一部に透孔を設け、その軸受け部を前記照準器として使用することが好ましい。更に照準器(つまり透孔)における照準位置は軸受け部の中心位置であることがより好ましい。これによって、前駆体レンズを支持する際の回転軸の中心をそのまま基準点として利用することができ、計算上有利である。
更に、照準位置が軸受け部の中心位置である場合にレンズ支持部材は軸受け部の中心と光学中心とを結ぶ仮想直線と当該前駆体レンズに設定された乱視軸とのなす角度が明確であるように取り付けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記各請求項の発明では、前駆体レンズの外周をカットする加工をした状態の玉型レンズが予定されたカット位置で正しくカットされているかどうか簡単にチェックすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な実施例を図面に基づいて説明する。
1.玉型レンズの作製
下記処方の丸レンズ11を指定されるフレームの形状に玉型加工するものとする。メーカーでは眼鏡店から連絡されたユーザー毎の処方データ(レンズの屈折力、アッベ数、ベースカーブ値、レンズ度数、乱視軸、瞳孔間距離、フレームデータ等)に基づいて合致する丸レンズ11を選択し、フレームデータに基づいて公知のレンズ加工装置によって丸レンズ11の周縁をカットする加工を施すものとする。本実施例の丸レンズ11の主要な処方は下記の通りである。処方は左右レンズとも同じである。
・S度数:−5.00D
・C度数:−1.00D
・乱視軸AX:180°
・FPD:68.0
・PD:31.0
・UP:0.0
【0012】
まず、丸レンズ11にカップ12を装着する。
図1〜図4に示すように、レンズ支持部材としてのカップ12はプラスチック製成形品であって、略小判形状のベース部13とベース部13から立ち上がる照準器としての軸受け部14を備えている。軸受け部14の外周は円形形状とされるとともに上下に貫通する中空部15を備えた円筒形状の外観とされている。軸受け部14の外周と内周の軸心位置は一致する。軸受け部14先端には位置決め用のチャンネル形状の溝16が形成されている。ベース部13の上面であって軸受け部14の周囲には断面三角形形状の回り止め17が放射状に形成されている。ベース部13上面であって長手方向端寄りには軸抑え18が立設されている。本実施例では軸受け部14の中心Oを通ってベース部13の長手方向に沿った直線を乱視軸の方向の基準となる基準線L1とする。
カップ12装着の前提として乱視軸方向を明確にするために軸受け部14の中心(中空部15の中央位置)とカップ12と丸レンズ11との位相関係、つまり相対的な回転位置を決定する必要がある。
そのため、本実施例ではまず公知の手段であるレンズメータによって丸レンズ11に位置が明確な点をプロットする。作業者は丸レンズ11を図5(a)に示すようなレンズメータの表示画面に表示されるレチクル19を指標として光学中心と乱視軸の角度の基準となるX軸方向に対する乱視軸が処方通りになるように微調整をしながらレンズメータの測定位置に正しく配置する。一般にレンズメータではレンズメータに対面する作業者の左右方向がX軸とされ、これと直交する前後方向がY軸とされている。そしてX軸方向が180度方向を示し、Y軸方向が90度方向を示すこととなっている。表示画面上には測定されているレンズのレンズ中心と軸方向を示すマークMが表示されるようになっている。上記処方では乱視軸は180度なので図5(a)に示すように中心を合わせるとともにX軸と乱視軸を一致させるようにレンズ位置を調整していく。
丸レンズ11が正しく配置された状態でレンズメータに付属した印点装置によって3つの点をプロットする。3つの点とは光学中心と光学中心の左右に配置される光学中心を通るX軸上の2点である。印点の段階で丸レンズ11は乱視軸方向が既に正しくセットされているので、作業者が3つの点とカップ12の基準線L1を一致させれば乱視軸も基準線L1に対して自動的に正しく設定されることとなる。
本実施例では作業者はこの印点位置を目安にカップ12を装着する。軸受け部14の中心O位置は光学中心から水平に外側に3mm移動させた位置とした。つまり丸レンズ11の中心位置はX軸方向に若干ずれることとなる。垂直方向については上記のようにX軸上となる。カップ12の中心位置を光学中心とすることも可能であるが、瞳孔間距離(PD)に比べてフレーム間距離(FPD)の方が6mm(レンズ片側では3mm)長いのでバランスの点からカップ12の中心O位置を光学中心から水平に外方(耳側)に3mm移動させた位置とする(図3及び図4)。本実施例ではこの位置を基準点とする。
【0013】
図3及び図4に示すように、カップ12を丸レンズ11の上記の位置に両面テープ20を介して貼着する。尚、両面テープ20にはレンズ面が視認できるように軸受け部14の中空部15形状に応じた円形の孔が形成されている。
例えば特許文献1のような常套手段にならって図6に示すように第1及び第2の回動軸21,22によって丸レンズ11を支持する。カップ12と対面する第1の回動軸21はカップ12の軸受け部14が嵌合されるとともに、カップ12に嵌合された状態で軸受け部14先端の溝16と軸受け部14周囲の回り止め17が第1の回動軸21側と噛合して回動軸21の回転力がカップ12に伝達されるようになってる。
図7に示すように、図示しないレンズ加工装置では回転する砥石車23に対して第1及び第2の回動軸21,22によって支持された丸レンズ11がこれら回動軸21,22と共に矢印のように接離する。同時に回動軸21,22が回動して丸レンズ11の位相を変化させることでフレームデータに応じた形状の玉型レンズを作製する。本実施例のレンズ加工装置は基準点からレンズの周縁までの距離を計算するものとする。レンズ全周が設定した距離に達した段階で玉型レンズ24が完成する。通常は玉型レンズが完成した段階でカップ12を取り外すが本発明では図8に示すようにカップ12を取り付けたまま次のチェック工程に移行する。
【0014】
2.測定点における基準点のずれのチェック方法
玉型レンズ24を再度レンズメータにおいて測定し、測定点における基準点とずれをチェックする。本実施例ではレンズメータで通常使用されるレンズを載置するノーズピースの代わりに図9〜図11に示すようなアタッチメント25を使用する。アタッチメント25はレンズメータからノーズピースを取り外してノーズピース位置に装着されている。
アタッチメント25は筒状のベースリング26とベースリング26上に載置されたカップ受け27から構成されている。ベースリング26の天井部26aの中央位置には円形の透孔28が形成されている。透孔28を挟んで180度対向する位置には天井部26aからさらに上方に突出する位置決め用の凸部29が形成されている。ベースリング26の裾部にはアタッチメント25をレンズメータ側に装着する際の位置決め用の切り欠き32が形成されている。カップ受け27はベースリング26と同心で同厚みのリング状の壁面27aと底面27bを備えている。底面27bの直径方向には長溝30が形成されている。長溝30の中央部は若干外方に広がった膨出部30aとされている。ベースリング26上にカップ受け27が載置された状態で長溝30を通過して凸部29は底面27bの上方に突出されている。膨出部30aは凸部29の先端とともに円形の空間を構成し前記透孔28とともに上下に連通する通路が構成される。
図11に示すように、このようなアタッチメント25をまずレンズメータ側に装着し、このアタッチメント25に対してカップ12を嵌合させる。嵌合状態においてカップ12の軸受け部14の中心Oとアタッチメント25の軸心は一致する。この時、カップ12先端の溝16がアタッチメント25側の凸部29と係合して位置決めがされるためカップ12の基準線L1方向はレンズメータの表示画面に表示されるレチクル19のX軸方向に一致する(図12に状態)。レチクル19上のマークMの配置は図5(b)のように中心からずれる。つまり、自動的に回転方向について丸レンズ11にカップ12を装着した際の基準位置にセットされることとなる。この場合、加工完了時にカップ12と玉型レンズ24との相対的なずれが生じていなければ測定点の位置は光学中心から水平方向に3mm移動した位置にあるという測定結果が得られることとなる。
【0015】
ここに、レンズメータの測定原理について簡単に説明する。レンズメータは異なる位置から当該測定点に測定光を透過させ、その結像の違いを解析して当該測定点のレンズ度数を算出するものである。レンズメータの具体的な光学的な配置は例えば図13に示すとおりである。被験レンズとしての玉型レンズ24をセットするアタッチメント25の光源側にはターゲット35を挟んで対物レンズ36とコリメーティングレンズ37が配置されている。対物レンズ36の焦点付近には光軸に直交するように光源としての4つのLED38が配設されている。アタッチメント25の透過側には結像レンズ39が配置され結像レンズ39の前方に直交する2つのイメージセンサ40が配設されている。各LED38によって順に照明されるターゲット35は被験レンズの屈折力によって結像の位置が異なるため、コンピュータ内の所定の解析プログラムによって解析されて測定点におけるレンズ度数とプリズム値及びプリズム軸方向を具体的な数値として表示画面に表示させる。
【0016】
3.測定結果の検討
上記のような工程で玉型レンズ24を作製し、チェック工程で次のような数値がレンズメータの測定結果として得られた。
・S度数:−5.01D
・C度数:−0.95D
・乱視軸AX:180°
・プリズム値:1.32
・プリズム軸:184°
この測定結果から測定点の光学中心からの距離を実際に計算すると、
(1)水平方向:1.32×|cos184°|≒1.32322
1.32322÷5.01≒0.26411=2.6411mm
尚、水平方向においてcos184°は−1とみなし、垂直方向においてsin184°は0とみなした。
この結果から、上下方向のずれはほとんどなく、本来光学中心から3mmの位置である基準点が測定点では2.6411mmにずれていることがわかる。0.3mm以下のずれなのでこの実施例ではずれは公差の範囲に含まれるものとして、作製された玉型レンズ24は合格品とみなす。
【0017】
念のため、同じ処方の丸レンズ11において基準点を水平方向で3mm、垂直方向でX軸から上方に2mmの位置とした場合における計算例を示す。
・S度数:−5.02D
・C度数:−0.98D
・乱視軸AX:180°
・プリズム値:1.94
・プリズム軸:143°
この測定結果から測定点の光学中心からの距離を計算すると、
(1)水平方向:1.94×|cos143°|≒1.54935
1.54935÷5.02≒0.30864=3.0864mm
(2)垂直方向:1.94×|sin143°|≒1.16752
1.16752÷6.00≒0.19459=1.9459mm
この結果から、水平方向では0.0864mmのずれが生じ、垂直方向では0.0541mmのずれが生じていることとなる。この実施例もずれは公差の範囲に含まれるものとして、作製された玉型レンズ24は合格品とみなす。
【0018】
4.測定結果の画像化
上記のような数値からずれ量は理解でき、作成した玉型レンズ24の合格・不合格が判定可能であるが、本実施例では更に下記のような玉型レンズの外周形状表示装置(以下、単に表示装置とする)によってヴィジュアル的な判定が可能である。上記計算は実際には下記表示装置で計算プログラムによって実行される。
図14は本発明の玉型レンズの外周形状を表示させる表示装置の概略ブロック図である。形状表示用コンピュータ51は図示しないCPUとメモリーを備えている。メモリー内にはレンズメータ52によって測定された測定値に基づいて基準点とのずれを計算するずれ量計算プログラム、玉型レンズの外周の形状データを補正する形状データ補正計算プログラム等が格納されている。また少なくとも当該玉型レンズ24の各種レンズデータが格納されている。形状表示用コンピュータ51にはレンズメータ52とモニター53とキーボード54が接続されている。キーボード54は各種レンズデータを入力したりレンズメータ52内のデータを転送させるための入力手段とされる。
尚、表示手段としてはモニター53以外にプリンタでの帳票の出力も挙げられる。また、入力手段としてはキーボード54以外にバーコードのような2次元コードやLAN接続された他のコンピュータやデータ記憶装置等の他の装置から転送されたデータを入力する手段等が挙げられる。また、レンズメータ52の測定値は転送させなくともキーボード54を使用して入力するようにしてもよい。
【0019】
次に形状表示用コンピュータ51の処理について図15のフローに従って説明する。
まず、ステップS1において前記測定値をキーボード7操作によってレンズメータ52からコンピュータ51内に転送させる。
次いで、ステップS2において測定値に基づいて光学中心からの測定点までの距離を計算し、基準点とのずれ量δを算出する。そして、ステップS3においてずれ量δを基準点を基準とした外周までの距離で定義されている玉型レンズの外周の形状データに反映させる。
ここに、本実施例の形状データは基準点から玉型レンズの外周へ向かって均等な角度で放射した多数の放射線pが玉型レンズの縁と交叉する位置tとして定義されている。本実施例では放射線pは1000本、つまり0.36度刻みに配置され、位置t1〜t1000の間は補間計算を行っている。つまり、「ずれ」とは数値的に見れば位置t1〜t1000にずれ量δに応じた補正値が与えられたと考えることができる。
そのため、コンピュータ51は形状データ補正計算プログラムによってずれ量δに応じた補正値を各位置t1〜t1000に加えるようにしている。例えば、位置t1の座標が位置T1に移動する場合に、t1=(P1,Q1)で表されるならば補正値(ΔP,ΔQ)を各要素に単純に加え、T1=(P1+ΔP,Q1+ΔQ)となる。各位置座標にこのような補正値を与えてから補間計算を行うことでずれ量δを反映させた補正形状データを得られる。
次に、ステップS4において形状データ及び補正形状データに基づいて公知の作図用プログラムによって作図して図16に示すように図形をモニター53に表示させる。図16では両図形は基準点を同じ位置に設定しているため、概ね重なった両図形からずれ量が一見して分かりやすくなっている。
【0020】
上記のように構成することで上記実施例では次のような効果が奏される。
(1)丸レンズ11から玉型レンズ24を作製した際にカップ12と玉型レンズ24とが相対的にずれているかどうかをレンズ度数等のデータを採取するだけで、簡単にチェックできるため非常に便利である。
(2)玉型レンズ24を作製後にレンズ度数等のデータを採取する際には加工に使用したカップ12をそのまま測定位置にセットするだけでよいため、追加的な準備が不用となり便利である。
(3)カップ12とレンズメータとの間には回転方向の位置合わせ用の加工(上記では溝16や凸部29)が施されているため、既に乱視軸方向を考慮して丸レンズ11に装着されたカップ12をそのままアタッチメント25に取り付ければいちいち乱視軸方向を合わせなくともよく、作業の迅速化に貢献する。
(4)数値としてだけでなく、ずれがどのくらいかをモニター53に表示させて実際に図形として比べることができるようになっているため、理解が容易である。
【0021】
なお、この発明は前記実施例に限定されるものではなく、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施例では形状データは基準点から玉型レンズの外周へ向かって均等な角度で放射した多数の放射線pが玉型レンズの縁と交叉する位置tとして定義されていたが、トレーサーで玉型レンズの縁あるいはフレームの内側をトレースして形状データを得るようにしてもよい。
・上記実施例では形状表示用コンピュータ51とレンズメータ52とは別体であったが、一体化した複合機として実施するようにしてもよい。
・上記実施例では基準点は光学中心とは異なる位置に設定するようにしていたが、基準点と光学中心が一致しても構わない。
・上記カップ12やアタッチメント25は一例であって、他の手法で測定点を測定するようにしてもよい。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に使用するカップの斜視図。
【図2】(a)は同じくカップの部分断面正面図、(b)は同じく平面図。
【図3】丸レンズにカップを装着した状態を説明する説明図。
【図4】丸レンズにカップを装着し、作製される玉型レンズを破線で示した説明図。
【図5】(a)及び(b)はレンズメータのモニターを説明する説明図。
【図6】カップを装着した丸レンズを加工装置の回動軸によって挟持させる状態を説明する説明図。
【図7】加工装置によって丸レンズを加工する際の砥石車と丸レンズの位置関係を説明する説明図。
【図8】加工装置によって加工が完了した状態の玉型レンズの正面図。
【図9】本発明の実施例に使用するアタッチメントの斜視図。
【図10】(a)はアタッチメントの平面図、(b)は(a)のA−A線における断面図、(c)は同じアタッチメントののカップ受けを仮想線で示す側面図。
【図11】カップを装着した玉型レンズをレンズメータのアタッチメントに取り付ける状態を説明する説明図。
【図12】カップを装着した玉型レンズとアタッチメントの位置関係をアタッチメントを仮想線として示す説明図。
【図13】レンズメータの光学系の一例を示す概略説明図。
【図14】玉型レンズの外周形状を表示させる表示装置の概略ブロック図。
【図15】形状表示用コンピュータによる処理を説明するブロック図。
【図16】モニターに表示された基準点に予定された玉型レンズの外周形状とずれた位置の玉型レンズの外周形状を説明する説明図。
【符号の説明】
【0023】
11…前駆体レンズとしての丸レンズ、12…レンズ支持部材としてのカップ、14…照準器としての軸受け部、24…玉型レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
当該装用者に処方されたレンズ度数が設定された前駆体レンズの外周を選択したフレームに装着するために同フレーム形状に応じて不要部分をカットする加工を施して玉型レンズを作製した後、その玉型レンズが設定されたカット位置で正しくカットされているかどうかをチェックするためのチェック方法であって、
前記前駆体レンズの少なくとも表裏いずれか一方にレンズ支持部材を貼着し、同支持部材を介して支持された前記前駆体レンズの外周の不要部分を加工装置によってカットする際に、前記支持部材に照準器を併設し、同照準器を通して視認されるレンズ上の所定のポイントを光学中心からの距離と方向が直接的あるいは間接的に明確な基準点とし、
前記前駆体レンズから玉型レンズを作製した段階で前記加工装置から前記支持部材を取り付けたまま前記玉型レンズを取り外し、同玉型レンズが前記照準器を通してレンズメータに視準されるように同レンズメータの測定位置にセットし、同レンズメータの測定光が前記照準器を通して透過する前記所定のポイントをレンズ上の測定点としてレンズ度数、プリズム値及びプリズム軸を測定し、得られたこれらの測定値に基づいて前記測定点の光学中心からの距離と方向を直接的あるいは間接的に計算し、得られた計算値に基づいて前記基準点に対する前記測定点のずれをチェックする玉型レンズのチェック方法。
【請求項2】
前記玉型レンズをレンズメータの測定位置にセットする際に前記玉型レンズは前記支持部材によって支持されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の玉型レンズのチェック方法。
【請求項3】
前記レンズ支持部材は前記前駆体レンズを表裏から回転可能に支持する回転軸の軸受け部を備え、同軸受け部の前記回転軸を受ける底面の一部に透孔を設け、同軸受け部を前記照準器として使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の玉型レンズのチェック方法。
【請求項4】
前記照準器における照準位置は前記軸受け部の中心位置であることを特徴とする請求項3に記載の玉型レンズのチェック方法。
【請求項5】
前記レンズ支持部材は前記軸受け部の中心と光学中心とを結ぶ仮想直線と当該前駆体レンズに設定された乱視軸とのなす角度が明確であるように取り付けられることを特徴とする請求項4に記載の玉型レンズのチェック方法。
【請求項6】
当該装用者に処方されたレンズ度数が設定された前駆体レンズの外周を選択したフレームに装着するために同フレーム形状に応じて不要部分をカットする加工を施して玉型レンズを作製した後、その玉型レンズが設定されたカット位置で正しくカットされているかどうかをチェックし、その結果を表示手段に表示させる玉型レンズの外周形状表示方法であって、
前記前駆体レンズの少なくとも表裏いずれか一方にレンズ支持部材を貼着し、同支持部材を介して支持された前記前駆体レンズの外周の不要部分を加工装置によってカットする際に、前記支持部材に照準器を併設し、同照準器を通して視認されるレンズ上の所定のポイントを光学中心からの距離と方向が直接的あるいは間接的に明確な基準点とし、
前記前駆体レンズから玉型レンズを作製した段階で前記加工装置から前記支持部材を取り付けたまま前記玉型レンズを取り外し、同玉型レンズが前記照準器を通してレンズメータに視準されるように同レンズメータの測定位置にセットし、同レンズメータの測定光が前記照準器を通して透過する前記所定のポイントをレンズ上の測定点としてレンズ度数、プリズム値及びプリズム軸を測定し、得られたこれらの測定値に基づいて前記測定点の光学中心からの距離と方向を直接的あるいは間接的に計算し前記基準点と前記測定点とのずれ量を算出し、
前記基準点あるいは光学中心から外周までの距離で定義できる前記玉型レンズ外周の形状データに対して前記ずれ量に対応した補正値を与え、前記形状データ及び補正値を与えられた補正形状データに基づいて前記表示手段に前記ずれ量に応じて相互に変位した2種類の玉型レンズ外周形状の図形を表示させるようにしたことを特徴とする玉型レンズの外周形状表示方法。
【請求項7】
前記表示手段によって表示される前記2種類の図形の前記基準点は一致した位置に存在することを特徴とする請求項6に記載の玉型レンズの外周形状表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−154233(P2009−154233A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333501(P2007−333501)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】