説明

玉突き事故防止装置、及び車体制御方法

【課題】低速走行時や高速道路の渋滞時に後突された場合に発生する玉突き事故を効果的に防止する玉突き事故防止装置を提供する。
【解決手段】前方の障害物を検出する前方ミリ波レーダ202と、後方から接近する車両を検出する後方ミリ波レーダ203と、ブレーキ油圧を制御するブレーキECU205と、後方ミリ波レーダ203における検出情報を用いて後突の可能性を判断すると共に、後突の可能性があると判断する場合には、さらに前方ミリ波レーダ202における検出情報を用いて前方障害物の有無を判断し、前方障害物がある場合にブレーキECU205にブレーキ制御信号を送信する衝突判断ECU204とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は玉突き事故を防止するための玉突き事故防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、衝突防止のために各種の車両制御が行われている。例えばプリクラッシュブレーキ制御においては、ドライビングサポートコンピュータにより、先行車両や道路構造物などで被衝突物が検知され、衝突の可能性が高い場合にディスプレイに「ブレーキ!」表示、及び警報を発し、運転者に注意喚起を促す。そして、衝突不可避な状態と判断された場合にブレーキを自動的に作動する。
【0003】
また、前方の障害物に対する制御のみでなく、後方から近づいてくる後方車両の衝突に対する後方プリクラッシュ制御も行われている。この後方プリクラッシュ制御においては、後方車が近づいてきた場合に、例えば鞭打ち防止のためのヘッドレスト制御を行ったり、またハザードランプを点滅して後方車に注意を促す。
【0004】
この後方車両への警報であるハザードランプ点滅に関して説明すると、最初にリヤ側のミリ波レーダセンサによって後方車両の接近を検出し、ドライビングサポートコンピュータが追突される可能性が高いと判断した場合に、メインボデーECU(Electronic Control Unit)に後方車両への警報であるハザードランプ点滅の要求信号を送信する。そして、当該信号を受信したメインボデーECUはフラッシャーリレーを介してハザードランプを点滅させる。
【0005】
また、後方プリクラッシュ制御であるヘッドレスト作動に関して説明すると、最初にリヤ側のミリ波レーダセンサによって後方車両の接近を検出し、ドライビングサポートコンピュータが追突される可能性が非常に高いと判断した場合に、ヘッドレスト用のコンピュータに作動要求信号を送信する。そして、当該信号を受信したヘッドレスト用のコンピュータはヘッドレストに内蔵されたモータを駆動して、ヘッドレストを前方に移動させ、また、非衝突時には元の状態に戻す制御を行う。
【0006】
ところで、駐車支援等の低速時において、障害物検知手段が、車両の前方又は/及び後方の所定距離内に障害物があることを検知した時には、スロットルバルブの開度量を対応するアクセルペダルの踏み込み量を抑制することにより急発進を防止するスロットルバルブ制御装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、後方追従車両の衝突を回避できないと判断した時点から、後方追従車両が衝突する時点までの間に駆動用モータの駆動トルクを増加させることにより、後方追従車両との相対速度を低減させて、後方追従車両が追突する時の衝撃を小さくする衝突衝撃軽減装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−287488号公報
【特許文献2】特開2005−113760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の後方プリクラッシュ制御においては、後突の可能性がある場合にヘッドレスト制御やハザードランプの点滅をするのみであり、例えば赤信号停止中や高速道路の渋滞時の極低速走行中に後続車から後突された場合における玉突き事故を防止することはできないという問題がある。
【0010】
また、運転者が低速走行時や渋滞時にブレーキを踏んでいる状態であっても、後続車から後突された際にブレーキペダルから運転者の足が離れる可能性があり、この場合には車両が前方に走行してしまい、玉突き事故の発生を抑止できないという問題もある。
【0011】
そして、上記特許文献1に示すスロットルバルブ制御装置は、駐車支援等の低速時において、前後方向に障害物があるか否かを検出してアクセルペダルの踏み込み量の制動制御を行うものであり、走行時の玉突き事故防止に関するものではない。
また、上記特許文献2に示す衝突衝撃低減装置は、後方超音波センサを用いて後方からの衝突判断を行い、後突の可能性がある場合に速度制御を行って後続車との相対速度を低減することにより衝撃を低減するための装置であり、玉突き事故防止に関するものではない。
【0012】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであり、赤信号停止時や高速道路の渋滞時に後続車に後突された場合における玉突き事故を効果的に防止できる玉突き事故防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る玉突き事故防止装置では、前方の障害物を検出する前方障害物検出手段と、後方から接近する車両を検出する後方障害物検出手段と、ブレーキ油圧を制御するブレーキ制御手段と、上記後方障害物検出手段における検出情報を用いて後突の可能性を判断すると共に、後突の可能性があると判断する場合には、さらに上記前方障害物検出手段における検出情報を用いて前方障害物の有無を判断し、前方障害物がある場合に上記ブレーキ制御手段にブレーキ制御信号を送信する衝突判断手段とを備え、上記ブレーキ制御手段は、上記ブレーキ制御信号を受信した場合には、上記ブレーキ油圧を検出して、当該ブレーキ油圧が所定の閾値以下の場合に、ブレーキ油圧が当該閾値以上になるよう加圧制御を行うことを特徴とする。
【0014】
この構成により、上記衝突判断手段は、上記後方障害物検出手段を用いて後続車からの後突を検出すると共に、上記前方障害物検出手段を用いて前方障害物の有無を判断するため、前方及び後方の状況に応じて上記ブレーキ制御手段に適切な制御信号を送信できる。従って、本発明に係る玉突き事故防止装置は、玉突き事故の発生を適切に防止できる。
【0015】
また、本発明に係る玉突き事故防止装置は、さらに、自車の速度を検出する速度検出手段を備え、上記衝突判断手段は、上記後方障害物検出手段における検出情報を用いて後突の可能性があると判断する場合には、さらに上記速度検出手段からの速度情報を取得し、当該速度が閾値以下の場合に、上記前方障害物検出手段における検出情報を用いて前方の障害物の有無を判断し、前方障害物がある場合に上記ブレーキ制御手段にブレーキ制御信号を送信し、上記ブレーキ制御手段は、上記ブレーキ制御信号を受信した場合には、上記ブレーキ油圧を検出して、当該ブレーキ油圧が所定の閾値以下の場合に、ブレーキ油圧が当該閾値以上になるよう加圧制御を行うことを特徴とする。
【0016】
この構成により、上記衝突判断手段が上記後方障害物検出手段を用いて後突の可能性があると判断する場合に、上記速度検出手段は自車の速度を検出する。また、上記衝突判断手段は、上記速度検出手段で検出した速度が閾値以上の場合には一般走行中と判断できるため、この場合には玉突き防止のためのブレーキ制御を行う必要がない。このため、本発明に係る玉突き事故防止装置は、自車の速度に対応して適切に玉突き事故の発生を防止できる。
【0017】
また、本発明に係る玉突き事故防止装置は、さらに、エンジンの制御を行うエンジン制御手段を備え、上記衝突判断手段は、上記後方障害物検出手段における検出情報を用いて後突の可能性があると判断する場合には、さらに上記前方障害物検出手段における検出情報を用いて前方障害物までの距離を算出し、当該距離に基づいて、上記エンジン制御手段に自車を前進させるための前進指令信号を送信し、上記エンジン制御手段は、上記前進指令信号を受信した場合には、自車を上記前方障害物検出手段において検出された前方障害物までの距離以下となる前方スペースに前進させるためエンジンを制御することを特徴とする。
【0018】
この構成により、後突の可能性があると判断する場合には、上記衝突判断手段は、上記前方障害物検出手段を用いて前方障害物までの距離を算出して、当該距離以内である安全な前方スペースに自車を前進させるように、上記エンジン制御手段に制御信号を送信して、自車を前方スペースに自動的に前進させることが可能となる。このため、本発明に係る玉突き事故防止装置は、より適切に玉突き事故を防止できる。
【0019】
また、本発明に係る玉突き事故防止装置は、さらに、ナビ情報又はETC情報の少なくとも一方から自車の位置情報を取得する位置情報取得手段を備え、上記衝突判断手段は、上記位置情報取得手段における位置情報を用いて、自車が高速道路上の走行中か否かを検出し、高速道路走行中である場合には、上記前方障害物検出手段で検出された前方障害物までの距離以下となる前方スペースに前進させるため上記エンジン制御手段に前進指令信号を送信し、上記エンジン制御手段は、上記前進指令信号に基づいてエンジンを制御して、上記前方スペースに車体を前進させ、上記ブレーキ制御手段は、上記前方スペースに自車が前進した場合には、上記ブレーキ油圧を検出して、当該ブレーキ油圧が所定の閾値以下の場合に、ブレーキ油圧が当該閾値以上になるよう加圧制御を行うことを特徴とする。
【0020】
この構成により、上記位置情報取得手段においてナビ情報又はETC情報の少なくとも一方を取得することができ、上記衝突判断手段は、これらの情報を用いて自車が高速道路上を走行中か否かを判断できる。従って、上記衝突判断手段は、高速道路上で且つ上記速度検出手段において検出される自車の速度が極低速若しくは停止状態である場合には、前方及び後方の状況に応じて上記ブレーキ制御手段に制御信号を送信して、自車を安全な前方スペースに自動的に前進させることが可能となる。このため、本発明に係る玉突き事故防止装置は、より適切に玉突き事故を防止できる。
【0021】
また、本発明に係る玉突き事故防止装置における上記衝突判断手段は、上記高速道路走行中と判断される場合において、さらにシフトポジションがドライブレンジであるか否かを判断し、ドライブレンジである場合に、上記エンジン制御手段に前進指令信号を送信することを特徴とする。
【0022】
この構成により、上記衝突判断手段はシフトレバーのシフトポジションがドライブレンジの場合に上記ブレーキ制御手段に制御信号を送信して、自車を安全な前方スペースに自動的に前進させることが可能となる。このため、本発明に係る玉突き事故防止装置は、より適切に玉突き事故を防止できる。
【0023】
なお、本発明に係る玉突き事故防止装置を構成する処理手段をステップとする車両制御方法として実現したり、それらステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムをDVD、CD−ROM等の記録媒体や通信ネットワーク等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る玉突き事故防止装置では、低速走行時等に後突の可能性があると判断される場合において、前方障害物の有無に応じてブレーキ制御を行うことができ、より適切に玉突き事故の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態1に係る玉突き事故防止装置を備えた車両の玉突き事故発生状況時の説明図
【図2】実施の形態1に係る玉突き事故防止装置の機能ブロック図
【図3】実施の形態1に係る玉突き事故防止装置の動作手順を示すフローチャート
【図4】実施の形態2に係る玉突き事故防止装置の機能ブロック図
【図5】実施の形態2に係る玉突き事故防止装置の動作手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る玉突き事故防止装置の実施の形態に関して図面を参照しながら説明を行う。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1に係る玉突き事故防止装置を備えた車両100の玉突き事故発生状況時の説明図である。
【0028】
玉突き事故は、本図に示すように、低速走行時や、赤信号停車時、高速道路上での渋滞時に、本発明に係る玉突き事故防止装置を備える車両100と前方車両101とが接近し、且つ後続車102が前方不注意等により後方から追突する場合に発生する。
そして、本発明に係る玉突き事故防止装置を備える車両100は、前方ミリ波レーダで前方領域100a、及び後方ミリ波レーダで後方領域100bの障害物検知をしている。
【0029】
なお、玉突き事故は、一般的に車両が停止、若しくは極低速走行状態で発生することがほとんどであり、通常走行中に玉突き事故が発生する可能性は低い。
【0030】
図2は、本実施の形態1に係る玉突き事故防止装置201の機能ブロック図を示す。
【0031】
玉突き事故防止装置201は、前方ミリ波レーダ202(又は超音波センサ)、後方ミリ波レーダ203、衝突判断ECU204、ブレーキECU205、ブレーキアクチュエータ206、及び車速センサ207を備える。なお、これらの各処理部は、通信線110及び111を介してCAN(Controller Area Network)等のプロトコルを用いてデータの送受信を行っている。
以下各処理部の説明を行う。
【0032】
前方ミリ波レーダ202は、波長が1〜10mm、周波数が非常に高い30〜300GHzのミリ波を用いて、レーダの発信から受信までに要した時間と光速との関係を演算することでセンサから対象物までの距離を算出して、レーダ前方や側方の障害物までの距離を測定する距離測定機能、障害物に対する速度を測定する速度測定機能を備える。また、前方ミリ波レーダ202の使用目的としては、警報、表示、危険回避等を援助する制御であるプリクラッシュセーフティシステム(Pre-Crash Safety System)や自動走行制御(ACC:Adaptive Cruise Control)などが挙げられる。なお、ミリ波レーダの検知範囲は例えば100mであり、超音波センサに比較して広くなる。
【0033】
また、前方の障害物の検知には、前方ミリ波レーダ202のみでなく、超音波センサを用いることも考え得る。この超音波センサは、前方の障害物を超音波を用いて検知するセンサであり、送波器により超音波を対象物に向け発信し、その反射波を受波器で受信することにより、対象物の有無や対象物までの距離を検出する。具体的には、超音波の発信から受信までに要した時間と音速との関係を演算することでセンサから対象物までの距離を算出する。なお、超音波センサの検知範囲は一般的にミリ波レーダセンサと比較して狭くなる。
【0034】
後方ミリ波レーダ203は、後方から接近する車両を検知するセンサであり、前方ミリ波レーダ202と同様の機能を用いて、後方の障害物までの距離や障害物に対する速度を算出する。そして、後方ミリ波レーダ203は、検知範囲は例えば50mであり、一般的に前方ミリ波レーダ202よりも狭くなる。
【0035】
衝突判断ECU204には、例えば、あらゆる運転状態における最適制御値が記憶され、その時の状態を車速センサ207等の各種センサで検出して、センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出して各アクチェーターに出力信号を送信してブレーキやエンジンといった各機構を制御する。
【0036】
本実施の形態1において、衝突判断ECU204は、後方ミリ波レーダ203を用いて後方の接近物を検出し、後方障害物との相対速度及び距離に基づいて後突される可能性を判断する。
また、衝突判断ECU204は、前方ミリ波レーダ202(又は超音波センサ)を用いて前方の衝突物の距離・相対速度を検出し、車速センサ207からの速度信号に基づき玉突き防止のためブレーキをかけるかどうかを判断する。
【0037】
ブレーキECU205は、ブレーキペダルの運転操作検出の操作信号を受信すると共に、通信線111を介して衝突判断ECU204と接続され、衝突判断ECU204からの玉突き防止制御に関する情報に基づいて危険回避としてのブレーキアクチュエータ206に制御信号を送信する。
【0038】
ブレーキアクチュエータ206は、ブレーキECU205から送信される制御信号を受信して、その制御信号に基づいて制動力を配分してブレーキ制御を行う。
【0039】
車速センサ207は、車輪の回転速度に応じたパルス信号をブレーキECU205に出力する。そして、ブレーキECU205は、車速センサ207が出力するパルス信号に基づいて車速を算出する。なお、車速はミリ波センサを用いたり、アウトプットシャフトの回転速度、トランスミッションの出力軸の回転数等、他のパラメータに基づいて検出されても良い。
【0040】
図3は、本実施の形態1に係る玉突き事故防止装置201の動作手順を示すフローチャートである。
【0041】
最初に、衝突判断ECU204は、後方ミリ波レーダ203から後方から迫って来る後続車に関する後方レーダ情報を取得し、後突の可能性を判断する(ステップS301)。
【0042】
そして、後突の可能性があると判断する場合には(ステップS302でYES)、衝突判断ECU204は、専用マイコンを用いて、車速センサ207からの出力を受けたブレーキECU205から車速情報を取得し(ステップS303)、車速がαkm/h未満か否かを判断する(ステップS304)。ここでαは、本実施の形態1においては、高速道路上での渋滞状態に対応する例えば5〜10kmに設定される。
【0043】
また、衝突判断ECU204は、車速がαkm/h未満と判断する場合には(ステップS304でYES)、前方ミリ波レーダ202(又は超音波センサ)から前方レーダ情報を取得し(ステップS305)、自車の前方に車両等の障害物があるか否かを判断する。
【0044】
そして、衝突判断ECU204は、前方障害物があると判断する場合には(ステップS306でYES)、ブレーキECU205を介して、ブレーキ油圧を検出する(ステップS307)。
この際、衝突判断ECU204は、検出したブレーキ油圧が玉突き事故の発生防止のために十分であるβMPa未満の場合には(ステップS308でYES)、ブレーキ油圧をさらにβMPa以上となるように自動的に加圧するようブレーキECU205に制御信号を送信する(ステップS309)。ここでβは、例えば10MPa等、玉突き事故発生時に車体の前進を停止させるのに十分な規定値となる。
【0045】
一方、衝突判断ECU204は、ブレーキ油圧がβMPa以上と判断する場合には(ステップS308でNO)、ブレーキ油圧が玉突き事故発生を回避するために充分であるため、現在のブレーキ油圧をそのまま保持する(ステップS310)。
なお、後突の可能性がない場合(ステップS302でNO)、車速がαkm/h以上である場合(ステップS304でNO)や前方障害物がない場合(ステップS306でNO)には、再度ステップS301以下の処理を繰り返すこととなる。
【0046】
以上の説明のように、本実施の形態1に係る玉突き事故防止装置201は、後方ミリ波レーダ203を用いて後方からの障害物の接近を検出すると共に、衝突判断ECU204において、後方から玉突きされそうな状況において、前方ミリ波レーダ202(又は超音波センサ201)で前方障害物が検出される場合にのみ、ブレーキ油圧を検出して、ブレーキ油圧が充分でない場合にはブレーキECU205に対してブレーキ加圧制御を行う。一方、本実施の形態1に係る玉突き事故防止装置は、後突の可能性があっても前方障害物が検出されない場合には、玉突き事故は発生しないためにブレーキ加圧制御を行わない。
従って、本実施の形態1に係る玉突き事故防止装置201は、前方障害物との衝突をできる限り低減して玉突き事故の被害を軽減できる。
【0047】
(実施の形態2)
以下、本発明に係る玉突き事故防止装置の第二の実施の形態に関して図面を参照しながら説明を行う。
【0048】
なお、本実施の形態2は、高速道路の渋滞時において、後方レーダ装置により後突の可能性を検出すると共に、前方ミリ波レーダを用いて前方の障害物までの距離を算出して、衝突の可能性がない安全な前方スペースがある場合には、その前方スペースに車体を前進させることを特徴とする。
【0049】
図4は、本実施の形態2に係る玉突き事故防止装置400の機能ブロック図を示す。
【0050】
実施の形態2に係る玉突き事故防止装置400は、上述した実施の形態1に係る玉突き事故防止装置201の機能構成に加えて、ナビ/ETC(Electronic Toll Collection System)情報取得部401、及びエンジンECU402を備えるものである。なお、上記の実施の形態1に係るものと同様の処理部に関しては同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
ナビ/ETC情報取得部401は、GPS(Global Positioning System)情報、若しくはETC情報を取得して衝突判断ECU204に通信線を介して入力する。衝突判断ECU204は、これらの情報に基づいて車両が高速道路上を走行中か否かを判断する。
【0052】
エンジンECU402は、エンジン運転における電気的な制御を総合的に行うマイコンであり、予めあらゆる運転状態における最適制御値を記憶して、その時々の状態を車速センサ207等で検出して、各種センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出してアクチュエータに出力信号を送信してエンジンを制御する。なお、本実施の形態2においてエンジンECU402は、衝突判断ECU204からの出力信号に基づいてエンジン制御を行う。
【0053】
図5は、本実施の形態2に係る玉突き事故防止装置400の動作手順を示すフローチャートである。
【0054】
最初に、衝突判断ECU204は、後方ミリ波レーダ203からの後方レーダ情報を取得し、後突の可能性を判断する(ステップS501)。
次に、後方車両と後突の可能性があると判断する場合(ステップS502でYES)、衝突判断ECU204は、車速センサ207からの車速信号の入力を受けたブレーキECU205から車速情報を取得する(ステップS503)。
【0055】
そして、衝突判断ECU204は、取得した車速がαkm/h未満か否かを判断する(ステップS504)。ここでαは、実施の形態1と同様に、低速走行状態や渋滞状態に対応する例えば5〜10Km/hとなる。
【0056】
次に、車速がαKm/h未満の場合には(ステップS504でYES)、衝突判断ECU204は、前方ミリ波レーダ202(又は超音波センサ201)から前方レーダ情報を取得して(ステップS505)、前方の障害物の距離・相対速度を検出し、前方障害物との距離がβm以上か否かを検出する(ステップS506)。ここでβmは、例えば自車を前進させても玉突き事故が発生することがない安全な距離である5〜6mである。
【0057】
また、衝突判断ECU204は、前方障害物との距離がβm以上の場合には(ステップS506でYES)、ナビ/ETC情報取得部401からナビ情報若しくはETC情報を取得して(ステップS507)、自車が高速道路(又は専用自動車道)上を走行中か否かを判断する(ステップS508)。これは、本実施の形態2に係る玉突き事故防止装置400は後突可能性がある場合に自車を安全な前方スペースに前進させる制御を行うため、一般道では自動的に自車が交差点に飛び出す危険性がある。従って、ステップS507での判断処理によって高速道路上での走行に限定することができる。
【0058】
そして、自車が高速道路上を走っている場合には(ステップS508でYES)、衝突判断ECU204は、シフトレバーのシフトポジションの確認を行う(ステップS509)。すなわち、衝突判断ECU204は、シフトポジションがD(ドライブ)レンジに入っているかどうかを確認する。これは、高速道路上での渋滞中に、シフトポジションがN(ニュートラル)やP(パーキング)にされている場合も想定できるためである。
【0059】
次に、シフトポジションがDレンジの場合には(ステップS510でYES)、衝突判断ECU204は、算出された安全な前方スペースに車両を前進させるべく、エンジンECU402に対して前進するための制御信号を送信する(ステップS511)。また、衝突判断ECU204は、前進距離がθm以下か否かを判断する(ステップS512)。ここで前進距離θmは、前方障害物との距離βm以下である必要がある。
【0060】
そして、前進距離がθmに達した場合(ステップS512でYES)、衝突判断ECU204は、ブレーキECU205に対してブレーキ制御信号を送信する。また、ブレーキECU205は、ブレーキアクチュエータ206にブレーキ作動信号を送信してブレーキ油圧を加圧して(ステップS513)、車両を停止させるまで(ステップS514でYES)ブレーキ油圧の加圧を行う。
【0061】
なお、後突の可能性がない場合(ステップS502でNO)、車速がαkm/h以上である場合(ステップS504でNO)、前方障害物との距離がβm以下である場合(ステップS506でNO)、高速道路上でない場合(ステップS508でNO)やシフトポジションがDレンジでない場合(ステップS510でNO)には、再度ステップS501以下の処理を繰り返すこととなる。
【0062】
以上の説明のように、本実施の形態2に係る玉突き事故防止装置400では、衝突判断ECU204は、ナビ/ETC情報取得部401から取得した位置情報が高速道路走行時であって、自車の前方に車両と衝突しない安全な前方スペースがある場合であって、且つ後方の車両に追突されそうな時には、エンジンECU402に対して制御信号を送信して、車両を安全な前方スペースに前進させることができる。このため、単にブレーキ制御を行う場合に比較しても、より効果的に玉突き事故の被害軽減を図ることができる。
【0063】
なお、上記の各実施の形態において説明はしていないが、渋滞中でなく高速道路や一般道路での通常走行中に、衝突判断ECUが後ろから車両に後突されると判断される場合に、前方の車両の相対速度と距離から自車の進行できる安全な走行距離(例えば30m)を算出して、自動的にエンジン駆動して、後突事故を未然に防止することも考え得る。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る玉突き事故防止装置は、例えば、ミリ波レーダや超音波センサ等の前方及び後方の障害物検知装置を備える車体に用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
100 自車
100a 前方領域
100b 後方領域
101 前方車両
102 後続車
201,400 玉突き事故防止装置
202 前方ミリ波レーダ
203 後方ミリ波レーダ
204 衝突判断ECU
205 ブレーキECU
206 ブレーキアクチュエータ
207 車速センサ
401 ナビ/ETC情報取得部
402 エンジンECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方の障害物を検出する前方障害物検出手段と、
後方から接近する車両を検出する後方障害物検出手段と、
ブレーキ油圧を制御するブレーキ制御手段と、
前記後方障害物検出手段における検出情報を用いて後突の可能性を判断すると共に、後突の可能性があると判断する場合には、さらに前記前方障害物検出手段における検出情報を用いて前方障害物の有無を判断し、前方障害物がある場合に前記ブレーキ制御手段にブレーキ制御信号を送信する衝突判断手段とを備え、
前記ブレーキ制御手段は、前記ブレーキ制御信号を受信した場合には、前記ブレーキ油圧を検出して、当該ブレーキ油圧が所定の閾値以下の場合に、ブレーキ油圧が当該閾値以上になるよう加圧制御を行う
ことを特徴とする玉突き事故防止装置。
【請求項2】
前記玉突き事故防止装置は、さらに、
自車の速度を検出する速度検出手段を備え、
前記衝突判断手段は、前記後方障害物検出手段における検出情報を用いて後突の可能性があると判断する場合には、さらに前記速度検出手段からの速度情報を取得し、当該速度が閾値以下の場合に、前記前方障害物検出手段における検出情報を用いて前方の障害物の有無を判断し、前方障害物がある場合に前記ブレーキ制御手段にブレーキ制御信号を送信し、
前記ブレーキ制御手段は、前記ブレーキ制御信号を受信した場合には、前記ブレーキ油圧を検出して、当該ブレーキ油圧が所定の閾値以下の場合に、ブレーキ油圧が当該閾値以上になるよう加圧制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の玉突き事故防止装置。
【請求項3】
前記玉突き事故防止装置は、さらに、
エンジンの制御を行うエンジン制御手段を備え、
前記衝突判断手段は、前記後方障害物検出手段における検出情報を用いて後突の可能性があると判断する場合には、さらに前記前方障害物検出手段における検出情報を用いて前方障害物までの距離を算出し、当該距離に基づいて、前記エンジン制御手段に自車を前進させるための前進指令信号を送信し、
前記エンジン制御手段は、前記前進指令信号を受信した場合には、自車を前記前方障害物検出手段において検出された前方障害物までの距離以下となる前方スペースに前進させるためエンジンを制御する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の玉突き事故防止装置。
【請求項4】
前記玉突き事故防止装置は、さらに、
ナビ情報又はETC情報の少なくとも一方から自車の位置情報を取得する位置情報取得手段を備え、
前記衝突判断手段は、前記位置情報取得手段における位置情報を用いて、自車が高速道路上の走行中か否かを検出し、高速道路走行中である場合には、前記前方障害物検出手段で検出された前方障害物までの距離以下となる前方スペースに前進させるため前記エンジン制御手段に前進指令信号を送信し、
前記エンジン制御手段は、前記前進指令信号に基づいてエンジンを制御して、前記前方スペースに車体を前進させ、
前記ブレーキ制御手段は、前記前方スペースに自車が前進した場合には、前記ブレーキ油圧を検出して、当該ブレーキ油圧が所定の閾値以下の場合に、ブレーキ油圧が当該閾値以上になるよう加圧制御を行う
ことを特徴とする請求項3記載の玉突き事故防止装置。
【請求項5】
前記衝突判断手段は、前記高速道路走行中と判断される場合において、さらにシフトポジションがドライブレンジであるか否かを判断し、ドライブレンジである場合に、前記エンジン制御手段に前進指令信号を送信する
ことを特徴とする請求項4記載の玉突き事故防止装置。
【請求項6】
前方の障害物を検出する前方障害物検出ステップと、
後方から接近する車両を検出する後方障害物検出ステップと、
ブレーキ油圧を制御するブレーキ制御ステップと、
前記後方障害物検出ステップにおける検出情報を用いて後突の可能性を判断すると共に、後突の可能性があると判断する場合には、さらに前記前方障害物検出ステップにおける検出情報を用いて前方障害物の有無を判断し、前方障害物がある場合に前記ブレーキ制御ステップにブレーキ制御信号を送信する衝突判断ステップとを含み、
前記ブレーキ制御ステップにおいては、前記ブレーキ制御信号を受信した場合には、前記ブレーキ油圧を検出して、当該ブレーキ油圧が所定の閾値以下の場合に、ブレーキ油圧が当該閾値以上になるよう加圧制御を行う
ことを特徴とする車体制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−201951(P2010−201951A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46379(P2009−46379)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】