球技用打具及び帽体
【課題】 意匠性の高い繊維強化構造体製の球技用打具及び帽体を提供することを目的とする。
【解決手段】 ゴルフクラブのゴルフクラブヘッドにおいて、曲面部分を有する第二外殻部材18を、織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって構成する。織物を、それぞれ複数の緯糸Yによって構成される複数層の緯糸層と、緯糸層のそれぞれの緯糸Yを織り込む複数の経糸Xとを有し、経糸Xの一部が、緯糸層を構成する一部の緯糸Yの代わりに他の緯糸層の緯糸Yを織り込んでいる低接結織物とする。
【解決手段】 ゴルフクラブのゴルフクラブヘッドにおいて、曲面部分を有する第二外殻部材18を、織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって構成する。織物を、それぞれ複数の緯糸Yによって構成される複数層の緯糸層と、緯糸層のそれぞれの緯糸Yを織り込む複数の経糸Xとを有し、経糸Xの一部が、緯糸層を構成する一部の緯糸Yの代わりに他の緯糸層の緯糸Yを織り込んでいる低接結織物とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化構造体を用いた球技用打具及び帽体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化構造体を用いた球技用打具としては、例えば後記の特許文献1に記載のゴルフクラブヘッドがある。
このゴルフクラブヘッドは、フェースプレート部を金属基強化複合材料によって製造されたものである。
【0003】
具体的には、このゴルフクラブヘッドは、フェースプレート部が、セラミックス粒子またはセラミックス短繊維の少なくとも一方によりフェースプレートの形状に合致した形状に作成された成形体と、少なくとも一枚の織布によって作成されるものである。
フェースプレート部は、成形体の1面側に織布を予熱して固定し、この状態を維持しつつ金型内にセットしてダイカスト法にて軽金属溶湯を充填することで、成形体及び織布の空孔に軽金属溶湯を溶浸させて、金属基強化複合材料としたものである。
このようにして形成されるフェースプレート部の表面には、織布の織り目が模様として現れる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−215354号公報(段落[0008]〜[0010],及び図1〜図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、織布としては、経糸と緯糸とを交互に織り込んだ平織りや、経糸と緯糸とが斜めの模様を形成する綾織りや、2重綾織り、朱子織り、目抜き平織り、からみ織り等のものが用いられる。
しかし、いずれの織り方の織布も、織り目のパターンは微小な織り目が繰り返される単調なものとなり、フェースプレート部に現れる模様に高い意匠性を持たせることは困難であった。
また、いずれの織り方の織布も、ドレープ性が十分でなく、曲面を形成しようとした場合、たるみや重なりが生じないように、何箇所にも切込みを入れる必要があった。
このため、フェースプレートに高い意匠性を持たせることは困難であった。
そして、このような課題は、球技用打具に限らず、曲面を有する繊維強化構造体からなる帽体においても生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、意匠性の高い球技用打具及び帽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された球技用打具であって、前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である球技用打具を提供する。
【0008】
このように構成される球技用打具では、繊維強化構造体を構成する織物が、低接結織物によって構成されているので、繊維強化構造体の表面には、低接結織物の織り目が模様として現れる。
低接結織物は、各緯糸層のそれぞれについて緯糸を経糸によって織り込みながら、一部の経糸では、一部の緯糸の代わりに、他の緯糸層の緯糸を織り込んだものであるので、繊維強化構造体用の織物として従来用いられていた平織りや朱子織り等の織物に比べて織り目が複雑である。
このため、本発明にかかる球技用打具は、繊維強化構造体の表面に複雑な模様が形成されるので、意匠性が高い。
また、低接結織物の織り目のパターンは、経糸の織り込みパターンを変更することで様々に変化させることができ、織り目の大きさは、糸の太さを変えることで任意の大きさに設定することができる。
このように、本発明にかかる球技用打具は、その模様のバリエーションが豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0009】
また、低接結織物は、上記のように、各緯糸層を織り込む経糸の一部が、一部の緯糸をとばして他の緯糸層の緯糸を織り込んでいて、各緯糸層の緯糸同士、及び各緯糸層同士がそれぞれ緩やかに結合している。このため、低接結織物は、全体として十分な強度を保ちながら、各緯糸及び各経糸のそれぞれの変位の自由度が高く、非常にしなやかである(すなわちドレープ性が非常に高い)。
この低接結織物は、上記のようにドレープ性が非常に高いので、切込みを入れずに、もしくは最小限の切込みを入れるだけで、たるみなしに所望の曲面形状(例えば略球面形状)を持たせることができる。
このため、本発明にかかる球技用打具では、繊維強化構造体に、織物の切込みがないか、もしくは切込みが最小限に抑えられるので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物に所望の曲面形状を持たせた状態では、低接結織物の各緯糸及び各経糸は、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本発明にかかる球技用打具では、繊維強化構造体の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0010】
また、本発明にかかる球技用打具では、上記のように繊維強化構造体を構成する織物に切込みを入れずに済むか、もしくは最小限の切込みを入れるだけで済むので、強度性能面でも従来の球技用打具より優れている。
すなわち、この球技用打具では、織物を積層する回数を従来よりも少なくしても繊維強化構造体の強度を十分に確保することができる。このため、この球技用打具では、軽量部と重量部との質量比を大きくすることができ、球技用打具の慣性モーメントを打撃に最適にするための重量配分の調整が容易となるので、設計の自由度が高い。
また、低接結織物は、緯糸層を複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減される。これにより、本発明にかかる球技用打具は、製造コストが低くて済む。
【0011】
また、この球技用打具において、前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なっていてもよい。
この場合には、繊維強化構造体の表面に、色や質感の異なる糸が複雑なパターンで現れるので、一段と意匠性が高い。
【0012】
また、この球技用打具が、中空棒状のシャフト部を有し、該シャフト部のうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されていてもよい。
この球技用打具では、シャフト部が高い意匠性を有している。
ここで、シャフト部を有する球技用打具としては、例えばゴルフクラブやパークゴルフクラブ、バドミントンクラブ等がある。
【0013】
また、この球技用打具が、中空のゴルフクラブヘッドを有し、該ゴルフクラブヘッドのうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されていてもよい。
この球技用打具では、ゴルフクラブヘッドが高い意匠性を有している。
【0014】
また、本発明は、織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された帽体であって、前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、
該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である帽体を提供する。
【0015】
このように構成される帽体では、繊維強化構造体を構成する織物が、低接結織物によって構成されているので、繊維強化構造体の表面には、低接結織物の織り目が模様として現れる。
低接結織物は、各緯糸層のそれぞれについて緯糸を経糸によって織り込みながら、一部の経糸では、一部の緯糸の代わりに、他の緯糸層の緯糸を織り込んだものであるので、繊維強化構造体用の織物として従来用いられていた平織りや朱子織り等の織物に比べて織り目が複雑である。
このため、本発明にかかる帽体は、繊維強化構造体の表面に複雑な模様が形成されるので、意匠性が高い。
また、低接結織物の織り目のパターンは、経糸の織り込みパターンを変更することで様々に変化させることができ、織り目の大きさは、糸の太さを変えることで任意の大きさに設定することができる。
このように、本発明にかかる帽体は、その模様のバリエーションが豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0016】
また、低接結織物は、上記のように、各緯糸層を織り込む経糸の一部が、一部の緯糸をとばして他の緯糸層の緯糸を織り込んでいて、各緯糸層の緯糸同士、及び各緯糸層同士がそれぞれ緩やかに結合している。このため、低接結織物は、全体として十分な強度を保ちながら、各緯糸及び各経糸のそれぞれの変位の自由度が高く、非常にしなやかである(すなわちドレープ性が非常に高い)。
この低接結織物は、上記のようにドレープ性が非常に高いので、切込みを入れずに、もしくは最小限の切込みを入れるだけで、たるみなしに所望の曲面形状(例えば略球面形状)を持たせることができる。
このため、本発明にかかる帽体では、繊維強化構造体に、織物の切込みがないか、もしくは切込みが最小限に抑えられるので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物に所望の曲面形状を持たせた状態では、低接結織物の各緯糸及び各経糸は、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本発明にかかる帽体では、繊維強化構造体の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0017】
また、本発明にかかる帽体では、上記のように繊維強化構造体を構成する織物に切込みを入れずに済むか、もしくは最小限の切込みを入れるだけで済むので、強度性能面でも従来の帽体より優れている。
【0018】
また、低接結織物は、緯糸層を複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減されるので、本発明にかかる帽体の製造コストが低くて済む。
【0019】
この帽体において、前記織物を構成する前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なる糸が用いられていてもよい。
このように構成される帽体では、繊維強化構造体の表面に、色や質感の異なる糸が複雑なパターンで現れるので、一段と意匠性が高い。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる球技用打具及び帽体によれば、繊維強化構造体の表面に複雑な模様が形成されるので、従来の単調な模様の球技用打具及び帽体に比べて、意匠性が非常に高い。
また、本発明にかかる球技用打具及び帽体は、その模様のバリエーションも豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
さらに、繊維強化構造体の曲面部分を構成する織物に切込みがないかもしくは切込みが最小限で済むので、意匠性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について、図1から図7を用いて説明する。
本実施形態では、図1に示すように、本発明を、ゴルフクラブ1に適用した例を示す。
このゴルフクラブ1は、中空管状のシャフト部2と、シャフト部2の一端に設けられるグリップ3と、シャフト部2の他端に設けられるゴルフクラブヘッド4とを有している。
【0022】
本実施形態では、ゴルフクラブヘッド4は、ドライバー、あるいはフェアウエイウッドなどの内部に中空部を有する構造のヘッドである。
このゴルフクラブヘッド4は、図2に示すように、打球部を構成するフェース部11と、上面を構成するクラウン部12と、フェース部11の後方での周面を構成するサイド部13と、下面を構成するソール部14と、フェース部11の上端右側に設けられてシャフト部2の他端が接続されるホーゼル部16とを含む構成を有している。なお、本実施形態に示すゴルフクラブ1は右利き用であって、左利き用ではホーゼル部16はフェース部11の上端左側に設けられる。
【0023】
図3(a)及び図4に示すように、このゴルフクラブヘッド4は、フェース部11及びホーゼル部16を含む第一外殻部材17と、ゴルフクラブヘッド4の残りの部分を構成する第二外殻部材18とを接合した構造とされている。
本実施形態では、第二外殻部材18の開口端部が、その外周面を、第一外殻部材17の開口端部17aの内周面に密着するように配置した状態で接合されている。なお、第一外殻部材17と第二外殻部材18との接合をより強固なものとする必要がある場合には、図3(b)に示すように、第一外殻部材17と第二外殻部材18の接合境界の外周面側に、これらの部材を跨ぐように別体の補強材19を積層すれば、より強固な接合を実現できる。
【0024】
本実施形態では、第一外殻部材17は、金属製とされており、フェース部11と、フェース部11の周縁から後方に延びるつば部21と、これらフェース部11の上端及びつば部21の上端に連なって設けられるホーゼル部16と、つば部21の下端から連続して後方に延びるソール部14とを含んだ構成とされている。
この第一外殻部材17は、鋳造、鍛造、熱圧プレス、機械加工等により製造できる。好ましくは、この第一外殻部材17はチタン又はステンレススチールにより鋳造又は鍛造により形成する。第一外殻部材17は前記範囲に限定されることなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、金属マトリックス複合体やセラミックス材料とすることができる。
【0025】
第二外殻部材18は、炭素繊維強化樹脂等からなる略カップ状の繊維強化構造体とされており、上方に向けて凸となる緩やかな曲面をなすとともに周縁が外側に向けて凸となる弧を描くクラウン部12と、クラウン部12の周縁に沿った凸曲面をなすサイド部13とを含んだ構成とされている。
第二外殻部材18は、図5の俯瞰図に示す低接結織物Sに合成樹脂を含浸させた低接結織物プリプレグP(図7(a)参照)を複数層積層した構成とされている。
【0026】
低接結織物Sは、経糸Xa,Xb,Xc,…と緯糸Y1,Y2,Y3,…とによって構成されている。この低接結織物Sでは、緯糸Yは、三層18列を1完全とする三層構造とされている。この低接結織物Sは、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、もしくはこれらの混織によって構成することができる。本実施形態では、低接結織物Sを炭素繊維によって構成している。
図6(a)〜(h),(j),(k)に、各経糸Xの各緯糸Yとの接結の様子を示す。これらの図6(a)〜(h),(j),(k)は、それぞれこの順番に経糸Xa〜Xh,Xj,Xkの各緯糸Yとの接結の様子を示す図である。なお、経糸Xiの各緯糸Yとの接結の様子は図6(c)に示す経糸Xcの場合と同じであり、経糸Xlの各緯糸Yとの接結の様子は図6(f)に示す経糸Xfの場合と同じである。
【0027】
図6(a)〜(h)、(j)、(k)に示すように、低接結織物Sは、それぞれ複数の緯糸Yを有する緯糸層Lを複数層有している。本実施形態では、緯糸層Lとして、緯糸Y1,Y4,Y7,…からなる緯糸層L1と、緯糸Y2,Y5,Y8,…からなる緯糸層L2と、緯糸Y3,Y6,Y9,…からなる緯糸層L3の三層を設けている。
経糸Xa,Xb,Xc,…は、それぞれひとつの緯糸層Lの緯糸Yを織り込んでいる。また、隣接する経糸X同士は異なる緯糸層Lを織り込んでいる。本実施形態では、経糸Xaは緯糸層L1を織り込んでおり、経糸Xbは緯糸層L2を織り込んでおり、経糸Xcは緯糸層L3を織り込んでおり、以降の経糸Xは同様のパターンで緯糸層Lを織り込んでいる。
【0028】
また、経糸Xの一部は、緯糸層Lを構成する一部の緯糸Yの代わりに他の緯糸層Lの緯糸Yを織り込んでいる。
本実施形態では、経糸Xbは、緯糸層L2を構成する緯糸Y11の代わりに緯糸層L3を構成する緯糸Y12を織り込んでおり、経糸Xeは、緯糸層L2を構成する緯糸Y8の代わりに緯糸層L3を構成する緯糸Y9を織り込んでおり、経糸Xgは、緯糸層L1を構成する緯糸Y4の代わりに緯糸層L2を構成する緯糸Y5を織り込んでいる。
また、経糸Xjは、緯糸層L1を構成する糸Y7の代わりに緯糸層L2を構成する緯糸Y8を織り込むとともに、緯糸層L1を構成する緯糸Y13の代わりに緯糸層L2を構成する緯糸Y14を織り込んでいる。
このような構成の低接結織物Sは、例えば、汎用のレピア織機を強化繊維の製織に対応できるように一部改良することで製織可能である。
【0029】
低接結織物プリプレグPは、図7(a)に示すように、平面状に展開した状態では、略半円形状をなしており、その周縁のうち、直線状となっている部分が、カップ状に変形させた際の開口端(すなわちフェース部11の周縁部との接続部)を構成している。
この低接結織物プリプレグPを構成する強化繊維(緯糸Y、経糸X)の配設方向はフェース部11に対して考慮され、平面状に展開した状態では、フェース部11との接続端に対して平行な方向と垂直な方向とのそれぞれに配設されているものと、フェース部11に対して斜交するように配設されているものとが交互に積層される。
【0030】
また、この低接結織物プリプレグPにおける樹脂の量は全プリプレグの重量に対して30%〜40%であり、好ましい実施例においては31%〜35%である。樹脂量が31%未満であると、成形時に樹脂欠乏部分やボイドが発生しやすく、綺麗な表面を得にくくなる。また強度も低下してしまう。また、樹脂量が35%より大きいと、樹脂リッチ部分、即ち強化繊維の存在しない部分が増加するため、強度が弱くなる。この樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。好ましい実施例としてはエポキシ樹脂が使用される。
【0031】
この低接結織物プリプレグPにより第二外殻部材18を形成するにあたっては、図7(b)に示すように、第二外殻部材18成形用の所望の形状を有する芯材26の外表面のうち、クラウン部12及びサイド部13に相当する部位に、図7(a)に示す形状に切り出した低接結織物プリプレグPを、複数層積層し、オートクレーブ等の加圧加熱装置を用いて樹脂を硬化させることによって、図7(c)の断面図に示す所望の中空形状に形成している。本実施形態では、低接結織物プリプレグPは、その各層の強化繊維の配向方向が隣り合う層において互いに同一方向とならないようにして、4層積層している。
【0032】
以上述べたように、本実施形態にかかるゴルフクラブ1は、第一外殻部材17という少量の部分を金属材料で形成し、残りの部分を前記第一外殻部材7よりも比重の小さい材料からなる第二外殻部材18として、両部材を強固に接合することにより形成している。
ゴルフクラブを、強固で、耐久性のあるゴルフクラブとするには、ボールの打撃によって生じる衝撃を効果的に減衰する構成とする必要があるが、このゴルフクラブ1では、上記のように第二外殻部材18が繊維強化樹脂製であるので、第二外殻部材18が金属製である場合に比べて、ボールの打撃時の衝撃を良好に減衰することができ、強度と耐久性に優れている。
【0033】
このように構成されるゴルフクラブ1では、繊維強化構造体である第二外殻部材18を構成する織物が、低接結織物Sによって構成されているので、第二外殻部材18の表面には、低接結織物Sの織り目が模様として現れる。
上記のように、低接結織物Sは、各緯糸層Lのそれぞれについて緯糸Yを経糸Xによって織り込みながら、一部の経糸Xでは、一部の緯糸Yの代わりに、他の緯糸層Lの緯糸Yを織り込んだものであるので、繊維強化構造体用の織物として従来用いられていた平織りや朱子織り等の織物に比べて織り目が複雑である。
このため、このゴルフクラブ1では、クラウン部12及びサイド部13の表面に複雑な模様が形成されるので、意匠性が高い。
【0034】
また、低接結織物Sの織り目のパターンは、経糸Xの織り込みパターンを変更することで様々に変化させることができ、織り目の大きさは、糸の太さを変えることで任意の大きさに設定することができる。
このように、本実施形態にかかるゴルフクラブ1は、その模様のバリエーションが豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0035】
また、低接結織物Sは、上記のように、各緯糸層Lを織り込む経糸Xの一部が、一部の緯糸Yをとばして他の緯糸層Lの緯糸Yを織り込んでいて、各緯糸層Lの緯糸Y同士、及び各緯糸層L同士がそれぞれ緩やかに結合している。このため、低接結織物Sは、全体として十分な強度を保ちながら、各緯糸Y及び各経糸Xのそれぞれの変位の自由度が高く、非常にしなやかである(すなわちドレープ性が非常に高い)。
この低接結織物Sは、上記のようにドレープ性が非常に高いので、本実施形態では、切込みを入れることなしに、芯材26の表面にたるみなく忠実に沿わせることができる。
このため、本実施形態にかかるゴルフクラブ1では、クラウン部12及びサイド部13に、織物の切込みがなく、織物模様が途中で切れたり乱れたりすることがないので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物Sを所望の曲面に成形した状態では、低接結織物Sの各緯糸Y及び各経糸Xは、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本実施形態にかかるゴルフクラブ1では、図7(b)に示すように、クラウン部12及びサイド部13の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0036】
また、このゴルフクラブ1では、上記のように第二外殻部材18を構成する織物に切込みを入れずに済むので、強度性能面でも従来のゴルフクラブより優れている。
すなわち、このゴルフクラブ1では、織物を積層する回数を従来よりも少なくしても第二外殻部材18の強度を十分に確保することができる。このため、このゴルフクラブ1では、軽量部と重量部との質量比を大きくすることができ、ゴルフクラブ1の慣性モーメントを打撃に最適にするための重量配分の調整が容易となるので、設計の自由度が高い。
また、低接結織物Sは、緯糸層Lを複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減される。これにより、本実施形態にかかるゴルフクラブ1は、製造コストが低くて済む。
【0037】
ここで、本実施形態では、ゴルフクラブ1に用いる低接結織物Sを、炭素繊維のみによって構成した例を示した。この例では、第二外殻部材18の表面は全体が炭素繊維の色(黒色)で、かつ表面の質感も均一となっている。
これに対して、緯糸Yと経糸Xとのうちの少なくともいずれか一方において、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうちの少なくともいずれか一方が異なっていてもよい。
この場合には、第二外殻部材18の表面に、色や質感の異なる糸が複雑なパターンで現れるので、一段と意匠性が高くなる。
例えば、経糸Xのうちの一部をアラミド繊維とすることで、第二外殻部材18の黒地の表面にアラミド繊維の色(黄色)が複雑なパターンで現れて、鮮やかな模様が得られる。
【0038】
また、本実施形態では、ゴルフクラブ1として、ゴルフクラブヘッド4の第二外殻部材18がクラウン部12とサイド部13とによって構成される例を示したが、これに限られることなく、例えば図8及び図9に示すゴルフクラブ1aのように、ソール部14を、第一外殻部材17ではなく、第二外殻部材18に設けてもよい。
この場合には、ソール部14も、クラウン部12及びサイド部13と一体のカップ状の繊維強化構造体として製造される。
このような構成の第二外殻部材18は、図10(a)に示すように、平面状に展開した状態では、上記の略半円形状の低接結織物プリプレグPにおいて円弧の頂点近傍にソール部14を構成する張出部27を設けるとともに張出部27の両脇に切込みCを設けた低接結織物プリプレグP1によって形成される。
具体的には、図10(b)に示すように、この低接結織物プリプレグP1を、所望形状の芯材28の表面に、強化繊維の配設方向を変えて複数枚積層することによって、図10(c)に示す所望の中空形状の第二外殻部材18が形成される。
【0039】
この場合においても、低接結織物プリプレグP1のドレープ性が非常に高いので、このように第二外殻部材18の形状が複雑であっても、切込みCを二箇所設けるだけで済む。
このため、このようにソール部14をクラウン部12及びサイド部13と一体成形したゴルフクラブ1aにおいても、意匠性が高く、また強度も優れている。
【0040】
ここで、本実施形態にかかるゴルフクラブ1,1aのゴルフクラブヘッド4について、設計の自由度及び耐久性について評価し、その結果を表1に示す。
なお、以下では、ゴルフクラブ1を実施例1とし、ゴルフクラブ1aを実施例2とし、実施例1において、第二外殻部材18に相当する部分を、一方向引き揃え(UD)のプリプレグを10層積層して形成したものを比較例1とし、実施例2において、第二外殻部材18に相当する部分を、一方向引き揃え(UD)のプリプレグを10層積層して形成したものを比較例2とした。
【0041】
【表1】
【0042】
設計の自由度にあたっては、実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2について、それぞれ第一外殻部材及び第二外殻部材の質量、これらを接着する接着剤の質量、及び第二外殻部材の厚みを比較した。
表1から分かるように、実施例1では、比較例1に比べて第二外殻部材の質量が約20%程度低減されており、厚みも20%程度低減されていることが分かる。また、実施例2でも、比較例2に比べて第二外殻部材の質量が約20%程度低減されており、厚みも20%程度低減されていることが分かる。
このように、各実施例では、比較例に対して、軽量部と重量部との質量比が大きいことがわかる。これにより、各実施例では、比較例に対して、ゴルフクラブの慣性モーメントを打撃に最適にするための重量配分の調整が容易となるので、設計の自由度が高い。
【0043】
耐久性の評価は、実施例1,2と比較例1,2のそれぞれについてゴルフクラブヘッドを固定し、クラウン部から圧縮荷重を加えてゴルフクラブヘッドの第二外殻部材が破壊したときに計測された荷重値に基づいて行った。
表1から分かるように、各実施例では、比較例に対して、耐久性が35〜40%程度向上していることが分かる。
【0044】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図11及び図12を用いて説明する。
本実施形態では、本発明を、パークゴルフクラブに適用した例を示す。
パークゴルフクラブは、通常のゴルフクラブとほぼ同じ構成であるが、シャフト部として、通常のゴルフクラブに比べて太いシャフト部が用いられている。
図11に、本実施形態にかかるパークゴルフクラブのシャフト部31を示す。なお、図11では、シャフト部31の長手方向の寸法を縮めて図示しているが、実際のシャフト部31では、長手方向の寸法は径方向寸法に比べて十分に長く設定されている。
【0045】
シャフト部31は、グリップ側からゴルフクラブヘッド側に向うにつれて次第に縮径される繊維強化管状体32によって構成されている。
本実施形態では、繊維強化管状体32は、強化繊維が軸方向に対してほぼ平行(軸方向に対して0°〜±5°傾斜する向き)に配向している繊維強化樹脂プリプレグを積層したストレート層33と、軸方向に対して±20°〜±70°傾斜する向きに配向している繊維強化樹脂プリプレグを積層したバイアス層34とを有している。
【0046】
また、この繊維強化管状体32には、ストレート層33やバイアス層34の他に、部分的な強化を目的とする補強層35が、必要に応じて設けられる。
この補強層35は、例えば強化繊維が繊維強化管状体32の軸方向に対してほぼ平行な方向、もしくは軸方向に対して傾斜する向きに配向している繊維強化樹脂プリプレグや、繊維強化管状体32の軸方向に対してほぼ直交する向き(軸方向に対して±80°〜90°傾斜する向き)に配向している繊維強化樹脂プリプレグ(フープ層)によって構成される。
本実施形態では、ストレート層33の細径側端部外周面に第1の補強層35aが設けられており、バイアス層34の細径側端部外周面に第2の補強層35bが設けられている。
これら繊維強化樹脂プリプレグの積層数(ストレート層、バイアス層などのある特定の層が繊維強化管状体32の周りに巻きつけられている回数)は、繊維強化管状体32に要求される強度に応じて任意に設定される。
【0047】
これら繊維強化プリプレグに使用される強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、金属繊維などをあげることができるが、好ましくは炭素繊維が用いられる。
本実施形態では、上記の繊維強化プリプレグとして、引張弾性率が50GPa〜800GPaの炭素繊維を用いた一方向引揃えプリプレグを用いている。
繊維強化プリプレグにおいて強化繊維に含浸されるマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂から選ばれる熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂が選ばれる。好ましくはエポキシ樹脂が用いられる。
【0048】
繊維強化管状体32は、上記の各繊維強化樹脂プリプレグによって構成される各層の外周に、低接結織物プリプレグを積層した意匠層36を設けた構成とされている。
意匠層36を構成する低接結織物プリプレグに使用される強化繊維の目付けは特に制限はないが、本実施形態では、70g/m2〜350g/m2のものが用いられる。
この強化繊維の目付けが350g/m2以上であると、シャフト部31の質量が一般的なシャフト部としては大きくなりすぎる。一方、強化繊維の目付けが70g/m2以下であると目隙が大きくなり低接結織物プリプレグの機能が十分に発揮できない可能性がある。
このため、本実施形態では、低接結織物プリプレグの強化繊維としては、70g/m2〜350g/m2の強化繊維が用いられる。
ここで、この繊維強化管状体32には、更なる強度を確保するために、上記の意匠層36以外にも、径方向のいずれかの位置に、低接結織物プリプレグを積層した補強層を設けてもよい。
【0049】
以下、このシャフト部31の製造方法について、図11の断面図、及び図12の分解図に基づいて説明する。
まず、図12に示すように、細径側の直径が13mm、太径側直径が18mm、長さが900mmのテーパー付マンドレル41に、離形剤を塗布後、
引張弾性率 300GPa、
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
の炭素繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、それぞれマンドレル41に2周巻きつけることができる形状の2枚のバイアス層プリプレグ34a,34bを得て、これらバイアス層プリプレグ34a,34bをマンドレル41に巻きつけて、バイアス層34を得る。ここで、これらバイアス層プリプレグ34a,34bは、マンドレル41に巻きつけた際に炭素繊維の配向方向がマンドレル41の軸方向に対してそれぞれ+35°、−35°となるよう配向させられている。
【0050】
引張弾性率 300GPa
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
の炭素繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、前記の補強層35を構成する第1の補強層35aを構成するプリプレグを得るとともに、
引張弾性率 50GPa
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
のガラス繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、前記の補強層35を構成する第1の補強層35bを得る。
【0051】
これら第1の補強層35a,35bを構成するプリプレグは、前記バイアス層プリプレグ34上の細径端から太径側へ約200mmの位置までを2周することができる形状に裁断し、これらプリプレグを2枚重ねて、かつこれらプリプレグの炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるよう前記バイアス層22の上に巻きつける。
【0052】
引張弾性率 300GPa
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
の炭素繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、前記第1の補強層35a,35bを含めたバイアス層34の外側を2周することができる形状の一枚のストレート層プリプレグ33aを得る。このストレート層プリプレグ33aをその炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるようバイアス層34の上に巻きつけて、ストレート層33を得る。
【0053】
第1の補強層35aを構成するプリプレグと同じ炭素繊維の一方向引揃えプリプレグを、ストレート層プリプレグ33a上の細径端から太径側へ約200mmの位置までを2周することができる形状に裁断し、このプリプレグを、その炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるよう前記ストレート層34の上に巻きつけて、第2の補強層35cを得る。
【0054】
引張弾性率 240GPa
目付け 260g/m2
樹脂含有率 40%
の炭素繊維の低接結織物プリプレグを用いて、このプリプレグが前記第2の補強層35cを含めたストレート層33の外側を1周することができる形状の一枚の低接結織物層プリプレグ36aを得る。ここで、この低接結織物層プリプレグ36aに用いられる低接結織物は、第一実施形態で示したプリプレグPに用いられる低接結織物Sと同様の構成とされている。
この低接結織物層プリプレグ36aをその炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるようストレート層33の上に巻きつけて、意匠層36を得る。
【0055】
以上のようにしてマンドレル41に各プリプレグを巻き付けた後、得られた積層体にさらにラッピングテープを巻きつけ、130度に加熱し硬化後、マンドレル41を引き抜くことで、シャフト部31を得る。
【0056】
このように構成されるシャフト部31を有するパークゴルフクラブは、シャフト部31の最外周に、意匠層36が設けられている。
前記のように、意匠層36を構成する低接結織物は、第一実施形態で示したゴルフクラブ1に用いられる低接結織物Sと同様の構成である。
このため、シャフト部31の外周面には複雑な模様が形成されることとなり、意匠性が高い。
【0057】
また、シャフト部31の意匠層36を構成する低接結織物層プリプレグは、前記のように伸縮性に富んでいるため、下地となるストレート層33の曲率の大きな部位にも沿いやすく、表面が平滑に綺麗に形成できる。そのため、仕上げ加工のための表面研磨量も少なくて済むので、本実施形態にかかるパークゴルフクラブは、生産性が高く、質量バラツキも少ない。
【0058】
ここで、上記パークゴルフクラブにおいて、シャフト部31の外周面を覆う意匠層36は、パークゴルフクラブの補強材としても機能する。
以下、意匠層36によるパークゴルフクラブの補強効果を検証するため、シャフト部31の曲げ物性測定試験を行った。
以下では、上記シャフト部31を実施例とする。また、比較のため、シャフト31において最外層となる意匠層36に代えて、従来から一般的に使用されている
引張弾性率 240GPa
目付け 200g/m2
樹脂含有率 35%
の炭素繊維の平織りクロスプリプレグを使用した以外は、シャフト部31と同じ構成のシャフト部(以下「比較例」とする)を用意した。
【0059】
ここでは、曲げ物性測定試験として、実施例及び比較例の3点曲げ試験を行った。
この試験結果を表2に示す。なお、“変位量(撓み量)”とは、シャフト部中央部に29.4[N・m]の荷重をかけて荷重点の変位量(撓み量)を測定したもので、比較例のシャフト部の変位量(撓み量)を100として実施例のシャフト部の変位量(撓み量)が何%かで表した。また、“破壊強度”とは、シャフト部中央部に荷重をかけて破壊したときの荷重値を測定したもので、比較例のシャフト部の破壊強度を100として実施例のシャフト部の破壊強度が何%かで表した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、実施例では、太径部の寸法が比較例よりも下回っているにも関わらず、比較例に比べて変位量は5%少なく、破壊強度は15%も上回っている。
すなわち、本実施形態にかかるパークゴルフクラブのシャフト部31は、従来のシャフト部に比べて丈夫で壊れにくいシャフト部であると言える。
【0062】
ここで、本実施形態では、本発明をパークゴルフクラブのシャフト部31に適用した例を示したが、これに限られることなく、他の球技用打具、例えばゴルフクラブやバドミントンクラブなどのシャフト部に適用することができる。
【0063】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について、図13から図17を用いて説明する。
本実施形態では、本発明を、図13の斜視図に示すように、例えば野球等の球技に用いられるヘルメット51(帽体)に適用した例を示す。
ヘルメット51は、使用者の頭部形状に沿った略楕円の半球殻形状をなしており、図14(図13のA−A矢視断面図)に示すように、略半球殻形状をなす繊維強化樹脂層からなる帽体本体52(繊維強化構造体)と、この帽体本体52内に装着される緩衝部材53とを有している。
帽体本体52は、第一実施形態で示した低接結織物Sに樹脂を含浸したプリプレグを所定形状に成形したものであって、図15に示すように、その表面には、低接結織物Sの織り目が模様として現れている。
この低接結織物Sに使用される繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを用いることができ、マトリックス樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などが使用できる。
【0064】
帽体本体52は、図16に示す低接結織物Sを用いた前記のプリプレグP2を、帽体本体52の形状に成形したものである。本実施形態では、低接結織物Sを炭素繊維によって形成し、この低接結織物Sにエポキシ樹脂を含浸させることによってプリプレグP2を得ている。
具体的には、帽体本体52は、所定の形状の略楕円の半球面を有する帽体成形下型56に、プリプレグP2を、その繊維の配設方向がヘルメット51の前後方向に対して±45°傾斜する向きにしてかぶせる。
この状態で、図17に示すように、帽体成形上型57によって型締めを行った状態で樹脂を加熱硬化させることで、所定形状の帽体本体52が形成される。
【0065】
このように構成されるヘルメット51では、帽体本体52が低接結織物Sによって構成されているので、帽体本体52の表面には、低接結織物Sの織り目が模様として現れることになり、意匠性が高い。
また、前記のように、低接結織物Sの織り目のパターンや織り目の大きさは、任意に設定することができるので、ヘルメット51の模様のバリエーションが豊富であり、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0066】
また、低接結織物Sは、ドレープ性が非常に高いので、プリプレグP2に切込みを入れることなしに、芯材26の表面にたるみなく忠実に沿わせることができる。
このため、本実施形態にかかるヘルメット51では、帽体本体52の表面に織物の切込みがなく、織物模様が途中で切れたり乱れたりすることがないので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物Sを所望の曲面に成形した状態では、低接結織物Sの各緯糸Y及び各経糸Xは、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本実施形態にかかるヘルメット51では、図15に示すように、帽体本体52の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0067】
また、このヘルメット51では、上記のように帽体本体52を構成する織物に切込みを入れずに済むので、強度性能面でも従来のヘルメットよりも優れている。
すなわち、このヘルメット51は、織物を積層する回数を従来よりも少なくしても強度を十分に確保することができるので、このヘルメット51では、強度を落とさずに軽量化を図ることができる。
また、低接結織物Sは、緯糸層Lを複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減される。これにより、本実施形態にかかるヘルメット51は、製造コストが低くて済む。
ここで、本実施形態では、本発明を、野球等の球技に用いられるヘルメットに適用した例を示したが、これに限られることなく、他のスポーツや安全ヘルメット、自動2輪車やロードバイク用のヘルメット等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第一実施形態にかかるゴルフクラブ(球技用打具)を示す図である。
【図2】図1に示すゴルフクラブのゴルフクラブヘッドを示す図である。
【図3】図2に示すゴルフクラブヘッドの縦断面図である。
【図4】図2に示すゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
【図5】本発明の第一実施形態にかかるゴルフクラブに用いられる低接結織物を示す俯瞰図である。
【図6】図5に示す低接結織物の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態にかかるゴルフクラブの製造工程を示す図である。
【図8】本発明の第一実施形態の他の形態例を示す断面図である。
【図9】図8に示すゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
【図10】図8に示すゴルフクラブヘッドの製造工程を示す図である。
【図11】本発明の第二実施形態にかかるパークゴルフクラブ(球技用打具)のシャフト部の構造を示す断面図である。
【図12】図11に示すシャフト部の分解図である。
【図13】本発明の第三実施形態にかかるヘルメット(帽体)を示す斜視図である。
【図14】図13のA−A矢視断面図である。
【図15】図13に示すヘルメットの外面に形成される模様を示す図である。
【図16】図13に示すヘルメットの製造工程を示す図である。
【図17】図13に示すヘルメットの製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1,1a ゴルフクラブ(球技用打具)
2,31 シャフト部(繊維強化構造体)
4 ゴルフクラブヘッド
18 第二外殻部材(繊維強化構造体)
51 ヘルメット(帽体)
52 帽体本体(繊維強化構造体)
L 緯糸層
S 低接結織物
X 経糸
Y 緯糸
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化構造体を用いた球技用打具及び帽体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化構造体を用いた球技用打具としては、例えば後記の特許文献1に記載のゴルフクラブヘッドがある。
このゴルフクラブヘッドは、フェースプレート部を金属基強化複合材料によって製造されたものである。
【0003】
具体的には、このゴルフクラブヘッドは、フェースプレート部が、セラミックス粒子またはセラミックス短繊維の少なくとも一方によりフェースプレートの形状に合致した形状に作成された成形体と、少なくとも一枚の織布によって作成されるものである。
フェースプレート部は、成形体の1面側に織布を予熱して固定し、この状態を維持しつつ金型内にセットしてダイカスト法にて軽金属溶湯を充填することで、成形体及び織布の空孔に軽金属溶湯を溶浸させて、金属基強化複合材料としたものである。
このようにして形成されるフェースプレート部の表面には、織布の織り目が模様として現れる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−215354号公報(段落[0008]〜[0010],及び図1〜図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、織布としては、経糸と緯糸とを交互に織り込んだ平織りや、経糸と緯糸とが斜めの模様を形成する綾織りや、2重綾織り、朱子織り、目抜き平織り、からみ織り等のものが用いられる。
しかし、いずれの織り方の織布も、織り目のパターンは微小な織り目が繰り返される単調なものとなり、フェースプレート部に現れる模様に高い意匠性を持たせることは困難であった。
また、いずれの織り方の織布も、ドレープ性が十分でなく、曲面を形成しようとした場合、たるみや重なりが生じないように、何箇所にも切込みを入れる必要があった。
このため、フェースプレートに高い意匠性を持たせることは困難であった。
そして、このような課題は、球技用打具に限らず、曲面を有する繊維強化構造体からなる帽体においても生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、意匠性の高い球技用打具及び帽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された球技用打具であって、前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である球技用打具を提供する。
【0008】
このように構成される球技用打具では、繊維強化構造体を構成する織物が、低接結織物によって構成されているので、繊維強化構造体の表面には、低接結織物の織り目が模様として現れる。
低接結織物は、各緯糸層のそれぞれについて緯糸を経糸によって織り込みながら、一部の経糸では、一部の緯糸の代わりに、他の緯糸層の緯糸を織り込んだものであるので、繊維強化構造体用の織物として従来用いられていた平織りや朱子織り等の織物に比べて織り目が複雑である。
このため、本発明にかかる球技用打具は、繊維強化構造体の表面に複雑な模様が形成されるので、意匠性が高い。
また、低接結織物の織り目のパターンは、経糸の織り込みパターンを変更することで様々に変化させることができ、織り目の大きさは、糸の太さを変えることで任意の大きさに設定することができる。
このように、本発明にかかる球技用打具は、その模様のバリエーションが豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0009】
また、低接結織物は、上記のように、各緯糸層を織り込む経糸の一部が、一部の緯糸をとばして他の緯糸層の緯糸を織り込んでいて、各緯糸層の緯糸同士、及び各緯糸層同士がそれぞれ緩やかに結合している。このため、低接結織物は、全体として十分な強度を保ちながら、各緯糸及び各経糸のそれぞれの変位の自由度が高く、非常にしなやかである(すなわちドレープ性が非常に高い)。
この低接結織物は、上記のようにドレープ性が非常に高いので、切込みを入れずに、もしくは最小限の切込みを入れるだけで、たるみなしに所望の曲面形状(例えば略球面形状)を持たせることができる。
このため、本発明にかかる球技用打具では、繊維強化構造体に、織物の切込みがないか、もしくは切込みが最小限に抑えられるので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物に所望の曲面形状を持たせた状態では、低接結織物の各緯糸及び各経糸は、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本発明にかかる球技用打具では、繊維強化構造体の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0010】
また、本発明にかかる球技用打具では、上記のように繊維強化構造体を構成する織物に切込みを入れずに済むか、もしくは最小限の切込みを入れるだけで済むので、強度性能面でも従来の球技用打具より優れている。
すなわち、この球技用打具では、織物を積層する回数を従来よりも少なくしても繊維強化構造体の強度を十分に確保することができる。このため、この球技用打具では、軽量部と重量部との質量比を大きくすることができ、球技用打具の慣性モーメントを打撃に最適にするための重量配分の調整が容易となるので、設計の自由度が高い。
また、低接結織物は、緯糸層を複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減される。これにより、本発明にかかる球技用打具は、製造コストが低くて済む。
【0011】
また、この球技用打具において、前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なっていてもよい。
この場合には、繊維強化構造体の表面に、色や質感の異なる糸が複雑なパターンで現れるので、一段と意匠性が高い。
【0012】
また、この球技用打具が、中空棒状のシャフト部を有し、該シャフト部のうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されていてもよい。
この球技用打具では、シャフト部が高い意匠性を有している。
ここで、シャフト部を有する球技用打具としては、例えばゴルフクラブやパークゴルフクラブ、バドミントンクラブ等がある。
【0013】
また、この球技用打具が、中空のゴルフクラブヘッドを有し、該ゴルフクラブヘッドのうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されていてもよい。
この球技用打具では、ゴルフクラブヘッドが高い意匠性を有している。
【0014】
また、本発明は、織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された帽体であって、前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、
該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である帽体を提供する。
【0015】
このように構成される帽体では、繊維強化構造体を構成する織物が、低接結織物によって構成されているので、繊維強化構造体の表面には、低接結織物の織り目が模様として現れる。
低接結織物は、各緯糸層のそれぞれについて緯糸を経糸によって織り込みながら、一部の経糸では、一部の緯糸の代わりに、他の緯糸層の緯糸を織り込んだものであるので、繊維強化構造体用の織物として従来用いられていた平織りや朱子織り等の織物に比べて織り目が複雑である。
このため、本発明にかかる帽体は、繊維強化構造体の表面に複雑な模様が形成されるので、意匠性が高い。
また、低接結織物の織り目のパターンは、経糸の織り込みパターンを変更することで様々に変化させることができ、織り目の大きさは、糸の太さを変えることで任意の大きさに設定することができる。
このように、本発明にかかる帽体は、その模様のバリエーションが豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0016】
また、低接結織物は、上記のように、各緯糸層を織り込む経糸の一部が、一部の緯糸をとばして他の緯糸層の緯糸を織り込んでいて、各緯糸層の緯糸同士、及び各緯糸層同士がそれぞれ緩やかに結合している。このため、低接結織物は、全体として十分な強度を保ちながら、各緯糸及び各経糸のそれぞれの変位の自由度が高く、非常にしなやかである(すなわちドレープ性が非常に高い)。
この低接結織物は、上記のようにドレープ性が非常に高いので、切込みを入れずに、もしくは最小限の切込みを入れるだけで、たるみなしに所望の曲面形状(例えば略球面形状)を持たせることができる。
このため、本発明にかかる帽体では、繊維強化構造体に、織物の切込みがないか、もしくは切込みが最小限に抑えられるので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物に所望の曲面形状を持たせた状態では、低接結織物の各緯糸及び各経糸は、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本発明にかかる帽体では、繊維強化構造体の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0017】
また、本発明にかかる帽体では、上記のように繊維強化構造体を構成する織物に切込みを入れずに済むか、もしくは最小限の切込みを入れるだけで済むので、強度性能面でも従来の帽体より優れている。
【0018】
また、低接結織物は、緯糸層を複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減されるので、本発明にかかる帽体の製造コストが低くて済む。
【0019】
この帽体において、前記織物を構成する前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なる糸が用いられていてもよい。
このように構成される帽体では、繊維強化構造体の表面に、色や質感の異なる糸が複雑なパターンで現れるので、一段と意匠性が高い。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる球技用打具及び帽体によれば、繊維強化構造体の表面に複雑な模様が形成されるので、従来の単調な模様の球技用打具及び帽体に比べて、意匠性が非常に高い。
また、本発明にかかる球技用打具及び帽体は、その模様のバリエーションも豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
さらに、繊維強化構造体の曲面部分を構成する織物に切込みがないかもしくは切込みが最小限で済むので、意匠性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について、図1から図7を用いて説明する。
本実施形態では、図1に示すように、本発明を、ゴルフクラブ1に適用した例を示す。
このゴルフクラブ1は、中空管状のシャフト部2と、シャフト部2の一端に設けられるグリップ3と、シャフト部2の他端に設けられるゴルフクラブヘッド4とを有している。
【0022】
本実施形態では、ゴルフクラブヘッド4は、ドライバー、あるいはフェアウエイウッドなどの内部に中空部を有する構造のヘッドである。
このゴルフクラブヘッド4は、図2に示すように、打球部を構成するフェース部11と、上面を構成するクラウン部12と、フェース部11の後方での周面を構成するサイド部13と、下面を構成するソール部14と、フェース部11の上端右側に設けられてシャフト部2の他端が接続されるホーゼル部16とを含む構成を有している。なお、本実施形態に示すゴルフクラブ1は右利き用であって、左利き用ではホーゼル部16はフェース部11の上端左側に設けられる。
【0023】
図3(a)及び図4に示すように、このゴルフクラブヘッド4は、フェース部11及びホーゼル部16を含む第一外殻部材17と、ゴルフクラブヘッド4の残りの部分を構成する第二外殻部材18とを接合した構造とされている。
本実施形態では、第二外殻部材18の開口端部が、その外周面を、第一外殻部材17の開口端部17aの内周面に密着するように配置した状態で接合されている。なお、第一外殻部材17と第二外殻部材18との接合をより強固なものとする必要がある場合には、図3(b)に示すように、第一外殻部材17と第二外殻部材18の接合境界の外周面側に、これらの部材を跨ぐように別体の補強材19を積層すれば、より強固な接合を実現できる。
【0024】
本実施形態では、第一外殻部材17は、金属製とされており、フェース部11と、フェース部11の周縁から後方に延びるつば部21と、これらフェース部11の上端及びつば部21の上端に連なって設けられるホーゼル部16と、つば部21の下端から連続して後方に延びるソール部14とを含んだ構成とされている。
この第一外殻部材17は、鋳造、鍛造、熱圧プレス、機械加工等により製造できる。好ましくは、この第一外殻部材17はチタン又はステンレススチールにより鋳造又は鍛造により形成する。第一外殻部材17は前記範囲に限定されることなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、金属マトリックス複合体やセラミックス材料とすることができる。
【0025】
第二外殻部材18は、炭素繊維強化樹脂等からなる略カップ状の繊維強化構造体とされており、上方に向けて凸となる緩やかな曲面をなすとともに周縁が外側に向けて凸となる弧を描くクラウン部12と、クラウン部12の周縁に沿った凸曲面をなすサイド部13とを含んだ構成とされている。
第二外殻部材18は、図5の俯瞰図に示す低接結織物Sに合成樹脂を含浸させた低接結織物プリプレグP(図7(a)参照)を複数層積層した構成とされている。
【0026】
低接結織物Sは、経糸Xa,Xb,Xc,…と緯糸Y1,Y2,Y3,…とによって構成されている。この低接結織物Sでは、緯糸Yは、三層18列を1完全とする三層構造とされている。この低接結織物Sは、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、もしくはこれらの混織によって構成することができる。本実施形態では、低接結織物Sを炭素繊維によって構成している。
図6(a)〜(h),(j),(k)に、各経糸Xの各緯糸Yとの接結の様子を示す。これらの図6(a)〜(h),(j),(k)は、それぞれこの順番に経糸Xa〜Xh,Xj,Xkの各緯糸Yとの接結の様子を示す図である。なお、経糸Xiの各緯糸Yとの接結の様子は図6(c)に示す経糸Xcの場合と同じであり、経糸Xlの各緯糸Yとの接結の様子は図6(f)に示す経糸Xfの場合と同じである。
【0027】
図6(a)〜(h)、(j)、(k)に示すように、低接結織物Sは、それぞれ複数の緯糸Yを有する緯糸層Lを複数層有している。本実施形態では、緯糸層Lとして、緯糸Y1,Y4,Y7,…からなる緯糸層L1と、緯糸Y2,Y5,Y8,…からなる緯糸層L2と、緯糸Y3,Y6,Y9,…からなる緯糸層L3の三層を設けている。
経糸Xa,Xb,Xc,…は、それぞれひとつの緯糸層Lの緯糸Yを織り込んでいる。また、隣接する経糸X同士は異なる緯糸層Lを織り込んでいる。本実施形態では、経糸Xaは緯糸層L1を織り込んでおり、経糸Xbは緯糸層L2を織り込んでおり、経糸Xcは緯糸層L3を織り込んでおり、以降の経糸Xは同様のパターンで緯糸層Lを織り込んでいる。
【0028】
また、経糸Xの一部は、緯糸層Lを構成する一部の緯糸Yの代わりに他の緯糸層Lの緯糸Yを織り込んでいる。
本実施形態では、経糸Xbは、緯糸層L2を構成する緯糸Y11の代わりに緯糸層L3を構成する緯糸Y12を織り込んでおり、経糸Xeは、緯糸層L2を構成する緯糸Y8の代わりに緯糸層L3を構成する緯糸Y9を織り込んでおり、経糸Xgは、緯糸層L1を構成する緯糸Y4の代わりに緯糸層L2を構成する緯糸Y5を織り込んでいる。
また、経糸Xjは、緯糸層L1を構成する糸Y7の代わりに緯糸層L2を構成する緯糸Y8を織り込むとともに、緯糸層L1を構成する緯糸Y13の代わりに緯糸層L2を構成する緯糸Y14を織り込んでいる。
このような構成の低接結織物Sは、例えば、汎用のレピア織機を強化繊維の製織に対応できるように一部改良することで製織可能である。
【0029】
低接結織物プリプレグPは、図7(a)に示すように、平面状に展開した状態では、略半円形状をなしており、その周縁のうち、直線状となっている部分が、カップ状に変形させた際の開口端(すなわちフェース部11の周縁部との接続部)を構成している。
この低接結織物プリプレグPを構成する強化繊維(緯糸Y、経糸X)の配設方向はフェース部11に対して考慮され、平面状に展開した状態では、フェース部11との接続端に対して平行な方向と垂直な方向とのそれぞれに配設されているものと、フェース部11に対して斜交するように配設されているものとが交互に積層される。
【0030】
また、この低接結織物プリプレグPにおける樹脂の量は全プリプレグの重量に対して30%〜40%であり、好ましい実施例においては31%〜35%である。樹脂量が31%未満であると、成形時に樹脂欠乏部分やボイドが発生しやすく、綺麗な表面を得にくくなる。また強度も低下してしまう。また、樹脂量が35%より大きいと、樹脂リッチ部分、即ち強化繊維の存在しない部分が増加するため、強度が弱くなる。この樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。好ましい実施例としてはエポキシ樹脂が使用される。
【0031】
この低接結織物プリプレグPにより第二外殻部材18を形成するにあたっては、図7(b)に示すように、第二外殻部材18成形用の所望の形状を有する芯材26の外表面のうち、クラウン部12及びサイド部13に相当する部位に、図7(a)に示す形状に切り出した低接結織物プリプレグPを、複数層積層し、オートクレーブ等の加圧加熱装置を用いて樹脂を硬化させることによって、図7(c)の断面図に示す所望の中空形状に形成している。本実施形態では、低接結織物プリプレグPは、その各層の強化繊維の配向方向が隣り合う層において互いに同一方向とならないようにして、4層積層している。
【0032】
以上述べたように、本実施形態にかかるゴルフクラブ1は、第一外殻部材17という少量の部分を金属材料で形成し、残りの部分を前記第一外殻部材7よりも比重の小さい材料からなる第二外殻部材18として、両部材を強固に接合することにより形成している。
ゴルフクラブを、強固で、耐久性のあるゴルフクラブとするには、ボールの打撃によって生じる衝撃を効果的に減衰する構成とする必要があるが、このゴルフクラブ1では、上記のように第二外殻部材18が繊維強化樹脂製であるので、第二外殻部材18が金属製である場合に比べて、ボールの打撃時の衝撃を良好に減衰することができ、強度と耐久性に優れている。
【0033】
このように構成されるゴルフクラブ1では、繊維強化構造体である第二外殻部材18を構成する織物が、低接結織物Sによって構成されているので、第二外殻部材18の表面には、低接結織物Sの織り目が模様として現れる。
上記のように、低接結織物Sは、各緯糸層Lのそれぞれについて緯糸Yを経糸Xによって織り込みながら、一部の経糸Xでは、一部の緯糸Yの代わりに、他の緯糸層Lの緯糸Yを織り込んだものであるので、繊維強化構造体用の織物として従来用いられていた平織りや朱子織り等の織物に比べて織り目が複雑である。
このため、このゴルフクラブ1では、クラウン部12及びサイド部13の表面に複雑な模様が形成されるので、意匠性が高い。
【0034】
また、低接結織物Sの織り目のパターンは、経糸Xの織り込みパターンを変更することで様々に変化させることができ、織り目の大きさは、糸の太さを変えることで任意の大きさに設定することができる。
このように、本実施形態にかかるゴルフクラブ1は、その模様のバリエーションが豊富であるので、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0035】
また、低接結織物Sは、上記のように、各緯糸層Lを織り込む経糸Xの一部が、一部の緯糸Yをとばして他の緯糸層Lの緯糸Yを織り込んでいて、各緯糸層Lの緯糸Y同士、及び各緯糸層L同士がそれぞれ緩やかに結合している。このため、低接結織物Sは、全体として十分な強度を保ちながら、各緯糸Y及び各経糸Xのそれぞれの変位の自由度が高く、非常にしなやかである(すなわちドレープ性が非常に高い)。
この低接結織物Sは、上記のようにドレープ性が非常に高いので、本実施形態では、切込みを入れることなしに、芯材26の表面にたるみなく忠実に沿わせることができる。
このため、本実施形態にかかるゴルフクラブ1では、クラウン部12及びサイド部13に、織物の切込みがなく、織物模様が途中で切れたり乱れたりすることがないので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物Sを所望の曲面に成形した状態では、低接結織物Sの各緯糸Y及び各経糸Xは、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本実施形態にかかるゴルフクラブ1では、図7(b)に示すように、クラウン部12及びサイド部13の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0036】
また、このゴルフクラブ1では、上記のように第二外殻部材18を構成する織物に切込みを入れずに済むので、強度性能面でも従来のゴルフクラブより優れている。
すなわち、このゴルフクラブ1では、織物を積層する回数を従来よりも少なくしても第二外殻部材18の強度を十分に確保することができる。このため、このゴルフクラブ1では、軽量部と重量部との質量比を大きくすることができ、ゴルフクラブ1の慣性モーメントを打撃に最適にするための重量配分の調整が容易となるので、設計の自由度が高い。
また、低接結織物Sは、緯糸層Lを複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減される。これにより、本実施形態にかかるゴルフクラブ1は、製造コストが低くて済む。
【0037】
ここで、本実施形態では、ゴルフクラブ1に用いる低接結織物Sを、炭素繊維のみによって構成した例を示した。この例では、第二外殻部材18の表面は全体が炭素繊維の色(黒色)で、かつ表面の質感も均一となっている。
これに対して、緯糸Yと経糸Xとのうちの少なくともいずれか一方において、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうちの少なくともいずれか一方が異なっていてもよい。
この場合には、第二外殻部材18の表面に、色や質感の異なる糸が複雑なパターンで現れるので、一段と意匠性が高くなる。
例えば、経糸Xのうちの一部をアラミド繊維とすることで、第二外殻部材18の黒地の表面にアラミド繊維の色(黄色)が複雑なパターンで現れて、鮮やかな模様が得られる。
【0038】
また、本実施形態では、ゴルフクラブ1として、ゴルフクラブヘッド4の第二外殻部材18がクラウン部12とサイド部13とによって構成される例を示したが、これに限られることなく、例えば図8及び図9に示すゴルフクラブ1aのように、ソール部14を、第一外殻部材17ではなく、第二外殻部材18に設けてもよい。
この場合には、ソール部14も、クラウン部12及びサイド部13と一体のカップ状の繊維強化構造体として製造される。
このような構成の第二外殻部材18は、図10(a)に示すように、平面状に展開した状態では、上記の略半円形状の低接結織物プリプレグPにおいて円弧の頂点近傍にソール部14を構成する張出部27を設けるとともに張出部27の両脇に切込みCを設けた低接結織物プリプレグP1によって形成される。
具体的には、図10(b)に示すように、この低接結織物プリプレグP1を、所望形状の芯材28の表面に、強化繊維の配設方向を変えて複数枚積層することによって、図10(c)に示す所望の中空形状の第二外殻部材18が形成される。
【0039】
この場合においても、低接結織物プリプレグP1のドレープ性が非常に高いので、このように第二外殻部材18の形状が複雑であっても、切込みCを二箇所設けるだけで済む。
このため、このようにソール部14をクラウン部12及びサイド部13と一体成形したゴルフクラブ1aにおいても、意匠性が高く、また強度も優れている。
【0040】
ここで、本実施形態にかかるゴルフクラブ1,1aのゴルフクラブヘッド4について、設計の自由度及び耐久性について評価し、その結果を表1に示す。
なお、以下では、ゴルフクラブ1を実施例1とし、ゴルフクラブ1aを実施例2とし、実施例1において、第二外殻部材18に相当する部分を、一方向引き揃え(UD)のプリプレグを10層積層して形成したものを比較例1とし、実施例2において、第二外殻部材18に相当する部分を、一方向引き揃え(UD)のプリプレグを10層積層して形成したものを比較例2とした。
【0041】
【表1】
【0042】
設計の自由度にあたっては、実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2について、それぞれ第一外殻部材及び第二外殻部材の質量、これらを接着する接着剤の質量、及び第二外殻部材の厚みを比較した。
表1から分かるように、実施例1では、比較例1に比べて第二外殻部材の質量が約20%程度低減されており、厚みも20%程度低減されていることが分かる。また、実施例2でも、比較例2に比べて第二外殻部材の質量が約20%程度低減されており、厚みも20%程度低減されていることが分かる。
このように、各実施例では、比較例に対して、軽量部と重量部との質量比が大きいことがわかる。これにより、各実施例では、比較例に対して、ゴルフクラブの慣性モーメントを打撃に最適にするための重量配分の調整が容易となるので、設計の自由度が高い。
【0043】
耐久性の評価は、実施例1,2と比較例1,2のそれぞれについてゴルフクラブヘッドを固定し、クラウン部から圧縮荷重を加えてゴルフクラブヘッドの第二外殻部材が破壊したときに計測された荷重値に基づいて行った。
表1から分かるように、各実施例では、比較例に対して、耐久性が35〜40%程度向上していることが分かる。
【0044】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図11及び図12を用いて説明する。
本実施形態では、本発明を、パークゴルフクラブに適用した例を示す。
パークゴルフクラブは、通常のゴルフクラブとほぼ同じ構成であるが、シャフト部として、通常のゴルフクラブに比べて太いシャフト部が用いられている。
図11に、本実施形態にかかるパークゴルフクラブのシャフト部31を示す。なお、図11では、シャフト部31の長手方向の寸法を縮めて図示しているが、実際のシャフト部31では、長手方向の寸法は径方向寸法に比べて十分に長く設定されている。
【0045】
シャフト部31は、グリップ側からゴルフクラブヘッド側に向うにつれて次第に縮径される繊維強化管状体32によって構成されている。
本実施形態では、繊維強化管状体32は、強化繊維が軸方向に対してほぼ平行(軸方向に対して0°〜±5°傾斜する向き)に配向している繊維強化樹脂プリプレグを積層したストレート層33と、軸方向に対して±20°〜±70°傾斜する向きに配向している繊維強化樹脂プリプレグを積層したバイアス層34とを有している。
【0046】
また、この繊維強化管状体32には、ストレート層33やバイアス層34の他に、部分的な強化を目的とする補強層35が、必要に応じて設けられる。
この補強層35は、例えば強化繊維が繊維強化管状体32の軸方向に対してほぼ平行な方向、もしくは軸方向に対して傾斜する向きに配向している繊維強化樹脂プリプレグや、繊維強化管状体32の軸方向に対してほぼ直交する向き(軸方向に対して±80°〜90°傾斜する向き)に配向している繊維強化樹脂プリプレグ(フープ層)によって構成される。
本実施形態では、ストレート層33の細径側端部外周面に第1の補強層35aが設けられており、バイアス層34の細径側端部外周面に第2の補強層35bが設けられている。
これら繊維強化樹脂プリプレグの積層数(ストレート層、バイアス層などのある特定の層が繊維強化管状体32の周りに巻きつけられている回数)は、繊維強化管状体32に要求される強度に応じて任意に設定される。
【0047】
これら繊維強化プリプレグに使用される強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、金属繊維などをあげることができるが、好ましくは炭素繊維が用いられる。
本実施形態では、上記の繊維強化プリプレグとして、引張弾性率が50GPa〜800GPaの炭素繊維を用いた一方向引揃えプリプレグを用いている。
繊維強化プリプレグにおいて強化繊維に含浸されるマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂から選ばれる熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂が選ばれる。好ましくはエポキシ樹脂が用いられる。
【0048】
繊維強化管状体32は、上記の各繊維強化樹脂プリプレグによって構成される各層の外周に、低接結織物プリプレグを積層した意匠層36を設けた構成とされている。
意匠層36を構成する低接結織物プリプレグに使用される強化繊維の目付けは特に制限はないが、本実施形態では、70g/m2〜350g/m2のものが用いられる。
この強化繊維の目付けが350g/m2以上であると、シャフト部31の質量が一般的なシャフト部としては大きくなりすぎる。一方、強化繊維の目付けが70g/m2以下であると目隙が大きくなり低接結織物プリプレグの機能が十分に発揮できない可能性がある。
このため、本実施形態では、低接結織物プリプレグの強化繊維としては、70g/m2〜350g/m2の強化繊維が用いられる。
ここで、この繊維強化管状体32には、更なる強度を確保するために、上記の意匠層36以外にも、径方向のいずれかの位置に、低接結織物プリプレグを積層した補強層を設けてもよい。
【0049】
以下、このシャフト部31の製造方法について、図11の断面図、及び図12の分解図に基づいて説明する。
まず、図12に示すように、細径側の直径が13mm、太径側直径が18mm、長さが900mmのテーパー付マンドレル41に、離形剤を塗布後、
引張弾性率 300GPa、
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
の炭素繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、それぞれマンドレル41に2周巻きつけることができる形状の2枚のバイアス層プリプレグ34a,34bを得て、これらバイアス層プリプレグ34a,34bをマンドレル41に巻きつけて、バイアス層34を得る。ここで、これらバイアス層プリプレグ34a,34bは、マンドレル41に巻きつけた際に炭素繊維の配向方向がマンドレル41の軸方向に対してそれぞれ+35°、−35°となるよう配向させられている。
【0050】
引張弾性率 300GPa
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
の炭素繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、前記の補強層35を構成する第1の補強層35aを構成するプリプレグを得るとともに、
引張弾性率 50GPa
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
のガラス繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、前記の補強層35を構成する第1の補強層35bを得る。
【0051】
これら第1の補強層35a,35bを構成するプリプレグは、前記バイアス層プリプレグ34上の細径端から太径側へ約200mmの位置までを2周することができる形状に裁断し、これらプリプレグを2枚重ねて、かつこれらプリプレグの炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるよう前記バイアス層22の上に巻きつける。
【0052】
引張弾性率 300GPa
目付け 100g/m2
樹脂含有率 30%
の炭素繊維の一方向引揃プリプレグを裁断して、前記第1の補強層35a,35bを含めたバイアス層34の外側を2周することができる形状の一枚のストレート層プリプレグ33aを得る。このストレート層プリプレグ33aをその炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるようバイアス層34の上に巻きつけて、ストレート層33を得る。
【0053】
第1の補強層35aを構成するプリプレグと同じ炭素繊維の一方向引揃えプリプレグを、ストレート層プリプレグ33a上の細径端から太径側へ約200mmの位置までを2周することができる形状に裁断し、このプリプレグを、その炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるよう前記ストレート層34の上に巻きつけて、第2の補強層35cを得る。
【0054】
引張弾性率 240GPa
目付け 260g/m2
樹脂含有率 40%
の炭素繊維の低接結織物プリプレグを用いて、このプリプレグが前記第2の補強層35cを含めたストレート層33の外側を1周することができる形状の一枚の低接結織物層プリプレグ36aを得る。ここで、この低接結織物層プリプレグ36aに用いられる低接結織物は、第一実施形態で示したプリプレグPに用いられる低接結織物Sと同様の構成とされている。
この低接結織物層プリプレグ36aをその炭素繊維がマンドレル41の軸方向と平行となるようストレート層33の上に巻きつけて、意匠層36を得る。
【0055】
以上のようにしてマンドレル41に各プリプレグを巻き付けた後、得られた積層体にさらにラッピングテープを巻きつけ、130度に加熱し硬化後、マンドレル41を引き抜くことで、シャフト部31を得る。
【0056】
このように構成されるシャフト部31を有するパークゴルフクラブは、シャフト部31の最外周に、意匠層36が設けられている。
前記のように、意匠層36を構成する低接結織物は、第一実施形態で示したゴルフクラブ1に用いられる低接結織物Sと同様の構成である。
このため、シャフト部31の外周面には複雑な模様が形成されることとなり、意匠性が高い。
【0057】
また、シャフト部31の意匠層36を構成する低接結織物層プリプレグは、前記のように伸縮性に富んでいるため、下地となるストレート層33の曲率の大きな部位にも沿いやすく、表面が平滑に綺麗に形成できる。そのため、仕上げ加工のための表面研磨量も少なくて済むので、本実施形態にかかるパークゴルフクラブは、生産性が高く、質量バラツキも少ない。
【0058】
ここで、上記パークゴルフクラブにおいて、シャフト部31の外周面を覆う意匠層36は、パークゴルフクラブの補強材としても機能する。
以下、意匠層36によるパークゴルフクラブの補強効果を検証するため、シャフト部31の曲げ物性測定試験を行った。
以下では、上記シャフト部31を実施例とする。また、比較のため、シャフト31において最外層となる意匠層36に代えて、従来から一般的に使用されている
引張弾性率 240GPa
目付け 200g/m2
樹脂含有率 35%
の炭素繊維の平織りクロスプリプレグを使用した以外は、シャフト部31と同じ構成のシャフト部(以下「比較例」とする)を用意した。
【0059】
ここでは、曲げ物性測定試験として、実施例及び比較例の3点曲げ試験を行った。
この試験結果を表2に示す。なお、“変位量(撓み量)”とは、シャフト部中央部に29.4[N・m]の荷重をかけて荷重点の変位量(撓み量)を測定したもので、比較例のシャフト部の変位量(撓み量)を100として実施例のシャフト部の変位量(撓み量)が何%かで表した。また、“破壊強度”とは、シャフト部中央部に荷重をかけて破壊したときの荷重値を測定したもので、比較例のシャフト部の破壊強度を100として実施例のシャフト部の破壊強度が何%かで表した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、実施例では、太径部の寸法が比較例よりも下回っているにも関わらず、比較例に比べて変位量は5%少なく、破壊強度は15%も上回っている。
すなわち、本実施形態にかかるパークゴルフクラブのシャフト部31は、従来のシャフト部に比べて丈夫で壊れにくいシャフト部であると言える。
【0062】
ここで、本実施形態では、本発明をパークゴルフクラブのシャフト部31に適用した例を示したが、これに限られることなく、他の球技用打具、例えばゴルフクラブやバドミントンクラブなどのシャフト部に適用することができる。
【0063】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について、図13から図17を用いて説明する。
本実施形態では、本発明を、図13の斜視図に示すように、例えば野球等の球技に用いられるヘルメット51(帽体)に適用した例を示す。
ヘルメット51は、使用者の頭部形状に沿った略楕円の半球殻形状をなしており、図14(図13のA−A矢視断面図)に示すように、略半球殻形状をなす繊維強化樹脂層からなる帽体本体52(繊維強化構造体)と、この帽体本体52内に装着される緩衝部材53とを有している。
帽体本体52は、第一実施形態で示した低接結織物Sに樹脂を含浸したプリプレグを所定形状に成形したものであって、図15に示すように、その表面には、低接結織物Sの織り目が模様として現れている。
この低接結織物Sに使用される繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを用いることができ、マトリックス樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などが使用できる。
【0064】
帽体本体52は、図16に示す低接結織物Sを用いた前記のプリプレグP2を、帽体本体52の形状に成形したものである。本実施形態では、低接結織物Sを炭素繊維によって形成し、この低接結織物Sにエポキシ樹脂を含浸させることによってプリプレグP2を得ている。
具体的には、帽体本体52は、所定の形状の略楕円の半球面を有する帽体成形下型56に、プリプレグP2を、その繊維の配設方向がヘルメット51の前後方向に対して±45°傾斜する向きにしてかぶせる。
この状態で、図17に示すように、帽体成形上型57によって型締めを行った状態で樹脂を加熱硬化させることで、所定形状の帽体本体52が形成される。
【0065】
このように構成されるヘルメット51では、帽体本体52が低接結織物Sによって構成されているので、帽体本体52の表面には、低接結織物Sの織り目が模様として現れることになり、意匠性が高い。
また、前記のように、低接結織物Sの織り目のパターンや織り目の大きさは、任意に設定することができるので、ヘルメット51の模様のバリエーションが豊富であり、意匠面でのユーザーの選択肢を従来よりも大幅に広げることができる。
【0066】
また、低接結織物Sは、ドレープ性が非常に高いので、プリプレグP2に切込みを入れることなしに、芯材26の表面にたるみなく忠実に沿わせることができる。
このため、本実施形態にかかるヘルメット51では、帽体本体52の表面に織物の切込みがなく、織物模様が途中で切れたり乱れたりすることがないので、意匠性が高い。
さらに、この低接結織物Sを所望の曲面に成形した状態では、低接結織物Sの各緯糸Y及び各経糸Xは、曲面に沿った滑らかな曲線を描くので、本実施形態にかかるヘルメット51では、図15に示すように、帽体本体52の表面に、その曲面に沿った滑らかな曲線が多数現れることになり、意匠性が高い。
【0067】
また、このヘルメット51では、上記のように帽体本体52を構成する織物に切込みを入れずに済むので、強度性能面でも従来のヘルメットよりも優れている。
すなわち、このヘルメット51は、織物を積層する回数を従来よりも少なくしても強度を十分に確保することができるので、このヘルメット51では、強度を落とさずに軽量化を図ることができる。
また、低接結織物Sは、緯糸層Lを複数有する厚織布であるので、従来の織物よりも少ない積層数で所望の厚みを得ることができ、製造にかかる手間が大幅に低減される。これにより、本実施形態にかかるヘルメット51は、製造コストが低くて済む。
ここで、本実施形態では、本発明を、野球等の球技に用いられるヘルメットに適用した例を示したが、これに限られることなく、他のスポーツや安全ヘルメット、自動2輪車やロードバイク用のヘルメット等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第一実施形態にかかるゴルフクラブ(球技用打具)を示す図である。
【図2】図1に示すゴルフクラブのゴルフクラブヘッドを示す図である。
【図3】図2に示すゴルフクラブヘッドの縦断面図である。
【図4】図2に示すゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
【図5】本発明の第一実施形態にかかるゴルフクラブに用いられる低接結織物を示す俯瞰図である。
【図6】図5に示す低接結織物の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態にかかるゴルフクラブの製造工程を示す図である。
【図8】本発明の第一実施形態の他の形態例を示す断面図である。
【図9】図8に示すゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
【図10】図8に示すゴルフクラブヘッドの製造工程を示す図である。
【図11】本発明の第二実施形態にかかるパークゴルフクラブ(球技用打具)のシャフト部の構造を示す断面図である。
【図12】図11に示すシャフト部の分解図である。
【図13】本発明の第三実施形態にかかるヘルメット(帽体)を示す斜視図である。
【図14】図13のA−A矢視断面図である。
【図15】図13に示すヘルメットの外面に形成される模様を示す図である。
【図16】図13に示すヘルメットの製造工程を示す図である。
【図17】図13に示すヘルメットの製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1,1a ゴルフクラブ(球技用打具)
2,31 シャフト部(繊維強化構造体)
4 ゴルフクラブヘッド
18 第二外殻部材(繊維強化構造体)
51 ヘルメット(帽体)
52 帽体本体(繊維強化構造体)
L 緯糸層
S 低接結織物
X 経糸
Y 緯糸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された球技用打具であって、
前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、
該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、
該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である球技用打具。
【請求項2】
前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なっている請求項1記載の球技用打具。
【請求項3】
中空棒状のシャフト部を有し、
該シャフト部のうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されている請求項1または2に記載の球技用打具。
【請求項4】
中空のゴルフクラブヘッドを有し、
該ゴルフクラブヘッドのうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されている請求項1から3のいずれかに記載の球技用打具。
【請求項5】
織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された帽体であって、
前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、
該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、
該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である帽体。
【請求項6】
前記織物を構成する前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なる糸が用いられている請求項5記載の帽体。
【請求項1】
織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された球技用打具であって、
前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、
該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、
該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である球技用打具。
【請求項2】
前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なっている請求項1記載の球技用打具。
【請求項3】
中空棒状のシャフト部を有し、
該シャフト部のうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されている請求項1または2に記載の球技用打具。
【請求項4】
中空のゴルフクラブヘッドを有し、
該ゴルフクラブヘッドのうちの少なくとも一部が、前記繊維強化構造体によって構成されている請求項1から3のいずれかに記載の球技用打具。
【請求項5】
織物に樹脂や軽金属を含浸させて成形した繊維強化構造体によって曲面部分が構成された帽体であって、
前記織物が、それぞれ複数の緯糸によって構成される複数層の緯糸層と、
該緯糸層のそれぞれの前記緯糸を織り込む複数の経糸とを有し、
該経糸の一部が、前記緯糸層を構成する一部の前記緯糸の代わりに他の緯糸層の緯糸を織り込んでいる低接結織物である帽体。
【請求項6】
前記織物を構成する前記緯糸と前記経糸とのうちの少なくともいずれか一方が、一部の糸について他の糸とは色と質感とのうち少なくともいずれか一方が異なる糸が用いられている請求項5記載の帽体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−320529(P2006−320529A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146481(P2005−146481)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(302019599)ミズノ テクニクス株式会社 (47)
【出願人】(591191240)綾羽株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(302019599)ミズノ テクニクス株式会社 (47)
【出願人】(591191240)綾羽株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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