説明

環境測定装置、環境測定データ集計装置およびコンピュータプログラム

【課題】 測定時のヒューマンエラーを低減させるとともに、安全かつ的確な測定業務を図ることが可能な環境データ記録手段を提供する。
【解決手段】 近接することとなったトランスポンダとの双方向通信によってトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するID等受信手段と、 受信したIDおよび付帯情報コードに対応する付帯情報を出力するID等出力手段と、 環境データを測定する環境データ測定手段と、 測定した環境データを記録する命令を受け付ける記録命令受付手段と、 前記記録命令受付手段が記録すべき命令を受け付けた場合に前記測定した環境データを前記トランスポンダIDと対応づけて記録する環境データ記録手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の届かない場所において、多数の測定個所における環境データを測定する技術に関する。
【0002】
原子力発電所では、あらかじめ定められた複数の測定ポイントに対して定期的に線量当量率(人間が単位時間当たりに受ける放射線によって現れる影響の度合いを現す単位)の測定が行われている。
その測定ポイントを特定するための技術として、特許文献1に記載されているような技術が提供されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−14826号公報
【0004】
また、人工衛星を用いた位置情報システム(GPS)は、人工衛星からの電波が届かない場所では使えないという欠点がある。
この欠点を補う技術として、特許文献2に記載の技術がある。
【0005】
【特許文献2】特開2000−205888号公報
【0006】
この技術は、複数の建造物に緯度・経度情報を設置するための複数の位置情報表示装置と、位置情報表示装置に記載された緯度・経度情報を読み取る位置情報読み取り装置とを備え、現在位置に最も近い位置情報表示装置から位置情報読み取り装置を用いて緯度・経度情報を読み取ることにより現在位置情報を取得する。また、緯度・経度情報を設置した付近に設置する方位情報表示装置を備え、現在位置に最も近い方位情報表示装置から方位情報を読み取ることにより方位情報を取得する技術である。
【0007】
上記の技術に採用されている「トランスポンダ」とは、受信した電波を周波数変換して増幅し、再び送信するために用いる無線用中継器のことである。データキャリアRFIDタグ、RFタグ、無線タグおよびIDタグとも呼ばれ、商品タグに採用して万引き防止を図る技術としても採用されている。
【0008】
さて、図11は、現状の測定方法の一例を示した図である。図に示すように、図11左側に測定ポイントを示した図面があり、右側に測定した線量当量率を記入するための表がある。測定者は、図11左側の図面を見ながら、電離箱サーベイメータと呼ばれる線量当量率を測定するための測定装置を用いて線量当量率を一つ一つ読みとり、その測定結果を、図11右側にあるメモ表に書き写す。また、記入したメモ表に基づいて、事務所等で専用の記録用紙に書き写すという手順がとられていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、特許文献1,2に記載した技術を組み合わせれば、トランスポンダを用いて測定ポイントを自動認識し、測定結果を自動記録させる技術を提供することが可能であるとも考えられる。
【0010】
しかし、測定ポイントが密接している測定箇所では、測定ポイントではないトランスポンダからの情報を誤って受信してしまうことが懸念される。
これを防止するためには、正しいトランスポンダから位置情報を受信したかどうかを現場にて確認する必要があるが、すべての測定ポイントにおいてこのような確認が必要であるとすると、自動的に位置情報を受信することの利便性が損なわれてしまう。
また、原子力設備における測定では、被爆線量管理や作業安全面から、測定ポイントにおける注意点すべき点があるが、これを覚えておいたり、メモを携帯することは、測定者への負担となる。
【0011】
本発明は上記課題を考慮して提案されたものであり、測定時の測定者の労力を軽減するとともに、効率的な環境データの測定、収集を可能とする。
【0012】
請求項1から請求項4に記載の発明の目的は、測定時の測定者の労力を軽減するとともに、効率的な環境データの測定および収集が可能な環境測定装置を提供することである。
請求項5に記載の発明の目的は、測定時の測定者の労力を軽減するとともに、効率的な環境データの測定および収集が可能な環境測定データ集計装置を提供することである。
請求項6および請求項7に記載の発明の目的は、測定時の測定者の労力を軽減するとともに、効率的な環境データの測定および収集が可能な環境測定装置の制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に説明する請求項に係る発明は、環境測定システムを構成する環境測定装置または環境測定データ集計装置に関する。
すなわち、環境測定システムは環境測定装置および環境測定データ集計装置から構成されている。また、請求項に係る発明は、環境測定データ集計装置からは分離可能な環境測定装置に関する発明と、分離されて環境測定を行ってきた環境測定装置と接続される環境測定データ集計装置に関する発明とがある。
【0014】
(請求項1)
請求項1記載の発明は、個体識別用IDと付帯情報コードが読み取り可能に記憶されたトランスポンダを複数設置した測定領域において、当該トランスポンダを認識した場所の環境データを測定するための測定装置に係る。
すなわち、近接するトランスポンダとの双方向通信によってトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するID等受信手段と、受信したIDおよび付帯情報コードに対応する付帯情報を出力するID等出力手段と、 環境データを測定する環境データ測定手段と、 測定した環境データを記録する命令を受け付ける記録命令受付手段と、 前記記録命令受付手段が記録すべき命令を受け付けた場合に前記測定した環境データを前記トランスポンダIDと対応づけて記録する環境データ記録手段とを備えることを特徴とする環境測定装置に係る。
【0015】
(用語説明)
「付帯情報」とは個々のトランスポンダに付与された環境測定にかかる情報であり、代表的なものに、物理的な距離が近い複数のトランスポンダそれぞれや、設置環境ついて特定条件があるトランスポンダに対しての注意事項がある。
「付帯情報コード」とは付帯情報を識別するために予め割り当てたコードであり、通常は1から数桁の英数字からなる。
【0016】
「トランスポンダ」とは、受信した電波を周波数変換して増幅し、再び送信するために用いる無線用中継器のことであり、データキャリアRFIDタグ、RFタグ、無線タグおよびIDタグとも呼ばれる。トランスポンダには、ラベル型、筒型、コイン型、カード型、箱型およびスティック型などさまざまな形状がある。
「ID等受信手段」とは、代表的には、トランスポンダIDを感知するための通信アンテナなどがある。
【0017】
「ID等出力手段」とは、代表的には液晶などで形成されたモニタの他、LEDなどのランプ類、スピーカなどとの組合せも含む。モニタには、感知したトランスポンダIDの測定情報、他の請求項で特定する注意事項などが表示される。ランプ類は、モニタの役割を補助したり、モニタが目視しにくい場合などを想定した補完機能を備えたりする。
「記録命令受付手段」とは、測定者からの測定命令を受け付けるものであり、例えば、キーボードの所定のキーやボタンなどがこれに相当する
【0018】
「測定手段」とは、環境測定値を測定するための検出部を有するものである。例えば、測定したい環境データが気温であれば温度計であり、放射能であれば放射線検出部である。
「環境データ記録手段」とは、書き換え可能な記憶媒体のことであり、代表的にはフラッシュメモリなどがある。当該環境測定装置から取り外し可能であってもよい、耐久性などの面から内蔵されていることが一般的である。
【0019】
(作用)
測定者が環境測定装置を持って、個体識別用IDと付帯情報コードが読み取り可能に記憶されたトランスポンダを複数設置した測定領域を移動する。この際、測定手段は継続して測定を行っている。
環境測定装置のID等受信手段が、最も近接することとなったトランスポンダを認識しIDおよび付帯情報コードを受信すると、環境測定装置の出力手段にIDおよび付帯情報が出力される。ここで、測定者は付帯情報を確認し、場合によっては測定すべき測定すべきトランスポンダのIDが正しく受信されているかを、目視確認することができる。
その後、測定者が記録命令受付手段へ記録命令を与えると、測定データ記録手段が現在の測定値を測定データとしてIDと対応づけて記録する。
【0020】
環境測定装置が出力する付帯情報としては、コードそのものでもよいし、また、コードに対応する文字情報でもよい。後者の場合には環境測定装置内に付帯情報コードを文字情報と対応づけて記憶する記憶手段を別途備えることとなる。
この付帯情報により、測定者は測定エラーが起こりやすい場所等を予め認識することができ、測定エラーを減少させることができる。
【0021】
(請求項2)
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の環境測定装置を限定したものである。
すなわち、前記測定領域は、建屋内の放射線管理区域とし、前記測定手段が測定する環境測定値は、線量当量率としたことを特徴とする。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載の環境測定装置を限定したものである。
すなわち、トランスポンダに予め記録された付帯情報コードが、近接するトランスポンダとの錯誤に対する注意事項と関連したことを特徴とする。
近接する複数のトランスポンダが存在した場合には、ID入力手段に最も近いトランスポンダとの双方向通信を開始するとは限らない。トランスポンダの個体差、設置された場所の環境などによって電波状態が異なるからである。
【0023】
請求項3の発明は、請求項2に記載の環境測定装置に関して、注意事項の詳細について示している。
近接する複数のトランスポンダが存在する場合には、他のトランスポンダと錯誤しないようにするための注意事項となっている。例えば、近接した位置に埋設された二つのトランスポンダAおよびトランスポンダBがあるとする。距離が近いためトランスポンダAの測定時に、トランスポンダBとの双方向通信が行われてしまう場合があり、そのために間違える可能性がある。このような場合に備えて、トランスポンダAのIDを感知した際には、「これはトランスポンダAですが、間違いないですか?」という注意事項を発することができる。このため、近接して埋設されたトランスポンダの測定時に、注意事項を測定者が確認することでトランスポンダの錯誤を防止する。
【0024】
(請求項4)
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の環境測定装置を限定したものである。
すなわち、所定領域内に予め定められた測定ポイントの測定が完了したか否かの判別をする測定完了判別手段と、その測定完了判別手段の判別から測定が未完了であった場合に、当該未完了の測定ポイントを前記出力手段に表示する未測定ポイント表示手段とを備えたことを特徴とする。
【0025】
(作用)
測定完了判別手段が、所定領域内に予め定められた測定ポイントの測定が完了したか否かの判別をする。その測定完了判別手段の判別から測定が未完了であった場合には、未測定ポイント表示手段が当該未完了の測定ポイントを前記出力手段に表示する。これによって、測定忘れを防止する。
【0026】
(請求項5)
請求項5記載の発明は、個体識別用IDと付帯情報が読み取り可能に記憶されたトランスポンダを複数設置した測定領域において当該トランスポンダを認識した場所の環境データを測定する環境測定装置とともに使用される環境測定データ集計装置に係る。
すなわち、前記環境測定装置は、 近接するトランスポンダとの双方向通信によってトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するID等受信手段と、 受信したIDおよび付帯情報コードに対応する付帯情報を出力するID等出力手段と、 環境データを測定する環境データ測定手段と、 測定した環境データを記録する命令を受け付ける記録命令受付手段と、 前記記録命令受付手段が記録すべき命令を受け付けた場合に前記測定した環境データを前記トランスポンダIDと対応づけて記録する環境データ記録手段と、記録したID対応環境データを送信する送信手段と、を少なくとも備える。
また、前記環境測定データ集計装置は、 IDに対応づけられた個々のトランスポンダの設置位置に関する情報を予め記憶した位置情報記憶手段と、 前記送信手段に接続可能な受信手段と、 その受信手段を介して受信したID対応環境データを記録するID対応環境データ記録手段とを備えるとともに、 同じIDに対応する環境データと位置情報と関連づけて出力する環境測定データ出力手段とを備えたことを特徴とする環境測定データ集計装置に係る。
【0027】
「ID対応環境データ」とは、トランスポンダのIDとそのIDに対応する環境データがテーブル状に整理されているものであり、環境データ記録手順によって形成される。
【0028】
(請求項6)
請求項6記載の発明は、個体識別用IDと付帯情報コードが読み取り可能に記憶されたトランスポンダを複数設置した測定領域において、当該トランスポンダを認識した場所の環境データを測定する測定装置を制御するためのコンピュータプログラムに係る。
そのコンピュータプログラムは、近接するトランスポンダとの双方向通信によってトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するID等受信手順と、 受信したIDおよび付帯情報コードに対応する付帯情報を出力するID等出力手順と、 環境データを測定する環境データ測定手順と、 測定した環境データを記録する命令を受け付ける記録命令受付手順と、 前記記録命令受付手順において記録すべき命令を受け付けた場合に前記測定した環境データを前記トランスポンダIDと対応づけて記録する環境データ記録手順とを環境測定装置のコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0029】
(請求項7)
請求項7記載の発明は、請求項6記載のコンピュータプログラムを限定したものである。
すなわち、所定領域内に予め定められた測定ポイントの測定が完了したか否かの判別をする測定完了判別手順と、 その測定完了判別手順にて判別した結果が測定が未完了であった場合に、当該未完了の測定ポイントを表示する未測定ポイント表示手順とを備えたことを特徴とする。
【0030】
請求項6および請求項7に記載のコンピュータプログラムを、記録媒体へ記憶させて提供することもできる。
ここで、「記録媒体」とは、それ自身では空間を占有し得ないプログラムを担持することができる媒体であり、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−R、MO(光磁気ディスク)、DVD−Rなどである。
また、この発明に係るプログラムを格納したコンピュータから、通信回線を通じて他の環境測定装置の制御コンピュータへ伝送することも可能である。
【発明の効果】
【0031】
請求項1から請求項4に記載の発明によれば、測定時の測定者の労力を軽減するとともに、効率的な環境データの測定および収集が可能な環境測定装置を提供することができた。
請求項5に記載の発明によれば、測定時の測定者の労力を軽減するとともに、効率的な環境データの測定および収集が可能な環境測定データ集計装置を提供することができた。
請求項6および請求項7に記載の発明によれば、測定時の測定者の労力を軽減するとともに、効率的な環境データの測定および収集が可能な環境測定装置の制御プログラムを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、環境測定システムの全体構成を示す概略図であり、図2は、サーベイメータの内部構成を示したブロック図であり、図3は、サーベイメータの外観形状を概略的に示した図であり、図4は、対応テーブルの説明をした図であり、図5は、トランスポンダの構成を示した概略図であり、図6は、端末装置の構成を示したブロック図であり、図7は、原子力発電所の測定ポイントおよび測定結果表を示した概略図であり、図8は、本システムの処理を示したフローチャートである。
【0033】
(全体構成)
本発明の実施形態に係る環境測定システムは、原子力発電所内(測定領域)の線量当量率(環境データ)を測定可能なサーベイメータ(環境測定装置)10、原子力発電所内の所定箇所に設置された複数のトランスポンダ20、原子力発電所の図面等が記憶され、サーベイメータ10が測定した線量当量率を受信可能な端末装置30(環境測定データ集計手段)から構成されている。
【0034】
(サーベイメータ)
サーベイメータ10は、測定した線量当量率を記憶可能なデータ記憶型サーベイメータとして形成されており、トランスポンダ20を設置した場所付近でトランスポンダ20の個体識別が可能なトランスポンダIDと付帯情報コードを受信する通信アンテナ(ID等受信手段)11と、付帯情報コードに対応する注意事項にかかる文字情報を記録しておく記憶手段16と、通信アンテナ11がトランスポンダIDと付帯情報コードを受信した場合に、IDおよび注意事項にかかる文字情報を出力するモニタ部(ID等出力手段)14と、線量当量率を測定する放射線検出部(環境データ測定手段)15と、測定者からの記録命令を受付ける記録命令受付手段13と、記録命令を受け付けた際に現在の線量当量率測定値とトランスポンダIDとを対応づけて対応テーブル80(ID対応環境データ)に記録する記録手段12とを備えている。
【0035】
また、サーベイメータ10全体の制御を行うCPU17、対応テーブル80を用いて線量当量率などの環境測定データを環境データ記録手段12に書き込む際に、それらのデータを一時的に展開するRAM18、端末装置30と各種データの送受信を可能とする通信部(通信手段)19を備えて構成されている。
【0036】
(図3)
図3は、サーベイメータ10の外観形状の一例を示した図である。サーベイメータ10は、サーベイメータ10の本体部分となる各種回路収納部110、線量当量率を測定するための放射線検出部15、トランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するための通信アンテナ11、電離箱110の側面に設けられ、サーベイメータ10の起動スイッチとなる電源スイッチ111、電源ON後、CPU17を作動させるためのCPUスイッチ112およびトランスポンダ20との通信中において、記録命令を受け付けるためのホールドキー113から構成される。
【0037】
また、モニタ部14の近傍には赤、黄、緑の三種のLEDランプ114が搭載されている。LEDランプ114は、通信アンテナ11がトランスポンダIDと線量当量率を感知する際の各作動状態を示すものであり、赤は、感知したトランスポンダIDを記憶手段16に記録している状態を示し、黄は、感知したトランスポンダ20との通信中の状態を示し、緑は、トランスポンダ20との通信完了状態を示している。なお、LEDランプ114を搭載しているのは、測定ポイントには薄暗いなどモニタ部14が視認しにくい場合があるためである。
【0038】
以下は、サーベイメータ10の仕様一例である。サーベイメータ10は、CPU:32bit、データ記憶容量(ID記憶数):最大500個、重さ:約1.3kg、連続使用時間:4〜6時間となっている。
【0039】
(対応テーブル)
図4は、テーブル記憶手段12に記憶される対応テーブル80の形態を概略的に示した図であり、IDと測定データが一対一対応で記録される。
記憶手段16に予め記憶されている注意事項に係る文字情報とは、近接するトランスポンダ同士を錯誤して測定しないようにするためのものである。例えば、コード001に対応する文字情報として「近接するトランスポンダあり」と記憶することにより、付帯情報コードとして001が受信された場合に、モニタ部に「近接するトランスポンダあり」が表示され、測定者にトランスポンダの目視確認を促すことになる。なお、文字情報としては、前述の「近接するトランスポンダあり」のほか、「段差注意、頭上注意」などの表示ができるように、予め設定しておいても良い。
【0040】
このように、注意事項を記憶手段16に記録しておくことで、通信アンテナ11が測定を所望しない他のトランスポンダIDを受信してしまった場合でも、注意事項に基づいて判断することができるので誤測定の防止に寄与する。これにより、ヒューマンエラーの未然防止に効果的である。
【0041】
(トランスポンダ)
図5は、トランスポンダ20の構成を示した概略図である。トランスポンダ20は、線量当量率を測定するために、原子力発電所内における床、グレーチング、配管、機器表面などの異なる環境条件の測定ポイントに埋設されている。
トランスポンダ20は、通信アンテナ11からの電波を非接触で受信し、その受信した電波を周波数変換して増幅し、再び送信する通信部21と、トランスポンダIDおよび付帯情報コードが記録された記憶部22とから構成された筒型のトランスポンダである。また、トランスポンダ20は、半永久的に使用可能な電源が不要な構造(すなわち電池交換などのメンテナンスが不要)として形成されている。
【0042】
記憶部22に記録されたトランスポンダIDは、各トランスポンダ20を個体識別するために「A-001」,「A-002」, 「A-003」・・・などのように異なるユニークなIDが付与されている。このトランスポンダIDは、図7に示すサーベイ図面の測定ポイントに関連付けられており、トランスポンダID「A-001」は、測定ポイント[001]と、トランスポンダID「A-002」は、測定ポイント[002]・・・にそれぞれ対応している。
【0043】
本実施形態のトランスポンダの形状は、筒型のトランスポンダとしているが、これに限定されることはない。筒型のほか、ラベル型、コイン型、カード型、箱型およびスティック型などとしても良い。また、トランスポンダ20を埋設する場所に応じて、適切な形状のトランスポンダに変更するようにしても良い。
なお、筒型のトランスポンダを床に設置する場合には、筒の直径に応じて筒の軸方向長さに応じた穴を形成し、そこに埋設すると、受信感度が良好である場合が多いことが経験的に把握されている。
【0044】
(端末装置)
図6に示すように、端末装置30は、CPUやメインメモリ等により構成され、各種演算処理を行う演算処理部31、オペレーティングシステム(OS)やアプリケーションソフト、受信したIDに対応した線量当量率(ID対応環境データ)および原子力発電所の図面データ(以下、サーベイ図面と表記する)が記録される記録部32(ID対応環境データ記録手段および位置情報記録手段)、各種データの入出力部である入出力ポート33、マウスやキーボード等の入力手段34、線量当量率や図面データなどを表示させるディスプレイ等の表示手段35、インターネットやイントラネットなどに接続可能であるとともに、サーベイメータ10の通信部19と接続することで、相互にデータの送受信を可能とした通信手段36およびサーベイメータ10が測定した線量当量率などのデータをプリンタ等に出力可能な出力手段37(環境データ出力手段)を備えて構成される。
【0045】
本実施形態では、記録済み対応テーブル81の受信にRS―232C等に代表されるシリアル通信によって行われる。なお、記録部32には、各々のトランスポンダのサーベイ図面上における位置情報がIDを対応付けられて記憶されている。
また、サーベイメータ10の通信部19がインターネット接続機能を備えていれば、インターネットまたはイントラネットを用いてデータの送受信が可能となり、ケーブルレスに対応する。
【0046】
(サーベイ図面)
図7は、端末装置30の記録部32に記録されたサーベイ図面を概略的に示した図であり、図7左側には、原子力発電所の測定場所として「a号機b階」のサーベイ図面を示し、図7右側には、測定年月日、測定者、測定器ナンバー、測定場所および各測定ポイントの線量当量率(測定値)をサーベイメータ10から受信した形態を示した測定結果表である。
図7に示すサーベイ図面は、「a号機b階」のレイアウト構成を示した図面データであり、サーベイ図面内に、測定ポイントである複数のトランスポンダ20の埋設箇所が視認可能となっている。なお、記録部32には、図7に示すような複数の測定場所(○号機○階など)を示したサーベイ図面が記憶されている。
【0047】
測定結果表は、測定年月日として[2005/12/12]、測定者として[○○太郎]、測定器ナンバーとして[CW-120]、測定場所として「a号機b階」が記録されている。これら各データは、サーベイメータ10の測定者により、端末装置30の記録部32に入力手段34による手入力によって入力されたものが反映される。
【0048】
(線量当量率の記録)
図8を参照して、本システムの一連の処理手順について説明する。なお、説明の便宜上から図7に示したサーベイ図面に基づいて説明する。測定者は、サーベイメータ10を用いて「a号機b階」の測定ポイントに設置された各トランスポンダ20を順次感知していき、線量当量率を測定していく。事前準備としては、サーベイメータ10のモニタ部14で対応テーブル80を開き、測定年月日、測定者、測定器ナンバー、測定場所を入力しておく。
【0049】
サーベイメータ10の通信アンテナ11が所定のトランスポンダ20のトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信する(S101)。トランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信すると、IDと付帯情報コードに対応した注意事項をモニタ部14に出力する(S102)。測定者は、受信したトランスポンダIDに対して測定データを記録するか否かを判断する(S103)。測定者が測定データを記録すると判断した場合には、ホールドキー113が押されて、記録指示となる測定指示信号を受信する(S104)。一方、記録しないと判断した場合には、測定キャンセルとなり初期状態に戻る。
【0050】
記録指示信号を受信すると、放射線検出部15の線量当量率は、すでに受信したトランスポンダIDと対応づけて対応テーブル80に記録される(S105)。より具体的に説明すると、テーブル記憶手段12から抽出した対応テーブル80をRAM18に展開し、RAM18上で線量当量率を記録する。記録された対応テーブル80は、記録済み対応テーブル81として、フラッシュメモリなどで形成された記憶手段16に記録される。
【0051】
すなわち、線量当量率をトランスポンダIDに対応させて記録する前に、「注意事項」を表示させ、測定者に記録するか否かの判断をさせている。つまり、サーベイメータ10を用いても測定対象となるトランスポンダの数が多ければ、誤測定を誘発する可能性が高くなる。しかし、「注意事項」で測定者に測定の有無を確認してから測定値の記録を行うため、誤測定防止に寄与する。このため、ヒューマンエラーの発生を低減させることができる。
【0052】
(線量当量率の転送・出力)
また、記憶手段12に記録された記録済み対応テーブル81は、サーベイメータ10の通信部19からRS232Cなどの通信ケーブルを介して端末装置30に接続されて転送される(S106)。端末装置30は、記録済み対応テーブル81を受信すし記録する(S107)。さらに、端末装置30は、予めトランスポンダIDに対応した設置位置情報を記憶しているので、対応テーブルの線量当量率は、IDを媒介として、サーベイ図面上の位置と関連付けて出力される(S108)。出力形態は表形式でもマップ状でも良い。
【0053】
(測定ポイントの判定・抽出)
また、図9に示すように、端末装置30には、前述した測定ポイントの判定および抽出機能を備えている。
端末装置30が記録済み対応テーブル81を受信し、記録済み対応テーブル81の線量当量率を測定結果表に記録すると、測定ポイント判別手段が測定結果表に記録された線量当量率の中から、予め定められた定量値を越えた測定ポイントがあるか否かを判別する(S201)。定量値を越えたと判別された測定ポイントがあった場合、測定ポイント抽出手段が定量値を越えた測定ポイントを抽出する(S202)。ここで抽出された測定ポイントは、出力手段37によって検索、管理および各種媒体に出力可能となっている。
【0054】
(未測定ポイントの検知)
また、サーベイメータ10に未測定ポイントを検知する機能を備えるようにしても良い。
これは、図9に示すように、サーベイメータ10は、測定者から電源ボタンOFFなどによる測定終了通知を受信すると(S201)、測定完了判別手段が、原子力発電所(所定領域内)に予め定められた測定ポイントの測定が完了したか否かの判別をする(S202)。その測定完了判別手段の判別から測定が未完了であった場合に、未測定ポイント表示手段が未完了の測定ポイントをモニタ部14に表示する(S203)。一方、所定の測定ポイントの測定が正常に完了していれば、測定完了通知表示手段が測定完了の旨を表示する(S204)。本形態のようにすれば、測定者の測定忘れに対応することができるため、測定不備等の問題を未然に防止することに寄与する。
また、サーベイメータ10に音声出力機能を搭載するようにすれば、未測定ポイントの通知をアラーム音等で測定者に伝えるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】環境測定システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】サーベイメータの内部構成を示したブロック図である。
【図3】サーベイメータの外観形状を示した概略図である。
【図4】対応テーブルの説明をした図である。
【図5】トランスポンダの構成を示した概略図である。
【図6】端末装置の構成を示したブロック図である。
【図7】測定ポイントおよび測定結果表を示した概略図である。
【図8】本システムの処理を示したフローチャートである。
【図9】本システムの処理を示したフローチャートである。
【図10】サーベイメータの他の形態を示したフローチャートである。
【図11】従来技術の説明をした図である。
【符号の説明】
【0056】
10 サーベイメータ 11 通信アンテナ
12 環境データ記録手段13 記録命令受付手段
14 モニタ部 15 放射線検出部
16 記憶手段 17 CPU
18 RAM 19 通信部
20 トランスポンダ 21 通信部
22 記憶部
30 端末装置 31 演算処理部
32 記録部 33 入出力ポート
34 入力手段 35 表示手段
36 通信手段 37 出力手段
38 測定ポイント判別手段
39 測定ポイント抽出手段
80 対応テーブル
81 記録済み対応テーブル
110 各種回路収納部 111 電源スイッチ
112 CPUスイッチ 113 ホールドキー
114 LEDランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体識別用IDと付帯情報コードが読み取り可能に記憶されたトランスポンダを複数設置した測定領域において、当該トランスポンダを認識した場所の環境データを測定するための測定装置であって、
近接するトランスポンダとの双方向通信によってトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するID等受信手段と、
受信したIDおよび付帯情報コードに対応する付帯情報を出力するID等出力手段と、
環境データを測定する環境データ測定手段と、
測定した環境データを記録する命令を受け付ける記録命令受付手段と、
前記記録命令受付手段が記録すべき命令を受け付けた場合に前記測定した環境データを前記トランスポンダIDと対応づけて記録する環境データ記録手段とを備えることを特徴とする環境測定装置。
【請求項2】
前記測定領域は、建屋内の放射線管理区域とし、
前記測定手段が測定する環境データは線量当量率としたことを特徴とする請求項1に記載の環境測定装置。
【請求項3】
トランスポンダに読み取り可能に記憶された前記付帯情報コードは、近接するトランスポンダとの錯誤に対する注意事項と関連づけられていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の環境測定装置。
【請求項4】
所定領域内に予め定められた測定ポイントの測定が完了したか否かの判別をする測定完了判別手段と、
その測定完了判別手段の判別から測定が未完了であった場合に当該未完了の測定ポイントを前記出力手段に表示する未測定ポイント表示手段とを備えたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の環境測定装置。
【請求項5】
個体識別用IDと付帯情報が読み取り可能に記憶されたトランスポンダを複数設置した測定領域において当該トランスポンダを認識した場所の環境データを測定する環境測定装置とともに使用される環境測定データ集計装置であって、
前記環境測定装置は、 近接するトランスポンダとの双方向通信によってトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するID等受信手段と、 受信したIDおよび付帯情報コードに対応する付帯情報を出力するID等出力手段と、 環境データを測定する環境データ測定手段と、 測定した環境データを記録する命令を受け付ける記録命令受付手段と、 前記記録命令受付手段が記録すべき命令を受け付けた場合に前記測定した環境データを前記トランスポンダIDと対応づけて記録する環境データ記録手段と、 記録したID対応環境データを送信する送信手段とを少なくとも備え、
前記環境測定データ集計装置は、 IDに対応づけられた個々のトランスポンダの設置位置に関する情報を予め記憶した位置情報記憶手段と、 前記送信手段に接続可能な受信手段と、 その受信手段を介して受信したID対応環境データを記録するID対応環境データ記録手段とを備えるとともに、 同じIDに対応する環境データと位置情報と関連づけて出力する環境測定データ出力手段とを備えたことを特徴とする環境測定データ集計装置。
【請求項6】
個体識別用IDと付帯情報コードが読み取り可能に記憶されたトランスポンダを複数設置した測定領域において、当該トランスポンダを認識した場所の環境データを測定する測定装置を制御するためのコンピュータプログラムであって、
近接するトランスポンダとの双方向通信によってトランスポンダIDおよび付帯情報コードを受信するID等受信手順と、
受信したIDおよび付帯情報コードに対応する付帯情報を出力するID等出力手順と、
環境データを測定する環境データ測定手順と、
測定した環境データを記録する命令を受け付ける記録命令受付手順と、
前記記録命令受付手順において記録すべき命令を受け付けた場合に前記測定した環境データを前記トランスポンダIDと対応づけて記録する環境データ記録手順とを環境測定装置のコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項7】
所定領域内に予め定められた測定ポイントの測定が完了したか否かの判別をする測定完了判別手順と、
その測定完了判別手順にて判別した結果が測定が未完了であった場合に、当該未完了の測定ポイントを表示する未測定ポイント表示手順とを備えたことを特徴とする請求項6に記載のコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−250730(P2006−250730A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68164(P2005−68164)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(591031430)株式会社千代田テクノル (22)
【Fターム(参考)】