説明

生体モニタリングシステムとその制御方法及びプログラム

【課題】治療中における脈拍数と血圧値の基準値からの変動の関係を容易に把握する。
【解決手段】生体モニタリングシステムでは、血圧測定器および脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とし、血圧測定器により測定された治療中の血圧値の基準値からの変化率と、脈拍測定器により測定された治療中の脈拍数の基準値からの変化率を算出し、算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を表示装置に対して2次元表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麻酔等を伴う治療を行なう場合に生体をモニタリングする生体モニタリングシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長寿、高齢化による高齢者の増加に伴い高血圧症や虚血性心疾患などの疾患を持つ患者に対して各種の治療が行なわれる場合が増加している。このような患者に対して麻酔を伴う治療や長時間の治療を行なうと不測の事態が起こる可能性が高くなる。
【0003】
そのため、例えば歯科治療において、麻酔を伴う場合、患者の安全性を確保するために患者の生体状態をモニタリングするシステムが開発されている(例えば非特許文献1)。
【0004】
しかし、このような従来のモニタリングシステムでは、患者の脈拍数や血圧値等の生体情報を一定時間間隔で測定して表示するだけのものであった。
【0005】
【非特許文献1】金子譲他1名編集,「計る、観る、読む モニタリングガイド」,医歯薬出版株式会社,2004年10月20日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の生体モニタリングシステムでは、測定された生体情報を測定するだけのものであり、複数の生体情報の関係を把握することが困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、複数の生体情報の関係を容易に把握することが可能な生体モニタリングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[生体モニタリングシステム]
上記目的を達成するために、本発明の生体モニタリングシステムは、生体の血圧値を測定する血圧測定器と、
前記生体の脈拍数を測定する脈拍測定器と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記血圧測定器および前記脈拍測定器により測定された血圧値および脈拍数の変化を表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを有する。
【0009】
また、本発明の生体モニタリングシステムは、血圧測定器により測定された生体の血圧値および脈拍測定器により測定された生体の脈拍数を受け付ける受付手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記受付手段により受け付けた血圧値および脈拍数の変化を表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを有する。
【0010】
本発明によれば、治療中に測定された測定値との変化が表示手段に表示されるため、生体情報の変化の度合いを視覚的に確認することが可能となる。
【0011】
また、本発明の生体モニタリングシステムは、前記制御手段が、
前記血圧測定器および前記脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とする手段と、
前記血圧測定器により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、前記脈拍測定器により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出する手段と、
算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を前記表示手段に対して2次元表示する手段とから構成される。
【0012】
本発明では、治療中の脈拍数の治療前の測定値(基準値)からの変化率と、治療中の血圧値の治療前の測定値(基準値)からの変化率との関係を2次元的に表示するようにしている。そのため、本発明によれば、脈拍数と血圧値の基準値からの変動の関係を容易に把握することができる。
【0013】
好ましくは、痛み検出センサによって検出された生体情報に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する痛み検出装置をさらに有し、
前記制御手段は、前記痛み検出装置により患者が感じている痛みが許容値以上の場合には、前記表示手段に対して患者が痛みを感じている旨を表示する。
【0014】
本発明では、痛み検出装置によって患者が感じている痛みが許容値以上であると判定された場合、表示手段にはその旨が表示される。そのため、本発明によれば、治療を行なっている者が、患者が感じている痛みが許容値以上であることを知ることができ、適切な対処を行なうことが可能となる。
【0015】
また、好ましくは、前記制御手段は、生体情報を測定する旨の指示が入力された場合、前記血圧測定器および前記脈拍測定器に対して血圧値および脈拍数の測定を行うよう指示する。
【0016】
本発明によれば、血圧測定器および脈拍測定器が自動的に行なう測定とは別に、患者が痛みを感じた場合、または治療を行なっている者が測定を必要と感じた場合に血圧値および脈拍数の測定を行うことができる。
【0017】
また、好ましくは、痛み検出センサによって検出された生体情報に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する痛み検出装置をさらに有し、
前記制御手段は、前記痛み検出装置により患者が感じている痛みが許容値以上の場合には、前記表示手段に対して患者が痛みを感じている旨を表示するとともに前記血圧測定器および前記脈拍測定器に対して血圧値および脈拍数の測定を行うよう指示する。
【0018】
本発明によれば、痛み検出装置により患者が感じている痛みが許容値以上であると判定された場合、制御手段は、血圧測定器および脈拍測定器に対して測定を行うよう指示を行うので、患者が痛みを感じた場合の生体情報が自動的に測定することができる。
【0019】
好ましくは、前記痛み検出センサが筋電信号を検出するためのセンサであり、
前記痛み検出装置が、前記痛み検出センサにより検出された筋電信号に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する筋電信号検出装置である。
【0020】
好ましくは、前記痛み検出センサが、生体の特定部位の湿度を測定する湿度センサであり、
前記痛み検出装置が、前記湿度センサにより検出された発汗状態に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する発汗状態測定器である。
【0021】
さらに、好ましくは、前記制御手段は、脈拍数と血圧値との関係における危険領域を前記表示手段に表示する。
【0022】
本発明によれば、表示手段には脈拍数と血圧値との関係における危険領域が表示されるため、治療を行なう者は、生体状態が危険な状態になったことを視覚的に判定することが可能となる。
【0023】
また、好ましくは、前記制御手段は、基準値からの変化率に基づいて、または、予め設定された正常範囲に基づいて前記危険領域を設定するようにしてもよいし、予め設定された正常範囲および基準値からの変化率に基づいて前記危険領域を設定するようにしてもよい。
【0024】
さらに、好ましくは、前記制御手段は、予め入力された患者情報に応じて前記危険領域を自動的に設定する。
【0025】
本発明によれば、患者の既往歴、年齢、性別等の患者情報に応じて危険領域が自動的に設定されるため、各患者の状態に応じた危険領域の設定を容易に行なうことが可能となる。
【0026】
また、好ましくは、前記制御手段は、脈拍数または血圧値が予め設定された正常範囲を超えた場合、前記表示手段に対して治療方法を示唆する表示を行う。
【0027】
[生体モニタリング方法]
本発明の生体モニタリング方法は、血圧測定器および脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とし、
血圧測定器により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、脈拍測定器により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出し、
算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を表示装置に対して2次元表示する。
【0028】
また、本発明の生体モニタリング方法は、血圧測定器および脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とし、
血圧測定器により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、脈拍測定器により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出し、
算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を表示装置に対して2次元表示する。
【0029】
[プログラム]
本発明のプログラムは、血圧測定器および脈拍測定器により生体の血圧値および脈拍数を測定するステップと、
前記血圧測定器および前記脈拍測定器により測定された血圧値および脈拍数の変化を表示装置に対して表示するステップとをコンピュータに実行させる。
【0030】
また、本発明のプログラムは、血圧測定器および脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とするステップと、
血圧測定器により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、脈拍測定器により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出するステップと、
算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を表示装置に対して2次元表示するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明によれば、治療中の脈拍数の治療前の測定値からの変化率と、治療中の血圧値の治療前の測定値からの変化率との関係を2次元的に表示するようにしているので、脈拍数と血圧値の基準値からの変動の関係を容易に把握することができるという効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態の生体モニタリングシステムの構成を示すブロック図である。
【0034】
本実施形態の生体モニタリングシステムは、図1に示されるように、マンシェット(またはカフ)8と、圧力センサ9と、痛み検出センサ10と、生体の血圧値を測定する血圧測定器12と、生体の脈拍数を測定する脈拍測定器13と、痛み検出装置14と、制御装置18と、記憶装置20と、生体情報を表示するための表示装置22とから構成されている。
【0035】
血圧測定器12は、生体の上腕に巻かれたマンシェット8を加圧、減圧して最高血圧(SYS)と最低血圧とを自動的に測定する。脈拍測定器13は、例えば生体の橈骨動脈に当てられた圧力センサ9により脈拍数(PR)を測定する。また、圧力センサ9の代わりにパルスオキシメータを用いても脈拍を測定することができる。
【0036】
制御装置18は、例えばコンピュータからなり、血圧測定器12、脈拍測定器13及び痛み検出装置14で測定された生体情報を処理し、この処理した情報を記憶装置20に記憶し、あるいは表示装置22に表示する。制御装置18は、例えば、2.5分〜5分間隔程度の一定間隔で生体情報を測定して、表示装置22に表示する。
【0037】
痛み検出装置14は、痛み検出センサ10によって検出された生体情報に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する。
【0038】
制御装置18は、血圧測定器12および脈拍測定器13により測定された患者の血圧値および脈拍数を受け付ける受付手段を有し、血圧測定器12および脈拍測定器13により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値として記憶装置20に記憶しておく。そして、制御装置18は、血圧測定器12により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、脈拍測定器13により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出し、算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を表示装置22に対して2次元表示する。
【0039】
また、制御装置18は、痛み検出装置14により患者が感じている痛みが許容値以上の場合には、表示装置22に対して患者が痛みを感じている旨を表示する。
【0040】
さらに、図示されていないが、血圧測定器12および脈拍測定器13により一定間隔で行なわれる生体情報の測定とは別に、強制的に生体情報の測定を行うためのスイッチを設けるようにすることも可能である。そして、このスイッチを治療中の患者に持たせるようにして、患者が痛みが許容値を超えたと感じた場合にスイッチを操作することにより生体情報の測定が行われるようにしてもよい。また、表示装置22に表示された患者が痛みを感じている旨の表示を見て、治療を行なう者(医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士等)がこのスイッチを操作することも可能である。
【0041】
このようなスイッチが操作され生体情報を測定する旨の指示が入力された場合、制御装置18は、血圧測定器12および脈拍測定器13に対して血圧値および脈拍数の測定を行うよう指示する。
【0042】
さらに、制御装置18は、痛み検出装置14により患者が感じている痛みが許容値以上であると判定された場合には、生体情報を測定する旨の指示の入力を待つこと無く、自発的に血圧測定器12および脈拍測定器13に対して血圧値および脈拍数の測定を行うよう指示するようにしてもよい。
【0043】
また、痛み検出装置14は、筋電信号検出器15と、発汗状態測定器16とを有している。
【0044】
筋電信号検出器15は、痛み検出センサ10により検出された筋電信号に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する。発汗状態測定器16は、湿度センサにより検出された発汗状態に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する。
【0045】
筋電信号検出器15により患者の痛みの度合いを検出する場合には、痛み検出センサ10としては、筋電信号を検出するためのセンサが用いられる。また発汗状態測定器16により患者の痛みの度合いを検出する場合には、痛み検出センサ10としては、生体の特定部位の湿度を測定する湿度センサが用いられる。
【0046】
筋電信号を検出するセンサは、緊張や痛みにより筋肉に力が入る部分、例えば、手首の付近やあごの筋肉部分に設定される。ただし、緊張や痛みにより筋肉に力が入る部分であれば、他の部分にセンサを設けて患者の感じている痛みの度合いを検出することが可能である。
【0047】
また、発汗状態を測定するための湿度センサは、例えば、患者が生体情報の測定を指示するためのスイッチの握り部分に取り付けるようなことが考えられる。
【0048】
なお、痛み検出装置14は、筋電信号のみ、または発汗状態のみにより患者の痛みの度合いを検出するようにしても良いし、筋電信号と発汗状態とを組み合わせて患者の痛みの度合いを検出するようにしても良い。
【0049】
なお、表示装置22では、脈拍数の変化率と血圧値の変化率を2次元表示する際に、脈拍数と血圧値との関係におけるイエローゾーン、レッドゾーン等の危険領域を表示する。このような危険領域の表示を行なうことにより、治療を行なう者は、生体状態が危険な状態になったことを視覚的に判定することが可能となる。
【0050】
また、制御装置18は、予め設定された値により危険領域の設定を行なっても良いし、患者の既往歴、年齢、性別等の予め入力された患者情報に応じて危険領域を自動的に設定するようにしてもよい。
【0051】
さらに、制御装置18は、今回測定された測定値を表示装置22に表示させるのではなく、血圧測定器12および脈拍測定器13により前回測定された測定値からの変化を表示装置22上に表示させるようにする。
【0052】
次に、本実施形態の生体モニタリングシステムの動作を図2および図3を参照して詳細に説明する。図2は、本実施形態の生体モニタリングシステムの治療前における動作を示したフローチャートであり、図3は本実施形態の生体モニタリングシステムの治療中における動作を示すフローチャートである。
【0053】
先ず、図2を参照して治療前における本実施形態の生体モニタリングシステムの動作を説明する。
治療が開示される前には、患者の氏名、年齢、ID番号、性別、既往歴(糖尿病、血管障害など)等の患者情報が治療を行なう者により制御装置18に入力される(S101)。
【0054】
そして、深呼吸時の血圧値および脈拍数が血圧測定器12および脈拍測定器13によりそれぞれ測定され、制御装置18は測定された血圧値および脈拍数を、それぞれ血圧値の基準値、脈拍数の基準値として記憶装置20に記憶する(S102)。
【0055】
なお、深呼吸時の血圧値および脈拍数を基準値としているのは、深呼吸時の血圧値および脈拍数を測定することにより平静時の値として安定した値を測定することが可能だからであり、安定した平静時の値を測定することができるのであれば深呼吸時でなくとも良い。
【0056】
そして、制御装置18は、入力された患者情報に基づいてイエローゾーン、レッドゾーン等の危険領域を設定する(S103)。ここで制御装置18は、単に基準値の±20%以上を注意が必要なイエローゾーン、±40%以上を何等かの処理が必要なレッドゾーンのように設定するようにしてもよい。また、+方向、−方向で同じ設定にする必要はなく、深呼吸時の血圧値が高い場合には+方向には少なく、深呼吸時の血圧値が低い場合には、−方向には小さく設定するようにしてもよい。さらに、制御装置18は、年齢、既往歴、深呼吸時の値等に応じて各患者に応じた危険領域の設定を自動的に行なうようにしてもよい。
【0057】
そして、制御装置18は、測定された深呼吸時の測定値、および危険領域の設定値等を記憶装置20に記憶させて治療前の処理を終了する(S104)。
【0058】
次に、図3を参照して治療中における本実施形態の生体モニタリングシステムの動作を説明する。
治療中においては、血圧測定器12および脈拍測定器13により生体の血圧値および脈拍数の測定が行われる(S201)。そして、測定された測定結果は、制御装置18により記憶装置20に格納されるとともに表示装置22に表示される(S202)。
【0059】
そして、測定間隔を設定するためのタイマカウントが行なわれ(S203)、その間に強制測定指示が無く(S204)所定時間が経過すれば(S205)、次の生体状態の測定が行われる(S201)。
【0060】
そして、このような生体情報の測定および表示が行なわれている途中に、痛み検出装置14により患者の痛みが許容値以上であると判定されたり、治療を行なう者または患者が生体情報の測定を指示するスイッチを操作して強制測定指示が行われた場合(S203)、制御装置18は、一定時間の経過を待つことなく血圧測定器12および脈拍測定器13に対して測定指示を行い、生体状態の測定が行われる(S201)。
【0061】
そして、このような測定および表示が繰り返され、無事治療が終了すると(S206)、制御装置18は処理を終了する。
【0062】
次に、本実施形態の生体モニタリングシステムにおける表示装置22の表示の一例を図4に示す。なお、この図4では、血圧値として最高血圧が用いられている。
【0063】
この図4に示した表示例では、血圧値と脈拍数の深呼吸時の基準値に対する変化率が±10%刻みの破線とともに2次元表示されている。そして、±20%以上の範囲がイエローゾーン、±30%以上の範囲がレッドゾーンの危険領域として表示されている。なお、ここでは表示の都合上、±10%刻みの破線を用いて表示を行なっているが、より細かい変動が分かるようにするためには、±5%刻み程度の破線を表示するようにしても良い。
【0064】
さらに、脈拍数をX座標、最高血圧をY座標とした場合の測定値が、円形のアイコンによりプロットされ表示されている。ここで、今回の測定値だけでなく、前回の測定値、前々回の測定値、さらに前回の測定値が共に表示されており、その間の変化量が矢印の長さにより示されている。このように過去の測定値が表示されることにより、治療を行なう者は、患者の生体状態がどのように変化しているのかを容易に把握することが可能となる。
【0065】
さらに、痛み検出装置14が患者の痛みを検出した場合や、患者または治療を行なう者がスイッチを操作することにより最高血圧の測定や脈拍数の測定が行われた場合には、その測定値を通常の定期的な測定における測定値とは異なる形状または色彩のアイコンにより表示装置22上に表示するようにしても良い。
【0066】
また、2次元表示画面中において、脈拍数および最高血圧が共に高い場合には、「緊張・痛み」状態である旨の表示が行われ、脈拍数および脈拍数および最高血圧が共に低い場合には、「リラックス、脳貧血」状態である旨の表示が行われている。また、脈拍数が高く最高血圧が低い場合には、「ショック」状態である旨の表示が行われ、脈拍数が低く最高血圧が高い場合には、「脳血流障害」状態ある旨の表示が行われている。
【0067】
一般的には、脈拍数が高ければ最高血圧も高くなり、脈拍数が低ければ最高血圧も低くなる。そのため、通常は、「緊張・痛み」方向と「リラックス、脳貧血」方向を結んだ直線上を測定値が移動することになる。そのため、この直線上から測定がずれた場合には、患者に「脳血流障害」や「ショック状態」等の重大な障害が発生していることを推測することが可能となる。
【0068】
つまり、脈拍数が基準値よりも低い方向に変動しているのに最高血圧値が基準値よりも高い方向に変動している場合には、脳血流障害が発生している可能性があると判断することができる。
【0069】
また、脈拍数が基準値よりも高い方向に変動しているのに最高血圧値が基準値よりも低い方向に変動している場合には、患者がショック状態に陥っている可能性があると判断することができる。
【0070】
そのため、イエローゾーンやレッドゾーン等の危険領域を、図4に示したような正方形にせずに、「脳血流障害」方向や、「ショック」方向についての変動については少ない変動量でも危険領域に入るような形状にするようにしても良い。つまり、危険領域は正方形とせずに、長方形、楕円形、円形等様々な形状の中から適切なものを選択するようにすればよい。
【0071】
このように、本実施形態の生体モニタリングシステムによれば、単に最高血圧値や脈拍数の数字だけをモニタリングしている場合と比較して、最高血圧値の変化と脈拍数との変化関係を視覚的に把握することができるため、患者の生体状態の把握を容易に行なうことが可能となる。
【0072】
また、この図4に示した表示例では、血圧値および脈拍数とともにRPP(Rate Pressure Product)という値が表示されている。このRPPは、最高血圧と脈拍数との積であり、図4では1000で割った値が表示されている。
【0073】
図4中では、血圧測定器12により測定された最高血圧と、その最高血圧の基準値からの変化率が表示され、脈拍測定器13により測定された脈拍数と、その脈拍数の基準値からの変化率が表示されている。
【0074】
例えば、治療前における最高血圧値と脈拍数の値が、それぞれ122mmHg、脈拍数が89bpmであったとする。そして、治療中のある時点において、血圧測定器12により測定された最高血圧値が136mmHg、脈拍測定器13により測定された脈拍数が82bpmであったとする。
【0075】
すると、血圧変動(変化率)は、下記の式により+11%であると算出される。
136mmHg/122mmHg≒1.114
また、脈拍変動(変化率)は、下記の式により−8%であると算出される。
82bpm/89bpm≒0.9213
【0076】
さらに、基準値に基づくRPPは、122mmHg×89bpm=10858≒10.9×1000となる。
そして、今回の測定時点におけるRPPは、136mmHg×82bpm=11152≒11.2×1000となる。
そのため、RPPの変動率は、11.2×1000/(10.9×1000)≒1.027となり、+3%であると算出される。
【0077】
このようにして算出された値が表示装置22に表示されるとともに、脈拍数の変化率と最高血圧の変化率との関係が2次元的に表示されるため、本実施形態の生体モニタリングシステムによれば、治療を行なう者は、患者の生体状態を視覚的に容易に把握することが可能となる。
【0078】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態の生体モニタリングシステムについて説明する。
【0079】
上記で説明した第1の実施形態の生体モニタリングシステムでは、制御装置18は、測定結果を表示装置22に表示する際に、深呼吸時の値を基準値として予め設定された変化率以上の領域をイエローゾーン、レッドゾーン等の危険領域として設定していた。例えば、図4では、基準値の±20%以上をイエローゾーン、±30%以上をレッドゾーンとして表示装置22にするようにしている。
【0080】
しかし、深呼吸時の患者の脈拍数または最高血圧が正常値から大きく外れている場合には、この値を基準値としてイエローゾーン、レッドゾーン等の危険領域を設定したのでは患者の状態を適切に判定することができない可能性がある。
【0081】
そのため、本実施形態の生体モニタリングシステムでは、制御装置18は、患者の深呼吸時の脈拍数、最高血圧からの変化率だけで危険領域を設定するのではなく、脈拍数および最高血圧の値が予め設定された正常範囲を超えた領域を危険領域として設定する。
【0082】
例えば、脈拍数の正常範囲を50〜120(bpm)、最高血圧の正常範囲を70〜200(mmHg)とした場合、制御装置18は、脈拍数が50bpm未満または120bpmより大きい領域は強制的にレッドゾーンの危険領域とし、最高血圧が70mmHg未満または200mmHgより大きい領域は強制的にレッドゾーンの危険領域として表示装置22に対して表示する。
【0083】
本実施形態のように危険領域として固定値を用いることにより、患者の深呼吸時の値が最初から正常範囲を超えている場合には、基準値がレッドゾーン等の危険領域に入ってしまう場合も考えられる。
【0084】
例えば、治療前における最高血圧値と脈拍数の値が、それぞれ218mmHg、脈拍数が125bpmであったとする。この場合には、最高血圧値の値である218mmHgが、正常範囲70〜200(mmHg)を越えてしまっている。また、脈拍数の値である125bpmも正常範囲50〜120(bpm)を越えてしまっている。そのため、図5に示されるように、最高血圧値が200mmHgを越える領域および脈拍数が120bpmを越える領域については、治療前の測定値に関係なく強制的にレッドゾーンの危険領域として設定されている。
【0085】
また、例えば、治療前における最高血圧値と脈拍数の値が、それぞれ63mmHg、脈拍数が48bpmであったとする。この場合には、最高血圧値の値である63mmHgは正常範囲70〜200(mmHg)を下回ってしまっている。また、脈拍数の値である48bpmも正常範囲50〜120(bpm)を下回ってしまっている。そのため、図6に示されるように、最高血圧値が70mmHgを下回る領域および脈拍数が50bpmを下回る領域については、治療前の測定値に関係なく強制的にレッドゾーンの危険領域として設定されている。
【0086】
本来であれば、深呼吸時の最高血圧や脈拍数がそもそも正常範囲外の患者に対しては治療を施すべきではない。しかし、上記第1の実施形態の生体モニタリングシステムでは、この値を基準値として危険領域を設定してしまうため、基準値自体が異常値であることに気づき難い。これに対して、本実施形態の生体モニタリングシステムによれば、予め設定された正常範囲と基準値からの変化率に基づいて危険領域を設定するようにしているので、治療を行なう者は、そもそもの基準値が異常であることを容易に気付くことが可能となる。
【0087】
なお、本実施形態では、基準値からの変化率と予め設定された正常範囲とに基づいて危険領域を設定するものとして説明したが、予め設定された正常範囲のみに基づいて危険領域を設定するようにしてもよい。
【0088】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態の生体モニタリングシステムについて説明する。
上記で説明した第1および第2の実施形態の生体モニタリングシステムでは、測定された最高血圧値と脈拍数との関係を表示部22に表示するのみであり、治療を行なう者はこの表示内容を参照して適切な治療方法を選択する必要があった。
【0089】
これに対して、本実施形態の生体モニタリングシステムでは、測定された最高血圧値または脈拍数が正常範囲を超えるような事態が発生した場合には、そのような事態を改善させるための治療方法の示唆を表示する。
【0090】
具体的には、本実施形態における制御部18は、脈拍数または最高血圧値が予め設定された正常範囲を超えた場合、表示部22に対して治療方法を示唆する表示を行う。
【0091】
例えば、図7には最高血圧値が正常範囲を超えた場合の一例が示されている。この例では、最高血圧値が正常範囲を超えたため“体位を座位か半座位にして安静を保ち、酸素吸入をしてください。”という表示が行われている。
【0092】
また、図8には最高血圧値が正常範囲を下回った場合の一例が示されている。この例では、最高血圧値が正常範囲を下回ったため“酸素を投与してください。”という表示が行われている。
【0093】
本実施形態によれば、治療を行なう者は、この表示を参照して治療方法を選択することができるため、適切な治療方法を迅速に患者に施すことが可能となる。
【0094】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の生体モニタリングシステムに対して治療方法を示唆する表示を行う場合を用いて説明しているが、第2の実施形態の生体モニタリングシステムに対して治療方法を示唆する表示を行うようにすることも当然可能である。
【0095】
[変形例]
なお、上記の実施形態では、生体情報として脈拍数を測定するようにしているが、脈拍計の代わりに心拍計を用いて患者の心拍数を測定するようにしてもよい。原則的には、心拍数と脈拍数とは同じ値となるため、脈拍数の代わりに心拍数を用いても同様の効果を得ることが可能である。
【0096】
また、上記の実施形態では、基準値が表示部22の画面上の中心に表示されていたが、治療中の患者の値が中心からずれた場合に集中するような場合には、例えばマウス等のポインティングデバイスにより指示された場合が画面上の中心となるように表示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1の実施形態の生体モニタリングシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の生体モニタリングシステムの治療前における動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態の生体モニタリングシステムの治療中における動作を示すフローチャートである。
【図4】図1中の表示装置22に示される表示の一例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の生体モニタリングシステムにおいて表示装置22に示される表示の一例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の生体モニタリングシステムにおいて表示装置22に示される表示の他の例を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の生体モニタリングシステムにおいて表示装置22に示される表示の一例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態の生体モニタリングシステムにおいて表示装置22に示される表示の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
8 マンシェット
9 圧力センサ
10 痛み検出センサ
12 血圧測定器
13 脈拍測定器
14 痛み検出装置
15 筋電信号検出器
16 発汗状態測定器
18 制御装置
20 記憶装置
22 表示装置
S101〜S104 ステップ
S201〜S206 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の血圧値を測定する血圧測定器と、
前記生体の脈拍数を測定する脈拍測定器と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記血圧測定器および前記脈拍測定器により測定された血圧値および脈拍数の変化を表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を有する生体モニタリングシステム。
【請求項2】
血圧測定器により測定された生体の血圧値および脈拍測定器により測定された生体の脈拍数を受け付ける受付手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記受付手段により受け付けた血圧値および脈拍数の変化を表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を有する生体モニタリングシステム。
【請求項3】
前記制御手段が、
前記血圧測定器および前記脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とする手段と、
前記血圧測定器により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、前記脈拍測定器により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出する手段と、
算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を前記表示手段に対して2次元表示する手段とから構成される請求項1または2記載の生体モニタリングシステム。
【請求項4】
痛み検出センサによって検出された生体情報に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する痛み検出装置をさらに有し、
前記制御手段は、前記痛み検出装置により患者が感じている痛みが許容値以上の場合には、前記表示手段に対して患者が痛みを感じている旨を表示する請求項1から3のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項5】
前記制御手段は、生体情報を測定する旨の指示が入力された場合、前記血圧測定器および前記脈拍測定器に対して血圧値および脈拍数の測定を行うよう指示する請求項1から4のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項6】
痛み検出センサによって検出された生体情報に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する痛み検出装置をさらに有し、
前記制御手段は、前記痛み検出装置により患者が感じている痛みが許容値以上の場合には、前記表示手段に対して患者が痛みを感じている旨を表示するとともに前記血圧測定器および前記脈拍測定器に対して血圧値および脈拍数の測定を行うよう指示する請求項1から5のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項7】
前記痛み検出センサが筋電信号を検出するためのセンサであり、
前記痛み検出装置が、前記痛み検出センサにより検出された筋電信号に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する筋電信号検出装置である請求項4から6のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項8】
前記痛み検出センサが、生体の特定部位の湿度を測定する湿度センサであり、
前記痛み検出装置が、前記湿度センサにより検出された発汗状態に基づいて患者が感じている痛みの度合いを検出する発汗状態測定器である請求項4から6のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項9】
前記制御手段は、脈拍数と血圧値との関係における危険領域を前記表示手段に表示する請求項1から8のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項10】
前記制御手段は、基準値からの変化率に基づいて前記危険領域を設定する請求項9記載の生体モニタリングシステム。
【請求項11】
前記制御手段は、予め設定された正常範囲に基づいて前記危険領域を設定する請求項9記載の生体モニタリングシステム。
【請求項12】
前記制御手段は、予め設定された正常範囲および基準値からの変化率に基づいて前記危険領域を設定する請求項9記載の生体モニタリングシステム。
【請求項13】
前記制御手段は、予め入力された患者情報に応じて前記危険領域を自動的に設定する請求項9から12のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項14】
前記制御手段は、脈拍数または血圧値が予め設定された正常範囲を超えた場合、前記表示手段に対して治療方法を示唆する表示を行う請求項9から13のいずれか1項記載の生体モニタリングシステム。
【請求項15】
血圧測定器および脈拍測定器により生体の血圧値および脈拍数を測定し、
前記血圧測定器および前記脈拍測定器により測定された血圧値および脈拍数の変化を表示装置に対して表示する生体モニタリング方法。
【請求項16】
血圧測定器および脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とし、
血圧測定器により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、脈拍測定器により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出し、
算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を表示装置に対して2次元表示する生体モニタリング方法。
【請求項17】
血圧測定器および脈拍測定器により生体の血圧値および脈拍数を測定するステップと、
前記血圧測定器および前記脈拍測定器により測定された血圧値および脈拍数の変化を表示装置に対して表示するステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項18】
血圧測定器および脈拍測定器により治療開始前の血圧値および脈拍数を測定してそれぞれ基準値とするステップと、
血圧測定器により治療中に測定された血圧値の基準値からの変化率と、脈拍測定器により治療中に測定された脈拍数の基準値からの変化率を算出するステップと、
算出された血圧値の変化率と脈拍数の変化率との関係を表示装置に対して2次元表示するステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−29793(P2008−29793A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231804(P2006−231804)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【特許番号】特許第3948677号(P3948677)
【特許公報発行日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(504254998)株式会社クロスウェル (37)
【Fターム(参考)】