説明

生分解性を有する潤滑油組成物

【課題】 自然環境下において微生物により分解されやすく、低温での潤滑性に優れ、加工後の脱脂が良好である生分解性潤滑油組成物およびその用途の提供。
【解決手段】 潤滑油基油として有機配位子を有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、1〜12個の水酸基を有する開始剤に、炭素数3〜9の環状エステルと、炭素数2〜20のアルキレンオキシドとを共重合したポリエステルエーテルポリ(モノ)オールに、極圧添加剤および固体潤滑剤からなる群から撰ばれる1種以上の添加剤を含有して潤滑油組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然環境下において微生物によって分解され易く、しかも潤滑性に優れ、潤滑油として使用した後に除去が容易な潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロール、工具、および/または金型などを用いて金属材料を所望する形状に変形・加工する方法には、圧延、引抜き、鍛造、せん断、およびプレス成形などの方法が知られており、加工される金属材料の温度の違いにより冷間加工、熱間加工などに大別されている。このような加工方法においては、被加工材と工具・加工機械などとの接触部で摩擦、摩耗、および焼き付きが発生しうるため、それらを防止する目的で被加工材の化成(化学的)潤滑皮膜処理や被加工材への潤滑油の塗布が行われてきた。しかし、加工材の化成潤滑皮膜処理は、被膜の形成工程や除去工程に作業時間およびエネルギーが必要であるために効率的でない。現在では金属材料加工時には、被加工材への潤滑油の塗布が一般に行われている。
【0003】
被加工材への適用の容易さ、潤滑性、コスト等の観点から、潤滑油には、鉱物油、油脂、合成エステルが基油として用いられることが多い。この場合、加工後の被加工材から潤滑油を除去(以下「脱脂」という。)するために、これら基油との相溶性に優れている不燃性のフロンや可燃性炭化水素系溶剤が洗浄剤として使用されていた。
【0004】
しかし、近年、フロンなどのオゾン層破壊物質の全廃およびVOC(揮発性有機化合物)使用量の削減が進められ、上記洗浄剤は水溶性洗浄剤に転換されつつある。しかし、多量の界面活性剤を含む水溶性洗浄剤を用いても、洗浄剤と潤滑油基油との相溶性が充分に良好ではないため脱脂性(すなわち、除去され易さ)が充分とはいえず、水溶性洗浄剤の使用量がきわめて多くなるという問題もある。さらに、近年は環境への負荷を低減するために、潤滑油に生分解性が求められつつある。
【0005】
上記課題のうち、脱脂性を向上させるため、鉱物油、ポリαオレフィンなどにポリスルフィドなどの硫黄系極圧添加剤を加えた基油に対して、オレイン酸メチル、ラウリル酸ブチルなどのモノエステルを添加した金属加工油組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、鉱物油およびポリαオレフィンのいずれも水への親和性が乏しいため、脱脂性が充分とはいえず、しかもモノエステルを用いても加工油組成物の生分解性は不充分であり、これが環境中に漏出した場合は、長期に残留する可能性がある。
【0006】
また、脱脂性を向上させるために、水分散性アクリル系樹脂とシランカップリング剤と固体潤滑剤とを含有する処理剤や、水溶性ポリエーテルポリオールとポリカルボン酸のアルカリ金属塩とを含有する金属加工油が提案されている(例えば、特許文献2および3参照)。これらの固体潤滑剤や水溶性ポリエーテルポリオールは脱脂性には優れているが、これらの組成物に含まれるいずれの成分も生分解性が不充分であるという欠点を有していた。
【0007】
したがって、自然環境中において微生物によって分解性されやすく、しかも潤滑性に優れ、加工後の脱脂が容易な潤滑油組成物が求められている。
【特許文献1】特開平05−009491号公報
【特許文献2】特開2005−076081号公報
【特許文献3】特開2004−018758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水酸基を有する開始剤に環状エステル化合物とアルキレンオキシドとを共重合して得られるポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール(以下、簡単のために、本明細書においては、まとめて「ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール」と記す。)を潤滑油基油の少なくとも一部として含み、低温での流動性に優れ、良好な脱脂性を有し、しかも生分解性に優れた潤滑油組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油と、極圧添加剤および固体潤滑剤からなる群から選択される1種以上とを含有し、さらに前記潤滑油基油が、tert‐ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、1〜12個の水酸基を有する1種以上の開始剤の存在下、炭素数3〜9の1種以上の環状エステルと炭素数2〜20の1種以上のアルキレンオキシドとを共重合して得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを含むことを特徴とするものである。
【0010】
上記潤滑油組成物中に含まれる上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの量は、潤滑油組成物の全質量に対して10質量%以上であることが好ましい。
【0011】
上記潤滑油基油は、上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール以外の潤滑油基油をさらに含むことができる。
【0012】
上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール以外の潤滑油基油を用いる場合は、その潤滑油基油が、ポリエーテルポリオール、植物由来の基油、多価アルコールとカルボン酸とを反応して得られるポリオールエステル油、および脂肪族カルボン酸とモノアルコールとを反応して得られる脂肪族エステルからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の上記潤滑油組成物は、酸化防止剤および防錆剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含有することができる。
【0014】
上記潤滑油組成物は、欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)による分解性試験方法に準拠して測定した生分解率(試験期間28日)が60%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明において用いる上記複合金属シアン化物錯体触媒の有機配位子は、tert−ブチルアルコール単独、またはn−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、およびエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルから選択される少なくとも1種とtert−ブチルアルコールとの組み合わせであることが好ましい。
【0016】
本発明の上記潤滑油組成物は、切削油、研削油、圧延油、絞り加工油、打ち抜き油、引き抜き油、プレス油、鍛造油、摺動面油、作動油、水−グリコール系作動液、電気絶縁油、ガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油、エアーコンプレッサー油、タービン油、ギヤー油、圧縮機油、真空ポンプ油、軸受け油、熱媒体油、ミスト油、冷凍機油、ロックドリル油、ブレーキ油、またはトルクコンバーター油として用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールは、酸価が低く、分子量分布が狭く、しかも低分子量体が極めて少ない。このポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを潤滑油基油として用いた本発明の潤滑油組成物は、流動性に優れ、使用後の脱脂性(特にアルカリ脱脂における脱脂性)が良好であり、さらに生分解性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油および添加剤を含む。上述のとおり、特定の有機配位子を有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下において、1〜12個の水酸基を有する1種以上の開始剤の存在下、1種以上の特定の環状エステルと1種以上の特定のアルキレンオキシドとを共重合させて得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを潤滑油基油の少なくとも一部として用い、さらに極圧添加剤および固体潤滑剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含有させて本発明の潤滑油組成物を調製できる。本潤滑油組成物には、さらに酸化防止剤および防錆剤から選ばれる1種以上の添加剤を所望により添加することもできる。また、潤滑油基油として、上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールとともに、それ以外の潤滑油基油を併用することもできる。以下に本発明の潤滑油組成物を構成する各成分および潤滑油組成物の調製法について説明する。
【0019】
なお、本明細書中に示す水酸基含有開始剤および実施例で製造されたポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、分子量測定用の標準試料として市販されている様々な重合度の単分散ポリスチレン重合体をリファレンスとして用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって求めた、いわゆるポリスチレン換算分子量である。また、開始剤が低分子アルコールなど、同じ分子量の分子のみから構成されている場合は、化学式から求められる分子量を数平均分子量(Mn)とする。本明細書中の水酸基価は、K1557 6.4に準拠して測定した値(単位はmgKOH/g)である。
【0020】
(複合金属シアン化物錯体触媒)
本発明の潤滑油組成物に用いるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの製造においては、開始剤存在下における環状エステル化合物とアルキレンオキシドの共重合(開環重合)反応の触媒として、tert−ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒(以下、単に「DMC(double metal cyanide)触媒」とも記す。)を用いる。
【0021】
上記DMC触媒は、代表的には下記式1で表される。
[M(CN)e(M)h(HO)i(R)・・・式1
式1中、Mは、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、Al(III)、V(V)、Sr(II)、W(IV)、W(VI)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、およびPb(II)から選ばれる金属原子であり、Zn(II)またはFe(II)であることが好ましい。なお金属の原子記号に続くかっこ内のローマ数字は原子価を表し、以下同様である。Mは、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、およびV(V)から選ばれる金属原子であり、Co(III)またはFe(III)であることが好ましい。Xはハロゲン原子である。Rは、tert−ブチルアルコール単独であるか、または、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、およびエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルからなる群から選択される1種以上の化合物とtert−ブチルアルコールとの組み合わせである有機配位子を表す。a、b、c、d、e、f、g、h、iは、金属原子の原子価や有機配位子の配位数などにより変わる正の数である。本発明において特に好ましい有機配位子は、tert−ブチルアルコール単独か、もしくはtert−ブチルアルコールとエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルの組み合わせであり、この有機配位子を有するDMC触媒は、上記特定の水酸基含有開始剤に対する環状エステルとアルキレンオキシドとの共重合反応に特に高い重合活性を示し、しかも共重合によって得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの分子量分布を狭くでき、しかも低い酸価のポリエステルエーテルポリ(モノ)オールが得られる。
【0022】
DMC触媒の製造方法は任意の方法を用いることができ、特に限定されない。有機配位子を有するDMC触媒の製造方法としては、例えば、特開2003−117403号公報に記載されている方法を用いることができる。例えば、(i)ハロゲン化金属塩と、シアノメタレート酸および/またはアルカリ金属シアノメタレートとを水溶液中で反応させて得られる反応生成物に有機配位子を配位させ、ついで、生成した固体成分を分離し、分離した固体成分をさらに有機配位子水溶液で洗浄する方法、または(ii)有機配位子水溶液中でハロゲン化金属塩と、シアノメタレート酸および/またはアルカリ金属シアノメタレートとを反応させ、得られる反応生成物(固体成分)を分離し、その分離した固体成分をさらに有機配位子水溶液で洗浄する方法が挙げられる。さらに上記方法によって得られるケーキ(固体成分)をろ過分離し、さらに乾燥させる方法を挙げることができる。
【0023】
DMC触媒を製造する場合に用いる上記アルカリ金属シアノメタレートのシアノメタレートを構成する金属は、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、およびV(V)から選ばれる1種以上の金属であることが好ましく、Co(III)またはFe(III)であることがさらに好ましく、Co(III)であることが特に好ましい。本発明のDMC触媒の製造原料として用いるシアノメタレート酸およびアルカリ金属シアノメタレートとしては、H[Co(CN)]、Na[Co(CN)]、およびK[Co(CN)]が好ましく、Na[Co(CN)]、およびK[Co(CN)]が最も好ましい。
【0024】
さらに上記DMC触媒の製造方法において、ケーキをろ過分離する前の段階で、有機配位子水溶液に固体成分を分散させた液にポリエーテルポリオールおよび/またはポリエーテルモノオールを混合し、得られた混合液から水及び過剰な有機配位子を留去することによって、DMC触媒がポリエーテルポリオールおよび/またはポリエーテルモノオール中に分散したスラリー状のDMC触媒混合物(以下、スラリー状DMC触媒とも記す。)を調製することもできる。
【0025】
上記スラリー状DMC触媒を調製するために用いるポリエーテルポリオールおよびポリエーテルモノオールは、アニオン重合触媒やカチオン重合触媒を用い、モノアルコールおよび多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上の開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合させて製造することができる。この目的に用いるポリエーテルモノオールやポリエーテルポリオールは、水酸基数が1〜8であり、数平均分子量が300〜5000のものが、DMC触媒の重合活性を高くでき、かつスラリー状DMC触媒の粘度も高くならずに取り扱いやすいことから好ましい。
【0026】
用いるDMC触媒の量は、環状エステル化合物/アルキレンオキシドの開環付加共重合を進行させることができる任意の量でよく、得られるポリエステルエーテル(モノ)ポリオールに対して1〜500ppmが好ましい。通常は、開始剤に環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを反応させた後に、得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オールからDMC触媒を除去する操作を行い、DMC触媒に由来する残存金属量を1〜30ppmとすることが好ましい。1〜20ppmとすることがより好ましく、1〜10ppmとすることが特に好ましい。
【0027】
また、共重合反応に用いるDMC触媒の量が少ないほど、生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールに含まれるDMC触媒の量を少なくでき、それにより、たとえDMC触媒を含んだままのポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを潤滑油組成物の基油として用いた場合でも、潤滑寿命、生分解性および酸化安定性などへ及ぼすDMC触媒の影響を小さくできる。通常は、開始剤に環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを反応させた後に、得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オールからDMC触媒を除去する操作を行う。しかし、使用するDMC触媒の活性が高い場合には、その使用量を少なくできる。使用量を少なくした場合は、最終製品の特性上許容可能であるかぎり、DMC触媒を除去する工程を行わずにポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを潤滑油組成物用基油として用いることができる。そのため、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの生産効率を高めることができる。この場合、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール中に残存するDMC触媒由来の金属量(例えばZnやCoなど)の合計量が1〜30ppm、好ましくは1〜20ppm、さらに好ましくは1〜10ppmとなる量のDMC触媒を用いることが好ましい。ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール中に含まれるDMC触媒由来の金属量が30ppm以下となる量でDMC触媒を使用することにより、重合で得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オールからの残存触媒の除去工程を不要としやすくなる。
【0028】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールからのDMC触媒の除去処理および/またはDMC触媒の失活処理を行うこともできる。その方法としては、たとえば、合成珪酸塩(マグネシウムシリケート、アルミニウムシリケートなど)、イオン交換樹脂、および活性白土などから選択される吸着剤を用いた吸着法や、アミン、アルカリ金属水酸化物、有機酸、または鉱酸による中和法、中和法と吸着法を併用する方法などを用いることができる。
【0029】
(開始剤)
開始剤としては、1〜12個の水酸基を有しかつ数平均分子量(Mn)が、18〜20000である化合物を使用することが好ましい。具体的な化合物としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、2−エチルヘキサノール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデカノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、などの1価アルコール類;水;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの2価アルコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール類;グルコース、ソルビトール、デキストロース、フラクトース、蔗糖、メチルグルコシドなどの糖類またはその誘導体;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ノボラック、レゾール、レゾルシンなどのフェノール化合物、などが挙げられる。これらの開始剤は1種のみ用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0030】
開始剤として用いることのできる化合物には、適切な開始剤にアルキレンオキシドを公知の方法で開環付加または開環付加重合させて得られるポリエーテルポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリエステルポリオール;およびポリオキシテトラメチレングリコール、などから選択される化合物も含まれ、これらの化合物は数平均分子量(Mn)が300〜20000であり、1分子当たりの水酸基数が1〜12個(水酸基数が1の場合はモノオールである)であることが好ましい。
【0031】
開始剤の数平均分子量 (Mn)は、18〜20000であり、好ましくは300〜10000であり、特に好ましくは、600〜5000である。数平均分子量(Mn)が300以上の開始剤を用いることにより、DMC触媒存在下における環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの開環重合反応が開始するまでの時間を短くできる。一方、数平均分子量(Mn)が20000以下の開始剤を用いることにより、開始剤の粘度が高すぎることなく、開始剤に環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを均一に共重合することができる。
【0032】
開始剤の好ましい水酸基数は1〜12であり、1〜8がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜2が最も好ましい。水酸基数が12以下の開始剤を用いることにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの分子量分布を狭くすることがより容易になる。ポリエステルエーテル(モノ)オールの水酸基数をより少なくすることにより金属への腐食作用を抑制できる。開始剤として2種以上の化合物の混合物を用いる場合は、その1分子当たりの平均水酸基数が1〜12であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜2が最も好ましい。なお、本発明に用いるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの水酸基数とは、それを製造するときに使用した開始剤の水酸基数をいう。
【0033】
開始剤としてポリエーテルポリ(モノ)オールを用いる場合、その分子量分布(Mw/Mn)は3.0以下であることが好ましい。最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの全質量に占める開始剤部分の割合は、5〜80質量%であるのが一般的であるが、開始剤部分の質量がポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの質量の50%以上を占めるように重合反応を行う場合には、開始剤として分子量分布(Mw/Mn)が3.0以下のポリエーテルポリ(モノ)オールを用いることによって、最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの分子量分布(Mw/Mn)を1.4以下にすることが容易になる。それにより、得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの粘度を低くすることができ、潤滑油基油として用いるために好ましい粘度にできる。
【0034】
(環状エステル化合物)
本発明において用いる環状エステル化合物は、炭素数3〜9の環状エステル化合物、いわゆるラクトン、である。具体的な環状エステル化合物としては、例えば、β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、メチル-ε-カプロラクトン、α-メチル-β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、メトキシ-ε-カプロラクトン、およびエトキシ-ε-カプロラクトンを挙げることができ、特にε-カプロラクトンが好ましい。これらの環状エステル化合物は1種類だけを用いることも、2種類以上を併用することもできる。なお、ブチロラクトンなどの5員環の環状エステル化合物は反応性が低いので、本発明の方法に用いる環状エステルとしてはあまり好ましくない。
【0035】
(アルキレンオキシド)
本発明において用いるアルキレンオキシドは、炭素数2〜20を有するアルキレンオキシドが好ましい。本発明に用いるアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、オキセタン、シクロペンタンオキシド、シクロヘキセンオキシド、炭素数5〜20のα−オレフィンオキシドなどを挙げることができ、これらから選択される1種または2種以上を用いることができる。本発明においては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、およびオキセタンから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。また、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドを少量のテトラヒドロフランとともに用いて重合反応を行うこともできる。
【0036】
(共重合の態様)
上記開始剤およびDMC触媒の存在下、反応容器内に上記アルキレンオキシドの1種以上と、環状エステル化合物の1種以上とを同時に添加して重合を行い、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールのランダム共重合体を得ることができる(ランダム共重合)。また、アルキレンオキシドの1種以上と、環状エステル化合物の1種以上とを順次添加してポリエーテルエステルポリ(モノ)オールのブロック共重合体を得ることもできる(ブロック共重合)。さらには、環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの添加順序及び添加量などを調節することより、分子内の一部に環状エステルに由来するポリエステル鎖部分および/またはポリオキシアルキレン鎖部分を導入して、ランダム共重合部位とブロック共重合部位が同一分子中に存在するポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを得ることができる(ランダム・ブロック共重合体)。本発明においては低粘度化でき、生分解性や耐熱性を向上できるため、ランダム共重合、ランダム・ブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0037】
上記共重合に用いる環状エステル化合物とアルキレンオキシドとの合計質量(重合モノマーの合計質量)に占める環状エステル化合物の割合は、5〜90質量%が好ましく、5〜70質量%が特に好ましい。重合させるモノマーの合計量に占める環状エステル化合物の割合を5質量%以上にすることにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを基油として含む潤滑油組成物の耐熱性、潤滑性、および生分解性などを高めることができ、一方環状エステル化合物の割合を90質量%以下にすることにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの分子量分布(Mw/Mn)を1.4以下にし、低粘度化することができる。
【0038】
(重合方法及び重合条件)
上記開始剤およびDMC触媒の存在下に、環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを共重合させる反応は、一般に、耐圧反応容器を用い、容器中に開始剤とDMC触媒を入れ、所定の反応温度に加熱した後、環状エステル化合物とアルキレンオキシドを同時に、または順次に、あるいは両者を組み合わせて反応容器内に導入し、加熱撹拌下で共重合させて行う。環状エステル化合物とアルキレンオキシドの反応容器内への添加は、連続して行うことも、所定量を順次添加することもできる。
【0039】
環状エステル化合物とアルキレンオキシドの反応容器内への添加方法としては、反応混合物液相部への直接添加もしくは反応容器内気相への添加、または両者の併用、をあげることができる。環状エステル化合物とアルキレンオキシドは個別に、または、混合物として反応容器内に添加することができる。
【0040】
共重合反応温度は、125〜180℃の範囲であり、125〜160℃の範囲がさらに好ましい。重合温度を125℃以上にすることにより、アルキレンオキシドとともに環状エステル化合物を充分速い速度で反応させることができ、それにより最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール中に含まれる未反応の環状エステル化合物の量を低くでき、しかも目的としたモノマー組成を有するポリエステルポリ(モノ)オールを得ることができる。一方、重合温度を180℃以下にすることにより、DMC触媒の活性を高く保つことができ、未反応のアルキレンオキシドや環状エステル化合物の発生を防止でき、しかもポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの分子量分布を狭くすることができる。
【0041】
上記共重合反応においては、重合反応に悪影響を及ぼさない溶媒を用いることができる。しかし、溶媒の使用は任意であり、反応溶媒を用いないことが好ましい。反応溶媒を用いないことにより、最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールからの溶媒除去工程も不要となり生産性を高めることができる。また、溶媒に含まれる水分や酸化防止剤の影響によってDMC触媒の重合活性が低下する場合があり、溶媒を用いないことによって、そのような不都合の発生を防止できる。
【0042】
上記共重合反応においては、反応混合物の撹拌条件に制約はないが、反応混合物の良好な撹拌条件下で重合反応を行うことが好ましい。反応容器内を均一に混合できること、撹拌できる粘度範囲が広いこと、および気液界面から液相へのガス吸収性能が高いことから、大型翼が好ましい。具体的な好ましい撹拌翼としては、神鋼パンテック株式会社製フルゾーン(登録商標)翼、住友重機械工業株式会社製マックスブレンド(登録商標)翼などを挙げることができる。
【0043】
具体的な環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの反応器への供給速度としては、最終生成物として予定しているポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの全質量に対して0.01〜70質量%/hrの範囲の速度が好ましい。なお、環状エステル化合物とアルキレンオキシドの供給速度は同一でも、異なっていてもよい。また、重合反応途中で、環状エステル化合物および/またはアルキレンオキシドの反応容器への供給速度を変えることもできる。
【0044】
上記共重合反応はバッチ法で行うことも、また、連続法で行うこともできる。
【0045】
本発明の潤滑油の基油に用いるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの分子量分布(Mw/Mn)は、1.02〜1.4が好ましい。分子量分布を1.4以下にすることにより、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの粘度を低くでき、潤滑油基油として好ましい。さらに、本発明に用いるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの数平均分子量(Mn)は200〜100000にすることが好ましく、500〜20000にすることが特に好ましい。上記数平均分子量(Mn)を200以上にすることによって、重合体に占める環状エステル化合物由来の重合単位数を多くでき、それによってポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの生分解性を高めることができる。また、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの数平均分子量(Mn)を100000以下にすることにより、分子量分布(Mw/Mn)を1.4以下にし、潤滑油基油として好ましい粘度にすることができる。
【0046】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの分子量分布(Mw/Mn)を1.02〜1.4にすることは、上述したtert‐ブタノールを少なくとも有機配位子の一部として有するDMC触媒を上記共重合反応触媒として用いること、ならびに環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの供給速度、重合反応温度の調節、および撹拌条件を適切に選択することにより、きわめて容易に行うことができる。また、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの数平均分子量(Mn)を上記好ましい範囲に調節することは、用いる開始剤のモル数に対して、共重合させる環状エステル化合物およびアルキレンオキシドのモル数を調節することにより行うことができる。
【0047】
本発明の潤滑油基油として用いる場合、上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの流動点を30℃以下にすることが好ましい。流動点とは、JIS K2269に規定されている、所定の試験方法において液体が流動可能な最低温度であって、流動点が低いものほど低温での流動性に優れる。
【0048】
流動点が30℃以下のポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを基油として用いることにより、通常の使用温度条件下で液状を保ち、かつ比較的低温においても流動性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの流動点は、上述した共重合に用いる開始剤の化学構造、ならびに用いる環状エステルおよびアルキレンオキシドの種類および使用量を適宜調節することにより、変えることができる。一般的に、共重合に用いるモノマーに占める環状エステルの割合を低くして、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールに含まれるエステル結合の量を少なくすることにより、流動点を下げることができる。
【0049】
本発明の潤滑油組成物の基油として用いるポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを製造する場合、粘度、流動点、および生分解性などの特性が所望の値となるように、上述した開始剤、環状エステル、およびアルキレンオキシドの種類および使用量を調節して共重合反応を行う。潤滑油基油として用いる場合、JIS K2283動粘度試験法に準拠して測定したポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの40℃での動粘度を5〜1000mm/sの範囲にすることが一般的である。
【0050】
本発明においては、欧州規格諮問委員会が定義しているCEC規格のL−33−A−93(1993年)による分解性試験方法に準拠して測定される生分解率が28日の試験期間で60%以上のポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを、本発明の潤滑油組成物の基油として用いることが好ましい。優れた生分解性を有する基油を用いることにより、環境を汚染するおそれの少ない潤滑油組成物を得ることができる。
【0051】
(潤滑油組成物)
本発明の潤滑油組成物は、基油、ならびに極圧添加剤および固体潤滑剤からなる群から選択される1種以上を必須成分として含み、さらに任意にその他の添加剤を含有することができる。本発明においては、潤滑油組成物に含まれる基油が上述したポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを含み、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール、ひいてはそれを含む潤滑油組成物が生分解性を有することを特徴とする。本発明の潤滑油組成物を構成する各成分についてさらに説明する。
【0052】
本発明の潤滑油組成物中には、上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを潤滑油組成物全体に対して10質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。潤滑油組成物中のポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの含有量を10質量%以上にすることにより、潤滑油組成物全体としての生分解性を高め、潤滑性に優れた組成物を得ることができる。
【0053】
本発明の潤滑油組成物に用いる基油には、上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールとともに、公知のその他の潤滑油基油を併用してもよい。併用できるその他の潤滑油基油の種類は特に制限をうけず、潤滑油組成物の使用目的や使用条件などに応じて、鉱物油、合成油、および植物油などの中から適宜選択して用いることができる。
【0054】
鉱物油としては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油もしくはナフテン基系原油等の原油を常圧蒸留するかもしくは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、又はこれらを常法に従って精製することによって得られる精製油が挙げられる、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などが挙げられる。
【0055】
合成油としては、例えば、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、炭素数8〜14のα−オレフィンオリゴマー及びこれらの水素化物、さらにはポリオールエステル(トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなど)や二塩基酸エステル、芳香族ポリカルボン酸エステル、リン酸エステルなどのエステル系化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキルアリール系化合物、ポリエーテルポリオール、シリコーン油などが挙げられる。
【0056】
植物油としては大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、とうもろこし油、メドウフォーム油、菜種油、ヒマシ油、米ぬか油、オリーブ油、ホホバ油などの植物油または遺伝学的に変性した植物油などが挙げられる。
【0057】
特に、上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールと併用する潤滑油基油としては、比較的優れた生分解性を有するポリエーテルポリオール、植物油、多価アルコールとカルボン酸との反応で得られるポリオールエステル油、および脂肪族カルボン酸とモノアルコールとの反応で得られる脂肪族エステルを混合した基油からなる群から選択される化合物が好ましい。ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール以外の基油を用いる場合の使用量は、潤滑油組成物として目標とする生分解率、潤滑性、および脱脂性を保つことができる範囲で定めることが好ましい。
【0058】
(極圧添加剤)
本発明の潤滑油組成物に用いる極圧添加剤としては、公知の極圧添加剤が使用できる。具体的には、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル、および塩素化脂肪酸等の塩素系化合物;硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、硫化動物油、硫化植物油、ジベンジルジサルファイド、合成ポリサルファイド、アルキルチオプロピオン酸のアミン塩またはアルカリ金属塩、およびアルキルチオグリコール酸のアミン塩またはアルカリ金属塩等のイオウ系化合物;リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、ならびに塩素化リン酸エステルおよび亜リン酸エステル等のリン系化合物が極圧添加剤として挙げられる。これらのリン化合物は、リン酸もしくは亜リン酸と、アルコールもしくはポリエーテル型アルコールとのエステル、またはその誘導体、たとえば塩素化リン酸エステルなどである。
【0059】
リン酸エステルの具体例としては、例えば、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、1価アルコールや2価以上の多価アルコールのリン酸エステル、ポリエーテルポリオールのリン酸エステル、およびポリエステルポリオールのリン酸エステルなどが挙げられる。
【0060】
酸性リン酸エステルの具体例としては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、およびジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0061】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、上記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、およびトリオクチルアミンなどのアミンとの塩が挙げられる。
【0062】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、およびポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェートなどが挙げられる。
【0063】
亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、およびトリクレジルホスファイトなどが挙げられる。
【0064】
本発明で用いることができるその他の極圧添加剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物またはジアリルジチオリン酸亜鉛化合物、有機モリブデン化合物、ナフテン酸鉛等の金属石鹸、有機ホウ酸エステルおよびその金属塩やアミン塩、有機ホスホン酸およびその金属塩やアミン塩が挙げられる。
【0065】
上記極圧添加剤は、本発明の潤滑油組成物中に1種または2種以上添加でき、2種以上添加する場合に用いる極圧添加剤の組み合わせは、得られる潤滑油組成物が所望する特性を有することができるように、任意に組み合わせることができる。潤滑油組成物への極圧添加剤の添加量も、潤滑油組成物が所望する特性を有するように任意に定めることができる。極圧添加剤は、潤滑油組成物全体の0.01〜50質量%用いることが一般的であるが、本発明はこれに限定されない。
【0066】
(固体潤滑剤)
固体潤滑剤とは、金属同士の接触面に介在することにより、直接接触に伴う金属間の焼き付き現象を抑制する、粉体状の、または分散媒に分散されたスラリー状の有機化合物および無機化合物をいう。
本発明に用いる固体潤滑剤としては、公知の有機系および/または無機系の固体潤滑剤が使用できる。有機系の固体潤滑剤としては高分子または低分子化合物の粉末を挙げることができ、具体的には、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィンワックス(例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリブテンワックスなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルカルボン酸など)、有機カルボン酸エステル、脂肪酸アミド、メラミンシアヌレート、フェナントレン、および銅フタロシアニンなどの粉末を挙げることができる。
【0067】
無機系の固体潤滑剤としては、軟質金属粉末(例えば、金、ビスマス、青銅、黄銅、鉄、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉛、錫、タリウム、トリウム、第VIII族貴金属の粉末)、黒鉛、硫黄、カーボンブラック、窒化ホウ素、タルク、マイカ、ベントナイト、金属硫化物(例えば、硫化亜鉛、硫化アンチモン、二硫化モリブデン、二硫化タングステン)、金属ヨウ化物(例えば、ヨウ化鉛)、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、ビスマス化合物、塩化コバルト、酸化アンチモン、セレン化ニオブ、硫酸銀、ホウ砂、塩基性白鉛、炭酸鉛、酸化亜鉛などの粉末が挙げられる。
【0068】
本発明に用いる固体潤滑剤の粉末の平均粒径は0.5〜500μmが好ましく、0.5〜100μmがさらに好ましい。固体潤滑剤の平均粒径を0.5μm以上にすることにより、金属間の直接接触を防止する効果を大きくでき、500μm以下にすることにより潤滑油中で固体潤滑剤の沈降を防止しやすく、潤滑面へ入り込みやすくなり、潤滑効果を高くできる。
【0069】
上記固体潤滑剤を潤滑油基油中へ均一に分散させる方法については、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、機械的なせん断を加えるビーズミル、ボールミル、ロールーミル、コロイドミル、ラインミキサーなどによる混錬;固体潤滑剤を真空下に置いて、液状の基油を加える方法、即ち真空注入法;固体潤滑剤を基油中に一度溶解させた後、温度変化や析出に寄与する添加剤により均一析出させる方法;固体潤滑剤を低沸点溶媒や水に一旦均一に分散し、その後基油に加えた後、低沸点溶剤や水を揮発させる方法;および、これらを組み合わせた方法、などが挙げられる。
本発明において、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールへ添加するこれら固体潤滑剤の種類、その組合せ、添加量および添加方法は、用途により適宜調整することができ、限定されない。
【0070】
上記固体潤滑剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の潤滑油組成物に添加する場合、固体潤滑剤の量は、潤滑油組成物に対して0.1〜30質量%であることが好ましい。
【0071】
本発明においては上記極圧添加剤および固体潤滑剤のいずれか一方のみを用いることも、両者を併用することもできる。
【0072】
(その他の添加剤)
本発明の潤滑油組成物には上記の極圧添加剤および固体潤滑剤以外に、潤滑油組成物に用いられる公知の添加剤を任意に添加することができる。具体的な添加剤としては、ノニオン系、アニオン系、およびカチオン系界面活性剤;アミン系、フェノール系、イオウ系、およびジチオリン酸亜鉛などの酸化防止剤;石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、ソルビタンエステル、アルカノールアミン、アルキルアミン、および脂肪酸アミン塩などのさび止め剤;ベンゾトリアゾールおよびベンゾチアジアゾールなどの金属腐食防止剤;ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤;ポリオルガノシロキサンなどの消泡剤、が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせて本発明の潤滑油組成物に添加できる。
【0073】
極圧添加剤および固体潤滑剤以外の上記添加剤の潤滑油組成物への添加量は、潤滑油組成物全体の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。添加剤の量を50質量%以下にすることにより、生分解性を大きく低下させることなく潤滑性が良好な潤滑油組成物が得られ、また、添加剤による効果も50質量%以下の添加量で充分に発揮されうる。
【0074】
本発明の潤滑油組成物には、所望により水を添加することもできる。潤滑油組成物に水を添加する場合、水は潤滑油組成物全体の5〜90重量%が好ましい。潤滑油組成物への水への添加時期および添加形態は特に制限がなく、使用前に潤滑油組成物にあらかじめ水を添加することも、水を添加しながら潤滑油組成物を使用することもできる。
【0075】
(生分解性)
本発明の潤滑油組成物は、上述したポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを含むことにより優れた生分解性を有することができる。潤滑油組成物の生分解性は、欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)のBiodegradability of Two−stroke Cycle Outboard Engine Oils in Water(「水中での2ストロークサイクル船外エンジン用オイルの生分解性試験方法」)に準拠して評価し、生分解率(%)により表わす。自然環境に放出された場合の分解が速いほど環境への負荷が小さくなり、環境保護の観点からは好ましい。したがって、本発明の潤滑油組成物は生分解率(%)が高いほうが好ましく、28日試験後の結果が60%以上の生分解率を有することが好ましい。上述したポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを基油として用いることにより、高い生分解率をもつ潤滑油組成物が得られ、さらにポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの生分解率は、製造時に用いる開始剤、環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの種類および量によって調節することができ、一般に、環状エステル化合物由来の単位を多く含むほど、生分解率も高くできる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油全体として、CEC規格のL−33−A−93(1993年)による分解性試験方法に準拠して測定した生分解率が、試験期間28日で60%以上になるように、優れた生分解率の上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを基油として用いるとともに、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール以外の原料、例えば、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール以外の基油、極圧添加剤、固体潤滑剤、およびその他の上述した各種添加剤の種類及び添加量を調節することが好ましい。これは、上記生分解性試験方法は、試験前後における試料中のCH−CH結合量変化から生分解率を求めるものであるが、用いる添加剤の種類及び使用量によっては、CH−CH結合を含む基油成分の生分解性に影響を及ぼす場合があるからである。
【0077】
〔実施例〕
以下に本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。潤滑油組成物の基油として使用したポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(A〜D)の製造に用いた開始剤、環状エステル化合物、およびアルキレンオキシドの種類および量、ならびに生成物の性状と、その他の油(E〜G)の性状を表1に示した。また、これらの油を基油として用いて調製した潤滑油組成物の組成および特性を表2に示した。表2の基油、極圧添加剤、固体潤滑剤、および添加剤の欄の数値は、質量部を示す。
【0078】
(潤滑油組成物の評価)
調製した潤滑油組成物の各種特性を以下の方法に従って評価した。
【0079】
(生分解率の測定)
潤滑油組成物の生分解率(%)は、欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)のBiodegradability of Two−stroke Cycle Outboard Engine Oils in Water(水中での2ストロークサイクル船外エンジン用オイルの生分解性試験方法)に準じて測定した。
すなわち2本の500mlの三角フラスコ中に、それぞれ同じ潤滑油組成物サンプル7.5μlと、栄養液150mlとを入れる。一方のフラスコには、微生物液として都市下水処理用の活性汚泥1mlを加え(活性汚泥処理サンプル)、他方のフラスコには上記活性汚泥1mlを加えない(対照サンプル)。活性汚泥処理サンプル1つと対照サンプル1つを1組とし、これを2組準備する。1組は初期油量測定用サンプルとする。他方の1組の2つのフラスコの口をフィルタでふさいだ状態で、両フラスコを25℃で14日間、振とう培養法で好気培養する。初期油量測定用サンプルおよび培養試験後のサンプルから油を25mlの有機溶媒で抽出し、赤外線分光光度計を用いて測定したCH3−CH2 結合の量からフラスコ中の油量を求め、下記式により生分解率(%)を計算した。28日間振とう培養した後の生分解率(%)も同様に測定した。
生分解率(%)=
{(活性汚泥処理サンプル初期油量−活性汚泥処理サンプル培養後油量)
−(対照サンプル初期油量−対照サンプル培養後油量)}÷(活性汚泥処理サンプル初期油量)×100
【0080】
(摩擦係数)
潤滑油組成物の摩擦係数は、1mm×20mm×300mmのSPCC鋼板に、潤滑油組成物を約5g/mになるように塗布し、SUJ−2、3/16インチの鋼球を有するバウデン試験機を使用して、荷重5kgf、速度20mm/min、摺動距離30mmで摩擦試験を行って測定した。摩擦係数は、摺動時における1分間の平均値として求めた。
【0081】
(円筒深絞り試験)
潤滑油組成物の潤滑性を評価するために円筒深絞り試験を行った。0.8mm×86〜94mmφのSPCC製の冷延鋼板からなる試験材に、潤滑油組成物を約5g/m2になるように塗布し、40mmφ、R=4.0の硬質クロムメッキ鏡面仕上げのポンチ、42mmφ、R=8.0の硬質クロムメッキ鏡面仕上げの平頭ポンチダイスを有する円筒深絞り試験機により、しわ押さえ荷重1tf、絞り速度240mm/minで円筒深絞り試験を行った。得られた限界絞り比により、良好な順に、限界絞り比2.325以上を◎、2.300〜2.325を○、2.275〜2.300を△、2.275未満を×として、潤滑油組成物の潤滑性を評価した。
【0082】
(防錆性試験)
潤滑油組成物の防錆性試験は以下のように行った。潤滑油組成物をアセトンで希釈して1×50×100mmのSPCC鋼板に浸漬塗布し、塗布量を5±1g/mに調整する。このSPCC鋼板を50℃、相対湿度95%以上の恒温槽内に1週間放置し、目視により、1週間後の錆の発生状態を観察した。鋼板に発生している錆は、その面積を5段階で評価し、鋼板表面全体に占める錆のある部分の面積が10%未満をA、10%以上25%未満をB、25%以上50%未満をC、50%以上をDとランク付けした。
【0083】
(酸化安定性試験)
潤滑油組成物の酸化安定性は、JIS K2514潤滑油−酸化安定度試験方法(150℃、500h、触媒なし)に準じて行った。下記式にもとづいて、粘度比を求めた。
粘度比=試験後動粘度(mm/s(40℃))/ 試験前動粘度(mm/s(40℃))
【0084】
(脱脂性試験)
潤滑油組成物の脱脂性は以下のように測定した。脱脂剤2リットル(水酸化ナトリウム、ケイ酸ソーダを主成分とする市販洗浄剤の2重量%水溶液)を40℃に加熱し、撹拌する。次いで、潤滑油組成物をアセトンで希釈して1×50×100mmのSPCC鋼板に浸漬塗布し、塗布量を5±1g/mに調整する。この試験片を脱脂剤に1分間浸漬洗浄した後、ソックスレー抽出により試験片に残存する潤滑油を採取し、試験片に残存する潤滑油組成物量を求め、下記式により脱脂性を洗浄率(%)として算出した。
洗浄率(%)= ((洗浄前塗布量(g)−洗浄後残存量(g))/初期値)×100
【0085】
(溶解性試験)
潤滑油組成物の水への溶解性(または混合状態)を測定した。イオン交換水に対して1重量%の潤滑油組成物を加え、撹拌後、その外観を目視にて観察した。潤滑油組成物が水へ不溶のものを「不溶」、水中に細かく分散したものを「エマルジョン」として表2に示した。
【0086】
(実施例1)「ε−カプロラクトンとプロピレンオキシドのランダム共重合体Aを用いた潤滑油組成物」
撹拌機付きステンレス製10Lの耐圧反応器内に、開始剤として1000gのポリエチレングリコール(数平均分子量Mn400)と、tert−ブチルアルコールを有機配位子とする亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒(以下DMC触媒)を6100mg(含まれる金属量は25.5mgである)を投入した。反応器を窒素置換後、140℃に昇温し、100gのプロピレンオキシドを反応器内に供給して反応させた。反応器内の圧力が低下した後、1900gのプロピレンオキシドと2000gのε−カプロラクトンをいずれも約250g/hrの速度で同時に反応器内に供給して共重合反応を行った。約8時間10分かけてプロピレンオキシドとε−カプロラクトンの供給を終了し、さらに1時間撹拌を続けた。この反応によって得られたポリエステルエーテルジオール(基油A)の動粘度は386mm/s(40℃)であり、水酸基価は56.00であり、分子量分布Mw/Mnは1.34であり、外観は常温で微白濁液状であった。
【0087】
次いでこの基油A95.5質量部に、ソルビタン脂肪酸エステルのエチレンオキシド5モル付加体のリン酸エステル2質量部と、アルケニルコハク酸アミド2質量部、フェニル−α−ナフチルアミン0.5質量部を加え、加熱し、撹拌することにより潤滑油組成物を得た。
【0088】
この潤滑油組成物の生分解率は56%(14日後)、90%(28日後)、バウデン試験機を用いて測定した摩擦係数は0.12であり、円筒深絞り試験は○、防錆性はA、酸化安定性試験(150℃×500h)による粘度比は1.06、脱脂性(洗浄率)は96%であった。潤滑油組成物の水への溶解状態はエマルションとなった。
【0089】
(実施例2)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体Bを用いた潤滑油組成物」
開始剤として200gのポリエチレングリコール(数平均分子量Mn400)と、DMC触媒を6100mg(含まれる金属量は25.5mgである)を投入した。反応器を窒素置換後、140℃に昇温し、2400gのエチレンオキシドと2400gのε−カプロラクトンをいずれも約240g/hrの速度で同時に反応器内に供給して共重合反応を行った。約10時間かけてエチレンオキシドとε−カプロラクトンの供給を終了し、さらに1時間撹拌を続けた。この反応によって得られたポリエステルエーテルジオール(基油B)は40℃で粘稠状固体あり、水酸基価は11.50、分子量分布Mw/Mnは1.31であった。
【0090】
次いでこの基油B95.5質量部に、実施例1と同様に表2に示した添加剤を加え、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0091】
(実施例3)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのブロック・ランダム共重合体:基油Cを用いた潤滑油組成物」
実施例1と同様の反応器内に、開始剤として1000gのポリエチレングリコール(数平均分子量Mn400)と、DMC触媒を6100mg(金属量としては25.5mgである)を投入した。反応器を窒素置換後、140℃に昇温した。その後、1000gのエチレンオキシドを約125g/hr、2000gのε−カプロラクトンを約250g/hrの速度で反応器内に同時に供給した。反応器内の圧力が低下した後、残りの1000gのエチレンオキシドを約125g/hrで反応器内に供給し、供給終了後さらに1時間撹拌を続けた。この反応によって得られたポリエステルエーテルジオール(基油C)の動粘度は478mm/s(40℃)であり、水酸基価は55.80、分子量分布Mw/Mn1.26、外観は常温で微白濁粘凋液状であった。
【0092】
次いでこの基油C95.5質量部に、実施例1と同様な方法で表2に示した添加剤を加え、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0093】
(実施例4)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのブロック・ランダム共重合体:基油Cを用いた潤滑油組成物」
実施例3で製造した基油C92.5質量部に、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキシド5モル付加体のリン酸エステル2質量部に代えて3,3−ジチオジプロピオン酸のジブチルアミン塩5質量部を用いた他、表2に示した添加剤を加えて、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0094】
(実施例5)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体:基油Dを用いた潤滑油組成物」
表1に示したように、実施例2の開始剤をラウリルアルコール1000gに変更し、エチレンオキシドとε−カプロラクトンの添加量をいずれも2000gに変更し、その他は実施例2と同様の方法により、共重合反応を行った。この反応によって得られたポリエステルエーテルモノオール(基油D)の動粘度は71mm/s(40℃)であり、水酸基価は55.90、分子量分布Mw/Mn1.22、外観は常温で微白濁粘凋液状であった。
【0095】
次いでこの基油D95.5質量部に、実施例1と同様な方法で表2に示した添加剤を加え、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0096】
(実施例6)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体:基油Dを用いた潤滑油組成物」
表2に示したとおり、基油D95.5質量部に、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキシド5モル付加体のリン酸エステルの代わりに固体潤滑剤である鱗片状黒鉛(炭素含有量98%)2質量部を用い、その他は実施例5と同様にして添加剤を加え、80℃においてホモミキサーで5000rpmかつ30分間撹拌して潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0097】
(実施例7)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体:基油Dを用いた潤滑油組成物」
表2に示したとおり、基油D93.5質量部に、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキシド5モル付加体のリン酸エステルを2質量部と、鱗片状黒鉛2質量部を加え、アルケニルコハク酸アミド2質量部、フェニル−α−ナフチルアミン0.5質量部を加え、80℃においてホモミキサーで5000rpmかつ30分間撹拌して潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0098】
(実施例8)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体Dに合成エステルを基油として併用した潤滑油組成物」
表2に示したように、基油D33質量部にグリセリンのトリオレート(基油E)62.5質量部(動粘度は56mm/s(40℃)、水酸基価2.6、酸価12)を加えて潤滑油基油とした。この基油に実施例1と同様な方法で表2に示した添加剤を加え、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0099】
(実施例9)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体:基油Aを用いた潤滑油組成物」
基油A97.5質量部に、アルケニルコハク酸アミドを添加しないこと除き、実施例1と同様にして、表2に示した添加剤を加えて潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0100】
(実施例10)「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体:基油Aを用いた潤滑油組成物」
フェニル−α−ナフチルアミンを添加しないこと除き、実施例1と同様にして基油A97.5質量部に表2に示した添加剤を加えて潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0101】
(比較例1)
鉱物油(基油F:パラフィン系鉱物油:動粘度28mm/s(40℃))95.5質量部を用いて、実施例1と同様な方法で表2に示した添加剤を加え、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0102】
(比較例2)
菜種油(基油G:動粘度36mm/s(40℃))95.5質量部を用いて、実施例1と同様な方法で表2に示した添加剤を加え、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0103】
(比較例3)
表2に示したように、菜種油(基油G)93.5質量部に、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキシド5モル付加体のリン酸エステル2質量部、燐片状黒鉛2質量部、アルケニルコハク酸アミド2質量部、およびフェニル−α−ナフチルアミン0.5質量部を加え、80℃においてホモミキサーで5000rpmかつ30分間撹拌し、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0104】
(比較例4)
表2に示したように、鉱物油(基油F)97.5質量部に、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキシド5モル付加体のリン酸エステル2質量部、およびフェニル−α−ナフチルアミン0.5質量部を加え、加熱撹拌後、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0105】
(比較例5)
表2に示したように、鉱物油(基油F)96質量部に、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキシド5モル付加体のリン酸エステル2質量部と、アルケニルコハク酸アミド2質量部を加え、加熱撹拌後、潤滑油組成物を得た。実施例1と同様に性状を測定した結果を表に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
実施例1〜10の本発明の潤滑油組成物は、比較例1〜5の植物油または鉱物油のみを基油して用いた潤滑油組成物に比べて、優れた防錆性、酸化安定性を示す。また、本発明の潤滑油組成物は、水にエマルション化した状態で分散可能である。また、本発明の潤滑油組成物は摩擦係数が0.13以下、かつ脱脂性が92%以上であり、潤滑性と加工後の洗浄率に優れていることを示している。更に本発明の潤滑油組成物は28日後の生分解率も90%以上と優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の潤滑油組成物は、生分解性、脱脂性(特にアルカリ脱脂性)に優れ、工業用潤滑油、工作油、車両用潤滑油、建設機械潤滑油、および船用潤滑油等に用いることができるに好適である。具体的には、金属材料、特に、鉄鋼、鋳鉄、アルミニウム、マグネシウム、合金鋼、ステンレス、銅、および真ちゅうなどの延性材料の加工時に用いる切削油、研削油、打ち抜き油、絞り加工油、プレス油、引き抜き油、圧延油、鍛造油や、金属−金属間の摩擦、摩耗防止を目的とした摺動面油、作動油、水−グリコール系作動液、さらには電気絶縁油、ガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油、タービン油、ギヤー油、エアーコンプレッサー油、圧縮機油、真空ポンプ油、軸受け油、熱媒体油、ミスト油、冷凍機油、ロックドリル油、ブレーキ油、トルクコンバーター油などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、極圧添加剤および固体潤滑剤からなる群から選択される1種以上とを含有し、さらに前記潤滑油基油が、tert‐ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、1〜12個の水酸基を有する1種以上の開始剤の存在下、炭素数3〜9の1種以上の環状エステルと炭素数2〜20の1種以上のアルキレンオキシドとを共重合して得られるポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオールを含むことを特徴とする、生分解性を有する潤滑油組成物。
【請求項2】
前記潤滑油組成物中に含まれる前記ポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオールの量が、潤滑油組成物の全質量に対して10質量%以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記潤滑油基油が前記ポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール以外の潤滑油基油をさらに含む、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記ポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール以外の潤滑油基油が、ポリエーテルポリオール、植物由来の基油、多価アルコールとカルボン酸とを反応して得られるポリオールエステル油、および脂肪族カルボン酸とモノアルコールとを反応して得られる脂肪族エステルからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
酸化防止剤および防錆剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)による分解性試験方法に準拠して測定した生分解率(試験期間28日)が60%以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記複合金属シアン化物錯体触媒の有機配位子がtert−ブチルアルコール単独、またはn−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、およびエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルから選択される少なくとも1種とtert−ブチルアルコールとの組み合わせである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油組成物が、切削油、研削油、圧延油、絞り加工油、打ち抜き油、引き抜き油、プレス油、鍛造油、摺動面油、作動油、水−グリコール系作動液、電気絶縁油、ガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油、エアーコンプレッサー油、タービン油、ギヤー油、圧縮機油、真空ポンプ油、軸受け油、熱媒体油、ミスト油、冷凍機油、ロックドリル油、ブレーキ油、またはトルクコンバーター油である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。


【公開番号】特開2007−77312(P2007−77312A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268212(P2005−268212)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】