説明

生分解性共重合体及びその製造方法

【課題】本発明は、生体軟組織に適合可能な柔軟性を備えた生分解性共重合体及びその製造方法を提供する。また、本発明は、該生分解性共重合体にさらに弾性的な力学的特性(弾性変形)を付与した分解性共重合体架橋物を提供する。さらに、これらの生分解性共重合体及び分解性共重合体架橋物を用いた医療用材料を提供する。
【解決手段】反応性官能基を有する環状デプシペプチドとε−カプロラクトンとを共重合して得られる生分解性共重合体、並びに、該生分解性共重合体を架橋剤で処理して得られる生分解性共重合体架橋物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性に優れ高い柔軟性を有する生分解性共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療技術の革新や多様化に伴って、医療分野における生分解性高分子の重要性はますます高まってきており、分解制御型のドラッグデリバリーデバイスや縫合糸、骨固定材、体内での止血・接着剤、癒着防止膜など、役割を果たした後に生体内で無毒な成分に分解し、代謝・吸収される生体内分解吸収性高分子が望まれる用途が増加している。中でも、近年特に注目を集めているのが組織工学(再生医学)用の材料である。組織工学の一手法であるGTR(guided tissue regeneration)法では、生分解性材料を足場として細胞を培養し、細胞の増殖・組織形成に伴い、足場を提供していた分解性高分子が消失し、正常組織へと置換されることを目指している。(非特許文献1)
【0003】
このように、一口に医療用生分解性高分子材料といってもその用途は多岐にわたっており、それぞれの用途において要求される物性(生分解速度、力学的特性、生体接着性など)は異なっている。例えば、骨などの硬組織の一時的代替品では、骨組織と同等の力学的特性(硬さや粘り強さ)が要求されるのに対し、臓器などの軟組織と接触して使用される材料では、応力を受けたときに臓器を傷つけない柔軟性が要求される。また、癒着防止膜と組織接着剤とでは、細胞接着性における要求はまったく正反対である。さらに、組織工学用材料では対象とする組織によって異なる細胞増殖速度に見合った分解プロファイルを示すことが要求される。
【0004】
さらに、特異的な相互作用による細胞の側からの認識を可能にするためには、細胞親和性リガンドの固定化などの化学修飾が可能であることも重要な要求のひとつである。つまり、生体適合性や安全性に優れるだけでなく、生分解速度や力学的・生化学的特性および化学反応性において、種々異なる要求を満足させる生分解性材料のバリエーションが供給できることが望まれている。
【0005】
一方、これまでに医療用材料としてコラーゲンやゼラチン、フィブリンなど、生体由来の物質が多く使用されてきたが、近年ウシ海綿状脳症(BSE)やクロイツフェルトヤコブ病、エイズや肝炎などの感染症の問題が発生し、天然由来物が必ずしも安全ではないことが明らかとなってきている。医療用材料を提供するメーカーでは、原料によるばらつきがなく品質の管理が容易で、生体由来の危険因子を含まない材料として、合成高分子が理想的であるとする声も高い。これまで医療用材料として最も頻繁に研究・使用されてきた生分解性合成高分子は、ポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリ−D−乳酸(PDLA)、ポリ−DL−乳酸(PDLLA)とその共重合体であるポリ乳酸系高分子である。
【0006】
ポリ乳酸は、その構成成分である乳酸が体内代謝物質であり、安全性に優れ、生体適合性も比較的高く、高結晶性で力学的強度を高く設定できることから、早くから生分解性医用材料としての利用が検討されてきた。最も一般的なポリ乳酸であるPLLAは、L−ラクチドの開環重合あるいはL−乳酸の直接縮合によって合成され、結晶性が高く高強度が得られることから、骨支持プレートや骨固定ねじとして実用化されている。(非特許文献2)しかし、PLLAは高い結晶性を有するがゆえに、使用目的によっては分解速度が遅すぎることや、固く柔軟性に欠けるため軟組織に対する適合性に乏しいといった難点も有している。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1には、約20〜35wt%のε−カプロラクトンと約65〜80 wt%のグリコリドに基づくシーケンスからなり且つ少なくとも30,000 psiの引張強度と350,000 psi未満のヤング率を有するポリマー成型体からなる滅菌した手術用製品、及び該ポリマーの製造方法が開示されている。該特許文献1に開示されたグリコリド−カプロラクトン共重合体及び該共重合体から成型された手術用製品は、優れた柔軟性と機械的強度を有するため、モノフィラメントの形態で手術用縫合糸として利用できる利点がある。しかし、それらは加水分解速度が早過ぎ、生体内において速やかに分解する。そのため、治癒期間が長い患部の手術用縫合糸又はその資材としては満足し得るものではない。
【0008】
また、ラクチド−カプロラクトン共重合体として、例えば、特許文献2には、乳酸単位を95〜65 mol%、カプロラクトン単位を5〜35 mol%含有する共重合体から形成される生体分解性の医療用成形物及びその製造法が開示されている。特許文献2に開示された共重合体及び医療用成形物は、柔軟性を有するため、モノフィラメントの形態で手術用縫合糸として利用できる利点がある。しかし、機械的強度が低い上に、生体内における分解速度が遅すぎるため、必要以上に生体内に長く存在するので好ましくない。生体内に長く残る材料は、炎症、発ガンなど多くの2次的な疾患を引き起こすことが既にわかっている。
【0009】
さらに、今までに開発されてきた材料は、引っ張りや圧縮などの変形を回復する能力が全くないと言ってよいほど伸縮性が低く、この性質を改質することが今日的課題となっている。特に、医療分野では、生体内の組織や臓器と同様の力学的な特性を有する材料の開発が期待されている。生体内の臓器と全く異なる力学的な特性を有する人工材料を埋植すると、生体内で伸縮に対する追従性の違いに起因する生体反応が起こることがわかっている。例えば、人工血管の場合、生体内の血管は血圧によって、血管が伸縮するが、従来の人工血管では、伸縮性が無い材料では、人工血管と血管との間の吻合部で生ずるひずみが2次的な反応を惹起することがわかっており、生分解性材料を用いた血管再生用足場においても血管と同様の伸縮性を有する材料の開発が切望されている。その他の臓器でも同様な現象が起こるために、伸縮性のある性質を有する生分解性の材料の開発が期待されている。
【0010】
ところで、PLLAなどのポリ乳酸系高分子の優れた特性を維持あるいは向上させながら、化学修飾による用途の拡張と物性の制御を行う試みがなされている。例えば、非特許文献3〜6には、官能基を有する環状コモノマーとのランダムおよびブロック共重合や、ヒドロキシル基を有する機能分子を開始種として用いた重合反応、グラフト重合といった高分子合成の手法を活用して、様々な分子形態(ランダム、ブロック、グラフト、分岐構造)および化学的性質(反応性官能基、親疎水性)を有する乳酸共重合体の合成がなされている。
【0011】
具体的には、1)側鎖に反応性官能基を有するデプシペプチド−乳酸・ランダム共重合体(非特許文献7〜10)、2)側鎖に反応性官能基を有するデプシペプチド−乳酸・ブロック共重合体(非特許文献11〜12)、3)櫛型ポリ乳酸(非特許文献13〜14)、4)ハイパーブランチポリ乳酸(非特許文献15)、5)ポリ乳酸グラフト化多糖(非特許文献16〜17)などが合成されている。
【0012】
このように、様々なポリ乳酸系高分子が開発されてきているが、生体適合性を有し、化学修飾が容易で必要に応じた生分解挙動の制御が可能であり、しかも軟組織に適合できる程度の柔軟性や伸縮性を有する材料はいまだ得られていないのが現状である。
【0013】
例えば、手術用の縫合糸は、体内での毒性がないこと、適度な平滑性を有すること及び結節強力が高いことなどが求められている。これらの性質を付与するために、例えば、ラクチド又はグリコリドの単独重合体又は共重合体等の生体吸収性ポリマーからなる縫合糸をポリカプロラクトン、エチレンオキシド重合体などのフィルム形成性重合体からなる組成物(特許文献3及び4)等で被覆した縫合糸が提案されている。しかしながら、ポリ乳酸とポリカプロラクトンの共重合体の分解期間を例に取ると、ポリ乳酸単独では1年近くかかり、ポリカプロラクトンでは2年以上かかるため、両者の共重合体では生体内で完全に分解するまでに1年以上かかるという問題点があった。それにより、通常創傷が治癒するまでに必要な期間よりも余分に異物が残存するという問題点もあった。さらには、ポリ乳酸もポリカプロラクトンも反応性の官能基を持たないため、両者の共重合体のみでは化学修飾によるポリマー機能の改質が困難であるといった問題点もあった。
【0014】
他の例として、組織工学用足場材料としての使用を目的としたポリ(デプシペプチド−ラクチド)を挙げる。非特許文献18及び19では、カルボキシル側鎖やアミノ側鎖のデプシペプチドと乳酸の共重合体が材料として提案されている。これらの極性官能基の効果によって帯電化による細胞の接着性や3次元的な細胞の接着性が検討されている。しかしながら、ポリ乳酸を使用しているため、柔軟性や伸縮性に欠けるという性質も少なからず兼ね備えており、十分な軟組織適合性を獲得するには至っていないという問題点もあった。
【0015】
一方,生分解性と弾性を併せ持つ化合物の合成例としては,非特許文献20にあるグリセリンとセバシン酸の脱水重縮合物が挙げられる。該非特許文献20では,グリセリンとセバシン酸の脱水重縮合物がゴム弾性を示すことと同時にその細胞接着性,組織適合性,生分解性が検討されている。しかしながら,このポリマーの製造には高温・減圧条件下での脱水反応が必要であり,モノマーから直接架橋体を作成するため,架橋度の調節は困難であり,また,架橋体のキャラクタリゼーションや残存モノマーについての情報がほとんど得られていない。60日後の分解率は約17%であり,生分解性に優れているとは言いがたい。
【特許文献1】特開昭59-82865号公報
【特許文献2】特開昭64−56055号公報
【特許文献3】特公平2−12106号公報
【特許文献4】特公平5−53137号公報
【非特許文献1】Langer R,et al:Tissue engineering.Science 1993,260:920−926、Freed LE,et al:J Biomed Mater Res 1993,27:11−23
【非特許文献2】辻 秀人ら:ポリ乳酸−医療・製剤・環境のために.京都,高分子刊行会,1997,149−160、生分解性フプラスチック研究会編:生分解性プラスチックハンドブック.東京,エヌ.ティー・エス,1995,279−291,666−730.
【非特許文献3】大矢裕一:生分解性高分子の現状と新展開.人工臓器 1999,28:582−589
【非特許文献4】大矢裕一,大内辰郎:生分解性バイオマテリアルとしての新しいポリ乳酸系高分子.高分子加工 1999,48:530
【非特許文献5】大矢裕一:ポリ乳酸をベースとした新規な生分解性高分子の合成とバイオマテリアルとしての応用.高分子論文集 2002,59:484−498
【非特許文献6】大内辰郎,大矢裕一:新規なポリ乳酸系医用材料.未来材料 2002,2:30−35.
【非特許文献7】Ouchi T,et al:Macromol Chem Rapid Commun 1993,14:825−831
【非特許文献8】Ouchi T,et al:Macromol Chem Phys 1996,197:1823−1833
【非特許文献9】Ouchi T,et al:J Polym Sci Part A:Polym Chem 1997,35:377−383
【非特許文献10】Ouchi T,et al:J Polym Sci Part A:Polym Chem 1998,36:1283−1290.
【非特許文献11】Ouchi T,et al:Designed Monom Polym 2000,3:279−287
【非特許文献12】Ouchi T,et al:J Polym Sci Part A:Polym Chem 2002,40:1218−1225.
【非特許文献13】Tasaka F,et al:Macromolecules 1999,32:6386−6389
【非特許文献14】Tasaka F,et al:Macromolecules 2001,34:5494−5500.
【非特許文献15】Tasaka F,et al:Macromol Rapid Commun 2001,22:820−824.
【非特許文献16】Ohya Y,et al:Macromolecules 1998,31:4662−4665
【非特許文献17】Ohya Y,et al:Macromol Chem Phys 1998,199:2017−2022.
【非特許文献18】Ohya Y,et al:J.Biomed.Mater.Res.,65A,79(2003)
【非特許文献19】Ohya Y,et al:J.Biomat.Sci.Polym.Edu.,15,111(2004)
【非特許文献20】Wang Y,et al:Nature Biotech.20,602(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、生体軟組織に適合可能な柔軟性を備えた生分解性共重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該生分解性共重合体にさらに弾性的な力学的特性(弾性変形)を付与した生分解性共重合体架橋物を提供することを目的とする。さらに、これらの生分解性共重合体及び生分解性共重合体架橋物を用いた医療用材料を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の反応性官能基を有する環状デプシペプチドとε−カプロラクトンとを共重合して得られる生分解性共重合体が、優れた生体適合性及び生分解性はもとより、高い柔軟性を有することを見出した。また、該生分解性共重合体を所定の架橋剤で処理することにより、弾性的な力学的特性が付与された生分解性共重合体架橋物が得られることを見出した。かかる知見に基づきさらにこれを発展させて本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は以下の分解性共重合体及び分解性共重合体架橋物を提供する。
【0019】
項1. 反応性官能基を有する環状デプシペプチドとε−カプロラクトンとを共重合して得られる生分解性共重合体。
【0020】
項2. 前記反応性官能基がアミノ基である項1に記載の生分解性共重合体。
【0021】
項3. 一般式(A):
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは1〜10の整数を示し、xは2〜100を示し、yは10〜1000を示し、x/(x+y)が0.01〜0.90であり、x及びyの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される項2に記載の生分解性共重合体。
【0024】
項4. 前記一般式(A)におけるRが水素原子を示し、nが4を示し、xが5〜50を示し、yが50〜800を示し、x/(x+y)が0.02〜0.30である項3に記載の生分解性共重合体。
【0025】
項5. 数平均分子量(Mn)が1,000〜100,000である項1〜4のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【0026】
項6. 数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.0〜5.0である項1〜5のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【0027】
項7. ガラス転移温度が−60〜−10℃である項1〜6のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【0028】
項8. 融点が30〜80℃である項1〜7のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【0029】
項9. 融解熱量が−70〜0J/gである項1〜8のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【0030】
項10. 生分解挙動が、37℃のリン酸緩衝溶液(PBS)中で浸績した場合に、28日で数平均分子量が20〜90%減少する項1〜9のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【0031】
項11. 前記生分解性共重合体を試験部位の厚さが0.2〜0.5mm,幅が2.2mm,長さが18mm,試験片全長が40mmのダンベル状に切り抜き、これを引っ張り試験したときの破断強度が5〜20MPa、ヤング率が50〜350MPa、破断時ひずみが100〜600%である項1〜10のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【0032】
項12. 項1〜11のいずれかに記載の生分解性共重合体を架橋剤で処理して得られる生分解性共重合体架橋物。
【0033】
項13. 前記架橋剤がポリイソシアネート類である項12に記載の生分解性共重合体架橋物。
【0034】
項14. 前記架橋剤が、脂肪族ポリイソシアネート類及び/又は脂環族ポリイソシアネート類である項12に記載の生分解性共重合体架橋物。
【0035】
項15. 項1〜11のいずれかに記載の生分解性共重合体を含む医療用材料。
【0036】
項16. 項12〜14のいずれかに記載の生分解性共重合体架橋物を含む医療用材料。
【0037】
項17. 一般式(A):
【0038】
【化2】

【0039】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、nは1〜10の整数を示し、xは2〜100を示し、yは10〜1000を示し、x/(x+y)が0.01〜0.90であり、x及びyの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される生分解性共重合体の製造方法であって、一般式(3):
【0040】
【化3】

【0041】
(式中、Zはベンジルオキシカルボニル基を示し、R、n、x及びyは前記に同じ。)
で表される化合物を、脱ベンジルオキシカルボニル剤と反応させることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0042】
本発明の生分解性共重合体は、アミノ酸成分に由来する反応性官能基を有する環状デプシペプチドとε-カプロラクトンを特定の組成比で共重合させることによって得られる。これにより、従来生分解速度の遅かったポリカプロラクトンの分解速度を改善することができると共に、ポリデプシペプチドにはない高い柔軟性が付与される。この柔軟性を生かして、組織再生用足場材料などの医療用素材としても有用である。
【0043】
また、該生分解性共重合体には反応性官能基が導入されているため化学修飾が可能となり、架橋処理することにより弾性に富む架橋体を得ることができる。該架橋体は、特に弾性が要求される組織再生用足場材料などの医療用素材として用いられる。
【0044】
さらに、環状デプシペプチドとε-カプロラクトンを特定の組成比で共重合させることにより、分解速度を容易に調節することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
1.生分解性共重合体
本発明の生分解性共重合体は、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の反応性官能基を有する環状デプシペプチドとε−カプロラクトンとを共重合して得られる。
【0046】
デプシペプチドとは、総称的に、α−アミノ酸とα−ヒドロキシ酸の共重合体を意味する。α−アミノ酸としては側鎖に反応性官能基を有するものであり、該反応性官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基などが挙げられ、特にアミノ基が好ましい。ポリデプシペプチドとしては、該α−アミノ酸とα−ヒドロキシ酸(例えば、乳酸、グリコール酸等)とのランダムおよびブロック共重合体や、該α−アミノ酸とα−ヒドロキシ酸(例えば、乳酸、グリコール酸等)との交互共重合体等が挙げられる。
【0047】
具体的には、一般式(A):
【0048】
【化4】

【0049】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは1〜10の整数を示し、xは2〜100を示し、yは10〜1,000を示し、x/(x+y)が0.01〜0.90であり、x及びyの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)で表される生分解性共重合体が挙げられる。
【0050】
は水素原子又はメチル基を示すが、好ましくは水素原子である。なお、Rがメチル基の場合、メチル基が結合する炭素原子は不斉炭素となり得る。本発明の共重合体においては、該不斉炭素の立体配置は(R)体、(S)体或いはそれらの混合物のいずれであってもよい。
【0051】
nは1〜10の整数を示すが、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは4である。
【0052】
一般式(A)において、x及びyは共重合体中の各ユニットの平均個数を表し、HNMR及びGPCから求められる。例えば、一般式(A)においてn=4の共重合体では、環状デプシペプチド単位の側鎖部分に起因するNMRピークδ(ppm):2.95-3.17 (2H,-CH2CH2CH2CH2NH2)と,カプロラクトン単位に起因するNMRピークδ(ppm):2.25-2.34 (2H,-COCH2CH2CH2CH2CH2OH)の面積比より主鎖中の各重合度割合を算出し,この値とGPCで得られた主鎖の分子量から各x,yが求められる。
【0053】
また、上記したようにx及びyの各ユニットの配列はランダムでもブロックでもよい。
【0054】
xは2〜100であり、好ましくは5〜50であり、より好ましくは10〜30である。
【0055】
yは10〜1,000であり、好ましくは50〜800であり、より好ましくは100〜500である。
【0056】
x/(x+y)は0.01〜0.90、好ましくは0.02〜0.30、より好ましくは0.04〜0.20である。xがこの範囲にあることにより、本発明の共重合体に生分解性及び組織適合性が付与されると共に、柔軟性が付与される。
【0057】
本発明の共重合体の数平均分子量(Mn)は1,000〜100,000、好ましくは5,000〜100,000、より好ましくは10,000〜50,000であり、重量平均分子量(Mw)は1,000〜300,000、好ましくは5,000〜300,000、より好ましくは10,000〜150,000である。また、分子量分布の指標である数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.0〜5.0、好ましくは、1.0〜4.0、より好ましくは1.0〜3.8である。数平均分子量及び重量平均分子量は、例えばGPC(溶媒:ジメチルホルムアミド)等の公知の方法を用いて測定できる。
【0058】
本発明の共重合体のガラス転移温度は−60〜−10℃、好ましくは−50〜−30℃である。融点は30〜80℃、好ましくは30〜50℃である。融解熱量は−70〜0J/g、好ましくは−55〜0J/gである。
【0059】
本発明の共重合体の生分解挙動として、37℃のリン酸緩衝水溶液(PBS)中で浸積した場合に、28日における数平均分子量の減少割合が20〜90%、好ましくは60〜90%である。なお、数平均分子量の測定はGPCを用いる。
【0060】
本発明の共重合体の試験部位の厚さが0.2〜0.5mm,幅が2.2mm,長さが18mm,試験片全長が40mmのダンベル状に切り抜き、これを引っ張り試験したときの破断強度は5〜20MPa、好ましくは5〜10MPaであり、ヤング率は50〜350MPa、好ましくは50〜100MPaであり、破断時ひずみは100〜600%、好ましくは300〜600%である。
【0061】
本発明の生分解性共重合体は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0062】
【化5】

【0063】
(式中、Zはベンジルオキシカルボニル基を示し、R、n、x及びyは前記に同じ。)
上記(1)で表される化合物は、例えば、T. Ouchi, et. al., Macromol. Chem. Phys. 197, 1823-1833 (1996)等に準じて製造することができ、また上記(2)で表されるカプロラクトンは市販されている。
【0064】
上記(1)及び(2)で表される化合物を触媒(スズ 2-エチルヘキサノエート等)を用いて開環重合させて上記(3)で表される化合物とし、これを脱ベンジルオキシカルボニル剤(例えば、HBr/酢酸等)により、フリーのアミノ基に変換して上記(A)で表される生分解性共重合体を得ることができる。本反応の各ステップは慣用の方法を用いて実施することができる。
【0065】
2.生分解性共重合体架橋物
更に、上記の生分解性共重合体を架橋剤で処理することにより、弾性を有する生分解性共重合体架橋物を製造することができる。
【0066】
生分解性共重合体の反応性官能基がアミノ基の場合は、架橋剤としてポリイソシアネート類、ポリカルボン酸活性エステル類等が例示される。
【0067】
ポリイソシアネート類としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0068】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネート[トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ジイソシアナトヘキサン(ヘキサメチレンジイソシアネート,HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプトロエートなど]、ポリイソシアネート[リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアネートオクタン、1,6,11−トリイソシアネートウンデカン、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアネートヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアネート−5−イソシアネートメチルオクタンなど]が例示できる。
【0069】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネート[1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート,IPDI)、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−又は1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなど]、ポリイソシアネート[1,3,5−トリイソシアネートシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアネートシクロヘキサン、2−(3−イソシアネートプロピル)−2,5−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2−(3−イソシアネートプロピル)−2,6−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3−(3−イソシアネートプロピル)−2,5−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ(2.2.1)−ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタンなど]が例示できる。これらのポリイソシアネートは単独で又は二種以上組合せて使用できる。
【0070】
ポリカルボン酸活性エステル類としては、分子内に下記式:
【0071】
【化6】

【0072】
で表される活性エステルを少なくとも2以上有する化合物が例示される。
【0073】
具体的には、下記式で表されるN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)で両末端が活性化されたジカルボキシオリゴおよびポリエチレングリコール等が例示される。
【0074】
【化7】

【0075】
(式中、pは1-5の整数、qは1〜1000の整数を示す。)
架橋反応は、生分解性共重合体と架橋剤を溶媒中で反応させることにより進行する。架橋剤と生分解性共重合体との割合は、生分解性共重合体中のアミノ基1当量に対して、架橋剤の活性部位(例えば、ポリイソシアネートのイソシアネート基)が0.5〜1.5当量、好ましくは1.0〜1.2当量の範囲となるようにすればよい。
【0076】
反応溶媒としては、例えば、DMF、DMSO、クロロホルム等が用いられる。反応温度は通常室温であり、反応時間は通常12〜48h程度である。
【0077】
反応終了後、サンプルを溶媒(例えばメタノール、クロロホルム等)で洗浄した後、乾燥して架橋物を得る。
【0078】
本発明の架橋体のガラス転移温度は−50〜−20℃、好ましくは−45〜−30℃である。また融点は30〜50℃であればよいが、融点を示さないものが好ましい。融解熱量は−50〜0J/g、好ましくは−10〜0J/gである。
【0079】
本発明の架橋体の生分解挙動として、37℃のリン酸緩衝溶液(PBS)中で浸漬した場合に、28日における試験片重量の減少割合が10〜60%、好ましくは30〜50%である。
【0080】
本発明の架橋体の試験部位の厚さが0.2〜0.5mm,幅が2.2mm,長さが18mm,試験片全長が40mmのダンベル状に切り抜き、それを引っ張り試験したときの破断強度は1〜30MPa、好ましくは1〜12MPaであり、ヤング率は1〜150MPa、好ましくは1〜5MPaであり、破断時ひずみは100〜1000%、好ましくは250〜800%である。
【0081】
3.用途
本発明の生分解性共重合体は生分解性及び柔軟性を有しており、共重合組成を制御することで生分解速度の調節ができる。また、本発明の生分解性共重合体架橋物は生分解性、伸縮性、柔軟性及び弾性を有している。
【0082】
本発明によって得られる素材は、フィルム状、糸状、スポンジ状に成型加工でき、柔軟性や弾性を有する生分解性材料の開発が可能となる。特に、架橋体ではゴム弾性を有する生分解性材料の開発が可能となる。これらは例えば、医療材料および医療製品、電化製品、家具に代表される一般的な造形物、プラスチックボトル、惣菜用容器に代表される一般的な飲食業界に関わる容器などとして応用できる。
【0083】
本発明の素材は、医療用素材(材料)として好適に用いることができる。例えば、軟組織や、血管や筋肉(心筋、骨格筋、平滑筋等)などの弾性が要求される組織に対して高い力学的適合性を示すため、このような組織の再生に用いる生体内留置物として有用である。例えば、生分解性埋込材料、組織再生用足場材料、可動部位周辺の創傷被覆等が挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
なお、下記において「G」はグリコール酸を、「K」はリジンを、「CL」はε−カプロラクトンを、「r」はランダムを示す。
[実施例1]
ポリ(ε-カプロラクトン−デプシペプチド)・ランダム共重合体の合成
(1)100 mlのナス型フラスコに1000 mg(3.12 mmol)のcyclo[Glc-Lys(Z)]を入れ、液体窒素を用いて凍結乾燥を行った。115℃のオイルバスにてcyclo[Glc-Lys(Z)]をいったん融解し、続いて6,778 mg(59.4 mmol)のε-カプロラクトンと、25.3 mg (62.5 μmol、M/I=1,000)の2-エチルヘキサン酸スズを加え、脱気及びアルゴン置換を20セット程繰り返した後に、6時間重合反応を行なった。ここでは、シクロデプシペプチドcyclo[Glc-Lys(Z)]導入率15 mol%を想定している。
【0086】
所定時間後、反応混合物を少量のクロロホルムに溶解し、大量のジエチルエーテル/メタノール混合溶媒(9/1)中に沈殿させた。沈殿物を回収し、24時間減圧乾燥させて7,250 mgの白色固体[PGK(Z)-r-CL]を得た。
【0087】
化合物[PGK(Z)-r-CL](Before deprotection)の1H NMR (CDCl3)を図1に示す。
(2)上記(1)で得た2,000 mgの化合物[PGK(Z)-r-CL]を5 mlのトリフルオロ酢酸に溶解させ、氷冷下で2.20 ml(保護基に対して3当量)の25 %-HBr/CH3COOHを加えて1時間撹拌した。反応混合液を冷ジエチルエーテル中で沈殿させ、回収した沈殿物を24時間減圧乾燥し、褐色固体を得た。得られたポリマーを5 mlのクロロホルムに溶解させた後、1.22 ml(保護基に対し3当量)のトリエチルアミンで脱塩し、冷ジエチルエーテル/メタノール混合溶媒(9/1)中に沈殿させた。沈殿物を回収し、24時間減圧乾燥させて1,530 mgの白色固体 [PGK-r-CL] を得た。化合物[PGK-r-CL](After deprotection)の1H NMR (CDCl3)を図1に示す。
【0088】
図1より、x=19、y=408であった。
【0089】
1H NMR (CDCl3)、δ(ppm); 1.38 (2H,-COCH2CH2CH2CH2CH2OH)、1.57-1.72 (4H, -COCH2CH2CH2CH2CH2OH)、1.78-1.92 (6H,-CH2CH2CH2CH2NH2)、2.25-2.34 (2H,-COCH2CH2CH2CH2CH2OH)、2.95-3.17 (2H,-CH2CH2CH2CH2NH2)、3.95-4.07 (2H,-COCH2CH2CH2CH2CH2OH)、4.08-4.16 (1H,-COCH(CH2)3NHCOCH2O−)、4.48-4.75 (2H,-COCH(CH2)3NHCOCH2O-)。
【0090】
【化8】

【0091】
[実施例2〜4]
シクロデプシペプチドcyclo[Glc-Lys(Z)]導入率を10, 15, 20 mol%と変化すること以外は実施例1と同様に反応させてそれぞれ共重合体を得た。その場合の(x,y)の値はそれぞれ,(21,230),(29,177),(21,127)であった。
【0092】
[比較例1]
シクロデプシペプチドcyclo[Glc-Lys(Z)]導入率を0 mol%とすること以外は実施例1と同様に反応させてポリカプロラクトン(PCL)を得た。
【0093】
[試験例1]
分子量測定
実施例1〜4の共重合体(PGK-r-CL)及び比較例1のPCLの数平均分子量(Mn)と分子量分布(Mw/Mn)をゲルろ過クロマトグラフィー(TOSOH製、Tosoh GPC-8020 series system)により測定した。その結果を表1に示す。ポリマー3mgをDMF0.5mlに溶かし,これを0.2μm孔のフィルターに通すことでゴミ等の固体を除去し,その後装置にシリンジを用いて打ち込んだ。
【0094】
【表1】

【0095】
[試験例2]
熱分析試験(DSC)
実施例1〜4の共重合体[PGK-r-CL]及び比較例1のPCLの熱分析を次のようにして行った。ポリマー5mgを秤量してアルミパンに入れ,これをDSC装置に設置して測定を行った。測定温度範囲−100〜100℃,昇温速度10℃/min,冷却は液体窒素を用いた
融解熱量:ΔH(J/g)は、融点ピークの面積より算出した。また、結晶化度:Xc(mol%)は、式:Xc=ΔH/ΔHtheo.×100 (ΔHtheo.=142[J/g])により求めた。
【0096】
その結果を表2及び図2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
この結果よりCyclodepsipeptide ユニットの導入率が増えるとガラス転移点および融点が低下し,融解熱量が減少し,結晶化度が低下することが分かった
【0099】
[試験例3]
PGK-r-CL及びPCLの生分解性試験
PGK-r-CL及びPCLから調製したキャストフィルムを20mm×5mmに切り抜き,重量を測定し,これらのフィルムの小片をあらかじめ37℃に調製したPBS(pH=7.4, I=0.14)中に浸漬した。所定時間後(1,2,4,7,14,28日)にフィルムを取り出し,超純水で洗浄して凍結乾燥を行い,その後フィルムの重量を測定し重量減少率を算出した。また,このフィルムを溶解し,GPCにより分子量減少率(溶媒:DMF)を測定し,生分解挙動を確認した。
【0100】
これより,デプシペプチド導入率を上げると生分解性速度が早くなることが確認できた。これは,主鎖中に存在する親水性で生分解速度の速いデプシペプチド部分の割合が大きくなったことと,先に示している結晶化度の減少にも起因しており,これら双方の要因によるものであると考えられる。結果を図3に示す。
【0101】
[試験例4]
PGK-r-CL及びPCLの引っ張り試験
実施例1及び2で得られた共重合体の引張試験を行った。具体的には、PGK-r-CLフィルム及びPCLフィルムを試験部位の厚さが0.2〜0.5mm,幅が2.2mm,長さが18mm,試験片全長が40mmのダンベル状に切り抜き、5 mm/minで引っ張り試験を行った。
【0102】
その結果を表3及び図4に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
これによれば、分子鎖中にデプシペプチドを導入しても,PCLの柔軟性は失われておらず,むしろ変形しやすくなっていることが分かる。
【0105】
[実施例5]
ポリ(ε-カプロラクトン−デプシペプチド)・ランダム共重合体を用いた架橋体の調製
架橋反応は主鎖中に含まれている全アミノ基を反応させるように架橋剤の仕込み量を調整した。PGKCL(GK/CL=4/96)の場合、まず300 mgのPGKCLを20 wt%となるように脱水DMFに溶解した後、16.0μlのヘキサメチレンジイソシアナート(アミノ基に対して0.5当量)を加え、30分間超音波照射した後、常温で架橋反応を進行させた。DMFからクロロホルム、そしてメタノールに溶媒を置換した後に、48時間減圧乾燥させることで架橋体を得た。架橋体の模式図を図5に示す。
【0106】
[実施例6及び7]
実施例2及び3で得られたPGKCL(GK/CL=9/91)及びPGKCL(GK/CL=14/86)について、実施例5と同様に反応させてそれぞれ共重合体架橋体(実施例6及び7)を得た。
【0107】
[試験例5]
熱分析試験(DSC)
実施例5〜7の架橋体について、上記試験例2と同様にして熱分析試験を行った。その結果を表4に示す。また、各サンプルの外観を示す写真を図6に示す。
【0108】
融解熱量:ΔH(J/g)及び結晶化度:Xc(mol%)は、試験例2と同様にして求めた。
【0109】
【表4】

【0110】
これによれば,架橋前のポリマー(表2の実施例1,2,3)と比較して,ガラス転移点にはあまり変化は無いが,融点はやや低下し,融解熱は大幅に低下することが分かった。特にデプシペプチドユニットの導入率の高い実施例7においては,融点が消失し非結晶性を示すことが分かった。
【0111】
[試験例6]
引っ張り試験
実施例5〜7で得られた架橋体について、以下のように引っ張り試験を行った。
【0112】
500mgのpoly{(Glc-Lys)-random-CL}を5 mlのDMFに溶解し、テフロン(登録商標)シャーレにキャストした。そこに16μlのヘキサメチレンジイソシアナートを加え、24時間室温で架橋反応を進行させた。DMFからクロロホルム、そしてメタノールに溶媒を置換した後に、48時間減圧乾燥させることで、厚さが250μmの架橋体フィルムを得た。
【0113】
調製した架橋体フィルムを試験部位の厚さが0.2〜0.5mm,幅が2.2mm,長さが18mm,試験片全長が40mmのダンベル型に切り抜き、1mm/minで引っ張り試験を行った。
【0114】
その結果を表5および図7の応力−歪み曲線に示す。実施例6および7の架橋体フィルムは降伏点がなく、弾性変形を示した。またその破断伸びは255〜711%を示し、ヤング率は2-5MPaと低いことから、柔軟で粘り強いフィルムであることが示された。
【0115】
【表5】

【0116】
また、架橋体フィルムは引っ張りや、捻るなどの応力を加えた後も、ほぼ元通りの形状に回復する(形状回復率91.6%)ことから、この架橋体フィルムは広範囲で伸縮可能な力学特性を有することが示された。その挙動を図8に示す。得られる架橋体にエラストマーとしての機能(弾性変形)が発現することがわかった。
【0117】
[試験例7]
架橋体の生分解性試験
cross-linked PGKCL (14/86)をフィルム状に調製し,このフィルムを20mm×5mmに切り抜き,重量を測定し,これらのフィルムの小片をあらかじめ37℃に調製したPBS(pH=7.4, I=0.14)中に浸漬した。所定時間後(1,2,4,7,14,28,42日)にフィルムを取り出し,超純水で洗浄して凍結乾燥を行い,その後フィルムの重量を測定し重量減少率を算出した。結果を図9に示す。
【0118】
同様にして、未架橋のPGKCL(14/86)フィルム及びポリカプロラクトン(PCL)フィルムについても試験を行った。その結果を図9に示す。
【0119】
図9より架橋体では,未架橋のポリマーよりも分解速度が遅いことが解ったが,これは架橋による影響であり,水溶性低分子オリゴマーとしての溶出が阻害されているためである事が分かった。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】化合物[PGK(Z)-r-CL]及び化合物[PGK-r-CL]の1H NMR (CDCl3)を示す。
【図2】実施例1〜4の共重合体[PGK-r-CL]及び比較例1のPCLの熱分析試験の結果を示す。
【図3】PGK-r-CL及びPCLの生分解性試験の結果を示す。
【図4】PGK-r-CL及びPCLの引っ張り試験の結果を示す。
【図5】実施例5の架橋体の模式図を示す。
【図6】実施例5〜7の架橋体の外観写真を示す。
【図7】架橋体の引っ張り試験の結果を示す。
【図8】架橋体フィルムが伸縮可能な力学特性を有することを示す写真である。
【図9】架橋体フィルム、未架橋体フィルム及びPCLフィルムの生分解性試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性官能基を有する環状デプシペプチドとε−カプロラクトンとを共重合して得られる生分解性共重合体。
【請求項2】
前記反応性官能基がアミノ基である請求項1に記載の生分解性共重合体。
【請求項3】
一般式(A):
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは1〜10の整数を示し、xは2〜100を示し、yは10〜1000を示し、x/(x+y)が0.01〜0.90であり、x及びyの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される請求項2に記載の生分解性共重合体。
【請求項4】
前記一般式(A)におけるRが水素原子を示し、nが4を示し、xが5〜50を示し、yが50〜800を示し、x/(x+y)が0.02〜0.30である請求項3に記載の生分解性共重合体。
【請求項5】
数平均分子量(Mn)が1,000〜100,000である請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【請求項6】
数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.0〜5.0である請求項1〜5のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【請求項7】
ガラス転移温度が−60〜−10℃である請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【請求項8】
融点が30〜80℃である請求項1〜7のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【請求項9】
融解熱量が−70〜0J/gである請求項1〜8のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【請求項10】
生分解挙動が、37℃のリン酸緩衝溶液(PBS)中で浸績した場合に、28日で数平均分子量が20〜90%減少する請求項1〜9のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【請求項11】
前記生分解性共重合体を試験部位の厚さが0.2〜0.5mm,幅が2.2mm,長さが18mm,試験片全長が40mmのダンベル状に切り抜き、これを引っ張り試験したときの破断強度が5〜20MPa、ヤング率が50〜350MPa、破断時ひずみが100〜600%である請求項1〜10のいずれかに記載の生分解性共重合体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の生分解性共重合体を架橋剤で処理して得られる生分解性共重合体架橋物。
【請求項13】
前記架橋剤がポリイソシアネート類である請求項12に記載の生分解性共重合体架橋物。
【請求項14】
前記架橋剤が、脂肪族ポリイソシアネート類及び/又は脂環族ポリイソシアネート類である請求項12に記載の生分解性共重合体架橋物。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれかに記載の生分解性共重合体を含む医療用材料。
【請求項16】
請求項12〜14のいずれかに記載の生分解性共重合体架橋物を含む医療用材料。
【請求項17】
一般式(A):
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、nは1〜10の整数を示し、xは2〜100を示し、yは10〜1000を示し、x/(x+y)が0.01〜0.90であり、x及びyの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される生分解性共重合体の製造方法であって、一般式(3):
【化3】

(式中、Zはベンジルオキシカルボニル基を示し、R、n、x及びyは前記に同じ。)
で表される化合物を、脱ベンジルオキシカルボニル剤と反応させることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−120888(P2008−120888A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304587(P2006−304587)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月10日 社団法人 高分子学会発行の「高分子学会年次大会予稿集 55巻1号 2006」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月1日 社団法人 高分子学会発行の「第15回ポリマー材料フォーラム予稿集」に発表
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】