説明

生物学的利用能を向上した医薬組成物

【課題】疎水性薬物の溶解度および生物学的利用能を向上するために、新規の剤形を開発すること。
【解決手段】親油性薬物、界面活性剤、および親水性担体を含有する自己乳化医薬組成物、ならびに自己乳化によって薬物の生物学的利用能を高めるための医薬組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、親油性薬物、親水性担体、および界面活性剤を含有する経口用自己乳化医薬組成物に関する。この組成物は、胃腸液に接触するとすぐに約10〜約800nmの大きさのマイクロミセルに自己乳化する。
【背景技術】
【0002】
経口薬物投与系は、長い間にわたり最も一般的に受け入れられている疾病の治療のための投与経路である。しかしながら、全体の約50%の薬物は、脂溶度が高いために経口投与において制限に直面する。さらに、新規に開発された薬物の約40%は脂溶性である。ほとんどの親油性薬物の顆粒は、胃腸液によってほとんど浸潤しないため、従来の錠剤またはカプセル剤として投与した場合、低い溶解度および放出速度を示し、したがって、低い生物学的利用能を示す。さらに、異なる個体における薬物吸収は、消化器官の機能および食糧摂取の違いによって大きく異なり得る。したがって、投与量の決定および調整はかなり難しい。以上を前提とすると、経口投与用の薬物の吸収の向上が、溶解度の低い薬物の低い生物学的利用能の問題を解決するための重要なポイントとなる。
【0003】
今日まで、溶解度の低い薬物の生物学的利用能を向上するために、以下の方法が使われてきた:
a)溶解度の低い薬物を可溶性の塩またはエステルに変換する方法。
b)薬物の溶解性を高めるために、粒径を小さくし、全表面積を増やす方法。これは通常機械的処理によって実施される。
c)可溶化剤を添加することにより、水への薬物の溶解度を高める方法。
d)1つ以上の活性成分と賦形剤とを混合することで、均一に分散された固溶体系を生産する「固溶体」(SDS)技術。一般に使用される方法は、溶媒法、溶融法、溶媒噴霧法、および研削法である。この技術の利点は、薬物の溶解および生物学的利用能を向上させることである。
【0004】
しかしながら、上述の方法には欠点がある。例えば、溶解度の低い弱酸または弱塩基の薬物を、薬物投与のために可溶性の塩に変換できたとしても、その可溶性の塩は、胃腸管のpH変化によって、溶解度の低い弱酸または弱塩基に戻る可能性があり、したがって、薬物の沈殿をもたらす可能性がある。別の例では、固溶体技術において使用される担体の量は大抵多く、主要成分の服用量が多い場合、成形された錠剤またはカプセル剤の体積が大きくなり、飲み込むのが困難になる。さらに、使用される担体は、通常高価であり、凍結乾燥法または噴霧乾燥法は、特別な設備および工程を要するため、生産コストがかなり高くなる。代わりに従来の溶媒法を適用することができるが、従来の溶媒法では、高粘度の共沈殿物を取り扱うことは困難である。近年では、カプセルを直接充填するために溶触法が使用されている。しかしながら、カプセル殻の中の水が固溶体の安定性に影響を及ぼし得る。さらに、溶解度の低い薬物は、胃腸管において高い浸透性を示さない可能性があるため、過飽和溶液を形成した後すぐに吸収されないことによっておきる薬物の結晶化を避けることが重要である。
【0005】
近年では、脂質を基礎とする製剤を使用した経口用製剤の調製が非常に注目されており、経口投与後の疎水性薬物の水溶性および生物学的利用能の向上のために、「自己乳化/マイクロ乳化薬物送達系(SEDDS/SMEDDS)」と呼ばれる新規の技術が開発され、使用されている。通常は、このSEDDS/SMEDDSは、油、界面活性剤、共界面活性剤または可溶化剤、および薬物からなる。この系の基本原理は、SEDDS/SMEDDSが水に接触すると、穏やかな機械的な攪拌状態において、水中油型のマイクロエマルジョンが自然発生的に形成されるというものである。その結果、薬物は、水相を含まない液体を基礎とする製剤において溶解するように調製できる。その後、固体の経口製剤を形成するために、この薬物を、軟/硬カプセルに充填することができる。経口投与し胃腸液に接触した後すぐに、前述の製剤は、マイクロエマルジョンへ自己乳化することができ、薬物の分散、溶解、安定化および吸収を促進し、したがって前述の薬物の生物学的利用能を向上する。エマルジョン/マイクロエマルジョンと比較して、SEDDS/SMEDDSは、疎水性薬物の可溶性を促進するという同じ利点を有するだけでなく、さらに長時間放置された後のエマルジョンの層化という欠点を克服する。SEDDS/SMEDDSは、熱力学的に安定した系に属するため、容易に保管できる。さらに、生産の工程は簡易かつ便利であるため、SEDDS/SMEDDSは、医療開発において重要な分野になりつつある。
【0006】
SEDDS/SMEDDSによって形成されたエマルジョン/マイクロエマルジョンは、良好な熱力学的安定性および光透過性を示す。上述のマイクロエマルジョンと一般のエマルジョンとの主な違いは、液滴の粒径にある。一般のエマルジョンの液滴の大きさは、0.2〜10μmの間の範囲にあり、SMEDDSによって形成されたマイクロエマルジョンの液滴の大きさは一般に、2〜100nmの範囲にある(このような液滴はナノ粒子の液滴と呼ばれる)。粒径が小さいため、吸収および分散のための粒子のその全表面積は、固形の剤形の総面積よりも著しく大きく、胃腸管に容易に浸透でき、吸収され得る。したがって、薬物の生物学的利用能が、向上する。疎水性薬物の生物学的利用能を向上することに加えて、薬物が胃腸管の中の酵素によって分解されないように、SEDDS/SMEDDSは、ペプチド/タンパク質薬物を液滴の油相に組み込むことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の利点はあるが、SEDDS/SMEDDSは、まだ多くの欠点を有する。SEDDS/SMEDDSは、油、界面活性剤、可溶化剤、および薬物からなる。一般に有機溶媒である可溶化剤は、液剤またはカプセルという形態において極めて簡単に揮発および減少し、そのため、相間のバランスの破壊、薬物の沈殿、または液滴の大きさの変化をもたらし、薬物の生物学的利用能に影響を及ぼす。さらに、薬物は、油相系において可溶であることが要求されるため、極めて低い水溶性を有するクラスIVの薬物だけが、SEDDS/SMEDDSでの使用により適する。さらに、一般的に使用されるヒマシ油などの油は、毒性が高い。SEDDS/SMEDDSに含有される油賦形剤は、酸化によって容易に変性するため、油賦形剤の利用によって形成されたエマルジョンの粒径の調整は困難であり、SEDDS/SMEDDSの包装および保管は湿度および温度の厳格な調整を必要とし、生産コストを増加させる。したがって、疎水性薬物の溶解度および生物学的利用能を向上するために、新規の剤形を開発する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、親油性薬物の溶解度および生物学的利用能を向上する医薬組成物を提供する。本願発明において使用される系は、従来の油相が存在しない場合においてもSEDDS/SMEDDSの機能を十分に示す。さらに、この組成物は、容易に調製でき、服用するのに便利である。長期間の保存においても十分な安定性を示す。
【0009】
本願発明の目的の1つは、治療上有効量の親油性薬物、親水性担体、および界面活性剤を含み、HLB値が約8〜約15の範囲にある、経口投与用の医薬組成物を提供し、薬物の生物学的利用能を向上することである。
【0010】
本願発明の別の目的は、本願発明の経口用の医薬組成物によって形成されたエマルジョン/マイクロエマルジョンを提供することである。
【0011】
本願発明の別の目的は、親水性溶媒担体中に薬物を溶解する工程と、2つ以上の界面活性剤を添加する工程と、HLB値が約8〜約15の範囲にあるように調整する工程と、を含む本願発明の経口用医薬組成物の調製方法を提供することである。
【0012】
本願発明のさらなる目的は、本願発明の医薬組成物を患者に経口投与する工程を含む、治療を受けている患者における親油性の薬物の生物学的利用能を向上する方法を提供することである。
【0013】
本願発明のさらに別の目的は、医療活性成分を、医療活性成分の生物学的利用能を高めるために宿主へ投与する方法を提供することであって、この方法は以下の工程を含む:a)経口投与を行うために、本願発明の経口用の医薬組成物を準備する工程、b)その組成物が体液に接触し医療活性成分の生物学的利用能を高める前述の組成物を、前述の宿主に投与する工程。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】体外における製剤(II)−1から製剤(II)−3の溶解曲線を示す図である。
【図2】体外における製剤(III)−1から製剤(III)−3の溶解曲線を示す図である。
【図3】体外における製剤(IV)−1から製剤(IV)−3の溶解曲線を示す図である。
【図4】体外における製剤(V)−1から製剤(V)−3の溶解曲線を示す図である。
【図5】体外におけるタクロリムス製剤Iおよびタクロリムス製剤IIの溶解曲線を示す図である。
【図6】製剤(V)−3軟カプセル、製剤(I)−1軟カプセル、および製剤(I)−1硬カプセルの血中濃度対時間曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明に関連して使用される科学用語および技術用語は、ここに定義されない限り、当業者において一般に理解される意味を有する。用語の意味および範囲は明確なはずであるが、多義性がある場合には、辞書または外的な定義よりも、ここに提示する定義が優先する。
【0016】
文脈によって所要とされない限り、単数形の用語は複数形の用語を含み、複数形の用語は単数形の用語を含む。
【0017】
本願発明は、治療上有効量の親油性薬物、親水性溶媒担体、および界面活性剤を含み、HLB値が約8〜約15の範囲にある、親油性の薬物の溶解度および生物学的利用能を向上する経口投与用の医薬組成物を提供する。本願発明の医薬組成物は、胃腸液に接触したとき、エマルジョン/マイクロエマルジョンを形成するために従来の三成分系の油を多く含む部分に使用された容易に酸化する油相がなくとも、そこに含有される薬物を含むマイクロミセルを形成し、自然発生的に乳化する。例えば、油相は、オリーブ油、コーン油、大豆油、キャノーラ油、ひまわり油、または、中鎖脂肪酸トリグリセリド油であってよい。
【0018】
「治療上有効量」という用語は、治療効果の発揮に効果的な薬物の用量という意味で理解されるべきである。本願発明の経口剤のための「治療上有効量」という用語は、GI管の壁を介して体内へ吸収された後に、標的器官への治療効果の発揮に有効な血液中の薬物濃度をもたらす薬物の用量を意味する。当業者は、本組成物において提示された薬物の量が、投与の形態、被検者の体格、年齢および症状などを含むが、しかしこれに限定されない特定の状況によって異なることを理解する。さらに、これらの有効な量は、過度の実験なしに、医師によって容易に決定できる。薬物が、組成物の約0.1重量%〜約50重量%の範囲の量で存在することが好ましく、約1重量%〜約40重量%の範囲の量で存在することがより好ましい。
【0019】
本願発明によれば、親油性薬物としては、免疫薬、抗感染薬、抗高血圧薬、血中脂質低下薬、制酸薬、抗炎症薬、冠拡張薬、脳血管拡張薬、向精神薬、抗新生物薬、興奮剤、抗ヒスタミン剤、下剤、充血除去剤、ビタミン剤、胃腸薬、止瀉剤、抗狭心症薬、血管拡張剤、抗不整脈剤、抗片頭痛薬、抗凝固薬および抗血栓症、鎮痛剤、解熱剤、睡眠薬、鎮静剤、嘔吐防止薬、制吐剤、抗けいれん薬、抗てんかん薬、神経調節剤、CNS(中枢神経系)に作用する薬物、血糖上昇剤および血糖降下薬、甲状腺剤および抗甲状腺剤、利尿薬、鎮痙薬、子宮弛緩薬、ミネラルおよび栄養添加物、抗肥満薬、同化薬、抗喘息薬、去痰薬、鎮咳剤、もしくは口内で局所的に作用する物質、または、その組み合わせなどを挙げることができるが、これらに限定されない。本願発明の組成物は、2つ以上の活性成分の組み合わせを含有することができる。この薬物の好ましい実施形態は、シクロスポリン、タクロリムス、イブプロフェン、ケトプロフェン、ニフェジピン、アムロジピン、およびシンバスタチンである。
【0020】
本願発明において使用される親水性担体は、生理学的に無害かつ耐容性良好でなければならない。さらに、担体は、担体内への薬物の混入を許容しなくてはならない。本願発明によれば、親水性担体は、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコール(PEG200、PEG300、PEG400、PEG600、PEG1000、PEG2000、PEG3000、PEG4000、PEG6000、またはPEG8000など)を挙げることができるが、これに限定されない。任意の上述した担体は、単独で、または、1つ以上の担体との組み合わせで使用することができる。本願発明の組成物においては、担体が、組成物の約1重量%〜約30重量%の量の範囲で存在することが好ましく、約2重量%〜約20重量%の量の範囲で存在することがより好ましい。
【0021】
本願発明において使用される界面活性剤は、当業者に公知の任意の界面活性剤であってよく、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤を挙げることができるが、これに限定されない。本願発明において使用される界面活性剤は、当業者に周知のHLBシステムに従って、約2より大きいHLB(親水性親油性バランス)値を有するべきである。HLB値は、界面活性剤の親水性部と親油性部との間のバランスに基づいて、界面活性剤の順序付けを行う方法を提供する。つまり、HLB値が高いほど、界面活性剤の親水性が高いということである。典型的に、本願発明において使用される界面活性剤は、約2〜約18の範囲のHLB値を有する。この界面活性剤の好適な実施形態は、PEG40硬化ヒマシ油、ポリソルベート、コカミドプロピルベタイン、グリセリル・ココエート、PEG6カプリル/カプリングリセリド、ポロキサマー(Poloxmer)、Labrafil M1944CS、Labrafil M2125CS、Labrasol、Cremophor EL、Cremophor RH、Brij、およびSpansである。任意の上述した界面活性剤は、単独で、または1つ以上の界面活性剤と組み合わせて使用することができる。本願発明の組成物においては、界面活性剤が組成物の約10重量%〜約90重量%の範囲の量で存在することが好ましく、約20重量%〜約85重量%の範囲の量で存在することがより好ましい。
【0022】
本願発明の医薬組成物の本質的な態様は、例えば、胃腸液などの水系溶液と接触して置かれたときに、エマルジョン/マイクロエマルジョンを形成することである。この形成されたマイクロエマルジョンは、哺乳類の胃腸液に接触しているとき、熱力学的に安定している。しかしながら、この組成物が胃腸液に接触するまでは、この組成物はエマルジョン/マイクロエマルジョンではない。エマルジョン/マイクロエマルジョンが形成された場合、エマルジョン/マイクロエマルジョンは、ほぼ均一かつ球状の液滴からなる。このマイクロエマルジョンの液滴の粒径は、約800nm未満、好ましくは約10nm〜約800nmである。
【0023】
本願発明の医薬組成物は、親油性薬物、親水性担体、および界面活性剤を攪拌によって混合することによって調製できる。1つ以上の界面活性剤を混合し、さらに1つ以上の親水性担体を、ビーカーまたはフラスコ中、室温で、マグネチックスターラーまたは撹拌機により上述の混合物に添加し、均一溶液を得ることが好ましい。次に1つ以上の薬物を添加し、その後に、約8〜約15の間の範囲にあるHLB値を有する混合物を形成するように、透明な溶液が得られるまでさらに撹拌する。混合の際、溶液への空気の混入は避けるべきであることに留意すべきである。
【0024】
親油性薬物を有する組成物の経口投与のためには、組成物は、密封された軟カプセル剤または硬カプセル剤に入れられることが好ましい。カプセル剤とは、典型的には、在中物を放出するGI管の特定の領域において溶解するものである。そのようなカプセル剤の例としては、腸溶コーティングされた軟ゼラチンプセルまたは硬ゼラチンカプセルが挙げられる。それ自体が公知である腸溶コーティングは、胃液での溶解には耐えるが腸内では分解する物質またはその組み合わせを用いるコーティングである。
【実施例】
【0025】
本願発明は、次の非限定的な分析手法およびそこから得られる結果において、より詳細に説明される。
【0026】
(実施例1)
【表1】

【0027】
シクロスポリンをTween80およびエタノールに添加し、それらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤F(I)−1およびF(I)−2は、それぞれ14.0および13.9のHLB値を有する。2つの製剤のそれぞれ975.6mgおよび999mgの透明な溶液を、さらなる試験のためにカプセルの中に充填した。
【0028】
(実施例2)
【表2】

【0029】
シクロスポリンをLabrasolおよびエタノールに添加し、それらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤F(I)−3は、13.1のHLB値を有する。この製剤の975mgの透明な溶液を、さらなる試験のためにカプセルに充填した。
【0030】
(実施例3)
【表3】

【0031】
シクロスポリンをLabrafil M2125CS、Tween80、およびエタノールに添加し、これらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤F(II)−1、F(II)−2、およびF(II)−3は、それぞれ13.1、12.2、および11.3のHLB値を有する。この3つの製剤のそれぞれ1060mg、1165mg、および1300mgの透明の溶液を、さらなる試験のためにカプセルの中に充填した。
【0032】
(実施例4)
【表4】

【0033】
シクロポリンをプロピレングリコール、Tween80、およびエタノールに添加し、これらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤F(III)−1、F(III)−2、およびF(III)−3は、それぞれ、13.0、12.4、および12.0のHLB値を有する。この3つの製剤のそれぞれ1165mg、1300mg、および1430mgの透明な溶液を、さらなる試験のために、カプセルの中に充填した。
【0034】
(実施例5)
【表5】

【0035】
シクロポリンをLabrafil M1944CS、Tween80、およびエタノールに添加し、これらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤F(IV)−1、F(IV)−2、およびF(IV)−3は、それぞれ13.1、12.2、および11.3のHLB値を有する。この3つの製剤のそれぞれ1060mg、1165mg、および1300mgの透明な溶液を、さらなる試験のためにカプセルの中に充填した。
【0036】
(実施例6)
【表6】

【0037】
シクロポリンをLabrafil M1944CS、Tween80、およびエタノールに添加し、これらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤F(V)−1、F(V)−2、およびF(V)−3は、それぞれ、13.6、12.2、および11.3のHLB値を有する。この3つの製剤のそれぞれ1011.5mg、1050mg、および1049.5mgの透明な溶液を、更なる試験のために、カプセルの中に充填した。
【0038】
(実施例7)
【表7】

【0039】
タクロリムスをLabrafil M1944CS、Tween80、およびエタノールに添加し、これらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤タクロリムスF(I)は、11.3のHLB値を有する。この製剤の70mgの透明な溶液を、さらなる試験のために、カプセルの中に充填した。
【0040】
(実施例8)
【表8】

【0041】
タクロリムスをTween80、およびエタノールに添加し、これらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた製剤タクロリムスF(II)は、14.1のHLB値を有する。この製剤の350mgの透明な溶液を、さらなる試験のために、カプセルの中に充填した。
【0042】
(実施例9)
【表9】

【0043】
ケトプロフェンをTween80、およびエタノールに添加し、これらと混合し、この混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られたケトプロフェン製剤は14のHLB値を有する。この製剤の976mgの透明な溶液を、さらなる試験のために、カプセルの中に充填した。
【0044】
(実施例10 溶解試験)
溶解試験は、次の手順で実施した。
機器:Logan UDT−804(USA)
溶媒:900mlの蒸留水に、37%濃HClを8.5ml添加し、その後、この溶液を均一に撹拌および混合し、総体積を1Lに到達させることによって500mlの0.1N HCL溶液を準備した。
USP装置2(パドル):50rpm
温度:37±0.5℃
サンプリング時間(分):7、15、30、45、60、90、および120
手順:
i.500mlの0.1N HCl溶液を6つの各溶解容器に注ぎ、予熱した。水槽の温度を37±0.5℃に維持し、溶解試験器の撹拌装置を必要に応じて設定した。
ii.溶解溶媒の温度を温度計で測定した。温度が37±0.5℃に達すると、溶解試験を実施した。
iii.各製剤のカプセル1つを、溶解容器の中へ落とした。
iv.次の時点において試料を収集した:7分、15分、30分、45分、60分、90分、および120分。
v.試料は、0.45μmのボアサイズを有するPVDFでできたフィルタを用いて濾過し、次に、サンプルの薬物濃度をHPLCで測定した。
【0045】
HPLC測定は、次の機器および条件にて実施した:
i.移動相: 蒸留水:アセトニトリル:メチルtert−ブチルエーテル:リン酸(v/v/v/v)=440:510:45:1の混合物を調製した。この混合物は、0.45μmのボアサイズを有するナイロン66でできたフィルタを用いて濾過した。この混合物を、液体に含有された気体が除去されるように、超音波処理機によって、少なくとも30分間にわたって超音波処理した。
ii.ポンプ(ポンプL−7100、HITACHI、日本)−流量:1.5ml/分。
iii.検出器(UV検出器L−7400、HITACHI、日本)−波長:210nm。
iv.試料バイアルを、オートサンプラー(オートサンプラーL−7200、HITACH、日本)の試料棚の上に置き、注入量を20μlに設定した。
v.カラム: USPパッキングL1を含む4.6mm×250cmカラム
vi.カラム温度:カラムを80℃のカラムオーブンに置いた。
【0046】
図1から図5の溶解試験の結果が示すように、本願発明に基づいて調製された医薬品は、効率よく溶解およびそこから放出でき、この溶解は、薬物送達系のHLB値を調整することで管理できる。
【0047】
(実施例11 マイクロエマルジョンの粒径の測定)
0.1N HCl溶液(人工胃液)中の実施例3から実施例8の製剤によって形成されたマイクロエマルジョンの粒径を、次の手順で測定した:
i.500mlの0.1N HCl(溶解媒体)を溶解容器に注ぎ、37℃まで加熱した。
ii.温度が37℃に達すると、各製剤の溶液1mlを溶解容器に添加した。
iii.混合物を、パドルで、50rpmの速度で、30分間にわたって撹拌した。
iv.約3mlの混合物を取り、試料キュベットの中に添加し、次に、形成されたマイクロエマルジョンの粒径を、製造者より提供されたマニュアルに記載された指示に従って、動的光散乱検出器(Zetasizer3000,Malvern Inst.,英国)で測定した。
【0048】
本願発明の製剤によって形成されたマイクロエマルジョンの粒径の結果は、表1に示されている。
表1
【0049】
【表10】

【0050】
表1に示されるように、様々なエタノールの割合と1つの界面活性剤とを有する実施例1のシクロスポリン製剤は、全て自然発生的に人工胃液の中でマイクロエマルジョンを形成した。様々な種類および割合の界面活性剤ならびに8〜15の間のHLB値を有する実施例4から実施例6のシクロスポリン製剤は、全て自然発生的に人工胃液の中でマイクロエマルジョンを形成できる。様々な薬物を有する実施例7から実施例9の製剤は、全て良好な自己乳化能力を示している。上述の結果は、本願発明の薬物送達系は、様々な薬物または活性成分に適用できることを示唆している。
【0051】
(実施例12 安定性試験)
0.1N HCl溶液(人工胃液)中の実施例3から実施例8の製剤によって形成されたマイクロエマルジョンの粒径を、次の手順で測定した。
【0052】
安定性試験をICHガイドラインに基づいて実施した。F(V)−3を充填したカプセルを、25℃/60%±5%RH、30℃/60%±5%RH、40℃/75%±5%RHに設定された3つの異なる温度および湿度を有する異なる恒温恒湿器に別々に置いた。主成分の残留量を、上述のHPLC法に基づいて、0ヶ月、2ヶ月、および3ヶ月間の保存後に分析した。試験の結果は、表2に示されている。
【0053】
【表11】

【0054】
表2に示されるように、本願発明の医薬組成物中の活性成分は、長期保存後も極めて安定しており、40℃の温度下でも安定している。
【0055】
(実施例13 経口の生物学的利用能試験)
生物学的利用能試験は、3人の健康な若い男性志願者において、F(I)−1(硬カプセル剤)、F(I)−1(軟カプセル剤)、F(V)−3を含有するシクロスポリン薬物のそれぞれについて実施した。一晩の絶食後、試験製剤の1回分の服用量を志願者に投与し、被検者の血液試料を、服用前(0時間後)、ならびに服用の0.5時間後、1時間後、1.33時間後、1.67時間後、2時間後、2.5時間後、3時間後、4時間後、6時間後、9時間後、12時間後、および24時間後に採取した。シクロスポリンの血漿濃度を、高速液体クロマトグラフィーおよび質量分析法(LC−Mass)によって測定した。
【0056】
図6は、全てのシクロスポリン製剤(I)−1および(V)−3がヒトにおいて、シクロスポリンの良好な経口生物学的利用能を有することを明らかにしている。
【0057】
(参考文献)
米国特許第6,436,430B1号明細書
米国特許第6,312,704B1号明細書
米国特許第6,057,289号明細書
米国特許第5,965,160号明細書
米国特許第5,993,858号明細書
米国特許第6,054,136号明細書
米国特許第6,458,373B1号明細書
米国特許第6,596,306B1号明細書
米国特許第6,638,522B1号明細書
米国特許第7,094,804B2号明細書
米国特許第6,960,563B2号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の生物学的利用能を向上する経口投与用の医薬組成物であって、治療上有効量の親油性薬物、1つ以上の親水性担体、および1つ以上の界面活性剤を含み、前記組成物のHLB値は約8〜約15の範囲にあるが、ただし、前記組成物は油相を含有しない経口投与用の医薬組成物。
【請求項2】
前記薬物は、免疫薬、抗感染薬、抗高血圧薬、または血中脂質低下薬である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記薬物は、シクロスポリン、タクロリムス、イブプロフェン、ケトプロフェン、ニフェジピン、アムロジピン、またはシンバスタチンである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記親水性の担体は、エタノール、イソプロパノール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン、プロピレングリコール、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびその混合物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤は、約2〜約18の範囲のHLB値を有する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記界面活性剤は、PEG40硬化ヒマシ油、ポリソルベート、コカミドプロピルベタイン、グリセリル・ココエート、PEG6カプリル/カプリングリセリド、ポロキサマー、Labrafil M1944CS、Labrafil M2125CS、Labrasol、Cremophor EL、Cremophor RH、Brij、Spanおよびその混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物は、水系溶液に接触すると、約800nm未満の粒径のエマルジョン/マイクロエマルジョンを形成する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記薬物は、前記組成物の約0.1重量%〜約50重量%の量で存在する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記親水性担体は、前記組成物の約1重量%〜約30重量%の量で存在する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記界面活性剤は、前記組成物の約10重量%〜約90重量%の範囲の量で存在する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の経口投与用の組成物のエマルジョン/マイクロエマルジョン。
【請求項13】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物の調製方法であって、前記親油性薬物と、前記親水性担体と、前記界面活性剤とを撹拌によって混合する工程を含む、医薬組成物の調製方法。
【請求項14】
約8〜約15の範囲のHLB値を有する前記組成物が得られるように、前記溶媒担体および前記界面活性剤を含む混合物の中に前記薬物を溶解する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物を密封された軟カプセル剤または硬カプセル剤に入れる工程をさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記薬物は、シクロスポリン、タクロリムス、イブプロフェン、ケトプロフェン、ニフェジピン、アムロジピン、またはシンバスタチンである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記親水性の担体は、エタノール、イソプロパノール、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール、およびその混合物からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤、およびその混合物である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記界面活性剤は、約2〜約18の範囲のHLB値を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記界面活性剤は、PEG40硬化ヒマシ油、ポリソルベート、コカミドプロピルベタイン、グリセリル・ココエート、PEG6カプリル/カプリングリセリド、ポロキサマー、Labrafil M1944CS、Labrafil M2125CS、Labrasol、Cremophor EL、Cremophor RH、Brij、Span、およびその混合物からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記薬物は、前記組成物の約0.1重量%〜約50重量%の量で存在する、請求項13から請求項20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記親水性担体は、前記組成物の約1重量%〜約30重量%の量で存在する、請求項13から請求項20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記界面活性剤は、前記組成物の約10重量%〜約90重量%の量で存在する、請求項13から請求項20のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−132712(P2009−132712A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−298513(P2008−298513)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(508346686)イノファーマックス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】