産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造
【課題】フランジ部分におけるゴム製シール部材から滲出した潤滑油がエンドエフェクタやワーク等に付着することを防止する。
【解決手段】内輪16aと外輪16bの間にはオイルシール25が設けられ、油吸収部材26がオイルシール25外側端面を塞ぐように設けられている。この油吸収部材26は、合成樹脂製で可撓性を有する帯状のホルダ27と、合成樹脂製で帯状の結束バンド28とで取り付けられている。ホルダ27は、ホルダ本体27aに多数の櫛歯板部27bを有し、さらに、断面凸状のビード部27cを有する。このビード部27cを外輪16bの第1の外輪部16b1及び第2の外輪部16b2の接合部外周部に存在する環状凹部16kに嵌合させた形態で、ホルダ27を外輪16bに巻回して櫛歯板部27bを油吸収部材26の端面に当て、結束バンド28により外輪16bに締付固定する。
【解決手段】内輪16aと外輪16bの間にはオイルシール25が設けられ、油吸収部材26がオイルシール25外側端面を塞ぐように設けられている。この油吸収部材26は、合成樹脂製で可撓性を有する帯状のホルダ27と、合成樹脂製で帯状の結束バンド28とで取り付けられている。ホルダ27は、ホルダ本体27aに多数の櫛歯板部27bを有し、さらに、断面凸状のビード部27cを有する。このビード部27cを外輪16bの第1の外輪部16b1及び第2の外輪部16b2の接合部外周部に存在する環状凹部16kに嵌合させた形態で、ホルダ27を外輪16bに巻回して櫛歯板部27bを油吸収部材26の端面に当て、結束バンド28により外輪16bに締付固定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば産業用の6軸ロボットでは、最終段アーム(第6軸)の前段アームであるいわゆる手首(第5軸)に、前記最終段アームとしてエンドエフェクタ取付用フランジ(以下フランジという)を備えており、このフランジはモータ及び減速機により回転される。そして、上記フランジは、前記手首側のフレームとの間に軸受部材を介して回転可能に支持されている。さらにこのフランジと前記手首側のフレームとの間には、前記軸受部材よりフランジ先端側に位置してオイルシールやOリングなどのゴム製シール部材を介在させていて、これにより、前記減速機や前記軸受部材に潤滑のために注入したグリスなどの潤滑油がフランジ外部に漏れ出ないようにしている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−14104号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでロボットが所定の挙動を繰り返し実行すると、当該ロボットにおける上記モータや減速機、さらにはフランジや手首部分の摺動部分が温度上昇して、前記潤滑油が低粘性化し、さらに、最終段アームであるフランジが、ロボット挙動により外側へ振られる動きをするため、前記低粘性化した潤滑油が、当該ロボット挙動によってゴム製シール部材方向へ付勢されて移動し、そして微量ながら該ゴム製シール部材部分からフランジ外へ滲出する可能性が無いとは言えない。
【0005】
この滲出した低粘性の潤滑油を放置しておくと、ロボットの最終段アームであるフランジの外部にはエンドエフェクタとしてのハンドなどが取り付けられていてワークも把持される状況であるため、上述の滲出潤滑油がフランジの前記外側へ振られる挙動によってハンドやワークに飛散付着する事態も想定される。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フランジ部分におけるゴム製シール部材から滲出した潤滑油がエンドエフェクタやワーク等に付着することを回避できる産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は次の点に着目してなされたものである。まず、前記フランジ部分におけるゴム製シール部材の構造を詳しく示す図15において、フランジ101は、クロスローラベアリング102の内輪103における外輪104からの突出部分から構成され、このクロスローラベアリング102は当該内輪103と外輪104と多数のころ105とから構成されている。前記外輪104は手首106に連結されている。前記フランジ101(内輪103)は通常ハーモニック減速機107の出力段であるフレクスプライン108に連結されている。なお前記ハーモニック減速機107の摺動部分や前記ころ105にはグリスなどの潤滑油が充填されている。そして、前記クロスローラベアリング102においてフランジ101と外輪104の間にはゴム製シール部材としてオイルシール109が配設されている。
【0008】
ここで、前述したようにオイルシール109外部に前記潤滑油が滲出した場合の対応策として、本発明者は、図16に示すように、上記潤滑油を吸収するフェルトなどの油吸収部材110を前記オイルシール109外面側に配置し、この油吸収部材110の端面を、全体としてほぼ円環状をなす堅牢な金属製ホルダ111で押さえる構成を案出した。この場合、ホルダ111はその大きさ(外径など)を前記クロスローラベアリング102に合わせた形状とし、ねじ112により手首106に径方向からねじ止めする。
【0009】
ところで、上記構成では、ロボットの機種によってクロスローラベアリング102の大きさが変わると、これに対応して油吸収部材110及びホルダ111の形状・大きさも変更する必要が生じ、この場合、油吸収部材110は、フェルトなどから構成されるので、変更先形状・大きさへの切り出し加工自体が極めて容易であるが、上述の金属製ホルダ111では、各機種ごとに、設計変更や機械加工をしなければならず、製造コストが高く、そして、各機種ごとに異なるこのコスト高のホルダ111を用意しなければならない。さらに、ホルダ111をねじ112止めする構成では、手首106などのロボット側に雌ねじ106aなどの加工を施す必要があって、前記油吸収部材110及びホルダ111を既存のロボットに追加する場合には、実際上困難である。
【0010】
上述の事情を踏まえ、本発明者はさらに安価で使い勝手の良い油止め防止構造を模索した。特に、油吸収部材110を保持するホルダについて安価で製造性向上の点を探求したところ、ホルダを、最初から円環状をなすのではなく、最初は可撓性のある直線帯状をなす合成樹脂製の長尺部材から構成し、これをクロスローラベアリングに巻回し、この巻回状態で、その外周から合成樹脂製のバンドによって油吸収部材110を保持する構成を考えてみた。このようにすれば、ロボットの機種によってクロスローラベアリングの大きさが異なっても、当該長尺部材の長さを予め適宜長さに切断(合成樹脂であるから切断も容易である)すれば良い。
【0011】
しかし、この場合、図17で示すように、上記長尺部材(符号113で示す)において油吸収部材110の端面を押さる押さえ部114やこれに連続する部分を、平板状に作ってしまうと、上述の巻回は到底行えない。
【0012】
そこで、図18及び図19に示すように、上記押さえ部114を櫛歯状とすることで、直線帯状から円環状にした場合でも、油吸収部材110端面を保持できるようにできた。
ところが、この場合、次の不具合がある。上述した図18、図19の長尺部材113を、実際にロボットのクロスローラベアリング102の外輪104に巻回しバンド締めすると、ロボットの長期稼働によって長尺部材113が僅かに矢印Q方向にずれることがあった。
【0013】
ここで、実際のロボットのクロスローラベアリング102を検証したところ、該クロスローラベアリング102の外輪104の外周面に深さの浅い環状凹部104kが存在するが手触りにより判明した。この環状凹部104kのような線が外輪104外周面に入る理由としては、産業用ロボットの最先端に回転するフランジがあるものでは、それを回転させるためのころやボールといった軸受の回転部材を外輪104内に入れるために外輪104を2分割接合形とする必要から、上述の環状凹部104kのような線が形成されることに気が付いた。そして、この環状凹部104kが、凹状をなす理由は、前記分割部品104A、104Bの外周面角部が面取りされて、その面取り部が近接してるためであり、この面取りはバリ除去や怪我防止のため通常の機械部品には必ず形成されるものであり、上記環状凹部104kは必ず存在するものである。このように本発明者は、産業用ロボット全般においては、フランジを備えている以上前記環状凹部104kは必ず存在することに気がついた。
【0014】
この点に着目して、本発明者は、この環状凹部104kを、前記長尺部材113の軸方向ずれの防止に利用することを考え、図20に示すように、前記長尺部材113の内面に上記環状凹部104kと嵌合する凸状のビード部113aを形成し、このビード部113aを前記環状凹部104kに嵌合させた形態で長尺部材113をクロスローラベアリング102に巻回しバンド締めすることで上述の軸方向ずれも防止できる。
【0015】
上述の経緯を経て案出された請求項1の発明の産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造は、内輪と、軸方向に2分割された第1の外輪部及び第2の外輪部を有する外輪と、前記内輪と前記第1の外輪部及び第2の外輪部との間に保持されたころとから構成され、前記内輪及び外輪が相対的に回転可能なクロスローラベアリングを備え、このクロスローラベアリングの前記内輪が最終段アームとしてのエンドエフェクタ取付用フランジを構成し、前記外輪がエンドエフェクタ取付用フランジの前段となる前段アームに固定され、前記エンドエフェクタ取付用フランジは前記前段アーム内に設けたモータ及び減速機により回転され、前記内輪と前記外輪との間のうち前記外輪の軸方向先端側の部分にゴム製シール部材を介在させた産業用ロボットであって、前記ゴム製シール部材を覆う環状の油吸収部材と、合成樹脂製で可撓性を有する帯状のホルダと、合成樹脂製で帯状の結束バンドとを備え、前記ホルダは、前記クロスローラベアリングの前記外輪の外周面に巻回される長尺平板面を有するホルダ本体と、このホルダ本体における長手方向に沿う一方の縁部から相互に隙間をおいて突出し先端部分が前記ホルダ本体の板面とほぼ直角をなす多数の櫛歯板部と、前記ホルダ本体にあって該櫛歯板部の突出方向側の面部に設けられ長尺方向に延びる断面凸状のビード部とを一体に有して構成され、前記環状の油吸収部材を前記エンドエフェクタ取付用フランジに嵌合させて該油吸収部材により前記ゴム製シール部材を覆い、前記ホルダの前記ビード部を前記外輪の第1の外輪部及び第2の外輪部の接合部外周部に存在する環状凹部に嵌合させた形態で、該ホルダを前記外輪に巻回して前記櫛歯板部を前記油吸収部材の他端面に当て、前記結束バンドにより前記巻回状態のホルダを前記外輪に締付固定してなることを特徴とするところに特徴を有する。
【0016】
上記請求項1においては、油吸収部材を、これがゴム製シール部材を覆うように配置保持するから、エンドエフェクタ取付用フランジのゴム製シール部材から潤滑油が滲出することがあっても、ハンドなどのエンドエフェクタやワークに潤滑油が飛散付着することがない。
【0017】
しかも、油吸収部材を配置保持するについて、ホルダを外輪にその外側から巻回し、結束バンドで固定することで前記油吸収部材の配置保持ができるから、ロボットの機種によってクロスローラベアリングの大きさが異なっても、前記ホルダの巻回長さが変わるだけであり、当該ホルダの長さを予め長めに設定しておけば、当該ホルダを適当な長さに鋏などにより切断することで一種類のホルダ及び結束バンドで、油吸収部材を保持できる。この結果、ロボットの機種ごとに異なる大きさのホルダを用意する必要がなく、メーカー側での部品管理の煩わしさを軽減できる。
【0018】
さらに、クロスローラベアリングの外輪外周部に存在する環状凹部に、ビード部を嵌合させるから、当該環状凹部を利用してホルダの軸方向のずれを防止できる。
そしてこの場合、前記櫛歯板部は相互に隙間があるが、ホルダの巻回によってホルダ本体が湾曲することでその先端部が相互に近づくため、油吸収部材をほぼ全面的に押さえることができる。
【0019】
この場合、前記油吸収部材は有端環状に形成しても良い(請求項2の発明)。このようにすると、前記油吸収部材を両端部で拡げてエンドエフェクタ取付用フランジにその外周面側から嵌合させてゴム製シール部材端面に配置できるから、エンドエフェクタ取付用フランジ先端にハンドなどのエンドエフェクタを取り付けた状態でも、該油吸収部材の取付が可能となり、油吸収部材取り付けのためにわざわざエンドエフェクタを取り外さずに済む。
【0020】
又、前記ホルダ本体において前記ビード部と反対側の面部に、前記結束バンドが挿通可能で該ホルダ本体からの離脱を阻止する門型のバンド挿通部を前記ビード部と対応して複数設けても良い(請求項3の発明)。このようにすると、ホルダに結束バンドを付設させておくことができ、該ホルダの巻回作業時におけるバンドの落ち止めを図ることができ、しかも、該ホルダの巻回作業が極めて容易となる。つまり、ホルダと結束バンドとが別々であると、ホルダを外輪の外周面に巻回させた状態を保持しつつ、結束バンドが落ちないように配慮しつつ当該結束バンドをホルダ外側に巻回し締結しなければならず、しかも、作業空間が狭い場合にはこの巻回作業は極めて困難であるが、この請求項3では、結束バンドを外輪の外周面に巻回すれば、その内側のホルダも自ずと外輪の外周面に巻回されることとなり、狭い作業空間であったとしても巻回作業が極めて容易となる。さらに、門型のバンド挿通部が前記ビード部と対応して設けられているから、このバンド挿通部に挿通された結束バンドが締結されると、ビード部を環状凹部に強く嵌合させることになり、ビード部と環状凹部との嵌合保持の強化を図ることができ、前述のホルダずれ防止を一層確実化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、油吸収部材取り付け状態でのフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図2】同じく油吸収部材取り付け状態でのフランジ及び手首部分の斜視図
【図3】油吸収部材取り付け状態でのフランジ部分の正面図
【図4】ホルダ及び油吸収部材部分の縦断側面図
【図5】(a)は油吸収部材の正面図、(b)は側面図
【図6】ホルダの斜視図
【図7】ホルダの正面図
【図8】ホルダの下面図
【図9】(a)は結束バンドの側面図、(b)は下面図
【図10】ホルダ巻回の様子を示す斜視図
【図11】油吸収部材取り付け前の状態でのフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図12】同じく油吸収部材取り付け前の状態でのフランジ及び手首部分の斜視図
【図13】ロボットの斜視図
【図14】本発明の第2実施形態を示す図1相当図
【図15】参考例(その1)を示すフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図16】参考例(その2)を示すフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図17】ホルダの斜視図
【図18】参考例(その3)を示すホルダを斜視図
【図19】フランジ及び手首部分の縦断側面図
【図20】参考例(その4)を示すフランジ及び手首部分の縦断側面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図13を参照しながら説明する。尚、ここでは、可搬重量20kg以下(例えば10kg)の小型産業用ロボット、例えば6軸の垂直多関節型ロボットを具体例としている。図13は、ロボット1の外観(正面やや上部右寄りから見た様子)を概略的に示している。このロボット1は、ベース2上に6軸のアームを備えて構成され、それらアームは、次のように、関節部を介して順次回動可能に連結されている。
【0023】
即ち、前記ベース2上には、ショルダ部3が、垂直方向に延びる回動軸J1を中心に水平方向に旋回可能に連結され、このショルダ部3には、図で上方に延びる下アーム4が、水平方向に延びる回動軸J2を中心に上下方向に旋回可能に連結されている。前記下アーム4の先端部には、第1の上アーム5が、水平方向に延びる回動軸J3を中心に上下方向に旋回可能に連結され、この第1の上アーム5の先端部には、第2の上アーム6が、回動軸J4を中心に同軸回転可能に連結されている。
【0024】
第2の上アーム6の先端には、手首7が、回動軸J5を中心に上下方向に回動可能に連結され、前記手首7の先端には、エンドエフェクタ取付用フランジ8(以下フランジ8)が、回動軸J6を中心に同軸回転可能に連結されている。前記フランジ8には、図示しないハンド等のツールが取付けられる。前記フランジ8は最終段アームに相当し、手首7は当該最終段アームの前段の前段アームに相当する。
【0025】
前記手首7及びフランジ8部分の構成を図11及び図12に示している。手首7のフレーム7aには減速機としてのハーモニック減速機9が設けられている。このハーモニック減速機9は、主要構成品として、サーキュラスプライン10と、フレクスプライン11と、ウェーブジェネレータ12とを有して構成されている。
【0026】
前記サーキュラスプライン10は、前記手首7の円筒状をなすフレーム7aにねじ13により固定されている。このサーキュラスプライン10は、環状をなし内周に内歯10aを有する。
【0027】
前記フレクスプライン11は、薄肉カップ状の弾性を有する有底円筒状の金属からなり、その開口部外周に所定数の外歯11aが形成されている。この外歯11aは前記サーキュラスプライン10の内歯10aより二つ少ない。
【0028】
前記ウェーブジェネレータ12は楕円状カム14の外周に弾性変形可能に構成されたボールベアリング15を装着してなる。このボールベアリング15の内輪は前記楕円状カム14に固定され、外輪は楕円状カム14の回転に応じて弾性変形する。前記ウェーブジェネレータ12の楕円状カム14はその中心部に軸ボス14aが形成されている。
【0029】
前記フレクスプライン11はその外歯11aが前記サーキュラスプライン10の内歯10aに噛合するように該サーキュラスプライン10内に配置(内挿)されており、このフレクスプライン11の底部は後述するクロスローラベアリング16の内輪(出力軸に相当)16aにねじ17により連結されている。
【0030】
前記ウェーブジェネレータ12はフレクスプライン11の外歯11a内面部分に装着(内挿)されており、楕円状カム14の軸ボス14aは、入力軸であるサーボモータ18の回転軸18aにキー18bにより一体回転可能に連結され、端押さえ19及びねじ20により抜け止めされている。このサーボモータ18は、前記手首7の円筒状をなすフレーム7aに取り付けられたサーキュラスプライン押さえ21に、取り付けられている。
【0031】
前記クロスローラベアリング16は、前記内輪16aと、外輪16bと、この内輪16a及び外輪16b間に回転自在に保持された複数のころ16cとから構成されている。そして、前記外輪16bは、前記ころ16c組み込みのために軸方向に2分割されていて、第1の外輪部16b1と第2の外輪部16b2とを有する。これら第1の外輪部16b1と第2の外輪部16b2とはねじ23により相互に連結されて外輪16bを構成しており、この外輪16bはねじ24により手首7のフレーム7a端面に固定されている。
【0032】
この外輪16bにおいて第1の外輪部16b1と第2の外輪部16b2との接合部の外周部には、V形の環状凹部16k(図4にも図示)が存在する。この環状凹部16kは第1の外輪部16b1及び第2の外輪部16b2の角部が面取りされていることにより形成されたものである。
【0033】
さらにこの内輪16aは外輪16bよりも外方へ突出しており、この内輪16aを前記フランジ8としている。このフランジ8の先端面にはハンドなどのエンドエフェクタが取り付けられるものであり、そのために雌ねじ24や位置決めピン孔24a(図3参照)が形成されている。
【0034】
ここでハーモニック減速機9の噛合部や前記ころ16c部分には潤滑のためにグリスなどの潤滑油が充填されている。
そして、前記内輪16aと前記外輪16bとの間のうち前記外輪16bの軸方向先端側の部分には、図4にも示すように、内部に内周側及び外面側が開放する凹部16dを有するシールハウジング部16eが形成されており、ゴム製シール部材に相当するオイルシール25がこのシールハウジング部16eに挿入配設されており、もって、オイルシール25が内輪16a及び外輪16b間に介在されている。
【0035】
上述のハーモニック減速機9は、フレクスプライン11とサーキュラスプライン10とが180度対象の2か所のみで噛み合っており、ウェーブジェネレータ12が回転すると、フレクスプライン11とサーキュラスプライン10との噛み合い位置が回転して移動する。この場合、フレクスプライン11の歯数はサーキュラスプライン10の歯数よりも二つ少なく形成されているので、フレクスプライン11はウェーブジェネレータ12の回転方向と反対方向に歯数差の2つ分だけ回転し、その回転が出力となり、前記クロスローラベアリング16の内輪16aつまりフランジ8に伝達される。
【0036】
ここで、前述したオイルシール25の露出側の端面には、当該オイルシール25から外部に滲出した潤滑油が飛散することがないように、図1ないし図3に示すように、例えばフェルトからなる油吸収部材26がホルダ27及び結束バンド28により動き止め状態に設けられている。
【0037】
前記油吸収部材26は、油を吸収可能なフェルトからなり、図5(a)、(b)に示すように、有端環状に形成されている。この油吸収部材26の一面には、通油性の無い薄膜部26aが形成されている。この油吸収部材26の内径寸法は前記フランジ8の外径寸法とほぼ同等に設定され、又、油吸収部材26の外径寸法は、前記シールハウジング16eの外径寸法より若干大きめに設定されている。
【0038】
前記ホルダ27は、合成樹脂からなり、図6ないし図8に示すように、製作時点では全体として長尺な帯状をなしている。そして、このホルダ27は、ホルダ本体27aと、複数の櫛歯板部27bと、ビード部27cとを一体に有して構成されている。前記ホルダ本体27aは、長尺平板状をなしていて長尺平板面27a3(図3参照)を有し、前記クロスローラベアリング16の前記外輪16bの外周面に巻回されるものである。前記櫛歯板部27bは、このホルダ本体27aにおける長手方向に沿う一方の縁部27a1から相互に隙間をおいて突出している。
【0039】
そしてこの櫛歯板部27bは、前記ホルダ本体27aの板面と面一な第1の部分27b1と、この第1の部分27b1と直角をなす第2の部分27b2と、この第2の部分27b2から前記ホルダ本体27aと平行な向きに突出する第3の部分27b3と、この第3の部分27b3から直角方向に突出する第4の部分27b4とからなる。従って、当該櫛歯板部27bにおける先端部である第4の部分27b4は、前記ホルダ本体27aの板面27a3とほぼ直角をなすように屈曲されている。
【0040】
又、前記ビード部27cは、前記ホルダ本体27aにあって該櫛歯板部27bの突出方向側の面部27a2(図8参照)に、断面形状が凸状をなして、長尺方向に延びるように形成されている。
【0041】
さらに前記ホルダ本体27aにおいて前記ビード部27cと反対側の面部である前記板面27a3(図6参照)には、前記結束バンド28が挿通可能で該ホルダ本体27aからの離脱を阻止する門型のバンド挿通部27dを前記ビード部と対応して複数例えば3個設けられている。なお、このバンド挿通部27dと対向する部位には型抜き孔27eが形成されている。
【0042】
上述したホルダ27は、可撓性があり、又、鋏などの工具・道具を用いて切断容易である。
又、前記結束バンド28は、図9に示すように、合成樹脂からなり、一端部には、他端部の挿通が可能な環部28aが形成されており、この環部28aには係止部28bが形成されている。さらにこの結束バンド28の一面には前記係止部28bに選択的に係止される被係止片部28cが多数形成されている。この結束バンド28も可撓性があり、又、鋏などの工具・道具を用いて切断容易である。
【0043】
さて、前記油吸収部材26を前記オイルシール25部分に取り付ける手順について説明する。ホルダ27の長さが外輪16bの外周長さとほぼ合致すれば、切断による長さ調節はせず、又、ホルダ27の長さが外輪16bの外周長さより長いときには、適合長さとなるように切断しておく。さらに、ホルダ27のバンド挿通部27dに結束バンド28を挿通しておく。そして、前記油吸収部材26を、その一端面(前記薄膜部26aと反対側の面)が前記オイルシール25の外側端面(フランジ8先端側の端面)と向かい合うように、フランジ8にその先端側から嵌合させる。この場合該油吸収部材26の一端面とオイルシール25の外側端面とは接触しても良いし、若干離れても良く。このようにして油吸収部材26によりオイルシール25をこれよりもフランジ8先端側の位置で覆う。この場合、油吸収部材26をその両端部26b、26c(図5(a)参照)で拡げてフランジ8外周面側から当該フランジ8に嵌合させても良い。
【0044】
さらに、前記ホルダ27を外輪16bにその外周側から巻回し、結束バンド28の先端部を環部28aに挿通する(この状態を図10に示す)。
そして、前記ホルダ27の前記ビード部27cを前記外輪16bにおいて第1の外輪部16b1及び第2の外輪部16b2の接合部外周部に存在する環状凹部16kに嵌合させた形態で、前記結束バンド28の先端部を引いて締結し、該ホルダ27を前記外輪16bに巻回下状態に締め付け固定する。なお、結束バンド28の余った先端部分は適宜鋏などで切断する(その切断端を図2及び図3に符号28sで示している)。
【0045】
上述のホルダ27の取り付けにより、図1に示すように、前記櫛歯板部27bの先端部である第4の部分27b4が前記油吸収部材26の他端面である薄膜部26aに当てられ、そして、第3の部分27b3が油吸収部材26の外周面を押さえる。この結果、油吸収部材26が前記オイルシール25の一端面を塞ぐ形態に保持される。又、前記櫛歯板部27bは相互に隙間があるが、ホルダ27の巻回によってホルダ本体27aが湾曲することでその先端部が相互に近づくため(図3参照)、櫛歯板部27bが油吸収部材26をほぼ全面的に押さえる。
【0046】
又、図4に示すように、ホルダ27のビード部27cが環状凹部16kに嵌合しているから、ホルダ27がこの図4及び図1の矢印A方向(軸方向)へずれることはない。
上述した本実施形態においては、ロボット1が所定の挙動を繰り返し実行すると、該ロボット1におけるモータ18やハーモニック減速機9、さらにはフランジ8や手首7の摺動部分が温度上昇して、潤滑油が低粘性化し、さらに、フランジ8が、ロボット挙動により外側へ振られる動きをするため、前記低粘性化した潤滑油が、微量ながらオイルシール25からフランジ8外へ滲出することがある。
【0047】
しかし、本実施形態によれば、油吸収部材26によりオイルシール25を覆うように配置保持しているから、オイルシール25部分から潤滑油が滲出することがあっても、その浸出した潤滑油を油吸収部材26により吸収することができる。従って、ハンドなどのエンドエフェクタやワークに、浸出した潤滑油が飛散付着することがない。
【0048】
しかも本実施形態によれば、油吸収部材26をオイルシール25の一端面部分に配置保持するについて、ホルダ27を外輪16bにその外側から巻回し、結束バンド28で固定することで前記油吸収部材26の配置保持ができるから、ロボットの機種によってクロスローラベアリング16の大きさが異なっても、前記ホルダ27を適当な長さに鋏などにより切断することで一種類のホルダ27及び結束バンド28で、油吸収部材26を保持できる。この結果、ホルダ27として、予め想定されるロボットのうち大きめの機種に対応可能な長さのホルダ27を用意しておけば、上述した切断による長さ調整により、異なるロボットの機種に対応ができ、ロボットの機種ごとに異なる大きさのホルダ27を用意する必要がなく、メーカー側での部品管理の煩わしさを軽減できる。
【0049】
さらに本実施形態によれば、クロスローラベアリング16の外輪16b外周部に存在する環状凹部16kに、ビード部27cを嵌合させるから、当該環状凹部16kを利用してホルダ27の軸方向のずれを防止できる。
【0050】
なお、前記櫛歯板部27bが存在することでホルダ本体27aの湾曲が容易となるものであるが、櫛歯板部27b相互に隙間があることで油吸収部材26の保持面積の減少が懸念される。しかし、本実施形態によれば、ホルダ27の巻回によってホルダ本体27aが湾曲することで櫛歯板部27b先端部が相互に近づくため、油吸収部材26をほぼ全面的に押さえることができる。
【0051】
又、本実施例によれば、油吸収部材26を有端環状に形成したから、当該油吸収部材26を両端部26b、26cで拡げてフランジ8にその外周面側から嵌合させてオイルシール25端面に配置させることができ、従って、フランジ8先端にハンドなどのエンドエフェクタを取り付けた状態でも、当該油吸収部材26の取り付けが可能となり、油吸収部材26取り付けのためにわざわざエンドエフェクタを取り外さずに済む。
【0052】
又、本実施形態によれば、前記ホルダ本体27aにおいて前記ビード部27cと反対側の面部に、前記結束バンド28が挿通可能で該ホルダ本体27aからの離脱を阻止する門型のバンド挿通部27dを前記ビード部27cと対応して複数設けたから、結束バンド28をこのバンド挿通部27dに挿通することで、ホルダ27に結束バンド28を付設させておくことができ、該ホルダの巻回作業時におけるバンドの落ち止めを図ることができる。従って、該ホルダ27の巻回作業が極めて容易となる。つまり、ホルダ27の巻回時にホルダ27と結束バンド28とが別々であると、ホルダ27を外輪16bの外周面に巻回させた状態を保持しつつ、結束バンド28が落ちないように配慮しつつ当該結束バンド28をホルダ27外側に巻回し締結しなければならず、しかも、作業空間が狭い場合にはこの巻回作業は極めて困難であるが、この実施形態では、結束バンド28を外輪16bの外周面に巻回すれば、その内側のホルダ27も自ずと外輪16bの外周面に巻回されることとなり、狭い作業空間であったとしても巻回作業が極めて容易となる。さらに、門型の結束バンド28が前記ビード部27cと対応して設けられているから、図4からも分かるように、このバンド挿通部27dに挿通された結束バンド28が締結されると、ビード部27cを環状凹部16kに強く嵌合させることができ、ビード部27cと環状凹部16kとの嵌合保持の強化を図ることができ、前述のホルダ27のずれ防止を一層確実化できる。
【0053】
なお、本発明の実施形態は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変更することができる。例えば、ホルダの櫛歯板部は、本発明の第2実施形態として示す図14に示す櫛歯板部27bのように、ホルダ本体27aの板面と面一な第1の部分27bAと、この第1の部分27bAと直角をなす第2の部分27bBとから、いわゆるL状に構成するようにしても良い。
【0054】
又、上記実施形態では、前記オイルシール25がクロスローラベアリング16の内輪16aと外輪16bとの間のうち、前述した図1のように、クロスローラベアリング16の内輪16aと外輪16bとの間のうち最先端側(外側)に設けられた構成を示したが、このオイルシール25の位置は、図1よりはさらに奥側の位置(ころ16cに接近する位置)に設けられる構成も考えられる。また、前記クロスローラベアリング16の内輪16aの外周面及び外輪16bの内周面が段付き形状で両者間の隙間が断面クランク形状となっているような場合もあり、この場合には、その段部部分に前記オイルシール25が配設される構成も考えられる。これらの場合には、オイルシール25から滲出した潤滑油の通路となる前記内輪16a及び外輪16b間の隙間のうち内輪先端面部分で、前記油吸収部材26をフランジ8に嵌合させることで、この場合も、該油吸収部材26によりも前記オイルシール25の外側端面をこれよりフランジ8先端側の位置で覆う構成となり、潤滑油の飛散防止を図り得る。
【0055】
又、上記実施形態では前記内輪16aから構成されるフランジ8の先端面が、外輪16bの先端面より突出する構成を例示したが、これらフランジ8の先端面と外輪16b先端面とは軸方向で揃っていて、フランジ8先端面に該軸方向断面が円形のエンドエフェクタ基端部が連結される場合には、当該エンドエフェクタ基端部は実質フランジとみなすことが可能であるので、この部分をフランジと実質的にみなして油吸収部材を配置することも可能である。
【0056】
なお、本発明は、上述したように、産業用ロボットにおいてゴム製シール部材から滲出した潤滑油の飛散を防止するために、櫛歯板部及びビード部を有する合成樹脂製の可撓性ある帯状のホルダと、同じく合成樹脂製の結束バンドとを備えて、前述した効果を奏するところに特徴があり、単なる帯状のホルダを巻回することで被取付部材を取付対象に取り付ける構成があったとしても、前述したクロスローラベアリングの外輪外周面に存在する環状凹部を前記ビード部に嵌合させることで軸方向ずれ止めを図る構成や、櫛歯板部で油吸収部材を押さえる構成、さらに1種類のホルダで異なるロボットに対応できる効果を備えていなければ、本発明とは全く相違するものである。
【符号の説明】
【0057】
図面中、1は産業用ロボット、7は手首(前段アーム)、8はフランジ(エンドエフェクタ取付用フランジ)、9はハーモニック減速機(減速機)、16はクロスローラベアリング、16aは内輪、16bは外輪、16b1は第1の外輪部、16b2は第2の外輪部、16cはころ、16kは環状凹部、25はオイルシール(ゴム製シール部材)、26は油吸収部材、27はホルダ、27aはホルダ本体、27bは櫛歯板部、27cはビード部、27dはバンド挿通部、28は結束バンドを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば産業用の6軸ロボットでは、最終段アーム(第6軸)の前段アームであるいわゆる手首(第5軸)に、前記最終段アームとしてエンドエフェクタ取付用フランジ(以下フランジという)を備えており、このフランジはモータ及び減速機により回転される。そして、上記フランジは、前記手首側のフレームとの間に軸受部材を介して回転可能に支持されている。さらにこのフランジと前記手首側のフレームとの間には、前記軸受部材よりフランジ先端側に位置してオイルシールやOリングなどのゴム製シール部材を介在させていて、これにより、前記減速機や前記軸受部材に潤滑のために注入したグリスなどの潤滑油がフランジ外部に漏れ出ないようにしている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−14104号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでロボットが所定の挙動を繰り返し実行すると、当該ロボットにおける上記モータや減速機、さらにはフランジや手首部分の摺動部分が温度上昇して、前記潤滑油が低粘性化し、さらに、最終段アームであるフランジが、ロボット挙動により外側へ振られる動きをするため、前記低粘性化した潤滑油が、当該ロボット挙動によってゴム製シール部材方向へ付勢されて移動し、そして微量ながら該ゴム製シール部材部分からフランジ外へ滲出する可能性が無いとは言えない。
【0005】
この滲出した低粘性の潤滑油を放置しておくと、ロボットの最終段アームであるフランジの外部にはエンドエフェクタとしてのハンドなどが取り付けられていてワークも把持される状況であるため、上述の滲出潤滑油がフランジの前記外側へ振られる挙動によってハンドやワークに飛散付着する事態も想定される。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フランジ部分におけるゴム製シール部材から滲出した潤滑油がエンドエフェクタやワーク等に付着することを回避できる産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は次の点に着目してなされたものである。まず、前記フランジ部分におけるゴム製シール部材の構造を詳しく示す図15において、フランジ101は、クロスローラベアリング102の内輪103における外輪104からの突出部分から構成され、このクロスローラベアリング102は当該内輪103と外輪104と多数のころ105とから構成されている。前記外輪104は手首106に連結されている。前記フランジ101(内輪103)は通常ハーモニック減速機107の出力段であるフレクスプライン108に連結されている。なお前記ハーモニック減速機107の摺動部分や前記ころ105にはグリスなどの潤滑油が充填されている。そして、前記クロスローラベアリング102においてフランジ101と外輪104の間にはゴム製シール部材としてオイルシール109が配設されている。
【0008】
ここで、前述したようにオイルシール109外部に前記潤滑油が滲出した場合の対応策として、本発明者は、図16に示すように、上記潤滑油を吸収するフェルトなどの油吸収部材110を前記オイルシール109外面側に配置し、この油吸収部材110の端面を、全体としてほぼ円環状をなす堅牢な金属製ホルダ111で押さえる構成を案出した。この場合、ホルダ111はその大きさ(外径など)を前記クロスローラベアリング102に合わせた形状とし、ねじ112により手首106に径方向からねじ止めする。
【0009】
ところで、上記構成では、ロボットの機種によってクロスローラベアリング102の大きさが変わると、これに対応して油吸収部材110及びホルダ111の形状・大きさも変更する必要が生じ、この場合、油吸収部材110は、フェルトなどから構成されるので、変更先形状・大きさへの切り出し加工自体が極めて容易であるが、上述の金属製ホルダ111では、各機種ごとに、設計変更や機械加工をしなければならず、製造コストが高く、そして、各機種ごとに異なるこのコスト高のホルダ111を用意しなければならない。さらに、ホルダ111をねじ112止めする構成では、手首106などのロボット側に雌ねじ106aなどの加工を施す必要があって、前記油吸収部材110及びホルダ111を既存のロボットに追加する場合には、実際上困難である。
【0010】
上述の事情を踏まえ、本発明者はさらに安価で使い勝手の良い油止め防止構造を模索した。特に、油吸収部材110を保持するホルダについて安価で製造性向上の点を探求したところ、ホルダを、最初から円環状をなすのではなく、最初は可撓性のある直線帯状をなす合成樹脂製の長尺部材から構成し、これをクロスローラベアリングに巻回し、この巻回状態で、その外周から合成樹脂製のバンドによって油吸収部材110を保持する構成を考えてみた。このようにすれば、ロボットの機種によってクロスローラベアリングの大きさが異なっても、当該長尺部材の長さを予め適宜長さに切断(合成樹脂であるから切断も容易である)すれば良い。
【0011】
しかし、この場合、図17で示すように、上記長尺部材(符号113で示す)において油吸収部材110の端面を押さる押さえ部114やこれに連続する部分を、平板状に作ってしまうと、上述の巻回は到底行えない。
【0012】
そこで、図18及び図19に示すように、上記押さえ部114を櫛歯状とすることで、直線帯状から円環状にした場合でも、油吸収部材110端面を保持できるようにできた。
ところが、この場合、次の不具合がある。上述した図18、図19の長尺部材113を、実際にロボットのクロスローラベアリング102の外輪104に巻回しバンド締めすると、ロボットの長期稼働によって長尺部材113が僅かに矢印Q方向にずれることがあった。
【0013】
ここで、実際のロボットのクロスローラベアリング102を検証したところ、該クロスローラベアリング102の外輪104の外周面に深さの浅い環状凹部104kが存在するが手触りにより判明した。この環状凹部104kのような線が外輪104外周面に入る理由としては、産業用ロボットの最先端に回転するフランジがあるものでは、それを回転させるためのころやボールといった軸受の回転部材を外輪104内に入れるために外輪104を2分割接合形とする必要から、上述の環状凹部104kのような線が形成されることに気が付いた。そして、この環状凹部104kが、凹状をなす理由は、前記分割部品104A、104Bの外周面角部が面取りされて、その面取り部が近接してるためであり、この面取りはバリ除去や怪我防止のため通常の機械部品には必ず形成されるものであり、上記環状凹部104kは必ず存在するものである。このように本発明者は、産業用ロボット全般においては、フランジを備えている以上前記環状凹部104kは必ず存在することに気がついた。
【0014】
この点に着目して、本発明者は、この環状凹部104kを、前記長尺部材113の軸方向ずれの防止に利用することを考え、図20に示すように、前記長尺部材113の内面に上記環状凹部104kと嵌合する凸状のビード部113aを形成し、このビード部113aを前記環状凹部104kに嵌合させた形態で長尺部材113をクロスローラベアリング102に巻回しバンド締めすることで上述の軸方向ずれも防止できる。
【0015】
上述の経緯を経て案出された請求項1の発明の産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造は、内輪と、軸方向に2分割された第1の外輪部及び第2の外輪部を有する外輪と、前記内輪と前記第1の外輪部及び第2の外輪部との間に保持されたころとから構成され、前記内輪及び外輪が相対的に回転可能なクロスローラベアリングを備え、このクロスローラベアリングの前記内輪が最終段アームとしてのエンドエフェクタ取付用フランジを構成し、前記外輪がエンドエフェクタ取付用フランジの前段となる前段アームに固定され、前記エンドエフェクタ取付用フランジは前記前段アーム内に設けたモータ及び減速機により回転され、前記内輪と前記外輪との間のうち前記外輪の軸方向先端側の部分にゴム製シール部材を介在させた産業用ロボットであって、前記ゴム製シール部材を覆う環状の油吸収部材と、合成樹脂製で可撓性を有する帯状のホルダと、合成樹脂製で帯状の結束バンドとを備え、前記ホルダは、前記クロスローラベアリングの前記外輪の外周面に巻回される長尺平板面を有するホルダ本体と、このホルダ本体における長手方向に沿う一方の縁部から相互に隙間をおいて突出し先端部分が前記ホルダ本体の板面とほぼ直角をなす多数の櫛歯板部と、前記ホルダ本体にあって該櫛歯板部の突出方向側の面部に設けられ長尺方向に延びる断面凸状のビード部とを一体に有して構成され、前記環状の油吸収部材を前記エンドエフェクタ取付用フランジに嵌合させて該油吸収部材により前記ゴム製シール部材を覆い、前記ホルダの前記ビード部を前記外輪の第1の外輪部及び第2の外輪部の接合部外周部に存在する環状凹部に嵌合させた形態で、該ホルダを前記外輪に巻回して前記櫛歯板部を前記油吸収部材の他端面に当て、前記結束バンドにより前記巻回状態のホルダを前記外輪に締付固定してなることを特徴とするところに特徴を有する。
【0016】
上記請求項1においては、油吸収部材を、これがゴム製シール部材を覆うように配置保持するから、エンドエフェクタ取付用フランジのゴム製シール部材から潤滑油が滲出することがあっても、ハンドなどのエンドエフェクタやワークに潤滑油が飛散付着することがない。
【0017】
しかも、油吸収部材を配置保持するについて、ホルダを外輪にその外側から巻回し、結束バンドで固定することで前記油吸収部材の配置保持ができるから、ロボットの機種によってクロスローラベアリングの大きさが異なっても、前記ホルダの巻回長さが変わるだけであり、当該ホルダの長さを予め長めに設定しておけば、当該ホルダを適当な長さに鋏などにより切断することで一種類のホルダ及び結束バンドで、油吸収部材を保持できる。この結果、ロボットの機種ごとに異なる大きさのホルダを用意する必要がなく、メーカー側での部品管理の煩わしさを軽減できる。
【0018】
さらに、クロスローラベアリングの外輪外周部に存在する環状凹部に、ビード部を嵌合させるから、当該環状凹部を利用してホルダの軸方向のずれを防止できる。
そしてこの場合、前記櫛歯板部は相互に隙間があるが、ホルダの巻回によってホルダ本体が湾曲することでその先端部が相互に近づくため、油吸収部材をほぼ全面的に押さえることができる。
【0019】
この場合、前記油吸収部材は有端環状に形成しても良い(請求項2の発明)。このようにすると、前記油吸収部材を両端部で拡げてエンドエフェクタ取付用フランジにその外周面側から嵌合させてゴム製シール部材端面に配置できるから、エンドエフェクタ取付用フランジ先端にハンドなどのエンドエフェクタを取り付けた状態でも、該油吸収部材の取付が可能となり、油吸収部材取り付けのためにわざわざエンドエフェクタを取り外さずに済む。
【0020】
又、前記ホルダ本体において前記ビード部と反対側の面部に、前記結束バンドが挿通可能で該ホルダ本体からの離脱を阻止する門型のバンド挿通部を前記ビード部と対応して複数設けても良い(請求項3の発明)。このようにすると、ホルダに結束バンドを付設させておくことができ、該ホルダの巻回作業時におけるバンドの落ち止めを図ることができ、しかも、該ホルダの巻回作業が極めて容易となる。つまり、ホルダと結束バンドとが別々であると、ホルダを外輪の外周面に巻回させた状態を保持しつつ、結束バンドが落ちないように配慮しつつ当該結束バンドをホルダ外側に巻回し締結しなければならず、しかも、作業空間が狭い場合にはこの巻回作業は極めて困難であるが、この請求項3では、結束バンドを外輪の外周面に巻回すれば、その内側のホルダも自ずと外輪の外周面に巻回されることとなり、狭い作業空間であったとしても巻回作業が極めて容易となる。さらに、門型のバンド挿通部が前記ビード部と対応して設けられているから、このバンド挿通部に挿通された結束バンドが締結されると、ビード部を環状凹部に強く嵌合させることになり、ビード部と環状凹部との嵌合保持の強化を図ることができ、前述のホルダずれ防止を一層確実化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、油吸収部材取り付け状態でのフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図2】同じく油吸収部材取り付け状態でのフランジ及び手首部分の斜視図
【図3】油吸収部材取り付け状態でのフランジ部分の正面図
【図4】ホルダ及び油吸収部材部分の縦断側面図
【図5】(a)は油吸収部材の正面図、(b)は側面図
【図6】ホルダの斜視図
【図7】ホルダの正面図
【図8】ホルダの下面図
【図9】(a)は結束バンドの側面図、(b)は下面図
【図10】ホルダ巻回の様子を示す斜視図
【図11】油吸収部材取り付け前の状態でのフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図12】同じく油吸収部材取り付け前の状態でのフランジ及び手首部分の斜視図
【図13】ロボットの斜視図
【図14】本発明の第2実施形態を示す図1相当図
【図15】参考例(その1)を示すフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図16】参考例(その2)を示すフランジ及び手首部分の縦断側面図
【図17】ホルダの斜視図
【図18】参考例(その3)を示すホルダを斜視図
【図19】フランジ及び手首部分の縦断側面図
【図20】参考例(その4)を示すフランジ及び手首部分の縦断側面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図13を参照しながら説明する。尚、ここでは、可搬重量20kg以下(例えば10kg)の小型産業用ロボット、例えば6軸の垂直多関節型ロボットを具体例としている。図13は、ロボット1の外観(正面やや上部右寄りから見た様子)を概略的に示している。このロボット1は、ベース2上に6軸のアームを備えて構成され、それらアームは、次のように、関節部を介して順次回動可能に連結されている。
【0023】
即ち、前記ベース2上には、ショルダ部3が、垂直方向に延びる回動軸J1を中心に水平方向に旋回可能に連結され、このショルダ部3には、図で上方に延びる下アーム4が、水平方向に延びる回動軸J2を中心に上下方向に旋回可能に連結されている。前記下アーム4の先端部には、第1の上アーム5が、水平方向に延びる回動軸J3を中心に上下方向に旋回可能に連結され、この第1の上アーム5の先端部には、第2の上アーム6が、回動軸J4を中心に同軸回転可能に連結されている。
【0024】
第2の上アーム6の先端には、手首7が、回動軸J5を中心に上下方向に回動可能に連結され、前記手首7の先端には、エンドエフェクタ取付用フランジ8(以下フランジ8)が、回動軸J6を中心に同軸回転可能に連結されている。前記フランジ8には、図示しないハンド等のツールが取付けられる。前記フランジ8は最終段アームに相当し、手首7は当該最終段アームの前段の前段アームに相当する。
【0025】
前記手首7及びフランジ8部分の構成を図11及び図12に示している。手首7のフレーム7aには減速機としてのハーモニック減速機9が設けられている。このハーモニック減速機9は、主要構成品として、サーキュラスプライン10と、フレクスプライン11と、ウェーブジェネレータ12とを有して構成されている。
【0026】
前記サーキュラスプライン10は、前記手首7の円筒状をなすフレーム7aにねじ13により固定されている。このサーキュラスプライン10は、環状をなし内周に内歯10aを有する。
【0027】
前記フレクスプライン11は、薄肉カップ状の弾性を有する有底円筒状の金属からなり、その開口部外周に所定数の外歯11aが形成されている。この外歯11aは前記サーキュラスプライン10の内歯10aより二つ少ない。
【0028】
前記ウェーブジェネレータ12は楕円状カム14の外周に弾性変形可能に構成されたボールベアリング15を装着してなる。このボールベアリング15の内輪は前記楕円状カム14に固定され、外輪は楕円状カム14の回転に応じて弾性変形する。前記ウェーブジェネレータ12の楕円状カム14はその中心部に軸ボス14aが形成されている。
【0029】
前記フレクスプライン11はその外歯11aが前記サーキュラスプライン10の内歯10aに噛合するように該サーキュラスプライン10内に配置(内挿)されており、このフレクスプライン11の底部は後述するクロスローラベアリング16の内輪(出力軸に相当)16aにねじ17により連結されている。
【0030】
前記ウェーブジェネレータ12はフレクスプライン11の外歯11a内面部分に装着(内挿)されており、楕円状カム14の軸ボス14aは、入力軸であるサーボモータ18の回転軸18aにキー18bにより一体回転可能に連結され、端押さえ19及びねじ20により抜け止めされている。このサーボモータ18は、前記手首7の円筒状をなすフレーム7aに取り付けられたサーキュラスプライン押さえ21に、取り付けられている。
【0031】
前記クロスローラベアリング16は、前記内輪16aと、外輪16bと、この内輪16a及び外輪16b間に回転自在に保持された複数のころ16cとから構成されている。そして、前記外輪16bは、前記ころ16c組み込みのために軸方向に2分割されていて、第1の外輪部16b1と第2の外輪部16b2とを有する。これら第1の外輪部16b1と第2の外輪部16b2とはねじ23により相互に連結されて外輪16bを構成しており、この外輪16bはねじ24により手首7のフレーム7a端面に固定されている。
【0032】
この外輪16bにおいて第1の外輪部16b1と第2の外輪部16b2との接合部の外周部には、V形の環状凹部16k(図4にも図示)が存在する。この環状凹部16kは第1の外輪部16b1及び第2の外輪部16b2の角部が面取りされていることにより形成されたものである。
【0033】
さらにこの内輪16aは外輪16bよりも外方へ突出しており、この内輪16aを前記フランジ8としている。このフランジ8の先端面にはハンドなどのエンドエフェクタが取り付けられるものであり、そのために雌ねじ24や位置決めピン孔24a(図3参照)が形成されている。
【0034】
ここでハーモニック減速機9の噛合部や前記ころ16c部分には潤滑のためにグリスなどの潤滑油が充填されている。
そして、前記内輪16aと前記外輪16bとの間のうち前記外輪16bの軸方向先端側の部分には、図4にも示すように、内部に内周側及び外面側が開放する凹部16dを有するシールハウジング部16eが形成されており、ゴム製シール部材に相当するオイルシール25がこのシールハウジング部16eに挿入配設されており、もって、オイルシール25が内輪16a及び外輪16b間に介在されている。
【0035】
上述のハーモニック減速機9は、フレクスプライン11とサーキュラスプライン10とが180度対象の2か所のみで噛み合っており、ウェーブジェネレータ12が回転すると、フレクスプライン11とサーキュラスプライン10との噛み合い位置が回転して移動する。この場合、フレクスプライン11の歯数はサーキュラスプライン10の歯数よりも二つ少なく形成されているので、フレクスプライン11はウェーブジェネレータ12の回転方向と反対方向に歯数差の2つ分だけ回転し、その回転が出力となり、前記クロスローラベアリング16の内輪16aつまりフランジ8に伝達される。
【0036】
ここで、前述したオイルシール25の露出側の端面には、当該オイルシール25から外部に滲出した潤滑油が飛散することがないように、図1ないし図3に示すように、例えばフェルトからなる油吸収部材26がホルダ27及び結束バンド28により動き止め状態に設けられている。
【0037】
前記油吸収部材26は、油を吸収可能なフェルトからなり、図5(a)、(b)に示すように、有端環状に形成されている。この油吸収部材26の一面には、通油性の無い薄膜部26aが形成されている。この油吸収部材26の内径寸法は前記フランジ8の外径寸法とほぼ同等に設定され、又、油吸収部材26の外径寸法は、前記シールハウジング16eの外径寸法より若干大きめに設定されている。
【0038】
前記ホルダ27は、合成樹脂からなり、図6ないし図8に示すように、製作時点では全体として長尺な帯状をなしている。そして、このホルダ27は、ホルダ本体27aと、複数の櫛歯板部27bと、ビード部27cとを一体に有して構成されている。前記ホルダ本体27aは、長尺平板状をなしていて長尺平板面27a3(図3参照)を有し、前記クロスローラベアリング16の前記外輪16bの外周面に巻回されるものである。前記櫛歯板部27bは、このホルダ本体27aにおける長手方向に沿う一方の縁部27a1から相互に隙間をおいて突出している。
【0039】
そしてこの櫛歯板部27bは、前記ホルダ本体27aの板面と面一な第1の部分27b1と、この第1の部分27b1と直角をなす第2の部分27b2と、この第2の部分27b2から前記ホルダ本体27aと平行な向きに突出する第3の部分27b3と、この第3の部分27b3から直角方向に突出する第4の部分27b4とからなる。従って、当該櫛歯板部27bにおける先端部である第4の部分27b4は、前記ホルダ本体27aの板面27a3とほぼ直角をなすように屈曲されている。
【0040】
又、前記ビード部27cは、前記ホルダ本体27aにあって該櫛歯板部27bの突出方向側の面部27a2(図8参照)に、断面形状が凸状をなして、長尺方向に延びるように形成されている。
【0041】
さらに前記ホルダ本体27aにおいて前記ビード部27cと反対側の面部である前記板面27a3(図6参照)には、前記結束バンド28が挿通可能で該ホルダ本体27aからの離脱を阻止する門型のバンド挿通部27dを前記ビード部と対応して複数例えば3個設けられている。なお、このバンド挿通部27dと対向する部位には型抜き孔27eが形成されている。
【0042】
上述したホルダ27は、可撓性があり、又、鋏などの工具・道具を用いて切断容易である。
又、前記結束バンド28は、図9に示すように、合成樹脂からなり、一端部には、他端部の挿通が可能な環部28aが形成されており、この環部28aには係止部28bが形成されている。さらにこの結束バンド28の一面には前記係止部28bに選択的に係止される被係止片部28cが多数形成されている。この結束バンド28も可撓性があり、又、鋏などの工具・道具を用いて切断容易である。
【0043】
さて、前記油吸収部材26を前記オイルシール25部分に取り付ける手順について説明する。ホルダ27の長さが外輪16bの外周長さとほぼ合致すれば、切断による長さ調節はせず、又、ホルダ27の長さが外輪16bの外周長さより長いときには、適合長さとなるように切断しておく。さらに、ホルダ27のバンド挿通部27dに結束バンド28を挿通しておく。そして、前記油吸収部材26を、その一端面(前記薄膜部26aと反対側の面)が前記オイルシール25の外側端面(フランジ8先端側の端面)と向かい合うように、フランジ8にその先端側から嵌合させる。この場合該油吸収部材26の一端面とオイルシール25の外側端面とは接触しても良いし、若干離れても良く。このようにして油吸収部材26によりオイルシール25をこれよりもフランジ8先端側の位置で覆う。この場合、油吸収部材26をその両端部26b、26c(図5(a)参照)で拡げてフランジ8外周面側から当該フランジ8に嵌合させても良い。
【0044】
さらに、前記ホルダ27を外輪16bにその外周側から巻回し、結束バンド28の先端部を環部28aに挿通する(この状態を図10に示す)。
そして、前記ホルダ27の前記ビード部27cを前記外輪16bにおいて第1の外輪部16b1及び第2の外輪部16b2の接合部外周部に存在する環状凹部16kに嵌合させた形態で、前記結束バンド28の先端部を引いて締結し、該ホルダ27を前記外輪16bに巻回下状態に締め付け固定する。なお、結束バンド28の余った先端部分は適宜鋏などで切断する(その切断端を図2及び図3に符号28sで示している)。
【0045】
上述のホルダ27の取り付けにより、図1に示すように、前記櫛歯板部27bの先端部である第4の部分27b4が前記油吸収部材26の他端面である薄膜部26aに当てられ、そして、第3の部分27b3が油吸収部材26の外周面を押さえる。この結果、油吸収部材26が前記オイルシール25の一端面を塞ぐ形態に保持される。又、前記櫛歯板部27bは相互に隙間があるが、ホルダ27の巻回によってホルダ本体27aが湾曲することでその先端部が相互に近づくため(図3参照)、櫛歯板部27bが油吸収部材26をほぼ全面的に押さえる。
【0046】
又、図4に示すように、ホルダ27のビード部27cが環状凹部16kに嵌合しているから、ホルダ27がこの図4及び図1の矢印A方向(軸方向)へずれることはない。
上述した本実施形態においては、ロボット1が所定の挙動を繰り返し実行すると、該ロボット1におけるモータ18やハーモニック減速機9、さらにはフランジ8や手首7の摺動部分が温度上昇して、潤滑油が低粘性化し、さらに、フランジ8が、ロボット挙動により外側へ振られる動きをするため、前記低粘性化した潤滑油が、微量ながらオイルシール25からフランジ8外へ滲出することがある。
【0047】
しかし、本実施形態によれば、油吸収部材26によりオイルシール25を覆うように配置保持しているから、オイルシール25部分から潤滑油が滲出することがあっても、その浸出した潤滑油を油吸収部材26により吸収することができる。従って、ハンドなどのエンドエフェクタやワークに、浸出した潤滑油が飛散付着することがない。
【0048】
しかも本実施形態によれば、油吸収部材26をオイルシール25の一端面部分に配置保持するについて、ホルダ27を外輪16bにその外側から巻回し、結束バンド28で固定することで前記油吸収部材26の配置保持ができるから、ロボットの機種によってクロスローラベアリング16の大きさが異なっても、前記ホルダ27を適当な長さに鋏などにより切断することで一種類のホルダ27及び結束バンド28で、油吸収部材26を保持できる。この結果、ホルダ27として、予め想定されるロボットのうち大きめの機種に対応可能な長さのホルダ27を用意しておけば、上述した切断による長さ調整により、異なるロボットの機種に対応ができ、ロボットの機種ごとに異なる大きさのホルダ27を用意する必要がなく、メーカー側での部品管理の煩わしさを軽減できる。
【0049】
さらに本実施形態によれば、クロスローラベアリング16の外輪16b外周部に存在する環状凹部16kに、ビード部27cを嵌合させるから、当該環状凹部16kを利用してホルダ27の軸方向のずれを防止できる。
【0050】
なお、前記櫛歯板部27bが存在することでホルダ本体27aの湾曲が容易となるものであるが、櫛歯板部27b相互に隙間があることで油吸収部材26の保持面積の減少が懸念される。しかし、本実施形態によれば、ホルダ27の巻回によってホルダ本体27aが湾曲することで櫛歯板部27b先端部が相互に近づくため、油吸収部材26をほぼ全面的に押さえることができる。
【0051】
又、本実施例によれば、油吸収部材26を有端環状に形成したから、当該油吸収部材26を両端部26b、26cで拡げてフランジ8にその外周面側から嵌合させてオイルシール25端面に配置させることができ、従って、フランジ8先端にハンドなどのエンドエフェクタを取り付けた状態でも、当該油吸収部材26の取り付けが可能となり、油吸収部材26取り付けのためにわざわざエンドエフェクタを取り外さずに済む。
【0052】
又、本実施形態によれば、前記ホルダ本体27aにおいて前記ビード部27cと反対側の面部に、前記結束バンド28が挿通可能で該ホルダ本体27aからの離脱を阻止する門型のバンド挿通部27dを前記ビード部27cと対応して複数設けたから、結束バンド28をこのバンド挿通部27dに挿通することで、ホルダ27に結束バンド28を付設させておくことができ、該ホルダの巻回作業時におけるバンドの落ち止めを図ることができる。従って、該ホルダ27の巻回作業が極めて容易となる。つまり、ホルダ27の巻回時にホルダ27と結束バンド28とが別々であると、ホルダ27を外輪16bの外周面に巻回させた状態を保持しつつ、結束バンド28が落ちないように配慮しつつ当該結束バンド28をホルダ27外側に巻回し締結しなければならず、しかも、作業空間が狭い場合にはこの巻回作業は極めて困難であるが、この実施形態では、結束バンド28を外輪16bの外周面に巻回すれば、その内側のホルダ27も自ずと外輪16bの外周面に巻回されることとなり、狭い作業空間であったとしても巻回作業が極めて容易となる。さらに、門型の結束バンド28が前記ビード部27cと対応して設けられているから、図4からも分かるように、このバンド挿通部27dに挿通された結束バンド28が締結されると、ビード部27cを環状凹部16kに強く嵌合させることができ、ビード部27cと環状凹部16kとの嵌合保持の強化を図ることができ、前述のホルダ27のずれ防止を一層確実化できる。
【0053】
なお、本発明の実施形態は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変更することができる。例えば、ホルダの櫛歯板部は、本発明の第2実施形態として示す図14に示す櫛歯板部27bのように、ホルダ本体27aの板面と面一な第1の部分27bAと、この第1の部分27bAと直角をなす第2の部分27bBとから、いわゆるL状に構成するようにしても良い。
【0054】
又、上記実施形態では、前記オイルシール25がクロスローラベアリング16の内輪16aと外輪16bとの間のうち、前述した図1のように、クロスローラベアリング16の内輪16aと外輪16bとの間のうち最先端側(外側)に設けられた構成を示したが、このオイルシール25の位置は、図1よりはさらに奥側の位置(ころ16cに接近する位置)に設けられる構成も考えられる。また、前記クロスローラベアリング16の内輪16aの外周面及び外輪16bの内周面が段付き形状で両者間の隙間が断面クランク形状となっているような場合もあり、この場合には、その段部部分に前記オイルシール25が配設される構成も考えられる。これらの場合には、オイルシール25から滲出した潤滑油の通路となる前記内輪16a及び外輪16b間の隙間のうち内輪先端面部分で、前記油吸収部材26をフランジ8に嵌合させることで、この場合も、該油吸収部材26によりも前記オイルシール25の外側端面をこれよりフランジ8先端側の位置で覆う構成となり、潤滑油の飛散防止を図り得る。
【0055】
又、上記実施形態では前記内輪16aから構成されるフランジ8の先端面が、外輪16bの先端面より突出する構成を例示したが、これらフランジ8の先端面と外輪16b先端面とは軸方向で揃っていて、フランジ8先端面に該軸方向断面が円形のエンドエフェクタ基端部が連結される場合には、当該エンドエフェクタ基端部は実質フランジとみなすことが可能であるので、この部分をフランジと実質的にみなして油吸収部材を配置することも可能である。
【0056】
なお、本発明は、上述したように、産業用ロボットにおいてゴム製シール部材から滲出した潤滑油の飛散を防止するために、櫛歯板部及びビード部を有する合成樹脂製の可撓性ある帯状のホルダと、同じく合成樹脂製の結束バンドとを備えて、前述した効果を奏するところに特徴があり、単なる帯状のホルダを巻回することで被取付部材を取付対象に取り付ける構成があったとしても、前述したクロスローラベアリングの外輪外周面に存在する環状凹部を前記ビード部に嵌合させることで軸方向ずれ止めを図る構成や、櫛歯板部で油吸収部材を押さえる構成、さらに1種類のホルダで異なるロボットに対応できる効果を備えていなければ、本発明とは全く相違するものである。
【符号の説明】
【0057】
図面中、1は産業用ロボット、7は手首(前段アーム)、8はフランジ(エンドエフェクタ取付用フランジ)、9はハーモニック減速機(減速機)、16はクロスローラベアリング、16aは内輪、16bは外輪、16b1は第1の外輪部、16b2は第2の外輪部、16cはころ、16kは環状凹部、25はオイルシール(ゴム製シール部材)、26は油吸収部材、27はホルダ、27aはホルダ本体、27bは櫛歯板部、27cはビード部、27dはバンド挿通部、28は結束バンドを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、軸方向に2分割された第1の外輪部及び第2の外輪部を有する外輪と、前記内輪と前記第1の外輪部及び第2の外輪部との間に保持されたころとから構成され、前記内輪及び外輪が相対的に回転可能なクロスローラベアリングを備え、
このクロスローラベアリングの前記内輪が最終段アームとしてのエンドエフェクタ取付用フランジを構成し、前記外輪がエンドエフェクタ取付用フランジの前段となる前段アームに固定され、
前記エンドエフェクタ取付用フランジは前記前段アーム内に設けたモータ及び減速機により回転され、
前記内輪と前記外輪との間のうち前記外輪の軸方向先端側の部分にゴム製シール部材を介在させた産業用ロボットであって、
前記ゴム製シール部材を覆う環状の油吸収部材と、
合成樹脂製で可撓性を有する帯状のホルダと、
合成樹脂製で帯状の結束バンドとを備え、
前記ホルダは、前記クロスローラベアリングの前記外輪の外周面に巻回される長尺平板面を有するホルダ本体と、このホルダ本体における長手方向に沿う一方の縁部から相互に隙間をおいて突出し先端部分が前記ホルダ本体の板面とほぼ直角をなす多数の櫛歯板部と、前記ホルダ本体にあって該櫛歯板部の突出方向側の面部に設けられ長尺方向に延びる断面凸状のビード部とを一体に有して構成され、
前記環状の油吸収部材を前記エンドエフェクタ取付用フランジに嵌合させて該油吸収部材により前記ゴム製シール部材を覆い、
前記ホルダの前記ビード部を前記外輪の第1の外輪部及び第2の外輪部の接合部外周部に存在する環状凹部に嵌合させた形態で、該ホルダを前記外輪に巻回して前記櫛歯板部を前記油吸収部材の他端面に当て、
前記結束バンドにより前記巻回状態のホルダを前記外輪に締付固定してなることを特徴とする産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造。
【請求項2】
前記油吸収部材は有端環状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造。
【請求項3】
前記ホルダ本体において前記ビード部と反対側の面部には、前記結束バンドが挿通可能で該ホルダ本体からの離脱を阻止する門型のバンド挿通部を前記ビード部と対応して複数設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造。
【請求項1】
内輪と、軸方向に2分割された第1の外輪部及び第2の外輪部を有する外輪と、前記内輪と前記第1の外輪部及び第2の外輪部との間に保持されたころとから構成され、前記内輪及び外輪が相対的に回転可能なクロスローラベアリングを備え、
このクロスローラベアリングの前記内輪が最終段アームとしてのエンドエフェクタ取付用フランジを構成し、前記外輪がエンドエフェクタ取付用フランジの前段となる前段アームに固定され、
前記エンドエフェクタ取付用フランジは前記前段アーム内に設けたモータ及び減速機により回転され、
前記内輪と前記外輪との間のうち前記外輪の軸方向先端側の部分にゴム製シール部材を介在させた産業用ロボットであって、
前記ゴム製シール部材を覆う環状の油吸収部材と、
合成樹脂製で可撓性を有する帯状のホルダと、
合成樹脂製で帯状の結束バンドとを備え、
前記ホルダは、前記クロスローラベアリングの前記外輪の外周面に巻回される長尺平板面を有するホルダ本体と、このホルダ本体における長手方向に沿う一方の縁部から相互に隙間をおいて突出し先端部分が前記ホルダ本体の板面とほぼ直角をなす多数の櫛歯板部と、前記ホルダ本体にあって該櫛歯板部の突出方向側の面部に設けられ長尺方向に延びる断面凸状のビード部とを一体に有して構成され、
前記環状の油吸収部材を前記エンドエフェクタ取付用フランジに嵌合させて該油吸収部材により前記ゴム製シール部材を覆い、
前記ホルダの前記ビード部を前記外輪の第1の外輪部及び第2の外輪部の接合部外周部に存在する環状凹部に嵌合させた形態で、該ホルダを前記外輪に巻回して前記櫛歯板部を前記油吸収部材の他端面に当て、
前記結束バンドにより前記巻回状態のホルダを前記外輪に締付固定してなることを特徴とする産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造。
【請求項2】
前記油吸収部材は有端環状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造。
【請求項3】
前記ホルダ本体において前記ビード部と反対側の面部には、前記結束バンドが挿通可能で該ホルダ本体からの離脱を阻止する門型のバンド挿通部を前記ビード部と対応して複数設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の産業用ロボットのエンドエフェクタ取付用フランジの油止め構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−245586(P2011−245586A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120432(P2010−120432)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【出願人】(000227711)日邦産業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【出願人】(000227711)日邦産業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]