説明

田植機における変速操作具の感度制御機構

【課題】変速操作具の操作感度を任意に設定して操作感度を変更可能にし、田植機の操作性の向上を図ることができる田植機における変速操作具の感度制御機構を提供する。
【解決手段】エンジン5と、無段変速装置21と、変速ペダル16(変速操作具)と、変速ペダル16(変速操作具)の操作量に基づいて無段変速装置21を変速制御する変速アクチュエータ60と、を備えた田植機2において、変速ペダル16(変速操作具)の操作感度を変更可能なペダル感度設定器89を備えて、田植機1における変速ペダル16(変速操作具)の感度制御機構を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機における変速操作具の感度制御機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速アクチュエータを駆動制御して走行速度を変更する田植機は公知である(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1における田植機においては、変速ペダル(変速操作具)の操作量を位置センサ(検知手段)で検出し、その操作量に対応した位置に変速機のアームが位置するように変速アクチュエータを駆動制御することにより田植機の変速制御を行う。具体的には、変速ペダル(変速操作具)の操作量の変化割合に比例して、変速アクチュエータの回転角の変化割合を増加させるように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4095356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような田植機において、前記変速制御は、田植機の走行場所や圃場の条件等に関係なく行われる。つまり、前記変速制御は、田植機の走行負荷の変動にかかわらず行われる。そのため、田植機を走行負荷が比較的小さくなる圃場以外の場所、例えば一般路上で走行させる際、変速ペダル(変速操作具)の操作量に対する変速アクチュエータの駆動制御が、田植機を走行負荷が大きくなる圃場で走行させる際の駆動と同様に行われると、変速ペダル(変速操作具)の操作により、変速アクチュエータの回転角は、高出力の変速制御に対応する変化割合で変化する。
そのため、変速ペダル(変速操作具)の操作始めの操作感度が敏感になり過ぎるため、熟練した操縦者でなければ、急加速や急減速が生じやすく操作性が悪いという問題点があった。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、変速操作具の操作感度を任意に設定して操作感度を変更可能にし、田植機の操作性の向上を図ることができる田植機のペダル感度制御機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、第1の発明に係る田植機における変速操作具の感度制御機構は、
エンジンと、無段変速装置と、変速操作具と、前記変速操作具の操作量に基づいて前記無段変速装置を変速制御するアクチュエータと、を備えた田植機において、前記変速操作具の操作感度を変更可能な感度設定器を備えるものである。
【0008】
第2の発明に係る田植機における変速操作具の感度制御機構は、第1の発明に係る田植機における変速操作具の感度制御機構において、
操作感度の設定に、路上走行モード又は植付作業モードを択一的に選択できるモード切替手段を設け、
前記路上走行モードでは植付走行モードに比べて、操作感度が鈍くなるように設定されているものである。
【0009】
第3の発明に係る田植機における変速操作具の感度制御機構は、第1の発明に係る田植機における変速操作具の感度制御機構において、
前記エンジンの回転数を変更制御するアクチュエータと、前記無段変速装置を変速制御するアクチュエータと、をそれぞれ設け、前記エンジンの回転数の変更制御と前記無段変速装置の変速制御とを各別に操作するように構成し、
操作感度の設定に、低燃費モードと高出力モードに切替可能なモード切替手段を設け、
前記低燃費モードでは、前記エンジンの回転数を維持しながら前記無段変速装置を増速方向に操作するように各アクチュエータを作動させ、
前記高出力モードでは、前記エンジンの回転数を増加させながら前記無段変速装置を増速方向に操作するように各アクチュエータを作動させるものである。
【0010】
第4の発明に係る田植機における変速操作具の感度制御機構は、第3の発明に係る田植機における変速操作具の感度制御機構において、
植付リンク機構の傾斜角度に基づいて、走行機体に対する前記植付リンク機構の高さを検出するセンサを設け、耕盤の深さに応じて前記低燃費モード又は前記高出力モードを自動的に切り替えるように構成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
第1の発明においては、田植機における変速操作具の操作感度が変更可能であるため、操縦者が熟練したものであれば、変速操作具の操作始めにおける操作感度を敏感に設定して、田植機を速やかに発進させて植付作業を開始することが可能となる。一方、操縦者が不慣れなものであれば、変速操作具の操作始めにおける操作感度を鈍感に設定して、田植機をゆっくり発進させることが可能となり、発進時の転動反力を小さくして、植付作業を適正に行うことが可能となる。したがって、田植機の操作性の向上を図ることができる。また、ブロワ付きの施肥機を搭載している場合に、田植機をゆっくり発進させると肥料の供給開始と田植機の発進とのタイムラグが小さくなり、施肥ムラを防止できる。
【0013】
第2の発明においては、路上走行モードでは植付走行モードに比べて走行負荷が小さいため、植付走行モードと同様に変速操作具の操作を行うと、急加速、急減速が生じ易いから、路上走行モードで操作感度を鈍くすることで、急加速・急減速を抑制することが可能となる。
【0014】
第3の発明においては、深い田と浅い田等の圃場の条件によって走行負荷が変わるため、低燃費モードと高出力モードとを切り替えることで、浅い田では省エネ走行が可能となり、深い田では十分な駆動力を得ることが可能となる。
【0015】
第4の発明においては、低燃費モード又は高出力モードを自動的に切り替えるようにしていることから、操縦者が確認し難い耕盤の深さを検出してエンジンの回転数を変更でき、耕盤の深さに適応させた植付作業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る田植機の側面図。
【図2】第1実施形態に係る田植機の平面図。
【図3】走行変速ミッションの概略図。
【図4】運転操作部と走行変速ミッションとの関係を示す概略図。
【図5】図4のV−V視拡大断面図。
【図6】図4のVI−VI視拡大断面図。
【図7】田植機の制御装置の制御構成を示すブロック図。
【図8】田植機の制御装置の制御構成を示すブロック図。
【図9】燃費モード(低燃費モードおよび高出力モード)の自動切替え制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、田植機1の全体的な構成について、図1における矢印A方向を前方向として説明する。
【0018】
図1、図2に示すように、田植機1は、主に、走行機体2と、苗植装置3と、から構成されている。
【0019】
走行機体2では、車体フレーム4が左右一対の前車輪6と、左右一対の後車輪7とで支持される。車体フレーム4には、エンジン5が搭載されるとともに、走行変速ミッション20が搭載される。エンジン5は車体フレーム4の前部側でボンネット9にて被覆される。そして、エンジン5の出力が走行変速ミッション20により適宜変速されたあと、各車輪6・7に伝達されるように構成される。これにより、走行機体2が走行可能とされる。
【0020】
また、車体フレーム4には運転操作部10が設けられる。運転操作部10には座席12、操縦ハンドル13、変速レバー14、表示パネル15、変速操作具である変速ペダル16、ブレーキペダル17、走行モード切替スイッチ18、燃費モード切替スイッチ19等が備えられる。変速ペダル16およびブレーキペダル17は、前方向への足踏み式のペダルであり、操縦ハンドル13の右側で運転操作部10の床面に左右に並べられて、車体フレーム4に枢着される。
【0021】
図2に示すように、表示パネル15は操縦ハンドル13の近傍に配置される。表示パネル15には、機体状況を表示する表示手段が備えられるとともに、後述する変速アクチュエータ60の動作異常、苗や肥料の切れおよび肥料の詰まり等の問題が発生した場合に、これを操縦者に報知する報知手段が備えられる。
【0022】
この報知手段は、たとえば、図示せぬ表示ランプを表示パネル15本体に設け、前述のような不具合が発生した場合に点灯または点滅するようにして構成される。ただし、報知手段は、ブザー等を表示パネル15本体に設け、前述のような問題が発生した場合に報知音がなるようにして構成したり、表示パネル15の液晶画面等で不具合内容を表示するようにして構成したりすることも可能である。また、報知手段は表示パネル15に限らず、別の部材に備えてもよい。
【0023】
苗植装置3は多条植式の苗植装置であり、走行機体2の後部に上下方向に昇降可能に取り付けられている。苗植装置3は、植付リンク機構30と、植付部31とで構成されている。
【0024】
植付リンク機構30は、植付部31を上下方向に昇降するものである。植付リンク機構30には、トップリンク32と、ロワーリンク33と、昇降シリンダ34とが備えられている。この植付リンク機構30では、昇降シリンダ34の伸縮により、トップリンク32およびロワーリンク33が昇降回動される。
【0025】
植付部31は、苗の植付けを行う部分である。植付部31には、植付フレームと、苗載台35と、植付ケース36と、植付アーム37と、爪ケース38と、植付爪39と、センターフロート41と、サイドフロート42が備えられている。苗載台35は前高後低の前傾式に配置され、走行機体2に植付リンク機構30を介して連結された植付フレームに左右往復摺動自在に支持される。
【0026】
植付ケース36は、植付フレーム側から後方へ突設され、その後端部に植付アーム軸37aを介して一方向に等速回転させる植付アーム37・37・・・を支持する。植付ケース36の下方には、センターフロート41とサイドフロート42とが左右方向に適宜の間隔をとって配置され、植付フレームに上下動するように回動自在に取り付けられている。
【0027】
植付アーム37は、その回転軸心(植付アーム軸37a)を中心とした対称位置に一対の爪ケース38・38を配設する。爪ケース38は、その先端部に植付爪39を取り付ける。そして、走行機体2が前後輸6・6・7・7を駆動して走行すると同時に、苗植装置3が左右に往復摺動する苗載台35から一株分の苗を植付爪39・39により取り出しながら、連続的に苗を植える植付作業を行うようにしている。
【0028】
次に、変速を行う構成について説明する。
【0029】
図3に示すように、走行変速ミッション20には、油圧式の無段変速装置21が備えられる。無段変速装置21は、エンジン5の出力により駆動される可変容量形の油圧ポンプ24と、この油圧ポンプ24からの油圧にて駆動される油圧モータ25とを有し、油圧ポンプ24における斜板24aの傾斜角が変更されることによって、作動油の吐出量を変更して、油圧モータ25の出力軸の回転数を変更して、走行機体2の走行速度を変速させるように構成される。
【0030】
なお、本実施形態においては、油圧式無段変速装置21に遊星歯車機構からなる機械式変速装置40が組み合わされて、油圧・機械式無段変速装置が構成される。
【0031】
また、車体フレーム4の前部には、図4、図6に示すように、変速操作軸63が横方向に延設されて、軸受にて回転自在に軸支される。変速操作軸63には扇形歯車62が固定されて、この扇形歯車62と変速操作軸63とが一体的に回転可能とされる。変速操作軸63には、また、アーム65がその基端部で固定されて、このアーム65と変速操作軸63とが一体的に回転可能とされる。
【0032】
変速操作軸63上の扇形歯車62には、ピニオン61が噛合される。ピニオン61は、電動式モータからなる変速アクチュエータ60により回転可能とされ、その回転により変速操作軸63を扇形歯車62を介して図6における矢印C方向、または図6における矢印D方向へ回転させることができるように構成される。
【0033】
一方、変速操作軸63上のアーム65の先端部には、前後方向に延設された変速ロッド杆67の前端部が枢着される。変速ロッド杆67の後端部には長溝孔67aが前後方向に所定長さをもって形成される。この長溝孔67aに無段変速装置21の変速アーム47の先端部に設けられたピン47aが摺動自在に嵌入されて、変速ロッド杆67の後端部と変速アーム47の先端部とが係合される。変速アーム47はその基部で油圧ポンプ24の斜板24aにトラニオン軸を介して連動連結される。
【0034】
こうして、無段変速装置21は、変速操作軸63が回転されず、変速ロッド杆67が後方に移動されないとき、または、変速操作軸63が回転されて、変速ロッド杆67が後方に移動されても、その移動量が長溝孔67aの所定長さを超えないとき、変速アーム47およびトラニオン軸によって、油圧ポンプ24の斜板24aを傾転させずに中立位置とし、各車輪6・7へ向けて出力を伝達しない中立状態となるように構成される。
【0035】
無段変速装置21は、変速ロッド杆67が殆ど後方へ移動されていない状態で、変速操作軸63が図6における矢印C方向へ回転されて、変速ロッド杆67が後方へ移動され、その後方への移動量が長溝孔67aの所定長さを超えたとき、その時点から、変速アーム47およびトラニオン軸によって、油圧ポンプ24の斜板24aを変速ロッド杆67の後方への移動量に基づいて傾転させて、変速比を増速側に変更し、走行速度を無段に増速させるように構成される。
【0036】
無段変速装置21は、変速ロッド杆67が長溝孔67aの所定長さを超えて後方へ移動されている状態で、変速操作軸63が図6における矢印D方向へ回転されて、変速ロッド杆67が前方へ移動されたとき、変速ロッド杆67の後方への移動量が長溝孔67aの所定長さを超えている間は、変速アーム47およびトラニオン軸によって、油圧ポンプ24の斜板24aを変速ロッド杆67の前方への移動量に基づいて傾転させて、変速比を減速側に変更し、走行速度を無段に減速させるように構成される。
【0037】
変速操作軸63には、無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角(変速アクチュエータ60の回転角)を検知するための第二検出手段66が設けられる。第二検出手段66は、ポテンショメータ等の角度センサからなり、変速操作軸63の回転角を検出することができるように構成される。
【0038】
また、車体フレーム4の前部には、変速ペダル軸51が横方向に延設されて、軸受にて回転自在に軸支される。変速ペダル軸51には変速ペダル16が連動機構50を介して連動連結される。
【0039】
変速ペダル16は、後部を回動支点として、運転操作部10の床面上で前部が高い斜めの状態となるように弾性体で構成された付勢手段としてばね手段にて付勢され、この状態を初期位置としている。この変速ペダル16に対しては、操縦者が初期位置にある変速ペダル16を足にて前方向へ踏み込む踏込操作、操縦者が踏み込まれた状態の変速ペダル16から足を外す踏込解除操作が行われる。
【0040】
変速ペダル16は、踏込操作が行われると、初期位置からばね手段に抗して前方向へ回転されて、変速ペダル軸51を図5における矢印E方向へ回転させる一方、踏込解除操作が行われると、ばね手段にて元の初期位置に戻されて、変速ペダル軸51を図5における矢印F方向へ回転させるように構成される。
【0041】
変速ペダル軸51には、変速ペダル16の踏込操作量を検知するための第一検出手段55が設けられる。第一検出手段55は、ポテンショメータ等の角度センサからなり、変速ペダル軸51の回転角を検出することができるように構成される。
【0042】
また、走行変速ミッション20には、油圧式無段変速装置21から各車輪6・7への出力を伝達または遮断可能とするためのクラッチ機構22が備えられるとともに、各車輪6・7に制動力を付与するブレーキ機構23が備えられる(図3参照)。
【0043】
走行変速ミッション20には、ブレーキ機構23に対する回転式の操作軸45が設けられる。操作軸45には作動部材46が固定されて、この作動部材46と操作軸45とが一体的に回転可能とされる。作動部材46はブレーキ機構23に連動連結されるだけでなく、ワイヤー等を介してクラッチ機構22とも連動連結される。
【0044】
ブレーキ機構23には、走行機体2に備えられたブレーキ入切部材75も連動連結される。
【0045】
そして、作動部材46は、操作軸45とともに回転して所定回転位置にあるとき、ブレーキ機構23を作動状態にすると同時にクラッチ機構22を切状態にする停止状態となる一方、別の所定回転位置にあるとき、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態となるように構成される。作動部材46はばね手段により走行状態となるように付勢される。
【0046】
このようにクラッチ機構22およびブレーキ機構23の両方に対する作動部材46には、受け片46aが一体的に設けられる。受け片46aには、変速ロッド杆67が前後方向に摺動自在に挿通される。変速ロッド杆67の受け片46aよりも後方に位置する部分には、ストッパー片67bが設けられて、このストッパー片67bと受け片46aとが当接可能とされる。
【0047】
変速操作軸63が回転されず、変速ロッド杆67が後方に移動されないとき、つまり変速ペダル16が初期位置に保持され、その踏込操作が行われないとき、作動部材46は、ばね手段に抗するように、ストッパー片67bに当接されて回転を規制され、ブレーキ機構23を作動状態にすると同時にクラッチ機構22を切状態にする停止状態に保持される。
【0048】
変速操作軸63が回転され、変速ロッド杆67が後方に移動されたとき、つまり変速ペダル16の踏込操作が行われて後述のように変速アクチュエータ60が回転駆動されたとき、作動部材46は、ストッパー片67bの後方への移動にともなってばね手段により回転されて、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態に変更される。
【0049】
また、車体フレーム4の前部には、ブレーキ軸70が横(左右)方向に延設されて、軸受にて回転自在に軸支される。ブレーキ軸70にはブレーキペダル17が連動連結される。
【0050】
ブレーキペダル17は、後部を回動支点として、運転操作部10の床面上で前部が高い斜めの状態となるように弾性体で構成された付勢手段としてばね手段にて付勢され、この状態を初期位置としている。このブレーキペダル17に対しては、操縦者が初期位置にあるブレーキペダル17を足にて前方向へ踏み込む踏込操作、または、操縦者が踏み込まれた状態のブレーキペダル17から足を外す踏込解除操作が行われる。
【0051】
ブレーキペダル17は、踏込操作が行われると、初期位置からばね手段に抗して前方向へ回転されて、ブレーキ軸70を図5における矢印M方向へ回転させる一方、踏込解除操作が行われると、ばね手段により後方向へ回転されて元の初期位置に戻され、ブレーキ軸70を図5における矢印M方向と逆方向へ回転させるように構成される。
【0052】
ブレーキ軸70には、アーム71がその基端部で固定される。アーム71の先端部には、前後方向に延設されたブレーキロッド杆72の前端部が枢着される。ブレーキロッド杆72の後端部は作動部材46の係止片46bに前後方向に摺動自在に挿通される。
【0053】
係止片46bは作動部材46に一体に設けられる。ブレーキロッド杆72の係止片46bよりも後方へ位置する部分には、ストッパー72aが設けられて、このストッパー72aと係止片46bとが当接可能とされる。
【0054】
ブレーキ軸70が回転されず、ブレーキロッド杆72が前方に移動されないとき、つまりブレーキペダル17が初期位置に保持され、その踏込操作が行われないとき、作動部材46の、ブレーキ機構23を作動状態にすると同時にクラッチ機構22を切状態にする停止状態から、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態への自由な作動が許容される。そのため、変速ペダルの踏込操作が行われたとき、前述のように走行状態に変更される。
【0055】
ブレーキ軸70が回転され、ブレーキロッド杆72が前方(矢印L方向)に移動されたとき、つまりブレーキペダル17の踏込操作が行われたとき、作動部材46は、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態であれば、ばね手段に抗して回転されて、変速ロッド杆67の移動位置にかかわらず、つまり変速ペダル16の踏込操作よりも優先して、強制的に停止状態に変更される。
【0056】
また、走行機体2には、制御装置80(図7)が備えられる。この制御装置80には、第一検出手段55、第二検出手段66、電動式モータからなる変速アクチュエータ60、およびブレーキ入切部材75が接続される。
【0057】
制御装置80は、第一検出手段55に基づいて変速ペダル16の踏込操作量を検知し、その検知結果に基づいて無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角があらかじめ設定された設定角となるように、変速アクチュエータ60を回転駆動させるように構成される。制御装置80は、また、第二検出手段66に基づいて油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角を検知するように構成される。
【0058】
このような構成において、変速ペダル16の踏込操作が行われないときには、変速アクチュエータ60により変速操作軸63が回転されず、変速ロッド杆67が後方に移動されない。そのため、走行変速ミッション20における無段変速装置21の変速アーム47が回転せず、無段変速装置21の油圧ポンプ24の斜板24aが中立位置で保持される。つまり、無段変速装置21が各車輪6・7へ向けて動力を伝達しない中立状態となる。
【0059】
しかも、この変速ペダル16の踏込操作が行われないときには、ブレーキ機構23が制動状態となると同時に、クラッチ機構22が切状態となる。これにより、無段変速装置21(油圧・機械式無段変速装置)から各車輪6・7への出力が遮断されることとなる。したがって、走行機体2は走行せずに停止状態となる。
【0060】
走行機体2が停止状態である時に、変速ペダル16の踏込操作が行われると、変速ペダル軸51が図5における矢印E方向に回転し、第一検出手段55がこの回転よる変速ペダル軸51の回転角を検出する。制御装置80は、この第一検出手段55の検出値を取得し、これに基づいて変速ペダル16の踏込操作量を検知する。
【0061】
そして、この変速ペダル16の踏込操作量に基づいて、制御装置80は変速アクチュエータ60を回転駆動させる。この変速アクチュエータ60の回転駆動にともなって変速操作軸63が図6における矢印C方向に回転し、変速ロッド杆67が図6における矢印G方向へ移動し始める。
【0062】
変速ロッド杆67の後方への移動量が、その後端側の長溝孔67aの所定長さを超えると、ストッパー片67bが後方へ移動する。その結果、ストッパー片67bにてばね手段による回転を規制されていた作動部材46が回転し、ブレーキ機構23が非作動状態になると同時に、クラッチ機構22が入状態になり、これにより無段変速装置21から各車輪6・7へ動力が伝達可能となる。
【0063】
このときには、変速アーム47が後方に回転し、無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aが、その傾転角が変速ペダル16の踏込操作量に応じた設定角となるように、トラニオン軸を介して傾転する。これにより、無段変速装置21がその変速比を増速側に変更し、変速した動力を各車輪6・7へ伝達する。したがって、走行機体2は走行を始める。
【0064】
このような状態で、変速ペダル16の踏込解除操作を行うと、変速ペダル軸51が図5における矢印F方向に回転し、第一検出手段55がこの回転よる変速ペダル軸51の回転角を検出する。制御装置80は、第一検出手段55の検出値を取得して、これに基づいて変速ペダル16の踏込操作量を検知する。
【0065】
そして、この変速ペダル16の踏込操作量に基づいて、制御装置80は変速アクチュエータ60を前記とは逆方向に回転駆動させる。変速アクチュエータ60の回転駆動にともなって変速操作軸63が図6における矢印D方向に回転し、変速ロッド杆67が図6における矢印H方向へ移動する。
【0066】
変速ロッド杆67の前方への移動にともなって、変速アーム47が前方に回転し、無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aが、その傾転角が変速ペダル16の踏込操作量に応じた設定角となるように、トラニオン軸を介して傾転する。これにより、無段変速装置21がその変速比を減速側に変更し、変速した出力を各車輪6・7へ伝達する。したがって、走行機体2の速度が減速する。
【0067】
変速ペダル16が元の初期位置まで戻った時点で、変速アーム47も元の位置に戻り、無段変速装置21の油圧ポンプ24の斜板24aが中立位置となる。したがって、走行機体2の走行が停止する。
【0068】
次に、制御構成について説明する。
【0069】
図7および図8に示すように、制御装置80には、第一検知手段55と、第二検知手段66と、最高速度設定器77と、走行速度検知手段86と、エンジン回転数検出手段87と、走行モード切替スイッチ18または燃費モード切替スイッチ19と、リンク高さ検出手段88と、ペダル感度設定器89と、が接続される。制御装置80には、また、変速アクチュエータ60と、表示パネル15と、エンジン回転数制御手段85と、ブレーキ入切部材75と、が接続される。
【0070】
最高速度設定器77は、運転操作部10に設けられたダイヤル等からなり、田植機1の最高速度を設定することができるように構成される。走行速度検知手段86は、車軸等の回転数を検出する回転数センサ等からなり、その検出値から田植機1の走行速度を検知することができるように構成される。
【0071】
エンジン回転数検出手段87は、エンジン5の出力軸の回転数を検出する回転数センサ等からなり、その検出値からエンジン5の回転数を検知することができるように構成される。
【0072】
リンク高さ検出手段88は、走行機体2に対する苗植装置3の植付リンク機構30の傾斜角度を検出する角度センサ等からなり、その検出値から苗植装置3、即ち植付リンク機構30および植付部31の高さを検知することができるように構成される。前記角度センサは、たとえばポテンショメータからなり、ロワーリンク33の前端に設けられる。
【0073】
ここで、走行機体2の後車輪7の下端と耕盤とは略同じ高さとなるので、後車輪7の下端と略同じ高さとなるように苗植装置3の植付部31を位置させた時の走行機体2に対する植付リンク機構30の回動角度を予め検出しておくことで、制御装置80はこの予め検出された傾斜角度と新たに検出された植付リンク機構30の傾斜角度とに基づいて植付部31のセンターフロート41の高さを演算し、耕盤の深さを得ることができるようになっている。
【0074】
エンジン回転数制御手段85は、エンジンの回転数を変更制御するアクチュエータの実施の一形態である。エンジン回転数制御手段85は、内燃機関の種類により、燃料噴射量や吸気量等を変更することで、エンジン5のエンジン回転数を制御することができるように構成される。本実施形態の田植機1においてはエンジン5がディーゼルエンジンであることから、エンジン回転数制御手段85は、アクチュエータとしてのソレノイドによりラック位置を変更して燃料噴射量を変更することで、エンジン5のエンジン回転数を制御することができるように構成される。
なお、エンジン5がガソリンエンジンの場合には、エンジン回転数制御手段85は、モータを駆動させてスロットルを開閉することで、エンジン5のエンジン回転数を調節して制御することができるように構成される。
【0075】
ブレーキ入切部材75は、電動式のモータやシリンダ、または電磁バルブで制御される油圧シリンダ等からなり、その作動によりブレーキ機構23を非作動状態と作動状態とを切り替えることができるように構成される。ただし、ブレーキ入切部材75は、作動部材46によるブレーキ機構23の動作と干渉することなく、ブレーキペダル17の操作を優先して当該ブレーキ機構23を動作させることができるように設けられる。
【0076】
ペダル感度設定器89は、切替スイッチやダイヤル等からなり、変速ペダルのペダル感度を変更することができるように構成される。ペダル感度設定器89は、運転操作部10に配置される。
【0077】
走行モード切替スイッチ18は、田植機1の走行モードを切り替えることができるように構成される。走行モード切替スイッチ18は、運転操作部10で操縦ハンドル13の近傍に配置される。この走行モード切替スイッチ18により切替可能な走行モードとして、路上走行モードと、植付作業モードと、畦越えモードとが設定されている。
【0078】
路上走行モードとは、田植機1を圃場以外の場所、例えば一般路上で走行させる場合に使用される走行モードである。すなわち、田植機1を走行負荷が小さくなる場所で走行させる際に使用される走行モードである。
【0079】
植付作業モードとは、田植機1を圃場で植付作業と同時に走行させる場合に使用される走行モードである。すなわち、田植機1を走行負荷が大きくなる場所で走行させる際に使用される走行モードである。
【0080】
畦越えモードとは、田植機1を畦を越えて隣の圃場へ移動させる場合、圃場へ入出させる場合、歩み板を使用して搬送車へ積み降ろしする場合に使用する走行モードである。すなわち、田植機1を非常にゆっくり走行させる場合であって、走行負荷が急に変化する可能性がある場合に使用される走行モードである。
【0081】
燃費モード切替スイッチ19は、田植機1の燃費モードを切り替えることができるように構成される。燃費モード切替スイッチ19は、運転操作部10で操縦ハンドル13の近傍に配置される。この燃費モード切替スイッチ19により切替可能な燃費モードとして、低燃費モードと、高出力モードとが設定されている。
【0082】
低燃費モードとは、走行負荷が比較的小さくなる浅い田等で田植機1を走行させる場合に使用される燃費モードであり、変速ペダル16の踏込操作が行われたとき、エンジン5の回転数が一定に維持されながら、無段変速装置21が増速方向に操作される、即ち無段変速装置21の変速比が増速側に変更されて、省エネ走行が行われるモードである。
【0083】
高出力モードとは、走行負荷が比較的大きくなる深い田等で田植機1を走行させる場合に使用されする燃費モードであり、変速ペダル16の踏込操作が行われたとき、エンジン5の回転数を深い田等でも十分な駆動力が得られる程度に増加させながら、無段変速装置21が増速方向に操作される、即ち無段変速装置21の変速比が増速側に変更されて、走行が行われる走行モードである。
【0084】
次に、田植機1のペダル感度制御機構について説明する。
【0085】
図8に示すように、制御装置80は、第一検出手段55に基づいて変速ペダル16の踏込操作量を検知し、その検知結果に基づいて無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角があらかじめ設定された設定角となるように、変速アクチュエータ60を回転駆動する。
【0086】
また同時に、制御装置80は、第一検出手段55の検知結果に基づいてエンジン回転数制御手段85のソレノイドによりラック位置を変更して燃料噴射量を変更することで、エンジン5のエンジン回転数を制御する。
【0087】
通常、制御装置80は、第一検出手段55で検出される変速ペダル16の踏込操作量の変化割合に比例して、変速アクチュエータ60の回転角の変化割合、およびエンジン回転数制御手段85のソレノイドによるラック位置の変化割合を走行速度が増速する増速方向に変化させるように制御する
【0088】
すなわち、制御装置80は、変速ペダル16の踏込操作量の変化割合に対して、変速アクチュエータ60の回転角、およびエンジン回転数制御手段85のソレノイドによるラック位置の変化割合が一定となるように、変速ペダル16の踏込操作量に応じて、変速アクチュエータ60の回転角およびエンジン回転数制御手段85のソレノイドによるラック位置を制御する。
【0089】
このように制御装置80は、変速ペダル16の踏込操作量に応じて変速アクチュエータ60およびエンジン回転数制御手段85を制御するが、本実施形態では、操縦者が変速ペダル16を踏込操作したときの踏込操作感度をペダル感度設定器89にてペダル感度を適宜に設定することで変更可能としている。
具体的には、制御装置80は、ペダル感度設定器89での設定に応じて、変速ペダル16を踏込操作または踏込解除操作したときの変速アクチュエータ60およびエンジン回転数制御手段85の変化割合が変化するようにしている。つまり、ペダル感度設定器89での設定に応じて、変速ペダル16を踏込操作または踏込解除操作したときの増速または減速する度合いが異なるようにしている。
【0090】
たとえば、ペダル感度設定器89を操作してペダル感度を「小」側に設定すると、変速ペダル16の踏み始め、即ち踏込操作量が少ない領域では、走行速度の増速度合いが小さく、踏込操作量が多い領域では、増速度合いが大きくなるようにする。ペダル感度設定器89を操作してペダル感度を「大」側に操作すると、変速ペダル16の踏み始め、即ち踏込操作量が少ない領域においては、増速度合いが大きく、踏込操作量が多い領域では、増速度合いが小さくなるようにする。そして、このペダル感度の「小」側から「大」側、または「大」側から「小」側への設定は、適宜に変更可能とする。
【0091】
その結果、熟練した操縦者が田植機1を走行させる場合であれば、ペダル感度を「大」側に設定して踏み始めにおける変速ペダル16のペダル感度を敏感にしておくことで、田植機1を速やかに発進させて植付作業を開始することが可能となる。また、不慣れな操縦者が田植機1を走行させる場合であれば、ペダル感度を「小」側に設定して踏み始めにおける変速ペダル16のペダル感度を鈍感にしておくことで、田植機1をゆっくり発進させて、そのときの反転動力を小さくし、植付作業を適正に行うことが可能となる。
【0092】
また、制御装置80は、田植機1における走行モードまたは燃費モードを適用可能として、その適用後のに基づいて変速ペダル16のペダル感度を設定し、これに対応するように変速ペダル16の踏込操作量に対する変速アクチュエータ60の制御およびエンジン回転数制御手段85の制御を行うように構成することもできる。
以下に、田植機1の走行モードおよび燃費モードにおける各モードに応じた変速ペダル16のペダル感度の制御について説明する。
【0093】
まず、田植機1に走行モードが適用される場合のペダル感度制御機構について説明する。
【0094】
図7に示すように、走行モード切替スイッチ18は制御装置80に接続され、前述の走行モードの切替機能に加えて、ペダル感度設定器89と同様のペダル感度設定機能を有するように構成されている。走行モード切替スイッチ18は、運転操作部10に配置される。ただし、走行モード切替スイッチ18はペダル感度設定器89に代えて設けてもよい。
【0095】
走行モード切替スイッチ18の操作が行われた場合、制御装置80により走行モードが路上走行モード、植付作業モード、畦越えモードのいずれかのモードに変更される。そして、その変更後のモードに応じて、制御装置80により変速ペダル16のペダル感度が予め適宜に設定されたものとされる。但し、走行モードに含むモードは、路上走行モード、植付作業モード、畦越えモードに限定するものではなく、田植機1を走行させる上で一定の法則性を有するモードであればよい。
【0096】
図9に示すように、田植機1を圃場で植付作業と同時に走行させる場合、走行モード切替スイッチ18を操作して、走行モードを植付作業モードに変更する。この場合、制御装置80は、変速ペダル16の踏込操作および踏込解除操作に対して変速アクチュエータ60の回転角が変化する割合を、踏込操作量および踏込解除操作量に比例した所定の割合で変化させる。
【0097】
一方、田植機1を圃場以外の場所、例えば一般路上で走行させる場合、走行モード切替スイッチ18を操作して、走行モードを路上走行モードに変更する。この場合、制御装置80は、変速ペダル16の踏込操作に対して変速アクチュエータ60の回転角が変化する割合を、踏み始めにおいては植付作業モードの場合よりも小さくし、踏込操作量が増加するに従って植付作業モードの場合と同程度まで段階的に大きくする。また、制御装置80は、変速ペダル16の踏込解除操作に対して変速アクチュエータ60の回転角が変化する割合を、踏込操作量が減少する、即ち踏込解除操作量が増加するに従って前記とは逆に変化させる。
【0098】
田植機1を圃場以外の場所で走行させる場合、田植機1の走行負荷は圃場で植付作業と同時に走行させる場合に比べて小さくなる。そのため、圃場で植付作業と同時に走行させる場合と同様の変速ペダル16の踏込操作または踏込解除操作を行うと、急加速や急減速が生じるおそれがあり、操作性の低下する。
【0099】
そこで、走行モード切替スイッチ18を操作して、走行モードを路上走行モードに切り替えた場合には、制御装置80が前記制御を行うことにより、変速ペダル16のペダル感度を植付作業モードにおけるペダル感度より鈍くなるように設定して、圃場で植付作業と同時に走行させる場合と同様の変速ペダル16の踏込操作または踏込解除操作を行った場合に急加速や急減速が発生するのを抑止し、操作性の低下を防止することが可能となる。
【0100】
また、田植機1を畦を越えて隣の圃場へ移動させる等の場合、走行モード切替スイッチ18を操作して、走行モードを畦越えモードに変更する。この場合、制御装置80は、変速ペダル16の踏込操作に対して変速アクチュエータ60の回転角が変化する割合を、踏み始めにおいては田植機1を路上走行モードの場合よりも小さくし、踏込操作量が増加するに従って田植機1を路上走行モードの場合と同程度まで段階的に大きくする。また、制御装置80は、変速ペダル16の踏込解除操作に対して変速アクチュエータ60の回転角が変化する割合を、踏踏込操作量が減少するに従って前記とは逆に変化させる。
【0101】
田植機1を畦を越えて隣の圃場へ移動させる場合に加えて、圃場へ入出させる場合、歩み板を使用して搬送車へ積み降ろしする場合などには、田植機1を非常にゆっくり走行させるが、走行負荷が急激に変化する可能性がある。そのため、変速ペダル16の踏込操作または踏込解除操作時に、走行負荷の急激な変化によって急加速や急減速が生じるおそれがある。
【0102】
そこで、走行モード切替スイッチ18を操作して、走行モードを畦越えモードに切り替えた場合には、制御装置80が前記制御を行うことにより、変速ペダル16のペダル感度を走行モードにおけるペダル感度よりさらに鈍くなるように設定して、走行負荷が急激に変化したときでも急加速や急減速が発生するのを抑止することが可能となる。
【0103】
次に、田植機1に燃費モードが適用される場合のペダル感度制御機構について説明する。
【0104】
図8に示すように、燃費モード切替スイッチ19は制御装置80に接続され、前述の燃費モードの切替機能に加えて、ペダル感度設定器89と同様のペダル感度設定機能を有するように構成されている。走燃費モード切替スイッチ19は、運転操作部10に配置される。ただし、燃費モード切替スイッチ19はペダル感度設定器89に代えて設けてもよい。
【0105】
燃費モード切替スイッチ19の操作が行われて、燃費モードが高出力モードに切り替えられる。高出力モードでは、変速ペダル16の踏込操作が行われると、制御装置80は無段変速装置21を増速方向に、エンジン回転数制御手段85を増加方向に制御する。ここで、制御装置80は、変速ペダル16の踏み始めにおけるエンジン5の回転数の増加割合を大きくするとともに、無段変速装置21の増速割合は通常どおりに制御する。
【0106】
その結果、深い田や坂道等での走行では、走行負荷が大きくなるため、燃費モード切替スイッチ19を操作して、燃費モードを高出力モードに切り替えることによって、発進時からエンジン回転数の増加割合を大きくして、エンストの発生の防止を図りながら、十分な駆動力を得ることが可能となる。
【0107】
一方、燃費モード切替スイッチ19の操作が行われて、燃費モードが低燃費モードに切り替えられる。低燃費モードでは、変速ペダル16の踏込操作が行われると、制御装置80は無段変速装置21のみを増速方向に制御する。ここで、制御装置80は、変速ペダル16の踏み始めにおけるエンジン5の回転数を予め設定した回転数に維持し、無段変速装置21の増速割合は通常どおりに制御する。
【0108】
その結果、浅い田や平坦な路上走行では、走行負荷が小さくなるため、燃費モード切替スイッチ19を操作して、燃費モードを低燃費モードに切り替えることによって、発進時からエンジン回転数を一定に維持し、無駄な燃料の消費を抑えた走行を行うことが可能となる。ただし、低燃費モードでは、エンジン5の回転数を予め設定した回転数に維持する代わりに、エンジン回転数の増加割合を高出力モードの場合よりも小さくするものとしてもよい。
【0109】
次に、耕盤の深さに応じて前記低燃費モードと前記高出力モードとが自動切り替わる制御について説明する。
【0110】
図11に示すように、運転操作部10の操作レバーが植付作業位置となり、植付作業が開始すると、制御装置80は、リンク高さ検出手段88により苗植装置3(植付リンク機構30)の高さを検知し、その検知結果に基づいて耕盤の深さを演算して取得する(S1)。制御装置80は、この取得した耕盤の深さの値と、予め設定した設定値とを比較し、この取得した耕盤の深さの検出値が当該設定値を超えているか否かを判断する(S2)。つまり、耕盤が深いか浅いかを判断する。ここでの設定値は、低燃費モードにおいて田植機1が充分に走行可能な耕盤の深さのうち最も深い値をいう。
【0111】
取得した耕盤の深さの検出値が設定値を超えていないと判断した場合(S2−No)、即ち田植機1が耕盤の深さの浅い田等の圃場を走行していると判断した場合、燃費モードを低燃費モードにして、変速ペダル16の踏込操作が行われると、制御装置80は、エンジン5の回転数を一定に維持するようにエンジン回転数制御手段85を制御するとともに、変速アクチュエータ60を増速方向に制御する(S3)。そして、制御装置80は、リンク高さ検出手段88により繰り返し現時点での耕盤の深さを検知する(S1)。
【0112】
取得した耕盤の深さの検出値が設定値を超えていると判断した場合(S2−Yes)、即ち田植機1が耕盤の深さの深い田等の圃場を走行していると判断した場合、燃費モードを高出力モードにして、変速ペダル16の踏込操作が行われると、制御装置80は、エンジン5の回転数を増加させるようにエンジン回転数制御手段85を増加方向に制御するとともに、変速アクチュエータ60を増速方向に制御する(S4)。そして、制御装置80は、リンク高さ検出手段88により繰り返し現時点での耕盤の深さを検知する(S1)。
【0113】
このように、制御装置80はリンク高さ検出手段88に基づいて取得した苗植装置3の高さに応じて耕盤の深さを検知し、燃費モードを高出力モードまたは低燃費モードに切り替える。その結果、耕盤の深さが浅い田等の圃場を走行する場合には、田植機1の走行負荷が小さくなることから、燃費モードを適切なモードである低燃費モードに自動的に切り替えることが可能となる。耕盤の深さが深い田等の圃場を走行する場合には、田植機1の走行負荷が大きくなることから、燃費モードを適切なモードである高出力モードに自動的に切り替えることが可能となる。
【0114】
以上のように、田植機1における変速ペダル16(変速操作具)の感度制御機構は、エンジン5と、無段変速装置21と、変速ペダル16(変速操作具)と、変速ペダル16(変速操作具)の操作量に基づいて無段変速装置21を変速制御する変速アクチュエータ60と、を備えた田植機1において、変速ペダル16(変速操作具)の操作感度を変更可能なペダル感度設定器89を備えるものである。
このように構成することで、変速ペダル16(変速操作具)の操作感度が変更可能であるため、操縦者が熟練したものであれば、変速ペダル16(変速操作具)の操作始めにおける操作感度を敏感に設定でき、田植機を速やかに発進して植付作業を開始することが可能となる。一方、操縦者が不慣れなものであれば、変速ペダル16(変速操作具)の操作始めにおける操作感度を鈍感に設定して、田植機1をゆっくり発進させることが可能となり、発進時の転動反力を小さくして、植付作業を適正に行うことが可能となる。したがって、田植機1の操作性の向上を図ることができる。また、ブロワ付きの施肥機を搭載している場合に、田植機1をゆっくり発進させると肥料の供給開始と田植機の発進とのタイムラグが小さくなり、施肥ムラを防止できる。
【0115】
また、田植機1における変速ペダル16(変速操作具)の感度制御機構は、操作感度の設定に、路上走行モード又は植付作業モードを択一的に選択できる走行モード切替スイッチ18(モード切替手段)を設け、路上走行モードでは植付走行モードに比べて、操作感度が鈍くなるように設定されているものである。
このように構成することで、路上走行モードでは植付走行モードに比べて走行負荷が小さいため、植付走行モードと同様に変速ペダル16(変速操作具)の操作を行うと、急加速、急減速が生じ易いから、路上走行モードで変速ペダル16(変速操作具)の操作感度を鈍くすることで、急加速・急減速を抑制することが可能となる。
【0116】
さらに、田植機1における変速ペダル16(変速操作具)の感度制御機構は、エンジン5の回転数を変更制御するアクチュエータ(エンジン回転数制御手段85)と、無段変速装置21を変速制御する変速アクチュエータ60と、をそれぞれ設け、エンジン5の回転数の変更制御と無段変速装置21の変速制御とを各別に操作するように構成し、操作感度の設定に、低燃費モードと高出力モードに切替え可能な燃費モード切替スイッチ19(モード切替手段)を設け、低燃費モードでは、エンジン5の回転数を維持しながら無段変速装置21を増速方向に操作するように各アクチュエータを作動させ、高出力モードでは、エンジン5の回転数を増加させながら無段変速装置21を増速方向に操作するように各アクチュエータを作動させるものである。
このように構成することで、深い田と浅い田等の圃場の条件によって走行負荷が変わるため、低燃費モードと高出力モードとを切り替えることで、浅い田では省エネ走行が可能となり、深い田では十分な駆動力を得ることが可能となる。
【0117】
さらにまた、田植機1における変速ペダル16(変速操作具)の感度制御機構は、植付リンク機構30の傾斜角度に基づいて、走行機体2に対する植付リンク機構30の高さを検出するセンサを設け、耕盤の深さに応じて低燃費モード又は高出力モードを自動的に切り替えるように構成したものである。
このように構成することで、低燃費モード又は高出力モードを自動的に切り替えるようにしていることから、操縦者が確認し難い耕盤の深さを検出してエンジン5の回転数を変更でき、耕盤の深さに適応させた植付作業を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0118】
1 田植機
2 走行機体
5 エンジン
16 変速ペダル(変速操作具)
18 走行モード切替スイッチ(モード切替手段)
19 燃費モード切替スイッチ(モード切替手段)
21 無段変速装置
30 植付リンク機構
60 変速アクチュエータ
80 制御装置
85 エンジン回転数制御手段
89 ペダル感度設定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、無段変速装置と、変速操作具と、前記変速操作具の操作量に基づいて前記無段変速装置を変速制御するアクチュエータと、を備えた田植機において、
前記変速操作具の操作感度を変更可能な感度設定器を備える田植機における変速操作具の感度制御機構。
【請求項2】
操作感度の設定に、路上走行モード又は植付作業モードを択一的に選択できるモード切替手段を設け、
前記路上走行モードでは植付走行モードに比べて、操作感度が鈍くなるように設定されている請求項1に記載の田植機における変速操作具の感度制御機構。
【請求項3】
前記エンジンの回転数を変更制御するアクチュエータと、前記無段変速装置を変速制御するアクチュエータと、をそれぞれ設け、前記エンジンの回転数の変更制御と前記無段変速装置の変速制御とを各別に操作するように構成し、
操作感度の設定に、低燃費モードと高出力モードに切替可能なモード切替手段を設け、
前記低燃費モードでは、前記エンジンの回転数を維持しながら前記無段変速装置を増速方向に操作するように各アクチュエータを作動させ、
前記高出力モードでは、前記エンジンの回転数を増加させながら前記無段変速装置を増速方向に操作するように各アクチュエータを作動させる請求項1に記載の田植機における変速操作具の感度制御機構。
【請求項4】
植付リンク機構の傾斜角度に基づいて、走行機体に対する前記植付リンク機構の高さを検出するセンサを設け、耕盤の深さに応じて前記低燃費モード又は前記高出力モードを自動的に切り替えるように構成した請求項3に記載の田植機における変速操作具の感度制御機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−213620(P2010−213620A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63655(P2009−63655)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】