説明

田植機

【課題】苗継ぎ作業時に、エンジンの回転数をアイドル回転数よりも低下させた場合でも、植付部を設定角度に維持することができる田植機を提供する。
【解決手段】エンジン14が搭載された走行部10の後方に植付部40を左右傾斜可能に装着した田植機1において、制御装置100は、苗継ぎ位置検出スイッチ23aのON信号を検出すると、エンジン14の回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように第一アクチュエータ71を制御して、かつ、角速度センサ61の検出値Bを静止状態の検出値Bで置き換えて前記第二アクチュエータ72を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機に関し、詳細には、植付部に苗を補給する苗継ぎ作業時における、植付部の左右傾斜角度を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、苗継ぎ作業時に、主変速レバーを苗継ぎ位置に操作すると、該主変速レバーの操作に連動してアクセル操作体を低速側に移動させ、エンジンの回転数を低下するように構成された田植機は公知となっている(例えば特許文献1参照)。
また、走行部の左右傾斜角速度を検出する角速度センサの検出値と、植付部の左右傾斜角度を検出する傾斜角度センサの検出値と、に応じて、油圧シリンダ等のアクチュエータを作動させて、植付部が水平となるように制御する田植機は公知となっている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
ところが、苗継ぎ作業等を行うために、主変速レバーを苗継ぎ位置に操作すると、エンジンの回転数がアイドル回転数よりも低下して、エンジン自体の振動が大きくなることがある。その大きくなった振動は走行部に設けた角速度センサにより検知され制御信号を出力する程度の振動となる。つまり、エンジンの振動が角速度センサにより検知されてアクチュエータが作動され、植付部は設定角度となるように傾倒し、植付部が左又は右に傾斜することにより左右一側下部が土中に突っ込むことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−56436号公報
【特許文献2】特許第3115276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、苗継ぎ作業時に、エンジンの回転数をアイドル回転数よりも低下させた場合でも、植付部を設定角度に維持することができる田植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
請求項1においては、エンジンが搭載された走行部の後方に植付部を左右傾斜可能に装着した田植機において、前記走行部の左右傾斜を検出する走行側左右傾斜センサと、前記植付部の左右傾斜を検出する植付側左右傾斜センサと、前記エンジンの回転数を変更する第一アクチュエータと、前記植付部の左右傾斜角度を変更する第二アクチュエータと、前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値及び前記植付側左右傾斜センサの検出値に基づいて前記第二アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、苗継ぎ作業時には、前記エンジンの回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値を静止状態の検出値に置き換えて前記第二アクチュエータを制御するものである。
【0008】
請求項2においては、エンジンが搭載された走行部の後方に植付部を左右傾斜可能に装着した田植機において、前記走行部の左右傾斜を検出する走行側左右傾斜センサと、前記植付部の左右傾斜を検出する植付側左右傾斜センサと、前記エンジンの回転数を変更する第一アクチュエータと、前記植付部の左右傾斜角度を変更する第二アクチュエータと、前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値及び前記植付側左右傾斜センサの検出値に基づいて前記第二アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、苗継ぎ作業時には、前記エンジンの回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値にローパスフィルタを通過させて前記第二アクチュエータを制御するものである。
【0009】
請求項3においては、前記エンジンからの動力を変速する変速装置と、前記エンジンからの動力を入切するクラッチと、駆動輪を制動する制動装置と、を備え、前記第一アクチュエータは、前記変速装置の変速段の変更、前記クラッチの入切、及び前記制動装置の制動が可能に構成されて、前記制御装置は、苗継ぎ作業時には、前記変速装置の変速段が中立、前記クラッチが切、又は前記制動装置が制動、のうち少なくとも一つを行うように前記第一アクチュエータを制御するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
本発明においては、苗継ぎ作業時に、エンジンの回転数を低下させてエンジンの振動が大きくなった場合でも、植付部を設定角度に維持することができる。従って、走行部にエンジンからの振動が伝わっても植付部が傾斜することがなく土中に突っ込むこともなく、苗継ぎ作業をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係る田植機1の全体側面図。
【図2】本発明の第一実施形態に係る田植機1の動力伝達構造を示す図。
【図3】本発明の第一実施形態に係る田植機1の植付部40の一部正面図。
【図4】本発明の第一実施形態に係る田植機1の制御の構成を示す図。
【図5】本発明の第二実施形態に係る田植機1の制御の構成を示す図。
【図6】本発明の第二実施形態に係る田植機1の角速度センサ61の検出値B。(a)ローパスフィルタ通過前。(b)ローパスフィルタ通過後。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図1から図3を用いて、本発明の一実施形態に係る田植機1の全体構成について説明する。なお、本実施形態においては、田植機は八条植えの田植機とするが、これは特に限定するものではなく、例えば六条植えや十条植えの田植機であってもよい。
【0014】
図1に示すように、田植機1は、走行部10と植付部40とを有し、走行部10により走行しながら、植付部40により苗を圃場に植え付けることができるように構成される。植付部40は、走行部10の後方に配置されて、この走行部10の後部に、昇降機構30を介して連結される。
【0015】
走行部10においては、フロントアクスルケースが車体フレーム11の前部に支持され、当該フロントアクスルケースに駆動輪となる前車輪12が取り付けられる。リヤアクスルケースが車体フレーム11の後部に支持されて、当該リヤアクスルケースに駆動輪となる後車輪13が取り付けられる。
【0016】
走行部10においては、エンジン14が車体フレーム11の前部に搭載されて、ボンネット15で覆われている。ミッションケース16が車体フレーム11の前部に支持されて、エンジン14の後方に配置される。予備苗載台17が車体フレーム11の前部の左右両側から立設された各取付フレーム18に取り付けられて、ボンネット15の左右両側方に配置される。
【0017】
ボンネット15の後部上面にはダッシュボード21が配置され、該ダッシュボード21には、操向ハンドル22、主変速レバー23、植付部傾斜設定器24(図4参照)等が配置される。前記操向ハンドル22の後方には、運転席25が配置され、該運転席25の周囲には、乗降用や苗補給用のステップ26が配置される。
【0018】
図2に示すように、ミッションケース16の内部には、エンジン14からの動力を変速する油圧−機械式無段変速機(HMT:HydroMechanicalTransmission)16aと、HMT16aからの動力を複数段に変速する主変速機構16bと、HMT16aから主変速機構16bへの動力の入切を行う主クラッチ16cと、主変速機構16bの出力軸の回転、ひいては前車輪12及び後車輪13を制動する制動装置16dと、が搭載される。
【0019】
図3に示すように、植付部40においては、植付ミッションケース50が植付フレーム49の下部で左右中央付近に支持される。詳細には、植付フレーム49は、長手方向を左右方向とし上方向から順次配置された上フレーム49a、中フレーム49b、及び下フレーム49c、を備え、下フレーム49cの左右中途部に植付ミッションケース50が取り付けられる。
【0020】
図1及び図2に示すように、四つの植付伝動ケース46がそれぞれ前記下フレーム49cから後方に延設されて、左右方向に適宜の間隔をとって配置される。ロータリケース44が各植付伝動ケース46の後端部左右両側に回動可能に支持される。ロータリケース44は植付条数と同数、即ち本実施形態では八つ備えられる。そして、二つの植付爪45が、ロータリケース44の回転支点を挟むように、このロータリケース44の長手方向両側にそれぞれ取り付けられる。
【0021】
図1に示すように、苗載台41が植付伝動ケース46の上方に前高後低の傾斜状態で配置される。苗載台41は、植付フレーム49の後部にガイドレールを介して左右方向に往復動可能に取り付けられる。複数条(8条)の苗マット載置部を備える苗載台41は、それぞれの下端側が一つのロータリケース44と対向するように、左右方向に並べられる。そして、苗マットが各苗載台41に載置されて、ロータリケース44の回転時に植付爪45により1株の苗が当該苗載台41上の苗マットから切り取り可能とされる。
【0022】
図2及び図3に示すように、苗載台41は、横送り機構52により左右往復横送り可能とされる。また、各植付条に対して二つの苗縦送りベルト47が苗載台41に設けられる。苗縦送りベルト47は、苗載台41が左右往復横送りのストローク端に到達するごとに、縦送り機構53により苗載台41上の苗マットを下方へ向かって縦送りするように作動可能とされる。
【0023】
図1に示すように、植付部40においては、複数のフロート42が上下動自在に、整地ロータ43が昇降可能に植付フレーム49に支持されている。また、線引きマーカ48が植付フレーム49の左右両側に上下回動可能に支持される。
【0024】
昇降機構30は、植付部40を昇降させる機構であり、トップリンク31、ロワリンク32、及び支持リンク33を有する昇降リンク機構34と、昇降シリンダ35等から構成される。リヤアクスルケースから立設するリンク支持部材19の上部に、トップリンク31の前部が連結されて、リンク支持部材19の下部にロワリンク32の前部が連結される。支持リンク33の上部に、トップリンク31の後部が連結されて、支持リンク33の下部に、ロワリンク32の後部が連結される。
【0025】
ロワリンク32の前端からマスト32aが立設されて、該マスト32aの上部が、昇降シリンダ35から突出するピストンロッド35aと連結されている。また、前記マスト32aの上部とロワリンク32の後端との間には、補強部材32bが連結されている。昇降機構30は、昇降シリンダ35を伸縮して、昇降リンク機構34を上下方向に駆動させることで植付部40が昇降可能とされる。
【0026】
支持リンク33の後面には、植付部40を取り付けるためのヒッチブラケット36が設けられる。図3に示すように、ヒッチブラケット36の下部には、前後方向に開口した円筒状の円筒部36aが形成されて、該円筒部36aに取付部材37から突出するローリング軸37aが挿嵌される。前記取付部材37は、植付ミッションケース50の前面に取り付けられる。こうして、植付ミッションケース50を含む植付部40が、ヒッチブラケット36に対してローリング軸37aを中心として左右方向に回動自在に支持されており、言い換えれば、植付部40が走行部10に対して左右傾斜可能に装着されている。
【0027】
ヒッチブラケット36の上部には、左右方向に開口する角筒状の角筒部36bが設けられ、該角筒部36bには、水平シリンダ38の左部が挿嵌されて取り付けられる。角筒部36bから水平シリンダ38のピストンロッド38aが左方に突出されて、その先端が、植付フレーム49における中フレーム49bの左右中央よりやや左側に設けられた取付部49dに回動自在に支持される。水平シリンダ38の上部には、水平シリンダ38を作動させる水平制御バルブユニット39が一体的に設けられる。こうして、水平制御バルブユニット39により水平シリンダ38を伸縮して、植付フレーム49を介して植付部40が左右傾斜可能とされる。
【0028】
次に、図4を用いて、本発明の第一実施形態に係る田植機1の制御構成及び制御態様について説明する。
【0029】
主変速レバー23は、ミッションケース16に収容された主変速機構16bの変速段(変速比)を変更するものである。主変速レバー23は、ダッシュボード21の左端部(操向ハンドル22の左方)に配置される。主変速レバー23はリンク機構を介して前記主変速機構16bに連結される。
【0030】
主変速レバー23は、ダッシュボード21に形成されたガイド溝に沿って「路上走行位置」、「植付位置」、「苗継ぎ位置」、「中立位置」又は「後進位置」に操作可能である。「路上走行位置」に操作された場合は、主変速機構16bの変速段が高速に変更され、「植付位置」に操作された場合は、主変速機構16bの変速段が低速に変更され、「苗継ぎ位置」及び「中立位置」に操作された場合は、主変速機構16bの変速段が中立に変更され、「後進位置」に操作された場合は、主変速機構16bの変速段が逆転に変更される。
【0031】
主変速レバー23は、苗継ぎ作業の操作を検出する苗継ぎセンサとして、苗継ぎ位置検出スイッチ23aを備える。苗継ぎ位置検出スイッチ23aは、マイクロスイッチで構成されて、ガイド溝の「苗継ぎ位置」近傍に配置される。苗継ぎ位置検出スイッチ23aは、制御装置100と接続されて、主変速レバー23が「苗継ぎ位置」に操作されると当接してONとなり、その信号を制御装置100に送信する。
【0032】
植付部傾斜設定器24は、水平面に対する植付部40の左右傾斜角度を設定するものである。植付部傾斜設定器24は、左右方向に回動操作が可能なダイヤル型の操作具であり、ダッシュボード21の前後左右中央よりやや右側に配置される。植付部傾斜設定器24を中央位置に操作すると、植付部40が水平となるように設定され、中央位置から左方向に回動すると、その回動量に応じて植付部40が左側に傾斜するように設定され、中央位置から右方向に回動すると、その回動量に応じて植付部40が右側に傾斜するように設定される。植付部傾斜設定器24は、制御装置100と接続されて、その操作に対応する設定値Aを制御装置100に送信する。
【0033】
角速度センサ61は、走行部10の左右傾斜を検出する走行側左右傾斜センサであり、本実施形態では、走行部10の左右傾斜角速度を検出するものである。つまり、走行部10が左右に傾く速度を検出するものである。角速度センサ61は、振動型や回転型のジャイロセンサ等で構成され、走行部10の運転席25の後方であって、車体フレーム11の左右中央位置に取り付けられる(図1参照)。角速度センサ61は、制御装置100と接続されて、走行部10が圃場の凹凸等で水平面に対して左側又は右側に傾斜すると、その左右傾斜時における角速度に対応する検出値Bを制御装置100に送信する。なお、角速度センサ61の取付位置は、走行部10の適宜な位置であればよいが、エンジン14から生じる振動の影響が受け難い位置とすることが望ましい。なお、角速度センサ61にかえて走行部10の左右傾斜角度を検出する傾斜センサとし、該傾斜センサの検出値を微分して走行部10の左右傾斜角速度を検出する構成とすることも可能である。
【0034】
傾斜センサ62は、植付部40の左右傾斜を検出する植付側左右傾斜センサであり、本実施形態では、植付部40の左右傾斜角度を検出するものである。傾斜センサ62は、植付部40の植付ミッションケース50の前方であって、取付部材37の左右中央位置に取り付けられる(図1及び図3参照)。傾斜センサ62は、制御装置100と接続されて、植付部40が圃場の凹凸等で水平面に対して左側又は右側に傾斜すると、その左右傾斜角度に対応する検出値Cを制御装置100に送信する。なお、傾斜センサ62にかえて植付部10の左右傾斜角速度を検出する角速度センサとし、該角速度センサの検出値を積分して植付部40の左右傾斜角度を検出する構成とすることも可能である。
【0035】
第一アクチュエータ71は、エンジン14の回転数を変更するものである。第一アクチュエータ71は、電動モータ等で構成されて、エンジン14の左側後方に配置される。第一アクチュエータ71は、その出力軸がリンク機構を介してエンジン14(詳細にはエンジン14の回転数を調節する調速装置)と連結される。第一アクチュエータ71は、制御装置100と接続され、制御装置100から送信された信号に基づいて制御される。
【0036】
また、第一アクチュエータ71は、HMT16aの変速段の変更、主クラッチ16cの入切、及び制動装置16dの制動、が可能に構成される。第一アクチュエータ71は、前記リンク機構を介してHMT16a(詳細にはHMT16aの可動斜板の角度を変更する変速アーム)、主クラッチ16c(詳細には主クラッチ16cを入切操作するクラッチアーム)及び制動装置16d(詳細には制動装置16dを制動操作するブレーキアーム)と連結される。
【0037】
第二アクチュエータ72は、植付部40の左右傾斜角度を変更するものである。第二アクチュエータ72は、前記水平シリンダ38及び水平制御バルブユニット39等で構成されて、ヒッチブラケット36の右側に配置される。水平制御バルブユニット39は、水平制御用ソレノイドバルブを内装して、該水平制御用ソレノイドバルブが制御装置100と接続されて、制御装置100から送信された信号に基づいて水平制御用ソレノイドバルブが制御され、水平シリンダ38への圧油の送油量や方向を切り換えることで水平シリンダ38を作動させて植付部40の左右傾斜角度を変更する。但し、第二アクチュエータ72は、電動シリンダ等で構成することも可能であり、限定するものではない。
【0038】
制御装置100は、苗継ぎ位置検出スイッチ23aの信号に基づいて第一アクチュエータ71を制御するものであり、かつ、植付部傾斜設定器24の設定値A、角速度センサ61の検出値B及び傾斜センサ62の検出値Cに基づいて前記第二アクチュエータ72を制御するものである。制御装置100は、走行部10の任意位置に設けられる。制御装置100は、CPUや、ROM、RAM、インターフェイス、バス等を備える。制御装置100には、各種プログラムが記憶される。
【0039】
制御装置100は、苗継ぎ位置検出スイッチ23aがONとなったことを検出すると、エンジン14の回転数が設定回転数となるように第一アクチュエータ71を制御する。ここで、設定回転数とは、アイドル回転数よりも低くエンストしない程度の回転数であり、制御装置100に予め設定されている。つまり、苗継ぎ作業時には、制御装置100は、エンジン14の回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように第一アクチュエータ71を制御することで、エンジン14の燃料の消費を低減している。
【0040】
この際、アイドル回転数は走行部10の振動が低減されるようにマッチングされているため、このアイドル回転数よりも低い低回転数となると走行部10の振動が大きくなり、走行部10にもその振動が伝達される場合がある。このような場合には、その振動が角速度センサ61により検知される程度の大きさとなるが、後述する手段により第二アクチュエータ72を作動させないようにしている。
【0041】
制御装置100は、植付部傾斜設定器24の設定値Aと、角速度センサ61の検出値Bと、傾斜センサ62の検出値Cと、に基づいて、下記に示すように第二アクチュエータ72を制御して水平シリンダ38を作動させ、植付部40の水平制御を行う。
【0042】
具体的には、角速度センサ61の検出値Bは、右下がり回転方向(正回転方向)、及び、右上がり回転方向(逆回転方向)での大きさがそれぞれ数段階に分けられ、これを角速度グレードB0・B1・B2・・・とし、検出値Bがどの角速度グレードに属するかを判断する。また、傾斜センサ62の検出値Cも同様に右下がり回転方向(正回転方向)、及び、右上がり回転方向(逆回転方向)の角度がそれぞれ数段階に分けられ、これを傾斜グレードC0・C1・C2・・・とし、検出値Cがどの傾斜グレードに属するかを判断する。
【0043】
そして、角速度グレードB0・B1・B2・・・と傾斜グレードC0・C1・C2・・・とに応じて第二アクチュエータ72への出力値Dを決定する出力マップが制御装置100に記憶されており、例えば、角速度センサ61の検出値Bが角速度グレードB3で、傾斜センサ62の検出値Cが傾斜グレードC4であるときは、出力値DをD34として制御装置100から出力されて第二アクチュエータ72を制御して、植付部40が設定角度に維持される。
【0044】
なお、出力値Dは、植付部傾斜設定器24の設定値Aに応じて補正される。つまり、植付部40を水平に制御する場合は、植付部傾斜設定器24の設定値Aが零となり、上記のように検出値B・Cに応じて出力値Dが決定されるが、植付部40を水平面に対して左右に傾斜させる場合は、検出値Bから設定値Aを減算したり、出力マップをその設定値Aに応じて変更したりして、出力値Dが設定値Aに応じて補正される。
【0045】
このような水平制御を行っている場合において、主変速レバー23が「苗継ぎ位置」に操作され、苗継ぎ位置検出スイッチ23aのONを制御装置100が検出すると、制御装置100は、角速度センサ61の検出値Bを走行部10が静止している静止状態の検出値Bに置き換えて第二アクチュエータ72を制御する。つまり、角速度センサ61の検出値Bを無効とし(無視し)、静止状態の検出値B(例えば零)で置き換えて第二アクチュエータ72を制御する。具体的には、角速度センサ61の検出値Bが属する角速度グレードを、左右中央値の角速度グレードで固定して第二アクチュエータ72を制御するのである。
【0046】
詳述すると、苗継ぎ位置検出スイッチ23aのONにより、エンジン14の回転数はアイドル回転数よりも低下され、このとき、エンジン14が発生する振動はアイドル回転数のときの振動よりも大きくなり、角速度センサ61の検出値Bは第二アクチュエータ72が作動する大きさ以上となる。言い換えれば、アイドル回転数において、エンジン14が発生する振動を角速度センサ61が検出しても、その検出値Bは第二アクチュエータ72を作動させる閾値未満となっている。
【0047】
ところが、エンジン14がアイドル回転数よりも低い回転数に設定されて、エンジン14の振動が大きくなる場合だと、角速度センサ61の検出値Bは第二アクチュエータ72を作動させる閾値以上の大きさとなってしまう。この振動は周期的に発生するため、第二アクチュエータ72が作動すると、植付部40は周期的に傾倒し、作業者にとって不快感を与えることになり、また、この傾倒と振動が共振して更に傾倒角度が大きくなり、植付部40左右一側の下部が泥中に突っ込むことがあった。そこで、主変速レバー23が「苗継ぎ位置」に操作され、苗継ぎ位置検出スイッチ23aがONとされると、角速度センサ61の検出値Bは、第二アクチュエータ72を作動させる閾値未満の値とするのである。
【0048】
これにより、苗継ぎ作業時に、主変速レバー23を「苗継ぎ位置」に操作すると、エンジン14の回転数はアイドル回転数よりも低下されて走行部10の振動が大きくなるが、角速度センサ61の検出値Bが静止した状態の検出値Bとなるので、植付部40が設定角度に維持される。また、作業者が走行部10上で移動したり、苗マットを載せる等して走行部10に振動が生じた場合であっても、同様に角速度センサ61の検出値Bが無効とされるので、植付部40は設定角度に維持される。従って、走行部10にエンジン14からの振動が伝わっても植付部40は傾斜することがなく土中に突っ込むこともなく、苗継ぎ作業をスムーズに行うことができる。
【0049】
次に、図5及び図6を用いて、本発明の第二実施形態に係る田植機1の制御態様について説明する。但し、第一実施形態と同一部材については同一の符号を付し、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0050】
主変速レバー23を「苗継ぎ位置」に操作すると、エンジン14の回転数はアイドル回転数よりも低下され、角速度センサ61の検出値Bは、図6(a)に示すような波形となる。この波形には、エンジン14の振動に起因する高周波数成分を有する。このことから、本実施形態では、図5に示すように、角速度センサ61の出力と制御装置100の入力の間に、エンジン14の振動に起因する高周波成分を除去可能な(カットオフ周波数が苗継低回転時のエンジンの振動周波数となる)ローパスフィルタ80を介装する。つまり、角速度センサ61の検出値Bにローパスフィルタ80を通過させるのである。
【0051】
これにより、図6(b)に示すように、ローパスフィルタ80通過後の角速度センサ61の検出値B´は、脈動が除去されて角速度グレードの変化を抑えることができるようになり、第一実施形態と同様に、苗継ぎ作業時に、エンジン14の回転数が低下して走行部10の振動が大きくなった場合でも、植付部40が急激に変化する水平制御が行われず(第二アクチュエータ72がエンジン振動に合わせて作動されず)設定角度に制御することができる。従って、苗継ぎ作業をスムーズに行うことができる。さらに、植付部40が傾くことなく泥中に突っ込むこともない。しかも、第一実施形態のように角速度センサ61の検出値を無効とせず、有効としたままで第二アクチュエータ72を制御するので、走行部10が緩やかに傾いた場合には、その傾斜に対して植付部40を設定角度に制御することができる。
【0052】
また、第一実施形態や第二実施形態に係る田植機1において、制御装置100は、苗継ぎ位置検出スイッチ23aのON信号に基づいて、HMT16aの変速段が中立、主クラッチ16cが切、又は制動装置16dが制動、のうち少なくとも一つを行うように第一アクチュエータ71を制御することも可能である。これにより、前車輪12及び後車輪13を確実に停止させることができ、苗継ぎ作業をよりスムーズに行うことができる。
【0053】
なお、第一アクチュエータ71を介さずに主変速レバー23と連動してエンジン14の回転数を変更するように構成された田植機に本発明を適用することも可能である。
【0054】
なお、苗継ぎセンサ(苗継ぎ位置検出スイッチ23a)にかえて、エンジン14の回転数を検出するエンジン回転数検出センサを設け、該エンジン回転数検出センサの検出値がアイドル回転数よりも低い設定回転数以下になると、第一実施形態のように角速度センサ61の検出値Bを静止状態の検出値で置き換えたり、第二実施形態のように角速度センサ61の検出値Bをローパスフィルタ80を通過させるようにして第二アクチュエータ72を制御することも可能である。この場合は、田植機1ではなく、作業機を左右傾斜可能に装着した作業車両に本発明を適用することが可能である。
【0055】
なお、制御装置100が苗継ぎ位置検出スイッチ23aがONとなることを検出すると、植付部40の水平制御を停止させるように構成することも可能である。
【0056】
以上のように、本発明の第一実施形態に係る田植機1においては、エンジン14が搭載された走行部10の後方に植付部40を左右傾斜可能に装着した田植機1において、苗継ぎ作業の操作を検出する苗継ぎセンサとなる苗継ぎ位置検出スイッチ23aと、前記走行部10の左右傾斜を検出する走行側左右傾斜センサとなる前記走行部10の左右傾斜角速度を検出する角速度センサ61と、前記植付部40の左右傾斜を検出する植付側左右傾斜センサとなる前記植付部40の左右傾斜角度を検出する傾斜センサ62と、前記エンジン14の回転数を変更する第一アクチュエータ71と、前記植付部40の左右傾斜角度を変更する第二アクチュエータ72と、前記苗継ぎセンサの検出値となる苗継ぎ位置検出スイッチ23aのON信号に基づいて前記第一アクチュエータ71を制御して、かつ、前記角速度センサ61の検出値B及び前記傾斜センサ62の検出値Cに基づいて前記第二アクチュエータ72を制御する制御装置100と、を備え、前記制御装置100は、苗継ぎ作業時となる苗継ぎ位置検出スイッチ23aのON信号を検出すると、前記エンジン14の回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように前記第一アクチュエータ71を制御して、かつ、前記角速度センサ61の検出値Bを静止状態の検出値Bで置き換えて前記第二アクチュエータ72を制御するものである。これにより、苗継ぎ作業時に、エンジン14の回転数を低下させて走行部10の振動が大きくなった場合でも、苗継ぎ作業時に、エンジン14の回転数を低下させてエンジン14の振動が大きくなった場合でも、植付部40を設定角度に維持することができる。従って、走行部10にエンジン14からの振動が伝わっても植付部40が傾斜することがなく土中に突っ込むこともなく、苗継ぎ作業をスムーズに行うことができる。
【0057】
また、本発明の第二実施形態に係る田植機1においては、エンジン14が搭載された走行部10の後方に植付部40を左右傾斜可能に装着した田植機1において、苗継ぎ作業の操作を検出する苗継ぎセンサとなる苗継ぎ位置検出スイッチ23aと、前記走行部10の左右傾斜を検出する走行側左右傾斜センサとなる前記走行部10の左右傾斜角速度を検出する角速度センサ61と、前記植付部40の左右傾斜を検出する植付側左右傾斜センサとなる前記植付部40の左右傾斜角度を検出する傾斜センサ62と、前記エンジン14の回転数を変更する第一アクチュエータ71と、前記植付部40の左右傾斜角度を変更する第二アクチュエータ72と、前記苗継ぎセンサの検出値となる苗継ぎ位置検出スイッチ23aのON信号に基づいて前記第一アクチュエータ71を制御して、かつ、前記角速度センサ61の検出値B及び前記傾斜センサ62の検出値Cに基づいて前記第二アクチュエータ72を制御する制御装置100と、を備え、前記制御装置100は、苗継ぎ作業時となる苗継ぎ位置検出スイッチ23aのON信号を検出すると、前記エンジン14の回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように前記第一アクチュエータ71を制御して、かつ、前記角速度センサ61の検出値Bにローパスフィルタ80を通過させて前記第二アクチュエータ72を制御するものである。これにより、苗継ぎ作業時に、エンジン14の回転数を低下させて走行部10の振動が大きくなった場合でも、苗継ぎ作業時に、エンジン14の回転数を低下させてエンジン14の振動が大きくなった場合でも、植付部40を設定角度に維持することができる。さらに、角速度センサ61の検出値を有効としながら、植付部40を設定角度に制御することができる。従って、走行部10にエンジン14からの振動が伝わっても植付部40が傾斜することがなく土中に突っ込むこともなく、苗継ぎ作業をスムーズに行うことができる。
【0058】
また、本発明の第一実施形態及び第二実施形態に係る田植機1においては、前記エンジン14からの動力を変速する変速装置となるHMT16aと、前記エンジン14からの動力を入切するクラッチとなる主クラッチ16cと、駆動輪となる前車輪12及び後車輪13を制動する制動装置16dと、を備え、前記第一アクチュエータ71は、前記HMT16aの変速段の変更、前記主クラッチ16cの入切、及び前記制動装置16dの制動が可能に構成されて、前記制御装置100は、苗継ぎ作業時には、前記HMT16aの変速段が中立、前記主クラッチ16cが切、又は前記制動装置16dが制動、のうち少なくとも一つを行うように前記第一アクチュエータ71を制御するものである。これにより、前車輪12及び後車輪13を確実に停止させることができ、苗継ぎ作業をよりスムーズに行うことができる。
【符号の説明】
【0059】
1 田植機
10 走行部
12 前車輪(駆動輪)
13 後車輪(駆動輪)
14 エンジン
16a HMT(変速装置)
16c 主クラッチ(クラッチ)
16d 制動装置
23a 苗継ぎ位置検出スイッチ(苗継ぎセンサ)
40 植付部
61 角速度センサ(走行側左右傾斜センサ)
62 傾斜センサ(植付側左右傾斜センサ)
71 第一アクチュエータ
72 第二アクチュエータ
80 ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが搭載された走行部の後方に植付部を左右傾斜可能に装着した田植機において、
前記走行部の左右傾斜を検出する走行側左右傾斜センサと、
前記植付部の左右傾斜を検出する植付側左右傾斜センサと、
前記エンジンの回転数を変更する第一アクチュエータと、
前記植付部の左右傾斜角度を変更する第二アクチュエータと、
前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値及び前記植付側左右傾斜センサの検出値に基づいて前記第二アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、苗継ぎ作業時には、前記エンジンの回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値を静止状態の検出値に置き換えて前記第二アクチュエータを制御する田植機。
【請求項2】
エンジンが搭載された走行部の後方に植付部を左右傾斜可能に装着した田植機において、
前記走行部の左右傾斜を検出する走行側左右傾斜センサと、
前記植付部の左右傾斜を検出する植付側左右傾斜センサと、
前記エンジンの回転数を変更する第一アクチュエータと、
前記植付部の左右傾斜角度を変更する第二アクチュエータと、
前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値及び前記植付側左右傾斜センサの検出値に基づいて前記第二アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、苗継ぎ作業時には、前記エンジンの回転数がアイドル回転数より低い設定回転数となるように前記第一アクチュエータを制御して、かつ、前記走行側左右傾斜センサの検出値にローパスフィルタを通過させて前記第二アクチュエータを制御する田植機。
【請求項3】
前記エンジンからの動力を変速する変速装置と、
前記エンジンからの動力を入切するクラッチと、
駆動輪を制動する制動装置と、を備え、
前記第一アクチュエータは、前記変速装置の変速段の変更、前記クラッチの入切、及び前記制動装置の制動が可能に構成されて、
前記制御装置は、苗継ぎ作業時には、前記変速装置の変速段が中立、前記クラッチが切、又は前記制動装置が制動、のうち少なくとも一つを行うように前記第一アクチュエータを制御する請求項1又は請求項2に記載の田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−235703(P2012−235703A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104795(P2011−104795)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】