説明

画像処理システム

【課題】暗黙知になっている配色ルールをデジタル化することで、規則的な色の配列を画像処理に適用することができ、配色の大きな変更を含みつつ統一感のとれた画像処理を行うことができる画像処理システムを提供する。
【解決手段】画像処理システム200は、任意のデジタル画像である入力画像00を入力する入力部10と、色座標値並びに色の数及び色の順番が予め規則化された配列型の色座標情報を格納する色配列データベース20と、色配列データベース20の色座標情報をもとに色階調分布であるグラデーションパレットを作成するパレット部30と、入力画像00の各画素をパレット部30で作成した色階調分布の色座標と比較し指定条件に基づいて置換する画像処理部40と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザーが任意に、デジタル画像に配色の変更を含めた画像処理を加えるプログラムが開発されている。例えば、ユーザーが元の画像の配色を残しながら、画像処理を加えるものや(例えば、特許文献1参照)、任意の画像から色の配列を作成するWebサービスが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−260530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、任意の画像に画像処理を施すプログラムは多々あるが、どのような処理を施せば、もとの画像の配色を大きく変えつつ、統一感のとれた結果を得られるかどうかは、各ユーザーの感性に依存する場合がある。特に、和服などの日本の意匠に見られる「かさね」や絵画の色づかいなどは、暗黙知となっている配色ルールとして、一部の職人や芸術家、デザイナーだけが持っていることが多い。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、上述のように暗黙知になっている配色ルールをデジタル化することで、規則的な色の配列を画像処理に適用することができ、配色の大きな変更を含みつつ統一感のとれた画像処理を行うことができる画像処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る画像処理システムは、任意のデジタル画像である入力画像を入力する入力部と、色座標値並びに色の数及び色の順番が予め規則化された配列型の色座標情報を格納する色配列データベースと、この色配列データベースの色座標情報をもとに色階調分布であるグラデーションパレットを作成するパレット部と、入力画像の各画素をパレット部で作成した色階調分布の色座標と比較し指定条件に基づいて置換する画像処理部と、を有する。
【0007】
このような画像処理システムは、任意の色配列素材画像から色配列データベースを作成する色配列データベース作成部を有することが好ましい。
【0008】
また、このような画像処理システムは、入力画像と合成するための合成用画像を格納した合成用画像データベースと、画像処理部における画像処理の前もしくは後に、入力画像と合成用画像とを重ね合わせる画像合成部と、をさらに有することが好ましい。
【0009】
また、このような画像処理システムにおいて、画像処理部は、入力部で入力された入力画像の処理及び当該処理結果の表示部に対する出力を、予め決められた時間内で実行するように構成されることが好ましい。
【0010】
また、このような画像処理システムは、画像処理部で置換された入力画像の結果を表示する表示部をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、色座標値と色の数及び色の順番があらかじめ規則化された配列型の色座標情報を格納した色配列データベースを、配色変更を含む画像処理に用いることで、どんなユーザーでも、配色の大きな変更を含みつつ統一感のとれた画像処理を行うことを可能としている。そして、これにより、誰でも簡単に「かさね」や絵画の色づかいなどの一部の職人や芸術家、デザイナーだけが持つ暗黙知のルール・ノウハウを活用した画像処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】画像処理システムの構成を示す説明図である。
【図2】色配列データベースを説明するための説明図であって、(a)は源氏物語の「かなね」を例にした場合の色の配列を示し、(b)はデータの構造を示す。
【図3】グラデーションを作成する処理を説明するための説明図である。
【図4】画像処理部を説明するための説明図であって、(a)は画像処理部の処理を示し、(b)は処理結果の一例を示す。
【図5】色配列データベース作成部を説明するための説明図であって、(a)は構成を示し、(b)はクラスタリング処理結果の一例を示す。
【図6】画像合成部を設けた画像処理システムを説明するための説明図であって、(a)は構成を示し、(b)は合成用画像の一例を示す。
【図7】画像処理システムを複数装置で構成した場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
まず、図1を用いて第1の実施形態に係る画像処理システムの構成について説明する。この画像処理システム200は、入力部10、色配列データベース20、パレット部30、画像処理部40、及び、表示部50を有して構成される。パレット部30及び画像処理部40は、中央処理装置(CPU)やメモリが搭載されている。また、表示部50は、液晶や有機ELなどのディスプレイを備えており、ユーザが画面上で操作をしながら画像処理の操作を行い、その結果を確認することもできる。
【0015】
入力部10から入力する入力画像00は、JPEGなどのデータ形式のデジタル画像である。色配列データベース20に格納されている各配列は、あらかじめ規則化された色座標値と色の数、及び色の順番を定義しており、その配列に含まれる各色は、RGB等のL次元の色座標で定義される。この色配列データベース20に格納されている各配列は、任意のN色(N≧2)で構成されている。ここで、あらかじめ規則化された色座標値と色の数及び色の順番は、例えば、国旗や和服等に見られる「かさね」やテーブル・アレンジメントの配色など暗黙知となっている色のルールである。図2(a)に、色配列データベースの例として、源氏物語に登場する色の「かさね」を示す。この図2(a)の縦の5色が1つの配列パターンとなっており、各色はRGBの3次元で表現されている。
【0016】
図2(b)は、上述の色配列データベース20を構成する色の配列の例を示しており、例えば、「桜萌黄の襲」P3の場合、色は、1.唐紅、2,紅、3.鶸萌黄、4.萌黄、5.白の5色であり、各色のRGBの座標値はそれぞれ、C1(244,0,25)、C2(215,0,58)、C3(130,174,70)、C4(170,207,83)、C5(255,255,255)と定義している。また、「紅梅の襲」P0、「柳の襲」P1及び「桜の襲」P2も、それぞれ、図2(b)に示す色の並び及びRGBの座標値が設定されている。
【0017】
パレット部30は、色配列データベース20から1つの配列(色座標情報)を取り出し、その並びに従って、配列内の各色の間を2M等分した{(N−1)*2M}階調の色階調分布であるグラデーションパレットを作成する。図3に、図2の源氏物語の色配列データベース20の4列目の5色(N=5)からなる配列パターンP3を取り出した例を示す。各色間を256分割(2M=256)し、{(5−1)*256}の1024等分のグラデーションパレットを作成することができる。グラデーションの値は等分割でなくてもよい。特定色や固定位置の色に対して係数を大きくすることで、グラデーションを変更することもできる。
【0018】
画像処理部40は、入力画像00の各画素の色座標を、パレット部30で作成されたグラデーションの階調の各色と比較し、指定条件に基づいて、L次元空間のユークリッド距離の最も短いものに置換する。図4(a)は、この画像処理部40における上述の処理を図示したものである。また、図4(b)に入力画像を源氏物語の「桜萌黄の襲」の配色ルールP3で統一した画像に変換した例を示す。
【0019】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態として、上述の色配列データベース20を作成する処理を図5(a)を用いて説明する。色配列データベース作成部70は、入力部10から取り込んだ写真や絵画などの任意の色配列素材画像であるオリジナル入力画像60の各画素のL次元の色座標を用いて、例えばK−平均法や階層的クラスタリング法などを用いた色のクラスタリング処理を行い、任意のP色のクラスターを抽出する。クラスタリング処理のパラメーターとしては、抽出する色の数Pがあり、これはユーザーによって指定することもできる。クラスタリング処理の結果、クラスタリング処理対象画像であるオリジナル入力画像に占める面積の大きい順に色の並びが決定される。図5(b)にクラスタリング処理結果の一例を示す。コスモスの画像から16個の色が抽出されている(図5(b)に符号Gで示す領域)。この16色をそのまま色配列データベース20にしてもよいが、抽出された色の数と並びの順番はユーザ自身が変更することもできる。この場合は、グラフィカルユーザーインタフェース(GUI)などを用いて、ユーザが自由に選択できるようにするとよい。
【0020】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、上述の画像処理システム200に対して、画像処理部40における画像処理の前若しくは後に、入力画像と合成用画像とを重ね合わせる画像合成部100を設けた構成について図6(a)を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成については同一の符合を付し、詳細な説明は省略する。
【0021】
合成用画像データベース90は、入力部10から取り込んだ、光沢、凹凸、明暗などを表現したテクスチャや規則的な文様などの合成用画像80が格納されている(その一例を図6(b)に示す)。入力部10から入力した入力画像00は、合成用画像データベース90から選択された1つ以上の合成用画像80と画像合成部100において合成される。ユーザーは、入力画像00と合成用画像80の合成比率を自由に指定することができ、その比率を用いて、変換対象の入力画像00および合成用画像80の各画素のL次元座標に掛け合わせた上で加算する合成処理を行う。例えば、3次元のRGBで定義された入力画像00の比率40%、同じくRGBで定義された合成用画像80の比率60%で合成する場合は、同一座標の画素毎に対して、各画素のR,G,B毎に、以下のような演算を行う。
【0022】
変換後の入力画像
=0.4×入力画像(R,G,B)+0.6×合成用画像(R,G,B)
【0023】
なお、画像合成部100による合成処理は、画像処理部40の前に処理するか、あるいは画像処理部40の後で処理するかについては自由に選択することができる。
【0024】
(第4の実施形態)
第1の実施形態で説明した、入力部10、色配列データベース20、パレット部30、画像処理部40、及び、表示部50からなる画像処理システム200がひとつの機器で構成される例として、デジタルカメラがある。デジタルカメラの場合は、入力部10は光学系を含む撮像素子、フラッシュメモリ用インタフェース、又は、USBコネクタなどであり、表示部50は背面ディスプレイである。
【0025】
一方、複数の装置で構成される例として、Webサービスなどがあり、図7にその構成の一例を示す。この図7に示す構成において、色配列データベース20、パレット部30、及び、画像処理部40がサーバ120に格納されており、入力部10及び表示部50がサーバ120と有線もしくは無線のネットワークで接続されたパソコンまたは携帯端末などの端末110で構成される。
【0026】
なお、第2の実施形態で説明した色配列データベース作成部70がデジタルカメラなど1つの機器内に組み込まれていてもよいし、上記のように接続されたパソコンや携帯端末などの端末110や、更に別のデジタル機器で構成されていてもよい。また、第3の実施形態で説明したシステム構成の場合も同様である。ここで、色配列データベース作成部70や画像合成部100は別の機器に搭載されていてもよいし、1つの機器内に組み込まれていてもよい。
【0027】
(第5の実施形態)
上述の第4の実施形態で説明した、デジタルカメラや携帯端末などの1つの機器に組み込まれている場合では、入力部10であるレンズユニットを向けた風景や人物などに対して画像処理部40で処理を施した結果が、画像処理に必要なCPU処理時間後に表示部50であるディスプレイにリアルタイムで表示されてもよいし、ユーザが指定したタイミングに表示されてもよい。同様に、複数の機器で構成されている場合は、サーバ120に高速ネットワークで接続されたパソコンなどの端末110に付随した入力部10であるカメラユニットを向けた人物や静物などに対して、画像処理部40で画像処理を施した結果が、表示部50であるパソコンのディスプレイにリアルタイムで表示される。入力から表示までの時間をユーザが設定することにより、ユーザの必要とする時に、画像処理を施した画像を見ることができる。指定方法は、GUIなどを利用して入力部10から簡単に設定と変更を行えるようにしてもよいし、パソコンなどの端末110の画像処理部40に入力から表示までの時間設定を組込んでおいてもよい。
【0028】
例えば、第1の実施形態に記載の源氏物語の「かさね」を利用した画像処理を季節によって変えたい場合、入力した画像の撮影日時や機器を使用している日時に応じて変更できるように指定を行うこともできる。色配列データベースの中から3月から5月の春には「唐紅」、6月から8月の夏には「卯の花」、9月から11月の秋には「萩」、12月から2月の冬には「松」の色配列を指定した画像処理を行うように設定し、更に入力から出力までの時間をリアルタイムに表示とするという指定をした場合、デジタルカメラや携帯端末の入力部10から入力された風景や人物が、その撮影日時に応じて、源氏物語の季節感に応じた画像へとリアルタイムに表示部50に表示させることができる。パソコンなどの端末110を利用した場合も同様に、指定したタイミングで画像処理後の画像を見ることができる。
【符号の説明】
【0029】
00 入力画像 10 入力部 20 色配列データベース
30 パレット部 40 画像処理部 50 表示部
60 オリジナル入力画像(色配列素材画像)
70 色配列データベース作成部 80 合成用画像
90 合成用画像データベース 100 画像合成部
200 画像処理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意のデジタル画像である入力画像を入力する入力部と、
色座標値並びに色の数及び色の順番が予め規則化された配列型の色座標情報を格納する色配列データベースと、
前記色配列データベースの前記色座標情報をもとに色階調分布であるグラデーションパレットを作成するパレット部と、
前記入力画像の各画素を前記パレット部で作成した色階調分布の色座標と比較し指定条件に基づいて置換する画像処理部と、を有することを特徴とする画像処理システム。
【請求項2】
任意の色配列素材画像から前記色配列データベースを作成する色配列データベース作成部を有することを特徴とする請求項1に記載の画像処理システム。
【請求項3】
前記入力画像と合成するための合成用画像を格納した合成用画像データベースと、
前記画像処理部における画像処理の前もしくは後に、前記入力画像と前記合成用画像とを重ね合わせる画像合成部と、をさらに有する請求項1または2に記載の画像処理システム。
【請求項4】
前記画像処理部は、前記入力部で入力された前記入力画像の処理及び当該処理結果の前記表示部に対する出力を、予め決められた時間内で実行するように構成されたことを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の画像処理システム。
【請求項5】
前記画像処理部で置換された入力画像の結果を表示する表示部をさらに有する請求項1〜4いずれか一項に記載の画像処理システム。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−170395(P2011−170395A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30763(P2010−30763)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】