説明

画像処理方法及び画像処理プログラム

【課題】大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面を同時に観察することができる画像処理方法及び画像処理プログラムを提供する。
【解決手段】この画像処理方法では、(a)のような管状組織10の断面がある時に、管状組織10の中心パス14を中心とする半径が基準距離rの範囲11を求め、基準距離rの外側部分12はレイキャスト法により仮想光線15を投射して3次元画像を描画し、基準距離rの円周13上は円周13上のボクセル値を用いて2次元円筒断面(MPRに相当する)を描画する。この画像処理方法によれば、管状組織10の内部13(断面画像)と表面12(投影画像)が同時に観察でき、更に管状組織10を広範囲に渡って一望することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理方法及び画像処理プログラムに関し、特に、大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面を同時に観察することができる画像処理方法及び画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータを用いた画像処理技術の進展により人体の内部構造を直接観測することを可能にしたCT(Computed Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)の出現は医療分野に革新をもたらし、生体の断層画像を用いた医療診断が広く行われている。さらに、近年では、断層画像だけでは分かりにくい複雑な人体内部の3次元構造を可視化する技術として、例えば、CTにより得られた物体の3次元デジタルデータ(ボリュームデータ)から3次元構造のイメージを直接描画するボリュームレンダリングが医療診断に使用されている。
【0003】
なお、ボリュームレンダリングには、レイキャスト(Raycast)、MIP(Maximum Intensity Projection)、MINIP(Minimum Intensity Projection)法がある。また、ボリュームデータを用いた2次元的な画像処理としてMPR(Multi Planar Reconstruction)、CPR(Curved Planer Reconstruction)がある。さらに2次元画像処理として2Dスライス画像などが一般に使用されている。
【0004】
物体の3次元領域の構成単位となる微小単位領域をボクセルと称し、ボクセルの特性を表す固有のデータをボクセル値と称する。物体全体はボクセル値の3次元データ配列で表現され、これをボリュームデータと称する。ボリュームレンダリングに用いるボリュームデータは、物体の断層面に垂直な方向に沿って順次得られる2次元の断層画像データを積層することにより得られる。特にCT画像の場合は、ボクセル値は当該ボクセルが物体中に占める位置における放射線の吸収度を表し、CT値と称する。
【0005】
ボリュームレンダリングの優れた手法としてレイキャスト法が知られている。レイキャスト法は、物体に対して投影面から仮想的な光線を照射し、物体内部からの仮想的な反射光の画像を形成することにより、投影面に物体内部の3次元構造を透視するイメージ画像を形成する手法である。
【0006】
図17は、ボリュームにマスク処理を行い、ボリュームの一部領域のみを表示させる場合の説明図である。マスク処理は、例えば、図17(b)に示すように、ボリュームデータ全体51に対して、その一部領域のみをマスク領域52として表示するものである。例えば、レイキャスト法により得られる大腸の画像において、観察対象領域手前の視界をさえぎる領域を除外したマスク領域を指定してマスク処理を行うことによって、図17(a)に示すように、大腸の内壁面の外形形状を表示させることができる。
【0007】
図18は、MPR(Multi Planar Reconstruction)により、ボリュームの任意断平面を表示させる場合の説明図である。MPRは、例えば、図18(b)に示すように、ボリューム53から任意の断平面54を切り出し、その断面をボクセル値に従って表示することができる。図18(a)は、MPRにより大腸の周辺を表示させた画像である。なお、図18(a)における黒い部分は大腸の内腔に存在する空気を表現している。このようにMPR画像では、ボリューム53の任意断平面54を表示するので、大腸等の管状組織における周辺の情報も表示することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
図19は、並行投影法によるレイキャスト法による画像とMPR画像を重ね合わせたものである。すなわち、3次元組織の壁面をその3次元組織の内部空間を含む組織外の視点から見た如き3次元イメージを平面で区切ったマスクを用いたレイキャスト法により作成し、その3次元イメージを表示する場合に、マスクを作成するのと同じ平面をMPRの断平面とするMPR画像と合成したものである(例えば、特許文献2参照)。この画像は、レイキャスト法による組織の立体的形状と、MPR画像による組織周辺の情報を同時に表示できるので、診断において有益である。
【0009】
図20は、円筒座標系を利用した円筒投影法の説明図である。図20(a)は、円筒座標系を管状組織55の内部に設定し、円筒座標系の中心軸から放射される仮想光線56を示す。図20(b)は、円筒座標系が、中心軸に沿った距離hと中心軸の周りの角度αにより、C(h,α)として表される様子を示す。また、図20(c)は、円筒座標C(h,α)を展開して2次元座標l(u,v)に変換する様子を示す。このように、管状組織55の内部に円筒座標系を仮定し、その中心軸より放射状に投影を行うことにより、管状組織55の内壁面の360度パノラマ画像を作成することができる。
【0010】
図21は、観察対象の管状組織57が屈曲している場合の屈曲円筒投影法を説明するための図である。屈曲円筒投影法は、同図に示すように、観察対象の管状組織57が屈曲している場合に、屈曲した中心パス14から仮想光線58を放射して投影する方法である。このように屈曲円筒投影法によれば、屈曲している実際の人間の臓器の中心線に沿った中心パス(Central Path)14を仮定し、それを中心に投影することにより、CTデータにより管状組織の検査を行うことができる。
【0011】
図22は、従来の円筒投影法のフローチャートである。従来の円筒投影法では、まず、中心パスを設定し(ステップS51)、中心パス上の位置tを初期化して t=0とする(ステップS52)。
【0012】
次に、中心パスの位置tの座標P(x,y,z)、および中心パスの位置tにおける中心パスの方向ベクトルPD(x,y,z)を取得する(ステップS53)。そして、P(x,y,z)を通りPD(x,y,z)と垂直な平面上において、P(x,y,z)を中心とする放射状の方向を360°分取得する(ステップS54)。
【0013】
なお、屈曲円筒投影では、PD(x,y,z)と平面とは、平面同士の組織内での干渉を避けるために微調整をし、必ずしも垂直ではない。また、平面ではなく曲面を用いることがある(非特許文献1参照)。
【0014】
次に、仮想光線を360°投射し(ステップS55)、tに1を加えて(ステップS56)、tがt_maxより小さいかどうか判断する(ステップS57)。そして、tがt_maxより小さい場合(yes)はステップS53に戻り、tがt_maxになった場合(no)は終了する。
【0015】
図23は、図22のステップ55における仮想光線投射のフローチャートである。仮想光線を投射するには、まずサンプリング間隔ΔS、仮想光線の進行方向の単位ベクトルSD
(x,y,z)を取得し(ステップS61)、反射光Eを0および残存光Iを1に初期化する(ステップS62)。
【0016】
次に、現在位置XとしてP(x,y,z)を設定し(ステップS63)、位置Xにおける補間ボクセル値v,勾配gを求める(ステップS64)。そして、vに対応する不透明度αと色C、gに対応するシェーディング係数βを求める(ステップS65)。
【0017】
次に、減衰光Dをαlとして、 部分反射光F=β・α・D・C を計算し、残存光I=I-D, 反射光E=E+F を更新する(ステップS66)。そして、現在計算位置を進行させ、 X=X+ΔS・SDとする(ステップS57)。
【0018】
次に、Xが終了位置まで来たか、または残存光がI=0になったかを判断し(ステップS68)、Xが終了位置でなく、残存光が0でない場合(no)はステップS64に戻る。そして、Xが終了位置になるか、残存光が0になった場合(yes)は、反射光Eを画素値として終了する(ステップS69)。
【0019】
次に、管状組織の領域に対する用語について図24により説明する。ここでは、大腸のような人体内部の管状組織61に対して、63の領域を「内腔」、64の壁面を「内壁面」、65の領域を「壁の内部」、62の領域を「壁の内部及び周辺」と呼ぶ。したがって、従来のレイキャストで表示する部分は「内壁面」(一般的に境界面)であり、MPRで表現する部分は「壁の内部」(ボリュームの実質)である。
【0020】
【特許文献1】特開2006-68301号公報
【特許文献2】特許第3117665号明細書
【非特許文献1】アー・フィラノヴァ・バルトローリ(A. Vilanova Bartroli),エル・ヴェゲンキットル(R. Wegenkittl ),アー・ケニッヒ(A. Konig),エー・グレーレル(E. Groller),「仮想大腸展開方法(Virtual Colon Unfolding )」,米国電気電子学会論文誌(IEEE Visualization),米国,2001年,p411-420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、図17に示したボリュームのマスク表示では、ボリュームにマスク処理を行い一部のみを表示させることによって、大腸の内壁面の外形形状を表示させ、ポリープのような内壁面の外形形状として現れる病変部を観察または発見することができるが、大腸の周辺の情報がわかりにくい欠点がある。
【0022】
また、図18に示したMPR画像では、ボリュームの任意断平面を表示させ、大腸等の管状組織における周辺の情報も表示することができるが、大腸内部の形状がわかりづらい欠点がある。
【0023】
さらに、図19に示したように、検査対象の表面状態と内部状態とを同時に表示するために、並行投影法によるレイキャスト法による画像とMPR画像を重ね合わせても一定の効果はあるが、大腸のように屈曲の多い対象を観察するには不十分である。
【0024】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面を同時に観察することができる画像処理方法及び画像処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、パス近傍の生体情報を、円筒投影法を用いて可視化する画像処理方法であって、前記パスからの基準距離によって定義される断面上の円筒断面画像と、前記円筒投影法による円筒投影画像とを合成した画像を表示する画像処理方法である。
【0026】
これによれば、パスからの基準距離によって定義される断面上の円筒断面画像により管状組織の壁の内部を観察できるとともに、円筒投影法による円筒投影画像により管状組織の内壁面を同時に観察することができる。
【0027】
また、本発明の画像処理方法は、前記パスからの基準距離を決定するステップと、前記パスと交差する平面上における当該パスの位置からの前記基準距離で決定できる周上にある座標を取得するステップと、前記座標のボクセルが不透明を表現するボクセルの場合に、前記ボクセルより第一の画素値を取得し、前記円筒断面画像の作成に前記第一の画素値を用い、前記座標のボクセルが透明を表現するボクセルの場合に、前記座標を通過する仮想光線を投射することにより第二の画素値を取得し、前記円筒投影画像の作成に前記第二の画素値を用いるステップとを有する。
【0028】
これによれば、円筒断面画像と円筒投影画像の合成画像を渾然一体に計算するので、円筒断面画像と円筒投影画像をそれぞれ単独に計算するよりも高速に計算することができる。
【0029】
また、本発明の画像処理方法において、前記パスは、屈曲した管状組織の中心パスに沿って設けられ、前記円筒投影画像は、前記中心パスから仮想光線を投射して生成される。
【0030】
これによれば、大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面を同時に観察することができる。
【0031】
また、本発明の画像処理方法は、前記基準距離をGUIにより可変するステップを有する。
【0032】
これによれば、基準距離を可変してそれに応じた断面を表示することによって、凸部位の高さを容易に認識することができ、観察対象の病変部を詳細に観察することができる。
【0033】
また、本発明の画像処理方法は、前記基準距離を前記パス上の位置に応じて求めるステップを有する。
【0034】
これによれば、大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面をユーザの操作なしで観察することができる。
【0035】
また、本発明の画像処理方法は、前記基準距離を前記パスからの方向に応じて決定するステップを有する。
【0036】
これによれば、大腸のように凹凸の多い管状組織の壁の内部及び内壁面をユーザの操作なしで観察することができる。
【0037】
また、本発明は、コンピュータに、上記のいずれか一項記載の各ステップを実行させるための画像処理プログラムである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、パスからの基準距離によって定義される断面上の円筒断面画像により管状組織の壁の内部を観察できるとともに、円筒投影法による円筒投影画像により管状組織の内壁面を同時に観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
図1は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図である。図1(a)は、管状組織10を、管状組織10の中心線を表現する中心パス14と交差する平面で切断した切断面を示す。本実施形態の画像処理方法では、図1(a)のような管状組織10の切断面がある場合に、まず、当該切断面上における中心パス14の位置を中心とする、半径が基準距離rの円周で決定される範囲11(すなわち、切断面上における、前記中心パス14の位置から等距離rに存在する点の集合)を求める。そして、基準距離rの外側部分12(すなわち、切断面上における、管状組織10の内壁面と、中心パス14の位置との距離が、基準距離rよりも大きい部分)はレイキャスト法により仮想光線15を投射して対応する画素値を3次元画像的手法で取得し、基準距離rの円周13上(すなわち、切断面上における、管状組織10の内壁面と、中心パス14の位置との距離が、基準距離rよりも小さい部分)は円周13上のボクセル値を用いて対応する画素値を2次元断面画像(MPRに相当する)的手法で取得することによって円筒断面に対応する周上の画素をそれぞれ取得する。
【0040】
図2は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法において、中心パス14上で繰り返す処理を説明するための図である。すなわち、中心パス14の各位置t1〜t6で基準距離rから求められる範囲を求め、基準距離rの外側部分は仮想光線15を投射して3次元画像的手法で画素値を取得し、基準距離rの円周上は2次元断面画像的手法で画素値を取得する。
【0041】
図3は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法の効果(1)を説明するための図である。本実施形態の画像処理方法によれば、管状組織10の内部13(円筒断面画像)と表面12(投影画像)が同時に観察でき、更に管状組織10を広範囲に渡って一望することができる。
【0042】
図4は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法におけるそれぞれの画像を示す。すなわち、図4(a)は、管状組織を中心パスから円筒投影法により描画した円筒投影画像を示す。また、図4(b)は、管状組織を中心パスから基準距離rで切断した場合の円筒上ボクセルデータ(MPR類似)を示す。
【0043】
図5は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法における合成画像を示す。このように、本実施形態における合成画像は、基準距離の外側部分はレイキャスト法により仮想光線を投射して3次元画像的手法により描画し、基準距離の円周上は円周上のボクセル値を用いて2次元断面画像的手法により描画するので、大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面を同時に観察することができる。
【0044】
図6は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法の効果(2)を説明するための図である。従来の円筒投影画像では、中心パス14から仮想光線を投射して管状組織の内部表面を描画するので、表面上の領域が凸部位なのかまたは凹部位なのかの判断が難しい。
【0045】
本実施形態の画像処理方法によれば、表面上の凸部位18は、中心パス14から基準距離rの平行な面での断面図16として表示され、表面上の凹部位19は、従来の円筒投影画像17と同様に表示されるので、凸部位18なのか凹部位19なのかを容易に判断できる。また、中心パス14からの基準距離rに応じた断面を表示することによって、凸部位18の高さを容易に認識することができる。
【0046】
図7は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法の効果(3)を説明するための図である。例えば、図7(a)に示すように、管状組織の内部表面に突起物20がある場合、通常の円筒投影画像では、突起物の影になる範囲21を観察することができなかった。
【0047】
本実施形態の画像処理方法によれば、図7(b)に示すように、中心パス14から基準距離rまでの組織を除外して円筒投影画像を描画できるので、折り重なった形状の組織の影に当たる範囲22の観察を容易に行うことができる。
【実施例1】
【0048】
図8は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法の実施例1を説明するための図である。本実施例の画像処理方法では、ユーザがGUIにより中心パスからの基準距離rを操作する。すなわち、ユーザは管状組織を観察しながら、中心パスからの基準距離をr1,r2(r1<r2)に動的に設定することができる。新しく設定した基準距離rの値に応じて、画像は即座に更新される。
【0049】
大腸などの管状組織の患部の観察は、断面形状が変化する範囲23,24で行うことが多いので、本実施例の画像処理方法によれば、中心パスからの基準距離rを操作して、断面形状が変化する範囲23,24を容易に見つけることができ、組織の表面直下の情報を効率よく観察することができる。
【実施例2】
【0050】
図9は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法の実施例2を説明するための図である。本実施例の画像処理方法では、中心パス14上の位置により中心パス14からの基準距離rが異なり、それを自動的に求める。
【0051】
すなわち、管状組織の径は場所によって異なるために、中心パス14上の位置t1〜t6によって基準距離r1,r2,r3を調整する。これによれば、管状組織の径が場所によって異なる場合でも、管状組織の内部表面の突起を容易に観察することができる。
【0052】
図10は、中心パス14上の位置により中心パス14からの基準距離rを自動的に求める場合の中心パス14に平行な面での断面模式図である。同図に示すように、中心パス14上の位置によって組織の径は異なるので、中心パス14上の位置によって基準距離rを変えることにより、管状組織の内部表面の突起を円筒断面画像として表示することができる。
【0053】
図11は、本実施例の実現方法を説明するための図である。中心パス14上の位置tでの組織の現実の径をr’(t)としたとき(r’は中心パス14の全周上の径の平均値である)、求める位置tでの基準距離r(t)は、
r(t) = α*average(r(t-Δt ~ t+Δt)) ・・・(1)
の式で求めることができる。中心パス上の±Δtの範囲の平均値を求めているのは、突起
部に鋭敏にr(t)の値が反応しないようにするためである。
【0054】
実施例1ではユーザが基準距離rを直接操作したのに対して、本実施例では、αをユーザが操作可能な係数として基準距離rを調整する。したがって、中心パス14上の位置によってαを変えることにより、管状組織の内部表面の突起を円筒断面画像として表示することができる。
【実施例3】
【0055】
図12は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法の実施例3を説明するための図である。本実施例の画像処理方法では、中心パスからの方向により中心パスからの基準距離r1,r2(r1>r2)が異なり、それを自動的に求める。
【0056】
すなわち、管状組織の径は場所によって異なり、又、設定した中心パスが現実の組織の中心を通るとは限らないので、中心パス上からの方向よって基準距離r1,r2を調整する。中心パスが曲線(屈曲円筒投影法)の場合は、特に中心パスと組織の厳密な中心がずれやすいので、中心パスからの方向により基準距離rを自動的に求めることにより、管状組織の内部表面の突起を容易に見つけることができる。
【0057】
図13は、本実施例の実現方法を説明するための図である。同図に示すように、求めたい箇所の周辺の現実の径をr(周辺)として、基準距離r(t)は、
r(t) = α*average(r(周辺)) ・・・(2)
の式で求めることができる。
【0058】
実施例1ではユーザが基準距離rを直接操作したのに対して、本実施例では、αをユーザが操作可能な係数として基準距離rを調整する。したがって、中心パス14からの方向によってαを変えることにより、管状組織の内部表面の突起を円筒断面画像として表示することができる。
【0059】
このように、本実施形態の画像処理方法によれば、円筒投影画像に円筒断面画像を貼り付けることにより、大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面を同時に観察することができる。
【0060】
また、屈曲円筒投影法において、基準距離rに上限を設けることが出来る。屈曲円筒投影法では屈曲が大きいときに複数の仮想光線が交差することがあるが(非特許文献1参照)、このような場合には円筒断面画像の歪曲は大きくなる。この歪曲は基準距離rに応じて大きくなるので、基準距離rに上限を設けることによって円筒断面画像の歪曲による誤診断の可能性を減らすことが出来る。
【0061】
図14は、本発明の実施例1〜3にかかる画像処理方法のフローチャートを示す。本実施例の画像処理方法では、まず、中心パスを設定し(ステップS11)、中心パス上の位置tを初期化して t=0とする(ステップS12)。
【0062】
次に、中心パスの位置tの座標P(x,y,z)、および中心パスの位置tの中心パスの方向ベクトルPD(x,y,z)を取得する(ステップS13)。そして、P(x,y,z)よりPD(x,y,z)と垂直な方向を360°分取得する(ステップS14)。なお、屈曲円筒投影では必ずしも垂直ではない。また、一部画像のみを取得する場合は360°全てを計算する必要もない。
【0063】
次に、仮想光線を360°投射し(ステップS15)、tに1を加算し(ステップS16)、tとt_maxを比較し(ステップS17)、tがt_maxより小さい場合(yes)は、ステップS13に戻り、tがt_maxと等しくなった場合(no)は終了する。
【0064】
図15は、図14のステップS15において仮想光線を投射する場合のそれぞれの画素値を計算するフローチャートである。仮想光線を投射する場合は、まずサンプリング間隔ΔS、および仮想光線の進行方向の単位ベクトルSD(x,y,z)を取得する(ステップS21
)。そして、初期化のために反射光E=0、および残存光I=1とする(ステップS22)。
【0065】
次に、基準距離rを取得し(ステップS23)、現在位置XにP(x,y,z)+ r・SDを代入する(・は乗算を表す)(ステップS24)。この場合、仮想光線を投射する開始位置は中心パス上でなくてもよく、また観察対象の組織内部であってもよい。そして、位置Xにおける補間ボクセル値v、vに対応する不透明度αを取得する(ステップS25)。
【0066】
次に、不透明度αが0でないかどうか判断し(ステップS26)、不透明度αが0の場合(no)は、円筒座標法のレイキャストに従って、位置Xにおける補間ボクセル値v,勾配gを求める(ステップS27)。なお、ステップS27の前に、現在位置XにP(x,y,z)を代入するステップを入れても良い。このようにした場合には手前の浮遊物も描画される。
【0067】
次に、vに対応する不透明度αと色C、gに対応するシェーディング係数βを求め(ステップS28)、減衰光D=αl, 部分反射光F=β ・ α ・ D・C を計算し、残存光I=I-D, 反射光E=E+F を更新する(ステップS29)。不透明度αと色Cは、あらかじめ定められたLUT(Look Up Table)関数を用いて求めるのが通常である。
【0068】
次に、現在計算位置を進行させ、 X=X+ ΔS ・ SDとし(ステップS30)、現在位
置Xが終了位置まで来たか、または残存光Iが0になったかを判断し(ステップS31)、現在位置Xが終了位置でなく、および残存光Iが0でない場合(no)は、ステップS27に戻る。一方、現在位置Xが終了位置まで来たか、または残存光Iが0になった場合(yes)は、反射光Eを画素値として終了する(ステップS32)。
【0069】
また、ステップS26において、不透明度αが0でない(yes)と判断した場合は、補間ボクセル値vをWW/WL(window width/window level)変換して画素値を求め終了する(ステップS33)。これは、観察対象の組織の表面データを取得することに対応する。なお、ステップS33の前に、半透明処理などを加えステップS26に復帰しても良い。半透明処理により管状組織の壁の内部と内壁面を重畳的に表現できる。また、半透明の度合いを一つのパラメーターで切り替えることができる。
【0070】
図16は、本発明の画像処理方法におけるその他の実施方法を示すフローチャートである。この実施方法では、まず中心パスを設定し(ステップS41)、中心パスから基準距離rの位置から仮想光線を投射する円筒投影画像を作成する(ステップS42)。
【0071】
次に、中心パスから基準距離rで構成される断面を作成し(ステップS43)、円筒投影画像作成時の仮想光線のそれぞれの断面の通過位置を各画素値とする円筒断面画像を作成する(円筒上ボクセルデータ)(ステップS44)。そして、円筒投影画像を計算するときに用いた変換関数を用いて円筒断面上のボクセル値から不透明度を求め円筒断面画像のαチャンネルを作成し(ステップS45)、円筒断面画像と円筒投影画像を合成する(ステップS46)。
【0072】
尚、この方法を基準距離rが変動する実施例2,3及び中心パスが曲線の場合に適用するには、円筒投影画像の仮想光線の投影開始位置、投影間隔、投影方向が変動するので、断面の座標を記録し仮想光線のそれぞれの断面の通過位置を元に調整する必要がある。
【0073】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる画像処理方法及び画像処理プログラムによれば、中心パス14からの基準距離rによって定義される断面を表現する画像により管状組織の壁の内部を観察できるとともに、円筒投影法による円筒投影画像により管状組織の内壁面を同時に観察することができる。
【0074】
また、図14〜図15のアルゴリズムでは、円筒断面画像と円筒投影画像の合成画像を渾然一体に計算するので、円筒断面画像と円筒投影画像をそれぞれ単独に計算するよりも高速に計算することができる。
【0075】
また、説明の便宜のために円筒という語を用いているが、本発明において円筒とは、広義の筒状の形状を指す。円筒は屈曲しても良く、円筒は周上で凹凸があり厳密な円周を構成する必要もなく、円筒は周の長さが一定である必要が無い。即ち、腸管血管気管支などの管状の組織を表現するのに適当な形状であればよい。
【0076】
また、実施例1〜3では円筒断面画像は2次元断面画像的手法により作成されるが、これは円筒断面上のボクセル値を用いて画素値を決定しているが、これは複数のボクセルのボクセル値を用いる形態を含む。例えば、近傍の複数のボクセルを用いた補間値を用いても良い。更に例えば、円筒断面の厚み方向の複数のボクセルの平均値や最大値、最小値を用いることにより円筒断面画像のS/N比を向上させることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、大腸のように屈曲の多い管状組織の壁の内部及び内壁面を同時に観察することができる画像処理方法及び画像処理プログラムとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図
【図2】本発明の実施形態にかかる画像処理方法において中心パス14上で繰り返す処理を説明するための図
【図3】本発明の実施形態にかかる画像処理方法の効果(1)を説明するための図
【図4】本発明の実施形態にかかる画像処理方法におけるそれぞれの画像を示す図
【図5】本発明の実施形態にかかる画像処理方法における合成画像を示す図
【図6】本発明の実施形態にかかる画像処理方法の効果(2)を説明するための図
【図7】本発明の実施形態にかかる画像処理方法の効果(3)を説明するための図
【図8】本発明の実施形態にかかる画像処理方法の実施例1を説明するための図
【図9】本発明の実施形態にかかる画像処理方法の実施例2を説明するための図
【図10】中心パス14上の位置により中心パス14からの基準距離rを自動的に求める場合の中心パス14に平行な面での断面模式図
【図11】本発明の実施例2の実現方法を説明するための図
【図12】本発明の実施形態にかかる画像処理方法の実施例3を説明するための図
【図13】本発明の実施例3の実現方法を説明するための図
【図14】本発明の実施例1〜3にかかる画像処理方法のフローチャート
【図15】本発明の実施例1〜3において仮想光線を投射する場合のフローチャート
【図16】本発明の画像処理方法におけるその他の実施方法を示すフローチャート
【図17】ボリュームにマスク処理を行い一部のみを表示させる場合の説明図
【図18】MPR(Multi Planar Reconstruction)によりボリュームの任意断平面を表示させる場合の説明図
【図19】マスク画像と平行投影法によるMPR画像を重ね合わせた場合の説明図
【図20】円筒座標系を利用した円筒投影法の説明図
【図21】観察対象の管状組織57が屈曲している場合の屈曲円筒投影法を説明するための図
【図22】従来の円筒投影法のフローチャート
【図23】従来の仮想光線投射のフローチャート
【図24】管状組織の領域に対する用語の説明図
【符号の説明】
【0079】
10,55,57,61 管状組織
11 半径を基準距離とする円周で決定される範囲
12 基準距離の外側部分
13 基準距離の円周部分
14 中心パス
15,56,58 仮想光線
16 円筒断面画像
17 投影画像
18 凸部位
19 凹部位
20 突起物
21,22 影領域
23,24 断面形状が変化する領域
51,53 ボリューム
52 マスク領域
54 断平面
62 壁の内部及び周辺
63 内腔
64 内壁面
65 壁の内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パス近傍の生体情報を、円筒投影法を用いて可視化する画像処理方法であって、
前記パスからの基準距離によって定義される断面上の円筒断面画像と、前記円筒投影法による円筒投影画像とを合成した画像を表示する画像処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の画像処理方法であって、
前記パスからの基準距離を決定するステップと、
前記パスと交差する平面上における当該パスの位置からの前記基準距離で決定できる周上にある座標を取得するステップと、
前記座標のボクセルが不透明を表現するボクセルの場合に、前記ボクセルより第一の画素値を取得し、前記円筒断面画像の作成に前記第一の画素値を用い、
前記座標のボクセルが透明を表現するボクセルの場合に、前記座標を通過する仮想光線を投射することにより第二の画素値を取得し、前記円筒投影画像の作成に前記第二の画素値を用いるステップとを有する画像処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の画像処理方法であって、
前記パスは、屈曲した管状組織の中心パスに沿って設けられ、
前記円筒投影画像は、前記中心パスから仮想光線を投射して生成される画像処理方法。
【請求項4】
請求項2記載の画像処理方法であって、
前記基準距離をGUIにより可変するステップを有する画像処理方法。
【請求項5】
請求項2記載の画像処理方法であって、
前記基準距離を前記パス上の位置に応じて求めるステップを有する画像処理方法。
【請求項6】
請求項2記載の画像処理方法であって、
前記基準距離を前記パスからの方向に応じて決定するステップを有する画像処理方法。
【請求項7】
コンピュータに、請求項1ないし6のいずれか一項記載の各ステップを実行させるための画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図4】
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【図5】
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【図17】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−289767(P2008−289767A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140161(P2007−140161)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(500109320)ザイオソフト株式会社 (59)
【Fターム(参考)】