説明

画像処理装置、印刷装置、画像処理方法および画像処理プログラム

【課題】印刷に用いるドットデータを生成する技術を提供する。
【解決手段】画像処理装置であって、画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を判定値と比較し、比較によってドットの形成の有無を判定する際にドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、ドット形成の有無を表すドットデータを生成するドットデータ生成部と、各画素の補正階調値と判定値との比較に先立って、ディザマスクの閾値と画素の階調値とを比較し、画素の階調値が閾値を上回る場合に適用する判定値が、画素の階調値が閾値以下の場合に適用する判定値を上回らないように所定の幅で判定値を調整する判定値調整部とを備え、判定値調整部は画素が近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、ドット形成の判定に用いられる判定値の調整の幅をエッジ画素以外の画素と比較して小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の画像を表す画像データの印刷を行う印刷技術に関し、さらに詳しくは、ドットの形成の有無を表すドットデータを生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置において、オリジナルの画像より階調の少ない表現方法で画像の階調表現を行う技術(以下、ハーフトーン技術という)として、ディザ法や誤差拡散法が広く知られている。ディザ法と誤差拡散法には、それぞれ長所及び短所があるため、従来からディザ法的要素と誤差拡散法的要素とを組み合わせて、ハーフトーン処理を行いたいという要望があった。例えば、下記の特許文献1や特許文献2には、誤差拡散法の閾値に、組織的ディザ法のディザマスクを用いて、閾値を周期的に変動させることで、ディザ法的要素と誤差拡散法的要素とを組み合わせたハーフトーン処理を行う技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術では、ハーフトーン処理の対象となる印刷画像データの特性に応じて、ディザ法的要素と誤差拡散法的要素の寄与度を制御することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−292320号公報
【特許文献2】特開2003−234893号公報
【特許文献3】特開2006−140579号公報
【特許文献4】特開2006−67347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題の少なくとも一部を踏まえ、本発明が解決しようとする課題は、従来とは異なる方法で、ディザ的要素と誤差拡散法的要素とを取り入れた画像処理技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0007】
[適用例1]
画素毎の階調値により画像を表す画像データを処理する画像処理装置であって、前記画像データを入力する画像データ入力部と、前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を、判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成する処理を行うドットデータ生成部と、前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整する判定値調整部と、前記生成されたドットデータを出力するドットデータ出力部とを備え、前記判定値調整部は、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする画像処理装置。
【0008】
この画像処理装置によると、誤差拡散法によるドットデータの生成に先立って、ディザマスクの閾値と画素の階調値とを比較して、画素の階調値が閾値を上回る場合に適用する判定値が、画素の階調値が閾値以下の場合に適用する判定値を上回らないように所定の幅で判定値を調整するので、判定値の調整の仕方によっては、誤差拡散法的要素(ドットの分散性や連続性に優れた特性)を強めたドットパターンや、ディザ法的要素(用いるディザマスクが備える特性)を強めたドットパターンを生成することができる。さらに、この画像処理装置によると、各画素のドット形成の有無を判定する場合に、その画素がエッジ画素の場合には、ドット形成の判定に用いられる判定値の調整の幅をエッジ画素以外の画素と比較して小さくするので、エッジ画素ではエッジ画素以外の画素と比較して誤差拡散法的要素を強めたドットデータを生成することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の画像処理装置であって、前記判定値調整部は、前記エッジ画素以外の画素に前記判定値を適用するに際し、前記エッジ画素からの距離が遠くなるにつれて前記判定値の前記調整の幅を複数の段階に分けて大きくする画像処理装置。
【0010】
この画像処理装置によると、エッジ画素から距離が遠くなるにつれて判定値の調整の幅を複数の段階に分けて大きくするので、エッジ画素で最も誤差拡散法的要素を強め、エッジ画素から距離が遠くなるにつれて段階的にディザ法的要素を強めたドットデータを生成することができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2記載の画像処理装置であって、前記判定値調整部は、近接画素との階調値の差が所定以上である画素のうち、高階調側の画素または低階調側の画素のいずれか一方の画素を前記エッジ画素と判定する画像処理装置。
【0012】
この画像処理装置によると、エッジを構成する画素のうち高階調側または低階調側の一方のみをエッジ画素判定するので、誤差拡散法的要素を強めたドットデータを生成する処理を最小限にすることができる。
【0013】
[適用例4]
前記ディザマスクは、ブルーノイズ特性を有する適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の画像処理装置。
【0014】
この画像処理装置によると、ディザマスクはブルーノイズ特性を有するので、ディザ法的要素を強めてドットデータの生成を行った場合、分散性・粒状性に優れたドットデータを生成することができる。
【0015】
[適用例5]
前記エッジ画素における前記判定値の前記調整の幅が0である適用例1ないし適用例4のいずれか記載の画像処理装置。
【0016】
この画像処理装置によると、エッジ画素においては判定値の調整を0にしてドット形成の有無の判定を行うので、エッジ画素では実質的にディザ法的要素が無くし、誤差拡散法的要素を最大限に強めてドットデータを生成することができる。
【0017】
[適用例6]
画素毎の階調値により画像を表す画像データを印刷する印刷装置であって、前記画像データを入力する画像データ入力部と、前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を、判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成する処理を行うドットデータ生成部と、前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整する判定値調整部と、前記生成されたドットデータを用いて、前記画像の印刷を行う印刷部とを備え、前記判定値調整部は、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする印刷装置。
【0018】
この印刷装置によると、誤差拡散法によるドットデータの生成に先立って、ディザマスクの閾値と画素の階調値とを比較して、画素の階調値が閾値を上回る場合に適用する判定値が、画素の階調値が閾値以下の場合に適用する判定値を上回らないように所定の幅で判定値を調整するので、判定値の調整の仕方によっては、誤差拡散法的要素(ドットの分散性や連続性に優れた特性)を強めたドットパターンや、ディザ法的要素(用いるディザマスクが備える特性)を強めたドットパターンを生成することができる。さらに、この印刷装置によると、各画素のドット形成の有無を判定する場合に、その画素がエッジ画素の場合には、ドット形成の判定に用いられる判定値の調整の幅をエッジ画素以外の画素と比較して小さくするので、エッジ画素ではエッジ画素以外の画素と比較して誤差拡散法的要素を強めたドットデータを生成することができる。この結果、画像データに含まれる低階調の細線やテキスト等を途切れることなく印刷画像として再現することができる。
【0019】
[適用例7]
画素毎の階調値により画像を表す画像データを処理する画像処理方法であって、前記画像データを入力する画像データ入力工程と、前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を、判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成する処理を行うドットデータ生成工程と、前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整する判定値調整工程と、前記生成されたドットデータを出力するドットデータ出力工程とを備え、前記判定値調整工程において、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする画像処理方法。
【0020】
この画像処理方法によると、各画素のドット形成の有無を判定する場合に、その画素がエッジ画素の場合には、ドット形成の判定に用いられる判定値の調整の幅をエッジ画素以外の画素と比較して小さくするので、エッジ画素ではエッジ画素以外の画素と比較して誤差拡散法的要素を強めたドットデータを生成することができる。
[適用例8]
画素毎の階調値により画像を表す画像データを処理するための画像処理プログラムであって、前記画像データを入力する機能と、前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を、判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成する処理を行う機能と、前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整するとともに、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする機能とをコンピューターに実現させるための画像処理プログラム。
【0021】
この画像処理プログラムによると、各画素のドット形成の有無を判定する場合に、その画素がエッジ画素の場合には、ドット形成の判定に用いられる判定値の調整の幅をエッジ画素以外の画素と比較して小さくする機能を有するので、エッジ画素ではエッジ画素以外の画素と比較して誤差拡散法的要素を強めたドットデータを生成をコンピューターに実現させることができる。
【0022】
また、本発明は、画像処理装置としての構成のほか、印刷データ生成装置、印刷装置で印刷する印刷方法、印刷用プログラム、当該プログラムを記録した記憶媒体等としても実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施例としてのプリンター20の概略構成図である。
【図2】印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】ハーフトーン処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】領域判定処理の流れを示したフローチャートである。
【図5】領域判定処理(D=1)を行っている様子を示す説明図である。
【図6】領域判定処理(D=2)を行っている様子を示す説明図である。
【図7】第1実施例におけるハーフトーン処理の原理を説明する説明図である。
【図8】変形例1における領域判定処理(D=1)を行っている様子を示す説明図である。
【図9】変形例1における領域判定処理(D=2)を行っている様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
A.第1実施例:
(A1)装置構成:
図1は、本発明の第1実施例としてのプリンター20の概略構成図である。プリンター20は、後述する双方向印刷を行うシリアル式インクジェットプリンタであり、図示するように、プリンター20は、紙送りモーター74によって印刷媒体Pを搬送(以下、搬送方向を副走査方向とも呼ぶ)する機構と、キャリッジモーター70によってキャリッジ80をプラテン75の軸方向(以下、主走査方向とも呼ぶ)に往復動させる機構と、キャリッジ80に搭載された印刷ヘッド90を駆動してインクの吐出及びドット形成を行う機構と、これらの紙送りモーター74,キャリッジモーター70,印刷ヘッド90及び操作パネル99との信号のやり取りを司る制御ユニット30とから構成されている。
【0025】
キャリッジ80をプラテン75の軸方向に往復動させる機構は、プラテン75の軸と平行に架設され、キャリッジ80を摺動可能に保持する摺動軸73と、キャリッジモーター70との間に無端の駆動ベルト71を張設するプーリ72等から構成されている。
【0026】
キャリッジ80には、カラーインクとして、シアンインクC、マゼンタインクM、イエロインクY、ブラックインクK、ライトシアンインクLc、ライトマゼンタインクLmをそれぞれ収容したカラーインク用のインクカートリッジ82〜87が搭載される。キャリッジ80の下部の印刷ヘッド90には、上述の各色のカラーインクに対応するノズル列が形成されている。キャリッジ80にこれらのインクカートリッジ82〜87を装着すると、各カートリッジから印刷ヘッド90へのインクの供給が可能となる。
【0027】
制御ユニット30は、CPU40や、ROM51、RAM52、EEPROM60がバスで相互に接続されて構成されている。制御ユニット30は、ROM51やEEPROM60に記憶されたプログラムをRAM52に展開し、実行することにより、プリンター20の動作全般を制御するほか、入力部41、ハーフトーン処理部42、印刷部46としても機能する。ハーフトーン処理部42の機能は、領域判定処理部43、比較部44、誤差拡散部45としての機能を含んでいる。これらの機能部の詳細については後述する。
【0028】
EEPROM60の一部にはディザマスク61が記憶されている。ディザマスク61は、組織的ディザ法によるハーフトーン処理に用いるものであり、複数の閾値により構成される。ディザマスク61は、本実施例では、閾値の分布が、いわゆるブルーノイズ特性を備えている。ブルーノイズ特性を有する閾値の分布とは、そのような閾値の分布を有するディザマトリックスを用いてドットを発生させたときに、ドットを不規則に発生させるとともに、設定されている閾値の空間周波数成分は、1周期が2画素以下の高周波数領域に最も大きな成分を有するような閾値の分布を言う。また、後述するグリーンノイズ特性を有する閾値の分布とは、そのような閾値の分布を有するディザマトリックスを用いてドットを発生させたときに、ドットを不規則に発生させるとともに、設定されている閾値の空間周波数成分は、1周期が2画素から十数画素の中間周波数領域に最も大きな成分を有するような閾値の分布をいう。
【0029】
また、本実施例においては、ディザマスク61は、所定のドット形成特性を有している。すなわち、双方向印刷におけるキャリッジ80の往動で形成されるドット群のドットパターンと、復動で形成されるドット群のドットパターンと、これらを併せた全体のドット群のドットパターンいずれもが、良好なドット分散性を有する特性を有している。かかる技術は、例えば、特開2007−15359号公報に記載されている。なお、ディザマスク61は、上述の往復動ごとのグループに代えて、または、加えて、キャリッジ80の複数回の主走査のうちのいずれの主走査でドットが形成されるかを示す主走査グループごとに、良好なドット分散性が得られるものであってもよい。
【0030】
ドット分散性が良好であるとは、ドットパターンがブルーノイズ特性やグリーンノイズ特性を有することとして特定することができる。あるいは、複数のグループの各々に属する画素に設定されているディザマスクの閾値の空間周波数分布の各々と、印刷画像の空間周波数分布とが相互に正の相関係数を有すること、望ましくは、0.7以上の相関係数を有することとして特定することができる。
【0031】
制御ユニット30には、メモリーカードスロット98が接続されており、メモリーカードスロット98に挿入したメモリーカードMCから画像データORGを読み込んで入力することができる。本実施例においては、メモリーカードMCから入力する画像データORGは、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3色の色成分からなるデータである。
【0032】
以上のようなハードウェア構成を有するプリンター20は、キャリッジモーター70を駆動することによって、印刷ヘッド90を印刷媒体Pに対して主走査方向に往復動させ、また、紙送りモーター74を駆動することによって、印刷媒体Pを副走査方向に移動させる。制御ユニット30は、キャリッジ80が往復動する動きや、印刷媒体の紙送りの動きに合わせて、印刷データに基づいて適切なタイミングでノズルを駆動することにより、印刷媒体P上の適切な位置に適切な色のインクドットを形成する。こうすることによって、プリンター20は、印刷媒体P上にメモリーカードMCから入力したカラー画像を印刷することが可能となっている。
【0033】
(A2)印刷処理:
プリンター20における印刷処理について説明する。図2は、プリンター20における印刷処理の流れを示すフローチャートである。ここでの印刷処理は、ユーザが操作パネル99等を用いて、メモリーカードMCに記憶された所定の画像の印刷指示操作を行うことで開始される。印刷処理を開始すると、CPU40は、まず、入力部41の処理として、メモリーカードスロット98を介してメモリーカードMCから印刷対象であるRGB形式の画像データORGを読み込んで入力する(ステップS110)。
【0034】
画像データORGを入力すると、CPU40は、EEPROM60に記憶されたルックアップテーブル(図示せず)を参照して、画像データORGについて、RGB形式をCMYKLcLm形式に色変換する(ステップS120)。
【0035】
色変換処理を行うと、CPU40は、ハーフトーン処理部42の処理として、画像データを各色のドットのON/OFFデータに変換するハーフトーン処理を行う(ステップS130)。ここでのハーフトーン処理の詳細については後述する。なお、ハーフトーン処理は、ドットのON/OFFの2値化処理に限らず、大ドット及び小ドットのON/OFFなど、多値化処理であってもよい。また、ステップS130に供する画像データは、解像度変換処理やスムージング処理などの画像処理が施されたものであってもよい。
【0036】
ハーフトーン処理を行うと、CPU40は、プリンター20のノズル配置や紙送り量などに合わせて、1回の主走査単位で印画するドットパターンデータに並び替えるインターレース処理を行う(ステップS160)。インターレース処理を行うと、CPU40は、印刷部46の処理として、印刷ヘッド90、キャリッジモーター70、モーター74等を駆動させて、印刷を実行する(ステップS170)。
【0037】
(A3)ハーフトーン処理:
次に、ハーフトーン処理(ステップS130)の詳細について説明する。図3は、ハーフトーン処理の流れを示したフローチャートである。この処理が開始されると、CPU40は、まず、ステップS120で色変換処理が行われた画像データについて、注目画素位置の座標データn(x,y)と、注目画素データDnとを取得する(ステップS131)。注目画素位置の座標データn(x,y)と注目画素データDnとを取得すると、CPU40は、領域判定処理部43の処理として領域判定処理を行う(ステップS132)。
【0038】
ここで、領域判定処理(ステップS132)の詳細について説明する。領域判定処理は、注目画素(x,y)が、印刷画像におけるエッジを構成する画素(以下、エッジ画素とも呼ぶ)のうち、色の濃い側の画素(以下、高濃度側エッジ画素とも呼ぶ)か否かを判定し、判定結果に基づいてその後のハーフトーン処理に用いる所定のパラメータである閾値増減パラメータth_addを決定する処理である。
【0039】
図4は、領域判定処理の流れを示したフローチャートである。CPU40は、領域判定処理を開始すると注目画素(x,y)が高濃度側エッジ画素であるか否かを判定する処理を行う(図4:ステップS133)。具体的には、注目画素の階調値から、注目画素から距離D(Dは正の整数)の位置にある画素(以下、差分調査対象画素とも呼ぶ)の階調値を減算し、減算値が所定の閾値(以下、エッジ判定閾値EDGE_THとも呼ぶ)より大きいか判定する。距離Dの値は、印刷装置の設計段階での設定、ユーザが印刷を行う段階での手動での設定、および、印刷装置が印刷処理時に画像データの特性を判定し自動で設定するなど、種々の段階で設定することができる。
【0040】
例えばD=1に設定した場合には、差分調査対象画素を(xー1,y)、(x+1,y)、(x,y−1)、(x,y+1)と設定することができる。そして、
date[x,y]−date[x−1,y]>EDGE_TH または
date[x,y]−date[x+1,y]>EDGE_TH または
date[x,y]−date[x,y−1]>EDGE_TH または
date[x,y]−date[x,y+1]>EDGE_TH
ならば、注目画素(x,Y)は高濃度側エッジ画素と判定する。なお、date[ ]は、[ ]内の座標の画素の階調値を表す。
【0041】
図5は、上記処理方法によって領域判定処理を行っている様子を示す説明図である。本実施例においては、印刷画像において所定の方向を基準に定めた場合、具体的には観察者が印刷画像を観察する向きに正対した場合における、上から下、左から右に、画像データ上で注目画素を移動させる。また、この場合、画像データの隅部に注目画素が位置している際には、一部の差分調査対象画素が存在しない場合が生じるが、その場合には、その存在しない差分調査対象画素に対してダミー画素を設定し、ダミー画素の階調値を注目画素の階調値と同じとして領域判定処理を行う。図5では、階調値の高い画素(以下、高階調画素とも呼ぶ)をドットハッチングで表現し、高濃度側エッジ画素を更に斜線ハッチングで表現した。
【0042】
また、例えば距離D=2に設定した場合には、差分調査対象画素として、上記のD=1の差分調査対象画素に(x−2,y)、(x+2,y)、(x,y−2)、(x、y+2)、(x−1,y−1)、(x+1,y−1)、(x−1,y+1)、(x+1,y+1)を加えた画素を差分調査対象画素として設定することができる。そしてD=1の場合と同様に、エッジ判定閾値EDGE_THとの大小の比較をすることにより、注目画素が高濃度側エッジ画素であるか否かの判定を行う。図6は、D=2の場合の領域判定処理を行っている様子を示す説明図である。
【0043】
CPU40は、注目画素を高濃度側エッジ画素であると判定した場合(ステップS133:YES)、その注目画素についての閾値増減パラメータth_addを「0」と決定する(ステップS134)。一方、CPU40が注目画素を高濃度側エッジ画素ではないと判定した場合(ステップS133:NO)、その注目画素についての閾値増減パラメータth_addを「64」と決定する(ステップS135)。このようにしてCPU40は領域判定処理を行う。
【0044】
説明をハーフトーン処理(図3)に戻す。CPU40は、各注目画素について閾値増減パラメータth_addを決定した後、比較部44の処理として、仮ディザ処理を行う(ステップS141)。ここでの仮ディザ処理とは、注目画素データDnの階調値と、EEPROM60に記憶されたディザマスク61を構成する複数の閾値のうちの、注目画素データDnに対応する閾値THn_dの値との大小関係を比較する処理である。この処理は、形式的には、通常行われるディザ法によるドットのON/OFF判断の処理と同一の処理である。実質的には、通常のディザ法では、注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値以上である場合には、ドットをONにすると判断し、注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値未満である場合には、ドットをOFFにすると判断するが、本実施例の仮ディザ処理は、後述する誤差拡散法によってドットのON/OFFを決定するための前処理、具体的には、誤差拡散法の閾値を決定するための処理である点が相違している。
【0045】
仮ディザ処理の結果、注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値以上であれば(ステップS141:YES)、誤差拡散法に用いる閾値THeを低位閾値THe_Lに設定する(ステップS141)。CPU40は、低位閾値THe_Lの設定に際し、予め設定している基準誤差拡散閾値EDTH(例えば128)から、先の領域判定処理(ステップS132)で決定した閾値増減パラメータth_addを減算し、その減算値を低位閾値THe_Lに設定する。例えば、注目画素が高濃度側エッジ画素である場合には、閾値増減パラメータth_add=0であるので、低位閾値THe_L=EDTH−0として算出する。注目画素が高濃度側エッジ画素ではない場合には、閾値増減パラメータth_add=64であるので、低位閾値THe_L=EDTH−64として算出する。
【0046】
一方、仮ディザ処理の結果、注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値未満であれば(ステップS141:NO)、誤差拡散法に用いる閾値THeを高位閾値THe_Hに設定する(ステップS143)。CPU40は、高位閾値THe_Hの設定に際し、予め設定している基準誤差拡散閾値EDTH(例えば128)から、先の領域判定処理(ステップS132)で決定した閾値増減パラメータth_addを加算し、その加算値を高位閾値THe_Hに設定する。例えば、注目画素が高濃度側エッジ画素である場合には、閾値増減パラメータth_add=0であるので、高位閾値THe_H=EDTH+0として算出する。注目画素が高濃度側エッジ画素ではない場合には、閾値増減パラメータth_add=64であるので、高位閾値THe_H=EDTH+64として算出する。このように、本実施例においては、誤差拡散法に用いる閾値THeを仮ディザ処理の結果に基づいて変化させる構成としている。
【0047】
CPU40は、閾値THeを設定すると、注目画素データDnの階調値に、別途用意した誤差バッファに記憶された拡散誤差Ednを加算する(ステップS144)。ここで、拡散誤差Ednについては、後述するステップS148において算出されるものであり、その内容は後述する。
【0048】
注目画素データDnの階調値に拡散誤差Ednを加算すると、CPU40は、拡散誤差Ednを加算した注目画素データDnの階調値と、ステップS142またはステップS143で設定した閾値THeとを比較する(ステップS145)。その結果、拡散誤差Ednを加算した注目画素データDnの階調値が閾値THe以上であれば(ステップS145:YES)、注目画素のドットをONに決定し(ステップS146)、拡散誤差Ednを加算した注目画素データDnの階調値が閾値THe未満であれば(ステップS145:NO)、注目画素のドットをOFFに決定する(ステップS147)。
【0049】
ドットのON/OFFを決定すると、CPU40は、2値化誤差Enを算出し拡散する(ステップS148)。2値化誤差Enとは、拡散誤差Ednを加算した注目画素データDnの階調値とドットのON/OFF結果(ここでは階調値255または0)との差分である。Enを拡散するとは、近傍の未処理画素を2値化する際に用いる新たな拡散誤差Ednとして、Enを分配し加算することをいう。本実施例では、2値化誤差Enを、ドットのON/OFFを未決定の周辺画素である、注目画素の右隣の画素に対して7/16、左下の画素に対して3/16、下の画素に対して5/16、右下の画素に対して1/16の割合で分割し、各画素用の拡散誤差Ednを記憶する誤差バッファの値に加算する。
【0050】
かかるステップS144〜S148の処理は、誤差拡散法によるハーフトーン処理であり、誤差拡散部45の処理として実行される。誤差拡散法については、周知の技術であるため、詳細な説明は省略するが、各画像データの量子化誤差を周囲の画像データに所定の配分比率で加算しながら、各画像データと所定の閾値とを比較して各画像データを量子化する手法である。上述の例では、ステップS135〜S139は、ドットのON/OFFのみを決定する2値化処理としたが、大ドット及び小ドットのON/OFFを決定するなど、多値化処理を行ってもよい。
【0051】
そして、2値化誤差En及び拡散誤差Ednを算出すると、CPU40は、全ての画素を注目画素として上記ステップS131〜S139の処理を繰り返す(ステップS149)。こうして、ステップS130(図2参照)のハーフトーン処理は終了する。
【0052】
かかるハーフトーン処理の原理について、図7を用いて以下に説明する。上述したように、ステップS141〜S143の処理においては、注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値以上の場合、即ち、仮にディザ法によって処理したとすればドットONになる場合であれば、誤差拡散法に用いる閾値THeは、低位閾値THe_Lに設定され、注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値未満の場合、即ち、仮にディザ法によって処理をしたとすればドットOFFになる場合であれば、閾値THeは、高位閾値THe_Hに設定される。
【0053】
ここで、閾値差分値ΔTHe=THe_H−THe_Lと定義し、閾値差分値ΔTHeが値「0」である場合、すなわち、本実施例においては注目画素が高濃度側エッジ画素(閾値増減パラメータth_add=0)である場合を考える。この場合、仮ディザ処理の結果は、閾値THeに影響を与えないのであるから、ステップS141〜S143の処理は、誤差拡散法(ステップS144〜S148)による最終的なドットのON/OFFの決定に対して意味を持たないことになる。このことは、ステップS130のハーフトーン処理において、最終的なドットのON/OFFが、誤差拡散法的要素のみによって決定されていることを意味する。図7においては、ドットデータの特性として誤差拡散法的要素が大と記載している。
【0054】
次に、閾値差分値ΔTHeが値0より大きい場合(THe_H>THe_L)、すなわち、本実施例においては注目画素が高濃度側エッジ画素以外の画素(閾値増減パラメータth_add=64)である場合を考える。この場合、CPU40は、仮ディザ処理によりドットONと判断すると(注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値以上であることをいう)、閾値THeを相対的に小さい低位閾値THe_Lに設定する。一方、仮ディザ処理によりドットOFFと判断すると(注目画素データDnの階調値が閾値THn_dの値未満であることをいう)、閾値THeを相対的に大きい高位閾値THe_Hに設定する。つまり、CPU40は、仮ディザ処理によりドットONと判断すると、誤差拡散法によりドットがONになりやすいように制御し、仮ディザ処理によりドットOFFと判断すると、誤差拡散法によりドットがOFFになりやすいように制御する。このことは、閾値差分値ΔTHeが値0である場合と比べて、誤差拡散法による最終的なドットのON/OFFの判断結果が仮ディザ処理によるドットのON/OFFの判断結果に近づくことを意味している。つまり、最終的なドットのON/OFFを、誤差拡散法的要素に加え、ディザ法的要素を加えて判断していることになる。図7においては、ドットデータの特性としてディザ法的要素が大と記載している。
【0055】
要するに、仮ディザ処理の結果に応じて閾値THeを変化させることにより、具体的には、閾値差分値ΔTHeの大きさを変化させることにより、ハーフトーン処理におけるディザ法的要素と誤差拡散法的要素とのそれぞれの寄与度を制御することができるのである。本実施例においては、こうした原理を利用して、注目画素が高濃度側エッジ画素か否かによって、ハーフトーン処理におけるディザ法的要素と誤差拡散法的要素とを動的に制御している。このことは、閾値差分値ΔTHeの大きさによって、誤差拡散法によるドットの形成のされやすさの制御の程度を制御していると捉えることもできる。
【0056】
以上説明したように、かかる構成のプリンター20は、誤差拡散法によりドットデータを生成するに際して、仮ディザ処理の結果を用いて、誤差拡散法によるドットの形成のされやすさを制御する。つまり、仮にディザ法を用いたとした場合のドットのON/OFFの判断結果を用いて、誤差拡散法によるドットの形成のされやすさを制御する。したがって、ディザ法的要素と誤差拡散法的要素とを取り入れたハーフトーン処理が可能となる。
【0057】
具体的には、プリンター20は、仮ディザ処理の結果がドットONの場合に、誤差拡散法に用いる閾値THeを低位閾値THe_Lに設定し、誤差拡散法によりドットが形成されやすいように制御する。一方、仮ディザ処理の結果がドットOFFの場合に、閾値THeを高位閾値THe_Hに設定し、誤差拡散法によりドットが形成されにくいように制御する。いずれの制御によっても、単純な誤差拡散法によるドットデータと比べて、ドットの形成の有無が、ディザ法による結果に近づくことになるので、ディザ法的要素が強まる。したがって、これらの制御の程度、つまり閾値差分値ΔTHeを適宜設定、本実実施例では閾値増減パラメータth_addの大きさを設定することで、ハーフトーン処理におけるディザ法的要素と誤差拡散法的要素との寄与度を、所望の程度に設定することができる。また、仮ディザ処理の結果に基づいて閾値THeを変化させるだけで、誤差拡散法によるドットの形成のされやすさを制御するので、構成が簡単であり、処理の高速化に資する。
【0058】
また、本実施例のプリンター20は、印刷対象画像を形成する各画素が高濃度側エッジ画素か否かで、閾値差分値ΔTHeを変えている。具体的には、注目画素が高濃度側エッジ画素である場合には、閾値差分値ΔTHeを大きくすることによりハーフトーン処理における誤差拡散法的要素を強め、注目画素が高濃度側エッジ画素ではない場合にはハーフトーン処理におけるディザ法的要素を強める構成としている。
【0059】
誤差拡散法によるハーフトーン処理は、解像度と階調の両要素の再現性に優れているため、印刷対象である画像に低濃度で描画された細線(例えば文字や描画された線画)が含まれる場合に、細線の輪郭を形成する画素およびその周辺画素に対して誤差拡散法を適用すると細線が途中で途切れることなく、精度良く細線を再現することができる。
【0060】
一方、ディザ法によるハーフトーン処理は、用いるディザマスクに所定の特性を持たせることで、インクドットの着弾位置のずれによる画質劣化を抑制することができる。また、ディザマスク自体を高度な特性を持つように生成しても、ハーフトーン処理時の実行速度には影響しない。よって、印刷対象となる画像中のベタ領域には、着弾位置ずれによる画像劣化を抑制する点および処理速度の点においてディザ法によるハーフトーン処理は非常に有効である。
【0061】
本実施例の場合、印刷対象画像の高濃度側エッジ画素では誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行うことで細線の再現性を高め、それ以外の領域ではディザ法的要素を強めてハーフトーン処理行うことでインクドットの着弾位置のずれによる画質劣化の抑制および処理速度の高速化を図っている。すなわち、印刷対象の画像データにおいて、誤差拡散法によるメリットがディザ法によるメリットより活かされる領域では誤差拡散法的要素を強め、ディザ法によるメリットが誤差拡散法によるメリットより活かされる領域ではディザ法的要素を強めてハーフトーン処理を行っているので印刷画像における細線の再現性に優れ、かつ、インクドットによる着弾位置のずれによる画質劣化を抑えた印刷画像を得ることができる。
【0062】
さらに、印刷対象画像における高濃度側エッジ画素と、エッジを構成するエッジ画素のうちの濃度の低い側の画素(以下、低濃度側エッジ画素とも呼ぶ)においても誤差拡散法的要素を強めたハーフトーン処理を行っても、十分に細線の再現性に優れた印刷画像を得ることは可能であるが、本実施例においては、高濃度側エッジ画素のみ誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行う構成としている。すなわち、処理に時間を要する誤差拡散法的要素の強めたハーフトーン処理の領域を少なくする抑えることで、処理速度を高めることができる。
【0063】
特許請求の範囲との対応関係としては、ハーフトーン処理部42が特許請求の範囲に記載のドットデータ生成部に対応し、拡散誤差Ednを加算した注目画素データDnの階調値が特許請求の範囲に記載の補正階調値に対応する。また、図3,図4に記載のステップS134,S135,ステップS141〜S143が特許請求の範囲に記載の判定値調整部の機能に対応し、ステップS144〜S148が特許請求の範囲に記載のドットデータ生成部の機能に対応する。
【0064】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0065】
(B1)変形例1:
上記実施例では、線画の領域における上下左右の全てのエッジ画素(第1実施例の場合は、エッジ画素の内の高濃度側エッジ画素)において、誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行うとしたが、エッジの片側のみに対して誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行うとしてもよい。即ち、左右のエッジに対しては、右側又は左側の一方のエッジ画素のみ、上下のエッジに対しては、上側又は下側の一方のエッジ画素のみに対して誤差拡散法的要素を強めるハーフトーン処理を行う。この場合、差分調査対象画素を図8や図9のように設定することで、線画における片側の高濃度側エッジ画素のみ誤差拡散法的要素を強めたハーフトーン処理を行うことができる。このようにしても、低濃度の細線において、誤差拡散法的要素を強めたエッジ近傍でドットが発生するので、細線が途切れることなく、細線の再現性に優れた印刷を行うことができる。
【0066】
また、このようにエッジの片側のみ誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行う場合、画像データ上において注目画素を移動させる方向(以下、処理方向とも呼ぶ)との相関関係を考慮し、処理方向に対して線画領域の後方のエッジ画素、具体的には、処理方向が左→右、上→下の場合には、線画の領域に対して右側のエッジ画素および下側のエッジ画素に対して誤差拡散法的要素を強めたハーフトーン処理を行うと、線画の再現性に特に優れた印刷を行うことができる。
【0067】
線画領域の後方のエッジ画素において誤差拡散法的要素を強めたハーフトーン処理を行う場合、仮にそれ以前の線画領域(ディザ法的要素が強い領域)においてドットが発生しなかった場合には、その拡散誤差の影響によって、その後方のエッジ画素、即ち誤差拡散法的要素を強めた画素においてドットが発生しやすくなる。一方、線画領域の前方のエッジ画素、具体的には、処理方向が左→右、上→下の場合において、線画の領域に対して左側のエッジ画素および上側のエッジ画素に対して誤差拡散法的要素を強めたハーフトーン処理を行うと、エッジ画素でドットが発生しなかった場合に、拡散誤差Ednが周囲の画素に拡散されるが、即ち処理方向において後方の画素にも拡散誤差Ednは拡散され、後方画素におけるハーフトーン処理に反映されるが、後方の画素ではディザ法的要素が強いので、実質的に拡散誤差による影響は抑えられることになり、処理方向の後方のエッジ画素で誤差拡散法要素を強めたハーフトーン処理を行う場合と比較して、ドットが発生しにくい。このような理由から、エッジの片側のみ誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行う場合には、処理方向に対して線画領域の後方のエッジ画素に対して、誤差拡散法的要素を強めたハーフトーン処理を行うことによって、線画の再現性に特に優れた印刷を行うことができる。
【0068】
(B2)変形例2:
上記実施例では、ハーフトーン処理する場合に、誤差拡散法要素を強めた処理と、ディザ法的要素を強めた処理とを行う2種類の領域に画像データにおける画素を分けたが、さらに、この2種類の領域の中間的な領域(以下、遷移領域とも呼ぶ)を設けてハーフトーン処理を行ってもよい。すなわち、閾値増減パラメータth_addの値が誤差拡散法的要素を強めた領域とディザ法的要素を強めた領域の間の値に設定する。上記第1実施例の構成の場合、ディザ法的要素を強める領域では閾値増減パラメータth_add=0と設定し(図4参照)、誤差拡散法的要素を強めた領域では閾値増減パラメータth_add=64と設定し、遷移領域では例えば閾値増減パラメータth_add=32と設定することで、ディザ法的要素と誤差拡散法的要素とを中程度に備えたハーフトーン処理を行うことができる。
【0069】
この遷移領域を設ける方法としては、第1実施例で説明した高濃度側エッジ画素の検出方法において、図5で説明した距離D=1における差分調査対象画素で検出された画素を誤差拡散法的要素を強める画素領域(閾値増減パラメータth_add=64)とし、図6で説明した距離D=2における差分対象画素で検出された画素のうち、D=1で検出された画素以外の画素を遷移領域(閾値増減パラメータth_add=32)とし、それ以外の画素をディザ法的要素を強める画素領域(閾値増減パラメータth_add=0)とする。このようにすることで、ディザ法的要素を強めた領域と誤差拡散法的要素を強めた領域の間に、その中間的な領域である遷移領域を設けて、段階的にディザ法的要素と誤差拡散法的要素とを遷移させてハーフトーン処理を行うことができ、閾値増減パラメータth_addを切り替えた境界付近が印刷画像上で視認され得るのを抑制することができる。
【0070】
さらに、上記の遷移領域のみにかかわらず、複数の遷移領域を設け、さらにディザ法的要素を強めた領域から誤差拡散法的要素を強めた領域へ連続的に遷移させることもできる。即ち、距離D=3とした場合の差分調査対象画素や、距離D=4とした場合の差分調査対象画素を用いることで遷移領域を2つ、3つと設定しハーフトーン処理を行うことができる。
【0071】
(B3)変形例3:
上記実施例では、エッジ画素のうち、高濃度側エッジ画素に対して誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行ったが、それに限らず、低濃度側エッジ画素も含めたエッジ画素に対して誤差拡散法的要素を強めたハーフトーン処理を行うとしてもよい。例えば、距離D=1(図5参照)の場合には、差分調査対象画素を(xー1,y)、(x+1,y)、(x,y−1)、(x,y+1)と設定し、
|date[x,y]−date[x−1,y]|>EDGE_TH または
|date[x,y]−date[x+1,y]|>EDGE_TH または
|date[x,y]−date[x,y−1]|>EDGE_TH または
|date[x,y]−date[x,y+1]|>EDGE_TH
ならば、注目画素(x,Y)をエッジ画素と判定することによって実現することができる。そして、このようにして検出したエッジ画素に対して誤差拡散法的要素を強めてハーフトーン処理を行う。このようにしても、低濃度の細線の再現性に優れた印刷処理を行うことができる。
【0072】
(B4)変形例4:
上記実施例および変形例では、エッジ画素を検出する手段として注目画素と差分調査対象画素との階調の差分値の大きさを算出することによって検出したが、それに限ることなく、例えば印刷処理の対象となるデータがベクトルデータやテキストデータである場合には、文字や線画となる画素は自明であるので、入力されたデータに対して、文字や線画の領域の画素にフラグを付ける処理をすることで、輪郭を形成する画素、即ちエッジ画素を容易に検出することができる。このようにしてエッジ画素の検出をすることで、処理をさらに高速化することができる。
【0073】
(B5)変形例5:
上述した実施形態のハーフトーン処理においては、注目画素データDnの階調値を各種閾値と比較して、仮ディザ処理や誤差拡散法によるドットのON/OFF判断を行う構成としたが、注目画素データDnの階調値を、所定の変換ルールに基づいて記録率に変換し、その記録率の階調値と各種閾値とを比較する構成であってもよい。記録率とは、任意の領域内の画素にドットを記録する割合をいう。例えば、プリンター20が、大ドットや小ドットなど、複数のサイズのドットで画像を形成する場合には、注目画素データDnの階調値に基づいて、ドットサイズごとに算出された記録率の階調値と、各種閾値とを比較してもよい。
【0074】
(B6)変形例6:
上述した実施形態においては、プリンター20において、図2に示した印刷処理の全てを実行する構成としたが、プリンターとコンピューターとが接続された印刷システム(広義の印刷装置)において印刷処理を行う場合には、印刷処理やハーフトーン処理の全部または一部が、コンピューターとプリンターのうちのいずれで行われてもよい。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、上述の実施形態に示したシリアル方式のインクジェット式プリンターに限らず、インクジェット式のラインプリンター、レーザー式プリンターなど、種々の方式の印刷装置に適用可能である。また、本発明は、印刷装置としての構成のほか、印刷方法、プログラム、記憶媒体等としても実現することができる。
【符号の説明】
【0076】
20…プリンター
30…制御ユニット
40…CPU
41…入力部
42…ハーフトーン処理部
43…領域判定処理部
44…比較部
45…誤差拡散部
46…印刷部
52…RAM
61…ディザマスク
70…キャリッジモーター
71…駆動ベルト
72…プーリ
73…摺動軸
74…モーター
75…プラテン
80…キャリッジ
82…インクカートリッジ
90…印刷ヘッド
98…メモリーカードスロット
99…操作パネル
P…印刷媒体
n…座標データ
th_add…閾値増減パラメータ
D…距離
EDGE_TH…エッジ判定閾値
THn_d…閾値
THe_H…高位閾値
THe_L…低位閾値
EDTH…基準誤差拡散閾値
Edn…拡散誤差
MC…メモリーカード
Dn…注目画素データ
ORG…画像データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素毎の階調値により画像を表す画像データを処理する画像処理装置であって、
前記画像データを入力する画像データ入力部と、
前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を、判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成する処理を行うドットデータ生成部と、
前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整する判定値調整部と、
前記生成されたドットデータを出力するドットデータ出力部と
を備え、
前記判定値調整部は、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする
画像処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像処理装置であって、
前記判定値調整部は、前記エッジ画素以外の画素に前記判定値を適用するに際し、前記エッジ画素からの距離が遠くなるにつれて前記判定値の前記調整の幅を複数の段階に分けて大きくする
画像処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の画像処理装置であって、
前記判定値調整部は、近接画素との階調値の差が所定以上である画素のうち、高階調側の画素または低階調側の画素のいずれか一方の画素を前記エッジ画素と判定する
画像処理装置。
【請求項4】
前記ディザマスクは、ブルーノイズ特性を有する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記エッジ画素における前記判定値の前記調整の幅が0である請求項1ないし請求項4のいずれか記載の画像処理装置。
【請求項6】
画素毎の階調値により画像を表す画像データを印刷する印刷装置であって、
前記画像データを入力する画像データ入力部と、
前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成するドットデータ生成部と、
前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整する判定値調整部と、
前記生成されたドットデータを用いて、前記画像の印刷を行う印刷部と
を備え、
前記判定値調整部は、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする
印刷装置。
【請求項7】
画素毎の階調値により画像を表す画像データを処理する画像処理方法であって、
前記画像データを入力する画像データ入力工程と、
前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を、判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成する処理を行うドットデータ生成工程と、
前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整する判定値調整工程と、
前記生成されたドットデータを出力するドットデータ出力工程と
を備え、
前記判定値調整工程において、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする
画像処理方法。
【請求項8】
画素毎の階調値により画像を表す画像データを処理するための画像処理プログラムであって、
前記画像データを入力する機能と、
前記画像データに含まれる各画素の階調値を近傍の処理済画素からの拡散誤差で補正した補正階調値を、判定値と比較し、該比較によってドットの形成の有無を判定する際に該ドット形成の有無により生じる階調値との誤差を拡散する誤差拡散法を適用して、前記ドット形成の有無を表すドットデータを生成する処理を行う機能と、
前記補正階調値と前記判定値との比較に先立って、予め用意されたディザマスクの閾値と前記画素の階調値とを比較して、前記画素の階調値が前記閾値を上回る場合に適用する前記判定値が、前記画素の階調値が前記閾値以下の場合に適用する前記判定値を上回らないように所定の幅で前記判定値を調整するとともに、前記画素が、近接する画素との階調値の差が所定以上であるエッジ画素の場合に、前記ドット形成の判定に用いられる前記判定値の前記調整の幅を前記エッジ画素以外の画素と比較して小さくする機能と
をコンピューターに実現させるための画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−204967(P2012−204967A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66007(P2011−66007)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】