説明

画像処理装置、画像処理方法及びプログラム

【課題】簡易な設備によって、例えば文化財の金箔領域等の所定の色領域を高精度に抽出する。
【解決手段】可視光光源撮影画像データ格納部407及び有色光源撮影画像データ格納部409は、可視光光源によって撮影された第1の画像データと、所定の単波長の有色光源によって撮影された第2の画像データとを格納する。代表色領域抽出部411は、第1の画像データから、第1の色の領域を抽出する。画像抽出部412は、代表色領域抽出部411により抽出された第1の色の領域に対応する領域を第2の画像データから抽出し、抽出した第2の画像データの領域に属する画素の色に基づいて、第2の画像データの領域から第2の色の領域を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば文化財から金箔領域を高精度に抽出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、貴重な文化財を公開する活動と、将来にわたって保護、保存することとを両立するために、文化財の複製を作成することが広まっている。複製作成の一例として、文化財が障壁画や屏風といった日本画であれば、文化財を破損することなく画像を取得するため、デジタルカメラを用いて撮影を行い、撮影した画像を実物大で出力するという工程が主流である。
【0003】
文化財には、金箔を施した絵画等が多くあるが、一般的なインク色材を使用した出力では、金箔のリアルな再現は困難である。そこで、金箔以外の画像部分を出力した後、金箔部分は別途工芸師によって金箔の加工を行う場合がある。そのため、高精度な複製を作成するためには、被写体を撮影した画像において、金箔部分を高精度に抽出し、印刷領域と分離する必要がある。また、金箔を加工する工芸師に対して、金箔を載せる領域を正確に伝達する必要が生じている。
【0004】
特許文献1には、被写体における金属部分を撮影された画像から抽出するための技術が開示されている。即ち、特許文献1に開示される技術は、検査対象に対して、斜め方向から第1の光(白色光)で撮影を行った後、垂直方向から第1の光よりも長波長の光(赤外線)で撮影を行い、2つの画像から特定の色(金)領域を抽出する検査方法である。
【0005】
特許文献2には、反射光による読み取り画像と乱反射を増加させた状態での読み取り画像とを比較して色成分の差分を取得し、色成分の差分と所定の閾値とを用いて、画像に金属色が含まれているかを判定する技術が開示されている。即ち、特許文献2に開示される技術は、透明で光を乱反射させるシートを原稿に重ねてスキャナで読み取ることにより、乱反射を強調した画像を取得する。そして、通常の読み取り画像と明度が強調された画像とを比較し、光沢感情報を参照して金属色かどうかの判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−172711号公報
【特許文献2】特許第4024737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般的なデジタルカメラには、赤外線カットフィルタが装着されている。従って、特許文献1に開示される技術において、可視光外である赤外線を使用する撮影のためには、特殊仕様のデジタルカメラ又はイメージセンサを使用して赤外線撮影を行う必要がある。また、特許文献1に開示される技術は、赤外線光源の用意や、赤外線を含む可視光から可視光領域を遮断し、赤外線のみを透過させる特殊フィルタの用意等が必要となる。さらに、特許文献1に開示される技術は、2方向からの照明光源の設置が必要となる。
【0008】
特許文献2に開示される技術は、光沢感による金属色の抽出を行っているため、擬似的な金箔(例:金属箔にカラーフィルムを蒸着させたもの。印刷の箔押、金色の折紙に使用される)や他の金属部と本物の金箔とを区別することができない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、簡易な設備によって、例えば文化財の金箔領域等の所定の色領域を高精度に抽出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の画像処理装置は、可視光光源によって撮影された第1の画像データと、所定の単波長の有色光源によって撮影された第2の画像データとを入力する入力手段と、前記第1の画像データから、第1の色の領域を抽出する第1の抽出手段と、前記第1の抽出手段により抽出された前記第1の色の領域に対応する領域を、前記第2の画像データから抽出する第2の抽出手段と、前記第2の抽出手段により抽出された前記第2の画像データの領域に属する画素の色に基づいて、前記第2の画像データの領域から第2の色の領域を抽出する第3の抽出手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な設備によって、例えば文化財の金箔領域等の所定の色領域を高精度に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る画像処理装置のハードウェア構成を示す図である。
【図2】金箔に使用される金の分光反射率と黄色色材の分光反射率との一例を示す図である。
【図3】青色光源の分光分布の一例を示す図である。
【図4】画像処理部の機能的な構成を示す図である。
【図5】金箔領域に対する色補正処理及び出力対象とする画像領域をユーザが選択するためのU/I(ユーザインタフェース)の一例を示す図である。
【図6】画像補正部による色補正処理を選択するための色補正処理選択U/Iの一例を示す図である。
【図7】実施形態における画像処理の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した好適な実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
先ず、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係る画像処理装置のハードウェア構成を示す図である。図1において、CPU101は、ROM102に記憶されている制御プログラム、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム、デバイスドライバ等に従って、RAM103、操作部104、画像処理部105、モニタ106、入力デバイス107、出力デバイス108の各種制御を行う。入力デバイス107は、画像データを入力するデバイスであり、CCDセンサを含むデジタルカメラ等の画像取得装置が例として挙げられる。出力デバイス108は、画像データを出力するデバイスであり、インクジェットプリンタ、熱転写プリンタ、ドットプリンタ等が例として挙げられる。RAM103は、各種制御プログラムや操作部104から入力されるデータの作業領域及び一時待避領域である。104は操作部であり、ユーザの操作に応じて、入力デバイス107の設定やデータの入力を行う。画像処理部105は、画像領域の抽出処理や画像データの色補正処理等の画像処理を行う。モニタ106は、画像処理部105の処理結果や操作部104で入力されたデータ等を表示する。
【0015】
次に、本実施形態における画像データの撮影処理と金箔領域の抽出処理とについて説明する。入力デバイス107は、文化財等の被写体を撮影するにあたり、被写体の色情報を取得するために可視光光源を用いて被写体を撮影するとともに、被写体の金箔領域を抽出するために有色光源を用いて被写体を撮影する。
【0016】
図2は、金箔に使用される金の分光反射率と黄色色材の分光反射率との一例を示す図である。図2において、実線201は金箔に使用される金の分光反射率(分光反射特性)の一例を示しており、点線202は金箔の表色に近似する色である黄色色材の分光反射率(分光反射特性)の一例を示している。
【0017】
図2に示すように、どちらの色も500nm以上の波長域では分光反射率が大きくなるため、黄色の色に見える。しかし、450nm付近から480nm付近の波長域では、金と黄色色材とでは反射率が異なり、黄色色材では反射成分がほとんどないが、金は反射成分を持っている。従って、図3に示すように、450nm付近から480nm付近の波長域にピークを持つ単波長の青色光源を用いて撮影を行うことで、撮影された画像データ上において黄色色材と金箔領域との色再現に違いが発生する。つまり、可視光下での金と黄色色材との表色は、おおよそ500nm以上の波長域で反射成分の値が同じように大きくなるため、金と黄色色材との表色にほとんど差分がない。従って、可視光下での金と黄色色材との色度の差分は小さく、可視光光源で撮影された画像データにおける色信号、色度又は明度に基づいて、金箔と黄色色材との領域を判別することは困難である。一方で、450nm付近から480nm付近の波長域にピークを持つ単波長の青色光源下での金と黄色色材との表色については、450nm付近から480nm付近の波長域において、金には青色光の反射成分が生じ、黄色色材には反射成分がほとんどないといえる。即ち、青色光源によって撮影された画像データでは、黄色色材は全波長域での反射成分がないためにほぼ暗黒色に写り、金は青色光の反射成分があるために青く写る。
【0018】
青色光源下では、金や黄色色材以外の色についても青色に撮影されるため、可視光光源によって撮影された画像データを参照して金や黄色色材の表色に相当する画像領域を抽出しておく必要がある。そして、画像処理部105は、抽出した画像領域に対応する、青色光源によって撮影された画像データの領域に対して、金箔領域の判定を行う。また、画像処理部105は、撮影光源の照度、図2に示す金と黄色色材との分光反射率、図3に示す青色光源の分光分布、デジタルカメラのCCD特性や露光設定といった各種条件から、青色光源によって撮影された画像データ上における金と黄色色材との表色の差分を算出する。そして、画像処理部105は、算出した表色の差分に基づいて閾値を決定する。閾値は、青色光源によって撮影された画像データにおける色信号、色度又は明度の値について設定されるものとする。
【0019】
ここで、全波長にわたる可視光を用いて撮影を行ったRGB信号の画像データにおいて、B信号のみを参照することによって、青色光源によって撮影された結果と同様の結果が得られると考えられる。しかし実際には、デジタルカメラにおいては、RGBフィルタにより取得された信号に線形マトリクス演算を行うことにより、RGB信号に変換している。そのため、B信号は、可視光撮影によって約450nm以上の波長域において、Gフィルタの信号とRフィルタの信号との影響を少なからず受けてしまうことになる。従って、単波長の青色信号を用いた撮影結果よりも精度は劣化してしまう。よって、本実施形態では、図2に示す金と黄色色材との分光反射率に基づいて、図3に示すような450nm付近から480nm付近の波長域にピークを持つ分光分布を持つ青色光源を用いて撮影を行うこととする。
【0020】
なお、青色光源は、可視光光源とは別に用意する光源であってもよく、可視光光源に所定の波長を再現するカラーフィルタを設置することでも実現できる。或いは、撮像装置であるデジタルカメラのレンズに450nmから480nmの波長域にピークを持って透過させるカラーフィルタを設置し、可視光光源による撮影を行うことで、青色光源による撮影の代替としても何ら問題はない。
【0021】
図4は、画像処理部105の機能的な構成を示す図である。図4において、401は、入力デバイス107から入力された画像データから金箔領域を抽出する画像領域判定抽出処理部である。入力デバイス107によって可視光光源で撮影され、取得された画像データ(以下、可視光光源撮影画像データと称す)は、端子402を通じて可視光光源撮影画像データ格納部407に格納される。入力デバイス107によって青色光源で撮影され、取得された画像データ(以下、有色光源撮影画像データと称す)は、端子404を通じて有色光源撮影画像データ格納部409に格納される。代表色指定格納部408には、可視光光源撮影画像データにおける金箔表色の近辺色(以下、代表色と称す)の色情報が格納されている。なお、可視光光源撮影画像データは第1の画像データ、有色光源撮影画像データは第2の画像データの適用例である。また、代表色は第1の色、金箔表色は第2の色の適用例である。
【0022】
代表色領域抽出部411は、代表色指定格納部408から代表色の色情報を取得し、当該色情報に従って、可視光光源撮影画像データにおける代表色領域を抽出する。画像抽出部412は、抽出された代表色領域と、有色光源撮影画像データ格納部409に格納される有色光源撮影画像データとを比較し、有色光源撮影画像データから代表色領域を抽出する。代表色領域抽出部411は第1の抽出手段の適用例である。
【0023】
ここで、図2に示す金の分光反射率及び図3に示す青色光源の分光分布から、青色光源で被写体を照射すると、金箔以外の領域が暗黒色に撮影される。従って、有色光源撮影画像データの代表色領域において或る閾値以上の明度又は色度を持つ画素は、金箔領域であると判定することができる。抽出条件データ格納部410には、上記のように金箔領域を判定するための抽出条件データとして、明度又は色度の閾値等が格納されている。
【0024】
画像抽出部412は、抽出条件データ格納部410から抽出条件データを取得し、代表色領域に対応する有色光源撮影画像データの各画素の明度又は色度と、抽出条件データとを比較し、金箔領域であるかどうかを判定する。画像抽出部412は、その判定結果に従って、有色光源撮影画像データにおける金箔領域を抽出する。ここで、有色光源撮影画像データの判定において、撮影は通常のデジタルカメラを用いるため、有色光源撮影画像データはRGBの3信号の画像データである。しかし、撮影された画像データにおけるB信号のみを参照して有色光源撮影画像データの金箔領域を判定してもよい。むしろ、青色光源を使用する場合には、B信号を参照して判定することにより、青色波長域の反射成分について更に高精度な判定を実現することができる。
【0025】
図4において、418は画像補正出力部である。画像補正出力部418は、抽出された金箔領域に対してユーザが指定する色補正を行った後、画像データを出力する。画像補正データ格納部413は、ユーザによって選択された出力時の再現効果を金箔領域に施すための色補正処理データを格納している。本実施形態では、出力時の再現効果として、金箔領域を白色に置換する白抜き処理を行うものとする。
【0026】
画像補正部414は、可視光光源撮影画像データにおける金箔領域に対応する領域に対してマスキングを行う。さらに画像補正部414は、マスキングした領域(以下、マスキング領域と称す)に対して、画像補正データ格納部413に格納される色補正処理データを用いて色補正処理を行う。画像合成部415は、色補正処理が施されたマスキング領域と、可視光光源撮影画像データにおけるマスキング領域以外の画像領域とを合成する。画像出力部416は、画像合成部415によって生成された合成画像データを端子417から出力する。端子417から出力された合成画像データは、出力デバイス108によって出力される。なお、可視光光源撮影画像データにおけるマスキング領域以外の画像領域については、複製を目的とする出力時の再現効果として最適な色補正処理が行われる。このような色補正処理の一例には、観察環境の光源色において忠実に再現する環境光対応色補正処理がある。
【0027】
図5は、金箔領域に対する色補正処理及び出力対象とする画像領域をユーザが選択するためのU/I(ユーザインタフェース)の一例を示す図である。図5に示すU/I501は、本実施形態における画像処理の各工程で生成される画像データをそれぞれ表示する表示部502〜505を備える。可視光撮影画像表示部502は、可視光光源撮影画像データ格納部407に格納される、代表色領域513を含む可視光光源撮影画像データを表示する。金箔領域表示部503は、画像抽出部412によって抽出された金箔領域514を表示する。画像処理結果表示部504は、金箔領域514に対する画像補正部414による色補正結果515を表示する。合成画像表示部505は、画像補正部414による色補正結果515と可視光光源撮影画像データとの合成結果を表示する。
【0028】
また、U/I501における色補正処理選択ボタン506が操作されると、図6に示す、画像補正部414による色補正処理を選択するための色補正処理選択U/I601が表示される。ユーザは、色補正処理選択U/I601において、金箔領域514に対する色補正処理の種類を選択する。色補正処理の種類の選択方法としては、予め登録された複数の色補正処理からユーザが選択する方法等がある。
【0029】
図6に示す色補正処理選択U/I601においては、金箔領域514を白色に置換する白抜き処理を選択するためのボタン602や、金箔領域514における色度を任意の濃淡レベルに補正する濃淡変換処理を選択するためのボタン603がある。濃淡変換処理が選択された場合には、ユーザが濃淡レベル調整バー605上のポインタ606、607を操作することにより、金箔領域514における濃度の最大値及び最小値を任意の値に設定することができる。
【0030】
また、色補正処理選択U/I601においては、ユーザがプログラムボタン604を操作することにより、市販の画像補正アプリケーションを起動させることができる。ユーザは、起動した画像補正アプリケーション上において、金箔領域514の画像データに対して所望の色補正を行うことができる。画像補正アプリケーションで色補正された金箔領域514の画像データは、画像補正データ格納部413に格納される。画像補正部414は、画像補正データ格納部413に格納された色補正後の金箔領域514の画像データを、金箔領域514の色補正処理に適用する。
【0031】
このように、市販の画像補正アプリケーションを用いることにより、色補正処理選択U/I601に登録されている機能による色補正だけでなく、複数の色補正を組み合わせた色補正処理を行うことも可能になる。OKボタン608の操作により、ユーザによって選択された色補正処理が反映され、色補正処理選択U/I601が閉じられる。
【0032】
また、U/I501おいては、各工程において作成される画像データを参照して、画像出力部416によって出力される画像データの種類を選択することができる。例えば、金箔処理を行う工芸師に対して、金箔を貼る位置や形状を正確に示すために、金箔領域のみを強調した画像データを出力する場合がある。このような場合、ユーザは、色補正処理後の金箔領域のみを出力するための画像処理結果出力ボタン507を選択し、印刷ボタン512を操作する。これにより、出力デバイス108から金箔領域のみが出力される。同様に、ユーザが合成画像出力ボタン508を選択することにより、出力デバイス108から複製を作成するための合成画像データが出力される。またユーザは、プルダウンボタン509を操作することにより、出力デバイス108を選択することができる。また、出力デバイス108のプロファイル格納場所を参照するための参照ボタン511と、出力プロファイル設定部510とによって、出力デバイス108における出力プロファイルを設定することができる。なお、出力対象となる画像データの種類は、上記に限らず、処理工程中に生成される全ての画像データ、例えば有色光源撮影画像データ、代表色領域等についても選択することが可能である。
【0033】
出力された金箔領域については、後工程において、工芸師によって金箔を貼り付けられることにより、実際の金箔再現が行われる。その際に、本実施形態の色補正処理によって金箔領域の区別ができるようになっているため、工芸師は金箔を施す正確な領域を確認することができる。
【0034】
図7は、本実施形態における画像処理の工程を示すフローチャートである。ステップS701において、可視光光源撮影画像データ格納部407は、被写体となる金箔処理された文化財(絵画)に対する可視光光源を用いた撮影により生成された可視光光源撮影画像データを格納する。ステップS702において、有色光源撮影画像データ格納部409は、上記被写体に対する青色光源を用いた撮影により生成された有色光源撮影画像データを格納する。ステップS703において、代表色領域抽出部411は、可視光光源撮影画像データから、指定された金箔の再現色の近辺色の領域(代表色領域)を抽出することにより、金箔領域を抽出する対象領域を抽出する。金箔の再現色の指定には、予め撮影光と対応した再現色を代表色として設定しておき、これを参照する、又は、モニタ上に表示される画像からユーザが任意に指定する色を代表色として設定するのでもよい。また、代表色は1色に限定せず、範囲をもった色であってもよい。
【0035】
ステップS704において、画像抽出部412は、ステップS503において抽出された代表色領域に対応する、有色光源撮影画像データの代表色領域を抽出する。なお、可視光光源撮影画像データと有色光源撮影画像データとの代表色領域の対応付けに際して、それら2つの画像データ間における画素の位置合わせや、当該2つの画像データ間の位置ずれによって発生した画素の欠落箇所に対する補間処理等が行われる。
【0036】
ステップS705において、画像抽出部412は、有色光源撮影画像データの代表色領域の各画素における少なくとも色信号、色度又は明度に対して閾値を用いた判定を行うことにより、有色光源撮影画像データから金箔領域を抽出する。なお、画像抽出部412は、可視光光源撮影画像データの代表色領域における画素の明度又は色度と、青色光源撮影画像データの代表色領域における画素の明度又は色度との差を算出し、その差と閾値とを比較することによって、金箔領域を抽出するようにしてもよい。また、ステップS704は第2の抽出手段、ステップS705は第3の抽出手段の処理例である。
【0037】
ステップS706において、画像補正部414は、画像補正データ格納部413に格納される色補正処理データを用いて、金箔領域に対する色補正処理を行う。ステップS707において、画像合成部415は、色補正処理後の金箔領域の画像データと金箔領域以外の可視光光源撮影画像データとを合成する。ステップS708において、画像出力部416は、ステップS707において生成された合成画像データを出力する。
【0038】
以上のように、本実施形態においては、金箔が貼られた文化財の複製作成において、可視光光源によって撮影された画像データと青色光源によって撮影された撮影データとを比較し、金箔領域を高精度に抽出することができる。即ち、本実施形態によれば、センサ部に赤外線撮影のための特殊フィルタを装備するような特別仕様の撮影機材を必要とせず、可視光光源と青色光源と通常のデジタルカメラ等という簡易な設備によって、文化財から金箔領域を高精度に抽出することができる。さらに、本実施形態では、2方向からの照明光源の設置も必要としない。
【0039】
また、本実施形態においては、抽出された金箔領域に対してユーザが指定する画像補正処理を施すことにより、後工程で金箔を施す際に対象領域を正確に確認することが可能となり、精度の高い複製画像を作成することができる。
【0040】
次に、第2の実施形態について説明する。以下では、第1の実施形態との相違点についてのみ説明を行うものとする。第1の実施形態においては、抽出された金箔領域を、金箔加工を施す対象領域として扱っている。これに対し、第2の実施形態では、特殊インク(金インク)を用いた特色印刷が可能な出力デバイスを使用して金箔領域を再現するものである。
【0041】
本実施形態に係る画像処理装置の画像処理部105は、文化財における金箔領域の画像データに対して階調補正処理や色補正処理を行い、特殊インク印刷用の版を生成する。また、画像処理部105は、金箔領域以外の領域の画像データに基づいて、通常インク印刷用の版も生成する。出力デバイス108は、通常インク印刷用の版により金箔領域以外の領域を通常インクで出力するとともに、特殊インク印刷用の版により金箔領域を特殊インクで出力する。以上のように、本実施形態においては、特殊印刷を利用した高精度な文化財の複製作成を実現することができる。
【0042】
ところで、金箔とよく似た光沢感と表色とをもつ擬似的な金箔がある。これは、金属箔にカラーフィルムを蒸着させたものであり、印刷の箔押、金色の折紙に使用されている。擬似的な金箔は、金属箔部分で反射した光が黄色のカラーフィルムを透過することにより、金色に見えている。しかし、黄色のカラーフィルムの分光分布特性は、図3に示す黄色色材の分光反射率を示す点線302の反射特性と同じ形状を持つ。従って、450nm付近から480nm付近の波長域において、擬似的な金箔では分光反射成分がほとんどない。このことから、第1、第2の実施形態において金箔領域として抽出された領域は、本物の金によって加工された領域であると判定することができる。以上のように、第1、第2の実施形態によれば、文化財の複製を作成するにあたって、金箔を加工する対象領域を正確に抽出することができる。
【0043】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光光源によって撮影された第1の画像データと、所定の単波長の有色光源によって撮影された第2の画像データとを入力する入力手段と、
前記第1の画像データから、第1の色の領域を抽出する第1の抽出手段と、
前記第1の抽出手段により抽出された前記第1の色の領域に対応する領域を、前記第2の画像データから抽出する第2の抽出手段と、
前記第2の抽出手段により抽出された前記第2の画像データの領域に属する画素の色に基づいて、前記第2の画像データの領域から第2の色の領域を抽出する第3の抽出手段とを有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記第3の抽出手段により抽出された前記第2の色の領域に対して色補正処理を行う補正手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記色補正処理をユーザに選択させるための選択手段を更に有することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記第2の色の領域を所定の色に変換することを特徴とする請求項2又は3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記補正手段は、前記第2の色の領域の色の濃淡を変換することを特徴とする請求項2又は3に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第1の色は、前記第2の色の近辺色であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記第3の抽出手段は、前記第2の画像データの領域に属する画素の明度又は色度と、所定の閾値とを比較することにより、前記第2の画像データの領域から前記第2の色の領域を抽出することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記第3の抽出手段は、前記第1の画像データにおける前記第1の色の領域に属する画素の明度又は色度と、前記第2の画像データの領域に属する画素の明度又は色度との差を算出し、その差と所定の閾値とを比較することにより、前記第2の画像データの領域から前記第2の色の領域を抽出することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記第2の画像データは、前記所定の単波長を透過するフィルタがレンズに設置された撮像装置により撮影された画像データであることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記第1の画像データ、前記第2の画像データ、前記第1の抽出手段により抽出された前記第1の色の領域、前記第3の抽出手段により抽出された前記第2の画像データの領域、及び、前記補正手段により色補正処理が施された前記第2の色の領域のうちの少なくとも何れか一つの画像データを表示手段に表示させる表示制御手段を更に有することを特徴とする請求項2乃至9の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記表示制御手段は、前記第1の画像データ、前記第2の画像データ、前記第1の抽出手段により抽出された前記第1の色の領域、前記第3の抽出手段により抽出された前記第2の画像データの領域、及び、前記補正手段により色補正処理が施された前記第2の色の領域のうちからユーザによって選択された画像データを前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記第2の画像データの領域に基づいて、特殊インク印刷用の版を生成する生成手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記所定の単波長は、所定の金属の分光反射特性と前記所定の金属の表色である前記第2の色に近似する前記第1の色の色材の分光反射特性とに基づいて決定されることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項14】
画像処理装置によって実行される画像処理方法であって、
可視光光源によって撮影された第1の画像データと、所定の単波長の有色光源によって撮影された第2の画像データとを入力する入力ステップと、
前記第1の画像データから、第1の色の領域を抽出する第1の抽出ステップと、
前記第1の抽出ステップにより抽出された前記第1の色の領域に対応する領域を、前記第2の画像データから抽出する第2の抽出ステップと、
前記第2の抽出ステップにより抽出された前記第2の画像データの領域に属する画素の色に基づいて、前記第2の画像データの領域から第2の色の領域を抽出する第3の抽出ステップとを有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項15】
可視光光源によって撮影された第1の画像データと、所定の単波長の有色光源によって撮影された第2の画像データとを入力する入力ステップと、
前記第1の画像データから、第1の色の領域を抽出する第1の抽出ステップと、
前記第1の抽出ステップにより抽出された前記第1の色の領域に対応する領域を、前記第2の画像データから抽出する第2の抽出ステップと、
前記第2の抽出ステップにより抽出された前記第2の画像データの領域に属する画素の色に基づいて、前記第2の画像データの領域から第2の色の領域を抽出する第3の抽出ステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−165271(P2012−165271A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25296(P2011−25296)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】