説明

画像処理装置及びその方法並びに画像処理プログラム

【課題】照明変動に頑健であり、かつ、背景変動に対しても頑健な変化領域検出を行うこと。
【解決手段】画像処理装置の参照画素探索部101は、学習画像中の注目画素から複数方向に学習参照画素を探索し、参照画素符号算出部102は、特徴量比較値から学習参照画素符号を算出し、参照画素統計量算出部103は、複数の学習画像から得られる学習参照画素の参照画素統計量を事象毎に算出し、入力画素符号算出部105は、入力画像中の注目画素と、入力画像中で前記探索方向に存在する入力参照画素との特徴量比較値から入力画素符号を算出し、事象判定部106は、入力画素符号と参照画素統計量との比較に基づいて、入力画像の注目画素における事象の発生を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習画像と入力画像を比較して、変動などの事象が発生している領域を検出する画像処理装置及びその方法並びに画像処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、変動などの事象が発生している領域(以下「変化領域」という。)を検出する技術としては、以下のようなものが挙げられる。
【0003】
第1には、学習された平均背景画像と入力画像との輝度差に基づいて、変化領域を検出する背景差分手法に対して、学習背景を確率化することによって木の揺れなどの背景変動に対して頑健にした確率的背景差分方法がある(特許文献1参照)。
【0004】
第2には、周辺画素との輝度差の大小関係によって符号化を行い、その符号の変化を見ることで照明変動に頑健にした増分符号相関法に対して、学習増分符号を確率化することによって背景変動に対して頑健にした確率的増分符号相関法がある(特許文献2参照)。
【0005】
第3には、注目画素との輝度差が一定以上ある参照画素を放射状に8方向に探索し、その輝度差の正負が入力画像でも保存されているかに基づいて変化領域を検出することによって、テクスチャの少ない領域にも対応できるようにしたRRC法(非特許文献1参照)、BPRRC法(周辺増分符号相関法、非特許文献2参照)及びその参照画素の位置を複数の背景画像から安定に決定する方法(非特許文献3参照)がある。
【特許文献1】特許第3486229号公報
【特許文献2】特許第4012200号公報
【非特許文献1】佐藤雄隆,金子俊一,丹羽義典,山本和彦.Radial reach filter(rrf)によるロバストな物体検出.電子情報通信学会論文誌,Vol. J86-D-II, No. 5, pp. 616-624, May 2003.
【非特許文献2】佐藤雄隆,坂上勝彦.Bi-polar reach correlationによるロバスト背景差分.信学技報 PRMU2004-224, PP. 73-78, March 2005.
【非特許文献3】岩田健司,佐藤雄隆,坂上勝彦.確率的背景推定を導入した増分符号相関に基づく背景差分.動的画像処理実利用化ワークショップ2008(DIA2008), 01-3, PP. 13-16, March 2008.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に監視用途などでは雲によるかげりなどで生じる照明変動は変化として検出したくないことが多いが、特許文献1の確率的背景差分方法は照明変動を変化として検出してしまうため、照明変動に対して不安定だという問題点がある。
【0007】
特許文献2の確率的増分符号相関法は、照明変動に対して頑健だが、テクスチャの少ない領域で誤検出が発生しやすいという問題点がある。
【0008】
非特許文献1〜3のRRC/BPRRC法は、テクスチャの少ない領域でも誤検出が発生しにくいが、背景に木の揺れなどの変動がある場合にそれを変化として検出してしまうため、木の揺れなどの定常的な変動を変化として検出したくない場合には背景変動に対して不安定だという問題点がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みて、照明変動に頑健であり、かつ、背景変動に対しても頑健な変化領域検出を行うことができる画像処理装置及びその方法並びに画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の学習画像のそれぞれの中の一つの注目画素を中心として複数の画素を探索するものであって、前記注目画素の特徴量と前記画素の特徴量とを比較した値である特徴量比較値が予め設定された範囲に属する前記画素を、学習参照画素として選択する参照画素探索部と、前記各学習参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して学習参照画素符号を算出する学習参照画素符号算出部と、複数の前記学習画像のそれぞれについて、前記各学習画像の前記探索した各学習参照画素に基づいて、任意の事象が与えられたときの、前記注目画素に対する前記学習参照画素の相対位置と前記学習参照画素の前記学習参照画素符号が出現する条件付き確率とを算出し、前記各条件付き確率に基づいて、前記事象と前記相対位置と前記学習参照画素符号とから前記条件付き確率を出力する統計量対応関係を算出する参照画素統計量算出部と、一つの入力画像中であって、前記学習画像の前記注目画素と対応関係にある一つの注目画素を中心として、前記学習画像の前記注目画素の相対位置と同じ相対位置に存在する入力参照画素を検出し、前記入力画像の前記注目画素に対する前記入力参照画素の前記特徴量比較値を算出し、前記各入力参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して入力画素符号を算出する入力画素符号算出部と、前記事象毎に、前記統計量対応関係に基づいて、前記入力参照画素の前記相対位置と前記入力画素符号とから前記事象毎の前記条件付き確率を算出し、前記条件付き確率が閾値以上である前記事象を、前記入力画像の前記注目画素の事象であると判定するか、又は、最も大きい前記条件付き確率の前記事象を、前記入力画像の前記注目画素における事象であると判定する事象判定部と、を有する画像処理装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、照明変動に頑健であり、かつ、背景変動に対しても頑健な変化領域検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態の画像処理装置について図1から図4を参照して説明する。本実施形態の画像処理装置は、例えば、画像監視において侵入者の領域を検出したり、モーションキャプチャ・ジェスチャ認識のために人物の領域を検出したりするために用いられる。
【0013】
図1は、本実施形態の画像処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、画像処理装置は、参照画素探索部101、参照画素符号算出部102、参照画素統計量算出部103、参照画素統計量記憶部104、入力画素符号算出部105、事象判定部106を備える。図1において、矢印は処理の流れを示す。
【0015】
参照画素探索部101は、複数の学習画像のそれぞれの中の一つの注目画素を中心として複数方向に学習参照画素を探索する。ここで、「学習参照画素」とは、注目画素の特徴量とその画素の特徴量とを比較した値である特徴量比較値が予め設定された範囲に属する画素をいう。
【0016】
参照画素符号算出部102は、各学習参照画素に対応する特徴量比較値を符号化して学習参照画素符号を算出する。
【0017】
参照画素統計量算出部103は、複数の学習画像のそれぞれについて、各学習画像の探索した各学習参照画素に基づいて、任意の事象が与えられたときの、注目画素に対する学習参照画素の相対位置と学習参照画素の学習参照画素符号が出現する条件付き確率とを算出する。そして、参照画素統計量算出部103は、各条件付き確率に基づいて、上記の事象と相対位置と学習参照画素符号とに基づいて、条件付き確率を出力する統計量対応関係を算出する。複数の学習画像から得られる学習参照画素の参照画素統計量を事象毎に算出する。参照画素統計量記憶部104は、その参照画素統計量を記憶する。
【0018】
入力画素符号算出部105は、一つの入力画像中であって、学習画像の注目画素と対応関係にある一つの注目画素を中心として、学習画像の注目画素の相対位置と同じ相対位置に存在する入力参照画素を検出し、入力画像の注目画素に対する入力参照画素の特徴量比較値を算出する。そして、入力画素符号算出部105は、各入力参照画素に対応する特徴量比較値を符号化して入力画素符号を算出する。
【0019】
事象判定部106は、事象毎に、統計量対応関係に基づいて、入力参照画素の相対位置と入力画素符号とから事象毎の条件付き確率を算出し、条件付き確率が閾値以上である事象を、入力画像の注目画素の事象であると判定するか、又は、最も大きい条件付き確率の事象を、入力画像の注目画素における事象であると判定する。
【0020】
画像処理装置の各部101〜106の機能は、コンピュータ記憶又は伝送されたコンピュータ読み取り可能なプログラムによってコンピュータに実現させることが可能である。
【0021】
本実施形態の画像処理方法は、学習処理と検出処理に分けられる。
【0022】
まず、学習処理について説明する。この学習処理は、複数の学習画像のそれぞれについて行う。
【0023】
参照画素探索部101は、各学習画像の中の一つの画素を注目画素として、その注目画素を中心として複数の探索方向に沿って学習参照画素を探索する。そして、この注目画素として、例えば、学習画像中の全ての画素を順番に割り当てて学習処理を行う。
【0024】
具体的には、図2に示すように、学習画像の注目画素から放射状に伸びる複数の探索方向(図2では8方向)に沿って画素を探索し、注目画素の特徴量と、その探索した画素の特徴量とから、特徴量比較値Dを算出する。その特徴量比較値Dが予め定められた範囲であるような画素を学習参照画素として選択する。なお、探索方向の数は、8方向に限定されず、任意の数に設定されうる。
【0025】
ここで画素の特徴量及びその特徴量比較値Dとしては、画素の輝度値及びその輝度差であってもよいし、画素のカラーRGB値及びその色差値であってもよいし、Sobel・Laplacian・SIFT・フロー方向などの特徴量及びその差であってもよい。
【0026】
そして、それらの特徴量比較値Dが、例えば、閾値TH以上であれば学習参照画素として選択して次の処理に進み、そうでなければ学習参照画素の探索を続ける処理を行う。
【0027】
なお、非特許文献2では、輝度差が閾値T以上である場合と、−T以下である場合とで別々に学習参照画素を探索しており、このように閾値で異なる学習参照画素セットを探索してもよい。
【0028】
また、探索は必ずしも放射状に直線に沿って行う必要はなく、注目画素からrの距離にある画素全てを候補として探索するなどしてもよい。
【0029】
次に、参照画素符号算出部102は、学習参照画素の特徴量比較値Dに基づいて学習参照画素符号cを算出する学習参照画素符号算出部として機能する。
【0030】
これは例えば、次の方法から一つの方法を行う。
【0031】
第1の方法は、学習参照画素としてある画素が選択された場合に、その学習参照画素の学習参照画素符号cを1とする。
【0032】
第2の方法は、特徴量比較値Dが閾値TH以上であれば学習参照画素符号cを1とし、そうでなければ学習参照画素符号cを0とする。
【0033】
第3は、特徴量比較値Dが閾値TH未満であれば学習参照画素符号cを−1とし、特徴量比較値DがTH以上TH未満であればcを0とし、特徴量比較値DがTH以上であればcを1とするという多値の出力を行う。
【0034】
第4は、学習参照画素符号cを特徴量比較値Dとする。
【0035】
次に、参照画素統計量算出部103は、得られた学習参照画素について位置や学習参照画素符号などに関する参照画素統計量を算出し、その参照画素統計量を学習参照画素統計量記憶部104に記憶する。
【0036】
ここで、「参照画素統計量」は、以下のような条件付き確率を用いて算出することができる。
【0037】
学習画像中の注目画素の位置をp、探索方向をd、注目画素から学習参照画素までの距離(以下「リーチ」という。)をr、学習参照画素符号をc、画素の属する事象(変化のあり/なし)をθとする。なお、学習画像中の注目画素の位置pは、学習画像中の画素位置であるため、p(x、y)で表現でき、xは縦方向の画面上の位置、yは横方向の画面上の位置を示す。
【0038】
事象θについて、注目画素の位置p、探索方向dにおいて、リーチrで学習参照画素符号cとなる条件付き確率Pp,d(r,c|θj)は、以下の式(1)のように定義できる。
【数1】

【0039】
ここで、Op,d(r,c|θj)は、事象θjにおいてリーチrで学習参照画素符号cとなる条件付き事象の発生を示し、Count{O}は、イベントOの発生回数を示す。
【0040】
例えば、事象θとして、変化なしθと変化ありθがあったときの条件付き確率は、変化なしの学習画像N枚と変化ありの学習画像N枚から以下の式2のように計算できる。
【数2】

【0041】
以上のようにして、複数の学習画像から参照画素統計量Pp,d(r,c|θ)を学習する。
【0042】
すなわち、学習処理において、任意の事象θが与えられたときの注目画素の位置p、学習参照画素の探索方向d、リーチr、特徴量比較値Dが出現する条件付き確率(参照画素統計量)Pp,d(r,c|θ)を式(1)から求め、これをテーブル化した統計量対応関係を求める。
【0043】
そして、このテーブル化した統計量対応関係を参照画素統計量記憶部104に記憶しておく。
【0044】
従来のRRC/BPRRC法(非特許文献1、非特許文献2参照)では、あるp,dに対して1つ又は輝度差の正負毎に1つずつのr,cを学習し記憶していたが、本実施形態では様々なr,cに対して、条件付き確率として確率的統計量を学習して記憶する。
【0045】
非特許文献1、非特許文献2ではrを1つに固定するため、学習背景に木の揺れや歩行者などの混入があってrが様々に変動する場合にrを決定することが困難であるという問題点がある。
【0046】
また、非特許文献3では、複数の学習画像のうちの多くのもの(例えば90%以上)で同一リーチrとなるものを選択することで安定化しているが、この場合もやはり学習背景に木の揺れや歩行者などの混入があると、rを一意に決定することが困難になる。仮に多数決などでリーチrを一意に決定したとしても、次の検出処理の際に背景変動の影響を受けやすくなるという問題点がある。
【0047】
これに対し本実施形態では、上記各問題点を解決することができる。
【0048】
次に、検出処理について説明する。
【0049】
まず、入力画素符号算出部105は、入力画像中の注目画素の特徴量と、入力画像中で前記探索方向に存在する入力参照画素の特徴量とから求まる特徴量比較値Dから、上記の学習処理と同様に入力画素符号cを算出する。
【0050】
ここで、「入力参照画素」とは、入力画像中の注目画素を中心として探索方向dにおいて、リーチrを選んだときに対応する画素をいう。また、入力画像の注目画素と学習画像の注目画素とは、対応した画像中の位置が同じである。また、入力参照画素と学習参照画素とは、入力画像の注目画素からの探索方向と、学習画像の注目画素からの探索方向が同一である。また、リーチrは、全てのリーチrを含むものとする。
【0051】
そして、事象判定部106は、リーチrと入力画素符号cの情報と、参照画素統計量記憶部104が記憶している統計量対応関係に基づいて、どの事象θに属するかの判定を行う。判定は以下のように行う。
【0052】
ベイズ決定理論により、事象判定の誤り確率を最小化するには、入力画像においてリーチrで入力画素符号cとなったときに、それが事象θjである事後確率Pp,d(θj|r,c)が最大となるθjと判定すればよい。
【0053】
例えば、変化なしθと変化ありθのどちらであるかを判定する場合は、
【数3】

【0054】
であれば変化なしθ、そうでなければ変化ありθとすればよい。
【0055】
式(2)は、
【数4】

【0056】
と書き換えられ、さらにベイズの定理から
【数5】

【0057】
であるので、式(3)は
【数6】

【0058】
となる。Pp,d(θ)とPp,d(θ)は、それぞれ変化なしと変化ありの事象が発生する確率を示しており、学習画像から発生確率を学習するか、又は対象動画像のドメインに基づいて先験的に与えるなどする。その値は、
【数7】

【0059】
となる。
【0060】
ここで、この式(4)の実際の処理方法としては次のように行う。
【0061】
まず、学習処理において、上記したように、変化なしθと変化ありθの事象毎にテーブル化した統計量対応関係が参照画素統計量記憶部104に記憶されている。
【0062】
そして、検出処理において、参照画素統計量記憶部104に記憶した統計量対応関係を用いて、逆に、各事象θ、θのそれぞれについて、入力画像の注目画素の位置p、入力参照画素の探索方向d、リーチr及び特徴量比較値Dから、条件付き確率Pp,d(r,c|θ)とPp,d(r,c|θ)とを算出する。そして、式(4)にこれら値を代入して、式(4)が成立すれば変化なしθと判定できる。
【0063】
しかし、監視画像で変化ありθの事例を収集するのが困難で、Pp,d(r,c|θ)の学習ができない場合は、Pp,d(r,c|θ)を定数k’として、
【数8】

【0064】
とすればよい。
【0065】
この場合も式(4)と同様に処理して、式(5)が成立すれば変化なしθと判定できる。
【0066】
本実施形態では、学習処理において、式(1)のリーチrを一意に決定せずに学習するため、式(4)と式(5)で用いるリーチrも一意に特定できない。代わりに、式(4)、式(5)ではリーチrについて周辺化(marginalization)を行う。具体的には、以下のように任意のリーチrについて合計をとる。
【数9】

【0067】
このようにしてリーチrを一意に決定せずに確率的に扱うことにより、学習画像や入力画像の背景に木の揺れなど変化として検出したくない変動が含まれる場合にも、安定した判定を行うことができる。
【0068】
このことを模式的に示したのが図3である。
【0069】
図3(a)に示すように、事象が変化なしθであるような学習画像において、D101のような画像が90%、D102のような画像が10%含まれていたとする。このとき、従来のRRC/BPRRC法では、多く(90%)の学習画像が得られるリーチr1が点pにおけるθのリーチとして選択される。
【0070】
図3(b)に示すように、ここでD103とD104のような入力画像が入力されたとする。
【0071】
図3(c)に示すように、例えば、RRC/BPRRC法ではD105のようにリーチr1における符号(輝度差)を調べ、θの学習時から変化がないことから、入力画像D103の点pも変化なしθと判定する。
【0072】
一方、D106ではリーチr1での符号はD101で学習した符号(輝度差)とは異なるため、入力画像D104の点pを変化ありと判定してしまう。なお、実際は様々な方向の符号変化から総合的に判断するが、複数の方向でこのような現象が生じていると、誤って変化ありと判定してしまう可能性が高まる。
【0073】
図3(d)に示すように、本実施形態では、D101からθに対してリーチr1となる条件付き確率が0.9であり、D102からθに対してリーチr2となる条件付き確率が0.1であり、その他のリーチでの条件付き確率が0であると学習する。
【0074】
そして、D103のような入力画像が入力されたとき、式(6)に基づいて条件付き確率をリーチrについて周辺化した条件付き確率を算出し、D107のようにリーチr1とリーチr2で入力画素符号cが学習結果とマッチするのでリーチr1とリーチr2の条件付き確率0.9と0.1が加算され、式(4)、式(5)の左辺は1.0となり、点pは変化なしθと判定される。
【0075】
また、D104のような入力画像が入力されたときも同様に周辺化するとD108のようにリーチr1については、入力画素符号cが学習結果とマッチしないが、リーチr2については入力画素符号cがマッチするので、リーチr2の条件付き確率0.1が加算され、式(4)、式(5)の左辺は0.1となり、点pは変化なし(θ)と判定される。なお、kやKの設定は厳しくないとする。
【0076】
本発明は上記各実施形態に限られず、その主旨を逸脱しない限り種々に変更することができる。
【0077】
(1)変更例1
変更例1では、3以上の事象θへも適用できるようにする。すなわち、上記実施形態では、事象θとして、θ(変化なし)とθ(変化あり)の2クラスを判定する例を示したが、事象のクラスタリングが3以上のクラスの場合でも同様に処理することができる。
【0078】
例えば、式(4)、式(5)において、事象θとその他のクラスの事象をまとめたθother0を比較することで事象θであるかそうでないかを判定することができる。次に、事象θとその他のクラスの事象をまとめた事象θother1を比較することで事象θであるかそうでないかを判定することができ、事象θ以降に対しても同様の処理を繰り返せばよい。
【0079】
これにより、例えば事象θとして道路領域が見えている場合、事象θとして人物が入ってきた場合、事象θとして車両が入ってきた場合として、変化領域をクラス分類の事象θと共に判定できる。
【0080】
(2)変更例2
上記実施形態の式(6)ではリーチrの周辺化を行った。しかし、変更例2では、以下の式(7)のように入力画素符号cについて周辺化を行う。
【数10】

【0081】
これにより、例えば入力画素符号cとして多値の値を用いる場合などでcの決定が不安定になる場合において、リーチrと同様に周辺化による安定化の効果が得られる。
【0082】
(3)変更例3
変更例3では、リーチrについて周辺化を行う代わりに、以下のような処理を行う。
【0083】
事象判定部108は、入力画像中の注目画素と、前記探索方向dに存在する画素の特徴量比較値Dを算出し、その特徴量比較値Dが学習処理で用いたものと同じ範囲に属するような入力参照画素を選択し、その入力参照画素のもつリーチrを用いて式(4)、式(5)の判定を行う。
【0084】
(4)変更例4
変更例4では、入力参照画素及び学習参照画素(以下、まとめて「参照画素」という)の時間方向への探索も行う。
【0085】
すなわち、上記実施形態の学習処置と検出処理のように同一時刻の画像内で行う必要はなく、参照画素を注目画素が属する画像とは異なる時刻の画像から探索してもよい。
【0086】
例えば、図4のように、時系列画像中において注目画素がt=0の画像に属する画素であって、参照画素をT101の方向に探索して参照画素T102(t=t1の画像に属する)を選択し、T103の方向に探索して参照画素T104(t=t2の画像に属する)を選択してもよい。
【0087】
方向T101、T103は、画素位置と時間の少なくとも一方が変化するような探索方向である。
【0088】
このように同じ時刻の画像内だけでなく、時間方向にも広げて参照画素を探索することにより、時系列画像中の動きを反映した参照画素統計量を学習することができる。
【0089】
例えば、エスカレーターの段差領域の画素を観測するとき、画素値は時間の経過と共に常に変化し、また周辺の画素値との輝度差も変動するため、様々なr、cが発生しうる。
【0090】
しかし、探索方向が段差の時空間的な移動方向と一致している場合は、同じ段差部分を観測し続けることになって画素値が一定となり、異なるr、cの分布をもつことから、そのような時空間的方向の運動の特性を抽出できる。
【0091】
(5)変更例5
上記実施形態では、一つの探索方向dは、直線上に一定であったが、これに限らず探索方向dを任意の角度を振らして探索してもよい。
【0092】
また、探索方法として、リーチrで探索方向を360度回転させて探索し、次に、リーチ(r+Δr)として、360度回転して探索してもよい。
【0093】
そして、注目画素の位置pに対する参照画素の相対位置は、探索方向dとリーチrで決定できるので、これら探索方向dとリーチrのどちらか一方、又は、両方を変化させて探索すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一実施形態の画像処理装置の全体構成図である。
【図2】学習参照画素の探索を示す図である。
【図3】検出処理の比較を示す図である。
【図4】異なる画像間での参照画素の探索を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
101 参照画素探索部
102 参照画素符号算出部
103 参照画素統計量算出部
104 参照画素統計量記憶部
105 入力画素符号算出部
106 事象判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の学習画像のそれぞれの中の一つの注目画素を中心として複数の画素を探索するものであって、前記注目画素の特徴量と前記画素の特徴量とを比較した値である特徴量比較値が予め設定された範囲に属する前記画素を、学習参照画素として選択する参照画素探索部と、
前記各学習参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して学習参照画素符号を算出する学習参照画素符号算出部と、
複数の前記学習画像のそれぞれについて、前記各学習画像の前記探索した各学習参照画素に基づいて、任意の事象が与えられたときの、前記注目画素に対する前記学習参照画素の相対位置と前記学習参照画素の前記学習参照画素符号が出現する条件付き確率とを算出し、前記各条件付き確率に基づいて、前記事象と前記相対位置と前記学習参照画素符号とから前記条件付き確率を出力する統計量対応関係を算出する参照画素統計量算出部と、
一つの入力画像中であって、前記学習画像の前記注目画素と対応関係にある一つの注目画素を中心として、前記学習画像の前記注目画素の相対位置と同じ相対位置に存在する入力参照画素を検出し、前記入力画像の前記注目画素に対する前記入力参照画素の前記特徴量比較値を算出し、前記各入力参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して入力画素符号を算出する入力画素符号算出部と、
前記事象毎に、前記統計量対応関係に基づいて、前記入力参照画素の前記相対位置と前記入力画素符号とから前記事象毎の前記条件付き確率を算出し、前記条件付き確率が閾値以上である前記事象を、前記入力画像の前記注目画素の事象であると判定するか、又は、最も大きい前記条件付き確率の前記事象を、前記入力画像の前記注目画素における事象であると判定する事象判定部と、
を有する画像処理装置。
【請求項2】
前記事象判定部は、
前記注目画素を中心として存在する複数の前記入力参照画素に関して、前記各入力参照画素の条件付き確率を前記事象毎に合計して周辺化した条件付き確率を算出し、前記周辺化した前記条件付き確率が前記閾値以上である前記事象を、前記入力画像の前記注目画素の事象であると判定するか、又は、最も大きい前記周辺化した前記条件付き確率の前記事象を、前記入力画像の前記注目画素における事象であると判定する、
請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記参照画素探索部は、前記学習画像の前記注目画素を中心として複数の探索方向に沿って前記学習参照画素を探索し、
前記注目画素と前記学習参照画素の前記相対位置は、一つの前記探索方向と、前記注目画素と前記学習参照画素との距離で決定される、
請求項1記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記注目画素と前記学習参照画素とが、時系列画像中の異なる画像にそれぞれ属し、前記探索を前記時系列画像中の異なる画像に対して行う、
請求項1記載の画像処理装置。
【請求項5】
複数の学習画像のそれぞれの中の一つの注目画素を中心として複数の画素を探索するものであって、前記注目画素の特徴量と前記画素の特徴量とを比較した値である特徴量比較値が予め設定された範囲に属する前記画素を、学習参照画素として選択する参照画素探索ステップと、
前記各学習参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して学習参照画素符号を算出する学習参照画素符号算出ステップと、
複数の前記学習画像のそれぞれについて、前記各学習画像の前記探索した各学習参照画素に基づいて、任意の事象が与えられたときの、前記注目画素に対する前記学習参照画素の相対位置と前記学習参照画素の前記学習参照画素符号が出現する条件付き確率とを算出し、前記各条件付き確率に基づいて、前記事象と前記相対位置と前記学習参照画素符号とから前記条件付き確率を出力する統計量対応関係を算出する参照画素統計量算出ステップと、
一つの入力画像中であって、前記学習画像の前記注目画素と対応関係にある一つの注目画素を中心として、前記学習画像の前記注目画素の相対位置と同じ相対位置に存在する入力参照画素を検出し、前記入力画像の前記注目画素に対する前記入力参照画素の前記特徴量比較値を算出し、前記各入力参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して入力画素符号を算出する入力画素符号算出ステップと、
前記事象毎に、前記統計量対応関係に基づいて、前記入力参照画素の前記相対位置と前記入力画素符号とから前記事象毎の前記条件付き確率を算出し、前記条件付き確率が閾値以上である前記事象を、前記入力画像の前記注目画素の事象であると判定するか、又は、最も大きい前記条件付き確率の前記事象を、前記入力画像の前記注目画素における事象であると判定する事象判定ステップと、
を有する画像処理方法。
【請求項6】
複数の学習画像のそれぞれの中の一つの注目画素を中心として複数の画素を探索するものであって、前記注目画素の特徴量と前記画素の特徴量とを比較した値である特徴量比較値が予め設定された範囲に属する前記画素を、学習参照画素として選択する参照画素探索機能と、
前記各学習参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して学習参照画素符号を算出する学習参照画素符算出機能と、
複数の前記学習画像のそれぞれについて、前記各学習画像の前記探索した各学習参照画素に基づいて、任意の事象が与えられたときの、前記注目画素に対する前記学習参照画素の相対位置と前記学習参照画素の前記学習参照画素符号が出現する条件付き確率とを算出し、前記各条件付き確率に基づいて、前記事象と前記相対位置と前記学習参照画素符号とから前記条件付き確率を出力する統計量対応関係を算出する参照画素統計量算出機能と、
一つの入力画像中であって、前記学習画像の前記注目画素と対応関係にある一つの注目画素を中心として、前記学習画像の前記注目画素の相対位置と同じ相対位置に存在する入力参照画素を検出し、前記入力画像の前記注目画素に対する前記入力参照画素の前記特徴量比較値を算出し、前記各入力参照画素に対応する前記特徴量比較値を符号化して入力画素符号を算出する入力画素符号算出機能と、
前記事象毎に、前記統計量対応関係に基づいて、前記入力参照画素の前記相対位置と前記入力画素符号とから前記事象毎の前記条件付き確率を算出し、前記条件付き確率が閾値以上である前記事象を、前記入力画像の前記注目画素の事象であると判定するか、又は、最も大きい前記条件付き確率の前記事象を、前記入力画像の前記注目画素における事象であると判定する事象判定機能と、
をコンピュータに実現させるための画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−301088(P2009−301088A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151492(P2008−151492)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】