説明

画像処理装置及び画像処理方法

【課題】簡便な処理でマルチバンド画像の色を高い精度で分光的に再現することができる画像処理装置及び画像処理方法等を提供する。
【解決手段】画像処理装置には、マルチバンド画像入力装置101から取得したマルチバンド画像のマルチバンド信号値から出力信号値を導出する色変換演算手段109と、前記出力信号値を用いて前記マルチバンド画像を、画像出力装置102が出力可能な出力画像に変換する色変換実行手段113とが設けられている。色変換演算手段109には、前記画像出力装置の入出力特性に基づいて、任意の出力信号値によって再現される分光放射輝度を推定する分光特性推定手段111と、前記分光放射輝度を用いて、推定マルチバンド信号値を生成するマルチバンド信号値推定手段110と、前記推定マルチバンド信号値と前記マルチバンド信号値との比較の結果に応じて前記出力信号値を導出する出力信号値導出手段112と、が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチバンド画像の多原色の画像出力装置での再現に好適な画像処理装置及び画像処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像のデジタル化により、デジタルカメラ及びスキャナ等の画像入力装置によって取得された画像を、モニタ及びプロジェクタ等の画像表示装置で表示したり、インクジェットプリンタ及びレーザープリンタ等の画像出力装置にて印刷したりする機会が増えている。一般的に、物体の色を再現するための色再現技術において、画像入力機器ではRGB3色のフィルタを用いて、オリジナルの色を3原色に分解することにより、色情報を取得している。一方、画像表示機器ではRGB3色の発光体を用い加法混色を行うことによりオリジナルの色を再現し、また、インクジェットプリンタ及びレーザープリンタではCMYK4色の色材を用い減法混色することによりオリジナルの色を再現している。
現在、様々な環境下において、様々なデバイスを用いて画像の入力及び出力が行われている。例えば、屋外において太陽光の下で被写体の画像をデジタルカメラで取得し、室内においてプリントアウトした印刷物を蛍光灯の下で観察するということが行われている。また、特にプロカメラマンやデザイナー等のプロユースの現場において、オリジナルの色を忠実に再現したいという要求が増えている。しかしながら、前述のように入力時のデバイス及び環境と出力時のデバイス及び環境とが異なっているため、オリジナルの色を忠実に再現することが困難である。
特に入力時と出力時とで観察光源が異なる場合、上述の3原色を用いた測色的色再現では忠実にオリジナルの色を再現するのは困難である。例えば、色温度が5000K程の太陽光の下で画像を撮影し、室内にて色温度が3000K程の電球の下で印刷物を観察する場合、被写体の色を正確に再現することは非常に難しい。これは、測色的色再現では光源の情報をも含んだ三刺激値(XYZ値又はLab値)を一致させているため、入力時と出力時とで光源が異なる場合には等色関係が成り立たなくなってしまうからである。
そこで、近年、様々な環境下においてオリジナルの色を忠実に再現するための技術として、分光的色再現という技術が注目されている。分光的色再現とは、物体の色を三刺激値を一致させて再現するのではなく、分光反射率をも一致させて、任意の光源下においてオリジナルの色を忠実に再現するという技術である。ここで、分光反射率とは光の波長ごとの反射率を示したものである。分光反射率データは、例えば、可視領域である380nm〜730nmの範囲において10nm間隔でサンプリングされた36チャンネルのデータとして扱われる。しかしながら、現在の技術では入力画像全域にわたって分光反射率データを直接取得することは困難である。替わりに、3原色より多い6チャンネルから16チャンネル程度の色情報をもつマルチバンド画像を使用する方法が知られている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−221931号公報
【特許文献2】特開2000−333186号公報
【特許文献3】特開2003−134351号公報
【特許文献4】特開2006−287585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載されているような従来の分光的色再現技術においてはマルチバンド信号値から被写体の分光反射率を推定し、その後、出力装置の信号値に変換している。ところが、マルチバンド画像入力装置で入力した際、あるマルチバンド信号値に変換される分光特性は無数に存在する。即ち、マルチバンド信号値及び分光反射率の間には「1対多数」の関係が存在する。このため、マルチバンド信号値から分光反射率への変換には教師データが必要とされる。
一般的に、自然画像及び美術品等のマルチバンド撮影においては、被写体と同一の分光特性をもつ教師データを使用することは極めて困難である。また、被写体と教師データとの間で分光特性が一致しない場合、推定結果として得られる分光反射率は被写体よりも教師データに近い特性を持つ。このため、教師データを使用した分光反射率の推定では分光的色再現の高い精度を得ることができない。
また、特許文献4に記載されているような方法では、複数の画像入力装置及び画像出力装置が使用される場合、それらの全ての組み合わせについてデバイスモデルを構築する必要があり、複雑な処理が必要となる。
このように、これらの従来の分光的色再現システムによっても被写体の分光特性を高い精度で再現することは困難である。
【0005】
本発明は、簡便な処理でマルチバンド画像の色を高い精度で分光的に再現することができる画像処理装置及び画像処理方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る画像処理装置は、マルチバンド画像入力装置から取得したマルチバンド画像のマルチバンド信号値から出力信号値を導出する色変換演算手段と、前記出力信号値を用いて前記マルチバンド画像を、画像出力装置が出力可能な出力画像に変換する色変換実行手段と、を有し、前記色変換演算手段は、前記画像出力装置の入出力特性に基づいて、任意の出力信号値によって再現される分光放射輝度を推定する分光特性推定手段と、前記分光放射輝度を用いて、推定マルチバンド信号値を生成するマルチバンド信号値推定手段と、前記推定マルチバンド信号値と前記マルチバンド信号値との比較の結果に応じて前記出力信号値を導出する出力信号値導出手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適切に構成された色変換演算手段が設けられているため、簡便な処理でマルチバンド画像の色を高い精度で分光的に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】ユーザインタフェースの一例を示す図である。
【図4】出力信号値と階調との関係を示す図である。
【図5】ステップS204の詳細を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態に係る画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】パッチ画像の一例を示す図である。
【図9】カラーパッチの内容を示す図である。
【図10】ステップS703の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
第1の実施形態に係る画像処理装置103には、図1に示すように、画像入力部106、画像入力装置プロファイル入力部107、画像出力装置プロファイル入力部108、色変換演算部109、色変換実行部113、及び画像出力部114が含まれている。
画像入力部106には、マルチバンド画像入力装置101からマルチバンド画像が入力される。画像入力装置プロファイル入力部107には、画像入力装置プロファイル設定部104からフィルタ情報等が入力される。画像出力装置プロファイル入力部108には、分光放射輝度測定装置105から分光放射輝度が入力される。画像出力部114からは画像出力装置102に出力画像が出力される。
【0011】
マルチバンド画像入力装置101は、マルチバンドカメラ等、被写体の色を多原色フィルタを用いて取得する。画像出力装置102は、多原色モニタ又は多原色プロジェクタ等であり、実際に画像の表示を行う。画像入力装置プロファイル設定部104では、マルチバンド画像入力装置101の各チャンネルの入出力特性をユーザが設定する。分光放射輝度測定装置105は、画像出力装置102の分光輝度を測定する。
【0012】
画像入力部106は、マルチバンド画像入力装置101及びこれに付随する記憶装置を制御し、画像変換処理の対象となるマルチバンド画像データを取得する。画像入力装置プロファイル入力部107は、画像入力装置プロファイル設定部104で設定された情報に従って、各チャンネルの入出力特性を示すデータを取得する。画像出力装置プロファイル入力部108は、分光放射輝度測定装置105及び画像出力装置102を制御し、画像出力装置102の入出力特性を示すデータを取得する。
色変換演算部109には、画像入力装置デバイスモデル部110、画像出力装置デバイスモデル部111、及びモデル反転部112が含まれている。画像入力装置デバイスモデル部110は、任意の分光放射輝度で光を照射又は反射している被写体をマルチバンド画像入力装置101で撮影した際に生成されるマルチバンド信号値を推定する機能を持ち、マルチバンド信号値推定手段として機能する。画像出力装置デバイスモデル部111は、画像出力装置102において、ある画素が任意の信号値を出力した際に再現される分光放射輝度を推定する機能を持ち、分光特性推定手段として機能する。モデル反転部112は、画像入力装置デバイスモデル部110及び画像出力装置デバイスモデル部111を逆関数として繰り返し駆動し、任意のマルチバンド信号値を高い精度で再現する出力信号値を探索する機能を持ち、出力信号値導出手段として機能する。そして、色変換演算部109は、任意のマルチバンド信号値の持つ色情報を再現可能な出力信号値を導出する。
色変換実行部113は、色変換演算部109を駆動し、マルチバンド画像を画像出力装置102で出力可能な画像データに変換する。画像出力部114は、色変換実行部113により変換された画像に必要な情報を付加し、画像出力装置102に出力する。
【0013】
なお、以後の説明では、マルチバンド画像入力装置101として、6チャンネルのマルチバンドカメラが使用されるものとする。このカメラは各画素の各チャンネルについて0から65535までの16ビットの整数値をとるマルチバンド画像を生成する。また、画像出力装置102として、6原色のディスプレイが使用されるものとする。このディスプレイは各画素の各色について0から65535までの16ビットの整数値をとる画像データ(信号値)を入力として使用する。信号値が0の場合は発光を行わないことを示す。いずれについても、分光的な色再現を行うために十分な精度が得られるものであれば、本発明を構成する入出力装置の形態はこれに限定されない。また、分光特性データは全て380nm〜730nmの範囲について10nm間隔でサンプリングされた36チャンネルのデータであるものとする。この分光特性には分光反射率、分光放射輝度、分光透過率、光電変換素子の分光感度、分光照度等が含まれる。なお、分光特性データの形式はこれに限定されない。
【0014】
次に、第1の実施形態に係る画像処理装置の動作(画像処理方法)について説明する。図2は、第1の実施形態に係る画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
先ず、ステップS201において、マルチバンド画像入力装置101からマルチバンド画像を画像入力部106が取得する。つまり、マルチバンド画像入力装置101から画像処理装置103にマルチバンド画像が入力される。マルチバンド画像は、例えばマルチバンド画像入力装置101を用いた被写体の撮影により取得されたものである。
次いで、ステップS202において、画像入力装置プロファイル設定部104に設定された情報に基づいて画像入力装置プロファイル入力部107がフィルタ情報等のデータを取得し、画像入力装置デバイスモデル部110の初期化を行う。
【0015】
ここで、ステップS202の詳細について説明する。図3は、画像入力装置プロファイル設定部104のユーザインタフェースの一例を示す図である。
図3(a)は、マルチバンド画像入力装置101の各チャンネルのフィルタ特性を設定するフィルタ設定ウィンドウを示す。
このフィルタ設定ウィンドウには、択一式のラジオボタン301及び302、プルダウンメニュー群303、追加ボタン304、設定ボタン305及びキャンセルボタン306が含まれている。
ラジオボタン301及び302は、どちらか一方のみ選択されるような機能を有する。ラジオボタン301は入力画像からフィルタデータを自動取得する場合に選択され、ラジオボタン302はフィルタデータを手動で設定する場合に選択される。プルダウンメニュー群303は、マルチバンドカメラの各チャンネルに使用されているフィルタを選択する際に使用される。フィルタの分光透過率データはデータベース(図示せず)に記憶されており、プルダウンメニューの各選択肢はそれぞれの分光透過率データと関連付けられている。プルダウンメニュー群303の操作は、ラジオボタン302が選択されている場合のみ有効となる。追加ボタン304は、プルダウンメニュー群303の選択肢であるフィルタデータをデータベースに追加する際に操作される。追加ボタン304が押下されると、詳細は後述するが、ユーザインタフェースがフィルタデータ追加ウィンドウ(図3(b))に変化する。設定ボタン305は、ユーザの入力を反映しフィルタデータの取得を開始する際に操作される。キャンセルボタン306は上記設定を取り消す際に操作される。
設定ボタン305が押下されると、画像入力装置プロファイル入力部107は、図3(a)のフィルタ設定ウィンドウを介して設定された情報に基づいて、フィルタ分光透過率データを取得する。例えば、設定ボタン305の押下時にラジオボタン301が選択されている場合、画像入力装置プロファイル入力部107は、ステップS201で入力された画像データの付属データを参照し、使用されているフィルタの種類を示す識別番号を取得する。その後、取得した識別番号に対応する分光透過率データをデータベースより取得する。画像データからフィルタの種類が取得できない場合、又は取得したフィルタに対応する分光透過率データがデータベースに存在しない場合には、ユーザインタフェースにその旨を表示する。つまり、ユーザに警告する。また、設定ボタン305の押下時にラジオボタン302が選択されている場合、画像入力装置プロファイル入力部107は、プルダウンメニュー群303の設定情報に基づいて各チャンネルの分光透過率データをデータベースより取得する。
上記のように、追加ボタン304が押下されると、ユーザインタフェースがフィルタデータ追加ウィンドウに変化する。図3(a)は、マルチバンド画像入力装置101のフィルタデータ追加ウィンドウを示す。
このフィルタ設定ウィンドウには、テキストボックス307、テキストボックス308、テキストボックス309、追加ボタン310、及び戻りボタン311が含まれている。
テキストボックス307は、新しく追加するフィルタデータの名前を記入する際に使用される。テキストボックス308は、新しく追加するフィルタの分光透過率データを記述したファイルを指定する際に使用される。テキストボックス309は、フィルタデータの自動選択時に使用される識別番号を指定する際に使用される。テキストボックス307〜309にフィルタの情報が入力された状態で、追加ボタン310が押下されると、上記指定を反映したフィルタデータがデータベースに追加される。戻りボタン311は、フィルタデータ追加ウィンドウを終了しフィルタ設定ウィンドウへ戻る際に操作される。
ステップS202では、更に、画像入力装置プロファイル入力部107が、フィルタの分光透過率データの取得と同様にして、光電変換素子の分光感度データも取得する。このとき、画像入力装置プロファイル入力部107が分光感度取得手段として機能する。また、ホワイトバランス制御及び入力ガンマ特性等の画像入力装置デバイスモデル部110の実行に用いるデータも取得する。
このようにして、ステップS202の処理が行われる。
【0016】
ステップS202の後、ステップS203において、画像出力装置プロファイル入力部108が画像出力装置デバイスモデル部111の初期化を行う。この際、画像出力装置プロファイル入力部108は、画像出力装置102及び分光放射輝度測定装置105を制御し、画像出力装置102の入出力特性を取得する。例えば、図4に示すように、画像出力装置102への出力信号値I0、I1、I2、I3、I4、及びI5のそれぞれについて、0、4096、8192、・・・、及び65535の17階調の画像を出力し、単色時の分光放射輝度を測定する。なお、画像出力装置102の入出力特性を事前に測定し、外部記憶装置(図示せず)に保存しておき、ステップS203では保存されている入出力特性データの読み込みを行ってもよい。
次いで、ステップS204において、色変換演算部109が、入力画像の各画素のマルチバンド信号値を高い精度で再現する出力信号値の導出を行う。色変換演算部109は、このような出力信号値として、所定の条件下でマルチバンド信号値を最もよく再現するものを導出する。なお、本実施形態ではマルチバンド画像が出力画像に変換されるため、この処理は入力画像の全ての画素に対して行われる。
【0017】
ここで、ステップS204の詳細について説明する。図5は、ステップS204の詳細を示すフローチャートである。
先ず、ステップS501において、モデル反転部112が、再現対象となるマルチバンド画素値の取得を行う。
次いで、ステップS502において、モデル反転部112が、最適化のパラメータ信号値となる出力信号値の初期値設定を行う。ここでは、初期値として{I0,I1,I2,I3,I4,I5}={0,0,0,0,0,0}を設定する。
その後、ステップS503において、モデル反転部112が、画像出力装置デバイスモデル部111を駆動し、出力信号値から分光放射輝度の推定を行う。6原色の混色の分光放射輝度は単色の分光放射輝度の和として算出され、個々の単色の分光放射輝度は17階調の測定値から線形補間で算出される。例えば、出力信号値{1000,5000,0,0,0,0}に対する分光放射輝度は{1000,0,0,0,0,0}及び{0,5000,0,0,0,0}によって再現される分光放射輝度の和として算出される。ここで、{1000,0,0,0,0,0}によって再現される分光放射輝度は{0,0,0,0,0,0}及び{4096,0,0,0,0,0}の測定値より線形補間によって算出される。同様に、{0,5000,0,0,0,0}によって再現される分光放射輝度は{0,4096,0,0,0,0}及び{0,8192,0,0,0,0}の測定値より線形補間によって算出される。
続いて、ステップS504において、モデル反転部112が、画像入力装置デバイスモデル部110を駆動し、分光放射輝度からマルチバンド信号値の推定を行う。画像入力装置デバイスモデル部110は、ステップS503で推定された分光放射輝度に各チャンネルのフィルタの分光透過率及び光電変換素子の分光感度を積算し、各チャンネルの入力信号値を算出する。そして、画像入力装置デバイスモデル部110は、各信号値に対しホワイトバランス処理及び入力ガンマ変換を実施し、マルチバンド画像入力装置101による撮影と同等のマルチバンド信号値を推定マルチバンド信号値として生成する。なお、これらの分光放射輝度及びマルチバンド信号値の推定方法は一例であり、各種データの測定方法及び推定値の算出方法はこれらに限定されない。
次いで、ステップS505において、モデル反転部112が、ステップS501で取得されたマルチバンド信号値とステップS504で生成された推定マルチバンド信号値との比較を行い、これらがどの程度離れているかについての評価を行う。ここでは、例えば、相互の距離として、各チャンネルの信号値の差分の二乗和平方根を算出する。
その後、ステップS506において、モデル反転部112が、ステップS505の比較の結果に応じて、所定の条件下での最適化が完了したか否かの判定を行う。最適化が完了していない場合、ステップS507において、モデル反転部112は、パラメータである出力信号値を修正し、ステップS503に戻る。この判定及び修正は、例えば、ニュートンの反復法に基づいて行われる。但し、ニュートンの反復法に限定されることはなく、例えばシンプレックス法又は粒子群最適化手法等を用いてもよい。最適化が完了している場合、ステップS508において、モデル反転部112が、ステップS505で算出された距離が最も小さい出力信号値を、ステップS501で取得されたマルチバンド画素値を高い精度で再現する出力信号値として導出する。つまり、所定条件下でマルチバンド画素値を高い精度で再現する出力信号値として導出する。
このようにして、ステップS204の処理が行われる。
【0018】
ステップS204の後、ステップS205において、色変換実行部113が、ステップS204で導出された出力信号値に基づいて、ステップS501で取得されたマルチバンド画像の変換を行う。そして、画像出力部114が、色変換実行部113による変換後の出力画像に種々の情報を付加し、画像出力装置102へ出力する。
【0019】
このような第1の実施形態によれば、教師データを用いたマルチバンド信号値から分光特性への変換を実施せずとも、マルチバンド画像を出力画像に変換することができる。従って、被写体を撮影したマルチバンド画像の分光特性を多原色表示装置上に忠実に再現することができる。また、複数のマルチバンド画像入力装置と多原色表示装置とが組み合わされる場合であっても、個々の装置についてデバイスモデルが作成されるため、全ての画像入力装置と画像出力装置の組み合わせについて分光的な色再現を行うことができる。
【0020】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。図6は、第2の実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
第1の実施形態に係る画像処理装置602には、図6に示すように、画像入力部106、画像入力装置プロファイル入力部107、色変換実行部113、及び画像出力部114が含まれている。画像処理装置602には、更に、分光照度入力部605、画像出力装置プロファイル入力部606、パッチ画像作成部607、及び色変換演算部608が含まれている。
分光照度入力部605には、分光照度測定装置603から分光照度が入力される。画像出力装置プロファイル入力部606には、分光反射率測定装置604から分光反射率が入力される。画像出力部114からは画像出力装置601に出力画像が出力される。
【0021】
画像出力装置601は、多色プリンタ等であり、記録媒体上に実際の印字を行う。分光照度測定装置603は、マルチバンド画像の取得時の被写体近傍の分光照度を測定する。分光反射率測定装置604は、記録媒体上に形成されたパッチ画像の分光反射率を測定する。
【0022】
分光照度入力部605は、分光照度測定装置603により測定された分光照度の分光照度データを取得し、分光照度取得手段として機能する。パッチ画像作成部607は、画像出力装置601の入出力特性を取得するためのパッチ画像のデータを作成する。画像出力装置プロファイル入力部606は、パッチ画像作成部607により作成されたパッチ画像のデータ、及び分光反射率測定装置604により測定されたパッチ画像の分光反射率を取得する。
色変換演算部109には、画像入力装置デバイスモデル部110、分光放射輝度算出部609、画像出力装置デバイスモデル部610、及びモデル反転部611が含まれている。画像出力装置デバイスモデル部610は、画像出力装置601において、ある画素が任意の信号値を出力した際に再現される分光放射率を推定する機能を持ち、分光特性推定手段の分光反射率推定手段として機能する。分光放射輝度算出部609は、分光放射輝度を算出する機能を持ち、分光特性推定手段の分光放射輝度算出手段として機能する。モデル反転部611は、任意のマルチバンド信号値を高い精度で再現する出力信号値を探索する機能を持つ。そして、色変換演算部608は、任意のマルチバンド信号値の持つ色情報を再現可能な出力信号値を導出する。
色変換実行部113は、色変換演算部608を駆動し、マルチバンド画像を画像出力装置601で出力可能な画像データに変換する。画像出力部114は、色変換実行部113により変換された画像に必要な情報を付加し、画像出力装置601に出力する。また、画像出力部114は、パッチ画像作成部607により作成されたパッチ画像のデータの画像出力装置601への出力も行う。
他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0023】
なお、以降の説明では、マルチバンド画像入力装置101として、第1の実施形態と同様に、6チャンネルのマルチバンドカメラが使用されるものとする。また、画像出力装置601として、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー、及びブラックの7色の色剤を備えたカラーインクジェットプリンタが使用されるものとする。このカラーインクジェットプリンタは各画素の各色剤について0から65535までの16ビットの整数値をとる画像データ(信号値)を入力として使用する。信号値が0の場合はインクの吐出を行わないことを示す。また、本実施形態において、1回の画像変換処理フロー内で使用する記録媒体は全て同種の物が使用されるものとする。いずれについても、分光的な色再現を行うために十分な精度が得られるものであれば、本発明を構成する入出力装置の形態はこれらに限定されない。
【0024】
次に、第2の実施形態に係る画像処理装置の動作(画像処理方法)について説明する。図7は、第2の実施形態に係る画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
先ず、ステップS701において、パッチ画像作成部607が画像出力装置601の色剤構成に基づいてカラーパッチのパッチ画像のデータを作成する。そして、作成されたパッチ画像のデータが画像出力部114を介して画像出力装置601に出力され、画像出力装置601がパッチ画像を印刷する。次いで、分光反射率測定装置604が、パッチ画像の分光反射率を測定する。このようにして、画像出力装置601の入出力特性が取得される。図8は、パッチ画像の一例を示す図である。図9は、カラーパッチの内容を示す図である。本実施形態では、例えば、図8におけるNo.1からNo.78125の矩形部分に、図9に示すように、各色の色剤を最大使用量の25%ずつ変化させた全ての組み合わせのカラーパッチの出力が行われる。
ステップS701の後、第1の実施形態と同様に、ステップS201の処理が行われる。
次いで、ステップS702において、分光照度入力部605が分光照度測定装置603を駆動し、ステップS201で行われたマルチバンド画像入力時の照明光の分光照度の測定を行う。そして、分光照度入力部は、測定された分光照度のデータを取得する。
その後、第1の実施形態と同様に、ステップS202及びS203の処理が行われる。
続いて、ステップS703において、色変換演算部109が、入力画像の各画素のマルチバンド信号値を高い精度で再現する出力信号値の導出を行う。色変換演算部109は、このような出力信号値として、所定の条件下でマルチバンド信号値を最もよく再現するものを導出する。なお、本実施形態ではマルチバンド画像が出力画像に変換されるため、この処理は入力画像の全ての画素に対して行われる。なお、本実施形態ではマルチバンド画像が出力画像に変換されるため、この処理は入力画像の全ての画素に対して行われる。
【0025】
ここで、ステップS703の詳細について説明する。図10は、ステップS703の詳細を示すフローチャートである。
先ず、第1の実施形態と同様に、ステップS501及びS502の処理が行われる。
次いで、ステップS1001において、モデル反転部611が、画像出力装置デバイスモデル部610を駆動し、出力信号値から分光反射率の推定を行う。この推定は、例えば、ステップS701で取得された分光反射率のデータに基づいてセル化ノイゲバウアーの式を用いて行われる。
その後、ステップS1002において、モデル反転部611が、ステップS702で取得された分光照度とS1001で推定した分光反射率とを積算し、出力信号値に対応する分光放射輝度を算出する。
続いて、ステップS1003において、モデル反転部611が、画像入力装置デバイスモデル部110を駆動し、ステップS1002で推定された分光放射輝度からマルチバンド信号値を推定する。この推定は、例えば、第1の実施形態のステップS503と同様にして行われる。
次いで、ステップS1004において、モデル反転部611が、ステップS501で取得されたマルチバンド信号値とステップS1003で生成された推定マルチバンド信号値との比較を行い、これらがどの程度離れているかについての評価を行う。ここでは、例えば、相互の距離として、各チャンネルの信号値の差分の二乗和平方根を算出する。
その後、ステップS1005において、モデル反転部611が、ステップS1004の比較の結果に応じて、所定の条件下での最適化が完了したか否かの判定を行う。最適化が完了していない場合、ステップS507において、モデル反転部611がパラメータである出力信号値を修正し、ステップS1001に戻る。最適化が完了している場合、第1の実施形態と同様に、ステップS508の処理が行われる。
このようにして、ステップS703の処理が行われる。
ステップS703の後、第1の実施形態と同様にして、ステップS205の処理が行われる。
【0026】
このような第2の実施形態によれば、多色プリンタを用いた場合においても、被写体を撮影したマルチバンド画像の分光特性を忠実に再現することができる。また、複数のマルチバンド画像入力装置と多色プリンタとが組み合わされる場合であっても、個々の装置についてデバイスモデルが作成されるため、全ての画像入力装置と画像出力装置の組み合わせについて分光的な色再現を行うことができる。
【0027】
なお、第1及び第2の実施形態では、単一の画像出力装置が処理の対象となっているが、事前に複数の画像出力装置の入出力特性をデータベース化し、ユーザの指定等に応じて使用する画像出力装置を選択してもよい。この場合、ステップS203では、指定された画像出力装置に対応する入出力特性データを画像出力装置プロファイル入力部108がデータベースから選択的に取得する。更に、指定された画像出力装置の種類によって、第1の実施形態の処理と第2の実施形態の処理とを切り換えてもよい。
また、第1及び第2の実施形態では、ステップS204又はS703の処理が入力画像の全ての画素に対して実施されているが、マルチバンド信号値を出力信号値に変換するルックアップテーブル(LUT)を使用しても同様の効果を得ることができる。この場合、LUTを生成するLUT生成部を画像処理装置103又は602に設けておき、モデル反転部112又は611が、ステップS204又はS703の処理をLUTの各格子点に対して実施し、マルチバンド画像から出力画像への変換を行う。画像変換処理にLUTを使用することで、画素数の多い画像データに対しても高速で画像変換を行うことが可能となる。
また、ステップS505において2つのマルチバンド信号値の距離を算出する処理において、Wiener推定等を使用し、双方のデータを分光反射率又は分光放射輝度に変換してもよい。先述の通り、単なるマルチバンド信号値から分光特性データへの変換では、教師データに起因する誤差が発生する。しかしながら、第1及び第2の実施形態では、同一の方法によって双方のデータを分光特性に変換するため、双方に同等の誤差が発生し、データ間の距離を算出する上で従来技術のような問題は生じない。出力信号の最適化時に比較データを分光特性に変換することにより、等色関数など、人間の視覚特性を考慮した色特性の比較を行うことが可能となる。
【0028】
なお、本発明の各工程は、ネットワーク又は各種記憶媒体を介して取得したソフトウェア(プログラム)をパーソナルコンピュータ等の処理装置(CPU、プロセッサ)にて実行することでも実現できる。
【符号の説明】
【0029】
101:マルチバンド画像入力装置 102、601:画像出力装置 109、608:色変換演算部 110:画像入力装置デバイスモデル部 111、610:画像出力装置デバイスモデル部 112、611:モデル反転部 609:分光放射輝度算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチバンド画像入力装置から取得したマルチバンド画像のマルチバンド信号値から出力信号値を導出する色変換演算手段と、
前記出力信号値を用いて前記マルチバンド画像を、画像出力装置が出力可能な出力画像に変換する色変換実行手段と、
を有し、
前記色変換演算手段は、
前記画像出力装置の入出力特性に基づいて、任意の出力信号値によって再現される分光放射輝度を推定する分光特性推定手段と、
前記分光放射輝度を用いて、推定マルチバンド信号値を生成するマルチバンド信号値推定手段と、
前記推定マルチバンド信号値と前記マルチバンド信号値との比較の結果に応じて前記出力信号値を導出する出力信号値導出手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記色変換演算手段は、
前記マルチバンド画像が前記マルチバンド画像入力装置に入力された際の照明光の分光照度を取得する分光照度取得手段を有し、
前記分光特性推定手段は、
前記画像出力装置の入出力特性に基づいて、任意の出力信号値によって再現される分光反射率を推定する分光反射率推定手段と、
前記分光反射率及び前記分光照度から前記分光放射輝度を算出する分光放射輝度算出手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像出力装置は記録媒体上に画像を形成する多色プリンタであることを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記マルチバンド画像入力装置の各チャンネルの分光感度に関する情報を取得する分光感度取得手段を有し、
前記マルチバンド信号値推定手段は、前記分光放射輝度及び前記分光感度を用いて前記推定マルチバンド信号値を生成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
マルチバンド信号値を出力信号値に変換するルックアップテーブルを生成するLUT生成手段を有し、
前記出力信号値導出手段は、前記ルックアップテーブルの各格子点について前記出力信号値を導出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
マルチバンド画像入力装置から取得したマルチバンド画像のマルチバンド信号値から出力信号値を導出する色変換演算ステップと、
前記出力信号値を用いて前記マルチバンド画像を、画像出力装置が出力可能な出力画像に変換する色変換実行ステップと、
を有し、
前記色変換演算ステップは、
前記画像出力装置の入出力特性に基づいて、任意の出力信号値によって再現される分光放射輝度を推定する分光特性推定ステップと、
前記分光放射輝度を用いて、推定マルチバンド信号値を生成するマルチバンド信号値推定ステップと、
前記推定マルチバンド信号値と前記マルチバンド信号値との比較の結果に応じて前記出力信号値を導出する出力信号値導出ステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項7】
コンピュータに、
マルチバンド画像入力装置から取得したマルチバンド画像のマルチバンド信号値から出力信号値を導出する色変換演算ステップと、
前記出力信号値を用いて前記マルチバンド画像を、画像出力装置が出力可能な出力画像に変換する色変換実行ステップと、
を実行させ、
前記色変換演算ステップは、
前記画像出力装置の入出力特性に基づいて、任意の出力信号値によって再現される分光放射輝度を推定する分光特性推定ステップと、
前記分光放射輝度を用いて、推定マルチバンド信号値を生成するマルチバンド信号値推定ステップと、
前記推定マルチバンド信号値と前記マルチバンド信号値との比較の結果に応じて前記出力信号値を導出する出力信号値導出ステップと、
を有することを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−109307(P2011−109307A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260853(P2009−260853)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】