説明

画像定着装置及び画像形成装置

【課題】本発明は、定着処理において被加熱体を所望の配熱分布で、高温度で効率高く加熱することができるとともに、立ち上がりが早く、エネルギー消費を低減することができる熱源を有する画像定着装置及び画像形成装置を提供すること。
【解決手段】本発明の画像定着装置は、未定着トナー画像が坦持された被記録部材を加熱する加熱体が加熱源として発熱体を有し、この発熱体が炭素系物質を含む材料によりフィルムシートで帯状に形成され、2次元的等方向性の熱伝導を有している。画像形成装置は画像定着プロセスに前記画像定着装置を有しており、エネルギーロスが少ない画像形成処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像定着のための熱源として発熱体ユニットを用いた画像定着装置、及び画像定着装置を備えた画像形成装置に関し、特に、優れた熱伝導性を有するフィルムシート状の発熱体を有する画像定着装置及び画像形成装置に関する。本発明に係る画像形成装置としては、例えば複写機、ファクシミリ、プリンタ、及びこれらの機能を備えた複合機等の熱源を必要とする機器が含まれる。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置における画像形成プロセスには、未定着トナー画像を担持した被記録部材、例えば紙を加圧するとともに高温度で加熱して画像を定着する画像定着装置が用いられている。
画像定着装置における熱源としては、発熱体ユニットが用いられている。画像定着装置に用いられている従来の発熱体ユニットとしては、タングステン材料により形成された発熱体を用いたハロゲンヒータ、或いは黒鉛等の結晶化炭素、抵抗値調整物質及びアモルファス炭素の混合物で形成された細長い板状の発熱体を用いたカーボンヒータが挙げられる。(特許文献1及び2参照。)
【特許文献1】特開2005−116412号公報
【特許文献2】特開2005−149809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の画像形成装置における熱源として用いられているハロゲンヒータは、電力給電時の立ち上りが早いという利点はあるが、突入電流が大きく、ハロゲンヒータをオンオフ制御するためには大容量の制御回路が必要となり、装置が大型化するとともにコスト的にも問題があった。更にヒータの制御により蛍光灯がちらつく(フリッカ現象)という問題も有している。
また、カーボンヒータにおいては、突入電流はほとんど発生しないため、発熱体への電力供給時に電圧が降下するという問題や、蛍光灯がちらつく(フリッカ現象)という問題は低減されるが、立ち上がりに時間がかかり、画像形成プロセスにおける定着処理に時間がかかり、定着処理時にエネルギー消費が増えるという問題があった。
【0004】
一方、黒鉛等の結晶化炭素、抵抗値調整物質及びアモルファス炭素の混合物で形成された板状の発熱体を用いたカーボンヒータにおいては、炭素系物質の赤外線放射率が78〜84%と高いため、炭素系物質を発熱体として用いることにより、カーボンヒータからの赤外線放射率が高くなり、効率の高い熱源を構築することが可能となる。しかし、カーボンヒータに用いられていた発熱体は、厚み(例えば、数mm)を有する板状の発熱体であり、ある程度大きな熱容量を有しており、電力供給時の立ち上がりに時間がかかるという問題があった。
【0005】
また、カーボンヒータに用いられていた発熱体は、その発熱体温度にかかわらず抵抗値が略一定で、突入電流がほとんど発生しない温度抵抗特性を有している。このように従来の発熱体においては突入電流がほとんど発生しないため、発熱体への電力供給時に電圧が降下するという問題や、蛍光灯がちらつく(フリッカ現象)という問題は低減されるが、立ち上がりに時間がかかり、画像形成プロセスにおける定着処理に時間がかかり、定着処理時にエネルギー消費が増えるという問題があった。
【0006】
本発明は、定着処理において被加熱体を所望の配熱分布で、高温度で効率高く加熱することができるとともに、立ち上がりが早く、エネルギー消費を低減することができる熱源を有する画像定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る第1の観点の画像定着装置は、
未定着トナー画像が坦持された被記録部材を加熱する加熱体と、
前記加熱体に対向して配設され、前記加熱体に対して前記被記録部材を介して加圧する加圧体と、を具備し、
前記加熱体が加熱源として発熱体を有し、前記発熱体が炭素系物質を含む材料によりフィルムシートで帯状に形成され、2次元的等方向性の熱伝導を有する。このように構成された本発明に係る第1の観点の画像定着装置は、立ち上がりが早く、エネルギー消費を低減することができる。
【0008】
本発明に係る第2の観点の画像定着装置において、前記第1の観点の前記発熱体は、炭素系物質を含む材料により形成された層間構造を有する。このように構成された本発明に係る第2の観点の画像定着装置は、立ち上がりが早く、被記録部材を所望の配熱分布で効率高く加熱することができ、信頼性の高い画像定着が可能となる。
【0009】
本発明に係る第3の観点の画像定着装置において、前記第2の観点の前記発熱体は、通電による平衡点灯時の抵抗の値を未通電時の抵抗の値で除算した抵抗変化率の値が1.2から3.5の範囲であり、発熱体温度と抵抗値が比例する正特性を有する。このように構成された本発明に係る第3の観点の画像定着装置は、立ち上がりが早く、被記録部材を所望の配熱分布で、且つ高精度で効率高く加熱することができる。
【0010】
本発明に係る第4の観点の画像定着装置において、前記第3の観点の前記発熱体は、厚みが300μm以下の薄膜体であってもよい。このように構成された本発明に係る第4の観点の画像定着装置は、熱容量が少なく、立ち上がりが早い熱源を用いて、エネルギー消費を低減した定着が可能となる。
【0011】
本発明に係る第5の観点の画像定着装置において、前記第3の観点の前記発熱体は、密度が1.0g/cm以下の軽膜体であってもよい。このように構成された本発明に係る第5の観点の画像定着装置は、熱容量が少なく、立ち上がりが早い熱源を用いて、エネルギー消費を低減した定着が可能となる。
【0012】
本発明に係る第6の観点の画像定着装置において、前記第3の観点の前記発熱体は、熱伝導率が200W/m・K以上の材料で形成されてもよい。このように構成された本発明に係る第6の観点の画像定着装置は、発熱体が優れた熱伝導を有するため、均一な配熱分布の加熱が可能となる。
【0013】
本発明に係る第7の観点の画像定着装置において、前記第3乃至6の観点の前記加熱体は、前記発熱体とともに当該発熱体の対向する両端に電力を供給する電力供給部の一部を収納する容器を有し、前記容器が内部に不活性ガスを充填して前記電力供給部において封止された構造を有してもよい。このように構成された本発明に係る第7の観点の画像定着装置は、信頼性の高い熱源を有する画像定着装置となり、所望の配熱分布で、高温度で効率高く加熱することが可能となる。
【0014】
本発明に係る第8の観点の画像定着装置において、前記第3乃至7の観点の前記加熱体には、前記発熱体による加熱領域を規定するための反射部が設けられている。このように構成された本発明に係る第8の観点の画像定着装置は、加熱領域を所望の配熱分布で、高温度で効率高く加熱することが可能となり、信頼性の高い定着処理が可能となる。
【0015】
本発明に係る第9の観点の画像定着装置において、前記第3乃至8の観点の前記加熱体に前記発熱体が複数設けられており、複数の前記発熱体における長手方向の各中心軸が、前記被記録部材の搬送方向に直交して直線上に配置されてもよい。このように構成された本発明に係る第9の観点の画像定着装置は、被記録部材に応じて加熱領域を切り替えることが可能となり、高温度で効率の高い加熱を所望の領域に特定することが可能となる。
【0016】
本発明に係る第10の観点の画像定着装置において、前記第3乃至9の観点の前記加熱体において、前記発熱体に対向する面に赤外線を吸収する部材により膜体を形成してもよい。このように構成された本発明に係る第10の観点の画像定着装置は、加熱体が発熱体からの熱を効率高く吸収して、被記録部材に対する高温度で効率の高い加熱が可能となる。
【0017】
本発明に係る第11の観点の画像定着装置において、前記第3乃至10の観点の前記発熱体の加熱範囲は、前記加熱体と前記加圧体とによる前記被記録部材の押圧部位であるニップ部と、当該ニップ部より被記録部材の搬送方向における上流側の部位とを含むものとしてもよい。このように構成された本発明に係る第11の観点の画像定着装置は、画像定着処理を効率高く、確実に行うことができる。
【0018】
本発明に係る第12の観点の画像形成装置において、前記第1乃至11の観点のいずれかの画像定着装置を備えている。このように構成された本発明に係る第12の観点の画像形成装置は、被加熱体である被記録部材を所望の配熱分布で、且つ高温度に加熱することができるとともに、立ち上がりが早く、エネルギーロスを低減して高精度な加熱制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被加熱体である被記録部材を所望の配熱分布で、且つ高温度に加熱することができる効率の高い熱源を有する画像定着装置及び画像形成装置を提供することが可能となる。特に、本発明によれば、立ち上がりが早く、エネルギー消費を低減した定着処理を行うことができる画像定着装置及び画像形成装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る画像定着装置及びその画像定着装置を用いた画像形成装置の好適な実施の形態について添付の図面を参照しつつ説明する。
【0021】
本発明者らは、従来の画像定着装置において用いられていた発熱体とは材料及び製造方法において全く異なる新たなフィルムシート状の材料を発熱材料として発熱体に適用して、画像定着装置の新たな熱源としての発熱体ユニットの開発に取り組んできた。その新たな熱源としての発熱体ユニットに用いる発熱体に適用しようとするフィルムシート状の材料は、後述するように、効率が高く高温度になると共に、軽薄であるため熱容量が少なく、優れた立ち上がり特性を有している。
【0022】
(実施の形態1)
本発明に係る実施の形態1の画像定着装置について図1から図3を用いて説明する。
画像形成装置の画像形成プロセスにおいて、帯電装置により一様に帯電された感光ドラムの表面には、露光装置により指定された静電潜像が形成され、その静電潜像に応じて現像装置によりトナー画像が形成される。感光ドラム表面に形成されたトナー画像は、搬送されてきた紙等の被記録部材上に転写装置により転写される。このように転写された未定着トナー画像を担持した被記録部材、例えば紙は、画像定着を行う画像定着装置に搬送される。画像定着装置は、未定着トナー画像を担持した被記録部材を加圧及び加熱して、未定着トナー画像を被記録部材上に定着する。
【0023】
なお、実施の形態1においては単色画像の画像形成プロセスについて説明するが、カラー画像の画像形成プロセスは、上記の感光ドラムが4色のカラートナーに対応するよう4組並設されており、各色のトナー画像が転写ベルトに順次転写されて、カラー画像が被記録部材上に順次転写される構成である。被記録部材上に転写されたカラー画像は、画像定着装置において加圧及び加熱されて定着される。
【0024】
図1は、実施の形態1の画像定着装置における主要な構成を示す図である。上記のように、画像定着装置は、画像形成プロセスにおいて、未定着トナー画像を担持した被記録部材を加圧するとともに高温度で加熱して、未定着トナー画像を溶融して、被記録部材に定着する。
【0025】
図1において、実施の形態1の画像定着装置は、被記録部材11上に坦持された未定着トナー画像12を加熱して溶融する加熱体である定着ローラ13と、未定着トナー画像12を担持した被記録部材11を定着ローラ13に押し付けて加圧し、未定着トナー画像12を被記録部材11に圧着する加圧ベルト14と、加圧ベルト14を定着ローラ13に所望の力で押し付けるように回動させる2つの加圧ローラ15,15と、を備えている。実施の形態1の画像定着装置においては、加圧ベルト14及び加圧ローラ15,15により加圧体が構成されている。
【0026】
なお、実施の形態1の画像定着装置においては、加圧ベルト14により被記録部材11を定着領域であるニップ部9に搬送して加圧定着する構成であるが、定着ローラ13に対向して配置された加圧ローラ15,15により被記録部材11を定着ローラ13に押し付けて加圧する構成も可能である。また、実施の形態1の画像定着装置においては、加熱体を定着ローラ13で構成した例で説明するが、ローラにより回動するベルトにより加熱体を構成することも可能である。
【0027】
図1に示すように、定着ローラ13の内部には発熱体2を有する発熱体ユニット10が設けられている。発熱体ユニット10において、発熱体2は定着ローラ13を加熱するための熱源であり、発熱体2は容器1内部に封入されている。発熱体2を封入する長尺の容器1の周りには開口を有する筒状の反射部16が設けられている。反射部16はステンレス製であり、内面が鏡面仕上げになっている。反射部16に形成されている開口16aは、発熱体2の長手方向と平行に延設されている。反射部16の開口16aは、発熱体2から輻射された熱を反射部16の内面において反射した熱と共に、定着ローラ13と加圧ベルト14による定着領域のニップ部9に向けて放射するための開口である。実施の形態1の画像定着装置においては、発熱体ユニット10による加熱される領域が、ニップ部9における被記録部材11の搬送方向の最上流側になるよう反射部16の開口が向けられている。また、発熱体ユニット10の帯状の発熱体2の平面側もニップ部9における被記録部材11の搬送方向の最上流側に向けられている。
なお、実施の形態1の画像定着装置においては発熱体ユニット10の周りに反射部16を設けた構成で説明するが、本発明に係る画像定着装置においては反射部を設けずに、発熱体ユニット10によりその周りの定着ローラ13を加熱する構成でもよい。
【0028】
実施の形態1の画像定着装置においては、発熱体ユニット10から輻射された熱が定着ローラ13において効率高く吸収され、且つ保温できるように、定着ローラ13が複数の層から構成されている。定着ローラ13の内面には発熱体ユニット10からの熱(赤外線)を吸収して反射しない赤外線吸収層が設けられている。
【0029】
なお、実施の形態1の画像定着装置においては、単数の発熱体ユニット10を設けた例で説明するが、発熱体ユニット10は複数設けてもよい。発熱体ユニット10を複数設ける場合には、発熱体ユニット10における長手方向の各中心軸が、被記録部材11の搬送方向に直交して直線上に配置される。このように複数の発熱体ユニット10が定着ローラ13の内部に設けられた画像定着装置は、被記録部材11のサイズに応じて給電する発熱体ユニット10を選択できる構成となる。本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10は、フィルムシート状の帯体であるため、その平面部分からの熱輻射量が側面部分からの熱輻射量に比べて非常に多く、高い指向性を有している。したがって、複数の発熱体ユニット10を設けた画像定着装置においては、隣り合う発熱体ユニット10により重複加熱される領域を小さく設定することができ、効率が高く均一にニップ部近傍を加熱することが可能となる。
また、実施の形態1の画像定着装置においては、発熱体ユニット10の配設数が単数、複数にかかわらず、後述するように、発熱体ユニット10に用いたフィルムシート状の発熱体2が高い指向性を持つとともに、優れた立ち上がり特性を有するため、画像形成プロセスにおける画像定着処理を効率高く高速度で処理することが可能となる。
【0030】
実施の形態1の画像定着装置の発熱体ユニット10においては、耐熱性を有する細長い容器1の内部にフィルムシート状で帯体の発熱体2が配置されている。帯状の発熱体2は容器1の長手方向に沿って延設され配置されている。発熱体ユニット10においては、容器1が透明な石英ガラス管により形成されており、石英ガラス管の両端部分が平板状に溶着されて容器1が封止されている。発熱体2等を収容する容器内部には、不活性ガスとしてのアルゴンガスが封入されている。容器内部に封入可能な不活性ガスとしては、アルゴンガスに限定されるものではなくアルゴンガスの他に、窒素ガス又はアルゴンガスと窒素ガス、アルゴンガスとキセノンガス、アルゴンガスとクリプトンガス等の混合ガスを用いても本願発明と同様の効果を得ることは言うまでもなく、目的に応じ適宜選択することが可能である。容器1の内部に不活性ガスを封入するのは、高温度で使用した際において、容器内部の炭素系物質である発熱体2の酸化を防止するためである。なお、容器1の材料としては、耐熱性、絶縁性及び熱透過性を有する材料であれば用いることができ、例えば石英ガラスの他に、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等のガラス材、及びセラミック材等から適宜選択される。
【0031】
図2は実施の形態1の画像定着装置における発熱体ユニット10を示す平面図である。図3は図2の発熱体ユニット10の側面図である。なお、図2及び図3に示す発熱体ユニット10の構成は、本発明に係る画像定着装置の熱源における一例であり、本発明はこの構成に限定されるものではない。本発明に係る画像定着装置における熱源としては後述するフィルムシート状の発熱体2を含むものであり、発熱体ユニットにおけるその他の構成は製品仕様などにより適宜設定される。
図2及び図3に示すように、実施の形態1の画像定着装置における発熱体ユニット10は、容器1と、熱輻射膜体としての細長い帯状の発熱体2と、この発熱体2を容器内の所定位置に保持するために発熱体2の長手方向の両端部分に設けられ、発熱体2に電力を供給するための電力供給部8と、を備えている。
【0032】
発熱体2の両端に設けられた電力供給部8は、発熱体2の両端に取り付けられた保持具3、サポートリング4、内部リード線部5、モリブデン箔6、及び外部リード線部7を含んでいる。保持具3には内部リード線部5が固定されており、内部リード線部5は容器1の両端部分の封着部分(溶着部分)に埋設されたモリブデン箔6を介して、容器1の両端から容器外部に導出する外部リード線部7と電気的に接続されている。
【0033】
図2及び図3に示すように、内部リード線部5には、位置規制機能を有する位置規制部であるサポートリング4が取り付けられている。内部リード線部5は、一本の線材、例えばモリブデン線をコイル状に形成したものである。
なお、実施の形態1における内部リード線部5は、モリブデン線により形成された例で説明するが、タングステン、ニッケル、ステンレス等を材料とした金属線(丸棒形状、平板形状)を用いて形成してもよい。
【0034】
以上のように、実施の形態1の画像定着装置の発熱体ユニットにおいては、保持具3、サポートリング4、内部リード線部5、モリブデン箔6、及び外部リード線部7により構成された電力供給部8が、発熱体2の両側に設けられて、発熱体2に電力を供給するととものに、発熱体2を容器内の所定位置に張設している。
【0035】
発熱体2の端部は保持具3により平面側と裏面側が挟み付けらており、保持具3の略中央に形成された貫通孔と発熱体2の端部に形成された貫通孔が内部リード線部5の端部により貫通されている。内部リード線部5は、その発熱体側端部が屈曲されて、いわゆるL字状に形成されている。このL字に屈曲した内部リード線部5の先端が、発熱体2を挟んだ保持具3の貫通孔を貫通して突出している。
【0036】
保持具3の貫通孔から突出した内部リード線部5の突出端部5aには、抜け落ち防止手段(脱落防止手段)が施されている。図4に示すように、内部リード線部5の突出端部5aは、プレス加工、溶融等により塑性変形して潰された状態である。即ち、内部リード線部5における突出端部5aは、保持具3の貫通孔の直径より大きな形状に加工されており、抜け落ち防止手段が施されている。
【0037】
発熱体ユニット10のサポートリング4は、内部リード線部5に巻き付けられて固定され、コイル状に形成されている。
サポートリング4は、発熱体2に電力を供給するための内部リード線部5に巻着する構成であり、サポートリング4には外部リード線部7から発熱体2への電流径路が通らない構成である、即ち、サポートリング4は内部リード線部5における電流径路に介在しない構成である。このように、サポートリング4は発熱体2への電流が流れない構成となるため、その電流により発熱することがない。実施の形態1におけるサポートリング4は、発熱体2の位置規制機能を有するとともに、発熱体2から伝導してきた熱を放熱する放熱機能としても機能する。
【0038】
サポートリング4は、モリブデン線により形成された例で説明するが、発熱体2を位置規制できる剛性を有して、優れた熱伝導(放熱機能)と加工の容易な材料であれば、サポートリング4として用いることが可能であり、例えばニッケル、ステンレス、タングステン等の金属材料等を用いることができる。但し、サポートリング4は、発熱体2の長さ、容器1の内径と発熱体2との寸法差など、発熱体ユニットにおける構成及び仕様によっては必ずしも必要な構成要素ではない。
【0039】
発熱体ユニット10では、発熱体2の材料自体が伸縮性を有し、且つ発熱体2の形状パターンが伸縮性を有するため、発熱体2における膨張収縮による変化を吸収するための機構が不要である。特に、実施の形態1において用いた発熱体2は熱膨張率が小さいため、製造時に張力を加えた状態で配設(張設)された発熱体2は、発熱時の膨張を発熱体自体及び発熱体2の形状パターンによる伸縮性により吸収できるものである。
【0040】
本発明に係る実施の形態1の画像定着装置の発熱体ユニット10において用いた発熱体2は、炭素系物質を主成分とし厚み方向において複数のフィルムシート素材の各層が互いに空隙を介して積層され、優れた二次元的等方向性の熱伝導性を有しており、熱伝導率が200W/m・K以上を有するフィルムシート状の材料で形成されている。したがって、帯状の発熱体2は温度ムラがなく均一に発熱する熱源となる。
【0041】
ここで、二次元的等方向性の熱伝導とは、直交するX軸とY軸で設定される面における、あらゆる方向の熱伝導率が略同じであることを示すものである。したがって、本発明において二次元的等方向性とは、例えば炭素繊維が同じ方向に並設して形成された発熱体における炭素繊維方向である1方向(X軸方向)、又は炭素繊維をクロスに編んで形成された発熱体における炭素繊維方向である2方向(X軸方向とY軸方向)だけを指すものではなく、フィルムシート状の発熱体2における面方向において同じ性質を持つことを言う。
【0042】
発熱体2の材料であるフィルムシート素材は、高分子フィルム又はフィラーを添加した高分子フィルムを高温度、例えば2400℃以上の雰囲気中にて熱処理し、焼成してグラファイト化した耐熱性を有する高配向性のグラファイトフィルムシートであり、面方向の熱伝導率が200W/m・K以上であり、特に本発明に係る発熱体2の熱伝導率は600から950W/m・Kの特性を示す。
【0043】
本発明において用いられる発熱体2の材料であるフィルムシート素材は、積層構造を有し、面方向の層表面が平坦な面、凹凸面或いは波うつ面等の各種の面形状を有しており、対向する各層の間には空隙が形成されている。このフィルムシート素材の積層構造において、各層間に形成される空隙の形成状態のイメージは、複数回(例えば、何十回、何百回)と重ね合わせるように折り曲げてパイ生地を作り、そのパイ生地を焼いて得た、パイの断面形状と類似している。即ち、発熱体2は、炭素系物質を含む材料により形成された複数の膜体が積層されて、積層方向が一部固着された層間構造を有しており、厚み方向に柔軟性を有するフィルムシート素材である。したがって、本発明における発熱体2の材料であるフィルムシート素材は、前述のように、面方向の熱伝導率が略同じである優れた二次元的等方向性の熱伝導を有する材料である。
【0044】
前述のように製造されたフィルムシート素材として用いられる高分子フィルムとしては、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリピロメリットイミド(ピロメリットイミド)、ポリフェニレンイソフタルアミド(フェニレンイソフタルアミド)、ポリフェニレンベンゾイミタゾール(フェニレンベンゾイミタゾール)、ポリフェニレンベンゾビスイミタゾール(フェニレンベンゾビスイミタゾール)、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレンのうちから選ばれた少なくとも一種類の高分子フィルムを挙げることができる。また、高分子フィルムに添加されるフィラーとしては、リン酸エステル系、リン酸カルシウム系、ポリエステル系、エポキシ系、ステアリン酸系、トリメリット酸系、酸化金属系、有機錫系、鉛系、アゾ系、ニトロソ系およびスルホニルヒドラジド系の各化合物を挙げることができる。より具体的には、リン酸エステル系化合物として、リン酸トリクレジル、リン酸(トリスイソプロピルフェニル)、トリブチルホスフェ−ト、トリエチルホスフェ−ト、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリスブトキシエチルフォスフェート等を挙げることができる。リン酸カルシウム系化合物としては、リン酸二水素カルシウム、リン水素カルシウム、リン酸三カルシウム、等を挙げることができる。また、ポリエステル系化合物としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸などと、グリコール、グリセリン類との反応により得られるポリマー等を挙げることができる。また、ステアリン酸系化合物としては、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、クエン酸アセチルトリブチル等を挙げることができる。酸化金属系化合物としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉛等を挙げることができる。トリメリット酸系化合物としては、ジブチルフマレート、ジエチルフタレート等を挙げることができる。鉛系化合物としては、ステアリン酸鉛、ケイ酸鉛等を挙げることができる。アゾ系化合物としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等を挙げることができる。ニトロソ系化合物としては、ニトロソペンタメチレンテトラミン等を挙げることができる。スルホニルヒドラジド系化合物としては、p−トルエンスルホニルヒドラジド等を挙げることができる。
【0045】
前記フィルムシート素材を積層し、不活性ガス中において2400℃以上で処理し、グラファイト化の過程で発生するガス処理雰囲気の圧力を調整することにより制御してフィルムシート状の発熱体が製造される。更に、必要に応じて、前記のように製造されたフィルムシート状の発熱体を圧延処理することにより、さらに良質のフィルムシート状の発熱体を得ることができる。このように製造されたフィルムシート状の発熱体を本発明の発熱体ユニットにおける発熱体2として用いる。
【0046】
なお、前記フィラーの添加量は、0.2〜20.0重量%の範囲が適当であり、より好ましくは1.0〜10.0重量%の範囲である。その最適添加量は、高分子の厚さによって異なり、高分子の厚さが薄い場合には添加量が多い方がよく、厚い場合には添加量は少なくてよい。フィラーの役割は熱処理後のフィルムを均一発泡の状態にすることにある。即ち、添加されたフィラーは、加熱中にガスを発生し、このガスの発生した後の空洞が通り道となってフィルム内部からの分解ガスの穏やかな通過を助けるものである。フィラーはこのように均一発泡状態を作り出すのに役立つ。
【0047】
上記のように製造されたフィルムシート素材は、例えばトムソン型やピナクル型の抜き型、ロータリーダイカッタ等の鋭利な刃物、若しくはレーザー加工等により所望の形状に加工される。
【0048】
図2に示すように、実施の形態1における発熱体2の発熱部には、複数のスリットが発熱体2の長手方向に直交する方向に延設されている。発熱部に形成されている複数のスリットは、発熱部における電流の流れ方向を規制し、抵抗値を調整するものである。発熱部に形成されるスリット形状としては、その発熱体ユニット10が用いられる製品仕様及び用途等に応じて貫通した溝や、有底の溝等がある。また、凹部溝においては、その厚み方向の深さを変更することにより発熱部の抵抗値を調整することが可能である。
【0049】
また、実施の形態1における発熱体2にスリットを形成することにより、発熱体自体の伸縮性と合わせて、このスリット形状による伸縮性により、発熱体2が大きな伸縮性を持つ特性を有するものとなる。
【0050】
以下、本発明に係る実施の形態1の画像定着装置において熱源として用いた発熱体ユニット10の発熱体2の特性について説明する。
【0051】
発明者らは、本発明に係る画像定着装置において用いた発熱体ユニット10の発熱体2、背景技術の欄で説明した炭素系物質を主成分とした細長い板状の発熱体を用いたヒータ(以下、カーボンヒータと略称)、及び参考例としてハロゲンランプを用いたヒータ(以下、ハロゲンヒータと略称)に関して、100V、600Wの仕様のヒータに構成して、温度[℃]と抵抗[Ω]の関係を示す温度特性の比較実験を行った。
図4は発熱体ユニット10の発熱体2における温度[℃]と抵抗[Ω]の関係を示す温度特性図である。図4において、実線Xが本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の発熱体2の温度特性である。また、図4において、破線Yがカーボンヒータの温度特性であり、一点鎖線Zが参考例としてのハロゲンヒータの温度特性である。
【0052】
図4に示すように、本発明に係る実施の形態1の画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の発熱体2は温度が高くなるにしたがい抵抗が増加する正特性を有している。実験によれば、例えば発熱体2の温度が20℃(未通電時)のとき、抵抗値は9.2Ωであり、平衡点灯時の温度が1120℃のとき、抵抗値は16.7Ωであった。したがって、発熱体2の未通電時と平衡点灯時の抵抗値の変化率(抵抗変化率)は1.81である。なお、ここで平衡点灯時とは、ヒータに電圧(例えば、100V)を印加し電力が供給されて発熱体に電流が流れ、発熱体の発熱温度が一定となったときを言う。また、抵抗変化率とは発熱体2における通電による平衡点灯時の抵抗の値を未通電時の抵抗の値で除算した値のことをいう。
【0053】
一方、従来の発熱体である破線Yで示すカーボンヒータの温度特性は、温度が変わっても略一定の抵抗値を示している。発明者らの実験によれば、カーボンヒータの温度が20℃(未通電時)のとき、抵抗値は15.9Ωであり、平衡点灯時の温度が1030℃のとき、抵抗値は16.7Ωであった。したがって、カーボンヒータの未通電時と平衡点灯時の抵抗変化率は1.05である。また、一点鎖線Zで示すハロゲンヒータの場合、温度が20℃(未通電時)のとき、抵抗値は1.8Ωであり、平衡点灯時の温度が1830℃のとき、抵抗値は16.7Ωであった。したがって、ハロゲンヒータの未通電時と平衡点灯時の抵抗変化率は9.28である。
【0054】
なお、実施の形態1の画像定着装置に用いた発熱体2を用いて、平衡点灯時の温度が500℃になるように電力を供給した場合においても、図4において実線Xで示した立ち上がり特性であり、500℃のときの抵抗値は11.0Ωであった。したがって、この発熱体2の未通電時と平衡点灯時の抵抗変化率は1.2(=11.0/9.2)である。
【0055】
また、実施の形態1の画像定着装置に用いた発熱体2を用いて、平衡点灯時の温度が2000℃になるように電力を供給した場合には、図4において実線Xに続く2点破線で示した立ち上がり特性であり、2000℃のときの抵抗値は32.2Ωであった。したがって、この発熱体2の未通電時と平衡点灯時の抵抗変化率は3.5(=32.2/9.2)である。
【0056】
上記のように、実施の形態1の画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の発熱体2は、温度が高くなるにしたがい抵抗が増加する正特性を有している。例えば、平衡点灯時の温度設定を500℃とした場合、平衡点灯時の抵抗値が11.0Ωとなり抵抗変化率が1.2であった。また、平衡点灯時の温度設定を2000℃とした場合、平衡点灯時の抵抗値が32.2Ωとなり抵抗変化率が3.5であり、温度と抵抗値が略比例した特性を示している。
【0057】
また、実施の形態1の画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の発熱体2は、定格の通電による平衡点灯時の抵抗値を未通電時の抵抗値で除算した抵抗変化率が1.81であった。このように、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の発熱体2は、未通電時でもある程度の抵抗(9.2Ω)を有しており、未通電時と平衡点灯時との抵抗変化率が1.81である。
【0058】
本発明に係る発熱体ユニット10の発熱体2は、抵抗変化率を1.2から3.5の範囲内となるよう電力またはヒータ温度を設定することにより、所望の温度で高精度に発熱させることができるとともに、発熱体ユニット10の点灯時において、大きな突入電流を発生させることなく、発熱時の立ち上がりを早くする効果を奏する。なお、未通電時と平衡点灯時との抵抗変化率が1.2から3.5の範囲内であるとき、発熱時の立ち上がりが早くなるとともに、後述するように当該発熱体ユニット10を制御するための機器に大きな容量のものを必要としなくなる。抵抗変化率が1.2未満の発熱体を用いた場合には、温度が低く、突入電流が小さく、そして立ち上がりの遅い画像定着装置となる。一方、抵抗変化率が3.5を超える発熱体を用いた場合には、大きな突入電流が発生するため、信頼性を確保するため各構成要素のマージンを大きく設定する必要があり、構成要素の容量が増大して、製造コストの増大、装置の大型化という問題がある。
【0059】
一方、カーボンヒータを熱源として用いた場合には、温度に関係なく抵抗値が略一定であるため、点灯時において突入電流が発生せず、略一定の電流が流れる。したがって、カーボンヒータを熱源として用いた場合には、発熱温度の上昇速度(立ち上がり)が遅く、所定温度となるまでに時間がかかるという問題がある。このため、画像定着装置の熱源として用いた場合には、ニップ部が所望温度になるまで時間を要し、画像定着処理に時間がかかるとともに、いわゆるクイックスタートに時間がかかるという問題がある。
【0060】
発熱体ユニット10の発熱体2の固有抵抗値が250μΩ・cmであり、カーボンヒータのカーボンの固有抵抗値が3000〜50000μΩ・cmであり、ハロゲンヒータのタングステンの固有抵抗値が5.6μΩ・cmである。上記のように、カーボンの固有抵抗値が他のヒータの材料に比べて非常に高いため、電流変化の少ない設計とともに電力供給時の突入電流が発生しにくい設計が可能となる。また、発熱体2の固有抵抗値は、カーボンの固有抵抗値より小さいが、タングステンの固有抵抗値より大きいため、発熱体10においてはタングステンの発熱体に比べ設計が容易となる。
【0061】
また、発熱体ユニット10の発熱体2の密度が0.5〜1.0g/m(厚みにより異なる)であり、カーボンヒータのカーボンの密度が1.5g/mであり、ハロゲンヒータのタングステンの密度が19.3g/mである。このように、発熱体2の密度は他のヒータの材料に比べて軽いため、また発熱体2は帯状の薄膜体であるため、他のヒータに比べて熱容量が非常に小さく、立ち上がりが早くなることが理解できる。
【0062】
図5は、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10、及び従来のヒータであるカーボンヒータとハロゲンヒータの立ち上がり特性を調べた結果を示すグラフである。
図5において、実線Xが本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の立ち上がり特性である。また、図5において、破線Yが前述の炭素系物質を主成分とした細長い板状の発熱体を用いたカーボンヒータの立ち上がり特性であり、一点鎖線Zがハロゲンランプを用いたハロゲンヒータの立ち上がり特性である。図5に示す特性図においては、100V、600Wの仕様の構成の各ヒータを用いて、点灯から5秒後までの立ち上がり特性を示している。
【0063】
図5のそれぞれの立ち上がり特性から分かるように、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の立ち上がり特性(図5の実線X)は、従来の熱源であるカーボンヒータ(図5の破線Y)の立ち上がり特性に比べて、早い立ち上がりを示している。発明者らの実験によれば、平衡点灯時の温度の90%到達時間は、発熱体ユニット10が0.6秒であったのに対してカーボンヒータが2.7秒であった。また、ハロゲンヒータの場合の90%到達時間は、1.1秒であった。
【0064】
上記のように、発熱体ユニット10、カーボンヒータ、及びハロゲンヒータの各ヒータにおける平衡点灯時までの立ち上がり時間が異なるため、その立ち上がり時間において消費される電力は大きく異なることになる。例えば、前述の実験で用いた各ヒータにおいて起動時の電流変化はあるが、6Aを消費したと仮定した場合、平衡点灯時の温度の90%到達時までの時間が発熱体ユニット10では0.6秒であるため、その時間の電力消費量は約360W・Sである。一方、カーボンヒータにおいて平衡点灯時の温度の90%到達時までの時間は、2.7秒であるため、その時間の電力消費量は約1620W・Sである。また、ハロゲンヒータにおいて平衡点灯時の温度の90%到達時までの時間は、1.1秒であるため、その時間の電力消費量は約600W・Sである。
このように、発熱体ユニット10における平衡点灯時までの電力消費量は、他のヒータに比べて大幅に少なく、画像定着装置においては定着処理が頻繁に行われてオンオフが繰り返されるため、その差は非常の大きなものとなり、エネルギー消費が大幅に削減される。
【0065】
なお、ハロゲンヒータにおいて到達時間が比較的に短いのは、図4に示したように、未通電時の抵抗値が低く、電力供給初期において大きな突入電流が発生しているためである。前述のハロゲンヒータにおける電力消費量の計算で6Aを消費すると仮定して計算したが、実際には、ハロゲンヒータの電力供給初期における0〜5秒間の安定する期間では、大きな突入電流が流れるため、その期間の消費電力が更に大きな値となる。
図6は各ヒータにおける電力供給初期の突入電流を比較した図であり、電力供給初期から1.0秒後までの電流波形を示している。図6において、(a)は本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の立ち上がり時の電流波形であり、(b)は従来のカーボンヒータの立ち上がり時の電流波形であり、(c)はハロゲンヒータの立ち上がり時の電流波形である。
【0066】
図6の(a)に示すように、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10は、電力供給初期の電流の実効値が15.75Aであり、電力供給初期から1.0秒後の電流の実効値が9.00Aであった。即ち、発熱体ユニット10においては突入電流の発生は認められるが、その大きさは平衡点灯時の電流の2倍以下となっている。
【0067】
図6の(b)に示すカーボンヒータの場合は突入電流がほとんど無く、電力供給初期の電流の実効値が9.00Aであり、電力供給初期から1.0秒後の電流の実効値が8.75Aであった。一方、図6の(c)に示すハロゲンヒータの場合は、大きな突入電流が発生しており、電力供給初期の電流の実効値が64.75Aであり、電力供給初期から1.0秒後の電流の実効値が10.38Aであった。ハロゲンヒータは前述の図4に示したように、未通電時と平衡点灯時の抵抗変化率が9.27という5倍以上の大きな値を有しているため、大きな突入電流が発生する。このような大きな突入電流が発生することは、立ち上がりが早くなるという特性を有する一方で、当該ハロゲンヒータを使用する機器において大電流に耐える大容量の要素を使用しなければならず問題を有する。例えば、スイッチング素子としてのサイリスタは電流容量の大きなものが必要であり、また機械的接点においても大電流で溶着しないように遮断容量が大きな接点を使用する必要がある。また、ハロゲンヒータはその発熱原理(ハロゲンサイクル)から電圧制御を行うことが困難であり、オンオフの切替え制御のみであるため、精度の高い温度制御ができないという問題を有する。
【0068】
上記のように、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10は、未通電時と平衡点灯時の変化率が1.81であり、ある程度の突入電流が発生する特性を有しているため、立ち上がりが早くなり、平衡点灯時までの時間が短くなり、優れた応答性を有する熱源となる。このため、画像定着装置の熱源として発熱体ユニット10を用いることは、画像定着装置としての性能を高め、エネルギー消費が少ない省エネルギーを達成できる機器とすることができる。
また、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10は、ハロゲンヒータのように大きな突入電流を発生させない特性を有しているため、当該発熱体ユニット10を使用する機器に大電流に耐える大容量のものを使用する必要が無く、製造コストの低減及び小型化を図ることが可能となる。なお、ここで大きな突入電流とは、電力供給初期の電流が電力供給初期から1.0秒後の電流の5倍以上のものをいう。
【0069】
本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニットにおいては、電力供給初期の電流が電力供給初期から1.0秒後の電流の3.5倍以下となるよう設定される。このように、発熱体ユニットにおいて、電力供給初期の電流が電力供給初期から1.0秒後の電流の3.5倍以下となるよう設定することにより、立ち上がりが早く、優れた応答性を有する熱源となるとともに、当該発熱体ユニットを使用する機器に大電流に耐える大容量のものを使用する必要が無く、製造コストの低減及び小型化を図ることが可能となる。
【0070】
図7は、発熱体ユニット10、カーボンヒータ、及びハロゲンヒータの各ヒータにより被加熱体としての銅板を加熱したときの銅板温度の測定結果を示している。図7において、実線Xが発熱体ユニット10による銅板の温度上昇曲線であり、破線Yがカーボンヒータによる銅板の温度上昇曲線であり、一点鎖線Zがハロゲンヒータによる銅板の温度上昇曲線である。
【0071】
図7に示す銅板温度測定実験において、被加熱体としての銅板片は65mm(L)x65mm(W)x0.5mm(t)を使用し、加熱体であるヒータと対向する加熱面には黒色塗装を施した。各ヒータの長さは300mmの長尺ヒータであり、100V、600Wの仕様のものを使用した。銅板片とヒータとの対向距離は300mmであり、銅板片の加熱面の反対側である裏面に熱電対を取り付けて銅板温度を測定した。
【0072】
図7に示すように、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10は、他のヒータに比べて同じ仕様にもかかわらず、被加熱体である銅板を最も早く温度上昇させるとともに、高温度に加熱している。ハロゲンヒータはその発熱体であるタングステン線が高温度となるが、タングステンの放射率(約0.18)が低いため被加熱体の温度上昇も遅くなる。カーボンヒータの温度上昇は、ハロゲンヒータの温度上昇より早いが、発熱体ユニット10の温度上昇より遅くなっており、平衡温度も低くなっている。これは、カーボンの放射率0.85に比べ発熱体ユニット10の発熱体2の放射率が0.9と高いためである。
したがって、本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10は、効率高く、且つ早く被加熱体を加熱することができることが理解できる。
【0073】
上記のように、実施の形態1の画像定着装置において用いた発熱体2は、軽薄で熱容量が小さく、通電による平衡点灯時までの立ち上がりが早いという優れた特性を有している。このため、実施の形態1の画像定着装置においては、優れた応答性を有して効率高く加熱する発熱体を有する発熱体ユニットを用いているため、定着領域の加熱が早くなり、省エネルギーを図ることができるとともに、クイックスタートを実現することができる。また、実施の形態1の画像定着装置においては、加熱初期の点灯時に大きな突入電流が発生しないため、電圧降下の発生、蛍光灯がちらつくフリッカの発生という問題が解消されている。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、所望の配熱分布で、且つ高温度に加熱することができる効率の高い熱源を有する画像定着装置を提供することが可能となり、画像形成分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る実施の形態1の画像定着装置における主要な構成を示す図である。
【図2】実施の形態1の画像定着装置における発熱体ユニットを示す平面図である。
【図3】図2の発熱体ユニットの側面図である。
【図4】実施の形態1における発熱体ユニット10の発熱体2における温度[℃]と抵抗[Ω]の関係を示す温度特性図である。
【図5】本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10、及び従来のヒータであるカーボンヒータとハロゲンヒータの立ち上がり特性を示すグラフである。
【図6】各種ヒータにおける突入電流を比較した図であり、(a)は本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10の立ち上がり時の電流波形であり、(b)は従来のカーボンヒータの立ち上がり時の電流波形であり、(c)はハロゲンヒータの立ち上がり時の電流波形である。
【図7】本発明に係る画像定着装置に用いた発熱体ユニット10、及び従来のヒータにより被加熱体を加熱したときの銅板温度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1 容器
2 発熱体
3 保持具
4 サポートリング(位置規制部)
5 内部リード線部
5a 突出端部
6 モリブデン箔
7 外部リード線部
8 電力供給部
9 ニップ部
10 発熱体ユニット
11 被記録部材
12 未定着トナー画像
13 定着ローラ
14 加圧ベルト
15 加圧ローラ
16 反射部
16a 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未定着トナー画像が坦持された被記録部材を加熱する加熱体と、
前記加熱体に対向して配設され、前記加熱体に対して前記被記録部材を介して加圧する加圧体と、を具備する画像定着装置において、
前記加熱体が加熱源として発熱体を有し、前記発熱体が炭素系物質を含む材料によりフィルムシートで帯状に形成され、2次元的等方向性の熱伝導を有する画像定着装置。
【請求項2】
前記発熱体は、炭素系物質を含む材料により形成された層間構造を有する請求項1に記載の画像定着装置。
【請求項3】
前記発熱体は、通電による平衡点灯時の抵抗の値を未通電時の抵抗の値で除算した抵抗変化率の値が1.2から3.5の範囲であり、発熱体温度と抵抗値が比例する正特性を有する請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記発熱体は、厚みが300μm以下の薄膜体である請求項3に記載の画像定着装置。
【請求項5】
前記発熱体は、密度が1.0g/cm以下の軽膜体である請求項3に記載の画像定着装置。
【請求項6】
前記発熱体は、熱伝導率が200W/m・K以上の材料で形成された請求項3に記載の画像定着装置。
【請求項7】
前記加熱体は、前記発熱体とともに当該発熱体の対向する両端に電力を供給する電力供給部の一部を収納する容器を有し、前記容器が内部に不活性ガスを充填して前記電力供給部において封止された構造を有する請求項3乃至6のいずれか一項に記載の画像定着装置。
【請求項8】
前記加熱体には、前記発熱体による加熱領域を規定するための反射部が設けられている請求項3乃至7のいずれか一項に記載の画像定着装置。
【請求項9】
前記加熱体に前記発熱体が複数設けられており、複数の前記発熱体における長手方向の各中心軸が、前記被記録部材の搬送方向に直交して直線上に配置された請求項3乃至8のいずれか一項に記載の画像定着装置。
【請求項10】
前記加熱体において、前記発熱体に対向する面に赤外線を吸収する部材により膜体が形成された請求項3乃至9のいずれか一項に記載の画像定着装置。
【請求項11】
前記発熱体の加熱範囲は、前記加熱体と前記加圧体とによる前記被記録部材の押圧部位であるニップ部と、当該ニップ部より被記録部材の搬送方向における上流側の部位とを含む請求項3乃至10のいずれか一項に記載の画像定着装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の画像定着装置を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−271419(P2009−271419A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123408(P2008−123408)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】