説明

画像形成装置に用いられる多層弾性ベルト

【課題】本発明は、どのような硬さの表面層材料を用いても中間層として設けたゴムの弾性を損なわず、且つベルト表面の摩擦係数を上げない利点を有する多層弾性ベルトを提供する。
【解決手段】表面側から順に、離型性材料を含む表面層、弾性ゴム材料を含む弾性層、及び高強度樹脂材料を含む基材層の少なくとも三層から成る電子写真装置用多層弾性ベルトであって、該表面層が、凹凸面を持った金型面から転写された凹凸面を有していることを特徴とする電子写真装置用多層弾性ベルト、並びにその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真方式を用いた画像形成装置に使用される多層弾性ベルトに関する。具体的には、感光体上に形成された静電潜像上のトナー像を紙等の記録材へ転写するために使用する中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト等の電子写真用ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
中間転写ベルトの高画質化へ対応するために、特許文献1に記載されるように、弾性材料層を有する2層あるいは3層構成の中間転写ベルトが提案されている。
【0003】
また、特許文献2などには弾性層にウレタンゴムを使用したものが、また、特許文献3などには弾性層にシリコーンゴムを使用したものが考案されている。これらのベルトは通常、基材層であるポリイミドなどの樹脂ベルト表面に弾性層及び表面層を順次コーティングする方法、金型内面に弾性層及び基材層を順次成型する方法、キャレンダーロールなどでシーティングしたシートをラミネートする方法などで製造される。
【0004】
このようなゴム弾性体により構成された又はゴム弾性体層を設けた中間転写ベルトは柔軟性に優れるため、一次転写時に中間転写ベルトと接する感光体等との転写領域を容易に安定して形成できると同時に、感光体等との間でトナーに加えられる応力が軽減され、画像の中抜け不具合の対策や細線印字の鮮明度向上に役立っている。
【0005】
また、こういった高画質対応の中間転写ベルトはベルトの厚み方向に弾性を付与する目的を達成させる一方で、従来転写ベルトに必要なトナー離型性も重要な要素として同時に要求される。すなわち中間転写ベルト表面から紙等の媒体へトナーを移し替えるうえで、トナーに対する離型性が必要となる。そのため、表面層を構成する部材には、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ素系樹脂材料などの表面エネルギーの小さい材料で形成することにより、中間転写ベルト表面からのトナーの離型が容易となり転写効率の向上にうまく利用されてきた。
【0006】
しかしながら、中間転写ベルト表面をフッ素ゴムあるいはシリコーンゴムから形成されるゴム弾性体で形成する場合、ゴムが有する粘着性によりトナーの離型性は必ずしも充分でなく、中間転写ベルト表面に形成されたトナー画像の最下層部のトナーが紙等の媒体へ転写せず中間転写ベルト表面に残留するという不具合を生じる。すなわち、二次転写の効率が低下してしまう。加えて、中間転写ベルト表面に残留したトナーを除去するクリーニング工程で、シリコーンゴムやウレタンゴム等で形成されたクリーニングブレードを使用した場合、中間転写ベルト表面に粘着性があることで、ブレード鳴きの不具合が生じ最悪の場合にはブレードが破損してしまう。
【0007】
また、特許文献4には、弾性体層上にFEPなどのフッ素樹脂からなる表面層を有する構成が記載されている。
【0008】
しかしながら該表面層は、離型性、クリーニング性が良好であり、表面層の材質としてはこういったフッ素樹脂が非常に好ましいことがわかっているが、反面、中間のゴム弾性体層より剛直であるため、せっかくの弾性付与中間転写ベルトの柔軟性が低下し、転写領域の安定形成を阻害することとなる。結果、従来の樹脂ベルトと同じく中抜け等の画像欠陥が発生する。加えてフッ素樹脂からなる硬質な表面層は中間転写ベルトに湾曲を加えたときゴム弾性体層の収縮に追従できず、表面に細かい多数のクラックが発生し、画像欠陥や表面層剥離の原因となる。特にゴム弾性体層を構成するゴム硬度がタイプA40度以下の軟らかい場合、前記した表面層のゴム弾性体層への収縮追従性欠如は顕著であり、表面層のクラックもより発生しやすい。
【0009】
この問題を解決するためにフッ素樹脂表面層の厚みを薄くする試みがなされているが(例えば、特許文献5)、薄い表面層では弾性層の軟らかさの影響を強く受け、ベルト表面の摩擦係数が上がってしまい、本来の離型性とクリーニング性が得られない。同じようにこの問題を解決するために柔軟なフッ素系の材料を使用する方法があるが(例えば、特許文献6)、表面層のゴムへの追従性は向上しクラックの発生は防げる反面、材料本来の軟らかさにより表面の摩擦係数が高く、特に薄膜の場合弾性層の影響も受けて顕著となる。よって、いずれの場合も中抜けなどの画像欠陥と、離型性やクリーニング性の確保は困難である。
【0010】
一方、中間転写ベルトの機能において寸法精度が非常に重要であり、周長や厚みにバラツキがあると、画像ズレなどの不具合が発生する。多層構造の中間転写ベルトの最も一般的な製造方法は、遠心成型等で得られたポリイミドなどの高強度基材層の表面に、弾性層、表面層を順にコーティングして行くものである。しかしこの方法では塗布量ばらつきやスプレーノズルの目詰まり、エアーの混合具合等により、各層の膜厚は必ずしも均一にならない。結果、厚み精度が悪くなってしまう。
【0011】
これを避けるため、回転成型あるいは遠心成型と呼ばれる方法により、各層を金型規制で製膜することにより転写ベルトを製造する方法がある(例えば、特許文献7)。すなわち、金型内面に表面層を製膜し、その内側に弾性層を製膜するという製法をとる。これにより、周長や厚み精度の高い中間転写ベルトが得られる。
【0012】
但し、このように最外層から順に金型内面に製膜して行く製法においては、表面層であるフッ素樹脂層は均一な厚みを持ち、ベルト表面に接触したトナーから局所的応力を受けるとそれよりも広い範囲で受け止めようとする抗力を持つため、中間層である弾性層のトナーを包み込んで受ける効果を阻害してしまうことがある。
【特許文献1】特許第3248455号明細書
【特許文献2】特開2001-282009号公報
【特許文献3】特開2002-292655号公報
【特許文献4】特許第3019781号明細書
【特許文献5】特開2005-134791号公報
【特許文献6】特開2006-178232号公報
【特許文献7】特開2007-292851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように従来技術においては、画像形成装置に使用される多層構造を持った転写ベルトに画像中抜け防止などの一次転写特性、離型性やクリーニング性などの二次転写特性の最適なバランスを付与する手段を得ることが難しい。
【0014】
本発明は、転写ベルトとして良好な膜厚精度を備え、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性、離型性やクリーニング性などが良好な二次転写特性の最適なバランスを持った多層弾性ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ベルト表面にランダムな非常に細かな凹凸を持たせることで摩擦係数を下げることができ、一次転写に必要な弾性層の軟らかさ、二次転写に必要な離型性を両立できることを見出した。当初は出来上がったベルト表面を粒度12、30、40μmのラッピングフィルムシート(住友スリーエム株式会社製)で研磨した。ところが、この方法においてはラッピングフィルムシートの目詰まりなどの影響で広い範囲を均一な粗さを持つ凹凸面に仕上げるのは困難であった。
【0016】
また、ダイヤモンドライクカーボン(D L C)コーティングなどを施しても表面に凹凸を持たせることが可能であることを見出したが、コーティングは加工工数が別途かかってしまい費用も高価であるため、工業製品への利用には向かないと判断した。このように研究と工夫を進めた結果、製造方法としては金型内面にブラストを施し、その内面で表面層を成型することで金型の凹凸をベルト表面に転写できることに辿り着いた。こうすることでベルトを画像形成装置に組み込んで使用したとき、転写効率が向上した。これは、表面層を極薄くした場合も、中間層である弾性層の柔らかさの影響で摩擦係数が上がってしまう現象が表面に凹凸を持つことで緩和されたこと、及びベルト表面からトナーの局所的応力を受けても、ベルト表面に存在するランダム凹凸の凹部が優先的に応力を受けて伸ばされることでトナーを包み込むように局所的に変形することが可能になったことなどが原因と推測された。
【0017】
かかる知見に基づき転写ベルトに要求される良好な膜厚精度を備え、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性、離型性やクリーニング性などが良好な二次転写特性の最適なバランスを実現させるには、転写ベルト表面をどのように制御すれば良いか、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は下記の弾性ベルトを提供する。
【0019】
項1 表面側から順に、離型性材料を含む表面層、弾性ゴム材料を含む弾性層、及び高強度樹脂材料を含む基材層の少なくとも三層から成る電子写真装置用多層弾性ベルトであって、該表面層が、凹凸面を持った金型面から転写された凹凸面を有していることを特徴とする電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0020】
項2 表面層及び弾性層が同じ円筒形金型の内面に回転成型によって表面層及び弾性層の順に製膜されたものであり、該円筒金型の内面がブラストによる凹凸面を有する項1に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0021】
項3 前記表面層の凹凸面の表面粗さ(Ra)が0.1〜1.5μmの範囲である項1又は2に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0022】
項4 前記表面層が、ロックウェル硬度(Rスケール)が100度以下のフッ素樹脂材料を含む層であり、該表面層の厚みが5μm以下である項1〜3のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0023】
項5 前記表面層の凹凸面の静摩擦係数が0.8以下である項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0024】
項6 前記弾性層がポリウレタンエラストマー材料を含む層である項1〜5のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0025】
項7 前記基材層の材料がポリイミド又はポリアミドイミドである項1〜6のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0026】
項8 前記ベルトの形状が無端である項1〜7のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【0027】
項9 電子写真装置用多層弾性ベルトの製造方法であって、
(1)内面に凹凸面を持った円筒形金型を用いて、回転成型により、凹凸面を有する離型性材料を含む表面層を形成する工程、
(2)該表面層の内面に、回転成型により、さらに弾性ゴム材料を含む弾性層を形成し、表面層及び弾性層の少なくとも二層から成る第1ベルトを製造する工程、
(3)別の円筒形金型を用いて、回転成型により高強度樹脂材料を含む基材層から成る第2ベルトを製造する工程、
(4)該第1ベルトの弾性層側と第2ベルトとを貼り合わせて電子写真装置用多層弾性ベルトを製造する工程
を含むことを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の多層弾性ベルトは、回転成型で金型に製膜するため良好な膜厚精度を得られる。また、表面層が凹凸を有しており局所的に変形するために、硬い樹脂性の表面層材料を使用しても中間層ゴムの軟らかさを打ち消すことがないので、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性が得られる。更には、軟質樹脂の表面層材料を使用した場合や表面層を薄くした場合においても、通常であれば材料そのものの摩擦係数が上昇したり中間層ゴムの軟らかさの影響が摩擦係数上昇に現れてしまうが、本発明のベルトは表面が凹凸を有していることで表面の摩擦係数を下げることができ、離型性やクリーニング性などが良好な二次転写特性が得られる。このように表面層を構成する材料の硬度選択によらず一次転写と二次転写の最適なバランスを追及することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.金型内面の加工
本発明の多層弾性ベルト(特に、中間転写ベルト)の表面に凹凸を備えた表面層を成型するための円筒状金型は、内面にブラスト加工を施す。金型は通常鋼材S20CからS55C程度の硬さの材料で作られ、内外の表面には硬質クロムメッキ等のメッキ処理を行う。メッキとブラストの順番はどちらが先でも良いが、ブラスト後にメッキする場合には、メッキ後の金型の粗さが狙い値となるよう計算するのが肝要となる。
【0030】
ブラスト方法の種類は、ショットブラスト、エアーブラスト、ウェットブラストがあるが、ショットブラストか、エアーブラストが適している。また、ブラストと同様な効果が得られるものに、放電加工、セラミック溶射などがあり、これらを単独あるいは複数の方法を併用にて代用しても良い。
【0031】
メディアの選択は金型の粗さ狙い値によって選択できるが、ベルト表面に転写する凹凸粗さと金型内面の凹凸粗さはほぼ同じ値と考えてよい。そのため、金型内面の粗さ(Ra)を1.5以下にすることが必要で、メディアの番手は#60以上の細かいものが良い。例えば、#200から#500程度のアルミナ、セラミック、シリコンカーバイドなどの各メディアを単一あるいは2種以上を順番に使用する。順番に2種以上使用する場合、最初に粗い番手で処理した後に細かい番手で仕上げると良い。こうすることで金型内面粗さはより均一となり鋭角の凸部が残らない。もし、鋭角の凸部が残ってしまうと該金型でベルトを製膜した場合ベルト表面のピンホールとなり、トナーが嵌って取れなくなることでトナー固着の原因になってしまう。
【0032】
また、金型素材の硬さによって出来上がりの金型内面粗さは変わることから、適当な番手を選択し、内面粗さ(Ra)の狙い値を0.1〜1.5、望ましくは0.1〜1.0、更に望ましくは0.1〜0.5とすることが肝要である。
【0033】
なお(Ra)とは、JIS B 0601‐1994”表面粗さ‐定義及び表示“による、算術平均粗さRaを指す。
II.表面層の形成
本発明の多層弾性ベルトにおける表面層は、直接トナーを乗せ、重ね合わせた4色のトナーを紙へ転写、離型するための層である。
【0034】
表面層の材料は、トナーを離型しやすくする観点からフッ素樹脂が好適である。かかるフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン( P T F E )、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキビニルエーテル( P F A )、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフロライドの共重合体( T H V )、ポリビニリデンフルオライド(P V D F)、ビニリデンフロライド(V D F)とヘキサフルオロプロピレン(H F P)の共重合体(V D F - H F P共重合体)、又はそれらの混合物が挙げられる。なお、V D FとH F Pの共重合体は、HFPの割合が1〜15モル%程度が好ましい。
【0035】
フッ素樹脂材料は単独では弾性層を構成するゴムとの接着が困難なものが多い。この場合、バインダーとしてウレタン樹脂やアクリル樹脂を用いてもよい。具体的にはこれらのバインダーにP T F Eを分散した塗料が使用に供される。
【0036】
また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフロライドの共重合体( T H V )、ポリビニリデンフルオライド(P V D F)、ビニリデンフロライド(V D F)とヘキサフルオロプロピレン(H F P)の共重合体(V D F - H F P共重合体)、又はそれらの混合物を選択する場合、固有の表面エネルギーが大きいことから、プライマー等用いることによりゴムとの接着は比較的容易でバインダーなしで使用可能である。
【0037】
更にこれらの材料に、ポリテトラフルオロエチレン( P T F E )の微粒粉体を添加しても良い。この場合粉体は後述する原料溶液に直接分散しても良いし、あらかじめ溶剤等で希釈した分散液を使用しても良く、原料溶液中のフッ素樹脂原料重量に対しポリテトラフルオロエチレン微粒粉体を20重量%以下、好ましくは10重量%以下程度添加することができる。
【0038】
表面層の体積抵抗率は、通常1013Ω・cm以上であり、さらに1013〜1015Ω・cmが好ましい。また、カーボンブラック等の導電剤を添加することで半導電性の制御は可能であるが、その効果は限定的で均一分散が難しい等のデメリットもあるため、表面層には導電剤を含まなくても良い。かかる表面層は、環境(温度、湿度等)の変化により導電性が左右されないため、安定したトナーの一次及び二次転写が可能となり、高画質化が実現できる。
【0039】
表面層の厚みは、5μm以下が好ましく、1〜3μmがより好ましい。厚みが厚すぎると弾性層のゴム弾性を損なうことになるため好ましくなく、また、厚みが薄すぎると表面層に穴があきやすい等の耐久性に問題が生じる。
【0040】
表面層の静摩擦係数は、二次転写性を考える上で低いほうが良いが、クリーニング性確保やブレード鳴きを防ぐ観点から下限値も設けることが好ましい。このことから静摩擦係数は0.1〜0.8、さらに0.15〜0.35、特に0.2〜0.3であることが好ましい。
【0041】
また、表面層は柔軟性を有していたほうがトナーを包み込む効果が期待できるため、中抜け防止など一次転写画像の転写効率を向上させる上で好ましい。具体的にはJIS K 7202準拠Rスケールにおけるロックウェル硬度で100度以下更に好ましくは80度以下、特に40〜80度が適当である。このとき通常は表面層が1〜3μm程度の薄い場合、静摩擦係数は下地である弾性層の影響を受けて上昇してしまうが、本発明では表面に金型から転写した凹凸があるため、静摩擦係数は前記数値範囲を確保できる。
【0042】
表面層の面状態は金型から転写される。表面層材料樹脂の種類、配合、硬度によって前記静摩擦係数を得るための狙いの表面粗さは若干変わるが、研究の結果から表面粗さ(Ra)は0.1〜1.5μm、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.1〜0.5μmである。表面粗さ(Ra)が1.5μmを越える場合は、トナーが表面の凹凸に嵌まり込む場合がありトナーの固着(フィルミング)の原因や中抜け等の画像欠陥となるため好ましくない。
【0043】
なお、この場合の(Ra)も金型内面粗さの測定及び表記方法と同じく、JIS B 0601‐1994”表面粗さ‐定義及び表示“による、算術平均粗さRaを指す。
【0044】
表面層の製膜について、表面粗さ(Ra)0.1〜1.5μmを有する円筒状金型を用いて、ロックウェル硬度100度以下のフッ素樹脂を遠心成型する場合を典型例とし、以下説明する。
【0045】
まず、出来上がりの表面層の厚みが1〜5μmの間で目的の厚みとなるように材料の重量を調整する。秤量された表面層材料を溶媒に溶解して液状原料とし、円筒状金型の内面にキャストし遠心成型して行う。用いる溶媒としては、水;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;或いはこれらの混合溶媒などが用いられる。該液状原料は、固形分濃度が2〜30重量%程度であればよい。このとき、表面層の狙い厚みは金型内面の粗さの最大(Rmax)よりも大きくなるようにすることが必要である。但しその厚みが金型内面最大粗さより小さくなる場合でも溶液の表面張力によって全体に膜を形成することもできるため、その場合は逆転してもその限りではない。
【0046】
表面層の遠心成型は、例えば、円筒状金型等を用いて次のようにして実施できる。停止している円筒状金型に、最終厚さを得るに相当する量の液状原料を注入した後、遠心力が働く速度にまで徐々に回転速度を上げて遠心力で内面全体に均一に流延する。
【0047】
円筒状金型はその内面が所定の表面粗さにブラスト処理されており、この金型の内面状態が無端多層弾性ベルトの表面層外面に転写される。従って、金型の内面の凹凸をブラストによって形成することにより、ベルト表面層に所望の凹凸を持たせるよう調節することができる。なお、使用する金型内面の粗度は、内面凹凸付与時に使用するブラストメディアの番手等により任意に制御できる。
【0048】
更に円筒状金型内面には離型剤を塗布し、原料硬化後の膜がきれいに金型内面から離型できるようにされている。離型剤はフッ素系離型剤、シリコーン系離型剤が用いられる。
【0049】
円筒状金型は回転ローラー上に載置し、該ローラーの回転により間接的に回転が行われる。また金型の大きさは、所望する表面層の大きさすなわち弾性ベルトの外径に応じて適宜選択できる。
【0050】
加熱は、該金型の周囲に、例えば遠赤外線ヒータ等の熱源が配置され外側からの間接加熱が行われる。通常、室温から120〜200℃程度まで徐々に昇温し、昇温後の温度で15分〜2時間程度加熱すればよい。これにより、円筒状金型内面に注入された液状原料は硬化し、円筒状金型内面に継目のない(シームレス)管状の表面層が製膜できる。
III.弾性層の形成
本発明の多層弾性ベルトにおける弾性層は、弾性ゴム材料、具体的には液状ウレタンゴムの硬化物からなる。例えば、液状ウレタンゴム、及び必要に応じ該液状ウレタンゴム中に電子導電剤あるいはイオン導電剤等を含む弾性層材料を、上記Iで得られた表面層の内面に塗布、硬化させて製造される。
【0051】
液状ウレタンゴムとしてはポリウレタンエラストマーが挙げられ、特にその硬化物のタイプ A硬さ(JIS K6253)が30〜80度、さらに40〜65度のものが好ましい。具体的には、大日本インキ化学工業(株)製のパンデックスやウレハイパー、三井化学ポリウレタン(株)製のタケネート等が例示される。
【0052】
通常これらのウレタンゴムの種類の中には、抵抗調整をせずとも体積固有抵抗率が10Ω・cmから1011Ω・cm程度の極性を持ったものがあるが、ゴム本来のイオン導電性は温湿度環境を振ったときの環境変動が大きい場合が多い。したがって、元来抵抗調整をしていない体積固有抵抗率が1013Ω・cm以上のウレタンゴムを選択するのが望ましい。このウレタンゴムは、電気的特性が環境依存性の少ない導電剤、すなわちカーボンブラックあるいはリチウムイオン塩にて抵抗調整される。
【0053】
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラックの如き導電性カーボンブラックであればよい。カーボンブラックの配合量は、液状ウレタンゴム100重量部に対し、5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部、より好ましくは10〜25重量部である。
【0054】
この様にカーボンブラックを絶縁性ウレタンゴムに添加することで、弾性層に体積抵抗率10〜1013Ω・cm程度(好ましくは10〜1012Ω・cm程度)の半導電性が付与され、多種多様な抵抗値要求に対し目的に合った的確な半導電性が得られる。また、得られるベルトはカーボンブラックによる電子伝導性であるため、温度、湿度等の外部環境にほとんど影響を受けない安定した半導電性を示すことになる。
【0055】
また、リチウム塩を用いたイオン導電剤としては、例えば、リチウムビスイミド(CFSONLi、リチウムトリスメチド(CFSOCLiが挙げられる。具体例として、例えば三光化学工業株式会社製サンコノール等が挙げられる。通常のイオン導電剤の種類では、その導電性は吸湿により発現すると考えられ、これがイオン導電の環境依存性の原因となる。しかしリチウムイオンが酸素の分子運動によって移動することで導電性を発現すると考えられているこのイオン導電剤は環境依存性が小さくなり、転写ベルトの弾性層構成ゴムに対しても好適に用いられる。イオン導電剤を添加する場合、その添加量は液状ウレタンゴム100重量部に対し、0.1〜3.0重量部程度である。
【0056】
こうしていずれかの方法によって抵抗調整させた液状ウレタン材料は、金型の内側に製膜された表面層の内面に投入され、遠心成型される。液状ウレタン材料の粘度が遠心成型をする際に高すぎた場合、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤やトルエン、キシレン等の溶剤で適宜希釈しても良い。遠心成型の方法は、例えば前記Iの表面層の成型設備と同じものが用いられる。成型温度は室温から徐々に加熱し、ウレタンゴムの耐熱限界以下の温度である120〜150℃程度にまで上げられ、その状態で0.5〜1時間程度保持されて硬化を完了する。
【0057】
表面層と弾性層の間に接着性を向上させる目的で、表面層側にプライマーをスプレー等で塗っておく方法や液状ウレタン材料中にシランカップリング剤を添加する方法、その両方を行う方法などを取っても良い。
【0058】
弾性層の体積抵抗率は、ベルトとしてトナーを電気的な制御によって受け渡しを行なう点から、通常10〜1013Ω・cm程度、好ましくは10〜1012Ω・cm程度である。
【0059】
弾性層の厚さは、ベルト表面の柔軟性と、使用時の画像ズレ防止を考慮して、通常、50〜400μm、好ましくは120〜300μmである。
IV.基材層の形成
本発明の多層弾性ベルトにおける基材層は、駆動時にベルトにかかる応力で変形しないようにするための層である。そのため機械物性が要求される。
【0060】
基材層の樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド等の高強度樹脂材料が例示される。
【0061】
ポリイミドは、通常、モノマー成分としてテトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。
【0062】
ポリイミドのテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、2,3,5,6−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、アゾベンゼン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の二無水物が挙げられる。
【0063】
ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4′−ジアミノビフェニル、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノアゾベンゼン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、β,β−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0064】
前記ジイソシアネートとしては、上記したジアミン成分におけるアミノ基がイソシアネート基に置換した化合物等が挙げられる。
【0065】
ポリアミドイミドは、トリメリット酸とジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。この場合、ジアミン又はジイソシアネートは、上記のポリイミドの原料と同じものを用いることができる。
【0066】
基材層の厚さは、駆動時にベルトにかかる応力と柔軟性を考慮して、通常、30〜120μm、好ましくは50〜100μmである。
【0067】
基材層には、必要に応じて導電剤を含んでいても良い。導電剤としては、上記弾性層で挙げたカーボンブラック等を用いることができる。導電剤を含む場合、その使用量は通常、基材層樹脂100重量部に対して5〜25重量部程度であればよい。これにより基材層に、中間転写ベルトに適した抵抗率を持たせることができる。
【0068】
基材層の樹脂としてポリイミドを用いる場合、例えば、次のようにして基材層を製膜することができる。上記したポリイミドの原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で反応させて、一旦ポリアミック酸溶液とする。このポリアミック酸溶液は、固形分濃度で10〜40重量%程度であればよい。
【0069】
溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ。)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン系有機極性溶媒が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、NMPが好ましい。
【0070】
基材層に所望の半導電性を付与するために、前述の通り必要に応じ基材層樹脂100重量部に対して5〜25重量部程度、カーボンブラック等の導電剤をポリアミック酸溶液に添加しても良い。この場合、ボールミルにてカーボンブラックの均一分散を行ってもよい。これにより、ポリアミック酸及び必要に応じ導電剤を含む基材層用材料を得る。
【0071】
得られた基材層用材料を、表面層・弾性層と同じように円筒状金型等を用いた遠心成型を行う。但し、この場合の金型内面はブラストによる凹凸を必ずしも必要とせず、鏡面仕上げでも良い。加熱は、金型内面を徐々に昇温し100〜190℃程度、好ましくは110℃〜130℃程度に到達せしめる(第1加熱段階)。昇温速度は、例えば、1〜2℃/min程度であればよい。上記の温度で20分〜3時間維持し、およそ半分以上の溶剤を揮発させて自己支持性のあるベルトを成型する。
【0072】
次に第2段階加熱として、温度280〜400℃程度(好ましくは300〜380℃程度)で処理してイミド化を完結させる。この場合も、第1段階加熱温度から一挙にこの温度に到達するのではなく、徐々に昇温して、その温度に達するようにするのが良い。なお、第2段階加熱は、無端ベルトを円筒状金型の内面に付着したまま行っても良いし、第1加熱段階を終わったら、金型から無端ベルトを剥離し、取り出して別途イミド化のための加熱手段に供して、280〜400℃に加熱してもよい。このイミド化の所要時間は、通常約20分〜3時間程度である。
【0073】
基材層の樹脂としてポリアミドイミドを用いる場合も同様にして、ジアミン或いはジアミンから誘導されたジイソシアネートと、トリメリット酸とを溶媒中で反応させて直接ポリアミドイミドとし、これを遠心成型して、継目のない(シームレス)ポリアミドイミドの基材層を製膜できる。また、基材層に所望の半導電性を付与するために、必要に応じ、基材層樹脂100重量部に対して5〜25重量部程度になるように、上記したカーボンブラック等の導電剤を添加しても良い。
【0074】
これら遠心成型を用いて製膜する基材層は、原料の縮み率や耐熱温度といった観点から前述の表面層、弾性層の製膜に用いた円筒状金型とは内径寸法が異なる基材層製膜専用金型を用いることが好ましい。
【0075】
遠心成型によりこうして得られるポリイミドやポリアミドイミドのヤング率は、通常2500MPa以上である。
【0076】
また、基材層の材料としてポリカーボネート、PVDF、ポリアミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を用いる場合は、これらの樹脂を溶融して押出成型することによりシームレスの基材層を製膜できる。基材層樹脂100重量部に対して5〜25重量部程度になるように、上記したカーボンブラック等の導電剤を添加しても良い。
【0077】
押出成型が可能な樹脂は上記のようなものがあるが、このとき基材としての性能を保持するため、ヤング率1000MPa以上、好ましくは1500MPa以上の材料を選択することができる。
【0078】
基材層の体積抵抗率は、ベルト基材としてトナーを電気的な制御によって受け渡しを行なう点から、通常10〜1012.5Ω・cm程度、好ましくは10〜1012。5Ω・cm程度である。
【0079】
上記のようにして、継目のない高い強度を有する基材層を得ることができる。
V.多層弾性ベルトの形成(3層化)
最後に、上記III及びIVにおいて遠心成型にて別々に製膜した層同士、すなわち一体化されている表面層及び弾性層の二層から成る第1のベルトと、高強度樹脂材料から成る基材層である第2のベルトとを、該第1のベルトの内面(弾性層側の面)と該第2のベルトの外面とが接触するように重ね合わせる。両者の間には、必要に応じて接着剤やプライマーを塗布してもよい。両者の重ね合わせ後は、両者の間が密閉状態となるようにすることが好ましい。その後、積層体を加熱処理することにより、弾性層の内面と基材層の外面とが接着された無端の3層の弾性ベルトを得る。
【0080】
上記3層化工程の具体的例を挙げる。上記Iのブラスト処理された円筒金型内面で規制された状態で製膜された表面層及び弾性層からなる2層膜の内面(弾性層側の面)に、ラミネート接着剤を均一塗布して風乾する。上記IVにて別の専用円筒金型で製膜した基材層の外面にもプライマーを塗布して風乾した後、これを該弾性層内面に重ね合わせ、位置がずれないよう基材層内面に密着する内金型を挿入する。
【0081】
その後100℃程度で20〜60分程度加熱処理し、接着剤の硬化と同時に層間接着が完了する。必要に応じ、脱型後の3層ベルトをさらに120℃程度で3〜5時間程度加熱処理することにより、アニール処理を施しても良い。こうして、本発明の多層弾性ベルトを得る。
【0082】
ラミネート接着剤としては、三井化学ポリウレタン(株)製タケラックA-969や大日本インキ化学工業(株)製タイフォースNT-810が例示される。なお、上記のプライマーの使用は任意であるが、接着強度向上の点から使用するのが好ましい。プライマーとしては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製のDY39-067等が例示される。
【0083】
本発明の多層弾性ベルトは、その表面抵抗率がその体積抵抗率よりも大きいため、良好な転写電解となることでトナーの飛び散り等が発生せず、ゴム弾性付与ベルトの特長である高精細な画像が得られるような半導電性ベルトとして使用することができる。
【0084】
以上のように、本発明の多層弾性ベルトは、例えば、画像形成装置に使用される中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト、転写定着ベルト等の電子写真用ベルトとして好適に用いられる。
【実施例】
【0085】
以下、比較例と共に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
本明細書に記載の下記の評価は、次のようにして行った。
<基材層固形分濃度>
試料を金属カップ等の耐熱性容器で精秤し、この時の試料の重量をAgとする。試料を入れた耐熱性容器を電気オーブンに入れて、120℃×12分、180℃×12分、260℃×30分、及び300℃×30分で順次昇温しながら加熱、乾燥し、得られる固形分の重量(固形分重量)をBgとする。同一試料について5個のサンプルのA及びBの値を測定し(n=5)、次式(I)にあてはめて固形分濃度を求めた。その5個のサンプルの平均値を、固形分濃度として採用した。
【0087】
基材層固形分濃度=B/A×100(%) (I)
<表面層及び弾性層固形分濃度>
原料を精秤し、この時の固形あるいは液状原料の重量をCgとする。電子天秤上で原料を溶剤に溶かすために、攪拌しながら溶剤を徐々に加え、最終的な溶液重量をDgとする。固形分濃度は、次式(II)となる。
【0088】
弾性層固形分濃度=C/D×100(%) (II)
<厚み>
厚みは、接触式膜厚測定器のフラット型プローブを用いて幅方向3点、周方向8点の合計24点測定し、その平均値として示した。
<表面抵抗率、体積抵抗率>
表面抵抗率(Ω/□)及び体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学(株)製の抵抗測定器“ハイレスタUP・URブロ−ブ”を用いて23℃、55%RH環境下で測定した。幅方向に長さ360mmにカットしたベルトをサンプルとし、該サンプルの幅方向に等ピッチで3ヶ所、縦(周)方向に4カ所の合計12ヶ所について、印加電圧100V、10秒後に表面抵抗率及び体積抵抗率をそれぞれ測定し、その平均値の常用対数値で示した。
なお該測定サンプルは23℃、55%RH環境下で12時間放置してから測定した。
<静摩擦係数>
静摩擦係数は、新東科学(株)製のHeidon 94iを用いて、同一ベルト内で異なる表面部位を10箇所測定し、その平均値を静摩擦係数とした。
<表面粗さ(Ra)及び(Rz)>
表面粗さ(μm)は、JIS B0601-1994に準拠して測定した。測定機は、東京精密(株)製のサーフコム480Aを用いた。測定条件は、CUTOFF 0.25、測定長2.5mm、T-SPEED 0.06mm/sで行った。同一ベルト内で異なる表面部位を5箇所測定し、その平均値を表面粗さとした。Raは算術平均粗さを意味し、Rzは十点平均粗さを意味する。
<ゴム材料硬度>
JIS K6253に従い、デュロメーターAを用いて、弾性層を構成する材料で厚み6mmのバルク(塊)を作成して評価した。
<表面層構成フッ素樹脂材料硬度>
JIS K7202に従い、Rスケールを使ってロックウェル試験機にて測定した。
【0089】
実施例1
(1)基材層の製膜
窒素流通下、N−メチル−2−ピロリドン488gに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)47.6gを加え、50℃に保温、撹拌して完全に溶解させた。この溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)70gを除々に添加し、ポリアミック酸溶液605.6gを得た。このポリアミック酸溶液の数平均分子量は17000、粘度は35ポイズ、固形分濃度は18.0重量%であった。
【0090】
次に、このポリアミック酸溶液450gに、酸性カーボン(pH3.0)21gとN-メチル-2-ピロリドン80gを加えて、ボールミルにてカーボンブラック(CB)の均一分散を行った。このマスターバッチ溶液は、固形分濃度18.5重量%、該固形分中のCB濃度は20.6重量%であった。
【0091】
そして該溶液から276gを採取し、基材成型用円筒状金型を用意し、次の条件で成形した。
【0092】
基材成型用金型・・・内径301.5mm、幅540mmの内面鏡面仕上げの円筒状金型であり、該金型が2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した。例えば、図2を参照。
【0093】
加熱装置・・・該金型の外側面に遠赤外線ヒータを配置し、該金型の内面温度が120℃に制御されるように設計した装置である。
【0094】
まず、円筒状金型を回転した状態で276gの該溶液を金型内面に均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は1℃/minで120℃まで昇温して、その温度で60分間その回転を維持しつつ加熱した。
【0095】
回転、加熱が終了した後、冷却せずそのまま金型を離脱して熱風滞留式オーブン中に静置してイミド化のための加熱を開始した。この加熱も徐々に昇温しつつ320℃に達した。そして、この温度で30分間加熱した後常温に冷却して、該金型内面に形成された半導電性管状ポリイミドベルトを剥離し取り出した。なお、該ベルトは厚さ80μm、外周長944.3mm、表面抵抗率12.85(logΩ/□)、体積抵抗率10.68(LogΩ・cm)であった。
(2)金型の内面処理
本発明で表面層および弾性層の遠心成型に使用する円筒状金型には、S45Cの円筒体から内径、外径を旋盤にて粗研削後、内径をホーニング及び仕上げ研削をして硬質クロムメッキを厚み20から25μmを施した。
【0096】
その後、金型を回転させながら金型内面に#220のシリコンカーバイドを一様に金型軸方向にガンノズルを移動させてショットブラストし、その後#300のセラミックメディアを再度同様の方法でショットブラストした。
【0097】
こうして、最終内径301.0mm、幅540mmの内面ブラスト仕上げの円筒状金属金型が出来上がった。出来上がった金型内面の表面粗さ(Ra)は、0.51μmであった。
(3)表面層の製膜
PVDF樹脂(KFポリマー#850、(株)クレハ製)30gをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)270gとメチルエチルケトン(MEK)300gの混合溶媒に溶解させ固形分濃度5w%の溶液を作製した。
【0098】
そして該溶液から58gを採取し、前記(2)の金型によって、次の条件で成形した。
【0099】
成型装置・・・内径301.0mm、幅540mmの該金型が2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した。例えば、図2を参照。
【0100】
金型を回転した状態で金型内面に均一に塗布し加熱を開始した。加熱は2℃/minで130℃まで昇温して、その温度で20分間その回転を維持しつつ加熱し、金型内面に表面層を形成した後金型を常温まで冷却した。金型内面に形成された表面層の厚みを渦電流式厚み計にて測定したところ3μmであった。
(4)弾性層の製膜
トルエン1250gにポリウレタンエラストマー(ウレハイパーRUP、大日本インキ化学工業(株)製)を1000g溶解させた溶液に酸性カーボン(pH3.5)250gを加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50重量%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度は20重量%のマスターバッチ溶液を作成した。このマスターバッチ204gに硬化剤CLH-1を2.41gとCLH-5を3.26g(硬化剤はいずれも大日本インキ化学工業(株)製)添加し撹拌を行った。
【0101】
この溶液を先に製膜した表面層内面に金型を回転した状態で均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は2℃/minで130℃まで昇温して、その温度で30分間その回転を維持しつつ加熱し、金型内面に弾性層を形成した。
【0102】
予備試験としてこのウレタンゴムマスターバッチ溶液にて作成したウレタンゴム単膜のゴム硬度を測定したところタイプA(JIS K6253)にて63°であった。
(5)弾性層内面と基材層外面の貼り合わせ
上記(4)で製膜した弾性層内面にプライマーDY39−067(東レ・ダウコーニング(株)製)を塗布、風乾した後に、ドライラミ接着剤(三井化学ポリウレタン(株)製タケラックA-969)を薄く外面に塗布した(1)のポリイミドベルト(基材層)を挿入し重ね合わせた。次に基材内面から圧着した状態で加熱(80〜100℃)を行い、貼り合わせを完了させた。貼り合わせた多層ベルトを金型から剥離し両端部をカットし幅360mmの多層ベルトを採取した。
【0103】
該多層ベルトは厚さ284μm、外周長945.0 mm、表面抵抗率12.49(logΩ/□)、体積抵抗率11.67(LogΩ・cm)であった。
【0104】
実施例2
実施例1(3)のPVDF樹脂(KFポリマー#850、(株)クレハ製)の代わりに、ビニリデンフロライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVDF-HFP共重合樹脂(カイナー#2851、アルケマ製:HFP 5モル%)を選択した以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
【0105】
実施例3
実施例2において(2)金型の内面処理のブラスト番手のみ変更した。すなわち、シリコンカーバイドを#220から#60へ変更、セラミックメディアを#300から#400に変更し同様の方法でショットブラストした。出来上がった金型内面の表面粗さ(Ra)は、0.97μmであった。なお、上記以外は、実施例2と同様に多層ベルトを作製した。
【0106】
比較例1
実施例1(2)の金型内面をブラスト処理なしの鏡面仕上げのままとし、該金型を使用した以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。なお、鏡面仕上げ金型内面の表面粗さ(Ra)は0.08μmであった。
【0107】
比較例2
実施例2(2)の金型内面をブラスト処理なしの鏡面仕上げのままとし、該金型を使用した以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。なお、鏡面仕上げ金型内面の表面粗さ(Ra)は0.08μmであった。
【0108】
各試料多層ベルトを転写ユニットに組み込んで画像評価した結果を表1に示す。
<一次転写性>
一次転写性は、細線画像の中抜けを二次転写前の転写ベルト上にて観察し評価した。細線は約0.05mmの転写ベルト進行方向と平行なY、Mの二色によるベタ画像細線をレーザ顕微鏡にて300倍の倍率で観察し、細線長さ1mm内にいくつの中抜けが発生しているかを以下の基準で評価した。
【0109】
○:中抜けが全くない。
【0110】
△:中抜けが1〜4箇所。
【0111】
×:中抜けが5箇所以上存在する。
<二次転写性>
二次転写性では、ベタ印刷による像抜け観察による紙の凹凸への追従性試験とクリーニングブレードの鳴きの有無を評価した。
<紙の凹凸への追従性>
凹凸の大きな紙として富士ゼロックスオフィスサプライ社の「レザック66」(表面凹凸差80μm、151g/m)を使用してY、M、C色のベタ画像を転写して二次転写効率を、転写前及び転写後の転写ベルト上のトナー重量を測定し下記式から求めた。
【0112】
転写効率(%)=100×[(転写前トナー重量)−(転写後トナー重量)]/(転写前トナー重量)
○:二次転写効率95%以上
△:二次転写効率90%以上〜95%未満
×:二次転写効率90%未満
<ブレード鳴き>
3万枚の通紙を実施し、ブレード鳴きや破損を観察した。
【0113】
○:3万枚の通紙までブレード鳴きなし
△:1万枚から3万枚未満の通紙でブレード鳴き発生
×:1万枚未満の通紙でブレード鳴き発生し、ブレード破損に至った
実施例においては硬いR110の表面層材料を用いでも表面層の薄い部分が局所的に変形しトナーに追従できるため、一次転写での細線中抜け不具合がなく、逆に軟らかいR75の表面層材料を用いても表面の凹凸によって摩擦係数が低いため、二次転写における紙へのトナー移動やクリーニングにおけるブレード鳴きは発生しなかった。
【0114】
比較例1では表面が硬いため、細線中抜けが発生し、比較例2では表面が軟らかくタック性があるためトナーがうまく紙に転写せず、摩擦係数も高いためクリーニングブレードの鳴きが発生した。
【0115】
【表1】

【0116】
このように、本発明の多層弾性ベルトは、表面層が凹凸を有しており局所的に変形するために、硬い樹脂性の表面層材料を使用しても弾性層の軟らかさを打ち消すことがないので、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性が得られた。更に軟質の樹脂から成る表面層材料を使用した場合や表面層を薄くした場合においても、通常の内面が鏡面金型であれば摩擦係数が上昇してしまうが、本発明のベルトは表面が凹凸を有していることで表面の摩擦係数を下げることができ、離型性やクリーニング性などが良好な二次転写特性が得られた。このように表面層を構成する材料の硬度選択によらず一次転写と二次転写の最適なバランスを追及することができ、そのため中間転写ベルト等として好適に用いることができることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の3層の弾性ベルトの断面模式図である。
【図2】実施例における各層の製膜に用いた装置の模式図である。
【図3】凹凸を有する表面及び平滑な表面が応力を受けたときの比較模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から順に、離型性材料を含む表面層、弾性ゴム材料を含む弾性層、及び高強度樹脂材料を含む基材層の少なくとも三層から成る電子写真装置用多層弾性ベルトであって、該表面層が、凹凸面を持った金型面から転写された凹凸面を有していることを特徴とする電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項2】
表面層及び弾性層が同じ円筒形金型の内面に回転成型によって表面層及び弾性層の順に製膜されたものであり、該円筒金型の内面がブラストによる凹凸面を有する請求項1に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項3】
前記表面層の凹凸面の表面粗さ(Ra)が0.1〜1.5μmの範囲である請求項1又は2に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項4】
前記表面層が、ロックウェル硬度(Rスケール)が100度以下のフッ素樹脂材料を含む層であり、該表面層の厚みが5μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項5】
前記表面層の凹凸面の静摩擦係数が0.8以下である請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項6】
前記弾性層がポリウレタンエラストマー材料を含む層である請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項7】
前記基材層の材料がポリイミド又はポリアミドイミドである請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項8】
前記ベルトの形状が無端である請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項9】
電子写真装置用多層弾性ベルトの製造方法であって、
(1)内面に凹凸面を持った円筒形金型を用いて、回転成型により、凹凸面を有する離型性材料を含む表面層を形成する工程、
(2)該表面層の内面に、回転成型により、さらに弾性ゴム材料を含む弾性層を形成し、表面層及び弾性層の少なくとも二層から成る第1ベルトを製造する工程、
(3)別の円筒形金型を用いて、回転成型により高強度樹脂材料を含む基材層から成る第2ベルトを製造する工程、
(4)該第1ベルトの弾性層側と第2ベルトとを貼り合わせて電子写真装置用多層弾性ベルトを製造する工程
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−2629(P2010−2629A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160796(P2008−160796)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】