説明

画像形成装置

【課題】画像形成装置において多機能用途の無端状ベルト部材にあって、巻き掛けする駆動用および従動用の複数の回転ローラの回転を安定させ、ベルト部材の走行速度を安定化して高画質を維持できる画像形成装置を提供する。
【解決手段】無端状のベルト部材22を駆動ローラ21と従動ローラ24の間に巻き掛けして回動させ、従動ローラ24の回転軸線はスライド可能にして、ベルト張力ばね26でベルト部材22のテンションを高める。従動ローラ24の同軸上にイナーシャ30(慣性増手段)を取り付け、駆動ローラ21を含む回転ローラの中で最大の回転慣性力となるようにする。それにより、ベルト部材22の走行回動速度が安定し、高画質の画像を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ装置、プリンタおよび複合機などの画像形成装置に関し、特に像担持体、画像の中間転写体、記録媒体の静電吸着搬送体などに用いる無端状ベルト部材を装備した画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において、駆動用および従動用の複数の回転ローラ間に無端状のベルト部材を巻き掛けして回転駆動源からの回転動力を伝達して走行させ、そのベルト部材を上記各種の用途に機能させることができる。その場合、ベルト部材の走行速度が駆動系や伝達系の回転ローラに発生したねじり振動などに影響されると、画質を低下させてしまう。そのような問題を解消するために、たとえば特許文献1にはローラ回転軸線の同軸上に慣性円盤などの「遠心振子式吸振手段」を設けたベルト回転駆動装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002-250400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報のベルト回転駆動装置には解決すべきつぎの問題点がある。ベルト部材の走行中の回動速度を安定させるために、駆動ローラの回転を安定化してベルト変動成分を吸収することに主点を置いている。つまり、ベルト部材の回動を安定化させることが目標であるにもかかわらず、ベルト部材自体の走行安定性にまで制御監視の範囲が及んでいない。また、駆動ローラだけに限らず、従動ローラの回転安定化にも注目すべきであるが、それについての配慮もなされていない。
【0005】
以上から、本発明の目的は、画像形成装置において多機能用途の無端状ベルト部材にあって、巻き掛けする駆動用および従動用の複数の回転ローラの回転を安定させ、ベルト部材の走行速度を安定化して高画質を維持できる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の画像形成装置は、無端状のベルトと、前記ベルトが掛け回される複数の回転体と、を有する画像形成装置において、
前記複数の回転体のうちの1つが、回転軸線の位置を移動可能に支持され、回転慣性力が他の回転体よりも大きく最大であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の画像形成装置によれば、ベルト部材を巻き掛けして走行させる複数の回転体のうち、回転軸線の位置がスライド移動可能でベルト部材に外乱を与える回転体の1つを、回転慣性力が最大となるように構成することで、ベルト部材の走行回動速度が安定し、高画質の画像を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、画像形成装置の好適な実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1に示すように、カセットに積載された記録紙などのシートPは、給紙部1から給紙搬送ローラ7でレジストローラ23に送られて整列後、二次転写ローラ9に送られる。スキャナユニット10によって露光されたカートリッジ2内の感光体ドラム3は、これに作用するプロセス手段の現像スリーブ4によって現像剤(トナー)像を現像される。このトナー像は、駆動ローラ21と従動ローラ24とのローラ間に巻き掛けされて図中右側から左側へ反時計廻り方向に回動走行する無端状のベルト部材22に転写される(一次転写)。一次転写によってトナー像を担持したベルト部材22はそのまま走行を続行し、二次転写ローラ9との当接ニップ部に至る。ここでは、シートPにトナー像を二次転写しつつ定着器11に送る。定着終了後、排紙ローラ12によってシートPを排出トレイ13に排出する。これにてシートPの片面への印字が終了する。
【0010】
シートPの両面に印字を行う場合、排紙ローラ12にてシートPを完全に排出させず、シートPの後端部をピンチしたまま排紙ローラ12を反転させ、両面再給紙搬送パス15に誘導する。レジストローラ23の直前まで両面再給紙搬送ローラ16はシートPを再給紙して、二面目(裏面)へのトナー像転写のタイミングを待つ待機状態となる。
【0011】
図1において、二次転写ローラ9で転写されなかった残トナーは、ベルト走行方向に対してカウンタ方向に取り付けられたクリーニングブレード28によってベルト部材22から剥離され、廃トナー搬送パイプ31を経て廃トナーボックス33に貯蔵される。
【0012】
(第1の実施形態)
図2は、上記ベルト部材22を主体に構成されたベルト駆動ユニット20の断面を示す。ベルト部材22を巻き掛けして走行させる駆動ローラ21の回転軸線の位置は変わらず固定され、従動ローラ24の回転軸線の位置は横方向にスライドして移動可能になっている。従動ローラ24は、回転軸線を駆動ローラ21から遠ざかる図中左方向に張力ばね26で引っ張って移動付勢され、ベルト部材22に適度な張力を付与するテンションローラとして機能している。ただし、本実施形態では従動ローラ24をテンションローラとして構成したが、従動ローラ24以外の非駆動ローラである3つ目、4つ目・・の中間ローラやアイドラ(遊び)プーリをテンションローラとして用いることもできる。
【0013】
図3は、図2中の矢印Z方向の平面からみたベルト駆動ユニット20を示す。ユニット左右両側には側板R41,L42を有し、これら両側板にはローラ軸孔41a,41bと41a,41bが貫通して設けられている。それら各ローラ軸孔に駆動ローラ21と従動ローラ24がそれぞれのローラ軸端部21a,24aを回転可能に嵌合させて軸支されている。
【0014】
ここで、駆動ローラ21と従動ローラ24のそれぞれについて、支持状態を数値に置き換えて回転変動を定性的に把握するために、1つの手法として次のように各ローラの空間自由度を定義する。
【0015】
代表的に駆動ローラ21についてその空間自由度を定義する。いま、仮に駆動ローラ21は座標軸でいうXYZの全方位への移動が自由で、いずれの方向にも動きを拘束されていないものとする。駆動ローラ21はさらに、XYZ軸の各軸周りでの回転も自由であるとする。その場合の空間自由度を「6」という数値で表すことができる。空間自由度が大きい値ほど、ベルト部材22の回動走行に及ぼす「影響が大きい」と認識できる判断材料にする。
【0016】
実際、本実施形態の駆動ローラ21においては、X軸周りでの回転だけ許容されているので、この場合の駆動ローラ21の空間自由度は、「1」で表すことができ、ベルト部材22の回動走行に対する影響は小さい。
【0017】
くわえて、図3に示すように、かかる駆動ローラ21のローラ軸端部21aの一方側には回転継手38が結合されている。画像形成装置本体側に設けられた回転駆動源のモータ(図示略)から出力された回転動力は、適宜減速されその回転継手38を介して駆動ローラ21に伝達され、駆動ローラ21を図中反時計廻り方向に回転する。駆動ローラ21の周面部21bには、ベルト22部材との滑りを防止して摩擦を増大させるための摩擦増手段として、加硫接着、圧入固定および接着固定のいずれかの部材が設けられている。また、摩擦増手段としては、ローラ周面部21bに塗装、コーティングおよびメッキ処理を含む表面処理、あるいはショットピーニング、サンドブラスト、凹凸加工および微小突起加工を含むいずれかの表面粗し処理を施して設けることでも可能である。
【0018】
一方、従動ローラ24については、側板R41,L42間の距離一杯の長さを有するコ字形状のホルダ25に回転可能に保持され、このホルダ25を介して両側板に設けたローラ軸長孔41a,41bに回転可能にローラ軸端部24a,24bを軸支させている。つまり、ローラ軸端部24a,24bはローラ軸長孔41a,41bの孔長さ分だけスライド方向に移動できる。ホルダ25はベルト張力ばね26の一端に係止され、ホルダ25ごと従動ローラ24の全体を駆動ローラ21から図の左方向へ遠ざける矢印Y方向へ引っ張り付勢している。それにより、ベルト部材22には符号Tの方向に働く適度な張力が付与されている。ベルト張力ばね26の他端部はユニット後部側板43に繋ぎ止められている。また、そうした従動ローラ24の少なくとも一端側のローラ軸端部24aには、同軸上に回転慣性力を増大させるための慣性増加手段としてイナーシャ30が固定されている。
【0019】
それにより、従動ローラ24の空間自由度は、ホルダ25に保持された状態でX軸周りでの回転と、Y方向へのスライド移動がそれぞれ許容されているので、「2」で表すことができる。
【0020】
従動ローラ24の周面部24bにも駆動ローラ21と同様、ベルト部材22との滑りを防止し摩擦を増大させる前述の表面加工などのうちから好適とされる処理が施されている。それにより、慣性による従動ローラ24の速度変動抑止力を十分にベルト部材22に反映させることができる。
【0021】
つぎに、駆動ローラ21および従動ローラ24のそれぞれ回転速度変動(%)と、ベルト部材22の走行速度変動(%)は、回転速度を電圧に変換して、次式(1)で表すことができる。
【0022】
速度変動(%)=変動最大電圧/定常回転時の平均電圧X100 ・・(1)
以下、回転速度変動や走行速度変動「W/F(%)」と略称する。
【0023】
図4は、そのW/Fを測定する装置の構成を示すブロック図である。駆動ローラ21のローラ軸端部21aの一方側に光学式のエンコーダ(符号器)51が回転継手51aを介して接続されている。従動ローラ24のローラ軸端部24aの一方側には、光学式エンコーダ52が回転継手J52aを介して接続されている。また、ベルト部材22のトナー像またはシートPを吸着して搬送する領域外に光学反射式のリニアエンコーダ54をベルト部材22の全長全周にわたって貼り付けている。そのリニアエンコーダ54の反射光が検知できる領域に、光の明暗を電圧矩形波で出力する光電センサ53が設置されている。
【0024】
これら光学式のエンコーダ51,52と、光電センサ53から得られる電圧矩形波のエッジ間隔には速度情報が含まれている。各Wow /Flatterメータの内部で上記エンコーダなどの3種類の信号は、F/V変換後に上記式(1)によって速度変動(%)を演算し、数値として随時表示される。これを読取値「1」と称する。
【0025】
また、各Wow /Flatterメータからは、速度変動成分のみが抽出されたアナログ電圧波形がFFT分析装置に出力され、そのFFT分析装置の内部でフーリエ級数に変換後、各速度変動の周波数スペクトラムが表示される。
【0026】
以上のような測定装置および測定方法を採用して、駆動ローラ21と従動ローラ24のそれぞれの回転速度変動(%)と、ベルト部材22の走行速度変動(%)との3項目について、下記3種類のローラ慣性量違いの設定で行い、合計9種類の測定結果を得る。
【0027】
ここで再確認するに、駆動ローラ21の空間自由度はX軸周りでの回転だけ許容されていということで「1」であり、従動ローラ24はX軸周りでの回転ならびにY方向へのスライド移動が許容されていることで、その空間自由度は「2」であった。
【0028】
図5は、駆動ローラ21と従動ローラ24のいずれにも慣性増加手段であるイナーシャ30を取り付けない状態でW/F(%)の実験値を求める慣性無設定時の装置であり、以下便宜的に<比較例1>の装置と呼ぶ。つまり、駆動ローラ21と従動ローラ24とが同慣性力に設定された場合のベルト駆動ユニット20を想定したものである。
【0029】
図6は、駆動ローラ21にのみイナーシャ30を取り付けて回転慣性力最大の回転体とした場合のW/F(%)の実験値を求める駆動軸慣性設定時の装置であり、以下便宜的に<比較例2>の装置と呼ぶ。
【0030】
また、図7は、従動ローラ24にのみイナーシャ30を取り付けて回転慣性力最大の回転体とした場合のW/F(%)の実験値を求める従動軸慣性設定時の装置であり、本装置を実施形態として示すものであり、以下便宜的に<実施例1>の装置と呼ぶ。
【0031】
上記図5〜図7において、慣性無設定による<比較例1>、駆動軸慣性設定による<比較例2>、従動軸慣性設定による<実施例1>の実験結果から得られたそれぞれのW/F(%)の変動について、図8のグラフに読取値1をプロットして示す。
【0032】
図8から明らかなように、駆動ローラ21にイナーシャ30を取り付けた<比較例2>の場合のW/F(%)値は、従動ローラ24および駆動ローラ21共にイナーシャ30を取り付けない<比較例1>の場合のW/F(%)値とほとんど変らない。それに対して、本実施形態の<実施例1>のW/F(%)値は、従動ローラ24にイナーシャ30を取り付けたことにより、自身の慣性量を増大させた従動ローラ24以外のベルト部材22、駆動ローラ21のW/F(%)よりもかなり低下している。
【0033】
この意味するところ、空間自由度「1」の駆動ローラ21の場合よりも、空間自由度が大きく「2」の場合の従動ローラ24の回転W/F(%)が、付加された慣性質量(イナーシャ30)によって効率的に抑圧されたことを示す。くわえて、付加された慣性質量がY方向の振動または微小変位も抑制することにより、ベルト部材22の走行を安定させることを意味している。
【0034】
以上、イナーシャ30を取り付けて慣性力付与する場合と付与しない場合の実験結果から速度変動の全帯域的な量であるW/F(%)に注目してきた。図9は、横軸を周波数にとり、縦軸に<比較例1>,<比較例2>,<実施例1>の3種の慣性設定において、駆動ローラ21にて測定した800Hz以下の周波数別の場合の回転速度変動成分量(dB)を示す。図10は、駆動ローラ21における測定結果の効果について<実施例1>を<比較例1>に対比させて、横軸に周波数、縦軸にその効果(dB)を示す。この場合の<実施例1>が<比較例1>よりも回転速度変動成分が減少すれば負の領域、増大すれば正の領域、まったく同じならば0で示される。それによると、ヒトの肉眼で目立ちやすい画像不良の原因と思われる100Hz以下の周波数において、<実施例1>では<比較例2>と比べて変動成分が減少しており、その最大効果は58Hzで約−24dBである。また、図11は同じく駆動ローラ21における測定結果の効果(dB)について<実施例1>を<比較例2>と対比させて示す。それによると、<比較例2>よりも<実施例1>の回転速度変動成分が減少すれば負の領域、増大すれば正の領域、まったく同じならば0で示される。すなわち、164Hzで17.8dBの増加ピークが見られる。ヒトの肉眼で目立ちやすい画像不良の原因と思われる100Hz以下の周波数において、本実施形態の設定は従来の設定に対して変動成分が減少しており、その最大効果は34Hzで約−24.7dBである。
【0035】
図10および図11に示す駆動ローラ21における<実施例1>と<比較例1,2>の効果から明らかなように、駆動ローラ21の100Hz以下の回転速度変動成分周波数において、慣性無設定時、駆動慣性設定時のいずれよりも回転変動成分が少ない。しかも回転が安定していることが確認された。
【0036】
一方、図12は、上記3種設定した場合のベルト部材22にて測定した結果において、800Hz以下の周波数別の走行速度変動成分量(dB)を示す。図13は、<実施例1>について<比較例1>との対比でベルト部材22における効果(dB)を示す。それによると、<比較例1>の場合よりも<実施例1>の回転速度変動成分が減少すれば負の領域、増大すれば正の領域、まったく同じならば0で示される。ヒトの肉眼で目立ちやすい画像不良の原因と思われる100Hz以下の周波数において、本発明の設定は、初期設定に対して変動成分が減少しており、その最大効果は73Hzで約12.7dBである。また、100Hz以上の領域においても、433Hzで約−10.7dBの効果が得られている。
【0037】
図14は、<比較例2>と対比させて<実施例1>の場合のベルト部材22における効果(dB)を示す。<比較例2>よりも<実施例1>の回転速度変動成分が減少すれば負の領域、増大すれば正の領域、まったく同じならば0で示される。ヒトの肉眼で目立ちやすい画像不良の原因と思われる100Hz以下の周波数において、本発明の設定は、従来設定に対して変動成分が減少しており、その最大効果は45Hzで約−9.8dBである。また、100Hz以上の領域においても、444Hzで約−8.6dBの効果が得られている。
【0038】
すなわち、図13および図14に示す<実施例1>のベルト部材22から明らかなように、ベルト部材22の100Hz以下の走行速度変動成分周波数において、慣性無設定時の<比較例1>、駆動軸慣性設定時の<比較例2>の場合よりも速度変動成分が少ない。しかも、走行が安定していることを確認することができる。
【0039】
つぎに、図15は、従動ローラ24において、800Hz以下の周波数別の回転速度変動成分量(dB)について<比較例1>,<比較例2>,<実施例1>のW/F(%)を示す。図16は、従動ローラ24での<実施例1>の効果(dB)について<比較例1>と対比させて示したものである。それによると、<比較例1>よりも<実施例1>の回転速度変動成分が減少すれば負の領域、増大すれば正の領域、まったく同じならば0で示される。ヒトの肉眼で目立ちやすい画像不良の原因と思われる100Hz以下の周波数において、本発明の設定は、初期設定に対して変動成分が減少しており、その最大効果は77Hzで約−21.4dBである。また、100Hz以上の領域においても、高域測定限800Hzまで平均−10dB、最大129Hzで約−23dBの効果が得られている。
【0040】
図17は、従動ローラ24での<実施例1>による効果(dB)を<比較例2>と対比させて示し、この<比較例2>よりも<実施例1>の回転速度変動成分が減少すれば負の領域、増大すれば正の領域、まったく同じならば0で示される。200Hzで6dBの増加ピークが見られるが、ヒトの肉眼で目立ちやすい画像不良の原因と思われる100Hz以下の周波数において、本発明の設定は従来の設定に対して変動成分が減少しており、その最大効果は34Hzで約−21.6dBである。
【0041】
図16および,図17に示す従動ローラ22での効果から、本実施形態による<実施例1>のように従動ローラ24にイナーシャ30を取り付けた場合、100Hz以下の回転速度変動成分周波数において、<比較例1>と<比較例2>のいずれの場合とも比較して回転変動成分が少ない。しかも回転が安定していることが確認された。
【0042】
図18は、以上の回転速度変動成分の100Hz以下の周波数における<比較例1>および<比較例2>と対比させて、本実施形態の<実施例1>として従動ローラ24の同軸上にイナーシャ30を装着した場合の最大効果(dB)をまとめた表である。
【0043】
本実施形態の<実施例1>によって得られる効果を以下のようにまとめることができる。
【0044】
1)画像イメージを担持し、あるいは転写時のシートPを静電吸着して搬送するベルト部材22の回転速度変動の総量であるW/F(%)を測定した。このW/F(%)と、図18の表中符号(1),(2)で示したヒトの肉眼によって目立ち易い画像不良の原因と考えられる100Hz周辺までの速度変動成分量(dB)との相関を考察した。それによると、従動ローラ24の慣性力を複数の回転ローラのなかでも、特に駆動ローラ21の慣性力よりも大きく設定した。その結果、駆動ローラ21および従動ローラ24のいずれにも慣性力を付与しない慣性無設定時の<比較例1>、駆動ローラ21にのみ慣性力を付与した駆動軸慣性設定時の<比較例2>と対比すると、いずれの場合よりもW/F(%)が少ない。
【0045】
2)従来例のように、駆動ローラ21に慣性円盤などを装着した構造と比較して、本実施形態では従動ローラ24のローラ軸端部にイナーシャ30を装着して、複数の回転ローラ中で最大慣性力となる構成に変更した。そうした構成とすることで部品点数や組立工数を増加させず、低コストに抑えられ、画像不良のない画像形成装置を提供できる。
【0046】
3)また、張力付勢を兼ねた従動ローラ24にベルト部材22を巻き掛けしたベルト駆動ユニットにあっては、ベルト部材22の走行速度変動に対して支配的であるのは、駆動ローラ21よりも従動ローラ24である。したがって、従動ローラ24の慣性力を増大させるか、イナーシャ30のごとき慣性増手段を従動ローラ同軸上に設けることに着目することができる。このことから、現流の製品またはベルト駆動ユニットの配置構成が完成した製品においても、その駆動張架ローラ群のなかでベルト走行に外乱を与え、軸が可動に支持されたローラが特定できれば、慣性力増加手段を同軸で後付け固定することにより。装着以前より大きな画像安定効果が即得られる。
【0047】
(第2の実施形態)
つぎに、図19は、第2の実施形態として、縦型シートのベルト駆動機構に応用した構造を示す。なお、ベルト部材22が回動走行中に速度変動した際、張力付与用の従動ローラ24に対して慣性量を最大化させる効果は上記第1の実施形態と同様である。
【0048】
図19において、給紙部1によって積載シート束50から分離搬送されたシートPは、レジストローラ23で整列後、高電圧が印加された吸着ローラ17によって静電搬送ベルト22に貼り付けられ、転写ローラ8に至る。スキャナユニット9にて露光されたカートリッジ2a内の感光体ドラム3aは、現像スリーブ4によってトナー像を現像された後、駆動ローラ21によって回転駆動されるベルト部材22上のシートPにトナーを転写する。トナー像を転写されたシートPは定着器11に向かってベルト部材22によって搬送される。ベルト部材22から分離されて定着終了後は、排紙ローラ12が回転して定着後のシートPを排出トレイ13に排出し、シートPの片面印字が終了する。
【0049】
両面印字の場合、排出ローラ12にてシートPを完全に排出させず、シートPの後端部をピンチしたまま排出ローラ12を反転させる。それにより両面再給紙搬送部15に誘導してレジストローラ23の直前まで送り、両面再給紙搬送ローラ16はシートPを再給紙して2面目(裏面)にトナー像を転写するタイミング待機状態となる。
【0050】
図19のA部を拡大して示す図20において、駆動ローラ21は両端のローラ軸端部21aをユニットフレ−ム61の上方両端に設けた2つの軸孔(図示略)に回転自在に軸支されている。駆動ローラ21はX軸周りでの回転だけが許されているから、空間自由度は「1」である。また、ローラ軸端部21aの一方側には回転駆動源(図示略)から回転動力が伝達され、図20中において矢印の時計廻り方向に回転する。駆動ローラ21の周面部21bにはベルト部材22との滑りを防止し摩擦を増大させる手段が設けられている。
【0051】
一方、従動ローラA60については、その両端のローラ軸端部60aをユニットフレ−ム61の下方両端に設けた2つの軸孔(図示略)に回転自在に軸支されている。したがって、従動ローラA60としては、このX軸周りでの回転だけが許されているから、空間自由度は「1」である。従動ローラB62は、その両端のローラ軸端部62aをユニットフレ−ム61の上方両端に設けた2つの軸孔(図示略)に回転自在に軸支されている。したがって、従動ローラB62の回転自由度はX軸周りでの回転だけが許されているから、「1」である。また、この従動ローラB62はベルトユニット20の幅を駆動ローラ21の直径以上に確保するために必要であり、このローラ軸端部62aにベルト部材22の速度検知手段を設けて、ベルト部材22の走行速度を知ることもできる。
【0052】
従動ローラ24は張力付与用であり、両端のローラ軸端部24aをローラホルダ25を介して左右の軸孔25aに回転自在に軸支されている。かかる張力付与用の従動ローラ24の少なくとも一端側には第1の実施形態で示されたイナーシャ(慣性増加手段)30が同軸上に設けられている。
【0053】
ローラホルダ25の左右両側にはホルダ軸支孔25bが設けられていて、ユニットフレ−ム61に設置されたローラホルダ支持部61aのローラホルダ支持軸61bに揺動可能に支持されている。また、ローラホルダ25の張力ばね掛け25cとユニットフレ−ム61の張力ばね掛け61cとの間に引張ばねによるベルト張力ばね26が張架され、従動ローラ24とローラホルダ25とを図中でいう上方向へ付勢している。
【0054】
そこで、かかる従動ローラ24を支持する構成において、従動ローラ24がローラホルダ支持軸61bの軸中心を揺動中心として、半径R1の円周上をDだけ変位したとすると、変位DはY軸方向にDy、Z軸方向にDzと分割できる。したがって、この場合の従動ローラ24としては、X軸周りでの回転を加えることによって空間自由度は「3」である。従動ローラ24の周面部24bにはベルト部材22との滑りを防止し摩擦を増大させる手段が設けられている。
【0055】
この第2の実施形態において、上記の4つのローラのうちで最も空間自由度の大きな従動ローラ24を比較的比重の重い黄銅、鉄鋼の中実軸で形成するか、またはイナーシャ30を同軸上で固定して設ける。それによって、4つのローラのうちで最も慣性量の大きなローラとすると、第1の実施形態として図18の表に示したように、自身の慣性量を増加させた従動ローラ24以外の駆動ローラ21、ベルト部材22、従動ローラ60および従動ローラ62の各W/F(%)を減少させることができる。
【0056】
以下、第2の実施形態で得られる効果をまとめる。
【0057】
1)各軸の速度変動成分ペクトラムとベルト部材22の速度変動成分ペクトラムに対する張力付与用の従動ローラ24における慣性量最大化の作用は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0058】
2)このようにして、既にそのベルト駆動構成が決定されていたり、既に実機として製品化されているベルト駆動構成においては、ベルト部材を駆動、張架するローラの空間自由度を計算して、ベルト走行に外乱を与え、軸が可動に支持された従動ローラを特定し、そのローラに慣性増加手段を装着したり、ローラ群のなかで.最大の慣性量を持つような構成に変更するだけで、部品点数、コスト、組立工数を上げることなく、Bandingなどの画像不良のない画像形成装置を提供することができる。
【0059】
なお、本発明について第1,第2の実施形態が述べられたが、それら各実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内であれば、その他の実施形態や応用例、変形例、そしてそれらの組み合わせも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1の実施形態によるベルト駆動機構を装備した画像形成装置全体を示す図。
【図2】同実施形態のベルト駆動機構を示す図。
【図3】同実施形態のベルト駆動機構の平面図。
【図4】同実施形態のW/F測定装置の構成を示すブロック図。
【図5】同実施形態のベルト駆動機構において、駆動ローラと従動ローラのいずれにも慣性増手段(イナーシャ)を設けない場合の慣性無設定時<比較例1>を示す図。
【図6】同実施形態のベルト駆動機構に対して、駆動ローラにイナーシャを設けた駆動慣性設定時<比較例2>を示す図。
【図7】同実施形態のベルト駆動機構において、従動ローラにイナーシャを設けた場合の従動慣性設定時<実施例1>を示す図。
【図8】上記比較例1,2と実施例1による3種類の慣性設定時におけるW/F(%)性能の相関を示すグラフ。
【図9】駆動ローラにおける慣性無設定、駆動慣性設定、従動慣性設定の3種類の設定時のW/F(%)性能の相関を示すグラフ。
【図10】駆動ローラにおける慣性無設定時のW/F(%)性能の効果を示すグラフ。
【図11】駆動ローラにおける駆動慣性設定時のW/F(%)性能の効果を示すグラフ。
【図12】ベルト部材における慣性無設定、駆動慣性設定、従動慣性設定の3種類の設定時のW/F(%)性能の相関を示すグラフ。
【図13】ベルト部材における慣性無設定時のW/F(%)性能の効果を示すグラフ。
【図14】ベルト部材における駆動慣性設定時のW/F(%)性能の効果を示すグラフ。
【図15】従動ローラにおける慣性無設定時のW/F(%)性能の効果を示すグラフ。
【図16】本実施形態である従動ローラにおける慣性無設定時のW/F(%)性能の効果を示すグラフ。
【図17】従動ローラにおける駆動慣性設定時のW/F(%)性能の効果を示すグラフ。
【図18】第1の実施形態において100Hz以下の最大効果(dB)を駆動ローラ、ベルト部材、従動ローラごとに示す表。
【図19】第2の実施形態によるベルト駆動機構を装備した画像形成装置全体を示す図。
【図20】第2の実施形態において図19のA部を拡大して示す図。
【符号の説明】
【0061】
3 感光体ドラム
8 一次転写ローラ
9 二次転写ローラ
10 スキャナユニット
20 ベルト駆動ユニット
21 駆動ローラ(回転体)
21a ローラ軸端部
21b 周面部
22 ベルト部材
24 従動ローラ(回転体)
24a ローラ軸端部
24b 周面部
25 ローラホルダ
25a 従動ローラ軸孔
25b ローラホルダ軸孔
26 ベルト張力ばね
30 イナーシャ(慣性増加手段)
60 従動ローラA
62 従動ローラB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルトと、前記ベルトが掛け回される複数の回転体と、を有する画像形成装置において、
前記複数の回転体のうちの1つが、回転軸線の位置を移動可能に支持され
、回転慣性力が他の回転体よりも大きく最大であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
回転慣性力が最大の前記回転体は、従動ローラまたは非駆動テンションローラであることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
回転慣性力を増加させるための慣性増加手段を有し、前記慣性増加手段は、前記従動ローラまたは前記非駆動テンションローラの回転軸線の同軸上、あるいはその回転軸線に平行に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記慣性増加手段が、回転体または円盤状金属部材であることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
回転慣性力が最大の前記回転体の周面に、前記ベルトとの回転摩擦力を増加させるための摩擦増加手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記摩擦増加手段は、前記回転体の周面に加硫接着、圧入固定および接着固定のいずれかによって設けられていることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記摩擦増加手段は、前記回転体の周面に塗装、コーティングおよびメッキ処理を含む表面処理、あるいはショットピーニング、サンドブラスト、凹凸加工および微小突起加工を含むいずれかの表面粗し処理を施して設けられていることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記ベルトは、画像を担持する感光体、又は画像を担持する中間転写体、又は記録材を担持する記録材担持体であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−279148(P2007−279148A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102191(P2006−102191)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】