説明

画像形成装置

【課題】より高い安定性、信頼性を実現するクラッチ機構を備えることで、画像形成装置の安定動作や出力画像の品質を維持する。
【解決手段】ディレイギア52とクラッチ軸56との間に設けられたガタ(隙間)であって、クラッチ軸56が、駆動伝達を行う回転方向に回転する場合に、ディレイギア52に係合するまでクラッチ軸56のみを回転可能とするガタと、ディレイギア52をクラッチ軸56に対して前記回転方向に付勢する初期トルク発生ばね53と、を備え、クラッチ機構が連結動作を行う際、可動ラチェット50と固定ラチェット51が係合してから、可動ラチェット50と固定ラチェット51に定常トルクよりも小さい所定の初期トルクが一定時間作用した後に、定常トルクが作用するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート等の記録材上に画像を形成する機能を備えた、例えば、複写機、プリンタなどの画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置では、装置を構成する多くの要素に対して、選択的に駆動を供給する必要がある。しかし、これらの要素に対して、個別にモータを配置したり電磁クラッチで駆動の連結/切断を切替えたりする事は、製品コストの増加や消費電力の増大といった弊害につながる。
【0003】
そこで、代用可能なケースでは、駆動の連結/切断を機械的に切替えるクラッチ機構が一般的に用いられる。
【0004】
主な具体例を以下に二つ挙げる。図7は、従来のクラッチ機構について概略構成を示す概略図であり、(a)は一対のラチェット、(b)は一対のギアを用いた場合について示す図である。
【0005】
一つは、対向する一対のラチェット100,101(カップリング)について、その一方100を伝達すべき回転駆動の軸方向へ移動させる事で、両者の係合・離間を切替えるもの(特許文献1,2参照)。
【0006】
もう一つは、同様に一対のギア102,103について、その一方103を移動させる事で両者の係合・離間を切替えるもの(特許文献3参照)である。ここで、駆動を受け渡すこれらのギアやラチェット・カップリングを、以下、駆動伝達手段(駆動伝達部材)と定義する。そして、何らかのトリガの下に、図示しない制御カムや制御リンクなどの切替え手段を動作させ、可動側の駆動伝達手段100,103を移動させるクラッチ構成になっている。
【0007】
可動側の駆動伝達手段100,103の移動構成は、以下の3パターンに分類される。(1)駆動連結方向へ付勢し、駆動切断時に切替え手段で離間方向へ移動させる。
(2)駆動切断方向へ付勢し、駆動連結時に切替え手段で連結方向へ移動させる。
(3)付勢は行わず、連結・離間両方向へ切替え手段で強制的に移動させる。
【0008】
しかし、(2)と(3)の方式では、駆動伝達手段同士が係合できない状態であった場合でも、切替え手段が可動側の駆動伝達手段を強制的に相手へ押し込むため、機構が破損する恐れがある。そのため、実際の製品では、安全性の確保できる(1)の構成を採用するのが一般的である。
【特許文献1】特開2003−208024号公報
【特許文献2】特開2006−308007号公報
【特許文献3】特開2007−031023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、先に述べた(1)の構成のクラッチ機構は、入力側の駆動伝達手段を回転駆動している状態で駆動連結する使い方をする場合に、駆動伝達手段同士の噛合いが浅い状態のまま、噛合い抵抗によって連結動作が停止する問題が発生し得る。この原因は、以下に説明する通りである。
【0010】
通常、クラッチ機構を設計する際には、駆動伝達手段を連結する際の抵抗力よりも、連結方向の推進力が大きくなるように、各種パラメータを設定する。図8は、クラッチ機構の噛合い時における力学的に説明する図であり、(a)は概略断面図、(b)は要部の拡大図である。図8に示すように、駆動伝達時に駆動伝達手段の係合部に作用する当接力をN、付勢手段による付勢力をF、係合部の引き込み角度をθ、駆動伝達手段係合部の摩擦係数をμと定義すると、条件式は、次式のようになる。
【0011】
【数1】

【0012】
通常、駆動伝達手段の係合部同士が噛合う瞬間の係合量Lがある程度確保されていれば、この条件に従って連結動作が最後まで行われる。
【0013】
しかしながら、入力側を回転駆動している状態で駆動連結する場合、連結動作が開始される時点での駆動伝達手段同士の位相関係を管理する事ができず、噛合う瞬間における係合量Lが、いかようにもなり得る。
【0014】
噛合う瞬間の係合量Lが微小である場合には、係合部に作用する面圧すなわち応力が大きくなるため、係合部に変形が生じる。変形が生じると、先のθの値が変化し、その結果、上記条件式が満たせなくなった場合には、連結動作が正常に行われなくなる。係合量Lが非常に小さい場合には連結時に歯飛びが生じ、あるレンジ内である場合には、連結動作の抵抗力と推進力がバランスを取り、連結動作が途中で停止する。係合部同士の噛合いが浅い状態で連結動作が停止した場合、被駆動側の駆動トルクが安定していれば、抵抗力と推進力のバランス関係が保たれたまま、クラッチ機構は連結状態を維持する。
【0015】
しかし、駆動トルクが増加方向へ変動すると、前記バランスが崩れて歯飛びが生じ、次に係合部同士が噛合い位相となるまでの間、瞬間的に駆動が切断される。突発的に駆動が切断される事は、画像形成装置の安定動作や出力画像の品質を維持する上で大きな問題となる。
【0016】
本発明は上記したような事情に鑑みてなされたものであり、より高い安定性、信頼性を実現するクラッチ機構を備えることで、画像形成装置の安定動作や出力画像の品質を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明にあっては、
それぞれ回転可能に設けられ、互いに係合することにより駆動伝達が行われる一対の駆動伝達部材と、
前記一対の駆動伝達部材のうちいずれかを回転軸方向に移動させることにより、前記一対の駆動伝達部材の状態を、互いに係合する係合状態と、前記係合状態が解除された解除状態とのうちいずれかとする移動手段と、
前記移動手段により前記一対の駆動伝達部材のうちいずれかを前記回転軸方向に移動させることにより、前記一対の駆動伝達部材の状態を、前記係合状態と、前記解除状態との間で切替える切替え手段と、
を備え、記録材に画像を形成する画像形成装置であって、
駆動源から前記一対の駆動伝達部材を介して被駆動部に至る駆動列を構成し、互いに係合することにより駆動伝達が行われる一対の回転部材と、
前記一対の回転部材間に設けられた隙間であって、前記一対の回転部材のうち前記駆動
源側の第1回転部材が、前記一対の駆動伝達部材が前記係合状態となることで駆動伝達を行う回転方向に回転する場合に、前記一対の回転部材のうち前記被駆動部側の第2回転部材に係合するまで前記第1回転部材のみを回転可能とする隙間と、
前記一対の回転部材間に設けられ、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記回転方向に付勢する付勢手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より高い安定性、信頼性を実現するクラッチ機構を備えることで、画像形成装置の安定動作や出力画像の品質を維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0020】
図1〜図5を用いて、本発明を適用可能な実施例1を説明する。
【0021】
図5は、本発明を適用する画像形成装置の概略断面である。
【0022】
図5において、1はプリンタ本体であり、プリンタ本体1の上部には、イエロー・マゼンタ・シアン・ブラック(以下、省略してY,M,C,Kとする)計4色の、一次画像を形成する為のエンジン部分がレイアウトされている。
【0023】
PC等の外部機器から送信されてきた印刷データは、プリンタ本体1を制御するコントローラで受信され、書き込み画像データとして各色に対応したレーザスキャナ10a,10bへ出力される。レーザスキャナは感光ドラム12上へとレーザを照射し、書き込み画像データに従った光像を描く。
【0024】
本実施例の画像形成装置では、イエロー・マゼンタ用のレーザ照射を行う第一スキャナ10aと、シアン・ブラック用のレーザ照射を行う第二スキャナ10bの2つのレーザスキャナで、光像の書き込みを行う。本実施例では、各レーザスキャナは、一つのポリゴンミラーで2ステーション分のレーザ光を走査する構成を採用している。
【0025】
エンジン部分は、Y,M,C,Kの各ステーションとも、トナーを供給する為のトナーカートリッジ15と、1次画像を形成する為のプロセスカートリッジ11とから構成されている。
【0026】
プロセスカートリッジ11は、感光ドラム12、帯電器13、現像器14、クリーナから構成されている。ここで、帯電器13は感光ドラム12の表面に均一な帯電を施すためのものである。現像器14は、帯電器13により帯電された感光ドラム12の表面にレーザスキャナ10が光像を描く事で作成された静電潜像を、中間転写ベルト34へと転写すべきトナー像へと現像するためのものである。クリーナは、トナー像を転写した後、感光ドラム12に残留したトナーを除去するためのものである。
【0027】
感光ドラム12の対向位置には、感光ドラム12の表面に現像されたトナー像を中間転写ベルト34に転写するための一次転写ローラ33が配置されている。
【0028】
中間転写ベルト34に転写されたトナー像(1次画像)は、中間転写ベルト34の駆動ローラを兼ねる2次転写ローラ31と、2次転写ローラ31に対向する2次転写外ローラ24とによって、記録材上へ再転写される。2次転写部で記録材へ転写されずに中間転写ベルト34上に残留したトナーは、中間転写ベルトクリーナ18によって回収される。
【0029】
給送部20は、記録材搬送方向の最上流に位置し、プリンタ本体1の下部に設けられている。給送トレイ21に積載収納されている記録材は、給送部20によって給送されると、縦搬送パス22を通り、下流側へと搬送される。縦搬送パス22には、レジストローラ対23が設けられており、ここで最終的な記録材の斜行補正と、画像形成部での画像書き込みと記録材搬送のタイミング合わせが行われる。
【0030】
画像形成部の記録材搬送方向下流側には、記録材上のトナー像を永久画像として定着するための定着器25が設けられている。そして、定着器25の記録材搬送方向下流側は、記録材をプリンタ本体1から排出するための排出ローラ26へと続く排出搬送パスが設けられている。排出ローラ26によって排出された記録材は、プリンタ本体1の外側に設けられた排出トレイ27によって受け取られる。
【0031】
以下に、本実施例に係るクラッチ機構の適用部及び、クラッチ機構の詳細について説明する。
【0032】
本実施例においては、クラッチ機構を、プリンタ本体1においてプロセスカートリッジの現像器の駆動制御部に対して適用している。
【0033】
一般的に、作像を司る現像器を構成する要素は、耐久寿命を最大化する目的で、画像形成動作以外での駆動時間を最小化しなければならない。このため、感光ドラムへの当接・離間動作も含め、画像形成動作の開始時や終了時には、各ステーションの駆動切替えを順番に所定のタイミングで行う必要がある。
【0034】
本実施例の画像形成装置では、クラッチ機構を各ステーションの現像器に対応して4つ設けるとともに、駆動の連結・切断を、共通のリンク機構を用いて機械的に制御している。
【0035】
また、この共通のリンク機構は、感光ドラムに対する現像器の当接・離間動作も同時に制御する構成になっており、各ステーションの現像器の当接離間及び駆動の連結・切断は、リンク機構で規定された所定の順序とタイミングで実行される。なお、現像器の当接離間構成や、ステーション間での制御タイミングの関係については、本実施例の本質ではないため、説明を省略する。
【0036】
本実施例の画像形成装置に採用したクラッチ機構の構成説明図を図1に示す。
【0037】
クラッチ機構は、大きく分けると、次のような4つのユニットから構成されている。それは、駆動入力を担う入力ユニット、被駆動部側への駆動出力を担う出力ユニット、両者の駆動連結・切断を制御する制御ユニット、及び、駆動連結直後の所定時間だけ定常トルクよりも低い初期トルクを作用させる為の初期トルク発生ユニットの4つである。ここで、定常トルクは、被駆動部を駆動するために必要なトルクである。
【0038】
入力ユニットは、入力ギア54、可動ラチェット(カップリング)50、及び、可動ラチェット50を出力ユニットの固定ラチェット(カップリング)51側に付勢する付勢バネ55から構成されている。
【0039】
可動ラチェット50は、入力ギア54の内部に配置されており、入力ギア54と一体で回転動作するとともに、クラッチ軸56の軸方向にスライド可能な構成になっている。入力ユニットは、クラッチ軸56に対して回転自在に設けられている。
【0040】
出力ユニットは、ガイド部材59と軸受け60とによってプリンタ本体1に回転自在に支持されるクラッチ軸56、及び、クラッチ軸56に固定され一体で回転する固定ラチェット51から構成されている。
【0041】
ここで、可動ラチェット50及び固定ラチェット51は、一対の駆動伝達部材に相当する。そして、可動ラチェット50及び固定ラチェット51はそれぞれ回転可能に設けられており、互いに係合することにより駆動伝達が行われることで、入力ユニットと出力ユニットとが駆動連結されることとなる。
【0042】
制御ユニットは、ガイド部材59、制御カム57、及び、可動カム58から構成されている。ここで、ガイド部材59は、クラッチ軸56と同軸上に配置され、プリンタ本体1に固定されている。また、制御カム57は、ガイド部材59に対して回転自在に軸支されている。また、可動カム58は、ガイド部材59によって回転を規制されるとともにクラッチ軸56の軸方向へスライド可能に支持されている。
【0043】
ここで、付勢バネ55及び可動カム58は、可動ラチェット50を回転軸方向(クラッチ軸56の軸方向)に移動させる移動手段に相当する。また、制御カム57は、切替え手段に相当する。
【0044】
図示しないクラッチ制御機構(制御手段)の作用によって制御カム57が回転すると、制御カム57と係合関係にある可動カム58が、クラッチ軸56の軸方向に移動する。可動カム58は、入力ユニットの可動ラチェット50と摺動自在な当接状態にあり、可動カム58の移動と連動して可動ラチェット50も移動する。可動ラチェット50及び固定ラチェット51は、同一の回転軸上に配置され、互いの対向面側に突出した係合爪を有している。したがって、可動ラチェット50が固定ラチェット51側へ移動することで、両者の係合爪が係合し、可動ラチェット50と固定ラチェット51とは係合状態となる。
【0045】
この仕組みにより、制御カム57の位相を制御することで、クラッチ機構の連結・切断を切替える事ができる。
【0046】
初期トルク発生ユニットは、ディレイギア52、及び、初期トルク発生ばね53から構成されている。
【0047】
ディレイギア52は、互いに係合することにより駆動伝達が行われるクラッチ軸56に対して回転方向に所定角度のガタを持って支持されている。このガタは、ディレイギア52とクラッチ軸56との間(一対の回転部材間)に設けられた隙間であって、クラッチ軸56が、駆動伝達を行う回転方向に回転する場合に、ディレイギア52に係合するまでクラッチ軸56のみを回転可能とする隙間である。ここで、ディレイギア52及びクラッチ軸56は、駆動源から前記一対の駆動伝達部材を介して被駆動部に至る駆動列を構成し、互いに係合することにより駆動伝達が行われる一対の回転部材に相当する。また、ディレイギア52は一対の回転部材のうち被駆動部側の第2回転部材に相当し、クラッチ軸56は、一対の回転部材のうち前記駆動源側の第1回転部材に相当する。
【0048】
初期トルク発生ばね53は、ディレイギア52のガタを大きくするために、ディレイギア52を回転駆動の伝達方向に対してガタ拡大方向(隙間が大きくなる方向)へ付勢するものである。ここで、初期トルク発生ばね53は付勢手段に相当する。初期トルク発生ば
ね53の付勢力の大きさは、被駆動部を駆動するために必要な定常トルクよりも小さい。
【0049】
次に、図2・図3を用いて本実施例のクラッチ機構の動作を説明する。
【0050】
本実施例では、クラッチ機構が連結動作を行う際、可動ラチェット50と固定ラチェット51が係合してから、可動ラチェット50と固定ラチェット51に定常トルクよりも小さい所定の初期トルクが一定時間作用した後に、定常トルクが作用するようにしている。
【0051】
図2は、本実施例におけるクラッチ機構の動作説明図であり、(a)は待機状態、(b)は連結動作中、(c)は連結完了をそれぞれ示している。図2(a)〜(c)においてはそれぞれ、左側に概略断面図を示し、右側に概略斜視図を示している。なお、図2に示す断面図においては、動作を理解し易くするため、説明に必要な最小限の部品のみを図示している。
【0052】
図3は、本実施例におけるクラッチ機構における初期トルク発生ユニットの動作説明図であり、(a)は待機状態、(b)は連結動作中、(c)は連結完了をそれぞれ示している。
【0053】
待機状態(図2(a),図3(a)に示す状態)では、可動ラチェット50は、可動カム58に押されて固定ラチェット51から退避した位置にある。このとき、入力ユニットと出力ユニットとの駆動は切断されている(可動ラチェット50と固定ラチェット51とが係合していない解除状態にある)。
【0054】
連結動作が開始され、制御カム57が回転を始めると、可動ラチェット50が固定ラチェット51側へ移動し、両者の係合爪が係合し、可動ラチェット50と固定ラチェット51とは係合状態となる(図2(b),図3(b)に示す状態)。この時点で、入力ユニットと出力ユニットは駆動連結されるものの、まだ被駆動部側(被駆動側)のギア61へは駆動伝達されず、まずディレイギア52とクラッチ軸56の所定角度の相対ガタが消費され始める。この相対ガタが完全にゼロになるまでの間は、初期トルク発生ばね53が発生するトルク(定常トルクよりも小さい所定の初期トルク)が、可動ラチェット50と固定ラチェット51、すなわちクラッチ機構の駆動列に作用する状態にある。そしてこの間に、可動ラチェット50は、固定ラチェット51との噛合いが、クラッチ機構の安定動作に必要な係合量以上となる位置まで移動する。
【0055】
ディレイギア52とクラッチ軸56の相対ガタが完全に消費されると、可動ラチェット50と固定ラチェット51、すなわちクラッチ機構の駆動列に定常トルクが作用し、被駆動側のギア61の駆動が開始される(図2(c),図3(c)に示す状態)。
【0056】
一連の駆動連結過程において、駆動列に作用する駆動トルクと時間の関係は、図4のグラフようになる。図4は、本実施例のクラッチ機構の連結動作中における駆動トルク推移を示す図である。
【0057】
図中において、Aは可動ラチェット50と固定ラチェット51の係合爪同士が係合するポイント、Bはディレイギア52とクラッチ軸56の相対ガタの消費が完了するポイントを示している。
【0058】
駆動切断は、同様に可動ラチェット50が移動して固定ラチェット51との係合関係が外れることで行われる。駆動が切断され、固定ラチェット51が開放された瞬間、クラッチ軸56はディレイギア52と初期トルク発生ばね53の作用によって逆転し、ディレイギア52に対する所定の相対ガタを回復する。
【0059】
以上説明したように、本実施例によれば、より高い安定性と信頼性を有するクラッチ機構を実現する事ができる。
【0060】
従来のクラッチ機構では、駆動連結の瞬間から駆動伝達手段に被駆動側の定常トルクが作用していた。これに対し、本実施例のクラッチ機構では、クラッチ機構が連結動作を行う際、駆動入力側と駆動出力側の係合部が当接してから、係合部に定常トルクよりも小さい所定の初期トルクが一定時間作用した後に、定常トルクが作用する。初期トルクを駆動連結動作の安定性が保証可能な値に設定する事により、連結時の条件に依存せず、駆動連結動作を確実に完遂させる事が可能となる。これにより、従来のクラッチ機構が有していた動作安定性の問題が、飛躍的に改善される。
【実施例2】
【0061】
実施例1では、駆動伝達部材としてラチェット(カップリング)を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。また、駆動連結・切断の切替え手段の構成に関しても、本発明は実施例1に限定されるものではない。実施例2では、別の形態として駆動伝達部材にギアを用いた構成について示す。
【0062】
図6を用いて、実施例2を説明する。
【0063】
図6は、本実施例におけるクラッチ機構の動作説明図であり、(a)は待機状態、(b)は連結動作中、(c)は連結完了をそれぞれ示している。なお、画像形成装置の構成やクラッチ機構の適用箇所については実施例1と同様とし、その説明は省略する。また、図6において、実施例1と同様の機能を有する構成要素に対しては、同じ番号を付与する。
【0064】
本実施例のクラッチ機構も、実施例1と同様、大きく分けると4つのユニットから構成されている。それは、駆動入力を担う入力ユニット、被駆動側への駆動出力を担う出力ユニット、両者の駆動連結・切断を制御する制御ユニット、及び、駆動連結直後の所定時間だけ定常トルクよりも低い初期トルクを作用させる為の初期トルク発生ユニットである。
【0065】
入力ユニットは、図示しない軸によって回転自在に軸支され、駆動源からの駆動供給によって回転する入力ギア70から成る。
【0066】
出力ユニットは、プリンタ本体1に回転自在に軸支されたクラッチ軸75、クラッチ軸75と一体で回転すると共にクラッチ軸75の軸方向へスライド可能に設けられた可動ギア71、及び可動ギア71をスライド方向へ付勢する付勢ばね76から構成されている。
【0067】
制御ユニットは、図示しない制御機構、及び、該制御機構によって揺動制御される制御アーム77から構成されている。制御アーム77の先端は、可動ギア71の側面に設けられた当接リブに対して当接・離間可能になっている。
【0068】
初期トルク発生ユニットは、実施例1同様、クラッチ軸75に対して回転方向に所定角度のガタを持って固定されるディレイギア52、及びディレイギア52のガタを回転駆動の伝達方向に対しガタ拡大方向へ付勢する初期トルク発生ばね53から構成されている。
【0069】
初期トルク発生ばね53が発生するトルクは、クラッチ機構の安定動作を保証可能な必要最小限の値に設定している。
【0070】
待機状態(図6(a))では、可動ギア71は、制御アーム77に押されて入力ギア70と噛合わない位置へ退避しており、駆動は切断されている。
【0071】
連結動作が開始され、制御アーム77が回動を始めると、可動ギア71が入力ギア70側へ移動を開始し、両者の歯面が係合する(図6(b))。
【0072】
この時点で、入力ユニットと出力ユニットは駆動連結されるものの、まだ被駆動側のギア78へは駆動伝達されず、まずディレイギア52とクラッチ軸75の所定角度の相対ガタが消費され始める。この相対ガタが完全にゼロになるまでの間は、初期トルク発生ばね53が発生するトルクがクラッチ機構の駆動列に作用する状態にある。そしてこの間に、可動ギア71は、入力ギア70との歯面の噛合いが、クラッチ機構の安定動作に必要な係合量となる位置まで、移動を完了する。
【0073】
ディレイギア52とクラッチ軸75の相対ガタが完全に消費されると、被駆動側のギア78の駆動が開始される(図6(c))。一連の駆動連結過程において、駆動列に作用する駆動トルクと時間の関係は、実施例1と同様、図4のグラフに示すような関係になる。
【0074】
駆動切断は、同様に可動ギア71が移動して入力ギア70との歯面噛合いが外れることで行われる。駆動が切断され、可動ギア71が開放された瞬間、クラッチ軸75はディレイギア52と初期トルク発生ばね53の作用によって逆転し、ディレイギア52に対する所定の相対ガタを回復する。
【0075】
本実施例によれば、実施例1と同様の効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1におけるクラッチ機構の構成説明図。
【図2】実施例1におけるクラッチ機構の動作説明図。
【図3】実施例1のクラッチ機構における初期トルク発生ユニットの動作説明図。
【図4】実施例1のクラッチ機構の連結動作中における駆動トルク推移を示す図。
【図5】本発明を適用した画像形成装置の概略断面図。
【図6】実施例2におけるクラッチ機構の動作説明図。
【図7】従来例のクラッチ機構の概略図。
【図8】クラッチ機構の噛合い時における力学説明図。
【符号の説明】
【0077】
50 可動ラチェット
51 固定ラチェット
52 ディレイギア
53 初期トルク発生ばね
55 付勢ばね
56 クラッチ軸
57 制御カム
58 可動カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ回転可能に設けられ、互いに係合することにより駆動伝達が行われる一対の駆動伝達部材と、
前記一対の駆動伝達部材のうちいずれかを回転軸方向に移動させることにより、前記一対の駆動伝達部材の状態を、互いに係合する係合状態と、前記係合状態が解除された解除状態とのうちいずれかとする移動手段と、
前記移動手段により前記一対の駆動伝達部材のうちいずれかを前記回転軸方向に移動させることにより、前記一対の駆動伝達部材の状態を、前記係合状態と、前記解除状態との間で切替える切替え手段と、
を備え、記録材に画像を形成する画像形成装置であって、
駆動源から前記一対の駆動伝達部材を介して被駆動部に至る駆動列を構成し、互いに係合することにより駆動伝達が行われる一対の回転部材と、
前記一対の回転部材間に設けられた隙間であって、前記一対の回転部材のうち前記駆動源側の第1回転部材が、前記一対の駆動伝達部材が前記係合状態となることで駆動伝達を行う回転方向に回転する場合に、前記一対の回転部材のうち前記被駆動部側の第2回転部材に係合するまで前記第1回転部材のみを回転可能とする隙間と、
前記一対の回転部材間に設けられ、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記回転方向に付勢する付勢手段と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記付勢手段による付勢力は、前記被駆動部を駆動するために必要な定常トルクよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記一対の駆動伝達部材は、一対のギアであることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記一対の駆動伝達部材は、同一の回転軸上に配置され、互いの対向面側に突出した係合爪を有するカップリング又はラチェットであることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−107008(P2010−107008A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282027(P2008−282027)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】