説明

画像形成装置

【課題】被記録媒体の搬送速度の変動による画像形成位置のずれを抑制することが可能な画像形成装置を提供する
【解決手段】感光ドラム28による用紙3に対するニップの有無が変化するときに、ニップ位置における感光ドラム28上の走査ラインの間隔が、用紙3の速度変動に応じて用紙3上における仮想の走査ライン間隔が均一化する方向に変更されるように走査ラインの間隔を制御する。これにより、用紙3の速度変動による画像形成位置のずれを低減することができ、形成される画像の品質向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関し、特にダイレクトタンデム式の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトタンデム式の画像形成装置として、像担持体を有する複数の画像形成部が用紙(被記録媒体)を搬送するベルトに沿って並んで設けられたものが知られている。各像担持体の表面はLEDなどの露光部により1ラインずつ露光されて現像剤像が形成され、ベルト上の用紙が各像担持体のニップ位置を通過する際に現像剤像が順次用紙に転写される。一般にこうした画像形成装置においては、用紙の搬送精度を高めることにより、各画像形成部による画像形成位置のずれが少ない高品質な画像を得ることができる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−100612公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、実際には様々な要因により、ベルトとこれを駆動するベルト駆動ローラとの間の滑りなどが生じて用紙の搬送速度が僅かに変動することがあり、それにより画像形成位置のずれを生じることとなっていた。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、被記録媒体の搬送速度の変動による画像形成位置のずれを抑制することが可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、第1の発明に係る画像形成装置は、被記録媒体を担持して搬送するベルトと、現像剤像を担持し前記ベルトとの間に被記録媒体をニップした状態で前記現像剤像を転写する複数の像担持体と、前記複数の像担持体に対し走査ライン毎に光を照射することで露光を行う露光手段と、前記複数の像担持体による被記録媒体に対するニップの有無が変化するときに、ニップ位置における前記像担持体上の前記走査ラインの間隔が、前記被記録媒体の速度変動に応じて被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に変更されるように、前記露光手段による前記走査ラインの間隔を制御する制御手段と、を備える。
【0005】
発明者の知見によれば、複数の像担持体による被記録媒体に対するニップの有無が変化したときに被記録媒体の搬送速度が変動することがある。そこで第1の発明によれば、像担持体による被記録媒体に対するニップの有無が変化するときに、ニップ位置における像担持体上の走査ラインの間隔が、被記録媒体の速度変動に応じて被記録媒体上における仮想の走査ライン間隔が均一化する方向に変更されるように走査ラインの間隔を制御する。これにより、被記録媒体の速度変動による画像形成位置のずれを低減することができ、形成される画像の品質向上を図ることができる。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、前記制御手段は、前記複数の像担持体による被記録媒体に対するニップ数が変化するときに、ニップ位置における前記像担持体上の前記走査ラインの間隔が、前記被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に段階的に変更されるように制御する。
【0007】
本発明者の知見によれば、複数の像担持体による被記録媒体に対するニップ数が変化するのに伴って被記録媒体の搬送速度が変動することがある。そこで、第2の発明によれば、被記録媒体に対するニップ数が変化するときに、ニップ位置における像担持体上の走査ラインの間隔が、被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に段階的に変更されるように制御する。これにより、被記録媒体の速度変動による画像形成位置のずれをさらに低減することができ、画像形成の品質の向上を図ることができる。
【0008】
第3の発明は、第1または第2の発明において、被記録媒体についての情報を取得する取得手段を備え、前記制御手段は、前記取得手段により取得された情報に応じて前記像担持体に対する前記走査ラインの間隔の変更量を調整する。
【0009】
第3の発明によれば、被記録媒体の長さ、幅、厚さ、表面の摩擦係数などによってニップ状態が変化した際の速度の変動量が変化すると考えられるため、そのような被記録媒体の情報を取得しそれに応じて走査ラインの間隔の変更量を調整することにより、画像形成位置のずれをより低減することが可能になる。
【0010】
第4の発明は、第1から第3のいずれか一つの発明において、前記ベルト及び前記像担持体のうち少なくとも一方の劣化状態を評価する評価手段を備え、前記制御手段は、前記評価手段による評価結果に基づいて前記像担持体に対する前記走査ラインの間隔の変更量を調整する。
【0011】
第4の発明によれば、ベルトや像担持体の劣化状態(表面の傷や付着した汚れなどの状態)により、ニップ状態の変化に伴う被記録媒体の搬送速度の変動量が変化すると考えられるため、劣化状態を評価してその結果に基づいて走査ラインの間隔の変更量を調整することにより、画像形成位置のずれをより低減することが可能になる。
【0012】
第5の発明は、第1から第4のいずれか一つの発明において、前記ベルトの下流側に被記録媒体をニップした状態で搬送しつつ定着を行う定着器を備え、前記制御手段は、被記録媒体の先端が前記定着器によりニップされたときに、ニップ位置における前記像担持体上の前記走査ラインの間隔が、前記被記録媒体の速度変動に応じて前記被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に変更されるように制御する。
【0013】
第5の発明によれば、例えば定着器による被記録媒体の搬送速度がベルトによる搬送速度よりも小さい場合には、被記録媒体の先端が定着器に到達したときにベルト上の被記録媒体の搬送速度が遅くなる場合がある。そこで像担持体に対する走査ラインの間隔を、被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に変更することで、画像形成位置のずれを低減することができる。
【0014】
第6の発明は、第5の発明において、前記制御手段は、前記像担持体により被記録媒体がニップされたときと、被記録媒体の先端が前記定着器によりニップされたときとで、前記被記録媒体に対する前記像担持体に対する走査ラインの間隔の変更量を異ならせる。
【0015】
第6の発明によれば、被記録媒体が画像形成手段にニップされたときと定着器にニップされたときとでは、搬送速度の変動量が異なるため、走査ラインの間隔をそれぞれの場合に応じた量だけ変更することで、画像形成位置のずれをより低減することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、像担持体による被記録媒体に対するニップの有無が変化するときに、ニップ位置における像担持体上の走査ラインの間隔が、被記録媒体の速度変動に応じて被記録媒体上における仮想の走査ライン間隔が均一化する方向に変更されるように走査ラインの間隔を制御する。これにより、被記録媒体の速度変動による画像形成位置のずれを低減することができ、形成される画像の品質向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の一実施形態について図1から図6を参照して説明する。
【0018】
(プリンタの全体構成)
図1は、本発明の画像形成装置の一例であるプリンタ1の概略構成を示す側断面図である。本プリンタ1は4色(ブラックK、イエローY、マゼンタM、シアンC)のトナーを用いてカラー画像を形成するダイレクトタンデム式のカラープリンタである。以下の説明においては、図1における左側を前方とする。また、図1において、各色間で同一の構成部品については、適宜符号を省略する。
【0019】
プリンタ1は、本体ケーシング2を備えており、その上面には開閉可能なカバー2Aが設けられている。また、本体ケーシング2内の底部には、複数の用紙3(被記録媒体の一例)を積載可能な供給トレイ4が設けられている。供給トレイ4の前端上方には給紙ローラ5が設けられており、この給紙ローラ5の回転に伴って供給トレイ4内の最上位に積載された用紙3が一対のレジストローラ6へ送り出される。レジストローラ6は、用紙3の斜行補正を行った後、その用紙3をベルトユニット11上へ搬送する。また、レジストローラ6の上流側と下流側とには、それぞれ用紙3の有無を検知し検知信号を出力する用紙センサ7,8が設けられている。
【0020】
ベルトユニット11は、前側に配置されたベルト支持ローラ12Aと、後側に配置されたベルト駆動ローラ12Bとの間に、ポリカーボネート等からなる環状のベルト13を張架した構成となっている。ベルト支持ローラ12Aは、従動回転可能であって、図示しない付勢部材により前方へ付勢されており、これによりベルト13に一定の張力が付与されている。ベルト駆動ローラ12Bは、後述する駆動モータ47(図2参照)からの動力により回転駆動され、それによりベルト13に駆動力が加えられ、ベルト13が図示時計周り方向に循環移動するのに伴ってベルト13上面に静電吸着された用紙3が後方へ搬送される。
【0021】
また、ベルト13の内側には、後述する各プロセス部19K〜19Cの感光ドラム28とベルト13を挟んで対向する位置に転写ローラ14が設けられている。各転写ローラ14は、上下に変位可能であって、かつ図示しない付勢部材により上方に付勢されることで、対応する感光ドラム28との間にベルト13を介して転写ニップ(上流側から順にN1〜N4で示す)を構成している。
【0022】
さらに、ベルト13の下面に対向して、ベルト13上に形成されるパターン等を検出するためのパターン検出センサ15が設けられている。パターン検出センサ15は、光源よりベルト13に光を当てたときの反射光を個々のフォトダイオードで受光し、受光した光の強度に対応した電気信号を出力する。また、ベルトユニット11の下側には、ベルト13表面に付着したトナーや紙粉等を回収するクリーニング装置16が設けられている。
【0023】
ベルトユニット11の上方には、4つの露光部17K,17Y,17M,17C(露光手段の一例)と、4つのプロセス部19K,19Y,19M,19Cとが前後方向に並んで設けられている。露光部17K〜17C、プロセス部19K〜19C及び既述の転写ローラ14は、それぞれ一つずつで一組の画像形成部20K,20Y,20M,20Cを構成しており、プリンタ1全体では、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色に対応した4組の画像形成部20K,20Y,20M,20Cが設けられている。
【0024】
各露光部17K〜17Cは、カバー2Aの下面に支持されており、その下端部に複数のLEDが一列に並んで設けられたLEDヘッド18を備えている。各露光部17K〜17Cは、形成すべき画像データに基づいて発光制御され、LEDヘッド18から対応する感光ドラム28の表面に一走査ラインごとに光を照射することで露光を行う。
【0025】
各プロセス部19K〜19Cは、カートリッジフレーム21と、このカートリッジフレーム21に対し着脱可能に装着される現像カートリッジ22とを備えている。カバー2Aを開放すると、各露光部17K〜17Cがカバー2Aと共に上方に退避して、各プロセス部19K〜19Cが本体ケーシング2に対して着脱可能になる。
【0026】
現像カートリッジ22は、現像剤である各色のトナーを収容するトナー収容室23を備え、その下側に供給ローラ24、現像ローラ25、層厚規制ブレード26等を備えている。トナー収容室23から放出されたトナーは、供給ローラ24の回転により現像ローラ25に供給され、供給ローラ24と現像ローラ25との間で正に摩擦帯電される。さらに、現像ローラ25上に供給されたトナーは、現像ローラ25の回転に伴って、層厚規制ブレード26と現像ローラ25との間に進入し、ここでさらに十分に摩擦帯電されて、一定厚さの薄層として現像ローラ25上に担持される。
【0027】
カートリッジフレーム21の下部には、表面が正帯電性の感光層によって覆われた感光ドラム28(像担持体の一例)と、スコロトロン型の帯電器29とが設けられている。画像形成時には、感光ドラム28が回転駆動され、それに伴って感光ドラム28の表面が帯電器29により一様に正帯電される。そして、その正帯電された部分が露光部17K〜17Cの走査により露光されて、感光ドラム28の表面に静電潜像が形成される。
【0028】
次いで、現像ローラ25上に担持され正帯電されているトナーが感光ドラム28表面の静電潜像に供給され、これにより感光ドラム28の静電潜像が可視像化される。その後、各感光ドラム28の表面上に担持されたトナー像は、用紙3が感光ドラム28と転写ローラ14との間の各転写ニップN1〜N4を通過する間に、転写ローラ14に印加される負極性の転写電圧によって用紙3上に順次転写される。こうしてトナー像が転写された用紙3は、次いで定着器31に搬送される。
【0029】
定着器31は、熱源を有する加熱ローラ31Aと、加熱ローラ31A側に付勢され加熱ローラ31Aとの間に定着ニップN5を構成する加圧ローラ31Bとを備えている。定着器31は、定着ニップN5を通過する用紙3を搬送しつつ加熱することで、用紙3上に転写されたトナー像を紙面に熱定着させる。そして、定着器31により熱定着された用紙3は、上方へ搬送され、カバー2Aの上面に排出される。
【0030】
(プリンタの電気的構成)
図2は、プリンタ1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【0031】
プリンタ1は、同図に示すように、CPU40(制御手段、評価手段の一例)、ROM41、RAM42、NVRAM(不揮発性メモリ)43、ネットワークインターフェイス44を備え、これらに既述の4組の画像形成部20K〜20C、用紙センサ8や、表示部45、操作部46、駆動モータ47などが接続されている。
【0032】
ROM41には、後述する露光制御処理など、このプリンタ1の各種の動作を実行するためのプログラムが記憶されており、CPU40は、ROM41から読み出したプログラムに従って、その処理結果をRAM42またはNVRAM43に記憶させながら各部の制御を行う。ネットワークインターフェイス44は、通信回線を介して外部のコンピュータ等(図示せず)に接続され、これにより相互のデータ通信が可能となっている。
【0033】
表示部45は、液晶ディスプレイやランプ等を備え、各種の設定画面や装置の動作状態等を表示することが可能である。操作部46は、複数のボタンを備え、ユーザにより各種の入力操作が可能である。駆動モータ47は、複数のモータからなり、図示しないギア機構を介して既述のレジストローラ6、ベルト駆動ローラ12B、現像ローラ25、感光ドラム28、加熱ローラ31A等を回転駆動させる。
【0034】
(用紙搬送速度とニップ状態との関係)
図3は、用紙搬送速度とニップ状態との関係を示すグラフであり、図4は、用紙3の位置と用紙3の速度との関係を示すグラフである。
本発明者は、ダイレクトタンデム式の画像形成装置におけるベルトによる用紙の搬送精度を高めるべく鋭意研究してきたところ、以下の知見を見出した。
【0035】
従来より用紙が搬送されていない状態(若しくはベルト上を搬送される用紙が転写ニップに至る前の状態)でのベルトの速度と、用紙上に転写を行っているときの用紙の搬送速度とは等しいものとされてきたが、実際には両者の間に僅かな速度差が生じ、そのために各色の画像形成位置に微少なずれを招くことがある。このような用紙の搬送速度の変動は、ベルト、感光ドラム、及び用紙の間に生じる摩擦力が影響していると考えられる。
【0036】
例えば、感光ドラムの表面速度V1がベルトの速度V2より小さく(V1<V2)、かつベルトと感光ドラム間の摩擦係数μ1が感光ドラムと用紙間の摩擦係数μ2よりも小さい(μ1<μ2)状況下では、ベルト上の用紙が転写ニップ位置に到達したときに、用紙の速度が到達前よりも減少する。なお、ここでは、用紙とベルトとの間の静電吸着力は上記2つの摩擦力に比べて十分に大きく、用紙とベルトとが滑ることはないと仮定する。これは、用紙が転写ニップ位置に到達したときに、ベルトが受ける摩擦力の大きさが増加し、それによりベルト駆動ローラとベルトとの間の滑りやベルトの伸び等が生じて、用紙を減速させるためと考えられる。
【0037】
また、逆に感光ドラムの表面速度V1がベルトの速度V2より大きく(V1>V2)、かつベルトと感光ドラム間の摩擦係数μ1が感光ドラムと用紙間の摩擦係数μ2よりも小さい(μ1<μ2)状況下では、ベルト上の用紙が転写ニップ位置に到達したときに、用紙の速度が増加する。同様に、感光ドラムの表面速度V1がベルトの速度V2より小さく(V1<V2)、かつベルトと感光ドラム間の摩擦係数μ1が感光ドラムと用紙間の摩擦係数μ2より大きい(μ1>μ2)状況下では、ベルト上の用紙が転写ニップ位置に到達したときに用紙の速度が増加する。また、感光ドラムの表面速度V1がベルトの速度V2より大きく(V1>V2)、かつベルトと感光ドラム間の摩擦係数μ1が感光ドラムと用紙間の摩擦係数μ2より大きい(μ1>μ2)状況下では、ベルト上の用紙が転写ニップ位置に到達したときに用紙の速度が減少する。また、用紙をニップする感光ドラムの数が増えると、それに伴って用紙速度の変動量が大きくなると考えられる。
【0038】
本実施形態では、上記知見を踏まえ、以下の仮定に基づいて各露光部17K〜17Cにおける走査ライン間隔の制御を行う。ここでは、感光ドラム28の表面速度がベルト13の(用紙3がニップされていない状態における)速度より小さく、かつベルト13と感光ドラム28間の摩擦係数が感光ドラム28と用紙3間の摩擦係数より小さいとする。図3は、同状況下でベルト駆動ローラ12Bの回転速度が一定とした場合の用紙3のニップ状態と用紙3の速度変動との関係を示している。
【0039】
用紙3がニップされていない状態におけるベルト13の速度をS0とすると、用紙3が転写ニップN1〜N4のうちの一カ所でニップされたときの用紙3の速度はS0よりαだけ減少する。また、用紙速度の変動量は転写ニップ数に応じて変化する。即ち、転写ニップ数が2つなら用紙速度の元の速度S0からの変動量は2αになり、転写ニップ数が3つなら変動量は3α、4つなら4αになる。
【0040】
また、定着器31による用紙3の搬送速度は、ベルト13による用紙3の搬送速度よりも小さく設定されている。このため、ベルト13から送り出された用紙3の先端が定着ニップN5に到達すると、その用紙3の剛性のためにベルト13上の用紙3が抵抗を受け、ベルト13上における用紙3の搬送速度がβだけ減少する。なお、定着器31では、感光ドラム28及び転写ローラ14に比べて大きな力で用紙3をニップするため、用紙3と加熱ローラ31A及び加圧ローラ31Bとの間の滑りはないとする。
【0041】
上記α及びβの値は、使用する用紙3のサイズや特性により変化する。即ち、αの値は、用紙3と感光ドラム28との間に生じる摩擦力の大きさに応じて変化するため、例えば、用紙3の幅(A4横、B5横等)が大きいほどαの値が大きく、はがき等のように用紙3の厚さが大きいものほどαの値が大きくなる。さらに、表面にコーティングを施した光沢紙など、表面の摩擦係数が低い用紙ほどαの値が小さくなる。また、ベルト13が劣化して表面に傷等が増えると摩擦係数が増えることから、ベルト13の劣化状態が大きくなるとともにαの値が小さくなる。
【0042】
また、βの値は、用紙3の剛性の大きさに応じて変化するため、例えば、用紙3の幅(A4横、B5横等)が大きいほどβの値が大きく、はがき等のように用紙3の厚さが大きいものほどβの値が大きくなる。ROM42には、用紙3の種類ごとに上記α,βの値を定めた速度変動データが記憶されており、次に述べる露光制御処理においては、その速度変動データを用いて搬送中の用紙3が転写ニップN1〜N4に到達するタイミング等を判断する。
【0043】
図4は、プリンタ1で所定サイズ(例えばA4縦)の用紙3を搬送した場合の用紙3の速度変動を示すグラフである。同図に示すように、用紙3の速度は、用紙3の先端が転写ニップN1〜N4のいずれかに到達する度にαずつ段階的に低下し、また、用紙3の後端が転写ニップN1〜N4のいずれかを離脱したときにαずつ段階的に増加する。さらに、用紙3の先端が定着ニップN5に到達したときにβ低下する。
【0044】
(露光制御処理)
図5は、露光制御処理の流れを示すフローチャートであり、図6は、用紙3の位置と各感光ドラム28上における走査ラインの間隔との関係を示すグラフである。
【0045】
CPU40は、ネットワークインターフェイス44を介して外部のコンピュータ等から印刷指示を受けると、受信した画像データの展開処理等を行い、さらに駆動モータ47の駆動を開始して、以下に示す露光制御処理を開始する。図5に示すように、CPU40は、まず使用する用紙3の種類を取得する(S101)。ここでは、例えば、印刷指示に含まれる用紙3の指定(用紙サイズや厚さの指定等)を参照することで種類を取得する。そして、CPU40は、NVRAM43等に記憶されたベルト13の劣化状態の評価値を取得する(S102)。ここで、CPU40は、例えばNVRAM43に前回のベルト13交換時からの印刷枚数を記憶しており、その情報をベルト13の劣化状態を示す評価値として取得する。
【0046】
次にCPU40は、S101,S102で取得した使用する用紙3の種類及びベルト13の劣化状態に基づいて、ROM41に記憶された既述の速度変動データからα,βの値を読み出し、また、同じくROM41に記憶されたライン間隔補正データから走査ラインの間隔の変更量A及びBの値を読み出す(S103)。ここで、ライン間隔補正データとは、ニップ状態の変化に伴って用紙3の速度が変動したときに、その変動量に応じて感光ドラム28上における走査ラインの間隔を変更することで用紙3上の仮想走査ライン(感光ドラム28上の各走査ラインに対し転写ニップN1〜N4において対面する位置に形成される仮想の走査ライン)の間隔を均一化するための走査ライン間隔の変更量を定めるためのデータである。
【0047】
また、ライン間隔補正データでは、速度補正データと同様に使用する用紙3の種類及びベルト13の劣化状態とに対応するA,Bの値が定められている。即ち、例えば用紙3の速度がα増加したときには、感光ドラム28上の走査ラインの間隔をA拡大することで、また用紙3の速度がβ増加したときには、感光ドラム28上の走査ラインの間隔をB拡大することで、用紙3上の仮想走査ラインの間隔が均一化されるように値が設定されている。
【0048】
続いてCPU40は、レジストローラ6から送り出された用紙3の先端が用紙センサ8に到達して用紙センサ8からの信号がオンになるのを待機する(S104)。そして、用紙センサ8がオンになると(S104:Yes)、用紙3の先端が各転写ニップN1〜N4のいずれかに到達する前の所定タイミングになったか(S105)、用紙3の後端が各転写ニップN1〜N4のいずれかを離脱する前の所定タイミングになったか(S106)、用紙3の先端が定着ニップN5に到達する前の所定タイミングになったか(S107)、露光が終了したか(S108)を順に判断し、S108がYesになるまでは、S105に戻って同様の処理を繰り返す。
【0049】
ここで、上記の所定タイミングとは、それぞれ用紙3の先端が転写ニップN1〜N4に到達するタイミング、用紙3の後端が各転写ニップN1〜N4を離脱するタイミング、用紙3の先端が定着ニップN5に到達するタイミングよりも、感光ドラム28上の露光部17K〜17Cによる照射位置が感光ドラム28の回転により転写ニップ位置まで到達するのに要する時間だけ前のタイミングをいう。
【0050】
なお、CPU40は、用紙センサ8がオンになったタイミングを基準として、用紙3の速度の変動量α,βの値とS101にて取得した用紙3の長さとに基づいて、用紙3の先端が各転写ニップN1〜N4及び定着ニップN5に到達するタイミング、及び用紙3の後端が各転写ニップN1〜N4を離脱するタイミングを求める。なお、用紙3の長さは、例えば、用紙センサ7がオンになってからオフになるまでの時間に基づいて求めることもできる。
【0051】
CPU40は、用紙3の先端が転写ニップN1〜N4のいずれかに到達する前の所定タイミングになった場合(S105:Yes)には、その転写ニップN1〜N4に対応する露光部17K〜17Cによる露光を開始するとともに、露光動作中の全ての露光部17K〜17Cにおいて走査ラインの間隔をAだけ小さく設定し(S109)、その後S105に戻る。なお、CPU40は、各走査ラインの開始タイミングを指示する信号を送信することで、各走査ラインの書き出しタイミング(即ち感光ドラム28上における走査ラインの間隔)を制御する。また、ここで用紙3が1番目の転写ニップN1に到達した場合には、走査ラインの間隔を基準の間隔よりもAだけ小さく設定した状態で、露光部17Kによる露光を開始する。
【0052】
これにより、用紙3の先端が転写ニップN1〜N4のいずれかに到達したときに、各転写ニップN1〜N4における感光ドラム28上の走査ラインの間隔が用紙3の速度低下に応じた分だけ小さくなる。従って、用紙3上の仮想走査ラインの間隔はほぼ均一のままで用紙3が搬送される。こうして図6に示すように、各露光部17K〜17Cによる走査ラインの間隔は、用紙3の先端が転写ニップN1〜N4のいずれかに到達する度に、用紙3の速度低下に応じてAずつ段階的に小さくなる。
【0053】
また、用紙3の後端が転写ニップN1〜N4のいずれかを離脱する前の所定タイミングになった場合(S106:Yes)には、その転写ニップN1〜N4に対応する露光部17K〜17Cによる露光を終了するとともに、露光動作中の全ての露光部17K〜17Cにおいて走査ラインの間隔をAだけ大きく設定し(S110)、その後S105に戻る。
【0054】
これにより、用紙3の先端が転写ニップN1〜N4のいずれかに到達したときに、各転写ニップN1〜N4における感光ドラム28上の走査ラインの間隔が用紙3の速度増加に応じた分だけ大きくなる。従って、用紙3上の仮想走査ラインの間隔はほぼ均一のままで用紙3が搬送される。こうして図6に示すように、各露光部17K〜17Cによる走査ラインの間隔は、用紙3の後端が転写ニップN1〜N4のいずれかを離脱する度に、用紙3の速度増加に応じてAずつ段階的に大きくなる。
【0055】
さらに、用紙3の先端が定着ニップN5に到達する前の所定タイミングになった場合(S107:Yes)には、露光動作中の全ての露光部17K〜17Cにおいて走査ラインの間隔をBだけ小さく設定し(S111)、その後S105に戻る。これにより、用紙3の先端が定着ニップN5に到達したときに、各転写ニップN1〜N4における感光ドラム28上の走査ラインの間隔が用紙3の速度低下に応じた分だけ小さくなる。従って、用紙3上の仮想走査ラインの間隔はほぼ均一のままで用紙3が搬送される。
【0056】
CPU40は、全ての露光部17K〜17Cによる露光が終了した場合(S108:Yes)には、この露光制御処理を終了する。
【0057】
(本実施形態の効果)
以上のように本実施形態によれば、感光ドラム28による用紙3に対するニップの有無が変化するときに、ニップ位置における感光ドラム28上の走査ラインの間隔が、用紙3の速度変動に応じて用紙3上における仮想の走査ライン間隔が均一化する方向に変更されるように走査ラインの間隔を制御する。これにより、用紙3の速度変動による画像形成位置のずれを低減することができ、形成される画像の品質向上を図ることができる。
【0058】
また、用紙3に対するニップ数が変化するときに、ニップ位置における感光ドラム28上の走査ラインの間隔が、用紙3上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に段階的に変更されるように制御する。これにより、用紙3の速度変動による画像形成位置のずれをさらに低減することができ、画像形成の品質の向上を図ることができる。
【0059】
また、用紙3の幅、厚さ、表面の摩擦係数などによってニップ状態が変化した際の速度の変動量が変化すると考えられるため、そのような被記録媒体の情報を取得しそれに応じて走査ラインの間隔の変更量を調整することにより、画像形成位置のずれをより低減することが可能になる。
【0060】
また、ベルト13の劣化状態(表面の傷や付着した汚れなどの状態)により、ニップ状態の変化に伴う用紙3の搬送速度の変動量が変化すると考えられるため、劣化状態を評価してその結果に基づいて走査ラインの間隔の変更量を調整することにより、画像形成位置のずれをより低減することが可能になる。
【0061】
また、例えば定着器31による用紙3の搬送速度がベルト13による搬送速度よりも小さい場合には、用紙3の先端が定着器31に到達したときにベルト13上の用紙3の搬送速度が遅くなる場合がある。そこで感光ドラム28に対する走査ラインの間隔を、用紙3上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に変更することで、画像形成位置のずれを低減することができる。
【0062】
また、用紙3が画像形成部20K〜20Cにニップされたときと定着器31にニップされたときとでは、搬送速度の変動量が異なるため、走査ラインの間隔をそれぞれの場合に応じた量だけ変更することで、画像形成位置のずれをより低減することが可能になる。
【0063】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
(1)上記実施形態では、走査ラインの間隔を変更する際に、各走査ラインの書き込み開始タイミングを変更するものを示したが、本発明によれば、例えば、レーザ光で露光を行うものにおいて、像担持体とレーザ発光部との間に介在するミラーの角度を調整することで像担持体上における走査ラインの書き込み位置を変更するようにしても良い。
【0065】
(2)上記実施形態では、転写ニップN1〜N4または定着ニップN5における用紙3のニップが用紙3の速度を低下させる方向に作用するものを示したが、本発明は、用紙3のニップが速度を増加させる方向に作用するものにも適用することができる。この場合、用紙3の先端が転写ニップN1〜N4のいずれかに到達したときに、走査ラインの間隔を拡大するなど、上記実施形態とは逆方向に間隔を変更することで用紙3上の仮想走査ラインの間隔を均一化することができる。
【0066】
(3)上記実施形態では、ベルト13の劣化状態に応じて走査ライン間隔の変更量の大きさを調整するものを示したが、感光ドラム28の表面の劣化状態によっても用紙3の搬送速度の変動量が異なってくると考えられるため、感光ドラム28の劣化状態を評価し、それに応じて走査ライン間隔の変更量を調整するようにしても良い。感光ドラム28の劣化状態は、例えば新品のプロセス部19K〜19Cが装着されてからの印刷枚数等をNVRAM43に記憶しておき、その情報に基づいて評価することができる。また、ベルト13の劣化状態(表面の傷の量等)を評価する際には、パターン検出センサ15によりベルト13の反射率を調べ、その結果に基づいて評価しても良い。
【0067】
(4)上記実施形態では、外部から受信した印刷指令に基づいて用紙の種類を取得したが、例えば、操作部46からユーザが入力した情報に基づいて取得しても良い。また、上記実施形態では、用紙の種類に応じて走査ライン間隔の変更量を調整するものを示したが、本発明によれば、例えば用紙の幅や厚み等を測定する手段を設けて、その測定結果に基づいて変更量を決定しても良い。例えば、用紙の幅は、トレイに設けたガイドの位置を検知することにより計測することができる。
【0068】
(5)上記実施形態では、走査ライン間隔の変更量として、予めROM等に記憶されたテーブルの値を用いるものを示したが、本発明によれば、変更量を予め定められた計算式を用いて算出するようにしても良い。また、上記実施形態では、転写ニップ数が変化したときの走査ライン間隔の変更量が常に一定であるものを示したが、このようなものに限らず、本発明によれば、走査ライン間隔の変更量として用紙上の仮想走査ラインの間隔ができるだけ均一になるような値を適宜定めることができる。
【0069】
(6)上記実施形態では、ベルト上を1枚の用紙が搬送される例を示したが、本発明によれば、ベルト上を同時に複数の用紙が搬送される場合には、それらの用紙の合計の転写ニップ数に基づいて走査ライン間隔を変更すればよい。
(7)レジストローラによるニップの有無が用紙の搬送速度に影響を及ぼす場合には、レジストローラのニップの有無に応じて走査ライン間隔を変更しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態におけるプリンタの概略構成を示す側断面図
【図2】プリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図
【図3】用紙搬送速度とニップ状態との関係を示すグラフ
【図4】用紙の位置と用紙の速度との関係を示すグラフ
【図5】露光制御処理の流れを示すフローチャート
【図6】用紙の位置と各感光ドラム上における走査ラインの間隔との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0071】
1…プリンタ(画像形成装置)
3…用紙(被記録媒体)
13…ベルト
17K〜17C…露光部(露光手段)
28…感光ドラム(像担持体)
31…定着器
40…CPU(制御手段、評価手段)
44…ネットワークインターフェイス(取得手段)
N1〜N4…転写ニップ
N5…定着ニップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を担持して搬送するベルトと、
現像剤像を担持し前記ベルトとの間に被記録媒体をニップした状態で前記現像剤像を転写する複数の像担持体と、
前記複数の像担持体に対し走査ライン毎に光を照射することで露光を行う露光手段と、
前記複数の像担持体による被記録媒体に対するニップの有無が変化するときに、ニップ位置における前記像担持体上の前記走査ラインの間隔が、前記被記録媒体の速度変動に応じて被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に変更されるように、前記露光手段による前記走査ラインの間隔を制御する制御手段と、
を備える画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、
前記制御手段は、前記複数の像担持体による被記録媒体に対するニップ数が変化するときに、ニップ位置における前記像担持体上の前記走査ラインの間隔が、前記被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に段階的に変更されるように制御する。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の画像形成装置において、
被記録媒体についての情報を取得する取得手段を備え、
前記制御手段は、前記取得手段により取得された情報に応じて前記像担持体に対する前記走査ラインの間隔の変更量を調整する。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記ベルト及び前記像担持体のうち少なくとも一方の劣化状態を評価する評価手段を備え、
前記制御手段は、前記評価手段による評価結果に基づいて前記像担持体に対する前記走査ラインの間隔の変更量を調整する。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記ベルトの下流側に被記録媒体をニップした状態で搬送しつつ定着を行う定着器を備え、
前記制御手段は、被記録媒体の先端が前記定着器によりニップされたときに、ニップ位置における前記像担持体上の前記走査ラインの間隔が、前記被記録媒体の速度変動に応じて前記被記録媒体上における仮想走査ラインの間隔が均一化する方向に変更されるように制御する。
【請求項6】
請求項5に記載の画像形成装置において、
前記制御手段は、前記像担持体により被記録媒体がニップされたときと、被記録媒体の先端が前記定着器によりニップされたときとで、前記被記録媒体に対する前記像担持体に対する走査ラインの間隔の変更量を異ならせる。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−64263(P2010−64263A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229983(P2008−229983)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】