異常判定装置および車両用制御装置
【課題】舵角センサの診断における誤判定を抑えることを目的とする。
【解決手段】第1診断手段21は、舵角センサ92から取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第1変化量算出部21Aと、正常閾値を記憶する第1記憶部21Bと、変化量が正常閾値を超えたときに、舵角の前回値を基準舵角に設定する基準舵角設定部21Cと、変化量が正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間、正常閾値を徐々に増加させる増加部21Eと、第1の判定時間中、舵角と基準舵角との偏差と、正常閾値とを比較し、偏差が正常閾値よりも大きいときに第1カウンタ21Gをカウントアップ(カウント)する偏差比較部21Fと、第1カウンタ21Gが所定値に達すると舵角センサ92が異常であると判定する第1判定部21Hを備えている。
【解決手段】第1診断手段21は、舵角センサ92から取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第1変化量算出部21Aと、正常閾値を記憶する第1記憶部21Bと、変化量が正常閾値を超えたときに、舵角の前回値を基準舵角に設定する基準舵角設定部21Cと、変化量が正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間、正常閾値を徐々に増加させる増加部21Eと、第1の判定時間中、舵角と基準舵角との偏差と、正常閾値とを比較し、偏差が正常閾値よりも大きいときに第1カウンタ21Gをカウントアップ(カウント)する偏差比較部21Fと、第1カウンタ21Gが所定値に達すると舵角センサ92が異常であると判定する第1判定部21Hを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舵角を検知する舵角センサが正常か否かを診断する制御を行う異常判定装置および車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舵角センサの診断が可能な車両用制御装置として、舵角センサの出力値から演算した角速度が許容最大角速度を超えたと判定したときに、異常と判定するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−42754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、角速度が許容最大角速度を超えたと一度でも判定すると、異常と判定するため、例えばノイズ等により角速度が一時的に許容最大角速度を超えるような場合(瞬間的に角速度が許容最大角速度を超え、その後元の値に復帰するような場合)であっても異常であると誤判定してしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、舵角センサの診断における誤判定を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、舵角センサが正常か否かを判定する第1診断を実行可能な第1診断手段を有する異常判定装置であって、前記第1診断手段は、前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第1変化量算出部と、前記舵角センサが正常であるときに前記第1変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第1記憶部と、前記変化量が前記正常閾値を超えたときに、前記舵角の前回値を基準舵角に設定する基準舵角設定部と、前記変化量が前記正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間、前記正常閾値を徐々に増加させる増加部と、前記第1の判定時間中、前記舵角と前記基準舵角との偏差の絶対値と、前記増加部によって増加される正常閾値とを比較し、前記偏差の絶対値が前記正常閾値よりも大きいときに第1カウンタをカウントする偏差比較部と、前記第1カウンタが所定値に達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定する第1判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第1カウンタが所定値に達していなければ異常と判定しないので、舵角センサの診断における誤判定を抑えることができる。特に、カウントの条件に使用する正常閾値を増加部によって徐々に大きくすることで、舵角センサを異常と判定する条件が徐々に厳しくなるので、誤判定の可能性を小さくすることができる。さらに、舵角が異常に高い値になったままとなる固着やオフセットによる異常の場合には、第1カウンタが所定値に達するので、確実に異常を判定することができる。
【0008】
また、本発明では、前記増加部は、前記正常閾値が前記偏差比較部による比較の回数に比例するように、前記比較のたびに前記正常閾値に一定値を加算していくのが望ましい。
【0009】
これによれば、正常閾値を単純な増加によって決定できるので、複雑な計算式やマップを準備する必要がない。
【0010】
また、本発明では、前記第1判定部が、前記第1の判定時間が経過したこと、および、前記変化量が前記正常閾値以下であることを条件として、前記第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否かを判断し、第1の予備判定時間が経過したことを条件として前記第1カウンタをリセットするように構成されるのが望ましい。
【0011】
これによれば、第1の判定時間が経過しても、第1の予備判定時間が経過するまでは第1カウンタがリセットされずに保持されるので、一時的に変化量および偏差が正常値に復帰して異常であると判定されなかった場合でも、第1の予備判定時間中に再び変化量が正常閾値を超えた場合に異常を判定しやすくすることができる。
【0012】
また、本発明は、舵角センサが正常か否かを判定する第2診断を実行可能な第2診断手段を有する異常判定装置であって、前記第2診断手段は、前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第2変化量算出部と、前記舵角センサが正常であるときに前記第2変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第2記憶部と、前記変化量と正常閾値とを比較し、前記変化量が前記正常閾値を超えた場合に第2カウンタをカウントする変化量比較部と、前記第2カウンタがカウントされるたびに、前記第2カウンタが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定するとともに、前記第2カウンタを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として前記第2カウンタをリセットする第2判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第2カウンタが所定値に達していなければ異常と判定しないので、舵角センサの診断における誤判定を抑えることができる。また、舵角センサから取得される値が発振する場合や連続的なノイズが発生する場合には、第2カウンタが所定値に達するので、このような場合における異常を確実に判定することができる。
【0014】
また、本発明では、前述した第1診断と第2診断を同時に行うとともに、各診断において舵角および変化量として共通の値を用いるようにしてもよい。
【0015】
これによれば、舵角と変化量に共通の値を用いながら第1の診断と第2の診断を並行して実行することができるので、単一の舵角に関する情報から異なる2つの診断手法で異常を迅速に判定することができる。
【0016】
なお、前述した異常判定装置は、例えば車両用制御装置に設けることができる。
【0017】
これによれば、例えば舵角センサにも診断機能を有する場合において、仮に舵角センサの診断機能が異常なために舵角センサが正常であると誤判定されて出力された値である場合や、舵角センサの出力は正常であるものの舵角センサから車両用制御装置への通信が異常なために舵角センサから出力された値を車両用制御装置が取得するまでの間に異常な値となってしまう場合であっても、車両用制御装置内の異常判定装置によって診断を行うことができるので、異常判定を行う精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、舵角センサの診断における誤判定を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車両用制御装置を備えた車両を示す構成図である。
【図2】車両用制御装置のブレーキ液圧回路を示す構成図である。
【図3】第1の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】制御部の動作を示すフローチャートである。
【図5】舵角が大きな値に固着したときの診断例を示す図である。
【図6】舵角が2段階にオフセットしたときの診断例を示す図である。
【図7】舵角がさほど大きく変化しないときの診断例を示す図である。
【図8】舵角センサから一時的にノイズの入力があったときの診断例を示す図である。
【図9】舵角センサから一時的にノイズが入力された後、第1予備タイマのインクリメント中に舵角が異常に大きくなって固着したときの診断例を示す図である。
【図10】第2の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【図11】図10の制御部の動作を示すフローチャートである。
【図12】舵角が大きな振幅で変化するときの診断例を示す図である。
【図13】舵角が最初に異常に大きな値になった後、正常な値に戻るときの診断例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、車両のエンジンルーム内に設けられている。車両用制御装置100は、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを備えている。
【0021】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、舵角センサ92、横加速度センサ93およびヨーレートセンサ94からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0022】
車輪速センサ91は、車輪Wの車輪速度を検出するセンサであり、各車輪Wに対応して設けられている。
舵角センサ92は、ステアリングSTの舵角を検出するセンサであり、ステアリングSTの回転軸に設けられている。
【0023】
横加速度センサ93は、車両CRの横方向に働く加速度(横加速度)を検出するセンサであり、制御部20に一体的に設けられている。
ヨーレートセンサ94は、車両CRの旋回角速度(実ヨーレート)を検出するセンサであり、制御部20に一体的に設けられている。
【0024】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0025】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0026】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122は各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0027】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0028】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0029】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0030】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0031】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0032】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0033】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0034】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0035】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3に貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0036】
オリフィス5は、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。
【0037】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0038】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0039】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0040】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、すなわち、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部20により開放(開弁)される。
【0041】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部20に入力される。
【0042】
次に、制御部20の詳細について説明する。
図1〜図3に示すように、制御部20は、各センサ91〜94等から入力された信号に基づいて液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6(調圧弁R)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。特に、本実施形態においては、制御部20は、舵角センサ92が正常か否かを判定する異常判定装置として機能するようになっている。
【0043】
ここで、本実施形態における舵角センサ92内には、舵角センサ92が正常か否かを判定する公知の判定手段が設けられており、舵角センサ92が正常か否かを示す信号(以下、「センサ側信号」と称する。)を制御部20に出力するようになっている(図5(a)参照)。すなわち、本実施形態では、舵角センサ92と制御部20のそれぞれで、舵角センサ92の異常判定が行われている。
【0044】
図3に示すように、制御部20は、舵角センサ92が正常か否かを判定する第1診断を実行可能な第1診断手段21と、車両CRの挙動を制御する挙動制御手段22とを備えている。第1診断手段21は、第1変化量算出部21Aと、第1記憶部21Bと、基準舵角設定部21Cと、第1タイマ21Dと、増加部21Eと、偏差比較部21Fと、第1カウンタ21Gと、第1予備タイマ21Jと、第1判定部21Hとを備えている。
【0045】
第1変化量算出部21Aは、舵角センサ92から取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する機能を有しており、算出した変化量を基準舵角設定部21Cに出力する。
【0046】
第1記憶部21Bは、舵角センサ92が正常であるときに第1変化量算出部21Aで算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶しておくメモリ等の記憶装置である。ここで、「舵角センサ92が正常であるときに第1変化量算出部21Aで算出され得る最大の変化量」は、実験やシミュレーション等によって決定することができる。
【0047】
基準舵角設定部21Cは、第1変化量算出部21Aから取得する変化量と第1記憶部21Bから取得する正常閾値とを比較し、変化量が正常閾値を超えたときに(図5(d)の時刻t2)、舵角の前回値(図5(b)の時刻t1のときの舵角)を基準舵角に設定する機能を有している。そして、基準舵角設定部21Cは、基準舵角を設定した後、設定した基準舵角を偏差比較部21Fに出力するとともに、第1タイマ21Dを作動させる。また、基準舵角設定部21Cは、この際、第1カウンタ21Gをカウントアップするとともに、第1予備タイマ21Jをリセットする。
【0048】
さらに、基準舵角設定部21Cは、変化量が正常閾値以下である場合には、そのことを示す信号を第1判定部21Hに送るとともに、第1予備タイマ21Jを作動させる。
【0049】
第1タイマ21Dは、基準舵角設定部21Cから作動のきっかけのための信号を受けると、第1の判定時間をセットし、セットした第1の判定時間を徐々に減算する機能を有している(図5(f)参照)。
【0050】
増加部21Eは、第1タイマ21Dを参照することで、セットした第1の判定時間がゼロになるまでの間(変化量が正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間)において、所定のタイミングで正常閾値を徐々に増加させる機能を有している(図5(c)参照)。具体的に、増加部21Eは、偏差比較部21Fによる比較の回数に比例するように、当該偏差比較部21Fによる比較のたびに正常閾値に一定値を加算していく。
【0051】
言い換えると、増加部21Eは、第1タイマ21Dを参照することで、偏差比較部21Fによる比較のサイクルに対応した時間が経過するたびに、正常閾値に一定値ずつ加算するようになっている。そして、増加部21Eは、第1記憶部21Bから取得した正常閾値もしくは比較のたびに一定値を加算した正常閾値を、偏差比較部21Fに出力する。
【0052】
偏差比較部21Fは、基準舵角設定部21Cから舵角(今回値)および基準舵角を取得して、舵角と基準舵角との偏差の絶対値(以下、単に「偏差」と称する。)を算出する機能を有している。そして、偏差比較部21Fは、算出した偏差と、増加部21Eから取得する正常閾値とを比較し、偏差が正常閾値よりも大きいときに第1カウンタ21Gをカウントアップする機能を有している(図5(c),(e)参照)。また、偏差比較部21Fは、第1タイマ21Dを参照することで、前述した偏差と正常閾値の比較やカウントアップを、第1の判定時間中にのみ実行する。
【0053】
第1予備タイマ21Jは、基準舵角設定部21Cから作動のきっかけのための信号を受けると、第1予備タイマ21Jを増加(インクリメント)していく機能を有している(図7(g)参照)。なお、第1予備タイマ21Jは、第1の予備判定時間までインクリメントされた後は、それ以上インクリメントされないようになっている。
【0054】
第1判定部21Hは、第1カウンタ21Gを参照して、第1カウンタ21Gが所定値に達したか否かを判断することで、舵角センサ92が異常であるか否かを判定する機能を有している。そして、第1判定部21Hは、第1カウンタ21Gが所定値に達した場合に、舵角センサ92が異常であると判定する。
【0055】
また、第1判定部21Hは、基準舵角設定部21Cから送られてくる信号(変化量が正常閾値以下であることを示す信号)と、第1タイマ21Dと、第1予備タイマ21Jとを参照して、第1カウンタ21Gをリセットするか否かを決定する機能を有している。詳しくは、第1判定部21Hは、第1タイマ21Dを参照して第1の判定時間が経過したか否かを判断するとともに、基準舵角設定部21Cからの信号を参照して変化量が正常閾値以下であるか否かを判断する。
【0056】
第1判定部21Hは、第1の判定時間が経過しており、かつ、変化量が正常閾値以下である場合には、第1予備タイマ21Jを参照して、第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否かを判断する。そして、第1判定部21Hは、第1の予備判定時間が経過した場合には、第1カウンタ21Gをリセットするように構成されている。
【0057】
また、第1判定部21Hは、第1の判定時間が経過しても第1カウンタ21Gが所定値に満たない場合には、基準舵角および正常閾値をリセットして、初期値に戻す(図7(b),(c)参照)。そして、第1判定部21Hは、舵角センサ92が異常であるか否かを示す信号(「判定部側信号」と称する。)を挙動制御手段22に出力する。
【0058】
挙動制御手段22は、第1判定部21Hから取得する判定部側信号と、舵角センサ92から送信されるセンサ側信号とに基づいて、公知の車両の挙動制御を行うか否かを判断する機能を有している。具体的に、挙動制御手段22は、判定部側信号とセンサ側信号の少なくとも一方が異常を示す信号である場合に、挙動制御を禁止し、判定部側信号とセンサ側信号の両方が正常を示す信号である場合に、挙動制御を実行するように構成されている。
【0059】
これにより、例えば舵角センサ92内の判定手段が異常なために舵角センサ92が正常であると誤判定されて正常を示すセンサ側信号が出力された場合や、舵角センサ92の出力は正常であるものの舵角センサ92から車両用制御装置100への通信が異常なために舵角センサ92から出力された値を車両用制御装置100が取得するまでの間に異常な値となってしまう場合であっても、制御部20内の第1診断手段21によって舵角センサ92の異常判定を再度行うことができるので、異常判定の精度向上を図ることが可能となっている。
【0060】
次に、図4を参照して、制御部20の動作について説明する。
図4に示すように、制御部20は、舵角の今回値と前回値に基づいて変化量を算出し(S1)、第1タイマ21Dが0よりも大きいか否かを判断する(S2)。ステップS2において第1タイマ21Dが0である場合には(No)、制御部20は、基準舵角および正常閾値をリセットして(S3)、ステップS1で算出した変化量が正常閾値を超えているか否かを判断する(S4)。
【0061】
ステップS4において変化量が正常閾値を超えている場合には(Yes)、制御部20は、そのときの舵角の前回値を基準舵角として設定するとともに、第1の判定時間をセットする(S5)。ステップS5の後、制御部20は、第1予備タイマ21Jをリセットするとともに(S6)、第1カウンタ21Gをカウントアップする(S7)。
【0062】
ステップS2において第1タイマ21Dが0よりも大きい場合には(Yes)、制御部20は、第1タイマ21Dをデクリメントするとともに(S8)、正常閾値を一定値だけ増加する(S9)。ステップS9の後、制御部20は、舵角の今回値と基準舵角の差の絶対値である偏差が、正常閾値を超えているか否かを判断する(S10)。
【0063】
ステップS10において偏差が正常閾値を超えている場合には(Yes)、制御部20は、第1カウンタ21Gをカウントアップして(S11)、ステップS12の処理に進む。また、ステップS10において偏差が正常閾値を超えていない場合には(No)、制御部20は、第1カウンタ21Gをカウントアップせずに、ステップS12の処理に進む。
【0064】
ステップS12では、制御部20は、第1カウンタ21Gが所定値以上になったか(所定値に達したか)否かを判断する。ステップS12において第1カウンタ21Gが所定値未満の場合には(No)、制御部20は、ステップS1の処理に戻る。
【0065】
ステップS12において第1カウンタ21Gが所定値以上の場合には(Yes)、制御部20は、舵角センサ92が異常であると判定する(S13)。
【0066】
また、ステップS4において変化量が正常閾値以下である場合には(No)、制御部20は、第1予備タイマ21Jをインクリメントし(S14)、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間以上であるか否か(第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否か)を判断する(S15)。
【0067】
ステップS15において、制御部20は、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間未満である場合には(No)、そのままステップS1の処理に戻り、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間以上である場合には(Yes)、第1カウンタ21Gをリセットして(S16)、ステップS1の処理に戻る。
【0068】
次に、図5〜図9を参照して、制御部20による舵角センサ92の診断の例を、異常と判定する場合と、異常と判定しない場合とに分けて詳細に説明する。
【0069】
図5に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図5(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なる大きな値(図5(b)参照)に変化して固着する例である。このようなケースでは、図5(c)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えると(時刻t2)、時刻t1のときの舵角が基準舵角と設定され、舵角と基準舵角の差である偏差が算出される。また、この際、第1の予備判定時間までインクリメントされている第1予備タイマ21Jがリセットされる。
【0070】
その後は、偏差が大きな値に固着することにより、第1の判定時間の間、正常閾値が徐々に大きくなっていっても、偏差が正常閾値を常に超えた値となることにより、第1の判定時間の間に第1カウンタ21Gが所定値まで達し(時刻t3)、異常と判定される。
【0071】
図6に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図6(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が、実際の舵角とは異なり、2段階に分けて大きな値にオフセット(図6(b)参照)する例である。このようなケースでは、図6(c)〜(f)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t4)から所定時間の間(時刻t4〜t5間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0072】
時刻t5の後、すなわち徐々に増加される正常閾値が偏差以上になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、時刻t6において、偏差がさらに大きな値に変化すると、偏差が再び正常閾値を超えて、第1カウンタ21Gのカウントアップが再開される。その後、第1カウンタ21Gが所定値に達すると(時刻t7)、異常と判定される。
【0073】
図7に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図7(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なるが、舵角がさほど大きく変化しない例である。このようなケースでは、図7(b)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t9)から所定時間の間(時刻t9〜t10間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0074】
時刻t10の後、すなわち徐々に増加される正常閾値が偏差以上になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、第1カウンタ21Gが所定値に到達しないまま第1タイマ21Dがゼロになると(時刻t11)、偏差の計算が終了し、基準舵角および正常閾値がリセットされるとともに、第1予備タイマ21Jがインクリメントされていく。
【0075】
そして、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間に到達すると(時刻t12)、第1カウンタ21Gがリセットされる。そのため、このようなケースでは、舵角センサ92が異常と判定されない。
【0076】
図8に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図8(a)参照)、舵角センサ92から一時的にノイズの入力があった場合の例である。このようなケースでは、図8(b)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t13)から所定時間の間(時刻t13〜t14間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0077】
時刻t14の後、すなわちノイズの入力がなくなって正常閾値を超えていた偏差が正常閾値以下になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、第1カウンタ21Gが所定値に到達しないまま第1タイマ21Dがゼロになると(時刻t15)、偏差の計算が終了し、基準舵角および正常閾値がリセットされるとともに、第1予備タイマ21Jがインクリメントされていく。
【0078】
そして、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間に到達すると(時刻t16)、第1カウンタ21Gがリセットされる。そのため、このようなケースでは、舵角センサ92が異常と判定されない。
【0079】
図9に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図9(a)参照)、舵角センサ92から一時的にノイズが入力された後、第1予備タイマ21Jのインクリメント中に舵角が異常に大きくなって固着した場合の例である。このようなケースでは、図9(b)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t17)から所定時間の間(時刻t17〜t18間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0080】
時刻t18の後、すなわち1回目のノイズの入力がなくなって正常閾値を超えていた偏差が正常閾値以下になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、第1カウンタ21Gが所定値に到達しないまま第1タイマ21Dがゼロになると(時刻t19)、偏差の計算が終了し、基準舵角および正常閾値がリセットされるとともに、第1予備タイマ21Jがインクリメントされていく。
【0081】
そして、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間に到達する前に2回目のノイズが入力されて変化量が再び正常閾値を超えると(時刻t20)、第1予備タイマ21Jがリセットされるとともに、第1タイマ21Dが再び第1の判定時間にセットされる。また、このとき、基準舵角が再度設定され、偏差が算出される。
【0082】
その後は、偏差が正常閾値を超えることにより第1カウンタ21Gのカウントアップが再開され、第1カウンタ21Gが所定値まで達すると(時刻t21)、異常と判定される。すなわち、図9の例では、1回目の第1の判定時間の経過により一旦は異常判定が中断されるが、その時点で第1カウンタ21Gをリセットせずに、第1の予備判定時間の間第1カウンタ21Gの値を保持することで、第1の予備判定時間中に再び舵角が異常値になったときに、第1カウンタ21Gを保持した値からカウントアップすることができるので、異常を判定しやすくすることができる。
【0083】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第1カウンタ21Gが所定値に達していなければ異常と判定しないので(図7参照)、舵角センサ92の診断における誤判定を抑えることができる。また、舵角が異常に高い値になったままとなる固着やオフセットによる異常の場合には、第1カウンタ21Gが所定値に達するので(図5,6参照)、確実に異常を判定することができる。
【0084】
正常閾値に一定値ずつ加算していくといった単純な増加によって正常閾値を決定するので、複雑な計算式やマップを準備する必要がない。
【0085】
舵角センサ92の診断機能(判定手段)が異常なためにセンサ側信号が正常を示す場合や、舵角センサの出力は正常であるものの舵角センサから車両用制御装置への通信が異常なために舵角センサから出力された値を車両用制御装置が取得するまでの間に異常な値となってしまう場合であっても、車両用制御装置100内の制御部20(異常判定装置)によって診断を行うことができるので、異常判定を行う精度を向上させることができる。
【0086】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態は、前述した第1の実施形態に係る制御部20の一部の構造を変更したものであるため、第1の実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することとする。
【0087】
図10に示すように、第2の実施形態に係る制御部30は、第1の実施形態と同様の挙動制御手段22を有する他、第1の実施形態における第1診断とは異なる第2診断を行う第2診断手段31とを有している。第2診断手段31は、第2変化量算出部31Aと、第2記憶部31Bと、変化量比較部31Cと、第2カウンタ31Dと、第2判定部31Eと、第2タイマ31Fとを備えている。
【0088】
第2変化量算出部31Aは、第1の実施形態の第1変化量算出部21Aと同様の方法で変化量を算出し、算出した変化量を変化量比較部31Cに出力する。
【0089】
第2記憶部31Bは、第1の実施形態の第1記憶部21Bと同様に、舵角センサ92が正常であるときに第2変化量算出部31Aで算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶している。
【0090】
変化量比較部31Cは、第2変化量算出部31Aから取得する変化量と第2記憶部31Bから取得する正常閾値とを比較し、変化量が正常閾値を超えた場合に第2カウンタ31Dをカウントアップする機能を有している。また、変化量比較部31Cは第2カウンタ31Dをカウントアップするたびに、第2タイマ31Fによるインクリメントをゼロからやり直す機能も有している。
【0091】
第2判定部31Eは、第2カウンタ31Dがカウントアップされるたびに、第2カウンタ31Dが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として舵角センサ92が異常であると判定する機能を有している。また、第2判定部31Eは、第2カウンタ31Dを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として第2カウンタ31Dをリセットする機能も有している。具体的に、第2判定部31Eは、第2カウンタ31Dと第2タイマ31Fを参照して、第2カウンタ31Dが所定値に達したか否かを判断するとともに、カウントアップした時点から第2の判定時間が経過したか否かを判断する。
【0092】
そして、第2判定部31Eは、第2の判定時間が経過する前に第2カウンタ31Dが所定値に達した場合には、異常と判定し(図12(d),(e)参照)、第2の判定時間が経過したときには、第2カウンタ31Dをリセットする(ゼロに戻す:図13(d),(e)参照)。
【0093】
次に、図11を参照して、制御部30の動作について説明する。
図11に示すように、制御部30は、舵角の今回値と前回値に基づいて変化量を算出し(S21)、算出した変化量が正常閾値を超えているか否かを判断する(S22)。ステップS22において変化量が正常閾値を超えている場合には(Yes)、制御部30は、第2カウンタ31Dをカウントアップするとともに(S23)、第2タイマ31Fをリセットする(S24)。
【0094】
ステップS24の後、制御部30は、第2カウンタ31Dが所定値以上になったか否かを判断する(S25)。ステップS25において、制御部30は、第2カウンタ31Dが所定値以上になっている場合には(Yes)、舵角センサ92が異常であると判定し(S26)、所定値未満である場合には(No)、そのままステップS21の処理に戻る。
【0095】
また、ステップS22において変化量が正常閾値以下である場合には(No)、制御部30は、第2タイマ31Fをインクリメントする(S27)。ステップS27の後、制御部30は、第2タイマ31Fを参照して、第2の判定時間が経過したか否かを判断する(S28)。
【0096】
ステップS28において、制御部30は、第2の判定時間が経過した場合には(Yes)、第2カウンタ31Dをリセットし、第2の判定時間中である場合には(No)、第2カウンタ31DをリセットせずにステップS21の処理に戻る。
【0097】
次に、図12,13を参照して、制御部30による舵角センサ92の診断の例を、異常と判定する場合と、異常と判定しない場合とに分けて詳細に説明する。
【0098】
図12に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図12(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なり、大きな振幅(図12(b)参照)で変化する例である。このようなケースでは、図12(c)〜(e)に示すように、変化量が正常閾値を超えるたびに(時刻t31〜t35)、第2カウンタ31Dがカウントアップされ、第2タイマ31Fがリセットされる。これにより、このケースでは、変化量が頻繁に正常閾値を超えるため、第2タイマ31Fが第2の判定時間に達する前に、第2カウンタ31Dが所定値に達し(時刻t35)、異常と判定される。
【0099】
図13に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図13(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なるが、舵角が最初に異常に大きな値になるだけで、その後は舵角が実際の舵角と一致する例である(図13(b)参照)。このようなケースでは、図13(b)〜(e)に示すように、舵角が最初に大きく変化するときと(時刻t36)、元の値に戻るとき(時刻t37)のみに、変化量が正常閾値を超えるので、このときのみに第2カウンタ31Dがカウントアップされ、第2タイマ31Fがリセットされる。
【0100】
時刻t37の後は、舵角が実際の舵角と一致するように変化するので、変化量が正常閾値を超えることはない。そのため、第2タイマ31Fはリセットされることなく上がっていき、第2タイマ31Fが第2の判定時間に達すると(t38)、第2カウンタ31Dがリセットされる。そのため、このようなケースでは、舵角センサ92が異常と判定されない。
【0101】
以上によれば、第2の実施形態において以下のような効果を得ることができる。
変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第2カウンタ31Dが所定値に達していなければ異常と判定しないので、舵角センサ92の診断における誤判定を抑えることができる(図13参照)。また、舵角センサ92から取得される値が発振する場合や連続的なノイズが発生する場合には、第2カウンタ31Dが所定値に達するので、このような場合における異常を確実に判定することができる(図12参照)。
【0102】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記各実施形態では、それぞれ第1診断のみ、もしくは、第2診断のみを実行するように制御部を構成したが、本発明はこれに限定されず、1つの制御部に、前述した第1診断手段21と、前述した第2診断手段31を両方に設けてもよい。なお、この場合には、第1診断手段21および第2診断手段31が、舵角および変化量として共通の値を用いながら、第1診断と第2診断を同時に行うように構成されるのが望ましい。これによれば、舵角と変化量に共通の値を用いながら第1の診断と第2の診断を並行して実行することができるので、2つの診断手段のいずれか一方が異常と判定した場合に舵角センサの異常とする場合には、単一の舵角に関する情報から異なる2つの診断手法で異常を迅速に判定することができる。また、2つの診断手段がともに異常と判定したときに舵角センサの異常とする場合には、ノイズが混入しやすい状況において、慎重な判定ができる。
【0103】
前記実施形態では、車両用制御装置100に異常判定装置(第1診断手段21、第2診断手段31)を設けるようにしたが、本発明はこれに限定されず、例えば異常判定装置を舵角センサ内に設けてもよい。
【0104】
前記実施形態では、第1カウンタ21Gおよび第2カウンタ31Dをそれぞれカウントアップしたが、本発明はこれに限定されず、カウントダウンしてもよい。
【符号の説明】
【0105】
20 制御部
21 第1診断手段
21A 第1変化量算出部
21B 第1記憶部
21C 基準舵角設定部
21D 第1タイマ
21E 増加部
21F 偏差比較部
21G 第1カウンタ
21H 第1判定部
92 舵角センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、舵角を検知する舵角センサが正常か否かを診断する制御を行う異常判定装置および車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舵角センサの診断が可能な車両用制御装置として、舵角センサの出力値から演算した角速度が許容最大角速度を超えたと判定したときに、異常と判定するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−42754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、角速度が許容最大角速度を超えたと一度でも判定すると、異常と判定するため、例えばノイズ等により角速度が一時的に許容最大角速度を超えるような場合(瞬間的に角速度が許容最大角速度を超え、その後元の値に復帰するような場合)であっても異常であると誤判定してしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、舵角センサの診断における誤判定を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、舵角センサが正常か否かを判定する第1診断を実行可能な第1診断手段を有する異常判定装置であって、前記第1診断手段は、前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第1変化量算出部と、前記舵角センサが正常であるときに前記第1変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第1記憶部と、前記変化量が前記正常閾値を超えたときに、前記舵角の前回値を基準舵角に設定する基準舵角設定部と、前記変化量が前記正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間、前記正常閾値を徐々に増加させる増加部と、前記第1の判定時間中、前記舵角と前記基準舵角との偏差の絶対値と、前記増加部によって増加される正常閾値とを比較し、前記偏差の絶対値が前記正常閾値よりも大きいときに第1カウンタをカウントする偏差比較部と、前記第1カウンタが所定値に達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定する第1判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第1カウンタが所定値に達していなければ異常と判定しないので、舵角センサの診断における誤判定を抑えることができる。特に、カウントの条件に使用する正常閾値を増加部によって徐々に大きくすることで、舵角センサを異常と判定する条件が徐々に厳しくなるので、誤判定の可能性を小さくすることができる。さらに、舵角が異常に高い値になったままとなる固着やオフセットによる異常の場合には、第1カウンタが所定値に達するので、確実に異常を判定することができる。
【0008】
また、本発明では、前記増加部は、前記正常閾値が前記偏差比較部による比較の回数に比例するように、前記比較のたびに前記正常閾値に一定値を加算していくのが望ましい。
【0009】
これによれば、正常閾値を単純な増加によって決定できるので、複雑な計算式やマップを準備する必要がない。
【0010】
また、本発明では、前記第1判定部が、前記第1の判定時間が経過したこと、および、前記変化量が前記正常閾値以下であることを条件として、前記第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否かを判断し、第1の予備判定時間が経過したことを条件として前記第1カウンタをリセットするように構成されるのが望ましい。
【0011】
これによれば、第1の判定時間が経過しても、第1の予備判定時間が経過するまでは第1カウンタがリセットされずに保持されるので、一時的に変化量および偏差が正常値に復帰して異常であると判定されなかった場合でも、第1の予備判定時間中に再び変化量が正常閾値を超えた場合に異常を判定しやすくすることができる。
【0012】
また、本発明は、舵角センサが正常か否かを判定する第2診断を実行可能な第2診断手段を有する異常判定装置であって、前記第2診断手段は、前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第2変化量算出部と、前記舵角センサが正常であるときに前記第2変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第2記憶部と、前記変化量と正常閾値とを比較し、前記変化量が前記正常閾値を超えた場合に第2カウンタをカウントする変化量比較部と、前記第2カウンタがカウントされるたびに、前記第2カウンタが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定するとともに、前記第2カウンタを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として前記第2カウンタをリセットする第2判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第2カウンタが所定値に達していなければ異常と判定しないので、舵角センサの診断における誤判定を抑えることができる。また、舵角センサから取得される値が発振する場合や連続的なノイズが発生する場合には、第2カウンタが所定値に達するので、このような場合における異常を確実に判定することができる。
【0014】
また、本発明では、前述した第1診断と第2診断を同時に行うとともに、各診断において舵角および変化量として共通の値を用いるようにしてもよい。
【0015】
これによれば、舵角と変化量に共通の値を用いながら第1の診断と第2の診断を並行して実行することができるので、単一の舵角に関する情報から異なる2つの診断手法で異常を迅速に判定することができる。
【0016】
なお、前述した異常判定装置は、例えば車両用制御装置に設けることができる。
【0017】
これによれば、例えば舵角センサにも診断機能を有する場合において、仮に舵角センサの診断機能が異常なために舵角センサが正常であると誤判定されて出力された値である場合や、舵角センサの出力は正常であるものの舵角センサから車両用制御装置への通信が異常なために舵角センサから出力された値を車両用制御装置が取得するまでの間に異常な値となってしまう場合であっても、車両用制御装置内の異常判定装置によって診断を行うことができるので、異常判定を行う精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、舵角センサの診断における誤判定を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車両用制御装置を備えた車両を示す構成図である。
【図2】車両用制御装置のブレーキ液圧回路を示す構成図である。
【図3】第1の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】制御部の動作を示すフローチャートである。
【図5】舵角が大きな値に固着したときの診断例を示す図である。
【図6】舵角が2段階にオフセットしたときの診断例を示す図である。
【図7】舵角がさほど大きく変化しないときの診断例を示す図である。
【図8】舵角センサから一時的にノイズの入力があったときの診断例を示す図である。
【図9】舵角センサから一時的にノイズが入力された後、第1予備タイマのインクリメント中に舵角が異常に大きくなって固着したときの診断例を示す図である。
【図10】第2の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【図11】図10の制御部の動作を示すフローチャートである。
【図12】舵角が大きな振幅で変化するときの診断例を示す図である。
【図13】舵角が最初に異常に大きな値になった後、正常な値に戻るときの診断例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、車両のエンジンルーム内に設けられている。車両用制御装置100は、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを備えている。
【0021】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、舵角センサ92、横加速度センサ93およびヨーレートセンサ94からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0022】
車輪速センサ91は、車輪Wの車輪速度を検出するセンサであり、各車輪Wに対応して設けられている。
舵角センサ92は、ステアリングSTの舵角を検出するセンサであり、ステアリングSTの回転軸に設けられている。
【0023】
横加速度センサ93は、車両CRの横方向に働く加速度(横加速度)を検出するセンサであり、制御部20に一体的に設けられている。
ヨーレートセンサ94は、車両CRの旋回角速度(実ヨーレート)を検出するセンサであり、制御部20に一体的に設けられている。
【0024】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0025】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0026】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122は各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0027】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0028】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0029】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0030】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0031】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0032】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0033】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0034】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0035】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3に貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0036】
オリフィス5は、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。
【0037】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0038】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0039】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0040】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、すなわち、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部20により開放(開弁)される。
【0041】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部20に入力される。
【0042】
次に、制御部20の詳細について説明する。
図1〜図3に示すように、制御部20は、各センサ91〜94等から入力された信号に基づいて液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6(調圧弁R)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。特に、本実施形態においては、制御部20は、舵角センサ92が正常か否かを判定する異常判定装置として機能するようになっている。
【0043】
ここで、本実施形態における舵角センサ92内には、舵角センサ92が正常か否かを判定する公知の判定手段が設けられており、舵角センサ92が正常か否かを示す信号(以下、「センサ側信号」と称する。)を制御部20に出力するようになっている(図5(a)参照)。すなわち、本実施形態では、舵角センサ92と制御部20のそれぞれで、舵角センサ92の異常判定が行われている。
【0044】
図3に示すように、制御部20は、舵角センサ92が正常か否かを判定する第1診断を実行可能な第1診断手段21と、車両CRの挙動を制御する挙動制御手段22とを備えている。第1診断手段21は、第1変化量算出部21Aと、第1記憶部21Bと、基準舵角設定部21Cと、第1タイマ21Dと、増加部21Eと、偏差比較部21Fと、第1カウンタ21Gと、第1予備タイマ21Jと、第1判定部21Hとを備えている。
【0045】
第1変化量算出部21Aは、舵角センサ92から取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する機能を有しており、算出した変化量を基準舵角設定部21Cに出力する。
【0046】
第1記憶部21Bは、舵角センサ92が正常であるときに第1変化量算出部21Aで算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶しておくメモリ等の記憶装置である。ここで、「舵角センサ92が正常であるときに第1変化量算出部21Aで算出され得る最大の変化量」は、実験やシミュレーション等によって決定することができる。
【0047】
基準舵角設定部21Cは、第1変化量算出部21Aから取得する変化量と第1記憶部21Bから取得する正常閾値とを比較し、変化量が正常閾値を超えたときに(図5(d)の時刻t2)、舵角の前回値(図5(b)の時刻t1のときの舵角)を基準舵角に設定する機能を有している。そして、基準舵角設定部21Cは、基準舵角を設定した後、設定した基準舵角を偏差比較部21Fに出力するとともに、第1タイマ21Dを作動させる。また、基準舵角設定部21Cは、この際、第1カウンタ21Gをカウントアップするとともに、第1予備タイマ21Jをリセットする。
【0048】
さらに、基準舵角設定部21Cは、変化量が正常閾値以下である場合には、そのことを示す信号を第1判定部21Hに送るとともに、第1予備タイマ21Jを作動させる。
【0049】
第1タイマ21Dは、基準舵角設定部21Cから作動のきっかけのための信号を受けると、第1の判定時間をセットし、セットした第1の判定時間を徐々に減算する機能を有している(図5(f)参照)。
【0050】
増加部21Eは、第1タイマ21Dを参照することで、セットした第1の判定時間がゼロになるまでの間(変化量が正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間)において、所定のタイミングで正常閾値を徐々に増加させる機能を有している(図5(c)参照)。具体的に、増加部21Eは、偏差比較部21Fによる比較の回数に比例するように、当該偏差比較部21Fによる比較のたびに正常閾値に一定値を加算していく。
【0051】
言い換えると、増加部21Eは、第1タイマ21Dを参照することで、偏差比較部21Fによる比較のサイクルに対応した時間が経過するたびに、正常閾値に一定値ずつ加算するようになっている。そして、増加部21Eは、第1記憶部21Bから取得した正常閾値もしくは比較のたびに一定値を加算した正常閾値を、偏差比較部21Fに出力する。
【0052】
偏差比較部21Fは、基準舵角設定部21Cから舵角(今回値)および基準舵角を取得して、舵角と基準舵角との偏差の絶対値(以下、単に「偏差」と称する。)を算出する機能を有している。そして、偏差比較部21Fは、算出した偏差と、増加部21Eから取得する正常閾値とを比較し、偏差が正常閾値よりも大きいときに第1カウンタ21Gをカウントアップする機能を有している(図5(c),(e)参照)。また、偏差比較部21Fは、第1タイマ21Dを参照することで、前述した偏差と正常閾値の比較やカウントアップを、第1の判定時間中にのみ実行する。
【0053】
第1予備タイマ21Jは、基準舵角設定部21Cから作動のきっかけのための信号を受けると、第1予備タイマ21Jを増加(インクリメント)していく機能を有している(図7(g)参照)。なお、第1予備タイマ21Jは、第1の予備判定時間までインクリメントされた後は、それ以上インクリメントされないようになっている。
【0054】
第1判定部21Hは、第1カウンタ21Gを参照して、第1カウンタ21Gが所定値に達したか否かを判断することで、舵角センサ92が異常であるか否かを判定する機能を有している。そして、第1判定部21Hは、第1カウンタ21Gが所定値に達した場合に、舵角センサ92が異常であると判定する。
【0055】
また、第1判定部21Hは、基準舵角設定部21Cから送られてくる信号(変化量が正常閾値以下であることを示す信号)と、第1タイマ21Dと、第1予備タイマ21Jとを参照して、第1カウンタ21Gをリセットするか否かを決定する機能を有している。詳しくは、第1判定部21Hは、第1タイマ21Dを参照して第1の判定時間が経過したか否かを判断するとともに、基準舵角設定部21Cからの信号を参照して変化量が正常閾値以下であるか否かを判断する。
【0056】
第1判定部21Hは、第1の判定時間が経過しており、かつ、変化量が正常閾値以下である場合には、第1予備タイマ21Jを参照して、第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否かを判断する。そして、第1判定部21Hは、第1の予備判定時間が経過した場合には、第1カウンタ21Gをリセットするように構成されている。
【0057】
また、第1判定部21Hは、第1の判定時間が経過しても第1カウンタ21Gが所定値に満たない場合には、基準舵角および正常閾値をリセットして、初期値に戻す(図7(b),(c)参照)。そして、第1判定部21Hは、舵角センサ92が異常であるか否かを示す信号(「判定部側信号」と称する。)を挙動制御手段22に出力する。
【0058】
挙動制御手段22は、第1判定部21Hから取得する判定部側信号と、舵角センサ92から送信されるセンサ側信号とに基づいて、公知の車両の挙動制御を行うか否かを判断する機能を有している。具体的に、挙動制御手段22は、判定部側信号とセンサ側信号の少なくとも一方が異常を示す信号である場合に、挙動制御を禁止し、判定部側信号とセンサ側信号の両方が正常を示す信号である場合に、挙動制御を実行するように構成されている。
【0059】
これにより、例えば舵角センサ92内の判定手段が異常なために舵角センサ92が正常であると誤判定されて正常を示すセンサ側信号が出力された場合や、舵角センサ92の出力は正常であるものの舵角センサ92から車両用制御装置100への通信が異常なために舵角センサ92から出力された値を車両用制御装置100が取得するまでの間に異常な値となってしまう場合であっても、制御部20内の第1診断手段21によって舵角センサ92の異常判定を再度行うことができるので、異常判定の精度向上を図ることが可能となっている。
【0060】
次に、図4を参照して、制御部20の動作について説明する。
図4に示すように、制御部20は、舵角の今回値と前回値に基づいて変化量を算出し(S1)、第1タイマ21Dが0よりも大きいか否かを判断する(S2)。ステップS2において第1タイマ21Dが0である場合には(No)、制御部20は、基準舵角および正常閾値をリセットして(S3)、ステップS1で算出した変化量が正常閾値を超えているか否かを判断する(S4)。
【0061】
ステップS4において変化量が正常閾値を超えている場合には(Yes)、制御部20は、そのときの舵角の前回値を基準舵角として設定するとともに、第1の判定時間をセットする(S5)。ステップS5の後、制御部20は、第1予備タイマ21Jをリセットするとともに(S6)、第1カウンタ21Gをカウントアップする(S7)。
【0062】
ステップS2において第1タイマ21Dが0よりも大きい場合には(Yes)、制御部20は、第1タイマ21Dをデクリメントするとともに(S8)、正常閾値を一定値だけ増加する(S9)。ステップS9の後、制御部20は、舵角の今回値と基準舵角の差の絶対値である偏差が、正常閾値を超えているか否かを判断する(S10)。
【0063】
ステップS10において偏差が正常閾値を超えている場合には(Yes)、制御部20は、第1カウンタ21Gをカウントアップして(S11)、ステップS12の処理に進む。また、ステップS10において偏差が正常閾値を超えていない場合には(No)、制御部20は、第1カウンタ21Gをカウントアップせずに、ステップS12の処理に進む。
【0064】
ステップS12では、制御部20は、第1カウンタ21Gが所定値以上になったか(所定値に達したか)否かを判断する。ステップS12において第1カウンタ21Gが所定値未満の場合には(No)、制御部20は、ステップS1の処理に戻る。
【0065】
ステップS12において第1カウンタ21Gが所定値以上の場合には(Yes)、制御部20は、舵角センサ92が異常であると判定する(S13)。
【0066】
また、ステップS4において変化量が正常閾値以下である場合には(No)、制御部20は、第1予備タイマ21Jをインクリメントし(S14)、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間以上であるか否か(第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否か)を判断する(S15)。
【0067】
ステップS15において、制御部20は、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間未満である場合には(No)、そのままステップS1の処理に戻り、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間以上である場合には(Yes)、第1カウンタ21Gをリセットして(S16)、ステップS1の処理に戻る。
【0068】
次に、図5〜図9を参照して、制御部20による舵角センサ92の診断の例を、異常と判定する場合と、異常と判定しない場合とに分けて詳細に説明する。
【0069】
図5に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図5(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なる大きな値(図5(b)参照)に変化して固着する例である。このようなケースでは、図5(c)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えると(時刻t2)、時刻t1のときの舵角が基準舵角と設定され、舵角と基準舵角の差である偏差が算出される。また、この際、第1の予備判定時間までインクリメントされている第1予備タイマ21Jがリセットされる。
【0070】
その後は、偏差が大きな値に固着することにより、第1の判定時間の間、正常閾値が徐々に大きくなっていっても、偏差が正常閾値を常に超えた値となることにより、第1の判定時間の間に第1カウンタ21Gが所定値まで達し(時刻t3)、異常と判定される。
【0071】
図6に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図6(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が、実際の舵角とは異なり、2段階に分けて大きな値にオフセット(図6(b)参照)する例である。このようなケースでは、図6(c)〜(f)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t4)から所定時間の間(時刻t4〜t5間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0072】
時刻t5の後、すなわち徐々に増加される正常閾値が偏差以上になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、時刻t6において、偏差がさらに大きな値に変化すると、偏差が再び正常閾値を超えて、第1カウンタ21Gのカウントアップが再開される。その後、第1カウンタ21Gが所定値に達すると(時刻t7)、異常と判定される。
【0073】
図7に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図7(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なるが、舵角がさほど大きく変化しない例である。このようなケースでは、図7(b)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t9)から所定時間の間(時刻t9〜t10間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0074】
時刻t10の後、すなわち徐々に増加される正常閾値が偏差以上になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、第1カウンタ21Gが所定値に到達しないまま第1タイマ21Dがゼロになると(時刻t11)、偏差の計算が終了し、基準舵角および正常閾値がリセットされるとともに、第1予備タイマ21Jがインクリメントされていく。
【0075】
そして、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間に到達すると(時刻t12)、第1カウンタ21Gがリセットされる。そのため、このようなケースでは、舵角センサ92が異常と判定されない。
【0076】
図8に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図8(a)参照)、舵角センサ92から一時的にノイズの入力があった場合の例である。このようなケースでは、図8(b)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t13)から所定時間の間(時刻t13〜t14間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0077】
時刻t14の後、すなわちノイズの入力がなくなって正常閾値を超えていた偏差が正常閾値以下になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、第1カウンタ21Gが所定値に到達しないまま第1タイマ21Dがゼロになると(時刻t15)、偏差の計算が終了し、基準舵角および正常閾値がリセットされるとともに、第1予備タイマ21Jがインクリメントされていく。
【0078】
そして、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間に到達すると(時刻t16)、第1カウンタ21Gがリセットされる。そのため、このようなケースでは、舵角センサ92が異常と判定されない。
【0079】
図9に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図9(a)参照)、舵角センサ92から一時的にノイズが入力された後、第1予備タイマ21Jのインクリメント中に舵角が異常に大きくなって固着した場合の例である。このようなケースでは、図9(b)〜(g)に示すように、変化量が正常閾値を超えたとき(時刻t17)から所定時間の間(時刻t17〜t18間)は、偏差が正常閾値を超えていることにより第1カウンタ21Gがカウントアップされていく。
【0080】
時刻t18の後、すなわち1回目のノイズの入力がなくなって正常閾値を超えていた偏差が正常閾値以下になると、第1カウンタ21Gがカウントアップされずに、第1タイマ21Dが減算されていく。そして、第1カウンタ21Gが所定値に到達しないまま第1タイマ21Dがゼロになると(時刻t19)、偏差の計算が終了し、基準舵角および正常閾値がリセットされるとともに、第1予備タイマ21Jがインクリメントされていく。
【0081】
そして、第1予備タイマ21Jが第1の予備判定時間に到達する前に2回目のノイズが入力されて変化量が再び正常閾値を超えると(時刻t20)、第1予備タイマ21Jがリセットされるとともに、第1タイマ21Dが再び第1の判定時間にセットされる。また、このとき、基準舵角が再度設定され、偏差が算出される。
【0082】
その後は、偏差が正常閾値を超えることにより第1カウンタ21Gのカウントアップが再開され、第1カウンタ21Gが所定値まで達すると(時刻t21)、異常と判定される。すなわち、図9の例では、1回目の第1の判定時間の経過により一旦は異常判定が中断されるが、その時点で第1カウンタ21Gをリセットせずに、第1の予備判定時間の間第1カウンタ21Gの値を保持することで、第1の予備判定時間中に再び舵角が異常値になったときに、第1カウンタ21Gを保持した値からカウントアップすることができるので、異常を判定しやすくすることができる。
【0083】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第1カウンタ21Gが所定値に達していなければ異常と判定しないので(図7参照)、舵角センサ92の診断における誤判定を抑えることができる。また、舵角が異常に高い値になったままとなる固着やオフセットによる異常の場合には、第1カウンタ21Gが所定値に達するので(図5,6参照)、確実に異常を判定することができる。
【0084】
正常閾値に一定値ずつ加算していくといった単純な増加によって正常閾値を決定するので、複雑な計算式やマップを準備する必要がない。
【0085】
舵角センサ92の診断機能(判定手段)が異常なためにセンサ側信号が正常を示す場合や、舵角センサの出力は正常であるものの舵角センサから車両用制御装置への通信が異常なために舵角センサから出力された値を車両用制御装置が取得するまでの間に異常な値となってしまう場合であっても、車両用制御装置100内の制御部20(異常判定装置)によって診断を行うことができるので、異常判定を行う精度を向上させることができる。
【0086】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態は、前述した第1の実施形態に係る制御部20の一部の構造を変更したものであるため、第1の実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することとする。
【0087】
図10に示すように、第2の実施形態に係る制御部30は、第1の実施形態と同様の挙動制御手段22を有する他、第1の実施形態における第1診断とは異なる第2診断を行う第2診断手段31とを有している。第2診断手段31は、第2変化量算出部31Aと、第2記憶部31Bと、変化量比較部31Cと、第2カウンタ31Dと、第2判定部31Eと、第2タイマ31Fとを備えている。
【0088】
第2変化量算出部31Aは、第1の実施形態の第1変化量算出部21Aと同様の方法で変化量を算出し、算出した変化量を変化量比較部31Cに出力する。
【0089】
第2記憶部31Bは、第1の実施形態の第1記憶部21Bと同様に、舵角センサ92が正常であるときに第2変化量算出部31Aで算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶している。
【0090】
変化量比較部31Cは、第2変化量算出部31Aから取得する変化量と第2記憶部31Bから取得する正常閾値とを比較し、変化量が正常閾値を超えた場合に第2カウンタ31Dをカウントアップする機能を有している。また、変化量比較部31Cは第2カウンタ31Dをカウントアップするたびに、第2タイマ31Fによるインクリメントをゼロからやり直す機能も有している。
【0091】
第2判定部31Eは、第2カウンタ31Dがカウントアップされるたびに、第2カウンタ31Dが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として舵角センサ92が異常であると判定する機能を有している。また、第2判定部31Eは、第2カウンタ31Dを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として第2カウンタ31Dをリセットする機能も有している。具体的に、第2判定部31Eは、第2カウンタ31Dと第2タイマ31Fを参照して、第2カウンタ31Dが所定値に達したか否かを判断するとともに、カウントアップした時点から第2の判定時間が経過したか否かを判断する。
【0092】
そして、第2判定部31Eは、第2の判定時間が経過する前に第2カウンタ31Dが所定値に達した場合には、異常と判定し(図12(d),(e)参照)、第2の判定時間が経過したときには、第2カウンタ31Dをリセットする(ゼロに戻す:図13(d),(e)参照)。
【0093】
次に、図11を参照して、制御部30の動作について説明する。
図11に示すように、制御部30は、舵角の今回値と前回値に基づいて変化量を算出し(S21)、算出した変化量が正常閾値を超えているか否かを判断する(S22)。ステップS22において変化量が正常閾値を超えている場合には(Yes)、制御部30は、第2カウンタ31Dをカウントアップするとともに(S23)、第2タイマ31Fをリセットする(S24)。
【0094】
ステップS24の後、制御部30は、第2カウンタ31Dが所定値以上になったか否かを判断する(S25)。ステップS25において、制御部30は、第2カウンタ31Dが所定値以上になっている場合には(Yes)、舵角センサ92が異常であると判定し(S26)、所定値未満である場合には(No)、そのままステップS21の処理に戻る。
【0095】
また、ステップS22において変化量が正常閾値以下である場合には(No)、制御部30は、第2タイマ31Fをインクリメントする(S27)。ステップS27の後、制御部30は、第2タイマ31Fを参照して、第2の判定時間が経過したか否かを判断する(S28)。
【0096】
ステップS28において、制御部30は、第2の判定時間が経過した場合には(Yes)、第2カウンタ31Dをリセットし、第2の判定時間中である場合には(No)、第2カウンタ31DをリセットせずにステップS21の処理に戻る。
【0097】
次に、図12,13を参照して、制御部30による舵角センサ92の診断の例を、異常と判定する場合と、異常と判定しない場合とに分けて詳細に説明する。
【0098】
図12に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図12(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なり、大きな振幅(図12(b)参照)で変化する例である。このようなケースでは、図12(c)〜(e)に示すように、変化量が正常閾値を超えるたびに(時刻t31〜t35)、第2カウンタ31Dがカウントアップされ、第2タイマ31Fがリセットされる。これにより、このケースでは、変化量が頻繁に正常閾値を超えるため、第2タイマ31Fが第2の判定時間に達する前に、第2カウンタ31Dが所定値に達し(時刻t35)、異常と判定される。
【0099】
図13に示す例は、センサ側信号が正常を示す信号であるにも関わらず(図13(a)参照)、舵角センサ92から出力される舵角が実際の舵角とは異なるが、舵角が最初に異常に大きな値になるだけで、その後は舵角が実際の舵角と一致する例である(図13(b)参照)。このようなケースでは、図13(b)〜(e)に示すように、舵角が最初に大きく変化するときと(時刻t36)、元の値に戻るとき(時刻t37)のみに、変化量が正常閾値を超えるので、このときのみに第2カウンタ31Dがカウントアップされ、第2タイマ31Fがリセットされる。
【0100】
時刻t37の後は、舵角が実際の舵角と一致するように変化するので、変化量が正常閾値を超えることはない。そのため、第2タイマ31Fはリセットされることなく上がっていき、第2タイマ31Fが第2の判定時間に達すると(t38)、第2カウンタ31Dがリセットされる。そのため、このようなケースでは、舵角センサ92が異常と判定されない。
【0101】
以上によれば、第2の実施形態において以下のような効果を得ることができる。
変化量が正常閾値を一時的に超える場合であっても、第2カウンタ31Dが所定値に達していなければ異常と判定しないので、舵角センサ92の診断における誤判定を抑えることができる(図13参照)。また、舵角センサ92から取得される値が発振する場合や連続的なノイズが発生する場合には、第2カウンタ31Dが所定値に達するので、このような場合における異常を確実に判定することができる(図12参照)。
【0102】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記各実施形態では、それぞれ第1診断のみ、もしくは、第2診断のみを実行するように制御部を構成したが、本発明はこれに限定されず、1つの制御部に、前述した第1診断手段21と、前述した第2診断手段31を両方に設けてもよい。なお、この場合には、第1診断手段21および第2診断手段31が、舵角および変化量として共通の値を用いながら、第1診断と第2診断を同時に行うように構成されるのが望ましい。これによれば、舵角と変化量に共通の値を用いながら第1の診断と第2の診断を並行して実行することができるので、2つの診断手段のいずれか一方が異常と判定した場合に舵角センサの異常とする場合には、単一の舵角に関する情報から異なる2つの診断手法で異常を迅速に判定することができる。また、2つの診断手段がともに異常と判定したときに舵角センサの異常とする場合には、ノイズが混入しやすい状況において、慎重な判定ができる。
【0103】
前記実施形態では、車両用制御装置100に異常判定装置(第1診断手段21、第2診断手段31)を設けるようにしたが、本発明はこれに限定されず、例えば異常判定装置を舵角センサ内に設けてもよい。
【0104】
前記実施形態では、第1カウンタ21Gおよび第2カウンタ31Dをそれぞれカウントアップしたが、本発明はこれに限定されず、カウントダウンしてもよい。
【符号の説明】
【0105】
20 制御部
21 第1診断手段
21A 第1変化量算出部
21B 第1記憶部
21C 基準舵角設定部
21D 第1タイマ
21E 増加部
21F 偏差比較部
21G 第1カウンタ
21H 第1判定部
92 舵角センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵角センサが正常か否かを判定する第1診断を実行可能な第1診断手段を有する異常判定装置であって、
前記第1診断手段は、
前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第1変化量算出部と、
前記舵角センサが正常であるときに前記第1変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第1記憶部と、
前記変化量が前記正常閾値を超えたときに、前記舵角の前回値を基準舵角に設定する基準舵角設定部と、
前記変化量が前記正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間、前記正常閾値を徐々に増加させる増加部と、
前記第1の判定時間中、前記舵角と前記基準舵角との偏差の絶対値と、前記増加部によって増加される正常閾値とを比較し、前記偏差の絶対値が前記正常閾値よりも大きいときに第1カウンタをカウントする偏差比較部と、
前記第1カウンタが所定値に達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定する第1判定部と、を備えていることを特徴とする異常判定装置。
【請求項2】
前記増加部は、前記正常閾値が前記偏差比較部による比較の回数に比例するように、前記比較のたびに前記正常閾値に一定値を加算していくことを特徴とする請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記第1判定部は、前記第1の判定時間が経過したこと、および、前記変化量が前記正常閾値以下であることを条件として、前記第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否かを判断し、第1の予備判定時間が経過したことを条件として前記第1カウンタをリセットすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
舵角センサが正常か否かを判定する第2診断を実行可能な第2診断手段を有する異常判定装置であって、
前記第2診断手段は、
前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第2変化量算出部と、
前記舵角センサが正常であるときに前記第2変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第2記憶部と、
前記変化量と正常閾値とを比較し、前記変化量が前記正常閾値を超えた場合に第2カウンタをカウントする変化量比較部と、
前記第2カウンタがカウントされるたびに、前記第2カウンタが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定するとともに、前記第2カウンタを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として前記第2カウンタをリセットする第2判定部と、を備えていることを特徴とする異常判定装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の異常判定装置であって、
前記舵角センサが正常か否かを判定する第2診断を実行可能な第2診断手段をさらに有し、
前記第2診断手段は、
前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第2変化量算出部と、
前記舵角センサが正常であるときに前記第2変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第2記憶部と、
前記変化量と正常閾値とを比較し、前記変化量が前記正常閾値を超えた場合に第2カウンタをカウントする変化量比較部と、
前記第2カウンタがカウントされるたびに、前記第2カウンタが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定するとともに、前記第2カウンタを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として前記第2カウンタをリセットする第2判定部と、を備え、
前記第1診断手段および前記第2診断手段は、
前記舵角および前記変化量として共通の値を用いながら、前記第1診断と前記第2診断を並行して行うことを特徴とする異常判定装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の異常判定装置を備えることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項1】
舵角センサが正常か否かを判定する第1診断を実行可能な第1診断手段を有する異常判定装置であって、
前記第1診断手段は、
前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第1変化量算出部と、
前記舵角センサが正常であるときに前記第1変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第1記憶部と、
前記変化量が前記正常閾値を超えたときに、前記舵角の前回値を基準舵角に設定する基準舵角設定部と、
前記変化量が前記正常閾値を超えたときから第1の判定時間が経過するまでの間、前記正常閾値を徐々に増加させる増加部と、
前記第1の判定時間中、前記舵角と前記基準舵角との偏差の絶対値と、前記増加部によって増加される正常閾値とを比較し、前記偏差の絶対値が前記正常閾値よりも大きいときに第1カウンタをカウントする偏差比較部と、
前記第1カウンタが所定値に達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定する第1判定部と、を備えていることを特徴とする異常判定装置。
【請求項2】
前記増加部は、前記正常閾値が前記偏差比較部による比較の回数に比例するように、前記比較のたびに前記正常閾値に一定値を加算していくことを特徴とする請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記第1判定部は、前記第1の判定時間が経過したこと、および、前記変化量が前記正常閾値以下であることを条件として、前記第1の判定時間が経過したときから第1の予備判定時間が経過したか否かを判断し、第1の予備判定時間が経過したことを条件として前記第1カウンタをリセットすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
舵角センサが正常か否かを判定する第2診断を実行可能な第2診断手段を有する異常判定装置であって、
前記第2診断手段は、
前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第2変化量算出部と、
前記舵角センサが正常であるときに前記第2変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第2記憶部と、
前記変化量と正常閾値とを比較し、前記変化量が前記正常閾値を超えた場合に第2カウンタをカウントする変化量比較部と、
前記第2カウンタがカウントされるたびに、前記第2カウンタが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定するとともに、前記第2カウンタを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として前記第2カウンタをリセットする第2判定部と、を備えていることを特徴とする異常判定装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の異常判定装置であって、
前記舵角センサが正常か否かを判定する第2診断を実行可能な第2診断手段をさらに有し、
前記第2診断手段は、
前記舵角センサから取得した舵角の今回値と前回値との差の絶対値を変化量として算出する第2変化量算出部と、
前記舵角センサが正常であるときに前記第2変化量算出部で算出され得る最大の変化量を正常閾値として記憶する第2記憶部と、
前記変化量と正常閾値とを比較し、前記変化量が前記正常閾値を超えた場合に第2カウンタをカウントする変化量比較部と、
前記第2カウンタがカウントされるたびに、前記第2カウンタが所定値に達したか否かを判断し、達したことを条件として前記舵角センサが異常であると判定するとともに、前記第2カウンタを今回カウントしたときから第2の判定時間が経過したか否かを判断し、経過したことを条件として前記第2カウンタをリセットする第2判定部と、を備え、
前記第1診断手段および前記第2診断手段は、
前記舵角および前記変化量として共通の値を用いながら、前記第1診断と前記第2診断を並行して行うことを特徴とする異常判定装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の異常判定装置を備えることを特徴とする車両用制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−162115(P2012−162115A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22101(P2011−22101)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
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