説明

異常検知装置

【課題】異常音に類似する様々な音響が存在する環境下においても、誤検知を頻発することない音響による異常検知装置を提供する。
【解決手段】
重要物を保管している監視領域にて生じている音響信号を取得する集音部と、集音部が集音した音響信号を分析し、所定の異常音を検出する音響分析部と、監視領域に含まれる領域であって重要物の保管場所付近に予め設定した重要物領域に所在する人物を検出する人物検出部と、音響分析部の異常音検出結果と人物検出部の人物検出結果とに基いて監視領域内の異常状態を判定する異常判定部と、異常判定部の判定結果を出力する出力部とから構成される音響による異常検知装置であって、異常判定部は、音響分析部にて所定の異常音と判定したときの前後の所定時間以内に人物検出部にて人物検出があると異常状態と判定することを特徴とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響情報に基づいて監視領域内の異常状態を検知する音響による異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集音部にて取得した音響信号から、強盗の強迫音声、銃声、客等の悲鳴などの異常波形をもった異常音を検知し、警備会社等へ通報する音響による異常検知装置が提案されている(特許文献1)。また、周囲の雑音による誤検知を低減するために、音響信号をスペクトル分析することにより、周囲の雑音から悲鳴の存在を検知する音響による異常検知装置も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−6718
【特許文献2】特開平9−251583
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来の音響による異常検知装置は、音響信号のみから監視領域内の異常状態を検知しているため、周囲のアナウンス音やテレビ音、従業員の歓声等といった異常音に類似する音響信号を誤って検出してしまう問題があった。このような誤検知を低減するために、検出感度を下げると逆に失検知の要因となりかねないことから、検出感度による調整も困難であった。
【0005】
ところで、発明者は、多くの強盗事案について事例分析した結果、強盗事案が発生した場合、悲鳴や銃声等の異常音が発生した前後の時間帯に少なくとも、金庫等の保管庫を含む重要物近辺に人物が所在する、あるいは重要物に近づく人物が存在している場合が多いことについて発見した。例えば、強盗が従業員を脅迫した際に発せられた従業員による悲鳴を検出した後に強盗自身(又は強盗に強要された従業員)が重要物に近づいていく場合や、重要物を奪取した後に従業員が発した悲鳴を検出する場合などである。
【0006】
そこで本発明は、上記のような異常音と人物位置との検出タイミングに関する特性に着目し、異常音に類似する様々な音響が存在する環境下においても、誤検知を頻発することなく、監視領域内の異常状態を検出しうることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、重要物を保管している監視領域にて生じている音響信号を取得する集音部と、前記集音部が集音した前記音響信号を分析し、所定の異常音を検出する音響分析部と、前記監視領域に含まれる領域であって前記重要物の保管場所付近に予め設定した重要物領域に所在する人物を検出する人物検出部と、前記音響分析部の異常音検出結果と人物検出部の人物検出結果とに基いて前記監視領域内の異常状態を判定する異常判定部と、前記異常判定部の判定結果を出力する出力部とから構成される音響による異常検知装置であって、前記異常判定部は、前記音響分析部にて所定の異常音と判定したときの前後の所定時間以内に前記人物検出部にて人物検出があると異常状態と判定することを特徴とした異常検知装置を提供する。
【0008】
かかる構成により、本発明の音響分析部は、集音部によって集音された音響信号を分析することにより、監視領域で悲鳴等の異常音が発生したか否かを判定する。また、本発明の人物検出部は、少なくとも監視領域に包含される領域であって、重要物の保管場所を含む所定範囲の領域である重要物領域に人物が所在しているか否かを検出する。そして、本発明の異常判定部は、監視領域で悲鳴等の異常音が発生したと音響分析部にて判定された時刻を基準とし、その時刻以前の所定時間内、又はその時刻以後の所定時間内において、人物検出部にて重要物領域内に人物を検出していたときに異常状態と判定する。そして、本発明の出力部は、当該判定結果を出力する。
これにより、例えば、重要物を奪取した強盗を人物検出部にて検出し、その後で従業員が発した悲鳴を音響分析部にて検出した時に、監視領域内が異常状態であると判定できる。また、例えば、従業員を脅迫した際に従業員が発した悲鳴を音響分析部にて検出し、その後で重要物を奪取しようと重要物領域内に近づいた強盗を人物検出部にて検出したときに、監視領域内が異常状態であると判定できる。このように、本発明は、たとえ監視領域内が異常音に類似する様々な音響の存在する環境であったとしても、重要物領域内に人物が存在しているか否かといった室内状況を考慮することによって、誤検知の頻発を抑えることができる。
【0009】
また、本発明の好ましい態様として、前記人物検出部は、前記監視領域を含む領域の画像を順次取得する撮像手段と、前記画像から人物像を抽出する人物像抽出手段と、前記人物像ごとに画像上の位置を追跡する追跡手段と、前記追跡手段の追跡結果から前記人物像の移動軌跡を記憶し、且つ、画像上の前記重要物領域の位置を予め記憶する記憶部と、前記所定時間における前記人物像の移動軌跡から前記重要物領域内に当該人物像の滞留している時間を算出する人物検出手段とを有し、前記異常判定部は、前記人物検出手段にて算出された前記人物像の滞留している時間が所定の滞留時間を超えていると異常状態と判定するものとする。
かかる構成により、本発明の人物検出部の撮像手段は、監視領域を含む領域の画像を順次取得する。そして、本発明の人物検出部の人物像抽出手段は、前記画像から人物像を抽出する。そして、本発明の人物検出部の追跡手段は、抽出された人物像ごとに画像上の位置を追跡し、当該人物像ごとの移動軌跡を記憶部にする。そして、本発明の人物検出部の人物検出手段は、記憶部に記憶された重要物領域に人物像が滞留している時間を算出する。そして、本発明の異常判定部は、人物検出手段にて算出された人物像の滞留している時間が所定の滞留時間を超えていると異常状態と判定する。このように、人物の位置を画像により追跡することによって、悲鳴を検出した前後の人物の移動状況や位置関係を異常状態の判定に勘案することができ、より正確に異常状態を判定することができる。例えば、重要物領域内を一時的に横切っただけの人物像については、重要物領域に所在するとの判定から除外できるため、通常状態における従業員等による誤検知要因を排除でき、高い確度で異常状態を検出することができる。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、本発明の異常検知装置は、監視領域内の人物の所在情報を積極的に利用したことにより、異常音に類似する様々な音響が存在する環境下においても、誤検知を多発することなく、監視領域内の異常状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例に係る異常検知装置の構成と配置イメージを模式的に示した図
【図2】第一の実施例に係る管理装置の構成を示すブロック図
【図3】移動軌跡情報を示す図
【図4】制御部における処理を示すフローチャート
【図5】第一の実施例に係る人物検出処理を示すフローチャート
【図6】悲鳴検出処理を示すフローチャート
【図7】異常判定処理を示すフローチャート
【図8】異常状態と判定される典型的なケース
【図9】第二の実施例に係る管理装置の構成を示すブロック図
【図10】第二の実施例に係る人物検出処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第一の実施例)
以下、本発明の一実施形態として、建物内の金庫が設置されている部屋内を監視領域とし、当該監視領域における音響情報と監視領域内の所定領域を撮像した画像情報とから監視領域内における異常状態を検知する場合の実施例について、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、異常検知装置1の全体構成および配置について模式的に示した図である。異常検知装置1は、管理装置2、撮像装置3及び集音装置4によって構成される。
本実施例では、異常検知装置1は、金庫7が設置されている室内を監視領域とし、監視領域内において発生する異常音である悲鳴を検出し、悲鳴が検出された前後の所定時間内に金庫7周囲に所定時間継続して人物像が検出されている場合に、異常状態であると判定し、警備装置5を介して遠隔地に所在する警備センタ装置6へ異常通報する処理を行う。
【0014】
管理装置2は、建物内の図示しない事務室や警備室等に設置され、管理装置2に接続された撮像装置3から送信された監視画像及び集音装置4から送信された音響信号に基づいて異常状態の検知処理を行う。また、管理装置2は、異常状態の検知時に、事務室等に所在する管理者や警備員等に音声や画像表示によって警報出力することにより、異常状態を報知する。さらに、管理装置2は、警備装置5に接続され、異常状態の検知時に警備装置5に異常信号を送信する。
【0015】
撮像装置3は、CCD素子やC−MOS素子等の撮像素子、光学系部品等を含んで構成される所謂監視カメラである。撮像装置3は、室内の壁9の上部又は天井部に設置され、監視領域を斜め上方から俯瞰して撮像するよう設置される。撮像装置3は、監視領域を所定時間おきに撮像して監視画像を管理装置2に順次送信する。入力画像が撮像される時間間隔は例えば1/5秒である。
監視画像として撮像される範囲には、一点鎖線で図示された重要物領域8が含まれる。ここで、重要物領域8とは、重要物が保管された金庫7周囲の所定範囲の領域のことをいう。ここで、所定範囲は、金庫7を人が操作しているときに所在しそうな範囲である。重要物領域8は、管理装置2にて監視画像上の一部領域として予め設定され、管理装置2による異常状態の検知処理において参照される。本実施例では、具体的には、重要物領域8は金庫7を中心とする半径3m相当の領域に設定される。
【0016】
集音装置4は、マイクロフォン、増幅器及びA/D変換器等を含んで構成され、監視空間の音をデジタル信号(音響信号)に変換する電気回路である。集音装置4は、少なくとも監視領域を含む領域にて発生した音響を集音できる位置に設置され、当該音響を音響信号に変換して、管理装置2に出力する。なお、増幅器は、金庫7が設置された部屋内で悲鳴が発せられたときに出力される音響信号の音量が70〜100dBの範囲内に納まる程度の増幅率に予め設定される。
【0017】
なお、管理装置2と接続されている警備装置5は、監視領域と同じ建物内の図示しない事務室や警備室等に設置されている。警備装置5は、管理装置2からの異常信号を受信すると、公衆電話回線などの広域通信ネットワークを介して警備センタ装置6に当該異常を送信し、遠隔地にある図示しない警備センタに常駐する警備員に対して異常の発生を報知する。
【0018】
図2は、管理装置2の構成を示している。管理装置2は、コンピュータ機能を有しており、記憶部21、制御部22、入力部23、出力部24及び通信部25を備えている。
【0019】
通信部25は、LANやUSB等の通信インタフェースであり、撮像装置3、集音装置4及び警備装置5と通信を行う。
【0020】
入力部23は、キーボードやマウス、タッチパネル、可搬記憶媒体の読み取り装置等の情報入力デバイスである。管理者等は、入力部23を用いて、管理装置2に対して重要物領域8等の様々な設定情報や操作情報等を入力することができる。
【0021】
出力部24は、制御部22による処理結果を様々な外部装置に出力するためのインタフェースである。出力部24は、例えばスピーカやブザー等の音響出力装置と接続され、制御部22からの指示により、当該音響出力装置に対して警告音の鳴動を実行させる異常信号を出力する。また、出力部24は、例えばディスプレイ等の表示出力装置と接続され、制御部22からの指示により、当該表示出力装置に対して警告メッセージを表示出力させる。管理者等は、警告出力として出力部24からの表示出力や音声出力を確認することにより、監視領域内における異常状態を検知することができる。なお、管理者等は、表示出力を確認することにより、異常検知装置1の設定情報、監視領域における監視画像等を確認することもできる。
また、出力部24は、外部の警備装置5に対して異常信号を送信する通信インタフェースを含んでもよい。これにより、制御部22の処理によって異常状態が検知された場合に、管理装置2は、異常状態を知らせる信号を外部の監視センタなどに通知することができる。なお、この場合、出力部24は、通信部25と共通のインタフェース装置であってもよい。
【0022】
記憶部21は、ROM、RAM、HDD等の情報記憶装置である。記憶部21は、各種プログラムや各種データを記憶し、制御部22との間でこれらの情報を入出力する。各種データには、領域情報211、母音特徴量212、移動軌跡情報213、人物検出時刻214及び悲鳴検出時刻215が含まれる。
【0023】
領域情報211は、監視画像の座標系で表現された重要物領域8の情報である。例えば、重要物領域8を金庫7を中心とした円として規定される場合、領域情報211には、円の中心座標と半径のデータとが記憶される。
【0024】
母音特徴量212は予め作成された母音の特徴量のデータであり、後述する母音抽出手段224において音響信号から母音を抽出するために参照される。母音特徴量212は母音の種類ごとに各母音の種類を表す識別子と対応付けて記憶されている。
母音特徴量212の元データは、多数の話者から採取した悲鳴の語尾のサンプル音響信号である。事前に、これらのサンプル音響信号のそれぞれから悲鳴の語尾の周波数特徴量を表すスペクトル包絡のパラメータを抽出し、母音の種類ごとに当該パラメータの分布を学習しておく。本例では、スペクトル包絡を表すパラメータとして8次のLPCケプストラム(LPC:Linear Predictive Coding)、分布としてGMM(Gaussian Mixture Model;混合正規分布)を用いる。また、悲鳴の語尾の母音として「あ」「え」「お」の3種類を用いる。すなわち、母音特徴量212として、「あ」のLPCケプストラムのGMM、「え」のLPCケプストラムのGMM、「お」のLPCケプストラムのGMMのそれぞれが記憶部21に記憶されている。
【0025】
移動軌跡情報213は、撮像装置3にて取得した監視画像を解析し、当該監視画像に含まれる人物像の監視画像上における座標を時系列に保存することにより、当該人物像の移動軌跡を追跡できるよう生成された情報である。移動軌跡情報213の具体例としては、図3に示されるように、監視画像が取得された時刻と、当該監視画像内に人物像が含まれていた場合に当該人物像に付与される一意の識別子である像IDと、当該人物像の重心の監視画像上における座標と、当該人物像が重要物領域8に所在していた場合に継続して当該重要物領域8に所在している時間である継続所在時間と、を対応付けるテーブルとして記憶部21に保存される。なお、像IDは、後述するように、制御部22にて過去時刻における監視画像内の人物像と現在時刻における人物像との関連を解析され、過去時刻における人物像と現在時刻における人物像とが同一であると判定されれば共通する像IDが付与され、過去時刻における人物像と現在時刻における人物像とが同一でないと判定されれば新規の像IDが付与される。
【0026】
人物検出時刻214は、重要物領域8内で人物像が検出された時刻が随時追記された時刻リストであり、後述する人物検出手段223にて記録される。本実施例では、人物像が重要物領域8内に所定時間の間検出されていた場合、当該人物像の検出された最初の時刻が人物検出時刻214へ追記される。
【0027】
悲鳴検出時刻215は、監視領域内において悲鳴が検出された時刻が随時追記された時刻リストであり、後述する悲鳴判定手段225にて記録される。
【0028】
制御部22は、例えばCPUやDSP等の演算装置であって、記憶部21に記憶されるプログラムに従って各種の情報処理を実行する。本実施例では、制御部22は、集音装置4によって取得した音響信号と撮像装置3によって取得した監視画像とを解析して、異常状態を検知した場合に当該異常の内容に応じた信号を出力部24に出力する異常検知処理を行う。また、制御部22は、入力部23からの設定情報や操作情報等の入力情報を記憶部21に保存する処理を行う。制御部22は、機能的に、人物像抽出手段221と、追跡手段222と、人物検出手段223と、母音抽出手段224と、悲鳴判定手段225と、異常判定手段226とを含んで構成される。
【0029】
人物像抽出手段221は、撮像装置3によって所定時間おきに撮像された監視画像のそれぞれについて、当該監視画像の中から、1又は複数の人物像を抽出する人物像抽出処理を行う。具体的には、例えば人物像抽出手段221は、予め人が誰もいない状態の監視空間を撮像して得られた監視画像を背景画像として記憶部21に記憶しておき、当該背景画像と監視画像とを比較して差分画素を抽出する。そして、互いに隣接する差分画素を含んで構成される差分画素群のうち、所定の条件を満足する形状や所定値以上の大きさを有する差分画素群を、人を表す人物像として抽出する。また、人物像抽出手段221は、上記方法のほか、エッジ検出などの各種の画像処理を組み合わせて人物像を抽出してもよい。人物像抽出手段221によって抽出された人物像に関する情報(例えば人物像の位置や色ヒストグラム等の画像特徴に関する量)は、記憶部21に記憶され、後述する追跡手段222による人物像の追跡処理に用いられる。
【0030】
追跡手段222は、撮像装置3が所定時間おきに取得した各監視画像について、人物像抽出手段221が人物像を抽出するごとに、人物像の追跡処理を行う。人物像の追跡処理では、追跡手段222は、新たに撮像された監視画像から人物像抽出手段221によって抽出された各人物像を、過去時刻において抽出されて記憶部21に記憶されている人物像と比較することによって、当該人物像に対応する人物の監視空間内における移動経路を記憶部21の移動軌跡情報213に保存する。具体的には、追跡手段222は、新たな監視画像から抽出された各人物像に関する情報(例えば人物像の位置や画像特徴に関する量)を、前回撮像され記憶部21に保存されている監視画像から抽出された人物像に関する情報と比較することによって、同じ人物を表す人物像同士を関連付ける。そして、同一人物を表す人物像として互いに関連付けられた人物像について同一の像IDを付与し、時系列に従って撮像された各監視画像上の座標を、像IDと対応付けて記憶部21の移動軌跡情報213に保存する。
【0031】
人物検出手段223は、追跡手段222にて追跡している各人物像について、重要物領域8に所在しているか否かの判定を行い、所在している人物像に対して継続して所在している時間である継続所在時間をカウントアップする処理を行う。すなわち、移動軌跡情報213を参照し、一つ前のフレームの時刻における、重要物領域8に所在している人物像の像IDに対応する継続所在時間を読み出す。そして、当該継続所在時間に対して、画像取得のフレーム周期の時間を加算する処理を行い、移動軌跡情報213に書き込む処理を行う。
また、人物検出手段223は、継続所在時間が予め設定され記憶部21に記憶された滞留時間T0と比較して、継続所在時間が滞留時間T0以上であった場合、重要物領域8にて人物像を検出したとして、記憶部21の人物フラグをONとし、記憶部21の人物検出時刻214へ当該人物像が重要物領域8にて最初に検出された時刻を追記する処理を行う。ここで、人物フラグとは、重要物領域8にて人物像を検出したことを示すフラグである。
【0032】
母音抽出手段224は集音装置4が集音した音響信号から音声の母音部分を抽出して、抽出結果を悲鳴判定手段225に出力する。すなわち母音抽出手段224は、入力音響信号の周波数特徴量をフレームごとに算出して各周波数特徴量を母音特徴量212と比較し、各フレームが母音の周波数特徴量を有するか否かを判定して判定結果を悲鳴判定手段225に出力する。
【0033】
好ましくは、母音抽出手段224は、母音の周波数特徴量を有するフレームが判定されたときに当該フレームの母音種別(「あ」、「え」又は「お」)の情報をも悲鳴判定手段225に出力する。母音抽出手段224が抽出する母音「あ」、「え」又は「お」は、悲鳴の語尾として典型的に発声される母音である。「あ」を語尾とする典型例な悲鳴の例としては「きゃー」「ぎゃー」「わー」「うわー」「あわわー」を挙げることができ、「え」を語尾とする典型例な悲鳴の例としては「助けてー」「止めてー」「助けてくれー」「止めてくれー」を挙げることができ、「お」を語尾とする典型例な悲鳴の例としては「止めろー」を挙げることができる。
【0034】
母音抽出手段224が算出する周波数特徴量は母音特徴量212と同種であり、本例では8次のLPCケプストラムである。フレーム長及びフレーム周期には音声分析に適した値が予め設定される。本例では、フレーム長を20ms、フレーム周期を10msとする。具体的には母音抽出手段224は、入力音響信号の各フレームの周波数特徴量と各母音の母音特徴量212との距離を算出して予め設定された母音判定しきい値と比較し、フレームの周波数特徴量といずれかの母音特徴量212の距離が母音判定しきい値以下であれば、当該フレームは母音であり当該母音特徴量212と対応する母音種別であると判定する。一方、母音抽出手段224は、距離が母音判定しきい値以下の母音特徴量212がひとつもないフレームは母音ではないと判定する。
【0035】
母音特徴量212がGMMで記憶されている本例において、各母音特徴量212とフレームの周波数特徴量の距離Dは、次式で算出される。
D=Σ wi×sqrt((x−mi)×(x−mi)/σi) (1)
但し、xはフレームの周波数特徴量を表すベクトル、iは距離算出対象の母音特徴量212を構成している正規分布のインデックス(i=1,…,K)、wiはi番目の正規分布の重み係数、miはi番目の正規分布の平均ベクトル、σiはi番目の正規分布の分散ベクトル、Σはiについての総和、sqrt(・)は平方根をそれぞれ表している。
【0036】
悲鳴判定手段225は、処理対象のフレームが、予め設定された悲鳴音量しきい値以上の音量(パワー)を有しているか否かを判定することにより、悲鳴の音量であるか否かを判定する処理を行う。また、母音抽出手段224により抽出された母音部分が、予め設定された悲鳴判定時間以上継続しているか否かを判定することにより、悲鳴を検出する処理を行う。なお、悲鳴音量しきい値及び悲鳴判定時間には悲鳴の語尾の検出に適した値が予め設定される。本例では、悲鳴音量しきい値を70dB、悲鳴判定時間を200msとする。因みにフレーム周期が10msと設定される本例においてフレーム数に換算された悲鳴判定時間は20フレームとなる。
【0037】
上述したように悲鳴音声全体の発声内容は様々だが、悲鳴の語尾に注目することで抽出すべき発声内容を高々3種類に減少させることができる。これにより発声内容が想定外の悲鳴を検出し損ねる不具合が著しく減少する。また母音部分を有することにより咳、くしゃみ、クラクション、扉を閉める音、きしみ音、缶等の落下音など、音量が大きく継続時間長の長い悲鳴以外の音を悲鳴と誤検出する不具合を減少させることができる。また母音部分の音量の条件により通常音量の会話音声を悲鳴と誤検出する不具合を減少させることができる。また母音部分の継続時間長の条件により笑い声のような大声の母音を悲鳴と誤検出する不具合を減少させることができる。
【0038】
ここで大声での会話音声の語中において母音が連続する区間が含まれると、悲鳴と誤検出する可能性がある。そこで悲鳴判定手段225は、母音抽出手段224が抽出した母音種別を参照して同一母音が継続している区間のそれぞれを上記母音部分(判定区間)として悲鳴か否かを判定する。つまり母音種別が異なる区間は互いに異なる母音部分として悲鳴か否かが判定される。これにより、例えば大声会話音声の語中に「あ」と「お」が連続する「あお」という区間が含まれ、「あお」の区間の長さが悲鳴判定時間に達していたとしても、「あ」の区間と「お」の区間が別々の判定区間となるので、この大声会話音声を悲鳴と誤検出する不具合を減少させることができる。
【0039】
異常判定手段226は、人物検出手段223における検出結果である記憶部21の人物検出時刻214と悲鳴判定手段225における悲鳴検出処理結果である記憶部21の悲鳴検出時刻215とに基づいて、悲鳴が検出された前後の所定時間内に金庫7周囲に所定時間継続して人物像が検出されているか否かを判定し、監視領域内の異常状態判定処理を行う。具体的には、異常判定手段226は、悲鳴を検出した時刻から前の時間帯における予め定めた第一異常判定時間T1以内の時間帯において、重要物領域8に人物像が検出されているか否かについて、悲鳴検出時刻215と人物検出時刻214とを参照することによって判定する。また、異常判定手段226は、悲鳴を検出した時刻から後の時間帯における予め定めた第二異常判定時間T2以内の時間帯において、重要物領域8に人物像が検出されているか否かについて、悲鳴検出時刻215と人物検出時刻214とを参照することによって判定する。そして、監視領域内において異常状態であると判定した場合、異常判定手段226は、出力部24に対して警告出力を行わせる。
【0040】
以下、本実施例に係る管理装置2の制御部22が実行する処理の流れの一例について、図4〜図7のフローチャートに基づいて説明する。
図4は、制御部22における異常検知処理を示すフローチャートである。
【0041】
動作に先立ち、管理者等により管理装置2の入力部23を用いて領域情報211の設定等の各種初期設定が行なわれる(S1)。初期設定では、まず、部屋が無人であることを確認した管理者が管理装置2を起動すると、制御部22の人物像抽出手段221は、起動後の所定時間に撮像された監視画像を用いて背景画像を生成し、記憶部21に記憶させる。また、初期設定では、上記の他にも必要に応じて、滞留時間T0、第一異常判定時間T1、第二異常判定時間T2、領域情報211、悲鳴音量しきい値を入力し設定登録する。上記の初期設定が終わると撮像装置3から新たな監視画像が入力されるたびにステップS3〜S8の異常検知処理が繰り返される。
【0042】
続いて図4に戻り、ステップS3の人物検出処理について説明する。人物検出処理は、撮像装置3によって監視画像を取得する毎に(すなわち監視画像のフレーム周期毎に)、人物像抽出手段221、追跡手段222、人物検出手段223によって実施される処理である。
図5は、本実施例に係る人物検出処理を示すフローチャートである。以下では、図5のフローチャートに基づいて人物検出処理を説明する。
【0043】
図5に示すように、まず、撮像装置3より現在時刻における監視画像が取得され(S30)、当該監視画像を通信部25を介して送信されると、人物像抽出手段221は、当該監視画像と背景画像とを比較して、人物像抽出処理を行う(S32)。
【0044】
次に、制御部22は、ステップS32の人物像抽出処理で1以上の人物像が抽出されたか否か判定する(S34)。人物像が抽出されなかった場合(S34−No)、ステップS30で取得した監視画像を新たな背景画像として記憶部21に記憶して(S44)、人物検出処理を終了し、ステップS5へ進む。ここで、人物像が抽出されなかった場合に背景画像を更新するのは、時間の経過によって背景画像に変化が生じる場合に対応するためである。
【0045】
ステップS32の人物像抽出処理で人物像が抽出された場合(S34−Yes)、追跡手段222は、前述した人物像の追跡処理を行う(S36)。
【0046】
次に、人物検出手段223は、追跡手段222にて追跡処理を行った各人物像について、重要物領域8に所在しているか否かの判定を行う(S38)。そして、人物検出手段223は、重要物領域8に所在している人物像に対して、重要物領域8に継続して所在している時間である継続所在時間をカウントアップする処理を行う(S38)。
【0047】
次に、人物検出手段223は、移動軌跡情報213の継続所在時間を参照し、継続所在時間が予め設定された滞留時間T0以上である人物像が存在するか否か判定する(S40)。継続所在時間が滞留時間T0以上である人物像が存在しない場合(S40−No)、人物検出処理を終了し、ステップS5へ進む。
【0048】
一方、継続所在時間が滞留時間T0以上である人物像が存在した場合(S40−Yes)、人物検出手段223は、人物フラグをONとする(S42)。また、人物検出手段223は、記憶部21の人物検出時刻214へ当該人物像が重要物領域8にて最初に検出された時刻を追記する処理を行う(S42)。その後、人物検出処理を終了し、ステップS5へ進む。
【0049】
続いて図4に戻り、ステップS5の悲鳴検出処理について説明する。悲鳴検出処理は、母音抽出手段224と悲鳴判定手段225とによって実施される処理であり、集音装置4によって送信され記憶部21に記憶された音響信号について、予め定めたフレーム周期毎に実施される処理である。すなわち、制御部22は、記憶部21にフレーム周期の長さの音響信号が新たに追加記憶されたか否かを確認する。そして、フレーム周期が到来すると、制御部22は、記憶部21から予め設定されたフレーム長だけのフレームデータを読み出して、ハミング窓関数による窓掛け処理を行い、窓掛けしたフレームデータに対して悲鳴検出処理を行う。
図6は、本実施例に係る悲鳴検出処理を示すフローチャートである。以下では、図6のフローチャートに基づいて悲鳴検出処理を説明する。
【0050】
制御部22によって記憶部21からフレームデータが読み出されると、悲鳴判定手段225は、当該フレームデータの音量(パワー)を算出し(S52)、算出された音量を悲鳴音量しきい値と比較する(S54)。音量が悲鳴音量しきい値を超えていなければ(S54−No)、悲鳴判定手段225は悲鳴なしと判定し、制御部22は悲鳴カウンタの値をリセットして(S70)、悲鳴検出処理を終了し、ステップS5へ進む。一方、音量が悲鳴音量しきい値を超えていれば(S54−Yes)、悲鳴判定手段225は、悲鳴が発生している可能性があるとして処理をステップS56へ進める。
【0051】
次に母音抽出手段224は、フレームデータの周波数特徴量を算出する(S56)。そして、母音抽出手段224は、記憶部21から「あ」の母音特徴量212、「え」の母音特徴量212及び「お」の母音特徴量212を順次読み出し、読み出した各母音特徴量212とフレームデータの周波数特徴量とを比較してフレームデータが母音であるか否かを判定する(S56)。また母音抽出手段224は、フレームデータが母音と判定された場合、その母音種別を特定する。
【0052】
フレームデータが母音でないと判定された場合(S58−No)、母音抽出手段224は母音が抽出されなかった旨を悲鳴判定手段225に出力する。この出力を受けた悲鳴判定手段225は悲鳴なしと判定する。そして、制御部22は悲鳴カウンタの値をリセットして(S70)、悲鳴検出処理を終了し、処理をステップS8へ進む。
【0053】
一方、フレームデータが母音であると判定されると(S58−Yes)、母音抽出手段224は、特定された母音種別が前回特定された母音種別と同一か否かを確認するとともに今回特定された母音種別を記憶部21に記憶させる(S60)。次回の確認では記憶部21に記憶される今回の母音種別が前回の母音種別として参照される。
【0054】
今回特定された母音種別が前回特定された母音種別と同一ならば(S60−Yes)、母音抽出手段224は同母音が継続抽出された旨を悲鳴判定手段225に出力する。この出力を受けた悲鳴判定手段225は悲鳴カウンタを1だけ増加させる(S62)。
他方、今回特定された母音種別が前回特定された母音種別と同一でなければ(S60−No)、母音抽出手段224は新たな母音が抽出された旨を悲鳴判定手段225に出力する。この出力を受けた悲鳴判定手段225は悲鳴カウンタに1を設定する(S64)。
こうしてステップS62又はステップS64にて悲鳴カウンタの値が更新されると、悲鳴判定手段225は、悲鳴カウンタを悲鳴判定時間と比較する(S66)。悲鳴カウンタが悲鳴判定時間を超えていない場合(S66−No)、悲鳴判定手段225は判定継続中であるとし、制御部22は次のフレーム周期が到来するまで悲鳴検出処理を終了させ、ステップS8へ処理を進める。
【0055】
悲鳴カウンタが悲鳴判定時間を超えていた場合(S66−Yes)、悲鳴判定手段225は、悲鳴フラグをONとする(S68)。また、悲鳴判定手段225は、記憶部21の悲鳴検出時刻215へ当該悲鳴が検出された時刻を追記する処理を行う(S68)。その後、制御部22は悲鳴カウンタの値をリセットして(S70)、悲鳴検出処理を終了し、ステップS8へ進む。
【0056】
続いて図4に戻り、ステップS8の異常判定処理について説明する。ステップS8の異常判定処理は、記憶部21の人物検出時刻214と記憶部21の悲鳴検出時刻215とに基づいて、異常判定手段226にて実施される処理である。
図7は、本実施例に係る異常判定処理を示すフローチャートである。以下では、図7のフローチャートに基づいて異常判定処理を説明する。
【0057】
図7に示すように、まず、異常判定手段226は、記憶部21の悲鳴フラグがONとなっているか否かを判定する(S80)。
【0058】
ステップS80で悲鳴フラグがONとなっている場合(S80−Yes)、異常判定手段226は、記憶部21の人物検出時刻214を参照し、現在時刻から第一異常判定時間T1以前(現在時刻と同時刻も含む)に人物が検出されていたか否かを判定する(S82)。
【0059】
ステップS82で現在時刻からT1以前に人物が検出されていた場合(S82−Yes)、異常判定手段226は、出力部24へ警告信号を出力する。出力部24は、制御部22の異常判定手段226から警告信号を受信すると、警告出力処理を行う(S84)。
警告出力処理では、出力部24は所定の警告出力を行う。例えば、出力部24に接続されたスピーカから異常状態の種類に対応する警告音を鳴動させると共に、出力部24に接続されたディスプレイに当該異常状態の種類を警告メッセージとして出力する。管理者等は、これらの警告音や警告メッセージを確認することにより、監視領域内における異常状態を検知することができる。また、出力部24は、通信部25を介して警備装置5に当該異常状態を通知する。これにより、管理装置2は、警備装置5を介して警備センタ装置6に異常状態を通知することができ、外部の監視センタで常駐監視している警備員に対して異常を通知することができる。
【0060】
ステップS80で悲鳴フラグがONとなっていない場合(S80−No)、異常判定手段226は、記憶部21の人物フラグがONとなっているか否かを判定する(S86)。
【0061】
ステップS86で人物フラグがONとなっている場合(S86−Yes)、異常判定手段226は、記憶部21の悲鳴検出時刻215を参照し、現在時刻から第二異常判定時間T2以前(現在時刻と同時刻も含む)に悲鳴が検出されているか否かを判定する(S88)。ステップS88で現在時刻からT2以前に悲鳴が検出されていた場合(S88−Yes)、異常判定手段226は、前述と同様に、出力部24に対して警告信号を出力する。
【0062】
ステップS82で現在時刻からT1以前に人物が検出されていない場合(S82−No)、ステップS88で現在時刻からT2以前に悲鳴が検出されていない場合(S88−No)、またはステップS84で警報出力処理を行った場合、異常判定手段226は、悲鳴フラグ及び人物フラグをリセット(すなわち“0”にする)する処理を行う(S90)。
【0063】
ステップS90でフラグリセットした場合、又はステップS86で人物フラグがONでなかった場合(S86−No)、ステップS3へ戻り、以後、前述と同様にステップS3からステップS8の処理を繰り返す。
【0064】
次に、本実施例に係る異常検知装置1の具体的動作を異常状態と判定される例を用いて説明する。図8は異常状態と判定される典型的なケースを示した図である。
【0065】
図8(a)は、時刻tから時刻t+3における監視画像100を時系列で並べた図である。本ケースにおいて、図8(a)中における人物像Aは、押込強盗によって緊縛されている従業員の人物像である。また、人物像Bは、従業員である人物像Aをナイフ等の凶器で脅迫し、緊縛した後、金庫7まで移動している押込強盗の人物像である。
【0066】
図8(b)は、時刻tから時刻t+3における軌跡画像110を時系列で並べた図である。軌跡画像110は、監視画像100の画像上の位置と合致するように描画された画像に対して、領域情報211の重要物領域8を重ね合わせて描画され、さらに移動軌跡情報213に記憶されている像IDごとの現在時刻までの移動軌跡をプロットされた画像である。
【0067】
なお、本ケースでは、管理者等により予め滞留時間T0を“2”時刻間隔と、第一異常判定時間T1、第二異常判定時間T2を“150”時刻間隔と設定されていることとする。
【0068】
まず、時刻tの時点の状態について説明する。時刻tでは、ステップS30で新たに取得された監視画像100から、ステップS32で人物像抽出手段221により人物像A及びBが抽出されている。そして、人物像A、Bは、それぞれステップS36で追跡処理され、過去時刻における人物像A、Bと関連付けられる。しかし、この時点(およびこれ以前の時点)では、人物像A及びBは、重要物領域8内に所在していないため、継続所在時間がカウントされておらず、人物フラグもOFFの状態である。一方、時刻tでは、従業員たる人物像Aが強盗たる人物像Bに緊縛されているところであり、この際、従業員によって悲鳴が発せられていたことを想定する。そのため、ステップS5の悲鳴検出処理にて、悲鳴フラグがONとされ、記憶部21に悲鳴検出時刻215として時刻tが記憶されている。したがって、ステップS8の異常判定処理では、ステップS80にて悲鳴フラグがONであることが判定され(S80−Yes)、ステップS82にて悲鳴検出時のT1時間以前に人物検出されているか否かが判定される。ここで、上記のように、時刻tにおいては重要物領域8に人物像が検出されていないため、ステップS82にてNoとなり、ステップS90にて悲鳴フラグがOFFとリセットされる。このように、時刻tでは、異常判定手段226にて異常判定されていないことになる。
【0069】
次に、時刻t+1の時点の状態について説明する。時刻t+1の時点では、時刻tの時点の場合と同様に、ステップS30で新たに取得された監視画像100から、ステップS32で人物像A及びBが抽出され、それぞれステップS36で追跡処理されて時刻tの時点における人物像A及びBと関連付けられる。この時点では、時刻tの時点と同様に、人物像A及びBは、重要物領域8内に所在していないため、継続所在時間がカウントされておらず、人物フラグもOFFの状態である。したがって、人物フラグも悲鳴フラグもOFFであるため、ステップS8の異常判定処理では、ステップS80でNo、ステップS86でNoとなり、異常判定されていないことになる。
【0070】
次に、時刻t+2の時点の状態について説明する。時刻t+2の時点では、人物像Bが重要物領域8内にて所在しているため、ステップS38で記憶部21の継続所在時間をカウントアップする処理がなされる。しかし、継続所在時間が滞留時間T0(=“2”時刻間隔)に満たないため、人物フラグはOFFの状態のままである。したがって、人物フラグも悲鳴フラグもOFFであるため、ステップS8の異常判定処理では、ステップS80でNo、ステップS86でNoとなり、異常判定されていないことになる。
【0071】
次に、時刻t+3の時点の状態について説明する。時刻t+3の時点では、時刻t+2の時点と同様に、人物像Bが重要物領域8内にて所在しているため、ステップS38で記憶部21の継続所在時間をカウントアップする処理がなされる。そして、継続所在時間が“2”時刻間隔となり、滞留時間T0以上となったため、ステップS40でYesとなり、人物フラグがONとされ、記憶部21の人物検出時刻214に、最初に検出された時刻である時刻t+2が記録される。したがって、人物フラグがONであり、悲鳴フラグがOFFであるため、ステップS8の異常判定処理では、ステップS80でNo、ステップS86でYesとなり、ステップS88で人物検出時のT2時間以前に悲鳴検出されているか否かが判定される。前述のように、第二異常判定時間T2は“150”時刻間隔と設定されており、悲鳴が検出された時刻tはこの時間帯内であることから、ステップS88がYesとなり、ステップS84にて警報出力処理がなされる。このように、管理装置2は、時刻t+3の時点において監視領域内の異常状態を検知し、警備装置5を介して警備センタ装置6に異常状態を通知することができ、外部の監視センタで常駐監視している警備員に対して異常を通知することができる。
【0072】
(第二の実施例)
上述の第一の実施例では、重要物領域8に人物が所在しているか否かを撮像装置3からの監視画像に基づいて判定している。しかし、本実施例では、重要物領域8内に所在する人物の人体から放射される赤外線を受光し、その受光量の変化に基づいて人体等の存否を検出する赤外線センサからの人物検出信号に基づいて、重要物領域8に人物が所在しているか否かを判定する点が第一の実施例と相違する。なお、赤外線センサは、赤外線による人物の検出領域を予め重要物領域8と略一致するよう設置されていることとする。
【0073】
図9は、第二の実施例に係る管理装置2の構成を示すブロック図である。図9のように、通信部25に赤外線センサが接続される点、制御部22に人物像抽出手段221と追跡手段222とが存在しない点、記憶部21に領域情報211と移動軌跡情報213とが存在しない点が、第一の実施例と相違する。また、制御部22の人物検出手段223における人物検出処理の内容が、第一の実施例と相違する。図10に第二の実施例に係る人物検出処理を示すフローチャートを示す。
【0074】
図10のように、制御部22の人物検出手段223は、ステップS46で赤外線センサから通信部25を介して人物検出信号を受信したか否かを判定する。赤外線センサから人物検出信号を受信していない場合(S46−No)、人物検出手段223は、人物検出処理を終了し、ステップS5へ進む。
【0075】
赤外線センサから人物検出信号を受信している場合(S46−Yes)、人物検出手段223は、人物フラグをONとする(S48)。また、人物検出手段223は、記憶部21の人物検出時刻214へ現在時刻を追記する処理を行う(S48)。その後、人物検出処理を終了し、ステップS5へ進む。
【0076】
なお、本実施例では赤外線センサにより重要物領域8に所在する人物の検出を行っているが、これに限らず、マイクロ波センサや超音波センサによって検出してもよい。
【0077】
本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で、更に種々の異なる実施例で実施されてもよいものである。また、実施例に記載した効果は、これに限定されるものではない。
【0078】
前記各実施例では、異常音として悲鳴を検出することにより、監視領域内の異常状態を検知している。しかし、これに限らず、悲鳴以外の異常音、例えば、銃声や怒声等の異常音を検出することにより、監視領域内の異常状態を検知してもよい。例えば、予め設定された異常音量しきい値以上の音量を検出した場合に、簡易的に銃声や怒声等の異常音とみなすことができる。すなわち、ステップS52にて音量を算出した後に、異常音量しきい値と比較し、異常音量しきい値以上で合った場合に、悲鳴フラグをONとし、記憶部21の悲鳴検出時刻215に当該異常音の検出時刻を記録することにより、実現することができる。
また、破壊音は、一般に急速に音量が大きく検出された後、短時間のうちに減衰して小さくなるといったように、検出される音の立ち上がりと立下りに顕著な特徴が現れる。そのため、異常音として破壊音を検出する場合、集音装置4により取得した音響信号の音の立ち上がり率、ピーク音量、立下り減衰率、継続時間を算出し、これらの値と、予め設定された破壊音の特徴を備えた閾値とを照合することにより、破壊音か否かを判定することができる。また、予め金庫等を叩いた時に出る音の周波数成分を分析しておき、検知の際に、音響信号にその固有の周波数成分があるかどうかを評価し、判定結果に加味することで、上記判定の確からしさを大幅に向上させることが可能である。さらに、金庫等の頑丈な作りのものに対しては、一撃で破壊することは困難であるため、同じような破壊音が短い時間内で連続的に複数回観測された場合に異常音として検出を確定するといった条件を課すことも有効である。
【0079】
前記各実施例では、悲鳴を検出したとき及び重要物領域8で人物を検出したとき、それぞれの時刻を記憶部21の悲鳴検出時刻215及び人物検出時刻214に記憶し、これらの時刻情報に基づいて、悲鳴を検出した前後の所定時間以内に人物を検出したか否かを判定することにより、監視領域内の異常状態を検知している。しかし、これに限らず、悲鳴を検出したときにタイマによる計時を開始し、タイマが第二異常判定時間T2を経過する前に重要物領域8で人物を検出したか否かを判定することにより、監視領域内の異常状態を検知してもよい。この際、悲鳴を検出した時刻の後の時刻(ただし第二異常判定時間T2経過前であるとする)において、再度悲鳴を検出した場合、最初の悲鳴を検出した時刻と後の悲鳴を検出した時刻との差の分だけ、第二異常判定時間T2を延長させる処理を行わせる。これにより、新たに悲鳴を検出した場合であっても、その時刻から第二異常判定時間T2以内に重要物領域8内で人物を検出したときに、異常状態であると判定することができる。
また、同じように、重要物領域8で人物を検出したときにタイマによる計時を開始し、タイマが第一異常判定時間T1を経過する前に、悲鳴を検出したか否かを判定することにより、監視領域内の異常状態を検知してもよい。この際、重要物領域8で人物を検出した時刻の後の時刻(ただし第一異常判定時間T1経過前であるとする)において、再度人物を検出した場合、最初の人物検出時と後の人物検出時刻との差の分だけ、第一異常判定時間T1を延長させる処理を行わせる。これにより、新たに人物を検出した場合であっても、その時刻から第一異常判定時間T1以内に悲鳴を検出したときに、異常状態であると判定することができる。
【0080】
前記各実施例では、第二異常判定時間T2は、管理者等により予め設定されている固定値であるが、これに限らず、監視領域内における状況に応じて変化させてもよい。例えば、第一の実施例において、追跡手段222にて追跡している複数の人物像が互いに接近しており、かつ、それらの人物像の形状変化率が大きい場合、争っている状況であったり、緊縛されている状況である可能性が高い。このような場合、第二異常判定時間T2を延長する処理を行ってもよい。これにより、悲鳴を検出してから予め定めた第二異常判定時間T2を経過した場合であっても、延長時間内に重要物領域8で人物像を検出したときは、異常状態として検知することができる。
【0081】
前記第一の実施例では、悲鳴を検出したときの前後の所定時間以内に重要物領域8内で人物が検出されたとき、異常状態と判定している。しかし、これに限らず、悲鳴を検出した後に、当該悲鳴に起因した人物像の特定の動きを追跡手段222の移動軌跡に基づいて検知することにより、異常状態と判定してもよい。ここで、悲鳴に起因した人物像の特定の動きとは、例えば、悲鳴を検出した直後に人物像が部屋の出入口に向かって素早く移動する動きや、悲鳴を検出した直後に他の人物像に素早く接近する動きなどが挙げられる。これらの動きは、悲鳴に起因して部屋から逃走しようとする賊の動きや、発見者に危害を及ぼそうとする賊の動きに相当するものである。すなわち、このような悲鳴に起因した人物像の特定の動きを、移動軌跡情報213から検知することにより、監視領域内がより異常状態らしいことを検知することができる。
【0082】
以上に本発明の実施の形態について説明した。第一の実施例では、異常検知装置1が、本発明の異常検知装置として機能している。また、集音装置4が、本発明の集音部として機能している。また、制御部22の母音抽出手段224、悲鳴判定手段225が、本発明の音響分析部として機能している。また、撮像装置3、及び制御部22の人物像抽出手段221、追跡手段222、人物検出手段223が、本発明の人物検出部として機能している。また、制御部22の異常判定手段226が、本発明の異常判定部として機能している。また、撮像装置3が、本発明の撮像手段として機能している。また、記憶部21が、本発明の記憶部として機能している。また、制御部22の人物像抽出手段221が、本発明の人物像抽出手段として機能している。また、制御部22の追跡手段222が、本発明の追跡手段として機能している。また、制御部22の人物検出手段223が、本発明の人物検出手段として機能している。
一方、第二の実施例では、赤外線センサ、及び制御部22の人物検出手段223が、本発明の人物検出部として機能している。
【符号の説明】
【0083】
1・・・異常検知装置
2・・・管理装置
3・・・撮像装置
4・・・集音装置
5・・・警備装置
6・・・警備センタ装置
7・・・金庫
8・・・重要物領域
9・・・壁
21・・・記憶部
22・・・制御部
23・・・入力部
24・・・出力部
25・・・通信部
211・・・領域情報
212・・・母音特徴量
213・・・移動軌跡情報
214・・・人物検出時刻
215・・・悲鳴検出時刻
221・・・人物像抽出手段
222・・・追跡手段
223・・・人物検出手段
224・・・母音抽出手段
225・・・悲鳴判定手段
226・・・異常判定手段
100・・・監視画像
110・・・軌跡画像
A、B・・・人物像



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重要物を保管している監視領域にて生じている音響信号を取得する集音部と、
前記集音部が集音した前記音響信号を分析し、所定の異常音を検出する音響分析部と、
監視領域に含まれる領域であって前記重要物の保管場所付近に予め設定した重要物領域に所在する人物を検出する人物検出部と、
前記音響分析部の異常音検出結果と前記人物検出部の人物検出結果とに基いて前記監視領域内の異常状態を判定する異常判定部と、
前記異常判定部の判定結果を出力する出力部とから構成される音響による異常検知装置であって、
前記異常判定部は、前記音響分析部にて所定の異常音と判定したときの前後の所定時間以内に前記人物検出部にて人物検出があると異常状態と判定することを特徴とした異常検知装置。
【請求項2】
前記人物検出部は、
前記監視領域を含む領域の画像を順次取得する撮像手段と、
前記画像から人物像を抽出する人物像抽出手段と、
前記人物像ごとに画像上の位置を追跡する追跡手段と、
前記追跡手段の追跡結果から前記人物像の移動軌跡を記憶し、且つ、画像上の前記重要物領域の位置を予め記憶する記憶部と、
前記所定時間における前記人物像の移動軌跡から前記重要物領域内に当該人物像の滞留している時間を算出する人物検出手段とを有し、
前記異常判定部は、前記人物検出手段にて算出された前記人物像の滞留している時間が所定の滞留時間を超えていると異常状態と判定する請求項1に記載の異常検知装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−48689(P2012−48689A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192965(P2010−192965)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】