説明

癌検出方法

【課題】従来のX線,超音波画像におけるコントラストと空間解像度の問題を補い、癌の検査の正確率を上げることにある。
【解決手段】予めコリメートされた入射X線I(W)は、非対称モノクロ・コリメータ10によって反射され、面状波X線P(W)を発生する。面状波X線P(W)は、試料12を通過する。試料12を通過したビームR(W)は、角度アナライザ14によって角度分析され、屈折された成分D(W)のみが、角度アナライザ14を通過することが許される。屈折された成分D(W)は、X線暗視野撮像として、写真フィルム16に記録される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌検出方法、特に、単色あるいは白色のX線、ガンマ線、または中性子線を患部に照射し、患部の後ろ、前面、または周囲に置いたX線、ガンマ線、または中性子線用の検出器により計測されるX線、ガンマ線、または中性子線の信号により、癌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の癌部分の検出は、X線,超音波画像によるが、コントラストと空間解像度の問題がある。
【0003】
本出願の発明者等は、X線暗視野像と、種々の癌組織および健康部分を含む浸潤性乳管癌と名付けられている乳癌の病理学的観察との間には非常に良好な相関性があることを示した(非特許文献1参照)。
癌組織には、悪性腫瘍、細胞群、浸潤性乳管(石灰化と間質)が含まれ、健康部分には、脂肪組織、筋肉が含まれる。
【0004】
Brattini等によるパイオニア的な研究(非特許文献2参照)に続いて、乳癌組織の医学的撮像に関し、ロシアの研究グループによって開示された屈折による中性子回析撮像(種々のX線光学系によってフォローされている)に基づいて、多くの研究がなされてきた(非特許文献3参照)。
【非特許文献1】M.Ando,Yamasaki,F.Toyofuku,H.Sugiyama,C.Obayashi,G.Li,L.Pan,X.Jiang,W.Pattanasiriwisawa,D.Shimao,E.Hashimoto,T.Kimura,M.Tsuneyoshi,E.Ueno,K.Tokumori,A.Maksimenko,Y.Higashida,M.Hirano:Jpn.J.Appl.Phys.44(2005)L.528-L531.
【非特許文献2】E.Brattini,E.Cossu,C.Di Maggio,M.Gambaccini,P.L.Indovina,M.Marziani,M.Pocek,S.Simeoni and G.Simonetti:Radiology,195(1995)239.
【非特許文献3】F.Arfelli,V.Bonvicini,A.Bravin,G.Cantatore,E.Castelli,L.D.Palma,M.Di Michiel,R.Longo,Olivo,S.Pani,D.Pontoni,P.Poropat,M.Prest,A.Rashevsky,G.Tromba and A.Vacchi:Radiology,208,709(1998).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来のX線,超音波画像におけるコントラストと空間解像度の問題を補い、癌検査の正確率を上げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の癌検査方法によれば、単色あるいは白色のX線、ガンマ線、または中性子線を患部に照射し、患部の後ろ、前面、または周囲に置いたX線、ガンマ線、または中性子線用の検出器により計測されるX線、ガンマ線、または中性子線の信号により、癌を検出する。検出器には、エネルギー弁別能力を有するものを用いるのが好適である。
【0007】
本発明の第2の態様の癌検査方法によれば、患部などの対象物へX線、中性子線、または電子線を照射することによって得られるX線、中性子線、電子線などを2次元検出器あるいはエネルギー選別能力のある検出器により検出することによって、癌などの患部特有の信号を、その周りの健康組織とは異なる信号の強弱、エネルギーの違いとして得ることにより、癌を検出する。
【0008】
この方法は患部にX線などを照射して、そこからの信号を受ける検出方法である。信号は、特定の方向ではなく、全空間に放出される。
【0009】
本発明の第3の態様の癌検査方法によれば、患部などの対象物へX線、中性子線、または電子線を照射することによって得られるX線、中性子線、電子線などを2次元検出器あるいはエネルギー選別能力のある検出器により検出することによって、癌などの患部特有の信号を、その周りの健康組織とは異なる信号の強弱、エネルギーの違いとして得ることにより、癌を検出する。
【0010】
この方法は、患部にX線などをあてて、影絵を見る検査法を提唱するものである。この方法は、入射するX線、中性子線、電子線の直進の方向で観察する。
【0011】
本発明の第4の態様の癌検査方法によれば、患部などの対象物へX線、中性子線、または電子線を照射することによって得られるX線、中性子線、電子線などを2次元検出器あるいはエネルギー選別能力のある検出器により検出することによって、癌などの患部特有の信号を、その周りの健康組織とは異なる信号の強弱、エネルギーの違いとして得ることにより、癌を検出する。
【0012】
この方法は、影絵の場合と蛍光X線のように四方八方に散る信号を集めて画像化するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
白色X線によってK励起される3種類の金属元素を含む、浸潤性乳頭状癌からのX線蛍光の暗視野撮像と2次元マッピングについて説明する。
【0014】
癌組織は、強Ca K X線を示す。他方、間質を含む正常組織は、実験的精度内では、そのような強Ca K X線を示さないが、相応なFe KおよびZn K X線強度を示す。これは、ラウエ(Laue)角度分析板を用いて撮像されたX−DF(Xray dark‐field;X線暗視野)像に対して、極端に良好な対応性を有している。
この事実は、癌組織が、正常組織に多く含まれるFe原子およびZn原子よりも、Ca原子を引き入れるということを示している。
【0015】
図1に、X−DFI(Xray dark‐field imaging;X線暗視野撮像)のためのX線光学系の概略図を示す。
予めコリメートされた入射X線I(W)は、非対称モノクロ・コリメータ10によって反射され、面状波X線P(W)を発生する。面状波X線P(W)は、試料12を通過する。
試料12を通過したビームR(W)は、吸収のみを受けるX線のみならず、試料の内側にある内部組織界面で屈折されたX線をも含んでいる。このビームは、角度アナライザ14によって角度分析され、屈折された成分D(W)のみが、角度アナラサイザ14を通過することが許される。
【0016】
屈折された成分D(W)は、X線暗視野像として、写真フィルム16に記録される。得られたブラック・コントラストは次式に比例している。
【数1】



【0017】
以上にようなX線光学系を用いて、乳頭状癌組織を試料とし、撮影したX線暗視野像を図2に示す。図2の画像は、35keVのX線で撮像された。
試料のサイズは、26mm(幅)×22cm(高さ)×2.8mm(厚さ)である。図2の暗視野像は、26mm×22mmのサイズを有している。
暗視野像は、ブラック・コントラストを示し、黒い部分は、X線の過剰を示している。黒い島形状構造の下部分は、癌部分に相当している。大きな島の間には、多くの黒いスポットが見える。説明を解りやすくするために、島形状構造の領域には、アルファベットa,b,c,d・・・を付す(図4を参照)。領域a,b,c,dのサイズは、2.8mmに相当する試料の厚さよりも十分に大きい。領域eは、厚さとほとんど同じサイズである。他のすべての領域は、厚さよりも小さい範囲にある。
【0018】
本出願の発明者等は、図2に示すX線暗視野像におけるブラック・コントラストが、比較的大きな屈折率を有する数μm〜100μmの適切なサイズを有する数百万の微小粒子を含む構造、すなわち電子密度の大きな傾きに対応するであろうことを、推測した。
【0019】
35keVで、Caの屈折率は2.6×10−7であり、脂肪の屈折率は1.6×10−7である。Ca原子を含む癌組織は、屈折の原因の候補である。この場合、この屈折率は、脂肪の屈折率よりも大きくなければならない。
【0020】
図3には、ヘマトキシリン(hematoxyline)およびエオシン(eosin)で着色された、5μm厚さの病理学的標本を示す。この標本は、試料12から作成した。
【0021】
図2および図3の全ての詳細は、極めて一致している。図2および図3の画像を用いて、図4のスケッチを作成した。領域a,b,cは、試料の厚さを貫通しており、他の領域は、試料の厚さを貫通していない。
【0022】
図5は、デジタルカメラで撮影した図2および図3に示す同じ試料12の表面の写真である。この表面は、病理学的標本が剥離される側である。
【0023】
人体と金属成分との関係を扱う刊行物を見つけることができる。一例は、IidaおよびNomaによる髪の毛の撮像についてのX線蛍光の応用であり(A.Inda and T.Noma:Nucl.Meth.B82(1993)129.)、およびJames等による乳癌に苦しむ女性の髪の毛に応用されるX線微小角度拡散技術である(V.James,J.Kearsley,T.Irving,Y.Amemiya and D.Cookson:Nature398(1999)33.)。乳癌とCa成分との関係についての他の議論は、Chikawa,Nakaiによって行われており(J.Chikawa et al:日本放射光学会誌18(2005)8.およびI.Nakai:OYO BUTURI74(2005)453.)、また人体組織に適用されるX線蛍光撮像について議論されている。
【0024】
カルシウム濃縮が癌組織内で生じるかもしれないという、有名なカルシウム・パラドックスが存在するので、本出願に係る発明者は、同一の標本をX線蛍光顕微鏡(Horiba XGT WR)下に置いて、癌組織内に含まれる金属をK X線でマッピングした。
【0025】
標本の表面に45°の角度で白色X線を照射した。白色X線は、50kVの電圧および100μAの電流で加速されたRhターゲットから放射され、0.1mmのサイズを有している。
【0026】
顕微鏡のステージ上の標本を、ビームに対して連続的にスキャンした。蛍光発光したX線を、約100μmの直径を有するピンホールを経て、Si(Li)ソリッドステート検出器によって、ピックアップした。標本サイズは、26mm×22mmであるので、測定ドットの数は、57200個である。全フレームに対する測定時間は、約1000秒であった。良好な統計のためには、測定値の5倍を重量した。データを得て、図6〜図8に示されるように、各原子に対応する各画像に分割した。
【0027】
図6,図7,図8は、それぞれ、Ca K X線,Fe K X線,Zn K X線の2次元マッピングに対応している。
【0028】
図6は、Ca K X線の信号で示された表面のマッピングである。図6において、Caに対応する過剰信号は、点状に示されている。その強度は約13cpsであった。点状部分は、悪性の部分に相当している。これは、癌組織が、Fe原子またはZn原子よりも多くのCaを吸収することを示している。図2の領域a,b,cは、図6の写真での形状およびサイズと極めて対応していることがわかる。
【0029】
図7は、Fe K X線の信号で示された表面のマッピングである。〜2cpsの強度のFe K X線は、点状に示されている。Fe原子の少ない領域は、悪性部分に相当している。このことは、健康な部分が癌組織部分よりも多くのFe原子を含んでいることを示している。
【0030】
図8は、Zn K X線の信号で示された表面のマッピングである。〜0.7cpsの強度のZn K X線は、点状に示されている。Zn原子の少ない領域は、悪性部分に相当している。このことは、健康な部分が癌組織部分よりも多くのZn原子を含んでいることを示している。
【0031】
図7および図8の2つの画像は、健康な領域のマッピングに相当している。したがって、比較的低いX線強度の領域は、図6の悪性部分に対応している。
【0032】
以上の考察から、癌組織は、多くのCa原子と、少数のFe原子およびZn原子を含むものと推測できる。これら3つの蛍光画像に示される領域a,b,cの形状およびサイズは、図2に示される暗視野像にほとんど対応している。しかし、d,hのような他の領域は、蛍光発光画像には、示されていない。図4のスケッチに示されるように、K励起X線が発生すると推測されるポテンシャル値は、領域a,b,cよりもかなり小さい。癌組織の主要部分である脂肪によるX線の吸収を考慮すると、各Ca原子,Fe原子,Zn原子の相当する重量は、それぞれ、10−9gr/mm,10−10gr/mm,10−10gr/mmである。10−9gr/mmのCa原子成分は、正常な数値である10−11gr/mmよりもかなり大きい。この観察は、正常細胞から癌細胞への変化のプロセスは、2つの態様、すなわちCa原子を引き入れ、Fe原子およびZn原子を排斥することを含むものと結論することができる。この仮説は、正常組織が他の正常組織と同一のオーダのFe原子およびZn原子を含むならば、正しいであろう。図3に示される間質が、領域cと領域dとの間にある隣接領域および領域dの周囲領域と比較して、高濃度のCaを明らかに有さないことは、この標本に見られる間質が深さを有さないか、あるいは未知の理由により、Ca原子が間質から排出されるらしいことを意味している。
【0033】
おそらく、X線暗視野撮像とX線蛍光マッピングとの組合わせによってX線写真の新しい分野を開くことができ、悪性組織と健康組織との間のX線信号の差を検出することによって、初期の段階での乳癌の新しい臨床的診断方法を提供することができる。
【0034】
以上の実施例では、乳癌を例に説明したが、本発明の検査方法は、全身のあらゆる癌を対象とすることを可能にするものである。
【0035】
また、以上の実施例では、蛍光X線の検出は、照射と同じ前面で行っている。これを、図9(A)に示す。12は試料を、20は蛍光検出器を示す。
【0036】
しかし、これに限定されるものではなく、図9(B)に示すように検出器20を試料12の背面に設置してもよく、あるいは、図9(C)に示すように、検出器20は試料12の周囲を取り囲む構造にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】X線暗視野撮像のためのX線光学系の概略図である。
【図2】乳頭状癌組織を試料とし、撮影したX線暗視野撮像を示す写真である。
【図3】病理学的標本を示す写真である。
【図4】図2および図3を用いて作成した試料のスケッチである。
【図5】試料の表面の写真である。
【図6】Ca K X線の2次元マッピングを示す写真である。
【図7】Fe K X線の2次元マッピングを示す写真である。
【図8】Zn K X線の2次元マッピングを示す写真である。
【図9】蛍光X線の検出器の配置を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 非対称モノクロ・コリメータ
12 試料
14 角度アナライザ
16 写真フィルム
20 蛍光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単色あるいは白色のX線、ガンマ線、または中性子線を患部に照射し、患部の後ろ、前面、または周囲に置いたX線、ガンマ線、または中性子線用の検出器により計測されるX線、ガンマ線、または中性子線の信号により、癌を検出する方法。
【請求項2】
前記検出器は、エネルギー弁別能力を有する、請求項1に記載の癌を検出する方法。
【請求項3】
患部などの対象物へX線、中性子線、または電子線を照射することによって得られるX線、中性子線、電子線などを2次元検出器あるいはエネルギー選別能力のある検出器により検出することによって、癌などの患部特有の信号を、その周りの健康組織とは異なる信号の強弱、エネルギーの違いとして得ることにより、癌を検出する方法。
【請求項4】
患部などの対象物へX線、中性子線、または電子線を照射することによって、患部の背後において得られるX線、中性子線、電子線などを2次元検出器あるいはエネルギー選別能力のある検出器により検出することによって、癌などの患部特有の信号を、その周りの健康組織とは異なる信号の強弱、エネルギーの違いとして得ることにより、癌を検出する方法。
【請求項5】
患部などの対象物へX線、中性子線、または電子線を照射することによって得られるX線、中性子線、電子線などを2次元検出器あるいはエネルギー選別能力のある検出器により検出することによって、癌などの患部特有の信号を、その周りの健康組織とは異なる信号の強弱、エネルギーの違いとして得ることにより、癌を検出する方法。
【請求項6】
前記X線、中性子線、または電子線の照射は、広く一度に照射するかまたは狭く照射して患部に対してビームを走査することにより行う、請求項3,4または5に記載の癌を検出する方法。

【図1】
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【図4】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−24630(P2007−24630A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205748(P2005−205748)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】