説明

癌開始細胞のミトコンドリア活性阻害剤及びその使用

本発明は、腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかに有用な化合物に関する。より詳細には、本発明は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法に使用するための、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に関する。本発明は、更に、本発明の阻害剤を含有する医薬組成物、及び本発明の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかにおいて有用な化合物に関する。より詳細には、本発明は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法に使用するための、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に関する。本発明は更に、本発明の阻害剤を含有する医薬組成物及び本発明の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
グリオーマは成人における脳腫瘍の中で依然、最も頻度の高いものである。グリオーマの悪性型である、多形性膠芽腫(GBM)とも呼ばれるグレードIVは治療が困難であることで悪名高い。多形性膠芽腫は、手術、放射線治療、及び化学療法を含む現在の治療法の事実上全てにおいて多くの場合、再発する。生存率は、例えば、化学療法を放射線治療と組み合わせた場合であっても平均で14.6ヶ月と極めて低い。環境危険因子は特定されておらず、これらの脳腫瘍の発病及び進行段階に関与する生物学的機構については、ほとんど解明されていない。
【0003】
1930年にオットー・ワールブルクは、癌が、(1)呼吸が不可逆的に障害され、更に(2)回復不能な呼吸の損失が解糖系に置き換わる、という2つの連続した段階の後、非腫瘍性細胞が嫌気的代謝を獲得する場合に生じることを提唱した。この理論によれば、癌細胞の大半は、好気的条件下でグルコースから乳酸を生成することによって選択的にエネルギーを生産しているものと考えられる。これは、「好気的解糖」と一般に名付けられている現象であり、ワールブルク効果と呼ばれる。したがって、この好気的解糖代謝経路を標的とした癌の治療法を開発することは、活動的呼吸及びミトコンドリアによるエネルギー生産へと代謝プロセスを再構成することを可能とするものであり、この10年間、注目を集めてきた。
【0004】
幾つかの文献において、グリオーマ細胞のミトコンドリアを癌の化学療法の潜在的な標的とすることが示唆されている(非特許文献1及び2)。これらの文献では、ミトコンドリア複合体IIIの阻害剤、ひいてはグリオーマ細胞(癌細胞)に対する潜在的な化学療法としてクロミプラミン又は一般的には三環系抗うつ薬を使用する、更なる放射線治療又は手術を伴わない治療法について開示している。この阻害剤は、ミトコンドリア経路の活性化、即ちシトクロムCの放出及びカスパーゼ3の活性化によって媒介されるアポトーシスを誘導する。この種の治療法は、グリオーマ細胞(癌細胞)が正常細胞とは異なる代謝を有するために可能である。
【0005】
特許文献1(グリフィス大学)もまた、幾つかの抗癌性化合物及び癌の治療又は予防法について開示している。詳細には、癌細胞のミトコンドリア呼吸鎖の複合体II(コハク酸−ユビキノン酸化還元酵素)と選択的に相互作用し、活性酸素種を生成してこれらの細胞のアポトーシスを誘導するビタミンEのプロオキシダント型などのプロオキシダント抗癌性化合物について開示されている。
【0006】
しかしながら、この治療方法は、全ての癌細胞(例えばグリオーマ細胞)が同様の生物学的性質及び代謝を有するという仮定に基づいたものであり、残念ながらグリオーマの治療に大きな進展を与えるものではなかった。
【0007】
グリオーマの正確な細胞起源については依然、解明されていないが、癌幹細胞(CSC)と通常呼ばれる、幹細胞の性質を有する一部の癌細胞のみが真の腫瘍形成能を有し、グリオーマにおける癌開始細胞の独立した細胞巣を構成しているものと提唱されている。最近になって、急性骨髄性白血病(AML)、乳癌、卵巣癌、及び脳腫瘍などの多くのヒトの癌において幹様細胞(CS)が特定されたことにより、癌は、成人の幹細胞/始原細胞における体細胞突然変異によって生じうるという仮説が再び注目を集めることとなった。
【0008】
グリオーマ開始細胞(GIC)として知られる脳腫瘍の癌開始細胞は、最初にCD133細胞として同定されたが、最近の研究によりこのマーカーの特異性を比較的欠いていることが示されている。これらの細胞は、腫瘍形成能が異なる異種細胞の集団であり、一部の腫瘍細胞は、高い腫瘍開始能及び増殖能を有している。グリオーマ開始細胞(GIC)は、グリオーマの発生及び再発を引き起こす。幹細胞の性質を有するグリオーマ開始細胞の役割については未だに深く研究されていない。これらの細胞は、単一細胞レベルでの自己更新能、インビトロでのアストログリア、神経細胞、及びオリゴデンドログリアへの分化によって示される多能性、並びにインビボでの腫瘍形成能といった特徴的な幹細胞の性質を示す。他のヒトの癌と同様、グリオーマは、幹細胞の性質を有する腫瘍開始及び増殖細胞(癌幹細胞(CSC)と呼ばれる)をその頂点として腫瘍の増殖が調節されると考えられる細胞階層を有している。この癌幹様細胞の少数集団であるGICは、腫瘍細胞(グリオーマ)の約5%を占めるのみに過ぎず、腫瘍細胞の増加、再発、及び転移の要因となっているものと考えられ、増殖、進行、ひいては治療に対する反応といった腫瘍の生物学的挙動を決定する。
【0009】
グリオーマ開始細胞を標的とすることは、その希少性、培養における不安定性、及び安定的なトレーサー物質がないことによって困難である。これまでのところ、同所性異種移植及び/又は形質転換マウスモデルのいずれにおいてもグリオーマの増殖の完全な根絶、又は再発の防止効果を示したグリオーマ開始細胞に対する有効な治療法は、存在していない。グリオーマ由来の腫瘍開始細胞は、従来の放射線治療に対して耐性を示すことが示されている(Bao et al.,2006;Clement et al.,2007)。例えば、グリオーマ開始細胞は、テモゾロミドなどの化学療法薬に対して耐性を示すことが知られている。これらのデータは、グリオーマの再発が避けられないことを説明しているものと考えられ、この疾患における従来の治療法に対する耐性を克服するための新たな標的としてグリオーマ開始細胞を定義しうるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2008/031171号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Daley et al.,2005,Biochemical and Biophysical Research Communications, 328(2):623−632
【非特許文献2】Pilkington et al.,2008,Seminars in cancer biology England, 18(3):226−235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
さしあたって現在のところ、グリオーマの再発に対する有効な治療法は、存在していない。グリオーマ開始細胞を特に対象とした有効な治療法を見出すことが求められている。しかしながら、グリオーマ開始細胞に対する有効な分子を特定し、グリオーマ治療における大きな改善策を得るのに先立って、グリオーマ開始細胞の細胞及び分子的機構をより一層、深く理解することが不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、本出願人らは、グリオーマ開始細胞がグリオーマなどの他の癌細胞とは異なる代謝を有していることを証明した。
【0014】
したがって、本発明は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者において、グリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法に使用するための、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤であって、以下の基準、即ち、
1)GICの生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)GICの回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たすことにより前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤がGICによるエネルギーの生産を阻害するような阻害剤を提供する。
【0015】
更に、本発明は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための医薬組成物であって、本発明に基づく電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の少なくとも1種類の阻害剤、及び1以上の薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明の別の目的は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法であって、電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量を投与することを含み、前記阻害剤が以下の基準、即ち、
1)GICの生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)GICの回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、を満たすことにより、
前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤がGICによるエネルギーの生産を阻害するような方法である。
【0017】
更に本発明は、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法であって、腫瘍細胞試料から単離されたFL1細胞及び正常な脳細胞を、スクリーニングしようとする阻害剤と接触させる工程を含み、前記阻害剤が以下の基準、即ち、
1)FL1細胞の生存率が、前記阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)FL1細胞の回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たすようなスクリーニング方法を提供する。
【0018】
本発明には更に、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、以下の基準、即ち、
1)FL1細胞の生存率が、前記阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)FL1細胞の回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たし、更に、グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の治療に有用であり、初代CIC培養、原発性接着性グリオーマ細胞、正常細胞、並びに、ロテノン及びアンチマイシンAからなる群から選択されるミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)又は複合体(III)の活性の少なくとも1種類の標準的な阻害剤を含むようなキットが包含される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、哺乳動物細胞における嫌気的及び好気的経路を示した模式図である(Lemire et al.,2008,PLoS ONE, vol.3 (2), e1250より改変)。
【図2】図2は、癌幹細胞におけるミトコンドリア活性を示すパラメータを示した図である。A:FL1(白地に黒の破線)及びFL1細胞集団(白)におけるMito細胞の比率(M75−13色素の取り込み後にFL3陽性細胞の数を定量することにより求めた)、並びに、FACSによりFL1−H及びFL3−Hチャネルにおいて測定されたFL1細胞のFL1自家蛍光のレベル(黒)。
【図3A】図3Aは、FL1、初代グリオーマ、及び正常な脳細胞と比較して低下したFL1細胞の解糖活性を示した図であり、FL1及びFL1細胞の代謝産物の濃度を示す(LAC:乳酸、PYR:ピルビン酸、GLUC:グルコース)。
【図3B】図3Bは、位相差イメージングによるFL1細胞の形態を示す(非処理(NT);スケールバー:150μM)。
【図3C】図3Cは、FL1細胞の比率に対する乳酸(LAC)添加の影響を示す。
【図3D】図3Dは、精製されたFL1及びFL1細胞における活性乳酸デヒドロゲナーゼの濃度を示す(LDは、UI/Lで表されている)。
【図4A】図4Aは、溶媒コントロールで処理した場合の試料と比較した、上記の薬剤で処理した試料中の死んだFL1細胞の比率の比に基づくFL1細胞に対するDCA処理(酸化的経路の活性化因子)の影響を示した図である。
【図4B】図4Bは、溶媒コントロールで処理した場合の試料と比較した、上記の薬剤で処理した試料中の死んだFL1細胞の比率の比に基づくFL1細胞に対するオキサミン酸処理(細胞質の乳酸デヒドロゲナーゼ3〜5(LDH3〜5)の阻害剤)の影響を示した図である。
【図5A】図5Aは、実施例2で述べられる抗癌幹細胞物質を試験するのに用いるプロトコールであり、処理及び回復期間の実験手順を示す。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図5B】図5Bは、CICを有効な抗CSC剤(黒い太線)又は効果のないCSC剤(黒い破線)で処理した後の模式的な生存反応曲線を示す。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6A1】図6A1は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロールFL1に対する生存した処理FL1の比率の比として表した図であり、25Gyのγ線を照射したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6A2】図6A2は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロール細胞に対する生存した処理細胞の比率の比として表した図であり、25Gyのγ線を照射したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6B1】図6B1は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロールFL1に対する生存した処理FL1の比率の比として表した図であり、テモゾロミド25μM(TMZ)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6C1】図6C1は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロールFL1に対する生存した処理FL1の比率の比として表した図であり、ロテノン5μM(Rot)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6C2】図6C2は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロール細胞に対する生存した処理細胞の比率の比として表した図であり、ロテノン5μM(Rot)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6D1】図6D1は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロールFL1に対する生存した処理FL1の比率の比として表した図であり、アンチマイシンA 5μM(AA)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6D2】図6D2は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロール細胞に対する生存した処理細胞の比率の比として表した図であり、アンチマイシンA 5μM(AA)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6E1】図6E1は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロールFL1に対する生存した処理FL1の比率の比として表した図であり、オリゴマイシンA/B 5μM(OligoA)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6E2】図6E2は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロール細胞に対する生存した処理細胞の比率の比として表した図であり、オリゴマイシンA/B 5μM(OligoA)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6F1】図6F1は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロールFL1に対する生存した処理FL1の比率の比として表した図であり、クロミプラミンまたの名をアナフラニール(10μM)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図6F2】図6F2は、実施例2で述べられるようなインビトロ再発アッセイにおける薬剤の効果を、生存したコントロール細胞に対する生存した処理細胞の比率の比として表した図であり、クロミプラミンまたの名をアナフラニール(10μM)で処理したときの図である。Txは、時間xにわたる処理を示す。例えば10日間(T10)、20日間(T20)であり、Rは、10日間(R10)及び20日間(R20)といった所定期間にわたる回復段階を示す。
【図7】図7は、各種の阻害剤で処理した細胞のインビボの腫瘍形成性を示した図である。グラフは、移植に先立ってインビトロで10日間、各種の分子で処理した初代GBM−2細胞を注射した後の無症状のマウスの全数の比率を示す。コントロールマウスは、移植4週後に症状を呈したため屠殺した。組織学的分析により大きな腫瘍の存在が判明した。AA、ロテノン又はアナフラニールで前処理した細胞を移植したマウスは、症状を呈することなく生存した。移植17週後に実験を停止した。組織学的分析によって視認される腫瘍は、認められなかった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施又は試験においては、本明細書で述べるものと同様又は同等の方法及び材料を使用することができるが、適当な方法及び材料については下記に述べる。本明細書において触れる刊行物、特許出願、特許及び他の参照文献は、いずれもその全容を援用するものである。本明細書において述べられる刊行物及び出願は、本願の出願日に先立つそれらの開示のみを目的として与えられるものである。本明細書の一切の記載内容は、先行する発明によって本発明がこうした刊行物に先行する資格を有さないことを容認するものとして解釈されるべきではない。更に、材料、方法、及び実施例は、あくまで説明を目的としたものであって、限定を目的としたものではない。
【0021】
記載に矛盾が生じた場合には、定義を含めた本明細書が優先するものとする。特に断らないかぎり、本明細書において使用する全ての技術用語及び科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有するものである。本明細書において使用する以下の定義は、本発明の理解を助けるために与えられるものである。
【0022】
「含む」なる用語は、包含の意味、即ち、1以上の特徴又は要素が存在することを許容する意味で一般的に用いられる。
【0023】
明細書及び特許請求の範囲において使用するところの単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに示されないかぎりは複数の対象物を含むものである。
【0024】
本明細書で使用するところの「被験者」又は「患者」なる用語は、当該技術分野では、広く認識されたものであり、本明細書においては、イヌ、ネコ、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、及び最も好ましくはヒトなどの哺乳動物を指して互換可能に使用される。実施形態によっては、患者は、治療を要する患者、又は癌、好ましくはグリオーマなどの疾病又は疾患を有する患者である。しかしながら、患者は、正常な患者、又は例えば腫瘍グリオーマのバルクを以前除去するなどの治療を既に行った患者であってもよい。この用語は、特定の年齢又は性別を意味するものではない。したがって、成人及び新生児患者を男性、女性を問わずに網羅するものである。
【0025】
グリオーマ開始細胞を呈する癌の治療において有用な阻害剤などの薬剤の同定とは、癌開始細胞(CIC)巣の全体を同定、単離、及び特性評価するうえで確実な選択法を使用することを意味する。正常な幹細胞の生物学的性質(Burdsalet al., 1995, Cytometry, 21, 145−152)から一般的に推定された任意のマーカー(幹細胞性の指標としてのCD133など)によって予め決定されたグリオーマ細胞株などの癌細胞株を選択的に使用する方法は、偏向したものであることが知られている。
【0026】
したがって、本出願人らは、国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられる出願人らにより最近開発された手法を用いて自己更新性及び腫瘍開始性を示す細胞の亜集団を単離及び濃縮した。この方法は、ヒト試料に由来する初代細胞培養をその基礎とし、腫瘍細胞の単純かつ安定した表現型特性に依存したものであり、CD133などのあらゆる細胞表面マーカーと無関係に非腫瘍形成性グリオーマ細胞(この方法では、FL1細胞と呼ばれる)からの癌開始細胞(CIC)(FL1細胞と呼ばれる)の速やかな同定及び単離を可能とするものである。
【0027】
本出願人らは、グリオーマ開始細胞(より詳細には、本明細書で使用するところのFL1細胞集団)などの癌開始細胞(CIC)が、好気的経路(TCA回路/酸化的リン酸化−電子伝達系)によってエネルギーを生産し、分裂、生存することを期せずして見出した。本出願人らは、更に、グリオーマ開始細胞(GIC)が好気的な解糖系(ワールブルグ効果)を選択的に用いる腫瘍バルクに由来する他のグリオーマ細胞(癌細胞)とは異なる代謝を有することも期せずして見出した。実際、本出願人らは、FL1細胞集団(CIC)がNADH、活性ミトコンドリア、及び活性LDについて濃縮されているという、興味深くかつ予想外の知見を得た。更にFL1細胞は、FL1細胞と比較して乳酸の濃度が低く、このことは、FL1細胞がATPを生産するうえで好気的ミトコンドリア経路を選択的に使用している可能性を示唆するものである。
【0028】
国際特許出願第PCT/IB2008/054872号において開示される方法は、
(a)腫瘍細胞の試料を与える工程と、
(b)与えられた細胞を必要に応じて培地中で培養する工程と、
(c)工程(a)又は(b)で与えられた細胞から、蛍光活性化細胞選別によって488nm又は約488mmの波長のレーザー光線による励起時にFL1チャネルにおいて検出される自家蛍光発光を与える細胞(FL1細胞)をサブ試料中に単離する工程と、
(d)工程(c)において蛍光性を示さず、かつFL3及びFL4チャネルの少なくともいずれかにおいて検出される蛍光においてわずかな正方向へのシフトを示す細胞(FL1細胞)を蛍光活性化細胞選別によって別のサブ試料中に単離する工程と、
(e)工程(c)及び(d)において得られた単離された細胞のサブ試料のそれぞれから死細胞を除外する工程と、
(f)工程(c)で得られた細胞のサブ試料を工程(e)における処理後にプールする工程と、
(g)工程(d)で得られた細胞のサブ試料を工程(e)における処理後にプールする工程と、を含む。
【0029】
FL1グリオーマ細胞集団とFL1グリオーマ細胞集団との間のインビトロ及びインビボでの表現型及び挙動における相違は、FL1細胞は、幹細胞性に関連した遺伝子に富み、多能性を有し、FL1細胞を生成可能であり、更に長期にわたる自己更新能の維持の要因となっていることを証明した更なる特性評価によって支持されている。FL1由来培養ではFL1細胞は、一切生成しないことから、このことは、FL1細胞がFL1細胞集団から誘導され、数代にわたって生存可能であるが、FL1からFL1状態に一旦切り替わると自家蛍光性を再び獲得することはできないことの更なる証拠を与えるものである。したがって、この方法及びこの単離された細胞集団は、グリオーマ開始細胞を呈する癌の治療において有用となりうる阻害剤などの薬剤を試験するための確実な方法を与えるものである。
【0030】
本出願人らが設計した抗GIC薬剤をスクリーニングするための特定の新規なインビトロ再発アッセイ(図5)を用い、本出願人らは、酸化的な細胞のエネルギー生産過程を標的とした阻害剤などの薬剤が、CICを根絶するうえで確実で長期間持続する効果を示すことを見出した。したがって、ミトコンドリア複合体I又はIIIにおいてNADHが細胞のATPに変換されることを防止し、Hの生成を誘導する阻害剤は、グリオーマ開始細胞に対する新規かつ特異的な治療方法と考えられる。
【0031】
GICを同定するための上記に述べた安定的な技術を用い、本出願人らは、特異的かつ有効な抗GIC薬剤を同定するための安定的かつ確実なスクリーニングツールを更に開発した。
【0032】
本出願人らの上記に述べた技術、並びに特異的な抗CSC薬剤(抗癌幹細胞薬剤)を試験及び評価するために設計された本出願人らのインビトロアッセイを利用することにより、本出願人らは、好気的経路によって生成されるエネルギーの生産を阻害することがCIC集団の全体を殺滅するうえで充分である(殺滅は、アポトーシスによってではなくCICを餓死させることによって行われる)ことを示した。ミトコンドリアの複合体I及びIIIのレベルにおけるような電子伝達系を妨害する阻害剤は、インビトロ及びインビボで全てのグリオーマ開始細胞を殺滅する非常に優れた能力を示す。複合体I及びIIIの阻害により活性酸素種(ROS)及びフリーラジカルが大量に生成することから、CICは、ROSが蓄積すること、又は解毒システムが飽和することによっても殺滅される可能性が高い。
【0033】
癌細胞株及び幹細胞性の指標としてCD133などの幹細胞株マーカーを選択的に使用する他の方法とは異なり、本出願人らの技術は、一切のマーカーの使用とは無関係にヒト試料から誘導される初代培養細胞及びCICの単純かつ偏向のない検出に依存したものである。したがって、本出願人らは、このような方法を利用してグリオーマの癌幹細胞を根絶するための潜在的な治療薬をスクリーニング及び評価するためのインビトロ再発アッセイを設計及び開発したものである。CIC、原発性グリオーマ細胞、及び正常な脳細胞を、最大で20日間、好ましくは10日間又は20日間にわたって阻害剤などの薬剤に曝露した(処理:T)後、阻害剤などの薬剤を加えない回復段階(回復:R)に移す。この場合の新規性は、任意の薬剤の有効性を試験するために用いられる幹細胞性の指標、及び、特異的な抗CSC薬剤が同定される可能性にある。
【0034】
基本的には、以下の条件を満たすものであればいかなる薬剤又は阻害剤も有効な抗CSC薬剤であると考えられる。即ち、
1)GIC(FL1細胞)の生存率が、前記薬剤又は阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)GIC(FL1細胞)の回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、
3)正常な脳細胞の生存率が、前記薬剤又は阻害剤に曝露される間又は曝露後に維持可能且つ回復可能である。
【0035】
好ましくは前記薬剤又は阻害剤は、電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤である。
【0036】
本出願人らのインビトロ再発アッセイの概念の証明及び検証として、γ線照射、及びGBMに対して現在使用されている主要な細胞毒性薬であるテモゾロミドの効果について試験を行った。FBSで培養したグリオーマ細胞と異なり、約40%のFL1細胞が25Gyの照射に対して耐性を示して生存し、したがって遺伝毒性ストレス後30日以内に回復し、これにより、放射線は、GICの亜集団をほとんど標的とせず、むしろ腫瘍バルクからの活発に分裂している細胞を標的とすることが確認された。グリオーマスフェア細胞(gliomasphere cell)のMGMTプロモーターのメチル化状態についてHegi et al, N Engl J Med, 2005, 352 (10) 997−1003に述べられるように最初に試験が行われ、グリオーマスフェア細胞は、テモゾロミドに対する感受性を有することが予測されている。しかしながら、臨床的に使用される用量の5倍に当たる25μMのテモゾロミドにより最大で20日間処理した後であっても、FL1細胞の30%は依然生存しており、20日間以内に回復可能であった(0.2<R<1)。
【0037】
GBMは、表現型的及び分子的な観点から本質的に高度に異種性の腫瘍である。活性化又は抑制のされ方の異なるシグナル伝達経路のうち、約60%のGBMにおいて上皮成長因子受容体(EGFR)シグナル伝達カスケードが増幅/過剰発現され、約65%のGBMにおいてP13K/AKT/PTENシグナル伝達カスケードがPTENの発現量の変化を示す。同様に、予後の不良及び放射線治療に対する耐性にはPTENの消失を伴うようである。5μMのエルロチニブによる長期の治療は、EGFRの状態とは無関係に2/6のGBMのみにおいて50%よりも多くのFL1細胞に細胞死を誘導し、EGFR遺伝子の増幅がゲフィニチブ又はエルロチニブなどのEGFRキナーゼ阻害剤に対する反応性とは相関していないことが確認された。更に、全てのグリオーマスフェア培養が10日間以内に治療から回復し、EGFRシグナル伝達経路を受容体のレベルで阻害することは有効ではないことが示唆された。
【0038】
グリオーマなどの幾つかのヒトの腫瘍一般においてNotch、SHH−Gli及びWNT、mTORなどの主要な発生経路が示唆されているが、ヒト癌幹細胞におけるこれらの役割を体系的に示した研究は希有である。より詳細には、シクロパミンを用いてSHH−Gliの活性を阻害するか、又はγ−セクレターゼ阻害剤DAPTを用いてNOTCHシグナル伝達経路の活性を阻害することにより、癌開始細胞集団の増殖及び自己更新性に潜在的に影響を及ぼすことによって腫瘍の増殖が低減される。同じではないが同様にして、テムシロリムスを用いたmTORの阻害、又は5μMのシクロパミン若しくは5μMのDAPTを用いてSHH−Gli及びNotchなどの発生経路を標的とすることはそれぞれ生存FL1細胞の数の減少を引き起こす。この場合もやはり、残留したCICが20日間の治療後の後であっても認められ、CIC集団が速やかに回復したことから、これらの薬剤は有効ではないものと考えられる。
【0039】
活性ミトコンドリアの数、代謝産物の含量、及び嫌気的エネルギー生産経路の阻害剤の影響に基づけば、FL1細胞は、FL1細胞と異なり、好気的経路を使用してエネルギーを選択的に生産する傾向にある。したがって、本出願人らは、ミトコンドリア活性を阻害する高い能力を有するいかなる薬剤もCIC内におけるエネルギー生産を阻害するはずであり、これによりCICが殺滅される可能性が高いという概念を提唱した。この概念を、本発明のインビトロ再発アッセイを用い、電子伝達系の阻害剤(レトノン、アンチマイシンA、アナフラニールなど)及びプロトンポンプの阻害剤(オリゴマイシンA/B)についてスクリーニングすることによって検証した。5μMのレトノン又はアンチマイシンA又はアナフラニール(クロミプラミン)又はオリゴマイシンA/Bへの20日間にわたる曝露により、全てのFL1細胞が殺滅される。治療法の開発及び治療方法の設計に関し、本出願人らは、好気的経路を阻害する薬剤への曝露期間を短縮したところ、10日間の曝露であってもCICの細胞巣の殺滅には充分であることを観察した。このような阻害剤のCICに対する特異性を試験するため、正常脳細胞及び原発性グリオーマ細胞(FBS培養)を上記に述べたミトコンドリア薬剤に10日間曝露した。正常脳細胞及び原発性グリオーマ細胞もやはりオリゴマイシンA/Bに感受性を有することが見出されたが、このことは、ミトコンドリアの複合体IVの活性の阻害は正常な脳細胞の生存率に影響することから適切ではない可能性を示唆するものである。アンチマイシンA又はアナフラニールへの曝露、及び程度はより低いがロタニンへの曝露は、増殖性及び分裂性にわずかに影響するものの、正常脳細胞の生存を可能とし、したがって治療薬としてより良好な展望が開けている。興味深い点として、FBS中で培養された原発性グリオーマ細胞は、こうした薬剤に対する耐性を示し、このことは腫瘍バルクからの細胞がCICとは異なる代謝を有しているという観察を更に裏付けるものである。
【0040】
本発明は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法に使用するための、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤であって、以下の基準、即ち、
1)GICの生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)GICの回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たすことにより、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤がGICによるエネルギーの生産を阻害するような阻害剤を提供する。
【0041】
好ましくは前記腫瘍グリオーマの除去は、腫瘍グリオーマのバルクの区域切除である。
【0042】
好ましくは、グリオーマ開始細胞(GIC)における前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、IC用量の最大で10倍に相当する用量で投与される。最も好ましくは、前記IC用量は、0.157mg/kg〜0.315mg/kgの範囲である。
【0043】
前記グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍は、グリオーマ、神経鞘腫、脳への転移、髄膜腫、上衣腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、乏突起星細胞腫、再発癌、及び転移性癌からなる群から好ましくは選択される。
【0044】
「試料」なる用語は、例えば、ヒトグリオーマ、神経鞘腫、脳への転移、髄膜腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、乏突起星細胞腫、及び上衣腫などの癌を罹患しているか、再発癌を有しているか、あるいは癌を罹患していることが疑われる患者(哺乳動物の患者、より詳細にはヒト患者など)からの組織又は体液試料などの、任意の供給源からの組織又は体液試料を含む。別の実施形態では、試料は、転移性癌を罹患しているか、又は例えばメラノーマ、乳癌、結腸癌、肺癌から脳への転移などの癌を罹患していることが疑われる患者(哺乳動物の患者、より詳細にはヒト患者など)からの組織又は体液試料などの、任意の供給源からの組織又は体液試料を含む。
【0045】
「癌幹細胞試料」なる用語は、本発明に基づくFL1及びFL1細胞の混合物を含むグリオーマスフェア培養(実施例で述べるようにして培養したもの)、又は本発明に基づく方法によって細胞を単離した、2種類の単離FL1又はFL1細胞集団を含む試料から選択される試料を意味する。
【0046】
「腫瘍細胞試料」なる用語は、腫瘍試料から新鮮に解離させた細胞試料、又は、例えば幹細胞培地及びこれに類する培地中で培養されたものなどのグリオーマスフェア培養、高血清培地及びこれに類する培地中で培養されたものなどの接着細胞培養、及び、分化培地及びこれに類する培地中で培養されたものなどの分化細胞培地などの、細胞を腫瘍試料から解離させた後に培養した細胞試料を含む。
【0047】
本明細書で用いるところの「腫瘍」なる用語は、細胞の異常増殖によって形成された新生物又は充実性病変のことを指す。腫瘍は良性、前悪性、又は悪性でありうる。腫瘍は、中枢及び末梢神経系、脳への転移、肺転移、急性骨髄性白血病(AML)、乳癌、結腸癌及び卵巣癌などと関連しうる。更に、腫瘍なる用語には、グリオーマ、神経鞘腫、髄膜腫、上衣腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、乏突起星細胞腫、メラノーマなどの腫瘍が含まれる。
【0048】
「幹細胞培地及びこれに類する培地」なる用語には、新鮮に解離させた組織試料から誘導された癌幹細胞(グリオーマスフェアとも呼ばれる)を増殖させた培地が含まれる。例えば、神経幹細胞培地には、1/1000のペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ社(Gibco))、B27(1/50、ギブコ社(Gibco))又はBIT9500(20%、ステムセルテクノロジーズ社(Stem cell Technologies))、hepes 30mM(シグマ・アルドリッチ社(Sigma−Aldrich))、ヒト組換えEGF(20ng/mL、インビトロジェン社(Invitrogen))、及び塩基性FGF−2(20ng/mL、インビトロジェン社(Invitrogen))を添加したDMEM−F12−Ham’s(ギブコ社(Gibco))が含まれる。
【0049】
「高血清培地及びこれに類する培地」なる用語には、新鮮に解離させた組織試料から誘導された接着性培養物を増殖させた培養(例えばFBS10%、1/1000のペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ社(Gibco))を添加したDMEM−F12−Ham’s(ギブコ社(Gibco)))が含まれる。
【0050】
「分化培地及びこれに類する培地」なる用語には、癌幹細胞をその多能性を分析するために播種する培地が含まれる(例えば、37℃で一晩、HO中に1:100で希釈したポリLオルニチン及びラミニン(シグマ社(sigma))の混合物でコーティングしたプレート。細胞は、解離させ、1/1,000のペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ社(Gibco))、B27(1/50、ギブコ社(Gibco))又はBIT9500(20%、ステムセルテクノロジーズ社(Stem cell Technologies))、hepes 30mM(シグマ・アルドリッチ社(Sigma−Aldrich))を添加したDMEM−F12−Ham’s(ギブコ社(Gibco)中に10細胞/μLの密度で播種した。)。
【0051】
「FL1チャネル」なる用語は、Practical Flow Cytometry, Shapiro et al., 4th Edition, 2003, Wiley & Sons, Inc.に述べられるような蛍光の縦方向の検出チャネルである。通常、488nmの励起波長では、自家蛍光は、520nm又は約520nmの波長のFL1チャネルにおいて検出される。
【0052】
「FL3チャネル」なる用語は、Practical Flow Cytometry, Shapiro et al., 4th Edition, 2003, Wiley & Sons, Inc.に述べられるような蛍光の側方方向(45℃)の検出チャネルである。通常、488nmの励起波長では、蛍光は、630nmよりも大きな波長のFL3チャネルにおいて検出される。
【0053】
「FL4チャネル」なる用語は、Practical Flow Cytometry, Shapiro et al., 4th Edition, 2003, Wiley & Sons, Inc.に述べられるような蛍光の側方方向の検出チャネルである。通常、632nm又は約632nm、又は546nm又は約546nmの励起波長では、蛍光は、630nmよりも大きな波長のFL4チャネルにおいて検出される。
【0054】
「正常な脳細胞」なる用語は、正常な生物学的機能を有し、腫瘍などのいかなる疾病にも疾患にも罹患していない健康な脳細胞のことを指す。「正常な脳細胞の生存率が維持可能かつ回復可能である」なる用語は、正常な脳細胞がその正常な生物学的機能を維持し、本発明の阻害剤に曝露される間、及びその後に障害されないことを意味する。
【0055】
「FL1細胞」若しくは「FL1−H細胞」又は「GIC」若しくは「CIC」なる用語は、本発明に基づく方法による蛍光活性化細胞選別により、特に特定の形態(高いFSC及び低い/中度のSSC)、及び細胞のサブ試料中へのレーザー光線による励起時にFL1チャネルにおいて検出される自家蛍光発光を与える細胞を選択的に検出及び選別することによって選別される細胞のことを指す。このサブ試料では、FL1チャネルにおいて検出されるこうした自家蛍光発光を与える細胞の亜集団が、488nm(例えばアルゴンなどの青色レーザー光線)の波長での励起時に約520nmにおいて検出される。より詳細には、FL1チャネルにおけるFL1自家蛍光がダイクロイックミラーにより530nm±15、より厳密にはダイクロイックミラーにより515nm±5で検出され、FL1自家蛍光発光のスペクトルの特異性が確認される。
【0056】
「FL1細胞」若しくは「非FL1−H細胞」又は「非自家蛍光細胞」なる用語は、本発明に基づく方法による蛍光活性化細胞選別により、特に特定の形態(低い/中度のFSC及び中度の/高いSSC)を与える細胞を選択的に検出及び選別することによって選別される細胞であり、FL1チャネルにおいて蛍光性を示さず、FL3又はFL4チャネルにおいて検出される蛍光がわずかに正方向にシフトする細胞のことを指す。
【0057】
「FL1細胞」又は「原発性グリオーマ細胞」若しくは「FBS培養グリオーマ細胞」なる用語は、10%FBS培地中で培養され、接着性を有し、本発明に基づく方法による蛍光活性化細胞選別によって選別されない細胞のことを指す。これらの細胞は、特定の形態(中度のFSC及び高いSSC)、高い細胞質/核比(>1)を示し、FL3又はFL4チャネルのいずれにおいてもFL1チャネルの蛍光が検出されない細胞である。
【0058】
「高いFSC」又は「高いFSC−H」又は「高いFSC−A」なる用語は、前方散乱を意味し、粒子サイズ及び速度測定(細胞の直径が5μm〜7μm)に相当する。
【0059】
「低い/中度のFSC」又は「低い/中度のFSC−H」又は「低い/中度のFSC−A」なる用語は、前方のサイズ散乱を意味し、細胞の大きさ(細胞の直径<5μm〜7μm)に相当する。
【0060】
「中度の/高いSSC」又は「中度の/高いSSC−H」又は「中度の/高いSSC−A」なる用語は、側方又は直交散乱を意味し、細胞の複雑度及び顆粒含有量(細胞質が多く、顆粒状)に相当する。
【0061】
「低い/中度のSSC」又は「低い/中度のSSC−H」又は「低い/中度のSSC−A」なる用語は、側方又は直交散乱を意味し、細胞の複雑度及び顆粒含有量(細胞核の周囲に非顆粒状の拘束された細胞質)に相当する。
【0062】
通常、FL1又はFL1−H細胞は、「高いFSC」又は「高いFSC−H」又は「高いFSC−A」と、「低い/中度のSSC」又は「低い/中度のSSC−H」又は「低い/中度のSSC−A」との組み合わせを有し、したがって1よりも大きい核/細胞質の直径比を有する。
【0063】
通常、FL1又は非FL1−H細胞は、「低い/中度のFSC」又は「低い/中度のFSC−H」又は「低い/中度のFSC−A」と、「中度の/高いSSC」又は「中度の/高いSSC−H」又は「中度の/高いSSC−A」との組み合わせを有し、したがって1よりも小さい核/細胞質の直径比を有する。
【0064】
「幹細胞培地」なる用語は、幹細胞の培養に適した培地である。通常、幹細胞培地は、例えば分裂促進因子(塩基性FGF−2、EGF)、及び無添加培地(B27又はBIT9500)を含む。
【0065】
「スフェア形成性」なる用語は、対称的又は非対称的に分裂してクローンを形成する単一の幹細胞の能力のことである。このクローンは、スフェアと呼ばれ、スフェアがグリオーマ腫瘍から誘導される場合には、より正確にグリオーマスフェアと呼ばれる。この能力は、国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられるような自己更新アッセイとも呼ばれるクローンアッセイによって測定することができる。自己更新アッセイは、クローンを形成する単一の細胞の能力を測定するものであるが、全てのクローンがスフェアを形成するわけではない。幹細胞又は正常な発生過程にある初期の幹細胞又は特定の癌のタイプのみがこのようなスフェア形成能を示し、この特異性は、神経幹細胞及びグリオーマ幹細胞において存在している。
【0066】
「多能性」なる用語は、複数の細胞型に分化する細胞の能力のことであり、例えば中枢神経系からの細胞では、多能性とはGFAP(星状細胞)、NESTIN(神経前駆細胞)、TUJ1(神経細胞)などの細胞に分化する能力のことを指す。
【0067】
「回復段階」なる用語は、FL1及びFL1細胞を処理後に幹細胞培地中に再び移すことである。
【0068】
「再発」なる用語は、薬剤による治療後に癌幹細胞が生存し、その内在的性質(例えばFL1チャネルにおける自家蛍光、スフェア形成能)、その分割能を維持し、更に場合により更なる性質(例えば、分化マーカーの発現によって測定される分化能、幹細胞性マーカーの発現によって測定される幹細胞性、及び、酸化還元比色アッセイ(MTS)NAD/NADPH+酵素の活性及び比によって測定される代謝特性)を維持する能力のことを意味する。再発の測定は、本発明に基づくスクリーニングアッセイによって行われ、図5にまとめて示すように治療後のFL1細胞及びFL1細胞の存在及び比率の分析を行う。再発レベルは、回復期間において治療後に生存している癌幹細胞の比率、及び癌幹細胞の再発が観察されない回復期間の長さに基づいて評価される。
【0069】
本明細書において使用するところの「有効量」なる用語は、対象とされる組織、システム、動物又はヒトにおいて生物学的又は医学的反応を引き起こす本発明に基づいた少なくとも1種類の化合物又はその医薬配合物の量のことを指す。一実施形態では、有効量は、治療される疾患又は状態の症状を緩和するための「治療上の有効量」である。本明細書においては、この用語は、疾患の進行を低減するうえで、特に再発プロセスを低減又は阻害するうえで(例えば再発の発生を予防、又は再発プロセスの頻度又は程度を低下させる)、及び/又は対象とする反応を生じ、引き起こすうえで充分な量の活性化合物を含む(即ち「阻害有効量」)。特定の実施形態では、本発明に基づく阻害剤、方法、及び使用は、腫瘍、腫瘍の増殖、再発及び転移の起点となるFL1細胞集団を減少又は更には根絶することが可能である。
【0070】
本発明に基づく治療の「有効性」なる用語は、本発明に基づく使用又は方法に応じた疾患の経過の変化に基づいて測定することができる。例えば、本発明に基づく治療の有効性は、以下の2つの基準に依存する。即ち、
− 10又は20日後に生存FL1細胞の少なくとも50%の低減によって測定されるFL1細胞を殺滅する能力、
− 治療後、最小で20日間までの生存FL1細胞の数によって測定される回復FL1細胞が存在しないこと(r<0.2)、である。
本発明に基づく治療の有効性は、患者の状態の改善、及び本発明に基づく治療の患者に対する正の影響によって測定することができる。
【0071】
「癌幹細胞再発を阻害する能力」なる用語は、治療後、及びこの治療後の回復期間の観察後の癌幹細胞試料中の癌幹細胞の数を減少させることが可能な薬剤の性質のことを指す。好ましくは、癌幹細胞の再発を阻害する能力とは、癌幹細胞試料から癌幹細胞を死滅させ、回復期間の観察後にこれらの細胞の再発を防止する薬剤の能力のことである。
【0072】
本明細書において互換可能に用いられる「抗腫瘍剤」又は「治療剤」又は「薬剤」なる用語には、例えば、腫瘍の増殖を低減又は阻止する、癌の再発を予防、低減又は阻止するといった、腫瘍の治療において有効な、腫瘍における治療活性を有しうる分子又は化合物が含まれる。これには、癌におけるその治療活性が知られる薬剤、又は癌における治療活性を有する可能性について研究されている薬剤が含まれる。「抗腫瘍剤」又は「治療剤」又は「薬剤」なる用語には、任意の分子(例えば化学的、生物学的)、又は任意の外因性/環境因子(例えば機械的因子、放射線)が更に含まれる。
【0073】
本明細書において使用するところの「治療」及び「治療する」並びにこれに類する語は、所望の薬学的及び生理学的効果を得ることを一般的に意味する。効果は、癌(グリオーマ)などの疾患、その症状又は状態を予防又は部分的に予防するという意味において予防的なものであってもよく、かつ/又は疾患、状態、症状、又は疾患に帰する副作用の部分的又は完全な治癒という意味において治療的なものであってもよい。本明細書において使用するところの「治療」なる用語は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のあらゆる治療法を網羅するものであり、(a)例えば手術(切除又は部分切除)、放射線治療、及び化学療法の少なくともいずれかのような治療を既に行っているか、あるいは既に疾患に罹患している可能性があるが疾患を有するとの診断は下されていない患者において癌(グリオーマ)などの疾患が発生することを予防し、(b)癌(グリオーマ)などの疾患を阻害する、即ちその成長を阻止するか、あるいは疾患を緩和する、即ち疾患及びその症状又は状態の少なくともいずれかの退行を引き起こすことが含まれる。
【0074】
本発明の文脈において使用される「阻害剤」なる用語は、生体分子の活性を完全又は部分的に阻害する分子として定義される。
【0075】
「ミトコンドリア活性の阻害剤」なる用語は、酸化的な細胞のエネルギー生産プロセスの阻害剤、通常は、好気的な細胞代謝の阻害剤として定義される。酸化的な細胞のエネルギー生産プロセスの阻害剤には、細胞のトリカルボン酸(TCA)回路即ちクエン酸回路(炭水化物、脂肪及びタンパク質を二酸化炭素と水に化学的に変換して利用可能なエネルギーの形態とする)の阻害剤、又は細胞の酸化的(好気的)解糖系(細胞質中でのグルコースのピルビン酸への代謝)又は解糖系の基質(ピルビン酸)の酸化的リン酸化の阻害剤が含まれる。一般的に、ミトコンドリア活性の阻害剤は、電子伝達系又は酸化的リン酸化の阻害能を示すことにより、インビトロ及びインビボの再発アッセイにおいて活性酸素種(ROA)の生成につながる薬剤である。
【0076】
本明細書において使用するところの電子伝達系の活性の阻害剤は、ジフェニレンヨードニウムクロリド(DPI)又はその誘導体であってよい。DPIは、フラボタンパク質に強力に結合することから、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、NADPH−ユビキノン酸化還元酵素、NADPHオキシダーゼ、及びNADPHシトクロムP450酸化還元酵素などの幾つかの重要な酵素の強力かつ特異的な阻害剤である。
【0077】
好ましくは前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、ジフェニレンヨードニウムクロリド(DPI)及びその誘導体である。
【0078】
更に好ましくは、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤である。
【0079】
「ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)の活性の阻害剤」なる用語には、ミトコンドリアの複合体Iの活性を阻害する薬剤が含まれる。例えば、酸化的リン酸化複合体(I)の阻害剤には、公知の殺虫剤であるロテノン及びその誘導体などの、NADHデヒドロゲナーゼの結合部位においてミトコンドリアの複合体Iに結合する薬剤(Hogan & Singer, 1967, Biochem. Biophys. Res. Commun., 27(3): 356−60)が含まれる。ロテノン誘導体としては、アリールアジドアモルフィゲニン、アモルフィスピロノン、テフロシン、アモルフィゲニン、12a−ヒドロキシアモルフィゲニン、12a−ヒドロキシダルパノール]及び6’−O−D−グルコピラノシルダルパノールが挙げられる。
【0080】
「ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(III)の活性の阻害剤」には、ミトコンドリアの複合体(III)の活性を阻害する薬剤が含まれる。例えば酸化的リン酸化複合体(III)の阻害剤としては、公知の抗真菌剤であるアンチマイチンA及びその誘導体などの複合体IIIの触媒活性を阻害する薬剤がある。アンチマイシンAの誘導体としては、ミクソチアゾール、スティグマテリンのトリデシル類似体(Hu et al., 2008, Tetrahedron letters, 49(35): 5192−5195)が挙げられる。酸化的リン酸化複合体(III)の阻害剤の他の例としては、セロトニン/ノルアドレナリン二重再取り込み阻害剤であるクロミプラミン(アナフラニール(登録商標))又はその誘導体、並びにイミプラミン及びクロルプロマジンなどの類似体などの公知の抗うつ剤であるあらゆるジベンゼピン誘導体が含まれる。イミプラミン及びその塩酸塩については米国特許第2,554,736号に、及びそのパモ酸塩については米国特許第3,326,896号に開示されている。イミプラミン及びその塩は、経口投与で有効なジベンゾアゼピン三環系抗うつ剤である。酸化的リン酸化複合体(III)の阻害剤の更なる例は、リコシャルコン(Licochalcone)A、アスコクロリン及びストロビルリンBである。
【0081】
セロトニン/ノルアドレナリン二重再取り込み阻害剤(DSNRI)は、セロトニン及びノルエピネルフリンの両方の再取り込みを阻害するものであり、ベンラファキシン(エフェキソール(登録商標)、ベンラファキシン代謝物質のO−デスメチルベンラファキシン、クロミプラミン(アナフラニール(登録商標))、クロルプラミン代謝物質のデスメチルクロミプラミン、デュロキセチン(サインバルタ(登録商標))、ミルナシプラン及びイミプラミン(トフラニール(登録商標)又はジャニミン(登録商標))がある。
【0082】
それらの化学名、商品名、構造、治療及び薬理に関する情報、及び治療上の分類は、例えばMerck Index, 9th Edition 1976, Goodman & Gilman, The Pharmacological Basis of Therapeutics, 9th Edition 1996, and the Physician’s Desk Reference2004 などの文献に見ることができる。
【0083】
本発明に基づけば一般的には、阻害剤は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化複合体(I)の活性又はミトコンドリアの酸化的リン酸化複合体(III)の活性のいずれかを阻害する。
【0084】
しかしながら、スティグマテリン、ミクソチアゾール、ピエリシジン又はこれらの誘導体及び類似体などの一部の阻害剤は、複合体(I)及び(III)の両方のミトコンドリア酸化的リン酸化の活性を同時に阻害することができる。上記の二重阻害剤は、より強力な阻害剤、ひいてはより低い濃度しか必要としないより強力な抗GIC剤となりうるものである。
【0085】
表1は、放射線治療及び化学療法において、又は臨床試験において使用される典型的な薬剤、文献における参照、及びインビトロ再発アッセイにおける用量を示す。
【0086】
表2〜3は、好気的/嫌気的経路を標的とした薬剤、文献における参照、及びインビトロ再発アッセイにおける用量を示す。
【0087】
好ましくは、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、ロテノン、アンチマイシンA、イミプラミン、クロミプラミン、ミクソチアゾール、スティグマテリン、ストロビルリンb、リコシャルコンA、アスコクロリン、ピエリシジン、及び/又はこれらの組み合わせ、及び/又はこれらの誘導体、及び/又は薬学的に許容されるこれらの塩からなる群から選択される。
【0088】
例えば、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の活性の阻害剤の前記組み合わせは、ロテノンをアンチマイチンAと組み合わせるか、又はロテノンをクロミプラミンと組み合わせたものからなる。
【0089】
最も好ましくは、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、ミクソチアゾール、スティグマテリン、ピエリシジン及び/又はこれらの誘導体、及び/又はこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される。
【0090】
「ミトコンドリアのTCA回路の活性の阻害剤」なる用語には、基質の存在、内因性及び/又は外因性の最終生成物によって通常決定される化合物が含まれる。ミトコンドリアのTCA回路の活性の阻害剤は例えば、NADH及びATP、クエン酸塩、アセチルCoAがある。カルシウムは、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、αケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、及び更にクエン酸シンターゼなどのTCAの主要な酵素を阻害する。本発明に基づけば好ましくはミトコンドリアのTCA回路の活性は、ロテノン、アンチマイシンA、イミプラミン、クロミプラミン、ミクソチアゾール、スティグマテリン、ストロビルリンb、リコシャルコンA、アスコクロリン、ピエリシジン、及び/又はこれらの組み合わせ、及び/又はこれらの誘導体、及び/又は薬学的に許容されるこれらの塩からなる群から選択されるミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の阻害剤などの電子伝達系の阻害剤によって間接的に阻害することもできる。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
更なる実施形態では、本発明は、相乗効果及び累積効果の少なくともいずれかを与える本発明の異なる阻害剤の組み合わせを提供する。例えば、レトノンとアンチマイシン又はレトノンとアナフラニールといったミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の阻害剤の組み合わせとすることによって、GIC細胞巣の全体が根絶されるように治療の効果を最適化することができる。上記で観察したように、こうした阻害剤の組み合わせによって、GICを殺滅するうえで相乗的又は累積的に作用しうる各阻害剤の個々の用量を低減させることが可能である。このような組み合わせ及び相乗効果の例が、Clement et al, 2007 and Stecca et al, 2007に示されている。
【0095】
「ROS生成剤」なる用語は、細胞内の活性酸素種(ROS)及びフリーラジカルの濃度の増大を誘導することが可能な薬剤のことである。一般的にこうした薬剤としては、シンナムアルデヒド、過酸化水素、アクチノマイシンD及びカンプトテシンが挙げられる。
【0096】
本明細書で使用するところの「電子伝達系」(ETC)とは、一群の介在する生化学反応によって、電子供与体(NADHなど)と電子受容体(Oなど)との間の化学反応を、膜をはさんだHイオンの移動と共役させるものである。Hイオンは膜を逆に通過する際に生物における主要なエネルギー中間体であるアデノシン三リン酸(ATP)を生産するために用いられる。例えば酸素を細胞呼吸の一部として用いる多くの真核細胞は、クレブス回路、脂肪酸の酸化及びアミノ酸の酸化の生成物からATPを生産するミトコンドリアを含んでいる。ミトコンドリアの内膜では、NADH及びコハク酸からの電子が電子伝達系を通って酸素に受け渡され、酸素は水に還元される。ミトコンドリアの内部で電子伝達系に関与している4種類の膜結合複合体が特定されている。各複合体は、内膜に埋め込まれた極めて複雑な膜貫通構造である。これら4種類の複合体は、複合体(I)(NADHデヒドロゲナーゼ、NADH:ユビキノン酸化還元酵素とも呼ばれる)、複合体(II)(コハク酸デヒドロゲナーゼ)、複合体(III)(シトクロムbc1複合体)、及び複合体(IV)(シトクロムcオキシダーゼ)である。
【0097】
電子伝達系は、酸素への早期の電子漏出が生じる主要な場でもあることから、スーパーオキシド生成の主要な場であり、酸化ストレスの駆動源である。
【0098】
本発明において使用するところの「TCA回路(トリカルボン酸回路)」は、クエン酸回路としても知られ、酵素によって触媒される一連の化学反応であり、細胞呼吸の一部として酸素を用いる全ての生きた細胞において極めて重要である。真核細胞では、TCA回路はミトコンドリアの基質に存在している。
【0099】
「腫瘍グリオーマのバルクの除去」なる用語は、患者からの腫瘍グリオーマのバルクのあらゆる除去、剥離、又は切除のことを指す。除去は化学的、放射線又は外科的なものでありうる。好ましくはこの除去は、剥離又は切除などの外科的なものである。切除は、患者から臓器又は分泌腺の一部を除去する手術である「区域切除」(又は区域切除術)であってよい。区域切除は腫瘍及びその周囲の正常組織を除去するために用いられる場合もある。
【0100】
「GICによるエネルギーの生産を阻害する」なる用語は、栄養素からの生化学的エネルギーをアデノシン三リン酸(ATP)に変換するためのグリオーマ開始細胞(GIC)内で起きる代謝反応及びプロセスを阻害することを指す。通常、エネルギーの生産を阻害することは細胞が飢餓状態にあることを意味する。
【0101】
「再発癌」又は「再発腫瘍」なる用語は、通常は癌が検出されない一定期間の後に再発した(再び生じた)例えばグリオーマなどの癌のことを指す。癌は最初の(原発)腫瘍と同じ場所、又は患者の体内の別の場所に再発しうる。
【0102】
「腫瘍減量因子」(debulking agent)なる用語には、腫瘍バルク(例えばFL1及びFL1細胞)から癌細胞を殺滅することを可能とする任意の分子(例えば化学的、生物学的)若しくは任意の外因性/環境性因子(例えばγ線照射)又は従来の手術が含まれる。
【0103】
「標準的放射線治療」なる用語は、悪性細胞を駆逐するための癌治療の一環としての電離放射線の使用のことを指す。好ましくは電離放射線は、γ線照射である。放射線治療を手術、化学療法、ホルモン療法、又はこれらの組み合わせと組み合わせることも一般的に行われる。最も一般的な種類の癌は、放射線治療で通常治療することができる。正確な治療の意図は(治療、アジュバント、ネオアジュバント、姑息的治療)、腫瘍のタイプ、場所、及びステージ、並びに治療を必要とする患者の一般的な健康状態に応じて決まる。
【0104】
「標準的化学療法」なる用語は、一般的に特定の化学療法/化学的薬剤を使用した癌の治療法のことを指す。化学療法薬とは、癌を治療する目的で一般的に使用される医薬品のことを指す。癌の治療を目的とした化学療法薬としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、イフォスファミド、パクリタキセル、ゲムシタビン、ドセタキセル、及びイリノテカン、並びにシスプラチン及びカルボプラチンなどの白金系抗癌剤が挙げられる。他の化学療法のクラスには、ゲフィチニブ、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤、ロナファルニブなどのファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、エベロリムスなどの哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の阻害剤、ベバシズマブ、スニチビド(sunitibid)及びシレンジチドなどの血管新生阻害剤、PKC、PI3K及びAKTの阻害剤が含まれる。より詳細には、本発明の化学療法薬としてテモゾロミド又はカルムスチンなどのアルキル化剤が挙げられる。本発明に基づけば、標準的な化学療法用の好ましい薬剤は、テモゾロミド及びベバシズマブである。
【0105】
グリオーマの標準的放射線治療及び化学療法は、同時併用化学放射線療法であってもよい。「同時併用化学放射線療法」なる用語は、これら2つの治療法(化学療法及び放射線治療)が同時に、又は例えば順次若しくは同日などにほぼ同時に行われる場合に用いられる。グリオーマの別の標準的放射線治療及び化学療法は、テモゾロミドと放射線治療を同時併用した補助的な複合化学放射線療法であってもよい(TMZ/RT→TMZ)(Stupp et al., 2005, 2009)。
【0106】
グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかに関連した本発明の方法においては、患者は腫瘍グリオーマのバルクを以前除去していることが重要である。実際、初期の主症状(発作、局所神経障害、頭蓋内圧亢進の兆候、人格変化)に応じて、特別な経過観察を計画し、画像診断を行うことで頭蓋内腫瘤の放射線医学的な発見にしばしばつながる。放射線医学的所見及び患者履歴は、腫瘍のタイプ及び病因を示唆するものであるが、確定診断は生検又は、完全摘出後の病理学的検査によって下されるものである。したがって、例えば部分切除(生検又は完全摘出)による腫瘍グリオーマのバルクの除去は、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量の投与に常に先立って行われる。例えば、腫瘍グリオーマのバルクの除去は、標準的な手術方法によって行うことが可能である。この腫瘍減量工程により、グリオーマ開始細胞(高グレードグリオーマでは腫瘍グリオーマのバルクの最大で5%〜7%)、及び基本的に腫瘍グリオーマ細胞、マクロファージ、内皮細胞を含む腫瘍の残部(腫瘍グリオーマのバルクの約93%〜95%)を除去することが可能である。
【0107】
更なる実施形態では、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、又はこれを含有する医薬組成物の治療上の有効量の投与は、腫瘍グリオーマのバルクを除去する手術の後に再発の予防又は防止策として行われる。
【0108】
グリオーマ開始細胞の代謝は、グリオーマのバルクの細胞及び正常な脳細胞とは異なることから、腫瘍減量を目的とした特定の因子(FL1細胞及びFL1細胞を根絶する)とグリオーマ開始細胞の特定の阻害剤(FL1細胞を根絶する)との組み合わせは、グリオーマの増殖及び再発を根絶するための有利な方法となりうるものである。したがって場合に応じて、標準的な放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかを、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量の投与の前、同時又はその後で行うことができる。標準的な化学療法が、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量の投与と同時に行われる場合、化学療法薬は同じか又は異なる組成物中で、同じか又は異なる投与経路によって投与することができる。好ましくは標準的な放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかを、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、又はこれを含有する医薬組成物の治療上の有効量の投与の前又は後に行うことができる。
【0109】
例えば、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、又はこれを含有する医薬組成物の治療上の有効量の投与後に放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかを適用することは、腫瘍形成状態(FL1細胞)から非腫瘍形成状態(FL1細胞)への表現型の変化が不可逆的なものであり、分化及び細胞死に向かう運命決定と相関していることを本出願人らが観察したという事実によって支持されるものである。したがって、代替的な治療方法の1つとして、最初に、GICにおいて好気的から好気的解糖に代謝スイッチを誘導することによって全てのFL1細胞をFL1の表現型に変化させ、次に腫瘍減量因子(即ち放射線治療及び化学療法の少なくともいずれか)を場合に応じて神経外科手術と組み合わせて用いることによってFL1細胞及びFL1細胞集団の全体を根絶する、というものがありうる。本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、又はこれを含有する医薬組成物の治療上の有効量の投与後に放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかを適用することは、GICが標準的な放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかに耐性を示し、その後に回復するという事実によっても支持される(図6)。
【0110】
別の例では、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、又はこれを含有する医薬組成物の治療上の有効量の投与の前に標準的な放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかを適用することは、再発性グリオーマの治療及び予防の少なくともいずれかにおいて有用でありうる。
【0111】
本発明は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法に使用するための、投与計画を更に提供する。
【0112】
短期間の用量反応では、GICを増加する用量の阻害剤に48時間曝露する。次いでGICの生存率、細胞死及び回復率を本発明に述べられる方法によって分析する。長期の治療(即ち10〜20日間の後に回復)用に選択される用量は、対照分子と比較して細胞死の全数の2倍の増加(即ち倍増)を誘発する阻害剤の用量に相当し、この用量をICと称する。48時間後に最小で50%の細胞死を誘発する用量に相当する標準的なIC50と異なり、本出願人らのICは、極めて低く、したがって毒性のない用量を決定することを可能とするものである。
【0113】
本発明に基づけば、ICは、阻害剤に応じて0.157mg/kg〜0.315mg/kgの範囲に好ましくは相当する。本発明に基づく投与計画は、毒性の兆候が認められない場合には、最大でIC用量の10倍、即ち1.57mg/kg〜3.15mg/kgとすることができる。この用量は、阻害剤の適切かつ充分な用量が血液脳関門を通過して腫瘍部位内に拡散する確率を最大とすることができる。
【0114】
単回投与又は複数回投与によって患者に投与される用量は、薬物動態特性、患者の状態及び特性(性別、年齢、体重、健康状態、大きさ)、症状の程度、同時併用される治療、治療の頻度、及び所望の効果などの様々な因子に応じて変化しうる。
【0115】
治療は、通常、本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、又はこれを含有する医薬組成物を、通常、数時間、数日、又は数週間の間隔で複数回投与することによって行うことができる。
【0116】
本発明は、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者、好ましくは哺乳動物患者、最も好ましくはグリオーマ開始細胞を呈する腫瘍又はグリオーマ開始細胞を呈する再発腫瘍、特定の実施形態ではヒトグリオーマ、神経鞘腫、脳への転移、髄膜腫、上衣腫、再発性グリオーマなどの再発癌、例えばメラノーマ、乳癌、結腸癌又は肺癌などの転移性癌を罹患したヒト患者を治療するための阻害剤、医薬組成物、及び方法を提供する。
【0117】
本発明は更に、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法であって、電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量を投与することを含み、前記阻害剤が以下の基準、即ち、
1)GICの生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)GICの回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たすことにより、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤がGICによるエネルギーの生産を阻害するような方法を提供する。
【0118】
好ましくは前記腫瘍グリオーマのバルクの除去は、腫瘍グリオーマのバルクの部分切除である。
【0119】
好ましくは前記治療上の有効量は、最大でIC用量の10倍である。最も好ましくは前記IC用量は、0.157mg/kg〜0.315mg/kgの範囲である。
【0120】
代替的な一実施形態では、本発明の腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法は、更に、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量の投与の前又は後に、標準的な放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかによって治療する工程を更に含む。
【0121】
好ましくは、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、ジフェニレンヨードニウムクロリド(DPI)及びその誘導体である。更なる一実施形態では、好ましくは前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤である。
【0122】
好ましくは、前記グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍は、グリオーマ、神経鞘腫、脳への転移、髄膜腫、上衣腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、乏突起星細胞腫、再発癌、及び転移性癌からなる群から選択される。
【0123】
本発明は、更に、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための医薬組成物であって、少なくとも1種類の、本発明に基づく電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、及び1以上の薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む医薬組成物を提供する。
【0124】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、1種類のミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)の阻害剤と、1種類のミトコンドリアの電子伝達系の複合体(III)の阻害剤との組み合わせ、及び1以上の薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む。
【0125】
本発明に基づく電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、少なくとも1種類の、本発明に基づく電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤を本明細書に述べられる任意の形態で含有しうる医薬組成物として製剤化することができる。本発明の医薬組成物は、これらに限定されるものではないが、ミョウバン、安定剤、抗微生物剤、緩衝剤、着色剤、香味剤、賦形剤、アジュバントなどの1以上の薬学的に許容される希釈剤又は担体を更に含みうる。
【0126】
非経口及び腸内投与用の本発明の医薬組成物は、賦形剤、アジュバント、結合剤、崩壊剤、分散剤、潤滑剤、希釈剤、吸収促進剤、緩衝剤、界面活性剤、可溶化剤、防腐剤、乳化剤、等張化剤、安定剤、注射用可溶化剤、pH調整剤などの任意の従来の添加剤を含有することができる。
【0127】
本発明の阻害剤を医薬上用いることが可能な医薬組成物に加工することを容易にする許容される担体、希釈剤、及び賦形剤は、使用される用量及び濃度で被験者(患者)に対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンなどの酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びmクレゾールなど);低分子量(約10残基以下)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンなどの単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZnタンパク質複合体);及びTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤の少なくともいずれかを含みうる。
【0128】
本発明に基づく電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤は、従来用いられているアジュバント、担体、希釈剤又は賦形剤とともに医薬組成物及びその単位用量の形態とすることが可能であり、こうした形態では、いずれも経口投与用の、錠剤若しくは充填カプセルなどの固体、又は溶液、懸濁液、乳濁液、エリキシル若しくはこれらで充填されたカプセルなどの液体、又は非経口投与(皮下投与を含む)用の滅菌注射溶液の形態とすることができる。このような医薬組成物及びその単位投与形態は、更なる活性化合物又は元素とともに、又はそれなしで各成分を従来の割合で含んでよく、こうした単位剤形は使用される所望の日用量の範囲に見合った任意の適当な有効量の有効成分を含むことができる。本発明に基づく組成物は好ましくは非経口組成物である。
【0129】
少なくとも1種類の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤を含有する本発明の医薬組成物は、これらに限定されるものではないが、水性又は油性懸濁液、溶液、乳濁液、シロップ、及びエリキシルなどの液体製剤であってもよい。経口投与に適した液体剤形は、好適な水性又は非水性溶媒を、緩衝剤、懸濁及び分散剤、着色剤、香味剤などとともに含みうる。本発明の医薬組成物は、使用前に水又は他の適当な溶媒によって還元するための乾燥製品として製剤化することもできる。このような液体製剤は、これらに限定されるものではないが、懸濁剤、乳化剤、非水性溶媒及び防腐剤などの添加剤を含有しうる。懸濁剤としては、これらに限定されるものではないが、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、グルコース/シュガーシロップ、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル、及び水添食用脂が挙げられる。乳化剤としては、これらに限定されるものではないが、レシチン、ソルビタンモノオレエート、及びアカシアゴムなどが挙げられる。非水性溶媒としては、これらに限定されるものではないが、食用油、アーモンド油、ヤシ油、油状エステル、プロピレングリコール、及びエチルアルコールが挙げられる。防腐剤としては、これらに限定されるものではないが、パラヒドロキシ安息香酸メチル又はプロプル及びソルビン酸が挙げられる。更なる材料及び加工方法などについては、本明細書に援用するRemington’s Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, 2000, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvaniaの第5部に記載されている。
【0130】
一実施形態では、本発明に基づく患者は、グリオーマ開始細胞を呈する癌を罹患した患者である。特定の一実施形態では、本発明に基づく患者は、ヒトグリオーマ、神経鞘腫、脳への転移、髄膜腫、又は上衣腫を罹患している。別の特定の実施形態では、本発明に基づく患者は、再発性グリオーマなどの再発癌を罹患している。更なる実施形態では、本発明に基づく患者は、例えばメラノーマ、乳癌、結腸癌又は肺癌などの転移性癌を罹患している。
【0131】
本発明の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、又はこれを含有する医薬組成物は、非経口又は腸内経路などの様々な経路から投与することができる。非経口投与には、静脈内、筋内、動脈内、又は脳内投与が含まれる。腸内投与には、あらゆる経口、胃内、又は直腸内投与が含まれる。本発明の組成物の投与方法には、静脈内末梢注入、腫瘍内注入、又は対流促進投与(CED)(Bobo et al., 1994, PNAS, 91 (6), 2076−2080; Lino et al., 2009, Curr. Opin. Cell Biol., 21, 311−316)などのあらゆる種類の頭蓋内投与などの公知の抗癌剤の投与方法が含まれる。
【0132】
本発明の更なる実施形態に基づけば、本発明に基づく電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、及びこれを含有する医薬組成物は、単独で、又は充実性腫瘍を対象とした標準的な放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかにおいて使用される物質などの癌の治療に有用な補助剤と組み合わせて投与することができる。例えば補助剤は、テモゾリミド及びγ線照射などの腫瘍減量因子から選択される。
【0133】
本発明は更に、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法であって、腫瘍細胞試料から単離されたFL1細胞及び正常な脳細胞を、スクリーニングしようとする阻害剤と接触させる工程を含み、前記阻害剤が以下の基準、即ち、
1)FL1細胞の生存率が、前記阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)FL1細胞の回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たすようなスクリーニング方法を提供する。
【0134】
本発明のスクリーニング方法は、原発性グリオーマ細胞を、前記スクリーニングしようとする阻害剤と接触させる工程を更に含む。
【0135】
本発明は更に、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、以下の基準、即ち、
1)FL1細胞の生存率が、前記阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)FL1細胞の回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たし、更に、グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の治療に有用であり、初代CIC培養、原発性接着性グリオーマ細胞、正常細胞、並びに、ロテノン及びアンチマイシンAからなる群から選択されるミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)又は複合体(III)の活性の少なくとも1種類の標準的な阻害剤を含むキットを提供する。
【0136】
本明細書において提供されるキットは更に、前記阻害剤のスクリーニングを行うための方法について記載した情報資料を含んでもよい。該情報資料は更に、試験した阻害剤が本明細書の基準を満たすか否かを判定する方法についての使用説明書を含んでもよい。キットの情報資料の形態は、限定されない。多くの場合、例えば使用説明書などの情報資料は、印刷物、例えば印刷された文字、図、及び写真の少なくともいずれか、例えばラベル又は印刷シートとして提供される。しかしながら、情報資料は、点字、コンピュータ読み込み可能な資料、ビデオ録画又は音声録音などの他のフォーマットで提供することもできる。言うまでもなく、情報資料は、任意のフォーマットの組み合わせで提供することもできる。
【0137】
キットは、更に、試薬及び情報資料用の別々の容器、分割要素、又は区画を含んでもよい。容器は、適宜ラベリングすることができる。
【0138】
本明細書の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤、その使用、方法、及びキットは、癌幹細胞の集団全体を殺滅し、標準的な手術、放射線治療及び化学療法といった標準的な癌治療後の癌幹細胞の再発を防止することを可能にするという利点を有している。これらの特定の性質は、腫瘍の予防及び/又は治療との関連において特に有用な特定の利点を与えるものであり、標準的な癌の腫瘍減量因子と組み合わせて使用することが可能であることから、グリオーマ細胞及び癌開始細胞(グリオーマ開始細胞など)などの両方の癌細胞を殺滅することが可能であり、標準的な癌治療後に残存する癌幹細胞による癌の再発を防止するものである。
【0139】
当業者であれば、本明細書に述べられる発明には、具体的に述べられたもの以外の変形及び改変が可能である点は認識されるであろう。本発明は、こうした変形及び改変の全てを、本発明の趣旨又は本質的特徴から逸脱することなく包含するものである点は理解されるはずである。本発明は、更に、個別又はまとめて本明細書において参照、又は示した工程、特徴、組成物、及び化合物の全て、並びに前記工程又は特徴のあらゆる組み合わせ、又は任意の2以上を包含するものである。したがって本開示は、全ての態様において説明的かつ非限定的なものとみなされるべきであり、発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、均等の意味及び範囲内に含まれる全ての変更は、特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0140】
以上の説明は、以下の実施例を参照することでより完全な理解がなされよう。しかしながらこれらの実施例は、本発明を実施する方法を例示したものであって、発明の範囲を限定することを目的としたものではない。
【実施例】
【0141】
一般的手順及び条件
以下の実施例は、癌開始細胞における好気的エネルギー生産経路の役割、及び癌の治療に対する癌幹細胞のミトコンドリア活性の阻害剤の潜在的な活性を確認するものである。
【0142】
以下の略語は、それぞれ以下の定義を示す。
Gy(グレイ)、mM(ミリモル)、μM(マイクロモル)、nm(ナノメートル)、AML(急性骨髄性白血病)、ATP(アデノシン三リン酸)、BIT9500(ウシ血清アルブミン、インスリン、トランスフェリン)、BSA(ウシ血清アルブミン)、CIC(癌開始細胞)、DAPT(N−[N−(3,5−ジフルオロフェニルアセチル−L−アラニル)]−S−フェニルグリシンt−ブチルエステル)、DCA(ジクロロ酢酸)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、EGF(上皮増殖因子)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、FBS(ウシ胎児血清)、FSC(前方散乱)、FGF−2(線維芽細胞増殖因子2)、GBM(グリオブラストーマ)、GLC(グルコース)、LD(乳酸デヒドロゲナーゼ)、MGMT(O−メチルグアニン−DNAメチルトランスフェラーゼ)、MTS([3−(4,5−ジメチル−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内塩)、MTS([3−(4,5−ジメチル−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内塩)、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)、NB(正常脳細胞)、OD(光学密度)、PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS(リン酸緩衝液)、ROS(活性酸素種)、R(回復)、r(部分的回復)、SC(幹細胞)、SSC(側方散乱)、T(治療)。
【0143】
使用するスクリーニング方法は、国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられるものであり、以下の工程を含む。即ち、
a)癌幹細胞の試料を提供する工程と、
b)工程(a)で提供された癌幹細胞試料を薬剤で処理する工程と、
c)処理された幹細胞試料を幹細胞培地中で、処理を行わずに所定のインキュベーション期間にわたってインキュベートする工程と、
d)工程(c)でインキュベートされた幹細胞試料から生存細胞集団を選択する工程と、
e)488nm又は約488nmの波長のレーザー光線による励起時にFL1チャネルにおいて自家蛍光発光を与える細胞を蛍光活性細胞選別によって検出することによって、工程(d)で単離された生存細胞集団の自家蛍光の平均レベルを測定する工程と、
f)特定の形態(高いFSC及び低い/中度のSSC)を有し、工程(d)で単離された生存細胞集団の488nm又は約488nmの波長のレーザー光線による励起時にFL1チャネルにおいて自家蛍光発光を与える細胞を蛍光活性細胞選別によって単離する工程と、
g)特定の形態(低い/中度のFSC及び中度の/高いSSC)を有し、工程(d)でFL1チャネルにおいて自家蛍光発光を与えず、工程(d)で単離された生存細胞集団のレーザー光線による励起時にFL3及びFL4チャネルの少なくともいずれかにおいて細胞蛍光発光にわずかな正方向へのシフトを示す細胞を蛍光活性細胞選別によって単離する工程と、
h)工程(a)で提供された癌幹細胞試料の自家蛍光の平均レベルと、工程(e)で測定された自家蛍光の平均レベルとを比較することによって自家蛍光性の生存細胞の比率を計算する工程と、
i)工程(a)で提供された癌幹細胞試料中に存在する初期の細胞数と、工程(d)で単離して得られた生存細胞集団とを比較することによって細胞死の比率を計算する工程と、
j)工程(a)で提供された癌幹細胞試料中に存在する初期のFL1細胞数と、工程(f)で単離して得られた生存FL1細胞集団とを比較することによって生存FL1細胞の比率を計算する工程と、
k)工程(a)で提供された癌幹細胞試料中に存在する初期のFL1細胞数と、工程(g)で単離して得られた生存FL1細胞集団とを比較することによって生存FL1細胞の比率を計算する工程と、
l)工程(f)及び(g)で検出された細胞集団のスフェア形成性を検出する工程と、
m)癌幹細胞の再発を阻害する前記薬剤の能力によって前記薬剤の活性を判定する工程と、を含む。
【0144】
以下の材料を使用した。即ち、
・国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられる方法にしたがって作製された6個の初代CIC細胞培養。
・癌細胞と呼ばれる2個の原発性接着性グリオーマ細胞、及び2個の正常脳細胞を、DMEM−F12−Glutamax、10%ウシ胎児血清(FBS、インビトロジェン社(Invitrogen))を含有し、1/1,000ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したFBS培地中で培養した。
【0145】
特定の薬剤がCICを殺滅する有効性を試験するための更なる条件的パラメータ(スクリーニングキットに含まれるオプション)としては、以下が含まれる。
・以下のようにして分裂細胞(Ki67細胞など)の比率を調べた。処理及び回復の少なくともいずれかの後、細胞を収穫、洗浄し、PFA4%を用いて固定した。細胞を0.1%TritonX−100を含むPBS1x−BSA1%を用いて透過化処理した後、PBS1x−BSA1%中で抗ヒトKi67抗体により染色した(回転下で30分間、氷上でインキュベート)。細胞をPBS1xで2回洗浄した後、二次抗体とインキュベートし、再びPBS1x−BSA1%中で希釈した(回転下で30分間、4℃)。最後にFL1及びFL1細胞集団内のKi67細胞の比率をFACSによって求めた。
・リアルタイムPCRにより以下のようにして幹細胞性遺伝子(OCT4、SOX2、NANOG又はNOTCH1など)を発現させた。処理及び回復の少なくともいずれかの後、細胞を収穫した。RNAqueous−Microキット(アンビオン社(Ambion))を用いて全RNAを抽出した。Superscript II(インビトロジェン社(Invitrogen))を用いて逆転写を行った。SYBER green master mix(アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems))を用いて定量的RT−PCRを行い、試料を7900HT配列決定システム装置(アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems))にかけた。プライマー配列については、Clement, 2007, Curr Biol, 17, 165−172を参照。
・以下のようにして少なくとも1種類の分化マーカー(TUJ1、MAP2又はGFAP)を発現させた。処理及び回復の少なくともいずれかの後、細胞を収穫、洗浄し、PFA4%を用いて固定した。細胞を0.1%TritonX−100を含むPBS1x−BSA1%を用いて透過化処理した後、PBS1x−BSA1%中で抗ヒトMAP2又は抗ヒトGFAP又は抗ヒトTUJ1抗体により染色した(回転下で30分間、氷上でインキュベート)。細胞をPBS1xで2回洗浄した後、二次抗体とインキュベートし、再びPBS1x−BSA1%中で希釈した(回転下で30分間、4℃)。最後にFL1及びFL1細胞集団内の陽性細胞の比率をFACSによって求めた。
【0146】
本発明に基づく方法の工程(a)で使用するための腫瘍細胞試料(例えばヒト由来のもの)は、採取しようとする特定の細胞に適合された標準的方法を用いて滅菌条件下で得られた対応する腫瘍組織の生検を得ることによって調製した。使用した腫瘍及び正常な脳の試料の例を下記表4及び表5に示す。
【0147】
【表4】

【0148】
【表5】

【0149】
実施例1 癌開始FL1細胞集団の酸化的細胞エネルギー生産プロセス及びミトコンドリア活性を支持するアッセイ
【0150】
細胞における嫌気的及び好気的経路を図1に示す。解糖系は、細胞質中でグルコースをピルビン酸に代謝するプロセスである。低酸素条件下ではピルビン酸は、LDHによって乳酸に変換される(1分子のグルコースから2分子のATP)。
【0151】
トリカルボン酸(TCA)は、酸化的リン酸化(OXPHOS)と併せて、解糖系からのピルビン酸を使用し、NADH及びFADH2を介してミトコンドリア内の呼吸鎖複合体に電子を伝達し、プロトン勾配ポンプによってADPからATPを生成するプロセスである(1分子のグルコースから36分子のATP)。
【0152】
癌開始細胞の代謝経路を以下のパラメータを求めることによって調べた。
【0153】
・活性ミトコンドリア(M75−13など)の数:細胞を収穫して、解離させ、洗浄した後、M75−13をDMEM−F12−Glutamax 1/1,000ペニシリン/ストレプトマイシン中で250nMの最終濃度に希釈し、37℃で30分間インキュベートした。染色した後、細胞をPBS1xで2回洗浄し、FacsCanのFl1及びFL3チャネルで分析した。最後にFL1細胞及びFL1細胞集団中のMito細胞(FL3細胞として同定)の比率を求めた。
【0154】
・MTS酸化還元反応を用いたNADHの濃度:解離させたグリオーマスフェアを国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられるFL1及びFL1細胞に基づいて精製した。NADHの濃度を、製造者の指示にしたがってAQuesous一液型細胞増殖アッセイ(プロメガ社(Promega))を用いて間接的に評価した。測定は、96穴プレートリーダー(バイオラド社(Biorad))により490nmで行った。
【0155】
・乳酸の濃度:国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられるプロトコールにしたがってCICを選別した。1.5×10個の精製したFL1細胞及びFL1細胞の少なくともいずれかを以下の凍結融解サイクル(−80℃で5分、37℃で2分)を2回繰り返すことによって100μLの滅菌水中で溶解した。次いで溶解物を4℃、1,500rpmで5分間遠心し、上清を新しい1.5mLマイクロチューブに移した。3μLを乳酸オキシダーゼ(700U/L)、ペルオキシダーゼ(508U/L)、DCBSA(2mmol/L)及び4−アミノアンチピリン(1.16mmol/L)と混合し、製造者の指示にしたがってSYNCHRONシステム(ベックマン・コールター社(Beckman Coulter))を用いて分析した。
【0156】
・グルコースの濃度:国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられるプロトコールにしたがってCICを選別した。1.5×10個の精製したFL1細胞及びFL1細胞の少なくともいずれかを以下の凍結融解サイクル(−80℃で5分、37℃で2分)を2回繰り返すことによって100μLの滅菌水中で溶解した。次いで溶解物を4℃、1500rpmで5分間遠心し、上清を新しい1.5mLマイクロチューブに移した。10μLをグルコースオキシダーゼ(150U/L)、変性エタノール(5%)、ヨウ化カリウム(0.04mmol/L)及びモリブデン酸アンモニウム(0.036mmol/L)と混合し、製造者の指示にしたがってSYNCHRONシステム(ベックマン・コールター社(Beckman Coulter))を用いて分析した。
【0157】
・ピルビン酸の濃度:国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられるプロトコールにしたがってCICを選別した。1.5×10個の精製したFL1細胞及びFL1細胞の少なくともいずれかを以下の凍結融解サイクル(−80℃で5分、37℃で2分)を2回繰り返すことによって100μLの滅菌水中で溶解した。次いで溶解物を4℃、1,500rpmで5分間遠心し、上清を新しい1.5mLマイクロチューブに移した。乳酸の濃度をHPLCによって求めた。
【0158】
・LDの濃度:国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられるプロトコールにしたがってCICを選別した。1.5×10個の精製したFL1細胞及びFL1細胞の少なくともいずれかを以下の凍結融解サイクル(−80℃で5分、37℃で2分)を2回繰り返すことによって100μLの滅菌水中で溶解した。次いで溶解物を4℃、1,500rpmで5分間遠心し、上清を新しい1.5mLマイクロチューブに移した。13μLを乳酸(50mmol/L)及びNAD(11mmol/L)と混合し、製造者の指示にしたがってSYNCHRONシステム(ベックマン・コールター社(Beckman Coulter))を用いて分析した。
【0159】
各アッセイについて、選別された細胞の3つの独立した組で3重の分析を行った。これらの実験は、FL1細胞がNADH濃度について濃縮されており、FL1細胞と比較してより多くの活性ミトコンドリアを含んでいることから、高い代謝活性を有しうることを示すものであった(図2)。更に、FL1細胞では、FL1細胞と比較してインビトロ及びインビボの乳酸濃度が低くなっている(図3A)。10日間にわたる外因性の乳酸の添加が細胞の接着性を誘導するうえで充分であり(図3B)、FL1の表現型の方向に細胞の運命を決定した(図3C)。CICは、FL1と比較してLD活性のレベルが高い(図3D)。
【0160】
細胞の酸化的経路を活性化することが知られている化合物(酸化的経路を活性化することが知られているDCA、及び細胞質のLDH3〜5を阻害することが知られているオキサミン酸、Michelakis et al., 2008, Br J Cancer, 99, 989−994 and Lemire et al., 2008, PLoS ONE, 3, e1550を参照。)のCICに対する影響を以下のようにして試験した。
【0161】
短期/用量反応(48時間)については、解離させたグリオーマスフェア細胞、接着性グリオーマ、及び正常細胞をDMEM−F12 Glutamax、BIT20%又はB27(1/50)、ペニシリン/ストレプトマイシン 1/1000中に、1ng/mLの低濃度の分裂促進因子、又は低濃度(2.5%)の血清とともに10細胞/μLで播種した。
【0162】
長期の処理/回復アッセイ(T10及びT20の少なくともいずれか)については、解離させたグリオーマスフェア細胞、接着性グリオーマ、及び正常細胞をDMEM−F12 Glutamax、Hepes 30mM、BIT20%又はB27(1/50)、ペニシリン/ストレプトマイシン 1/1,000中に、1ng/mLの低濃度の分裂促進因子、又は低濃度(2.5%)の血清とともに2細胞/μLで播種した。
【0163】
回復については、細胞を収穫し、PBS1xで洗浄し、それぞれの標準的培地に戻した(例えばグリオーマスフェアでは、DMEM−F12 Glutamax、BIT20%又はB27(1/50)、Hepes 30mM、ペニシリン/ストレプトマイシン 1%に、10ng/mLの分裂促進因子を加えたもの。原発性グリオーマ細胞及び正常脳細胞では、DMEM−F12 Glutamax、10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン 1%)。
【0164】
結果は、用量を増大させたDCA又はオキサミン酸への曝露後では、10日間後であってもFL1細胞の比に大きな変化が見られないことによって示されるように、活性な好気的経路の方向に細胞を向かわせる、即ち嫌気的経路を阻害する薬剤によってはFL1細胞が殺滅されないことを示している(図4)。これと対照的に、FL1細胞は、こうした処理後に更に健康となり、分化しなくなる傾向を示した。したがって、FL1細胞は、好気的な解糖系に依存したFL1又はFL1細胞とは異なり、好気的経路(TCA及び酸化的リン酸化−電子伝達系)を用いてエネルギーを選択的に生産するものと結論づけることができる。更に、好気的から好気的解糖への代謝スイッチと分化への運命決定とは密接に関係しており、両者とも不可逆的な運命である。
【0165】
実施例2 潜在的な抗癌幹細胞剤(阻害剤)の試験
【0166】
ミトコンドリアの活性、代謝産物の含量、及び嫌気的なエネルギー生産経路の阻害剤の効果(実施例1において述べた)についての結果に基づけば、FL1細胞は、好気的な解糖系に依存したFL1又はFL1細胞とは異なり、好気的経路を用いてエネルギーを選択的に生産する傾向を有している。したがって、ミトコンドリアの活性の効果的な阻害能を有するあらゆる薬剤は、CIC内のエネルギー生産を阻害するはずであり、これによりCICが殺滅されるものと考えられる。これについて、図5に示されるようなインビトロ再発アッセイにおいて以下に述べるように試験を行った。
【0167】
短期/用量反応(48時間)については、解離させたグリオーマスフェア細胞、接着性グリオーマ、及び正常細胞をDMEM−F12 Glutamax、BIT20%又はB27(1/50)、Hepes 30mL、ペニシリン/ストレプトマイシン 1/1,000中に、1ng/mLの低濃度の分裂促進因子、又は低濃度(2.5%)の血清とともに10細胞/μLで播種した。
【0168】
長期の処理/回復アッセイ(T10及びT20の少なくともいずれか)については、解離させたグリオーマスフェア細胞、接着性グリオーマ、及び正常細胞をDMEM−F12 Glutamax、Hepes 30mM、BIT20%又はB27(1/50)、ペニシリン/ストレプトマイシン 1/1,000中に、1ng/mLの低濃度の分裂促進因子、又は低濃度(2.5%)の血清とともに2細胞/μLで播種した。
【0169】
回復については、細胞を収穫し、PBS1xで洗浄し、それぞれの標準的培地に戻した(例えばグリオーマスフェアでは、DMEM−F12 Glutamax、BIT20%又はB27(1/50)、Hepes 30mM、ペニシリン/ストレプトマイシン 1/1,000に、10ng/mLの分裂促進因子を加えたもの。原発性グリオーマ細胞及び正常脳細胞では、DMEM−F12 Glutamax、10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン 1,000/1)。
【0170】
癌幹細胞(例えば癌幹細胞の再発)を減少及び/又は根絶するために用いられる化合物の効果は、例えば国際特許出願第PCT/IB2008/054872号に述べられる方法により、本発明に基づいた薬剤又は阻害剤による処理後に細胞試料中の幹細胞の存在を検出することによってアッセイすることができる。即ち以下の工程を含む方法である。
a)本発明に基づく化合物又は方法によって処理された癌幹細胞の試料を提供する工程と、
b)処理された幹細胞試料を幹細胞培地中で、処理を行わずに所定のインキュベーション期間にわたってインキュベートする工程と、
c)工程(b)でインキュベートされた幹細胞試料から生存細胞集団を選択する工程と、
d)488nm又は約488nmの波長のレーザー光線による励起時にFL1チャネルにおいて自家蛍光発光を与える細胞を蛍光活性細胞選別によって検出することによって、工程(c)で単離された生存細胞集団の自家蛍光の平均レベルを測定する工程と、
e)特定の形態(高いFSC及び低い/中度のSSC)を有し、工程(c)で単離された生存細胞集団の488nm又は約488nmの波長のレーザー光線による励起時にFL1チャネルにおいて自家蛍光発光を与える細胞を蛍光活性細胞選別によって単離する工程と、
f)特定の形態(低い/中度のFSC及び中度の/高いSSC)を有し、工程(c)でFL1チャネルにおいて自家蛍光発光を与えず、工程(c)で単離された生存細胞集団のレーザー光線による励起時にFL3及びFL4チャネルの少なくともいずれかにおいて細胞蛍光発光にわずかな正方向へのシフトを示す細胞を蛍光活性細胞選別によって単離する工程と、
g)工程(a)で提供された癌幹細胞試料の自家蛍光の平均レベルと、工程(d)で測定された自家蛍光の平均レベルとを比較することによって自家蛍光性の生存細胞の比率を計算する工程と、
h)工程(a)で提供された癌幹細胞試料中に存在する初期の細胞数と、工程(c)で単離して得られた生存細胞集団とを比較することによって細胞死の比率を計算する工程と、
i)工程(a)で提供された癌幹細胞試料中に存在する初期のFL1細胞数と、工程(e)で単離して得られた生存FL1細胞集団とを比較することによって生存FL1細胞の比率を計算する工程と、
j)工程(a)で提供された癌幹細胞試料中に存在する初期のFL1細胞数と、工程(f)で単離して得られた生存FL1細胞集団とを比較することによって生存FL1細胞の比率を計算する工程と、
k)工程(e)及び(f)で検出された細胞集団のスフェア形成性を検出する工程と、
l)癌幹細胞の再発を阻害する前記薬剤の能力によって前記薬剤の活性を判定する工程と、を含む。
【0171】
試験した化合物を表2及び3にまとめる。
【0172】
γ線照射(図6、B1)及びGBMに対して現在使用されている主要な細胞毒性薬であるテモゾロミド(図6、A1及びA2)の効果について試験した。FBSで培養したグリオーマ細胞と異なり、FL1細胞の約40%が25Gyの照射に耐性を示して生存し、したがって遺伝毒性ストレス後30日以内に回復し、これにより放射線は、CICの亜集団をほとんど標的とせず、腫瘍バルクからの活発に分裂している細胞を標的とすることが確認された。テモゾロミド処理に先立ってグリオーマスフェア細胞のMGMTプロモーターのメチル化状態についてHegi et al, N Engl J Med, 2005, 352 (10) 997−1003に述べられるようにして試験を行ったところ、グリオーマスフェア細胞は、テモゾロミドに対する感受性を有するはずであると予測された。しかしながら、25μMのテモゾロミドによる20日間の処理後であっても、FL1細胞の30%は、依然生存しており、したがって20日間以内に回復可能であった(0.2<R<1)。
【0173】
5μMのエルロチニブ(非小細胞性肺癌、膵臓癌、及び他の幾つかのタイプの癌の治療薬として知られるEGFRシグナル伝達経路の阻害剤)による長期の治療は、EGFRの状態とは無関係に2/6のGBMのみにおいて50%よりも多くのFL1細胞に細胞死を誘導し、EGFR遺伝子の増幅がゲフィニチブ又はエルロチニブなどのEGFRキナーゼ阻害剤に対する反応性とは相関していないことが確認された。更に、全てのグリオーマスフェア培養が10日間以内に治療から回復し、EGFRシグナル伝達経路を受容体のレベルで阻害することは有効ではない可能性が示唆された。同じではないが同様にして、1μMのテムシロリムスを用いたmTORの阻害、又はSHH−Gli若しくはNotchなどの発生経路を(それぞれ5μMのシクロパミン若しくは5μMのDAPTを用いて)標的とすることにより、生存FL1細胞の数の減少を引き起こす。この場合もやはり、これらの薬剤ではFL1細胞集団全体を根絶することはできず、FL1細胞集団は、20日間の治療の後であっても容易に回復した。
【0174】
ミトコンドリアの複合体I(ロテノン)、III(アンチマシンA)、又はIV(オリゴマイシンA/B)のいずれかの阻害によって、FL1+細胞集団は、殺滅される(図6A〜C)。オリゴマイシンA/Bを用いて複合体IVを阻害すると、複合体I(図6A1及びA2)及びIII(図6B1及びB2)を阻害した場合と異なり、正常細胞及びグリオーマ細胞を含むあらゆる種類の脳細胞が根絶される(図6C1及びC2)。より詳細には、複合体IIIの阻害(例えばアンチマイシンAを用いた)は、正常な脳細胞の生存率に大きく影響しないため、CICに対してより適切でありうる。
【0175】
CICの代謝は、腫瘍バルクの細胞及び正常な脳細胞とは異なることから、腫瘍減量を目的とした特定の薬剤(FL1及びFL1細胞を根絶する)と、CICに対する特定の薬剤(FL1細胞を根絶する)とを組み合わせることは、ヒトグリオーマの増殖及び再発を根絶するうえで有利な戦略となるものと思われる。
【0176】
治療及び回復期間の条件培地、並びにCICを殺滅する薬剤の有効性を評価するうえで必要とされる基準については、図5Aを参照されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した被験者においてグリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法に使用するための、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤であって、以下の基準、即ち、
1)GICの生存率が、前記阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)GICの回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、を満たすことにより、
前記阻害剤が、GICによるエネルギーの生産を阻害することを特徴とする阻害剤。
【請求項2】
腫瘍グリオーマのバルクの除去が、腫瘍グリオーマのバルクの部分切除である請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
阻害剤が、最大でIC用量の10倍に相当する用量で投与される請求項2に記載の阻害剤。
【請求項4】
IC用量が、0.157mg/kg〜0.315mg/kgの範囲である請求項1及び3のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項5】
阻害剤が、ジフェニレンヨードニウムクロリド(DPI)及びその誘導体である請求項1から4のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項6】
阻害剤が、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤である請求項1から5のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項7】
ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤が、ロテノン、アンチマイシンA、イミプラミン、クロミプラミン、ミクソチアゾール、スティグマテリン、ストロビルリンb、リコシャルコンA、アスコクロリン、ピエリシジン、これらの組み合わせ、これらの誘導体、及び薬学的に許容されるこれらの塩からなる群から選択される請求項6に記載の阻害剤。
【請求項8】
組み合わせが、ロテノンをアンチマイチンAと組み合わせるか、又はロテノンをクロミプラミンと組み合わせてなる請求項7に記載の阻害剤。
【請求項9】
ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤が、ミクソチアゾール、スティグマテリン、ピエリシジン、これらの誘導体、及び薬学的に許容されるこれらの塩からなる群から選択される請求項6に記載の阻害剤。
【請求項10】
グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍が、グリオーマ、神経鞘腫、脳への転移、髄膜腫、上衣腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、乏突起星細胞腫、再発癌、及び転移性癌からなる群から選択される請求項1から9に記載の阻害剤。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の少なくとも1種類の阻害剤、及び1以上の薬学的に許容される希釈剤又は担体を含むことを特徴とする、腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した被験者においてグリオーマ開始細胞(GIC)を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための医薬組成物。
【請求項12】
ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)の1種類の阻害剤と、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(III)の1種類の阻害剤との組み合わせ、及び1以上の薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
腫瘍グリオーマのバルクを以前除去した患者においてグリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の予防及び治療の少なくともいずれかを行うための方法であって、グリオーマ開始細胞の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量を投与することを含み、前記阻害剤が以下の基準、即ち、
1)GICの生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)GICの回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、を満たすことにより、
前記阻害剤が、GICによるエネルギーの生産を阻害することを特徴とする方法。
【請求項14】
腫瘍グリオーマのバルクの除去が、腫瘍グリオーマのバルクの部分切除である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
治療上の有効量が、最大でIC用量の10倍である、請求項13及び14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
IC用量が、0.157mg/kg〜0.315mg/kgの範囲である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤の治療上の有効量の投与の前又は後に、標準的な放射線治療及び化学療法の少なくともいずれかによる治療工程を更に含む、請求項13から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤が、ジフェニレンヨードニウムクロリド(DPI)及びその誘導体である請求項13から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤が、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤である請求項13から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤が、ロテノン、アンチマイシンA、イミプラミン、クロミプラミン、ミクソチアゾール、スティグマテリン、ストロビルリンb、リコシャルコンA、アスコクロリン、ピエリシジン、これらの組み合わせ、これらの誘導体、及び薬学的に許容されるこれらの塩からなる群から選択される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
組み合わせが、ロテノンをアンチマイチンAと組み合わせるか、又はロテノンをクロミプラミンと組み合わせてなる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)及び複合体(III)の少なくともいずれかの活性の阻害剤が、ミクソチアゾール、スティグマテリン、ピエリシジン、これらの誘導体、及び薬学的に許容されるこれらの塩からなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項23】
グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍が、グリオーマ、神経鞘腫、脳への転移、髄膜腫、上衣腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、乏突起星細胞腫、再発癌、及び転移性癌からなる群から選択される請求項13から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法であって、腫瘍細胞試料から単離されたFL1細胞及び正常な脳細胞を、スクリーニングしようとする阻害剤と接触させる工程を含み、前記阻害剤が、以下の基準、即ち、
1)FL1細胞の生存率が、前記阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)FL1細胞の回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たすことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項25】
原発性グリオーマ細胞を、スクリーニングしようとする阻害剤と接触させる工程を更に含む、グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法。
【請求項26】
グリオーマ開始細胞(GIC)の電子伝達系及びミトコンドリアのTCA回路の少なくともいずれかの活性の阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、前記阻害剤が、以下の基準、即ち、
1)FL1細胞の生存率が、前記阻害剤に最大で20日間曝露される間に50%よりも大きく低下する、
2)FL1細胞の回復率が、最大で20日間の回復段階において0.2倍未満である、及び
3)正常な脳細胞の生存率が、前記阻害剤に曝露される間及び曝露後に、維持可能且つ回復可能である、
を満たし、且つ、グリオーマ開始細胞を呈する腫瘍の治療に有用であり、前記キットは、初代CIC培養、原発性接着性グリオーマ細胞、正常細胞、並びに、ロテノン及びアンチマイシンAからなる群から選択されるミトコンドリアの電子伝達系の複合体(I)又は複合体(III)の活性の少なくとも1種類の標準的な阻害剤を含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A1】
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【図6A2】
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【図6B1】
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【図6C1】
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【図6C2】
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【図6D1】
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【図6D2】
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【図6E1】
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【図6E2】
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【図6F1】
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【図6F2】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−527231(P2012−527231A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511398(P2012−511398)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052237
【国際公開番号】WO2010/134039
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511281017)ユニヴァーシテ ド ジュネーヴ (1)
【出願人】(511281028)ホピトー ユニヴァーシテアーズ ド ジュネーヴ (1)
【Fターム(参考)】