説明

発光素子アレイの製造方法及び輝度調整方法、露光ヘッド、並びに電子写真装置

【課題】簡単な構成で光量ばらつきを小さくすることができる発光素子アレイ及び露光ヘッド、これらの製造方法及び光量調整方法、並びに、当該露光ヘッドを搭載した電子写真装置を提供する。
【解決手段】まず、発光素子アレイあるいは露光ヘッドに属する各発光素子が発する輝度が測定され記憶手段8に格納される。エージング手段9は、記憶手段8に格納された各発光素子の輝度に基づいて、例えば、所定の輝度を超える発光素子を選択する。そして、エージング手段9は、選択された発光素子にのみその輝度に相応した時間だけ通電負荷を与える。これにより、発光素子アレイあるいは露光ヘッドに属する発光素子が発する輝度を選択的に低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電により個別に発光可能な複数の発光素子を備えた発光素子アレイ及び露光ヘッド、前記発光素子アレイ及び前記露光ヘッドの製造方法、前記発光素子の輝度調整方法、並びに、前記露光ヘッドを備えた電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の発光素子が搭載された露光ヘッドから出射される光によって、例えば感光ドラム上に潜像を形成し、この潜像に基づいて用紙上に画像を形成する電子写真装置では、用紙上に形成された画像に濃度ムラ等が発生することがないように、露光ヘッドから出射される光量は均一であることが要求される。
【0003】
しかしながら、上記発光素子として一般的に使用されるLED(Light Emitting Device)では、発光領域がPN接合で構成されているため、例えば、広範囲にわたって直線状に複数の素子を備える露光ヘッドを形成した場合は、PN接合の製造ばらつきのため、各素子の輝度ばらつきが大きくなる。このため、予め取得した各素子の初期輝度値に基づいて各発光素子に供給される駆動電流を制御したり、発光時間を制御したりすることで、光量ばらつきの補正が行われている。
【0004】
一方、後掲の特許文献1等に開示されているように、発光素子として有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という。)を採用した露光ヘッドも知られている。有機EL素子は、広範囲の面積においても比較的高い加工精度が得られる蒸着プロセスを使用して製造するため、広範囲にわたって直線状に複数の素子を備える露光ヘッドを形成した場合に、光量ばらつきを比較的に小さくできることが知られている。
【0005】
なお、本明細書において、光量は、輝度、光度、光束等の光の明るさを特定可能な物理量を指す。
【特許文献1】特開平2003−334990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、有機EL素子を採用した露光ヘッドの光量ばらつきが小さくなる理由は、素子形成時の製造ばらつきが小さい点にある。しかしながら、発光素子として有機EL素子を採用した場合であっても、例えば、2400dpi(dot per inch)のように高解像度用の露光ヘッドでは、5μm程度のサイズの各素子を10μm程度のピッチで形成する微細な加工が要求される。各発光素子のサイズを小さくすると、各発光素子間のサイズのばらつきが相対的に大きくなり、このことは、各発光素子間の光量のばらつきに反映されることになる。したがって、上述のLEDを使用した露光ヘッドと同様に、各発光素子の光量ばらつきの補正を行う必要が生じる。
【0007】
また、露光ヘッドには、上述の発光素子だけではなく、感光ドラムの表面に各発光素子が発生した光を結像するためのレンズ等の光学部品が搭載されることもある。この構成では、露光ヘッドの出射光の光量ばらつきは、発光素子の光量ばらつきだけでなく、光学部品の光学特性にも依存するため、光学部品を介在させて得られた初期光量値に基づいて発光素子の駆動電流の制御や点灯時間の制御などの光量補正が行われることになる。
【0008】
このような光量ばらつきの補正を行うために、露光ヘッドには発光素子ごとに光量補正用の回路が搭載されるが、このような従来の補正用回路は、光量補正可能範囲を広くするために複雑な回路構成を有しており、高解像度用露光ヘッドのように多くの発光素子が搭載された場合には、その補正用回路を実装するためのスペースの増大や、露光ヘッドの組立工程の工数増大等の問題が発生する。
【0009】
一方、そのような補正用回路を搭載することに代えて、有機EL素子(発光素子)及び光学部品の加工精度を高め、均質な発光素子と均質な光学部品を使用することで、露光ヘッドの出射光量のばらつきを低減することも可能である。しかしながら、上述のような微細加工において、加工精度を高めることは製造コストの上昇に直結するため好ましくない。
【0010】
さらに、上述の特許文献1には、露光ヘッドが備える発光素子の点灯回数(点灯時間)を略同一とすることで、各発光素子の光量劣化の状態を同様にし、露光ヘッドの各発光素子の光量ばらつきを小さくする技術が記載されている。しかしながら、上述のように、広範囲にわたって直線状に複数の発光素子を形成した場合、例えば、その両端に位置する各発光素子の光量劣化の点灯時間に対する依存性が同一でない可能性もある。このように、同一の露光ヘッドに使用された発光素子の光量劣化の時間依存性が、各発光素子で異なっていた場合は、点灯回数(点灯時間)を略同一にした場合であっても、光量ばらつきは解消されないことになる。
【0011】
本発明は、上記従来の事情に基づいて提案されたものであって、簡単な構成で光量ばらつきを小さくすることができる発光素子アレイ及び露光ヘッド、これらの製造方法及び光量調整方法、並びに、当該露光ヘッドを搭載した電子写真装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために以下の手段を採用している。まず、本発明に係る発光素子アレイの製造方法は、通電によって個別に光を発する複数の発光素子が一体に形成された発光素子アレイの製造方法において、各発光素子が発する輝度を測定し、当該測定された輝度に基づいて選択された発光素子にのみその輝度に相応した時間だけ通電負荷を与える。これにより、発光素子アレイに属する発光素子が発する輝度を選択的に低下させる。
【0013】
また、他の観点では、本発明は、通電によって個別に光を発する複数の発光素子が一体に形成された発光素子アレイの輝度調整方法を提供することができる。すなわち、本発明に係る発光素子アレイの輝度調整方法は、まず、各発光素子が発する輝度を測定する。次いで、当該測定された輝度に基づいて選択された発光素子にのみその輝度に相応した時間だけ通電負荷を与え、その発光素子が発する輝度を低下させる。そして、これにより、各発光素子が発する輝度を所定範囲内に調整する。
【0014】
上記製造方法により製造された発光素子アレイ、及び、上記調整方法により調整がなされた発光素子アレイは、以下に示す特徴を備えている。すなわち、当該発光素子アレイは、同一の電流を印加した際に各発光素子が発する輝度の全てが、これらの輝度の中の最大値の90%以上の範囲内にある。さらに、当該発光素子アレイには、同一の電流を印加した際に各発光素子における降下電圧(素子での電圧降下に係る電圧)の中の最小値に対して、10%以上大きな降下電圧を有する発光素子が存在している。
【0015】
言い換えると、上記製造方法により製造された発光素子アレイ、及び、上記調整方法により調整がなされた発光素子アレイでは、同一の電流を印加した際の各発光素子における降下電圧の標準偏差値を、各発光素子における降下電圧の平均値で除した値が、同一の電流を印加した際に各発光素子が発する輝度の標準偏差値を、各発光素子が発する輝度の平均値で除した値よりも大きくなるという特徴を備えている。
【0016】
以上の発光素子アレイを使用することにより、光量ばらつきの少ない露光ヘッドを得ることが可能となる。さらに、当該露光ヘッドを使用することで、電子写真装置の低コスト化が可能となる。
【0017】
さらに、他の観点では、本発明は、複数の発光素子が発生した光を個別に出射する露光ヘッドを提供することができる。そして、本発明に係る露光ヘッドは、各出射光の光量値を格納する記憶手段と、前記記憶手段に格納された光量値に基づいて選択された発光素子に、各光量値に対応した通電負荷を与えるエージング手段とを備える。ここで、光量値は、主として、露光ヘッドの組立完了後に測定される各出射光の初期光量値であるが、露光ヘッドとして任意の時間機能させた後の光量値であってもよい。なお、記憶させる光量値としては、例えば、特定光量を基準とした時の各素子の調整係数でもよい。
【0018】
上記エージング手段は、例えば各発光素子に電力を印加する駆動回路を制御する等により各発光素子に、例えば光量値に応じた通電負荷を与える。このとき、発光素子は与えられた通電負荷に応じてその光量が減少する。
【0019】
したがって、上記構成によれば、露光ヘッドの各発光素子に対して、光量値に応じたエージングを行うことができ、露光ヘッドの各出射光の光量ばらつきを低減することができる。
【0020】
また、上記エージング手段は、全ての発光素子に対して通電負荷を与えるのではなく、特定の光量値に基づいて設定された基準光量値よりも大きな光量値を有する出射光に対応する発光素子を選択し、当該発光素子にだけ通電負荷を与えることが好ましい。ここで、特定の光量値は、上記露光ヘッドにおける最小の光量値、予め設定された光量値、または、予め設定された光量値以上で、上記露光ヘッドにおいて、当該光量値に最も近い光量値等が使用できる。例えば、上記基準光量値を、当該露光ヘッドにおいて最小の光量値の1.22倍とし、当該基準光量値以上の光量を有する出射光に対応する発光素子にだけ通電負荷を与え、エージングにより出射光の光量を基準光量値以下かつ最小光量値以上の光量値にする構成とすれば、エージング後の露光ヘッドは、最小光量値と基準光量値との中央値の±10%のレンジ内に全出射光の光量が属する露光ヘッドが得られることになる。
【0021】
さらに、上記エージング手段は、エージングに要する時間を短縮するために、加速エージングを行ってもよい。
【0022】
なお、上記構成に加えて、上記特定の光量値に基づいて全発光素子の光量を必要に応じて一律に調節する本発明に係る光量補正手段を備える構成とすれば、エージングにより素子間での光量のばらつきが低減された露光ヘッドにおいてさらにその全体に渡る光量調節を一斉に行うことができる。なお、光量補正手段は、例えば、上記特定の光量値に基づいて各発光素子に印加される電圧または電流の一方、あるいは両方を全素子に渡って一定量変動させる、あるいは、点灯時間を全素子に渡って一定量変動させることで、発光素子それぞれに対して同一量の光量調節がされるものとすればよい。
【0023】
また、他の観点では、上記エージング手段を露光ヘッドの外部に設ける構成とし、露光ヘッドの組立時に、エージング手段が上述のエージングを行うという露光ヘッドの製造方法を提供することも可能である。
【0024】
一方、以上の構成は、複数の発光素子が発生した光を個別に出射する露光ヘッドによって形成された潜像に基づいて画像形成を行う電子写真装置にも適用可能である。この場合、電子写真装置が、光量補正手段を備え、当該光量補正手段が上記露光ヘッドの各発光素子の光量について一律の光量調節を必要に応じて行う。この構成によれば、上記光量補正手段を備えた露光ヘッドと同様に、光量のばらつきが低減された露光ヘッドにおいてさらにその全発光素子に渡る光量調節を容易に行うことができる。
【0025】
また、光量補正手段が、上記特定の光量値だけでなく、例えば、用紙上に形成されたテストパターンの印字濃度等の画像形成結果に基づいて全出射光の光量値を調節する構成を採用すれば、潜像が形成される感光体の露光感度等の製造ばらつきも考慮した光量調節を行うことも可能となる。
【0026】
さらに、上記電子写真装置が、露光ヘッドの各出射光の光量値を検出する光量検出手段と、当該光量検出手段が検出した各出射光の光量値に基づいて選択された発光素子に、発光素子の光量値を低下させる通電負荷を各出射光の光量値に対応して与えるエージング手段を備えてもよい。このようにすれば、例えば、上記光量ばらつきを低減した露光ヘッドを、露光ヘッドとして任意の時間機能させたことにより各出射光の光量にばらつきが生じた場合であっても、適宜、露光ヘッドの各発光素子に対して上述のエージングを行い、光量ばらつきを低減させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、発光素子アレイに属する各発光素子の輝度に応じて選択された発光素子にのみ通電負荷を与えて輝度を低下させるため、光量ばらつきが小さい発光素子アレイを得ることができる。
【0028】
また、本発明の発光素子アレイは、従来の発光素子アレイと同等の寿命を有し、かつ、光量ばらつきが小さいため、結果として、製造歩留まりを向上させることができる。したがって、従来に比べて低コストでの製造が可能である。
【0029】
また、本発明の露光ヘッドによれば、各出射光の光量値に応じて選択された発光素子に対して個々にエージングを行うことができるため、光量ばらつきが小さい露光ヘッドを容易に得ることができる。
【0030】
さらに、エージングがなされた露光ヘッドの全出射光は、いずれもが特定の光量値に基づいて予め設定された許容範囲内の光量となっているため、特定の光量値に基づいて全発光素子に対して同一の発光量の調節を行うことで、各光量を容易に所望の光量の許容範囲内に調節することが可能である。このため、従来の露光ヘッドに設けられていた各発光素子の光量を個々に補正するための従来の補正用回路を設ける必要がなく、各発光素子の駆動回路を簡単な構成とすることができる。言い換えれば、従来の露光ヘッドに比べ、露光ヘッドのサイズを容易に小さくすることができる。
【0031】
またさらに、本発明に係る電子写真装置によれば、本発明に係る露光ヘッドを搭載することにより、製造ばらつきに起因して感光体の最適露光光量(感度)に個体差がある場合に、当該最適露光光量に応じた光量調整を容易に行うことができる。
【0032】
加えて、本発明の電子写真装置は、上記エージングを、露光ヘッドの組立時に限らず、露光ヘッドが通常に使用している環境下であっても実行することが可能であるため、必要に応じて、露光ヘッドの光量を均一化する処理を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって詳細に説明する。
【0034】
まず、本発明に係る露光ヘッドの基本的な構造の概略を、図1に示す断面図及び図2に示す要部の平面図に基づいて説明する。なお、図1および図2は、高解像度化に特に好適な露光ヘッドの構造を例示したものであり、本発明に係る露光ヘッドの構造が本構造のみに限定されるものではない。
【0035】
図1に示すように、本発明に係る露光ヘッド1は、ガラスや金属等からなる基材S上に、潜像が形成される感光体20の幅方向に直線状に複数配置された有機EL素子からなる発光素子アレイ2(適宜、発光素子2と記載する。)と、当該発光素子2が発生した光を感光体20の方向に導光する導光板3と、導光板3から出射された光を感光体20上に結像するレンズアレイ4とを備えている。
【0036】
導光板3は、光の出射方向に沿って伸びる導光路35が、感光体20の幅方向に平行に複数配置された構造を有し、各導光路35の上面に発光素子2が形成されている。なお、各導光路35の間には、導光板3の上面を面一とするために、導光路35の屈折率に比べて高い屈折率を有する材質が充填されており、本構造により、発光素子2から入射された光が導光路35内を全反射によって伝送されるようになっている。
【0037】
また、各導光路35の出射口36は、露光ヘッド1の解像度に対応する断面積を有する正方形に形成されており、導光路35の上面に出射口36より大面積で形成された発光素子2から発生した光を集めることで、例えば、2400dpi(dot per inch)のような高解像度用の露光ヘッドを構成した場合であっても、感光体20を露光するに十分な光量の出射光がレンズアレイ4に対して出射できるようになっている。
【0038】
発光素子2は、図3の要部断面図に示すように、各導光路35上に互いに電気的に分離して形成されたITO(Indium Tin Oxide)等からなる下層透明電極21と、全下層透明電極21の上面(後述の駆動回路5との結線部分を除く)に単一の層として形成された8−キノリノールアルミニウム錯体等からなる有機発光層22と、この有機発光層22の上面に単一の層として形成されたアルミニウム等からなる上層電極23とで構成されている。なお、この構成において、下層透明電極21と上層電極23とが重なる領域が発光領域である。また、図3では、両電極間の有機発光層22を単層構造としているが、有機発光層22と下層透明電極21との間の正孔輸送層や有機発光層22と上層電極23との間の電子輸送層を備えた多層構造であってもよい。
【0039】
また、上記基材S上には、各発光素子2の発光に要する電力を供給するポリシリコンTFT(Thin Film Transistor)等により構成された駆動回路5が発光素子2ごとに設けられている。当該駆動回路5は、当該駆動回路5に外部から入力される各発光素子2の印加電力ならびに点灯時間を制御する制御信号に基づいて、外部電源7(図5に示す)から供給される電力を各発光素子2に印加する。なお、上記制御信号は、例えば、露光ヘッド1が搭載される電子写真装置では、感光体20上に潜像として形成する画像データに基づいて生成される。上記制御信号、並びに、印加電力は図1に示す外部接続端子群6から入力される(図5では省略している。)。
【0040】
なお、上記説明した露光ヘッド1の各部の材質は、特に限定されるものではなく、その機能が実現可能であれば、任意の材質を採用することができる。
【0041】
ところで、発光素子アレイ2を構成する有機EL素子は、その発光の輝度が、通電時間(発光時間)に伴って低下する性質がある。図4は、有機EL素子の発光の輝度の、通電時間に対する変化を示す図である。図4において、横軸は通電時間に対応し、縦軸は輝度に対応している。
【0042】
図4から理解できるように、有機EL素子は、初期のわずかの通電時間において輝度が著しく低下する。そして、その後、輝度は、通電初期の低下に比べて緩やかに低下する。このため、発光素子アレイ2を構成する有機EL素子に対して選択的に短時間の通電を行うことで、その輝度を低下させることができる。すなわち、製造直後に、各有機EL素子間に輝度のばらつきがあっても、輝度の高い有機EL素子を選択し、短時間通電により発光させる(以下、エージングという。)ことで、その高い輝度を低下させることができる。これにより、発光素子アレイ2全体に渡って各有機EL素子の輝度を揃えて、そのばらつきが抑制することができる。
【0043】
例えば、初期において輝度を10%低下させるためには、その通電時間は約1分でよい。仮に、輝度が初期の50%に低下した時点を素子の寿命とすると、図4から理解できるように、その素子の寿命は約10時間となる。したがって、1分間のエージングは、素子寿命全体の1/600であり、素子の寿命を著しく低下させるものではなく、実用上、十分に許容できるものである。
【0044】
本発明は、上記有機EL素子の性質を利用して、光量ばらつきを低減するものである。以下、露光ヘッドにおけるエージングについて説明する。
【0045】
図5は、本発明に係る露光ヘッド1の概略機能ブロック図である。図5に示すように、本発明に係る露光ヘッド1は、上述の構成に加えて、各出射光の光量値を格納する記憶手段8と、当該記憶手段8に格納された光量値に基づいて、各発光素子2に通電負荷(エージング負荷)を個々に付与するエージング手段9とを備える。エージング手段9は、例えば、CPUとメモリ等で構成され、メモリ内に格納されたCPUで実行可能なソフトウエアにより構成することが可能である。なお、以下で詳述するように、エージング手段9は、発光制御手段91、光量値管理手段92、基準光量値設定手段93、エージング素子決定手段94、及び通電負荷決定手段95を備えている。
【0046】
以下、エージング手段9の詳細につき、図5〜図10に基づいて説明する。なお、図6はエージングの過程で行われる処理を示すフロー図であり、図7〜図10は、図6に示す各処理S1〜処理S4において、それぞれ実行される処理の詳細を示すフロー図である。また、以下の説明において、露光ヘッド1の駆動回路5は、外部の電源7と外部接続端子群6(図1参照)を介して接続されているものとする。
【0047】
まず、図6に示す初期光量値の測定処理S1では、露光ヘッド1の各出射光の結像位置に、光量値を電圧値として出力する光電素子等からなる光量検出器10が配置され、各出射光の初期光量値が測定される。
【0048】
すなわち、図5及び図7に示すように、初期光量値の測定処理(図6 S1)が開始されると、発光制御手段91は、例えば、露光ヘッド1の一端に位置する発光素子2の駆動回路5に対して、当該発光素子2を通常使用状態の電力(上記感光体20の露光する際に印加される電力)で所定時間点灯する制御信号を出力する(図7 S11)。当該制御信号に基づいて点灯した発光素子2に対応する初期光量値は、上記光量検出器10から電圧値として出力され(図7 S12→S13)、当該光量値が光量値管理手段92に入力される。
【0049】
光量値管理手段92は、当該初期光量値を、それを発光した発光素子2と対応づけて記憶手段8に格納する(図7 S14)。この初期光量値測定は、露光ヘッド1を構成する全ての発光素子2に対して実行される(図7 S15)。なお、記憶手段8に格納されるデータの形式は、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、各発光素子2の露光ヘッド1上の位置に基づいて順に付与された素子番号と、各発光素子2に対応する初期光量値とで構成される1対のデータを格納している。また、記憶手段8に格納される光量値は、光量検出器10からの出力値のみに限定されるものではなく、例えば、特定の光量値を基準としたときの調整係数(比率や差等)であってもよい。
【0050】
図6に示すように、初期光量値測定処理S1が完了すると、基準光量値設定処理S2が実行される。当該処理において、基準光量値設定手段93は、特定の初期光量値に基づいて次処理のエージング素子抽出処理S3で用いる基準光量値を設定する。本実施の形態では、上記特定の初期光量値として最小の初期光量値(以下、最小光量値という。)を抽出した後、基準光量値を最小光量値の1.22倍の値に設定する例を説明する(1.22倍については後述する。)。
【0051】
図5及び図8に示すように、当該処理において、基準光量値設定手段93は、光量値管理手段92を介して、上記素子番号に対応する初期光量値を記憶手段8から1つ読み出し、当該初期光量値を暫定的に最小光量値Aとして記憶する(図8 S21→S22→S23Yes→S25)。
【0052】
続いて、基準光量値設定手段93は、次の素子番号に対応する初期光量値を記憶手段8から読み出し(図8 S21→S22)、当該初期光量値が上記最小光量値Aより小さいか否かを判定する(図8 S23No→S24)。
【0053】
当該初期光量値が最小光量値Aより小さい場合は、基準光量値設定手段93は、上記最小光量値Aを当該初期光量値に置換した後、次の素子番号に対応する初期光量値を読み出して、上記判定処理S24を行う(図8 S24Yes→S25→S26Yes→S24)。一方、当該初期光量値が上記暫定的な最小光量値A以上である場合は、基準光量値設定手段93は最小光量値Aを当該初期光量値と置換することなく、次の素子番号に対応する初期光量値を読み出して、上記判定処理S24を行う(図8 S24No→S26Yes→S24)。したがって、基準光量値設定手段93は、記憶手段8に格納された全初期光量値に対して上記判定処理S24が完了したときに(図8 S26No)、全初期光量値中の最小の初期光量値を最小光量値Aとして記憶していることになる。
【0054】
上述のようにして、全初期光量値中の最小光量値Aが抽出された後、基準光量値設定手段93は、最小光量値Aの1.22倍の光量値を基準光量値Bとして設定する(図8 S27)。なお、本実施の形態では、基準光量値設定手段93が最小光量値A、及び基準光量値Bを記憶する構成としているが、記憶手段8が最小光量値A、及び基準光量値Bを記憶する構成としてもよい。
【0055】
以上のようにして、基準光量値Bが設定されると、図6に示すように、エージング素子の抽出処理S3が実行される。この処理では、エージング素子抽出手段94が、基準光量値Bより大きな初期光量値に対応する発光素子2の特定を行う。
【0056】
すなわち、図5及び図9に示すように、エージング素子抽出手段94は、基準光量値設定手段93から基準光量値Bを読み出すとともに、光量値管理手段92を介して上記素子番号に対応する初期光量値を記憶手段8から読み出す(図9 S31→S32)。そして、当該初期光量値が基準光量値Bより大きいか否かを判定する(図9 S33)。ここで、読み出した初期光量値が基準光量値Bよりも大きい場合、エージング素子抽出手段94は、当該初期光量値に対応する発光素子2の素子番号を自身に記憶した後、次の素子番号に対応する初期光量値の読み出しを行う(図9 S33Yes→S34→S35Yes)。また、読み出した初期光量値が基準光量値B以下である場合、エージング素子抽出手段94は何もすることなく次の素子番号に対応する初期光量値の読み出しを行う(図9 S33No→S35Yes)。したがって、記憶手段8に格納された全ての初期光量値に対して上記判定処理S33が完了したときに(図9 S35No)、エージング素子抽出手段94は、基準光量値Bより大きな初期光量値に対応する発光素子2のリストを保持していることになる。
【0057】
このようにして、エージング素子抽出処理S3が完了すると、図6に示す、エージング処理S4が実行される。すなわち、図5及び図10に示すように、通電負荷決定手段95が、基準光量値設定手段93から基準光量値B(あるいは、最小光量値A)を読み出すとともに、エージング素子抽出手段94からエージング対象素子の素子番号を1つ読み出す(図10 S41)。
【0058】
次に、通電負荷決定手段95は、発光制御手段91に読み出した素子番号に対応する発光素子2を点灯する制御信号を出力させ、エージング対象素子の最新光量値の測定を行う。このとき、発光素子2の点灯時間は、上述の初期光量値測定処理S1での、点灯時間と同一でよい。なお、本実施の形態では、エージング対象素子の最新光量値を確認するために当該光量値測定を行っているが、当該光量値の測定に代えて、通電負荷決定手段95が、上記素子番号に対応する初期光量値を記憶手段8から読み出してもよい。
【0059】
さて、上記制御信号に基づいて点灯した発光素子2に対応する光量値は、光量測定器10から電圧値として出力され、当該光量値は光量値管理手段92によって、発光素子2の素子番号とともに記憶手段8に記憶される(図10 S42)。このとき、光量値管理手段92は、記憶手段8に既に格納されている初期光量値を削除しても良いが、例えばタイムスタンプ等により最新光量値が識別可能であれば、記憶手段8に同一の素子番号を有する複数のデータが格納されてもよい。
【0060】
次に、通電負荷決定手段95は、エージング対象素子に対応する最新光量値と、基準光量値設定手段93によって設定された基準光量値B(あるいは、最小光量値A)とに基づいてフラグKの値を決定し、当該フラグKの値に応じてエージングの通電負荷の大きさを決定する。
【0061】
すなわち、図10に示すように、最新光量値が最小光量値Aの1.7倍より大きい場合、通電負荷決定手段95はフラグKの値を1にする(図10 S43Yes→S47)。一方、最新光量値が最小光量値Aの1.7倍以下である場合、通電負荷決定手段95は、最新光量値が最小光量値Aの1.5倍より大きいときに、フラグKの値を2にする(図10 S43No→S44Yes→S48)。そして、最新光量値が最小光量値Aの1.5倍以下であり、かつ、最小光量値Aの1.22倍より大きいときには、フラグKの値を3にする(図10 S44No→S45Yes→S49)。
【0062】
通電負荷決定手段95は、以上のようにして決定したフラグKの値に応じた通電負荷をエージング対象素子に付与する(図10 S50)。
【0063】
ここで、エージングの効果について説明する。図11は、発光素子2に対して異なる通電負荷を付与した場合の光量値の時間変化を示す図であり、曲線Xは通常エージング(実使用に近い電力を印加した状態)を行った場合の光量値の時間的変化、曲線Yは電力投入時の光量値が初期光量値の2倍となる条件のエージングを行った場合の光量値の時間的変化を示している。なお、図11において、縦軸は光量値、横軸は時間軸を示している。
【0064】
曲線X、Yの比較から、光量値が例えば初期値から20%低下するまでの時間t1、t2は、曲線Yのt2が曲線Xのt1に比べ1/5程度に短縮されていることが理解できる。すなわち、発光素子に対して通常エージングに比べて光量値を増大させた負荷条件(印加電力を増大させた負荷条件)で通電を行うことにより、光量値を所定割合低下させるのに要する時間を短縮できるエージング、すなわち、加速エージングを行うことが可能となる。
【0065】
そこで、本実施の形態では、上記通電負荷決定手段95が、フラグKの値に基づいて、上記通電負荷決定手段95に予め設定されている、光量値2倍に対応する電力、光量値1.5倍に対応する電力、及び、光量値1.2倍に対応する電力のいずれか通電負荷を選択する。そして、通電負荷決定手段95は、発光制御手段91に、選択した通電負荷に応じた制御信号を出力させる。
【0066】
すなわち、K=1である場合、通電負荷決定手段95は、光量値2倍に対応する電力をエージング対象素子に印加させる。また、K=2である場合、通電負荷決定手段95は、エージング対象素子に光量値1.5倍に対応する電力を印加させる。さらに、K=3である場合、通電負荷決定手段95は、エージング対象素子に光量値1.2倍に対応する電力を印加させる。
【0067】
このとき、通電負荷の印加時間は、上記通電負荷ごとに予め設定されている一定時間であっても、エージング対象素子の最新光量値と基準光量値Bとの差に応じて、エージングの度に変更される所定時間であっても良い。例えば、上記通電負荷ごとに光量値低下の時間依存性データを予め取得し、光量値が20%低下するに要する時間、あるいは、最新光量値と基準光量値Bとの差に相当する割合を低下するに要する時間、を各通電負荷の印加時間とすることができる。
【0068】
このように、光量値と基準光量値B(あるいは、最小光量値A)との差の大きさに応じて、異なる通電負荷を付与するエージングを行うことで、エージング処理を短時間で効率的に行うことができる。
【0069】
以上のようにして、エージングが完了すると、通電負荷決定手段95は、再度、上述した当該エージング対象素子に対応する光量値の測定を行う(図10 S42)。そして、通電負荷決定手段95は、この測定された光量値に基づいて、再度、通電負荷を決定するとともに、当該エージング対象素子に対してエージングを行う。
【0070】
以上の処理がエージング対象素子に対応する光量値が目標光量値(ここでは、基準光量値B以下の光量値)となるまで繰り返し実行され、光量値が目標光量値になると(図10 S45No)、通電負荷決定手段95は、当該エージング対象素子へのエージングを完了し、次のエージング対象素子に対して上述のエージングを行う。
【0071】
したがって、全エージング対象素子に対して、エージングが完了したとき、露光ヘッド1の全光量値は、最小光量値Aを下限値とし、基準光量値B(最小光量値Aの1.22倍)を上限値とする範囲に属することになる。
【0072】
なお、本実施の形態では、上限値を下限値の1.22倍に設定しているため、エージング後の露光ヘッド1の光量値は、上記範囲の中央値に対して10%増の値を上限値とし、当該中央値に対して10%減の値を下限値とした範囲に属することになる。
【0073】
また、上記では、光量値がそれぞれ2倍、1.5倍、1.2倍となるような3段階の負荷から、光量値に応じて発光素子に印加する通電負荷を選択する構成を説明したが、上記構成は具体例を示したものであり、本発明のエージングがこれに限定されるものではない。通電負荷の上限は、エージング対象の発光素子に依存する限界(耐圧や最大電流密度)を超えない限りは2倍を超えて設定してもよく、多段階で設定された負荷から通電負荷を選択してもよい。
【0074】
さらに、通電負荷の大きさは、必ずしも光量値の特定倍に設定されることは必須ではなく、例えば、光量値に関係なく、単に、電圧または電流のいずれか一方、あるいは、両方を変化させて通電負荷の大きさを変更する構成であってもよい。
【0075】
つまり、上記エージングは、最新の光量値と基準光量値との差が小さくなるにつれて通電負荷を減少させる構成であればよく、この構成であれば、どのような方法で通電負荷を印加しても目標光量値まで適切にエージングを行うことが可能である。
【0076】
またさらに、露光ヘッド1のエージング処理を行う際の周囲温度は特に限定されるものではなく、例えば、室温で行うことができる。また、エージングを加速させるために、発光素子が熱的な損傷を受けることのない温度で行ってもよい。
【0077】
ところで、上記エージングは、エージング対象となる発光素子の光量を低下させる通電負荷となる電圧(電流)を印加するものである。すなわち、有機エレクトロルミネッセンス素子のような整流性を有する素子では、当該電圧(電流)が順方向に印加されることになる。
【0078】
一般に、有機エレクトロルミネッセンス素子のような整流性を有する素子は、逆方向に電圧(電流)が印加された場合(以下、逆バイアス印加という。)、素子の劣化耐性が向上することが知られている。上記エージングは、このような逆バイアス印加と組み合わせて行うこともできる。
【0079】
例えば、エージング対象素子に逆バイアス印加を行うと、逆バイアス印加の作用により、同一の通電負荷であっても光量低下の速度が遅くなる。このため、上記最新光量値が目標光量値の近づいたときに、エージング対象素子に対するエージングを一旦中断して、所定時間の逆バイアス印加を1回、あるいは、複数回に分けて行うと、目標光量値付近での光量低下量の調整がより容易になる。すなわち、エージング対象の発光素子の光量値を目標光量値の上限に正確に合わせることが可能となるのである。ここで、所定時間とは、逆バイアス印加により劣化耐性の向上効果を得るために必要な時間である。また、当該所定時間は、発光素子の構造や、逆バイアスとして印加する電圧(電流)値に依存して変動するが、予めデータを取得することにより求めておけばよい。
【0080】
なお、逆バイアス印加は、発光素子の劣化耐性を向上できるため、当然、全発光素子に対して行うことが好ましい。したがって、上述のように、エージングと組み合わせて印加する場合には、全エージング対象素子に対するエージングが完了した後、エージングを行っていない発光素子にも所定時間の逆バイアス印加を行うことが好ましい。
【0081】
以上説明したように、本発明に係る露光ヘッドによれば、各出射光の初期光量値に応じて、各出射光に対応する発光素子に対して選択的にエージングを行うことができるため、光量ばらつきが小さい露光ヘッドを得ることができる。このため、従来の露光ヘッドに設けられていた各発光素子の光量を個々に補正するための従来の補正用回路を設ける必要がなく、各発光素子2の駆動回路5を簡単な構成とすることができる。
【0082】
なお、上記説明では、露光ヘッド1がエージング手段9を備える構成としたが、図12に示すように、露光ヘッド1の外部に設けたエージング手段9が露光ヘッド1に対してエージング処理を行う構成であっても、同様の効果を奏することが可能である。この場合、エージング手段9が各発光素子2を駆動する駆動回路を備え、露光ヘッド1の駆動回路5を使用することなしに、上述のエージングを行うようにしてもよい。このようにすれば、露光ヘッド1に駆動回路5が実装されていない場合であっても、発光素子のエージングを行うことが可能となる。ここで、記憶手段8も露光ヘッド1の外部に設ける構成にすることが可能であるが、後述のように露光ヘッド使用時の光量調整を容易にするという観点では、記憶手段8は露光ヘッド1に設けることが好ましい。
【0083】
また、上記では、各処理が1つの発光素子ごとに実行される例を示したが、複数の発光素子に対して同時に行われるようにしてもよい。
【0084】
一方、上記では、最小光量値Aに基づいて、基準光量値、及び、目標光量値(許容範囲)を設定する構成を説明したが、出射光の光量ばらつきを低減することが可能であれば、基準光量値及び目標光量値は任意に設定することができる。例えば、上記基準光量値と目標光量値は、露光ヘッド1の最小の初期光量値に代えて、予め設定された光量値(以下、下限光量値という。)や、露光ヘッド1の各光量値において、当該下限光量値以上で当該下限光量値に最も近い光量値に基づいて設定することもできる。ここで、下限光量値以上で当該下限光量値に最も近い光量値は、上述の最小光量値Aの抽出を下限光量値以上という条件下で行うことにより、抽出することができる。
【0085】
このようにして、基準光量値や目標光量値を設定した場合においても、基準光量値より大きな光量値に対応する発光素子にはエージングが行われるため、露光ヘッド1の出射光の光量ばらつきは小さくなる。なお、この場合、下限光量値より小さい光量値は光量ばらつきに考慮されないことになる。しかしながら、上記下限光量値を、露光ヘッド1が製造される工程において、通常製造ばらつきにより生じる光量ばらつきの下限近傍の光量値とすれば、最小の初期光量値に基づいて基準光量値及び目標光量値を設定した場合と同等に光量ばらつきが低減された露光ヘッド1を得ることができる。
【0086】
また、上記説明では、最小光量値Aを目標光量値の下限としたが、必ずしも下限である必要はなく、最小光量値Aを中央値として設定した許容範囲を目標光量値として、上述のエージングを行うようにしても、同様の効果を得ることができる。
【0087】
以上では、発光素子アレイ2が一体に形成された露光ヘッド1の光量ばらつきを低減する手法について説明した。しかしながら、露光ヘッド1は、別体で形成された発光素子アレイを用いて構成することも可能である。この場合、上述のエージングは、発光素子アレイ2の製造過程において、発光素子アレイの各発光素子に対して通電が可能となった時点で実施することができる。あるいは、上述のエージングは、発光素子アレイの完成後に、露光ヘッドとして組み立てられるまでの間に実施することもできる。
【0088】
本構成では、エージングによって光量(輝度)ばらつきが低減された発光素子アレイ2を用いて、光量ばらつきの小さい露光ヘッド1を組み立てることが可能となる。したがって、光量ばらつきの小さい露光ヘッドの製造歩留まりを向上させることができる。この結果、露光ヘッド、さらには、電子写真装置を低コストで製造することが可能となる。
【0089】
ここで、当該エージングがなされた発光素子アレイが有する特徴について説明する。図13は、各発光素子に同一の電流を印加した際の各発光素子における降下電圧と輝度を示す図である。なお、図13(a)は、エージング前の状態を示しており、図13(b)は、エージング後の状態を示している。
【0090】
図13(a)に示すように、複数の発光素子が一体に形成された発光素子アレイは、各発光素子が同一の環境下で製造されるため、各発光素子間の特性ばらつきは非常に小さい。しかしながら、各発光素子における輝度は、各発光素子における発光効率のばらつきが比較的大きいために、ばらつきが大きくなる。図13(a)では、各降下電圧の最小値VLに対して、降下電圧が10%(1.1VL)以上大きい発光素子が存在していない。これに対し、輝度は、各輝度の最大値IU1の90%(0.9IU1)より小さい素子が存在している。
【0091】
このような発光素子アレイに対して、各発光素子の輝度が、エージング後の輝度の最大値IU2の90%以上となるように、上記エージングを適用すると、図13(b)に示すように、全ての発行素子の輝度が、エージング後の各輝度の最大値IU2の90%(0.9IU2)以上となる。このとき、エージングがなされた発光素子における降下電圧は増大し、エージング後の各効果電圧の最小値に対して、降下電圧が10%(1.1VL)以上大きくなっている。このように、上記エージングが実施された発光素子アレイは、同一の電流を印加した際に各発光素子が発する輝度の全てが、これらの輝度の中の最大値の90%以上の範囲内にあり、かつ、同一の電流を印加した際に各発光素子における降下電圧の中の最小値に対して、10%以上大きな降下電圧を有する発光素子が存在するという特徴がある。
【0092】
他の見方をすれば、同一の電流を印加した際の各発光素子における降下電圧の標準偏差値を、各発光素子における降下電圧の平均値で除した値が、同一の電流を印加した際に各発光素子が発する輝度の標準偏差値を、各発光素子が発する輝度の平均値で除した値よりも大きいという特徴を有している。
【0093】
したがって、以上のような特徴を有する発光素子アレイは、上述のエージングにより輝度の調整が実施されたものとして使用することができる。
【0094】
ところで、上述のエージングにより、露光ヘッド1の光量値は、図14(a)に示す光量ばらつきの大きい状態から、基準光量値より大きな初期光量値に対応する発光素子に対してエージングがなされて、図14(b)に示す光量ばらつきが小さい状態になり、全出射光の光量値が、特定の出射光の初期光量値に基づいて設定された許容範囲、すなわち、最小光量値Aから最小光量値Aの1.22倍の基準光量値Bまでの範囲に属している。
【0095】
しかしながら、通常、最小光量値Aは露光ヘッド1ごとに異なるため、当該最小光量値Aに基づいて設定された許容範囲が、上記感光体20に潜像を形成するに適切な光量であるとは限らない。すなわち、エージングにより光量ばらつきが低減された露光ヘッド1の出射光の光量が、適切な光量に比べて全体的に大きすぎたり、逆に全体的に小さすぎたりすることが予想される。
【0096】
このため、露光ヘッド1は、全出射光の光量値を例えば、一方向に変動させることで、露光ヘッドの各出射光の光量調節を必要に応じて行う本発明に係る光量補正手段11を更に備えることが好ましい。図15は、図12に示す露光ヘッド1が搭載された電子写真装置30の概略機能ブロック図である。
【0097】
図15に示すように、露光ヘッド1の駆動回路5には、画像処理手段32から出力された画像データに基づいて発光制御手段31が生成した制御信号が入力される。光量補正手段11は、例えば、駆動回路5の一部として、各発光素子2に印加される電圧又は電流を全素子に渡って一定量変動させる回路で構成することができ、記憶手段8に格納された最小光量値A、あるいは、図示しない入力手段からユーザによって入力される指示に基づいて、各出射光の光量値を、図14(c)に示すように、上記感光体20に潜像を形成するに適切な光量値に調節する。したがって、光量補正手段11を設けることにより、光量ばらつきが低減された露光ヘッドの光量に対して、更に、印刷処理に適応させるための光量調節を行うことが可能となる。
【0098】
また、光量補正手段11は、図16に示すように、露光ヘッド1が搭載される電子写真装置30に設けてもよい。この場合、電子写真装置30が、例えば、用紙上に形成されたテストパターン等の印字濃度に応じた信号を出力する印字濃度検出手段33を更に備え、光量補正手段11が記憶手段8に格納された最小光量値Aと印字濃度検出手段33からの出力信号に基づいて全出射光に対して各出射光の光量値を調節することが好ましい。
【0099】
これにより、上述の作用・効果に加えて、製造ばらつき等に起因して感光体20の最適露光光量(感度)に個体差が生じている場合であっても、当該個体差まで考慮した光量調節を容易に行うことが可能となる。すなわち、光量補正手段11が、上述のように、記憶手段8に格納された最小光量値Aに基づいて調節する光量値は、適切と予想される標準的な光量値であり、感光体20の最適露光光量が製造ばらつきにより、例えば、標準的な光量値よりも大きかった場合には露光光量不足となる。そこで、印字濃度検出手段33が検出した印字濃度に基づいて、光量補正手段11が更に光量調節を行う構成とすることで、感光体20の最適露光光量に応じた光量調節を容易に行うことができる。
【0100】
なお、電子写真装置30が印字濃度検出手段33を備えることは必須ではなく、例えば、図示しない入力手段からユーザによって入力される画像出力結果に基づく指示に応じて、光量補正手段11が、光量調節を行う構成としてもよい。また、光量補正手段11は、各発光素子2の点灯時間を一定量変動させる回路であってもよく、また、CPU上で動作するソフトウエアとして構成してもよい。
【0101】
また、上述したとおり、基準光量値及び目標光量値が、予め設定された下限光量値や、当該下限光量値以上で当該下限光量値に最も近い光量値に基づいて設定されている場合でも、光量補正手段11は同様の動作を行う。この場合でも、図17(b)に示すように、露光ヘッド1の全出射光が、最小の光量値から基準光量値までの間に属している点では同一である。したがって、光量補正手段11が、図17(c)に示すように、最小光量値を感光体20に潜像を形成するに適切な光量値までシフトさせることで、図14に示す例と同様に、印刷処理に適応させる光量調節を行うことが可能となる。なお、最小の光量値と下限光量値(あるいは、下限光量値に最も近い光量値)との間に差が、印刷処理を実行する上で問題とならない差と看做せる場合には、光量補正手段11は、これら特定の光量値に基づいて、潜像を形成するに適切な光量値まで全光量値を調節すればよい。
【0102】
以上では、露光ヘッド1の組立時に、エージング処理を行う構成について説明した。しかしながら、当該エージング処理は、露光ヘッドとして通常に機能させた後、すなわち、電子写真装置30に搭載された露光ヘッド1に対して行ってもよい。図18は、これを実現する電子写真装置30の機能ブロック図である。
【0103】
図18に示すように、当該電子写真装置30は、露光ヘッド1からの出射光の光量値を取得する光量検出器10を備えるとともに上記エージング手段9を備える。
【0104】
ここで、露光ヘッド1が、上記エージングにより光量ばらつきが低減されていたとしても、電子写真装置30に搭載されて使用されることで、各発光素子は、その点灯状況等に応じて徐々に劣化していく。仮に、全発光素子の点灯時間が同一であったとしても、各発光素子には個体差が存在するため光量の劣化の程度に差が生じ、この結果、出射光の光量ばらつきが増大することになる。
【0105】
このような状況下において、図18に示す電子写真装置30は、例えば、ユーザ等によりエージングの実行が指示されると、光量検出器10(光量検出手段)により露光ヘッド1の各出射光の光量値を測定して記憶手段8に格納する。ここで、光量検出器10は光電素子等からなり、必要に応じて露光ヘッド1の出射光の光量値が取得できるように、例えば、露光ヘッド1と感光体20の間に出没可能に設ければよい。
【0106】
そして、記憶手段8に格納された各出射光の光量値に基づいて、エージング手段9が露光ヘッド1に対して上述のエージング処理を行う。このようにして、大きな光量値に対応する発光素子2に光量を低下させるエージングが行われた結果、露光ヘッド1の光量ばらつきは低減される。なお、光量値の測定、エージング処理は、上述のとおりであるのでここでの説明は省略する。
【0107】
以上説明したように、本発明を適用することで、使用により光量ばらつきが増大した露光ヘッドに対しても、光量を均一化する処理を行うことが可能である。なお、図18では、露光ヘッド1が記憶手段8を備える構成としているが、露光ヘッド1の出射光の光量値を記憶可能であれば、いずれの位置にあってもよいことは勿論である。
【0108】
上述した実施の形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、輝度ばらつきの小さい発光素子アレイを得ることができるとともに、露光ヘッドの光量ばらつきを容易に低減できるという効果を有し、発光素子アレイの製造方法及び輝度調整方法、露光ヘッド、並びに当該露光ヘッドを使用する電子写真装置等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明に係る露光ヘッドの断面図
【図2】本発明に係る露光ヘッドの平面図
【図3】本発明に係る露光ヘッドの要部断面図
【図4】有機EL素子の発光の輝度の通電時間に対する変化を示す図
【図5】本発明に係る露光ヘッドの概略機能ブロック図
【図6】本発明のフロー図
【図7】本発明のフロー図
【図8】本発明のフロー図
【図9】本発明のフロー図
【図10】本発明のフロー図
【図11】加速エージングを説明する図
【図12】本発明の変形例の概略機能ブロック図
【図13】エージングが行われた発光素子アレイの特徴を説明する図
【図14】本発明に係る露光ヘッドの光量調節を説明する図
【図15】本発明の変形例の概略機能ブロック図
【図16】本発明の電子写真装置の概略機能ブロック図
【図17】本発明に係る露光ヘッドの光量調節を説明する図
【図18】本発明の電子写真装置の概略機能ブロック図
【符号の説明】
【0111】
1 露光ヘッド
2 発光素子
4 レンズアレイ
5 駆動回路
7 電源
8 記憶手段
9 エージング手段
10 光量検出器
11 光量補正手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電によって個別に光を発する複数の発光素子が一体に形成された発光素子アレイの製造方法において、
各発光素子が発する輝度を測定するステップと、
測定された前記輝度に基づいて選択された発光素子にのみ通電負荷を与え、その発光素子が発する輝度を低下させるステップと、
を有することを特徴とする発光素子アレイの製造方法。
【請求項2】
通電によって個別に光を発する複数の発光素子が一体に形成された発光素子アレイの輝度調整方法であって、
各発光素子が発する輝度を測定するステップと、
測定された前記輝度に基づいて選択された発光素子にのみ通電負荷を与え、その発光素子が発する輝度を低下させるステップと、
を有し、
各発光素子が発する輝度を所定範囲内に調整することを特徴とする発光素子アレイの輝度調整方法。
【請求項3】
通電によって個別に光を発する複数の発光素子が一体に形成された発光素子アレイであって、
同一の電流を印加した際に各発光素子が発する輝度の全てが、これらの輝度の中の最大値の90%以上の範囲内にあり、かつ、同一の電流を印加した際に各発光素子における降下電圧の中の最小値に対して、10%以上大きな降下電圧を有する発光素子が存在することを特徴とする発光素子アレイ。
【請求項4】
通電によって個別に光を発する複数の発光素子が一体に形成された発光素子アレイであって、
同一の電流を印加した際の各発光素子における降下電圧の標準偏差値を、各発光素子における降下電圧の平均値で除した値が、同一の電流を印加した際に各発光素子が発する輝度の標準偏差値を、各発光素子が発する輝度の平均値で除した値よりも大きいことを特徴とする発光素子アレイ。
【請求項5】
感光体に光を照射し潜像を形成する露光ヘッドであって、
請求項2または3記載の発光素子アレイを備えた露光ヘッド。
【請求項6】
感光体に形成された潜像に基づいて画像形成を行う電子写真装置であって、
請求項5記載の露光ヘッドを備えた電子写真装置。
【請求項7】
複数の発光素子が発生した光を個別に出射する露光ヘッドにおいて、
各出射光の光量値を格納する記憶手段と、
前記記憶手段に格納された光量値に基づいて、発光素子の光量を低下させる通電負荷を各出射光に対応する発光素子に個別に与えるエージング手段と、
を備えたことを特徴とする露光ヘッド。
【請求項8】
前記エージング手段が、特定の光量値に基づいて設定された基準光量値よりも大きな光量値を有する出射光に対応する発光素子にだけ通電負荷を与える請求項7に記載の露光ヘッド。
【請求項9】
前記特定の光量値が、当該露光ヘッドにおいて最小の光量値である請求項8に記載の露光ヘッド。
【請求項10】
前記特定の光量値が、予め設定された光量値である請求項8に記載の露光ヘッド。
【請求項11】
前記特定の光量値が、当該露光ヘッドにおいて、予め設定された光量値以上で当該光量値に最も近い光量値である請求項8に記載の露光ヘッド。
【請求項12】
前記エージング手段が、加速エージングを行う請求項7から11のいずれかに記載の露光ヘッド。
【請求項13】
前記加速エージングが、発光素子に印加される電流または電圧の一方、あるいは両方を増大させること行われる請求項12に記載の露光ヘッド。
【請求項14】
前記エージング手段は、前記特定の光量値に基づいて予め設定された許容範囲内の光量値を目標光量値として通電負荷を与える請求項8から11のいずれかに記載の露光ヘッド。
【請求項15】
前記特定の光量値が、前記許容範囲の中央値または下限値である請求項14に記載の露光ヘッド。
【請求項16】
前記特定の光量値に基づいて全発光素子の光量を必要に応じて調節する光量補正手段を備えた請求項14または15に記載の露光ヘッド。
【請求項17】
前記光量補正手段が、前記特定の光量値に基づいて全発光素子に印加される電圧または電流を一定量変動させる請求項16に記載の露光ヘッド。
【請求項18】
前記光量補正手段が、前記特定の光量値に基づいて全発光素子の点灯時間を一定量変動させる請求項16に記載の露光ヘッド。
【請求項19】
前記発光素子が有機エレクトロルミネッセンス素子である請求項7から18のいずれかに記載の露光ヘッド。
【請求項20】
複数の発光素子が発生した光を個別に出射する露光ヘッドによって形成された潜像に基づいて画像形成を行う電子写真装置において、
特定の光量値に基づいて、前記露光ヘッドの全出射光の光量を必要に応じて調節する光量補正手段を備えたことを特徴とする電子写真装置。
【請求項21】
前記特定の光量値が、前記露光ヘッドにおいて最小の光量値である請求項20に記載の電子写真装置。
【請求項22】
前記特定の光量値が、予め設定された光量値である請求項20に記載の電子写真装置。
【請求項23】
前記特定の光量値が、当該露光ヘッドにおいて、予め設定された光量値以上で当該光量値に最も近い光量値である請求項20に記載の電子写真装置。
【請求項24】
前記光量補正手段が、全発光素子に印加される電圧または電流を一定量変動させる請求項20に記載の電子写真装置。
【請求項25】
前記光量補正手段が、全発光素子の点灯時間を一定量変動させる請求項20に記載の電子写真装置。
【請求項26】
前記光量補正手段が、前記特定の光量値と画像形成結果に基づいて全出射光の光量を必要に応じて調節する請求項20から25のいずれかに記載の電子写真装置。
【請求項27】
さらに、露光ヘッドの各出射光の光量値を検出する光量検出手段と、
当該光量検出手段が検出した前記各出射光の光量値に基づいて、発光素子の光量値を低下させる通電負荷を各出射光に対応する発光素子に個別に与えるエージング手段を備えた請求項26に記載の電子写真装置。
【請求項28】
複数の発光素子が発生した光を個別に出射する露光ヘッドの製造方法において、
各出射光の光量値を測定するステップと、
前記光量値に基づいて、発光素子の光量値を低下させる通電負荷を各出射光に対応する発光素子に個別に与えるステップと、
を有することを特徴とする露光ヘッドの製造方法。
【請求項29】
前記通電負荷が、特定の光量値に基づいて設定される基準光量値よりも大きな光量値を有する出射光に対応する発光素子にだけ与えられる請求項28に記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項30】
前記特定の光量値が、当該露光ヘッドにおいて最小の光量値である請求項29に記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項31】
前記特定の光量値が、予め設定された光量値である請求項29に記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項32】
前記特定の光量値が、当該露光ヘッドにおいて、予め設定された光量値以上で当該光量値に最も近い光量値である請求項29に記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項33】
前記通電負荷が、加速エージングである請求項28から32のいずれかに記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項34】
前記加速エージングが、発光素子に印加される電流または電圧の一方、もしくは両方を増大させることで行われる請求項33に記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項35】
前記特定の光量値に基づいて予め設定された許容範囲内の光量値を目標光量値として前記通電負荷が与えられる請求項29から32のいずれかに記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項36】
前記特定の光量値が、前記許容範囲の中央値または下限値である請求項35に記載の露光ヘッドの製造方法。
【請求項37】
前記発光素子が有機エレクトロルミネッセンス素子である請求項28から36のいずれかに記載の露光ヘッドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−179885(P2006−179885A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340716(P2005−340716)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】